説明

摺動部材、バルブリフタ、及び内燃機関の動弁装置

【課題】断続的な摺動状態または摺動速度が遅い摺動状態であっても、摺動部材のフリクションを低減させ、両者の摩耗を抑制することができる摺動部材を提供する。
【解決手段】バルブリフタ本体11の少なくとも摺動面12aに非晶質炭素材料からなる炭素被膜12が形成されたバルブリフタ10であって、該バルブリフタ10は、前記炭素被膜12の上に、少なくとも二硫化モリブデンの粒子14を含有した熱可塑性樹脂からなる樹脂被膜13がさらに形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手部材に対して摺動する摺動面を有した摺動部材に係り、特に基材の摺動面に非晶質炭素材料からなる炭素被膜が形成された摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、構造用鋼等の摺動部材の耐摩耗性を向上させ、低摩擦特性を得るために、摺動部材の摺動面に非晶質炭素材料からなる炭素被膜を形成することは、よく知られている。前記非晶質炭素材料は、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)と呼ばれており、一般の摺動部材に比べて摺動する頻度が高く、摺動面間の付加荷重が大きい環境下で使用されることが多い。例えば、自動車においては、ディファレンシャルギヤ、駆動カム及びバルブリフタなどの部材の摺動面に非晶質炭素材料からなる炭素被膜を被覆する場合があり、このように炭素被膜を形成することにより、前記部材の低フリクション化及び摩耗の低減を図っている。
【0003】
このような摺動部材の一例として、駆動カムに押圧される頂面に、非晶質炭素材料からなる炭素被膜を被覆したバルブリフタが提案されている(特許文献1参照)。前記バルブリフタは、駆動カムに接触する頂面に炭素被膜を形成することにより、駆動カムとバルブリフタの耐摩耗性を向上させると共に、摺動面間の低フリクション化を図り、装置の耐久信頼性を向上させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平2005−90489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、摺動部材は、摺動面に潤滑油を供給しながら使用することが一般的であり、特許文献1に記載のバルブリフタの場合にも、バルブリフタと駆動カムとの接触面に潤滑油が供給されている。しかし、内燃機関の駆動・停止に伴いバルブリフタと駆動カムとは断続的に摺動するため、内燃機関が長時間停止した際には、一旦、バルブリフタの摺動面に形成された油膜は、駆動カムの押圧力により油膜切れを起すことがある。該油膜切れにより、たとえ、炭素被膜をバルブリフタに形成したとしても、駆動カム表面とバルブリフタの炭素被膜の表面が直接的に接触することになり、内燃機関の再駆動時には、両者のフリクションが大きくなって摩耗が促進し、その結果、車両の燃費を低下させてしまうこともある。
【0006】
また、摺動面に潤滑油を供給したとしても、摺動部材の摺動速度が遅い場合には、摺動面間に均一な油膜が形成されにくくなり、摺動部材の摺動は境界潤滑状態になってしまうことがある。このような場合にも、摺動部材同士のフリクションは増大してしまい、摩耗が促進することがある。
【0007】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、たとえ断続的な摺動状態または摺動速度が遅い摺動状態であっても、摺動部材のフリクションを低減させ、両者の摩耗を抑制することができる摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、本発明に係る摺動部材は、基材の少なくとも摺動面に非晶質炭素材料からなる炭素被膜が形成された摺動部材であって、該摺動部材は、前記炭素被膜の上に、少なくとも固体潤滑剤の粒子を含有した熱可塑性樹脂からなる樹脂被膜がさらに形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、炭素被膜の上に熱可塑性樹脂を含む樹脂被膜をさらに形成することにより、本発明に係る摺動部材とその相手部材とを摺動させたときには、熱可塑性樹脂が温度上昇に伴い軟化し、該樹脂被膜が流動すると共に、樹脂被膜内の固体潤滑剤が潤滑剤として作用する。この結果、摺動時には、相手部材の表面と、摺動部材の炭素被膜の表面とが、該樹脂被膜を介して流体潤滑に近い潤滑状態となり、低フリクション化を図ることができる。そして、摺動部材同士の摺動が停止した場合には、熱可塑性樹脂が温度低下に伴い硬化し、摺動部材の炭素被膜と相手部材との間に樹脂被膜が確保される。この結果、たとえ、摺動を行わない間に潤滑油の油膜切れが発生した場合であっても、摺動部材の炭素被膜の表面と相手部材の表面とが直接的に接触することを低減することができる。また、仮に、炭素被膜が相手部材に接触した場合であっても、該炭素被膜は、非晶質炭素材料(DLC)からなる被膜であるため、該被膜も固体潤滑剤として作用し、摺動部材と相手部材との摩耗は低減される。
