説明

接着剤組成物ならびにそれを用いたカバーレイフィルムおよび接着シート

【課題】
ハロゲンフリーであって、優れた難燃性、マイグレーション性及び密着性を有するカバーレイフィルム及び接着シート、並びにそれらに用いられる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、
(B)非ハロゲン系エポキシ樹脂、
(C)硬化剤、
(D)リン系難燃剤、及び
(E)無機フィラー
を含有してなり、(A)成分100質量部に対して(B)成分の割合が5〜100質量部、(C)成分の割合が0.1〜30質量部であり、(A)〜(C)成分の合計量に対して(E)成分の割合が10〜60質量%であり、かつ全有機固形成分中のリン元素の割合が2.5質量%以上である接着剤組成物、並びに電気絶縁性フィルム層と該フィルム層上に設けられた前記組成物からなる層とを有するカバーレイフィルム、及び前記組成物からなる層と該組成物からなる層を被覆する離型材層とを有する接着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハロゲンフリーであって、優れた難燃性、マイグレーション性および密着性を有するカバーレイフィルムおよび接着シート、ならびにそれらに用いられる接着剤組成物に関する。また、本発明はこの接着シートを用いた2つの基体の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚ましく、特に通信用・民生用の電子機器の小型化、軽量化、高密度化が進み、これらの性能に対する要求がますます高度なものとなっている。このような要求に対して、フレキシブル印刷配線板は可撓性を有し、繰り返し屈曲に耐えるため、狭い空間に立体的に高密度の実装が可能であり、電子機器への配線、ケーブル、コネクター機能等を付与した複合部品として、その用途が拡大しつつある。
【0003】
カバーレイフィルムとは、電気絶縁性の基材フィルムの片面に半硬化状態の接着剤を塗布したものと離型材とを貼り合わせたものである。これは、フレキシブル印刷配線板の(1)回路保護、(2)屈曲性の向上等を目的として使用されている。このカバーレイフィルムに要求される特性としては、保存性、密着性、耐熱性、電気特性、加工性等が挙げられる。
【0004】
接着シートは、離型材の片面に半硬化状態の接着剤を塗布したもの、あるいは離型材の片面に半硬化状態の接着剤を塗布し、さらに離型材と貼り合わせたものである。これは、フレキシブル印刷配線板同士を貼り合わせて多層フレキシブル印刷配線板を製造する場合、フレキシブル印刷配線板と補強板とを貼り合わせる場合等に接着材料として使用される。この接着シートに要求される特性としては、保存性、密着性、耐熱性、電気特性、加工性等が挙げられる。
【0005】
最近では、フレキシブル印刷配線板の多層化およびファインパターン化が進むとともに、フレキシブル印刷配線板を使用する環境が高温高湿化しており、フレキシブル印刷配線板に対する要求特性がより高度なものとなってきている。さらに、環境問題を背景として、電子機器に実装される部品に対してハロゲン化合物の使用を禁止する傾向があり、従来、フレキシブル印刷配線用基板材料を難燃化するために用いられてきた臭素化合物の使用が困難となってきている。
【0006】
このような状況下で、ハロゲンフリーの接着剤であることに加えて、フレキシブル印刷配線板の信頼性を高めるためには配線間の電気絶縁性が重要であるので、特にマイグレーション性に対する要求が強くなってきている。マイグレーション性は、フレキシブル印刷配線用基板よりカバーレイフィルムの接着剤および接着シートによる影響が大きく、単層フレキシブル印刷配線板に比べ多層フレキシブル印刷配線板の方が悪くなる傾向がみられる。このため、多層化されたフレキシブル印刷配線板におけるカバーレイフィルムの接着剤および接着シートのマイグレーション性が重要である。
【0007】
この要求に対して、カバーレイフィルムおよび接着シートとして、(1)イオン含有量の少ない樹脂を使用したもの、(2)イオン吸着剤等の添加剤を使用したもの、(3)マイグレーション性が良好な樹脂を使用したもの、および(4)リン系難燃剤を使用したもの等を中心に提案されている。具体的には、例えば、イオン吸着剤を添加した接着剤用エポキシ樹脂組成物(特許文献1)、特定のカルボキシル基変性アクリルゴムとニトリルゴムとの混合物、特定のアクリルゴム等のマイグレーション性が良好なものを添加した接着剤組成物(特許文献2、3)、リン酸エステルアミド型難燃剤、架橋フェノキシホスファゼン化合物、ホスファゼン化合物等のマイグレーション性が良好なリン系難燃剤を使用した接着剤組成物(特許文献4、5、6)、イオン性不純物が可及的に少ないNBRゴムを添加した樹脂組成物(特許文献7)、特定のポリエステル・ポリウレタンとエポキシ樹脂を主成分とする接着用樹脂組成物(特許文献8)等が提案されている。
【0008】
しかしながら、いずれも、フレキシブル印刷配線板を多層化した状態、またはフレキシブル印刷配線板とリジット板とを積層したフレックスリジット板でのマイグレーション性を十分に満足するものではなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2005−015553号公報
【特許文献2】特開2002−080812号公報
【特許文献3】特開平08−283535号公報
【特許文献4】特開2005−015595号公報
【特許文献5】特開2002−060720号公報
【特許文献6】特開2005−053989号公報
【特許文献7】特開2003−165898号公報
【特許文献8】特開平11−116930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、ハロゲンフリーであって、優れた難燃性、マイグレーション性および密着性を有するカバーレイフィルムおよび接着シート、ならびにそれらに用いられる接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は第一に、
(A)ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、
(B)非ハロゲン系エポキシ樹脂、
(C)硬化剤、
(D)リン系難燃剤、および
(E)無機フィラー
を含有してなり、(A)成分100質量部に対して(B)成分の割合が5〜100質量部、(C)成分の割合が0.1〜30質量部であり、(A)〜(C)成分の合計量に対して(E)成分の割合が10〜60質量%であり、かつ全有機固形成分中のリン元素の割合が2.5質量%以上である接着剤組成物、
を提供する。
【0012】
本発明は第二に、電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた前記組成物からなる層とを有するカバーレイフィルム、を提供する。
【0013】
本発明は第三に、前記組成物からなる層と、該組成物からなる層を被覆する離型材とを有する接着シート、を提供する。
【0014】
本発明は第四に、前記接着シートを2つの基体の間に挟む工程と、該接着シートを硬化させる工程とを有する2つの基体を接着する方法、を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のカバーレイフィルムおよび接着シートは、ハロゲンフリーであるので環境に優しいものであって、かつ優れた難燃性、マイグレーション性および密着性を有するものである。したがって、単層のフレキシブル印刷配線板だけでなく、多層化されたフレキシブル印刷配線板または補強板で補強されたフレキシブル印刷配線板に用いた場合であっても、マイグレーション性が良好なものとすることができる。また、これらのカバーレイフィルムおよび接着シートは、従来と同等の半田耐熱性も維持している。本発明の接着剤組成物は、これらのカバーレイフィルムおよび接着シートを製造する上で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の詳細について説明する。なお、本明細書において、「有機固形成分」とは、本発明の接着剤組成物中の不揮発性有機成分であり、該接着剤組成物が有機溶剤を含む場合には、有機溶剤は有機固形成分に含まれない。また、「無機固形成分」とは、本発明の接着剤組成物に含まれる不揮発性無機固体成分である。
【0017】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、下記の(A)〜(E)成分を有してなる熱硬化性接着剤組成物である。本発明の組成物は、例えば、カバーレイフィルム、接着シートの製造等に有用である。以下、(A)〜(E)成分について、詳しく説明する。
【0018】
〔(A)ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂〕
(A)成分のウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂は、通常の方法により、カルボキシル基含有ポリエステルと有機ジイソシアネートとを反応させてなるものである。カルボキシル基含有ポリエステルとしては、ポリオール類および多価カルボン酸またはその酸無水物から合成された一般的なポリエステル樹脂が使用される。
