説明

多層の反強磁性層を有する交換結合膜および磁気抵抗効果素子

【課題】反強磁性層とその上に積層された固定層とを備えた交換結合膜において、反強磁性層と固定層との間で発生する交換結合磁界を大きくし、且つ固定層の保磁力を小さくする。
【解決手段】MR素子5は、積層された反強磁性層52、固定層53、スペーサ層54および自由層55を備えている。反強磁性層52は、順に積層された第1層521、第2層522および第3層523を含んでいる。第3層523は固定層53に接している。第1層および第3層は、γ相を有するFeMn合金によって構成され、第2層522は、γ相を有するIrMn合金によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強磁性層とその上に積層された固定層とを備えた交換結合膜、ならびにこの交換結合膜を有する磁気抵抗効果素子、薄膜磁気ヘッド、ヘッドアセンブリおよび磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置の面記録密度の向上に伴って、薄膜磁気ヘッドの性能向上が求められている。薄膜磁気ヘッドとしては、基板に対して、読み出し用の磁気抵抗効果素子(以下、MR(Magnetoresistive)素子とも記す。)を有する再生ヘッドと書き込み用の誘導型電磁変換素子を有する記録ヘッドとを積層した構造の複合型薄膜磁気ヘッドが広く用いられている。
【0003】
MR素子としては、巨大磁気抵抗(Giant Magnetoresistive)効果を用いたGMR素子や、トンネル磁気抵抗(Tunneling Magnetoresistive)効果を用いたTMR素子等がある。
【0004】
再生ヘッドの特性としては、高感度および高出力であることが要求される。この要求を満たす再生ヘッドとして、既に、スピンバルブ型GMR素子やTMR素子を用いたものが量産されている。
【0005】
スピンバルブ型GMR素子やTMR素子は、一般的には、自由層と、固定層と、これらの間に配置されたスペーサ層と、固定層におけるスペーサ層とは反対側に配置された反強磁性層とを有している。自由層は信号磁界に応じて磁化の方向が変化する強磁性層である。固定層は、磁化の方向が固定された強磁性層である。反強磁性層は、固定層との交換結合により、固定層における磁化の方向を固定する層である。スペーサ層は、スピンバルブ型GMR素子においては非磁性導電層であり、TMR素子においてはトンネルバリア層である。
【0006】
GMR素子を用いた再生ヘッドには、信号磁界検出用の電流(以下、センス電流という。)を、GMR素子を構成する各層の面に対して平行な方向に流すCIP(Current In Plane)構造の再生ヘッドと、センス電流を、GMR素子を構成する各層の面と交差する方向、例えばGMR素子を構成する各層の面に対して垂直な方向に流すCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の再生ヘッドとがある。前述のTMR素子を用いた再生ヘッドもCPP構造となる。
【0007】
また、再生ヘッドは、MR素子を挟む一対のシールドを備えている。記録媒体に対向する媒体対向面における2つのシールド間の距離は、再生ギャップ長と呼ばれる。近年、記録密度の増大に伴い、再生ヘッドに対しては、トラック幅の縮小と、再生ギャップ長の縮小の要求が強くなってきている。再生ギャップ長を縮小するためには、MR素子を構成する各層の厚みを小さくすることが考えられる。
【0008】
ところで、反強磁性層に用いられる反強磁性材料としては、FeMn、NiMn、PtMn(いずれもMnの含有率は約50原子%)等のMn合金が多く用いられている。反強磁性材料としてのMn合金には、γ相を有する不規則結晶構造のMn合金と、規則結晶構造のMn合金とがある。一般的に、不規則結晶構造のMn合金は熱処理が不要であり、規則結晶構造のMn合金は熱処理が必要である。例えば非特許文献1に記載されているように、反強磁性層の材料として不規則結晶構造のMn合金を用いる場合には、反強磁性層の材料として規則結晶構造のMn合金を用いる場合に比べて、以下の3つの利点がある。第1の利点は、不規則結晶構造のMn合金よりなる膜では、成膜したままの状態の膜(as-deposit膜)で固定層との交換結合が得られるため、反強磁性層の製造が容易なことである。第2の利点は、反強磁性層の熱処理が不要であることから、スピンバルブ構造の軟磁気特性の劣化がないことである。第3の利点は、磁場中熱処理によって自由層の軟磁性膜の磁気異方性が回転しないことである。
【0009】
また、反強磁性層を2層または3層の積層膜とすることも種々提案されている。例えば特許文献1には、反強磁性層を2層の積層膜とする技術が記載されている。また、特許文献2および特許文献3には、反強磁性層を2層または3層の積層膜とする技術が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−198927号公報
【特許文献2】特開2001−297915号公報
【特許文献3】特開2007−26481号公報
【非特許文献1】薦田、外6名,「GMR用磁性材料」,シャープ技報,平成10年12月,第72号,p.33−37
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、固定層は、微視的に見ると、それぞれ磁化を有する結晶粒の集合体である。このような固定層において、結晶粒毎の磁化の方向のばらつきが大きいと、MR素子の抵抗に対する磁気抵抗変化の比率である磁気抵抗変化率(以下、MR比と記す。)が低下する。それは、固定層において、結晶粒毎の磁化の方向のばらつきが大きいと、磁化の方向が所望の方向からずれた部分が多く存在することになり、その部分におけるMR比が低下し、その結果、MR素子全体のMR比も低下するためである。
【0012】
再生ギャップ長を縮小するために固定層の厚みを小さくしてゆくと、固定層に含まれる結晶粒の数が少なくなるため、結晶粒毎の磁化の方向のばらつきによるMR比の低下が顕著に現れる。また、固定層において、結晶粒毎の磁化の方向のばらつきが大きくなると、固定層の保磁力が大きくなる。従って、固定層の保磁力は、固定層における結晶粒毎の磁化の方向のばらつきの大きさを示す指標となる。これらのことから、MR比を大きくするためには、固定層の保磁力は小さい方がよい。一方、MR素子を安定して動作させるためには、反強磁性層と固定層との間で発生する交換結合磁界は大きい方がよい。
【0013】
しかしながら、反強磁性層の材料として、γ相を有する不規則結晶構造のMn合金を用いる場合には、交換結合磁界を大きくすることと、固定層の保磁力を小さくすることは、トレードオフの関係にあることが分かった。例えば、反強磁性層の材料として、γ相を有するFeMnを用いる場合には、固定層の保磁力が100Oe(100×79.6A/m)程度と小さくなるという利点があるが、交換結合磁界が250Oe(250×79.6A/m)程度と小さくなりすぎるという問題が生じる。一方、反強磁性層の材料として、γ相を有するIrMnを用いた場合には、交換結合磁界が950Oe(950×79.6A/m)程度と大きくなるという利点があるが、固定層の保磁力が160Oe(160×79.6A/m)程度と大きくなるという問題が生じる。
【0014】
なお、特許文献1ないし3には、交換結合磁界を大きくし、且つ固定層の保磁力を小さくするための反強磁性層の構成は記載されていない。
