説明

有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法

【課題】ソース電極及びドレイン電極を位置精度良く、かつ簡便に形成できる有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】薄膜有機トランジスタ1の製造方法では、フォトリソグラフィ法で感光性樹脂層8を形成し、無電解メッキ法でソース電極3及びドレイン電極4を形成するので、ソース電極3及びドレイン電極4を簡便かつ位置精度良く形成できる。そして、樹脂層7の表面に残存する感光性樹脂層8を剥がさずに、その上に有機半導体層9を形成する。つまり、感光性樹脂層8をソース電極3及びドレイン電極4を設けるためのマスク層として利用するだけでなく、有機半導体層9を樹脂層7の表面上に設けるための緩衝層として利用できる。これにより、有機半導体層9の半導体結晶の分子配列の配向性を向上できるので、半導体特性の良い薄膜有機トランジスタ1を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法に関し、詳細には、ソース電極及びドレイン電極を簡便に形成できる有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELやフィルム液晶、電子ペーパ等の明るくて見やすいフレキシブルディスプレイを実現するために、このフレキシブルディスプレイの各画素には、TFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)を備えたアクティブ駆動回路が埋め込まれている。その中でも有機半導体を用いた有機TFTは、常温で作製することができ、かつフレキシブルなプラスチック基板上にも低コストで形成できるものとして期待されている。
【0003】
このような有機半導体を備える有機トランジスタの電極(ソース電極及びドレイン電極)を形成する方法としては、例えば、均一形成した金属薄膜をエッチング又はリフトオフによって電極パターンを形成する方法(第一の方法)、金属フィラーを含有する塗料を印刷して電極パターンを形成する方法(第二の方法)、又は導電性ポリマー溶液を印刷して電極パターンを形成する方法(第三の方法)などが種々提案されている。しかしながら、第一の方法では、パターンを形成するためのレジスト層の形成やこのレジスト層の除去を行う必要があるため、パターン形成工程が煩雑であるという問題があった。また、第二及び第三の方法では、含有されるバインダーの影響によって電極の抵抗が増加してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、基板、有機半導体層及び絶縁層の少なくとも一つにおける電極を設ける部分を含む領域に対して、メッキ剤に作用して無電解メッキを生じさせる触媒を印刷法(スクリーン印刷)によって配した後に、メッキ剤を前記部分に作用して無電解メッキを施して電極を設けることができる有機半導体素子及び有機半導体素子の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法であれば、従来の電極パターン形成で必要であったエッチングやリフトオフなどの煩雑なプロセスを行うことなく、電極パターンを簡便に形成することができる。
【特許文献1】特開2004−158805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の有機半導体素子及び有機半導体素子の製造方法では、基板上に無電解メッキを生じさせる触媒を、印刷法(スクリーン印刷)によって配しているので、基板上における触媒の位置がズレやすく、該触媒上に成長する電極パターンの位置までズレてしまうという問題点があった。もし、基板上の電極パターンにズレを生じた場合、電極間の距離が不均一となってしまうので、半導体特性にばらつきを生じるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、ソース電極及びドレイン電極を位置精度良く、かつ簡便に形成できる有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の有機トランジスタは、基板と、当該基板上に形成されたゲート電極と、当該ゲート電極を覆うように前記基板上に形成された絶縁層と、当該絶縁層上に形成され、金属粒子を含む樹脂層と、当該樹脂層上にパターニングされて形成された感光性樹脂層と、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に形成され、無電解メッキからなるソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に形成された有機半導体層とから構成されている。
【0008】
また、請求項2に係る発明の有機トランジスタは、基板と、当該基板上に形成され、金属粒子を含む樹脂層と、当該樹脂層上にパターニングされて形成された感光性樹脂層と、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に形成され、無電解メッキからなるソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に形成された有機半導体層と、当該有機半導体層上に形成された絶縁層と、当該絶縁層上に形成されたゲート電極とから構成されている。
【0009】
また、請求項3に係る発明の有機トランジスタは、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記金属粒子は、粒径1μm以下の粒子であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明の有機トランジスタは、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記金属粒子は、Ag,Pd,Ti若しくはCuの単体、又は少なくとも何れかを含む複合体であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明の有機トランジスタは、請求項1乃至4の何れかに記載の発明の構成に加え、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、Auメッキ、又はNiメッキで形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明の有機トランジスタは、請求項1乃至5の何れかに記載の発明の構成に加え、前記感光性樹脂層を形成する感光性樹脂は、ポジ型であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明の有機トランジスタは、請求項1乃至5の何れかに記載の発明の構成に加え、前記感光樹脂層を形成する感光性樹脂は、ネガ型であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明の有機トランジスタは、請求項1乃至7の何れかに記載の発明の構成に加え、前記感光性樹脂層の表面には、自己組織化膜が形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、基板上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程と、当該ゲート電極形成工程で形成された前記ゲート電極を覆うように前記基板上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、当該絶縁層形成工程で形成された前記絶縁層上に、金属粒子を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、当該樹脂層形成工程で形成された前記樹脂層上に、感光性樹脂層をパターニングして形成する感光性樹脂層形成工程と、当該感光性樹脂層形成工程によって、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に、無電解メッキを成長させてソース電極及びドレイン電極を形成するソース電極・ドレイン電極形成工程と、当該ソース電極・ドレイン電極形成工程で形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に有機半導体層を形成する有機半導体層形成工程とから構成されている。
【0016】
また、請求項10に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、基板上に金属粒子を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、当該樹脂層形成工程で形成された前記樹脂層上に、感光性樹脂層をパターニングして形成する感光性樹脂層形成工程と、当該感光性樹脂層形成工程によって、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に、無電解メッキを成長させてソース電極及びドレイン電極を形成するソース電極・ドレイン電極形成工程と、当該ソース電極・ドレイン電極形成工程で形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に有機半導体層を形成する有機半導体層形成工程と、前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記有機半導体層の表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、当該絶縁層形成工程で形成された前記絶縁層上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程とから構成されている。
