説明

排気圧力制御弁

【課題】エンジンの排気流路に設けられ、エンジンから排気される排気ガスの圧力を制御する排気圧力制御弁において、メインバルブを閉じた状態でバルブ上流側の排気ガスがバルブ下流側に流れる際に発生する気流音を低減する。
【解決手段】この排気圧力制御弁20は、排気流路が設けられるハウジング30と、ハウジングに回転自在に支持される回転軸38と、回転軸に取付けられると共にその表面から裏面に貫通する連通孔37aが設けられた弁体37とを備えており、回転軸を回転することにより弁体が排気流路を閉じる閉状態と排気流路を開く開状態とに切換えるバルブ36と、を有している。そして、弁体の連通孔37aは、その連通孔から流れ出る排気ガスの流出方向が排気流路の軸線方向に対して傾斜するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気流路に設けられ、エンジンから排気される排気ガスの圧力を制御する排気圧力制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排気される排気ガスの圧力を制御する排気圧力制御弁が知られている。排気圧力制御弁は、通常、排気流路が設けられたハウジングと、ハウジングの排気流路を開閉するバルブを備えている。バルブは、ハウジングに回転自在に支持される回転軸と、回転軸に取付けられた弁体によって構成されている。回転軸が回転することで、弁体が排気流路を閉じる閉状態と弁体が排気流路を開く開状態とに切換えられる。
この種の排気圧力制御弁は、エンジンの始動性を向上させ、あるいは、エンジンから排気される排気ガスを浄化するために用いられている。例えば、ディーゼルエンジンから排気される排気ガスを浄化するためのディーゼル・パティキュレート・フィルタ・システム(以下、DPFシステムという)に排気圧力制御弁が用いられている。DPFシステムは、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるパティキュレート(粒子状物質)や黒鉛をセラミック製のフィルタで捕集するシステムである。DPFシステムでは、フィルタに捕集されるパティキュレートや黒鉛が一定量を超えると、フィルタに捕集されたパティキュレートや黒鉛を燃焼させてフィルタを強制的に再生する。このフィルタの再生のために排気圧力制御弁が用いられる。すなわち、排気圧力制御弁はフィルタの上流又は下流に配される。フィルタを再生する際は、排気圧力制御弁のバルブによって排気流路の開度を絞り、排気ガスの圧力を高める。排気ガスの圧力上昇によってエンジンへの負荷が大きくなると、エンジンへの燃料供給量が増量されるため、排気温度が高められ触媒が活性化するとともにエンジンで燃焼しなかった燃料の一部がフィルタ上流の酸化触媒に供給される。酸化触媒に供給された燃料は、酸化反応によって触媒内の排気ガス温度を上昇させ、フィルタに捕集されたパティキュレートや黒鉛を燃焼させる(すなわち、フィルタを再生する)。フィルタの再生が終了すると、排気流路を開き、排気圧力は通常の圧力まで低下する。
【0003】
上述したDPFシステムに排気圧力制御弁を用いる場合、バルブを閉じた状態においてもディーゼルエンジンの運転を可能とするために、弁体の周縁と排気流路の内壁面との間には隙間が形成されている。このため、排気流路をバルブによって閉じた状態とすると、バルブ上流の高圧の排気ガスが、弁体の周縁と排気流路の内壁面との隙間から下流側に向かって高速で流れることとなる。このため、排気圧力制御弁の周辺から不快な騒音(気流音)が発生するという問題があった。
そこで、排気圧力制御弁で排気流路を閉じたときに発生する気流音を低減するために、特許文献1の排気圧力制御弁が提案されている。特許文献1の排気圧力制御弁では、バルブの弁体に、その表面から裏面に貫通する連通孔が設けられる。弁体に連通孔を設けることで、弁体の周縁と排気流路の内壁面との隙間を流れる排気ガスの流量が少なくなり、排気圧力制御弁の周辺から発生する気流音が低減できるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−299457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが気流音の原因について流動解析シミュレーション等により検討した結果、気流音の原因はバルブ上流側から高速で流れ出る排気ガスの流れと、その周囲(バルブ下流)の排気ガスとの流速差が主要な原因であることが判明した。したがって、バルブ上流側から下流側に向かって流れ出る排気ガスの流速を低く抑えることができれば、その流速差も小さくなり、気流音も低減できることが判明した。