【0015】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、反強磁性層とその上に積層された固定層とを備えた交換結合膜であって、反強磁性層と固定層との間で発生する交換結合磁界を大きくし、且つ固定層の保磁力を小さくすることができるようにした交換結合膜、ならびにこの交換結合膜を有する磁気抵抗効果素子、薄膜磁気ヘッド、ヘッドアセンブリおよび磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の発明の交換結合膜は、反強磁性層と、この反強磁性層の上に積層された強磁性材料よりなる固定層とを備え、固定層の磁化の方向が固定されているものである。この交換結合膜において、反強磁性層は、順に積層された第1層、第2層および第3層を含んでいる。第3層は固定層に接している。第1層は第1の反強磁性材料によって構成され、第2層は第2の反強磁性材料によって構成され、第3層は第3の反強磁性材料によって構成されている。第1ないし第3の反強磁性材料は、いずれもγ相を有するMn合金であり、且つ、同じ厚みを有する第1の反強磁性材料よりなる層、第2の反強磁性材料よりなる層、第3の反強磁性材料よりなる層の各々の上に固定層を積層した場合における固定層の保磁力をそれぞれHc1、Hc2、Hc3としたときに、Hc2がHc1およびHc3よりも大きいという条件を満たす材料である。
【0017】
第2の発明の交換結合膜は、反強磁性層と、この反強磁性層の上に積層された強磁性材料よりなる固定層とを備え、固定層の磁化の方向が固定されているものである。この交換結合膜において、反強磁性層は、順に積層された第1層、第2層および第3層を含んでいる。第3層は固定層に接している。第1層および第3層は、それぞれγ相を有するFeMn合金によって構成され、第2層は、γ相を有するIrMn合金によって構成されている。
【0018】
第1または第2の発明の交換結合膜において、第1層および第3層の厚みはそれぞれ0.2〜1.6nmの範囲内であり、第2層の厚みは4.5〜9.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0019】
第1または第2の発明の交換結合膜において、固定層を構成する強磁性材料は、CoおよびFeを含んでいてもよい。
【0020】
本発明の磁気抵抗効果素子は、第1または第2の発明の交換結合膜と、非磁性材料よりなり、固定層の上に積層されたスペーサ層と、スペーサ層の上に積層され、外部磁界に応じて磁化の方向が変化する自由層とを備えたものである。
【0021】
本発明の薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面と、記録媒体からの信号磁界を検出するために媒体対向面の近傍に配置された本発明の磁気抵抗効果素子とを備えたものである。
【0022】
本発明のヘッドアセンブリは、本発明の薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、スライダを弾性的に支持する支持装置とを備えたものである。
【0023】
本発明の磁気ディスク装置は、本発明の薄膜磁気ヘッドを含み、回転駆動される記録媒体に対向するように配置されるスライダと、スライダを支持すると共に記録媒体に対して位置決めする位置決め装置とを備えたものである。
【発明の効果】
【0024】
第1または第2の発明の交換結合膜、もしくはこの交換結合膜を有する磁気抵抗効果素子、薄膜磁気ヘッド、ヘッドアセンブリまたは磁気ディスク装置によれば、本発明における反強磁性層の第1層ないし第3層を構成する各材料のいずれか1つよりなる単層の反強磁性層の上に固定層を積層する場合に比べて、反強磁性層と固定層との間で発生する交換結合磁界を大きくし、且つ固定層の保磁力を小さくすることが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図2および図3を参照して、本発明の一実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドの構成について説明する。図2は薄膜磁気ヘッドの構成を示す断面図である。図3は薄膜磁気ヘッドの媒体対向面を示す正面図である。なお、図2は媒体対向面および基板の上面に垂直な断面を示している。また、図2において記号Tで示す矢印は、記録媒体の進行方向を表している。
【0026】
図2に示したように、本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面40を備えている。また、図2および図3に示したように、薄膜磁気ヘッドは、アルティック(Al23・TiC)等のセラミック材料よりなる基板1と、この基板1の上に配置されたアルミナ(Al23)等の絶縁材料よりなる絶縁層2と、この絶縁層2の上に配置された磁性材料よりなる第1の再生シールド3と、この第1の再生シールド3の上に配置されたMR素子5と、このMR素子5の2つの側部に図示しない絶縁膜を介して隣接するように配置された2つのバイアス磁界印加層6と、MR素子5およびバイアス磁界印加層6の周囲に配置された絶縁層7とを備えている。MR素子5は、媒体対向面40に配置された端部を有している。絶縁層7は、アルミナ等の絶縁材料によって形成されている。薄膜磁気ヘッドは、更に、MR素子5、バイアス磁界印加層6および絶縁層7の上に配置された磁性材料よりなる第2の再生シールド8と、この第2の再生シールド8の上に配置されたアルミナ等の非磁性材料よりなる分離層9とを備えている。第1の再生シールド3から第2の再生シールド8までの部分は、再生ヘッドを構成する。
【0027】
MR素子5は、TMR素子またはCPP構造のGMR素子になっている。このMR素子5には、信号磁界検出用の電流であるセンス電流が、MR素子5を構成する各層の面と交差する方向、例えばMR素子5を構成する各層の面に対して垂直な方向に流される。
【0028】
薄膜磁気ヘッドは、更に、分離層9の上に配置された磁性材料よりなる磁性層10と、磁性層10の周囲に配置されたアルミナ等の絶縁材料よりなる絶縁層11とを備えている。磁性層10は、媒体対向面40に配置された端面を有している。磁性層10および絶縁層11の上面は平坦化されている。
【0029】
薄膜磁気ヘッドは、更に、磁性層10および絶縁層11の上に配置された絶縁膜12と、この絶縁膜12の上に配置されたヒーター13と、絶縁膜12との間でヒーター13を挟むように絶縁膜12およびヒーター13の上に配置された絶縁膜14とを備えている。ヒーター13の機能および材料については、後で説明する。絶縁膜12,14は、アルミナ等の絶縁材料によって形成されている。
【0030】
薄膜磁気ヘッドは、更に、磁性層10の上に配置された第1の記録シールド15を備えている。第1の記録シールド15は、磁性層10の上に配置された第1層15Aと、この第1層15Aの上に配置された第2層15Bとを有している。第1層15Aおよび第2層15Bは、磁性材料によって形成されている。第1層15Aおよび第2層15Bは、それぞれ、媒体対向面40に配置された端面を有している。図2に示した例では、媒体対向面40に垂直な方向についての第2層15Bの長さが、媒体対向面40に垂直な方向についての第1層15Aの長さよりも小さくなっている。しかし、媒体対向面40に垂直な方向についての第2層15Bの長さは、媒体対向面40に垂直な方向についての第1層15Aの長さと等しくてもよいし、媒体対向面40に垂直な方向についての第1層15Aの長さよりも大きくてもよい。
【0031】
薄膜磁気ヘッドは、更に、絶縁膜14の上に配置された導電材料よりなるコイル16と、このコイル16の巻線間およびコイル16と第1層15Aとの間に充填された絶縁層17と、第1層15A、コイル16および絶縁層17の周囲に配置された絶縁層18とを備えている。コイル16は、平面渦巻き形状をなしている。コイル16は、中心側の端部近傍の部分であって、後述する他のコイルに接続される部分である接続部16aを含んでいる。絶縁層17は、例えばフォトレジストによって形成されている。絶縁層18は、例えばアルミナによって形成されている。第1層15A、コイル16、絶縁層17および絶縁層18の上面は平坦化されている。
【0032】
