説明

導波路並びにそれを用いた光モジュール及び光増幅器

【課題】非線形の発生効率の減少および広帯域化を可能にする非石英系ガラスにより構成された導波路を提供すること。
【解決手段】本発明に一実施形態は、フツリン酸ガラスにより構成されたコアとクラッドを有するフツリン酸ガラス導波路であって、コアとクラッドに含まれる燐酸(P25)のmol%CP1およびCP2とそれぞれにおける屈折率n1およびn2との関係を数式(1)のように定式化し、その範囲を数式(2)のように明確にする。数式(1):n1=α1+β1・CP1,n2=α2+β2・CP2、数式(2):1.44<n1,n2<1.46,1.40<α1,α2<1.43,0.002<β1,β2<0.0035,3<CP1,CP2<20。ここでα1、α2、β1、およびβ2は、コアおよびクラッドの組成によって決定されるパラメータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路並びにそれを用いた光モジュール及び光増幅器に関し、より詳細には、フツリン酸ガラス導波路並びにそれを用いた光モジュール及び光増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバ通信技術の急速な発展により、波長分割多重(WDM:Wavelcngth Division multiplexing)通信における、伝送信号の高密度化および高ビットレート化や、広帯域化が進んでいる。
【0003】
伝送信号の高密度化および高ビットレート化により、伝送路用ファイバ内において、非線形効果の影響(4光波混合(FWM)、相互位相変調(XPM)、自己位相変調(SPM)等)による伝送特性の劣化が問題となっている。この課題を解決するため、実効断面積の大きい伝送路用ファイバを用いることで、非線形現象を抑圧する方法が提案されている(非特許文献1参照)。さらに近年では、光ファイバ増幅器内においても、非線形効果の影響が課題として浮上しつつある。特にL帯のエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)は、増幅媒体であるエルビウム添加ファイバ(EDF)の所要長が長く非線形現象が増強されるため、深刻な問題となっている。この課題を克服するため、実効断面積の大きいEDFを用いることで、増幅媒体内の光パワー密度を減少させ、非線形現象を抑圧する方法が提案されている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、広帯域化については、従来の石英系ガラスをホストとする増幅用光ファイバでは増幅帯域が狹く(30nm程度)、この要請に十分対応できていなかった。そこで広帯域増幅が可能な非石英系光ファイバの研究が進んでいる。その例として、フッ化物ガラスファイバ、テルライトガラスファイバ、ビスマスガラスファイバ、カルコゲナイトガラスファイバ、フツリン酸ガラスファイバ等がある(非特許文献3〜6参照)。
【0005】
【非特許文献1】大薗和正、西尾友幸、山崎隆広、小野瀬智己、丹孝太郎、「高密度波長多重伝送用低非線形光ファイバ」、日立電線、2001年1月、第20号、p.7−10
【非特許文献2】春名徹也、角井素貴、高城政浩、田中正人、石川真二、「大口径コアEDFを用いた超低非線形Lバンド光増幅器」、SEIテクニカルレビュー、2005年3月、第166号、p.65−69
【非特許文献3】Atsushi Mori, Tadashi Sakamoto, Kenji Kobayashi, Koji Shikano, Kiyoshi Oikawa, Koichi Hoshino, Terutoshi Kanamori, Yasutake Ohishi, and Makoto Shimizu, “1.58-μm Broad-Band Erbium-Doped Tellurite Fiber Amplifier,” Journal of lightwave technology, vol. 30, no. 5, MAY 2002
【非特許文献4】Makoto Yamada, Terutoshi Kanamori, Yukio Terunuma, Kiyoshi Oikawa, Makoto Shimizu, Shoichi Sudo, and Kouichi Sagawa, “Fluoride-Based Erbium-Doped Fiber Amplifier with Inherently Flat Gain Spectrum,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 8, no. 7, JULY 1996