【0017】
また、請求項11に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、請求項9又は10に記載の発明の構成に加え、前記樹脂層形成工程において、前記樹脂層は、スピンコート法によって形成されることを特徴とする。
【0018】
また、請求項12に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、請求項9又は10に記載の発明の構成に加え、前記樹脂層形成工程において、前記樹脂層は、バーコーティング法によって形成されることを特徴とする。
【0019】
また、請求項13に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、請求項9乃至12の何れかに記載の発明の構成に加え、前記有機半導体層形成工程において、前記有機半導体層が低分子の場合は、蒸着法で形成されることを特徴とする。
【0020】
また、請求項14に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、請求項9乃至12の何れかに記載の発明の構成に加え、前記有機半導体層形成工程において、前記有機半導体層が高分子の場合は、インクジェット法又はスピンコート法によって形成されることを特徴とする。
【0021】
また、請求項15に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、請求項9乃至14の何れかに記載の発明の構成に加え、前記感光性樹脂層形成工程で形成された前記感光性樹脂層の表面に、自己組織化膜を形成する組織化膜形成工程を備えていることを特徴とする。
【0022】
また、請求項16に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、請求項15に記載の発明の構成に加え、前記組織化膜形成工程において、前記自己組織化膜は、スピンコート法、ディップコーティング法、インクジェット法、又は蒸着法によって形成されることを特徴とする。
【0023】
また、請求項17に係る発明の有機トランジスタの製造方法は、基板上に、金属粒子を含む感光性樹脂をパターニングして形成する感光性樹脂層形成工程と、当該感光性樹脂層形成工程によって、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成された部分に、無電解メッキを成長させてソース電極及びドレイン電極を形成するソース電極・ドレイン電極形成工程と、当該ソース電極・ドレイン電極形成工程で形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に有機半導体層を形成する有機半導体層形成工程と、前記ソース電極の表面、前記ドレイン電極の表面及び前記有機半導体層の表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、当該絶縁層形成工程で形成された前記絶縁層上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程とから構成されている。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る発明の有機トランジスタでは、基板上に形成されたゲート電極が絶縁層に覆われた所謂「ボトムゲート型」の有機トランジスタに適用される。例えば、金属粒子を含む樹脂層上に感光性樹脂層がパターニングして形成されている。この感光性樹脂は位置精度良くパターニングできるので、感光性樹脂が形成されていない部分に設けられるソース電極及びドレイン電極を樹脂層上に位置精度良く設けることができる。さらに、感光性樹脂層は、金属粒子を含む樹脂層上に有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上させるための緩衝層としても機能させることができる。この理由は以下の通りである。金属粒子を含む樹脂層の表面は粗いため、該樹脂層の表面上に有機半導体層を直接形成してしまうと、有機半導体結晶の分子を均一に配列させることができない。そこで、ソース電極及びドレイン電極を形成するために用いられた感光性樹脂層の表面上に有機半導体層を形成したことで、有機半導体結晶の分子配列の配向性を良好な状態で配列できる。これにより、品質の安定した有機トランジスタを提供することができる。また、感光性樹脂層は、ソース電極及びドレイン電極をパターニングするために利用するのみならず、有機半導体層と樹脂層との間の緩衝層としても利用できるので、有機トランジスタの品質を容易に向上することができる。
【0025】
また、請求項2に係る発明の有機トランジスタでは、絶縁層上にゲート電極が形成された「トップゲート型」の有機トランジスタに適用される。例えば、金属粒子を含む樹脂層上に感光性樹脂層がパターニングして形成されている。この感光性樹脂は位置精度良くパターニングできるので、感光性樹脂が形成されていない部分に設けられるソース電極及びドレイン電極を樹脂層上に位置精度良く設けることができる。さらに、感光性樹脂層は、金属粒子を含む樹脂層上に対し、有機半導体結晶の分子配列の配向性を良好な状態で配列させるための緩衝層としても機能させることができる。この理由は次の通りである。金属粒子を含む樹脂層の表面は粗いため、該樹脂層の表面上に有機半導体層を直接形成してしまうと、有機半導体結晶の分子を均一に配列させることができない。そこで、ソース電極及びドレイン電極を形成するために用いられた感光性樹脂層の表面上に有機半導体層を形成したことで、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できる。これにより、品質の安定した有機トランジスタを提供することができる。また、感光性樹脂層は、ソース電極及びドレイン電極をパターニングするために利用するのみならず、有機半導体層と樹脂層との間の緩衝層としても利用できるので、有機トランジスタの品質を容易に向上することができる。
【0026】
また、請求項3に係る発明の有機トランジスタでは、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、金属粒子は粒径1μm以下の粒子であるので、樹脂層の膜厚を薄く形成できるとともに、高密度なメッキを樹脂層の表面に成長させ、電導性の良好なソース電極及びドレイン電極を形成することができる。
【0027】
また、請求項4に係る発明の有機トランジスタでは、請求項3に記載の発明の効果に加え、金属粒子は、Ag,Pd,Ti若しくはCuの単体、又は少なくとも何れかを含む複合体であるので、樹脂層の表面に品質の良い安定した無電解メッキを成長させることができる。
【0028】
また、請求項5に係る発明の有機トランジスタでは、請求項1乃至4の何れかに記載の発明の効果に加え、ソース電極及びドレイン電極は、Auメッキ、又はNiメッキで形成されているので良好な電導性を得ることができる。
【0029】
また、請求項6に係る発明の有機トランジスタでは、請求項1乃至5の何れかに記載の発明の効果に加え、感光性樹脂層を形成する感光性樹脂はポジ型であるので、光を当てることによってアルカリ溶液に溶ける化学構造に変化させることができる。また、ポジ型の感光性樹脂はネガ型に比べて解像度が高いので、精細にパターニングすることができる。
【0030】
また、請求項7に係る発明の有機トランジスタでは、請求項1乃至5の何れかに記載の発明の効果に加え、感光性樹脂層を形成する感光性樹脂はネガ型であるので、光を当てることによってアルカリに溶けない部分のパターンを残すことができる。また、ネガ型の感光性樹脂はポジ型に比べて耐久性が高い。
【0031】
また、請求項8に係る発明の有機トランジスタでは、請求項1乃至7の何れかに記載の発明の効果に加え、感光性樹脂層の表面には、両親媒性分子である自己組織化膜が形成されているので、特に感光性樹脂層が無機物の場合は、有機半導体結晶の分子配列の配向性を良好な状態で配列させることができる(半導体結晶の成長を良好にすることができる)。
【0032】
また、請求項9に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、ボトムゲート型の有機トランジスタが製造される。まず、ゲート電極形成工程にて、基板上にゲート電極を形成し、絶縁層形成工程にて、ゲート電極を覆うように基板上にゲート絶縁層を形成する。次いで、樹脂層形成工程にて、金属粒子を含む樹脂層を絶縁層上に形成する。そして、感光性樹脂層形成工程にて、感光性樹脂層をパターニングして形成することによって、ソース電極及びドレイン電極を設ける部分を位置精度良くパターニングすることができる。さらに、ソース電極・ドレイン電極形成工程にて、樹脂層上にパターニングされた感光性樹脂層が形成されていない部分に、無電解メッキを成長させることによって、ソース電極及びドレイン電極を位置精度良く形成することができる。次に、有機半導体層形成工程にて、樹脂層の表面から感光性樹脂を剥がさずに、ソース電極及び前記ドレイン電極の間にそのまま有機半導体層を形成する。よって、有機半導体層は、金属粒子を含む樹脂層の表面上ではなく、感光性樹脂層の表面上に形成されるので、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できる。つまり、感光性樹脂層を、ソース電極及びドレイン電極をパターニングするために利用するのみならず、有機半導体層と樹脂層との間の緩衝層としても利用できるので、有機トランジスタの品質を容易に向上することができる。こうして、ソース電極及びドレイン電極の位置精度のよいボトムゲート型の有機トランジスタを製造することができる。
