説明

排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システム

【課題】EGR運転領域を確保しつつ、EGRクーラ等の凝縮水による腐食を抑制でき、燃費も改善できる排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システムを提供する。
【解決手段】エンジン1の冷却水の温度が予め設定された閾値温度以上になったことを条件に、エンジン1の排気通路18w側から吸気通路7w側への排気ガスの還流を許可するとともにその還流排気ガスの還流量を制御する排気再循環制御装置であって、還流排気ガスの圧力とエンジン1の排気ガス中の水のモル比とに基づいて還流排気ガスの露点温度を算出する露点温度算出部31と、その露点温度に応じて閾値温度を可変設定する閾値温度可変設定部32とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システムに関し、特に、凝縮水による吸気系主要部品等の腐食を防止するようにした排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の内燃機関においては、NOx(窒素酸化物)の低減に効果的で燃費改善にも有効な排気再循環を行う排気再循環システム(EGRシステム)を装着したものが多くなっている。また、希薄燃焼が可能でEGR流量が多くなるエンジンにおいては、排気再循環される排気ガス、すなわちEGRガスの温度を下げるためにEGRクーラ(排気冷却器)が多用されている。
【0003】
このような排気再循環システムでは、排気ガス中の水分がEGRクーラ等により冷やされることで凝縮水が発生するとともに、そこに排気ガス成分(塩素や硫黄等)が溶け込み易いために、酸性度の高い凝縮水によって吸気系の主要部品やEGRクーラ等が腐食し易くなる。そこで、従来、そのような腐食を防止するための排気再循環制御を実行するようにしたものが知られている。
【0004】
例えば、アイドリングストップ制御等の自動停止制御の採用によって運転時間が短くなる傾向にあるエンジンにおいて、凝縮水が滞留している間にエンジンが停止すると、凝縮水による吸気系主要部品の腐食が進行し易くなるという問題点に着目して、EGR配管の管壁温度が凝縮水の蒸発が完了する程度に上昇するまでエンジンの運転を継続するようにして凝縮水の蒸発を促進するとともに、自動停止制御による燃費低減の要求にも応え得るようにした排気再循環制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−121574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システムにあっては、凝縮水の発生を抑えるためにEGRクーラの使用を開始できる冷却水温を比較的高い温度に設定する必要が生じてしまうことから、次のような問題があった。
【0007】
凝縮水の蒸発を促進するための運転継続期間が比較的長くなってしまい、アイドリングストップ制御等の自動停止制御による燃費改善代が狭まってしまう。
【0008】
また、EGRクーラに使用される冷却水の温度が高くなってしまうため、EGR運転領域を十分に確保することができず、排気浄化性能や燃費低減を十分に確保することが困難な場合がある。
【0009】
さらに、EGRバルブの閉弁中であってEGRクーラ内の冷却水の温度が低い段階で、排気還流通路内に排気ガスが入って凝縮水が発生しても、冷却水温度が十分に高まるまで還流排気ガスによるEGR配管の加熱がなされないため、その凝縮水の蒸発・乾燥が遅くなってしまい、凝縮水の蒸発促進の面でも不十分である。
【0010】
そこで、本発明は、EGR運転領域を十分に確保しつつ、EGRクーラや吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができ、しかも、燃費を改善することができる排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る排気再循環制御装置は、上記課題解決のため、(1)排気再循環システムを装備する内燃機関の冷却水の温度が予め設定された閾値温度以上になったことを条件に、前記内燃機関の排気通路側から吸気通路側への排気ガスの還流を許可するとともに該還流排気ガスの還流量を制御する排気再循環制御装置であって、前記還流排気ガスの露点温度を算出する露点温度算出部と、該露点温度に応じて前記閾値温度を可変設定する閾値温度可変設定部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成により、水分を含む還流排気ガスの露点温度に応じてEGR制御の実行可否判定(開始判定)のための閾値温度が可変設定されるので、露点温度が低ければ、比較的低冷却水温でも排気通路側から吸気通路側への排気ガスの還流が許可されるとともにその還流量が制御されることになる。したがって、凝縮水の発生を抑えながらも冷却水温が比較的低い段階から還流排気ガスによる凝縮水の蒸発・乾燥が可能となり、蒸発・乾燥の早期化によってEGRクーラや吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制できることとなる。しかも、EGR運転領域が十分に確保されることで、排気浄化性能や燃費低減効果も改善される。
【0013】
本発明の排気再循環制御装置においては、(2)前記内燃機関に吸入される吸入空気の温度を検出する吸入空気温度検出部と、前記内燃機関に吸入される吸入空気の圧力を検出する吸入空気圧力検出部と、前記空気と共に前記内燃機関に供給される燃料の空燃比を検出する空燃比検出部と、をさらに備え、前記露点温度算出部が、前記吸入空気の温度、前記吸入空気の圧力および前記空燃比に基づいて前記吸入空気中の水の質量および前記内燃機関に供給される燃料の物質量を算出するとともに、該算出値に基づいて前記排気ガス中の水のモル比を算出することが望ましい。この構成により、凝縮水の発生量を精度良く把握可能となり、EGR制御の開始判定のための閾値を的確に可変設定できることとなる。なお、ここにいう内燃機関に供給される燃料の空燃比とは、内燃機関の燃焼室内に供給される空気および燃料を含む燃料混合気の空燃比の意である。