【非特許文献5】B. O. Guan, H. Y. Tam, S. Y. Liu, P. K. A. Wai, and N. Sugimoto, “Ultrawide-Band La-Codoped Bi2O3-Based EDFA for L-Band DWDM Systems,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 15, no. 11, NOVEMBER 2003
【非特許文献6】小野浩孝、中川幸一、山田誠、須藤昭一、「Er3+添加フツリン酸ガラスファイバの増幅特性」、1996年電子情報通信学会総合大会、p.326
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1記載の技術は、実効断面積を拡大すると非線形の発生効率は減少するが、曲げ損失も増加してしまうため十分な解決策ではなかった。非特許文献2記載の技術では、実効断面積を拡大すると非線形の発生効率は減少するが、EDFAの変換効率も減少してしまうため十分な解決策ではなかった。
【0007】
また、広帯域化については、広帯域増幅が可能な非石英系光ファイバとして上述した光ファイバの研究が行われているが、光モジュールあるいは光増幅器の低コスト化や高信頼化に重要な石英ガラスファイバと融着接続が出来ない点(フッ化物ガラスファイバ、テルライトガラスファイバ、カルコゲナイトガラスファイバ、フツリン酸ガラスファイバ等)、石英ガラスファイバと屈折率が異なるため、一般的な平行融着では反射が大きくなり困難度の高い斜め融着が必須な点(フッ化物ガラスファイバ、テルライトガラスファイバ、ビスマスガラスファイバ、カルコゲナイトガラスファイバ、フツリン酸ガラスファイバ等)、1dB/m以下の低損失化が困難な点(フツリン酸ガラスファイバでは従来10dB/m)、および耐候性が低い点(フッ化物ガラスファイバ、カルコゲナイトガラスファイバ等)という問題があった。
【0008】
以上では光ファイバについて言及してきたが、光導波路についても当てはまる問題である。以下、光ファイバおよび光導波路を含む、ガラスにより構成されたコアとクラッドを有する光の伝送媒体を「導波路」と呼ぶ。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、上記問題点を解決した非石英系ガラスにより構成された導波路を提供することにある。その第2の目的は、そのような導波路を伝送路として用いた光モジュール、およびそのような導波路を増幅媒体として用いた光増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る導波路は、コアおよびクラッドを構成するガラスとしてフツリン酸ガラスを用い、前記導波路が低非線形性に優れていることを特徴とする。
【0011】
本発明の光増幅器は、増幅媒体として用いるフツリン酸ガラス導波路が低非線形性、広帯域増幅特性、低反射・低損失融着接続、低導波路損失、高耐候性、導波路作製時の熱安定性、高効率化を実現していることを特徴とする。
【0012】
請求項1記載の発明は、コアとクラッドに含まれる燐酸(P25)のmol%CP1およびCP2とそれぞれにおける屈折率n1およびn2との関係を数式(1)のように定式化し、その範囲を数式(2)のように明確していることを特徴とする。
1=α1+β1・CP1,n2=α2+β2・CP2 (1)
1.44<n1,n2<1.46,1.40<α1,α2<1.43,0.002<β1,β2<0.0035,3<CP1,CP2<20 (2)
ここでα1、α2、β1、およびβ2は、コアおよびクラッドの組成によって決定されるパラメータである。この式に従って所望の屈折率を実現可能な燐酸量を決定することが出来る。またこの屈折率と燐酸量との関係を満たした組成のフツリン酸ガラスは、石英ガラスにより構成された光ファイバまたは光導波路との低反射・低損失融着、低非線形、低導波路損失、高耐候性、広帯域増幅特性、導波路作製時の熱安定性(結晶化温度−ガラス転移温度>100K)、高効率増幅特性を同時に満たすことも特徴である。
【0013】
請求項2記載の発明は、コアとクラッドに含まれるアルミン酸(Al23)のmol%CA1およびCA2とそれぞれにおける屈折率n1およびn2との関係を数式(3)のように定式化し、その範囲を数式(4)のように明確していることを特徴とする。
1=α1’+β1’・CA1,n2=α2’+β2’・CA2 (3)
1.44<n1,n2<1.46,1.42<α1’,α2’<1.44,0.0015<β1’,β2’<0.0025,1<CA1,CA2<30 (4)