薄膜磁気ヘッドは、更に、接続部16aの上に配置された導電材料よりなる接続層19と、第2層15Bおよび接続層19の周囲に配置されたアルミナ等の絶縁材料よりなる絶縁層20とを備えている。接続層19は、第2層15Bと同じ材料によって形成されていてもよい。第2層15B、接続層19および絶縁層20の上面は平坦化されている。
【0033】
薄膜磁気ヘッドは、更に、第2層15B、接続層19および絶縁層20の上に配置された第1のギャップ層23を備えている。この第1のギャップ層23には、接続層19の上面に対応する位置に開口部が形成されている。第1のギャップ層23は、アルミナ等の非磁性且つ絶縁性の材料によって形成されている。
【0034】
薄膜磁気ヘッドは、更に、第1のギャップ層23の上に配置された磁性材料よりなる磁極層24と、接続層19の上に配置された導電材料よりなる接続層25と、磁極層24および接続層25の周囲に配置されたアルミナ等の絶縁材料よりなる絶縁層26とを備えている。磁極層24は、媒体対向面40に配置された端面を有している。接続層25は、第1のギャップ層23の開口部を通して接続層19に接続されている。接続層25は、磁極層24と同じ材料によって形成されていてもよい。
【0035】
薄膜磁気ヘッドは、更に、非磁性材料よりなり、磁極層24の上面の一部の上に配置された非磁性層41を備えている。非磁性層41は、例えば無機絶縁材料または金属材料よりなる。非磁性層41として用いられる無機絶縁材料としては、アルミナ、SiO2等がある。非磁性層41として用いられる金属材料としては、Ru、Ti等がある。
【0036】
薄膜磁気ヘッドは、更に、磁極層24の一部および非磁性層41の上に配置された第2のギャップ層27を備えている。非磁性層41および第2のギャップ層27は、磁極層24の上面のうち媒体対向面40から離れた一部分と接続層25の上面は覆っていない。第2のギャップ層27は、アルミナ等の非磁性材料によって形成されている。
【0037】
薄膜磁気ヘッドは、更に、第2のギャップ層27の上に配置された第2の記録シールド28を備えている。第2の記録シールド28は、第2のギャップ層27に隣接するように配置された第1層28Aと、この第1層28Aにおける第2のギャップ層27とは反対側に配置されて、第1層28Aに接続された第2層28Bとを有している。第1層28Aおよび第2層28Bは、磁性材料によって形成されている。第1層28Aおよび第2層28Bは、それぞれ、媒体対向面40に配置された端面を有している。
【0038】
薄膜磁気ヘッドは、更に、媒体対向面40から離れた位置において磁極層24の上に配置された磁性材料よりなるヨーク層29と、接続層25の上に配置された導電材料よりなる接続層30と、第1層28A、ヨーク層29および接続層30の周囲に配置されたアルミナ等の絶縁材料よりなる絶縁層31とを備えている。ヨーク層29および接続層30は、第1層28Aと同じ材料によって形成されていてもよい。第1層28A、ヨーク層29、接続層30および絶縁層31の上面は平坦化されている。
【0039】
薄膜磁気ヘッドは、更に、ヨーク層29および絶縁層31の上に配置されたアルミナ等の絶縁材料よりなる絶縁層32を備えている。絶縁層32には、第1層28Aの上面を露出させる開口部と、ヨーク層29の上面のうち媒体対向面40から遠い端部の近傍の部分を露出させる開口部と、接続層30の上面を露出させる開口部とが形成されている。
【0040】
薄膜磁気ヘッドは、更に、絶縁層32の上に配置された導電材料よりなるコイル33を備えている。コイル33は、平面渦巻き形状をなしている。コイル33は、中心側の端部近傍の部分であって、コイル16の接続部16aに接続される部分である接続部33aを含んでいる。接続部33aは、接続層30に接続され、接続層19,25,30を介して接続部16aに接続されている。
【0041】
薄膜磁気ヘッドは、更に、コイル33を覆うように配置された絶縁層34を備えている。絶縁層34は、例えばフォトレジストによって形成されている。第2の記録シールド28の第2層28Bは、第1層28A、ヨーク層29および絶縁層34の上に配置され、第1層28Aとヨーク層29とを接続している。
【0042】
薄膜磁気ヘッドは、更に、第2層28Bを覆うように配置されたアルミナ等の絶縁材料よりなるオーバーコート層35を備えている。磁性層10から第2層28Bまでの部分は、記録ヘッドを構成する。
【0043】
以上説明したように、薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面40と再生ヘッドと記録ヘッドとを備えている。再生ヘッドと記録ヘッドは、基板1の上に積層されている。再生ヘッドは記録媒体の進行方向Tの後側(スライダにおける空気流入端側)に配置され、記録ヘッドは記録媒体の進行方向Tの前側(スライダにおける空気流出端側)に配置されている。この薄膜磁気ヘッドでは、記録ヘッドによって記録媒体に情報を記録し、再生ヘッドによって、記録媒体に記録されている情報を再生する。
【0044】
再生ヘッドは、第1の再生シールド3および第2の再生シールド8と、記録媒体からの信号磁界を検出するために媒体対向面40の近傍において第1の再生シールド3と第2の再生シールド8の間に配置されたMR素子5とを備えている。MR素子5は、TMR素子またはCPP構造のGMR素子になっている。第1の再生シールド3と第2の再生シールド8は、センス電流を、MR素子5に対して、MR素子5を構成する各層の面と交差する方向、例えばMR素子5を構成する各層の面に対して垂直な方向に流すための一対の電極を兼ねている。なお、第1の再生シールド3および第2の再生シールド8とは別に、MR素子5の上下に一対の電極を設けてもよい。MR素子5は、外部磁界、すなわち記録媒体からの信号磁界に応じて抵抗値が変化する。MR素子5の抵抗値はセンス電流より求めることができる。このようにして、再生ヘッドによって、記録媒体に記録されている情報を再生することができる。
【0045】
記録ヘッドは、磁性層10、第1の記録シールド15、コイル16、第1のギャップ層23、磁極層24、非磁性層41、第2のギャップ層27、第2の記録シールド28、ヨーク層29およびコイル33を有している。第1の記録シールド15と第2の記録シールド28のうち、第1の記録シールド15の方が基板1に近い位置に配置されている。また、磁極層24と第2の記録シールド28のうち、磁極層24の方が基板1に近い位置に配置されている。
【0046】
コイル16,33は、記録媒体に記録する情報に応じた磁界を発生する。磁極層24は、媒体対向面40に配置された端面を有し、コイル16,33によって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に、垂直磁気記録方式によって情報を記録媒体に記録するための記録磁界を発生する。
【0047】
第1の記録シールド15は、磁性材料よりなり、媒体対向面40において磁極層24の端面に対して記録媒体の進行方向Tの後側に配置された端面を有している。第1のギャップ層23は、非磁性材料よりなり、媒体対向面40に配置された端面を有し、第1の記録シールド15と磁極層24との間に配置されている。本実施の形態では、第1の記録シールド15は、磁性層10の上に配置された第1層15Aと、この第1層15Aの上に配置された第2層15Bとを有している。コイル16の一部は、磁性層10と磁極層24の間の空間を通過するように、第1層15Aの側方に配置されている。
【0048】
磁性層10は、磁極層24の端面より発生されて、記録媒体を磁化した磁束を還流させる機能を有している。なお、図2には、磁性層10の端面が媒体対向面40に配置された例を示している。しかし、磁性層10は、媒体対向面40に配置された端面を有する第1の記録シールド15に接続されているので、磁性層10の媒体対向面40により近い端面が媒体対向面40から離れた位置に配置されていてもよい。
【0049】
