説明

成膜装置および成膜方法

【課題】成膜反応を極めて短時間で停止させ、オーバーシュートを抑制する。
【解決手段】基板10が収容される第1のチャンバー3と、成膜原料が混合された超臨界状態の媒体を第1のチャンバー3へ供給する供給ラインと、第1のチャンバー3内において基板10を保持するステージ9と、第1のチャンバー3内の圧力を、前記媒体の臨界圧力よりも低い圧力に減圧させるための第2のチャンバー4と、第1のチャンバー3と第2のチャンバー4とを接続する配管7aと、配管7aに設けられたバルブ7bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に所定の膜を形成する成膜装置および成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、微細加工を行った下地表面上に所定の機能を有する薄膜が形成される。従来、薄膜の形成には、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の成膜方法が用いられている。
【0003】
しかし、近年の半導体デバイスの微細化および高性能化に伴って、従来の成膜方法では成膜が困難な膜が求められている。例えば高い誘電率を有する絶縁膜の形成や、3次元構造を有する下地表面への膜の形成が求められている。かかる要求に応えるべく、超臨界流体を用いた成膜方法が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、成膜材料を溶解させた超臨界流体をノズルから噴霧して大気圧近くまで急速に減圧させる成膜方法が記載されている。かかる成膜方法では、超臨界流体が急速に減圧されることにより、超臨界流体中に溶解している成膜材料が析出し、堆積して膜が形成される。
【0005】
また、特許文献2には、成膜チャンバー内への成膜材料の搬送に超臨界流体を用い、成膜チャンバー内ではCVD法の反応、すなわち成膜材料の熱分解と熱反応により膜の堆積を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−300781号公報
【特許文献2】特開2006−120713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている成膜方法では、膜厚が1μm〜数10μm程度の比較的厚い膜を形成することは可能であるが、100nm以下の膜厚の薄膜を均一に形成することは困難であった。例えば、設計ルール50nm以降の世代のDRAMにおいては、メモリセルを構成するキャパシタの容量絶縁膜として、膜厚が6〜10nm程度の高誘電体膜が求められる。さらには、3次元構造を有する電極上に上記高誘電体膜を均一に形成することも求められる。しかしながら、成膜材料を溶解させた超臨界流体をノズルから噴霧する成膜方法によって上記のような薄膜を精度よく形成することは困難であった。
【0008】
ここで、超臨界流体は成膜材料の溶解性および微細な箇所への浸透性に優れている。よって、特許文献2に記載されている成膜方法によれば、3次元の複雑な構造を有する下地表面にも均一な膜を形成することが可能である。成膜材料の熱分解と熱反応により膜を形成する場合には、膜厚が所定の厚みになった時点で成膜反応を停止する。成膜反応を停止させるには、基板の加熱を停止したり、成膜原料の供給を停止したりすることが一般的である。しかしながら、ヒーターなどの加熱手段を停止させても、基板の温度は急速には下がらない。また、同様に、成膜原料の供給を停止しても、成膜チャンバー内の原料濃度は急速には下がらない。したがって、成膜反応停止操作を行ってからも、しばらくは成膜反応が進行するオーバーシュート現象が生じてしまう。そこで従来は、成膜反応のオーバーシュート分を見越して、成膜の制御を行っている。しかし、オーバーシュート期間中に堆積される膜厚は常に一定ではない。なぜなら、成膜材料濃度の下がり方や、基板温度の下がり方が、成膜チャンバー内の経時変化、超臨界流体の圧力や供給速度等の各種成膜パラメータに強く影響を受けるからである。このため、種々のパラメータを考慮して、再現性よく厳密な膜厚制御を行うことは容易ではなかった。例えば、膜厚が10nm以下の極めて薄い膜を形成するような場合には、1nm以下のレベルで膜厚制御を行う必要がある。しかし、従来の成膜方法では、オーバーシュート分を見込んで制御を行う必要があるため、精度よく膜厚を制御することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の成膜方法では、超臨界状態の媒体を用いて成膜原料を成膜チャンバー内に搬送し、所定の膜厚の膜が形成された時点で、成膜チャンバー内を減圧して成膜反応を停止させることを特徴とする。このようにして成膜反応を停止させれば、成膜反応が極めて短時間で停止され、オーバーシュートが抑制される。
