説明

圧電振動子、発振器及び発振器パッケージ

【課題】特性を劣化させることなく、シリコン基板上に圧電振動片を実装した圧電振動子を提供する。
【解決手段】シリコン基板2と、シリコン基板2の表面に形成された金属膜3と、金属膜3上に形成された一対の振動片実装電極5,6と、一対の振動片実装電極5,6にバンプ接合されて保持されたATカット型の圧電振動片7と、を備え、金属膜3の線膨張係数が13×10-6/℃以上であり、且つ、金属膜3の線膨張係数とヤング率との積が1.95MPa/℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面実装型(SMD)の圧電振動子、特に大きさが3.2mm×2.5mm以下の小型パッケージ用の圧電振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯情報端末機器には、時刻源、制御信号等のタイミング源、リファレンス信号源等として水晶等を利用した圧電振動子が用いられている。この種の圧電振動子は、様々なものが知られているが、その1つとして、表面実装型の圧電振動子が知られている。この種の圧電振動子は、内部電極が形成されたベース基板上に圧電振動片が導電性接着剤で固定され、リッド基板で封止されたものが一般的に知られている。特に、近年はLSIの貫通電極技術が開発され、LSI上に受動部品を実装し、スタック構造にする実装形態が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、シリコン基板上に圧電振動片が固定された圧電振動子について簡単に説明する。即ち、図9に示すように、圧電振動子200は、圧電振動片203と、シリコン基板201と、凹型に形成されてベース基板201の接合面208に接合されたリッド基板202とから構成されている。
【0004】
圧電振動片203は、圧電材料である水晶から形成されたATカット振動片であり、圧電振動片203を挟んで、該圧電振動片203を振動させるための励振電極205a、205bがパターニングされている。圧電振動片203は、シリコン基板201上に形成された内部電極207a上に励振電極205a、205b、導電性接着剤204を介して接合される。
【0005】
リッド基板202には凹部が形成され、シリコン基板201で封止することでキャビティ209が構成される。該圧電振動片203は前記キャビティ209内に収納される。
【0006】
シリコン基板201の裏面には、外部電極206a、206bが形成されている。このうち一方の外部電極206aが、貫通電極210a、内部電極207a、導電性接着剤204を介して圧電振動片203の一方の励振電極205bに電気的に接続されており、図示されていないが、他方の外部電極206bが、貫通電極(図示せず)、内部電極(図示せず)、導電性接着剤(図示せず)を介して圧電振動片203の他方の励振電極205aに電気的に接続されている。
【0007】
リッド基板202は、ガラス基板あるいは金属基板で構成され、シリコン基板201上の接合面208で陽極接合あるいはAu−Sn溶接されて、キャビティ209を封止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−193909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の圧電振動子200には、以下の課題が残されている。
【0010】
シリコン基板201は線膨張係数が約2.8ppm/Kであるのに対し、圧電振動片203としてのATカット振動片の線膨張係数は、文献等により多少数値は異なるが、X軸方向13.7×10-6/℃、Y軸方向9.6×10-6/℃、Z’軸方向11.6×10-6/℃である。このため、シリコン基板201上に圧電振動片203を実装した場合、シリコン基板201と圧電振動片203との線膨張係数差が大きく、圧電振動片203に大きな応力がかかってしまう。圧電振動片203に応力がかかると温度特性が大きく変化し、性能を悪くしてしまうという課題があった。
【0011】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、特性を劣化させることなく、シリコン基板上に圧電振動片を実装した圧電振動子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0013】
