説明

多相回転機の制御装置、及びこれを用いた電動パワーステアリング装置

【課題】 回転角センサの取り付け位置ずれ等による角度誤差を、多相回転機を搭載対象に搭載したままの状態で検出する多相回転機の制御装置を提供する。
【解決手段】 3相モータ(多相回転機)の制御装置であるマイコンは、モータに取り付けられた回転角センサの取り付け位置ずれ等による角度誤差Δθを算出する処理を実行する。まず、d軸およびq軸電流指令値を0アンペアに設定する(S00)。次に、モータの回転軸を外部から回転させ(S10)、逆起電圧によって流れる相電流を検出し(S30)、3相2相変換する(S40)。制御器は、電流検出値が0アンペアになるように電圧指令値Vq、Vdを出力する(S50)。角度誤差算出手段は、電圧指令値Vq、Vdに基づいて角度誤差Δθを算出し(S70)、角度補正値として記憶する(S90)。以後、回転角センサの検出値から補正値を差し引いて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相回転機の巻線組に駆動電流を供給する電力変換装置の制御に用いられる制御装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多相回転機に取り付けられる回転角センサについて、製造時の取り付け位置ずれで生じる検出誤差を補正する方法が知られている。例えば特許文献1に開示された方法では、3相モータにレゾルバが取り付けられるときの位置ずれについて、3相モータ中の3相のうち2相を短絡したときにモータが停止する理論位置と、レゾルバによって検出される実際のモータ位置とを比較して補正値を算出する。この補正値は記憶部に格納され、以後、検出されたモータ位置をこの補正値に基づいて補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−128484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法は、モータの製造時に部品単位で一度補正値を算出したら、モータを例えば車両等の搭載対象に取り付けた後には、レゾルバをモータごと取り外さない限り、補正値を変更する可能性がないことを前提としている。
しかし、例えば車両用の電動パワーステアリング装置に用いられるモータの場合には、「モータ本体」と、「モータの回転角等に基づいてモータ本体の駆動を制御する制御装置(ECU)」とが取り外し可能に設けられる構成が想定され得る。ここで、例えば、モータ本体側に設けられた磁石と、制御装置側に設けられた磁気検出素子とにより回転角センサが構成される。このような構成では、モータ本体を車両に取り付けた状態のまま制御装置のみを交換すると、交換取り付け時の制御装置とモータとの位置ずれが生ずるため、あらためて補正値を算出することが必要になる。
【0005】
ところが、特許文献1に記載された「3相のうち2相を短絡させる方法」は、回転軸がフリーな状態で部品単位で実行することを前提としているため、モータ本体を搭載対象に搭載し、回転軸が負荷に接続されている状態では実行することができない。したがって、補正値を算出するためにのみモータを一度搭載対象から取り外すか、或いは、常に制御装置とモータ本体とを一体で交換する必要があり、作業効率が悪いという問題がある。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、多相回転機の回転軸の回転角を検出する回転角センサの取り付け位置ずれ等による角度誤差を、多相回転機を搭載対象に搭載したままの状態で検出する多相回転機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、多相回転機を構成する巻線組に駆動電流を供給する電力変換装置の制御に用いられる「多相回転機の制御装置」に係る発明である。
この制御装置は、「多相回転機の回転軸の回転角を検出する回転角センサが検出した回転角検出値」、及び「駆動電流を相毎に検出する電流検出手段が検出した多相電流検出値」がフィードバックされ、電力変換装置に出力する電圧指令値を制御する。
ここで、電圧指令値は、多相回転機の回転軸を当該多相回転機の外部から回転させたときに駆動電流が0となるように演算される。また、電圧指令値に基づいて、回転角センサが検出した回転角検出値と多相回転機の回転軸の現実の回転角値との差分である「角度誤差」を算出する。そして、回転角センサが検出した回転角検出値に対し、当該角度誤差に相当する角度を補正する。
【0008】
本発明の多相回転機の制御装置は、「多相回転機の回転軸を外部から回転させたときに発生する逆起電圧により巻線に流れる駆動電流の電流値を検出すること」、また、回転角検出値と電流検出値とがフィードバックされ、「駆動電流が0となるように演算される電圧指令値に基づいて角度誤差を算出すること」を技術的特徴とする。
【0009】
ここで、「駆動電流が0となるように電圧指令値が演算される」ということは、外部からの回転軸の回転によって生じた逆起電圧をキャンセルしようとする電圧指令値が電力変換装置に出力されることを意味する。そして、この電圧指令値に基づいて、回転角センサの多相回転機に対する取り付け位置ずれによる角度誤差が算出される。
角度誤差Δθは、回転角センサが検出した回転角検出値θmと多相回転機の回転軸の現実の回転角θとの差分であり、次式1により示される。
Δθ=θm−θ ・・・(式1)
【0010】
このように、多相回転機の回転軸を外部から回転させたときの逆起電圧を利用することで、従来技術のように3相のうちの2相を短絡させる等の接続変更を伴うことなく、多相回転機を搭載対象に搭載し、回転軸を負荷に接続したまま角度誤差を算出することができる。
例えば、多相回転機が、車両の電動パワーステアリング装置にて運転者の操舵をアシストするモータである場合、モータを車両に取り付けた状態のまま角度誤差を算出することができる。したがって、特に、モータ本体から制御装置のみを分離して交換可能な構成では、再取り付け後の取り付け位置ずれ等による角度誤差の検出に有用である。
【0011】
算出された角度誤差は、回転角センサの多相回転機に対する取り付け状態が維持される限り不変であるため、以後、回転角センサの回転角検出値からこの角度誤差を角度補正値として差し引いて補正した値を現実の回転角とみなし、制御装置にフィードバックする。これにより、制御装置の制御精度を向上することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の多相回転機の制御装置におけるフィードバックの構成や角度誤差を算出する構成等を具体的に特定するものである。