【0019】
ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールグリコール、1,4−ブタジオール、ペンタエリスリトール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ビスフェノールA型エチレンオキシド付加物、ビスフェノールA型プロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0020】
多価カルボン酸およびその酸無水物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、およびそれらの酸無水物等が挙げられる。
【0021】
有機ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、p−フェニレンジイソシアネ−ト、ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、テトラメチレンジイソシアネ−ト、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト等が挙げられる。
【0022】
(A)成分中に含有されるカルボキシル基の割合は、好ましくは0.4〜8.0質量%、より好ましくは1.0〜6.0質量%、特に好ましくは1.0〜4.0質量%である。この割合がかかる範囲を満たすと、架橋点が適切な量となり、硬化物の半田耐熱性、耐溶剤性および保存性が良好なものとなる。
【0023】
(A)成分のウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によるポリスチレン換算の数平均分子量で、好ましくは10000〜30000、より好ましくは10000〜20000である。
なお、(A)成分は一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0024】
〔(B)非ハロゲン系エポキシ樹脂〕
(B)成分の非ハロゲン系エポキシ樹脂は、分子骨格内にハロゲン原子を含まないものであり、好ましくは1分子中に2個もしくは3個以上のエポキシ基を有するものである。この非ハロゲン系エポキシ樹脂は、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等で変性されていてもよく、また分子骨格内にリン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
【0025】
このようなエポキシ樹脂のうち、1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベンゼン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、商品名で、エピコート828、871、1001、1256(ジャパンエポキシレジン製)、スミエポキシELA115、127(住友化学工業製)等が挙げられる。
【0026】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリフェニルメタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、商品名で、エピコート604(ジャパンエポキシレジン製)、スミエポキシESCN195X、ELM120(住友化学工業製)、EOCN103S、EPPN502H(日本化薬製)等が挙げられる。
【0027】
1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、柔軟性および剥離特性の向上に特に効果があり、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、耐熱性および硬化後の接着剤組成物のガラス転移点の向上に特に効果がある。これらの特徴を考慮した上で使用すればよいが、(B)成分は一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0028】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して5〜100質量部であることが必要であり、10〜80質量部であることが好ましく、15〜60質量部であることがより好ましい。この配合量が5質量部未満の場合には架橋点が少なくなるため耐溶剤性、半田特性が劣ることがあり、100質量部を超える場合には剥離特性が劣ることがある。
【0029】
〔(C)硬化剤〕
(C)成分の硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる公知のものであればよい。この硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤、イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤、無水フタル酸、無水ピロメリト酸、無水トリメリト酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素アミン錯塩、硼弗化錫、硼弗化亜鉛等の硼弗化物、オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛等のオクチル酸塩等が挙げられ、好ましくは脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、硼弗化物、およびオクチル酸塩、特に好ましくは芳香族アミン系硬化剤、ジシアンジアミド、およびイミダゾール化合物である。
【0030】
(C)成分の配合量は、(B)成分のエポキシ当量、接着剤組成物の硬化状態、特性のバランス等を考慮して決められるが、概ね(A)成分100質量部に対して0.1〜30質量部であることが必要であり、0.5〜20質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましい。この配合量が0.1質量部未満の場合にはエポキシ樹脂が十分に硬化せず、半田耐熱性および耐溶剤性が劣ることがあり、30質量部を超える場合には組成物の硬化が進みすぎるとともに、余剰の硬化剤により接着性および半田耐熱性が悪くなることがある。
なお、(C)成分の硬化剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0031】
〔(D)リン系難燃剤〕
(D)成分のリン系難燃剤は、難燃剤として一般に使用が提案されているものであれば特に限定されないが、融点(あるいは融点がなく、固形の状態で分解するものについては分解温度)が160℃以上のものが好ましく、180℃以上のものがより好ましく、200〜400℃のものが特に好ましい。これは、カバーレイフィルムおよび接着シートは、一般的に140〜160℃で加熱圧着されるため、融点または分解温度が160℃未満であると、リン系難燃剤がブリードもしくは再結晶化して、密着性および半田耐熱性の低下、回路表面の汚染等が起こり易くなるからである。
【0032】
(D)成分中におけるリン含有率は、好ましくは8〜25質量%、より好ましくは12〜25質量%、さらに好ましくは18〜25質量%である。このリン含有率がかかる範囲を満たすと、(D)成分の配合量を低減することができるので好ましい。
【0033】
リン系難燃剤としては、例えば、TPP(トリフェニルホスフィン)、リン酸エステル、ホスファゼン化合物、リン酸エステルアミド、ポリリン酸塩、フィチン酸塩、ホスフィン酸塩等が挙げられ、好ましくはホスファゼン化合物、リン酸エステルアミド、ポリリン酸塩、フィチン酸塩、ホスフィン酸塩であり、特に好ましくはポリリン酸塩、フィチン酸塩、ホスフィン酸塩である。
【0034】
・リン酸エステルアミド
リン酸エステルアミドとしては、例えば、窒素含有リン酸エステルアミド等が挙げられ、具体的には、下記一般式(1):
【0035】
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は独立に水素原子またはアルキル基を表し、Xは窒素原子を含有する2価有機基を表す。)
で表される窒素含有リン酸エステルアミド化合物等が挙げられる。
【0036】
より少量の添加・配合で難燃性が実現できるので、窒素含有リン酸エステルアミド中における窒素含有率は、典型的には2〜10質量%、より典型的には3〜7質量%である。
【0037】
上記一般式(1)において、R1、R2、R3およびR4で表されるアルキル基は、通常、炭素原子数が1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3のものであり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等である。R1、R2、R3およびR4としては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0038】
上記一般式(1)において、Xで表される窒素原子を含有する2価有機基としては、例えば、
【0039】
【化2】

