説明

多変量光学素子を使用する光学分析系

本発明は、光信号の主成分の振幅を決定するための光学分析系を提供する。その主成分は、分光学的な分析を受ける物質の特定の化合物又は様々な化合物の濃度を示す。その光信号は、重み付けの関数によって指定された、波長選択的な重み付け及び波長選択的な空間的な分離を受ける。その光信号は、好ましくは、それぞれその重み付けの関数の正の及び負のスペクトルの帯域に対応する二個の部分に分離される。その分離は、強度の顕著な損失無しにその光信号の分離された部分の別個の検出を提供し、それによって、決定された主成分の改善された信号対雑音比を提供する。その光信号の分離及び重み付けは、二個の多変量光学素子によって実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波分光学の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
分光学の技術は、物質の組成の決定に広範に使用される。光信号、即ち、分光学的な光信号をスペクトルで分析することによって、その物質の特定の化合物の濃度を、精確に決定することができる。特定の物質の濃度は、典型的には、光信号の主成分の振幅によって与えられる。
【0003】
特許文献1は、光信号の主成分の振幅を決定するための光学分析系の実施形態を開示する。その知られた光学分析系は、例えば、どの化合物が、試料にどの濃度で含まれるかを分析することに適合した分光学的な分析系の一部である。その試料と相互作用する光が、それら化合物及びそれらの濃度についての情報を持ち去ることは、周知である。基礎をなす物理的な過程が、例えばレーザー、ランプ又は発光ダイオードのような光源の光が、この情報を伝える光信号を発生させるために、その試料へ方向付けられる、光波分光学的な技術において活用される。
【0004】
例えば、光は、その試料によって吸収されてもよい。あるいは、又は、加えて、知られた波長の光は、その試料と相互作用してもよいよと共に、それによってラマン(Raman)過程により、異なる波長で光を発生させる。そして、透過した及び/又は発生した光は、スペクトルともまた呼ばれることもある光信号を構成する。その波長の関数としてのその光信号の相対的な強度は、その試料に含まれる化合物及びそれらの濃度を示す。
【0005】
その試料に含まれる化合物を識別するために、及び、それらの濃度を決定するために、その光信号は、分析される必要がある。その知られた光学分析系においては、その光信号は、光学フィルターを含む専用のハードウェアによって分析される。この光学フィルターは、その波長に依存する透過率を有する、即ち、それは、その波長依存性の透過率によって与えられるスペクトルの重み付けの関数によって、その光信号を重み付けするように、設計される。そのスペクトルの重み付けの関数は、その重み付けられた光信号の、即ち、フィルターを透過した光の、合計の強度が、特定の化合物の濃度に正比例するように、選ばれる。また、このような光学フィルターは、多変量光学素子(MOE)として表記される。そして、この強度を、都合のよいことには、例えばフォトダイオードのような検出器によって、検出することができる。あらゆる化合物について、特徴的なスペクトルの重み付けの関数を備えた専用の光学フィルターが、使用される。その光学フィルターは、例えば、所望の重み付けの関数を構成する透過率を有する干渉フィルターであってもよい。
【0006】
この分析スキームの継続的な実施については、そのスペクトルの重み付けの関数を知ることが、本質的である。それらを、例えば、知られた濃度のN個の純粋な化合物のN個のスペクトルを含む組みの主成分分析を行うことによって、得てもよく、ここでNは、整数である。各々のスペクトルは、M個の異なる波長における対応する光信号の強度を含むが、ここで、Mは、同様に整数である。典型的には、Mは、Nよりもはるかに大きい。対応するM個の波長におけるM個の強度を含む各々のスペクトルは、M次元のベクトルを構成するが、そのM個の成分は、これらの強度である。これらのベクトルは、主成分分析の核心にある共にこの技術において良く理解される特異値分解(SVD)として知られるような線形代数的な処理を受ける。
【0007】
そのSVDの結果として、nがN+1よりも小さい正の整数である、N個の固有ベクトルzの組みが、得られる。固有ベクトルzは、元来のN個のスペクトルの線形結合であると共にしばしば主成分又は主成分ベクトルと呼ばれる。典型的には、それら主成分は、相互に直交すると共に|z|=1の規格化されたベクトルとして決定される。それら主成分zを使用して、未知の濃度の化合物を含む試料の光信号は、適切なスカラーの乗数が掛けられたそれら規格化された主成分の組み合わせ
+x+…+x
によって、記述されることもある。
【0008】
nがN+1よりも小さい正の整数である、それらスカラーの乗数xは、与えられた光信号における主成分zの振幅と考えられることもある。各々の乗数xを、その光信号を、M次元の波長空間におけるベクトルとして取り扱うこと、及び、このベクトルの、主成分ベクトルzとの直積を計算することによって、決定することができる。
【0009】
その結果、その規格化された固有ベクトルzの方向における光信号の振幅xを生じる。それら振幅xは、それらN個の化合物の濃度に対応する。
【0010】
その知られた光学分析系において、その光信号を表すベクトルとその主成分を表す固有ベクトルとの間の直積の計算は、その光学フィルターによって、その光学分析系のハードウェアにおいて、実施される。その光学フィルターは、それが、その主成分を表す固有ベクトルの成分に従って光信号を重み付けする、即ち、その主成分ベクトルが、そのスペクトルの重み付けの関数を構成するような、透過率を有する。そのフィルター処理された光信号を、その主成分の振幅に、このように、その対応する化合物の濃度に、比例する振幅を備えた信号を発生させる検出器によって、検出することができる。
【0011】
物理的な意味において、各々の主成分は、その光信号内の波長の範囲においてある形状を備えた構築された“スペクトル”である。現実のスペクトルとは対照的に、主成分は、第一のスペクトルの範囲における正の部分及び第二のスペクトルの範囲のける負の部分を含んでもよい。この場合には、この主成分を表すベクトルは、第一のスペクトルの範囲に対応する波長についての正の成分及び第二のスペクトルの範囲に対応する波長についての負の成分を有する。
【0012】
実施形態において、その知られた光学分析系は、主成分が正の部分及び負の部分を含む場合に、その光信号を表すベクトルとハードウェアにおける主成分を表す固有ベクトルとの間の直積の計算を行うように、設計される。この目的のために、その光信号の一部分は、その主成分の正の部分に対応する第一のスペクトルの重み付けの関数によって、その光信号を重み付けする第一のフィルターへ方向付けられると共に、その光信号のさらなる部分は、その主成分の負の部分に対応する第二のスペクトルの重み付けの関数によって、その光信号を重み付けする第二のフィルターに方向付けられる。第一のフィルターによって及び第二のフィルターを透過した光は、それぞれ、第一の検出器及び第二の検出器によって検出される。そして、第二の検出器の信号は、第一の検出器の信号から減算され、その濃度に対応する振幅を備えた信号に帰着する
