説明

排気トラップ

【課題】捕集効率の向上と閉塞の低減とを両立可能な排気トラップを提供する。
【解決手段】処理装置からの排ガスを流入させる流入口と、前記流入口から流入した前記排ガスを流出させる流出口と、第1の開口寸法を有する一又は複数の第1の開口部、及び前記第1の開口寸法よりも小さい第2の開口寸法を有する複数の第2の開口部を有し、前記流入口と前記流出口との間において前記流入口から前記流出口へ流れる前記排ガスの流れの方向と交差するように配置される複数のバッフル板とを備え、前記複数のバッフル板のうちの一つのバッフル板の前記第1の開口部と、隣のバッフル板の前記第1の開口部とが前記流れの方向に対して互いにずれており、前記複数のバッフル板のうちの隣り合う2つのバッフル板の間隔が、前記第2の開口寸法の0.5から2倍の範囲にある排気トラップにより上述の課題が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対してガス処理を行う処理装置に用いられる排気トラップに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造工程においては、成膜、熱処理、ドライエッチング、クリーニングといった様々なプロセスが真空処理室の中で所定のガスを用いて行われる。
たとえばCVD(化学気相堆積)法による成膜が行われる成膜装置は、内部を真空に排気可能な反応室と、この反応室内に配置され、半導体ウエハなどの基板を支持する基板支持部と、基板支持部に支持される基板を加熱する基板加熱部と、所定の排気配管を介して反応室に接続され、反応室を排気する真空ポンプなどの排気装置と、反応室に原料ガスを供給する原料供給系とを有している。このような成膜装置においては、原料供給系から反応室に供給された原料ガスが、基板加熱部により加熱される基板の熱により気相中又は基板面上で熱分解又は化学反応をすることにより、反応生成物が生成され、これが基板に堆積することにより、薄膜が形成される。
【0003】
ところで、反応室から排気される排ガス中には、生成されても薄膜の成膜に寄与しなかった反応生成物や、反応副生成物が含まれている。そのような反応生成物や、反応副生成物のうちでも凝集して粒子状となるものは、排ガスが排気配管内を流れる際に、排気配管や真空ポンプの内壁に堆積する場合がある。このような堆積性の物質が堆積してしまうと、排気能力の低下や真空ポンプの故障が生じるおそれがある。そのため、排ガス中の堆積性物質を捕集して下流側への流入を防止する排気トラップが用いられるのが通例である(特許文献1及び2)。
【0004】
排気トラップには、フィン状の多数の板を内部に配置して実質的なガス流路を長くし、長い時間に亘って、その板の面に排ガスを接触させることにより、排ガス中の堆積性物質を捕集するものがある。また、フィン状の板ではなく、開口を有する複数のバッフル板を設けて、バッフル面に排ガスを何度も衝突させることにより、排ガス中の堆積性物質を捕集するものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−114185号公報
【特許文献2】特開2007−208042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の排気トラップでは、基本的に、排ガス中の堆積性物質をバッフル板やフィン状板の面上に堆積させて捕集するため、バッフル板やフィン状板の配置や配置間隔によっては、多量の堆積性物質が面上に堆積して流路が閉塞されたり、逆に、閉塞し難いものの堆積性物質の捕集効率を高くできなかったりする場合がある。
【0007】
本発明は、上記の事情に照らし、捕集効率の向上と閉塞の低減とを両立可能な排気トラップを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様によれば、処理装置からの排ガスを流入させる流入口と、前記流入口から流入した前記排ガスを流出させる流出口と、第1の開口寸法を有する一又は複数の第1の開口部、及び前記第1の開口寸法よりも小さい第2の開口寸法を有する複数の第2の開口部を有し、前記流入口と前記流出口との間において前記流入口から前記流出口へ流れる前記排ガスの流れの方向と交差するように配置される複数のバッフル板とを備え、前記複数のバッフル板のうちの一つのバッフル板の前記第1の開口部と、隣のバッフル板の前記第1の開口部とが前記流れの方向に対して互いにずれており、前記複数のバッフル板のうちの隣り合う2つのバッフル板の間隔が、前記第2の開口寸法の0.5から2倍の範囲にある排気トラップが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、捕集効率の向上と閉塞の低減とを両立可能な排気トラップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態による排気トラップと、この排気トラップが使用される成膜装置とを示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態による排気トラップを示す概略断面図である。