上述した特許文献1の排気圧力制御弁では、弁体に設けられた連通孔が、排気流路が伸びる方向と平行に伸びている。したがって、弁体の周縁から下流側に流れ出る排気ガスの流出方向と、連通孔から下流側に流れ出る排気ガスの流出方向とが平行(同一)となり、両者の流れは混合され難く、その流速も低下し難くなっている。このため、特許文献1の排気圧力制御弁でも、バルブ上流側の排気ガスが高速で下流側に流れることとなるため、排気圧力制御弁の周辺から発生する騒音を充分に低減することができていない。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて創作されたものであり、排気圧力制御弁を閉じた状態においてバルブ上流側の排気ガスがバルブ下流側に流れる際に発生する気流音を効果的に低減することができる排気圧力制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の排気圧力制御弁は、エンジンの排気流路に設けられ、エンジンから排気される排気ガスの圧力を制御する排気圧力制御弁であって、排気流路が設けられるハウジングと、ハウジングに回転自在に支持される回転軸と、回転軸に取付けられると共にその表面から裏面に貫通する連通孔が設けられた弁体とを備えており、回転軸を回転することにより弁体が排気流路を閉じる閉状態と排気流路を開く開状態とに切換えるバルブと、を有している。そして、弁体の連通孔は、その連通孔から流れ出る排気ガスの流出方向が排気流路の軸線方向に対して傾斜するように設けられている。
この排気圧力制御弁でも、バルブが排気流路を閉じた状態では、弁体の周縁から下流側に排気ガスが流れ、また、弁体に設けた連通孔から下流側に排気ガスが流れる。連通孔から流れ出る排気ガスは、排気流路の軸線方向に対して傾斜する方向に流れるため、弁体の周縁から流れ出る排気ガスと混合され易くなる。このため、弁体の周縁から下流側に流れ出る排気ガスと連通孔から下流側に流れ出る排気ガスが混合されて、その流速が減速されることとなる。これによって、排気圧力制御弁を閉じた状態のときに発生する気流音を低減することができる。
【0008】
上記の排気圧力制御弁は、バルブが閉じられた状態で、弁体の表面を排気流路の軸線方向に対して傾斜させることができる。かかる場合、連通孔は、バルブが閉じられた状態で弁体の回転軸より下流側となる位置に、弁体の表面に対して略垂直方向に設けることができる。
このような構成によると、連通孔から流れ出た排気ガスは排気流路の中心に向かって流れ出ることとなる。このため、排気流路内の全体に排気ガスが拡散して流れるため、排気ガスの流速を効果的に低減することができる。これによって、気流音の低減効果を向上することができる。
【0009】
また、上記の排気圧力制御弁では、弁体の周縁と排気流路の内壁面には、全周にわたって隙間が形成されていることが好ましい。弁体の周縁の全周にわたって隙間を形成することで、バルブの下流側の排気流路の全体に排気ガスを流すことができる。
【0010】
また、本発明の第2の排気圧力制御弁は、エンジンの排気流路に設けられ、エンジンから排気される排気ガスの圧力を制御する排気圧力制御弁であって、排気流路が設けられるハウジングと、ハウジングに回転自在に支持される回転軸と、回転軸に取付けられた弁体とを備えており、回転軸を回転することにより弁体が排気流路を閉じる閉状態と排気流路を開く開状態とに切換えるバルブと、バルブより下流側の排気流路の内壁面に設けられ、内壁面近傍の排気ガスの流速を低減する手段と、を有する。
この排気圧力制御弁では、バルブより下流側の排気流路の内壁面に、内壁面近傍の排気ガスの流速を低減する手段が配設される。このため、弁体の周縁と排気流路の内壁面の間から下流側に流れる排気ガスの流速が低減され、これによって、排気圧力制御弁の周辺から発生する気流音を低減することができる。
なお、低減手段には、例えば、金網を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
