有機材料含有デバイスに適した基板の製造方法、および有機材料含有デバイスの製造方法
【課題】 分子デバイスを含む、有機材料の機能を利用する有機材料含有デバイスの構築に適した取り扱いが容易な基板を提供する。
【解決手段】 水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板とする。このアミノ基は、例えばSi−N結合により固定されている。アミノ基は多くの官能基と化学反応しうる基であり、生体分子との親和性にも優れている。この表面は、大気中での取り扱いも容易である。アミノ基と有機分子とを反応させれば、有機分子と半導体表面とが化学的に一体に結合する。アミノ基は、例えば水素原子で終端された半導体表面にアンモニア等の窒素含有反応種を接触させ、この反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を半導体表面に化学吸着させて導入すればよい。
【解決手段】 水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板とする。このアミノ基は、例えばSi−N結合により固定されている。アミノ基は多くの官能基と化学反応しうる基であり、生体分子との親和性にも優れている。この表面は、大気中での取り扱いも容易である。アミノ基と有機分子とを反応させれば、有機分子と半導体表面とが化学的に一体に結合する。アミノ基は、例えば水素原子で終端された半導体表面にアンモニア等の窒素含有反応種を接触させ、この反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を半導体表面に化学吸着させて導入すればよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料含有デバイスに適した基板とその製造方法に関し、さらに、この基板を用いた有機材料含有デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子に代表されるように、従来のデバイスにおける無機または半導体材料を有機材料で置換したデバイスが実用化に至っている。近年では、有機分子(生体分子を含む)を組織化して微細構造を実現する分子デバイスも注目されている。これら有機材料含有デバイスでは、有機材料を担持する基板として半導体基板が用いられることがある。半導体基板を用いると、その表面に作り込まれた素子により有機材料の機能を制御することもできる。デバイス特性を長期にわたって安定に保持するためには、有機材料を基板の表面に化学的に結合させて固定することが望まれる。
【0003】
半導体基板上への有機材料の結合は、例えばシランカップリング剤を用いて行うことができる。シランカップリング剤は、半導体基板上の酸化膜(例えばシリコン基板上に形成したシリコン酸化膜)の表面に存在する水酸基と反応し、この反応の結果、半導体基板の表面に有機材料が固定される。
【0004】
しかし、半導体基板上に絶縁性の酸化膜が存在すると、半導体基板と有機材料との間の電気的接続が難しくなる。例えば、シリコン基板上に有機EL素子を形成する場合、シリコン酸化膜の存在は有機材料への電荷注入を阻害する。また、シランカップリング剤を用いる方法では、有機材料をハロゲン化シリル基のような加水分解性の官能基で修飾する必要があるが、有機材料の化学的安定性によっては、このような修飾ができない場合もある。
【0005】
半導体基板を10-10Torr程度の超高真空中で加熱して基板表面の反応性を高める方法も知られている。超高真空中での加熱により、半導体基板の表面には半導体原子の未結合手(ダングリングボンド)や半導体原子のダイマー結合(例えばSi=Si結合)が生成する。この表面に不飽和結合を有する有機材料を反応させると、有機材料が半導体基板に直接結合する。ハロゲン原子を表面に結合させ、表面の反応性を高めた半導体基板も知られている。ハロゲン原子を有機材料により置換すれば、半導体基板の表面に有機材料を直接結合できる。
【0006】
しかし、未結合手やハロゲン原子の導入により表面の反応性を高めた半導体基板は、水分との反応性が非常に高いため、大気中で取り扱うことができない。このため、基板の保存、運搬工程、さらには有機材料を担持する工程、も制約を受ける。反応性を高めた基板の表面に有機材料を固定するには、例えば減圧雰囲気下で有機材料を蒸着すればよいが、生体分子のように、減圧下で加熱することによりその機能が失われる有機材料もある。
【0007】
このように、現状では、有機材料の機能を利用する有機材料含有デバイスの構築に適し、かつ取り扱いが容易な基板は得られていない。
【0008】
なお、半導体基板の表面、およびこの表面への有機分子の固定については、非特許文献1に詳しく解説されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ジリアン・ブリアーク(Jillian Buriak)、「シリコンおよびゲルマニウム表面における有機金属化学」、ケミカル・レビューズ、アメリカン・ケミカル・ソサエティ、米国、2002年5月、102巻、5号、1272頁〜1308頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の事情を鑑み、本発明の目的は、有機材料含有デバイスに適し、かつ取り扱いが容易な基板を提供することにある。本発明の別の目的は、この基板を用いた新たな有機材料含有デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板を提供する。
【0012】
本発明は、別の側面から、水素原子が化学吸着した半導体表面を有する基板の当該半導体表面に窒素含有反応種を接触させることにより、上記窒素含有反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を上記半導体表面に化学吸着させる、水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、さらに別の側面から、本発明の基板と、この基板の上記半導体表面上に配置された有機材料とを含む有機材料含有デバイス、さらには本発明の基板の半導体表面に化学吸着したアミノ基と有機分子とを反応させ、この有機分子を上記半導体表面に固定した有機材料含有デバイス、を提供する。
【発明の効果】
【0014】
アミノ基は、多くの官能基と化学反応しうる基であり、生体分子との親和性にも優れている。このため、本発明の基板は、生体分子を含む幅広い有機材料の固定に適している。
【0015】
アミノ基は、未結合手とは異なり、常温、常圧の大気中でも安定である。このため、本発明の基板は、大気中での取り扱いが可能であり、その保存、運搬工程、さらには有機材料を固定する工程における制約が少ない。
【0016】
本発明の基板において、アミノ基とともに半導体表面に化学吸着しているのは、有機分子や雰囲気中の水分との反応性に乏しい水素原子である。アミノ基とともに水素原子を化学吸着させることにより、基板の取り扱い性が改善され、導入する有機分子がアミノ基と選択的に反応しやすくなる。
【0017】
本発明の基板では、アミノ基が半導体表面に化学吸着しているため、アミノ基が安定して保持されている。また、有機分子をアミノ基と反応させて固定すれば、有機分子と半導体表面とが化学的に一体に結合することになる。このため、有機分子が半導体表面に強固に固定化されると同時に有機分子と半導体表面との電気的接続を容易に確保できる。
【0018】
以上のとおり、本発明は、有機材料含有デバイスに適し、取り扱いが容易な汎用性の高い基板を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の基板の半導体表面を例示する図である。
【図2】本発明の基板の半導体表面に有機材料を固定する反応を例示する図である。
【図3】本発明の基板の半導体表面に有機材料を固定する別の反応を例示する図である。
【図4】実施例1、比較例1から得た半導体表面のXPSスペクトルである。
【図5】実施例1、比較例1から得た半導体表面のFT−IRスペクトルである。
【図6】実施例2から得た半導体表面のXPSスペクトルである。
【図7】実施例2から得た半導体表面のFT−IRスペクトルである。
【図8】本発明の有機材料含有デバイスの製造に用いることができる第1の有機分子の例を示す図である。
【図9】本発明の有機材料含有デバイスの製造に用いることができる第2の有機分子の例を示す図である。
【図10】本発明の有機材料含有デバイスの製造に用いる装置の一例を示す図である。
【図11】本発明の有機材料含有デバイスの製造工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、半導体表面に水素原子とアミノ基とを化学吸着させることとした。水素原子およびアミノ基は、半導体表面を構成する原子と結合している。代表的な半導体表面としては、Si表面、SiGe表面、SiC表面のようにSiを含む原子により構成された表面が挙げられる。ただし、半導体表面は、半導体としての特性を有する表面であればよく、Ge表面のようにSiを含まない表面、GaN、GaAsのような化合物半導体により構成された表面であってもよい。本発明における半導体表面は、典型的には、Si、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種である原子Mを含む半導体表面である。
【0021】
半導体表面が、Si、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種である原子Mを含む場合、この半導体表面は、結合M−Hおよび結合M−Nを有する。結合M−Nは、通常、結合M−NH2である。