【図3】図2の排気トラップ内に配置されるバッフル板を示す概略上面図である。
【図4】バッフル板と、バッフル板を位置決めするロッドと、バッフル板の間隔を調整するスペーサと、の関係を示す模式図である。
【図5】隣接する2個のバッフル板の位置関係を説明する上面図である。
【図6】図2の排気トラップの上に配置されるフィルターユニットにおけるフィルターの構造を説明する上面図である。
【図7】図2の排気トラップにより排ガス中の堆積性物質が除去される原理を説明する説明図である。
【図8】図2の排気トラップの好適な間隔のサイズを説明する説明図である。
【図9】図2の排気トラップの小口径孔の好適な間隔を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態による成膜方法及び成膜装置を添付図面に基づいて詳述する。図1は、本発明の実施形態による排気トラップと、この排気トラップが使用される成膜装置とを示す模式図である。図示のとおり、成膜装置20は、被処理体である半導体ウエハWを複数枚収容することができる処理容器22を有している。この処理容器22は有天井の円筒体形状を有する縦長の内管24と、有天井の円筒体形状を有する縦長の外管26とにより構成される。外管26は、内管24の外周と外管26の内周との間に所定の間隔をおいて内管24を取り囲むように配置されている。また、内管24と外管26とは共に例えば石英により形成されている。
【0012】
外管26の下端部には、円筒体形状を有する例えばステンレススチール製のマニホールド28がOリング等のシール部材30を介して気密に接続されており、このマニホールド28により外管26の下端部が支持されている。尚、このマニホールド28は、図示しないベースプレートによって支持されている。またマニホールド28の内壁には、リング形状を有する支持台32が設けられており、この支持台32により、内管24の下端部が支持される。
【0013】
処理容器22の内管24内には、ウエハ保持部としてのウエハボート34が収容されている。ウエハボート34には、被処理体としての複数のウエハWが所定のピッチで保持される。本実施形態では、300mmの直径を有する、例えば50〜100枚程度のウエハWが略等ピッチでウエハボート34により多段に保持される。ウエハボート34は、後述するように昇降可能であり、マニホールド28の下部開口を通して、処理容器22の下方から内管24内へ収容され、内管24から取り出される。ウエハボート34は例えば石英より作製される。
【0014】
またウエハボート34が収容されているときには、処理容器22の下端であるマニホールド28の下部開口は、例えば石英やステンレス板よりなる蓋部36により密閉される。処理容器22の下端部と蓋部36との間には、気密性を維持するために例えばOリング等のシール部材38が介在される。ウエハボート34は、石英製の保温筒40を介してテーブル42上に載置されており、このテーブル42は、マニホールド28の下端開口を開閉する蓋部36を貫通する回転軸44の上端部に支持される。
【0015】
回転軸44と、蓋部36における回転軸44が貫通する孔との間には、例えば磁性流体シール46が設けられ、これにより回転軸44は気密にシールされつつ回転可能に支持される。回転軸44は、例えばボートエレベータ等の昇降機構48に支持されたアーム50の先端に取り付けられており、ウエハボート34及び蓋部36等を一体的に昇降できる。尚、テーブル42を蓋部36側へ固定して設け、ウエハボート34を回転させることなく、ウエハWに対して成膜処理を行うようにしてもよい。
また、処理容器22の側部には、処理容器22を取り囲む例えばカーボンワイヤ製のヒータよりなる加熱部(図示せず)が設けられ、これにより、この内側に位置する処理容器22及びこの中のウエハWが加熱される。
【0016】
また、成膜装置20には、原料ガスを供給する原料ガス供給源54と、反応ガスを供給する反応ガス供給源56と、パージガスとして不活性ガスを供給するパージガス供給源58とが設けられている。