請求項2に記載の多相回転機の制御装置は、電流変換手段、電流指令値演算手段、制御演算手段、角度誤差算出手段、角度補正値記憶手段を備える。
【0013】
電流変換手段は、電流検出手段が検出した相毎の多相電流検出値を、互いに直交するd軸方向およびq軸方向の電流検出値に変換する。
電流指令値演算手段は、角度誤差を算出するとき、d軸方向およびq軸方向について、0アンペアの電流指令値を指令する
制御演算手段は、d軸方向およびq軸方向について、電流検出値を電流指令値である0アンペアに一致させるように電圧指令値を演算する。
角度誤差算出手段は、制御演算手段が演算したd軸方向およびq軸方向についての電圧指令値に基づいて角度誤差を算出する。
角度補正値記憶手段は、角度誤差算出手段が算出した角度誤差を角度補正値として記憶する。
【0014】
そして、多相回転機の回転軸を当該多相回転機の外部から回転させたときに制御演算手段が演算するd軸方向およびq軸方向の電圧指令値をVdおよびVqとし、角度誤差をΔθとすると、角度誤差算出手段は、次式2により角度誤差を算出する。
Δθ=ATAN(Vd/Vq)・・・(式2)
【0015】
ここで、d軸方向およびq軸方向は、例えば、d軸方向が磁束の向きに平行であって、d軸方向の電流が励磁電流もしくは界磁電流に相当し、q軸方向の電流がd軸方向に直交するトルク電流に相当してもよい。或いはこれに限らず、互いに直交しさえすればよい。
互いに直交することにより、d軸ベクトルである電圧指令値Vdとq軸ベクトルである電圧指令値Vqとが成す角度Δθは、式2で表される。
【0016】
式2が示すように、d軸方向の電流検出値が電流指令値である0アンペアに一致する場合、電圧指令値Vdは、Vqの値にかかわらず0となり、角度誤差Δθは0となる。すなわち、この場合は回転角センサの回転角検出値を補正する必要がない。
一方、d軸方向の電流検出値が電流指令値である0アンペアに一致しない場合、電圧指令値Vdは0以外の値となる。その結果、角度誤差Δθは、電圧指令値VdとVqとの値に基づき式2で算出される「0以外の値」となる。よって、角度誤差Δθを角度補正値として回転角センサの回転角検出値を補正すればよい。
このように、互いに直交するベクトル値を利用することにより、簡単な演算で角度誤差Δθを算出することができ、制御装置の演算負荷を低減することができる。
【0017】
ところで、多相回転機の回転軸を外部から回転させる場合、回転軸が接続される負荷が比較的高負荷であると、回転軸を意図通りに回転させることができない。例えば、電動パワーステアリング装置の場合、モータの回転軸は、ステアリングシャフトを経由して、両車輪をつなぐラック軸に接続される。ここで、車輪が接地していると摩擦負荷が生じ、仮にハンドルを操作してもモータの回転軸を回転させることができない。すなわち、モータの回転軸の回転数は、0または極めて低い値となる。
このような状況では、上述の構成によって角度誤差を正確に算出することができない。すなわち、本発明による角度誤差の算出処理において、多相回転機の回転軸が負荷に接続されていること自体は許容されるものの、回転軸は、比較的軽い負荷で回転可能でなければならない。
【0018】
また、モータの回転軸を、回転角センサの検出能力を超えるほど高速に回転させた場合にも、やはり、上述の構成によって角度誤差を正確に算出することができない。
仮に不正確な角度誤差を算出すると、その値が以後、角度補正値として常に使用されるため、運転者がハンドル操作とアシストトルクとの関係に違和感を覚えるおそれがある。
【0019】
そこで請求項3に記載の発明によると、多相回転機の回転軸を当該多相回転機の外部から回転させたとき、多相回転機の回転数が所定の範囲内にあるときに限り、角度誤差を算出する。逆に言えば、多相回転機の回転数が所定の範囲外である場合は角度誤差を算出しない。
これにより、不適切な状況で得られた回転数検出値に基づいて誤った角度誤差が算出されることが防止される。その結果、以後、誤った角度補正値により誤った角度補正がされることを防止することができる。
【0020】
次に、請求項4〜8に記載の多相回転機の制御装置は、多相回転機を構成する複数組の巻線組に対応して設けられる複数系統の電力変換装置の制御に用いられる。すなわち、多相回転機は複数組の巻線組から構成され、これら複数組の巻線組に電力を供給するため、複数組の巻線組に対応する複数系統の電力変換装置が設けられる。これにより、一部の系統が故障した場合等でも、残りの正常系統の電力変換装置のみで多相回転機の駆動を継続することができる。
このような複数系統の回路では多相電流検出値が系統毎に検出される一方、一つの回転角センサが検出する回転角検出値は一つであるので、角度誤差を算出する処理において、複数系統の検出値を一括して取り扱う演算が求められる。
【0021】
請求項4に記載の発明によると、角度補正値記憶手段は、角度誤差算出手段が複数系統の電力変換装置について算出した系統毎の角度誤差の平均値を角度補正値として記憶する。
これにより、複数系統間の角度誤差のばらつきに対し、最適な角度補正値を設定することができる。
【0022】
この場合、請求項5に記載の発明によると、角度誤差算出手段が複数系統の電力変換装置について算出した系統毎の角度誤差の最大値と最小値との差が所定値以上である場合、回転角センサが検出した回転角検出値が異常であると判断する。
系統毎の角度誤差の最大値と最小値との差が、通常想定されるばらつきの範囲を超えている場合には異常が推定される。そこで、回転角検出値が異常であると判断することにより、誤った角度誤差を算出し、以後、誤った角度補正値により誤った角度補正がされることを防止することができる。
【0023】
さらに、請求項6に記載の発明によると、回転角センサが検出した回転角検出値が異常であると判断したことを使用者に知らせる。具体的には、警告ランプやブザー等の手段が考えられる。
回転角検出値が異常となる原因には、回転軸の回転操作時のノイズや、巻線等の物理的故障等が考えられる。操作時のノイズ等の場合には、使用者に知らせて操作をし直すことで、正常な回転角検出値が得られる可能性がある。また、物理的故障の場合には、多相回転機そのものを修理または交換する必要性が予想される。
いずれにしても、使用者に異常を早期に知らせることで迅速な対応が可能となる。
【0024】
請求項7に記載の発明によると、角度誤差算出手段は、制御演算手段が複数系統の電力変換装置について演算した系統毎の電圧指令値の和に基づいて角度誤差を算出する
