説明

搬送用走行体の走行制御方法

【課題】地上側から作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に対して走行可信号を確実に伝送する手段のコストダウン、実施の容易化を図る。
【解決手段】各搬送用走行体1には、作業区間WA内において前後に隣り合う搬送用走行体1間でデータ通信を行うデータ通信手段13,14と、地上側通信装置との間でデータ通信を行う機上側通信装置15が設けられ、前記作業区間WAの一端部には、通過する搬送用走行体1の前記機上側通信装置15に走行可信号を送信する地上側通信装置18a,18bが配設され、この地上側通信装置18a,18bから受信した走行可信号を、作業区間WA内を走行する他の全ての搬送用走行体1に前記データ通信手段13,14を介して伝送し、作業区間WA内の各搬送用走行体1を、受信した走行可信号に基づいて作業速度で自走させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業区間内で自走式搬送用走行体を、各搬送用走行体が走行方向に連続する状態を保って一定低速度の作業速度で自走させるための走行制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車組立てラインでは、自動車車体を積載した自走式搬送用走行体を、各搬送用走行体の自動車車体を積載した作業床が走行方向に連続する状態で一定低速度の作業速度で移動させながら、所要の作業を積載車体に対して行う作業区間が使用される。このような作業区間において、自走式搬送用走行体を自走させる場合、地上側から作業区間内の全ての搬送用走行体に対して走行許可を与え、この走行許可が与えられている間は作業速度での走行を継続させ、作業区間からの搬送用走行体の退出を継続出来ない事態が発生した場合や、作業区間へ進入すべき搬送用走行体が遅れて、作業区間内の全域を所定台数の搬送用走行体で満たすことが出来なくなったような場合には、地上から各搬送用走行体に対する走行許可を取り消してその場で停止させる必要がある。このような制御を行う場合、特許文献を開示することは出来ないが、一般的には、作業区間内の全ての搬送用走行体と地上側とで通信が出来る有線方式や無線方式のデータ通信手段が採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
作業区間内の全ての搬送用走行体と地上側とで通信が出来る通信手段として有線方式のものを採用しようとすると、作業区間の全域にわたって連続するように通信用レールを敷設し、全ての搬送用走行体に当該通信用レールに摺接する信号授受端末(集電子)を設ける必要がある。又、後者の無線方式の通信手段を採用しようとすると、搬送用走行体の上側には、被搬送物の積載領域とその周囲の作業床を確保しなければならないので、アンテナを搬送用走行体の上側に立てることが出来ないことから、搬送用走行体の下側の地上側に作業区間全域にわたって通信用の地上側アンテナを架設しなければならない。従って、何れの方式でも、作業区間全域にわたって地上側に敷設物を必要とする点で、保守点検や作業区間のレイアウトの変更などに関して不適合であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記のような従来の問題点を解消することの出来る搬送用走行体の走行制御方法を提案するものであって、請求項1に記載の本発明に係る搬送用走行体の走行制御方法は、後述する実施例との関係を理解し易くするために、当該実施例の説明において使用した参照符号を括弧付きで付して示すと、自走式搬送用走行体(1)の走行経路中に、各搬送用走行体(1)が走行方向に連続する状態を保って一定低速度の作業速度で自走する作業区間(WA)が設定された搬送設備において、各搬送用走行体(1)には、作業区間(WA)内において前後に隣り合う搬送用走行体(1)間でデータ通信を行うデータ通信手段(13,14)と、地上側通信装置との間でデータ通信を行う機上側通信装置(15)が設けられ、前記作業区間(WA)の一端部には、通過する搬送用走行体(1)の前記機上側通信装置(15)に走行可信号を送信する地上側通信装置(18a,18b)が配設され、この地上側通信装置(18a,18b)から受信した走行可信号を、作業区間(WA)内を走行する他の全ての搬送用走行体(1)に、各搬送用走行体(1)が備える前記データ通信手段(13,14)を介して伝送し、作業区間(WA)内の各搬送用走行体(1)を、受信した走行可信号に基づいて作業速度で自走させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
