説明

基板処理方法

【課題】膜厚が薄い場合や導入物質の濃度が低い場合であっても、導入物質を導入することのできる基板処理方法を提供する。
【解決手段】基板1上に薄膜2を形成する工程と、薄膜2に、導入物質のガスクラスターをイオン化して加速したガスクラスターイオンビーム3を照射して薄膜中2に導入物質を導入する工程とを具備し、基板1上に導入物質が導入された薄膜2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理方法に係り、特に基板上に形成された薄膜中に少量の導入物質を導入するのに好適な基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置の製造分野においては、基板上に形成された絶縁膜中に少量の導入物質(不純物)を導入する方法として、異なる絶縁膜を積層した後、熱アニール処理して、所謂ラミネート膜を形成する方法が知られている。すなわち、この方法では、例えばZrO2膜中に10%程度のSiO2を含む膜厚10nmのZrSiO膜を形成する場合、膜厚1nmのSiO2膜と膜厚9nmのZrO2膜を積層した後に、熱アニール処理を施してSiO2濃度10%程度のZrSiO膜を得る。各層の膜厚は成膜条件(ガス、時間、温度、圧力)等で制御する。
【0003】
しかしながら、上記の方法では、膜厚が数nmの極薄膜の場合や数%程度の低濃度の不純物の濃度を制御することは困難である。例えば上記した例に従うと、4.5nmのZrO2膜中に10%程度のSiO2を導入するためには、膜厚0.5nmのSiO2膜が必要となり、また、9.9nmのZrO2膜中に1%程度のSiO2を導入するためには、膜厚0.1nmのSiO2膜が必要となる。
【0004】
ところが、上記のような膜厚のSiO2膜を形成することは困難である。例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)でSiO2膜を形成する際、1サイクルで形成される膜厚は0.8nm程度であり、上述した例で求められる0.5nmの膜厚や0.1nmの膜厚のSiO2膜よりも厚くなってしまう。
【0005】
上記のように、従来の方法によるラミネート膜では、絶縁膜の膜厚が数nm程度に薄くなった場合や、要求される不純物濃度が数%程度と低くなった場合、不純物濃度を制御することが困難になる。
【0006】
より一般的な例を以下に説明する。従来の方法を用いた不純物を含む極薄膜の形成方法を図4に示す。図4に示すMa,Mbは、任意の金属元素名であり、MaOx,MbOyは、金属酸化物である。A,Bは、それぞれMaOx,MbOyの膜厚を表している。図4(a)に示すように、MaOx,MbOyの薄膜を積層した後、熱アニールを施すことで、図4(b)に示すように、MaOx中にMbOyが導入された膜厚が2(A+B)のMaMbOz膜を形成することができる。このように積層膜を用いて形成された多元系膜はラミネート膜と呼ばれている。
【0007】
上記の従来の方法は、形成するMaOx膜,MbOy膜それぞれの膜厚が制御可能な膜厚である限り、さまざまな不純物を含む膜の形成に好適に用いることができる。また、図5に示すように、上記した図4の場合のサイクル数を変えずに各層の膜厚を同じ比率で半分(A/2,B/2)に薄くする、又は、図6に示すように、各層の膜厚を変えずにサイクル数を半分(1サイクル)に減らすことで、図4の場合と同一のMa,Mb濃度を維持しながら、MaMbOz膜の膜厚を半分(A+B)にすることができる。なお、常温で気体状物質の塊状原子または分子集団であるクラスターを形成し、これに電子を浴びせて生成させたイオンを加速して固体表面に照射し、固体表面の無損傷クリーニングを行うこと、固体表面の浅い表層部にイオン注入することが知られている(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開平4−354865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したとおり従来の方法では、導入物質(不純物)であるMbOyの膜厚が制御可能な膜厚範囲であれば適用が可能であるが、極めて薄いMaOxにMbOyを導入する場合や、微量のMbOyを導入する場合、前述したように制御可能な膜厚よりも薄い膜厚を持つMbOyを形成する必要が生じ、適用することができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、膜厚が薄い場合や導入物質の濃度が低い場合であっても、導入物質を導入することのできる基板処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の基板処理方法は、基板上に導入物質が導入された薄膜を形成する基板処理方法であって、前記基板上に薄膜を形成する工程と、前記薄膜に、前記導入物質のガスクラスターをイオン化して加速したガスクラスターイオンビームを照射して前記薄膜中に前記導入物質を導入する工程とを具備したことを特徴とする。
