説明

希土類元素等を添加した部材により構成される高温耐久性を向上させたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリ

【課題】 700°C以上の高温・排ガス雰囲気下における組織脆化を抑制した新規なVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリを提供する。
【解決手段】 本発明は、可変翼1、タービンフレーム2、可変機構3等の排気ガイドアッセンブリAの構成部材を、耐熱金属を主要母材としCを0.05%以下、Mnを1%以上、Niを15%以上、Crを30%以下、Tiを0.1%以上、Alを0.1%以上、CeもしくはLaを0.05%以上(各元素とも全て重量%表示)、含有した耐熱素材で構成し、部材の表面にクロム炭化物の被膜を形成して、高温耐久性を向上させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は自動車用エンジン等に用いられるターボチャージャに関するものであって、特にこのものに組み込まれる排気ガイドアッセンブリに係るものである。
【0002】
【発明の背景】自動車用エンジンの高出力化、高性能化の一手段として用いられる過給機としてターボチャージャが知られており、このものはエンジンの排気エネルギによってタービンを駆動し、このタービンの出力によってコンプレッサを回転させ、エンジンに自然吸気以上の過給状態をもたらす装置である。ところでこのターボチャージャは、エンジンが低速回転しているときには、排気流量の低下により排気タービンが効率的に回るまでのもたつき感と、その後の一挙に吹き上がるまでの所要時間いわゆるターボラグ等が生ずることを免れないものであった。またもともとエンジン回転が低いディーゼルエンジンでは、ターボ効果を得にくいという欠点があった。
【0003】このため低速回転域からでも効率的に作動するVGSタイプのターボチャージャが開発されてきている。このものは少ない排気量を可変翼(羽)で絞り込み、排気の速度を増し、排気タービンの仕事量を大きくすることで、低速回転時でも高出力を発揮できるようにしたものであり、特に近年その排気ガス中のNOx量が問題とされているディーゼルエンジンにおいては、低速回転時からエンジンの効率化を図ることのできる有用なターボチャージャである。このVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリは高温・排気ガス雰囲気下で使用されるものであり、その製造には、耐熱性を有する素材、例えばJIS規格、SUS、SUH、SCH、NCF超合金等の耐熱材料が使用されつつあったが、非常に過酷な条件で使用されるものであるため、その耐久寿命には、一定の限界があり、更なる耐久性の向上が切望されている。
【0004】
【開発を試みた技術的課題】本発明はこのような背景を認識してなされたものであって、700℃以上の高温を伴う熱サイクル、排気ガス雰囲気下で、長時間使用される排気ガイドアッセンブリを構成する部材の組織脆化の抑制を試みたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち請求項1記載の希土類元素等を添加した部材により構成される高温耐久性を向上させたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリは、エンジンから排出される排気ガスの流量を適宜調節して排気タービンを回転させる可変翼と、この可変翼を排気タービンの外周部において回動自在に支持するタービンフレームと、この可変翼を適宜回動させ、排気ガスの流量を調節する可変機構とを具え、少ない排気流量を可変翼によって絞り込み、排気の速度を増し、低速回転時にも高出力を発揮できるようにしたVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリにおいて、前記排気ガイドアッセンブリの構成する耐熱部材が、鉄に対して所定重量%の炭素と、所定重量%の他の合金元素群と不可避の不純物とを含有させて成る合金であって、炭素及び他の合金元素群の重量%が、Cが0.05%以下、Mnが1%以上、Niが15%以上、Crが30%以下、Tiが0.1%以上に設定するとともに、Al、Ce、Laのうちから選択される一または複数の合金元素を、Alが0.1%以上、Ceが0.05%以上、Laが0.05%以上となるように、それぞれ設定することを特徴として成るものである。この発明によれば、当該耐熱部材の鋭敏化及びσ相脆化による組織脆化を抑制することが可能となる。