(形態1) 排気圧力制御弁は、ディーゼルエンジンの排気流路に設けられる。排気圧力制御弁の上流にはDPF装置が配され、下流には排気管(マフラ)が配される。
(形態2) 排気圧力制御弁は、メイン流路とバイパス流路が形成されたハウジングを有する。バイパス流路はメイン流路に隣接して設けられる。メイン流路には、メインバルブの上流側に入口ポートが設けられ、メインバルブの下流側に出口ポートが設けられる。バイパス流路の上流端は入口ポートを介してメイン流路に接続され、下流端は出口ポートを介してメイン流路に接続される。バイパスバルブはバイパス流路の中間に配設される。
(形態3) バイパスバルブを開閉する開閉装置は、ダイアフラム式のアクチュエータと、そのアクチュエータのロッドの直線運動をバイパスバルブの開閉運動に変換するリンク機構を備える。
(形態4) メインバルブを開閉する開閉装置は、ダイアフラム式のアクチュエータを備えている。アクチュエータの圧力室の圧力が所定圧力を超えるとメインバルブは開き、アクチュエータの圧力室の圧力が所定圧力以下となるとメインバルブは閉じる。アクチュエータの圧力室は3方電磁弁の中立ポートに接続され、3方電磁弁の他の2つのポートの一方は吸引ポンプに接続され、他方は大気に開放されている。アクチュエータの圧力室と3方電磁弁の間には流量調節手段が設けられる。
(形態5) 流量調節手段は、気体通路が形成されたハウジングと、気体通路をアクチュエータ側と3方電磁弁側とに仕切る仕切り板を有している。仕切り板には、複数のオリフィスが形成され、その複数のオリフィスの一部は弁体(バルブ)によって開閉される。弁体は、圧力室に空気を導入するときにオリフィスを閉じ、圧力室から空気を排気するときはオリフィスを開く。
(形態6) メインバルブは、回転軸と、回転軸に取り付けられた弁体とを有している。回転軸の両端はハウジングに回転可能に支持されている。回転軸が回転することで、弁体がメイン流路を閉じる閉状態と、弁体がメイン流路を開く開状態とに切り替えられる。メインバルブが閉状態となると、弁体の周縁とメイン流路の内壁面との間には全周に亘って隙間が形成され、また、弁体はメイン流路の軸線方向に対して傾斜している。
(形態7) メインバルブの弁体には、その表面から裏面に向かって貫通する連通孔を有している。連通孔は、メインバルブが閉じ状態となったときに回転軸より下流側となる位置に形成される。連通孔は、弁体の表面に対して略垂直に設けられている。
(形態8) メイン流路の内壁面には、メインバルブより下流側の位置に金網が配されている。金網は、メイン流路の内壁面の全周に亘って配設されている。
【実施例】
【0012】
本発明を具現化した一実施例を図面を参照して説明する。まず、本実施例の排気圧力制御弁20が搭載されるディーゼルエンジン10の排気系の構成について説明する。図1に示すように、ディーゼルエンジン10の排気系は、DPF装置14と、排気圧力制御弁20を備えている。
DPF装置14は、排気ガスに含まれるパティキュレートや黒鉛を捕集するフィルタ(セラミック製)を備えている。DPF装置14の上流端には排気管12を介してディーゼルエンジン10が接続されている。DPF装置14の下流端には排気管16を介して排気圧力制御弁20が接続されている。排気管12には圧力センサ12aが配設されている。圧力センサ12aは排気管12を流れる排気ガスの圧力を検出する。排気管16には圧力センサ16aが配設されている。圧力センサ16aは排気管16を流れる排気ガスの圧力を検出する。圧力センサ12a,16aで検出された排気ガスの圧力はECU18に入力される。排気圧力制御弁20は、ディーゼルエンジン10から排気される排気ガスの圧力を制御する装置である(詳細な構成については後述する)。排気圧力制御弁20の下流端は排気管26を介してマフラに接続されている。
ディーゼルエンジン10及び排気圧力制御弁20の制御は、ECU(電子制御ユニット)18によって行われる。ECU18は、ディーゼルエンジン10の運転状態に応じて、ディーゼルエンジン10への吸気量及び燃料供給量を制御する。また、ECU18は、圧力センサ12a,16aで検出された各圧力の圧力差(すなわち、DPF装置14の圧力損失)が所定値を超えると、排気圧力制御弁20のメインバルブ(後述)を閉じてDPF装置14のフィルタを再生する。
【0013】