これにより、複数系統の電圧指令値の和を全体の電圧指令値として扱うため、角度誤差算出手段の演算負荷を低減することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明によると、制御演算手段は、電流変換手段が複数系統の電力変換装置について変換した系統毎の電流検出値の和を電流指令値である0アンペアに一致させるように演算する。
これにより、複数系統の電流検出値の和を全体の電流検出値として扱うため、制御演算手段の演算負荷を低減することができる。
【0026】
請求項9に記載の発明は、電動パワーステアリング装置に係る発明である。この電動パワーステアリング装置は、運転者の操舵を補助するためのアシストトルクを発生する多相回転機と、多相回転機の巻線に駆動電流を供給する電力変換装置と、多相回転機の回転軸の回転角を検出する回転角センサと、電力変換装置から供給される駆動電流を検出する電流検出手段と、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置と、多相回転機の回転をステアリングシャフトに伝達する動力伝達手段とを備える。
【0027】
車両の運転者の操舵をアシストする電動パワーステアリング装置では、回転角検出値の誤差は運転者に違和感を与えることになるため、高精度な補正が求められる。したがって、本発明の制御装置を含む構成とすることで、制御装置のみを交換する場合に改めて正確な補正値を算出することができ、その後の制御精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態による多相回転機の制御装置のブロック図。
【図2】本発明の第1実施形態による多相回転機の制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の概略構成図。
【図3】本発明の第1実施形態による多相回転機の制御装置により制御される1系統インバータの回路模式図。
【図4】モータ回転軸の現実の回転角θと回転角センサの回転角検出値θmとの関係を示す説明図。
【図5】電圧指令値と角度誤差との関係を説明する説明図。
【図6】本発明の第1実施形態による多相回転機の制御装置の回転角センサ角度誤差算出処理のフローチャート。
【図7】本発明の第2実施形態による多相回転機の制御装置のブロック図。
【図8】本発明の第2実施形態による多相回転機の制御装置の回転角センサ角度誤差算出処理のフローチャート。
【図9】本発明の第3実施形態による多相回転機の制御装置のブロック図。
【図10】本発明の第3実施形態による多相回転機の制御装置の回転角センサ角度誤差算出処理のフローチャート。
【図11】本発明の第4実施形態による多相回転機の制御装置のブロック図。
【図12】本発明の第4実施形態による多相回転機の制御装置の回転角センサ角度誤差算出処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明による多相回転機の制御装置を車両の電動パワーステアリング装置に適用した複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による多相回転機の制御装置について、図1〜図6を参照して説明する。
【0030】
図2は、電動パワーステアリング装置1を備えたステアリングシステム90の全体構成を示す。ハンドル91に接続されたステアリングシャフト92には、操舵トルクを検出するためのトルクセンサ94が設置されている。ステアリングシャフト92の先端にはピニオンギア96が設けられており、ピニオンギア96はラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が回転可能に連結されている。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によってラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の直線運動変位に応じた角度について一対の車輪98が操舵される。
【0031】
電動パワーステアリング装置1は、回転軸81を回転させるアクチュエータ2、及び、回転軸81の回転を減速してステアリングシャフト92に伝達する減速ギア89を含む。
アクチュエータ2は、操舵アシストトルクを発生する「多相回転機」としてのモータ801と、モータ801を駆動するECU5とから構成される。本実施形態のモータ801は3相ブラシレスモータであり、減速ギア89を正逆回転させる。また、モータ801とECU5とは分離可能に設けられている。
【0032】
ECU5内には、「制御装置」としてのマイコン101、及び、マイコン101の指令に従ってモータ801への電力供給を制御する「電力変換装置」としてのインバータ60が収容される。また、モータ801とECU5との境界に跨って、モータ801の回転軸81の回転角を検出する回転角センサ85が設けられる。回転角センサ85は、例えば、磁気発生手段である磁石と、ホール素子や磁気抵抗素子等の磁気検出素子とにより構成される。
【0033】
本実施形態では、モータ回転軸81の端部に磁石が取り付けられ、ECU5の基板に磁気検出素子が搭載される。磁石が回転軸81と共に回転すると、磁気検出素子は、回転軸81の回転角に応じた電圧信号を出力し、この出力信号に基づき回転角θを検出する。なお、回転角θは、以下、特にことわらない限り、電気角を意味する。
【0034】
これにより、回転軸81の回転角の現在値がマイコン101にフィードバックされる。マイコン101は、この回転角信号やトルクセンサ94からの操舵トルク信号、図示しない車速センサからの車速信号等に基づいて、インバータ60への出力を制御する。
この構成により、電動パワーステアリング装置1のアクチュエータ2は、ハンドル91の操舵を補助するための操舵アシストトルクを発生し、ステアリングシャフト92に伝達する。
【0035】
図3は、モータ801を構成する3相巻線組、及び、この3相巻線組に電力を供給するインバータ60を示す。ここで、インバータ、及びそのインバータと対応する3相巻線組の組合せの単位を「系統」という。本実施形態では、モータ801は、1組のU、V、W相の3相巻線組により構成され、1系統のインバータ60により駆動される。
【0036】
インバータ60は、バッテリ57からコイル58および抵抗59を経由して供給される直流電力を交流電力に変換する。
インバータ60は、3相ブリッジ回路のバッテリ57側に設けられる電源リレー用のスイッチング素子67、3相ブリッジ回路の上下アームを構成する6個のスイッチング素子611、612、621、622、631、632、スイッチング素子にゲートオンオフ信号を出力するプリドライバ68、及び、ブリッジ回路の各上下アームと並列に接続されノイズを平滑化する電界コンデンサ69から構成される。