【0014】
本発明に係る内燃機関の排気再循環システムは、上記課題解決のため、(3)内燃機関の排気通路と吸気通路の間に介在する排気還流通路と、前記排気還流通路上に設けられ、前記排気通路側から前記吸気通路側に排気ガスを還流させるよう開弁する排気還流制御弁と、前記排気還流通路の一部をなすガス通路および前記内燃機関の冷却水を通す冷却水通路を有し、前記ガス通路を通る還流排気ガスと前記冷却水との間の熱交換によって前記還流排気ガスを冷却する排気冷却器と、前記排気冷却器に導入される前記内燃機関の冷却水の温度が予め設定された閾値温度以上になったことを条件に、前記排気通路側から前記吸気通路側への前記排気ガスの還流を許可するとともに該還流排気ガスの還流量を制御する排気再循環制御装置と、を備えた内燃機関の排気再循環システムであって、前記排気再循環制御装置は、前記還流排気ガスの露点温度を算出する露点温度算出部と、該露点温度に応じて前記閾値温度を可変設定する閾値温度可変設定部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成により、水分を含む還流排気ガスの露点温度に応じてEGR制御の開始判定のための閾値温度が可変設定されるので、露点温度が低ければ、比較的低温でも排気通路側から吸気通路側への排気ガスの還流が許可されるとともにその還流量が制御されることになる。したがって、凝縮水の発生を抑えながらも、冷却水温が比較的低い段階から凝縮水の蒸発・乾燥が可能となり、蒸発・乾燥の早期化によってEGRクーラや吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制できることとなる。しかも、EGR運転領域が十分に確保されることで、排気浄化性能や燃費低減効果も改善される。
【0016】
本発明の内燃機関の排気再循環システムにおいては、(4)前記内燃機関に吸入される吸入空気の温度を検出する吸入空気温度検出部と、前記内燃機関に吸入される吸入空気の圧力を検出する吸入空気圧力検出部と、前記空気と共に前記内燃機関に供給される燃料の空燃比を検出する空燃比検出部と、をさらに備え、前記露点温度算出部が、前記吸入空気の温度、前記吸入空気の圧力および前記空燃比に基づいて前記吸入空気中の水の質量および前記内燃機関に供給される燃料の物質量を算出するとともに、該算出値に基づいて前記排気ガス中の水のモル比を算出することが望ましい。この構成により、凝縮水の発生量を精度良く把握可能となり、EGR制御の開始判定のための閾値を的確に可変設定できることとなる。
【0017】
上記(4)の構成を有する内燃機関の排気再循環システムにおいては、(5)前記露点温度算出部が、前記吸入空気の温度を基に前記吸入空気の飽和蒸気圧を算出可能な第1の近似計算式を記憶していることが好ましい。これにより、吸入空気の温度を基に吸入空気の飽和蒸気圧を容易に算出でき、その飽和蒸気圧と大気圧もしくは吸気圧とを基にその飽和蒸気圧における吸入空気中の水の質量が算出可能となることで、燃焼前のガス中の水のモル比が推定可能となる。したがって、燃焼前の水の物質量と燃焼により発生する水の物質量等から燃焼後の水のモル比を推定でき、その燃焼後の水のモル比と排気ガスの圧力とを基に露点温度を精度良く算出できることとなる。
【0018】
上記(5)の構成を有する内燃機関の排気再循環システムにおいては、(6)前記露点温度算出部は、前記還流排気ガスの圧力と前記内燃機関の排気ガス中の水のモル比とに基づいて前記還流排気ガス中の水の分圧を算出する分圧計算式と、該分圧計算式で算出される分圧が前記第1の近似計算式で算出される飽和蒸気圧と一致するときの温度を前記露点温度として算出する第2の近似計算式と、を記憶していることが好ましい。この構成により、第1の近似計算式として例えばTetensの式のように空気温度から飽和蒸気圧を精度良く算出できる実用的な飽和蒸気圧の近似式を用い、その近似式を温度について解く第2の近似計算式を用いて露点温度を精度良く容易に算出可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水分を含む還流排気ガスの露点温度に応じてEGR制御の開始判定のための閾値温度を可変設定して、排気通路側から吸気通路側への排気ガスの還流とその還流量制御を露点温度に応じて的確に実行できるようにしているので、凝縮水の発生を抑えながらも冷却水温が比較的低い段階から還流排気ガスによる凝縮水の蒸発・乾燥を開始してEGRクーラや吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができ、しかも、EGR運転領域を確保して排気浄化性能や燃費低減効果を改善できる。その結果、EGR運転領域を十分に確保しつつ、EGRクーラや吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができ、しかも、燃費を改善することができる排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムにおける排気再循環制御装置のブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムでエンジン冷却水の温度と可変の閾値温度との比較結果に応じて排気還流制御を実行するための開始判定処理の概略手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムにおける運転条件と露点温度の変化の関係を例示するグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムにおける大気圧変化と露点温度の変化の関係を例示するグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムの作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
(一実施形態)