原料ガス供給源54は、例えばシラン(SiH)ガスやジクロロシラン(DCS)ガスなどのシリコン含有ガスを貯留し、流量制御器及び開閉バルブ(図示せず)が設けられた配管を介してガスノズル60に接続されている。ガスノズル60は、マニホールド28を気密に貫通し、処理容器22内でL字形状に屈曲して内管24内の高さ方向の全域に亘って延びている。ガスノズル60には、所定のピッチで多数のガス噴射孔60Aが形成されており、ウエハボート34に支持されたウエハWに対して横方向から原料ガスを供給することができる。ガスノズル60は、例えば石英で作製することができる。
【0017】
反応ガス供給源56は、例えばアンモニア(NH)ガスを貯留し、流量制御器及び開閉バルブ(図示せず)が設けられた配管を介してガスノズル64に接続されている。ガスノズル64は、マニホールド28を気密に貫通し、処理容器22内でL字形状に屈曲して内管24内の高さ方向の全域に亘って延びている。ガスノズル64には、所定のピッチで多数のガス噴射孔64Aが形成されており、ウエハボート34に支持されたウエハWに対して横方向から反応ガスを供給することができる。ガスノズル64は、例えば石英で作製することができる。
【0018】
パージガス供給源58は、パージガスを貯留し、流量制御器及び開閉バルブ(図示せず)が設けられた配管を介してガスノズル68に接続されている。ガスノズル68は、マニホールド28を気密に貫通し、処理容器22内でL字形状に屈曲して内管24内の高さ方向の全域に亘って延びている。ガスノズル68には、所定のピッチで多数のガス噴射孔68Aが形成されており、ウエハボート34に支持されたウエハWに対して横方向からパージガスを供給することができる。ガスノズル68は、例えば石英で作製することができる。また、パージガスとしては、例えばAr、He等の希ガスや窒素ガスなどの不活性ガスを用いることができる。
【0019】
なお、各ガスノズル60、64、68は、内管24内の一側に集合させて設けられており(図示例ではスペースの関係よりガスノズル68を他のガスノズル60、64に対して反対側に記載している)、この各ガスノズル60、64、68に対して対向する内管24の側壁には複数のガス流通孔72が上下方向に沿って形成されている。このため、ガスノズル60、64,68から供給されたガスは、ウエハ間を通って水平方向に流れ、ガス流通孔72を通って内管24と外管26との間の間隙74に案内される。
また、マニホールド28の上部側には、内管24と外管26との間の間隙74に連通する排気口76が形成されており、この排気口76には処理容器22を排気する排気系78が設けられている。
【0020】
排気系78は、排気口76に接続される配管80を有しており、配管80の途中には、弁体の開度が調整可能で、その弁体の開度を変えることにより処理容器22内の圧力を調整する圧力調整弁80Bと、真空ポンプ82とが順次設けられている。これにより、処理容器22内の雰囲気を圧力調整しつつ所定の圧力まで排気することができる。また、配管80には、真空ポンプ82の下流側において、本発明の実施形態による排気トラップ10と、排気トラップ10の上部に結合されたフィルターユニット14が設けられている。これにより、処理容器22から真空ポンプ82により排気され、真空ポンプ82から排出された排ガスが排気トラップ10へと流入する。また、フィルターユニット14の下流側において、配管80は排気設備(図示せず)に接続されている。これにより、排気トラップ10において堆積性物質が除去された排ガスが排気設備へ流れ、ここで排ガス中に含まれる例えば未分解のアンモニアガスなどの有毒性のガスが除害されて大気放出される。
【0021】
次に、図2から図5までを参照しながら、排気トラップ10を説明する。
図2に示すように、排気トラップ10は、上端が開口し底部が封止された円筒状の形状を有する本体11と、本体11の上端開口を封止する天板11aと、本体11内において高さ方向に所定の間隔で配置される複数のバッフル板12と、を有している。本体11の側周部の下方部分にガス流入口11bが設けられ、天板11aにガス流出口11cが設けられている。天板11aは、O−リングやメタルシールなどのシール部材(図示せず)を介して、本体11の上端開口縁に固定され、これにより、本体11と天板11aとの間が密閉される。また、本体11内には、底部中央から底部に対してほぼ垂直に延びるロッド11eが設けられている。ロッド11eは、後述するようにバッフル板12を位置決めする機能を有している。
【0022】