【0010】
本発明の成膜装置は、成膜チャンバーの他に、該チャンバー内を減圧させるための第2のチャンバーを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
超臨界状態の媒体を用いて成膜を行う際のオーバーシュートが抑制されるので、膜厚の制御が容易となる。これにより精度の高い膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の成膜装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】酸化シリコン膜を形成する際の成膜時間と膜厚の関係の一例を示す図である。
【図3】成膜方法の各工程における超臨界流体の流れを示す模式図である。
【図4】成膜チャンバーと圧力開放チャンバーとの間のバルブの開放前後における圧力変化の計算値を示す図である。
【図5】(a)は従来の成膜方法における成膜チャンバー内の原料濃度および成膜速度の変化を示す図、(b)は本発明の成膜方法における成膜チャンバー内の原料濃度および成膜速度の変化を示す図である。
【図6】(a)は成膜チャンバーと回収タンクとが背圧調整器を介して接続された構成を示す図であり、(b)は成膜チャンバーと回収タンクとが圧力開放チャンバーおよび背圧調整器を介して接続された構成を示す図である。
【図7】成膜チャンバーの変形例の一つを示す模式図である。
【図8】ステージの構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の成膜装置の第1の実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係る成膜装置の構成を示す。図示されている成膜装置は、成膜チャンバー3、圧力開放チャンバー4、成膜チャンバー3と圧力開放チャンバー4とを接続する配管7a(第1の配管)、配管7aに設けられたバルブ7b(第1のバルブ)を備えている。
【0014】
成膜チャンバー3および圧力開放チャンバー4は、20MPa以上の圧力に耐えることができるステンレス製の高圧容器である。成膜チャンバー3と圧力開放チャンバー4とを接続する配管7aは、大口径(1インチ以上)のステンレス製の配管である。配管7aの途中に設けられているバルブ7bは、図示していない制御手段(コンピューター等)からの制御信号に応答して瞬時に開閉が可能である。
【0015】
成膜チャンバー3内にはヒーターが内蔵されたステージ9が設けられており、このステージ9に成膜対象である半導体基板10が固定される。半導体基板10は、膜が形成される面(処理面)が下向きになるように、ステージ9に固定される。
【0016】
ステージ9の具体的な構成の一例を図8に示す。ステージ9は、基板保持部15と断熱部材16により構成されている。基板保持部15は金属により形成され、内部にはヒーター17等の加熱手段が内蔵されている。ヒーター17は例えば電熱線であり、基板保持部15を加熱する。また、基板保持部15には図示していない温度検出手段(例えば熱伝対配線等)が設けられている。温度検出手段の検出結果に基づいて、ヒーター17に供給される電力を制御することによって、半導体基板10が所定の温度に維持される。
【0017】
断熱部材16の内部には、基板保持部15の上面および側面を囲むように冷却用チューブ18が設けられている。冷却用チューブ18内に水等の冷却媒体を循環させることにより、成膜チャンバー3にヒーター17の熱が伝播することが抑制される。
【0018】
なお、冷却用チューブ18は、ステージ9の熱が外部に伝播することを抑制するために使用される。換言すれば、成膜反応の停止時に半導体基板10を急速に冷却するためには使用されない。近年の半導体基板の大型化に伴って、ステージも大型化している。結果、基板保持部15の熱容量も増加しており、冷却用チューブ18を用いて半導体基板を急速に冷却することは困難である。