本発明による圧電振動子は、シリコン基板と、前記シリコン基板の表面に形成された線膨張係数調整膜と、前記線膨張係数調整膜上に形成された一対の振動片実装電極と、前記一対の振動片実装電極に接合されて保持されたATカット型の圧電振動片と、を備え、前記線膨張係数調整膜の線膨張係数が13×10-6/℃以上であり、且つ、前記線膨張係数調整膜の線膨張係数とヤング率との積が1.95MPa/℃以上である。このとき、前記圧電振動片は、前記一対の振動片実装電極にバンプ接合されて保持されていることが好ましい。また、前記線膨張係数調整膜は金属膜であり、前記線膨張係数調整膜と前記振動片実装電極との間に形成された絶縁膜をさらに備えていてもよい。例えば前記線膨張係数調整膜はNiあるいはCuからなる。また、前記線膨張係数調整膜は水晶板であり、前記線膨張係数調整膜と前記振動片実装電極との間に形成された絶縁膜をさらに備えていてもよい。
【0014】
本発明による発振器は、本発明の圧電振動子と、前記シリコン基板の表面に形成された発振回路と、を備えている。このとき、前記線膨張係数調整膜と前記シリコン基板との間に形成された保護膜をさらに備えていてもよい。また、本発明による発振器は、本発明の圧電振動子と、前記シリコン基板の裏面に形成された発振回路と、を備えている。このとき、前記振動片実装電極と前記発振回路とを接続するために前記シリコン基板を厚み方向に貫通するシリコン貫通電極をさらに備えていてもよい。
【0015】
本発明による発振器パッケージは、本発明の発振器と、前記発振器が実装されるパッケージベース基板と、前記パッケージベース基板の表面に接合され、前記パッケージベース基板との間に前記圧電振動片を収容するためのキャビティを形成するリッド基板と、を備えている。また、本発明による発振器パッケージは、本発明の発振器と、前記シリコン基板の表面に接合され、前記シリコン基板との間に前記圧電振動片を収容するためのキャビティを形成するリッド基板と、を備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、線膨張係数が13×10-6/℃以上であり、且つ、線膨張係数とヤング率との積が1.95MPa/℃以上である線膨張係数調整膜がシリコン基板の表面に形成されているため、圧電振動片の線膨張係数と、シリコン基板及び線膨張係数調整膜からなる多層構造体の線膨張係数とを近づけることができる。そのため、環境温度変化によって生じる基板と圧電振動片との熱膨張差による応力が小さくなる、つまり、温度特性による特性の劣化が小さくなり、周波数のとびや周波数温度特性の理論カーブからのズレが抑えられるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施例1の圧電振動子を上方から見た図である。
【図2】実施例1の圧電振動子のA−A線断面図である。
【図3】本発明に係る実施例2の発振器を上方から見た図である。
【図4】実施例2の発振器のB−B線断面図である。
【図5】実施例2の発振器のパッケージ実装形態を示す断面図である。
【図6】本発明に係る実施例3の発振器の断面図である。
【図7】実施例3の発振器のパッケージ実装形態を示す断面図である。
【図8】本発明に係る実施例4の発振器のパッケージ実装形態を示す断面図である。
【図9】従来の圧電振動子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る圧電振動子、発振器及び発振器パッケージの実施例1から実施例4について、図1から図8を参照して説明する。
【実施例1】
【0019】
圧電振動子1は、図1から図2に示すように、シリコン基板2上に金属膜(線膨張係数調整膜)3、絶縁膜4を介して圧電振動片7が実装された圧電振動子である。なお、図1は図面を見やすくするために絶縁膜4を省略している。
【0020】
図1から図2を元に説明をする。圧電振動片7は、圧電材料である水晶から矩形状の薄板に形成されたATカット型の振動片であり、所定の電圧が印加されたときに振動するものである。圧電振動片7の表裏面の中央部には、矩形状の励振電極10、11がそれぞれ対向する位置に形成されている。圧電振動片7の表面に形成された励振電極10は、その一方の短辺(図1における左側の短辺)における一方の片側端部(図1における下方側端部)で引出し電極8に接続されている。引出し電極8は、圧電振動片7の表面において、一方の短辺側領域(図1における左側の短辺側領域)における一方の片側領域(図1における下方側領域)に形成され、励振電極10に接続されている。また、この引出し電極8は、圧電振動片7の一方の短辺側の側面に形成された側面電極を介して、圧電振動片7の裏面に形成されたマウント電極12に電気的に接続されている。