なお、本体11の側周部には、中央から上方部分にかけて冷却ジャケット13が設けられている。冷却ジャケット13の下方部分には流体流入口13aが設けられ、上方部分には流体流出口13bが設けられている。チラーユニット(図示せず)により温度調整された流体が、流体流入口13aから冷却ジャケット13内へ供給され、流体流出口13bから流出し、チラーユニットへ戻るように環流させることにより、本体11を所定の温度に維持することができる。成膜装置20からの排ガスは高温に加熱されている場合が多く、このため、本体11やバッフル板12も加熱される。そうすると、堆積性物質の付着係数が低下することとなる。しかし、チラーユニットにより本体11を所定の温度に維持することにより、バッフル板12が加熱されるのを防ぐことができ、よって、付着係数を向上することができる。すなわち、冷却ジャケット13を設け、チラーユニットにより本体11の温度を調整することにより、捕集量を増やすことが可能となる。
【0023】
図3を参照すると、バッフル板12は、円板状の上面形状を有しており、例えばステンレススチールなどの金属で形成されている。バッフル板12の厚さは、バッフル板12に堆積性物質が付着したときに、バッフル板12が堆積性物質の重量に耐え得るように設定することが好ましい。例えばバッフル板12の厚さは、例えば0.5mmから5.0mmまでであって良く、本実施形態においては約1mmである。また、バッフル板12の外径は、バッフル板12が本体11内に配置される限りにおいて、本体11の内径にできるだけ近い値であることが好ましく、本実施形態においては約200mmである。
バッフル板12は、4個の大口径孔12aと、複数(図示の例では38個)の小口径孔12bと、中央に位置するガイド孔12cとを有している。4個の大口径孔12aは、これらの中心が、バッフル板12の外周円と同心状の円の円周上に位置し、約45°の角度間隔で互いに離間している。大口径孔12aの内径は、バッフル板12に例えば4個の大口径孔12aを形成できるように設定することが好ましい。例えば大口径孔12aの内径は、42mmから76mmまでであって良く、本実施形態においては約50mmである。また、複数の小口径孔12bは、4個の大口径孔12a以外の部分において所定の規則性に沿って又はランダムに配置される。図示の例では、ガイド孔12cの周囲に60°の角度間隔で6個の小口径孔12bが設けられ、隣接する2つの大口径孔12aの間においてバッフル板12の半径方向にほぼ等間隔で4個の小口径孔12bが設けられている。また、小口径孔12bの内径は、大口径孔12aの内径よりも小さく、例えば10mmから20mmまでであることが好ましく、本実施形態においては約12mmである。
【0024】
ガイド孔12cは、上述のロッド11eの外径よりも僅かに大きい内径を有しており、ガイド孔12cにロッド11eが挿入されることにより、バッフル板12が位置決めされる。具体的には、図4に示すように、バッフル板12と、ロッド11eが挿入される円筒状のスペーサ12sとが上下方向に交互にロッド11eに挿入されることにより、バッフル板12が上下方向及び水平方向に位置決めされる。スペーサ12sの高さにより、バッフル板12の間隔を適宜調整することができ、本実施形態においては約10mmである。すなわち、バッフル板12は約11mmのピッチ(バッフル12の厚さ1mmと間隔20mm)で配置されている。
【0025】
図5は、排気トラップ10の本体11内に配置される複数のバッフル板12のうち、上下方向に互いに隣り合う任意の2個のバッフル板12を模式的に示す上面図である。図中、上方のバッフル板12Uを実線で示し、下方のバッフル板12Dを破線で示している。図示のとおり、上方のバッフル板12Uの大口径孔12auは、下方のバッフル板12Dの大口径孔12adに対して、約45°の角度でずれて位置している。このような配置により、下方のバッフル板12Dの大口径孔12adを通り抜けた排ガスは、主として、上方のバッフル板12Uでは小口径孔12buを通り抜けることとなる。すなわち、排ガスは、大口径孔12aのみを通り抜けることがなく、小口径孔12bを少なくとも一回通り抜けることができる。
【0026】
後述するように小口径孔12bは、排気トラップ10内を流れる排ガス中に含まれる堆積性物質を捕集する機能を有している。また、大口径孔12aは、小口径孔12bと同様に堆積性物質を捕集する機能と、小口径孔12bが閉塞した場合に排ガス流路を提供する機能とを有している。
【0027】
再び図2を参照すると、本体11の天板11aの上には、フィルターユニット14が気密に配置されている。排気トラップ10の内部空間とフィルターユニット14の内部空間とは、天板11aのガス流出口11cを介して互いに連通している。フィルターユニット14内には、複数のメッシュプレート14aが所定の間隔で上下方向に配置されている。フィルターユニット14は、排気トラップ10の本体11とほぼ等しい内径を有しており、これに合わせて、メッシュプレート14aもまた、バッフル板12とほぼ等しい外径を有している。