別の実施形態において、その知られた光学分析系は、第一の化合物の及び第二の化合物の濃度を、対応する第一の主成分の及び第二の主成分の振幅を測定することによって、決定することができる。この目的のために、その光信号の一部分は、第一の主成分に対応する第一のスペクトルの重み付けの関数によってその光信号を重み付けする第一のフィルターへ方向付けられると共に、その光信号のさらなる部分は、その第二の主成分に対応する第二のスペクトルの重み付けの関数によってその光信号を重み付けする第二のフィルターへ方向付けられる。第一のフィルターによって及び第二のフィルターを透過した光は、それぞれ、第一の検出器及び第二の検出器によって検出される。第一の検出器の及び第二の検出器の信号は、それぞれ、第一の主成分及び第二の主成分の振幅に対応する。
【0013】
その信号対雑音比が相対的に低いことは、その知られた光学分析系の不都合である。
【特許文献1】米国特許第6,198,531号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は、相対的に高い信号対雑音比を備えた信号を提供することができる、上に記載した種類の光学分析系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、光信号の主成分の振幅を決定するための光学分析系を提供する。その光学分析系は、第一の多変量光学素子、第二の多変量光学素子、第一の検出器及び第二の検出器を含む。その第一の多変量光学素子は、第一の部分及び第二の部分へのその光信号の波長選択的な分離に適合させられる。その第二の多変量光学素子は、スペクトルの重み付けの関数を基礎としたその光信号の波長選択的な重み付けに適合させられる。特に、その光信号の重み付けは、その光信号の第一の部分及び第二の部分の重み付けを指す。それぞれ、第一の検出器は、その光信号の重み付けられた第一の部分を検出することに適合させられると共に、第二の検出器は、その光信号の重み付けられた第二の部分を検出することに適合させられる。
【0016】
本発明は、その光信号の顕著な部分が、それら検出器のいずれによっても検出されないが、例えば、第一の光学フィルターによって又は第二の光学フィルターによって遮断されるので、その信号対雑音比が、その知られた光学分析系において相対的に低いという洞察に基づく。例えば、第一の光学フィルターによって受信された光信号は、全ての情報を含むが、しかし、第二の重み付けの関数に対応する光信号の部分が、そのフィルターによって遮断されるのに対して、第一のフィルターは、第一の重み付けの関数に対応する光信号のその部分のみを透過させる。第一の光学フィルターによって及び第二の光学フィルターによって遮断された光は、検出されないが、そのことは、その信号対雑音比を減少させる。
【0017】
好ましくは、その光信号の第一の部分及び第二の部分は、第一の多変量光学素子によって、空間的に分離される。第一の部分及び第二の部分は、その光信号の異なるスペクトルの範囲を指す。好ましくは、その光信号の第一の部分は、その主成分の正の部分を指すと共に、その光信号の第二の部分は、その主成分の負の部分を指す。第一の部分及び第二の部分は、単一のスペクトルの範囲に制限されるものでは決してない。さらには、その光信号の各々の部分は、様々な具体的なスペクトルの範囲又はスペクトルの帯域を指すこともある。例えば、第一の光信号は、850〜870nm及び900〜920nmの組み合わせられたスペクトルの範囲を指すこともある。その光信号の第一の及び第二の部分を選択的に分離することによって、並びに、第一の及び第二の部分をそれぞれの検出器によって検出することによって、その信号対雑音比を、先行技術の解決手段と比較して、かなり高めることができる。
【0018】
原則として、光学フィルターを、その光信号の適切な部分をフィルター処理するために、それら検出器へ適用する必要はない。第一の部分及び第二の部分へのその光信号の波長選択的な分離に加えて、第二の多変量光学素子は、スペクトルの重み付けの関数を基礎とした、その光信号の波長選択的な重み付けを適用する。その波長選択的な重み付けの適用は、その光信号に、それが、第一の多変量光学素子によって提供された波長選択的な分離を受けたものになる前又は後に、当てはまることもある。このような具合に、波長選択的な重み付けの適用を、その光信号について、又は、その光信号の第一の及び第二の部分について、行うことができる。波長選択的な分離及び重み付けを、任意の順序で行うことができる。その光信号が、第一に、第一のMOE又は第二のMOEのいずれかに入射すると共に、その後、それは、それぞれ、第二のMOE及び第一のMOEに別個に入射するものであってもよい。第一のMOE及び第二のMOEの効果が、その光信号に適用される順序は、一般に、任意であってもよい。
【0019】
重み付けは、分離が起こる前に、起こることもあると共に逆もまた同様である。また、第一の及び第二の多変量光学素子を、その光信号の波長選択的な分離及び波長選択的な重み付けが、組み合わせられた方式で行われるような方式で、組み合わせることができる。しかしながら、その光信号を第一の及び第二の部分へ空間的に分離することによって、並びに、その光信号の重み付けられた第一の及び第二の部分を選択的に検出することによって、その信号対雑音比を、光学フィルターを使用する先行技術の解決手段と比較して、かなり高めることができる。
【0020】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、その光学分析系は、その光信号をスペクトル的に分散させるための分散光学素子をさらに含む。第一の及び第二の多変量光学素子は、その分散させられた光信号を受信するように、配置される。その分散素子を、例えば、その光信号をスペクトル的に分散させるための回折格子又はプリズムによって、実現することができる。このような具合に、その光信号の様々なスペクトルの成分を、別個に分離することができる。空間光変調器として第一の及び/又は第二の多変量光学素子を実施することによって、その光信号の波長選択的な変調を、有効に実現することができる。変調は、典型的には、その光信号又はその光信号の第一の部分及び/又は第二の部分の偏光及び/又は振幅又は強度の変調を指す。
【0021】
スペクトル的に分散させられた光信号は、第一の及び第二の多変量光学素子によって、受信される、即ち、第一の及び第二の多変量光学素子の異なる部分は、その光信号又はその光信号の部分の異なる波長の区間又は帯域を受信する。個々の波長について、第一の多変量光学素子は、その光信号の第一の部分を第一の検出器へ方向付けるように、及び、その光信号の第二の部分をその第二の検出器へ方向付けるために、適合させられる。対応して、第二の多変量光学素子、例えば、第二の多変量光学素子の選択的な部分は、その光信号の異なる波長の成分を個々に重み付けするように、適合させられる。このように、その知られた光学分析系の第一の光学フィルター及び第二の光学フィルターによってなされるような、その光信号を部分的に遮断する代わりに、その光信号の異なる部分は、異なる検出器へ方向付けられる。結果として、より多量の光信号が、検出され、改善された信号対雑音比を生じる。
【0022】
