説明

成膜方法、スパッタリング装置、スパッタリングターゲットおよび有機電界発光装置の製造方法

【課題】被堆積面がダメージを受け難くかつ膜組成の変更が容易なマグネトロンスパッタリング技術を提供する。
【解決手段】本発明の成膜方法は、各々が方向51に延びた形状を有するターゲット部21および22を方向52に並べてなりかつターゲット部21および22は組成が異なるスパッタリングターゲット2と、カソードマグネット11と、基板3と、枠体141とこれに支持されたトラップマグネット143aおよび143bとを備えたスパッタリングトラップ14とを、ターゲット2と基板3とが枠体141の開口部142を挟んで向き合いかつターゲット2がカソードマグネット11と基板3との間に介在するように配置し、カソードマグネット11がターゲット部21および22と順次向き合うようにカソードマグネット11をターゲット2に対して方向52に相対的に移動させながらマグネトロンスパッタリング法により基板3上に膜を形成することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法、スパッタリング装置、スパッタリングターゲットおよび有機電界発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、透明導電膜の応用分野は、広範囲に広がっている。例えば、特許文献1および2には、有機電界発光素子の電極として、インジウム・錫酸化物(ITO)からなる透明導電膜を使用することが記載されている。
【0003】
有機電界発光素子は、2つの電極間に有機発光層を挟持した構造を有しており、電極間に電流を流すことにより有機発光層で発光を生じる。有機電界発光素子では、この発光を取り出すために、少なくとも一方の電極を光透過性にする必要がある。そこで、この有機電界発光素子の電極またはその一部として、透明導電膜を使用することがある。
【0004】
上部光取り出し(トップエミッション)型の有機電界発光素子では、上部電極を光透過性電極とする。トップエミッション型の有機電界発光素子では、光透過性を有する金属薄膜を上部電極とすることもできるが、この金属薄膜を透明導電膜で被覆することにより、金属薄膜の保護と配線抵抗の低減とを図ることができる。また、透明導電膜を上部電極とした場合には、下地の有機発光層の保護や電子注入障壁の低減を目的として、有機発光層と透明導電膜との間にバッファ層を介在させることもある。
【0005】
ところで、半導体装置、フラットパネルディスプレイ、電子部品などの製造では、薄膜の形成に、量産性に優れたスパッタリング法が広く利用されている。なかでも、マグネトロンスパッタリング法は、Al、W、Tiなどからなる金属膜、酸化膜、窒化膜などの形成に広く利用されている。このマグネトロンスパッタリング法によると、膜厚、導電性および透明性の均一性に優れた透明導電膜を安定した成膜速度および膜組成で形成することができる。
【0006】
マグネトロンスパッタリング装置の構成は、陰極(スパッタリングターゲット)の裏面側に複数の磁石を設置すること以外は、直流二極スパッタリング装置や高周波スパッタリング装置などの装置とほぼ同様である。マグネトロンスパッタリング装置では、これら磁石によりターゲットの上方にトロイダル型のトンネルをつくり、放電プラズマをそのトンネルの中に拘束する。これにより、例えば、ターゲットから数mm離れた位置に、明るく輝くドーナツ形状の高密度プラズマ(≒1018-3)を生じさせる。なお、磁石材料としては、Ba−フェライト、アルニコ合金、Co−希土類合金、Nd系合金などが用いられる。
【0007】
このようにして生成したマグネトロンプラズマは、電流密度が高く、600eVもの高エネルギーでイオンが電子をたたくので、ターゲットを高速でスパッタする。また、低圧力なので、スパッタされた粒子の平均自由行程は長い。それゆえ、陰極と対向して設置された基板上に、効率的にスパッタ粒子を堆積させることができる。
【0008】
しかし、マグネトロンスパッタリング法を用いて薄膜を形成すると、下地がダメージを受けることがある。
【0009】
例えば、蒸着法により透明導電膜を形成する場合、熱エネルギーのみを利用して下地に粒子を堆積させるため、下地に入射する粒子のエネルギーは0.1eV程度である。これに対し、スパッタリング法により透明導電膜を形成する場合、下地に入射する粒子のエネルギーは600eV程度と非常に高い。一般的に、基板に入射する粒子のエネルギーが50eV程度以上になると、粒子が下地内に入り込む、下地を構成する原子が叩き出される、または下地に欠陥が生じるという問題が発生する。特に、下地が有機発光層である場合には、非特許文献1に記載されているように、高エネルギー粒子である反跳Arイオンやγ電子が衝突により有機発光材料の分子構造が破壊され(結合が断裂され)、発光ポテンシャルが低下するという問題があった。
【0010】
また、マグネトロンスパッタリング法によると、ITOターゲットを用いて金属薄膜上にITO薄膜を形成する場合に金属薄膜の劣化を生じることがある。
【0011】
ITOは、その母結晶である酸化インジウム(In23)が化学量論組成を有している単結晶である場合には、絶対零度では伝導体に電子が存在せず、荷電子帯が完全に電子で満たされているため絶縁性を示す。この単結晶は、立方晶に属するbixbyiteと呼ばれる結晶構造を有している。この単結晶は、格子定数が1.0118nmであり、単位格子は、32個のIn3+と48個のO2-とを含み、電気的に中性を保っている。そして、Inイオンには、酸素イオンが6配位するとともに、2つの酸素欠陥(quasi-anion site)が配位している。スパッタリングによりITO膜を形成する際には、この酸素欠陥に酸素を置換型固溶させて、膜抵抗値および光線透過率を制御する必要がある。実際には、スパッタリング成膜時に酸素ドープを行って、膜の低抵抗化および光線透過率の最適化を図っている。
【0012】
上記の通り、トップエミッション型の有機電界発光素子では、上部電極である透明電極と有機発光層との間に光透過性の金属薄膜を介在させることがある。この金属薄膜の材料としては、例えば、電子注入層として有用なCaやBaなどの金属を使用する。しかし、これら金属は活性が高いため、酸素ドープを行いながら金属薄膜上に透明電極を形成すると、金属薄膜が劣化してしまう。
【0013】
このように、マグネトロンスパッタリング法には、被堆積面がダメージを受け易いという問題がある。
【0014】
また、一般的に、マグネトロンスパッタリング法では、形成すべき薄膜の組成を変更するには、スパッタリングターゲットを交換するしかない。ターゲットの交換による膜組成の変更は、必ずしも容易ではない。
【特許文献1】特開2001−250678号公報
【特許文献2】特許第2850906号公報
【非特許文献1】「色変換方式有機ELによるフルカラー化の実現」 工業材料Vol.52 No.4(2004.4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、被堆積面がダメージを受け難くかつ膜組成の変更が容易なマグネトロンスパッタリング技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1態様によると、各々が第1方向に延びた形状を有する複数のスパッタリングターゲット部を第1方向と交差する第2方向に並べてなりかつ複数のスパッタリングターゲット部の一部と他の一部とは組成が異なるスパッタリングターゲットと、カソードマグネットと、基板と、枠体とこれに支持された複数のトラップマグネットとを備えたスパッタリングトラップとを、スパッタリングターゲットと基板とが枠体の開口部を挟んで向き合いかつスパッタリングターゲットがカソードマグネットと基板との間に介在するように配置し、カソードマグネットが複数のスパッタリングターゲット部と順次向き合うようにカソードマグネットをスパッタリングターゲットに対して第2方向に相対的に移動させながらマグネトロンスパッタリング法により基板上に膜を形成することを含んだ成膜方法が提供される。
【0017】
本発明の第2態様によると、各々が第1方向に延びた形状を有する複数のスパッタリングターゲット部を第1方向と交差する第2方向に並べてなりかつ複数のスパッタリングターゲット部の一部と他の一部とは組成が異なるスパッタリングターゲットを使用してマグネトロンスパッタリング法により基板上に膜を形成するスパッタリング装置であって、スパッタリングターゲットの裏面と向き合うように設置され、第1方向に延びた形状を有するカソードマグネットと、スパッタリングターゲットの表面と対向するように基板を支持するホルダと、枠体とこれに支持された複数のトラップマグネットとを備えかつスパッタリングターゲットと基板との間に設置されるスパッタリングトラップと、カソードマグネットをスパッタリングターゲットに対して第2方向に相対的に移動させる駆動機構と、カソードマグネットが、複数のスパッタリングターゲット部の上記一部と向き合っている時間と、複数のスパッタリングターゲット部の上記他の一部と向き合っている時間とを、互いから独立して設定可能に駆動機構の動作を制御するコントローラとを含んだことを特徴とするスパッタリング装置が提供される。
【0018】
本発明の第3態様によると、各々が第1方向に延びた形状を有する複数のスパッタリングターゲット部を第1方向と交差する第2方向に並べてなりかつ複数のスパッタリングターゲット部の一部と他の一部とは組成が異なることを特徴とするスパッタリングターゲットが提供される。
【0019】
本発明の第4側面によると、基材と、基材上に順次形成された第1電極と有機発光層と第2電極とを備えた有機電界発光素子とを含んだ有機電界発光装置の製造方法であって、第1電極および/または第2電極を、第1態様に係る成膜方法により形成することを含んだことを特徴とする有機電界発光装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、被堆積面がダメージを受け難くかつ膜組成の変更が容易なマグネトロンスパッタリング技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置の概略斜視図である。図2は、図1のスパッタリング装置で使用可能なホルダの拡大概略図である。図3は、図2のホルダで使用可能なペルチェ素子の一例の概略断面図である。