【0033】
また、請求項10に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、トップゲート型の有機トランジスタが製造される。まず、樹脂層形成工程にて、基板上に金属粒子を含む樹脂層を形成する。次いで、感光性樹脂層形成工程にて、樹脂層上に、感光性樹脂層をパターニングして形成することによって、ソース電極及びドレイン電極を設ける部分を位置精度良くパターニングすることができる。さらに、ソース電極・ドレイン電極形成工程にて、樹脂層上にパターニングされた感光性樹脂層が形成されていない部分に、無電解メッキを成長させることによって、ソース電極及びドレイン電極を位置精度良く形成することができる。次に、有機半導体層形成工程にて、樹脂層の表面から感光性樹脂を剥がさずに、ソース電極及び前記ドレイン電極の間にそのまま有機半導体層を形成する。よって、有機半導体層は、金属粒子を含む樹脂層の表面上ではなく、感光性樹脂層の表面上に形成されるので、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できる。つまり、感光性樹脂層を、ソース電極及びドレイン電極をパターニングするために利用するのみならず、有機半導体層と樹脂層との間の緩衝層としても利用できるので、有機トランジスタの品質を容易に向上することができる。さらに、絶縁層形成工程にて、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層の表面に絶縁層を形成し、ゲート電極形成工程にて、絶縁層上にゲート電極を形成する。こうして、ソース電極及びドレイン電極の位置精度のよいトップゲート型の有機トランジスタを製造することができる。
【0034】
また、請求項11に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、請求項9又は10に記載の発明の効果に加え、樹脂層形成工程において、樹脂層は、スピンコート法によって形成されるので、樹脂層の膜厚を正確に制御することができる。
【0035】
また、請求項12に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、請求項9又は10に記載の発明の効果に加え、樹脂層形成工程において、樹脂層は、バーコーティング法によって形成されるので、樹脂層の形成に用いる樹脂の使用量を節約することができる。
【0036】
また、請求項13に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、請求項9乃至12の何れかに記載の発明の効果に加え、有機半導体層形成工程において、有機半導体層が低分子の場合は蒸着法で形成することによって、感光性樹脂層の表面に有機半導体層を良好に形成することができる。
【0037】
また、請求項14に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、請求項9乃至12の何れかに記載の発明の効果に加え、有機半導体層形成工程において、有機半導体層が高分子の場合はインクジェット法又はスピンコート法で形成することによって、感光性樹脂層の表面に有機半導体層を良好に形成することができる。
【0038】
また、請求項15に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、請求項9乃至14の何れかに記載の発明の効果に加え、組織化膜形成工程にて、感光性樹脂層形成工程で形成された感光性樹脂層の表面に両親媒性分子である自己組織化膜を形成できるので、特に感光性樹脂層が無機物の場合は、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上させることができる(有機半導体の結晶成長を良好にすることができる)。
【0039】
また、請求項16に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、請求項15に記載の発明の効果に加え、組織化膜形成工程において、自己組織化膜は、スピンコート法、ディップコーティング法、インクジェット法、又は蒸着法によって、感光性樹脂層の表面に良好に形成することができる。
【0040】
また、請求項17に係る発明の有機トランジスタの製造方法では、まず、感光性樹脂層形成工程にて、基板上に、金属粒子を含む感光性樹脂をパターニングして形成する。次いで、ソース電極・ドレイン電極形成工程にて、樹脂層上の感光性樹脂層が形成された部分に、無電解メッキを成長させることによって、ソース電極及びドレイン電極を位置精度良く形成することができる。そして、有機半導体層形成工程にて、樹脂層の表面から感光性樹脂を剥がさずに、ソース電極及び前記ドレイン電極の間にそのまま有機半導体層を形成する。よって、有機半導体層は、金属粒子を含む樹脂層の表面上ではなく、感光性樹脂層の表面上に形成されるので、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できる。つまり、感光性樹脂層を、ソース電極及びドレイン電極をパターニングするために利用するのみならず、有機半導体層と樹脂層との間の緩衝層としても利用できるので、有機トランジスタの品質を容易に向上することができる。こうして、ソース電極及びドレイン電極の位置精度のよい有機トランジスタを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の第1の実施形態である薄膜有機トランジスタ1について、図面に基づいて説明する。図1は、第1の実施形態である薄膜有機トランジスタ1の断面図であり、図2は、薄膜有機トランジスタ1の製造フローであり、図3は、基板2の断面図であり、図4は、図3に示す基板2の上面にゲート電極6が形成された状態の断面図であり、図5は、図4に示す基板2の上面にゲート絶縁層5が形成された状態の断面図であり、図6は、図5に示すゲート絶縁層5の表面に樹脂層7が形成された状態の断面図であり、図7は、図6に示す樹脂層7の表面に感光性樹脂層8が形成された状態の断面図であり、図8は、図7に示す樹脂層7の表面に、ソース電極3及びドレイン電極4が形成された状態の断面図であり、図9は、測定試験1の結果を示すグラフである。
【0042】
はじめに、薄膜有機トランジスタ1の断面構造について説明する。図1に示す薄膜有機トランジスタ1は、所謂「ボトムゲート型」の有機TFTである。薄膜有機トランジスタ1は、ガラス、プラスチック等の絶縁性材料からなる透明な基板2を備えている。この基板2をプラスチックで形成する場合、例えば、PES(ポリエーテルスルホン),PET(ポリエチレンテレフタレート),PI(ポリイミド),PEN(ポリエチレンナフタレート)等が挙げられる。なお、本実施形態の基板2は透明であるのが好ましく、この理由については後述する製造方法で説明する。
【0043】
さらに、基板2の上面にはゲート電極6が設けられている。このゲート電極6の材質には、Al,Mo,Au,Cr等の金属の他、PEDOT(ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン)等の導電性ポリマーが適用可能である。なお、PEDOTは、3,4−ethylenedioxythiophene(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマーである。
【0044】
そして、基板2の上面には、ゲート電極6を覆うようにして、有機化合物からなるゲート絶縁層5が設けられている。このゲート絶縁層5として、無機絶縁膜を採用する場合は、Al,SiO,SiN等が適用され、有機絶縁膜を採用する場合は、PI(ポリイミド),PMMA(ポリメチルメタクリレート),PVP(ポリパラビニルフェノール)等が適用可能である。
【0045】
さらに、ゲート絶縁層5の表面には樹脂層7が設けられている。この樹脂層7の材質として、有機絶縁膜を採用する場合は、PI,PMMA,PVP等が適用され、無機絶縁膜を採用する場合は、Al,SiO,SiN等が適用可能である。また、樹脂層7には、Pd粒子51及びAg粒子50の金属粒子が含有されている。これらPd粒子51及びAg粒子50は、後述するメッキ剤と反応することによって無電解メッキを成長させ、後述するソース電極3及びドレイン電極4をそれぞれ形成する核となるものである。なお、金属粒子はAg,Pdに限らず、例えば、Ti,Cu等が適用可能である。
【0046】
また、樹脂層7の表面上であって、ゲート電極6に対向する位置には、フォトレジストからなる感光性樹脂層8が設けられている。フォトレジストはフォトリソグラフィにおいて用いる感光剤の樹脂であり、液状のモノが主流である。フォトレジストは露光した部分が現像されるポジ型フォトレジストと、露光されない部分が現像されるネガ型フォトレジストとに大別される。ポジ型はネガ型に比べて解像度が高いので、精細にパターニングすることができるメリットがある。一方、ネガ型はポジ型に比べて耐久性が高いと言われている。なお、本実施形態では何れのタイプも適用可能である。そして、このようなフォトレジストからなる感光性樹脂層8は、ゲート電極6に対向するように樹脂層7の表面上にパターニングされて形成されている。さらに、その断面の横幅の長さは、ゲート電極6の断面の横幅の長さとほぼ同じに調整されている。