【0006】また請求項2記載の希土類元素等を添加した部材により構成される高温耐久性を向上させたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリは、前記排気ガイドアッセンブリを構成する請求項1記載の耐熱部材の表面を、クロム炭化物で被膜することを特徴として成るものである。この発明によれば、基地中の炭素が被膜部位に拡散移動して実質固溶炭素が更に低減するため、当該耐熱部材の鋭敏化による組織脆化を更に抑制することが可能となる。ここで被膜成分のクロム炭化物としては、Cr23C6、Cr7C3 、Cr3C2 等があり、特に被膜反応性と高温化学安定性の両面を考慮するとCr7C3 が好ましい。
【0007】更にまた請求項3記載の希土類元素等を添加した部材により構成される高温耐久性を向上させたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリは、エンジンから排出される排気ガスの流量を適宜調節して排気タービンを回転させる可変翼と、この可変翼を排気タービンの外周部において回動自在に支持するタービンフレームと、この可変翼を適宜回動させ、排気ガスの流量を調節する可変機構とを具え、少ない排気流量を可変翼によって絞り込み、排気の速度を増し、低速回転時にも高出力を発揮できるようにしたVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリにおいて、前記排気ガイドアッセンブリの構成するγ′析出硬化型の耐熱部材が、あらかじめ応力付与処理がなされた部材であることを特徴として成るものである。この発明において、当該耐熱部材の過時効脆化を抑制することができる。ここで、γ′析出硬化型の耐熱部材としては、Ni3Ti やNi3Al 等の耐熱性に寄与する化合物を析出することとなる材料のことであり、具体的には、SUH660やInconel713C 等を挙げることができるまた応力付与処理とは、歪みの導入により、この歪み自身が上記化合物生成の核となって、微細均一な化合物を形成させることとなる処理のことであり、析出熱処理の前に行う。
【0008】
【発明の実施の形態】以下本発明について具体的に説明する。説明にあたっては、本発明に係るVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリについて説明し、その後、排気ガイドアッセンブリAを構成する耐熱部材の製造及び当該耐熱部材を使用した当該アッセンブリの製造等について説明する。
【0009】〔1〕排気ガイドアッセンブリ排気ガイドアッセンブリAは、特にエンジンの低速回転時において排気ガスGを適宜絞り込んで排気流量を調節するものであり、一例として図1に示すように、排気タービンTの外周に設けられた実質的に排気流量を設定する複数の可変翼1と、可変翼1を回動自在に保持するタービンフレーム2と、排気ガスGの流量を適宜設定すべく可変翼1を一定角度回動させる可変機構3とを具えて成るものである。
【0010】まず可変翼1について説明する。このものは一例として図1に示すように排気タービンTの外周に沿って円弧状に複数(一基の排気ガイドアッセンブリAに対して概ね10個から15個程度)配設され、そのそれぞれが、ほぼ同程度づつ回動して排気流量を適宜調節するものである。そして各可変翼1は、翼部11と、軸部12とを具えて成る。翼部11は、主に排気タービンTの幅寸法に応じて一定幅を有するように形成されるものであり、その幅方向における断面が概ね翼状に形成され、排気ガスGが効果的に排気タービンTに向かうように構成されている。なおここで翼部11の幅寸法を便宜上、羽根高さhとする。軸部12は、翼部11と一体で連続するように形成されるものであり、翼部11を動かす際の回動軸に相当する部位となる。
【0011】また翼部11と軸部12との接続部位には、軸部12から翼部11に向かって窄まるようなテーパ部13と、軸部12より幾分大径の鍔部14とが連なるように形成されている。なお鍔部14の底面は、翼部11の軸部12側の端面と、ほぼ同一平面上に形成され、この平面によって、可変翼1をタービンフレーム2に取り付けた状態において円滑な回動状態を確保している。更に軸部12の先端部には、可変翼1の取付状態の基準となる基準面15が形成される。この基準面15は、後述する可変機構3に対しカシメ等によって固定される部位であり、一例として図1に示すように、軸部12を対向的に切り欠いた平面が、翼部11に対してほぼ一定の傾斜状態に形成されて成るものである。
【0012】次に本発明を実質的に適用したタービンフレーム2について説明する。このものは、複数の可変翼1を回動自在に保持するフレーム部材として構成されるものであって、一例として図1に示すように、フレームセグメント21と保持部材22とによって可変翼1を挟み込むように構成される。そしてフレームセグメント21は、可変翼1の軸部12を受け入れるフランジ部23と、後述する可変機構3を外周に嵌めるボス部24とを具えて成る。なおこのような構造からフランジ部23には、周縁部分に可変翼1と同数の受入孔25が等間隔で形成されるものであり、本発明では特に、この受入孔25を高効率に形成し、また高精度に仕上げるものである。このため本発明の実質的な適用対象物は、フレームセグメント21となる。