媒体対向面40において、第1の記録シールド15の端面(第2層15Bの端面)は、磁極層24の端面に対して、第1のギャップ層23による所定の小さな間隔を開けて記録媒体の進行方向Tの後側(スライダにおける空気流入端側)に配置されている。媒体対向面40における磁極層24の端面と第1の記録シールド15の端面との間隔は、0.05〜0.7μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜0.3μmの範囲内であることがより好ましい。
【0050】
第1の記録シールド15は、媒体対向面40に配置された磁極層24の端面より発生されて記録媒体の面に垂直な方向以外の方向に広がる磁束を取り込むことにより、この磁束が記録媒体に達することを阻止する。これにより、記録密度を向上させることができる。
【0051】
第2の記録シールド28は、磁性材料よりなり、媒体対向面40において磁極層24の端面に対して記録媒体の進行方向Tの前側に配置された端面を有している。第2のギャップ層27は、非磁性材料よりなり、媒体対向面40に配置された端面を有し、第2の記録シールド28と磁極層24との間に配置されている。本実施の形態では、第2の記録シールド28は、第2のギャップ層27に隣接するように配置された第1層28Aと、この第1層28Aにおける第2のギャップ層27とは反対側に配置されて、第1層28Aに接続された第2層28Bとを有している。コイル33の一部は、磁極層24と第2の記録シールド28によって囲まれた空間を通過するように配置されている。第2の記録シールド28は、媒体対向面40から離れた位置でヨーク層29に接続されている。従って、第2の記録シールド28は、媒体対向面40から離れた位置で、ヨーク層29を介して磁極層24に接続されている。磁極層24、第2の記録シールド28およびヨーク層29は、コイル33が発生する磁界に対応した磁束を通過させる磁路を形成する。
【0052】
媒体対向面40において、第2の記録シールド28の端面(第1層28Aの端面)は、磁極層24の端面に対して、第2のギャップ層27による所定の小さな間隔を開けて記録媒体の進行方向Tの前側(スライダにおける空気流出端側)に配置されている。媒体対向面40における磁極層24の端面と第2の記録シールド28の端面との間隔は、第2の記録シールド28がシールドとしての機能を十分に発揮することができるように、200nm以下であることが好ましく、25〜50nmの範囲内であることがより好ましい。
【0053】
記録媒体に記録されるビットパターンの端部の位置は、媒体対向面40における磁極層24の第2のギャップ層27側の端部の位置によって決まる。第2の記録シールド28は、媒体対向面40に配置された磁極層24の端面より発生されて記録媒体の面に垂直な方向以外の方向に広がる磁束を取り込むことにより、この磁束が記録媒体に達することを阻止する。これにより、記録密度を向上させることができる。また、第2の記録シールド28は、薄膜磁気ヘッドの外部から薄膜磁気ヘッドに印加された外乱磁界を取り込む。これにより、外乱磁界が磁極層24に集中して取り込まれることによって記録媒体に対して誤った記録が行なわれることを防止することができる。また、第2の記録シールド28は、磁極層24の端面より発生されて、記録媒体を磁化した磁束を還流させる機能も有している。
【0054】
なお、図2には、磁性層10および第1の記録シールド15が磁極層24に接続されていない例を示している。しかし、磁性層10と磁極層24は、媒体対向面40から離れた位置で接続されていてもよい。また、コイル16は、記録ヘッドにおける必須の構成要素ではなく、設けられていなくてもよい。また、図2には、ヨーク層29を、磁極層24の上、すなわち磁極層24に対して記録媒体の進行方向Tの前側(スライダにおける空気流出端側)に配置した例を示している。しかし、ヨーク層29は、磁極層24の下、すなわち磁極層24に対して記録媒体の進行方向Tの後側(スライダにおける空気流入端側)に配置してもよい。
【0055】
ヒーター13は、媒体対向面40に配置された磁極層24の端面と記録媒体との間の距離を制御するために、磁極層24を含む記録ヘッドの構成要素を加熱するものである。ヒーター13には、図示しない2つのリードが接続されている。ヒーター13は、例えば、Ta膜、NiCu膜およびTa膜からなる積層膜や、NiCr膜によって形成されている。ヒーター13は、2つのリードによって通電されて発熱し、記録ヘッドの構成要素を加熱する。これにより、記録ヘッドの構成要素が膨張し、媒体対向面40に配置された磁極層24の端面が記録媒体に近づく。
【0056】
なお、図2および図3には、垂直磁気記録方式用の記録ヘッドを示したが、本実施の形態における記録ヘッドは、長手磁気記録方式用の記録ヘッドであってもよい。
【0057】
ここで、本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドの製造方法の概略について説明する。本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドの製造方法では、例えば、1枚の基板(ウェハ)に対して、複数の薄膜磁気ヘッドの構成要素を形成して、それぞれ後にスライダとなるスライダ予定部が複数列に配列された基礎構造物(substructure)を作製する。次に、この基礎構造物を切断して、1列に配列された複数のスライダ予定部を含むスライダ集合体を作製する。次に、基礎構造物を切断することによってスライダ集合体に形成された1つの面に対して研磨を行うことにより、スライダ集合体に含まれる各スライダ予定部に対して媒体対向面40を形成する。次に、媒体対向面40に浮上用レールを形成する。次に、複数のスライダ予定部が互いに分離されるようにスライダ集合体を切断して、それぞれ薄膜磁気ヘッドを含む複数のスライダを形成する。
【0058】
次に、図1を参照して、本実施の形態に係るMR素子5および再生ヘッドの構成について詳しく説明する。図1は、再生ヘッドの媒体対向面40に平行な断面を示す断面図である。
【0059】
再生ヘッドは、所定の間隔を開けて配置された第1の再生シールド3および第2の再生シールド8と、これら再生シールド3,8の間に配置されたMR素子5と、絶縁膜4と、MR素子5の2つの側面に絶縁膜4を介して隣接するように配置され、MR素子5に対してバイアス磁界を印加する2つのバイアス磁界印加層6と、MR素子5およびバイアス磁界印加層6の周囲に配置された絶縁層7(図2参照)とを備えている。絶縁膜4は、MR素子5の側面とバイアス磁界印加層6との間、および第1の再生シールド3とバイアス磁界印加層6との間に配置されている。
【0060】
再生シールド3,8は、NiFe、CoFe、CoFeB、CoFeNi、FeN等の軟磁性材料によって形成されている。バイアス磁界印加層6は、硬磁性層や、強磁性層と反強磁性層との積層体等を用いて構成されている。具体的には、バイアス磁界印加層6は、例えばCoPtやCoCrPtによって形成されている。絶縁膜4と絶縁層7は、例えばアルミナによって形成されている。
【0061】
図1には、MR素子5の構成の一例を示している。このMR素子5は、第1の再生シールド3の上に順に積層された下地層51、反強磁性層52、固定層53、スペーサ層54、自由層55および保護層56を備えている。
【0062】
固定層53は、強磁性材料よりなり、磁化の方向が固定された強磁性層である。固定層53は、例えば、CoおよびFeを含む強磁性材料によって構成されている。反強磁性層52は、固定層53との交換結合により、固定層53の磁化の方向を固定する層である。反強磁性層52の構成については、後で詳しく説明する。反強磁性層52と固定層53は、本実施の形態に係る交換結合膜50を構成する。下地層51は、その上に形成される各層の結晶性や配向性を向上させ、特に、反強磁性層52と固定層53との交換結合を良好にするために設けられる。下地層51の厚みは、例えば2〜6nmである。下地層51としては、例えばTa層とRu層との積層体が用いられる。
【0063】