【0037】
スイッチング素子611〜332は、例えば、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)である。
上アームを構成する高電位側スイッチング素子611、621、631と下アームを構成する低電位側スイッチング素子612、622、632との接続点は、それぞれ、U、V、W相の巻線に接続されており、接続点の電圧がモータ801の端子電圧となる。
【0038】
次に図1は、アクチュエータ2の制御ブロック図である。ここでは、アクチュエータ2が回転駆動する負荷を総括して「負荷88」と示している。図2において、負荷88は、減速ギア89に接続されて一体に回転運動するステアリングシャフト92や直線運動するラック軸97の運動負荷を含む。さらに車輪98が路面等に接地している場合には、車輪98が向きを変えるときに生ずる摩擦の負荷が含まれる。
【0039】
図1に示すように、アクチュエータ2は、マイコン101、インバータ60、モータ80、回転角センサ85、及び「電流検出手段」としての電流検出器70等を備えている。電流検出器70は、インバータ60がモータ80に供給する相電流を相毎に検出する。
マイコン101は、電流指令値演算手段151、3相2相変換手段251、制御器301、2相3相変換手段351を含む。
【0040】
電流指令値演算手段151は、「制御演算手段」としての制御器301に電流指令値Iq*、Id*を指令する。通常の操舵アシスト時には、トルクセンサ94による操舵トルク信号、及び、車速センサによる車速信号が電流指令値演算手段151に入力され、電流指令値演算手段151は、これらの入力信号に基づいて電流指令値Iq*、Id*を演算する。
【0041】
3相2相変換手段25は、回転角センサ85からフィードバックされた回転角θに基づき、電流検出器70が検出した3相の相電流検出値Iu、Iv、Iwを、q軸電流検出値Iqおよびd軸電流検出値Idに変換する。ここで、d軸電流は、磁束の向きに平行な励磁電流もしくは界磁電流であり、q軸電流は、磁束の向きに直交するトルク電流である。すなわち、d軸電流とq軸電流とは互いに直交する(図4参照)。
なお、相電流検出値を変換する電流軸は、このように「磁束の向きに平行な方向、及びそれに直交する方向」に限らず、互いに直交するベクトルであればよい。
【0042】
制御器301には、q軸電流の指令値Iq*と検出値Iqとの差分、及び、d軸電流の指令値Id*と検出値Idとの差分がそれぞれ入力される。制御器301は、この差分を0(ゼロ)に収束させるように、電圧指令値Vq、Vdを演算する。制御器301は、例えば、PI(比例積分)制御演算等である。
2相3相変換手段351は、回転角センサ85からフィードバックされた回転角θに基づき、2相の電圧指令値Vq、VdをU相、V相、W相の3相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換してインバータ60に出力する。
通常の操舵アシスト時には、インバータ60が3相電圧指令値Vu、Vv、Vwに従ってモータ80に相電流Iu、Iv、Iwを供給することにより、電流検出値Iq、Idは、電流指令値Iq*、Id*に追従しようとする。
【0043】
ところで、アクチュエータ2の初期製造時にECU5をモータ80に組み付けるとき、回転角センサ85の回転方向の取り付け位置ずれが生じる可能性がある。また、電動パワーステアリング装置1の修理等の場合、ECU5のみをアクチュエータ2から取り外した後、同じECU5を再びモータ80に組み付けたり、或いは、別のECU5に交換してモータ80に組み付けたりすることが考えられる。このような場合にも、同様に、回転角センサ85の回転方向の取り付け位置ずれが生じる可能性がある。
【0044】
図4は、モータ回転軸81の現実の回転角θと回転角センサ85の回転角検出値θmとの関係を示す説明図である。現実の回転角θには、実線で示すd軸およびq軸が対応し、回転角検出値θmには、破線で示す「見かけの」dm軸およびqm軸が対応する。
回転角センサ85の回転角検出値θmと回転軸81の現実の回転角θとの差分は、次式1のように角度誤差Δθとして表される。
Δθ=θm−θ ・・・(式1)
取り付け位置ずれ等による角度誤差Δθは、アクチュエータ2におけるマイコン101の制御精度を低下させることとなる。
【0045】
そこで、図1に示すように、本実施形態のマイコン101は、上述の構成に加えて、角度誤差算出手段401、及び「補正値記憶手段」としての不揮発性メモリ45を備える。角度誤差算出手段401は、制御器301が出力した電圧指令値Vq、Vdに基づき角度誤差Δθを算出し、角度補正値として不揮発性メモリ45に記憶する。以後、回転角検出値θmから角度補正値Δθを差し引いて補正した値を「現実の回転角θ」とみなす。これにより、正しい回転角により制御することが可能となり、マイコン101の制御精度を向上させることができる。
【0046】
この角度誤差Δθは、一旦、ECU5をモータ801に組み付けたら、次にECU5をモータ801から取り外すまでは変化しない。そこで、初期製造時およびECU5の組み替え時にのみ、角度誤差Δθを検出する処理が必要となる。以下、この処理を、回転角センサ85の「(回転角センサ)角度誤差算出処理」といい、「通常の操舵アシスト時」とは一部異なる動作が実行される。
【0047】
続いて、「角度誤差算出処理」の動作について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、3相巻線を有するモータ801は、インバータ60から電力を供給される。電流検出器70は、巻線に供給される相電流Iu、Iv、Iwを検出する。これらの相電流検出値は、回転角θと共に3相2相変換手段251にフィードバックされ、3相2相変換手段251にてq軸電流検出値Iqおよびd軸電流検出値Idに変換される。
一方、電流指令値演算手段151は、通常の操舵アシスト時のように操舵トルク信号や車速信号の入力を必要とせず、0アンペア固定の電流指令値Iq*、Id*を指令する。
【0048】
ここで、回転軸81を回転角θだけ回転させるとモータ801から逆起電圧が発生し、3相巻線に電流が流れる。また、回転角センサ85のモータ801への取り付け位置ずれにより、回転角センサ85の回転角検出値θmと現実の回転角θとの間には、上述の式1(Δθ=θm−θ)で表される角度誤差Δθが生ずる。
仮に回転角センサ85の取り付け位置ずれが無く、角度誤差Δθが0の場合、d軸電流検出値Idは0となる。しかし、回転角センサ85の取り付け位置ずれが有る場合は、角度誤差Δθおよびd軸電流検出値Idは0以外の値を取る。