図1〜図6は、本発明の一実施形態に係る排気再循環制御装置およびそれを備えた内燃機関の排気再循環システムを示している。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の排気再循環システムは、自動車に搭載される多気筒の内燃機関、例えば4気筒の4サイクルガソリンエンジン(図1中には1気筒のみ図示している;以下単にエンジンという)1に装備されるもので、そのエンジン1の各気筒1a内にはピストン2によって燃焼室3が形成され、吸気バルブ4と排気バルブ5が図示しない動弁機構により開閉駆動可能に装備されるとともに、燃焼室3内に露出するよう点火プラグ6が配置されている。また、吸気管7内の吸気通路7wには電子制御式のスロットルバルブユニット8が設けられており、このスロットルバルブユニット8より燃焼室3側には吸気管7と一体に吸気部を形成するとともに所定の容積を有するサージタンク9が設けられている。
【0024】
エンジン1の各気筒1aへの分配吸気通路7aには筒内噴射用のインジェクタ11(燃料噴射弁)が設けられており、気筒数分の複数のインジェクタ11は複数の気筒1aに燃料を供給するデリバリーパイプ12に接続されている。このデリバリーパイプ12には、車両に搭載された燃料タンク17から燃料ポンプ16により汲み出された燃料(例えばガソリン)が、燃料通路Lを通して供給されるようになっている。エンジン1の排気管18には例えば3元触媒を内蔵する排気浄化用の触媒コンバータ19(排気浄化装置)が装着されている。
【0025】
エンジン1においては、ピストン2のストロークに応じて吸気バルブ4および排気バルブ5が開閉するとともに、燃焼室3内に吸入空気とインジェクタ11からの燃料とが導入される。そして、点火プラグ6により火花点火がなされ、燃焼室3内での爆発・燃焼によりエンジン1の出力回転がなされるとともに、燃焼室3からの排気ガスが排気管18内の排気通路18wに排気され、その排気ガスは触媒コンバータ19の内部の図示しない三元触媒等により浄化されるようになっている。なお、エンジン1は、ここではガソリンエンジンとしたが、他の燃料(バイオエタノール燃料やガス燃料(LPGまたはLNG)等)を用いるものあってもよいし、火花点火式でないディーゼルエンジン等であってもよい。
【0026】
一方、エンジン1には、排気ガスの一部を排気管18から吸気管7側に還流させる排気再循環装置20が装着されており、排気再循環装置20は、排気管18(排気部)と吸気管7(吸気部)との間に介在するEGRパイプ21(排気還流管)と、EGRパイプ21内の排気還流通路21wを開閉するとともにその開度を変化させることができる開度可変のEGRバルブ22(排気還流制御弁)と、EGRパイプ21内の排気還流通路21wの一部を形成するガス通路部およびエンジン1のウォータージャケット1wより冷却水循環方向の下流側に位置する冷却水通路部を有し、排気還流通路21wを通る還流排気ガスを冷却することができるEGRクーラ23(排気冷却器)と、を備えている。
【0027】
EGRパイプ21は、EGRバルブ22の開度に応じて開閉され、排気管18側からの還流排気ガスをスロットルバルブユニット8より吸気方向下流側のサージタンク9内に還流させる排気還流通路21wを形成している。このEGRパイプ21は、その一部または全部がシリンダヘッドや吸気マニホールドを構成する大型部品に一体に形成されてもよい。
【0028】
また、EGRバルブ22は、例えばステップモータ等のバルブ駆動モータ部22mと、これによりバルブ開度を変化させる図示しない弁体とを有している。
【0029】
EGRクーラ23は、エンジン冷却水と排気還流通路21wを通る還流排気ガスとの間の熱交換により、その還流排気ガスを冷却する機能を有している。
【0030】
なお、エンジン1のウォータジャケット1wの上流端側には図示しないウォータポンプが配置されており、そのウォータポンプの吸入側に冷却水の温度に感応して開弁および閉弁するサーモスタットが配置されている。そして、エンジン1から流出した冷却水が、車室内の暖房等のために冷却水と空気との間の熱交換を行うヒータコアにも供給されるようになっており、そのヒータコアを通過したエンジン冷却水が、冷却水配管24を介してEGRクーラ23に供給されるようになっている。
【0031】
EGRクーラ23より排気還流方向の上流側(排気管18側)のEGRパイプ21あるいはEGRクーラ23の入口部には、還流排気ガスの温度に近い排気ガスの温度を検知する排気ガス温度センサ51(図中ではEGRパイプ21の上流端近傍に図示する)が設けられており、この排気ガス温度センサ51の検出情報はECU30に取り込まれるようになっている。
【0032】
一方、吸気管7の上流側には、図示しないエアクリーナが設けられており、そのエアクリーナの近傍には、吸気管7内に吸入される空気の流量を検出するエアフローメータ41と、吸気管7内に吸入される空気の温度(もしくは外気温度)を検出する吸気温度センサ42(吸入空気温度検出部)と、サージタンク9内の吸入空気の圧力を検出するバキュームセンサ43とが設けられている。これらエアフローメータ41、吸気温度センサ42およびバキュームセンサ43のセンサ情報もECU30に取り込まれるようになっている。
【0033】
ECU30は、エンジン1の運転を電子制御する電子制御ユニットであり、その詳細なハードウェア構成を図示しないが、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリ等からなるバックアップ用メモリを備えており、さらに、A/D変換器等を有する入力インターフェース回路と、アクチュエータ類のドライバ回路を有する出力インターフェース回路とを含んで構成されている。
【0034】
このECU30の入力インターフェース回路には、前述のエアフローメータ41、吸気温度センサ42、バキュームセンサ43、排気ガス温度センサ51の他に、外気の圧力を検出する大気圧センサ40(吸入空気圧力検出部)と、エンジン回転速度[rpm]を検出するクランク角センサ44と、ウォータージャケット1wを通る冷却水の温度を検出する水温センサ45と、スロットルバルブユニット8の開度を検出するスロットル開度センサ46と、エンジン1を搭載した車両の車速を検出する車速センサ47と、排気管18内の排気ガスの酸素濃度または排気空燃比を検出する空燃比センサ48(空燃比検出部)と、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ49と、デリバリーパイプ12に供給される燃料の圧力を検出する燃圧センサ50等のセンサ群が接続されており、これらセンサ群44〜50のセンサ情報も、それぞれECU30に取り込まれるようになっている。