【0028】
図6を参照すると、メッシュプレート14aは、円板状の上面形状を有している。また、メッシュプレート14aは、十字状の支持部材14bと、支持部材14bに支持されるメッシュ部14cと、メッシュ部14cに形成された開口14dと、中央に形成されたガイド孔14eとを有している。メッシュ部14cは、例えばステンレススチールで作製されており、バッフル板12の小口径孔12bの内径よりも小さい目開き(開口寸法)を有していることが好ましい。目開きは、例えば5mmから10mmであると好ましい。メッシュプレート14aによれば、排気トラップ10から流入する排ガスの中に残留する堆積性物質の微小粒子や、排ガス中の反応副生成物等が捕集される。また、開口14dは、メッシュ部14cが閉塞した場合にも、排ガスが流れるようにするために設けられている。また、ガイド孔14eは、ガイドロッド14f(図2)を挿入することによりメッシュプレート14aを位置決めするために設けられている。
【0029】
次に、本発明の実施形態による排気トラップ10により、排ガス中の堆積性物質がどのように捕集されるかについて、図1、及び図7から図9までを参照しながら説明する。なお、図7は、図5のI−I線に沿った断面図である。ただし、上下に配置される4枚のバッフル板12を示している。
成膜装置20(図1)から排気され、ガス流入口11bから本体11内に流入した排ガスは、バッフル板12のバッフル面(孔12a及び12bのない部分)により流れの方向が僅かに変更されるものの、本体11内を下から上へと流れる(矢印A参照)。すなわち、本体11内では、バッフル板12の面方向に沿った流れよりも、バッフル板12に向かって流れ、大口径孔12a及び小口径孔12bを通り抜ける流れが支配的である。大口径孔12a及び小口径孔12bを排ガスが通り抜ける際、排ガス中の堆積性物質は、大口径孔12a及び小口径孔12bの内縁(エッジ)に吸着する。そうすると、エッジに吸着した堆積性物質が核となり、この核に対して排ガス中の堆積性物質が更に吸着し、核を中心として堆積性物質が成長していく。その結果、図7(b)に示すように、ほぼ円形の断面を有する堆積物DPが、孔12a及び12bのエッジを中心として形成される(この堆積物DPは、大口径孔12a及び小口径孔12bの円形のエッジに沿って成長していくため、リング状の形状を有している)。このようにして、排ガス中から堆積性物質を効率よく捕集することができる。
【0030】
この堆積物DPが更に成長していくと、図7(c)に示すように、例えば一番下のバッフル板12において、エッジから成長した堆積物DPにより小口径孔12bが閉塞される事態ともなる。しかし、この場合であっても、そのバッフル板12の大口径孔12a(図示は省略)は閉塞していないので、排ガスは、大口径孔12aを通り抜けて一つ上のバッフル板12へ向かって流れる(矢印B参照)。そして、一つ上のバッフル板12における小口径孔12bを通り抜ける(矢印C参照)。このときにおいても、上述のように、排ガス中に残る堆積性物質が、小口径孔12bのエッジに堆積し成長していくため、排ガス中から堆積性物質が効率よく捕集される。
【0031】
なお、図7(c)において堆積性物質が更に捕集されると、下から二番目のバッフル板12の大口径孔12aのエッジに堆積した堆積物が、一番下のバッフル板12の小口径孔12bのエッジに堆積した堆積物と接触することになる。そうすると、その大口径孔12aが堆積物により囲まれて塞がれるようにも思われる。しかし、この場合であっても、その大口径孔12aを通して排ガスが流れることができる。これは、図7(c)は、図5のI−I線に沿った断面を示しており、上方のバッフル板12(12U)の大口径孔12a(12au)の下方に、下方のバッフル板12(12D)の小口径孔12b(12bu)が位置しているが、I−I線からずれた断面では、大口径孔12a(12au)のエッジの下方には、小口径孔12b(12bu)はない。したがって、上方のバッフル板12(12U)の大口径孔12a(12au)のエッジの堆積物と、下方のバッフル板12(12D)との間には隙間があり、この隙間と上方のバッフル板12(12U)の大口径孔12a(12au)とを通して、排ガスは上方へ流れることができる。
【0032】