自由層55は、強磁性材料よりなり、外部磁界に応じて磁化の方向が変化する強磁性層である。自由層55の厚みは、例えば2〜10nmである。自由層55は、積層された複数の強磁性層を含んでいてもよい。
【0064】
スペーサ層54は、非磁性材料によって構成されている。MR素子5がCPP構造のGMR素子である場合には、スペーサ層54は非磁性導電層である。この場合のスペーサ層54は、例えば、Ru、Rh、Ir、Re、Cr、Zr、Cuの非磁性導電材料、またはZnO、In23、SnO2等の酸化物半導体材料によって形成される。MR素子5がTMR素子である場合には、スペーサ層54はトンネルバリア層である。この場合のスペーサ層54は、アルミナ、SiO2、MgO等の絶縁材料によって形成される。保護層56は、その下の各層を保護するための層である。
【0065】
次に、図1に示した再生ヘッドの製造方法について説明する。この再生ヘッドの製造方法では、まず、絶縁層2の上に、めっき法等によって、所定のパターンの第1の再生シールド3を形成する。次に、第1の再生シールド3の上に、例えばスパッタ法によって、MR素子5を構成する各層となる膜を順に形成し、これらの膜の積層体を形成する。次に、積層体をエッチングによってパターニングして、MR素子5を形成する。次に、例えばスパッタ法によって、絶縁膜4とバイアス磁界印加層6を順に形成する。次に、MR素子5およびバイアス磁界印加層6の上に、例えばめっき法またはスパッタ法によって、第2の再生シールド8を形成する。
【0066】
次に、反強磁性層52の構成について詳しく説明する。反強磁性層52は、下地層51の上に順に積層された第1層521、第2層522および第3層523を含んでいる。第3層523は固定層53に接している。第1層521は第1の反強磁性材料によって構成され、第2層522は第2の反強磁性材料によって構成され、第3層523は第3の反強磁性材料によって構成されている。第1ないし第3の反強磁性材料は、いずれもγ相を有する不規則結晶構造のMn合金である。なお、反強磁性材料がγ相を有する不規則結晶構造のMn合金であるか否かは、X線回折における回折ピークから判別することができる。
【0067】
第1ないし第3の反強磁性材料は、同じ厚みを有する第1の反強磁性材料よりなる層、第2の反強磁性材料よりなる層、第3の反強磁性材料よりなる層の各々の上に固定層53を積層した場合における固定層53の保磁力を、それぞれHc1、Hc2、Hc3としたときに、Hc2がHc1およびHc3よりも大きいという条件を満たす材料である。
【0068】
また、第1の反強磁性材料および第3の反強磁性材料におけるMnの含有率は、第2の反強磁性材料におけるMnの含有率よりも小さい。
【0069】
第1の反強磁性材料および第3の反強磁性材料は、例えば、γ相を有するFeMn合金である。第2の反強磁性材料は、例えば、γ相を有するIrMn合金である。第1および第3の反強磁性材料としてのγ相を有するFeMn合金の組成は、Feの含有率が30〜60原子%、Mnの含有率が40〜70原子%であることが好ましい。第2の反強磁性材料としてのγ相を有するIrMn合金の組成は、Irの含有率が5〜40原子%、Mnの含有率が60〜95原子%であることが好ましい。
【0070】
第1層521および第3層523の厚みは、それぞれ0.2〜1.6nmの範囲内であることが好ましい。第2層522の厚みは、4.5〜9.0nmの範囲内であることが好ましい。第1層521および第3層523の厚みの好ましい範囲は、後で説明する第1の実験の結果に基づいて決定されている。第2層522の厚みの好ましい範囲は、後で説明する第2の実験の結果に基づいて決定されている。
【0071】
次に、本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドの作用について説明する。薄膜磁気ヘッドは、記録ヘッドによって記録媒体に情報を記録し、再生ヘッドによって、記録媒体に記録されている情報を再生する。
【0072】
再生ヘッドにおいて、バイアス磁界印加層6によるバイアス磁界の方向は、媒体対向面40に垂直な方向と直交している。MR素子5において、信号磁界がない状態では、自由層55の磁化の方向は、バイアス磁界の方向に揃えられている。一方、固定層53の磁化の方向は、媒体対向面40に垂直な方向に固定されている。
【0073】
MR素子5では、記録媒体からの信号磁界に応じて自由層55の磁化の方向が変化し、これにより、自由層55の磁化の方向と固定層53の磁化の方向との間の相対角度が変化し、その結果、MR素子5の抵抗値が変化する。MR素子5の抵抗値は、第1および第2の再生シールド3,8によってMR素子5にセンス電流を流したときのシールド3,8間の電位差より求めることができる。このようにして、再生ヘッドによって、記録媒体に記録されている情報を再生することができる。
【0074】
次に、本実施の形態の効果について説明する。本実施の形態に係る交換結合膜50、MR素子5および薄膜磁気ヘッドによれば、後で示す第1および第2の実験結果から分かるように、第1ないし第3の反強磁性材料のいずれか1つよりなる単層の反強磁性層の上に固定層53を積層する場合に比べて、反強磁性層52と固定層53との間で発生する交換結合磁界を大きくし、且つ固定層53の保磁力を小さくすることが可能になる。
【0075】
以下、上記の第1および第2の実験について説明する。第1の実験は、本実施の形態の効果を確認すると共に第1層521および第3層523の厚みの好ましい範囲を求めるために行った実験である。第2の実験は、本実施の形態の効果を確認すると共に第2層522の厚みの好ましい範囲を求めるために行った実験である。
【0076】
第1および第2の実験では、下記の表1に示す膜構成の複数のMR素子の試料を作製した。試料は、Si基板上に、スパッタ法によって、表1に示した各層を、表1における下から順に形成して積層体を形成した後、この積層体に対して熱処理を施すことによって作製した。熱処理は、270℃の温度で3時間行った。表1では、反強磁性層の第1層、第2層、第3層の材料を、それぞれAF1、AF2、AF3と表記し、第1層、第2層、第3層の厚みをT1、T2、T3と表記している。これらの材料および厚みは、試料によって異なる。また、表1では、Coを75原子%、Feを25原子%含むCoFe合金を、Co75Feと表記している。なお、後で示すように、複数の試料には、複数の実施例の試料と、複数の比較例の試料とが含まれている。実施例の試料は、本実施の形態に係るMR素子5の構成を有している。比較例の試料は、反強磁性層が1層または2層よりなるものであり、本実施の形態に係るMR素子5の構成を有していない。
【0077】
【表1】

【0078】
第1および第2の実験では、作製した複数の試料について、反強磁性層と固定層との間で発生する交換結合磁界Hexと固定層の保磁力Hc-pinとを測定した。ここで、第1および第2の実験における交換結合磁界Hexと固定層の保磁力Hc-pinの測定方法について、図4および図5を参照して説明する。第1および第2の実験では、試料に対して、反強磁性層との交換結合によって固定される固定層の磁化方向とは反対方向に、大きさが変化する磁界Hを印加しながら、試料の面積抵抗Rを測定して、磁界Hと試料の面積抵抗Rとの関係を示すヒステリシスループを作成した。面積抵抗Rは、四探針法によって測定した。図4は、磁界Hと面積抵抗Rとの関係を示すヒステリシスループの一例を示している。図4において、横軸は磁界Hであり、縦軸は面積抵抗Rである。磁界Hは、0から所定の大きさまで増加させた後、0まで減少させた。図4に示したヒステリシスループにおいて、符号101,102で示した部分は、磁界Hを増加させているときにおける面積抵抗Rの変化部分であり、符号103,104で示した部分は、磁界Hを減少させているときにおける面積抵抗Rの変化部分である。ここで、図4に示したように、試料に磁界Hを印加する前の状態における試料の面積抵抗の値をRsとし、ヒステリシスループにおける面積抵抗Rの最大値をRmaxとする。また、任意の磁界Hが印加されている状態における試料の面積抵抗Rの値からRsを引いた値をΔRsとする。図4に示されるように、磁界Hを0から増加させていくと、符号101で示した部分において、自由層の磁化方向が、固定層の磁化方向とは反対方向になるように変化し、その結果、面積抵抗Rが最大値Rmaxまで増加する。磁界Hを更に増加させていくと、符号102で示した部分において、固定層の磁化方向が、自由層の磁化方向と同じ方向になるように変化し、その結果、面積抵抗Rが減少する。次に、磁界Hを減少させていくと、符号103で示した部分において、固定層の磁化方向が、反強磁性層との交換結合によって固定される磁化方向に戻るように変化し、その結果、面積抵抗が最大値Rmaxまで増加する。磁界Hを更に減少させていくと、符号104で示した部分において、自由層の磁化方向が、固定層の磁化方向と同じ方向になるように変化し、その結果、面積抵抗RがRsまで減少する。