【0035】
また、ECU30の出力インターフェース回路には、インジェクタ11を駆動するインジェクタドライバ回路15、点火プラグ6およびその駆動回路を含む点火装置13と、スロットルバルブユニット8のモータ部8m(電子制御スロットルモータ)と、EGRバルブ22のバルブ駆動モータ部22mと、燃料ポンプ16を駆動制御するポンプ駆動回路14等が接続されている。なお、ECU30には、図示しないバッテリから電源が供給されるようになっているとともに、車両に搭載された他のECU35に対して通信可能に接続されている。
【0036】
ECU30のCPUは、ROMに格納された制御プログラムに従って、RAMおよびバックアップメモリとの間でデータを授受しながら、入力インターフェース回路から取り込んだセンサ情報や予め設定された設定値情報、マップデータ等に基づいて所定の演算処理を実行し、その結果に応じて出力インターフェース回路からの制御信号出力を行うことで、エンジン1の電子制御を実行するようになっている。
【0037】
すなわち、ECU30は、例えばエアフローメータ41およびクランク角センサ44のセンサ情報から得られるエンジン1の1回転当りの吸入空気量に基づいて、基本燃料噴射量に相当するインジェクタ11の基本燃料噴射時間を演算し、この基本燃料噴射時間に最適空燃比となるよう各センサ信号に基づく補正処理を加えて、適正な燃料噴射量で噴射時期として設定されたクランク角に達する時点でインジェクタ11からの燃料噴射を実行するために、複数の制御値を算出する。また、ECU30は、エンジン1の運転状態に応じて、適正な点火時期やスロットル開度、EGR率(排気還流量)等の制御を実行するための複数の制御値をそれぞれ算出する。そして、ECU30は、その出力インターフェース回路からインジェクタ11を駆動し、エンジン1内での燃料噴射量を目標噴射量に制御するための燃料噴射信号や、目標点火時期に点火プラグ6を点火させる点火時期制御信号、スロットルバルブユニット8のモータ部8mやEGRバルブ22のバルブ駆動モータ部22mへの開度指令信号、燃料ポンプ16の駆動制御信号等をそれぞれ出力する。
【0038】
ECU30は、例えば空燃比センサ48の検知情報を基に触媒コンバータ19による排気浄化に適した排気空燃比(理論空燃比)となるように、エンジン1に供給される燃料の空燃比を制御する(例えば、酸素過剰であればスロットル開度を小さくし、酸素不足であればスロットル開度を大きくする)フィードバック制御を実行する機能を有している。
【0039】
また、ECU30は、エンジン1の冷却水の温度が予め設定された閾値温度以上になったことを条件に、排気通路18w側から吸気通路7w側への排気ガスの還流を許可するとともに、排気還流通路21wを通る還流排気ガスの流量(還流量)をEGRバルブ22によって制御する機能を有している。
【0040】
具体的には、ECU30は、そのEGR制御に係る複数の機能部として、還流排気ガスの圧力とエンジン1の排気ガス中における水(排気ガスに含まれる水)のモル比とに基づいて水分を含む還流排気ガスの露点温度を算出する露点温度算出部31と、前述のEGR制御を許容するか否かの判定を実行するための閾値温度を露点温度算出部31で算出される露点温度に応じて可変設定する閾値温度可変設定部32と、水温センサ45で検出されるウォータージャケット1w内の冷却水の温度が閾値温度可変設定部32で設定された露点温度近傍の閾値温度Tth以上に達したことを条件にEGRバルブ22の開度を最小開度より大きい開度に制御可能とする一方、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ22の開度を制御するEGR制御部33と、を備えている。
【0041】
ECU30は、また、エンジン1に吸入される空気の温度(外気温)を吸気温度センサ42と協働して検出する吸入空気温度検出部の機能と、エンジン1に吸入される吸入空気の圧力を大気圧センサ40と協働して検出する吸入空気圧力検出部の機能と、空燃比フィードバック制御を実行する際にその空燃比(エンジン1に供給される燃料の空燃比)を検出する空燃比検出部の機能と、を併有している。
【0042】
ECU30は、さらに、エンジン1の運転状態、例えばバキュームセンサ43の検知情報を基に検出される吸気圧力[Pa]とエンジン回転速度[rpm]およびエンジン負荷とを基に、あるいは排気ガス圧力センサ52が設けられる場合にその検知情報を基に、排気還流通路21wを通る還流排気ガスの流量および圧力を推定・算出できるようになっている。
【0043】
また、ECU30の露点温度算出部31は、吸気温度センサ42の検知情報を基に検出した吸入空気の温度、大気圧センサ40の検知情報を基に検出した吸入空気の圧力および空燃比フィードバック時に得られる空燃比に基づいて吸入空気中の水の質量およびエンジン1に供給される燃料の物質量(モル)を算出するとともに、その算出値に基づいてエンジン1の排気ガス中の水のモル比を算出するようになっている。
【0044】
具体的には、ECU30の露点温度算出部31は、図2に示すように、飽和蒸気圧算出部61、燃焼前物質量算出部62、燃焼計算部63、燃焼後物質量算出部64および露点温度近似計算部65によって構成されている。
【0045】
ECU30の露点温度算出部31において、飽和蒸気圧算出部61は、吸気温度センサ42の検知情報に基づいて湿り空気である温度Taの吸入空気の飽和蒸気圧Ew(Ta)(飽和水蒸気圧の)を算出する機能を有しており、湿り空気である温度Taの吸入空気の飽和蒸気圧Ew(Ta)を算出可能な第1の近似計算式として、次に示す(1)式を記憶している。なお、(1)式は、周知のTetensの式に相当するものである。
Ew(Ta)[kPa]=0.611 × 107.5・Ta/(Ta+237.3)・・・(1)
【0046】