上述した排気系では、ディーゼルエンジン10から排気される排気ガスは、排気管12を介してDPF装置14に流れる。DPF装置14は、排気ガスに含まれるパティキュレートや黒鉛を捕集する。DPF装置14で浄化された排気ガスは、排気管16、排気圧力制御弁20及び排気管26を通ってマフラより大気に放出される。
DPF装置14にパティキュレートや黒鉛が捕集され、DPF装置14の圧損が大きくなると、ECU18は排気圧力制御弁20のメインバルブを閉じる。これによって、ディーゼルエンジン10の排気圧力が上昇し、この排気圧力の上昇に応じてディーゼルエンジン10への燃料供給量が増量される。このため、DPF装置14には、未燃成分を含んだガスが供給され、未燃成分を含んだガスはフィルタ上流の酸化触媒に供給される。酸化触媒に供給された未燃成分は、酸化反応によって触媒内のガス温度を上昇させ、これによって、フィルタに捕集されたパティキュレートや黒鉛が燃焼する(すなわち、DPF装置14のフィルタが再生される)。DPF装置14のフィルタの再生が完了すると、ECU18は排気圧力制御弁20のメインバルブを開き、通常の運転状態に戻る。なお、DPF装置14の再生は、DPF装置14の圧力損失が所定値を超える毎に行われる。
【0014】
次に、上述した排気圧力制御弁20について説明する。図2は、排気圧力制御弁20の概略構成を示す図である。図2に示すように、排気圧力制御弁20は、メイン流路34とバイパス流路32を有するハウジング30と、メイン流路34を開閉するメインバルブ36と、バイパス流路32を開閉するバイパスバルブ40とを備えている。
【0015】
ハウジング30は、メイン流路34と、このメイン流路34に隣接して設けられたバイパス流路32(バイパス室)を有している。
メイン流路34の上流端31には排気管16が取付けられ、メイン流路34の下流端33には排気管26が取付けられる。メイン流路34の内壁面には入口ポート34aと出口ポート34bが形成されている。入口ポート34aは上流端31側に配され、出口ポート32bは下流端33側に配されている。入口ポート34aと出口ポート34bの間にはメインバルブ36が配されている。
バイパス流路32は、その上流端が入口ポート34aを介してメイン流路34に接続され、その下流端が出口ポート34bを介してメイン流路34に接続されている。バイパス流路32は、流路部32aとバイパスバルブ収容部32bを有している。流路部32aは入口ポート34aに連通している。バイパスバルブ収容部32bは出口ポート34bに連通している。バイパスバルブ収容部32bは、出口ポート34bからメイン流路34の軸線に対して垂直方向に形成されている。バイパスバルブ収容部32bにはバイパスバルブ40が収容されている。バイパスバルブ40は、流路部32aからバイパスバルブ収容部32bへの開口部32cを開閉するようになっている。図から明らかなように、開口部32cは、メイン流路34の内壁面から退避した位置に配置されている。
【0016】
メインバルブ36は、バタフライ式バルブであり、回転軸38と、回転軸38に一体に成形された弁体37を備えている。回転軸38はメイン流路34(ハウジング30)の壁面に回転自在に支持されている。回転軸38はメイン流路34の中心に配されており、回転軸38の回転中心38cとメイン流路34の軸線Cは交差している(図8参照)。回転軸38が回転することで、弁体37がメイン流路34を閉じる閉状態と、弁体37がメイン流路34を開く開状態とに切り替えられる。
図8,9によく示されるように、弁体37がメイン流路34を閉じた状態では、弁体37はメイン流路34の軸線(中心軸線)Cに対して傾斜している。また、弁体37の周縁とメイン流路34の内壁面との間にクリアランス34dが形成されている。クリアランス34dは、弁体37の全周にわたって形成されている。クリアランス34dは0.5mm以下とすることが好ましい。クリアランス34dが0.5mmを超えると、排気圧力を上昇させる効果を充分に発揮することができないためである。
また、弁体37には、その表面から裏面に向かって貫通する1つの連通孔37aが形成されている。連通孔37aは、弁体37がメイン流路34を閉じた状態としたときに回転軸38より下流側となる側に形成されている。連通孔37aは、弁体37の表面に対して略垂直に設けられている。