【0010】
本発明に係る摺動部材の樹脂被膜を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、または熱可塑性ポリエステル樹脂などが挙げられ、低温時に比べ高温時に流動性を示す熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではない。より好ましい熱可塑性樹脂としては、潤滑油の酸化が促進されない120℃程度の温度範囲内で、軟化可能なポリアミドイミド樹脂である。また、樹脂被膜の膜厚は、2μm以下であることが好ましい。発明者の実験によれば、2μmよりも大きい場合には、熱可塑性樹脂により摺動部材の摺動抵抗が急激に増加し、エネルギーロスが大きくなる。
【0011】
また、本発明に係る摺動部材を構成する固体潤滑剤の粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS)、グラファイト、二硫化タングステン(WS)等の粒子が挙げられ、本発明に係る摺動部材に対して、固体潤滑剤として作用することが可能な粒子であれば特に限定されるものではない。但し、前記ポリアミドイミド樹脂を熱可塑性樹脂として用いた場合には、発明者の実験によれば、耐摩耗性、耐フリクション性を有するより好ましい固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0012】
また、固体潤滑剤の粒子の平均粒径は、0.1μm〜2μmの範囲が好ましい。平均粒径が0.1μmよりも小さい粒径の粒子は製造することが難しく、2μmよりも大きい場合には、固体潤滑剤の粒子が、摺動面に形成された油膜を切ってしまうおそれがある。
【0013】
本発明に係る摺動部材において、前記炭素被膜の表面には溝部が形成されており、該溝部には、前記熱可塑性樹脂が充填されていることがより好ましい。本発明によれば、溝部に、固体潤滑剤の粒子を含有した熱可塑性樹脂が充填されているので、前記溝部がオイルピットの如く前記熱可塑性樹脂を溜めることができ、摺動時には、摺動部材の炭素被膜の表面に溝部内の熱可塑性樹脂が供給され、炭素被膜と相手部材の間の接触をより低減することができる。
【0014】
さらに、本発明に係る摺動部材は、前記溝部が、前記炭素被膜の表面から前記基材まで到達した貫通溝であることがより好ましい。本発明によれば、前記貫通溝は、基材の表面にマスキングを行って、炭素被膜を成膜すればよいので、短時間で溝部を形成することが可能であり、製造面において有利である。また、このような炭素被膜の成膜方法としては、スパッタリング、真空蒸着、イオン化蒸着、イオンプレーティング、などを利用した物理的蒸着法(PVD)により成膜してもよく、プラズマ処理などを利用した化学気相成長法(CVD)により、成膜してもよい。また、前記炭素被膜には、Si、Ti、Cr、Mo、Fe、Wなどの添加元素を含有させてもよい。
【0015】
また、本発明に係る摺動部材を構成する炭素被膜の膜厚は0.1μm以上であることがより好ましい。膜厚が、0.1μmよりも小さい場合には、炭素被膜と相手部材が接触したときに、炭素被膜がすぐに摩滅してしまう。また、炭素被膜に溝部を設けたとしても、該溝部の深さを充分に確保することができないため、該溝部は樹脂溜りとして機能し難い。
【0016】
また、本発明に係る摺動部材を構成する炭素被膜の表面硬さは、ビッカース硬さHv1000以上であることがより好ましい。前記表面硬さにすることにより、炭素被膜が、樹脂被膜のバックアップ材として作用し、摺動時には、炭素被膜と相手部材との間に樹脂被膜を確保することができる。そして、表面硬さがHv1000よりも小さい場合には、下地となる炭素被膜が変形して、炭素被膜と相手部材とが接触しやすくなり、摩擦係数が増大する。その結果、摺動部材の摩耗が促進される。
【0017】