【0022】
半導体表面は、多結晶からなる面であってもアモルファス面であってもよいが、所定の結晶面であることが好ましい。所定の結晶面は、(100)面その他であってもよいが、(111)面、例えばSi(111)面が好適である。Si(111)面では、Siからの結合手が表面に垂直に伸びることになる。この結合手は有機材料の固定に適しており、有機分子を精密かつ緻密に配置すべき分子デバイスの構築にも都合がよい。分子デバイスの構築に最も好ましい半導体表面はSi(111)(1×1)面である。後述する方法を用いれば、Si(111)(1×1)面にアミノ基を導入することができる。
【0023】
半導体表面としてSi(111)面を構成するためには、Si(111)基板を用いればよい。しかし、基板はこれに限らず、他の面方位を有するSi単結晶基板を用いてもよいし、Si多結晶基板を用いてもよく、さらにはGe基板や化合物半導体基板を用いてもよい。また、いわゆるバルク基板ではなく、例えばSOI(Silicon on Insulator)基板を用いてもよい。あるいは、バルク基板に形成した酸化膜等の絶縁膜上に形成した半導体膜の表面を半導体表面としてもよい。半導体膜を形成する場合には、この膜を形成する基板として、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の非半導体を用いてもよい。本発明の実施には、アミノ基が化学吸着しうる半導体表面が存在すれば足り、半導体表面の下部構造に制限はない。
【0024】
従来から知られている技術により、半導体表面には、適宜、MOSFET等の素子を形成しておいてもよい。
【0025】
アミノ基は、半導体表面に含まれる原子との化学結合により固定される。例えば半導体表面がSiを含む原子で構成されている場合、アミノ基は、Si−N結合により当該表面に固定されている。
【0026】
本発明の半導体表面は、水素原子およびアミノ基により終端されていることが好ましい。この場合、半導体表面には、水素原子およびアミノ基以外の化学種、例えばハロゲン原子や水酸基が実質的に存在しない。後述する方法により、水素で終端した半導体表面にアミノ基を導入した場合、この表面は、水素原子およびアミノ基により終端された半導体表面となる。
【0027】
図1に、水素原子およびアミノ基が化学吸着したシリコン表面の結合状態を例示する。ここでは、第1級アミノ基および水素原子が吸着したSi(111)面を示した。ただし、上記のとおり半導体表面はこれに限らず、アミノ基も、第1級アミノ基に限らず、第2級アミノ基、第3級アミノ基であってもよい。
【0028】
アミノ基は、多くの官能基、例えばアルデヒド基、カルボキシル基、カルボニルクロリド基、カルボニル基と反応する。これを利用すれば半導体表面に各種の有機材料を固定できるため、有機材料を用いた多彩なデバイスを構築できる。
【0029】
例えば、第1級アミノ基(−NH2)とアルデヒド基を有する有機分子(CHO−R)とを反応させれば、アゾメチン結合を介して有機分子が固定される(−N=CH−R)。図2に、この反応の一例として、シリコン表面に化学吸着したアミノ基とテレフタルアルデヒドとの反応を示す。
【0030】
有機分子の固定は、アゾメチン結合に限らず、各種結合を介して行うことができる。例えば、第1級アミノ基とカルボニルクロリド基を有する有機分子とを反応させれば、ペプチド結合(酸アミド結合)を形成できる。図3に、この反応の一例として、シリコン表面に化学吸着したアミノ基とベンゾイルクロリドとの反応を示す。
【0031】
有機分子の固定には、有機分子に含まれる有機分子とアミノ基とが結合していることが好ましく、具体的には、有機分子に含まれる炭素原子とアミノ基に含まれる窒素原子とが結合C−Nを形成しているとよく、炭素原子と窒素原子とが二重結合C=Nを形成しているとさらに好ましい。アゾメチン結合等に存在する炭素−窒素二重結合におけるπ電子は、半導体表面と有機分子との間における電子の授受に寄与するからである。
【0032】
アミノ基に結合させる有機分子として、(−CH=N−)を含む有機分子を用いてもよい。このような有機分子としては、以下の繰り返し単位(1)を含む導電性有機分子が挙げられる。
【0033】
(1)−R1−CH=N−R2−N=CH−
ここで、R1およびR2はそれぞれ独立に、主鎖長が0.65nm〜4.0nmの範囲にあるπ電子共役鎖を主鎖とする基である。
【0034】
この導電性有機分子を用いた有機材料含有デバイスの製造方法、具体例については、後述する。
【0035】
本発明の基板は、有機材料を用いる幅広いデバイスへの適用が可能である。本発明の基板は、有機EL素子、有機太陽電池、有機センサー等のエレクトロニクス分野における各種デバイスに加え、バイオチップ、DNAチップ、DNAセンサー等の生体分子を用いたデバイスにも適している。アミノ基は、生体分子との親和性に優れているため、本発明の基板の半導体表面に、常温、常圧下において、DNA、タンパク質等の生体分子を固定することも可能である。本発明は、上記に例示した各種有機材料含有デバイスを包含する。
【0036】
本発明の有機材料含有デバイスでは、有機材料が半導体表面上に配置されていればよく、アミノ基と有機分子との間の化学的な結合(上記の例示では窒素−炭素結合)は必須ではない。例えば、有機TFT素子用の有機材料として知られるペンタセンの結晶構造は、電荷移動度と密接な関係を有し、基板との相互作用の影響を受ける。このため、アミノ基の導入による半導体表面の表面自由エネルギーの制御により、結晶構造を介してペンタセンの電荷移動度を制御することも可能である。ペンタセンのように、アミノ基と化学的に結合しない有機材料を用いて有機材料含有デバイスを構築しても構わない。
【0037】
本発明の方法では、水素原子が化学吸着した半導体表面に窒素含有反応種を接触させることにより、窒素含有反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を半導体表面に化学吸着させる。半導体表面への窒素含有反応種の供給は気相から行うとよく、窒素含有反応種は、アンモニアまたはアンモニアから発生したラジカルが適している。窒素含有反応種がアンモニアである場合には、アンモニアを含む雰囲気において半導体表面に電磁波を照射するとよい。ラジカルとしては、アンモニアを熱分解して発生させたNH2ラジカルを例示できる。
【0038】
減圧下(例えば10-10Torr程度)において半導体表面を加熱すると、半導体表面には未結合手が増加する。この未結合手は窒素含有反応種を導入するための反応点として機能する。しかし、この方法では、半導体表面の構造が乱れ、所望の半導体表面が得られない場合がある。例えば、Si(111)面を上記のように加熱すると、この面が7×7再構成と呼ばれる構造へと乱れることが知られている。
【0039】
このような半導体表面の再構成を防止すべき場合には、1×10-5Pa以上、例えば1×10-3〜1000Pa、の雰囲気において、基板を450℃以下、例えば0〜100℃、に保持しながら、半導体表面に窒素含有反応種を接触させるとよい。この方法により、例えば、Si(111)(1×1)面を維持しながらこの面にアミノ基を化学吸着させることができる。
【0040】
半導体表面を所定の溶液(エッチャント)で処理する湿式エッチングにより(例えば、フッ化水素酸および亜硫酸アンモニウム水溶液によるSi(111)面の処理により)、この表面を原子レベルにまで平坦化しつつ水素で終端することができる。上記に例示したエッチャントによりSi(111)面を処理すると、Si(111)(1×1)面を得ることができる。
【0041】
表面の不規則性は特性のバラツキの原因となるため、高いレベルにまで平坦化処理した半導体表面は有機材料の機能の発現には好ましい。例えば、有機材料を用いた有機センサーでは、半導体表面を平坦化することにより、微弱な信号をより正確に検出できる。平坦化した半導体表面は、微細構造を制御すべき分子デバイスにも適している。
【0042】
基板の用途によっては、半導体表面の表面積が大きいほうが望ましいこともある。この場合は、半導体表面に、平坦化処理ではなく、陽極酸化等による多孔化処理を施すとよい。
【0043】
窒素含有反応種は、窒素を含有する分子、ラジカル、イオンから適宜選択すればよいが、アンモニアまたはアンモニアから生成したラジカルが適している。窒素含有反応種は、液相において半導体表面に接触させてもよいが、気相において接触させるとよい。気相は常圧であってもよいが、減圧しても構わない。
【0044】
予め水素終端処理した半導体表面にアミノ基を化学吸着させるには、多くの方法が考えられるが、以下の方法を用いると簡便に行うことができる。
【0045】
予め水素原子が化学吸着した半導体表面に、アンモニアを含む雰囲気において、電磁波を照射すれば、この表面にアミノ基を導入できる。電磁波としては、紫外線、特に波長270〜400nm程度の紫外線が適している。
【0046】
予め水素原子が化学吸着した半導体表面を、アンモニアを含む雰囲気に曝しながら、半導体表面近傍においてアンモニアを加熱分解することによりNH2ラジカルを発生させても、この表面にアミノ基を導入できる。アンモニアの分解は、例えばタングステンフィラメントへの通電により行うとよい。
【0047】
アミノ基の化学吸着は、上記に限らず、例えば、ラジカル発生のためにプラズマを用いても構わない。
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本欄における上記説明と同様、以下の実施例も本発明の好ましい実施形態の例示に過ぎない。