【0011】
請求項2の基板処理方法は、請求項1記載の基板処理方法であって、前記基板上に形成された前記薄膜の膜厚が、10nm以下であることを特徴とする
【0012】
請求項3の基板処理方法は、請求項1又は2記載の基板処理方法であって、前記薄膜中の前記導入物質の濃度が、10%以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項4の基板処理方法は、請求項1〜3いずれか1項記載の基板処理方法であって、前記基板上に形成された前記薄膜が、Zr若しくはHfを含む絶縁膜からなり、前記薄膜中に導入される前記導入物質がSi又はGe若しくはYからなることを特徴とする。
【0014】
請求項5の基板処理方法は、請求項1〜4いずれか1項記載の基板処理方法であって、前記導入物質の導入後に熱アニール処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜厚が薄い場合や導入物質の濃度が低い場合であっても、導入物質を導入することのできる基板処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の基板処理方法の詳細を、図面を参照して実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る基板処理方法を説明するための図であり、基板の要部断面構成を拡大して模式的に示すものである。
【0018】
本実施形態では、まず、図1(a)に示すように、基板1上に所定物質からなる薄膜2、例えば、金属酸化物MaOxからなる極薄膜を形成する。この薄膜2の膜厚は、前述した図4に示した薄膜の膜厚Aより薄くすることができ、例えば、膜厚を10nm以下としてもよい。
【0019】
次に、図1(b)に示すように、形成した薄膜1に、原子の密度が例えば1020〜1021個/cm3程度の導入物質、例えば金属Mbからなるガスクラスターをイオン化して加速したガスクラスターイオンビーム3を照射する。このガスクラスターイオンビーム3の照射量は、導入物質の導入量に応じて調整する。
【0020】
次に、図1(c)に示すように、ガスクラスターイオンビーム3を照射した薄膜2に熱アニール処理を行う。この結果、Mb濃度が低く制御され、膜厚がAよりも薄いMaMbOz膜を形成することができる。
【0021】
また、図2に示す方法も用いることができる。この方法では、図2(a)に示すように、まず、MaMb膜からなる薄膜2aを形成する。次に、図2(b)に示すように、このMaMb膜からなる薄膜2aに原子の密度1020〜1021個/cm3程度の酸素(Ox)ガスクラスターからなるガスクラスターイオンビーム3aを照射する。その後、図2(c)に示すように、熱アニールを施して、MaMbOz膜を形成する。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、厚さが10nm以下、例えば数nm程度の薄膜においても、数%以下の低い濃度の導入物質を含む薄膜を形成することができる。この方法は、例えば、厚さが10nm以下のZrO2の極薄膜、HfO2の極薄膜等の絶縁膜に、導入物質(不純物)として10%以下の低い濃度のSi、Ge、Y等を導入した絶縁膜を形成する際等に好適に使用することができ、導入物質の濃度の制御を良好に行うことができる。
【0023】
また、本実施形態では、クラスター化された導入物質を打ち込むので、例えば、1原子当たり10eV以下程度(原子数が数千のクラスター全体では数千eV以下程度)の低エネルギーでの打ち込みが可能となり、例えば、上記した絶縁膜の厚さが薄い場合でも、導入物質が絶縁膜を突き抜けて絶縁膜下部の物質と反応する等の特性劣化を抑制することができる。
【0024】
さらに、本実施形態では、クラスター化した導入物質を薄膜中に導入する導入量を制御することによって、任意の組成比を持つMaMbOzを容易に形成することができる。また、熱アニール処理に、酸化雰囲気熱アニール処理を用いれば、クラスター化した導入物質の打ち込みで生じた酸素欠損を修復したり、酸素のガスクラスターイオンビームを照射する工程を省いて酸化膜を形成することもできる。
【0025】
ところで、上記した低い濃度で導入物質(不純物)を含む極薄膜、例えば、低い濃度でSiを含むZrO2の極薄膜、低い濃度でSiを含むHfO2の極薄膜等は、Siを低い濃度で含むことにより、Siを導入しない場合に比べて誘電率を向上させることができる。すなわち、Siを導入することによって、正方晶系や立方晶系の結晶構造が形成され易くなり、単位構造体積が減少することによって、誘電率を向上させることが可能となる。
【0026】
そして、このような高誘電率の極薄膜は、例えば、半導体装置のDRAMの容量層(MIMキャパシタ)の絶縁膜、又は、MOSFETのゲート絶縁膜等として好適に使用することができる。