さらに、本発明は、前記摺動部材を含む内燃機関のバルブリフタであって、前記バルブリフタは、駆動カムに接触する少なくとも頂面に前記摺動部材の摺動面が配置されていることがより好ましい。本発明によれば、動弁装置を構成するバルブリフタと駆動カムのうち、該駆動カムに接触するバルブリフタの面に、前記摺動面を配置することにより、駆動カムとバルブリフタ双方の摩耗を低減することが可能となり、動弁装置の耐久信頼性を向上させることができる。
【0018】
さらに、本発明は、バルブリフタと該バルブリフタの前記頂面に接触する駆動カムとを少なくとも備えた内燃機関の動弁装置であり、該装置は、前記バルブリフタとして円筒状のリフタが、該リフタの軸芯を中心に回転可能に取り付けられており、前記駆動カムは、前記軸芯からオフセットした位置において、前記バルブリフタに接触していることがより好ましい。
【0019】
本発明によれば、動弁装置の駆動時に、駆動カムの回転によりバルブリフタは、軸芯を中心として回転するので、バルブリフタの頂面のうち定位置において、駆動カムが接触することがないため、前記頂面の偏摩耗を低減することができる。さらに、前記バルブリフタの頂面の炭素被膜に前記溝部を形成することにより、摺動面上を流動する熱可塑性樹脂が、バルブリフタの頂面の周縁に押出されることなく、駆動カムとバルブリフタの接触面の近傍の該溝部に流動する。この結果、該溝部は、オイルピットの如く作用して、樹脂溜まりを形成するので、駆動カムの表面とバルブリフタの炭素被膜の表面との間には、前記固体潤滑剤の粒子を含有した熱可塑性樹脂を確保することができ、バルブリフタと駆動カムとの低フリクション化を図り、耐摩耗性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る摺動部材によれば、断続的な摺動状態であっても、摺動部材のフリクションを低減させ、摺動面の摩耗を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明に係る摺動部材をバルブリフタに適用した動弁装置の実施形態について説明する。
【0022】
図1(a)は、第一実施形態に係る動弁装置の全体構成図を示しており、図1(b)は、(a)の側面図である。図2は、図1のバルブリフタの頂面における断面図であり、図3は、バルブリフタ頂面に形成された炭素被膜の被覆パターンを示す図である。
【0023】
図1(a),(b)に示すように、動弁装置1は、少なくとも、内燃機関の気筒2の開閉を行うバルブ3と、該バルブ3に連結され、ばね4により上方に付勢された円筒状のバルブリフタ10と、該バルブリフタ10の頂面10aに接触し、軸Dを中心に回転することによりバルブリフタ10を上下動させる駆動カム20とを少なくとも備えている。
【0024】
また、バルブリフタ10は、バルブリフタ10の軸芯Cを中心に回転可能に取り付けられており、駆動カム20は、バルブリフタ10の軸芯Cから駆動カム20の中心軸Pがオフセットした位置において、バルブリフタ10に接触している。
【0025】
バルブリフタ10の頂面10a(バルブリフタ本体(基材)11の上部表面)には、図2に示すように、非晶質炭素材料からなる炭素被膜12が形成されており、炭素被膜12の上に、少なくとも二硫化モリブデン(固体潤滑剤)の粒子14を含有したポリアミドイミド樹脂(熱可塑性樹脂)からなる樹脂被膜13がさらに形成されている。
【0026】
炭素被膜12には、図3(a)に示すように、バルブリフタの軸芯Cを中心として、頂面10aの周縁10bに向かって、放射状に等角度で溝部12aが形成されており、該溝部12aは、炭素被膜12を貫通した貫通溝となっている。なお、本実施形態では、図3(a)に示すような溝部12aが形成されているが、図3(b)に示すような円板状の溝部12aが、等間隔で形成されていてもよく、図3(c)に示すようなハニカム形状の溝部12aが形成されていてもよい。
【0027】
また、バルブリフタ10の炭素被膜12は、まず、バルブリフタ10の頂面10aに形成すべき溝部12aと同等のマスキングを施し、該頂面10aに対して、グラファイトターゲットのスパッタ粒子をスパッタリングすることにより、成膜することができる。そして、未硬化のポリアミドイミド樹脂に、二硫化モリブデンの粉末を含有させ、該粉末を含有した樹脂を、溝部12a内及び炭素被膜12の表面に塗布し焼成する。このようにして、溝部12aに二硫化モリブデンの粒子14を含有したポリアミドイミド樹脂が充填される共に、炭素被膜12の表面に、二硫化モリブデンの粒子14を含有したポリアミドイミド樹脂の樹脂被膜13が形成される。
【0028】