本発明に従って、その光信号は、人間の目に可視である波長を有する光信号に制限されない。その光信号は、紫外(UV)のスペクトルにおいて、及び/又は、赤外(IR)のスペクトルにおいて、スペクトルの成分を含むこともある。ここで、そのIRスペクトルの範囲は、近赤外(NIR)及び1THzより上の周波数を有する遠赤外(FIR)並びに同様にして全ての中間の波長を含むこともある。
【0023】
本発明に従って、その主成分は、純粋な主成分に限定されない。ここで、純粋な主成分は、ある一定の化合物についての数学的に正確な固有ベクトルを指す。また、主成分は、それら主成分を決定する間における欠陥から結果として生じることもある他の化合物からの副次的な寄与を含むこともある。また、主成分は、知られた濃度の数個の化合物の混合物に対応することもある。
【0024】
ある実施形態において、その主成分は、第一のスペクトルの範囲における正の部分及び第二のスペクトルの範囲における負の部分を含むが、第一のスペクトルの重み付けの関数によって重み付けられた光信号の第一の部分は、その正の部分に対応し、第二のスペクトルの重み付けの関数によって重み付けられた光信号の第二の部分は、その負の部分に対応し、第一の検出器及び第二の検出器は、第一の検出器によって発生させられた信号から第二の検出器によって発生させられた信号を減算するために配置された信号処理装置へ結合させられる。この実施形態において、正の部分及び負の部分を有する主成分を含む光信号を、改善された信号対雑音比で分析することができる。典型的には、第一のスペクトルの範囲は、第二のスペクトルの範囲には無い。
【0025】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、第一の多変量光学素子は、その分散させられた光信号のスペクトルの部分を受信するための第一の領域を含む。この第一の領域は、その分散させられた光信号の偏光を変更するように、適合させられる。この実施形態において、第一の多変量光学素子は、その分散させられた光信号の偏光状態の空間的な選択的な変調に適合させられる空間光変調器として実施される。よって、第一の多変量光学素子の第一の領域は、異なる位置で、その光信号の異なる波長を受信する。さらには、第一の領域は、第一の領域の異なる位置で、異なる方式において、その分散させられた光信号の偏光を変更するように、適合させられる。このような具合に、その分散させられた光信号の異なる波長は、異なる偏光の変更を受けたものになる。よって、第一の多変量光学素子の細分性及びその光信号の分散に依存して、第一の領域によって受信されるスペクトルの部分のスペクトルの範囲、その受信された光信号の特定のスペクトルの範囲は、偏光の変更を受けたものになることができる。
【0026】
従って、その分散させられた光信号は、偏光の波長選択的な変更を受けたものになる。特に、例えば偏光ビームスプリッターと同様な偏光に敏感な素子との組み合わせで、異なるスペクトルの範囲の空間的な分離を、強度の周縁の喪失と共に有効に実現することができる。このような具合に、その主成分の正の及び負の部分を指す第一の及び第二のスペクトルの範囲を、それぞれの検出器による別個の検出について有効に空間的に分離することができる。
【0027】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、第二の多変量光学素子は、その分散させられた光信号のスペクトルの部分を受信するための第二の領域を含む。第二の領域は、そのスペクトルの重み付けの関数に関係する透過率又は反射率を有する。好ましくは、第二の多変量光学素子は、反射又は透過のモードで動作する空間的な変調器として実施される。第一の多変量光学素子と類似して、また、第二の多変量光学素子は、第二の領域にわたって異なる透過又は反射の性質を提供してもよい。このような具合に、その光信号の特定のスペクトルの範囲は、振幅及び/又は強度の変調を受けたものになることができる。このような具合に、その光信号の特定のスペクトルの成分は、有効に、波長選択的な重み付けを受けたものになることができる。
【0028】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、その分散させられた光信号の偏光を変更するための多変量光学素子の第一の領域は、その分散させられた光信号の構成可能な偏光の変更を発生させるために構成可能である。このような具合に、第一の多変量光学素子は、構成可能な偏光の変調器として実施される。このような構成可能な偏光の変調器は、その光信号の第一の及び第二の部分のスペクトルの範囲を変更することを許容する。
【0029】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、第二の多変量光学素子の第二の領域の透過率及び/又は反射率は、構成可能である。このような具合に、第二の多変量光学素子を、複数の異なるスペクトルの重み付けの関数に一般的に適合させることができる。特に、第一の及び第二の多変量光学素子の両方が、構成可能な素子として実施されるとき、その光学分析系を、任意の重み付けの関数に一般的に適合させることができる。このような具合に、第一の多変量光学素子は、その重み付けの関数の正の及び負の部分を分離することに役に立つと共に、第二の多変量光学素子は、その重み付けの関数によって指定される方式で、受信された光信号の振幅及び/又は強度を拡大縮小すること又は重み付けすることに役に立つ。
【0030】
第一の及び/又は第二のMOEの構成は、その光信号の異なる主成分に対してその光学分析系を調節するために、特に好都合である。このような具合に、光信号の単一の主成分の単一の振幅を得ることができるだけでなく、さらには、様々な主成分の振幅の全部の種類が、試料の異なる物質の様々な濃度を決定することを可能にすることもある。
【0031】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、第一の及び/又は第二の多変量光学素子は、少なくとも一つの構成可能な透過型の又は反射型の液晶セルを含む。その液晶セルの実施に依存して、その全体的な光学分析系を、透過又は反射の幾何学的配置で動作させることができる。その液晶セルは、適切な電圧を印加することによって別個に制御することができるセルの要素の配列を提供する。好ましくは、その液晶セルは、空間的な偏光の変調器として役に立つ、即ち、単一のセルの要素は、入射の光信号の偏光状態の変更を提供する。偏光の変更の大きさは、各々のセルの要素へ適用される電圧の振幅によって、支配される。
【0032】
液晶セルを基礎とした第一の多変量光学素子の実施を、偏光ビームスプリッターとの組み合わせでその液晶セルを使用することによって、有効に実現することができる。入射の分散させられた光信号が直線偏光させられることを仮定すると、その液晶セルは、その分散させられた光信号の特定のスペクトルの範囲の偏光状態を、90度だけ変更してもよい。結果として、この特定のスペクトルの範囲は、偏光ビームスプリッターを通じた伝播において、その光信号からの分離を経験することになる。
【0033】