【0049】
d軸電流検出値Idが0でない場合、制御器301は、電流検出値Iq、Idをそれぞれ電流指令値Iq*、Id*である0アンペアに一致させるように電圧指令値Vq、Vdを演算し、2相3相変換手段351に出力する。2相3相変換手段351は、電圧指令値Vq、Vdを3相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換してインバータ60に出力する。
なお、この3相電圧指令値Vu、Vv、Vwは、角度誤差Δθ分の逆起電圧をキャンセルするように作用する。
【0050】
角度誤差算出手段401は、制御器301から電圧指令値Vq、Vdを入力し、次式2により系統毎に角度誤差Δθを算出する(図5参照)。
Δθ=ATAN(Vd/Vq)・・・(式2)
【0051】
ここで、図5(a)、(c)、(e)は、回転軸81の回転数と電圧指令値Vq、Vdとの関係を示し、図5(b)、(d)、(f)は、電圧指令値(ベクトル)Vq、Vdと角度誤差Δθとの関係を示す。
図5(c)、(d)はΔθ=0、Δθ=0のときを示し、回転角検出値θmと現実の回転角θとが一致していることを意味する。また、図5(a)、(b)は、Vd>0、Δθ>0のときを示し、図5(e)、(f)はVd<0、Δθ<0のときを示す。Δθ≠0の場合、回転角検出値θmの補正が必要となる。
【0052】
そして、角度誤差Δθを不揮発性メモリ45に保存する。
以後、マイコン101は、角度誤差Δθを角度補正値として使用する。すなわち、「回転角センサ85の回転角検出値θmから角度補正値Δθを差し引いた値」を補正後の回転角θとして制御を実行する。具体的には、3相2相変換手段251および2相3相変換手段351に対して、補正後の回転角θが入力される(図1参照)。
【0053】
次に、上述の構成によるマイコン101が実行する角度誤差算出処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。以下のフローチャートで記号Sは「ステップ」を示す。
【0054】
S00では、電流指令値Iq*、Id*をいずれも0アンペアに設定する。
S10では、モータ801の回転軸81を外部から回転させる。具体的には、ハンドル91を回し、ステアリングシャフトを回転させる(図2参照)。このとき、車両の車輪98が接地していると摩擦抵抗により回転軸に回転負荷がかかることになる。そこで、車両をジャッキアップするか、摩擦係数の少ない路面(例えば氷面)上でハンドル91の回転操作を実施することが望ましい。
【0055】
S20では、回転軸81の回転数(単位時間あたりの回転角)が所定範囲内であるか否かを判断する。回転数が所定範囲の下限未満の場合、回転負荷のため回転軸81を適切に回転させることができなかったと考えられる。また、回転数が所定範囲の上限を超える場合は、回転角センサ85の検出能力を超えて高速で回転されたと考えられる。
S20でNOの場合、必要であれば車両の接地状態を変更した後、S10の処理を再実行する。S20でYESの場合、次のステップに移行する。
【0056】
S30では、電流検出器70によりモータ80巻線に流れる電流を検出する。
S40では、3相2相変換を実施する。
S50では、制御器301は電圧指令値Vq、Vdを出力する。
S60では、角度誤差算出手段401は、電圧指令値Vq、Vdを入力する。
S70では、角度誤差算出手段401は、角度誤差Δθを算出する。
S90では、Δθを角度補正値として不揮発性メモリ45に保存する。
【0057】
第1実施形態のマイコン101によると、モータ801を車両に取り付けた状態で回転角センサ85の角度誤差Δθを算出することができる。したがって、例えば、マイコン101を含むECU5がモータ801と分離可能に構成されており、ECU5のみを交換した場合には、モータ801を車両から取り外さなくても、回転角センサ85の取り付け位置ずれに対する角度補正値Δθを設定することができる。
【0058】
具体的には、車輪98と路面との摩擦の影響を受けない状況でハンドル91を回転させることにより逆起電圧を発生させ、回転角センサ85が検出した回転角検出値θmと現実の回転軸81の回転角θとの差分である角度誤差Δθを算出する。
このとき、モータ801の回転数が所定の範囲内にあるときに限り、角度誤差Δθの算出処理を実行する。すなわち、回転数が所定範囲の下限未満の場合、回転負荷のため回転軸81を適切に回転させることができなかったと判断し、処理を実行しない。また、回転数が所定範囲の上限を超える場合、回転角センサ85の検出能力が追従することができないと判断し、処理を実行しない。
これにより、誤った角度誤差Δθ値を算出することを未然に防止することができる。
【0059】
次に、第2〜第4実施形態の制御装置は、第1実施形態と同様、電動パワーステアリング装置に適用され、多相回転機としての3相モータを駆動するマイコンである。ただし、3相モータが2組の巻線組で構成され、2組の巻線組に対応する2系統のインバータをマイコンが制御する点が第1実施形態と異なる。なお、以下の実施形態の説明において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態の制御装置について、図7、8を参照して説明する。
図7に示すように、第2実施形態では、2組の3相巻線を有するモータ802は、2系統のインバータ601、602から電力を供給される。電流検出器701は、第1系統の巻線に供給される相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出し、電流検出器702は、第2系統の巻線に供給される相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出する。これらの相電流は、マイコン102(「制御装置」)の3相2相変換手段252にて系統毎にq軸電流検出値Iq1、Iq2およびd軸電流検出値Id1、Id2に変換される。
一方、電流指令値演算手段152は、0アンペア固定の電流指令値Iq1*、Id1*、Iq2*、Id2*を指令する。
【0061】
ここで、回転軸81を回転角θだけ回転させるとモータ802から逆起電圧が発生し、2組の3相巻線に電流が流れる。また、回転角センサ85のモータ802への取り付け位置ずれにより、回転角センサ85の回転角検出値θmと現実の回転角θとの間には、式1(Δθ=θm−θ)で表される角度誤差Δθが生ずる。
仮に回転角センサ85の取り付け位置ずれが無く、角度誤差Δθが0の場合、d軸電流検出値Id1、Id2は0となる。しかし、回転角センサ85の取り付け位置ずれが有る場合には、角度誤差Δθおよびd軸電流検出値Id1、Id2は0以外の値を取る。