マウント電極12は、圧電振動片7の裏面において、一方の短辺側領域(図1における左側の短辺側領域)における一方の片側領域(図1における下方側領域)に形成されている。圧電振動片7の裏面に形成された励振電極11は、その一方の短辺(図1における左側の短辺)における他方の片側端部(図1における上方側端部)で引出し電極9に接続されている。引出し電極9は、圧電振動片7の裏面において、一方の短辺側領域(図1における左側の短辺側領域)における他方の片側領域(図1における上方側領域)に形成され、励振電極11に接続されている。また、この引出し電極9は、圧電振動片7の裏面に形成されたマウント電極13に電気的に接続されている。マウント電極13は、圧電振動片7の裏面において、一方の短辺側領域(図1における左側の短辺側領域)における他方の片側領域(図1における上方側領域)に形成されている。マウント電極12、13は、圧電振動片7の裏面において一方の短辺側領域における一方及び他方の片側領域にそれぞれ形成され、圧電振動片7をその一方の短辺側領域で2点保持するためのバンプ14、15へそれぞれ接続されている。バンプ14、15は、シリコン基板2上に後述する金属膜3及び絶縁膜4を介して設けられた振動片実装電極5、6にそれぞれ接続されている。
【0021】
ここで、励振電極10、11、マウント電極12、13、引出し電極8、9、及び側面電極は、例えば、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、金(Au)、アルミニウム(Al)やチタン(Ti)等の導電性膜の被膜、あるいは、これら導電性膜のいくつかを組み合わせた積層膜より形成されたものである。
【0022】
シリコン基板2上には、圧電振動片7の線膨張係数とシリコン基板2の線膨張係数との差を小さくするための金属膜(線膨張係数調整膜)3が形成されている。金属膜3は、バンプ14、15が接続された振動片実装電極5、6の真下にあたる位置に配置されている。金属膜3は、平面視において2つの振動片実装電極5、6を同時に含む大きさで形成されている。つまり、2つの振動片実装電極5、6は1つの金属膜3上に形成されている。なお、金属膜3は、2つの振動片実装電極5、6を同時に含む大きさ以上で形成されていればよく、シリコン基板2の表面のほぼ全体に亘って形成されていてもよい。金属膜3上には、この金属膜3と振動片実装電極5、6が導通しないように金属膜3全体を覆う絶縁膜4が形成されている。図2ではシリコン基板2の表面全体に絶縁膜4が形成されているが、必ずしもシリコン基板2の表面全体に絶縁膜4が必要なわけではない。金属膜3と振動片実装電極5、6とが導通しない状態を保持できれば、絶縁膜4を金属膜3の周辺だけに形成してもよい。しかし、工程数を考えると、シリコン基板2の表面全体に絶縁膜4を形成した方が工数は少なくなる。
【0023】
圧電振動片7は、図1及び図2に示すように、金等の金属からなるバンプ14、15を介して、振動片実装電極5、6の表面にバンプ接合されている。より具体的には、振動片実装電極5、6上に形成された2つのバンプ14、15上に、一対のマウント電極12、13がそれぞれ接触した状態で、圧電振動片7がバンプ接合されている。これにより、圧電振動片7は、振動片実装電極5、6の表面からバンプ14、15の厚さ分だけ浮いた状態で支持されると共に、マウント電極12、13と振動片実装電極5、6とがそれぞれ電気的に接続された状態となっている。以上のような構成を総じて圧電振動子1と呼ぶ。
【0024】
次に金属膜3の線膨張係数及びヤング率について説明する。本実施例では、金属膜3の線膨張係数が13×10-6/℃以上で、且つ、金属膜3の線膨張係数とヤング率との積が1.95MPa/℃以上となっている。これは本実施例の圧電振動片7に用いられるATカット振動片の線膨張係数とベース基板であるシリコン基板2の線膨張係数との差を吸収するために必要な特性値である。ATカット振動片の線膨張係数は、文献等により多少数値は異なるが、X軸方向13.7×10-6/℃、Y軸方向9.6×10-6/℃、Z’軸方向11.6×10-6/℃である。一方、シリコンの線膨張係数は約2.8×10-6/℃である。このため、シリコン基板2に直接圧電振動片7をバンプ接合してしまうと、線膨張係数の差が大きいために圧電振動片7に大きな応力が印加されてしまう。圧電振動片7に応力が印加されると、周波数が大きく変化してしまうという不具合がある。なお、これを回避する方法として、圧電振動片7をバンプ接合する基板を、圧電振動片7と同じような材料にする方法や、圧電振動片7と基板とを導電性接着剤のような軟らかい物質で接合する方法が考えられる。