第二の多変量光学素子の中への透過型の又は反射型の液晶セルの実施を、交差させた偏光子の間の液晶セルを配置することによって、有効に実現することができる。それら交差した偏光子及びその液晶セルの構成は、光信号を減弱させるように適合させられる空間的な振幅の変調器として役に立ち、このように多種多様な灰色値を与える。印加された電圧に依存して、様々なセルの要素は、透過率の異なる値を提供する。このような空間振幅変調器を、その光信号の特定のスペクトルの範囲でその分散素子と組み合わせることを、有効に重み付けすることができる。
【0034】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、第一の多変量光学素子は、その光信号の第一の及び第二の部分を空間的に分離するように適合させられる二色性素子を含む。分散光学素子及び空間光変調器の組み合わせを使用する代わりに、この実施形態は、光信号の様々なスペクトルの範囲又は帯域を空間的に分離するためのむしろ直感的なアプローチを提供する。好ましくは二色性ミラーとして実施される二色性素子は、構成可能ではないと共に、主成分の正の及び負の部分を指定する各々の重み付けの関数について設計される必要がある。その主成分の正の及び負の部分は、典型的には、その光信号の第一の及び第二の部分を指す。それらは、具体的なスペクトルの区間に制限されるものでは決してない。さらには、その光信号の各々の部分は、その光信号の様々なスペクトルの区間又はスペクトルの範囲及びそれらのそれぞれの組み合わせを指すこともある。
【0035】
しかしながら、二色性素子として第一の多変量光学素子を実施することによって、その光学分析系を、複雑でないと共に低い費用の方式で実現することができる。これは、その光学分析系が、大きいスペクトルの差を有する少数の化合物からなる特定の物質のスペクトル分析に専用のものであるとき、特に好都合である。このような具合に、その二色性素子の透過及び反射の性質は、その物質のスペクトル及びそれの対応する重み付けの関数に適合して設計される必要がある。
【0036】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、その光学分析系は、偏光変換素子をさらに含む。本発明の多数の実施形態について、その入射光信号が直線偏光させられることは、特に好都合であるので、その偏光変換素子は、任意に偏光した光信号を、直線偏光した光信号へと変換することに役に立つ。好ましくは、その偏光変換素子は、偏光ビームスプリッター及び遅延波長板、好ましくは二分の一波長板を使用することによって、実施される。任意に偏光した光を、原則として、s及びp偏光した光の重ね合わせとして表すことができる。理想的には、その偏光ビームスプリッターは、その偏光ビームスプリッターから異なる角度で現われるs偏光した及びp偏光した光を分離する。結果として、それら二つの放出する光ビームは、s又はp偏光したもののいずれかである。これらのビームの一つの偏光方向を回転させるために、二分の一波長板を使用すると、同じ偏光方向を有する二つの光ビームを、有効に発生させることができる。加えて、これらの光ビームを、直線偏光させられる単一の光ビームへと組み合わせることができる。このような具合に、直線偏光した光を、かなりの量の強度を吸収する直線偏光を適用することなく、有効に発生させることができる。
【0037】
本発明のさらなる好適な実施形態に従って、その光学分析系は、ある濃度を有すると共にそれによってその主成分を発生させる物質を含む試料を照明するための光を提供するための光源をさらに含む。その主成分の振幅は、その物質の濃度に関係する。
【0038】
別の態様において、本発明は、上に記載したような光学分析系を含む血液分析系を提供する。ここで、光によって照明された試料は、血液を含む。
【0039】
まだ別の態様において、本発明は、光信号の主成分の振幅を決定する方法を提供する。その方法は、その光信号を第一の部分及び第二の部分へと分離するステップ、その光信号の重み付けのステップ、並びに、その光信号の重み付けられた第一の及び第一の部分を検出するステップを含む。
【0040】
さらに、特許請求の範囲におけるいずれの符号も本発明の範囲を限定するように解釈されるものではないことは、留意されることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の以下に続く好適な実施形態において、図面を参照することによって、詳細に記載されることになる。
【0042】
図1に示した実施形態において、光信号の主成分の振幅を決定するための光学分析系20は、ある濃度を有する物質を含むと共にそれによってその主成分を発生させる試料2を照明するための光を提供するための光源1を含む。その主成分の振幅は、その物質の濃度に関係する。光源1は、気体レーザー、色素レーザー及び/又は半導体又はダイオードレーザーのような固体レーザーのようなレーザーである。
【0043】
光学分析系20は、血液分析系40の一部である。その血液分析系は、その主成分の振幅を決定するための、よって、その化合物の組成を決定するための、計算用素子19をさらに含む。試料2は、血管を備えた皮膚を含む。その物質は、以下に続く分析物:ブドウ糖、乳酸塩又は乳酸エステル、コレステロール、オキシヘモグロビン、及び/又は、デオキシヘモグロビン、グリコヘモグロビン(HbA1c)、ヘマトクリット、コレステロール(合計、HDL、LDL)、トリグリセリド、尿素、アルブミン、クレアチニン、酸素化、pH、重炭酸塩、及び、その他の多数のもの、の一つ以上であってもよい。これらの物質の濃度は、光波分光学を使用して、非観血的な方式で、決定されるものである。この目的のために、光源1によって提供された光は、その光源によって提供された光を、その皮膚におけるそれら血管へ向かって、反射させる、二色性ミラー3へ送られる。その光を、対物12を使用して、その血管上に集束させてもよい。その光を、国際公開第02/057759号パンフレットに記載されたような結像及び分析系を使用することによって、その血管内に集束させてもよい。
【0044】
その血管における血液と光源1によって提供された光の相互作用によって、光信号を、ラマン散乱及び蛍光により、発生させる。このように発生させた光信号を、対物12によって制御すると共に二色性ミラー3へ送ってもよい。その光信号は、光源1によって提供された光とは異なる波長を有する。その二色性ミラーは、それが、その光信号の少なくとも一部分を透過させるように、構築される。
【0045】
このような具合に発生させた光信号のスペクトルは、図2Aに示される。そのスペクトルは、相対的に広い蛍光の背景(FBG)及び相対的に狭いラマン帯域(RB)を含む。図2Aのx軸は、光源1による励起の785nmに関する波長の偏移を、波数で表示し、図2Aのy軸は、その強度を、任意単位で表示する。そのx軸は、ゼロの強度に対応する。そのラマン帯域の波長及び強度、即ち、位置及び高さは、水に80ミリモルの濃度で溶解させた分析物のブドウ糖についての図2Bの例に示すような分析物の種類を示す。図2Bの実線は、ブドウ糖及び水の両方のスペクトルを示し、図2Bの破線は、水中におけるブドウ糖のスペクトルとブドウ糖無しの水のスペクトルとの間の差を示す。これらの帯域を備えたスペクトルの振幅は、その分析物の濃度を示す。
【0046】