【0062】
d軸電流検出値Id1、Id2が0でない場合、制御器302は、電流検出値Iq1、Id1、Iq2、Id2をそれぞれ電流指令値Iq1*、Id1*、Iq2*、Id2*である0アンペアに一致させるように電圧指令値Vq1、Vd1、Vq2、Vd2を演算し、2相3相変換手段352に出力する。2相3相変換手段352は、電圧指令値Vq1、Vd1、Vq2、Vd2を3相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1、Vu2、Vv2、Vw2に変換して2系統のインバータ601、602に出力する。
なお、この3相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1、Vu2、Vv2、Vw2は、角度誤差Δθ分の逆起電圧をキャンセルするように作用する。
【0063】
角度誤差算出手段402は、制御器302から電圧指令値Vq1、Vd1、Vq2、Vd2を入力し、次式2a、2bにより系統毎に角度誤差Δθ1、Δθ2を算出する。
Δθ1=ATAN(Vd1/Vq1)・・・(式2a)
Δθ2=ATAN(Vd2/Vq2)・・・(式2b)
その後、フローチャートの説明で後述する異常判断を経て、正常の場合は、次式3により、Δθ1とΔθ2との平均値を算出して、不揮発性メモリ45に保存する。
Δθ=(Δθ1+Δθ2)/2・・・(式3)
以後、マイコン102は、角度誤差Δθを角度補正値として使用する。
【0064】
次に、上述の構成によるマイコン102が実行する角度誤差算出処理について図8のフローチャートを参照して説明する。
以下のフローチャートでは、前出のステップと実質的に同一のステップには同一のステップ記号を付す。また、系統数を1系統から2系統に変更すること等によって一部変更された対応するステップについては、ステップ記号の末尾の数字のみを変更して示す。
【0065】
S01では、電流指令値Iq1*、Id1*、Iq2*、Id2*をいずれも0アンペアに設定する。
S10、S20、S30については第1実施形態と同様である(図6参照)。
S41〜S71は、第1実施形態のS40〜S70に対し、系統数を1系統から2系統に変更したことにより、各ステップでの処理対象が2倍になっている。
S41では、系統毎に3相2相変換を実施する。
S51では、制御器302は電圧指令値Vq1、Vd1、Vq2、Vd2を出力する。
S61では、角度誤差算出手段402は、電圧指令値Vq1、Vd1、Vq2、Vd2を入力する。
S71では、角度誤差算出手段402は、第1系統、第2系統について、それぞれ角度誤差Δθ1、Δθ2を算出する。
【0066】
S81およびS82は第2実施形態に特有のステップである。
S81では、角度誤差の最大値Δθmaxから最小値Δθminを差し引いた値が所定値K未満であるか否かを判断する。2系統の場合は、単純にΔθ1とΔθ2とのうち大きい方の値が最大値Δθmaxとなり、小さい方の値が最小値Δθminとなる。
なお、3系統以上の複数系統に係る他の実施形態では、最大値Δθmaxと最小値Δθminとを特定した上で、それらの差分を算出することとなる。
【0067】
S81でNOの場合、S82に移行する。S82では異常と判断し、例えば警告ランプやブザー等の手段により使用者に知らせる。
ここで、「S81でNOの場合」とは、系統毎に検出した角度誤差Δθのうち最大値Δθmaxと最小値Δθminとが所定値K以上にばらついている場合である。この原因には、いずれかの系統のインバータまたは巻線が故障したことや、インバータや巻線は正常であるが検出時のノイズ等により正確な検出ができなかったこと等が考えられる。ノイズ等による検出不良の場合は、S01に戻り再度処理を実行すれば、次には正確な角度誤差Δθが得られる可能性がある。一方、インバータまたは巻線が故障した場合には部品の修理、交換が必要となる可能性がある。
【0068】
S81でYESの場合、S91に移行する。S91では2系統の角度誤差Δθ1およびΔθ2の平均値を全体の角度誤差Δθとして算出し、不揮発性メモリ45に保存する。
なお、3系統以上の複数系統に係る他の実施形態では、各系統の角度誤差の平均値を角度誤差Δθとして算出する。
【0069】
第2実施形態では、不揮発性メモリ45は、角度誤差算出手段402が2系統のインバータ601、602について算出した角度誤差Δθ1、Δθ2の平均値を角度補正値Δθとして記憶する。これにより、2系統間の角度誤差のばらつきに対し、最適な角度補正値Δθを設定することができる。
【0070】
また、角度誤差Δθ1、Δθ2の差が所定値K以上である場合、回転角センサ85が検出した回転角検出値が異常であると判断する。系統毎の角度誤差の差が、通常想定されるばらつきの範囲を超えている場合には異常が推定される。そこで、回転角検出値θmが異常であると判断することにより、誤った角度誤差Δθを算出し、以後、誤った角度補正値Δθにより誤った角度補正がされることを防止することができる。
さらに、回転角センサ85が検出した回転角検出値が異常であると判断したことを使用者に知らせる。これにより、迅速な対応が可能となる。
【0071】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態の制御装置について、図9、10を参照して説明する。
図9に示すように、第3実施形態では、2組の3相巻線を有するモータ802は、2系統のインバータ601、602から電力を供給される。電流検出器701は、第1系統の巻線に供給される相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出し、電流検出器702は、第2系統の巻線に供給される相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出する。これらの相電流は、マイコン103(「制御装置」)の3相2相変換手段252にて系統毎にq軸電流検出値Iq1、Iq2およびd軸電流検出値Id1、Id2に変換される。
一方、電流指令値演算手段152は、0アンペア固定の電流指令値Iq1*、Id1*、Iq2*、Id2*を指令する。
【0072】
ここで、回転軸81を回転角θだけ回転させるとモータ802から逆起電圧が発生し、2組の3相巻線に電流が流れる。また、回転角センサ85のモータ802への取り付け位置ずれにより、回転角センサ85の回転角検出値θmと現実の回転角θとの間には、式1(Δθ=θm−θ)で表される角度誤差Δθが生ずる。