【0027】
しかしながら、基板上に形成される膜、クラスター化される導入物質としては、任意の物質を選択することが可能であり、さまざまな導入物質を含む極薄膜の形成に適用することができる。
【0028】
図3は、本実施形態に使用するガスクラスターイオンビームの照射装置の概略構成を示すものである。図3に示すガスクラスターイオンビームの照射装置は、導入物質ガスを高圧条件下でクラスター化するクラスター生成部10と、クラスターをイオン化して帯電させるイオン化部20と、帯電したクラスターを加速し基板へ導入する加速照射部30と、基板1を保持する機構とを具備している。また、クラスター生成部10とイオン化部20との間には差動排気部40が設けられている。
【0029】
クラスター生成部10において、ガスクラスターは原料ガスを高圧でノズル11から真空中へ噴出させて生成する。スキマー12は、鋭いエッジを持つ円錐状のオリフィスであり、このスキマー12を通してガスクラスターは作動排気部40に導かれ、その後イオン化部20へ導入される。
【0030】
イオン化部20において、電気的に中性なガスクラスターは、フィラメントからアノードへ向けて加速された熱電子による衝突電離によってイオン化される。ここで、イオン化部20の真空度が悪いと雰囲気ガスがイオン化され、ビーム内にモノマーイオンが混入する。また、ガスクラスターイオンは、雰囲気ガスと衝突し、クラスターの崩壊が起こる。このため、クラスター生成部10とイオン化部20との間に差動排気部40を設け、イオン化部20の真空度を高く(6.65×10-3Pa(5×10-5Torr)以下程度)に抑える必要がある。
【0031】
その後、ガスクラスターイオンは、引出し電極31、加速電極32を通して加速されるが、それと同時にビーム径が広がるので、集束レンズ33により集束される。その後、磁石34を使ってモノマーが除去され、基板1へクラスタービームが照射される。
【0032】
なお、上記実施形態では、金属酸化物中に導入物質を導入する場合について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、薄膜中に導入物質を導入する方法として広く一般に適用することが可能である。また、ガスクラスターイオンビームの照射装置の構造も、ガスクラスターイオンビームを照射することができるものであれば、図3に示した構造の装置に限らず、あらゆる構造の装置を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態の基板処理方法の工程を説明するための図。
【図2】本発明の実施形態の変形例の工程を説明するための図。
【図3】本発明の一実施形態に使用するガスクラスターイオンビームの照射装置の構造を模式的に示す図。
【図4】従来の基板処理方法の工程を説明するための図。
【図5】従来の基板処理方法の工程を説明するための図。
【図6】従来の基板処理方法の工程を説明するための図。
【符号の説明】
【0034】
1……基板、2……薄膜、3……ガスクラスターイオンビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に導入物質が導入された薄膜を形成する基板処理方法であって、
前記基板上に薄膜を形成する工程と、
前記薄膜に、前記導入物質のガスクラスターをイオン化して加速したガスクラスターイオンビームを照射して前記薄膜中に前記導入物質を導入する工程と
を具備したことを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の基板処理方法であって、
前記基板上に形成された前記薄膜の膜厚が、10nm以下であることを特徴とする基板処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の基板処理方法であって、
前記薄膜中の前記導入物質の濃度が、10%以下であることを特徴とする基板処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の基板処理方法であって、
前記基板上に形成された前記薄膜が、Zr若しくはHfを含む絶縁膜からなり、前記薄膜中に導入される前記導入物質がSi又はGe若しくはYからなることを特徴とする基板処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載の基板処理方法であって、
前記導入物質の導入後に熱アニール処理を行うことを特徴とする基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−70788(P2010−70788A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237567(P2008−237567)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】