血液は、各々が図2Bのものと同じくらい複雑であってもよいある一定のスペクトルを有する、多数の化合物を含むので、その光信号のスペクトルの分析物は、相対的に複雑なものである。その光信号は、本発明に従った光学分析系20へ送られるが、そこで、その光信号は、例えば図3に概略的に示された重み付けの関数によってその光信号を重み付けられるMOEによって、分析される。図3の重み付けの関数は、血液中のブドウ糖について設計される。それは、正の部分P及び負の部分Nを含む。その正の部分P及びその負の部分Nは、各々、この例においては、一つを超えるスペクトルの帯域を含む。
【0047】
ここで、及び、この出願の残りのものにおいて、集束部材と別の光学素子との間の距離は、その集束部材の主平面とその他の光学素子の主平面との間の光軸に沿った距離として定義される。
【0048】
図1に示した計算用素子19は、正の及び負の信号の間の差を計算するように、配置される。この差は、その光信号の主成分の振幅に比例する。その主成分の振幅は、その物質、即ち、その分析物の濃度に関係する。その振幅とその濃度との間の関係は、線形の依存性であってもよい。
【0049】
図4は、その光学分析系の実施形態の概略図を説明する。その光学分析系は、分散素子106、レンズ108、118、二つの液晶セル112、116、四つの偏光子110、114、122、124、偏光ビームスプリッター120、及び二つの別個の検出器126、128を含む。物質の組成を示すスペクトルを特色にする光信号100は、分散光学素子106に入射する。分散光学素子106を、回折格子又は例えばプリズムと同様ないずれの他の分散光学素子として実施することができる。
【0050】
分散光学素子106は、光信号100のスペクトルの分散を提供する。例として、二つの異なるスペクトルの成分102及び104は、図4に描かれる。二つのスペクトルの成分102及び104は、異なる角度で分散素子106において反射させられる。単純さのために、スペクトルの成分102、104の二つの代表的な光線のみを、それぞれ、実線及び破線として説明される。二つのスペクトルの成分102、104は、液晶セル112におけるスペクトルの成分の集束を提供するレンズ108を通じて伝播する。
【0051】
液晶セル112は、二つの交差した偏光子110、114の間に挟まれる。それらスペクトルの成分が、第一の液晶セル112に入射するものになるので、それらは、偏光子110を通じて伝播する必要がある。結果として、二つのスペクトルの成分102、104は、偏光子110によって、直線偏光させられる。
【0052】
この実施形態において、液晶セル112は、光信号100の波長選択的な重み付けを提供するための第二の多変量光学素子の成分として役に立つ。理解することができるように、二つのスペクトルの成分102、104は、液晶セル112における異なる場所で集束させられる。これらの場所で、それぞれの液晶セルの要素は、二つの異なるスペクトルの成分102、104を別個に減弱させる又は重み付けるために、スペクトルの成分102、104の偏光状態の変更を提供する。
【0053】
偏光子110に関して90度だけ回転させられるその後の偏光子114によって、スペクトルの成分102、104の偏光状態の変更は、それぞれの強度の変更へと変わる。この強度の変更は、典型的には、そのスペクトルの重み付けの関数によって与えられるような特定のスペクトルの成分の重み付けに対応する。よって、光信号100の波長選択的な重み付け用の第二の多変量光学素子を、分散光学素子106、液晶セル112、及び二つの交差した偏光子110、114によって有効に実現することができる。
【0054】
この波長選択的な重み付けの後に、二つのスペクトルの成分102、104は、液晶セル116に入射する。液晶セル116は、光信号100の波長選択的な分離用の第一の多変量光学素子の基本的な構成要素である。液晶セル116は、好ましくは、スペクトルの成分102、104の偏光状態を選択的に切り替えるように、適合させられる。例えば、スペクトルの成分104が、p偏光したものになるのに対して、スペクトルの成分102は、s偏光したものになる。二つの別個のスペクトルの成分102、104は、レンズ118を通じて伝播すると共に偏光ビームスプリッター120に入射するものになる。例えば、偏光ビームスプリッター120は、検出器126に向かってs偏光した光を反射させるように、及び、検出器128に向かってp偏光した光を透過させるように、適合させられる。このような具合に、液晶セル116によってs偏光したものとなったスペクトルの成分102は、検出器126によって完全に検出されると共に、液晶セル116によってp偏光したものとなったスペクトルの成分104は、その偏光ビームスプリッターによって完全に透過させられると共にその後に検出器128によって検出される。
【0055】
付加的に説明した偏光子124及び122は、二つのスペクトルの成分間のクロストークを予防すること及び偏光ビームスプリッター120の欠陥を補償することに役に立つ自由選択の偏光子である。従って、偏光子122が、p偏光した光を透過させるように、配置されるのに対して、偏光子124は、s偏光した光を透過させるように、配置される。このような具合に、第一の部分及び第二の部分へのその光信号の波長選択的な分離用の第一の多変量光学素子は、液晶セル116、分散光学素子106、及び偏光ビームスプリッター120によって有効に実現される。
【0056】
図4は、本発明のかなり洗練された実施形態をすでに説明するが、ここでは、第一の多変量光学素子及び第二の多変量光学素子は、組み合わせられた方式で実施される。これは、両方の多変量光学素子が、二つの多変量光学素子の機能性を組み合わせで提供する複数の光学構成部品を含むことを意味する。例えば、分散光学素子106は、両方の多変量光学素子に使用される光学構成部品である。
【0057】
特に、偏光ビームスプリッターとの組み合わせで液晶セルを使用することによる第一の多変量光学素子の実施のおかげで、光信号100の異なるスペクトルの成分を別個に検出するために、ほとんど無い光の強度は、喪失される。図3に説明されや重み付けの関数を参照して、液晶セル116は、受信された分散性の光信号の正の及び負の部分をs偏光した又はp偏光した偏光状態のいずれかへ切り替えることに役に立つ。このような具合に、各々の検出器126、128は、その重み付けの関数の正又は負の部分に対応するp偏光した又はs偏光した光を検出するのみである。同様に、二つの交差した偏光子110、114との組み合わせで液晶セル112は、その重み付けの関数によって与えられた値に従って、受信された分散させられた光信号を重み付けすることに役に立つ。
【0058】
図4に示した実施形態において、両方の多変量光学素子は、構成可能な多変量光学素子として実施される。このような具合に、その光学分析系を、その試料における異なる物質の濃度を決定するために、様々な重み付けの関数に一般的に適合させることができる。各々の物質について、二つの液晶セル112、116は、それぞれの重み付けの関数に対応する方式で、構成される必要がある。
【0059】
光信号100が、典型的には、強度においてむしろ低いので、偏光子100を使用することは、その提供された強度を減少させることもある。従って、偏光子110を偏光変換素子150に取り替えることは、むしろ好都合であろう。
【0060】