ここでα1’、α2’、β1’、およびβ2’は、コアおよびクラッドの組成によって決定されるパラメータである。この式に従って所望の屈折率を実現可能なアルミン酸量を決定することが出来る。またこの屈折率とアルミン酸量との関係を満たした組成のフツリン酸ガラスは、石英ガラスにより構成された光ファイバまたは光導波路との低反射・低損失融着、低非線形、低導波路損失、高耐候性、広帯域増幅特性、導波路作製時の熱安定性(結晶化温度−ガラス転移温度>100K)、高効率増幅特性を同時に満たすことも特徴である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の条件を同時に満たすことで低反射・低損失融着、低非線形性、低導波路損失性、高耐候性、広帯域増幅特性、導波路作製時の熱安定性(結晶化温度−ガラス転移温度>100K)、高効率増幅特性をさらに改善していることが特徴である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路であって、AlF3、CaF2、SrF2、MgF2、BaF2、PbF2、ZnF2、NaF、LiF、KF、およびLaF3のうちの少なくとも1つ以上のフッ化物原料を含有していることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のフツリン酸ガラス導波路であって、AlF3は10〜45mol%、CaF2は10〜60mol%、SrF2は0〜30mol%、MgF2は0〜30mol%、BaF2は0〜30mol%、PbF2は0〜20mol%、ZnF2は0〜20mol%、NaF2は0〜40mol%、LiF2は0〜40mol%、KFは0〜15mol%、LaF3は0〜10mol%であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路であって、前記コアに希土類イオンを含んでいることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、フツリン酸ガラス導波路が石英ガラスにより構成された光ファイバまたは光導波路と融着された光モジュールであることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項1から6のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路が石英ガラスにより構成された光ファイバまたは光導波路と融着された光モジュールであって、前記フツリン酸ガラス導波路は光ファイバであることを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の光モジュールであって、フツリン酸ガラスの屈折率と石英ガラスの屈折率との差が0.028以下であることを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が全く拡散されていないことを特徴とする。
【0022】
請求項11に記載の発明は、請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が前記光ファイバの長手方向1μm以下の範囲で拡散されていることを特徴とする。
【0023】
請求項12に記載の発明は、請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が前記光ファイバの長手方向1〜5μmの範囲で拡散されていることを特徴とする。
【0024】
請求項13に記載の発明は、請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が前記光ファイバの長手方向5〜10μmの範囲で拡散されていることを特徴とする。
【0025】
請求項14に記載の発明は、請求項7〜13のいずれかに記載の光モジュールであって、有着によってガラスが盛り上がった部分の前記光ファイバの長手方向の距離が10μm以下であることを特徴とする光モジュール。
【0026】
請求項15に記載の発明は、請求項7〜13のいずれかに記載の光モジュールであって、有着によってガラスが盛り上がった部分の前記光ファイバの長手方向の距離が10〜100μmであることを特徴とする光モジュール。
【0027】
請求項16に記載の発明は、請求項7〜15のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路を増幅媒体として用いた光増幅器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