上記の本発明方法によれば、作業区間の一端部に配設した地上側通信手段から走行可信号を送信するだけで、作業区間内の全ての搬送用走行体に対して所期の作業速度での走行を実行させ、作業区間内の全ての搬送用走行体をその場で停止させなければならない事態が生じたときは、前記地上側通信装置からの走行可信号の送信を断つだけで良い。このように作業区間内の全ての搬送用走行体に対して走行可信号の伝送を行うことが出来るのであるが、本発明によれば、地上側の通信手段としては、作業区間の一端部に配設すれば良く、従来のように搬送用走行体の下側の地上側に作業区間の全域にわたって連続する通信手段(アンテナ線や信号授受用レールなど)を敷設する必要がなくなり、容易且つ安価に実施出来ると共に、作業区間のレイアウトの変更にも容易に対処することが出来る。しかも作業区間内の全ての搬送用走行体に走行可信号を伝送する手段は、前後に隣り合う2台の搬送用走行体間でデータ通信を行うものであるから、その1単位のデータ通信手段が受け持つデータ通信経路は直線で極短くなり、この結果、既存の安価な各種データ通信手段を採用しながら、作業区間内の全ての搬送用走行体に走行可信号を確実に伝送し、所期通りの走行制御を確実に実行させることが出来る。
【0006】
上記本発明方法を実施する場合、具体的には請求項2に記載のように、前記地上側通信装置(18a,18b)から送信された走行可信号は、各搬送用走行体(1)の前記データ通信手段(13,14)を介して作業区間(WA)の他端部を走行する搬送用走行体(1)に達した後、前記データ通信手段(13,14)を介して作業区間(WA)内の各搬送用走行体(1)に対して逆方向に伝送し、当該走行可信号を、作業区間(WA)の一端部を走行する搬送用走行体(1)から前記機上側通信装置(15)を経由して前記地上側通信装置(18a,18b)に戻すことが出来る。このように走行可信号が作業区間内の全ての搬送用走行体を循環経由して元の地上側通信装置に戻ることにより、作業区間の他端部側に走行可信号を搬送用走行体から受け取る地上側通信装置を設けなくとも、走行可信号を送信する前記地上側通信装置に接続された地上側制御装置において、作業区間内の全ての搬送用走行体に走行可信号が伝送されたことを確認出来る。勿論、作業区間内の搬送用走行体から地上側制御装置に伝送させるべき各種信号の伝送手段としても活用することが出来る。
【0007】
上記請求項2に記載の構成を採用する場合、請求項3に記載のように、作業区間(WA)内で走行不可となった搬送用走行体(1)では、隣り合う搬送用走行体(1)への走行可信号の伝送を中止させ、作業区間(WA)の一端部を走行する搬送用走行体(1)から前記地上側通信装置(18a,18b)への走行可信号の戻りが無いことに基づいて当該地上側通信装置(18a,18b)からの走行可信号の送信を断ち、作業区間(WA)内の全ての搬送用走行体(1)をその場で停止させるように構成することが出来る。この構成によれば、作業区間内で1台の搬送用走行体が走行不可となったときに、作業区間内の全ての搬送用走行体をその場で自動停止させることが出来る。
【0008】
尚、各搬送用走行体とその前後の搬送用走行体との間のデータ通信を行うデータ通信手段(13,14)は、如何なる構成のものでも良いが、請求項4に記載のように、前記データ通信手段(13,14)として、投受光器を使用した光通信手段を使用することが、安価に実施出来るだけでなく、保守も容易であり、実用的である。
【0009】
又、各搬送用走行体(1)が備える機上側通信装置(15)と、当該機上側通信装置との間で走行可信号を受け渡しする地上側通信装置(18a,18b)も、如何なる構成のものでも良いが、請求項5に記載のように、走行中の搬送用走行体(1)と地上側の一定箇所との間で走行可信号を受け渡しするものであるから、これら通信装置(15,18a,18b)にも投受光器を使用した光通信手段を利用する場合は、これら通信装置(15,18a,18b)は、搬送用走行体(1)の走行方向に長い一定範囲の通信エリアを有する投受光器を使用した光通信手段であるのが望ましい。この場合、請求項6に記載のように、地上側通信装置(18a,18b)は、夫々の通信エリアが一部重なるように搬送用走行体の走行方向に適当間隔おきに並設された複数の光通信手段によって構成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは搬送用走行体の平面図、図1Bは作業区間での各搬送用走行体の走行状態を示す側面図である。
【図2】図2は作業区間を説明する平面図である。
【図3】図3Aは作業区間入り口側での搬送用走行体の速度制御の第一段階を示す平面図、図3Bは同速度制御の第二段階を示す平面図である。
【図4】図4Aは同速度制御の第三段階を示す平面図、図4Bは同速度制御の第四段階を示す平面図である。