等が挙げられる。
【0040】
上記一般式(1)で表される窒素含有リン酸エステルアミド化合物としては、例えば、芳香族リン酸ピペラジン等が挙げられる。
【0041】
芳香族リン酸ピペラジンは、例えば、下記一般式(2):
【0042】
【化3】

(式中、R1、R2、R3およびR4は前記のとおりである。)
で表される。
【0043】
この芳香族リン酸ピペラジンの具体例としては、例えば、
【0044】
【化4】

等が挙げられる。
【0045】
リン酸エステルアミドの製造方法は、特に限定されない。上記一般式(2)で表される芳香族リン酸ピペラジンを例に説明すると、トリエチルアミン等のアミン触媒の存在下、ピペラジン1モルと下記一般式(3):
【0046】
【化5】

(式中、Rは独立に水素原子またはアルキル基を表す。)
で表される置換ジフェニルリン酸クロリド2モルとを反応させることにより得られる。なお、より具体的には、特開平10−175985号公報に記載されている。
【0047】
上記一般式(3)において、Rで表されるアルキル基は上記R1〜R4で例示したものと同種のものである。また、Rは水素原子であることが特に好ましい。
【0048】
・リン酸エステル
リン酸エステルとしては、例えば、窒素非含有芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられ、具体的には、下記一般式(4):
【0049】
【化6】

(式中、R5〜R12は独立に水素原子またはアルキル基を表し、Yは窒素原子を含まない2価有機基を表す。)
で表される窒素非含有芳香族縮合リン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0050】
上記一般式(4)において、R5〜R12で表されるアルキル基は、通常、炭素原子数が1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3のものであり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等である。R5〜R12としては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0051】
上記一般式(4)において、Yで表される窒素原子を含まない2価有機基としては、例えば、式:−O−Z−O−(式中、Zは2価有機基を表す。)等で表される基が挙げられる。
【0052】
Zで表される2価有機基としては、例えば、−CH2−(メチレン基)、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH(CH3)CH2−、−CH2CH2CH2CH2−等の、通常、炭素原子数が2〜10、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等の炭素原子数6〜20、好ましくは6〜10のアリーレン基等の2価炭化水素基等が挙げられ、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。
【0053】
窒素非含有芳香族縮合リン酸エステル化合物は、より好ましくは、下記一般式(5):
【0054】
【化7】

(式中、R5〜R12は前記のとおりである。)
で表される窒素非含有芳香族縮合リン酸エステル化合物である。
【0055】
窒素非含有芳香族縮合リン酸エステル化合物の具体例としては、
【0056】
【化8】