【0023】
図1のスパッタリング装置1は、真空チャンバ10を含んでいる。
真空チャンバ10には、図示しない排気系が接続されている。排気系は、真空ポンプを含んでおり、真空チャンバ10内を真空に排気する。
【0024】
真空チャンバ10には、図示しないガス供給源がさらに接続されている。ガス供給源は、真空チャンバ10内に、プラズマイオン源としてアルゴンなどの希ガスまたは不活性ガスを供給する。
【0025】
真空チャンバ10内には、カソードマグネット11と、バッキングプレート12と、ホルダ13と、スパッタリングトラップ14とが設置されている。また、このスパッタリング装置1は、図示しない駆動機構と図示しないコントローラとをさらに含んでいる。
【0026】
カソードマグネット11は、一対のカソードマグネット部11aおよび11bを含んでいる。カソードマグネット部11aおよび11bは、各々が第1方向51に延びた角柱形状を有しており、極性の異なる磁極が向き合うように第2方向52に並んでカソードマグネット11を形成している。
【0027】
なお、図1では、第1方向51と第2方向52とは直交しているが、それらは直交していなくてもよい。但し、典型的には、第1方向51と第2方向52とがなす角度は約90°とする。
【0028】
カソードマグネット11は、複数のカソードマグネット部11aと複数のカソードマグネット部11bとを含んでいてもよい。例えば、カソードマグネット11aおよび11bを極性が異なる磁極同士が向き合うように第2方向52に並べてなることにより各マグネット対を構成し、これらマグネット対を第1方向51に並べることによりカソードマグネット11を構成してもよい。あるいは、複数のカソードマグネット11aとそれらとはN極の向きが逆向きの複数のカソードマグネット11bとを第1方向51に交互に並べてカソードマグネット11を構成してよい。
【0029】
カソードマグネット11が発生する磁場は、プラズマを、後述するスパッタリングターゲット2の近傍であって、カソードマグネット11の上方に拘束する。
【0030】
カソードマグネット11の上方には、バッキングプレート12が設置されている。バッキングプレート12は、スパッタリングターゲット2を支持する。図1ではカソードマグネット11とバッキングプレート12との間に隙間を設けていないが、それらは互いから離間させてもよい。この隙間に冷却液を流すことにより、カソードマグネット11とバッキングプレート12とを冷却するとともに、バッキングプレート12を介してスパッタリングターゲット2を冷却することができる。
【0031】
スパッタリングターゲット2は、複数のスパッタリングターゲット部21および22を含んでいる。図1に示す例では、スパッタリングターゲット部21および22は、各々が第1方向51に延びた角柱形状を有し、第2方向52に交互に並んでいる。スパッタリングターゲット部21および22の各々の第1方向51についての寸法は、例えば、カソードマグネット11の第1方向51についての寸法と等しい。また、スパッタリングターゲット部21および22の各々の第2方向52についての寸法は、例えば、カソードマグネット11の第2方向52についての寸法と等しい。
【0032】
スパッタリングターゲット部21および22は、互いに異なる組成を有している。図1の例では、スパッタリングターゲット部21はIn23からなる焼結体であり、スパッタリングターゲット部22はSnO2からなる焼結体である。
【0033】
ホルダ13は、支持体131と、マスクフレーム132と、ペルチェ素子133とを含んでいる。
【0034】
図1および図2に示すように、ホルダ13は、基板3を、支持体131とマスクフレーム132とで上下から挟み込むことで、スパッタリングターゲット2と対向させるように着脱可能に支持している。支持体131とマスクフレーム132とによる基板3の支持には、例えば磁力を利用する。ホルダ13は、所望の薄膜パターンを形成するために、例えば、マスク4を基板3とマスクフレーム132との間に介在させて、基板3を支持することができる。
【0035】
支持体131の基板3との対向面の裏面には、ペルチェ素子133が設置されている。ペルチェ素子133の機能については後述する。
【0036】
図1に示すように、スパッタリングトラップ14は、スパッタリングターゲット2と基板3との間に設置されている。
【0037】
スパッタリングトラップ14は、枠体141を有している。枠体141には、開口142が設けられている。枠体141は、例えば、1辺が500〜800nm、板厚1〜2mm程度の四角形状の板に、1辺が450〜750mmの四角形状の開口142を形成したものである。図1の例では、枠体141の内周面は、第1方向51と平行な一対の面と、第2方向と平行な一対の面とで構成されている。また、開口142は、スパッタリングターゲット2に対応した領域内に位置している。
【0038】
枠体142は、表面積が小さいことが好ましい。また、枠体142の材料としては、例えば、導電体である低熱膨張率材料を用いることができる。
【0039】
スパッタリングトラップ14は、2つのトラップマグネット143aおよび143bをさらに含んでいる。トラップマグネット143aおよび143bは、第1方向51に延びた形状を有し、かつ極性の異なる磁極同士が開口142に対応した領域を挟んで向き合うように枠体141に支持されている。トラップマグネット143aは、例えば、第1方向51についての寸法が500〜800mm、第2方向52についての寸法と第1方向51および第2方向52と直交する方向についての寸法とが共に10〜20mmの角柱形状の磁石である。
【0040】
駆動機構は、カソードマグネット11をスパッタリングターゲット2に対して相対的に移動させる。図1の例では、移動方向は第2方向52である。この相対的な移動に伴い、カソードマグネット11が形成る磁場の位置は、スパッタリングターゲット部21および22の1つの上方からその隣りの1つの上方へと順次移動する。
【0041】
コントローラは、駆動機構に接続されている。コントローラは、駆動機構の動作を制御する。コントローラは、カソードマグネット11が、スパッタリングターゲット部21と向き合っている時間と、スパッタリングターゲット部22と向き合っている時間とを、互いから独立して設定することができる。例えば、コントローラは、先の移動と停止とが交互に繰り返されるように駆動機構の動作を制御する場合、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部21の背面と向き合っている時間と、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部22の背面と向き合っている時間とを互いから独立して設定可能であってもよい。あるいは、コントローラは、カソードマグネット11のスパッタリングターゲット2に対する相対的な移動の速度を、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部21の背面と向き合っている期間と、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部22の背面と向き合っている期間とで互いから独立して設定可能であってもよい。
【0042】
コントローラは、スパッタリングトラップ14にさらに接続されている。コントローラは、スパッタリングトラップ14の電位を、例えば、基板3またはその近傍のアノードの電位よりも低く設定することができる。なお、図1の例では、メタルマスク4をアノードとして利用している。
【0043】
図1に示すように、スパッタリング装置1は、例えばスパッタリングターゲット2と基板3との間に電圧を印加する電圧印加手段15をさらに含んでいる。電圧印加手段15は、スパッタリングターゲット2と基板3との間に電圧を印加できれば、どこに接続されていてもよい。例えば、マスク4がメタルマスクである場合には、正電極をメタルマスク4に接続することができる。また、負電極を、例えば、バッキングプレート12に接続することもできる。
【0044】
ここで、ペルチェ素子133について、図面を参照しながら説明する。
図3に示すように、ペルチェ素子133は、2枚のセラミック基板1331と、複数の金属電極1332と、複数のp型半導体1333と、複数のn型半導体1334とを含んでいる。
【0045】
2枚のセラミック基板1331は、間隙をおいて対向している。これらのセラミック基板1331の各対向面上では、金属電極1332が配列している。各金属電極1332の両端は隣り合う2つの金属電極1332の近接した端とそれぞれ対向している。
【0046】
n型半導体1333およびp型半導体1334は、各々が金属電極1332の向き合った端部間に介在しており、金属電極1332の配列方向に沿って交互に配列している。
【0047】
図3に示した構成を有する素子は、電流を流すことによりペルチェ(Peltier)効果が起きるので冷却または吸熱の能力を持つ。
【0048】
ここで、ペルチェ効果について説明する。物質の両端に温度差を与えると、超伝導体以外であれば必ず起電力が生じる。この現象をゼーベック(Seebeck)効果と呼び、これらを身近に利用しているのが、温度測定に用いられる熱電対(thermocouple)である。物質の高温端と低温端とに外部回路を接続すれば、この熱起電力により電流を発生させ、電力として取り出すことができる。これとは逆に、2種の物質を接合して電流を流すと、接合点で電流の向きに応じて熱が発生または吸収される。この現象がペルチェ(Peltier)効果と呼ばれているものであり、先述のゼーベック効果とは表裏一体の熱電現象である。ゼーベック効果およびペルチェ効果の2つの熱−電気の変換過程を総称し、熱電変換(thermoelectric conversion)と呼ぶ。