このようにして、製造されたバルブリフタ10は、図4に示すように、炭素被膜12の上にポリアミドイミド樹脂を含む樹脂被膜13をさらに形成することにより、バルブリフタ10と駆動カム20とを摺動させたときには、ポリアミドイミド樹脂が温度上昇に伴い軟化し、樹脂被膜13が流動し、樹脂被膜内の二硫化モリブデンの粒子14が固体潤滑剤として作用する。この結果、駆動カム20の表面と、バルブリフタ10の炭素被膜12の表面とは、潤滑油の如く作用する樹脂被膜13を介して流体潤滑に近い潤滑状態となり、低フリクション化を図ることができる。そして、バルブリフタ10と駆動カム20の摺動が停止した場合には、ポリアミドイミド樹脂が温度低下に伴い硬化し、バルブリフタ10の炭素被膜12と駆動カム20との間に樹脂被膜13が確保される。この結果、たとえ、潤滑油の油膜が切れた場合であっても、バルブリフタ10の炭素被膜12と駆動カム20とが直接的に接触することを低減することができる。また、仮に、炭素被膜12が炭素被膜12に接触した場合であっても、炭素被膜12は、非晶質炭素材料(DLC)からなる被膜であるため、固体潤滑剤として作用し、摩耗は促進されない。
【0029】
また、駆動カム20は、軸芯Cからオフセットした位置において、バルブリフタ10に接触しているため、動弁装置1の駆動時に、駆動カム20の回転によりバルブリフタ10は、軸芯Cを中心として回転するので、バルブリフタ10の頂面のうち定位置において、駆動カム20が接触することがなく、頂面10aの偏摩耗を低減することができる。
【0030】
さらに、バルブリフタ10の頂面10aの炭素被膜に溝部12aを形成することにより、摺動面上を流動するポリアミドイミド樹脂が、バルブリフタ10の頂面10aの周縁10bに押出されることなく、駆動カム20とバルブリフタ10の接触面の近傍の該溝部12aに流動する(図4参照)。この結果、該溝部12aは、オイルピットの如く作用して、樹脂溜まりを形成するので、駆動カム20とバルブリフタ10(炭素被膜の表面)との間には、固体潤滑剤の粒子14を含有したポリアミドイミド樹脂を確保することができ、バルブリフタ10と駆動カム20との低フリクションを図ることができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例に基づき説明する。以下の実施例では、バルブリフタに相当する試験片として平板試験片を製作し、駆動カムに相当する試験片として円筒試験片を製作した。
【0032】
[実施例]
平板試験片:非晶質炭素材料からなる炭素被膜を形成する基材として、30mm×30mm×5mmのクロムモリブデン鋼(JIS規格:SCM415浸炭焼入れ)の平板試験片を準備し、30mm×30mmの面の表面を中心線平均粗さRa0.03μmに研磨し、該表面に非晶質炭素材料からなる炭素被膜をスパッタリング装置(神戸製鋼所製)を用いて形成した。
【0033】
まず、30mm×30mmの平板の中心から、放射状に10°ごとに等角度で、長さ10mm×幅2mmのマスキングを行った。そして、該平面に対向するように、純度99.99%の炭素材料からなるターゲット(グラファイトターゲット)を配置し、これらターゲットと基材との間に、アルゴンガス(不活性ガス)と、メタンガス(炭化水素系ガス)とからなる処理ガスを、処理ガス中のメタンガスの体積率が5%となるよう調整して流した。そして、この処理ガスを流した状態で、成膜温度(具体的には基材の温度)を200℃に保持して、ターゲットと基材との間に100Vに調整したバイアス電圧をかけながら、プラズマを発生させて、基板の表面にこれらターゲットのスパッタ粒子をスパッタリングすることにより、膜厚(層厚)が1.5μm、表面粗さが中心線平均粗さRa0.03μm、表面硬さがビッカース硬さHv2000となるように非晶質炭素材料からなる炭素被膜を成膜した。また、マスキングテープを平板試験片から剥離することにより、炭素被膜に溝部を形成した。
【0034】
さらに、ポリアミドイミド樹脂に粒径0.5μmの二硫化モリブデンを30体積%配合した樹脂コート材を、前記炭素被膜の溝部内及び炭素被膜の表面に塗布し、180℃の温度条件で焼成し、炭素被膜表面から2μmの厚みの樹脂被膜を形成した。
【0035】
円筒試験片:外径25.6mm、内径20mm、高さ16mmのチル化処理した鋳鉄材(JIS規格:FC300)の円筒試験片を準備し、該円筒試験片の端面を中心線平均粗さ0.3μmRaに研磨した。
【0036】
[評価方法:摩擦摩耗試験]
平板試験片の30mm×30mmの面と、円筒試験片の円筒端面とを接触させ、潤滑油(SAE粘度グレード5W−30の市販エンジン油)を供給しながら、荷重75kgf、回転1000rpmの条件で、円筒試験片を30分間回転させ、摩擦係数を測定すると共に、平板試験片の摩耗量を摩耗痕深さとして測定した。この結果を図5に示す。