吸入空気中の水の分圧Pw1は、飽和蒸気圧Ew(Ta)×相対湿度[%]/100で算出可能であり、湿度センサによる湿度検出を行うようにすれば、その水の分圧Pw1および吸入空気の圧力Pinを基に次の(2)式で表される吸入空気中の水のモル比Rw1が算出できるとともに、次の(3)式で表される吸入空気中の乾燥空気(窒素N、酸素OおよびアルゴンAr)のモル比Rd1が算出できる。
Rw1=Pw1/Pin・・・(2)
Rd1=(Pin−Pw1)/Pin・・・(3)
【0047】
ECU30の露点温度算出部31において、燃焼前物質量算出部62は、前述のような計算手法で、吸入空気中の水の分圧Pw1、吸入空気中の水のモル比Rw1および吸入空気中の乾燥空気のモル比Rd1をそれぞれ算出する。そして、飽和蒸気圧Ew(Ta)の単位時間当りの吸入空気の質量をGa[g]、水(1モル)のモル質量をMw、乾燥空気(1モル)のモル質量をMdとするとき、その吸入空気中における水の質量Gw1を、次の(4)式で算出によって算出するようになっている。
Gw1=Ga×(Rw1×Mw)/(Rw1×Mw+Rd1×Md)・・・(4)
【0048】
ECU30の露点温度算出部31において、燃焼計算部63は、最初に、燃焼室での燃焼に供する吸入空気の質量Ga[g]と空燃比フィードバック制御に際して得られる空燃比A/Fとに基づいて、燃焼に供する燃料の質量Gfおよび物質量Nfを次の(6)式と(7)式を用いてそれぞれ算出する。
Gf=Ga/(A/F)・・・(6)
Nf=Gf/Mf・・・(7)
【0049】
ここで、Mfはエンジン1に使用される平均組成の燃料(1モル)のモル質量である。なお、ここでは、その平均組成の燃料を、例えばヘプタン(C16)とする。勿論、異なる燃料組成であってもよい。また、ここでのエンジン1に供給される燃料の空燃比A/Fとは、エンジン1の燃焼室内に供給される空気および燃料を含む燃料混合気の空燃比の意である。
【0050】
燃焼計算部63は、また、エンジン1の燃焼室内における燃焼の化学反応式として次の(8)式を用いて、その燃焼室内での燃焼によって発生する水の量を算出する。
16 +11O → 7CO+ 8HO ・・・(8)
【0051】
すなわち、(8)式に基づき、燃焼により発生する水の物質量Nw3を、次の(9)式により燃料の物質量の8倍の物質量として算出する。
Nw3=8×Nf ・・・(9)
【0052】
燃焼前の水の物質量Nw1は、吸入空気中における水の質量Gw1を水のモル質量Mwで割った値として、次の(10)式で算出できる。
Nw1=Gw1/Mw ・・・(10)
【0053】
ECU30の露点温度算出部31において、燃焼後物質量算出部64は、燃焼後の水の物質量Nw2を、燃焼前の水の物質量Nw1と燃焼により発生する水の物質量Nw3との和として、次の(11)式で算出する。
Nw2=Nw1+Nw3 ・・・(11)
【0054】
一方、燃焼後の排気ガス中における乾燥空気(窒素N、酸素Oおよび二酸化炭素CO)の各成分の物質量を考えると、燃焼後の窒素Nの物質量Nt2、燃焼後の酸素Oの物質量Nx2、燃焼後の二酸化炭素COの物質量Nc2は、それぞれ次の(12)、(13)、(14)式で算出できる。
【0055】
Nt2=Nt1=(Ga−Gw1)×0.75/Mt ・・・(12)
Nx2=(Ga−Gw1)×0.25/Mx−11×Nf ・・・(13)
Nc2=7×Nf・・・(14)
ここで、Nt1は燃焼前の窒素の物質量、Mtは窒素(1モル)のモル質量、Mxは酸素(1モル)のモル質量、Nfは前述の燃料の物質量である。
【0056】
そして、燃焼後の排気ガス中における乾燥空気の物質量Nd2は、次の(15)式により、物質量Nt2、Nx2、Nc2の和として算出できる。
Nd2=Nt2+Nx2+Nc2 ・・・(15)
【0057】
燃焼後物質量算出部64は、上述のような計算手法で燃焼後の水の物質量Nw2と、燃焼後の排気ガス中における乾燥空気の物質量Nd2とを算出し、それらの算出値Nw2、Nd2を基に、次の(16)式を用いて燃焼後の排気ガス中における水のモル比Rw2を算出するようになっている。
Rw2=Nw2/(Nw2+Nd2) ・・・(16)
【0058】
ECU30の露点温度算出部31において、露点温度近似計算部65は、前述の通りエンジン1の運転状態に応じて推定した還流排気ガスの圧力Pegと、エンジン1の単位時間当りの排気ガス中の水のモル比Rw2とに基づいて、排気還流通路21wを通る還流排気ガス中の水の分圧Pw2を算出する分圧計算式(後述する(17)式)と、その分圧計算式で算出される分圧Pw2が(1)式で算出される飽和蒸気圧Ew(Ta)と一致するときの温度Taを露点温度Tdpとして算出する第2の近似計算式(後述する(18)式)を記憶している。
【0059】
具体的には、露点温度近似計算部65は、バキュームセンサ43の検知情報を基に検出される吸気圧力[Pa]と、エンジン回転速度[rpm]およびエンジン負荷を基にマップを参照する等して得られる背圧、あるいはそれに相当する排気ガス圧力センサ52の検知情報を基にした背圧との和として、排気還流通路21wを通る還流排気ガスの圧力Pegを推定・算出する。また、その還流排気ガスの圧力Pegと燃焼後の排気ガス中に含まれる水のモル比Rw2とから、次の(17)式により還流排気ガス中の水の分圧Pw2を算出する。
Pw2=Peg×Rw2 ・・・(17)
【0060】
そして、露点温度近似計算部65は、還流排気ガス中の水の分圧Pw2を基づいて、第2の近似計算式である次の(18)式により、露点温度Tdpを算出する。
【0061】
Tdp= 237.3× logA/(7.5−logA) ・・・(18)
ただし、A=Pw2/0.611であり、(18)式中のlogは自然対数である。なお、この(18)式は、(1)式で得られる飽和蒸気圧Ew(Ta)が還流排気ガス中の水の分圧Pw2と一致する状態(露点)での温度Taの値に相当する。
【0062】
露点温度近似計算部65による露点近似計算においては、ヘプタンC16自体のモル質量は100.21g/molであるが、燃料は、モル質量が96[g/mol]で空気中の重量比がゼロであり、窒素(N)は、モル質量が28[g/mol]で空気中の重量比が0.75であり、酸素(O)は、モル質量が32[g/mol]で空気中の重量比が0.25であり、二酸化炭素(CO)は、モル質量が44[g/mol]で空気中の重量比がゼロであり、水(HO)は、モル質量が18[g/mol]であるものとしている。