【0049】
ペルチェ現象は、電流を反転させるだけで加熱と冷却とを切り替えることが可能で、応答速度も極めて速いので、熱電冷却や電子冷熱として、半導体レーザーや高感度の赤外線検出器やCCDなどの冷却、更には半導体製造プロセスや医療機器など精密な温度制御や局所的な急速冷却が要求される分野に広く利用されている。
【0050】
ペルチェ素子133は、プラスの熱電能を持つP型半導体1333とマイナスの熱電能を持つN型半導体1334とを有している。P型半導体1333とN型半導体1334とはその相対熱電能が非常に大きいため、ペルチェ素子133を用いると、大きなペルチェ効果を活用できる。
【0051】
したがって、ペルチェ素子133を支持体131の上部に設けることで、真空下で容易に基板3およびマスク4を冷却することが可能である。さらに、ペルチェ素子133を設けるにあたっては、装置の大幅改良が必要ないという利点もある。
【0052】
上述したスパッタリング装置は、様々な層の形成に利用可能である。このスパッタリング装置は、透明導電膜の形成,特には有機物層上への透明導電膜の形成,に適している。ここでは、まず、透明導電膜について説明する。
【0053】
透明導電膜の用途は、多岐にわたる。例えば、透明導電膜は、発光ダイオード、半導体レーザー、フラットパネルディスプレイなどの様々な物品で使用されている。
【0054】
透明導電膜は、オプトエレクトロニクスデバイスの電極として使用する場合、各々のデバイスの使用条件に応じた要求を満たさなければならない。例えば、透明導電膜の材料には、電気的特性と可視光領域の光学的特性との双方に優れていることが要求される。そのような材料としては、例えば、In23にSnをドーパントとして添加してなるITOなどの酸化インジウム系材料、SnO2にドーパントを添加してなる酸化スズ系材料、ZnOにAlをドーパントとして添加してなるアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ZnOにGaをドーパントとして添加してなるガリウム亜鉛酸化物(GZO)、およびZnOにInをドーパントとして添加してなるインジウム亜鉛酸化物などの酸化亜鉛系材料を挙げることができる。
【0055】
透明導電膜の材料としては、CdO系材料および酸化ガリウム系材料を用いることも可能である。但し、CdO系材料に関しては、Cdが毒性を有するという問題がある。また、酸化ガリウム系材料からなる透明導電膜は、ワイドバンドギャップを持つなど数々の特徴を有しているが、ガリウムは豊富に産出される材料とは言い難い。このように、透明導電膜に使用可能な材料の中には、環境および資源の観点から使用が制約されるものがある。
【0056】
ここで、ITOについて説明する。
ITOの母結晶はIn23である。酸化物換算で5から10質量%の錫を含有したITOは、絶縁体のように透明でありながら、導電性が高く(1×103S/cm)、吸収も少ない。
【0057】
透明性に優れたITOでは、In23結晶の構造的な完全性が高く、バンドギャップ内の電子捕獲準位が非常に少ない。すなわち、透明性に優れたITOでは、結晶内で原子が正しく且つ過不足なく位置している。
【0058】
In23試薬は、黄白色である。酸素を僅かに含んだ雰囲気(分圧で1×10-1Pa以下)中でIn23を蒸着またはスパッタ成膜すると、透明導電膜が得られる。しかし、この化合物は酸素を手放しやすく、例えば真空中での加熱や数%の水素を含んだ還元雰囲気中での加熱によって容易に還元され、これに伴い、青黒、黒、茶褐色へとこの順に変色する。In23系材料の導電性は、母結晶のIn原子をSn原子で置換するか、または、酸素欠損が生じる条件の下で成膜することで発現する。
【0059】
ITOの透明性は、ITOのバンドギャップが可視光波長域内の最短波長である400nm付近にあることに由来している。しかし、これだけでは不十分で、高い透明性を達成するには、バンドギャップ内に常温で電子が常駐するような準位が少ないかまたは無視できることが必要である。このようなバンドギャップ内準位は、酸素欠損や、インジウム原子、錫原子または原子集団(クラスター)による格子欠陥に由来するものである。したがって、優れた透明性を達成するためには、母結晶自体が良質の結晶格子を形成しやすいものでなくてはならない。In23は、酸化性が極度に弱い雰囲気で成膜しない限り、この要件を満足する。実際、In23は、基板温度を300℃程度にしておけば、酸素がやや不足した雰囲気条件であっても、厚さが数10nmの段階から半値幅の狭いX線回折パターンを示す。このIn23の結晶化しやすい特徴は、Snの添加量が数10%程度以下の範囲内であれば失われない。これは、SnO2膜やZnO膜とは大きく異なる特徴である。
【0060】
透明導電膜の形成には、真空蒸着法、プラズマまたはイオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが主に利用されている。透明導電膜の形成に、ゾル−ゲル法およびスプレー法などの湿式法を利用することもある。
【0061】
その中で、スパッタリング法は、量産化に適した方法として、半導体装置、フラットパネルディスプレイ、その他の電子部品などが含む薄膜の形成に広く利用されている。
【0062】
ここで、スパッタリング法による成膜の原理などについて説明する。
スパッタリング法は、高速粒子をターゲットに入射、衝突させることで薄膜を形成する方法である。高速粒子としては、スパッタリング現象が放電管中で発見されたという歴史的背景と、さらには簡便であることなどから、グロー放電で発生した正イオンを用いることが多い。直流二極スパッタリング法は、グロー放電を利用したもっとも簡便な薄膜作製法である。
【0063】
直流グロー放電は、10〜10×10-2Torr程度の低圧力気体中に2枚の対向電極をおき、数百V以上の高電圧を印加したときに両電極間に生ずる冷陰極放電であって、そのときの電流密度は10×10-1〜10×102A/m2である。気体中には宇宙線などで自然発生した正イオンや電子が存在しており、これらの荷電粒子は印加された電圧により加速されて電極に衝突する。ここで正イオンに着目する。正イオンは、電圧が高ければ、電極に衝突することにより二次電子を放出させる。放出された二次電子は、電圧により加速されて陽極に向かう。加速された二次電子のエネルギーが十分大きくなり、しかも気体分子の密度がある程度以上大きければ、それらは気体分子と衝突してイオン化を生じさせ、イオンと電子とが次々に生成する。これは、アバランシェ(avalanche)効果と呼ばれる現象である。正イオンおよび電子は、放電空間や電極中で再結合して中和するので、この現象はある状態で定常に達する。このような二次電子の冷陰極放出を基本とする放電がグロー放電と呼ばれ、熱電子放出を基本とするアーク放電とは区別される。
【0064】
直流グロー放電をマクロ的に見ると、生成した正イオンは、陰極の周辺に正の空間電荷層を形成している。さらに、この正の電荷層に隣接して、陽極側に負の空間電荷層が生じている。電圧降下の大部分は、正の空間電荷層において生ずる。正イオンの1個1個を見ると、それらは陰極に向かって加速され、さらに定常的に陰極に衝突している。陰極に衝突する際、陰極は二次電子だけでなく、その他に二次イオン、中性粒子などの陰極(ターゲット)物質を放出する。この現象を利用した方法が、直流二極スパッタリング法である。二次イオンの量は中性粒子の10-2程度なので、薄膜形成だけを考えるときは通常無視される。陰極から飛び出した中性粒子が基板上で凝縮して薄膜を形成する。
【0065】
マグネトロンスパッタリング法は、スパッタリング法の1つの形態であり、平板状陰極面に磁場をかけて放電するマグネトロン放電により膜形成を行うスパッタリング法である。マグネトロンスパッタリング法では、典型的には圧力≒5mTorr(Ar)において、電圧Vd≒600Vで20mA/cm2程度の高電流密度の放電が得られる。このとき、陰極面上に、数mmの薄い暗部を隔てて明るく輝くドーナツ状の高密度プラズマ(≒1×1018-3)が生成される。
【0066】
ここで、プラズマ発生の原理を概略的に説明する。
【0067】
気体を構成している原子や分子は、原子核の周りに電子が捕まえられた準中性状態にある。このような気体中に放電などによって外部からエネルギーを与えてやると、電子は原子核の引力を振り切り自由になり、気体は電子と原子核(正イオン)とがバラバラになった状態になる。これが、固体、液体、気体に並ぶ第4の状態といわれるプラズマである。
【0068】
物質の第4状態であるプラズマは、特異な物理的性質および化学的性質を有している。第1に、高温なので、粒子の運動エネルギーが大きい。第2に、電荷を持つ粒子の集団なので、導電性があり、金属のように振舞う。第3に、化学的に活性であって、反応性が高い。例えば、メタンガスと水素ガスとを混ぜて放電を生じさせ、壁温を適度に設定すると、壁面にダイヤモンドが析出してくる。第4に、プラズマは発光するので、光源として利用することができる。例えば、夜の街を彩るネオンサインやナトリウム・水銀などの放電を用いる照明はよく目にするところである。このようなプラズマの性質は、プラズマ内の電子と気体分子との衝突に由来している。
【0069】
プラズマ中の粒子は電場やローレンツ力(電荷qをもつ粒子が磁界B中を運動するときに受ける力:−qv×B)、圧力勾配、粘性力などが存在するときに加速を受ける。プラズマは準中性条件を満たすため、1価の正イオンの場合、電子とイオンとは密度が等しい。従って、プラズマの密度を求めるにはどちらかの密度を調べれば良い。
【0070】