図5は、偏光ビームスプリッター130、プリズム132、及び二分の一波長板134を含むこのような偏光変換素子150を説明する。典型的には、例えばラマン過程によって発生させられる分光学的な光信号100は、符号136に示される混合した偏光状態を有する。しかしながら、混合した偏光状態を、常に、s及びp偏光状態の重ね合わせとして表すことができる。偏光ビームスプリッター130を通じた光信号100の伝播の際に、例えば、s偏光した光146が、反射させられるのに対して、p偏光した光142は、透過させられる。
【0061】
s及びp偏光した成分146、142の異なる相互の直交する偏光状態は、それぞれ、偏光の方向を示す符号138、140によって示される。反射させられたs偏光した光146は、プリズム132によって反射させられると共に最終的には二分の一波長板134を通じて伝播する。適切に配置されるとき、二分の一波長板134は、p偏光した光144になるために、90度だけs偏光した光146の偏光の平面を正確に回転させる。このような具合に、偏光変換素子150は、同じ偏光方向を有する二つの別個の光ビーム142、144を有効に発生させる。加えて、二つの発生させられた光ビーム142、144を、それらが、光信号100としてその光学分析系に入る前に、組み合わせることができる。このような偏光変換素子150を使用すると、図4に描かれたような偏光子110は、陳腐になる。このような具合に、その光信号の減弱は、検出されたスペクトルの成分102、104の信号対雑音比を増加させるために、最小まで減少させられる。
【0062】
図6は、本発明の別の実施形態を概略的に説明する。ここで、第一の多変量光学素子は、二色性ミラー160として実施される。光信号100は、第一の多変量光学素子として役に立つ二色性ミラー160に入射する。その二色性ミラーは、例えば図3に概略的に示されたスペクトルの重み付けの関数の正の及び負の部分に対応するスペクトルの帯域の透過及び反射用に特に設計される。例えば、スペクトルの成分103は、正のスペクトルの帯域に対応すると共に、反射されたスペクトルの成分105は、光信号100の負のスペクトルの帯域に対応する。この例において、正の部分及び負の部分103、105は、ちょうど一つを超えるスペクトルの帯域に対応する。このような具合に、第一の多変量光学素子は、二色性ミラー160によって、排他的に実施される。それは、そのスペクトルの重み付けの関数の正の及び負の部分に対応する光信号100のスペクトルの帯域の空間的な分離を有効に提供する。このような具合に、正の及び負のスペクトルの部分の空間的な分離が、強度における顕著な喪失無しに行うことができることは、留意されることである。
【0063】
正の及び負のスペクトルの帯域への分離の後で、それぞれの帯域は、検出器126及び128によって別個に検出される。検出の前に、スペクトルの成分103、105の各々は、波長選択的な振幅変調を受けたものになる。この波長選択的な振幅変調は、典型的には、波長選択的なフィルター162及び波長選択的なミラー164として別個に実施される第二のMOEによって行われる。スペクトルの成分103は、透過図166によって説明された特定の透過の性質を有するフィルター162を通じて伝播する。このような具合に、選択的な波長λ及びλを、残るスペクトルを有効に抑制する一方で、選択的に減弱させることができる。類似の様式で、波長選択的なミラー164は、スペクトルの成分105の波長選択的な反射を提供する。そして、ミラー164で反射された光は、検出器128によって、検出される。波長選択的なフィルター162の透過図166と同様に、波長選択的なミラー164は、スペクトルの成分105の特定の波長λ及びλのみを反射させるための反射図168を提供する。
【0064】
この実施形態において、第一のMOEは、二色性ミラーとして実施されると共に、空間的に分離されたスペクトルの成分103及び105の重み付けを果たすことを提供する二つの第二のMOEは、それぞれ、波長選択的な光学的な透過又は反射の成分162、164として実施される。このような具合に、本発明の光学分析系を、明確な主成分の振幅を決定するように専用のものである限定された量の光学構成部品と共に実施することができる。よって、波長選択的な成分160、162、164は、典型的には構成可能でないことを犠牲にして明確な用途のために、特に設計される。図4に示した実施形態に対比して、図6の実施形態は、その光学分析系を実現するための、むしろ複雑でない及び低い費用のアプローチを表す。たとえ図6に説明された用途が、波長選択的な透過及び/又は反射を使用するとしても、スペクトルの帯域(λ、λ、λ、λ)の関連した部分は、必ずしも減弱される又は遮断されるものではない。好ましくは、主成分の振幅の決定のために関連性のないスペクトルの部分のみが、有効に放棄される。
【0065】
図7は、図6の代替の実施形態を示すが、ここでは、図6の第二のMOE164が、回折格子170、フィルター172、及び二つの集束素子108、118を含む配置に取り替えられる。ここで、第一のMOEは、二色性ミラー160によって、図6に示したように同様に実施される。またここで、そのスペクトルの重み付けの関数の正の及び負の部分に対応するスペクトルの帯域103、105は、それぞれ、検出器126及び128によって、別個に検出される。図6に示したような波長選択的なミラー164を使用する代わりに、図7の実施形態は、スペクトルの成分105の様々なスペクトルの成分102、104の空間的な分離用の回折格子170を使用する。図4に示したのと同様に、二つのスペクトルの成分102、104は、そのスペクトルの負の部分の複数のスペクトルの成分を表すのみである。それらは、実線及び破線として描かれる。レンズ108によって、二つのスペクトルの成分102、104は、フィルター172の異なる部分に入射する。
【0066】
フィルター172は、特定の空間的な透過図174を提供する。空間的な方向xは、フィルター172の近くの垂直な方向に示される。様々なスペクトルの成分102、104が、フィルター172における異なる位置xで入射するので、これらのスペクトルの成分は、フィルター172の透過図174によって与えられるような選択的な減弱を受けたものになる。このような具合に、それら光信号の波長選択的な重み付けを実現するための第二のMOEは、回折格子170及び空間的に変動する透過曲線を有するフィルター172によって実現される。フィルター172を、特に設計された透過のマスクとして実施することができる。あるいは、フィルター172を、交差した偏光子の間に挟まれる液晶セルを使用することによって、実現することができる。後者のかなり洗練された実施形態において、フィルター172は、構成可能であるかもしれない。
【0067】
図8は、本発明の代替の実施形態の概略図を説明する。図8の実施形態は、第一の及び第二のMOEの有効な順序が入れ替えられることを除いて、図4に説明された実施形態とのある一定の類似性を有する。図8の実施形態において、光信号100は、様々な反射角での光信号100の様々なスペクトルの成分102、104の反射を提供する分散光学素子106に入射する。レンズ108を通じた伝播の後で、二つのスペクトルの成分102、104は、液晶セル116に入射する。ここで、スペクトルの成分102、104が、例えば図5に描かれた偏光変換素子150を使用することによって、直線偏光させられることは、仮定されることである。さもなければ、偏光子110を、液晶セル116より先に、挿入してもよい。