【0037】
[比較例1]
実施例と同様の平板試験片と円筒試験片を準備した。実施例と相違する点は、平板試験片の表面に、炭素被膜及び樹脂被膜を形成しなかった点である。そして、これらの試験片に対して、実施例と同じ条件で、摩擦摩耗試験を行った。この結果を図5に示す。
【0038】
[比較例2]
実施例と同様の平板試験片と円筒試験片を準備した。実施例と相違する点は、平板試験片の表面に、マスキング処理を行わず炭素被膜を形成した点である。そして、これらの試験片に対して、実施例と同じ条件で、摩擦摩耗試験を行った。この結果を図5に示す。
【0039】
[比較例3]
実施例と同様の平板試験片と円筒試験片を準備した。実施例と相違する点は、平板試験片の表面に炭素被膜を形成せず、樹脂被膜のみを形成した点である。そして、これらの試験片に対して、実施例と同じ条件で、摩擦摩耗試験を行った。この結果を図5に示す。
【0040】
[結果]
実施例の平板試験片の摩耗量は比較例3のものに比べて少なく、実施例の摩擦係数は、比較例1〜3のものに比べて小さかった。また、比較例1の試験片は、5分程度で焼付きが生じ、比較例3の試験片は、23分程度で、焼付きが生じた。
【0041】
[考察]
上記結果から、摺動面に非晶質炭素材料からなる炭素被膜を被覆しただけでは、耐摩耗性特性及び低フリクション特性を有した摺動部材を得ることは難しく、また、摺動面に、固体潤滑剤の粒子を含む熱可塑性樹脂の樹脂被膜を被覆しただけでは、摺動後、摩耗が促進する前に、摺動面に焼付きが生じてしまい、摩耗性特性及び低フリクション特性を有した摺動部材を得ることは難しいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は、第一実施形態に係る動弁装置の全体構成図を示しており、(b)は、(a)の側面図。
【図2】図1のバルブリフタの頂面における断面図。
【図3】バルブリフタ頂面に形成された炭素被膜の被覆パターンを示す図であり、(a)は、頂面の縁部に向かって、放射状に等角度で溝部が形成された被覆パターン図であり、(b)は、円板状の溝部が、等間隔で形成された被覆パターン図であり、(c)は、ハニカム形状の溝部が形成された被覆パターン図。
【図4】摺動時におけるバルブリフタの摺動面を説明するための図。
【図5】実施例及び比較例1〜3に係る試験片の摩擦摩耗試験の結果を説明するための図。
【符号の説明】
【0043】
1:動弁装置、10:バルブリフタ、10a:頂面、11:バルブリフタ本体、12:炭素被膜、12a:溝部、13:樹脂被膜、14:二硫化モリブデン(固体潤滑剤)の粒子、20:駆動カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも摺動面に非晶質炭素材料からなる炭素被膜が形成された摺動部材であって、
該摺動部材は、前記炭素被膜の上に、少なくとも固体潤滑剤の粒子を含有した熱可塑性樹脂からなる樹脂被膜がさらに形成されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記炭素被膜の表面には溝部が形成されており、該溝部には、前記熱可塑性樹脂が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記溝部は、前記炭素被膜の表面から前記基材まで到達した貫通溝であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材を含む内燃機関のバルブリフタであって、
前記バルブリフタは、駆動カムに接触する少なくとも頂面に前記摺動部材の摺動面が配置されていることを特徴とするバルブリフタ。
【請求項5】
前記請求項4に記載のバルブリフタと該バルブリフタの前記頂面に接触する駆動カムとを少なくとも備えた内燃機関の動弁装置であり、
該装置は、前記バルブリフタとして円筒状のリフタが、該リフタの軸芯を中心に回転可能に取り付けられており、前記駆動カムは、前記軸芯からオフセットした位置において、前記バルブリフタに接触していることを特徴とする内燃機関の動弁装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−174590(P2008−174590A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7292(P2007−7292)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】