等が挙げられる。
【0057】
・ホスファゼン化合物
ホスファゼン化合物としては、分子中にハロゲン原子を有しないものであれば特に限定されないが、例えば、分子中にホスファゼン構造[即ち、式:−P(R13)=N−(ここで、R13は独立に水素原子または1価有機基を表す)で表される構造]を有するものが挙げられる。中でも、接着シートが、耐熱性、耐湿性、難燃性および耐薬品性に優れる点から、シクロホスファゼンオリゴマーが好ましい。
【0058】
シクロホスファゼンオリゴマーとは、下記一般式(7):
【0059】
【化9】

[式中、R14は独立に、水素原子、またはハロゲン原子を有しない1価有機基を表し、pは3〜10の整数である]
で表されるものである。上記一般式(7)中、pは、好ましくは3〜9の整数であり、より好ましくは3〜6の整数である。
【0060】
上記一般式(7)中、R14で表されるハロゲン原子を有しない1価有機基としては、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリル基等の1価炭化水素基が挙げられ、好ましくは、フェノキシ基である。
【0061】
ホスファゼン化合物の市販品としては、例えば、商品名で、SPE-100(大塚化学(株)製、シクロホスファゼン化合物、リン含有量:13質量%、融点:110℃)等が挙げられる。
【0062】
・ポリリン酸塩
ポリリン酸塩としては、例えば、窒素含有ポリリン酸塩化合物等が挙げられる。窒素含有ポリリン酸塩化合物としては、例えば、ポリリン酸のアンモニウム塩、ポリリン酸とアミンとの塩、ポリリン酸とアミドとの塩等が挙げられる。前記ポリリン酸としては、例えば、直鎖状縮合リン酸、環状縮合リン酸等が挙げられる。
【0063】
直鎖状縮合リン酸は、一般式:HO(HPO3)nH(式中、nは2以上の整数である。)で表されるものである。直鎖状縮合リン酸の具体例としては、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ペンタポリリン酸等が挙げられる。
【0064】
環状縮合リン酸は、一般式:(HPO3)m(式中、mは3以上の整数である。)で表されるものである。環状縮合リン酸の具体例としては、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸等が挙げられる。
【0065】
アミンとしては、例えば、ピペラジン等が挙げられる。
【0066】
アミドとしては、例えば、メラミン(即ち、シアヌルアミド)等が挙げられる。
【0067】
窒素含有ポリリン酸塩化合物としては、ポリリン酸とメラミンとの塩、ポリリン酸とピペラジンとの塩が好ましく、特に、下記一般式(8):
[HO(HPO3)sH][X]t (8)
(式中、sは2以上、好ましくは2〜4の整数であり、tは0<t≦s+2を満たす整数であり、Xはメラミンまたはピペラジンである。)
で表されるものが好ましい。
【0068】
ポリリン酸とメラミンとの塩としては、例えば、ピロリン酸メラミン、トリポリリン酸メラミン、ペンタポリリン酸メラミン等が挙げられ、特に上記一般式(8)においてsが2、tが2であるピロリン酸メラミンが好ましい。
【0069】
例えば、ピロリン酸メラミンは、ピロリン酸ナトリウムとメラミンとを任意の反応比率で塩酸を加えて反応させ、水酸化ナトリウムで中和して得られる。特に、ピロリン酸ナトリウムとメラミンとを等モルの比率で塩酸を加えて反応させ、水酸化ナトリウムで中和して得られるピロリン酸メラミンが好ましい。
【0070】
ポリリン酸とピペラジンとの塩としては、例えば、ピロリン酸ピペラジン、トリポリリン酸ピペラジン、ペンタポリリン酸ピペラジン等が挙げられ、上記一般式(8)においてsが2、tが1のピロリン酸ピペラジンが好ましい。
【0071】
例えば、ピロリン酸ピペラジンは、ピロリン酸とピペラジンとを水中またはメタノール水溶液中で反応させて、水難溶性の沈殿として容易に得られる。特に、ピロリン酸とピペラジンとを等モルの比率で水中で反応させて得られるピロリン酸ピペラジンが好ましい。
【0072】
窒素含有ポリリン酸塩化合物は、ピロリン酸メラミンとピロリン酸ピペラジンとの混合物が特に好ましく、例えば、旭電化製の商品名:「FP-2100」として入手することができる。
【0073】
より少量の添加・配合で難燃性が実現されるので、窒素含有ポリリン酸塩化合物中における窒素含有率は、典型的には15〜30質量%、より典型的には15〜25質量%である。
【0074】
・フィチン酸塩
フィチン酸塩としては、例えば、フィチン(即ち、フィチン酸のカルシウム・マグネシウム複塩)、フィチン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム)塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム)塩、遷移金属(例えば、鉄、亜鉛)塩等の金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等のフィチン酸塩等が挙げられ、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウム、フィチン酸カルシウムが好ましく、フィチン酸カルシウムがより好ましい。なお、これらのフィチン酸塩化合物は、結晶水を含まないものでも、結晶水を含むもの(結晶水含量の異なる数種が含まれることもある)でもよい。
【0075】
フィチン酸塩の構造は、例えば、下記構造式:
【0076】
【化10】