イオン密度(Ni)は、例えば、静電短針法,すなわち、ラングミューアプローブ法,を用いて測定することができる。ラングミューアプローブ法によると、分光計測を行うことができない荷電粒子などのプラズマの物理諸量を測定することができる。ラングミューアプローブ法で計測可能なプラズマの物理諸量は、イオン密度の他に、電子温度(Te)、電子エネルギー分布関数(EEDF)、電子密度(Ne)、フローティングポテンシャル(Vf)、プラズマポテンシャル(Vp)などである。
【0071】
この方法は簡便であり、プラズマ中に挿入したプローブユニット先端のプローブチップで電圧−電流特性を計測することによりこれらの物理緒量を求めることができる。ただし、得られた電子エネルギー分布関数(EEDF)がMaxwell−Bolzmann分布であることが前提となっている。プローブ電流,すなわち、プラズマ電子電流(Ie),は、熱平衡状態のEEDFがMaxwell−Bolzmann分布であることを仮定すると、以下の式で表される。
【0072】
e=1/4(e・S・Ne・C)exp[(V−Vp)/Te
(e:電荷素量、S:プローブチップ表面積、C:電子熱運動平均速度、V:プローブ電圧)
上記の式の係数部は、プローブシース表面に達する電子の熱拡散電流を示し、指数部は障壁電界を飛び越えてプローブチップの表面に到達する電子の割合を示す。
【0073】
マグネトロンスパッタリング法において、発生するドーナツ状の高密度プラズマの大半径R(≒4cm)は、陰極背面に設けられた磁石が発生する磁力線の形状でほぼ決まるが、ドーナツの厚さaは半径Rの位置の磁場(≒200Gs)と加速電圧Vによって、電子のラーモア半径(ρe≒0.5cm)程度になる。なお、イオンは重くてラーモア半径が大きいので磁場は効かないと考えてよい。このように低い圧力でも高密度のプラズマが生成するのは、次のような二次電子のE×Bドリフトによる周回運動の効果(マグネトロン効果)による。
【0074】
プラズマ内の正イオンは、陰極暗部の電圧降下で加速されて陰極面をたたき、そこから二次電子を放出させる。この二次電子は、暗部の電場で加速されてeVd(例えば600eV)程度の高いエネルギーを得る。この高エネルギー電子は無磁場では電極間の距離だけ走って陽極に吸収されて消滅するので、その寿命は短く、電離効率が悪い。しかし、マグネトロン放電では陰極面に平行に磁場があるので、二次電子は、陰極面上をE×Bドリフトをしながらサイクロイドを描いて、ドーナツに沿う方位角方向に周回する。その結果、二次電子が最終的に陽極に吸われて消滅するまでの寿命が長くなり、数多くの電離を起こしてドーナツ状の高密度プラズマができる。
【0075】
陽極は電子を捕集して電流を流す働きをするだけなので、陰極と対向させて平板状陽極をおく方式の他に、リング状の陽極面を陰極面と同じ平面上におく方式もよく用いられている。
【0076】
直流マグネトロンプラズマは直流電流を流す必要があるので、陰極材料(スパッタ材料)は導電性でなければならない。そこで、絶縁性の薄膜をスパッタリング法で形成する場合には、RFマグネトロンプラズマが用いられる。すなわち、陰極にRF電圧をフローティングの状態で印加すると正イオンのチャージアップが打ち消され、陰極表面には直流の自己バイアス電圧が発生する。この電圧によってイオンが加速され、絶縁性の陰極材料もスパッタすることが可能になる。
【0077】
さて、透明導電膜は、有機電界発光素子の一形態であるトップエミッション型有機電界発光素子における上部電極として使用される場合がある。この場合、この透明導電膜は、有機電界発光素子の製造工程で一般的に使用される蒸着法によって形成することができず、上述のスパッタリング法で形成される。
【0078】
しかし、スパッタリング法はプラズマ(O2-、Ar+)を発生させる高エネルギープロセスのため、有機薄膜上へ透明導電膜を形成する場合、下地の有機薄膜に、反跳Arイオン(準中性状態の気体Arを放電などによりプラズマ化させたときに生成する正イオン)やγ電子(二次電子であり、プラズマ電子が気体Arやターゲット粒子に衝突した際に放出される高エネルギー電子)、更には加速されたターゲット粒子が衝突して大きなダメージを与えるという問題を有している。スパッタリング法によって有機層が受けるダメージを実際に分析したところ、主に、スパッタリングによる高エネルギー粒子の衝突、プラズマや紫外線の基板への照射などがダメージの原因であることがわかった。有機電界発光素子がダメージを受けると、駆動電圧の上昇、発光効率の低下、低寿命化などの様々な問題が生じる。そのため、トップエミッション型有機電界発光素子では、いかに有機電界発光層にダメージを与えずに透明導電膜を作製するかが1つの技術課題となっている。
【0079】
また、従来のスパッタリング法は、有機電界発光素子の透明導電膜として適切な特性を有するITO薄膜を形成するために、酸素ドープを必要とするという問題があった。
【0080】
透明導電膜は、一般的に電子注入層上に形成される。この電子注入層は、例えば、CaやBaなどの活性が高い希土類元素を含んでいる。有機電界発光素子の透明導電膜としてITO薄膜をスパッタリング法で形成する場合、ITO薄膜の低抵抗化や光線透過率の向上のために酸素ドープが必要であった。この酸素ドープは金属薄膜を劣化させしてしまう。したがって、従来のスパッタリング法による形成方法では、金属薄膜の劣化を防ぐための保護層を形成する工程が必要である。
【0081】
ここで、図1に示すスパッタリング装置を用いた薄膜の形成方法を、有機電界発光装置の透明導電膜の形成方法を例に説明する。
【0082】
まず、図1に示すように、バッキングプレート12上にスパッタリングターゲット2を載置して固定し、ホルダ13に基板3とメタルマスク4とを取り付ける。
【0083】
その後、真空チャンバを真空にしてスパッタリングを行い、基板3上に薄膜を形成する。
【0084】
スパッタリング時には、ターゲット粒子だけでなく、反跳Arイオンやγ電子もスパッタリングトラップ14に向けて進行する。
【0085】
図1のスパッタリング装置1のスパッタリングトラップ14は、上で説明したように、一対のトラップマグネット143aおよび143bが、極性の異なる磁極同士が開口142に対応した領域を挟んで対向するように配置されている。すなわち、トラップマグネット143aおよび143bは、枠体141に設けた開口142の両脇に配置されている。そして、トラップマグネット143aのN極およびS極は、それぞれ、トラップマグネット143bのS極およびN極と向き合っている。
【0086】
これらトラップマグネット143aおよび143bは、磁場を形成している。なお、トラップマグネット143aのN極とトラップマグネット143bのS極との間に形成される磁場の向きは、トラップマグネット143aのS極とトラップマグネット143bのN極との間に形成される磁場の向きとは異なっている。これら磁場に、開口142を通過するγ電子(リーク荷電粒子)を捕捉させることができる。
【0087】
また、上記の通り、枠体141の電位はメタルマスク4の電位よりも低く設定することができる。この場合、開口142を通過する反跳Arイオンを枠体141に捕捉させることができる。
【0088】
つまり、スパッタリングトラップ14に、開口142を通過する反跳Arイオンやγ電子を捕捉させることができる。したがって、これら荷電粒子の基板3への入射、飛散を大幅に抑制することができ、基板3へのダメージを軽減することができる。
【0089】
一方、ターゲット粒子は、電気的に中性であるため、トラップマグネット143aおよび143bが形成する磁場の影響を受けず、枠体141とメタルマスク4との間に設定された電位差の影響も受けない。ターゲット粒子は開口142を通って基板3に達するので、スパッタリングトラップ14を設置したことによる成膜レートおよび面内膜厚分布の悪化はない。
【0090】
なお、トラップマグネット143aおよび143bの長手方向は、第1方向51に対して平行でなくてもよい。例えば、トラップマグネット143aおよび143bの長手方向は、第2方向52に対して平行であってもよい。
【0091】
カソードマグネット11に対するスパッタリングトラップ14の相対位置を固定してもよい。例えば、カソードマグネット11を第2方向52に移動させる場合には、これに対応してスパッタリングトラップ14を第2方向52に移動させてもよい。こうすると、スパッタリングトラップ14が荷電粒子を捕捉する効率を、カソードマグネット11のスパッタリングターゲット2に対する相対位置に依存することなく一定とすることができる。
【0092】
スパッタリングトラップ14には、他の構造を採用することもできる。例えば、開口を設けた遮蔽板と、一方の磁極が開口の中心を向くように開口に沿って放射線状に配置された複数のマグネットとを含んだスパッタリングトラップを使用してもよい。このようなトラップは、広角側に進行する荷電粒子を遮蔽板で遮るとともに、低角側に進行する荷電粒子を複数のマグネットが発生する開放磁場で捕捉することによって、荷電粒子の基板3への入射、飛散を大幅に抑制することができる。もちろん、スパッタリングトラップ14と、メッシュ式のトラップなどの他のトラップとを併用することもできる。
【0093】
本実施形態では、カソードマグネット11をスパッタリングターゲット2に対して第2方向52に相対的に移動させスパッタリングを行う。カソードマグネット11はスパッタリングターゲット部21および22の直下に順次位置するので、カソードマグネット11が形成する磁場もスパッタリングターゲット部21および22の上方に順次位置することとなる。すなわち、プラズマをスパッタリングターゲット部21および22の上方に順次位置させ、これにより、スパッタリングターゲット部21および22を交互にスパッタリングする。
【0094】