なお、メイン流路34の内壁面には、メインバルブ36の下流側の位置に金網90が配されている。金網90は、メイン流路34の内壁面の全周に亘って配されている。
【0017】
メインバルブ36を開閉する開閉装置42は、アクチュエータ60と、3方電磁弁48と、バキュームポンプ44を備えている。
アクチュエータ60は、ダイアフラム式のアクチュエータである。アクチュエータ60は、図示しない圧力室の圧力に応じて伸縮するロッド62を備えている。ロッド62の先端にはリンク64の一端が回転可能に取付けられている。リンク64の他端には回転軸38が固定されている。ロッド62が伸縮すると、それに応じて回転軸38が回転し、これによって、メインバルブ36がメイン流路34を開く開状態と、メイン流路34を閉じる閉状態とに切り替えられる。すなわち、アクチュエータ60の圧力室の圧力が所定圧力を超えるとメインバルブ36がメイン流路34を開き、アクチュエータ60の圧力室の圧力が所定圧力以下となるとメインバルブ36がメイン流路34を閉じるようになっている。
【0018】
アクチュエータ60の圧力室は、配管58a,流量調節弁50,配管58bを介して3方電磁弁48の中立ポート48cに接続されている。3方電磁弁48の残った2つのポート48a,48bのうち一方のポート48aはチェックバルブ46を介してバキュームポンプ44に接続され、他方のポート48bは大気に開放されている。チェックバルブ46はバキュームポンプ44から3方電磁弁48側への空気の逆流を防止している。
3方電磁弁48は、ECU18によって制御される。ポート48bを閉じて中立ポート48cとポート48aとが連通する状態とし、バキュームポンプ44を作動させると、アクチュエータ60の圧力室内の空気が排気される(これによって、メインバルブ36が閉状態となる)。一方、ポート48aを閉じて中立ポート48cとポート48bとが連通する状態とすると、アクチュエータ60の圧力室内に大気が導入される(これによって、メインバルブ36が開状態となる)。
【0019】
アクチュエータ60の圧力室と3方電磁弁48の間に介装される流量調節弁50は、流路が形成されたハウジング52と、ハウジング52に形成された流路の中間に設けられた隔壁54と、隔壁54に取付けられた弁体56を有している。隔壁54によって仕切られた一方の流路52aは、配管58aを介してアクチュエータ60の圧力室に連通している。隔壁54によって仕切られた他方の流路52bは、配管58bを介して3方電磁弁48の中立ポート48cに接続されている。
隔壁54には複数のオリフィス54aが穿設されている。複数のオリフィス54aの一部は、弁体56によって開閉される。すなわち、アクチュエータ60の圧力室に空気を導入する時(3方電磁弁48からアクチュエータ60に向かって空気が流れる時)は、弁体56が隔壁54の一部のオリフィスを閉じる。アクチュエータ60の圧力室から空気を排気する時(アクチュエータ60から3方電磁弁48に向かって空気が流れる時)は、弁体56が変形して隔壁54のオリフィス54aを開く(図4に示す状態)。したがって、アクチュエータ60の圧力室に空気を導入する時は、空気の通過断面積が小さくなり、圧力室には緩やかに空気が供給される。一方、アクチュエータ60の圧力室から空気を排気する時は、空気の通過断面積が拡大され、圧力室の空気が速やかに排気される。これによって、メインバルブ36が閉状態から開状態となるまでの時間が、メインバルブ36が開状態から閉状態となるまでの時間より長くなるように調整されている。
【0020】
バイパスバルブ40は、フラッパ弁であり、バイパス流路32の開口部32cを開閉する。図3に示すように、バイパスバルブ40を開閉する開閉装置70は、アクチュエータ80と、アクチュエータ80の運動をバイパスバルブ40に伝達するリンク機構(74,72)を備えている。
アクチュエータ80は、ダイアフラム式のアクチュエータであり、シリンダ81とロッド76を備えている。ロッド76は、その基端部に設けられた隔壁部76aと、隔壁部76aに立設されたロッド部76bを有している。隔壁部76bは、シリンダ81内に移動可能に収容され、シリンダ81内を圧力室82とばね収容室84に区画している。圧力室82は排ガス導入管24によって排気管16と連通され、排気管16内を流れる排気ガスが圧力室80内に導入されるようになっている。ばね収容室84には圧縮された状態でばね86が収容されている。ばね86は、隔壁部76aを圧力室80側に付勢している。ロッド部76bの先端にはリンク74の基端が回転自在に取付けられている。リンク74の先端には回転軸82を介してアーム72の一端が固定されている。アーム72の他端にはバイパスバルブ40が取付けられている。