〔式中、R15は、式:
【0077】
【化11】

で表される基である。〕
で表されるフィチン酸(IP6:イノシトールヘキサリン酸)中の基R15で表されるリン酸基の少なくとも一部が、アルカリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属のイオン、アンモニウムイオン、アミン等と塩を形成したものである。前記フィチン酸中に存在する12個のプロトンのうち、好ましくは3〜10個が前記のイオン等で置きかわっている。
【0078】
フィチン酸塩は、例えば、合成したフィチン酸、あるいは種子、穀物類等(特に米糠)に多く存在するフィチンから、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンを除去し、精製したフィチン酸を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン等の塩基性物質で、中和させて調製することができる。
【0079】
・ホスフィン酸塩
ホスフィン酸塩としては、例えば、有機ホスフィン酸塩等が挙げられ、具体的には、下記一般式(9):
【0080】
【化12】

(式中、R16およびR17は独立に、非置換または置換の1価炭化水素基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、または周期表14族の典型元素を表し、qは1〜4の整数である。)
で表される有機ホスフィン酸塩等が挙げられる。
【0081】
上記一般式(9)中、Mとしては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;鉄、コバルト、ニッケル、チタン、亜鉛等の遷移金属;アルミニウム等の周期表14族の典型元素等が挙げられ、好ましくはアルミニウムである。
【0082】
上記一般式(9)中、R16およびR17で表される非置換または置換の1価炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素原子数1〜3のアルキル基、より好ましくはエチル基である。これらの1価炭化水素基は、通常、炭素原子数1〜30、好ましくは1〜20、典型的には1〜10のものである。
【0083】
ホスフィン酸塩の具体例としては、有機ホスフィン酸アルミニウム、有機ホスフィン酸カルシウム、有機ホスフィン酸亜鉛等が挙げられ、好ましくは有機ホスフィン酸アルミニウムであり、より好ましくはジアルキルホスフィン酸アルミニウム、さらに好ましくはジエチルホスフィン酸アルミニウムである。
【0084】
(D)成分の配合量は、後述の全有機固形成分中のリン元素の割合が2.5質量%以上となるように調整されるが、通常、(A)成分100質量部に対して、10〜120質量部、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは20〜60質量部である。
なお、(D)成分は一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0085】
〔(E)無機フィラー〕
(E)成分の無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化モリブデン等の金属酸化物、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物等が挙げられ、好ましくは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、およびホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物であり、特に好ましくは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびホウ酸亜鉛である。
【0086】
(E)成分の無機フィラーは、例えば、難燃性の補助、剥離状態の安定性(接着剤の凝集剥離)、吸湿特性の安定化等を目的として配合される。無機フィラーの樹脂マトリックスへの密着性および耐水性を向上させるために、該無機フィラーは、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等の処理剤を用いて疎水化処理されていることが望ましい。この疎水化処理により、無機フィラーの樹脂マトリックスに対する密着性、カバーレイフィルムおよび接着シートの耐熱性、耐吸湿性等が向上する。
【0087】
(E)成分の配合量は、(A)〜(C)成分の合計量に対して、10〜60質量%であることが必要であり、15〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。この配合量が10質量%未満の場合には、難燃性、剥離特性、半田特性および吸湿特性が低下することがあり、60質量%を超える場合には、半田特性および剥離特性が低下することがある。
なお、(E)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0088】
〔その他の任意成分〕
上記(A)〜(E)成分以外にも、カバーレイフィルム、接着シートの特性を低下させない範囲で、必要に応じて、非臭素系難燃剤、カップリング剤、酸化防止剤、イオン吸着剤、有機溶剤等を加えてもよい。
【0089】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0090】
本発明の組成物は、有機固形成分および無機固形成分の合計濃度が、20〜45質量%、とりわけ25〜40質量%であることが好ましい。この合計濃度がかかる範囲を満たすと、接着剤組成物の粘度が適切な範囲となるので、塗工時にムラが生じ難く塗工性が良好なものとなる。
【0091】
〔リン元素の割合〕
本発明の組成物において、全有機固形成分中のリン元素の割合が2.5質量%以上となることが必要であり、好ましくは2.5〜6.0質量%であり、より好ましくは3.0〜5.0質量%である。この割合が2.5質量%未満の場合には難燃性が低下することがあり、多すぎると半田耐熱性および密着性が低下することがある。但し、全有機固形成分中には、溶媒は含まれない。
【0092】
<カバーレイフィルム>
〔構成〕
本発明の組成物は、カバーレイフィルムの製造に用いることができる。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた組成物からなる層とを有するカバーレイフィルムが挙げられ、より具体的には、電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた組成物からなる層と、該組成物からなる層上に設けられた離型材層とを有する3層構造のもの等が挙げられる。組成物からなる層の厚さは、使用目的により適切な厚さを選択できるが、乾燥状態で、通常、10〜50μmであり、好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0093】
・電気絶縁性フィルム層
電気絶縁性フィルム層を構成する電気絶縁性フィルムとしては、通常、カバーレイフィルムに用いられるものであれば特に限定されない。電気絶縁性フィルムの具体例としては、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム;ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等からなる基材にマトリックスになるエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を含浸して、フィルムまたはシート状にしたもの等が挙げられる。特に、カバーレイフィルムの耐熱性、寸法安定性、機械的特性(弾性率、伸び等)等の点から、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0094】