予め定めた関係式を満たすフツリン酸ガラスにより導波路のコアおよびクラッドを構成することにより、低非線形性、石英ガラスにより構成された光ファイバまたは光導波路との低反射・低損失融着、低導波路損失、高耐候性、広帯域増幅特性、導波路作製時の熱安定性(結晶化温度−ガラス転移温度>100K)、高効率増幅特性を実現できる導波路を提供することができる。
【0029】
また、このような導波路を伝送路として用いて光モジュール、増幅媒体として用いて光増幅器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、数式(1)および(2)で表した、コアとクラッドに含まれる燐酸(P25)のmol%CP1およびCP2とそれぞれにおける屈折率n1およびn2との関係を示すグラフである。αおよびβは、コアおよびクラッドについてそれぞれの組成によって一意に決定されるものであり、燐酸の添加量に対してある程度加成性が成り立つことを前提としている。図中の斜線で示した範囲はその加成性が成り立つ組成に対して考えられる屈折率範囲を表したものである。図中では単に燐酸量の範囲を示しているように見えるが、あくまでも数式(1)および(2)で示した式に沿うことが条件となっているので、単なる1つ側面(1つのパラメータを切り出しただけのもの)でしかない。
【0031】
数式(2)に記載のαおよびβの範囲は融着の可否により決定した。図2はαをX軸、βをY軸として、接続損失0.5dB/point以下での融着の可否をプロットした図である。○は融着可、×は融着不可を表している。図から分かるように1.40<α<1.43、0.002<β<0.0035の範囲で融着が可能であり、数式(2)に記載のαおよびβの範囲の根拠とする。
【0032】
図3は、数式(1)および(2)に記載の関係式に従う組成の結晶化温度(Tx)とガラス転移点(Tg)の差(Tx−Tg)の燐酸量依存性をプロットした図である。ここで結晶化とは、失透と同義である。図から分かるように燐酸量が6mol%より大きくなるとTx−Tgは100K以上になる。Tx−Tg>100Kであると導波路作製時に結晶化をある程度抑制することが出来るので6mol%以上にするのが有効である。しかしながら燐酸量が20mol%を超えると結晶化が発生する。よって燐酸量を3mol%以上20mol%以下にするのが適当である。これを数式(2)の燐酸量範囲の根拠とする。
【0033】
図4は、燐酸量に対する1200nmでのファイバ損失をプロットした図である。図から分かるように燐酸量20mol%以下でファイバ損失が1dB/m以下となり燐酸量を20mol%以下にするのが望ましい。
【0034】
数式(3)および(4)に記載のαおよびβの範囲は融着の可否により決定した。図5はαをX軸、βをY軸として、接続損失0.5dB/point以下での融着の可否をプロットした図である。○は融着可、×は融着不可を表している。図から分かるように1.42<α<1.44、0.0015<β<0.0025の範囲で融着が可能であり、数式(4)に記載のαおよびβの範囲の根拠とする。
【0035】
図6は、数式(3)および(4)に記載の関係式に従う組成の結晶化温度(Tx)とガラス転移点(Tg)の差(Tx−Tg)のアルミン酸量依存性をプロットした図である。図から分かるようにアルミン酸量が1mol%より大きくなるとTx−Tgは100K以上になる。Tx−Tg>100Kであると導波路作製時に結晶化をある程度抑制することが出来るので6mol%以上にするのが有効である。しかしながらアルミン酸量が30mol%を超えると結晶化が発生する。よってアルミン酸量を1mol%以上30mol%以下にするのが適当である。これを数式(4)のアルミン酸量範囲の根拠とする。
【0036】
また、AlF3は耐候性を向上させる有効な成分であるが、10mol%以下ではその効果は小さく、また45mol%を超えるとガラスの溶融性が低下する。したがってAlF3の組成範囲を10mol%から45mol%に限定するのが望ましい。またCaF2、SrF2、MgF2、BaF2、ZnF2、PbF2は、ガラス中へのフッ素の添加を助長するとともに、結晶化を抑制することができる有効な成分である。CaF2、SrF2、MgF2、BaF2、ZnF2、PbF2はそれぞれ60、30、30、30、20、20mol%を超えると結晶化しやすくなるので、それぞれ0〜60、0〜30、0〜30、0〜30、0〜20、0〜20mol%の範囲にするのが望ましい。また、NaF、LiF、KFは溶融温度を下げ、かつ粘性を減少させる成分である。しかしながら、それぞれ40mol%、40mol%、15mol%を超えると耐候性が低下するため、それぞれ0〜40、0〜40、0〜15mol%の範囲にするのが望ましい。LaF3は添加によって化学的耐久性と機械的性質を向上させるが、10mol%を超えると結晶化しやすくなるので、0〜10mol%の範囲にするのが望ましい。