【0049】
(実施例1)
Si(111)基板の表面、即ち面方位が(111)であるシリコン表面、を5%のフッ酸(フッ化水素酸)に5分間接触させて水素終端処理を行った後、50mMの亜硫酸アンモニウム水溶液と接触させ、原子レベルにまで平坦化したSi(111)面を得た。
【0050】
引き続き、処理したSi基板をチャンバー内に設置し、アンモニアガス流量を50sccm、雰囲気圧力を2torr(約266Pa)に保持した。Si基板の温度は25℃に保持した。この状態で、水素終端処理した表面に、サファイア窓を介して高圧水銀灯(100W)から紫外線を24時間照射して、Si(111)面にアミノ基を導入した。
【0051】
こうして得たSi(111)面を、XPS法(X線光電子分光法)およびFT−IR RAS法(フーリエ変換赤外分光高感度反射法)により分析した。前者により得たスペクトルを図4に、後者により得たスペクトルを図5にそれぞれ示す。
【0052】
(比較例1)
高圧水銀灯からの紫外線の照射を省略した以外は、実施例1と同様にしてSi基板の(111)面を得た。実施例1と同様にして分析した結果を図4,図5に併せて示す。
【0053】
XPSスペクトル(図4)では、実施例1で得たシリコン表面から、398eV付近に窒素に起因するピークが観察されたが、このピークは比較例1で得たシリコン表面からは観察されなかった。
【0054】
FT−IRスペクトル(図5)では、実施例1で得たシリコン表面から、N−H伸縮振動およびN−H変角振動による吸収がそれぞれ3350cm-1付近、1540cm-1付近に観察されたが、これら吸収ピークは、比較例1で得たシリコン表面からは観察されなかった。また、FT−IRスペクトルでは、比較例1で得たシリコン表面から、Si−H伸縮振動による吸収が観察されたが、このピークは、実施例1で得たシリコン表面からは確認はされたものの大幅に減衰していた。XPSスペクトルおよびFT−IRスペクトルは、実施例1で得たシリコン表面が水素原子およびアミノ基により終端していることを示していた。
【0055】
なお、実施例1において、水素終端後アミノ基導入前のSi(111)面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した結果、周期的なステップ・テラス構造が観測され、この表面が原子レベルで平坦であることが確認できた。同様に、実施例1において、アミノ基導入後のSi(111)面をAFMで測定した結果、やはり周期的なステップ・テラス構造が観測され、この表面の原子レベルでの平坦性が維持されていることが確認できた。図5に示したとおり、水素終端後のFT−IRスペクトルには、Si−H伸縮に帰属するピークが2083cm-1に現れている。これは、水素終端後のSi(111)面が水素原子がSi基板表面に垂直に結合した1×1構造であることを示している。AFMの測定結果と併せて判断すると、実施例1では、アミノ基の導入後においても、Si(111)(1×1)面が維持されていることが確認できた。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、アミノ基の導入方法を除いては実施例1と同様にして、Si(111)面にアミノ基を導入した。実施例2では、高圧水銀灯からの紫外線照射を行わず、チャンバー内に設置したタングステンフィラメントを通電によって1000℃にまで加熱し、アンモニアガスをフィラメント上で熱分解することによって発生させたアミノラジカルをSi(111)面に供給した。アンモニアガス流量、雰囲気圧力、Si基板の温度は実施例1と同じとした。
【0057】
こうして得たSi(111)面を、XPS法およびFT−IR RAS法により分析した。前者により得たスペクトルを図6に、後者により得たスペクトルを図7にそれぞれ示す。
【0058】
XPSスペクトル(図6)では、398eV付近に窒素に起因するピークが観察され、 FT−IRスペクトル(図7)では、N−H伸縮振動およびN−H変角振動による吸収がそれぞれ3350cm-1付近、1540cm-1付近に観察された。Si−H伸縮振動による吸収は、確認はされたものの、アミノ基導入前と比較すると大幅に減衰していた。
【0059】
以上より、実施例2で得たシリコン表面は、水素原子およびアミノ基により終端していることが確認できた。また、実施例2で得たシリコン表面も、実施例1と同様の測定により、アミノ基の導入後においても、Si(111)(1×1)面が維持されていることが確認できた。
【0060】
(実施例3)
p型のSi基板(抵抗率:24〜360Ωcm)を超純水中で10分間超音波洗浄した。次いで、この基板を濃硫酸と過酸化水素水の1:1混合液に10分間浸漬した後、流水中で10分間洗浄した。さらに、この基板を5%のフッ酸水溶液に5分間浸漬した。引き続き、この基板を、46%フッ酸:99%エタノール:超純水を1:1:2の比で混合して調製した溶液中で陽極酸化した。陽極酸化は、陰極として白金電極を用い、電流密度2mA/cm2の条件で750秒間行った。こうして多孔化した表面を有するSi基板を得た。
【0061】
このSi基板の表面に対し、実施例1と同様にして、アンモニア含有雰囲気中において高圧水銀灯から紫外線を照射した。
【0062】
こうして得たシリコン表面を、実施例1と同様にして分析したところ、FT−IRスペクトルから、実施例1と同様、N−H伸縮振動およびN−H変角振動による吸収がそれぞれ3350cm-1付近、1540cm-1付近に観察され、Si−H伸縮振動による吸収も確認できた。以上より、実施例3で得たシリコン表面も水素原子およびアミノ基により終端していることが確認できた。
【0063】
(比較例2)
高圧水銀灯からの紫外線の照射を省略した以外は、実施例2と同様にして、多孔化したSi基板の表面を得た。
【0064】
こうして得たシリコン表面を、実施例1と同様にして分析したところ、比較例1と同様、N−H結合に起因する吸収は認められなかった。
【0065】
(実施例4)
実施例3により得たSi基板を、10mMのベイゾイルクロリドを含む乾燥トルエン溶液中に浸漬し、室温で12時間反応させた。反応後、ソックスレー抽出器(抽出溶媒:トルエン)を用い、基板の表面に物理吸着したベンゾイルクロリドを除去した。
【0066】
こうして得たSi基板の表面を、FT−IR法により分析した。その結果、1700cm-1付近に芳香族ケトンのC=O伸縮振動による新たな吸収が、1600cm-1付近にベンゼン環の面内骨格振動による新たな吸収がそれぞれ確認された。
【0067】
以上より、実施例4で得たSi基板の表面には、図3に示した反応のとおり、アミノ基によりベイゾイルクロリドが固定されていることが確認できた。
【0068】
(実施例5)
実施例1により得たSi基板を、10mMのテレフタルアルデヒドを含む乾燥トルエン溶液中に浸漬し、室温で12時間反応させた。反応後、ソックスレー抽出器(抽出溶媒:トルエン)を用い、基板の表面に物理吸着したテレフタルアルデヒドを除去した。
【0069】
こうして得たSi基板の(111)面を、FT−IR法により分析した。その結果、1697cm-1付近に芳香族ケトンのC=O伸縮振動による新たな吸収が、1600cm-1付近にベンゼン環の面内骨格振動による新たな吸収がそれぞれ確認された。
【0070】
以上より、実施例5で得たSi基板の表面には、図2に示した反応のとおり、アミノ基によりテレフタルアルデヒドが固定されていることが確認できた。
【0071】
[導電性有機分子を結合させた形態]
以下、本発明による基板の半導体表面に、上記(1)で示した繰り返し単位を有する導電性有機分子を結合させた形態について説明する。この形態によれば、直線性が高い導電性有機分子が得られ、特に、基板に対して直立した状態で基板に結合した導電性有機分子が得られる。反応させるモノマーのπ電子共役鎖の種類を変更すれば、様々な特性の導電性有機分子を得ることが可能である。このような導電性有機分子を用いることによって、特性が高い電子デバイス、例えば、有機発光ダイオード等を実現できる。さらには、単一分子内に量子構造を形成し精密な電子状態制御を行い、単一分子発光ダイオード等を実現できる。
【0072】
この導電性有機分子は、上記構造単位(1)が繰り返し結合した分子鎖を含む。R1とR2とは同じであってもよいし、異なってもよい。R1およびR2の主鎖はπ電子共役鎖であればよく、たとえば、−CH=CH−基、−C≡C−基、芳香環(複素環を含む)が、単独または組み合わされて共役結合したものである。主鎖には、側鎖が結合していなくてもよいし、側鎖が結合していてもよい。適切な主鎖および側鎖を選択することによって、様々な特性を有する導電性有機分子を製造できる。主鎖の鎖長は、1.0nm〜3.0nmの範囲にあることがより好ましい。
【0073】
式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性有機分子は、以下の式(2)で表される第1の有機分子と、以下の式(3)で表される第2の有機分子とを交互に半導体表面に供給して互いに反応させることにより、得ることができる。
【0074】
(2)OHC−R1−CHO、(3)H2N−R2−NH2
ここで、R1およびR2は、上記と同様、それぞれ独立に、主鎖長が0.65nm〜4.0nmの範囲にあるπ電子共役鎖を主鎖とする基である。
【0075】
第1の有機分子の例を図8に示し、第2の有機分子の例を図9に示す。本発明の製造方法では、第1の有機分子と第2の有機分子とを交互に供給するサイクルを繰り返すことによって、分子鎖を伸長する。基板上に供給する第1および第2の有機分子は、原則としてすべてのサイクルで共通であるが、本発明の効果が得られる限り、サイクルごとに異なる第1および第2の有機分子を供給してもよい。