この電気絶縁性フィルム層の厚さは、使用目的により適切な厚さのものを使用すればよいが、通常、12.5〜75μmであり、好ましくは12.5〜50μm、特に好ましくは12.5〜25μmである。また、接着剤組成物との密着性向上、フィルム表面の洗浄、寸法安定性の向上等のために、このフィルムの片面または両面に、低温プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施してもよい。
【0095】
・離型材層
離型材層を構成する離型材としては、組成物からなる層の形態を損なうことなく剥離できるものであれば特に限定されないが、通常、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム;シリコーン離型剤付きのPEフィルム、PPフィルム、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリエチレン樹脂コート紙、ポリプロピレン樹脂コート紙、TPX樹脂コート紙等の樹脂を紙材料の片面または両面にコートした離型紙等が挙げられる。
【0096】
この離型材層の厚さは、使用目的により適切な厚さのものを使用すればよいが、フィルムベースのもので13〜75μm、紙ベースのもので50〜200μmが好ましい。
【0097】
〔製造方法〕
次に、本発明のカバーレイフィルムの製造方法を説明する。
予め所要成分と有機溶剤とを混合することにより組成物を液状に調製した分散液をリバースロールコータ、コンマコータ等を用いて、電気絶縁性フィルムに塗布する。分散液が塗布された電気絶縁性フィルムをインラインドライヤ等に通し、40〜160℃で2〜20分間かけて有機溶剤を除去することにより乾燥し、半硬化状態とする。次いで、このフィルムの組成物塗布面と離型材層とを、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させることによりカバーレイフィルムが得られる。離型材層は使用に際して剥離される。なお、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態、乃至、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【0098】
<接着シート>
〔構成〕
本発明の組成物は、接着シートの製造に用いることができる。具体的には、例えば、組成物からなる層と、該組成物からなる層を被覆する離型材層とを有する接着シートが挙げられ、より具体的には、組成物からなる層と、該組成物からなる層の片面を被覆する離型材層とを有する2層構造、あるいは組成物からなる層と、該組成物からなる層の両面を被覆する離型材層を有する3層構造が挙げられる。これら接着シートの2層構造あるいは3層構造は、フレキシブル印刷配線板製造時の加工方法等により、適切に選択される。組成物からなる層の厚さは、使用目的により適切な厚さを選択できるが、乾燥状態で、通常、10〜50μmであり、好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0099】
離型材層を構成する離型材は、上記カバーレイフィルムの離型材として説明したものと同種のものを用いることができる。
【0100】
〔製造方法〕
次に、本発明の接着シートの製造方法を説明する。
予め所要成分と有機溶剤とを混合することにより組成物を液状に調製した分散液をリバースロールコータ、コンマコータ等を用いて、離型材層に塗布する。分散液が塗布された離型材層をインラインドライヤ等に通し、40〜160℃で2〜20分間かけて有機溶剤を除去することにより乾燥させ、半硬化状態とし、2層構造の接着シートとする。さらに、この離型材層の接着剤組成物塗布面と別の離型材層とを、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、3層構造の接着シートとする。
【0101】
〔接着方法〕
本発明の接着シートは2つの基体を接着するのに用いることができる。そのためには、まず2つの基体の間に接着シートを挟み、積層物を形成する。次いで、この接着シートを硬化させて2つの基体を接着する。
【0102】
前記基体の材料は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリイミドフィルム、電解銅箔、圧延銅箔、ガラスエポキシ板等が挙げられる。前記2つの基体の材料は、相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0103】
接着シートの硬化は、例えば、好ましくは前記積層物を積層物の表面に対して垂直方向に加圧しながら、140〜200℃、好ましくは160〜180℃の温度で加熱することにより行うことができる。圧力は1〜6MPa、好ましくは2〜5MPaの範囲内であればよい。温度および圧力がかかる範囲にあると、2つの基体は硬化接着シートを介して良好な引張り強度(接着性)で容易に接着することができる。硬化時間は、0.5〜2時間の範囲内であればよい。
【実施例】
【0104】
本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた材料は具体的には以下のとおりである。
【0105】
<使用材料>
・カプトン100H(商品名)(東レデュポン製、ポリイミドフィルム、25μm)
・Y7TF(商品名)(リンテック製、離型紙、約130μm)
・PET38X(商品名)(リンテック製、離型フィルム、約38μm)
・RAS22S47(商品名)(信越化学工業製、フレキシブル印刷配線用基板、カプトン50H/接着剤13μm/圧延銅箔1/2oz)
・HTE(商品名)(三井金属製、電解銅箔)
・E33(商品名)(信越化学工業製、接着シート、接着剤25μm)
【0106】
<合成例1>
〔ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A-1)の合成〕
ポリエステル(a-1)(テレフタル酸:イソフタル酸:アジピン酸:無水トリメリット酸=42:30:26:2のモル比で構成される多価カルボン酸と、2−メチル−1,3−プロパンジオール:ネオペンチルグリコール=50:50のモル比で構成されるポリオール類とを、多価カルボン酸:ポリオール類=50:50のモル比で混合し、反応させて得られたカルボキシル基含有ポリエステル;数平均分子量:15,000、カルボキシル基含有率:約1.0質量%)100質量部、2,2−ジメチロールブタン酸9質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート8質量部、およびジブチル錫ジラウレート0.4質量部を、混合溶媒(メチルエチルケトン:トルエン=50:50(質量比))150質量部に溶解させ、80℃で4時間反応させ、ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A-1)を得た。この樹脂(A-1)のカルボキシル基含有率は約3.8質量%であり、数平均分子量は約16000であった。ここで、ポリエステル(a-1)およびウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A-1)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算)によって測定したものである。なお、この樹脂(A-1)に前記混合溶媒を加えて固形分の濃度が20質量%の溶液として、実施例で用いた。
【0107】
<合成例2>
〔ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A-2)の合成〕