しかし後述する発振器などの場合、上述した基板を圧電振動片7と同じような材料にする方法を採用することは難しい。回路などを形成した基板には大半がシリコンを用いており、圧電振動片7と同じような線膨張係数を持つ半導体材料はあまりない。また圧電振動片7と基板との接合に導電性接着剤を用いた場合、接合面積が非常に小さいため、導電性接着剤の塗布が非常に困難である。さらに接着剤は経時的にガスを放出するため、振動子の信頼性を損なう恐れがある。このため、本実施例では、圧電振動片7をシリコン基板2上にバンプ接合することとし、圧電振動片7をシリコン基板2に実装するための振動片実装電極5、6の下に金属膜3を配置してシリコン基板2と圧電振動片7の線膨張係数の差を調整する。
【0025】
ここで2種類の材料が貼り合わさったときの線膨張係数について計算する。2つの材料が貼り合わさることにより材料の長さがΔL変化したときの力の関係式(1)は、
【数1】

で与えられる。Fは材料にかかる力、Eは材料のヤング率、Lは材料単体での長さ、ΔLは材料が貼り合わさったときの材料の長さの変化量である。また、材料の線膨張係数をαとしたときのある温度での材料の長さLt
【数2】

Δtは温度の変化量、となる。よって材料Aと材料Bとが貼り合わさり、温度がΔt変化したときの貼り合わせた材料の長さがLxになったとすると、
【数3】

【数4】

材料Aと材料Bが貼り合わさって力がつりあうのだから、
【数5】

式(3)、式(4)、式(5)より、材料Aの断面積をSA、材料Bの断面積をSBとして材料の長さLxを求めると、
【数6】

となる。式(6)より2つの材料が貼り合わさったときの線膨張係数は
【数7】

となる。
【0026】
この式(7)にシリコン基板2の線膨張率、ヤング率をあてはめ、さらに金属膜3の膜厚をメッキなどで一般的に使われる5μm、シリコン基板2の厚みを50μm、目標とする線膨張係数を水晶振動片のZ’軸方向の線膨張係数の1/3にあたる3.8×10-6/℃として金属膜3の線膨張係数、ヤング率を求めると、金属膜3の線膨張係数は13×10-6/℃以上で、且つ、金属膜3の線膨張係数とヤング率との積が1.95MPa/℃以上の値を満たすとき、線膨張係数3.8×10-6/℃を満足する。ここでシリコン基板2の線膨張係数は2.8×10-6/℃、ヤング率は130GPaである。上記数値を満たす一般的な金属として、NiやCuが挙げられる。
【0027】
以上より、シリコン基板2上に形成した金属膜3の特性値は、線膨張係数は13×10-6/℃以上で、且つ、線膨張係数とヤング率の積が1.95MPa/℃以上の条件を満たす材料であることがわかる。また、その条件を満たす一般的な金属材料はNiとCuである。本実施例では、金属膜3の厚みを5μm、シリコン基板2の厚みを50μmとしたが、仮に金属膜3の厚みを5μm以上にした場合や、シリコン基板2の厚みを50μm以下にした場合であれば、金属膜3の線膨張係数やヤング率の限定範囲は広がる。しかし実施可能な条件を考えると、金属膜3の線膨張係数が13×10-6/℃以上で、且つ、金属膜3の線膨張係数とヤング率との積が1.95MPa/℃以上を満たすことが妥当だろう。なお、金属膜3については、その線膨張係数が30×10-6/℃以下、その線膨張係数とヤング率との積が2.5MPa/℃以下であることが好ましい。
【0028】
上述したような線膨張係数調整膜としての金属膜3が形成されていることにより、圧電振動片7の線膨張係数と、シリコン基板2、金属膜3および絶縁膜4の多層構造体の線膨張係数とを近づけることができる。そのため、環境温度変化によって生じるシリコン基板2と圧電振動片7との熱膨張差による応力が小さくなる、つまり、温度特性による特性の劣化が小さくなり、周波数のとびや周波数温度特性の理論カーブからのズレが抑えられるという効果がある。
【0029】
また、本実施例では圧電振動片7のバンプ接合を採用しているため、従来の小型化に伴い生じる課題を解決することができる。詳しく説明すると、圧電振動子の小型化が進んでいくと、圧電振動片7のマウント電極12、13が小さくなり、一般に用いられる導電性接着剤の接着領域も小さくする必要がある。ところが、導電性接着剤は流動性があり一定の領域に留められず、全体に広がってしまう。そのため接着領域(=マウント電極12、13の大きさ)を小さくすることは困難を伴う。一方、接着領域を確保するためにマウント電極12、13のサイズを大きくする方法も考えられるが、励振電極10、11が小さくなってしまい、圧電振動片7の振動する部分の領域が小さくなって特性を劣化させてしまう。これに対し、本実施例ではバンプ接合を採用することにより、接合領域の面積を非常に小さくできる。圧電振動片7の励振領域を大きくとることが可能となり、インピーダンス特性の向上や圧電振動片7の設計容易さを得ることができる。バンプ接合は金属の超音波接合のため、接合領域の面積を非常に小さくできるのにも関わらず、圧電振動片7とシリコン基板2とが強固に接合され、耐衝撃性に非常に強いという効果がある。このように強固に接着してしまうが故に、シリコン基板21の線膨張係数と圧電振動片7の線膨張係数との差に起因する大きな応力が圧電振動片7にかかるおそれがあるが、上述した金属膜3の存在により、この課題は解決できる。