【0063】
一方、ECU30の閾値温度可変設定部32は、EGR制御部33で前述のEGR制御を許容するか否かの判定を実行するための閾値温度Tthを、露点温度算出部31で算出される排気ガスの露点温度Tdpの値に応じて、露点温度Tdpに対し一定の許容温度誤差範囲内となるよう多段階にあるいは無段階に可変設定するようになっている。ここでの閾値温度Tthの可変設定の段数および許容温度誤差範囲は、EGRクーラ23での凝縮水の発生量を一定量以内に抑制できるように予めの実験結果を基に設定されている。
【0064】
また、ECU30のEGR制御部33は、水温センサ45で検出されるウォータージャケット1w内の冷却水の温度が閾値温度可変設定部32で設定された閾値温度Tth以上に達したことを条件にEGRバルブ22を開弁させるとともに開度制御可能にする状態(以下、EGR−ON状態ともいう)となる。さらに、ECU30は、触媒コンバータ19による排気浄化に適した排気空燃比(理論空燃比)となるように、空燃比センサ48の検知情報を基にエンジン1に供給される燃料の空燃比を制御し、例えば酸素過剰であればスロットル開度を小さくし、酸素不足であればスロットル開度を大きくするといったフィードバック制御を実行するようになっている。
【0065】
なお、ECU30は、前述の空燃比フィードバックを実行されない場合には、例えば図1、2中に点線で示す排気ガス圧力センサ52の検知圧力やその他のエンジン1の運転状態検出情報に基づいて、排気還流通路21wを通る還流排気ガスの流量が所定量になるよう、エンジン1の運転状態に応じたEGRバルブ22の目標開度を予めの実験により設定したEGR開度マップに基づいて算出し、EGRバルブ22の目標開度を制御するようになっていてもよい。この場合のEGR開度マップは、例えば機関回転数やアクセル開度(要求負荷)に応じた最適な排気還流量またはバルブ開度をその目標値として予め設定したもので、クランク角センサ44やアクセル開度センサ49の検知情報等を基にその目標値を算出可能な記憶データである。
【0066】
次に、作用について説明する。
【0067】
上述のように構成された本実施形態の排気再循環制御装置および排気再循環システムでは、図3に示すような判定処理の概略手順で排気還流制御の実行の可否について判定する処理がエンジン1の運転中に所定時間毎に繰り返し実行される。
【0068】
図3に示すように、まず、ECU30により、吸気温度センサ42の検知情報を基に吸入空気の温度である外気温度が検出されるとともに、大気圧センサ40の検知情報を基に大気圧程度の吸入空気の圧力が検出される一方で、空燃比フィードバック制御時にエンジン1に供給される燃料の空燃比の値が算出される(ステップS11〜13)。
【0069】
次いで、検出された外気温度、大気圧および空燃比に基づき、ECU30の露点温度算出部31において、前述の飽和蒸気圧算出部61、燃焼前物質量算出部62、燃焼計算部63、燃焼後物質量算出部64および露点温度近似計算部65の計算処理が実行されることで、還流排気ガスの圧力Pegとエンジン1の排気ガス中に含まれる水のモル比とに基づいて水分を含む還流排気ガスの露点温度Tdpが算出され、その露点温度Tdpに対し一定温度範囲内となる閾値温度Tthが可変設定される(ステップS14)。
【0070】
次いで、水温センサ45で検出されるウォータージャケット1w内の冷却水の温度が閾値温度Tthより低い温度であるか否かが判定され(ステップS15)、冷却水の温度が閾値温度Tthに達していなければ、冷却水の温度が閾値温度Tthに達するまでステップS15の判定が繰り返される(ステップS15でYESの場合)。
【0071】
一方、冷却水の温度が閾値温度Tthに達していれば(ステップS15でNOの場合)、次いで、EGRバルブ22が開弁され、排気管18側からの還流排気ガスがEGRバルブ22の開度に応じてサージタンク9内に還流されるEGR−ON状態、すなわち、EGR実行状態となる(ステップS16)。
【0072】
ここで、ECU30の露点温度算出部31において実行される計算について、例えば吸入空気20[g/s]、空燃比14.7、燃料1.36[g/s]、吸気温度30[°C]、吸入空気圧力100[kPa]、吸入空気の飽和蒸気圧4.24[kPa]、吸入空気の湿度100[%]、背圧4[kPa]およびEGR圧力104[kPa]を初期条件とする具体例を用いて説明する。
【0073】
この場合、吸入空気の露点温度を計算すると、吸入空気(湿り空気)中の空気の分圧95.8[kPa]、水の分圧4.2[kPa]、空気のモル比0.958、水のモル比0.042となって、吸入空気の露点30.0[°C]となる。
【0074】
また、燃焼前の吸入空気中の水分量を計算すると、乾燥空気19.46[g/s]、窒素14.60[g/s]、酸素4.87[g/s]、二酸化炭素0.00[g/s]、水 0.54[g/s]となり、水割合が2.68[wt%]となる。
【0075】
燃焼前の物質量(モル)は、窒素0.521[mol/s]、酸素0.152[mol/s]、燃料0.014[mol/s]、二酸化炭素0.000[mol/s]、水 0.030[mol/s]で、合計0.717[mol/s]である。
【0076】
一方、燃焼後の物質量は、窒素0.521[mol/s]、酸素 −0.004[mol/s]、二酸化炭素0.099[mol/s]、水 0.143[mol/s]で、合計0.760[mol/s]である。
【0077】
そして、露点計算においては、窒素 68.6[mol%]、酸素 −0.5[mol%]、CO 13.06[mol%]、水 18.8357[mol%]、水分圧 19.6[kPa]となって、露点温度 59.6[°C]となる。
【0078】
図4は、運転状態の相違による露点温度Tdp(図中ではEGRガス露点と記す)の変化を示しており、図5は、大気圧変化による露点温度Tdpの変化を示している。
【0079】
