説明

導電パターン形成装置及び表示装置

【課題】吐出不良の発生を防止することでインクジェットによるパターニング特性を向上することができる導電パターン形成装置の提供。
【解決手段】導電性微粒子を分散媒に分散してなるインクをインクジェットヘッド1のノズル2から吐出させることにより導電パターンを形成する導電パターン形成装置において、ノズル2近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を検知する分散媒蒸気圧検知装置3と、この分散媒蒸気圧検知装置3の検知結果に基づいて分散媒蒸気圧を制御する分散媒蒸気圧制御装置4とを備え、この分散媒蒸気圧検知装置3によりノズル2近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を検知し、その検知結果に基づいて分散媒蒸気圧制御装置4により分散媒蒸気圧を制御してインクジェットノズルの乾燥によるインク不吐出を防止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットノズルからインクを吐出させることにより導電パターンを形成する導電パターン形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメタルやPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PANI(ポリアニリン)といった導電性高分子の微粒子を液体に分散したインクをインクジェットでパターニングすることで導電パターンを形成する技術がさまざまに検討されている。
一般的なリンターも含め、インクジェット装置はノズルの乾燥による不吐出の可能性があるため、インクにさまざまな添加剤を添加することでノズルの詰まりを防止している。またインクジェット装置側でもインクの乾燥による吐出不良を防止するための工夫がなされている。
上記のような機能性のインクを用いる場合、インクへの余分な材料の添加を嫌うため、インクジェット装置側での不吐出防止が重要となる。
吐出不良防止法としては、例えば一定の時間放置した後にプリントする場合には予備吐出をしてノズルを回復させる方法がある。
特許文献1では、湿度に応じて予備吐出動作の開始時における初期駆動周波数を変更することで、低湿度によるインクの増粘に対応する方法が提案されている。具体的には、湿度が設定値よりも低い場合には初期駆動周波数を低くすることで、増粘したインクを吐出しやすくしている。
【特許文献1】特許第3332569号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したような予備吐出方式は、既に吐出しない状態になってしまっている場合には効果がないこと、及び余分にインクを消耗することなどの問題点がある。
また特許文献1の湿度に応じて初期駆動周波数を変更する方法では、インクの乾燥や増粘を防止するわけではないため、想定した以上に乾燥や増粘が起こった場合には、不吐出を完全に防止することはできないという問題があった。
そこで、本発明はこのような実情を鑑みてなされたものであり、吐出不良の発生を防止することでインクジェットによるパターニング特性を向上することができる導電パターン形成装置及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、導電性微粒子を分散媒に分散してなるインクをインクジェット手段のインクジェットノズルから吐出させることにより導電パターンを形成する導電パターン形成装置において、少なくとも、前記インクジェットノズル近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を検知する分散媒蒸気圧検知手段と、該分散媒蒸気圧検知手段の検知結果に基づいて分散媒蒸気圧を制御する分散媒蒸気圧制御手段と、を備えることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒蒸気圧制御手段は、前記インクジェットノズル近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧が飽和蒸気圧の70%以上となるように制御することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒が水であることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒が水に湿潤剤を添加したものであることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項4に記載の導電パターン形成装置において、前記湿潤剤がエチレングリコール系であることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の導電パターン形成装置において、前記インクジェットノズル近傍にカバーが設けられていることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒蒸気圧制御手段が前記分散媒と同種の液体を加熱する加熱装置であることを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の導電パターン形成装置において、溶媒蒸気圧を制御するために超音波ミスト発生手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の導電パターン形成装置を備えた表示装置を特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、分散媒蒸気圧検知手段によりインクジェットノズル近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を検知し、その検知結果に基づいて分散媒蒸気圧制御手段により分散媒蒸気圧を制御してインクジェットノズルの乾燥によるインク不吐出を防止するようにしたので、インクジェットによるパターニング効率、及び材料使用効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の導電パターン形成装置の構成を示した図である。