【0068】
好ましくは、液晶セル116は、二つのスペクトルの成分102、104の偏光状態を選択的に変更するように、構成可能である。例えば、スペクトルの成分102は、p偏光したものになると共に、スペクトルの成分104は、s偏光したものになる。二つの相互に直交する偏光したスペクトルの成分102、104は、レンズ118を通じて伝播すると共に、偏光ビームスプリッター120に入射するものになる。偏光ビームスプリッター120は、p偏光したスペクトルの成分102の透過及びs偏光したスペクトルの成分104の反射を提供する。そして、そのp偏光したスペクトルの成分及びそのs偏光したスペクトルの成分は、それぞれ検出器128、126によって、別個に検出される。このような具合に、第一のMOEは、回折格子106、液晶セル116、及び偏光ビームスプリッター120によって実施される。p及びs偏光したスペクトルの成分102、104は、例えば図3に説明されるような重み付けの関数の正の及び負のスペクトルの帯域に対応する。
【0069】
そのスペクトルの重み付けの関数の正の及び負の部分に対応するスペクトルの成分102、104を空間的に分離した後、その波長選択的な重み付けは、二つの成分102、104の各々について、第二のMOEによって、行われる必要がある。主として、第二のMOEの実施を、図4、6、7を参照して記載した実施形態のいずれにも類似して、実現することができる。結果として、第二のMOEを、波長選択的なフィルター162、波長選択的なミラー164として、又は、空間フィルター172、又は、図4に示すような、液晶セル112及び一対の交差偏光子110、114を含む、空間光変調器と同様の空間的な透過図を提供する光学素子を使用することによって、実現することができる。
【0070】
図8において、スペクトルの成分102の波長選択的な重み付け用の第二のMOEは、液晶セル112及びその後の偏光子122として実施される。スペクトルの成分104の波長選択的な重み付け用の第二のMOEは、図7に描かれたような透過図174を提供するフィルター172として実施される。このような具合に、その重み付けの関数の正の及び負の部分に対応する両方のスペクトルの成分102、104は、二つの別個の第二のMOEによって、別個に重み付けられる。よって、図8の実施形態の二つの第二のMOEは、分散光学素子106との組み合わせで空間光変調器として実施される。
【0071】
図9A、9B、及び9Cに示した別の実施形態において、第一のMOE及び第二のMOEの機能性は、単一のMOE10に合併させられる。MOE10は、LCセルの配列を含む。加えて、その入ってくる光信号は、この実施形態においては、分散素子6より先に、正の及び負の部分用の二つのビームへと分割されるものではない。この実施形態に使用されるLCセルは、上に記載したものと同様であるが、偏光子を含まない。その結果は、LC分子の層における望まれない喪失を除いては、実質的に全ての入射する光が、反射させられるが、しかしながら、その光の偏光方向を、LCセルにわたる電圧の印加によって調整されることもある異方性屈折率により、変化させてもよいというものである。図9Aにおいては、p偏光した光のみを備えた一つの入ってくるビームのみが、示される。その入ってくる光は、例えば直線又は円偏光を有する、偏光してない又は部分偏光したものであってもよい。これらの場合には、その入ってくるビームは、上に記載した実施形態に類似して、p偏光及びs偏光を有する二つのビームへと分解されてもよい。明確さの理由のために、単一のビームのみが、図9A、9B、及び9Cに描かれる。
【0072】
図9Aにおいて、その入ってくる光は、z軸の方向に平行である、p偏光を有する光信号の一部である。その入ってくる光は、分散素子6に入射するが、ここでは、その光信号が、スペクトルで分散させられる、即ち、それら異なるスペクトルの部分が、異なる角度にわたって分散させられる。その分散させられた光信号は、レンズである、集束部材9によって、少なくとも部分的に集められると共に、反射型のLCセルの配列であるMOE10に集束させられる。その回折格子からそのレンズまでの及びそのレンズからそのLCセルまでの距離は、等しいと共にそのレンズの焦点距離に対応する(テレセントリックの設計)。その結果は、MOE10に向かって伝播する光の収束する光線束が、その光信号の全てのスペクトルの部分について、xz平面においてMOE10に垂直入射するというものである。MOE10における異なるyの位置8、8’は、その光信号の異なるスペクトルの部分に対応する。
【0073】
集束部材9とMOE10との間には、偏光ビームスプリッター(PBS)15が、位置決めされる。その入ってくる、例えばp偏光した、光は、PBS15によって透過させられる。LCセルの配列は、偏光フィルターを含まないと共に、従って、それに入射する全ての光を実質的に反射させる。その光の偏光方向は、LCセルにわたる電圧に依存する、ある量だけ変化させられる。偏光の回転の量は、それぞれのスペクトルの範囲におけるそのスペクトルの重み付けの関数の絶対値によって決定される。そのLCセルから反射させられた光は、PBS15へ方向付けられる。PBS15に入射する光のs成分は、PBS15によって反射させられると共に、ビームダンプ18にさらなる集束部材17によって集束させられる。PBS15に入射する光のp成分は、PBS15によって透過させられると共に、折りたたみミラー23に入射する。このような具合に、その分散させられた光信号の偏光を部分的に変動させること及びビームダンプ18に向かってs偏光してない成分を選択的に方向付けることによって、その光信号の波長選択的な重み付けは、有効に実施される。よって、MOE10における第一の反射及びその後の偏光に敏感な空間的な分離の手段によって、それら透過したp偏光した成分の波長選択的なグレースケーリングは、有効に起こる。従って、第二のMOEは、MOE10における第一の反射によって有効に実施される。
【0074】
折りたたみミラー23からそのレンズまでの距離は、そのレンズの焦点距離に等しいものではない。折りたたみミラー23によって反射させられた光は、MOE10に、集束部材9によって、繰り返して集束させられる。折りたたみミラー23が、入射する光の方向に関して単一の角度にあるので、折りたたみミラー23によって反射させられた光は、異なるzの位置でMOE10に到達する。また、LCセル10におけるその光のyの位置は、第一の反射のyの位置と比較して、その光軸に関して反射させられる。その異なるzの位置で、その入射する分散させられた光信号の偏光は、繰り返して、変更を受ける。好ましくは、それら入射するスペクトルの成分は、その重み付けの関数又は回帰ベクトルの負の及び正の部分によって指定されるような、s又はp偏光したもののいずれかになる。
【0075】
その回帰ベクトルの正の値に対応する波長を備えた光については、その偏光は、そのLCセルによって変化させられない。このs偏光した光は、そのPBSによって、四回、透過させられると共に検出器11Sにレンズ9によって集束させられる。その回帰ベクトルの負の値に対応する波長を備えた光については、その偏光は、そのLCセルによって90度だけ回転させられる。このs偏光した光は、そのPBSによって反射させられると共に検出器11Pにレンズ17によって集束させられる。このような具合に、MOE10における第二の反射は、正の及び負の部分へのその光信号の分離を提供すると共に、従って、第一のMOEの機能性を表す。