図4(a)に示すように、吸気圧(吸入空気圧力)が高いと、湿ったEGRガス(還流排気ガス)の露点温度Tdpは高くなり、吸気圧が低いと、湿ったEGRガスの露点温度Tdpは低くなる傾向があり、吸気温(吸入空気温度)が高いほどそのEGRガスの露点温度Tdpは高くなる。
【0080】
また、図4(b)に示すように、空燃比A/Fの値が理論空燃比(14.7)となるときに比べて、リッチ側の空燃比(同図中ではA/F=13)となるときの方が、湿ったEGRガスの露点温度Tdpは高くなる。
【0081】
さらに、図4(c)に示すように、排気還流通路21wの背圧が高いときの方がその背圧が低いときよりEGRガスの露点温度Tdpは高くなる。
【0082】
一方、図5に示すように、大気圧が高いほど、湿ったEGRガスの露点温度Tdpは高くなり、外気温度が高いほど湿ったEGRガスの露点温度Tdpは高くなる。
【0083】
このように排気再循環装置20によって排気通路18w側から吸気通路7w側に還流させる還流排気ガスの露点温度は、エンジン1の運転状態や車両の環境状態によって比較的大きく変化するので、EGRクーラ23に通水されるエンジン冷却水の温度がある程度の温度に達しても、露点温度が低いときにはEGRクーラ23内で凝縮水が発生し易く、露点温度が高いときにはEGRクーラ23内で凝縮水が発生し難くなる。
【0084】
本実施形態では、水分を含む還流排気ガスの露点温度Tdpに応じてEGR制御の開始判定のための閾値温度が可変設定されるので、露点温度Tdpが低ければ、比較的低温でも排気通路18w側から吸気通路7w側への排気ガスの還流が許可されるとともに、その還流量がEGRバルブ22によって制御されることになる。
【0085】
したがって、エンジン1が例えば図6に破線で示すような市街地走行運転パターンで運転される状態下でのエンジン冷却水温の上昇中におけるEGR開始可能時期は、図6に二点差線で示す従来技術の場合、水温70°C程度に達するまでの長い待ち時間経過後のEGR開始可能時期tpaとなるのに対して、図6に一点差線で示す本実施形態の場合、比較的低い水温(例えば水温60°C程度)に達するまでの短い待ち時間経過後のEGR開始可能時期tpiにまで早期化される。
【0086】
その結果、EGRクーラ23内等における凝縮水の発生を抑えながらも、エンジン冷却水温度が比較的低い段階から還流排気ガスによる凝縮水の蒸発・乾燥が可能となり、蒸発・乾燥の早期化によってEGRクーラ23や吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができることとなる。しかも、EGR運転領域が十分に確保されることで、排気再循環により吸入空気中の酸素濃度を適度に抑えてNOx低減と燃料消費量の抑制を図ることができ、排気浄化性能や燃費低減効果を改善することができる。
【0087】
また、本実施形態では、露点温度算出部31が、外気温、大気圧および空燃比A/Fに基づいて吸入空気中の水の質量Gwおよびエンジン1に供給される燃料の物質量Nfを算出するとともに、それらの算出値に基づいて排気ガス中の水のモル比Rw2を算出するので、凝縮水の発生量を精度良く算出可能となり、EGR制御の開始判定のための閾値温度Tthを的確に可変設定できることとなる。
【0088】
さらに、本実施形態では、露点温度算出部31が、吸入空気の温度Taを基に吸入空気の飽和蒸気圧Ew(Ta)を算出可能な第1の近似計算式として(1)式を記憶していることから、吸入空気の温度Taを基に吸入空気の飽和蒸気圧Ew(Ta)を容易に算出でき、その飽和蒸気圧Ew(Ta)と大気圧もしくは吸気圧とを基にその飽和蒸気圧における吸入空気中の水の質量Gw1が算出可能となることで、燃焼前のガス中の水のモル比Rw1が推定可能となる。したがって、燃焼前の水の物質量Nw1と燃焼により発生する水の質量Nw3等から燃焼後の水のモル比Rw2を推定でき、その燃焼後の水のモル比Rw2と排気ガスの圧力Pegとを基に露点温度Tdpを精度良く算出できることとなる。
【0089】
加えて、ECU30の露点温度算出部31は、還流排気ガス中の水の分圧Pw2を算出する分圧計算式としての(17)式と、その分圧計算式で算出される分圧が(1)式で算出される飽和蒸気圧Ew(Ta)と一致するときの温度Taを露点温度Tdpとして算出する(18)式と、を記憶しているので、第1の近似計算式として例えばTetensの式のように空気温度から飽和蒸気圧を精度良く算出できる実用的な飽和蒸気圧の近似式を用い、その近似式を温度について解く第2の近似計算式を用いて、露点温度を精度良く容易に算出可能となる。
【0090】
このように、本実施形態の排気還流制御装置およびそれを備えた内燃機関の排気還流システムにおいては、水分を含む還流排気ガスの露点温度に応じてEGR制御の開始判定のための閾値温度を可変設定して、排気通路18w側から吸気通路7w側への排気ガスの還流とその還流量制御を露点温度Tdpに応じて的確に実行できるようにしているので、凝縮水の発生を抑えながらも冷却水温が比較的低い段階から還流排気ガスによる凝縮水の蒸発・乾燥を開始して、EGRクーラ23や吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができ、しかも、EGR運転領域を確保して排気浄化性能や燃費低減効果を改善できる。その結果、EGR運転領域を十分に確保しつつ、EGRクーラ23や吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができ、しかも、燃費を改善することができる。
【0091】
なお、上述の一実施形態においては、閾値温度Tthは水分を含む還流排気ガスの露点温度Tdpに対し一定の許容誤差範囲内になるよう多段階または無段階に可変設定されるものとしたが、露点温度Tdpと閾値温度Tthを一致させてもよいことはいうまでもない。また、吸入空気の湿度を検知する湿度センサが実装される場合には、その湿度センサの検知上情報を基に吸入空気中の水の分圧をより的確に算出可能となる。さらに、上述の一実施形態では、還流排気ガスの温度や圧力は排気管18に装着された温度センサ等の情報を基に算出・推定していたが、EGRパイプ21に装着された還流排気ガス温度センサや還流排気ガス圧力センサによってより直接的に検出できることはいうまでもない。
【0092】