【0047】
さらに、樹脂層7の上面の感光性樹脂層8を除く左右両側の部分には、ソース電極3及びドレイン電極4がそれぞれ設けられている。これらソース電極3及びドレイン電極4は、樹脂層7に含まれる金属粒子(Ag粒子50及びPd粒子51)が、後述するメッキ剤が作用することによって成長したメッキからなるものであり、例えば、Auメッキ、又はNiメッキ等が挙げられる。そして、ソース電極3とドレイン電極4との間には「チャネル」が形成され、ソース電極3のチャネル側の側部と、ドレイン電極4のチャネル側の側部との間の距離が「チャネル長」となる。
【0048】
そして、ソース電極3及びドレイン電極4に挟まれる感光性樹脂層8の表面上には、有機半導体層9が設けられている。この有機半導体層9は、ゲート絶縁層5、樹脂層7及び感光性樹脂層8を介して、ゲート電極6に対向するようにして配置されている。さらに、有機半導体層9の断面の横幅の長さは、ゲート電極6の断面の横幅の長さと同じになるように調整されている。
【0049】
この理由は以下の通りである。例えば、ゲート電極6の断面の横幅の長さが、有機半導体層9の断面の横幅の長さよりも長い場合、ゲート電極6に電圧が印加されると、有機半導体層9との間で余分な電界を生じるため、薄膜有機トランジスタ1の駆動電圧が変化する恐れがある。これとは逆に、ゲート電極6の断面の横幅の長さが、有機半導体層9の断面の横幅の長さよりも短い場合、有機半導体層9におけるゲート電極6が対向しない部分においては電界がかからないため電荷が誘起されず、電流が流れない恐れがある。これらの理由より、有機半導体層9の断面の横幅の長さを、ゲート電極6の断面の横幅の長さと同じにすることで、チャネルの導電率(電気の通りやすさ)が安定して維持され、ソース電極3とドレイン電極4間に安定した電流を流すことができる。なお、この有機半導体層9の断面の横幅の長さを、ゲート電極6の断面の横幅の長さに合わせる手法については後述する。
【0050】
一方、有機半導体層9は、樹脂層7の表面上に残された感光性樹脂層8の表面上に設けられていることによって以下のメリットがある。例えば、樹脂層7は金属粒子を含有しているので、その表面では分子が不規則に並んでいる。このため、樹脂層7の表面上に有機半導体層9を直接形成してしまうと、半導体結晶の分子配列の配向性が不規則に配列するので、半導体特性を低下させてしまう恐れがある。そこで、本実施形態のように、ソース電極3及びドレイン電極4を形成するために使用された感光性樹脂層8を剥がさないでそのまま残し、その感光性樹脂層8の表面に有機半導体層9を形成することで、有機半導体結晶の分子配列の配向性を良好な状態で配列できるので、半導体特性を向上することができる。
【0051】
次に、薄膜有機トランジスタ1の製造方法について説明する。薄膜有機トランジスタ1の製造方法は、図2に示すように、基板2の上面に、ゲート電極6を形成するゲート電極形成工程(S1)と、基板2の上面に、ゲート電極6を覆うようにしてゲート絶縁層5を形成するゲート絶縁層形成工程(S2)と、ゲート絶縁層5の表面に、樹脂層7を形成する樹脂層形成工程(S3)と、樹脂層7の表面にフォトレジストをパターニングして感光性樹脂層8を形成する感光性樹脂層形成工程(S4)と、樹脂層7の感光性樹脂層8が形成されていない部分に無電解メッキ法によって、ソース電極3及びドレイン電極4を各々形成するソース・ドレイン電極形成工程(S5)と、ソース電極3及びドレイン電極4に挟まれる感光性樹脂層8の表面に有機半導体層9を形成する有機半導体層形成工程(S6)とから構成されている。以下、各工程について具体的に説明する。
【0052】
はじめに、S1のゲート電極形成工程を行う。ゲート電極形成工程では、まず、図3に示す基板2をアセトンで5分間超音波をかけて十分に洗浄する。次に、基板2を脱ガスし、図4に示すように、マスク蒸着によってAlからなるゲート電極6を基板2上に作製する。なお、この時のマスク蒸着の条件は、真空度は3×10−Paであり、基板2の加熱は不要である。こうして、基板2の上面に膜厚が60nmのゲート電極6を作製することができる。
【0053】
次に、S2のゲート絶縁層形成工程を行う。ゲート絶縁層形成工程では、図5に示すように、ゲート電極形成工程(S1)にて、ゲート電極6が形成された基板2の上面に対し、スピンコート法によって、ポリイミド(PI)からなるゲート絶縁層5を形成する。このスピンコート法では、基板2の上面に、高耐熱性ポリイミド樹脂(京セラケミカル株式会社製:商品名「CT4112」)の5wt%ポリイミド溶液を塗布した後に、基板2を水平に回転させる。その後180℃で一時間乾燥することによって、膜厚が350nmのゲート絶縁層5を形成できる。なお、スピンコート法のメリットとしては、ゲート絶縁層5の膜厚を精密に制御し易い点が挙げられる。
【0054】
次に、S3の樹脂層形成工程を行う。樹脂層形成工程では、図6に示すように、ゲート絶縁層形成工程(S2)にて、基板2の上面に形成されたゲート絶縁層5の表面に対し、金属粒子を含む樹脂層7をスピンコート法によって形成する。このスピンコート法では、ゲート絶縁層5の表面に、Ag粒子50及びPd粒子51の複合体を5wt%含有したPMMA(三菱化学株式会社製:商品名「アクリペット」)のキシレン溶液を塗布した後、基板2を水平に回転させる。その後110℃で一時間乾燥することによって、膜厚が50nmの樹脂層7を形成することができる。さらに、樹脂層7に含まれる金属粒子は粒径1μm以下に調整されている。これにより、樹脂層7の膜厚を薄く形成できるとともに、高密度なメッキを樹脂層7の表面に成長させ、電導性の良好なソース電極3及びドレイン電極4を形成することができる。
【0055】
なお、樹脂層7は、バーコーティング法で形成してもよい。この場合、ゲート絶縁層5の表面に、上記キシレン溶液をバーで均一に塗布することで樹脂層7を形成することができる。バーコーティング法は、スピンコート法に比較して余分なキシレン溶液を使用しないので無駄がない。
【0056】
次に、S4の感光性樹脂層形成工程を行う。感光性樹脂層形成工程では、図6に示す樹脂層7の表面に、ポジ型のフォトレジスト(東京応化工業株式会社製:商品名「OFPR800」)を0.5μm塗布した後に、ゲート電極6の断面の横幅と同じになるように露光して余分な部分を除去することによって、感光性樹脂層8を形成する。そして、透明な基板2を用いた場合、基板2の下面側(ゲート電極6が形成されている上面とは反対側の面:図6の下側から上側に向かって)から光を照射することによって、ゲート電極6が「マスク層」となる。そして、そのゲート電極6以外の部分を透過した光によって、フォトレジストの所定部分が溶けて除去され、ゲート電極6に対向する部分を残すことができる。これにより、図7に示すように、ゲート電極6の断面の横幅と同じ横幅を備える感光性樹脂層8を形成することができる。なお、透明でない基板2を用いる場合は、樹脂層7の表面に塗布されたフォトレジストを直接露光してパターニングすることによって、感光性樹脂層8を形成すればよい。
【0057】
次に、S5のソース・ドレイン電極形成工程を行う。ソース・ドレイン電極形成工程では、樹脂層7の表面上における感光性樹脂層8で覆われていない部分に、ソース電極3及びドレイン電極4を無電解メッキ法にて各々形成する。この無電解メッキ法は以下のようにして行われる。まず、メッキ剤を用意する。このメッキ剤は、商品名「ニムデンNPR−4」(上村工業株式会社製)を使用した。なお、「ニムデンNPR−4」は、塩化ニッケル0.1mol/L、次亜硫酸ナトリウム0.1mol/L、酒石酸0.1mol/Lをそれぞれ溶解した溶液である。次いで、図7に示す膜構造を備える基板2を、この用意したメッキ剤の中に90℃で約30秒間浸漬する。すると、樹脂層7に含まれる金属粒子(Ag粒子50、Pd粒子51)にメッキ剤が作用することによって、これら金属粒子が核となってNiメッキが各部分で成長する。その後、メッキ剤から基板2を引き揚げることによって、図8に示すように、約1μmの膜厚を有するソース電極3及びドレイン電極4が各々形成される。このように無電解メッキ法を用いることによって、真空蒸着法や、スパッタリング法のように大型の装置等が不要となるので、簡便かつ位置精度良くソース電極3及びドレイン電極4を各々形成することができる。
【0058】
最後に、S6の有機半導体形成工程を行う。有機半導体層形成工程では、図1に示すように、例えば、低分子半導体であるペンタセン(アルドリッチ社製)を、真空蒸着法によって感光性樹脂層8の表面に作製することによって有機半導体層9が形成される。この真空蒸着は、周知の真空蒸着装置によって行われ、真空空間で有機半導体を気化し、感光性樹脂層8の表面に有機半導体を着床させるものである。なお、この時の真空蒸着の条件として、真空度は8×10−Paであり、基板2の温度が60℃になるように加熱する。こうして、ソース電極3及びドレイン電極4の間に挟まれた感光性樹脂層8の表面上に、膜厚が60nmの有機半導体層9を形成することができ、図1に示す薄膜有機トランジスタ1を作製することができる。
【0059】
次に、第1の実施形態の製造方法によって形成された薄膜有機トランジスタ1の効果を確認するため、移動度及び閾電圧の測定試験を行った。以下、この測定試験1について説明する。この測定試験1では、1.感光性樹脂層8を剥がし、樹脂層7の表面上に有機半導体層9を直接形成した薄膜有機トランジスタと、2.感光性樹脂層8を剥がさずに、該感光性樹脂層8の表面上に有機半導体層9を形成した薄膜有機トランジスタ(本実施形態)との2つのサンプルをそれぞれ用意し、各薄膜有機トランジスタの移動度と、閾電圧(Threshold Voltage)とをそれぞれ測定して比較検討を行った。