【0037】
図7は、アルミン酸量に対する1200nmでのファイバ損失をプロットした図である。図から分かるようにアルミン酸量30mol%以下でファイバ損失が1dB/m以下となりアルミン酸量を30mol%以下にするのが望ましい。
【0038】
図8は、石英ファイバ(屈折率:nS)とフツリン酸ガラス(屈折率:nP)の屈折率差(|nS−nP|)によって生じる反射量をプロットした図である。屈折率差0.028以下で反射損失が40dB以上、0.009以下で50dB以上達成可能であることが分かる。40dB以上の屈折率差があればフツリン酸ガラス導波路を組み込んだ光増幅器において、利得20dB程度でも融着点の反射率に起因するアンプのレーザ発振は発生しない。また、上記の値は材料や融着条件により多少前後する場合もある。
【0039】
図9は、接続損失が0.1dB以下、0.5dB以下、1dB以下を達成時の融着接続の歩留まりをフツリン酸ガラスと石英ガラスとの融着部での拡散領域に対してプロットした図である。融着部分では接続時に2つのガラスの成分が混合し拡散することによって接合する場合もある。拡散領域が増加するほど強固な接合性を得られ歩留まりは上昇するが、同時に導波構造も崩れるため接続損失の上昇が発生する。要求される接続損失に合わせて拡散領域を設定することで、効率的な歩留まりを設定することが可能である。図では0.1dB以下の歩留まりのピークは拡散領域1μm、0.5dB以下の場合は5μm、1dB以下の場合は10μmとなっているが、ガラス組成や融着条件によって異なる場合もある。
【0040】
図10に、融着の歩留まりを融着部分においてガラスが盛り上がった部分の光ファイバ長手方向の距離(溶融長)に対してプロットした図である。溶融長が増加するほど強固な接合性を得られ歩留まりは上昇するが、同時に導波構造も崩れるため接続損失の上昇が発生する。要求される接続損失に合わせて溶融長を設定することで、効率的な歩留まりを設定することが可能である。図では0.1dB以下の歩留まりのピークは溶融長1μm、0.5dB以下の場合は10μm、1dB以下の場合は100μmとなっているが、ガラス組成や融着条件によって異なる場合もある。また、図9と関連して述べると、溶融領域と拡散領域は必ずしも一致するものではない。極端な例として溶融領域があっても石英ガラスファイバとフツリン酸ガラスファイバの界面で接合し、拡散領域が全く存在しない場合も有り得る。また石英ガラスファイバに対してフツリン酸ガラスファイバの融点が低くなる場合が多いので、フツリン酸ガラスファイバのみが溶融するもしくは溶融量が大きくなることが多い。また融着時の溶融温度に関しては、2つの異なる組成のガラスが接触して化学反応を起こし、溶融の活性化エネルギーを低下させることもあるのでそれぞれガラスの軟化温度で溶融が発生するとは限らない。
【0041】
また、本明細書記載の導波路の屈折率は1.55μmでの値である。フツリン酸ガラスは、燐酸とフッ化物原料(AlF3、CaF2、SrF2、MgF2、BaF2、PbF2、ZnF2、NaF、LiF、KF、LaF3等)を混合して形成されるガラス物質を意味する。さらにAl23、Li2O、Na2O、K2O等の酸化物をさらに加えてガラス状態を形成する場合もフツリン酸ガラスの範疇に含まれる。
【0042】
また、ファイバレーザへの応用も容易に可能である。
【0043】
実施例1
図11は、実施例1に係る光増幅器を示している。導波路としてフツリン酸ガラスファイバを用いた光ファイバ増幅器である。図において、1−1は増幅用フツリン酸ガラスファイバ、2−1、2−2は光アイソレータ、3−1、3−2は励起光と信号光を合波する合波器、4−1、4−2は励起光源であり、双方向励起構成である。同様にして、図12は前方励起構成、図13は後方励起構成の場合の構成図を示している。
【0044】
図14は、本実施例に係る光ファイバ増幅器の増幅特性の評価系を示している。図において5−1〜5−6は波長可変光源、6は各波長可変光源の信号光を合波する合波器、7は信号光量を調整する光アッテネータ、8は図11、図12、図13のいずれか若しくはこれらを組み合わせた光ファイバ増幅器、9は光ファイバ増幅器8で増幅された信号光を検出する光スペクトラムアナライザである。波長可変光源5−1〜5−6の信号波長は、1560、1570、1580、1590、1600、1610nmである。
【0045】