図1のスパッタリング装置1では、スパッタリングターゲット部21および22を交互にスパッタリングして、組成がIn23の薄膜と組成がSnO2の薄膜とを交互に基板3上に形成する。組成がIn23の薄膜と組成がSnO2の薄膜とを交互に基板3上に形成すると、ITOターゲットをスパッタリングした場合と比較して有機電界発光素子の透明導電膜として優れた特性を有するITO薄膜が容易に得られる。つまり、スパッタリング装置1を用いてスパッタリングを行うと、酸素ドープを必要とせずに、有機電界発光素子の透明電極としての利用に適したITO薄膜を形成することができる。それゆえ、図1のスパッタリング装置1を用いてトップエミッション型有機電界素子の透明導電膜を形成した場合、金属薄膜上に保護層を形成する必要がない。したがって、図1のスパッタリング装置を用いると、有機電界発光素子の製造コストを抑えることができる。
【0095】
図1のスパッタリング装置1は、トップエミッション型有機電界発光素子の上部電極の形成だけでなく、ボトムエミッション型有機電界発光素子などの他の有機電界発光素子の透明導電膜の形成にも用いることもできる。もちろん、この装置1は、有機電界発光素子の製造以外にも使用できる。
【0096】
この成膜方法には、さらに他の利点がある。
【0097】
図1のスパッタリング装置1では、互いに同数でありかつ交互に並んだスパッタリングターゲット部21および22から構成されたスパッタリングターゲット2を用いている。
【0098】
しかし、数が互いに異なるスパッタリングターゲット部21および22を並べてなるスパッタリングターゲット2を用いることもできるし、それらを交互でなくランダムに並べたものを用いることもできる。数および並べ方を変えることによる効果は後述する。
【0099】
一部または全部のスパッタリングターゲット部21および/または22を、例えば、Al23、Ga23、ZnOなどの組成をそれぞれ有する焼結体などと交換してスパッタリングターゲット2とすることもできる。そのようなスパッタリングターゲット2を用いることで、例えば、IZO、AZO、GZOなどの薄膜を、酸素ドープを必要とせずに基板3上に形成することができる。
【0100】
スパッタリングターゲット2は、組成が互いに異なる3種類以上のスパッタリングターゲット部を含むこともできる。この場合、それらを規則的に並べることもできるし、ランダムに並べることもできる。
【0101】
このように、スパッタリングターゲット2が含んでいるスパッタリングターゲット部の一部または全ての組成を変更することにより、基板3上に形成する薄膜の組成を変更することができる。また、スパッタリング部の配列を変更することにより、基板3上に形成する薄膜の組成の均一性等を変更することができる。
【0102】
また、スパッタリングターゲット部21および22を交互にスパッタリングすると、共蒸着を起さずに薄膜を形成できるので、組成が異なる複数のスパッタリングターゲットを同時にスパッタリングした場合と比較して、均一性に優れた薄膜が得られる。したがって、この方法は、膜組成の制御が容易である。
【0103】
図1に示した例では、スパッタリングターゲット部21および22の第2方向52についての寸法は互いに等しく、カソードマグネット11の第2方向52についての寸法はスパッタリングターゲット部21および22の各々の第2方向52についての寸法と同じである。
【0104】
カソードマグネット11の第2方向52についての寸法は、スパッタリングターゲット部21および22の各々の第2方向52についての寸法よりも小さくてもよい。カソードマグネット11の第2方向52についての寸法が、スパッタリングターゲット部21および22の各々の第2方向52についての寸法と同じであるかまたはそれよりも小さければ、カソードマグネット11を複数のスパッタリングターゲット21の1つのみと向き合わせることおよびスパッタリングターゲット22のみと向き合わせることができる。
【0105】
また、スパッタリングターゲット部21および22は、第2方向52についての寸法が互いに異なっていてもよい。
【0106】
この方法によると、形成すべき薄膜の組成を比較的自由に変更することができる。
【0107】
図1では第2の方向52についての寸法が同じでありかつ同じ数のスパッタリングターゲット部21および22を交互に並べてなるスパッタリングターゲット2を用いている。この場合、カソードマグネット11のスパッタリングターゲット2に対する相対移動の速度を一定とすると、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部21と向き合っている時間と、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部22と向き合っている時間とは等しい。カソードマグネット11のスパッタリングターゲット2に対する相対移動の速度を一定とした場合に、スパッタリングターゲット2を構成しているスパッタリングターゲット部21および22の数および/またはそれらの第2方向52についての寸法を異ならしめると、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部21と向き合っている時間と、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部22と向き合っている時間とを異ならしめることができる。それにより、薄膜の組成を変更することができる。
【0108】
あるいは、先の移動と停止とが交互に繰り返されるように駆動機構の動作を制御する場合、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部21の背面と向き合っている時間と、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部22の背面と向き合っている時間との少なくとも一方を変更してもよい。この場合も、薄膜の組成を変更することができる。
【0109】
あるいは、カソードマグネット11のスパッタリングターゲット2に対する相対的な移動の速度を、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部21の背面と向き合っている期間と、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット部22の背面と向き合っている期間との少なくとも一方で変更してもよい。この場合も、薄膜の組成を変更することができる。
【0110】
この方法によると、膜厚均一性も比較的自由に変更することができる。たとえば、カソードマグネット11のスパッタリングターゲット2に対する相対的な移動の速度を、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット2のある部分と向き合っている期間と、カソードマグネット11がスパッタリングターゲット2の他の部分と向き合っている期間との少なくとも一方で変更する。こうすると、より厚い部分とより薄い部分とを含んだ薄膜が得られる。
【0111】
また、この方法は、高いターゲット利用効率を達成可能である。
【0112】
すなわち、この方法では、カソードマグネット11をスパッタリングターゲット2に対して相対的に移動させる。したがって、スパッタリングターゲット2の局所的な侵食が生じ難い。
【0113】
また、ターゲット部21および22の一部が破損したかまたは過剰に侵食された場合には、そのターゲット部のみを交換することができる。すなわち、ターゲット2の一部が破損したかまたは過剰に侵食された場合であっても、ターゲット2の全体を交換する必要がない。
【0114】
次に、図1のスパッタリング装置1を製造に使用することが可能な有機電界発光装置について説明する。
【0115】
有機電界発光装置の主要部は有機電界発光素子である。有機電界発光素子は、基材上に、第1電極と、有機発光層と、第2電極とがこの順で設けられた構成を有し、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させるものである。ここで、第1電極および第2電極のうち、一方は陽極、他方は陰極として働く。また、第1電極と第2電極との間には、発光補助層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層などが必要に応じて設けられる。
【0116】
有機電界発光素子は、これを大気中の水分から保護することを目的として封止される。有機電界発光素子は、例えば、ガラスキャップまたは金属キャップを基材と貼り合わせる方法や、有機電界発光素子をバリア層などにより被覆する方法を用いて封止することができる。
【0117】
有機電界発光素子から光を取り出す方法としては、例えば、発光した光を基材側から取り出すボトムエミッション方式と、基材と反対側から光を取り出すトップエミッション方式とが挙げられる。
【0118】
ボトムエミッション型の有機電界発光素子では、有機発光層を基準として基材側の層は、発光した光を透過させるために透明である必要がある。すなわち、基材および第1電極は透明である必要がある。
【0119】
一方、トップエミッション型の有機電界発光素子では、有機発光層を基準として第2電極側の層は、発光した光を透過させるために透明である必要がある。すなわち、第2電極は透明である必要があり、また、封止によって光が遮断されないようにする必要がある。
【0120】
また、一般的なトップエミッション型では、第1電極として反射電極を用い、発光層と反射電極との間に正孔注入層と正孔輸送層とが設けられているため、ボトムエミッション型有機電界発光素子と比べて、第1および第2電極間の距離が大きくなる。これら電極間の光学距離が発光波長460nm(青緑の励起光)の半波長程度になると、光学的な干渉を強く受けるため、各層の膜厚を最適化しないと、スペクトルや効率など、発光特性を制御できない。そのため、光学設計も非常に重要になる。
【0121】
次に、図面を参照しながら、図1に示すスパッタリング装置を製造に利用することが可能なトップエミッション型の有機電界発光素子を含んだ有機電界発光装置を、その製造方法とともに説明する。
【0122】
図4は、トップエミッション型の有機電界発光素子を含んだ有機電界発光装置の一例を示す概略断面図である。