【0019】
半導体基板10を基板保持部15に固定する方法は、フック等を用いた機械的な固定手段の他に、静電気を用いて基板保持部15の表面に半導体基板10を密着固定させる方法を用いてもよい。
【0020】
再び図1を参照する。本実施形態に係る成膜装置には、2系統の原料供給ラインが設けられている。一方の原料供給ラインは、媒体供給設備11a、送液ポンプ1a、熱交換器2a、成膜原料供給器12a、バルブ6aから構成されている。媒体供給設備11aは、超臨界流体の元となる媒体(液体)を供給する。媒体供給設備11aから供給された液体は、液送ポンプ1bによって熱交換器2aに送られ、該熱交換器2aによって加熱されて超臨界流体となる。このようにして作られた超臨界液体に、成膜原料供給器12aから供給された第1成膜原料が混合(溶解)される。そして、第1成膜原料が混合された超臨界液体が成膜チャンバー3に供給される。
【0021】
もう一方の原料供給ラインも同様の構成を有する。すなわち、媒体供給設備11b、送液ポンプ1b、熱交換器2b、成膜原料供給器12b、バルブ6bから構成されている。媒体供給設備11bから供給された媒体(液体)は、熱交換器2bによって加熱されて超臨界流体となり、この超臨界液体に、成膜原料供給器12bから供給された第2成膜原料が混合(溶解)される。そして、第2成膜原料が混合された超臨界液体が成膜チャンバー3に供給される。
【0022】
3種類以上の成膜原料を用いて成膜を行う際には、上記と同様の原料供給ラインを3系統以上備えるようにしてもよい。また、複数の原料供給ラインはすべて同じ構造である必要は無く、供給する原料の特性に応じて供給ラインの構造を適宜変更してもよい。
【0023】
成膜チャンバー3および圧力開放チャンバー4は、それぞれにバルブが設けられた複数の配管を介して背圧調整器5に接続されており、背圧調整器5は、熱交換器21を介して回収タンク20に接続されている。回収タンク20は、成膜実施後に残存した成膜原料や、成膜反応で生成した副産物を回収するために使用される。具体的には、圧力開放チャンバー4は、バルブ80b(第2のバルブ)が設けられた配管80a(第2の配管)を介して背圧調整器5に接続されている。また、成膜チャンバー3は、バルブ81b(第3のバルブ)が設けられた配管81a(第3の配管)を介して背圧調整器5に接続されている。さらに、成膜チャンバー3と圧力開放チャンバー4とは、バルブ82b(第4のバルブ)が設けられた配管82a(第4の配管)を介して互いに接続されている。
【0024】
なお、各原料供給ラインの配管にはステンレス製の配管が用いられている。また、配管80a、81a、82aにもステンレス製の配管が用いられている。ただし、各原料供給ラインの配管および配管80a、81a、82aは、いずれも配管7aよりも口径が小さい。
【0025】
次に、本発明の成膜方法の第1の実施形態について説明する。本実施形態では、超臨界流体として二酸化炭素(CO2)を用い、半導体基板10上に、酸化シリコン膜(SiO2)を形成する場合について具体的に説明する。
【0026】
二酸化炭素は、臨界温度以上の温度および臨界圧力以上の圧力の下で超臨界状態になることが知られている。二酸化炭素の臨界温度Tcは31.1℃であり、臨界圧力Pcは7.38MPaである。
【0027】
図1に示す媒体供給設備11a、11bとして、液体二酸化炭素ボンベを使用する。気体状態の二酸化炭素を冷却器によって0℃に冷やすことで、液体状態に変化させたものを供給してもよい。
【0028】
成膜原料としては、気化したTEOSガス(Tetraethoxysilane)および酸素ガス(O2)を用いることができる。
【0029】
成膜チャンバー3内のステージ9上に、半導体基板10を固定する。このとき、半導体基板10の処理面が下向きになるように固定する。また、成膜チャンバー3と圧力開放チャンバー4との間のバルブ7は閉じておく。
【0030】
次に、所定圧力(本実施形態では10MPa)に設定されている成膜チャンバー3内へ超臨界状態の二酸化炭素を供給する。このときの二酸化炭素の温度は、臨界温度以上かつ成膜反応温度より十分に低い温度(本実施形態では100℃)に設定する。成膜チャンバー3内では二酸化炭素の超臨界状態が維持される。この時点では成膜原料の供給は行わない。