図15は、数式(1)および(2)の関係式に従うフツリン酸ガラスの利得および雑音スペクトルである。増幅用フツリン酸ガラスファイバのコア組成は、P25が10mol%、Al23が3mol%、AlF3が40mol%、CaF2が25mol%、SrF2が7mol%、MgF2が8mol%、BaF2が7mol%である。クラッド組成は、P25が7mol%、Al25が3mol%、AlF3が40mol%、CaF2が26mol%、SrF2が8mol%、MgF2が9mol%、BaF2が7mol%であり、エルビウム添加濃度は5000ppmである。また、ファイバ長は6m、比屈折率差は0.65%であり、コア屈折率は石英とほぼ同じ1.45、ファイバ損失1dB/m(@1200nm)である。石英ガラスファイバとフツリン酸ガラスファイバの接続損失は0.3dB/point、反射損失は51dBである。アンプ構成は図11の双方向励起構成を用いている。また励起光源には1.48μmLDでそれぞれ100mW、入力信号光パワーは−12dBm/chである。図から分かるようにピーク利得20dB以上で1570〜1600nmまでほぼ利得平坦な利得スペクトルを実現している。また同条件で石英ガラスファイバと比較した場合、6nm程度の増幅帯域の拡大に成功している。
【0046】
図16に同条件で測定したファイバ損失10dB/m(@1200nm)の利得スペクトルのファイバ長依存性の結果を示す。本ファイバの組成は本発明の範囲から外れた組成であり、その結果、高ファイバ損失(10dB/m)となっている。図15と同じ6mのファイバ長で辛うじてL帯への利得シフトを実現しているが、利得は5dB以下L帯アンプとしては不十分である。よって本発明によりファイバの低損失化を実現すると共にL帯高利得増幅を初めて可能にした。さらに従来の石英EDFと比較実験を行った結果を示す。
【0047】
表1に、本発明に係るコアおよびクラッドを構成するフツリン酸ガラスの組成、およびアンプ構成を変えたときの増幅特性の結果を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
「接続損失」および「反射損失」は、石英ガラスファイバとフツリン酸ガラスファイバとの接続損失および反射損失を表している。また励起パワーは増幅帯域内で利得平坦となるように設定している。いずれのアンプもL帯において高利得が得られている。また反射損失は図8に示すように屈折率の整合度に依存する。また表1の8および9行目に、Erイオンの代わりにTmイオンおよびPrイオンを添加した場合の結果をそれぞれ併記した。Tmの場合は信号波長が1480、1490、1500、1510nm(−12dBm/ch)、励起光パワーが200mW(前方)+200mW(後方)(励起波長:1410nm)である。Prの場合は信号波長が1280、1290、1300、1310nm(−12dBm/ch)、励起光パワーが200mW(前方)+200mW(後方)(励起波長:1047nm)である。
【0050】
次に低非線形石英系EDFと4光波混合について比較した実験結果を示す。図17は実験の構成図を示している。10−1〜10−3は波長可変光源、11−1〜11−3は偏波コントローラ、12は信号光を合波する合波器、13−1、13−2は光アイソレータ、14はフツリン酸EDFもしくは比較に用いる低非線形石英系EDF、15−1、15−2は励起光源、16は光スペクトラムアナライザである。信号光は、1579.7nm(0dBm)、1580.0nm(0dBm)、1580.3nm(−3dBm)である。励起光パワー前方150mW、後方200mWである。また、フツリン酸ガラスファイバのファイバ長は6m、Er濃度は5000ppmである。
【0051】
図18は、アンプの出力スペクトルである。入力した信号波長の両脇に2波ずつFWMが発生している。フツリン酸EDFは、石英EDFに対してFWM抑圧を実現している。図19は、FWMクロストークの出力信号光パワー依存性を示した図である。FWMクロストークとは隣接信号チャネルとFWMパワーの比を意味する。図から分かるように石英ガラスファイバに対して5.5dBのFWMクロストークの改善を実現している。
【0052】
実施例2
図20は、実施例2に係る光増幅器を示している。導波路としてフツリン酸ガラスファイバを用いた光ファイバ増幅器である。図において、17−1〜17−6は波長可変光源、18は各波長可変光源の信号光を合波する合波器、19は信号光量を調整する光アッテネータ、20は伝送路用フツリン酸ガラスファイバ、21は伝送後の信号光を検出する光スペクトラムアナライザである。
【0053】