この図1に示すように本実施形態の導電パターン形成装置は、インクジェットノズル(以下、「ノズル」という)2を備えたインクジェットヘッド(インクジェット手段)1と、ノズル2近傍の分散媒の蒸気圧を検知する分散媒蒸気圧検知装置(分散媒蒸気圧検知手段)3と、分散媒蒸気圧検知装置3の検知結果に基づいて分散媒の蒸気圧を制御する分散媒蒸気圧制御装置(分散媒蒸気圧制御手段)4と、カバー5とにより構成される。カバー5はインクジェットヘッド1近傍の分散媒蒸気圧を制御し易くするためにインクジェットヘッド1を囲むように配置されている。なお、インクジェットヘッド1近傍の分散媒蒸気圧の制御を容易に行うことが可能で有るならばカバー5は必ずしも設ける必要はない。
基板6は、インクジェットヘッド1により導電パターンが形成される。なお、分散媒とは粒子が分散している媒質をいうものである。
分散媒蒸気圧検知装置3としては、インクの導電性微粒子を分散する分散媒の溶媒が水であれば湿度計、有機溶媒であれば溶媒成分を検知するガス濃度計が設けられる。
分散媒蒸気圧制御装置4としては、加熱方式や超音波をつかったミスト発生装置等を挙げることができる。
ノズル2近傍の分散媒蒸気圧は飽和蒸気圧の70%以上が望ましい。この範囲にすることでノズル2でのインク乾燥を抑えることができる。また分散媒として水を用いた場合はインクの安全性が高く取り扱いが容易になる。
【0007】
本実施形態の導電パターン形成装置においては、ノズル2近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を制御することでノズルでのインク乾燥を防止するようにしているので、インクの分散媒が水であってもインクの乾燥を防止することが可能であるが、インクに湿潤剤を添加することでさらに乾燥防止性を向上させることができる。湿潤剤としてはエチレングリコール系の材料が好適である。
従って、本実施形態の導電性パターン形成装置によれば、分散媒蒸気圧検知装置3によりノズル2近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を検知し、その検知結果に基づいて分散媒蒸気圧制御装置4により分散媒蒸気圧を制御してノズル2の乾燥によるインク不吐出を防止するようにしたので、インクジェットによるパターニング効率、及び材料使用効率の向上を図ることができるようになる。
以下、本発明の実施例に基づいて具体的に説明する。
【0008】
[実施例1]
先ず、実施例1においては分散媒として水を用いたPEDOTインクを図1に示した導電パターン形成装置を使ってパターニングを行った。このとき、インクジェットヘッド1から基板6までの空間を樹脂板で覆い、分散媒蒸気圧検知装置3として湿度センサーを設けた。また、分散媒蒸気圧制御装置4としては加熱による加湿装置を用いて分散媒蒸気圧が室温(23℃)での水の飽和蒸気圧(2800Pa)の70%以上である2000Paとなるように制御した。上記のように分散媒蒸気圧を制御しながらノズル2からインクを吐出させ、30分放置した後に再度インク吐出を行ったが、ノズル2からのインク吐出は良好であった。
ここで、実施例1との比較例1として、導電パターン形成装置の分散媒蒸気圧制御装置4を停止し、インクジェットヘッド1から基板6までの空間を覆っている樹脂板を除去した。この状態でノズル2からインクを吐出させ、30分放置した後に再度インク吐出を行ったが、ノズル2からインクは吐出しなかった。
また実施例1との比較例2として、分散媒蒸気圧検知装置3により検知される分散媒蒸気圧が1400Paとなるように分散媒蒸気圧制御装置4を設定して分散媒蒸気圧を制御した。この状態でノズル2からインクを吐出させ、30分放置した後に再度インク吐出を
行ったところ、複数あるノズル2のうち2割のノズルが不吐出となった。
図4に蒸気圧を変えて30分放置後でのインク吐出不良ノズルの割合を示す。分散媒蒸気圧検知装置3により検知される分散媒蒸気圧を飽和蒸気圧の70%以上に設定すると、ノズル2からインクを吐出させた後、約30分程度放置したでも良好なインク吐出が得られることが確認された。
このように、本実施形態の導電パターン形成装置では、分散媒蒸気圧検知装置3によりインクジェットヘッド1に設けられているノズル2近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を検知し、その検知結果に基づいて分散媒蒸気圧制御装置手段により分散媒蒸気圧を例えば飽和蒸気圧の70%以上の範囲に制御するようにした。これにより、分散媒として水を用いたPEDOTインクを用いた場合でもノズル2の乾燥によるインク不吐出を防止することができることが確認された。
【0009】
[実施例2]
次に、実施例2として、水に銀ナノメタルを分散した液体にエチレングリコールを添加したインクを図1に示した導電パターン形成装置を使ってパターニングを行った。この場合も、インクジェットヘッド1から基板6までの空間を樹脂板で覆い、分散媒蒸気圧検知装置3としてガス濃度計を設けた。また、分散媒蒸気圧制御装置4としては加熱による加湿装置を用いて分散媒蒸気圧が室温(23℃)での水の飽和蒸気圧(2800Pa)の70%以上である2000Paとなるように制御した。上記のように分散媒蒸気圧を制御しながらノズル2からインクを吐出させ、30分放置した後に再度インク吐出を行ったが、この場合もノズル2からのインク吐出は良好であった。
ここで、実施例2との比較例として、導電パターン形成装置の分散媒蒸気圧制御装置4を停止し、インクジェットヘッド1から基板6までの空間を覆っている樹脂板を除去した。この状態でノズル2からインクを吐出させ、30分放置した後に再度インク吐出を行ったが、やはりノズル2からインクは吐出しなかった。
これにより、本実施形態の導電パターン形成装置によれば、分散媒として水に湿潤剤を添加したものを用いたインクを使用した場合でもノズル2の乾燥によるインク不吐出を防止することができることが確認された。
【0010】
[実施例3]
次に、実施例3として、上記実施例2の構成を用いて、ガラス基板上にAgナノインクパターンを形成した後、200℃で焼成した。
次に、焼成後に化学式1に示すような構造となる前駆体をスピンコートし、280℃で加熱処理した。
【化1】

なお、化学式1中のR1,R2,R3は各々独立に置換若しくは無置換のアルキル基を表し、x,y,zは各々独立に0又は1が選択される。
その後、フォトマスクを介して紫外線を照射して濡れ性領域を形成した。
次いで、実施例2の構成の導電パターン形成装置を用いて、ポリイミド表面の濡れ性領域にAgインクパターンを形成した。
次に、化学式2に示すようなスキームより合成した有機半導体なる重合体1をキシレンに溶解し、塗布することで活性層を形成した。