仮に回転角センサ85の取り付け位置ずれが無く、角度誤差Δθが0の場合、d軸電流検出値Id1、Id2は0となる。しかし、回転角センサ85の取り付け位置ずれが有る場合には、角度誤差Δθおよびd軸電流検出値Id1、Id2は0以外の値を取る。
【0073】
d軸電流検出値Id1、Id2が0でない場合、制御器303は、電流検出値Iq1、Id1、Iq2、Id2をそれぞれ電流指令値Iq1*、Id1*、Iq2*、Id2*である0アンペアに一致させるように電圧指令値Vq1、Vd1、Vq2、Vd2を演算し、さらに電圧指令値Vq1とVq2、Vd1とVd2とをそれぞれ加算した電圧指令値VqおよびVdを2相3相変換手段352に出力する。2相3相変換手段352は、電圧指令値Vq、Vdを3相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1、Vu2、Vv2、Vw2に変換して2系統のインバータ601、602に出力する。
なお、この3相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1、Vu2、Vv2、Vw2は、角度誤差Δθ分の逆起電圧をキャンセルするように作用する。
【0074】
角度誤差算出手段401は、制御器303から電圧指令値Vq、Vdを入力し、式2により系統毎に角度誤差Δθを算出する。
Δθ=ATAN(Vd/Vq)・・・(式2)
そして、角度誤差Δθを不揮発性メモリ45に保存する。
以後、マイコン101は、角度誤差Δθを角度補正値として使用する。
【0075】
次に、上述の構成によるマイコン103が実行する角度誤差算出処理について図10のフローチャートを参照して説明する。
S01は、第2実施形態と同様である(図8参照)。
S10、S20、S30については第1実施形態と同様である(図6参照)。
S41では、系統毎に3相2相変換を実施する。
S52では、制御器303は、電圧指令値Vq1、Vd1、Vq2、Vd2を演算し、Vq=Vq1+Vq2、Vd=Vd1+Vd2 をそれぞれ加算して出力する。
S60、S70、S90については第1実施形態と同様である(図6参照)。
【0076】
第3実施形態では、角度誤差算出手段401は、2系統の電圧指令値の和Vq、Vdを全体の電圧指令値として扱うため、角度誤差算出手段401の演算負荷を低減することができる。
【0077】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態の制御装置について、図11、12を参照して説明する。
図11に示すように、第4実施形態では、2組の3相巻線を有するモータ802は、2系統のインバータ601、602から電力を供給される。電流検出器701は、第1系統の巻線に供給される相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出し、電流検出器702は、第2系統の巻線に供給される相電流Iu2、Iv2、Iw2を検出する。これらの相電流は、マイコン104(「制御装置」)の3相2相変換手段252にて系統毎にq軸電流検出値Iq1、Iq2およびd軸電流検出値Id1、Id2に変換された後、q軸電流検出値の和Iq(=Iq1+Iq2)およびd軸電流検出値の和Id(=Id1+Id2)がそれぞれ加算される。
一方、電流指令値演算手段151は、0アンペア固定の電流指令値Iq*、Id*を指令する。
【0078】
ここで、回転軸81を回転角θだけ回転させるとモータ802から逆起電圧が発生し、2組の3相巻線に電流が流れる。また、回転角センサ85のモータ802への取り付け位置ずれにより、回転角センサ85の回転角検出値θmと現実の回転角θとの間には、式1(Δθ=θm−θ)で表される角度誤差Δθが生ずる。
仮に回転角センサ85の取り付け位置ずれが無く、角度誤差Δθが0の場合、d軸電流検出値の和Id(=Id1+Id2)は0となる。しかし、回転角センサ85の取り付け位置ずれが有る場合には、角度誤差Δθおよびd軸電流検出値の和Id(=Id1+Id2)は0以外の値を取る。
【0079】
d軸電流検出値の和Idが0でない場合、制御器301は、電流検出値の和Iq、Idをそれぞれ電流指令値Iq*、Id*である0アンペアに一致させるように電圧指令値Vq、Vdを演算し、2相3相変換手段352に出力する。2相3相変換手段352は、電圧指令値Vq、Vdを3相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1、Vu2、Vv2、Vw2に変換して2系統のインバータ601、602に出力する。
なお、この3相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1、Vu2、Vv2、Vw2は、角度誤差Δθ分の逆起電圧をキャンセルするように作用する。
【0080】
角度誤差算出手段401は、制御器301から電圧指令値Vq、Vdを入力し、式2により系統毎に角度誤差Δθを算出する。
Δθ=ATAN(Vd/Vq)・・・(式2)
そして、角度誤差Δθを不揮発性メモリ45に保存する。
以後、マイコン101は、角度誤差Δθを角度補正値として使用する。
【0081】
次に、上述の構成によるマイコン104が実行する角度誤差算出処理について図12のフローチャートを参照して説明する。
S00、S10、S20、S30については第1実施形態と同様である(図6参照)。
S42では、系統毎に3相2相変換を実施する。さらに、電流指令値Iq=Iq1+Iq2、Id=Id1+Id2 をそれぞれ加算する。
S50、S60、S70、S90については第1実施形態と同様である(図6参照)。
【0082】
第4実施形態では、制御器301は、2系統の電流検出値の和Iq、Idを電流指令値Iq*、Id*である0アンペアに一致させるように演算する。これにより、制御器301の演算負荷を低減することができる。
【0083】
(その他の実施形態)
(ア)電力変換装置としてのインバータの構成、例えばスイッチング素子、電源リレー、電界コンデンサの仕様等は、図3に例示したものに限らない。
(イ)インバータ60等が実装されるパワー基板等は、マイコン101等が実装される制御基板と一体に設けられてもよく、分離可能に設けられてもよい。すなわち、制御装置としてのマイコン101等をモータ801等から取り外したとき、インバータ60等を含むパワー基板は、マイコン101側にあってもよく、モータ801側にあってもよい。
【0084】
(ウ)上記第2実施形態にて2系統の角度誤差Δθ1、Δθ2から平均値を算出するに当たっては、単純平均に限らず何らかの加重平均を算出してもよい。
(エ)上記第2〜第4実施形態では複数系統の例として2系統の場合を説明したが、3系統以上の場合にも同様に適用することができる。