【図5】図5Aは同速度制御の最終段階を示す平面図、図5Bは作業区間出口側での搬送用走行体の速度制御の第一段階を示す平面図である。
【図6】図6Aは同速度制御の第二段階を示す平面図、図6Bは同第二段階で異常が生じた状態を示す平面図である。
【図7】図7は高速で走行して来る搬送用走行体を作業区間に進入させるときの制御を説明するフローチャートである。
【図8】図8は作業区間の最後尾の搬送用走行体に対する制御を説明するフローチャートである。
【図9】図9は作業区間から先頭搬送用走行体を退出させるときの制御を説明するフローチャートである。
【図10】図10は作業区間の先頭搬送用走行体に続く2番搬送用走行体に対する制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本実施例で使用する搬送用走行体1は、自走可能な牽引車2と当該牽引車2で牽引される搬送台車3との組み合わせから成る。牽引車2は、車高が搬送台車3の下側を走行出来るほどに低い低床構造のものであって、その後半部が搬送台車3の前端部下側に入り込む状態で、牽引車2の前後長さ方向の中央付近と搬送台車3の前端近傍の巾方向中央付近とが垂直連結軸4によって、当該垂直連結軸4の周りに相対回転自在に連結されている。牽引車2には、前記垂直連結軸4の左右両側に位置する左右一対の駆動車輪5と、これら両駆動車輪5を各別に正逆任意の方向に回転駆動する左右一対のモーター6と、後端近傍の巾方向中央位置に位置する後輪7を備えている。左右一対の駆動車輪5は直進向きに固定され、後輪7は自在車輪で構成されている。
【0012】
搬送台車3は、その表面(作業床)上に立設された複数の被搬送物支持用治具8により被搬送物(自動車車体など)Wを支持するものであって、その後側辺には、作業区間で後ろ側に隣接する搬送台車3の前側辺上に被さるカバープレート9が後方向きに延設されている。又、この搬送台車3には、垂直連結軸4の周りでの牽引車2の相対回転と干渉しない位置に設けられた自在車輪から成る左右一対の前輪10と、直進向きに固定された左右一対の後輪11とが設けられている。
【0013】
牽引車2には、その前端に、前方一定距離範囲内に入った障害物を検知する障害物センサー12が設けられ、側面の前端部と後端部には、投受光器使用の前後方向向きの光通信装置13,14が取り付けられ、側面中間位置には、投受光器使用の横側方向きの巾広光通信装置15が取り付けられている。又、底面には、床面に配設されたマーカーを検出する定位置検出用センサー16が取り付けられている。前後方向向きの光通信装置13,14は、直進経路上でこの搬送用走行体1の前後一定距離範囲内に位置する同一構造の他の搬送用走行体1の牽引車2の前後方向向きの光通信装置13,14との間で、例えば16bitの光線によりデータ通信を行うものであり、横側方向きの巾広光通信装置15は、この巾広光通信装置15から見て搬送用走行体1の走行方向の前後一定範囲内(例えば前後各60度範囲内)に位置する地上側の同一構造の巾広光通信装置との間で、例えば8bitの光線によりデータ通信を行うものである。
【0014】
上記構成の搬送用走行体1の循環走行経路中には、図2に示すように、複数台の搬送用走行体1が、その搬送台車3の表面の作業床が連続する状態で直進する作業区間WAが設定されている。この作業区間WAでは、各搬送台車3の前端から前方に突出している牽引車2の前半部が、直前の搬送用走行体1における搬送台車3の後端部下側に入り込み、各搬送台車3の後側辺から後方に延出しているカバープレート9が、直後の搬送用走行体1における搬送台車3の前側辺上に被さっている。以下、この作業区間WAに対する搬送用走行体1の進入時の走行制御について図3〜図5Aに基づいて説明し、当該作業区間WAからの搬送用走行体1の退出時の走行制御について図5B〜図6に基づいて説明するが、これら図3〜図6では、牽引車2と搬送台車3とから成る搬送用走行体1を、平面視で1つの長方形の箱形に簡略化して示している。
【0015】
図3〜図5Aに示すように、作業区間WAより一定距離上流側に離れた定位置には、計測起点P1が設定され、作業区間WAの入り口付近には、ドッキング確認位置P2が設定されている。これら計測起点P1及びドッキング確認位置P2には、通過する搬送用走行体1が備える前記定位置検出用センサー16によって検出されるマーカーが床面などに設けられている。又、作業区間WAの入り口付近には、通過する搬送用走行体1が備える巾広光通信装置15との間でデータ通信を行う地上側巾広光通信装置17が設けられている。この地上側巾広光通信装置17も、巾広光通信装置15と同様に、この地上側巾広光通信装置17から搬送用走行体1の走行経路側を見たときの搬送用走行体1の走行方向の前後一定範囲内(例えば前後各60度範囲内)を通過する前記巾広光通信装置15との間でデータ通信が行えるものである。