以上説明したように、本発明は、凝縮水の発生を抑えながらも冷却水温が比較的低い段階から還流排気ガスによる凝縮水の蒸発・乾燥を開始してEGRクーラや吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができ、しかも、EGR運転領域を確保して排気浄化性能や燃費低減効果を改善でき、その結果、EGR運転領域を十分に確保しつつEGRクーラや吸気系主要部品の凝縮水による腐食を有効に抑制することができ、しかも、燃費を改善することができる排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システムを提供することができるという効果を奏するものであり、凝縮水による吸気系主要部品等の腐食を防止するようにした排気再循環制御装置および内燃機関の排気再循環システム全般に有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 エンジン(内燃機関)
1a 気筒
1w ウォータージャケット
3 燃焼室
7w 吸気通路
11 インジェクタ(燃料噴射弁)
18w 排気通路
19 触媒コンバータ(排気浄化装置)
20 排気再循環装置(EGR装置)
21 EGRパイプ(排気還流管)
21w 排気還流通路
22 EGRバルブ(排気還流制御弁)
23 EGRクーラ(排気冷却器)
30 ECU(吸入空気温度検出部、吸入空気圧力検出部、空燃比検出部)
31 露点温度算出部
32 閾値温度可変設定部
33 EGR制御部
40 大気圧センサ(吸入空気圧力検出部)
41 エアフローメータ
42 吸気温度センサ(吸入空気温度検出部)
44 クランク角センサ
45 水温センサ
46 スロットル開度センサ
47 車速センサ
48 空燃比センサ(空燃比検出部)
49 アクセル開度センサ
51 排気ガス温度センサ(排気ガス温度検出部)
52 排気ガス圧力センサ(排気ガス圧力検出部)
61 飽和蒸気圧算出部
62 燃焼前物質量算出部
63 燃焼計算部
64 燃焼後物質量算出部
65 露点温度近似計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気再循環システムを装備する内燃機関の冷却水の温度が予め設定された閾値温度以上になったことを条件に、前記内燃機関の排気通路側から吸気通路側への排気ガスの還流を許可するとともに該還流排気ガスの還流量を制御する排気再循環制御装置であって、
前記還流排気ガスの露点温度を算出する露点温度算出部と、該露点温度に応じて前記閾値温度を可変設定する閾値温度可変設定部と、を備えたことを特徴とする排気再循環制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関に吸入される吸入空気の温度を検出する吸入空気温度検出部と、
前記内燃機関に吸入される吸入空気の圧力を検出する吸入空気圧力検出部と、
前記空気と共に前記内燃機関に供給される燃料の空燃比を検出する空燃比検出部と、をさらに備え、
前記露点温度算出部が、前記吸入空気の温度、前記吸入空気の圧力および前記空燃比に基づいて前記吸入空気中の水の質量および前記内燃機関に供給される燃料の物質量を算出するとともに、該算出値に基づいて前記排気ガス中の水のモル比を算出することを特徴とする請求項1に記載の排気再循環制御装置。
【請求項3】
内燃機関の排気通路と吸気通路の間に介在する排気還流通路と、
前記排気還流通路上に設けられ、前記排気通路側から前記吸気通路側に排気ガスを還流させるよう開弁する排気還流制御弁と、
前記排気還流通路の一部をなすガス通路および前記内燃機関の冷却水を通す冷却水通路を有し、前記ガス通路を通る還流排気ガスと前記冷却水との間の熱交換によって前記還流排気ガスを冷却する排気冷却器と、
前記排気冷却器に導入される前記内燃機関の冷却水の温度が予め設定された閾値温度以上になったことを条件に、前記排気通路側から前記吸気通路側への前記排気ガスの還流を許可するとともに該還流排気ガスの還流量を制御する排気再循環制御装置と、を備えた内燃機関の排気再循環システムであって、
前記排気再循環制御装置は、前記還流排気ガスの露点温度を算出する露点温度算出部と、該露点温度に応じて前記閾値温度を可変設定する閾値温度可変設定部と、を備えたことを特徴とする内燃機関の排気再循環システム。
【請求項4】
前記内燃機関に吸入される吸入空気の温度を検出する吸入空気温度検出部と、
前記内燃機関に吸入される吸入空気の圧力を検出する吸入空気圧力検出部と、
前記空気と共に前記内燃機関に供給される燃料の空燃比を検出する空燃比検出部と、をさらに備え、
前記露点温度算出部が、前記吸入空気の温度、前記吸入空気の圧力および前記空燃比に基づいて前記吸入空気中の水の質量および前記内燃機関に供給される燃料の物質量を算出するとともに、該算出値に基づいて前記排気ガス中の水のモル比を算出することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項5】
前記露点温度算出部が、前記吸入空気の温度を基に前記吸入空気の飽和蒸気圧を算出可能な第1の近似計算式を記憶していることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項6】
前記露点温度算出部は、前記還流排気ガスの圧力と前記内燃機関の排気ガス中の水のモル比とに基づいて前記還流排気ガス中の水の分圧を算出する分圧計算式と、該分圧計算式で算出される分圧が前記第1の近似計算式で算出される飽和蒸気圧と一致するときの温度を前記露点温度として算出する第2の近似計算式と、を記憶していることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の排気再循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246792(P2012−246792A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117223(P2011−117223)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】