【0060】
図9に示すように、まず移動度について比較検討すると、感光性樹脂層8を剥がした薄膜有機トランジスタでは、移動度が0.0058cm/Vsであったのに対して、感光性樹脂層8を有する薄膜有機トランジスタでは、移動度が0.08cm/Vsであった。一方、閾電圧について比較検討すると、感光性樹脂層8を剥がした薄膜有機トランジスタでは、閾電圧が10Vであったのに対して、感光性樹脂層8を有する薄膜有機トランジスタでは、閾電圧が5Vであった。
【0061】
以上の結果より、感光性樹脂層8を剥がさない薄膜有機トランジスタでは、感光性樹脂層8を剥がした薄膜有機トランジスタに比較して、移動度が約14倍に向上したことが確認された。この理由は、樹脂層7の表面における分子配列が不規則であって表面がざらついているため、その表面に有機半導体層9を形成すると、有機半導体結晶の分子配列の配向性が低下して、半導体特性が低下するためである。よって、この樹脂層7の表面に感光性樹脂層8をそのまま残し、該感光性樹脂層8の表面に有機半導体層9を形成することによって、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できるので、半導体特性を向上させることができる。
【0062】
以上説明したように、第1の実施形態である薄膜有機トランジスタ1は、「ボトムゲート型」の有機TFTである。そして、この製造方法においては、感光性樹脂形成工程にて、フォトリソグラフィ法でフォトレジストをパターニングして感光性樹脂層8を形成し、ソース・ドレイン電極形成工程にて、無電解メッキ法でソース電極3及びドレイン電極4を各々形成するので、ソース電極3及びドレイン電極4を簡便にかつ位置精度良く形成できる。そして、感光性樹脂層形成工程にて樹脂層7上に残存する感光性樹脂層8を剥がさずに、そのまま有機半導体層9を形成する点に特徴を備えている。つまり、感光性樹脂層8を、ソース電極3及びドレイン電極4を設けるための「マスク層」として利用するだけでなく、有機半導体層9を樹脂層7の表面上に設けるための「バッファ層(緩衝層)」として利用することで、有機半導体層9を樹脂層7の表面上ではなく、感光性樹脂層8の表面上に設けることができる。これにより、有機半導体層9を剥がして樹脂層7上に有機半導体層9を直接設けるよりも、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できるので、半導体特性の良い薄膜有機トランジスタ1を提供できる。
【0063】
次に、第2の実施形態である薄膜有機トランジスタ10について説明する。図10は、第2の実施形態である薄膜有機トランジスタ10の断面図であり、図11は、薄膜有機トランジスタ10の製造フローであり、図12は、基板12の断面図であり、図13は、図12に示す基板12の上面に樹脂層17が形成された状態の断面図であり、図14は、図13に示す樹脂層17の表面に感光性樹脂層18が形成された状態の断面図であり、図15は、図14に示す樹脂層17の表面にソース電極13及びドレイン電極14が形成された状態の断面図であり、図16は、図15に示す感光性樹脂層18の表面に有機半導体層19が形成された状態の断面図であり、図17は、図16に示す有機半導体層19の表面、ソース電極13及びドレイン電極14の各表面にゲート絶縁層15が形成された状態の断面図であり、図18は、測定試験2の結果を示すグラフである。
【0064】
なお、薄膜有機トランジスタ10は、所謂「トップゲート型」の有機TFTである。よって、「ボトムゲート型」の薄膜有機トランジスタ1と構造が異なるだけで、各層の材質は同じである。そこで、第2の実施形態では、薄膜有機トランジスタ10の構造と、その製造方法とを中心に説明し、材質の説明については省略する。
【0065】
はじめに、薄膜有機トランジスタ10の断面構造について説明する。図10に示す薄膜有機トランジスタ10は、所謂「トップゲート型」の有機TFTである。薄膜有機トランジスタ10は、ガラス、プラスチック等の絶縁性材料からなる透明な基板12を備えている。そして、基板12の上面には樹脂層17が設けられ、該樹脂層17には、Pd粒子51及びAg粒子50の金属粒子が含有されている。これらPd粒子51及びAg粒子50は、後述するメッキ剤と反応することによって無電解メッキを成長させ、後述するソース電極13及びドレイン電極14をそれぞれ形成する核となるものである。
【0066】
そして、樹脂層17の表面には、フォトレジストがパターニングされて形成された感光性樹脂層18が設けられている。さらに、樹脂層17の上面の感光性樹脂層18を除く左右両側の部分には、ソース電極13及びドレイン電極14がそれぞれ設けられている。これらソース電極13及びドレイン電極14は、樹脂層17に含まれる金属粒子(Pd粒子51及びAg粒子50)が、後述するメッキ剤が作用することによって成長した無電解メッキである。この無電解メッキは、例えば、Auメッキ、又はNiメッキが挙げられる。そして、ソース電極13のチャネル側の側部と、ドレイン電極14のチャネル側側部との距離がチャネル長となる。
【0067】
また、ソース電極13及びドレイン電極14に挟まれる感光性樹脂層18の表面上には、有機半導体層19が設けられている。そして、有機半導体層19の表面と、ソース電極13及びドレイン電極14の各表面とには、有機化合物からなるゲート絶縁層15が設けられている。さらに、そのゲート絶縁層15の表面には、有機半導体層19に対向する位置に、ゲート電極16が設けられている。
【0068】
次に、薄膜有機トランジスタ10の製造方法について説明する。薄膜有機トランジスタ10の製造方法は、図11に示すように、基板12の上面に、樹脂層17を形成する樹脂層形成工程(S11)と、樹脂層17の表面にフォトレジストをパターニングして感光性樹脂層18を形成する感光性樹脂層形成工程(S12)と、樹脂層17の感光性樹脂層18が形成されていない部分に無電解メッキ法によって、ソース電極13及びドレイン電極14を各々形成するソース・ドレイン電極形成工程(S13)と、ソース電極13及びドレイン電極14に挟まれる感光性樹脂層18の表面に有機半導体層19を形成する有機半導体層形成工程(S14)と、有機半導体層19の表面、ソース電極13及びドレイン電極14の各表面にゲート絶縁層15を形成するゲート絶縁層形成工程(S15)と、ゲート絶縁層15の表面にゲート電極6を形成するゲート電極形成工程(S16)とから構成されている。以下、各工程について具体的に説明する。
【0069】
はじめに、S11の樹脂層形成工程を行う。樹脂層形成工程では、まず、図12に示す基板12をアセトンで5分間超音波をかけて十分に洗浄する。次に、基板12の上面に対し、金属粒子を含む樹脂層17をスピンコート法によって形成する。このスピンコート法では、基板12の上面に、Ag粒子50及びPd粒子51の複合体を5wt%含有したPMMA(三菱化学株式会社製:商品名「アクリペット」)のキシレン溶液を塗布した後、基板12を水平に回転させる。その後110℃で一時間乾燥することによって、膜厚が50nmの樹脂層17を形成することができる(図13参照)。
【0070】
次に、S12の感光性樹脂層形成工程を行う。感光性樹脂層形成工程では、図13に示す樹脂層17の表面に、フォトレジスト(東京応化工業株式会社製:商品名「OFPR800」)を0.5μm塗布した後に、有機半導体層19の予定される位置以外の部分を露光して余分な部分を除去することによって、感光性樹脂層18を形成する(図14参照)。
【0071】
次に、S13のソース・ドレイン電極形成工程を行う。ソース・ドレイン電極形成工程では、樹脂層17の表面上における感光性樹脂層18で覆われていない部分に、ソース電極13及びドレイン電極14を無電解メッキ法にて各々形成する(図15参照)。この無電解メッキ法は、上記した第1の実施形態での方法と同じであり、商品名「ニムデンNPR−4」(上村工業株式会社製)をメッキ剤として使用した。次いで、図14に示す積層構造を備える基板12を、この用意したメッキ剤の中に90℃で約30秒間浸漬する。すると、樹脂層17に含まれる金属粒子(Ag粒子50、Pd粒子51)にメッキ剤が作用することによって、これら金属粒子が核となってNiメッキが各部分で成長する。その後、メッキ剤から基板12を引き揚げることによって、図15に示すように、約1μmの膜厚を有するソース電極13及びドレイン電極14が各々形成される。
【0072】
次に、S14の有機半導体形成工程を行う。有機半導体層形成工程では、図16に示すように、例えば、低分子半導体であるペンタセン(アルドリッチ社製)を、真空蒸着法によって感光性樹脂層18の表面に作製することによって有機半導体層19が形成される。なお、この時の真空蒸着の条件として、真空度は8×10−Paであり、基板12の温度が60℃になるように加熱する。こうして、ソース電極13及びドレイン電極14の間に挟まれた感光性樹脂層18の表面上に、厚さ60nmの有機半導体層19を形成することができる。
【0073】
次に、S15のゲート絶縁層形成工程を行う。ゲート絶縁層形成工程では、図17に示すように、有機半導体層19の表面、ソース電極13及びドレイン電極14の各表面に対し、スピンコート法によって、ポリビニルアルコール(PVA)からなるゲート絶縁層15を形成する。このスピンコート法では、基板12の上面に、PVAの5wt%溶液(溶媒は純水)を塗布した後に、基板12を水平に回転させる。その後、110℃で約1時間乾燥することによって、膜厚が300nmのゲート絶縁層15を形成することができる。