【化2】

上記プロセスによりチャネル長5μm、チャネル幅40μmのトランジスタを作製した。このように作製したトランジスタは移動度8.5×10−4cm2/Vsを示し、良好なトランジスタ特性を示した。
【0011】
[実施例4]
実施例3と同様の方法によってTFTアレイ基板を形成した。
図2は、TFTアレイ基板の一例を示した図であり、(a)は断面図、(b)は電極等の配置関係を示す平面図である。
この図2に示すTFTアレイ130は、基板101上にゲート電極121、ゲート絶縁膜を兼ねる濡れ性変化層105、ソース電極103a及びドレイン電極103bを2次元アレイ状にパターンニングして電子素子であるTFT120を複数個形成する。
なお、各TFT120のゲート電極121は走査信号用のドライバーICにより駆動させるためバスラインに接続され、同様に各TFT41のソース電極103aもデータ信号用のドライバーにより駆動させるためバスライン102aに接続される。またドレイン電極103bもバスライン102bに接続される。
【0012】
次に、半導体層104を、例えばマイクロコンタクトプリンティング法でチャネル領域を含む島状に形成することでTFTアレイ130が完成する。なお、マイクロコンタクトプリンティング法はフォトリソグラフィーでパターン形成したマスターを用いてPDMS(ポリジメチルシロキサン)のスタンプを作製し、その凸部に半導体材料を含有する液体を付着させ、基板に転写する方法である。半導体層104がチャネル領域を含む島状に形成されているので隣接する素子部分への電流リークは発生しない。
なお、図示していないが、酸素や水分、放射線などによりTFT120の特性が劣化することを防ぐために、TFT120はパッシベーション膜に覆われていることが望ましい。パッシベーション膜には、例えば、窒化アルミニウム、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、などを用いることができる。これらはCVD法、イオンプレーティング法などにより成膜される。
【0013】
図3は、上記図2に示したTFTアレイを用いた表示素子の一例を示した図である。
この図3に示す表示素子は、酸化チタン粒子145とオイルブルーで着色したアイソパー146を内包するマイクロカプセル144を表示素子143としてPVA水溶液に混合して、ITOからなる透明電極141を形成したポリカーボネート基板142上に塗布して、マイクロカプセル144とPVAバインダー147からなる層を形成した。この基板と、先に形成したTFTアレイ基板とを接着した。
このように構成した表示素子のゲート電極121に繋がるバスラインに走査信号用のドライバーICを、ソース電極103aに繋がる配線層102a(バスライン)にデータ信号用のドライバーICを各々接続した。0.5秒毎に画面切替えを行ったところ、良好な静止画表示を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の導電パターン形成装置の構成を示した図である。
【図2】TFTアレイ基板の一例を示した図であり、(a)は断面図、(b)は電極等の配置関係を示す平面図である。
【図3】TFTアレイを用いた表示素子の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0015】
1…インクジェットヘッド、2…ノズル、3…分散媒蒸気圧検知装置、4…分散媒蒸気圧制御装置、5…カバー、6…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を分散媒に分散してなるインクをインクジェット手段のインクジェットノズルから吐出させることにより導電パターンを形成する導電パターン形成装置において、
少なくとも、前記インクジェットノズル近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧を検知する分散媒蒸気圧検知手段と、該分散媒蒸気圧検知手段の検知結果に基づいて分散媒蒸気圧を制御する分散媒蒸気圧制御手段と、を備えることを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒蒸気圧制御手段は、前記インクジェットノズル近傍の雰囲気の分散媒蒸気圧が飽和蒸気圧の70%以上となるように制御することを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項3】
請求項1に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒が水であることを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項4】
請求項1に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒が水に湿潤剤を添加したものであることを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の導電パターン形成装置において、前記湿潤剤がエチレングリコール系であることを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の導電パターン形成装置において、前記インクジェットノズル近傍にカバーが設けられていることを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の導電パターン形成装置において、前記分散媒蒸気圧制御手段が前記分散媒と同種の液体を加熱する加熱装置であることを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の導電パターン形成装置において、溶媒蒸気圧を制御するために超音波ミスト発生手段をさらに備えたことを特徴とする導電パターン形成装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の導電パターン形成装置を備えたことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−128983(P2007−128983A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318827(P2005−318827)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】