ポリエステル(a-2)(テレフタル酸:イソフタル酸:アジピン酸:無水トリメリット酸=41:35:22.5:1.5のモル比で構成される多価カルボン酸と、2−メチル−1,3−プロパンジオール:1,4−ブタンジオール=50:50のモル比で構成されるポリオール類とを、多価カルボン酸:ポリオール類=50:50のモル比で混合し、反応させて得られたカルボキシル基含有ポリエステル;数平均分子量 12,000、カルボキシル基含有率:約0.7質量%)100質量部、2,2−ジメチロールブタン酸10質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート8質量部、およびジブチル錫ジラウレート0.4質量部を、混合溶媒(メチルエチルケトン:トルエン=50:50(質量比))150質量部に溶解させ、80℃で4時間反応させ、ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A-2)を得た。この樹脂(A-2)のカルボキシル基含有率は約2.8質量%であり、数平均分子量は約17000であった。ここで、ポリエステル(a-2)およびウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A-2)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算)によって測定したものである。なお、この樹脂(A-2)に前記混合溶媒を加えて固形分の濃度が20質量%の溶液として、実施例で用いた。
【0108】
<実施例1>
接着剤組成物の成分である、固形分20質量%のウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A-1)溶液500質量部(樹脂(A-1)として100質量部)に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828)25質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:EOCN103S)10質量部、およびイミダゾール化合物(商品名:2E4MZ-CN)0.5質量部を加え、十分に撹拌してこれらの成分を溶解させた。この溶液に水酸化アルミニウム(商品名:H43STE)30質量部、およびシクロホスファゼン化合物(商品名:SPE100)45質量部を加えた後、ボールミルを用いて十分に水酸化アルミニウムを溶液中に分散させて、接着剤分散液とした。
【0109】
次に、この接着剤分散液を、ポリイミドフィルム(商品名:カプトン100H)上に、乾燥後の組成物層の厚さが25μmとなるようにリバースロールコーターを用いて塗布した。その後、140℃、10分の加熱乾燥条件で有機溶剤を除去することにより、組成物を半硬化状態(加熱乾燥により組成物が一部硬化した状態)とした。この半硬化状態の組成物が付いたポリイミドフィルムの組成物層に、離型紙(商品名:Y7TF)を温度70℃、線圧2kg/cmの条件でロールラミネーターを用いて圧着し、カバーレイフィルムを作製した。
【0110】
また、ポリイミドフィルムに代えて離型フィルム(商品名:PET38X)を用いた以外は上記カバーレイフィルムと同様にして接着シートを作製した。
【0111】
下記の評価・測定方法に従って、これらのカバーレイフィルムおよび接着シートの物性の評価・測定を行った。その結果を表1に示す。
【0112】
<実施例2〜10、比較例1〜7>
表1に記載されている種類の化合物を、表1に記載されている配合量で用いた以外は実施例1と同様にして、組成物を接着剤分散液として調製し、カバーレイフィルムおよび接着シートを作製した。下記の評価・測定方法に従って、これらのカバーレイフィルムおよび接着シートの物性の評価・測定を行った。その結果を表1に示す。
【0113】
<評価・測定方法>
−評価用サンプル−
以下のサンプルを、160℃、4.9MPa、30分のプレス加工条件で加熱しながら圧着したものを、剥離強度および半田耐熱性の評価用サンプルとして用いた。なお、離型材は剥離してからサンプルの作製に用いた。
・サンプル1:実施例で作製したカバーレイフィルムの組成物層と電解銅箔(HTE箔)1ozの光沢面とを接着したもの
・サンプル2:実施例で作製した接着シートの両面を2枚のフレキシブル印刷配線用基板(商品名:RAS22S47)のフィルム面で被覆したもの
【0114】
−物性評価・測定方法−
1.剥離強度
・剥離強度A:サンプル1を10mm幅にカットして試験片1を作製し、該試験片1について、25℃の条件下で電解銅箔(商品名:HTE)を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し剥離強度とした。
・剥離強度B:サンプル2を10mm幅にカットして試験片2を作製し、該試験片2について、25℃の条件下でフレキシブル印刷配線用基板(商品名:RAS22S47)を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し剥離強度とした。
【0115】
2.半田耐熱性
サンプル1を25mm角にカットして試験片3を作製し、該試験片3を80℃で10分間乾燥した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、該試験片3の外観を目視により確認し、膨れ、剥がれ等の有無を調べた。半田浴の温度を変えて、この操作を繰り返し、該サンプルに膨れ、剥がれ等が生じない最高温度を測定した。
【0116】
3.マイグレーション性
図1はフレキシブル印刷配線用基板(商品名:RAS22S47、銅箔/接着剤層/ポリイミドフィルム積層体)の銅箔部分をエッチング処理して形成されたマイグレーション性評価用櫛形回路の平面図である。この基板上の櫛形回路は、並行した銅箔からなる導体1と、その両端に設けられた電圧印加用電極2とからなる。また、前記基板上には、銅箔エッチングにより、接着剤層3が露出されている。なお、導体(銅箔)1の幅は250μmであり、並行して隣り合う導体間(線間)の距離は60μmである。
【0117】
まず、フレキシブル印刷配線用基板(商品名:RAS22S47)を120mm×120mmにカットし、正方形のフレキシブル印刷配線用基板を得た。得られたフレキシブル印刷配線用基板の銅箔部分を定法によりエッチングして、図1に示すマイグレーション性評価用櫛形回路を形成させた。次いで、この回路を図1に示す形状(60mm×20mm)にカットした。
【0118】
この櫛形回路の電圧印加用電極2を除く全体に対して、前述の実施例で作製したカバーレイフィルム(離型紙は除去した)を、160℃、4.9MPa、30分の条件で加熱しながら圧着し被覆させることにより被覆体を得た。この被覆体の両面に接着シート(商品名:E33)を介して、2mm厚のガラスエポキシ板を、160℃、4.9MPa、30分の条件で加熱して圧着し、マイグレーション性評価用基板を得た。この基板に、85℃、85%RHの条件下で、50Vの電圧を1000時間に亘って印加し、その後の電気抵抗値を測定し、さらにデンドライトの有無を確認した。これらの結果をマイグレーション性の指標とした。
【0119】
電気抵抗値が高いほど、マイグレーション性は良好であると評価される。なお、1000時間以内に電気抵抗値が1MΩ以下になった場合には不良と評価し「B」と示す。
【0120】
デンドライトの有無は、デンドライトが認められた場合を良好と評価し「A」と示し、デンドライトが認められなかった場合を不良と評価し「B」と示す。
【0121】
4.ハロゲン含有率
実施例で作製した接着シートの組成物層のハロゲン含有率を、JPCA-ES-001(JPCA規格、社団法人日本プリント回路工業会)に記載の方法に従って、測定した。このハロゲン含有率が0.09質量%以下であった場合をハロゲンフリーであると評価し「A」と示し、ハロゲン含有率が0.09質量%を超えていた場合をハロゲンフリーでないと評価し「B」と示した。
【0122】
5.難燃性
実施例で作製したカバーレイフィルムを50mm×200mmにカットして、難燃性評価用サンプルを作製した。該サンプルについてUL94VTM−0の規格に従って難燃性の評価を行った。燃焼性が、VTM−0規格を満たした場合を良好と評価して「A」と示し、満たさなかった場合を不良と評価して「B」と示した。
【0123】
【表1】