圧力室82に導入される排気ガスの圧力が所定の圧力以下のときは、圧力室82内の排気ガスから隔壁部76aに作用する力より、ばね86の隔壁部76aを付勢する付勢力の方が大きいため、ロッド76は初期位置にあり、バイパスバルブ40はバイパス流路32の開口部32cを閉じている。一方、圧力室82に導入される排気ガスの圧力が所定の圧力を越えると、ばね86の付勢力に抗してロッド76が伸張する。これによって、アーム72が軸83回りに回転し、アーム72の先端に取付けたバイパスバルブ40が開口部32cを開く。
【0021】
上述した排気圧力制御弁20がメインバルブ36を開閉するときの動作について説明する。まず、メインバルブ36を開いた状態から閉じた状態とするときの動作について説明する。なお、上述した説明から明らかなように、メインバルブ36が開いた状態では、アクチュエータ60の圧力室に大気が導入されている。
上述したように、排気圧力制御弁20の開閉はECU18によって制御される。ECU18は、まず、3方電磁弁38に駆動信号を出力し、ポート48bを閉じて中立ポート48cとポート48aとが連通する状態とし、次いで、バキュームポンプ44を作動させる。これによって、アクチュエータ60の圧力室内の空気が排気され、メインバルブ36がメイン流路34を閉じる。アクチュエータ60の圧力室から空気が排気されるときは、流量調節弁50の弁体56はオリフィス54aを開放する。このため、アクチュエータ60の圧力室内の空気が速やかに排気される。
【0022】
メインバルブ36がメイン流路34を閉じた状態では、メインバルブ36の上流側の排気ガスは、弁体37の周縁とメイン流路34の内壁面とのクリアランス34dと、弁体37の連通孔37aからメインバルブ36の下流側に流れ出る。この際、クリアランス34dから流れ出る排気ガスはメイン流路34の軸線方向Cと平行に流出し、連通孔37aから流れ出る排気ガスはメイン流路34の中心に向かって流出する(すなわち、軸線方向Cに対して傾斜する方向に流出する)。このため、クリアランス34dから流れ出る排気ガスと連通孔37aから流れ出る排気ガスが効率的に混合され、その流速が低減される。
また、連通孔37aから流れ出る排気ガスはメイン流路34の中心に向かって流れ、かつ、連通孔37aを1つとして連通孔37aの孔径を大きくすることで、多量の排気ガスが連通孔37aから流れ出る。このため、連通孔37aから流出した排気ガスはメイン流路34の全体に拡散し易くなり、その流速が低減される。
さらに、メイン流路34の内壁面のメインバルブ36の下流側には金網90が配されている。このため、クリアランス34dから流れ出た排気ガスの流速は金網90によって低減される。
これらによって、メインバルブ36でメイン流路34を閉じたときの気流音が低く抑えられる。
【0023】
図10は本実施例の排気圧力制御弁20についてメインバルブ36を閉じたときの排気ガスの流動状態をシミュレーションした結果を示しており、図11は弁体37に連通孔を設けていない排気圧力制御弁についてメインバルブ36を閉じたときの排気ガスの流動状態をシミュレーションした結果を示している。
図10,図11の比較より明らかなように、本実施例の排気圧力制御弁20では、クリアランス34dから流出する排気ガスの流速が低く抑えられ、また、連通孔37aから流出する排気ガスによってメイン流路34の全体に排気ガスが流れていることがわかる。
【0024】
なお、メインバルブ36がメイン流路34を閉じると、排気ガスの圧力が上昇するため、バイパスバルブ40を駆動するアクチュエータ76の圧力室82に導入される排気ガスの圧力も上昇する。圧力室82内の排気ガスの圧力が所定値を超えると、ロッド76がばね86の付勢力に抗して伸張する。これによって、バイパスバルブ40がバイパス流路32の開口部32cを開く。なお、バイパスバルブ40のバルブ開度は、排気管16内の排気ガスの圧力によって決まり、排気管16内の排気ガスの圧力が高いと大きく、排気管16内の排気ガスの圧力が低いと小さくなる。これによって、排気管16内の排気ガスの圧力が略一定に維持される。