【0074】
最後に、S16のゲート電極形成工程を行う。ゲート電極形成工程では、図10に示すように、図17に示す積層構造を備える基板12を脱ガスし、図10に示すように、マスク蒸着によってAlからなるゲート電極16を、ゲート絶縁層15の表面上における有機半導体層19と対向する位置に作製する。なお、この時のマスク蒸着の条件は、真空度は3×10−Paであり、基板12の加熱は不要である。こうして、ゲート絶縁層15の表面に厚さ60nmのゲート電極16を作製することができ、図10に示す薄膜有機トランジスタ10を作製することができる。
【0075】
次に、第2の実施形態の製造方法によって形成された薄膜有機トランジスタ10の効果を確認するため、移動度及び閾電圧の測定試験2を行った。以下、この測定試験2について説明する。この測定試験2では、1.感光性樹脂層18を剥がし、樹脂層17の表面上に有機半導体層19を直接形成した薄膜有機トランジスタと、2.感光性樹脂層18を剥がさずに、該感光性樹脂層18の表面上に有機半導体層19を形成した薄膜有機トランジスタ(本実施形態)との2つのサンプルをそれぞれ用意し、各薄膜有機トランジスタの移動度と、閾電圧とをそれぞれ測定して比較検討をおこなった。
【0076】
図18に示すように、まず移動度について比較検討すると、感光性樹脂層18を剥がした薄膜有機トランジスタでは、移動度が0.006cm/Vsであったのに対して、感光性樹脂層18を有する薄膜有機トランジスタでは、移動度が0.07cm/Vsであった。一方、閾電圧について比較検討すると、感光性樹脂層18を剥がした薄膜有機トランジスタでは、閾電圧が8Vであったのに対して、感光性樹脂層18を有する薄膜有機トランジスタでは、閾電圧が5Vであった。
【0077】
以上の結果より、感光性樹脂層18を剥がさない薄膜有機トランジスタでは、感光性樹脂層18を剥がした薄膜有機トランジスタに比較して、移動度が約12倍に向上したことが確認された。この理由は、樹脂層17の表面における分子配列が不規則であって表面がざらついているため、その表面に有機半導体層19を形成すると、有機半導体結晶の分子配列の配向性が不規則な状態で配列して、半導体特性が低下するためである。よって、この樹脂層17の表面に感光性樹脂層18をそのまま残し、該感光性樹脂層18の表面に有機半導体層19を形成することによって、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できるので、半導体特性を向上させることができる。
【0078】
以上説明したように、第2の実施形態である薄膜有機トランジスタ10は、「トップゲート型」の有機TFTである。そして、この製造方法においても、感光性樹脂形成工程にて、フォトリソグラフィ法でフォトレジストをパターニングして感光性樹脂層18を形成し、ソース・ドレイン電極形成工程にて、無電解メッキ法でソース電極13及びドレイン電極14を各々形成するので、ソース電極13及びドレイン電極14を簡便かつ位置精度良く形成できる。そして、感光性樹脂層形成工程にて樹脂層17上に残存する感光性樹脂層18を剥がさずに、そのまま有機半導体層19を形成する点に特徴を備えている。つまり、感光性樹脂層18を、ソース電極13及びドレイン電極14を設けるための「マスク層」として利用するだけでなく、有機半導体層19を樹脂層17の表面上に設けるための「バッファ層(緩衝層)」として利用することで、有機半導体層19を樹脂層17の表面上ではなく、感光性樹脂層18の表面上に設けることができる。これにより、有機半導体層19を剥がして樹脂層17上に有機半導体層19を直接設けるよりも、有機半導体結晶の分子配列の配向性を向上できるので、半導体特性の良い薄膜有機トランジスタ10を提供できる。また、有機半導体層19は、一般的に水に濡れると劣化する性質を有するが、「トップゲート型」の薄膜有機トランジスタ10では、有機半導体層19の表面はゲート絶縁層15によって覆われているので、有機半導体層19の劣化を防ぐことができる。
【0079】
次に、第3の実施形態の薄膜有機トランジスタ30について説明する。図19は、第3の実施形態である薄膜有機トランジスタ30の断面図であり、図20は、薄膜有機トランジスタ30の製造フローであり、図21は、基板32の断面図であり、図22は、図21に示す基板32の上面にゲート電極36が形成された状態の断面図であり、図23は、図22に示す基板32の上面にゲート絶縁層35が形成された状態の断面図であり、図24は、図23に示すゲート絶縁層35の表面に感光性樹脂層38が形成された状態の断面図であり、図25は、図24に示す感光性樹脂層38がパターニングされて、感光性樹脂層38a及び38bが各々形成された状態の断面図であり、図26は、図25に示す感光性樹脂層38a及び38bの各表面に、ソース電極33及びドレイン電極34が各々形成された状態の断面図である。
【0080】
なお、薄膜有機トランジスタ30は、所謂「ボトムゲート型」の有機TFTであり、第1の実施形態である薄膜有機トランジスタ1の変形例である。そして、図19に示す薄膜有機トランジスタ30は、金属粒子(例えば、Ag粒子50,Pd粒子51等)を含有するフォトレジストからなる感光性樹脂層38a,38bを備える点に特徴を備えている。
【0081】
はじめに、薄膜有機トランジスタ30の断面構造について説明する。図19に示す薄膜有機トランジスタ30は、所謂「ボトムゲート型」の有機TFTである。薄膜有機トランジスタ30は、ガラス、プラスチック等の絶縁性材料からなる基板32を備えている。さらに、基板32の上面には、ゲート電極36が設けられるとともに、該ゲート電極36を覆うようにして、有機化合物からなるゲート絶縁層35が設けられている。
【0082】
また、ゲート絶縁層35の表面には、一対の感光性樹脂層38a,38bが左右両側に互いに離間して設けられている。そして、この感光性樹脂層38a,38bは、金属粒子(例えば、Ag粒子50及びPd51粒子等)を含むフォトレジストからなるものである。なお、これらAg粒子50及びPd51粒子は、後述するメッキ剤と反応することによって無電解メッキを成長させ、後述するソース電極33及びドレイン電極34をそれぞれ形成する核となるものである。
【0083】
そして、感光性樹脂層38aの表面にはソース電極33が設けられ、感光性樹脂層38bの表面にはドレイン電極34が設けられている。これらソース電極33及びドレイン電極44は、感光性樹脂層38a,38bにそれぞれ含まれる金属粒子(Pd粒子51及びAg粒子50)が、後述するメッキ剤が作用することによって成長した無電解メッキからなるものである。なお、この無電解メッキは、例えば、Auメッキ、又はNiメッキが挙げられる。
【0084】
さらに、ソース電極33及びドレイン電極34に挟まれる内側であって、かつゲート絶縁層35の表面には、有機半導体層39が設けられている。この有機半導体層39は、ゲート絶縁層35を介して、ゲート電極36に対向して配置されている。さらに、有機半導体層39の断面の横幅の長さは、ゲート電極36の断面の横幅の長さと同じになるように調整されている。この理由は、第1の実施形態で説明した理由と同じである。
【0085】
次に、薄膜有機トランジスタ30の製造方法について説明する。薄膜有機トランジスタ30の製造方法は、図20に示すように、基板32の上面に、ゲート電極36を形成するゲート電極形成工程(S21)と、基板32の上面に、ゲート電極36を覆うようにしてゲート絶縁層35を形成するゲート絶縁層形成工程(S22)と、ゲート絶縁層5の表面に、金属粒子を含有するフォトレジストをパターニングして感光性樹脂層38a,38bを形成する感光性樹脂層形成工程(S23)と、感光性樹脂層38a,38bが形成された部分に無電解メッキ法によって、ソース電極33及びドレイン電極34を各々形成するソース・ドレイン電極形成工程(S24)と、ソース電極33及びドレイン電極34に挟まれるゲート絶縁層35の表面に有機半導体層39を形成する有機半導体層形成工程(S25)とから構成されている。以下、各工程について具体的に説明する。
【0086】
はじめに、S21のゲート電極形成工程を行う。ゲート電極形成工程では、まず、図21に示す基板32をアセトンで5分間超音波をかけて十分に洗浄する。次に、基板32を脱ガスし、図22に示すように、マスク蒸着によってAlからなるゲート電極36を基板2上に作製する。なお、この時のマスク蒸着の条件は、真空度は3×10−Paであり、基板32の加熱は不要である。こうして、基板32の上面に厚さ60nmのゲート電極6を作製することができる。
【0087】
次に、S22のゲート絶縁層形成工程を行う。ゲート絶縁層形成工程では、図23に示すように、ゲート電極形成工程(S21)にて、ゲート電極36が形成された基板32の上面に対し、スピンコート法によって、ポリイミド(PI)からなるゲート絶縁層5を形成する。このスピンコート法では、基板32の上面に、高耐熱性ポリイミド樹脂(京セラケミカル株式会社製:商品名「CT4112」)の5wt%ポリイミド溶液を塗布した後に、基板32を水平に回転させる。その後180℃で一時間乾燥することによって、膜厚350nmのゲート絶縁層35を形成することができる。
【0088】