【0076】
主鎖の鎖長が上記の範囲程度の有機分子を用いると、基板表面と鎖軸とがなす角度が大きい導電性有機分子を基板上に形成することが容易となる。
【0077】
上記R1およびR2は、[主鎖長]/[鎖軸に垂直な方向における幅]の値(以下、「アスペクト比」という場合がある)が、3〜12の範囲にあることが好ましい。このように、アスペクト比が高い分子を用いることによって、基板表面と鎖軸とがなす角度を特に大きくできる。アスペクト比は、5〜10の範囲にあることがより好ましい。
【0078】
好ましいアスペクト比を有する基の例として、上記R1およびR2は、それぞれ独立に以下の式(4)または式(5)で表される基であってもよい。
【0079】
【化1】
【0080】
【化2】
【0081】
アミノ基を化学吸着させた半導体表面に第1の有機分子を供給し、アミノ基と、第1の有機分子のアルデヒド基とを反応させる(工程(i))。次いで、第2の有機分子を半導体表面に供給し、第1の有機分子のアルデヒド基(アミノ基と反応したアルデヒド基と反対側のアルデヒド基)と第2の有機分子のアミノ基とを反応させる(工程(ii))。さらに、第1の有機分子を半導体表面に第1の有機分子を供給し、第2の有機分子のアミノ基(アルデヒド基と反応したアミノ基と反対側のアミノ基)と第1の有機分子のアルデヒド基とを反応させる(工程(iii))。以降、工程(ii)と工程(iii)とを繰り返して、導電性有機分子の主鎖を成長させる。
【0082】
こうして成長させた導電性有機分子は、シリコン基板表面と主鎖軸とがなす角度が大きい状態で半導体表面に固定される。この導電性有機分子は、アゾメチン結合(−N=CH−)を介して半導体表面と結合しているため、この半導体表面との間に良好な導電性を有する。
【0083】
有機分子を基板上に供給する際の基板温度は、供給する有機分子の蒸発温度近傍、例えば[蒸発温度−50℃]以上の温度とすることが好ましく、例えば蒸発温度以上の温度である。この構成によれば、基板上に供給された有機分子のうち、不要な分子が気相中に遊離するため、導電性有機分子を設計通りに効率よく形成できる。また、基板温度は、たとえば[蒸発温度+50℃]以下とすることが好ましい。この構成によれば、基板上に供給された有機分子を効率よく反応させることができる。
【0084】
第1の有機分子と第2の有機分子とを交互に反応させるサイクルを繰り返すことによって、任意の鎖長の導電性有機分子を形成できる。導電性有機分子の鎖長に特に限定はないが、一例では、1.5nm〜1μmの範囲である。
【0085】
以下、導電性有機分子を基板に結合させる方法の一例として、発光素子を形成する方法について説明する。
【0086】
(実施例6)
まず、Si(111)基板を5%のフッ酸(フッ化水素酸)に5分間接触させて表面の水素終端処理を行った後、50mMの亜硫酸アンモニウム水溶液と接触させ、原子レベルにまで平坦化したSi(111)面を得る。次に、処理したSi基板をチャンバー内に設置し、アンモニアガス流量を50sccm、雰囲気圧力を2torr(約266Pa)に保持する。この状態で、水素終端処理した基板表面に、サファイア窓を介して高圧水銀灯(100W)から紫外線を24時間照射する。このようにして、アミノ基が表面に結合したシリコン基板を作製する。
【0087】
次に、図10に示すように、得られたシリコン基板10を真空蒸着装置20のチャンバー内の基板ホルダ21にセットする。チャンバー内には、第1の有機分子である1,4−ビス(4−ホルミルスチリル)ベンゼン(1,4-bis(4-formylstyryl)benzene)が充填された蒸着源22と、第2の有機分子である4,4”−ジアミノ−p−ターフェニル(4,4"-Diamino-p-terphenyl)が充填された蒸着源23とを配置する。
【0088】
次に、ターボ分子ポンプを用いてチャンバー内を排気し、圧力が1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)となったところで、基板ホルダ21を200℃に加熱する。次に、蒸着源22を260℃まで加熱し、第1の有機分子である1,4−ビス(4−ホルミルスチリル)ベンゼンを蒸発させ、一定時間経過後に加熱を停止する。基板表面に到達した第1の有機分子のうち、基板表面のアミノ基と反応した分子は化学結合によって基板表面に固定されるが、反応しなかった分子については、図11(a)に示すように再蒸発する。このようにして、第1の有機分子の単分子層が基板上に形成される。
【0089】
次に、蒸発源23を200℃まで加熱し、第2の有機分子である4,4”−ジアミノ−p−ターフェニルを蒸発させ、一定時間経過後に加熱を停止する。このとき、基板上に固定された第1の有機分子のアルデヒド基と、第2の有機分子のアミノ基の1つとが脱水縮合反応し、アゾメチン結合を形成して結合する。この反応は、反応性が非常に高いため、室温でも容易に進行する。この反応により、図11(b)に示すように、導電性有機分子の分子鎖が伸長する。
【0090】
第1の有機分子と第2の有機分子とを交互に供給するサイクルを30回繰り返すことによって、膜厚約100nmのポリアゾメチンの薄膜が得られる。最後に、シャドウマスクを用いてパターン化した金属電極を蒸着することによって、素子が得られる。電極用の金属としては、Au、Ag、Al、Ca、Mg、Na、Li、およびこれらの合金を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、有機EL素子、有機太陽電池に代表されるエレクトロニクス分野における各種デバイスや分子デバイスに有用な基板を提供し、さらにこの基板を用いた有機材料含有デバイスを提供するものとして、これらデバイスの技術分野において極めて大きな利用価値を有する。
【符号の説明】
【0092】
10 シリコン基板
20 真空蒸着装置
21 基板ホルダ
22,23 蒸着源
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料含有デバイスに適した基板とその製造方法に関し、さらに、この基板を用いた有機材料含有デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子に代表されるように、従来のデバイスにおける無機または半導体材料を有機材料で置換したデバイスが実用化に至っている。近年では、有機分子(生体分子を含む)を組織化して微細構造を実現する分子デバイスも注目されている。これら有機材料含有デバイスでは、有機材料を担持する基板として半導体基板が用いられることがある。半導体基板を用いると、その表面に作り込まれた素子により有機材料の機能を制御することもできる。デバイス特性を長期にわたって安定に保持するためには、有機材料を基板の表面に化学的に結合させて固定することが望まれる。
【0003】
半導体基板上への有機材料の結合は、例えばシランカップリング剤を用いて行うことができる。シランカップリング剤は、半導体基板上の酸化膜(例えばシリコン基板上に形成したシリコン酸化膜)の表面に存在する水酸基と反応し、この反応の結果、半導体基板の表面に有機材料が固定される。
【0004】
しかし、半導体基板上に絶縁性の酸化膜が存在すると、半導体基板と有機材料との間の電気的接続が難しくなる。例えば、シリコン基板上に有機EL素子を形成する場合、シリコン酸化膜の存在は有機材料への電荷注入を阻害する。また、シランカップリング剤を用いる方法では、有機材料をハロゲン化シリル基のような加水分解性の官能基で修飾する必要があるが、有機材料の化学的安定性によっては、このような修飾ができない場合もある。
【0005】
半導体基板を10-10Torr程度の超高真空中で加熱して基板表面の反応性を高める方法も知られている。超高真空中での加熱により、半導体基板の表面には半導体原子の未結合手(ダングリングボンド)や半導体原子のダイマー結合(例えばSi=Si結合)が生成する。この表面に不飽和結合を有する有機材料を反応させると、有機材料が半導体基板に直接結合する。ハロゲン原子を表面に結合させ、表面の反応性を高めた半導体基板も知られている。ハロゲン原子を有機材料により置換すれば、半導体基板の表面に有機材料を直接結合できる。
【0006】
しかし、未結合手やハロゲン原子の導入により表面の反応性を高めた半導体基板は、水分との反応性が非常に高いため、大気中で取り扱うことができない。このため、基板の保存、運搬工程、さらには有機材料を担持する工程、も制約を受ける。反応性を高めた基板の表面に有機材料を固定するには、例えば減圧雰囲気下で有機材料を蒸着すればよいが、生体分子のように、減圧下で加熱することによりその機能が失われる有機材料もある。
【0007】
このように、現状では、有機材料の機能を利用する有機材料含有デバイスの構築に適し、かつ取り扱いが容易な基板は得られていない。
【0008】
なお、半導体基板の表面、およびこの表面への有機分子の固定については、非特許文献1に詳しく解説されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ジリアン・ブリアーク(Jillian Buriak)、「シリコンおよびゲルマニウム表面における有機金属化学」、ケミカル・レビューズ、アメリカン・ケミカル・ソサエティ、米国、2002年5月、102巻、5号、1272頁〜1308頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の事情を鑑み、本発明の目的は、有機材料含有デバイスに適し、かつ取り扱いが容易な基板を提供することにある。本発明の別の目的は、この基板を用いた新たな有機材料含有デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板を提供する。