フツリン酸ガラスファイバのコア組成は、P25が9mol%、Al23が2.5mol%、AlF3が39.5mol%、CaF2が25mol%、SrF2が7mol%、MgF2が8mol%、BaF2が7mol%、PbF2が0.5mol%、ZnF2が0.5mol%、NaF2が0.5mol%、LiF2が0.5mol%、KFが0.5mol%、LaF3が0.5mol%である。クラッド組成は、P25が6mol%、Al23が2.5mol%、AlF3が39.5mol%、CaF2が26mol%、SrF2が8mol%、MgF2が9mol%、BaF2が7mol%、PbF2が0.5mol%、ZnF2が0.5mol%、NaF2が0.5mol%、LiF2が0.5mol%、KFが0.5mol%、LaF3が0.5mol%である。また、ファイバ長は20kmであり、コア屈折率は石英ガラスとほぼ同じ1.45、ファイバ損失0.5dB/km(@1550nm)である。石英ガラスファイバとフツリン酸ガラスファイバとの接続損失は0.2dB/point、反射損失は50.5dB、溶融長は20μm、拡散領域は3μmである。波長可変光源の光周波数はそれぞれ189740GHz、189840GHz、189940GHz、190140GHz、190240GHz、190340GHzである。またそれぞれの信号光パワーはフツリン酸ガラスファイバ入力端で3dBm/chである。伝送後の波形を図21に示す。左右の3波ずつのスペクトルは6chの信号光のスペクトルを表している。中央の実線のスペクトルはFWMによって発生した光のスペクトルを表している。点線の光スペクトルはフツリン酸ガラスファイバの代わりに石英ガラスファイバ(20km、0.5dB/km)を用いた場合を表している。図からわかるようにフツリン酸ガラスファイバを用いることにより、石英ガラスファイバに対して20dBのFWM抑圧に成功している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】燐酸量とフツリン酸ガラスの屈折率との関係を示す図である。
【図2】数式(2)で表されるαとβの関係を示す図である。
【図3】燐酸量とTx−Tgとの関係を示す図である。
【図4】燐酸量とファイバ損失(@1200nm)との関係を示す図である。
【図5】数式(4)で表されるαとβの関係を示す図である。
【図6】アルミン酸量とTx−Tgとの関係を示す図である。
【図7】アルミン酸量とファイバ損失(@1200nm)との関係を示す図である。
【図8】光ファイバの屈折率差と反射損失との関係を示す図である。
【図9】拡散領域と各接続損失が達成可能な歩留まりとの関係を示す図である。
【図10】溶融長と各接続損失が達成可能な歩留まりとの関係を示す図である。
【図11】双方向励起時のアンプ構成を示す図である。
【図12】前方向励起時のアンプ構成を示す図である。
【図13】後方向励起時のアンプ構成を示す図である。
【図14】増幅特性の評価系を表す図である。
【図15】フツリン酸EDFAと石英EDFAの利得およびNFスペクトルを示す図である。
【図16】フツリン酸ガラスファイバにおける利得スペクトルおよびNFスペクトルのファイバ長依存性を示す図である。
【図17】4光波混合の評価系を示す図である。
【図18】4光波混合発生時の出力スペクトルを示す図である。
【図19】4光波混合クロストークのアンプ信号出力依存性を示す図である。
【図20】4光波混合の評価系を示す図である。
【図21】伝送後の4光波混合発生時の出力スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1−1 増幅用フツリン酸ガラスファイバ(フツリン酸ガラス導波路に相当)
8 光ファイバ増幅器(光増幅器に相当)
14 フツリン酸EDF
20 伝送路用フツリン酸ガラスファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フツリン酸ガラスにより構成されたコアとクラッドを有するフツリン酸ガラス導波路であって、
前記コアおよび前記クラッドに含まれる燐酸(P25)のmol%CP1およびCP2とそれぞれにおける屈折率n1およびn2との関係が
1=α1+β1・CP1,n2=α2+β2・CP2
であり、
1、n2、α1、α2、β1、β2、CP1およびCP2
1.44<n1,n2<1.46,1.40<α1,α2<1.43,0.002<β1,β2<0.0035,3<CP1,CP2<20
を満たすことを特徴とするフツリン酸ガラス導波路。
【請求項2】
アルミン酸(Al23)を含むフツリン酸ガラスにより構成されたコアとクラッドを有するフツリン酸ガラス導波路であって、
前記コアおよび前記クラッドに含まれるアルミン酸のmol%CA1およびCA2とそれぞれにおける屈折率n1およびn2との関係が