【0016】
図5B〜図6に示すように、作業区間WAの出口付近には、通過する搬送用走行体1が備える巾広光通信装置15との間でデータ通信を行う地上側巾広光通信装置18a,18bが設けられている。これら地上側巾広光通信装置18a,18bも、巾広光通信装置15と同様に、各地上側巾広光通信装置18a,18bから搬送用走行体1の走行経路側を見たときの搬送用走行体1の走行方向の前後一定範囲内(例えば前後各60度範囲内)を通過する前記巾広光通信装置15との間でデータ通信が行えるものであり、図では、並列接続された2つの同一の地上側巾広光通信装置18a,18bを使用して、全体の通信エリアを搬送用走行体1の走行方向に広げているが、使用する巾広光通信装置の個数は限定されない。1つの巾広光通信装置の通信エリアが十分に広ければ、1つの巾広光通信装置で構成することも出来る。又、この作業区間WAの出口付近には、1台の搬送用走行体1の全長と同じ程度の間隔を隔てて最終工程確認位置P4と最終工程1つ手前の確認位置P3が設定されている。これら2つの確認位置P3,P4には、通過する搬送用走行体1が備える前記定位置検出用センサー16によって検出されるマーカーが床面などに設けられている。前記2つの地上側巾広光通信装置18a,18b全体の通信エリアは、少なくとも前記2つの確認位置P3,P4に夫々位置する前後2台の搬送用走行体1の巾広光通信装置15との間でデータ通信が行える広さを有する。
【0017】
上記のように連続状態で作業区間WA内を自走する各搬送用走行体1に対して設定されている走行速度は、作業者が各搬送用走行体1(搬送台車3)の作業床上を安全に歩行しながら積載被搬送物Wに対する作業を行える、一定低速の作業速度VLである。今、作業区間WA内の全域に搬送用走行体1が連続状態に配置されている状況において、地上側制御装置の働きによって、作業区間WAの出口付近に設置された地上側巾広光通信装置18a,18bから作業速度での走行可信号が発信されると、この走行可信号は、作業区間WAの出口付近に位置する少なくとも前後2台の搬送用走行体1に、これら搬送用走行体1の巾広光通信装置15を介して伝送される。この作業区間WAの出口付近に位置する搬送用走行体1に伝送された走行可信号は、各搬送用走行体1が備えている前後両光通信装置13,14を介して作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に上流向きに順次伝送されると共に、作業区間WAの入り口付近に位置する最後尾の搬送用走行体1に達した走行可信号が、各搬送用走行体1が備えている前後両光通信装置13,14を介して今度は下流向きに伝送され、作業区間WAの出口付近に位置する搬送用走行体1の巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置18a,18bを経由して地上側制御装置に戻される。そしてこの作業区間WA内の全ての搬送用走行体1を1往復する1単位の走行可信号のリレー伝送が繰り返し行われるように構成されている。
【0018】
各搬送用走行体1には、図1に示すように、その牽引車2に制御装置19が搭載されている。この制御装置19が上記の走行可信号のリレー伝送を制御すると共に、走行可信号の中継を行う搬送用走行体1の制御装置19は、その中継する走行可信号に基づいて、搬送用走行体1を前記作業速度VLで直進走行させるように、左右一対のモーター6を制御するものである。従って、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が前記作業速度VLを保って直進走行することになる。
【0019】
若し、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信が地上側制御装置によって断たれたときは、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に走行可信号が伝送されなくなる。このとき各搬送用走行体1の制御装置19は、走行可信号の受信がないことに基づいてモーター6を停止させるので、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1はその場で停止することになる。又、作業区間WA内の特定の搬送用走行体1に非常停止の対象となる異常が生じたとき、当該特定搬送用走行体1の制御装置19は、前後の搬送用走行体1間の走行可信号の中継を自動停止する。この結果、地上側制御装置へ戻す走行可信号のリレー伝送が遮断され、この状況に基づいて地上側制御装置は走行可信号の送信を中止するので、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に走行可信号が伝送されなくなり、やはり作業区間WA内の全ての搬送用走行体1はその場で停止することになる。尚、作業区間WAの入り口付近に位置する最後尾の搬送用走行体1は、自身が最後尾の搬送用走行体1であるとの判定に基づいて、後ろ側の搬送用走行体1からの下流向きの走行可信号を受信していないことによる停止制御は行わずに、その直前の搬送用走行体1から受信した走行可信号を下流方向へ逆向きに伝送することになる。