【0012】
本発明は、別の側面から、水素原子が化学吸着した半導体表面を有する基板の当該半導体表面に窒素含有反応種を接触させることにより、上記窒素含有反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を上記半導体表面に化学吸着させる、水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、さらに別の側面から、本発明の基板と、この基板の上記半導体表面上に配置された有機材料とを含む有機材料含有デバイス、さらには本発明の基板の半導体表面に化学吸着したアミノ基と有機分子とを反応させ、この有機分子を上記半導体表面に固定した有機材料含有デバイス、を提供する。
【発明の効果】
【0014】
アミノ基は、多くの官能基と化学反応しうる基であり、生体分子との親和性にも優れている。このため、本発明の基板は、生体分子を含む幅広い有機材料の固定に適している。
【0015】
アミノ基は、未結合手とは異なり、常温、常圧の大気中でも安定である。このため、本発明の基板は、大気中での取り扱いが可能であり、その保存、運搬工程、さらには有機材料を固定する工程における制約が少ない。
【0016】
本発明の基板において、アミノ基とともに半導体表面に化学吸着しているのは、有機分子や雰囲気中の水分との反応性に乏しい水素原子である。アミノ基とともに水素原子を化学吸着させることにより、基板の取り扱い性が改善され、導入する有機分子がアミノ基と選択的に反応しやすくなる。
【0017】
本発明の基板では、アミノ基が半導体表面に化学吸着しているため、アミノ基が安定して保持されている。また、有機分子をアミノ基と反応させて固定すれば、有機分子と半導体表面とが化学的に一体に結合することになる。このため、有機分子が半導体表面に強固に固定化されると同時に有機分子と半導体表面との電気的接続を容易に確保できる。
【0018】
以上のとおり、本発明は、有機材料含有デバイスに適し、取り扱いが容易な汎用性の高い基板を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の基板の半導体表面を例示する図である。
【図2】本発明の基板の半導体表面に有機材料を固定する反応を例示する図である。
【図3】本発明の基板の半導体表面に有機材料を固定する別の反応を例示する図である。
【図4】実施例1、比較例1から得た半導体表面のXPSスペクトルである。
【図5】実施例1、比較例1から得た半導体表面のFT−IRスペクトルである。
【図6】実施例2から得た半導体表面のXPSスペクトルである。
【図7】実施例2から得た半導体表面のFT−IRスペクトルである。
【図8】本発明の有機材料含有デバイスの製造に用いることができる第1の有機分子の例を示す図である。
【図9】本発明の有機材料含有デバイスの製造に用いることができる第2の有機分子の例を示す図である。
【図10】本発明の有機材料含有デバイスの製造に用いる装置の一例を示す図である。
【図11】本発明の有機材料含有デバイスの製造工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、半導体表面に水素原子とアミノ基とを化学吸着させることとした。水素原子およびアミノ基は、半導体表面を構成する原子と結合している。代表的な半導体表面としては、Si表面、SiGe表面、SiC表面のようにSiを含む原子により構成された表面が挙げられる。ただし、半導体表面は、半導体としての特性を有する表面であればよく、Ge表面のようにSiを含まない表面、GaN、GaAsのような化合物半導体により構成された表面であってもよい。本発明における半導体表面は、典型的には、Si、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種である原子Mを含む半導体表面である。
【0021】
半導体表面が、Si、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種である原子Mを含む場合、この半導体表面は、結合M−Hおよび結合M−Nを有する。結合M−Nは、通常、結合M−NH2である。
【0022】
半導体表面は、多結晶からなる面であってもアモルファス面であってもよいが、所定の結晶面であることが好ましい。所定の結晶面は、(100)面その他であってもよいが、(111)面、例えばSi(111)面が好適である。Si(111)面では、Siからの結合手が表面に垂直に伸びることになる。この結合手は有機材料の固定に適しており、有機分子を精密かつ緻密に配置すべき分子デバイスの構築にも都合がよい。分子デバイスの構築に最も好ましい半導体表面はSi(111)(1×1)面である。後述する方法を用いれば、Si(111)(1×1)面にアミノ基を導入することができる。
【0023】
半導体表面としてSi(111)面を構成するためには、Si(111)基板を用いればよい。しかし、基板はこれに限らず、他の面方位を有するSi単結晶基板を用いてもよいし、Si多結晶基板を用いてもよく、さらにはGe基板や化合物半導体基板を用いてもよい。また、いわゆるバルク基板ではなく、例えばSOI(Silicon on Insulator)基板を用いてもよい。あるいは、バルク基板に形成した酸化膜等の絶縁膜上に形成した半導体膜の表面を半導体表面としてもよい。半導体膜を形成する場合には、この膜を形成する基板として、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の非半導体を用いてもよい。本発明の実施には、アミノ基が化学吸着しうる半導体表面が存在すれば足り、半導体表面の下部構造に制限はない。
【0024】
従来から知られている技術により、半導体表面には、適宜、MOSFET等の素子を形成しておいてもよい。
【0025】
アミノ基は、半導体表面に含まれる原子との化学結合により固定される。例えば半導体表面がSiを含む原子で構成されている場合、アミノ基は、Si−N結合により当該表面に固定されている。
【0026】
本発明の半導体表面は、水素原子およびアミノ基により終端されていることが好ましい。この場合、半導体表面には、水素原子およびアミノ基以外の化学種、例えばハロゲン原子や水酸基が実質的に存在しない。後述する方法により、水素で終端した半導体表面にアミノ基を導入した場合、この表面は、水素原子およびアミノ基により終端された半導体表面となる。
【0027】
図1に、水素原子およびアミノ基が化学吸着したシリコン表面の結合状態を例示する。ここでは、第1級アミノ基および水素原子が吸着したSi(111)面を示した。ただし、上記のとおり半導体表面はこれに限らず、アミノ基も、第1級アミノ基に限らず、第2級アミノ基、第3級アミノ基であってもよい。
【0028】
アミノ基は、多くの官能基、例えばアルデヒド基、カルボキシル基、カルボニルクロリド基、カルボニル基と反応する。これを利用すれば半導体表面に各種の有機材料を固定できるため、有機材料を用いた多彩なデバイスを構築できる。
【0029】
例えば、第1級アミノ基(−NH2)とアルデヒド基を有する有機分子(CHO−R)とを反応させれば、アゾメチン結合を介して有機分子が固定される(−N=CH−R)。図2に、この反応の一例として、シリコン表面に化学吸着したアミノ基とテレフタルアルデヒドとの反応を示す。
【0030】
有機分子の固定は、アゾメチン結合に限らず、各種結合を介して行うことができる。例えば、第1級アミノ基とカルボニルクロリド基を有する有機分子とを反応させれば、ペプチド結合(酸アミド結合)を形成できる。図3に、この反応の一例として、シリコン表面に化学吸着したアミノ基とベンゾイルクロリドとの反応を示す。
【0031】
有機分子の固定には、有機分子に含まれる有機分子とアミノ基とが結合していることが好ましく、具体的には、有機分子に含まれる炭素原子とアミノ基に含まれる窒素原子とが結合C−Nを形成しているとよく、炭素原子と窒素原子とが二重結合C=Nを形成しているとさらに好ましい。アゾメチン結合等に存在する炭素−窒素二重結合におけるπ電子は、半導体表面と有機分子との間における電子の授受に寄与するからである。
【0032】
アミノ基に結合させる有機分子として、(−CH=N−)を含む有機分子を用いてもよい。このような有機分子としては、以下の繰り返し単位(1)を含む導電性有機分子が挙げられる。
【0033】
(1)−R1−CH=N−R2−N=CH−
ここで、R1およびR2はそれぞれ独立に、主鎖長が0.65nm〜4.0nmの範囲にあるπ電子共役鎖を主鎖とする基である。
【0034】
この導電性有機分子を用いた有機材料含有デバイスの製造方法、具体例については、後述する。
【0035】
本発明の基板は、有機材料を用いる幅広いデバイスへの適用が可能である。本発明の基板は、有機EL素子、有機太陽電池、有機センサー等のエレクトロニクス分野における各種デバイスに加え、バイオチップ、DNAチップ、DNAセンサー等の生体分子を用いたデバイスにも適している。アミノ基は、生体分子との親和性に優れているため、本発明の基板の半導体表面に、常温、常圧下において、DNA、タンパク質等の生体分子を固定することも可能である。本発明は、上記に例示した各種有機材料含有デバイスを包含する。
【0036】