また、図8(a)から分かるように、小口径孔12bが閉塞したとき、堆積物DPの円形状断面の半径rは小口径孔12bの内径dの約2分の1にほぼ等しい。換言すると、小口径孔12bのエッジに堆積する堆積物DPの半径rが、小口径孔12bの内径dの約2分の1になるまで、小口径孔12bのエッジにより堆積性物質を捕集することができる。ここで、図8(b)に示すように、バッフル板12の間隔gが小口径孔12bの内径dの2分の1よりも狭く、小口径孔12bが、隣のバッフル板12のバッフル面に対向している場合には、小口径孔12bのエッジに堆積する堆積物DPが、小口径孔12bが閉塞する前に隣のバッフル板12のバッフル面に接してしまい、排ガスの流通を阻害する。そうすると、堆積物DPはそれ以上成長できない。すなわち、その小口径孔12bは、排ガス中の堆積性物質を更に捕集し得るにもかかわらず、捕集できないこととなる。このような状況を避けるため、バッフル板12の間隔gは、小口径孔12bの内径dの約2分の1よりも大きいことが好ましい。
【0033】
ただし、捕集量の観点からは、排気トラップ10の本体11内に多くのバッフル板12を配置することが好ましいため、バッフル板12の間隔gを過剰に大きくすることは得策ではない。例えば小口径孔12bが閉塞したときは、その周囲におけるコンダクタンスが小さくなるため、ガスの流速が低下し、捕集効率が低下するおそれがある。バッフル板12の間隔gを小口径孔12bの内径dの約2倍とすれば、上下に隣り合う2つのバッフル板12のそれぞれの小口径孔12bの位置が上下に一致し、それぞれの小口径孔12bが堆積物により閉塞した場合であっても、2つのバッフル板12の上下方向に十分な間隔が残される。このため、閉塞した小口径孔12bの周囲におけるコンダクタンスの低下を抑えることができる。その結果、捕集効率の低下もまた抑えることが可能となる。
【0034】
なお、小口径孔12bが堆積物により閉塞したときのその堆積物の半径は、上述のとおり、小口径孔12bの内径dの2分の1である。したがって、上下に隣り合う2つのバッフル板12の間隔が小口径孔12bの内径dの約2倍であれば、小口径孔12bが閉塞した場合に、上下に隣り合う2つのバッフル板12の間に残る間隙(堆積物間の間隔)は、小口径孔12bの内径dにほぼ等しい。
【0035】
また、バッフル板12の間隔gは、小口径孔12bの内径dと同等にしても良い。この場合であっても、上下に隣り合う2つのバッフル板12のそれぞれの小口径孔12bの位置が上下に一致した場合でも、小口径孔12bが閉塞するまでは、これらの2つのバッフル板12の間に間隙が残され、小口径孔12bを通るガス流路が確保され得る。
【0036】
また、図9(a)に示すように、小口径孔12bが閉塞したときに、一つの小口径孔12bのエッジの堆積物DPと、その隣の小口径孔12bのエッジの堆積物DPとが接するように(図中の矢印E参照)、これら2つの小口径孔12bを形成することが好ましい。換言すると、小口径孔12bが閉塞したときに、隣り合う2つの小口径孔12bのエッジの堆積物DPの間に隙間Gできないように、小口径孔12bの間隔Lを調整することが好ましい。具体的には、小口径孔12bが閉塞したときの堆積物DPの半径rは小口径孔12bの内径dの約2分の1であるから、一つのバッフル板12において隣り合う2つの小口径孔12bの間隔Lは、小口径孔12bの内径d以下であることが好ましい。このようにすれば、小口径孔12bの間隔Lを小さくして小口径孔12bを高密度に形成することができ、したがって、捕集量を増やすことも可能となる。
【0037】
なお、バッフル板12の厚さとしては、大口径孔12a及び小口径孔12bのエッジにおいて核化を生じさせ、核を中心にして円形の断面形状を有する堆積物を形成する観点から、バッフル板12が堆積物の重量に耐え得る強度を有する限りにおいて、薄い方が好ましく、上述のとおり例えば0.5mmから5mmまでであることが好ましい。
【0038】
次に、成膜装置20に対して排気トラップ10を用い、捕集量を求めた結果について説明する。使用した排気トラップ10においては、
−バッフル板12の枚数: 19枚
−バッフル板12の間隔: 10mm
−大口径孔12aの数: 4個
−大口径孔12aの内径: 50mm
−小口径孔12bの数: 38個
−小口径孔12bの内径: 12mm
とした。そして、成膜装置20を42日間稼働させて、窒化シリコンがどの程度捕集されるかを求めた(実施例)。シリコン含有ガスとしてDCSガスを使用し、窒化ガスとしてアンモニアを使用した。
【0039】