【0079】
ここで、ΔRs/Rs×100(%)の値をMR値と定義し、磁界HとMR値との関係を示すヒステリシスループを作成した。図5は、磁界HとMR値との関係を示すヒステリシスループの一例を示している。図5において、横軸は磁界Hであり、縦軸はMR値である。図5に示したヒステリシスループにおいて、符号111,112,113,114で示した各部分は、それぞれ、図4に示したヒステリシスループにおいて符号101,102,103,104で示した部分に対応する。ここで、図5に示したヒステリシスループにおけるMR値の最大値MRmaxと最小値0の差の50%を最大値MRmaxから引いた値をMRcとする。また、図5に示したヒステリシスループのうち符号113で示した部分においてMR値がMRcとなるときの磁界Hの大きさをHaとし、図5に示したヒステリシスループのうち符号112で示した部分においてMR値がMRcとなるときの磁界Hの大きさをHbとする。そして、交換結合磁界Hexと固定層の保磁力Hc-pinを、それぞれ下記の式(1)、(2)によって求めた。
【0080】
Hex=Ha+|Hb−Ha|/2 …(1)
Hc-pin=|(Hb−Ha)−(Hb−Ha)/2| …(2)
【0081】
また、第1および第2の実験では、作製した複数の試料について、Hex/Hc-pinの値を求めた。MR比が大きく且つ安定して動作するMR素子を実現するためには、Hexの値は大きい方がよく、Hc-pinの値は小さい方がよいことから、Hex/Hc-pinの値は大きい方がよい。従って、Hex/Hc-pinは、MR比が大きく且つ安定して動作するMR素子を実現するために要求される交換結合膜の性能を表す指標と言える。
【0082】
第1の実験の結果を表2および表3に示す。表2において、試料A1〜A27は実施例の試料であり、試料C1〜C8は比較例の試料である。表3において、試料A31〜A64は実施例の試料である。以下の説明では、Feを50原子%、Mnを50原子%含むFeMn合金をFe50Mnと表記し、Irを22原子%、Mnを78原子%含むIrMn合金をIr22Mnと表記する。また、以下の説明では、交換結合磁界Hexと保磁力Hc-pinの単位として“Oe”を用いているが、1Oe=79.6A/mの関係から、交換結合磁界Hexと保磁力Hc-pinの大きさは“A/m”を単位とした値に換算することができる。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
表2および表3に示されるように、実施例の試料A1〜A27,A31〜A64において、第1層521の材料AF1と第3層523の材料AF3は、それぞれ、γ相を有するFeMn合金であるFe50Mnとなっている。また、実施例の試料A1〜A27,A31〜A64において、第2層522の材料AF2は、γ相を有するIrMn合金であるIr22Mnとなっている。
【0086】
比較例の試料C1〜C3では、反強磁性層は、Ir22Mnよりなる1つの層で構成されている。比較例の試料C4〜C6では、反強磁性層は、Fe50Mnよりなる1つの層で構成されている。表2では、便宜上、試料C1〜C6における反強磁性層を構成する1つの層の材料および厚みを、第1層の欄に記載している。比較例の試料C7では、反強磁性層はFe50Mnよりなる層とその上に積層されたIr22Mnよりなる層の2層で構成されている。表2では、便宜上、試料C7における反強磁性層を構成する2つの層の材料および厚みを、第1層および第2層の欄に記載している。比較例の試料C8では、反強磁性層はIr22Mnよりなる層とその上に積層されたFe50Mnよりなる層の2層で構成されている。表2では、便宜上、試料C8における反強磁性層を構成する2つの層の材料および厚みを、第2層および第3層の欄に記載している。
【0087】
本実施の形態において、第1層521を構成する第1の反強磁性材料、第2層522を構成する第2の反強磁性材料および第3層523を構成する第3の反強磁性材料は、同じ厚みを有する第1の反強磁性材料よりなる層、第2の反強磁性材料よりなる層、第3の反強磁性材料よりなる層の各々の上に固定層53を積層した場合における固定層53の保磁力を、それぞれHc1、Hc2、Hc3としたときに、Hc2がHc1およびHc3よりも大きいという条件を満たす材料である。ここで、実施例の試料A1〜A27,A31〜A64における第1層521の材料Fe50Mn、第2層522の材料Ir22Mnおよび第3層523の材料Fe50Mnが、上記の本実施の形態における第1ないし第3の反強磁性材料の要件を満たしていることについて説明する。
【0088】
まず、表2において、反強磁性層が単層よりなり、且つその厚みが等しい試料C1と試料C4とを比較する。試料C1では、Ir22Mnよりなる層の上に固定層53が積層されている。試料C4では、Fe50Mnよりなる層の上に固定層53が積層されている。試料C1における固定層53の保磁力Hc-pinは、試料C4における固定層53の保磁力Hc-pinよりも大きい。
【0089】
同様に、表2において、反強磁性層が単層よりなり、且つその厚みが等しい試料C2と試料C5とを比較する。試料C2では、Ir22Mnよりなる層の上に固定層53が積層されている。試料C5では、Fe50Mnよりなる層の上に固定層53が積層されている。試料C2における固定層53の保磁力Hc-pinは、試料C5における固定層53の保磁力Hc-pinよりも大きい。
【0090】
更に、表2において、反強磁性層が単層よりなり、且つその厚みが等しい試料C3と試料C6とを比較する。試料C3では、Ir22Mnよりなる層の上に固定層53が積層されている。試料C6では、Fe50Mnよりなる層の上に固定層53が積層されている。試料C3における固定層53の保磁力Hc-pinは、試料C6における固定層53の保磁力Hc-pinよりも大きい。
【0091】
これらのことから、実施例の試料A1〜A27,A31〜A64における第1層521の材料Fe50Mn、第2層522の材料Ir22Mnおよび第3層523の材料Fe50Mnは、本実施の形態における第1ないし第3の反強磁性材料の要件を満たしていることが分かる。
【0092】
次に、比較例の試料C7,C8と実施例の試料A1〜A10について考察する。試料C7における反強磁性層は、Fe50Mnよりなる層とその上に積層されたIr22Mnよりなる層の2層で構成されている。試料C8における反強磁性層は、Ir22Mnよりなる層とその上に積層されたFe50Mnよりなる層の2層で構成されている。反強磁性層が単層よりなる試料C1〜C6の中でHex/Hc-pinの値を比較すると、試料C2のHex/Hc-pinの値が最も大きい。試料C7,C8のHex/Hc-pinの値は、試料C2に比べて小さい。一方、試料A2〜A9のHex/Hc-pinの値は、試料C2に比べて大きい。このことから、Hex/Hc-pinの値を大きくするためには、試料C7,C8のように反強磁性層を2層で構成しても効果はなく、本実施の形態のように反強磁性層を3層で構成することが効果的であることが分かる。なお、第3層523の厚みが0.1nmである試料A1と、第1層521の厚みが0.1nmである試料A10では、Hex/Hc-pinの値が試料C2に比べて小さくなっている。このことから、本実施の形態のように反強磁性層を3層で構成する場合でも、第1層521または第3層523の厚みが0.1nmまで小さくなると、Hex/Hc-pinの値を大きくする効果は、あまり発揮されないと考えられる。これは、第1層521または第3層523の厚みが小さすぎると、第1層521または第3層523において、望ましい配向の結晶粒の比率が大きくならないためと考えられる。