【0031】
引き続き、ヒーター17(図8)によって半導体基板10を加熱して、半導体基板10の温度を成膜反応が起きる所定温度(本実施形態では300℃)まで上げる。
【0032】
成膜反応に必要な条件が達成された後に、成膜原料供給器12a、12bから成膜原料(TEOSおよび酸素)を超臨界状態の二酸化炭素にそれぞれ混合する。これにより、成膜材料が混合された超臨界状態の二酸化炭素が成膜チャンバー3内に供給される。
【0033】
加熱された半導体基板10の表面では、供給されたTEOSの熱分解および酸素との反応が生じて、半導体基板10の表面上に酸化シリコン膜が堆積していく。酸化シリコン膜を形成する際の成膜時間と膜厚の関係の一例を、図2に示す。本実施形態では、成膜原料の供給を6分間継続することで、約5nmの膜厚の酸化シリコン膜を堆積させることができる。成膜時間と膜厚の関係は、成膜温度や成膜原料の供給速度によって変化するので、使用する成膜条件に応じて、上記関係を予め調査しておく。
【0034】
酸化シリコン膜が所定の膜厚に達した時点で、ヒーター17による加熱の停止、成膜原料の供給停止および超臨界状態の二酸化炭素の急速減圧を同時に行って、成膜反応を停止させる。急速減圧は、図1に示すバルブ7を開放することによって行われる。
【0035】
図3に、本発明の成膜方法の各工程における超臨界流体(CO2)の流れを示す。図3(a)は、成膜工程時の超臨界流体の流れを示している。図3(b)は、急速減圧工程時の超臨界流体の流れを示している。図3(c)は、原料排出工程時の超臨界流体の流れを示している。なお、各図中の太線が超臨界流体の通過経路を示している。
【0036】
成膜反応実施中は、成膜チャンバー3の上部に設けられた排出ポート(不図示)から背圧調整器5へ超臨界液体が流れる(図3a)。背圧調整器5を通過した超臨界液体は、図1に示す回収タンク20に集められる。超臨界流体が流れていない経路上のバルブ8は閉じられている。
【0037】
急速減圧時は、成膜チャンバー3の上部に設けられた排出ポートが閉じられ、バルブ7が開かれる。これにより、圧力開放チャンバー4に大口径の配管を通して一気に超臨界流体が排出される。ここで、圧力開放チャンバー4内の圧力を予め大気圧(約0.1MPa)から約4MPaまでの範囲に保っておく。すると、成膜チャンバー3と圧力開放チャンバー4の間のバルブ7が開かれると、成膜チャンバー3内の圧力が超臨界流体の臨界圧力(二酸化炭素の場合7.38MPa)以下に急速に減圧される。本実施形態では、バルブ7の開放前の圧力開放チャンバー4内の圧力を大気圧とした。具体的な圧力変化の計算値を図4に示す。
【0038】
計算に際しては、成膜チャンバー3の容積を10L(リットル)、圧力開放チャンバー4の容積を7Lとした。圧力開放チャンバー4は、バルブ7の開放前には大気圧(0.1MPa)に保持されている。計算に際しては、簡略化のため、二酸化炭素の断熱膨張による温度低下および、半導体基板近傍でのヒーター加熱による温度上昇は考慮していない(これらを盛り込んで厳密に計算した場合でも圧力への影響は小さい)。
【0039】
図4に示したように、バルブ7を開いて成膜チャンバー3に圧力開放チャンバー4を接続することにより、成膜チャンバー3内の圧力は6.6MPaまで急速に減少する。圧力開放チャンバー4の成膜チャンバー3への接続によって、臨界圧力(7.38MPa)以下になった二酸化炭素は、気体状態である炭酸ガスに変化する。
【0040】
超臨界状態ではなくなった媒体(本実施形態では、炭酸ガス)は、成膜原料に対する溶解能力が格段に低下する。結果、成膜原料(本実施形態ではTEOS)の急激な析出が起きる。析出した成膜原料は成膜チャンバー3の底部へ沈降する。これにより、成膜チャンバー3内における成膜原料の濃度が急速に低下し、瞬間的に成膜反応が停止する。
【0041】
なお、半導体基板10は成膜チャンバー3の上部に保持されている。よって、析出した成膜原料の半導体基板10への付着が回避される。特に、半導体基板10は、その処理面を下向きにして保持されているので、析出した成膜原料の半導体基板10の処理面への付着が回避される。
【0042】
図5(a)に、従来の成膜方法における成膜チャンバー内の原料濃度および成膜速度の変化を模式的に示す。一方、図5(b)に、本発明の成膜方法における成膜チャンバー内の原料濃度および成膜速度の変化を模式的に示す。