【0030】
また、導電性接着剤は凝固するまでに時間がかかるので、組立製造中、圧電振動片7を保持している、あるいは、導電性接着剤が凝固する時、圧電振動片7の自重でシリコン基板2に平行になるようにあらかじめ圧電振動片7を斜めに傾けて接着する方法を取らなければならなかった。しかしながら、本実施例のようにバンプ接合を採用することにより、このような手間のかかる接着方法は必要がなくなる。また、圧電振動片7はバンプ接合によってシリコン基板2から浮いた状態で支持されているので、振動に必要に最低限の振動ギャップを自然と確保することができる。よって、シリコン基板2の厚みをできるだけ薄くすることができる。この点において、実施例1は圧電振動子1の薄型化を図ることができる。さらに、バンプボールでは長期使用時もアウトガスの発生がないため、圧電振動子1の安定した特性を長期に渡り維持することができるという効果がある。さらに、バンプボールは熱環境によって経時変化することはないので、圧電振動子1の安定した特性を長期に渡り維持することができる。
【実施例2】
【0031】
実施例2の構成と効果は実施例1で書かれているものとほぼ同様であるが、実施例2は発振器に関する実施例であり、シリコン基板2上に発振回路が形成されていることが大きな相違点である。よって実施例1と同様の構成の説明は省略し、相違点について説明する。
【0032】
上記実施例1の圧電振動子1を利用した発振器20を図3、図4に示す。シリコン基板21の表面には、発振回路21Aが形成されるとともに、圧電振動子接続用端子25、26と発振回路用電極端子27、28、29、30とが形成されている。また、シリコン基板21の表面には、圧電振動子接続用端子25、26及び発振回路用電極端子27、28、29、30の部分は開口した形で、酸化膜やチッ化膜で構成される保護膜22が形成されている。保護膜22上に金属膜3が形成され、金属膜3を覆う形で絶縁膜4が形成されている。金属膜3は振動片実装電極5、6の真下にあたる位置に配置され、大きさは2つの振動片実装電極5、6を同時に含む大きさ以上で形成される。絶縁膜4は、金属膜3と振動片実装電極5、6とが導通しないように金属膜3全体を覆う形である。図3、図4では金属膜3の周囲だけに絶縁膜4が形成されているが、必ずしもこの構造にこだわることはなく、金属膜3と振動片実装電極5、6とが導通しない状態が保持できれば、基板全体に絶縁膜4を形成し、圧電振動子接続用端子25、26及び発振回路用電極端子27、28、29、30の部分だけ開口した形でも良い。プロセス方法にもよるが、シリコン基板21全面に絶縁膜4を形成した方が工数は少なくなる。
【0033】
金属膜3上で、且つ、絶縁膜4上に振動片実装電極5、6を形成するときに、シリコン基板21上の圧電振動子接続用端子25、26と振動片実装電極5、6とを接続する接続電極23、24を同時に形成する。圧電振動片7は、図3及び図4に示すように、金等の金属からなるバンプ14、15を利用して、振動片実装電極5、6上にバンプ接合されている。これにより、圧電振動片7が振動片実装電極5、6の表面からバンプ14、15の厚さ分だけ浮いた状態で支持されると共に、マウント電極12、13、振動片実装電極5、6、接続電極23、24、圧電振動子接続用端子25、26がそれぞれ電気的に接続された状態となっている。発振回路用電極端子に電圧が印加されると、発振回路21Aは、圧電振動子接続用端子25を通して励振電流を圧電振動片7に印加し、共振信号を圧電振動子接続用端子26から受けて発振を継続する。そして、振動を利用して制御信号のタイミング源やリファレンス信号源等として利用することができる。
【0034】