本発明の有機材料含有デバイスでは、有機材料が半導体表面上に配置されていればよく、アミノ基と有機分子との間の化学的な結合(上記の例示では窒素−炭素結合)は必須ではない。例えば、有機TFT素子用の有機材料として知られるペンタセンの結晶構造は、電荷移動度と密接な関係を有し、基板との相互作用の影響を受ける。このため、アミノ基の導入による半導体表面の表面自由エネルギーの制御により、結晶構造を介してペンタセンの電荷移動度を制御することも可能である。ペンタセンのように、アミノ基と化学的に結合しない有機材料を用いて有機材料含有デバイスを構築しても構わない。
【0037】
本発明の方法では、水素原子が化学吸着した半導体表面に窒素含有反応種を接触させることにより、窒素含有反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を半導体表面に化学吸着させる。半導体表面への窒素含有反応種の供給は気相から行うとよく、窒素含有反応種は、アンモニアまたはアンモニアから発生したラジカルが適している。窒素含有反応種がアンモニアである場合には、アンモニアを含む雰囲気において半導体表面に電磁波を照射するとよい。ラジカルとしては、アンモニアを熱分解して発生させたNH2ラジカルを例示できる。
【0038】
減圧下(例えば10-10Torr程度)において半導体表面を加熱すると、半導体表面には未結合手が増加する。この未結合手は窒素含有反応種を導入するための反応点として機能する。しかし、この方法では、半導体表面の構造が乱れ、所望の半導体表面が得られない場合がある。例えば、Si(111)面を上記のように加熱すると、この面が7×7再構成と呼ばれる構造へと乱れることが知られている。
【0039】
このような半導体表面の再構成を防止すべき場合には、1×10-5Pa以上、例えば1×10-3〜1000Pa、の雰囲気において、基板を450℃以下、例えば0〜100℃、に保持しながら、半導体表面に窒素含有反応種を接触させるとよい。この方法により、例えば、Si(111)(1×1)面を維持しながらこの面にアミノ基を化学吸着させることができる。
【0040】
半導体表面を所定の溶液(エッチャント)で処理する湿式エッチングにより(例えば、フッ化水素酸および亜硫酸アンモニウム水溶液によるSi(111)面の処理により)、この表面を原子レベルにまで平坦化しつつ水素で終端することができる。上記に例示したエッチャントによりSi(111)面を処理すると、Si(111)(1×1)面を得ることができる。
【0041】
表面の不規則性は特性のバラツキの原因となるため、高いレベルにまで平坦化処理した半導体表面は有機材料の機能の発現には好ましい。例えば、有機材料を用いた有機センサーでは、半導体表面を平坦化することにより、微弱な信号をより正確に検出できる。平坦化した半導体表面は、微細構造を制御すべき分子デバイスにも適している。
【0042】
基板の用途によっては、半導体表面の表面積が大きいほうが望ましいこともある。この場合は、半導体表面に、平坦化処理ではなく、陽極酸化等による多孔化処理を施すとよい。
【0043】
窒素含有反応種は、窒素を含有する分子、ラジカル、イオンから適宜選択すればよいが、アンモニアまたはアンモニアから生成したラジカルが適している。窒素含有反応種は、液相において半導体表面に接触させてもよいが、気相において接触させるとよい。気相は常圧であってもよいが、減圧しても構わない。
【0044】
予め水素終端処理した半導体表面にアミノ基を化学吸着させるには、多くの方法が考えられるが、以下の方法を用いると簡便に行うことができる。
【0045】
予め水素原子が化学吸着した半導体表面に、アンモニアを含む雰囲気において、電磁波を照射すれば、この表面にアミノ基を導入できる。電磁波としては、紫外線、特に波長270〜400nm程度の紫外線が適している。
【0046】
予め水素原子が化学吸着した半導体表面を、アンモニアを含む雰囲気に曝しながら、半導体表面近傍においてアンモニアを加熱分解することによりNH2ラジカルを発生させても、この表面にアミノ基を導入できる。アンモニアの分解は、例えばタングステンフィラメントへの通電により行うとよい。
【0047】
アミノ基の化学吸着は、上記に限らず、例えば、ラジカル発生のためにプラズマを用いても構わない。
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本欄における上記説明と同様、以下の実施例も本発明の好ましい実施形態の例示に過ぎない。
【0049】
(実施例1)
Si(111)基板の表面、即ち面方位が(111)であるシリコン表面、を5%のフッ酸(フッ化水素酸)に5分間接触させて水素終端処理を行った後、50mMの亜硫酸アンモニウム水溶液と接触させ、原子レベルにまで平坦化したSi(111)面を得た。
【0050】
引き続き、処理したSi基板をチャンバー内に設置し、アンモニアガス流量を50sccm、雰囲気圧力を2torr(約266Pa)に保持した。Si基板の温度は25℃に保持した。この状態で、水素終端処理した表面に、サファイア窓を介して高圧水銀灯(100W)から紫外線を24時間照射して、Si(111)面にアミノ基を導入した。
【0051】
こうして得たSi(111)面を、XPS法(X線光電子分光法)およびFT−IR RAS法(フーリエ変換赤外分光高感度反射法)により分析した。前者により得たスペクトルを図4に、後者により得たスペクトルを図5にそれぞれ示す。
【0052】
(比較例1)
高圧水銀灯からの紫外線の照射を省略した以外は、実施例1と同様にしてSi基板の(111)面を得た。実施例1と同様にして分析した結果を図4,図5に併せて示す。
【0053】
XPSスペクトル(図4)では、実施例1で得たシリコン表面から、398eV付近に窒素に起因するピークが観察されたが、このピークは比較例1で得たシリコン表面からは観察されなかった。
【0054】
FT−IRスペクトル(図5)では、実施例1で得たシリコン表面から、N−H伸縮振動およびN−H変角振動による吸収がそれぞれ3350cm-1付近、1540cm-1付近に観察されたが、これら吸収ピークは、比較例1で得たシリコン表面からは観察されなかった。また、FT−IRスペクトルでは、比較例1で得たシリコン表面から、Si−H伸縮振動による吸収が観察されたが、このピークは、実施例1で得たシリコン表面からは確認はされたものの大幅に減衰していた。XPSスペクトルおよびFT−IRスペクトルは、実施例1で得たシリコン表面が水素原子およびアミノ基により終端していることを示していた。
【0055】
なお、実施例1において、水素終端後アミノ基導入前のSi(111)面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した結果、周期的なステップ・テラス構造が観測され、この表面が原子レベルで平坦であることが確認できた。同様に、実施例1において、アミノ基導入後のSi(111)面をAFMで測定した結果、やはり周期的なステップ・テラス構造が観測され、この表面の原子レベルでの平坦性が維持されていることが確認できた。図5に示したとおり、水素終端後のFT−IRスペクトルには、Si−H伸縮に帰属するピークが2083cm-1に現れている。これは、水素終端後のSi(111)面が水素原子がSi基板表面に垂直に結合した1×1構造であることを示している。AFMの測定結果と併せて判断すると、実施例1では、アミノ基の導入後においても、Si(111)(1×1)面が維持されていることが確認できた。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、アミノ基の導入方法を除いては実施例1と同様にして、Si(111)面にアミノ基を導入した。実施例2では、高圧水銀灯からの紫外線照射を行わず、チャンバー内に設置したタングステンフィラメントを通電によって1000℃にまで加熱し、アンモニアガスをフィラメント上で熱分解することによって発生させたアミノラジカルをSi(111)面に供給した。アンモニアガス流量、雰囲気圧力、Si基板の温度は実施例1と同じとした。
【0057】
こうして得たSi(111)面を、XPS法およびFT−IR RAS法により分析した。前者により得たスペクトルを図6に、後者により得たスペクトルを図7にそれぞれ示す。
【0058】
XPSスペクトル(図6)では、398eV付近に窒素に起因するピークが観察され、 FT−IRスペクトル(図7)では、N−H伸縮振動およびN−H変角振動による吸収がそれぞれ3350cm-1付近、1540cm-1付近に観察された。Si−H伸縮振動による吸収は、確認はされたものの、アミノ基導入前と比較すると大幅に減衰していた。
【0059】
以上より、実施例2で得たシリコン表面は、水素原子およびアミノ基により終端していることが確認できた。また、実施例2で得たシリコン表面も、実施例1と同様の測定により、アミノ基の導入後においても、Si(111)(1×1)面が維持されていることが確認できた。
【0060】
(実施例3)
p型のSi基板(抵抗率:24〜360Ωcm)を超純水中で10分間超音波洗浄した。次いで、この基板を濃硫酸と過酸化水素水の1:1混合液に10分間浸漬した後、流水中で10分間洗浄した。さらに、この基板を5%のフッ酸水溶液に5分間浸漬した。引き続き、この基板を、46%フッ酸:99%エタノール:超純水を1:1:2の比で混合して調製した溶液中で陽極酸化した。陽極酸化は、陰極として白金電極を用い、電流密度2mA/cm2の条件で750秒間行った。こうして多孔化した表面を有するSi基板を得た。
【0061】
このSi基板の表面に対し、実施例1と同様にして、アンモニア含有雰囲気中において高圧水銀灯から紫外線を照射した。
【0062】
こうして得たシリコン表面を、実施例1と同様にして分析したところ、FT−IRスペクトルから、実施例1と同様、N−H伸縮振動およびN−H変角振動による吸収がそれぞれ3350cm-1付近、1540cm-1付近に観察され、Si−H伸縮振動による吸収も確認できた。以上より、実施例3で得たシリコン表面も水素原子およびアミノ基により終端していることが確認できた。