【0124】
なお、表中において、(B)〜(E)成分およびその他の成分は以下のとおりである。
(B)非ハロゲン系エポキシ樹脂、
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828、ジャパンエポキシレジン製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート1001、ジャパンエポキシレジン製)
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:EOCN103S、日本化薬製)
(C)硬化剤、
・DDS(4,4'−ジアミノジフェニルスルホン)
・ジシアンジアミド
・イミダゾール系硬化剤(商品名:2E4MZ−CN、四国化成製)
(D)燐系難燃剤
・シクロホスファゼン化合物(商品名:SPE100、大塚化学製、融点:約110℃、リン含有率:約13質量%、)
・式:
【0125】
【化13】

で表される芳香族リン酸ピペラジン(四国化成工業製、商品名:「SP-703」として入手した。リン含有率:約11質量%、窒素含有率:5質量%、融点:約180℃)
・式:
【0126】
【化14】

で表される窒素非含有芳香族縮合リン酸エステル(大八化学製、商品名:「PX−200」、リン含有率:約9質量%、融点:約92℃)
・フィチン酸カルシウム(但し、フィチン酸中の6個のリン酸基のうち約4個がCaイオンと塩を形成している化合物。築野食品製、商品名「カルシウムフィチン」として入手。リン含有率:20質量%、融点:約200℃)
・ジエチルホスフィン酸アルミニウム(リン含有率:23質量%、融点:なし、分解温度:約300℃、クラリアント製、商品名:「Exolit OP-930」として入手した。)
・ピロリン酸メラミンとピロリン酸ピペラジンの混合物(旭電化製、商品名:「FP-2100」として入手した。融点:なし、分解温度:約270℃、リン含有率:20質量%、窒素含有率:20質量%)
(E)無機フィラー
・水酸化アルミニウム(商品名:H43STE、昭和電工製)
・水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5A、協和化学製)
(その他)
・カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム(商品名:ニポール1072B、日本ゼオン製、アクリロニトリル含有率:約27.0質量%、カルボキシル基含有率:約0.075質量%)
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】フレキシブル印刷配線用基板(商品名:RAS22S47)の銅箔部分をエッチング処理して形成されたマイグレーション性評価用櫛形回路の平面図である。
【符号の説明】
【0128】
1 導体(銅箔)
2 電圧印加用電極
3 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ウレタン変性カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、
(B)非ハロゲン系エポキシ樹脂、
(C)硬化剤、
(D)リン系難燃剤、および
(E)無機フィラー
を含有してなり、(A)成分100質量部に対して(B)成分の割合が5〜100質量部、(C)成分の割合が0.1〜30質量部であり、(A)〜(C)成分の合計量に対して(E)成分の割合が10〜60質量%であり、かつ全有機固形成分中のリン元素の割合が2.5質量%以上である接着剤組成物。
【請求項2】
前記(D)成分が、融点または分解温度が160℃以上のリン系難燃剤である請求項1に係る組成物。
【請求項3】
前記(D)成分が、トリフェニルホスフィン、リン酸エステル、ホスファゼン化合物、リン酸エステルアミド、フィチン酸塩、ホスフィン酸塩またはポリリン酸塩である請求項2に係る組成物。
【請求項4】
電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物からなる層とを有するカバーレイフィルム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物からなる層と、該組成物からなる層を被覆する離型材層とを有する接着シート。
【請求項6】
請求項5に記載の接着シートを2つの基体の間に挟む工程と、該接着シートを硬化させる工程とを有する2つの基体を接着する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−51212(P2007−51212A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237008(P2005−237008)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】