また、実施例2の発振器20を用いてパッケージに実装した形態を図5に示す。パッケージベース基板31は、セラミックなどから凹型に形成されている。パッケージベース基板31の凹部の底面に、実施例2で示した発振器20を実装する。パッケージベース基板31の表面において凹部以外の領域にはボンディングパッド33、34が形成され、パッケージベース基板31の裏面にはパッケージ外部電極37、38が形成されている。また、パッケージベース基板31には、ボンディングパッド33、34とパッケージ外部電極37、38とをそれぞれ接続するための内部電極パターンも形成されている。その後、パッケージベース基板31上に設けられたボンディングパッド33、34とシリコン基板21上の発振回路用電極端子27、28、29、30とをワイヤ35、36でボンディングする(発振回路用電極端子28、30は図示されていない)。これにより発振回路21Aに電圧が印加され、圧電振動片7に励振電流が流れて圧電振動片7が発振する。圧電振動片7から返ってきた励振電流は発振回路21Aで整流され、発振回路用電極端子27、29、ワイヤ35、36、ボンディングパッド33、34、パッケージ外部電極37、38を通してパッケージ外部に信号が出力される。
【0035】
発振器20が実装されたパッケージベース基板31の表面には、窒素雰囲気、あるいは真空雰囲気中で凹型のリッド基板32が接合され、パッケージのキャビティ39内が気密封止される。
【0036】
このように本実施例では、発振回路21Aが形成されたシリコン基板21と圧電振動7とが一体となる構成のため、従来の発振器パッケージのように発振回路21Aが形成されたシリコン基板21の実装空間と圧電振動片7の実装空間とをそれぞれ設ける必要がなくなり、発振器パッケージの薄型化が図れ、低コスト化も実現することができる。さらに、圧電振動片7とシリコン基板21とが非常に近い距離にあるため、例えば温度補償型発振回路の場合、温度センサが圧電振動片7の温度をより正確に測定することができ、精密な温度補償をすることが可能となる。
【実施例3】
【0037】
実施例3の構成と効果は実施例1、実施例2で書かれているものとほぼ同様であるが、実施例3は発振回路がシリコン基板の裏面に形成されるとともにシリコン基板の表面に圧電振動片子7が実装されていることが大きな相違点である。よって実施例1、実施例2と同様の構成の説明は省略し、相違点について説明する。図6は断面図のため、圧電振動子接続用端子や発振回路用電極端子は一部しか図示していないが、実際の形態では実施例2同様の構造である。
【0038】
図6に示す発振器40では、シリコン基板41の裏面に、発振回路41Aが形成されるとともに、圧電振動子接続用端子43と発振回路用電極端子44、45とが形成されている。シリコン基板41の裏面には、発振回路用電極端子44、45の部分は開口した形で酸化膜やチッ化膜で構成された保護膜42が形成されている。圧電振動子接続用端子43が形成された部分のシリコン基板41にはシリコン貫通電極47が形成され、圧電振動子接続用端子43とシリコン貫通電極47とがそれぞれ電気的に接続され、かつ、シリコン基板41の表面に形成された接続電極46とシリコン貫通電極47とがそれぞれ電気的に接続されている。シリコン基板41の表面には金属膜3が形成される。金属膜3は振動片実装電極5の真下にあたる位置に配置され、大きさは2つの振動片実装電極を同時に含む大きさ以上で形成される。絶縁膜4は金属膜3と振動片実装電極5とが導通しないように金属膜3全体を覆う形である。図6ではシリコン基板41の表面全体に絶縁膜4が形成されているが、必ずしも基板全体に絶縁膜4が必要なわけではなく、金属膜3と2つの振動片実装電極5とが導通しない状態が保持できれば、金属膜3の周辺だけでも良い。しかし、工程数を考えると、シリコン基板41の表面全面に絶縁膜4を形成した方が工数は少なくなる。
【0039】
金属膜3上で、且つ、絶縁膜4上に振動片実装電極5が形成されるが、このときシリコン基板41のシリコン貫通電極47と振動片実装電極5とを接続する接続電極46を同時に形成する。圧電振動片7は、図6に示すように、金等の金属からなるバンプ14を利用して、振動片実装電極5の表面にバンプ接合されている。これにより、圧電振動片7は、振動片実装電極5の表面からバンプ14の厚さ分だけ浮いた状態で支持されると共に、マウント電極12、振動片実装電極5、接続電極46、シリコン貫通電極47、圧電振動子接続用端子43がそれぞれ電気的に接続された状態となっている。上記構成を総じて発振器40とする。発振回路用電極端子44、45に電圧が印加されると、発振回路41Aは圧電振動子接続用端子43を通して励振電流を圧電振動片7に印加し、共振信号を圧電振動片7から受けて発振を継続する。そして、振動を利用して制御信号のタイミング源やリファレンス信号源等として利用することができる。
【0040】