また、比較のために、比較例の排気トラップを用意した。この排気トラップは、バッフル板12と異なるバッフル板を有する点で排気トラップ10と相違し、他の構成については、排気トラップ10と同じである。この排気トラップには、内径の等しい4個の孔のみを有する17枚のバッフル板と、2枚のバッフル板12とが収容されている。なお、17枚のバッフル板の内訳は、50mmの内径を有する孔が形成された3枚のバッフル板、40mmの内径を有する孔が形成された5枚のバッフル板、及び20mmの内径を有する孔が形成された9枚のバッフル板である。また、ガス流入口11bからガス流出口11cに向かう方向に、2枚のバッフル板12、50mmの内径を有する孔が形成された3枚のバッフル板、40mmの内径を有する孔が形成された5枚のバッフル板、及び20mmの内径を有する孔が形成された9枚のバッフル板が順次配置されている。バッフル板の間隔は、ガス流入口11bからガス流出口11cに向かう方向に徐々に狭くなっており、また、ガス流入口11b側のバッフル板12の間隔は50mmである。このような排気トラップを成膜装置20に接続し、同じ条件で、成膜装置20を稼働させた。
【0040】
捕集量は、試験の前後における排気トラップの重量差により求めた。その結果、実施例においては約5,920gの窒化シリコンが捕集されたのに対して、比較例においては、2,430gの窒化シリコンが捕集されたに過ぎなかった。また、目視検査の結果、比較例の排気トラップでは、途中のバッフル板が閉塞していた。一方、実施例の排気トラップ10においては、ガス流入口11bに最も近い(一番下の)バッフル板12においては、殆どすべての小口径孔12bが閉塞していた一方、大口径孔12aの少なくとも中央部は開口しており、更に継続して使用できることが分かった。以上の結果から、実施例の排気トラップ10は、効率よく捕集できると共に、長期間に亘って閉塞せず使用可能であることが分かった。
【0041】
以上のとおり、本実施形態による排気トラップ10によれば、大口径孔12a及び小口径孔12bを有するバッフル板12を排ガスの流れを横切るように配置し、排ガス中の堆積性物質を、バッフル板12の大口径孔12a及び小口径孔12bのエッジに積極的に堆積させているため、堆積性物質を効率よく捕集することができる。従来の排気トラップにおいては、フィン状板やバッフル板の面に堆積性物質を堆積させていたが、面ではなく、大口径孔12a及び小口径孔12bのエッジを利用すれば、核化が容易になり、核を中心に堆積物DPが成長していくため、捕集効率が良いのは明らかである。ただし、バッフル板12のバッフル面にも堆積性物質が堆積され得ることは勿論である。
【0042】
また、小口径孔12bが閉塞した場合においても大口径孔12aは閉塞していないので、排ガスは、そのバッフル板12の大口径孔12aを通り抜けることができ、そのバッフル板12の下流側の他のバッフル板12によって、堆積性物質が捕集される。すなわち、一つのバッフル板12において小口径孔12bが閉塞しても、大口径孔12aを通して排ガスが流れ得るため、排気トラップ10を継続して使用することができ、より下流側のバッフル板12によって堆積性物質を捕集することができる。
【0043】
従来のフィン状板等を用いる排気トラップにおいては、閉塞を避けるため、例えば、排ガス中の堆積性物質の濃度が高い流入口側においてフィン状板の間隔を広くし、排ガス中の堆積性物質の濃度が低下した流出口側においてフィン状板の間隔を狭くするようにしていた。また、バッフル板の間隔を変える場合には、使用するガスや使用条件に応じて例えば実験を行って、どのような間隔とするかを決定する必要があった。
【0044】
しかし、本実施形態による排気トラップ10では、小口径孔12bが閉塞した場合であっても、排ガスは大口径孔12aを通り抜けられるため、ガス流入口11bの近くでバッフル板12の間隔を広くすることにより、排ガス流路を確保する必要はない。また、バッフル板12の間隔は、上述のとおり、小口径孔12bの内径に応じて決定することができ、しかも、上下方向に一定とすることも可能である。このため、バッフル板12を密に配置することが可能となり、よって捕集効率を更に向上できる。
【0045】
以上、幾つかの実施形態を参照しながら本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることはなく、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変更又は変形が可能である。
例えば、上述の実施形態では、排気トラップ10には4個の大口径孔12aが設けられていたが、大口径孔12aの数は1個でも2個でも4個以上でも良い。また、例えば3個の大口径孔12aを設けた場合には、上下に隣り合う2つのバッフル板12は互いに60°の角度でずれていると好ましい。このようにすれば、これら2つのバッフル板12において、大口径孔12aが上下に重なることがない。
【0046】
上述の実施形態においては、成膜装置20の処理容器22を排気する真空ポンプ82の下流側に排気トラップ10が配置されたが、処理容器22と真空ポンプ82との間に配置しても良い。この場合においては、圧力調整弁80Bと真空ポンプ82との間に排気トラップ10を配置すると更に好ましい。