次に、S23の感光性樹脂層形成工程を行う。感光性樹脂層形成工程では、まず、Ag粒子50及びPd粒子(日本工業用ペイントコーティング社製:「Ag−Pdナノ粒子」)を、フォトレジスト(東京応化工業株式会社製:商品名「OFPR800」)に対して2wt%となるように混合して撹拌し、フォトレジスト溶液を作製する。そして、このフォトレジスト溶液をゲート絶縁層35の表面に対し、スピンコート法で0.5μm塗布して感光性樹脂層38を形成する(図24参照)。その後、フォトリソグラフィ法によって、ソース電極33及びドレイン電極34を形成する場所以外の部分を露光して除去する。これにより、図25に示すように、ゲート絶縁層35上におけるソース電極33を形成する位置に感光性樹脂層38aが形成され、ドレイン電極34を形成する位置に感光性樹脂層38bが形成される。
【0089】
次に、S24のソース・ドレイン電極形成工程を行う。ソース・ドレイン電極形成工程では、ゲート絶縁層35の表面上における感光性樹脂層38a,38bを形成した位置に、ソース電極33及びドレイン電極34を無電解メッキ法にて各々形成する。この無電解メッキ法は第1の実施形態における方法と同じである。これにより、図26に示すように、約1μmの膜厚を有するソース電極33及びドレイン電極34が、感光性樹脂層38a,38bの各表面上に各々形成される。
【0090】
最後に、S25の有機半導体形成工程を行う。有機半導体層形成工程では、図19に示すように、例えば、低分子半導体であるペンタセン(アルドリッチ社製)を、真空蒸着法によって、ソース電極33及びドレイン電極34に挟まれたゲート絶縁層35の表面に作製する。なお、この時の真空蒸着の条件として、真空度は8×10−Paであり、基板32の温度が60℃になるように加熱する。こうして、ソース電極33及びドレイン電極34の間に挟まれたゲート絶縁層35の表面上に、厚さ60nmの有機半導体層39を形成することができる。
【0091】
次に、第3の実施形態の製造方法によって形成された薄膜有機トランジスタ30の効果を確認するため、移動度及び閾電圧の測定試験3を行った。以下、この測定試験3について説明する。この測定試験2では、1.ゲート絶縁層の表面にニッケル電極をスパッタリングで形成し、フォトリソグラフィ法でパターニング、エッチングすることによってソース電極33及びドレイン電極34を形成した薄膜有機トランジスタ(従来の方法)と、2.無電解メッキ法でソース電極33及びドレイン電極34を形成した薄膜有機トランジスタ(今回の方法)との2つのサンプルをそれぞれ用意し、各薄膜有機トランジスタの移動度と、閾電圧とをそれぞれ測定して比較検討をおこなった。
【0092】
図27に示すように、まず移動度について比較検討すると、従来の方法で作製した薄膜有機トランジスタでは、移動度が0.06cm/Vsであったのに対して、今回の方法で作製した薄膜有機トランジスタでは、移動度が0.07cm/Vsであった。一方、閾電圧について比較検討すると、従来の方法で作製した薄膜有機トランジスタでは、閾電圧が3Vであったのに対して、今回の方法で作製した薄膜有機トランジスタでは、閾電圧が4Vであった。
【0093】
以上の結果より、今回の方法で作製した薄膜有機トランジスタでは、従来の方法で作製した薄膜有機トランジスタに比較して、ほぼ同程度の移動度を得ることができた。つまり、ソース電極33及びドレイン電極34をメッキで作製したにも関わらず、従来の方法で作製したものと比較して同程度の性能を有する薄膜有機トランジスタを得ることができた。従来の方法では、ソース電極及びドレイン電極をスパッタリングするために真空装置を用いる必要があるのでコストがかかるという問題があった。そこで、第3の実施形態のように、感光樹脂層38a,38bの上に無電解メッキ法でソース電極33及びドレイン電極34を作製することによって、手間がかからず、コストも安くすることができる。
【0094】
以上説明したように、第3の実施消形態である薄膜有機トランジスタ30では、上記したように、フォトレジストに金属粒子(Pd粒子51及びAg粒子50)を含有させ、そのフォトレジストをゲート絶縁層35上にパターニングして形成された一対の感光性樹脂層38a,38bを備えていることに特徴を有する。これにより、感光性樹脂層38a,38bに含有される金属粒子を核として成長したソース電極33及びドレイン電極34を備えることができるので、第1の実施形態における樹脂層7(図1参照)が不要となるので、薄膜有機トランジスタの構成を単純化できる。また、有機半導体層39をゲート絶縁層39の表面上に設けることができるので、ゲート絶縁層39を有機物で形成する場合は、有機半導体結晶の分子配列の配向性を良好な状態で配列させることができる。
【0095】
また、図20に示すS21〜S25からなる各形成工程によって、薄膜有機トランジスタ30を作製することができる。この製造工程では、感光性樹脂形成工程にて、フォトレジストに金属粒子(Pd粒子51及びAg粒子50)を含有させ、そのフォトレジストをゲート絶縁層35上に塗布して、フォトリソグラフィ法でパターニングすることによって、一対の感光性樹脂層38a,38bを形成する点に特徴を有する。これにより、感光性樹脂層38a,38bに含有される金属粒子を核として成長したソース電極33及びドレイン電極34を形成できるので、第1の実施形態の製造方法における樹脂層形成工程(S3)が不要となる。つまり、薄膜有機トランジスタ30の製造方法における工程数を減らして簡便にすることができる。
【0096】
なお、本発明の有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法は、上記実施形態に限らず、各種の変形が可能なことはいうまでもない。例えば、第1の実施形態では、薄膜有機トランジスタ1を構成する感光性樹脂層8を有機物で構成した場合を説明したが、無機物である場合は、図28に示す変形例のように、感光性樹脂層8の表面に自己組織化膜(self−assembled monolayer)であるSAM膜60を形成するのが好ましい。
【0097】
この自己組織化膜とは、シランやチオールなどの反応性官能基を加水分解基として持つ化合物が、それらの有機溶液から基板の表面に化学吸着することによって形成される膜をいう。この変形例におけるSAM膜60は、有機シランであるHMDS(ヘキサメチルジシラザン)から生成されるものである。このHMDSは、無機物と結合しやすい加水分解基と、有機物と結合しやすい有機官能基とを備え、これら加水分解基及び有機官能基が共にシリコン原子(Si)に結合した状態の物質である。よって、このHMDSが加水分解されるとシラノール基が生成され、このシラノール基が自己縮合によって高分子化するとともに、感光性樹脂層8の表面に結合してSAM膜60が形成される仕組みである。そして、図2に示す薄膜有機トランジスタ1の製造方法において、S5のソース・ドレイン電極形成工程の後に、組織化膜形成工程を設け、該組織化膜形成工程にて、加水分解したHMDSをスピンコート法、ディップコーティング法、インクジェット法、又は蒸着法によって、感光性樹脂層8の表面に形成することによって、SAM膜60を形成することができる。
【0098】
そして、S6の有機半導体形成工程にて、感光性樹脂層8の表面に形成されたSAM膜60の有機官能基に、有機半導体層9の半導体結晶を結合させることができる。したがって、感光性樹脂層8の表面にSAM60を形成することによって、半導体結晶の配向性を良好な状態で配列させることができる(半導体結晶の成長を良好にすることができる)。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法は、所謂ボトムゲート型又はトップゲート型の薄膜有機トランジスタ及びその製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】第1の実施形態である薄膜有機トランジスタ1の断面図である。
【図2】薄膜有機トランジスタ1の製造フローである。
【図3】基板2の断面図である。
【図4】図3に示す基板2の上面にゲート電極6が形成された状態の断面図である。
【図5】図4に示す基板2の上面にゲート絶縁層5が形成された状態の断面図である。
【図6】図5に示すゲート絶縁層5の表面に樹脂層7が形成された状態の断面図である。
【図7】図6に示す樹脂層7の表面に感光性樹脂層8が形成された状態の断面図である。
【図8】図7に示す樹脂層7の表面に、ソース電極3及びドレイン電極4が形成された状態の断面図である。
【図9】測定試験1の結果を示すグラフである。
【図10】第2の実施形態である薄膜有機トランジスタ10の断面図である。
【図11】薄膜有機トランジスタ10の製造フローである。
【図12】基板12の断面図である。
【図13】図12に示す基板12の上面に樹脂層17が形成された状態の断面図である。
【図14】図13に示す樹脂層17の表面に感光性樹脂層18が形成された状態の断面図である。
【図15】図14に示す樹脂層17の表面にソース電極13及びドレイン電極14が形成された状態の断面図である。
【図16】図15に示す感光性樹脂層18の表面に有機半導体層19が形成された状態の断面図である。
【図17】図16に示す有機半導体層19の表面、ソース電極13及びドレイン電極14の各表面にゲート絶縁層15が形成された状態の断面図である。
【図18】測定試験2の結果を示すグラフである。
【図19】第3の実施形態である薄膜有機トランジスタ30の断面図である。
【図20】薄膜有機トランジスタ30の製造フローである。
【図21】基板32の断面図である。
【図22】図21に示す基板32の上面にゲート電極36が形成された状態の断面図である。
【図23】図22に示す基板32の上面にゲート絶縁層35が形成された状態の断面図である