また、実施例3の発振器40をパッケージに実装した形態を図7に示す。パッケージベース基板51はセラミックなどから板状に形成されている。パッケージベース基板51の表面には発振回路用のボンディングパッド52、53が形成され、パッケージベース基板51の裏面にはパッケージ外部電極54、55が形成されている。また、パッケージベース基板51には、ボンディングパッド52、53とパッケージ外部電極54、55とをそれぞれ接続するための内部電極パターンも形成されている。シリコン基板41の裏面の発振回路用電極端子44、45にバンプ56、57を設け、パッケージベース基板51上のボンディングパッド52、53に発振器40をフリップチップ実装する。これにより発振回路41Aに電圧が印加され、圧電振動片7に励振電流が流れて圧電振動片7が発振する。圧電振動片7から返ってきた励振電流は発振回路41Aで整流され、発振回路用電極端子45、バンプ57、ボンディングパッド53、パッケージ外部電極55を通してパッケージ外部に信号が出力される。
【0041】
発振器40が実装されたパッケージベース基板51の表面には、窒素雰囲気、あるいは真空雰囲気中で凹型のリッド基板58が接合され、パッケージのキャビティ59内が気密封止される。
【0042】
このように本実施例では、発振回路41Aが形成されたシリコン基板41と圧電振動片7とが一体となる構成のため、従来の発振器パッケージのように発振回路が形成されたシリコン基板の実装空間と圧電振動子の実装空間とをそれぞれ設ける必要がなくなり、発振器パッケージの薄型化が図れ、低コスト化も実現することができる。また、ワイヤーボンディングのスペースが必要なくなり、より小型のパッケージを作ることができる。さらに、圧電振動片7とシリコン基板41とが非常に近い距離にあるため、例えば温度補償型発振回路の場合、温度センサが圧電振動片7の温度をより正確に測定することができ、精密な温度補償をすることが可能となる。
【実施例4】
【0043】
実施例4についても重複した内容は省略し、相違点について説明する。
【0044】
実施例4は、図8に示すように、実施例3の発振器40をパッケージに実装した形態である。凹型に形成されたリッド基板61を発振器40におけるシリコン基板41の表面に圧電振動片7を囲む形で接合する。リッド基板61は窒素雰囲気、あるいは真空雰囲気中でシリコン基板41の表面に接合され、パッケージのキャビティ62内が気密封止される。リッド基板61には金属、半導体、あるいはガラスが用いられる。金属の場合はシリコン基板41との接合にAu−Sn接合などが用いられるが、半導体やガラスの場合はAu−Sn接合の他に陽極接合で接合することもできる。
【0045】
ここで陽極接合する効果について説明する。シリコン基板41とリッド基板61との接合に陽極接合を用いると、複数個アレイ状に発振回路が配置されたシリコン基板41と複数の圧電振動片7とを同時に接合、気密封止することができる。一般に接合には非常に大きな圧力がシリコン基板41に印加されるが、上記陽極接合のように複数個同時に接合することができると、接合時に1つ1つのシリコン基板41、リッド基板61に印加される圧力は小さくなり、接合面が小さくても割れや欠けを生じることはない。特に、これまでの実験結果よりシリコン基板41とリッド基板61の接合面63の幅を50μm以上にすれば接合することができ、キャビティ62内の気密も保持できることが確認されている。また、実験によって陽極接合の接合面63の幅を300μm以上にしても、特性が気密性や耐久性に変化がなかった。そのため、本実施例のシリコン基板41とリッド基板61とが接合された接合面63の幅は50μm〜300μmが望ましい範囲であるといえる。
【0046】
また接合面63の幅が小さくなると、キャビティ62の大きさを大きく取ることができ、しいては圧電振動片7の大きさを大きくすることができる。圧電振動片7の大きさが大きくなると、圧電振動片7の性能であるクリスタルインピーダンスが下がり、性能が向上する。さらに、陽極接合の場合、接合時に放出されるガスは少ないので、キャビティ62内の気密は保たれ、圧電振動片7の特性経時変化は少なくなる。
【0047】
本実施例による圧電振動子及び発振器の製造では、圧電振動子あるいは発振器を一度に複数製造することができるので、低コスト化を図ることができる。
【0048】