また、バイパスバルブ40は、メイン流路34の内壁面から退避した位置に配置されているため、メイン流路34の排気圧力が直接作用しないようになっている。また、バイパスバルブ40の開閉は、アクチュエータ76の直線運動をリンク機構を介してアーム72に伝達することで行われる。これらのため、排気管16を流れる排気ガスが脈動する場合であっても、バイパスバルブ40の挙動が安定し、バイパスバルブ40のチャタリング等を防止することができる。これによって、排気圧力の制御性が向上する。
【0025】
次に、メインバルブ36を閉じた状態から開いた状態とするときの動作について説明する。メインバルブ36を閉じた状態から開いた状態とする際は、ECU18は、3方電磁弁38に駆動信号を出力し、ポート48aを閉じて中立ポート48cとポート48bとが連通する状態とする。これによって、3方電磁弁48側からアクチュエータ60の圧力室内に大気が導入され、メインバルブ36がメイン流路34を開く。アクチュエータ60の圧力室内に空気が導入されるときは、流量調節弁50の弁体56は一部のオリフィス54aを閉じる。このため、アクチュエータ60内の圧力室には空気が緩やかに導入され、メインバルブ36はゆっくりと開くこととなる。
なお、メインバルブ36がメイン流路34を開くと、排気管16内を流れる排気ガスの圧力も低下する。このため、バイパスバルブ40はバイパス流路32の開口部32bを閉じることとなる。
【0026】
図6は、メインバルブ36を閉じた状態から開いた状態に移行する際の3方電磁弁38、アクチュエータ60の圧力室の圧力、及びメインバルブ36のバルブ開度の時間的な変化を模式的に示す図である。
図6に示すように、まず、3方電磁弁38が負圧状態(アクチュエータ60とバキュームポンプ44が接続された状態)から大気開放状態(アクチュエータ60が大気に開放された状態)に切り替えられる。3方電磁弁38が大気開放状態に切り替えられると、アクチュエータ60の圧力室は徐々に負圧状態から大気圧状態に移行する。メインバルブ36は、3方電磁弁38が大気開放状態に切り替えられたタイミングから若干の時間遅れtを経過してから徐々に開き始める。そして、大気開放状態に切り替えられたタイミングから時間t0が経過すると、メインバルブ36は全開となる。
【0027】
図7は、メインバルブ36を閉じた状態から開いた状態とするときの排気圧力の変化と気流音の音圧変化を測定した結果の一例を示している。なお、図7には、流量調節弁50を配設しなかったときの排気圧力の変化を比較例として併せて示している。
図7から明らかなように、流量調節弁50を配設した本実施例では、流量調節弁50を配設しなかった場合と比較して、排気ガスの圧力変化(ΔP/dt)は緩やかになり、メインバルブ36が閉じた状態から全開状態となるまでに要する時間(いわゆる、応答時間)も長くなっている。また、排気ガスの圧力変化の波形と気流音の音圧変化の波形の比較から明らかなように、排気ガスの圧力変化の大きさと気流音の音圧(音圧の振幅量)が比例する。したがって、排気ガスの圧力変化を緩やかにすることで、気流音が小さくなることがわかる。すなわち、メインバルブ36の応答時間を長くすることで、気流音を低減することができる。
【0028】
上述のように、本実施例の排気圧力制御弁20では、メインバルブ36を閉じたときにクリアランス34dから流れ出る排気ガスと連通孔37aから流れ出る排気ガスが効率的に混合し、その流速が低く抑えられる。また、連通孔37aからメイン流路34に流れ出た排気ガスは、メイン流路34の中心に向かって流出し、メイン流路34の全体に広がってゆく。このため、連通孔37aから流出する排気ガスの流速が低く抑えられる。さらに、メイン流路34の内壁面に設けた金網90によって、クリアランス34dから流れ出る排気ガスの流速が低く抑えられる。これらによって、クリアランス34dから流れ出るガス流及び連通孔37aから流れ出るガス流と、その周囲の排気ガスとの流速差が小さくなり、気流音を低減することができる。
【0029】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、上述した実施例では、弁体37に設けた連通孔37aは1つであったが、本発明はこのような形態に限られない。例えば、弁体に設ける連通孔を複数とすることができる。連通孔を複数設けることで、メイン流路全体に排気ガスを拡散することができ、流速差の低減を図ることができる。なお、連通孔を複数設ける場合は、各連通孔の孔径を小さくすることが好ましい。連通孔を小さくすることで、排気ガスの漏れ流量を一定の値に抑えながら、連通孔から流出する排気ガスの速度を低く抑えることができる。