【0043】
図5(a)に示すように、従来の方法では、原料供給を停止しても成膜チャンバー内の原料濃度は急速に低下することはなく、ゆっくりと低下する。また、ヒーター加熱を停止しても半導体基板の表面温度は急速には低下しない。このため、成膜原料の供給停止とヒーター加熱の停止を同時に行っても、成膜速度はゼロにはならず、成膜反応が引き続き進行する(オーバーシュート状態)。
【0044】
一方、図5(b)に示すように、本発明の成膜方法では、成膜原料の析出を利用して半導体基板の表面近傍における成膜原料の濃度を急速にゼロに近づけることが可能となる。これにより、成膜のオーバーシュートを発生させることなく、瞬間的に成膜反応を停止させることができる。
【0045】
成膜反応が停止し、半導体基板10の温度が成膜反応温度よりも下がった時点で、図3(c)に示した経路を介して、成膜チャンバー3および圧力開放チャンバー4内へ超臨界状態の二酸化炭素を再び供給する。これにより、成膜チャンバー3および圧力開放チャンバー4の内部を臨界圧力以上の所定圧力(本実施形態では、10MPa)に上げる。このとき供給される超臨界状態の二酸化炭素の温度は、成膜開始前と同様に100℃に設定する。この温度は、成膜反応温度よりも十分に低い温度である。このときヒーター17(図1)は停止している。したがって、成膜チャンバー3内が超臨界状態に戻り、析出・沈降していた成膜原料が再び超臨界流体に溶解しても、半導体基板表面で成膜反応が再開されることはない。
【0046】
溶解した成膜原料は、図3(c)に示す経路を通り、図1に示す回収タンク20に排出される。この成膜原料の排出工程が終了した後に、成膜チャンバー3を大気圧まで減圧して、半導体基板10を取り出す。以上により成膜工程が完了する。
【0047】
本発明の成膜装置の特徴である圧力開放チャンバーは、急速減圧を利用して膜厚を制御する上で次の2つの役割を担っている。
(1)急速減圧後の圧力を制御する。
(2)急速減圧に伴う装置の破損を回避する。
【0048】
(1)の圧力制御について具体的に説明する。従来の成膜装置では、成膜チャンバー内の減圧に背圧調整器が用いられる。しかし、超臨界流体を用いた成膜装置では、超臨界流体の排出および排出停止を弁によって制御する必要があるため、背圧調整器内の流路は狭く、急速な圧力降下を実現することは困難である。これは超臨界流体用の背圧調整器では、比較的遅い流速で一定時間、超臨界流体を排出させ続けることによって圧力の調整がなされるためである。
【0049】
これに対して、成膜チャンバー内の減圧に圧力開放チャンバーを用いる本発明では、減圧後の圧力は、成膜チャンバーと圧力開放チャンバーの容積差および、成膜チャンバーと圧力開放チャンバーの圧力開放前の内圧差によって自動的に決まる。したがって、単に両チャンバー間のバルブを全開状態にするだけで急速減圧が達成できる。これにより、本発明では成膜反応を一瞬にして停止させることが可能となる。
【0050】
(2)の装置の破損について具体的に説明する。急速減圧を実施した場合に懸念されるのは、急速減圧に伴う断熱冷却(二酸化炭素の断熱膨張に伴う冷却)による配管や関係部品(背圧調整器内部の弁やシールリング等)の凍結である。具体的には、配管内を流れる二酸化炭素がドライアイス状態になって詰まったり、シールリングなどのプラスチック部品が凍結破壊したりすることが想定される。
【0051】
ここで図6(a)に示すように、成膜チャンバー内の二酸化炭素(例えば、圧力10MPa)を、背圧調整器を通してそのまま勢いよく外部(回収タンク)に排出した場合には、二酸化炭素の圧力は、背圧調整器を通過した直後に、一気に大気圧(約0.1MPa)まで減少することとなる。これにより、背圧調整器の近傍で断熱冷却が起こり、凍結が発生する。さらに、凍結領域は、二酸化炭素が排出されている間に次第に拡大し、最終的には配管や関係部品が完全に凍結してしまう。
【0052】