【0063】
(比較例2)
高圧水銀灯からの紫外線の照射を省略した以外は、実施例2と同様にして、多孔化したSi基板の表面を得た。
【0064】
こうして得たシリコン表面を、実施例1と同様にして分析したところ、比較例1と同様、N−H結合に起因する吸収は認められなかった。
【0065】
(実施例4)
実施例3により得たSi基板を、10mMのベイゾイルクロリドを含む乾燥トルエン溶液中に浸漬し、室温で12時間反応させた。反応後、ソックスレー抽出器(抽出溶媒:トルエン)を用い、基板の表面に物理吸着したベンゾイルクロリドを除去した。
【0066】
こうして得たSi基板の表面を、FT−IR法により分析した。その結果、1700cm-1付近に芳香族ケトンのC=O伸縮振動による新たな吸収が、1600cm-1付近にベンゼン環の面内骨格振動による新たな吸収がそれぞれ確認された。
【0067】
以上より、実施例4で得たSi基板の表面には、図3に示した反応のとおり、アミノ基によりベイゾイルクロリドが固定されていることが確認できた。
【0068】
(実施例5)
実施例1により得たSi基板を、10mMのテレフタルアルデヒドを含む乾燥トルエン溶液中に浸漬し、室温で12時間反応させた。反応後、ソックスレー抽出器(抽出溶媒:トルエン)を用い、基板の表面に物理吸着したテレフタルアルデヒドを除去した。
【0069】
こうして得たSi基板の(111)面を、FT−IR法により分析した。その結果、1697cm-1付近に芳香族ケトンのC=O伸縮振動による新たな吸収が、1600cm-1付近にベンゼン環の面内骨格振動による新たな吸収がそれぞれ確認された。
【0070】
以上より、実施例5で得たSi基板の表面には、図2に示した反応のとおり、アミノ基によりテレフタルアルデヒドが固定されていることが確認できた。
【0071】
[導電性有機分子を結合させた形態]
以下、本発明による基板の半導体表面に、上記(1)で示した繰り返し単位を有する導電性有機分子を結合させた形態について説明する。この形態によれば、直線性が高い導電性有機分子が得られ、特に、基板に対して直立した状態で基板に結合した導電性有機分子が得られる。反応させるモノマーのπ電子共役鎖の種類を変更すれば、様々な特性の導電性有機分子を得ることが可能である。このような導電性有機分子を用いることによって、特性が高い電子デバイス、例えば、有機発光ダイオード等を実現できる。さらには、単一分子内に量子構造を形成し精密な電子状態制御を行い、単一分子発光ダイオード等を実現できる。
【0072】
この導電性有機分子は、上記構造単位(1)が繰り返し結合した分子鎖を含む。R1とR2とは同じであってもよいし、異なってもよい。R1およびR2の主鎖はπ電子共役鎖であればよく、たとえば、−CH=CH−基、−C≡C−基、芳香環(複素環を含む)が、単独または組み合わされて共役結合したものである。主鎖には、側鎖が結合していなくてもよいし、側鎖が結合していてもよい。適切な主鎖および側鎖を選択することによって、様々な特性を有する導電性有機分子を製造できる。主鎖の鎖長は、1.0nm〜3.0nmの範囲にあることがより好ましい。
【0073】
式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性有機分子は、以下の式(2)で表される第1の有機分子と、以下の式(3)で表される第2の有機分子とを交互に半導体表面に供給して互いに反応させることにより、得ることができる。
【0074】
(2)OHC−R1−CHO、(3)H2N−R2−NH2
ここで、R1およびR2は、上記と同様、それぞれ独立に、主鎖長が0.65nm〜4.0nmの範囲にあるπ電子共役鎖を主鎖とする基である。
【0075】
第1の有機分子の例を図8に示し、第2の有機分子の例を図9に示す。本発明の製造方法では、第1の有機分子と第2の有機分子とを交互に供給するサイクルを繰り返すことによって、分子鎖を伸長する。基板上に供給する第1および第2の有機分子は、原則としてすべてのサイクルで共通であるが、本発明の効果が得られる限り、サイクルごとに異なる第1および第2の有機分子を供給してもよい。
【0076】
主鎖の鎖長が上記の範囲程度の有機分子を用いると、基板表面と鎖軸とがなす角度が大きい導電性有機分子を基板上に形成することが容易となる。
【0077】
上記R1およびR2は、[主鎖長]/[鎖軸に垂直な方向における幅]の値(以下、「アスペクト比」という場合がある)が、3〜12の範囲にあることが好ましい。このように、アスペクト比が高い分子を用いることによって、基板表面と鎖軸とがなす角度を特に大きくできる。アスペクト比は、5〜10の範囲にあることがより好ましい。
【0078】
好ましいアスペクト比を有する基の例として、上記R1およびR2は、それぞれ独立に以下の式(4)または式(5)で表される基であってもよい。
【0079】
【化1】
【0080】
【化2】
【0081】
アミノ基を化学吸着させた半導体表面に第1の有機分子を供給し、アミノ基と、第1の有機分子のアルデヒド基とを反応させる(工程(i))。次いで、第2の有機分子を半導体表面に供給し、第1の有機分子のアルデヒド基(アミノ基と反応したアルデヒド基と反対側のアルデヒド基)と第2の有機分子のアミノ基とを反応させる(工程(ii))。さらに、第1の有機分子を半導体表面に第1の有機分子を供給し、第2の有機分子のアミノ基(アルデヒド基と反応したアミノ基と反対側のアミノ基)と第1の有機分子のアルデヒド基とを反応させる(工程(iii))。以降、工程(ii)と工程(iii)とを繰り返して、導電性有機分子の主鎖を成長させる。
【0082】
こうして成長させた導電性有機分子は、シリコン基板表面と主鎖軸とがなす角度が大きい状態で半導体表面に固定される。この導電性有機分子は、アゾメチン結合(−N=CH−)を介して半導体表面と結合しているため、この半導体表面との間に良好な導電性を有する。
【0083】
有機分子を基板上に供給する際の基板温度は、供給する有機分子の蒸発温度近傍、例えば[蒸発温度−50℃]以上の温度とすることが好ましく、例えば蒸発温度以上の温度である。この構成によれば、基板上に供給された有機分子のうち、不要な分子が気相中に遊離するため、導電性有機分子を設計通りに効率よく形成できる。また、基板温度は、たとえば[蒸発温度+50℃]以下とすることが好ましい。この構成によれば、基板上に供給された有機分子を効率よく反応させることができる。
【0084】
第1の有機分子と第2の有機分子とを交互に反応させるサイクルを繰り返すことによって、任意の鎖長の導電性有機分子を形成できる。導電性有機分子の鎖長に特に限定はないが、一例では、1.5nm〜1μmの範囲である。
【0085】
以下、導電性有機分子を基板に結合させる方法の一例として、発光素子を形成する方法について説明する。
【0086】
(実施例6)
まず、Si(111)基板を5%のフッ酸(フッ化水素酸)に5分間接触させて表面の水素終端処理を行った後、50mMの亜硫酸アンモニウム水溶液と接触させ、原子レベルにまで平坦化したSi(111)面を得る。次に、処理したSi基板をチャンバー内に設置し、アンモニアガス流量を50sccm、雰囲気圧力を2torr(約266Pa)に保持する。この状態で、水素終端処理した基板表面に、サファイア窓を介して高圧水銀灯(100W)から紫外線を24時間照射する。このようにして、アミノ基が表面に結合したシリコン基板を作製する。
【0087】
次に、図10に示すように、得られたシリコン基板10を真空蒸着装置20のチャンバー内の基板ホルダ21にセットする。チャンバー内には、第1の有機分子である1,4−ビス(4−ホルミルスチリル)ベンゼン(1,4-bis(4-formylstyryl)benzene)が充填された蒸着源22と、第2の有機分子である4,4”−ジアミノ−p−ターフェニル(4,4"-Diamino-p-terphenyl)が充填された蒸着源23とを配置する。
【0088】
次に、ターボ分子ポンプを用いてチャンバー内を排気し、圧力が1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)となったところで、基板ホルダ21を200℃に加熱する。次に、蒸着源22を260℃まで加熱し、第1の有機分子である1,4−ビス(4−ホルミルスチリル)ベンゼンを蒸発させ、一定時間経過後に加熱を停止する。基板表面に到達した第1の有機分子のうち、基板表面のアミノ基と反応した分子は化学結合によって基板表面に固定されるが、反応しなかった分子については、図11(a)に示すように再蒸発する。このようにして、第1の有機分子の単分子層が基板上に形成される。
【0089】
次に、蒸発源23を200℃まで加熱し、第2の有機分子である4,4”−ジアミノ−p−ターフェニルを蒸発させ、一定時間経過後に加熱を停止する。このとき、基板上に固定された第1の有機分子のアルデヒド基と、第2の有機分子のアミノ基の1つとが脱水縮合反応し、アゾメチン結合を形成して結合する。この反応は、反応性が非常に高いため、室温でも容易に進行する。この反応により、図11(b)に示すように、導電性有機分子の分子鎖が伸長する。
【0090】