【0013】また保持部材22は、図1に示すように中央部分が開口された円板状に形成されている。そしてこれらフレームセグメント21と保持部材22とによって挟み込まれた可変翼1の翼部11を、常に円滑に回動させ得るように、両部材間の寸法は、ほぼ一定(概ね可変翼1の翼幅寸法程度)に維持されるものであり、一例として受入孔25の外周部分に、四カ所設けられたカシメピン26によって両部材間の寸法が維持されている。ここで上記カシメピン26を受け入れるためにフレームセグメント21及び保持部材22に開口される孔をピン孔27とする。
【0014】なおこの実施の形態では、フレームセグメント21のフランジ部23は、保持部材22とほぼ同径のフランジ部23Aと、保持部材22より幾分大きい径のフランジ部23Bとの二つのフランジ部分から成るものであり、これらを同一部材で形成するものであるが、同一部材での加工が複雑になる場合等にあっては、径の異なる二つのフランジ部を分割して形成し、後にカシメ加工やブレージング加工等によって接合することも可能である。
【0015】次に可変機構3について説明する。このものはタービンフレーム2のボス部24の外周側に設けられ、排気流量を調節するために可変翼1を回動させるものであり、一例として図1に示すように、アッセンブリ内において実質的に可変翼1の回動を生起する回動部材31と、この回動を可変翼1に伝える伝達部材32とを具えて成るものである。回動部材31は、図示するように中央部分が開口された略円板状に形成され、その周縁部分に可変翼1と同数の伝達部材32を等間隔で設けるものである。なおこの伝達部材32は、回動部材31に回転自在に取り付けられる駆動要素32Aと、可変翼1の基準面15に固定状態に取り付けられる受動要素32Bとを具えて成るものであり、これら駆動要素32Aと受動要素32Bとが接続された状態で、回動が伝達される。具体的には四角片状の駆動要素32Aを、回動部材31に対して回転自在にピン止めするとともに、この駆動要素32Aを受け入れ得るように略U字状に形成した受動要素32Bを、可変翼1の先端の基準面15に固定し、四角片状の駆動要素32AをU字状の受動要素32Bに嵌め込み、双方を係合させるように、回動部材31をボス部24に取り付けるものである。
【0016】なお複数の可変翼1を取り付けた初期状態において、これらを周状に整列させるにあたっては、各可変翼1と受動要素32Bとが、ほぼ一定の角度で取り付けられる必要があり、本実施の形態においては、主に可変翼1の基準面15がこの作用を担っている。また回動部材31を単にボス部24に嵌め込んだままでは、回動部材31がタービンフレーム2と僅かに離反した際、伝達部材32の係合が解除されてしまうことが懸念されるため、これを防止すべく、タービンフレーム2の対向側から回動部材31を挟むようにリング33等を設け、回動部材31のタービンフレーム2側への押圧傾向を賦与するものである。このような構成によって、エンジンが低速回転を行った際には、可変機構3の回動部材31を適宜回動させ、伝達部材32を介して軸部12に伝達し、図1に示すように可変翼1を回動させ、排気ガスGを適宜絞り込んで、排気流量を調節するものである。
【0017】〔2〕排気ガイドアッセンブリの製造(1)耐熱部材(合金)の製造本発明の合金は、通常の方法により製造される。なお具現化された三種の実施の形態は、表1に示すとおりである。また当該合金の各成分の限定理由を以下に示す。Cを0.05%以下とするのは、鋭敏化感受性を低減するため。Mnを1%以上とするのは、σ相の生成を遅滞させるため。Niを15%以上とするのは、σ相の生成自由エネルギーを増加させるため。Crを30%以下とするのは、σ相の生成自由エネルギーを増加させるため。Tiを0.1%以上とするのは、γ′相の生成のため。Alを0.1%以上とするのは、γ′相の生成のため。CeもしくはLaを0.05%以上とするのは、σ相の生成を抑制させるため。
【0018】(2)排気ガイドアッセンブリの製造転炉精錬工程で上記所定の成分制御を行い、その後連続鋳造、熱間圧延及び冷間圧延の通常工程を経て、素材材料が製造され、これを用いて排気ガイドアッセンブリを加工・製造する。
【0019】(3)組織脆化の抑制以下表1に組織脆化抑制のデータを示す。
【0020】
【表1】


【0021】〔3〕排気ガイドアッセンブリを被膜する方法(1)本発明における合金の表面を被膜する方法としては、塩浴法を使用するのが好ましく、具体的には以下の工程で行われる。あらかじめ非平衡且つ過飽和状態に表面侵炭処理した後、500℃に予熱した部材をホウ砂、塩化物、酸化クロムから成る1000℃前後の塩浴に浸漬することによりクロム炭化物被膜が生成される。