【0047】
上述の実施形態においては、排気トラップ10の上にフィルターユニット14が配置されていたが、フィルターユニット14は無くても良い。また、排気トラップ10の流出口10bは、天板11aになく、本体11の側周部の上方部分に設けても良い。
【0048】
上述の実施形態においては、バッフル板12の間隔を決定するため、ロッド11eの周囲を囲む円筒状の形状を有するスペーサ12sを用いたが、他の実施形態においては、バッフル板12の外径と等しい外径を有し、バッフル板12を支持し得る程度の厚さ(幅)を有する円環状の形状を有するスペーサを用いてもよい。
【0049】
また、大口径孔12a及び小口径孔12bの平面形状は、円形に限らず多角形であっても良い。小口径孔12bが多角形の場合には、多角形状孔のエッジから多角形孔の中心までの距離に基づいて、小口径孔12bの寸法や間隔、バッフル板12の間隔を決定すべきことは明らかである。また、大口径孔12a及び小口径孔12bのエッジを滑らかにではなく粗く形成しても良く、ぎざぎざに形成にしても良い。このようにすれば、核化を促進することができる。
【0050】
また、上述の実施形態においては、原料ガスとしてのシラン又はDCSと、窒化ガスとしてのアンモニアとを用いた窒化シリコン膜を成膜する成膜装置20に対し排気トラップ10を用いる場合を説明したが、窒化シリコン膜の成膜に限らず、酸化シリコン膜、酸窒化シリコン膜、アモルファスシリコン膜、アモルファスカーボン膜、ポリイミド膜などの薄膜を成膜する成膜装置に使用しても良い。また、成膜装置にかぎらず、ガスを用いるエッチング装置やクリーニング装置に使用して良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
20・・・成膜装置、22・・・処理容器、24・・・内管、26・・・外管、28・・・マニホールド、34・・・ウエハボート、54・・・原料ガス供給源、56・・・反応ガス供給源、58・・・パージガス供給源、76・・・排気口、78・・・排気系、80・・・配管、80B・・・圧力調整弁、82・・・真空ポンプ、10・・・排気トラップ、11・・・本体、11a・・・天板、11b・・・ガス流入口、11c・・・ガス流出口、11e・・・ロッド、12・・・バッフル板、13・・・冷却ジャケット、14・・・フィルターユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理ガスを用いて基板に対して所定の処理を行う処理装置からの排ガスを流入させる流入口と、
前記流入口から流入した前記排ガスを流出させる流出口と、
第1の開口寸法を有する一又は複数の第1の開口部、及び前記第1の開口寸法よりも小さい第2の開口寸法を有する複数の第2の開口部を有し、前記流入口と前記流出口との間において、前記流入口から前記流出口へ流れる前記排ガスの流れの方向と交差するように配置される複数のバッフル板と
を備え、
前記複数のバッフル板のうちの一つのバッフル板の前記第1の開口部と、隣のバッフル板の前記第1の開口部とが前記流れの方向に対して互いにずれており、
前記複数のバッフル板のうちの隣り合う2つのバッフル板の間隔が、前記第2の開口寸法の0.5から2倍の範囲にある排気トラップ。
【請求項2】
前記複数のバッフル板における前記複数の第2の開口部が、前記第2の開口寸法以下の間隔で配置される、請求項1に記載の排気トラップ。
【請求項3】
前記複数のバッフル板の間隔を調整する調整部材を更に備える、請求項1又は2に記載の排気トラップ。
【請求項4】
所定の目開きを有するメッシュ部材を有し、互いに間隔をあけて配置されるメッシュプレートを含み、前記流出口と連通するフィルターユニットを更に備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の排気トラップ。
【請求項5】
前記複数のバッフル板のうちの隣り合う2つのバッフル板の間隔が、前記第2の開口寸法の0.5から1倍の範囲にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の排気トラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−62362(P2013−62362A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199622(P2011−199622)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】