【図24】図23に示すゲート絶縁層35の表面に感光性樹脂層38が形成された状態の断面図である。
【図25】図24に示す感光性樹脂層38がパターニングされて、感光性樹脂層38a及び38bが各々形成された状態の断面図である。
【図26】図25に示す感光性樹脂層38a及び38bの各表面に、ソース電極33及びドレイン電極34が各々形成された状態の断面図である。
【図27】測定試験3の結果を示すグラフである。
【図28】第1の実施形態の薄膜有機トランジスタ1の変形例の断面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 薄膜有機トランジスタ
2 基板
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート絶縁層
6 ゲート電極
7 樹脂層
8 感光性樹脂層
9 有機半導体層
50 Ag粒子
51 Pd粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
当該基板上に形成されたゲート電極と、
当該ゲート電極を覆うように前記基板上に形成された絶縁層と、
当該絶縁層上に形成され、金属粒子を含む樹脂層と、
当該樹脂層上にパターニングされて形成された感光性樹脂層と、
前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に形成され、無電解メッキからなるソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に形成された有機半導体層と
から構成されていることを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項2】
基板と、
当該基板上に形成され、金属粒子を含む樹脂層と、
当該樹脂層上にパターニングされて形成された感光性樹脂層と、
前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に形成され、無電解メッキからなるソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に形成された有機半導体層と、
当該有機半導体層上に形成された絶縁層と、
当該絶縁層上に形成されたゲート電極と
から構成されていることを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項3】
前記金属粒子は、粒径1μm以下の粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機トランジスタ。
【請求項4】
前記金属粒子は、Ag,Pd,Ti若しくはCuの単体、又は少なくとも何れかを含む複合体であることを特徴とする請求項3に記載の有機トランジスタ。
【請求項5】
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、Auメッキ、又はNiメッキで形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の有機トランジスタ。
【請求項6】
前記感光性樹脂層を形成する感光性樹脂は、ポジ型であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の有機トランジスタ。
【請求項7】
前記感光樹脂層を形成する感光性樹脂は、ネガ型であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の有機トランジスタ。
【請求項8】
前記感光性樹脂層の表面には、自己組織化膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の有機トランジスタ。
【請求項9】
基板上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程と、
当該ゲート電極形成工程で形成された前記ゲート電極を覆うように前記基板上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
当該絶縁層形成工程で形成された前記絶縁層上に、金属粒子を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
当該樹脂層形成工程で形成された前記樹脂層上に、感光性樹脂層をパターニングして形成する感光性樹脂層形成工程と、
当該感光性樹脂層形成工程によって、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に、無電解メッキを成長させてソース電極及びドレイン電極を形成するソース電極・ドレイン電極形成工程と、
当該ソース電極・ドレイン電極形成工程で形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に有機半導体層を形成する有機半導体層形成工程と
から構成されていることを特徴とする有機トランジスタの製造方法。
【請求項10】
基板上に金属粒子を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
当該樹脂層形成工程で形成された前記樹脂層上に、感光性樹脂層をパターニングして形成する感光性樹脂層形成工程と、
当該感光性樹脂層形成工程によって、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成されていない部分に、無電解メッキを成長させてソース電極及びドレイン電極を形成するソース電極・ドレイン電極形成工程と、
当該ソース電極・ドレイン電極形成工程で形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に有機半導体層を形成する有機半導体層形成工程と、
前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記有機半導体層の表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
当該絶縁層形成工程で形成された前記絶縁層上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程と
から構成されていることを特徴とする有機トランジスタの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂層形成工程において、
前記樹脂層は、スピンコート法によって形成されることを特徴とする請求項9又は10に記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項12】
前記樹脂層形成工程において、
前記樹脂層は、バーコーティング法によって形成されることを特徴とする請求項9又は10に記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記有機半導体層形成工程において、
前記有機半導体層が低分子の場合は、蒸着法で形成されることを特徴とする請求項9乃至12の何れかに記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項14】
前記有機半導体層形成工程において、
前記有機半導体層が高分子の場合は、インクジェット法又はスピンコート法によって形成されることを特徴とする請求項9乃至12の何れかに記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記感光性樹脂層形成工程で形成された前記感光性樹脂層の表面に、自己組織化膜を形成する組織化膜形成工程を備えていることを特徴とする請求項9乃至14の何れかに記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項16】
前記組織化膜形成工程において、
前記自己組織化膜は、スピンコート法、ディップコーティング法、インクジェット法、又は蒸着法によって形成されることを特徴とする請求項15に記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項17】
基板上に、金属粒子を含む感光性樹脂をパターニングして形成する感光性樹脂層形成工程と、
当該感光性樹脂層形成工程によって、前記樹脂層上の前記感光性樹脂層が形成された部分に、無電解メッキを成長させてソース電極及びドレイン電極を形成するソース電極・ドレイン電極形成工程と、
当該ソース電極・ドレイン電極形成工程で形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間に有機半導体層を形成する有機半導体層形成工程と、
前記ソース電極の表面、前記ドレイン電極の表面及び前記有機半導体層の表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
当該絶縁層形成工程で形成された前記絶縁層上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程と
から構成されていることを特徴とする有機トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2007−266367(P2007−266367A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90296(P2006−90296)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】