【0020】
次に、作業区間WAへ進入する搬送用走行体1に対する走行制御について、図3〜図5A、図7及び図8に基づいて説明する。図3Aに示すように、作業区間WAの入り口付近において作業速度VLで走行している最後尾の搬送用走行体1を前側搬送用走行体1Yとし、この前側搬送用走行体1Yの直後の後ろ側搬送用走行体1Zが作業区間WAに向かって高速VHで走行している状態とすると、当該後ろ側搬送用走行体1Zは、その障害物センサー12が前方の検出エリア内の障害物を検出していないことを条件に高速VHで走行を継続し、若し、障害物センサー12が前方の検出エリア内の障害物を検出すれば、予め設定されている障害物検出時の減速停止制御プログラムに従って制御装置19が自動的に減速停止制御を実行する。
【0021】
後ろ側搬送用走行体1Zが、作業区間WAから上流側一定距離の定位置を通過した時点(図7−S1)、例えば計測起点P1又は当該計測起点P1とは別に設定した定位置を通過した時点で、障害物センサー12による障害物検出時の減速停止制御プログラムは無効とし(図7−S2)、図3Bに示すように、当該後ろ側搬送用走行体1Zが前側搬送用走行体1Yを障害物センサー12が検出する障害物検出最大車間距離D1まで接近したとき、ドッキングのための減速制御が開始される。即ち、後ろ側搬送用走行体1Zの障害物センサー12が前側搬送用走行体1Yを障害物として検出したとき(図7−S3)には、通常走行時に実行される障害物検出時の減速停止制御プログラムは実行されず、障害物センサー12の検出信号ONに基づいて前側搬送用走行体1Yとの間の車間距離に基づく減速制御が開始される(図7−S4)。
【0022】
図4Aに示すように、前側搬送用走行体1Y及び後ろ側搬送用走行体1Zは、夫々計測起点P1を通過した時点(定位置検出用センサー16が計測起点P1に設けられた地上側マーカーを検出した時点)からの走行距離L1Y,L1Zに相当する現在位置情報を持っている。具体的には、例えば駆動車輪5の回転に連動するパルスエンコーダーの発信パルスを、制御装置19が備える演算機能により計測起点P1を通過した時点から加算計数し、この搬送用走行体1の走行距離に比例して増加する計数値を現在位置情報として持たせることが出来る。而して、前側搬送用走行体1Yの制御装置19は、演算している現在位置情報を後ろ側搬送用走行体1Zに光通信装置13,14を介して伝送し、当該後ろ側搬送用走行体1Zの制御装置19では、受信した前側搬送用走行体1Yの現在位置情報と自身が演算している後ろ側搬送用走行体1Zの現在位置情報とを比較演算して、前側搬送用走行体1Yとの間の車間距離dを求め、この車間距離dの漸減変化に対応してモーター6を制御して後ろ側搬送用走行体1Zを減速させ、演算されている車間距離dが予めドッキング距離として設定されている設定値に達したとき(図7−S5)、当該後ろ側搬送用走行体1Zが作業速度VLにまで減速されているように、当該後ろ側搬送用走行体1Zを減速制御する(図7−S5)。
【0023】
上記減速制御により、図4Bに示すように、後ろ側搬送用走行体1Zが前側搬送用走行体1Yに対して所期のドッキング距離まで接近して、当該前側搬送用走行体1Yと同一の作業速度VLで走行するドッキング完了状態になると、光通信装置13,14を介して前側搬送用走行体1Yにドッキング完了信号を送信し(図7−S6)、上記の車間距離に基づく減速制御を終了すると共に、そのまま作業速度VLでの走行を継続させる(図7−S7)。
【0024】
上記のドッキング完了時点では、図4Bに示すように、前側搬送用走行体1Yはドッキング確認位置P2に到達していないが、この前側搬送用走行体1Yがドッキング確認位置P2に到達したとき(図8−S1)、既に後ろ側搬送用走行体1Zからドッキング完了信号を受信しているとき(図8−S2)は、巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置17を経由させて地上側制御装置にドッキング完了信号を送信させる(図8−S3)と共に、そのまま作業速度VLでの走行を継続させる(図8−S4)。この後、先に説明した走行可信号のリレー伝送が後ろ側搬送用走行体1Zを最後尾の搬送用走行体1として実行され、この後ろ側搬送用走行体1Zを含む作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が連続状態(ドッキング状態)を維持すべく作業速度VLで走行することになる。