第1の有機分子と第2の有機分子とを交互に供給するサイクルを30回繰り返すことによって、膜厚約100nmのポリアゾメチンの薄膜が得られる。最後に、シャドウマスクを用いてパターン化した金属電極を蒸着することによって、素子が得られる。電極用の金属としては、Au、Ag、Al、Ca、Mg、Na、Li、およびこれらの合金を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、有機EL素子、有機太陽電池に代表されるエレクトロニクス分野における各種デバイスや分子デバイスに有用な基板を提供し、さらにこの基板を用いた有機材料含有デバイスを提供するものとして、これらデバイスの技術分野において極めて大きな利用価値を有する。
【符号の説明】
【0092】
10 シリコン基板
20 真空蒸着装置
21 基板ホルダ
22,23 蒸着源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板。
【請求項2】
前記半導体表面がSi、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種である原子Mを含む請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記半導体表面が、結合M−Hおよび結合M−Nを有する請求項1に記載の基板。
【請求項4】
前記半導体表面が所定の結晶面である請求項1に記載の基板。
【請求項5】
前記所定の結晶面が(111)面である請求項4に記載の基板。
【請求項6】
前記所定の結晶面が、Si(111)(1×1)面である請求項5に記載の基板。
【請求項7】
前記半導体表面が、前記水素原子および前記アミノ基により終端されている請求項1に記載の基板。
【請求項8】
水素原子が化学吸着した半導体表面を有する基板の前記半導体表面に窒素含有反応種を接触させることにより、前記窒素含有反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を前記半導体表面に化学吸着させる、水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板の製造方法。
【請求項9】
前記半導体表面に前記窒素含有反応種を気相から供給する請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項10】
前記窒素含有反応種が、アンモニアまたはアンモニアから発生したラジカルである請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項11】
前記窒素含有反応種がアンモニアであり、前記アンモニアを含む雰囲気において前記半導体表面に電磁波を照射する請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項12】
前記窒素含有反応種が、アンモニアを熱分解させて発生させたNH2ラジカルである請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項13】
1×10-5Pa以上の雰囲気において前記基板を450℃以下に保持しながら、前記半導体表面に窒素含有反応種を接触させる請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項14】
前記窒素含有反応種を接触させる半導体表面が、湿式エッチングにより水素原子を化学吸着させた半導体表面である請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項15】
前記窒素含有反応種を接触させる半導体表面と、前記水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面とが、ともにSi(111)(1×1)面である請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の基板と、前記基板の前記半導体表面上に配置された有機材料とを含む有機材料含有デバイス。
【請求項17】
請求項1に記載の基板の半導体表面に化学吸着したアミノ基と有機分子とを反応させ、前記有機分子を前記半導体表面に固定した有機材料含有デバイス。
【請求項18】
前記有機分子に含まれる炭素原子と前記アミノ基に含まれる窒素原子とが結合C−Nを形成している請求項17に記載の有機材料含有デバイス。
【請求項19】
前記炭素原子と前記窒素原子とが二重結合C=Nを形成している請求項18に記載の有機材料含有デバイス。
【請求項20】
前記有機分子が、(−CH=N−)を含む請求項17に記載の有機材料含有デバイス。
【請求項21】
前記有機分子が、下記式(1)で示される繰り返し単位を有する導電性有機分子である請求項20に記載の有機材料含有デバイス。
(1)−R1−CH=N−R2−N=CH−
ただし、R1およびR2はそれぞれ独立に、主鎖長が0.65nm〜4.0nmの範囲にあるπ電子共役鎖を主鎖とする基である。
【請求項1】
水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板。
【請求項2】
前記半導体表面がSi、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種である原子Mを含む請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記半導体表面が、結合M−Hおよび結合M−Nを有する請求項1に記載の基板。
【請求項4】
前記半導体表面が所定の結晶面である請求項1に記載の基板。
【請求項5】
前記所定の結晶面が(111)面である請求項4に記載の基板。
【請求項6】
前記所定の結晶面が、Si(111)(1×1)面である請求項5に記載の基板。
【請求項7】
前記半導体表面が、前記水素原子および前記アミノ基により終端されている請求項1に記載の基板。
【請求項8】
水素原子が化学吸着した半導体表面を有する基板の前記半導体表面に窒素含有反応種を接触させることにより、前記窒素含有反応種に由来する窒素原子を含むアミノ基を前記半導体表面に化学吸着させる、水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面を有する基板の製造方法。
【請求項9】
前記半導体表面に前記窒素含有反応種を気相から供給する請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項10】
前記窒素含有反応種が、アンモニアまたはアンモニアから発生したラジカルである請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項11】
前記窒素含有反応種がアンモニアであり、前記アンモニアを含む雰囲気において前記半導体表面に電磁波を照射する請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項12】
前記窒素含有反応種が、アンモニアを熱分解させて発生させたNH2ラジカルである請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項13】
1×10-5Pa以上の雰囲気において前記基板を450℃以下に保持しながら、前記半導体表面に窒素含有反応種を接触させる請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項14】
前記窒素含有反応種を接触させる半導体表面が、湿式エッチングにより水素原子を化学吸着させた半導体表面である請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項15】
前記窒素含有反応種を接触させる半導体表面と、前記水素原子およびアミノ基が化学吸着した半導体表面とが、ともにSi(111)(1×1)面である請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の基板と、前記基板の前記半導体表面上に配置された有機材料とを含む有機材料含有デバイス。
【請求項17】
請求項1に記載の基板の半導体表面に化学吸着したアミノ基と有機分子とを反応させ、前記有機分子を前記半導体表面に固定した有機材料含有デバイス。
【請求項18】
前記有機分子に含まれる炭素原子と前記アミノ基に含まれる窒素原子とが結合C−Nを形成している請求項17に記載の有機材料含有デバイス。
【請求項19】
前記炭素原子と前記窒素原子とが二重結合C=Nを形成している請求項18に記載の有機材料含有デバイス。
【請求項20】
前記有機分子が、(−CH=N−)を含む請求項17に記載の有機材料含有デバイス。
【請求項21】
前記有機分子が、下記式(1)で示される繰り返し単位を有する導電性有機分子である請求項20に記載の有機材料含有デバイス。
(1)−R1−CH=N−R2−N=CH−
ただし、R1およびR2はそれぞれ独立に、主鎖長が0.65nm〜4.0nmの範囲にあるπ電子共役鎖を主鎖とする基である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−28124(P2010−28124A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184113(P2009−184113)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願2005−89544(P2005−89544)の分割
【原出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願2005−89544(P2005−89544)の分割
【原出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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