これに対して、図6(b)のように、圧力開放チャンバーを介して減圧した場合には、バルブ開放前の圧力開放チャンバーの圧力が大気圧状態であっても、バルブ解放後の成膜チャンバーの二酸化炭素の圧力は大気圧までは下がらない。すなわち、図4に示したように、バルブ解放後の成膜チャンバー内の圧力は、例えば6.6MPa程度までしか下がらない。このため、断熱冷却が抑制される。また、減圧は一瞬で終わるので、残熱冷却が長時間継続することもない。このため、配管やバルブ等の関係部品を凍結させるには至らない。さらに、圧力開放チャンバー内の二酸化炭素を大気圧状態の回収タンクに排出する際には、急激に圧力を低下させる必要はないため、徐々に減圧することで断熱冷却を回避することができる。
【0053】
また、成膜チャンバー、圧力開放チャンバー、配管などは、十分な高圧に耐える厚みのステンレス製にしておくことにより、圧力変化によってもたらされる物理的な破損も回避できる。
【0054】
このように、成膜チャンバーと圧力開放チャンバーがバルブ介して接続された構造により、急速減圧を容易かつ安全に実施することが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、成膜反応を急速停止させることが可能である。結果、成膜のオーバーシュートが回避され、成膜時の膜厚の制御が容易となり、精度のよい膜を形成することができる。
【0056】
本発明の成膜装置および成膜方法に使用する超臨界流体の種類に特に限定はなく、成膜原料の特性に応じて適宜選択することができる。例えば、超臨界状態の水(臨界温度Tc=374℃、臨界圧力Pc=22MPa)を用いることも可能である。
【0057】
本発明の成膜方法は、酸化シリコン膜の形成以外にも適用可能である。例えば、一方の成膜原料として金属キレート化合物類を用い、もう一方の成膜原料として、金属キレート化合物類等と反応して膜を生成する、酸素、オゾン、水素、窒素、アンモニア、水蒸気等を用いることができる。これにより、金属を含有した膜、例えば酸化チタン膜(TiO2)等を形成することができる。
【0058】
成膜原料として用いる金属キレート化合物類としては、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、トリス(2,4−オクタジオナト)ルテニウム、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、ペンタエトキシタンタル、テトラ−t−ブトキシチタニウム、テトラキス(N−エチル−N−メチルアミノ)チタニウム、イリジウムアセチルアセトン、プラチナムアセチルアセトン等を例示できる。
【0059】
図1等に示した成膜チャンバー3は、図7に示すように変更することも可能である。図7に示す成膜チャンバー3の下部には2つの窓(入射窓30a、検出窓30b)が設けられている。よって、入射窓30aを介して成膜チャンバー3内に光を入射させ、半導体基板10によって反射された光を検出窓30bから出射させることができる。すなわち、半導体基板10によって反射された光を外部でモニターすることができる。したがって、エリプソメトリー等の、光を用いて半導体基板上の膜の厚みを測定可能な測定装置31を図7に示すように配置して、半導体基板上の膜の厚みを測定することができる。これにより、成膜プロセス中に実際の膜厚をモニターしながら、成膜反応停止操作を行うタイミングを見極めることも可能となる。
【0060】
なお、入射窓30aおよび検出窓31bは、超臨界状態での圧力に十分耐えうることができる厚さのサファイアで作られている。
【符号の説明】
【0061】
3 成膜チャンバー
4 圧力開放チャンバー
5 背圧調整器
7a 配管
7b バルブ
9 ステージ
10 半導体基板
80a、81a、82a 配管
80b、81b、82b バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が収容される第1のチャンバーと、成膜原料が混合された超臨界状態の媒体を前記第1のチャンバーへ供給する供給ラインとを備えた成膜装置であって、
前記第1のチャンバー内に設けられ、前記基板の成膜対象面が鉛直方向下向きとなるように該基板を保持するステージと、
前記第1のチャンバー内の圧力を、前記媒体の臨界圧力よりも低い圧力に減圧させるための第2のチャンバーと、
前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを接続する第1の配管と、
前記第1の配管に設けられた第1のバルブと、を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