【0025】
若し、図5Aに示すように、後ろ側搬送用走行体1Zが前側搬送用走行体1Yに対してドッキングを完了する前に、前側搬送用走行体1Yがドッキング確認位置P2に到達したならば、その場で停止制御を実行させると共に走行可信号の中継作用を中止させる(図8−S5)。この結果、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送が停止し、作業区間WAの出口側の地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信も停止するので、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が停止待機することになる。この状況は、停止待機する前側搬送用走行体1Yの巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置17を経由して地上側制御装置に通知される。
【0026】
そして停止待機している前側搬送用走行体1Yに対して後ろ側搬送用走行体1Zが障害物検出最大車間距離D1まで接近し、上記の車間距離に基づく減速制御を受けて、停止待機している前側搬送用走行体1Yに対してドッキングが完了すると、停止待機していた前側搬送用走行体1Yから巾広光通信装置15及び地上側巾広光通信装置17を経由して地上側制御装置にドッキング完了が通知され、地上側制御装置が作業区間WAの出口側の地上側巾広光通信装置18a,18bから作業区間WAの出口側付近で停止待機している先頭搬送用走行体1に走行可信号を送信するので、後ろ側搬送用走行体1Zと作業区間WA内で停止待機していた全ての搬送用走行体1に走行可信号が伝送され、再び作業速度VLでの走行が再開される。尚、停止待機している前側搬送用走行体1Yに対して後ろ側搬送用走行体1Zがドッキング完了した時点から、この前側搬送用走行体1Yを含む作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が作業速度VLで走行を開始するまでの間の時間遅れが大きくなるときは、前側搬送用走行体1Yから後ろ側搬送用走行体1Zに走行可信号が送信されるまでの間、後ろ側搬送用走行体1Zを一時停止させるように制御しても良い。
【0027】
次に、図5B〜図6、図9及び図10に基づいて、作業区間WAから搬送用走行体1が退出するときの走行制御について説明する。図5Bに示すように、作業区間WAから直前に退出して高速VHで走行する搬送用走行体1を直前退出搬送用走行体1A、作業区間WAの最終工程確認位置P4に位置する搬送用走行体1を先頭搬送用走行体1B,そして作業区間WAの最終工程1つ手前の確認位置P3に位置する搬送用走行体1を2番搬送用走行体1Cとすると、先頭搬送用走行体1Bが最終工程確認位置P4に達したとき(図9−S1)、その情報が当該先頭搬送用走行体1Bの巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置18a,18bを経由して地上側制御装置に伝送され、地上側制御装置は、そのときの直前退出搬送用走行体1Aが先頭搬送用走行体1Bから一定安全確保距離D2の範囲内にあるか否かを判定し、直前退出搬送用走行体1Aが既に一定安全確保距離D2の範囲内から前方に離れているときは(図9−S2)、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信を継続するので、先頭搬送用走行体1Bの制御装置19は、最終工程確認位置P4に達したことと走行可信号を受信していることに基づいてモーター6を加速制御し、この先頭搬送用走行体1Bを高速VHで作業区間WAから退出させる(図9−S3)。
【0028】
若し、図5Bに仮想線で示すように、直前退出搬送用走行体1Aが一定安全確保距離D2内に有ると地上側制御装置が判定すると、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信を停止するので、先に説明した走行可信号のリレー伝送が停止され、この先頭搬送用走行体1Bを含む作業区間WA内の全ての搬送用走行体1がその場に停止待機することになる(図9−S4)。そして、直前退出搬送用走行体1Aが一定安全確保距離D2内から前方に進出すれば、先に説明した制御が行われて、先頭搬送用走行体1Bが高速VHで作業区間WAから退出すると同時に、2番搬送用走行体1Cとその後続の作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が作業速度VLでの走行を再開する。作業区間WAから高速VHで退出する先頭搬送用走行体1Bは、後述するように最終工程確認位置P4に到達する前に、作業区間WAに進入する前に無効にされていた障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御プログラムが有効に戻されているので、通常の障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御が併用される。