【0123】
図4に示すトップエミッション型有機電界発光装置100は、基材101と、有機電界発光素子200と、絶縁性隔壁102と、封止基材105とを含んでいる。各有機電界発光素子200は、反射電極201と、正孔輸送層202と、有機発光層203a〜203cのいずれかと、電子注入層204と、透明電極205とを含んでいる。
【0124】
基材101としては、ガラス基材やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチックフィルムを採用すると、巻き取りにより有機電界発光素子の製造が可能となるため、安価に素子を提供できるという利点がある。プラスチックフィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどを用いることができる。なお、有機電界発光装置をアクティブマトリクス駆動方式の有機電界発光装置とする場合は、基材101として、薄膜トランジスタ(TFT)を備えたTFT基材を用いる必要がある。
【0125】
基材101上には、例えばストライプ形状にパターニングされた反射電極201が形成されている。反射電極201は、第1電極であり、有機電界発光素子の陽極として働く。反射電極201の材料としては、例えば、Mg、Al、Crなどの金属材料を用いることができる。なお、反射電極201は、Mg、Al、Crなどの反射電極とITOなどの透明電極とを含んだ2層構成であってもよい。このとき、ITO層は、陽極界面層として設けられる。反射電極201の形成方法としては、例えば、蒸着法やスパッタリング法などの真空成膜法を用いることができる。
【0126】
基材101上には、絶縁性隔壁102がさらに形成されている。絶縁性隔壁102は、反射電極201のパターンの間隙に形成され、反射電極201の縁部を覆っている。絶縁性隔壁102は、反射電極201と、正孔輸送層202と、有機発光層203a〜203cのいずれかと、電子注入層204とを含んだ1つの積層体を、隣り合う他の積層体から隔離している。それにより、絶縁性隔壁102は、これら積層体の間での短絡を防いでいる。絶縁性隔壁102の材料としては、例えば、感光性材料を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、例えば、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。絶縁性隔壁102は、例えば、パターン露光および現像などを含んだフォトリソグラフィー法によって形成することができる。
【0127】
正孔輸送層202は、反射電極201上に形成されている。正孔輸送層202の材料としては、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)などを用いることができる。正孔輸送層202は、例えば、上記材料を水に溶かして塗工液とし、この塗工液をスピンコート法などにより塗工し、その後乾燥させることで形成することができる。
【0128】
有機発光層203a〜203cは、正孔輸送層202上に形成されている。有機電界発光装置100にフルカラー画像を表示させる場合には、有機電界発光装置100は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光色をそれぞれ有する有機発光層を含む必要がある。図4において、有機電界発光装置100は、赤色有機発光層203aを含んだ有機電界発光素子200と、緑色有機発光層203bを含んだ有機電界発光素子200と、青色有機発光層203cを含んだ有機電界発光素子200とを含んでいる。有機発光層203a〜203cの材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)やポリフルオレン(PF)を用いることができる。
【0129】
有機発光層203a〜203cは、例えば、レリーフ印刷を用いて形成することができる。レリーフ印刷については、後述する。
【0130】
電子注入層204は、有機発光層203a〜203cの上に形成されている。電子注入層204の材料としては、例えば、CaやBaなどの低仕事関数の希土類元素を用いることができる。電子注入層204は、蒸着法を用いて形成することができる。
【0131】
透明電極205は、電子注入層204および絶縁性隔壁102上に形成されている。この装置100にパッシブマトリックス駆動方式を採用する場合には、透明電極205は、ストライプ状のパターンを形成するように配置する。また、この装置100にアクティブマトリックス駆動方式を採用する場合は、透明電極205は連続膜とする。透明導電膜205は、有機電界発光素子200の陰極として働く。透明電極205としては、例えば、上で説明した透明導電膜を用いることができる。
【0132】
透明導電膜を含む透明電極205は、図1のスパッタリング装置を用いて形成することができる。図1のスパッタリング装置を用いて透明電極205を形成することにより、有機発光層203a〜203cへのダメージを低減させることができるとともに、電子注入層204の劣化を防ぐことができる。そして、組成の均一性に優れた透明電極205を形成することができる。そのため、発光特性の優れた有機電界発光素子を製造することができる。また、図1のスパッタリング装置を用いたスパッタリング法では、成膜中のマスク4の温度上昇も抑えることができる。したがって、マスクの熱膨張や熱変形を抑えることができ、透明電極205を正確にパターニングすることができる。
【0133】
有機電界発光素子200は、バリア層103で被覆されている。バリア層103は、光透過性を有している必要がある。バリア層103の材料としては、例えば、窒化珪素層、酸化珪素層、窒化酸化珪素層を用いることができる。バリア層103は、例えば、化学気相堆積(CVD)法により形成することができる。なお、CVD法は、形成すべき膜が含有している元素を含んだ化合物を気化させてなるガス、または、このガスと水素および/または窒素などのキャリアガスとの混合ガスを、高温に加熱した基板表面に供給し、基板表面で分解、還元、酸化、置換などの化学反応を起こさせ、基材上に薄膜を形成する方法である。
【0134】
有機電界発光素子200などが形成された基材101は、樹脂層104を介して、封止基材105に貼り合わされている。
【0135】
樹脂層104の材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を使用することができる。
【0136】
封止基材105の材料としては、例えば、無アルカリガラスおよびアルカリガラスなどのガラスやプラスチック材料を用いることができる。封止基材105は、ガラスまたはプラスチック材料からなる層と、その上に形成されたCaO層とを含んだ多層構造を有していてもよい。有機電界発光素子200などが形成された基材101と封止基材105とを、CaO層とバリア層103とが向き合うように貼り合わせると、CaO層を乾燥剤として利用することができる。CaO層は、透明であるので、画像表示を妨げることがない。したがって、CaO層は、表示領域の全体に亘って形成することができる。
【0137】
基材101と封止基材105との貼り合わせには、例えば、ロールを用いた熱圧着を利用することができる。また、樹脂層104の材料として光硬化型接着性樹脂を使用する場合には、紫外光等を照射することにより貼り合わせることができる。
【0138】
基材101と封止基材105との貼り合わせた有機電界発光装置100は、上で説明したように、透明電極205を形成した際の有機発光層203a〜203cなどへのダメージが小さく、発光特性に優れている。
【0139】
なお、トップエミッション型の有機電界発光素子200には、上で説明した構成だけでなく、様々な構成を採用することができる。例えば、反射電極201を陰極とし、透明電極205を陽極としてもよい。また、図4では、反射電極201と透明電極205との間に、正孔輸送層202と有機発光層203a〜203cのいずれかと電子注入層204とが介在しているが、正孔輸送層202および電子注入層204の一方または双方を省略してもよい。有機電界発光素子200は、正孔注入層、電子輸送層、電荷発生層などの発光補助層をさらに含んでいてもよい。
【0140】
基板101の電極を成膜しない側に、セラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層しても良い。また、基材101および封止基材105として、可撓性を有しているプラスチック基材を使用してもよい。こうすると、フレキシブル有機電界発光装置が得られる。
【0141】
図5は、図1に示すスパッタリング装置1を製造に利用することが可能な有機電界発光装置の他の例の概略断面図である。
【0142】
図5に示す有機電界発光装置300は、両面発光型の有機電界発光装置である。有機電界発光装置300は、第1電極を反射電極201ではなく透明電極206とした以外は、図4に示す有機電界発光装置100とほぼ同様の構造を有している。この有機電界発光装置300は、上面と下面との双方で画像を表示可能である。
【0143】
有機電界発光装置300の製造では、透明電極205および透明電極206が含んでいる透明導電膜の形成に、図1に示すスパッタリング装置を使用することができる。
【0144】
次に、有機発光層203a〜203cの形成に利用可能な印刷法について説明する。
有機発光層203a〜203cを印刷法により形成する場合、その印刷法としては、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、レリーフ印刷法等を利用することができる。
【0145】
図6は、レリーフ印刷機を概略的に示す図である。