図12は弁体に複数の連通孔を設けたときの流動状態をシミュレーションした結果を示している。図12から明らかなように、弁体に複数の連通孔を設けた場合でも、排気ガスをメイン流路全体に拡散させることができ、その流速を低く抑えることがわかる。なお、図12に示す例では、連通孔の下流端側を面取りし、また、弁体の周縁の下流端側を面取りしている。これによって、メインバルブの上流側から流れ出る排気ガスが拡散し易くなり、その流速を低減することに寄与している。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施例の排気圧力制御弁が搭載されるディーゼルエンジンの排気系の構成を示す図。
【図2】本実施例の排気圧力制御弁の概略構成を示す図。
【図3】バイパスバルブを開閉する開閉装置の概略構成を示す図。
【図4】メインバルブを閉じるときの流量調節弁の状態を示す図。
【図5】排気圧力制御弁と排気管26との取付け構造の変形例を示す図。
【図6】3方電磁弁とアクチュエータの圧力室の圧力とメインバルブの開度の時間的変化を模式的に示す図。
【図7】メインバルブを閉じた状態から開いた状態とするときの排気圧力の変化と気流音の音圧変化を測定した結果の一例を示す図。
【図8】メイン流路とメインバルブのみを取り出して示す図。
【図9】弁体の周縁とメイン流路の内壁面の部分を拡大して示す図。
【図10】本実施例の流動シミュレーションの結果を示す図。
【図11】連通孔を設けていない場合の流動シミュレーションの結果を示す図。
【図12】本実施例の変形例の流動シミュレーションの結果を示す図。
【符号の説明】
【0031】
10:ディーゼルエンジン
14:DPF装置
18:ECU
20:排気圧力制御弁
32:バイパス流路
34:メイン流路
36:メインバルブ
37:弁体
37a:連通孔
40:バイパスバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気流路に設けられ、エンジンから排気される排気ガスの圧力を制御する排気圧力制御弁であって、
排気流路が設けられるハウジングと、
ハウジングに回転自在に支持される回転軸と、回転軸に取付けられると共にその表面から裏面に貫通する連通孔が設けられた弁体とを備えており、回転軸を回転することにより弁体が排気流路を閉じる閉状態と排気流路を開く開状態とに切換えるバルブと、を有しており、
弁体の連通孔は、その連通孔から流れ出る排気ガスの流出方向が排気流路の軸線方向に対して傾斜するように設けられていることを特徴とする排気圧力制御弁。
【請求項2】
バルブが閉じられた状態では、弁体の表面が排気流路の軸線方向に対して傾斜しており、連通孔は、弁体の回転軸より下流側となる位置に、弁体の表面に対して略垂直方向に設けられていることを特徴とする請求項1の排気圧力制御弁。
【請求項3】
弁体の周縁と排気流路の内壁面には、全周にわたって隙間が形成されていることを特徴とする請求項1又は2の排気圧力制御弁。
【請求項4】
エンジンの排気流路に設けられ、エンジンから排気される排気ガスの圧力を制御する排気圧力制御弁であって、
排気流路が設けられるハウジングと、
ハウジングに回転自在に支持される回転軸と、回転軸に取付けられた弁体とを備えており、回転軸を回転することにより弁体が排気流路を閉じる閉状態と排気流路を開く開状態とに切換えるバルブと、
バルブより下流側の排気流路の内壁面に設けられ、内壁面近傍の排気ガスの流速を低減する手段と、を有することを特徴とする排気圧力制御弁。
【請求項5】
前記低減手段が金網であることを特徴とする請求項4の排気圧力制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−255351(P2007−255351A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82528(P2006−82528)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】