【0029】
一方、2番搬送用走行体1Cが最終工程1つ手前の確認位置P3を通過するとき(図10−S1)、最終工程確認位置P4を通過する先頭搬送用走行体1Bから光通信装置13,14を介して走行可信号を受信している(図10−S2)ので、2番搬送用走行体1Cはそのまま作業速度VLでの走行を継続する(図10−S3)が、上記作用により先頭搬送用走行体1Bが最終工程確認位置P4から高速VHで作業区間WAから退出走行して、当該先頭搬送用走行体1Bと2番搬送用走行体1Cとの間の車間距離が、光通信装置13,14によるデータ通信可能な車間距離より広がると、2番搬送用走行体1Cは先頭搬送用走行体1Bから前後の光通信装置13,14を介して走行可信号を受け継ぐことが出来なくなる。しかしこの最終工程1つ手前の確認位置P3から最終工程確認位置P4までの間の2番搬送用走行体1Cは、巾広光通信装置15を介して地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号を受信している(図10−S4)ことを条件に、最終工程確認位置P4に到達するまで(図10−S7)まで、作業速度VLでの走行を継続させることが出来る(図10−S6)。又、この2番搬送用走行体1Cが地上側巾広光通信装置18a,18bから走行可信号を受信していることにより、当該2番搬送用走行体1Cから後方に連続する作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送も継続され、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1も2番搬送用走行体1Cに追従して作業速度VLで走行する。
【0030】
尚、作業区間WAに進入する前に無効にされていた各搬送用走行体1の障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御プログラムは、最終工程1つ手前の確認位置P3を通過した2番搬送用走行体1Cが先頭搬送用走行体1Bからの走行可信号に基づいて走行する状態から、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号のみに基づいて走行を継続する段階で有効になる(図10−S5)。従って、最終工程1つ手前の確認位置P3を通過した2番搬送用走行体1Cは、高速VHで作業区間WAから退出する先頭搬送用走行体1Bが前方に離れて走行可信号を受信しなくなった後は、障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御が併用される。従って、図6に示すように、最終工程確認位置P4から高速発進した先頭搬送用走行体1Bが何らかの原因で、最終工程確認位置P4に到達する前の2番搬送用走行体1Cの障害物センサー12で検出し得る位置で停止していたとすると、当該2番搬送用走行体1Cは、障害物センサー12の障害物検知に基づく通常の減速停止制御プログラムの作用によりその場で停止し、同時に後続の搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送も停止するので、この2番搬送用走行体1Cを先頭とする作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が、異常停止していた先頭搬送用走行体1Bの後側VHでの走行が再開されるまで、その場で停止待機することになる
【0031】
尚、地上側制御装置の働きで地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信が断たれたときは、最終工程1つ手前の確認位置P3を通過した2番搬送用走行体1Cはその場に停止すると共に、後続の搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送も断たれるので、この2番搬送用走行体1Cを先頭とする作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信が再開されるまでその場で停止待機することになる(図10−S8)。