このレリーフ印刷機400は、インキ401を収容しているインキ溜め402と、アニロックスロール403と、ドクターブレード404と、版胴405と、版胴405に巻き付けられたレリーフ刷版406と、圧胴407とを含んでいる。ここで、インキ401は、有機発光層203a〜203cのいずれかの材料を、トルエンなどの芳香族系溶媒に溶解させたものである。レリーフ印刷法では、アニロックスロール403を回転させて、インキ溜め402に収容されているインキ401を、アニロックスロール403の表面に付着させ、次いで、アニロックスロール403の表面に付着した過剰量のインキ401をドクターブレード404により掻き落とす。次に、アニロックスロール403の表面からレリーフ刷版406上にインキ401を供給し、このインキ401をアニロックスロール403と圧胴407とにより被転写基板408上に転写する。
【0146】
レリーフ印刷法では、アニロックスロール403により、厚みのある高弾性の樹脂凸版406に水性インキまたはUVインキ401を付着させ、このインキ401を樹脂凸版406から被印刷体408へと直接に転写する。そのため、レリーフ印刷法によると、平滑性の低い面や、フィルムおよび布等のフレキシブル基材への印刷も可能である。また、非常に薄く均一なベタ印刷を得意とし、様々な樹脂や薬品を塗り重ねることにより、更に精度を高めることも可能である。近年、レリーフ印刷の技術革新により、高精緻で精巧な多色表現が可能となっている。また、水性インキがレリーフ印刷に適応していることから、環境性が高いとされ、特に食品、医薬品のパッケージ分野において広く利用されている。更にインキの塗布量が少ないことから、残留溶剤も少ない。
【0147】
ここで、有機電界発光装置の駆動方式について説明する。
有機電界発光装置の駆動方式としては、例えば、パッシブマトリクス駆動方式とアクティブマトリクス駆動方式とが挙げられる。パッシブマトリクス駆動方式は、有機発光層を挟んでストライプ状の電極を直交させるように対向させ、その交点で発光させる駆動方式である。他方、アクティブマトリクス駆動方式は、画素毎にトランジスタを設けたアレイ基板を使用して、映像信号を書き込むべき画素と表示動作を行うべき画素とを互いから電気的に切り離す駆動方式である。
【0148】
パッシブマトリクス駆動方式では、走査するストライプ状の電極数が大きくなるほど各画素における点灯時間は短くなるため、ON状態では瞬間発光輝度を大きくする必要がある。瞬間発光輝度を大きくした場合には、素子寿命が低下するので、走査するストライプ状の電極数が数100本を超える高精細ディスプレイには適さない。パッシブマトリクス駆動方式の表示エリアは、陽極と陰極とによる単純マトリクスで構成されており、陰極と陽極とが交差した部分で発光可能である。パッシブマトリクス駆動方式は、Rowライン、すなわち、陰極、が選択された時のみ点灯するデューティ駆動であり、また、駆動用ドライバICは外付け実装する必要がある。
【0149】
アクティブマトリクス駆動方式の有機電界発光装置では、各画素はスイッチング素子とメモリ素子とを含んでいる。アクティブマトリクス駆動方式によると、各画素は、その書込期間において映像信号を記憶し、書込期間に続く表示期間では先の映像信号の大きさに対応した輝度で発光し続ける。ディスプレイを大型化した場合であっても、瞬間発光輝度は小さくてよく、寿命の観点で有利である。また、パッシブマトリクス駆動方式に比べ、低電圧駆動が可能であるので、消費電力も小さくすることができる。したがって、ディスプレイの大面積化や高精細化の観点では、アクティブマトリクス駆動方式がより優れているといえる。
【0150】
有機電界発光素子は電流で駆動するため、有機電界発光装置にアクティブマトリクス駆動方式を採用した場合には、比較的大きな電流を流すことができるTFTが必要である。このため、多くの場合、TFTとして、移動度が高い低温ポリシリコンTFTを使用している。低温ポリシリコンTFTは、安価なガラス基板上に形成することができ、また、このガラス基板上には、低温ポリシリコンTFTを含んだ周辺ドライバ回路を形成することができる。したがって、コンパクトな装置を実現可能である。アクティブマトリクス型有機電界発光装置の応用分野は、TFTを用いたアクティブマトリクス型液晶装置の応用分野と重なっている。したがって、市場規模は巨大であり、将来的に、液晶装置の置き換えや有機電界発光素子に特有の新しい市場の開拓などが大いに期待されている。
【実施例】
【0151】
以下に、本発明の例を記載する。
【0152】
(実施例)
本例では、以下の方法により、図4の有機電界発光装置を製造した。ただし、本例では、有機発光層203a〜203cの全てを、発光色が緑の有機発光層とした。
【0153】
まず、スパッタリング法により、ガラス基板101上にクロム層およびITO層を順次形成した。次いで、フォトリソグラフィー技術を用いて、クロム層とITO層との積層体をストライプ状にパターニングした。これにより、クロム層とITO層との積層体からなる陽極201を得た。
【0154】
次に、フォトリソグラフィー技術を利用して、先のストライプパターンの間隙にポリイミドからなる絶縁性隔壁102を形成した。
【0155】
次いで、PEDOTとPSSとを水に溶解させて塗工液を調製した。この塗工液を基板101の絶縁性隔壁102側の主面にスピンコート法により塗布して、正孔輸送層202を得た。
【0156】
その後、緑色有機発光材料であるポリフルオレン(PF)をトルエンに溶解させてインキを調製した。このインキを正孔輸送層202上にレリーフ印刷法により印刷して、有機発光層203a〜203cを得た。
【0157】
次に、マスクを用いた蒸着法により、有機発光層203a〜203c上に、バリウムとアルミニウムとからなる電子注入層204をストライプ状に形成した。電子注入層204は、そのストライプパターンが陽極201のストライプパターンと直交するように形成した。
【0158】
次に、図1に示すスパッタリング装置1を用いて、電子注入層204および絶縁性隔壁102上に、ITOからなる厚さが150nmの陰極205を形成した。ここで使用したカソードマグネット11は、第1方向51についての寸法が400mmであり、第2方向52についての寸法が20mmであり、これら2つの方向と直交する方向についての寸法が20mmであった。
【0159】
スパッタリングトラップ14としては、枠体141がステナイト系ステンレス(SUS316)からなるものを使用した。枠体141は、第1方向51についての寸法が500mmであり、第2方向52についての寸法が700mmであり、これら2つの方向と直交する方向についての寸法が10mmであった。開口142は、第1方向51についての寸法が400mmであり、第2方向52についての寸法が600mmであった。2個のトラップマグネット143aおよび143bは、第1方向51についての寸法が400mmであり、第2方向52についての寸法が50mmであり、これら2つの方向と直交する方向についての寸法が50mmであった。スパッタリングトラップ14は、スパッタリングターゲット2から60mm離間させた。
【0160】
スパッタリングターゲット2としては、In23からなる27個のスパッタリングターゲット部21と、SnO2からなる3個のスパッタリングターゲット部22とを、9個のスパッタリングターゲット部21からなる部分と1個のスパッタリングターゲット部22からなる部分とが交互となるように第2方向52に並べてなるものを用いた。スパッタリングターゲット部21としては、第1方向についての寸法が400mmであり、第2方向についての寸法が20mmであり、これら2つの方向と直交する方向についての寸法が20mmであるものを用いた。スパッタリングターゲット部22としては、第1方向についての寸法が400mmであり、第2方向についての寸法が20mmであり、これら2つの方向と直交する方向についての寸法が20mmであるものを用いた。
【0161】
本例では、カソードマグネット11を第2方向に移動させて、カソードマグネット11を、スパッタリングターゲット部21および22と順次向き合わせて、以下の条件でスパッタリングを行った。すなわち、真空チャンバ内の圧力を1.0Paに保ちつつ、真空チャンバ内に、アルゴンガスと酸素ガスとを、それぞれ150sccmおよび0.2sccmの流量で供給した。放電パワーは1.5kWとし、スパッタリングターゲット2と基板3との距離は200mmとした。また、ペルチェ素子133でマスク4を冷却することにより、マスク4の温度を50℃以下に維持した。
【0162】
形成した陰極205の膜厚の均一性を、Max−Min法で評価した。その結果、式{(Max−Min)/(Max+Min)}×100から算出される膜厚面内均一性は4%であった。なお、ここで、「Max」および「Min」は、それぞれ、陰極205の膜厚の最大値および最小値を示している。
【0163】
次に、CVD法により、陰極205上に酸化珪素からなるバリア層103を形成した。さらに、ガラス基板とその一方の主面に形成されたCaO層とを含む封止基材105を、CaO層がバリア層103と向き合うように樹脂層104を介して貼り合せた。
【0164】
以上のようにして、図4に示す有機電界発光装置100を完成した。
【0165】
次に、この有機電界発光装置の特性を調べた。その結果、最高輝度は5000cd/m2であり、最大電流効率は2.6cd/Aであった。
【0166】
(比較例1)
本例では、実施例で説明したのとほぼ同様の方法により、図4の有機電界発光装置を製造した。ただし、本例では、実施例と同様、有機電界発光層203a〜203cの全てを、発光色が緑色の有機発光層とした。また、本例では、スパッタリングトラップ14とペルチェ素子133とを省略した。スパッタリング中のマスク4の温度は60℃であった。
【0167】
形成した陰極205の膜厚の均一性を、Max−Min法で評価した。その結果、膜厚面内均一性は10%であった。
【0168】
次に、この有機電界発光装置の特性を調べた。その結果、最高輝度は200cd/m2であり、最大電流効率は0.05cd/Aであった。
【0169】
(比較例2)