【0093】
次に、表2に示した実施例の試料A11〜A27と表3に示した実施例の試料A31〜A64について考察する。これらの試料では、第1層521の厚みと第3層523の厚みを、それぞれ0.1〜1.7nmの範囲で変化させている。第1層521の厚みと第3層523の厚みが共に0.1nmである試料A11と、第1層521の厚みと第3層523の厚みが共に1.7nmである試料A27と、第3層523の厚みが0.1nmである試料A31と、第3層523の厚みが1.7nmである試料A47と、第1層521の厚みが0.1nmである試料A48と、第1層521の厚みが1.7nmである試料A64では、Hex/Hc-pinの値が試料C2に比べて小さくなっている。これに対し、第1層521の厚みと第3層523の厚みが共に0.2〜1.6nmの範囲内である試料A12〜A26、A32〜A46、A49〜A63では、Hex/Hc-pinの値が試料C2に比べて大きくなっている。これらのことから、本実施の形態における反強磁性層52の構成において、第1層521の厚みと第3層523の厚みが、いずれも0.2〜1.6nmの範囲内であれば、Hex/Hc-pinの値を大きくする効果が発揮されることが分かる。
【0094】
次に、第2の実験の結果について説明する。第2の実験の結果を表4に示す。表4において、試料A71〜A94は実施例の試料であり、試料C1〜C6は比較例の試料である。試料A71〜A94では、第2層522の厚みを、4.0〜9.5nmの範囲で変化させている。なお、第2の実験における試料C1〜C6は、第1の実験における試料C1〜C6と同じである。
【0095】
【表4】

【0096】
表4に示されるように、第2層522の厚みが4.0nmである試料C71と、第2層522の厚みが9.5nmである試料C82と、第2層522の厚みが4.0nmである試料C83と、第2層522の厚みが9.5nmである試料C94では、試料C2に比べて、Hex/Hc-pinの値が小さくなっている。これに対し、第2層522の厚みが4.5〜9.0nmの範囲内である試料A72〜A81、A84〜A93では、試料C2に比べて、Hex/Hc-pinの値が大きくなっているが、これらのことから、本実施の形態における反強磁性層52の構成において、第2層522の厚みが4.5〜9.0nmの範囲内であれば、Hex/Hc-pinの値を大きくする効果が発揮されることが分かる。
【0097】
以上の第1および第2の実験の結果から、第1層521および第3層523の厚みはそれぞれ0.2〜1.6nmの範囲内であることが好ましく、第2層522の厚みは4.5〜9.0nmの範囲内であることが好ましいと言える。
【0098】
なお、本実施の形態に係る交換結合膜50において、反強磁性層52の第2層522は、主に、交換結合磁界Hexを大きくする機能を有する。反強磁性層52の第3層523は、反強磁性層52と固定層53の結晶格子を整合させ、反強磁性層52と固定層53の双方の結晶性を良好にする機能があると考えられる。そして、この機能により、固定層53の保磁力Hc-pinが小さくなると考えられる。また、反強磁性層52の第1層521は、第2層522に対するシード層の役割を果たし、第2層522の結晶粒の微細化と均一化を促す機能があると考えられる。そして、この機能により、交換結合磁界Hexの増加と固定層53の保磁力Hc-pinの低下の効果が得られると考えられる。これらのことから、交換結合磁界Hexを増加させ且つ固定層53の保磁力Hc-pinを低下させて、Hex/Hc-pinの値を大きくするためには、本実施の形態で規定された要件を満たす第1層521、第2層522および第3層523の3層で反強磁性層52を構成することが効果的である。
【0099】
以下、本実施の形態に係るヘッドアセンブリおよび磁気ディスク装置について説明する。まず、図6を参照して、ヘッドアセンブリに含まれるスライダ210について説明する。磁気ディスク装置において、スライダ210は、回転駆動される円盤状の記録媒体である磁気ディスクに対向するように配置される。このスライダ210は、主に図2における基板1およびオーバーコート層35からなる基体211を備えている。基体211は、ほぼ六面体形状をなしている。基体211の六面のうちの一面は、磁気ディスクに対向するようになっている。この一面には、媒体対向面40が形成されている。磁気ディスクが図6におけるz方向に回転すると、磁気ディスクとスライダ210との間を通過する空気流によって、スライダ210に、図6におけるy方向の下方に揚力が生じる。スライダ210は、この揚力によって磁気ディスクの表面から浮上するようになっている。なお、図6におけるx方向は、磁気ディスクのトラック横断方向である。スライダ210の空気流出側の端部(図6における左下の端部)の近傍には、本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッド100が形成されている。
【0100】
次に、図7を参照して、本実施の形態に係るヘッドアセンブリについて説明する。本実施の形態に係るヘッドアセンブリは、スライダ210と、このスライダ210を弾性的に支持する支持装置とを備えている。このヘッドアセンブリの態様には、以下で説明するヘッドジンバルアセンブリとヘッドアームアセンブリが含まれる。
【0101】
まず、ヘッドジンバルアセンブリ220について説明する。ヘッドジンバルアセンブリ220は、スライダ210と、このスライダ210を弾性的に支持する支持装置としてのサスペンション221とを備えている。サスペンション221は、例えばステンレス鋼によって形成された板ばね状のロードビーム222、このロードビーム222の一端部に設けられると共にスライダ210が接合され、スライダ210に適度な自由度を与えるフレクシャ223と、ロードビーム222の他端部に設けられたベースプレート224とを有している。ベースプレート224は、スライダ210を磁気ディスク262のトラック横断方向xに移動させるためのアクチュエータのアーム230に取り付けられるようになっている。アクチュエータは、アーム230と、このアーム230を駆動するボイスコイルモータとを有している。フレクシャ223において、スライダ210が取り付けられる部分には、スライダ210の姿勢を一定に保つためのジンバル部が設けられている。
【0102】
ヘッドジンバルアセンブリ220は、アクチュエータのアーム230に取り付けられる。1つのアーム230にヘッドジンバルアセンブリ220を取り付けたものはヘッドアームアセンブリと呼ばれる。また、複数のアームを有するキャリッジの各アームにヘッドジンバルアセンブリ220を取り付けたものはヘッドスタックアセンブリと呼ばれる。
【0103】
図7は、本実施の形態に係るヘッドアームアセンブリを示している。このヘッドアームアセンブリでは、アーム230の一端部にヘッドジンバルアセンブリ220が取り付けられている。アーム230の他端部には、ボイスコイルモータの一部となるコイル231が取り付けられている。アーム230の中間部には、アーム230を回動自在に支持するための軸234に取り付けられる軸受け部233が設けられている。
【0104】