(2)組織脆化の抑制以下表2に組織脆化抑制のデータを示す。
【0022】
【表2】


【0023】〔4〕応力付与処理(1)処理の内容析出熱処理を行う前に部材に何らかの加工を許容範囲でできるだけ均一に施し、場合により更に液圧等の静水圧を加えることにより、応力付与下において塑性歪みが導入される。
(2)組織脆化の抑制以下表3に組織脆化抑制のデータを示す。
【0024】
【表3】


【0025】
【発明の効果】本発明によれば、700℃以上の高温を伴う熱サイクル、排気ガス雰囲気下で長時間使用されることにより生ずる、VGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリを構成する部材の鋭敏化による組織脆化、σ相脆化、過時効脆化等の組織脆化の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るタービンフレームを組み込んだVGSタイプのターボチャージャを示す斜視図(a)、並びに排気ガイドアッセンブリを示す分解斜視図(b)である。
【符号の説明】
1 可変翼
2 タービンフレーム
3 可変機構
11 翼部
12 軸部
13 テーパ部
14 鍔部
15 基準面
21 フレームセグメント
22 保持部材
23 フランジ部
23A フランジ部(小)
23B フランジ部(大)
24 ボス部
25 受入孔
26 カシメピン
27 ピン孔
31 回動部材
32 伝達部材
32A 駆動要素
32B 受動要素
33 リング
A 排気ガイドアッセンブリ
h 羽根高さ
G 排気ガス
T 排気タービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンから排出される排気ガスの流量を適宜調節して排気タービンを回転させる可変翼と、この可変翼を排気タービンの外周部において回動自在に支持するタービンフレームと、この可変翼を適宜回動させ、排気ガスの流量を調節する可変機構とを具え、少ない排気流量を可変翼によって絞り込み、排気の速度を増し、低速回転時にも高出力を発揮できるようにしたVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリにおいて、前記排気ガイドアッセンブリの構成する耐熱部材が、鉄に対して所定重量%の炭素と、所定重量%の他の合金元素群と不可避の不純物とを含有させて成る合金であって、炭素及び他の合金元素群の重量%が、Cが0.05%以下、Mnが1%以上、Niが15%以上、Crが30%以下、Tiが0.1%以上に設定するとともに、Al、Ce、Laのうちから選択される一または複数の合金元素を、Alが0.1%以上、Ceが0.05%以上、Laが0.05%以上となるように、それぞれ設定することを特徴とする、希土類元素等を添加した部材により構成される高温耐久性を向上させたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリ。
【請求項2】 前記排気ガイドアッセンブリを構成する請求項1記載の耐熱部材の表面を、クロム炭化物で被膜することを特徴とする、希土類元素等を添加した部材により構成される高温耐久性を向上させたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリ。
【請求項3】 エンジンから排出される排気ガスの流量を適宜調節して排気タービンを回転させる可変翼と、この可変翼を排気タービンの外周部において回動自在に支持するタービンフレームと、この可変翼を適宜回動させ、排気ガスの流量を調節する可変機構とを具え、少ない排気流量を可変翼によって絞り込み、排気の速度を増し、低速回転時にも高出力を発揮できるようにしたVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリにおいて、前記排気ガイドアッセンブリの構成するγ′析出硬化型の耐熱部材が、あらかじめ応力付与処理がなされた部材であることを特徴とする、希土類元素等を添加した部材により構成される高温耐久性を向上させたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリ。

【図1】
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【公開番号】特開2002−332553(P2002−332553A)
【公開日】平成14年11月22日(2002.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−139708(P2001−139708)
【出願日】平成13年5月10日(2001.5.10)
【出願人】(501186438)創技工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】