【0076】
この実施形態においては、そのLCセルは、偏光子を含まない。従って、全ての光は、反射させられると共に、その光の偏光方向のみを、変化させてもよい。
【0077】
その入射する光は、集束部材9の光軸にはないものであり、従って、その入ってくる及び戻される光は、重なり合わないと共に、折りたたみミラー23を使用することは、可能なことである。好ましくは、その集束部材に入射するその入ってくる光は、集束部材9の光軸からの軸外のものであると共に相対的に小さいレンズの直径を可能にするために分散素子6の分散方向に対して実質的に垂直である。
【0078】
分散素子6からの集束部材9までの距離及び集束部材9からMOE10までの距離は、両方とも集束部材9の焦点距離に等しいものであってもよい(テレセントリックな設計)。その結果は、収束する光線束が、全てのスペクトルの成分について、xz平面においてMOE10に垂直入射するというものである。
【0079】
集束部材9から検出器11Sまでの距離は、集束部材9の焦点距離に等しいものであってもよい。この場合には、検出器11Sは、相対的に小さい面積を有するものであってもよい。
【0080】
MOE10から集束部材17までの距離及び集束部材17からビームダンプ18及び/又は検出器11Pまでの距離は、各々、集束部材9の焦点距離に等しいものであってもよい(テレセントリックな設計)。
【0081】
折りたたみミラー23から集束部材9の主平面までの距離は、集束部材9の焦点距離と異なるものであってもよい(非テレセントリックな設計)。このような具合に、検出器11Sは、分散素子6とは異なる位置を有するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、血液分析系の実施形態の概略図である。
【図2A】図2Aは、皮膚における血液から発生した光信号のスペクトルである。
【図2B】図2Bは、溶液における一つの分析物を含む試料から発生した光信号のスペクトルである。
【図3】図3は、MOEにおいて実施されたスペクトルの重み付けの関数である。
【図4】図4は、光学分析系の実施形態の概略図である。
【図5】図5は、その偏光変換素子の概略図である。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態の概略図である。
【図7】図7は、光学分析系の代替の実施形態の概略図である。
【図8】図8は、光学分析系の別の実施形態の概略図である。
【図9A】図9Aは、x−y平面における光学分析系のまた別の実施形態の概略図である。
【図9B】図9Bは、y−z平面における光学分析系のまた別の実施形態の概略図である。
【図9C】図9Cは、x−z平面における光学分析系のまた別の実施形態の概略図である。
【符号の説明】
【0083】
1 光源
2 試料
3,160 二色性ミラー
6,106,170 分散光学素子
9,17 集束部材
8,8’ MOEにおける位置
10 MOE
11S,11P 検出器
12 対物
15,120,130 偏光ビームスプリッター
18 ビームダンプ
19 計算用素子
20 光学分析系
23 折りたたみミラー
40 血液分析系
100 光信号
102,103,104,105 スペクトルの成分
108,118 レンズ
110,114,122,124,134 偏光子
112,116 液晶セル
126,128 検出器
132 プリズム
136,138,140 偏光方向
142,144 p偏光した光
146 s偏光した光
150 偏光変換素子
162,172 フィルター
164 ミラー
166,174 透過図
168 反射図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号の主成分の振幅を決定する光学分析系であって、
当該光学分析系は、
第一の部分及び第二の部分への該光信号の波長選択的な分離用の第一の多変量光学素子、
スペクトルの重み付けの関数に基づいた該光信号の波長選択的な重み付け用の第二の多変量光学素子、
該光信号の該重み付けされた第一の部分及び第二の部分を検出する第一の検出器及び第二の検出器
を含む、光学分析系。
【請求項2】
該光信号をスペクトルで分散させる分散光学素子をさらに含み、
前記第一の多変量光学素子及び第二の多変量光学素子は、該分散させられた光信号を受信するように配置される、請求項1に記載の光学分析系。
【請求項3】
前記第一の多変量光学素子は、前記分散させられた光信号のスペクトルの部分を受信する第一の領域を含み、
該第一の領域は、前記分散させられた光信号の偏光を変更するように適合させられる、請求項2に記載の光学分析系。
【請求項4】
前記第二の多変量光学素子は、前記分散させられた光信号のスペクトルの部分を受信する第二の領域を含み、
該第二の領域は、前記スペクトルの重み付けの関数に関係する透過率又は反射率を有する、請求項2に記載の光学分析系。
【請求項5】
前記分散させられた光信号の偏光を変更する前記多変量光学素子の前記第一の領域は、前記分散させられた光信号の構成可能な偏光の変更を発生させる構成可能である、請求項3に記載の光学分析系。
【請求項6】
前記第二の多変量光学素子の前記第二の領域の透過率及び/又は反射率は、構成可能である、請求項4に記載の光学分析系。
【請求項7】
前記第一の多変量光学素子及び第二の多変量光学素子は、少なくとも一つの構成可能な透過型又は反射型の液晶セルを含む、請求項1に記載の光学分析系。
【請求項8】
前記第一の多変量光学素子は、前記光信号の前記第一の部分及び第二の部分を空間的に分離するように適合させられる二色性素子を含む、請求項1に記載の光学分析系。
【請求項9】
偏光変換素子をさらに含む、請求項1に記載の光学分析系。
【請求項10】
ある濃度を有する物質を含むと共にそれによって主成分を発生させる試料を照明する光を提供する光源をさらに含み、
該主成分の振幅は、該物質の該濃度に関係する、請求項1に記載の光学分析系。
【請求項11】
血液分析系であって、
請求項11に記載の光学分析系を含み、前記試料は、血液を含む、血液分析系。
【請求項12】
光信号の主成分の振幅を決定する方法であって、
当該方法は、
波長選択的な多変量光学素子によって該光信号を第一の部分及び第二の部分へ分離するステップ、
第二の多変量光学素子によってスペクトルの重み付けの関数に基づいた該光信号の重み付けのステップ、
該光信号の該重み付けられた第一の部分及び第二の部分を検出するステップ
を含む、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【公表番号】特表2007−514950(P2007−514950A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544669(P2006−544669)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/IB2004/052832
【国際公開番号】WO2005/062006
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】