次に、図8および図9を参照して、ヘッドスタックアセンブリの一例と本実施の形態に係る磁気ディスク装置について説明する。図8は磁気ディスク装置の要部を示す説明図、図9は磁気ディスク装置の平面図である。ヘッドスタックアセンブリ250は、複数のアーム252を有するキャリッジ251を有している。複数のアーム252には、複数のヘッドジンバルアセンブリ220が、互いに間隔を開けて垂直方向に並ぶように取り付けられている。キャリッジ251においてアーム252とは反対側には、ボイスコイルモータの一部となるコイル253が取り付けられている。ヘッドスタックアセンブリ250は、磁気ディスク装置に組み込まれる。磁気ディスク装置は、スピンドルモータ261に取り付けられた複数枚の磁気ディスク262を有している。磁気ディスク262毎に、磁気ディスク262を挟んで対向するように2つのスライダ210が配置される。また、ボイスコイルモータは、ヘッドスタックアセンブリ250のコイル253を挟んで対向する位置に配置された永久磁石263を有している。スライダ210を除くヘッドスタックアセンブリ250およびアクチュエータは、スライダ210を支持すると共に磁気ディスク262に対して位置決めする。
【0105】
本実施の形態に係る磁気ディスク装置では、アクチュエータによって、スライダ210を磁気ディスク262のトラック横断方向に移動させて、スライダ210を磁気ディスク262に対して位置決めする。スライダ210に含まれる薄膜磁気ヘッドは、記録ヘッドによって、磁気ディスク262に情報を記録し、再生ヘッドによって、磁気ディスク262に記録されている情報を再生する。
【0106】
本実施の形態に係るヘッドアセンブリおよび磁気ディスク装置は、前述の本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドと同様の効果を奏する。
【0107】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、実施の形態では、基体側に再生ヘッドを形成し、その上に、記録ヘッドを積層した構造の薄膜磁気ヘッドについて説明したが、この積層順序を逆にしてもよい。
【0108】
また、読み取り専用として用いる場合には、薄膜磁気ヘッドを、再生ヘッドだけを備えた構成としてもよい。
【0109】
また、本発明は、薄膜磁気ヘッドの再生ヘッドとして利用されるMR素子に限らず、種々の用途のMR素子全般に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の一実施の形態における再生ヘッドの媒体対向面に平行な断面を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドの構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドの媒体対向面を示す正面図である。
【図4】本発明の一実施の形態における交換結合磁界と固定層の保磁力の測定方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態における交換結合磁界と固定層の保磁力の測定方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドを含むスライダを示す斜視図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係るヘッドアームアセンブリを示す斜視図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る磁気ディスク装置の要部を説明するための説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る磁気ディスク装置の平面図である。
【符号の説明】
【0111】
1…基板、2…絶縁層、3…第1の再生シールド、4…絶縁膜、5…MR素子、6…バイアス磁界印加層、7…絶縁層、8…第2の再生シールド、40…媒体対向面、50…交換結合膜、52…反強磁性層、53…固定層、54…スペーサ層、55…自由層、521…第1層、522…第2層、523…第3層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性層と、この反強磁性層の上に積層された強磁性材料よりなる固定層とを備え、前記固定層の磁化の方向が固定されている交換結合膜であって、
前記反強磁性層は、順に積層された第1層、第2層および第3層を含み、
前記第3層は前記固定層に接し、
前記第1層は第1の反強磁性材料によって構成され、
前記第2層は第2の反強磁性材料によって構成され、
前記第3層は第3の反強磁性材料によって構成され、
前記第1ないし第3の反強磁性材料は、いずれもγ相を有するMn合金であり、且つ、同じ厚みを有する第1の反強磁性材料よりなる層、第2の反強磁性材料よりなる層、第3の反強磁性材料よりなる層の各々の上に前記固定層を積層した場合における前記固定層の保磁力をそれぞれHc1、Hc2、Hc3としたときに、Hc2がHc1およびHc3よりも大きいという条件を満たす材料であることを特徴とする交換結合膜。
【請求項2】
前記第1層および第3層の厚みはそれぞれ0.2〜1.6nmの範囲内であり、前記第2層の厚みは4.5〜9.0nmの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の交換結合膜。
【請求項3】
前記固定層を構成する強磁性材料は、CoおよびFeを含むことを特徴とする請求項1または2記載の交換結合膜。
【請求項4】
反強磁性層と、この反強磁性層の上に積層された強磁性材料よりなる固定層とを備え、前記固定層の磁化の方向が固定されている交換結合膜であって、
前記反強磁性層は、順に積層された第1層、第2層および第3層を含み、
前記第3層は前記固定層に接し、
前記第1層および第3層は、それぞれγ相を有するFeMn合金によって構成され、
前記第2層は、γ相を有するIrMn合金によって構成されていることを特徴とする交換結合膜。
【請求項5】
前記第1層および第3層の厚みはそれぞれ0.2〜1.6nmの範囲内であり、前記第2層の厚みは4.5〜9.0nmの範囲内であることを特徴とする請求項4記載の交換結合膜。
【請求項6】
前記固定層を構成する強磁性材料は、CoおよびFeを含むことを特徴とする請求項4または5記載の交換結合膜。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の交換結合膜と、
非磁性材料よりなり、前記固定層の上に積層されたスペーサ層と、
前記スペーサ層の上に積層され、外部磁界に応じて磁化の方向が変化する自由層とを備えたことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
記録媒体に対向する媒体対向面と、
前記記録媒体からの信号磁界を検出するために前記媒体対向面の近傍に配置された請求項7記載の磁気抵抗効果素子と
を備えたことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項9】
請求項8記載の薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、
前記スライダを弾性的に支持する支持装置と
を備えたことを特徴とするヘッドアセンブリ。
【請求項10】
請求項8記載の薄膜磁気ヘッドを含み、回転駆動される記録媒体に対向するように配置されるスライダと、
前記スライダを支持すると共に前記記録媒体に対して位置決めする位置決め装置と
を備えたことを特徴とする磁気ディスク装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−193980(P2009−193980A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29891(P2008−29891)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】