本例では、実施例で説明したのとほぼ同様の方法により、図4の有機電界発光装置を製造した。ただし、本例では、実施例と同様、有機電界発光層203a〜203cの全てを、発光色が緑色の有機発光層とした。また、カソードマグネット11の代わりに、直径が600mmの円盤形状の支持プレートに直径が2mmのピンカソードマグネットを6000本挿入してなるマグネットプレートを用いた。ピンカソードマグネットは、一辺が200mmの正六角形状の配列を形成するように配置した。さらに、スパッタリングターゲット2として、ITOからなり、直径が600mmの円盤形状のものを用いた。スパッタリングは、カソードマグネット2をスパッタリングターゲット2に対して固定させ、酸素をドープしながら行った。
【0170】
本例で形成した陰極205の膜厚の均一性を、Max−Min法で評価した。その結果、膜厚面内均一性は7%であった。
【0171】
次に、この有機電界発光装置の特性を調べた。その結果、最高輝度は1000cd/m2であり、最大電流効率は0.2cd/Aであった。
【0172】
このように、本例では、実施例と比べて、最高輝度および最大電流効率が劣化した。これは、酸素をドープしたことにより電子注入層が劣化したためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置の概略斜視図。
【図2】図1のスパッタリング装置で使用可能なホルダの拡大概略図。
【図3】図2のスパッタリング装置のホルダで使用可能なペルチェ素子の一例の概略断面図。
【図4】図1に示すスパッタリング装置を製造に利用することが可能な有機電界発光装置の一例の概略断面図。
【図5】図1に示すスパッタリング装置を製造に利用することが可能な有機電界発光装置の他の例の概略断面図。
【図6】レリーフ印刷機を概略的に示す図。
【符号の説明】
【0174】
1…スパッタリング装置、2…スパッタリングターゲット、3…基板、4…マスク、10…真空チャンバ、11…カソードマグネット、11a…カソードマグネット部、11b…カソードマグネット部、12…バッキングプレート、13…ホルダ、14…スパッタリングトラップ、15…電圧印加手段、21…スパッタリングターゲット部、22…スパッタリングターゲット部、51…第1方向、52…第2方向、100…トップエミッション型有機電界発光装置、101…基材、102…絶縁性隔壁、103…バリア層、104…樹脂層、105…封止基材、131…支持体、132…マスクフレーム、133…ペルチェ素子、141・・・枠体、142…開口部、143a…トラップマグネット、143b…トラップマグネット、200…有機電界発光素子、201…反射電極、202…正孔輸送層、203…有機発光層、204…電子注入性保護層、205、206…透明電極、300…両面発光型有機電界発光装置、400…レリーフ印刷機、401…インキ、402…インキ溜め、403…アニロックスロール、404…ドクターブレード、405…版胴、406…レリーフ刷版、407…圧胴、408…被転写基板、1331…セラミック基板、1332…金属電極、1333…p型半導体、1334…n型半導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が第1方向に延びた形状を有する複数のスパッタリングターゲット部を前記第1方向と交差する第2方向に並べてなりかつ前記複数のスパッタリングターゲット部の一部と他の一部とは組成が異なるスパッタリングターゲットと、カソードマグネットと、基板と、枠体とこれに支持された複数のトラップマグネットとを備えたスパッタリングトラップとを、前記スパッタリングターゲットと前記基板とが前記枠体の開口部を挟んで向き合いかつ前記スパッタリングターゲットが前記カソードマグネットと前記基板との間に介在するように配置し、前記カソードマグネットが前記複数のスパッタリングターゲット部と順次向き合うように前記カソードマグネットを前記スパッタリングターゲットに対して前記第2方向に相対的に移動させながらマグネトロンスパッタリング法により前記基板上に膜を形成することを含んだことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記複数のスパッタリングターゲット部は互いに異なる組成を有する第1および第2スパッタリングターゲット部を含み、前記カソードマグネットが前記第1スパッタリングターゲット部と向き合っている時間と、前記カソードマグネットが前記第2スパッタリングターゲット部と向き合っている時間とを異ならしめることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記第1スパッタリングターゲット部の前記第2方向についての寸法と、前記第2スパッタリングターゲット部の前記第2方向についての寸法とを異ならしめることを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記カソードマグネットの前記スパッタリングターゲットに対する相対的な移動の速度を、前記カソードマグネットが前記第1スパッタリングターゲット部と向き合っている期間と、前記カソードマグネットが前記第2スパッタリングターゲット部と向き合っている期間とで異ならしめることを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項5】
前記枠体は導電体であり、前記複数のトラップマグネットは、極性が異なる磁極同士を前記枠体の開口に対応した領域を挟んで向き合わせた一対のトラップマグネットを含み、前記導電体を前記基板またはその近傍に設置するアノードと比較してより低電位に設定して前記基板上に前記膜を形成することを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項6】
各々が第1方向に延びた形状を有する複数のスパッタリングターゲット部を前記第1方向と交差する第2方向に並べてなりかつ前記複数のスパッタリングターゲット部の一部と他の一部とは組成が異なるスパッタリングターゲットを使用してマグネトロンスパッタリング法により基板上に膜を形成するスパッタリング装置であって、
前記スパッタリングターゲットの裏面と向き合うように設置され、前記第1方向に延びた形状を有するカソードマグネットと、
前記スパッタリングターゲットの表面と対向するように前記基板を支持するホルダと、
枠体とこれに支持された複数のトラップマグネットとを備えかつ前記スパッタリングターゲットと前記基板との間に設置されるスパッタリングトラップと、
前記カソードマグネットを前記スパッタリングターゲットに対して前記第2方向に相対的に移動させる駆動機構と、
前記カソードマグネットが、前記複数のスパッタリングターゲット部の前記一部と向き合っている時間と、前記複数のスパッタリングターゲット部の前記他の一部と向き合っている時間とを、互いから独立して設定可能に前記駆動機構の動作を制御するコントローラと
を含んだことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項7】
前記枠体は導電体であり、前記複数のトラップマグネットは、極性が異なる磁極同士を前記枠体の開口に対応した領域を挟んで向き合わせた一対のトラップマグネットを含み、前記コントローラは、前記枠体を前記基板またはその近傍に設置するアノードと比較してより低電位に設定することを特徴とする請求項6記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
各々が第1方向に延びた形状を有する複数のスパッタリングターゲット部を前記第1方向と交差する第2方向に並べてなりかつ前記複数のスパッタリングターゲット部の一部と他の一部とは組成が異なることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項9】
基材と、前記基材上に順次形成された第1電極と有機発光層と第2電極とを備えた有機電界発光素子とを含んだ有機電界発光装置の製造方法であって、
前記第1電極および/または前記第2電極を、請求項1から5のいずれか1項記載の成膜方法により形成することを含んだことを特徴とする有機電界発光装置の製造方法。
【請求項10】
有機発光層材料を溶媒に溶解または分散させてインキを調製し、前記インキを用いたレリーフ印刷法により前記有機発光層を形成することをさらに含んだことを特徴とする請求項9記載の有機電界発光装置の製造方法。
【請求項11】
前記基材と前記有機電界発光素子とを含んだ基板に、ガラス基板とその上に形成されたCaO層とを含んだ封止基材を貼り合わせることをさらに含んだことを特徴とする請求項9または10記載の有機電界発光装置の製造方法。
【請求項12】
基材と、前記基材上に順次形成された反射電極と有機発光層と透明電極とを備えた有機電界発光素子とを含んだトップエミッション型の有機電界発光装置の製造方法であって、
前記透明電極を、請求項1から5のいずれか1項記載の成膜方法により形成することを含んだことを特徴とするトップエミッション型有機電界発光装置の製造方法。
【請求項13】
有機発光層材料を溶媒に溶解または分散させてインキを調製し、前記インキを用いたレリーフ印刷法により前記有機発光層を形成することをさらに含んだことを特徴とする請求項12記載のトップエミッション型有機電界発光装置の製造方法。
【請求項14】
前記基材と前記有機電界発光素子とを含んだ基板に、ガラス基板とその上に形成されたCaO層とを含んだ封止基材を貼り合わせる工程をさらに含んだことを特徴とする請求項12または13記載のトップエミッション型の有機電界発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−214687(P2008−214687A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53074(P2007−53074)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】