【0085】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 ・・・電動パワーステアリング装置、
2 ・・・アクチュエータ
5 ・・・ECU、
101、102、103、104・・・マイコン(制御装置)、
151、152 ・・・電流指令値演算手段、
251、252 ・・・3相2相変換(電流変換手段)、
301、302 ・・・制御器(制御演算手段)、
351、352 ・・・2相3相変換手段、
401、402 ・・・角度誤差算出手段、
45 ・・・不揮発性メモリ(角度補正値記憶手段)、
601、602 ・・・インバータ(電力変換装置)、
611〜632 ・・・スイッチング素子、
701、702 ・・・電流検出器(電流検出手段)、
801、802 ・・・モータ(多相回転機)、
81 ・・・回転軸、
85 ・・・回転角センサ、
88 ・・・負荷、
Iq* ・・・q軸電流指令値、
Id* ・・・d軸電流指令値、
Iq ・・・q軸電流検出値、
Id ・・・d軸電流検出値、
Vq ・・・q軸電圧指令値、
Vd ・・・d軸電圧指令値、
θ ・・・(回転軸の)現実の回転角、
θm ・・・(回転角センサによる)回転角検出値、
Δθ ・・・角度誤差、角度補正値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相回転機を構成する巻線組に駆動電流を供給する電力変換装置の制御に用いられ、前記多相回転機の回転軸の回転角を検出する回転角センサが検出した回転角検出値、及び前記駆動電流を相毎に検出する電流検出手段が検出した多相電流検出値がフィードバックされ、前記電力変換装置に出力する電圧指令値を制御する多相回転機の制御装置であって、
前記電圧指令値は、前記多相回転機の回転軸を当該多相回転機の外部から回転させたときに前記駆動電流が0となるように演算され、
前記電圧指令値に基づいて、前記回転角センサが検出した回転角検出値と前記多相回転機の回転軸の現実の回転角値との差分である角度誤差を算出し、
前記回転角センサが検出した回転角検出値に対し、当該角度誤差に相当する角度を補正することを特徴とする多相回転機の制御装置。
【請求項2】
前記電流検出手段が検出した相毎の多相電流検出値を、互いに直交するd軸方向およびq軸方向の電流検出値に変換する電流変換手段と、
前記角度誤差を算出するとき、d軸方向およびq軸方向について、0アンペアの電流指令値を指令する電流指令値演算手段と、
d軸方向およびq軸方向について、前記電流検出値を前記電流指令値である0アンペアに一致させるように前記電圧指令値を演算する制御演算手段と、
前記制御演算手段が演算したd軸方向およびq軸方向についての前記電圧指令値に基づいて前記角度誤差を算出する角度誤差算出手段と、
前記角度誤差算出手段が算出した前記角度誤差を角度補正値として記憶する角度補正値記憶手段と、
を備え、
前記多相回転機の回転軸を当該多相回転機の外部から回転させたときに前記制御演算手段が演算するd軸方向およびq軸方向の前記電圧指令値をVdおよびVqとし、前記角度誤差をΔθとすると、前記角度誤差算出手段は、次式
Δθ=ATAN(Vd/Vq)
により、前記角度誤差を算出することを特徴とする請求項1に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項3】
前記多相回転機の回転軸を当該多相回転機の外部から回転させたとき、
前記多相回転機の回転数が所定の範囲内にあるときに限り、前記角度誤差を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項4】
多相回転機を構成する複数組の前記巻線組に対応して設けられる複数系統の前記電力変換装置の制御に用いられ、
前記角度補正値記憶手段は、
前記角度誤差算出手段が複数系統の前記電力変換装置について算出した系統毎の前記角度誤差の平均値を前記角度補正値として記憶することを特徴とする請求項2または3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記角度誤差算出手段が複数系統の前記電力変換装置について算出した系統毎の前記角度誤差の最大値と最小値との差が所定値以上である場合、前記回転角センサが検出した回転角検出値が異常であると判断することを特徴とする請求項4に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項6】
前記回転角センサが検出した回転角検出値が異常であると判断したことを使用者に知らせることを特徴とする請求項5に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項7】
多相回転機を構成する複数組の前記巻線組に対応して設けられる複数系統の前記電力変換装置の制御に用いられ、
前記角度誤差算出手段は、
前記制御演算手段が複数系統の前記電力変換装置について演算した系統毎の前記電圧指令値の和に基づいて前記角度誤差を算出することを特徴とする請求項2または3に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項8】
多相回転機を構成する複数組の前記巻線組に対応して設けられる複数系統の前記電力変換装置の制御に用いられ、
前記制御演算手段は、
前記電流変換手段が複数系統の前記電力変換装置について変換した系統毎の前記電流検出値の和を前記電流指令値である0アンペアに一致させるように演算することを特徴とする請求項2または3に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項9】
運転者の操舵を補助するためのアシストトルクを発生する多相回転機と、
前記多相回転機の巻線に駆動電流を供給する電力変換装置と、
前記多相回転機の回転軸の回転角を検出する回転角センサと、
前記電力変換装置から供給される駆動電流を検出する電流検出手段と、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置と、
前記多相回転機の回転をステアリングシャフトに伝達する動力伝達手段と、
を備えた電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−34281(P2013−34281A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168234(P2011−168234)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】