【0032】
以上の走行制御によって、高速で走行する搬送用走行体1を自動的に減速制御して作業区間WA内に進入させ、この作業区間WA内では、全ての搬送用走行体1を互いに隣接する連続状態において一定の作業速度VLで走行させ、作業区間WAの出口に達した各搬送用走行体1は、自動的に加速制御して高速VHで退出させることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の搬送用走行体の走行制御方法は、自動車組立てライン内の一定の作業区間において、自動車車体を積載する自走可能な搬送用走行体を一定の作業速度で連続状態を維持させながら走行させる場合の走行制御方法として活用出来る。
【符号の説明】
【0034】
1,1A〜1C,1Y,1Z 搬送用走行体
2 牽引車
3 搬送台車
4 垂直連結軸
5 駆動車輪
6 モーター
7 後輪
12 障害物センサー
13,14 光通信装置
15 巾広光通信装置
16 定位置検出用センサー
17,18a,18b 地上側巾広光通信装置
19 制御装置
P1 計測起点
P2 ドッキング確認位置
P3 最終工程1つ手前の確認位置
P4 最終工程確認位置
L1Y,L1Z 搬送用走行体1Y及び1Zの走行距離
d,D3 車間距離
D1 障害物検出最大車間距離
D2 一定安全確保距離
WA 作業区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走式搬送用走行体の走行経路中に、各搬送用走行体が走行方向に連続する状態を保って一定低速度の作業速度で自走する作業区間が設定された搬送設備において、各搬送用走行体には、作業区間内において前後に隣り合う搬送用走行体間でデータ通信を行うデータ通信手段と、地上側通信装置との間でデータ通信を行う機上側通信装置が設けられ、前記作業区間の一端部には、通過する搬送用走行体の前記機上側通信装置に走行可信号を送信する地上側通信装置が配設され、この地上側通信装置から受信した走行可信号を、作業区間内を走行する他の全ての搬送用走行体に、各搬送用走行体が備える前記データ通信手段を介して伝送し、作業区間内の各搬送用走行体を、受信した走行可信号に基づいて作業速度で自走させることを特徴とする、搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項2】
前記地上側通信装置から送信された走行可信号は、各搬送用走行体の前記データ通信手段を介して作業区間の他端部を走行する搬送用走行体に達した後、各搬送用走行体の前記データ通信手段を介して作業区間内の各搬送用走行体を逆方向に伝送し、当該走行可信号を、作業区間の一端部を走行する搬送用走行体から前記機上側通信装置を経由して前記地上側通信装置に戻すことを特徴とする、請求項1に記載の搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項3】
作業区間内で走行不可となった搬送用走行体では、隣り合う搬送用走行体への走行可信号の伝送を中止させ、作業区間の一端部を走行する搬送用走行体から前記地上側通信装置への走行可信号の戻りが無いことに基づいて当該地上側通信装置からの走行可信号の送信を断ち、作業区間内の全ての搬送用走行体をその場で停止させることを特徴とする、請求項2に記載の搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項4】
前記データ通信手段が投受光器を使用した光通信手段である、請求項1〜3の何れか1項に記載の搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項5】
前記地上側通信装置と機上側通信装置とが、搬送用走行体の走行方向に長い一定範囲の通信エリアを有する投受光器を使用した光通信手段である、請求項1〜4の何れか1項に記載の搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項6】
前記地上側通信装置は、複数の前記光通信手段によって構成され、各光通信手段が、夫々の通信エリアが一部重なるように搬送用走行体の走行方向に適当間隔おきに並設されている、請求項5に記載の搬送用走行体の走行制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−160106(P2012−160106A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20547(P2011−20547)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)
【Fターム(参考)】