1=α1’+β1’・CA1,n2=α2’+β2’・CA2
であり、
1、n2、α1’、α2’、β1’、β2’、CA1およびCA2
1.44<n1,n2<1.46,1.42<α1’,α2’<1.44,0.0015<β1’,β2’<0.0025,1<CA1,CA2<30
を満たすことを特徴とするフツリン酸ガラス導波路。
【請求項3】
前記コアおよび前記クラッドに含まれるアルミン酸のmol%CA1およびCA2とそれぞれにおける屈折率n1およびn2との関係が
1=α1’+β1’・CA1,n2=α2’+β2’・CA2
であり、
α1’、α2’、β1’、β2’、CA1およびCA2
1.42<α1’,α2’<1.44,0.0015<β1’,β2’<0.0025,1<CA1,CA2<30
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のフツリン酸ガラス導波路。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路であって、AlF3、CaF2、SrF2、MgF2、BaF2、PbF2、ZnF2、NaF、LiF、KF、およびLaF3のうちの少なくとも1つ以上のフッ化物原料を含有していることを特徴とするフツリン酸ガラス導波路。
【請求項5】
請求項4に記載のフツリン酸ガラス導波路であって、AlF3は10〜45mol%、CaF2は10〜60mol%、SrF2は0〜30mol%、MgF2は0〜30mol%、BaF2は0〜30mol%、PbF2は0〜20mol%、ZnF2は0〜20mol%、NaF2は0〜40mol%、LiF2は0〜40mol%、KFは0〜15mol%、LaF3は0〜10mol%であることを特徴とするフツリン酸ガラス導波路。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路であって、前記コアに希土類イオンを含んでいることを特徴とするフツリン酸ガラス導波路。
【請求項7】
フツリン酸ガラス導波路が石英ガラスにより構成された光ファイバまたは光導波路と融着された光モジュール。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路が石英ガラスにより構成された光ファイバまたは光導波路と融着された光モジュールであって、前記フツリン酸ガラス導波路は光ファイバであることを特徴とする光モジュール。
【請求項9】
請求項7または8に記載の光モジュールであって、フツリン酸ガラスの屈折率と石英ガラスの屈折率との差が0.028以下であることを特徴とする光モジュール。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が全く拡散されていないことを特徴とする光モジュール。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が前記光ファイバの長手方向1μm以下の範囲で拡散されていることを特徴とする光モジュール。
【請求項12】
請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が前記光ファイバの長手方向1〜5μmの範囲で拡散されていることを特徴とする光モジュール。
【請求項13】
請求項7〜9のいずれかに記載の光モジュールであって、融着部分のガラス成分が前記光ファイバの長手方向5〜10μmの範囲で拡散されていることを特徴とする光モジュール。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載の光モジュールであって、融着によってガラスが盛り上がった部分の前記光ファイバの長手方向の距離が10μm以下であることを特徴とする光モジュール。
【請求項15】
請求項7〜13のいずれかに記載の光モジュールであって、融着によってガラスが盛り上がった部分の前記光ファイバの長手方向の距離が10〜100μmであることを特徴とする光モジュール。
【請求項16】
請求項7〜15のいずれかに記載のフツリン酸ガラス導波路の前記コアが希土類イオンを含有し、前記フツリン酸ガラス導波路を増幅媒体として用いた光増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−92877(P2009−92877A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262587(P2007−262587)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】