なお、本発明の技術範囲は上記実施例1から実施例4に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施例1〜4では線膨張係数調整膜として金属膜3を採用した場合について説明しているが、これに限定されることはない。例えば、実施例1〜4における金属膜3に代えて、線膨張係数調整膜として、水晶からなる圧電振動片7と同じ材料である水晶板を採用することも可能である。この場合、線膨張係数調整膜としての水晶板は、当然のように水晶からなる圧電振動片7と同じ線膨張係数を有することになる。したがって、圧電振動片7の線膨張係数と、シリコン基板2、水晶板からなる線膨張係数調整膜および絶縁膜4の多層構造体の線膨張係数とを近づけることができ、上記実施例1〜4と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…圧電振動子
2、21、41…シリコン基板
21A、41A…発振回路
3…金属膜(線膨張係数調整膜)
4…絶縁膜
5、6…振動片実装電極
7…圧電振動片
8、9…引出し電極
10、11…励振電極
12、13…マウント電極
14、15…バンプ
20、40…発振器
22、42…保護膜
23、24、46…接続電極
25、26、43…圧電振動子接続用端子
27、28、29、30、44、45…発振回路用電極端子
31、51…パッケージベース基板
32、58、61…リッド基板
33、34、52、53…ボンディングパッド
35、36…ワイヤ
37、38、54、55…パッケージ外部電極
39、59、62…キャビティ
47…シリコン貫通電極
56、57…バンプ
63…接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板の表面に形成された線膨張係数調整膜と、
前記線膨張係数調整膜上に形成された一対の振動片実装電極と、
前記一対の振動片実装電極に接合されて保持されたATカット型の圧電振動片と、
を備え、
前記線膨張係数調整膜の線膨張係数が13×10-6/℃以上であり、且つ、前記線膨張係数調整膜の線膨張係数とヤング率との積が1.95MPa/℃以上である圧電振動子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電振動子において、
前記圧電振動片は、前記一対の振動片実装電極にバンプ接合されて保持されている圧電振動子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧電振動子において、
前記線膨張係数調整膜は金属膜であり、
前記線膨張係数調整膜と前記振動片実装電極との間に形成された絶縁膜をさらに備えている圧電振動子。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電振動子において、
前記線膨張係数調整膜はNiあるいはCuからなる圧電振動子。
【請求項5】
請求項1または2に記載の圧電振動子において、
前記線膨張係数調整膜は水晶板であり、
前記線膨張係数調整膜と前記振動片実装電極との間に形成された絶縁膜をさらに備えている圧電振動子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電振動子と、
前記シリコン基板の表面に形成された発振回路と、
を備えている発振器。
【請求項7】
請求項6に記載の発振器において、
前記線膨張係数調整膜と前記シリコン基板との間に形成された保護膜をさらに備えている発振器。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電振動子と、
前記シリコン基板の裏面に形成された発振回路と、
を備えている発振器。
【請求項9】
請求項8に記載の発振器において、
前記振動片実装電極と前記発振回路とを接続するために前記シリコン基板を厚み方向に貫通するシリコン貫通電極をさらに備えている発振器。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の発振器と、
前記発振器が実装されるパッケージベース基板と、
前記パッケージベース基板の表面に接合され、前記パッケージベース基板との間に前記圧電振動片を収容するためのキャビティを形成するリッド基板と、
を備えている発振器パッケージ。
【請求項11】
請求項8または9に記載の発振器と、
前記シリコン基板の表面に接合され、前記シリコン基板との間に前記圧電振動片を収容するためのキャビティを形成するリッド基板と、
を備えている発振器パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−97553(P2011−97553A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49883(P2010−49883)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】