第2の配管を介して前記第2のチャンバーに接続された背圧調整器と、
前記第2の配管に設けられた第2のバルブと、を有し、
前記第1の配管の口径が前記第2の配管の口径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第1のチャンバーと前記背圧調整器とを接続する第3の配管と、該第3の配管に設けられた第3のバルブと、を有し、
成膜時には、前記第3のバルブが開状態とされ、前記第1のバルブおよび前記第2のバルブが閉状態とされ、
減圧時には、前記第1のバルブが開状態とされ、前記第2のバルブおよび前記第3のバルブが閉状態とされることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを接続する第4の配管と、該第4の配管に設けられた第4のバルブとを有し、
成膜後に、前記第1のチャンバー内に残存する成膜原料を排出する際には、前記第2のバルブ及び前記第4のバルブが開状態とされ、前記第1のバルブおよび前記第3のバルブが閉状態とされることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
第1のチャンバーと第2のチャンバーと、媒体の供給設備とを備えた成膜装置を用い、
基板の成膜対象面が鉛直方向下向きとなるように前記基板を前記第1のチャンバー内に収容する第1工程と、
前記媒体を超臨界状態とし、臨界温度以上かつ成膜反応温度よりも低い温度に設定した状態で、前記媒体を前記供給設備から前記第1のチャンバーへ供給する第2工程と、
前記基板の温度を、成膜反応が生ずる温度以上に上昇させた後に、前記第1のチャンバーへ供給されている超臨界状態の前記媒体に成膜原料を混合する第3工程と、
前記成膜対象面上に所定の厚みの膜が形成された後に、前記基板の加熱および前記第1のチャンバーへの前記媒体の供給を停止するのと同時に、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを導通させて前記第1のチャンバー内の圧力を前記媒体の臨界圧力よりも低い圧力に減圧させる第4工程と、を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
前記第4工程の実行前に、前記第1のチャンバー内は大気圧よりも高い圧力状態に保持されており、
前記第2のチャンバー内の圧力は大気圧状態に設定されていることを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記基板の温度が、成膜反応が生ずる温度よりも低い温度に低下した後に、臨界温度以上かつ成膜反応温度よりも低い温度の前記媒体を前記第1のチャンバーへ再度供給する第5工程と、
前記第1のチャンバーへ供給された前記媒体を前記第2のチャンバーを介して回収する第6工程と、を有する請求項5又は請求項6に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記媒体として二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項9】
前記媒体として水を用い、
前記第2工程において、前記第1のチャンバー内の圧力が22MPa以上に保持されていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項10】
前記成膜原料として、TEOSガスおよび酸素ガスを用いて、酸化シリコン膜を形成することを特徴とする請求項5乃至請求項9のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項11】
前記成膜原料には金属キレート化合物類を含み、
前記基板上に前記金属キレート化合物に含有される金属を成分とする膜を形成することを特徴とする請求項5乃至請求項9のいずれかに記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−62549(P2012−62549A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209243(P2010−209243)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】