説明

有機絶縁体組成物、有機絶縁膜、有機薄膜トランジスタおよび電子素子

【課題】フッ素含有のシラン系化合物を用いて有機薄膜トランジスタの電荷移動度およびヒステリシスを改善させ、スレショルド電圧および電荷移動度などの物性を向上させて液晶ディスプレイ、光電変換素子などの各種電子素子の製造に有用に活用することが可能な有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】基板1、ゲート電極2、有機絶縁膜3、有機半導体層6、およびソース/ドレイン電極4、5を含む有機薄膜トランジスタにおいて、前記有機絶縁膜3が有機絶縁体組成物から形成されることを特徴とする、有機薄膜トランジスタを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含む有機絶縁体組成物、有機絶縁膜、有機薄膜トランジスタおよび電子素子に係り、さらに詳しくは、フッ素を含むシラン系化合物を用いて電荷移動度およびヒステリシス(hysteresis)を改善させた有機絶縁体組成物、有機絶縁膜、有機薄膜トランジスタおよび電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ素子や有機電界発光ディスプレイ素子などの平板ディスプレイ素子には、この種の素子を駆動させるための多様な薄膜トランジスタ(TFT)などが備えられる。薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース/ドレイン電極、並びにゲート電極の駆動によって活性化される半導体層を備える。
【0003】
現在、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、TFT)の半導体層として多く用いられているチャネル物質としては、非晶質シリコン(Amorphous Si、以下「a−Si」という)と多結晶シリコン(Polycrystalline Si、以下「Poly−Si」という)が主に採用されている。最近は、様々な伝導性有機材料の開発に伴い、ペンタセン、ポリチオフェンなどの有機半導体を用いた有機薄膜トランジスタ(OTFT)についての研究が盛んに行われている。
【0004】
ところが、この種の有機薄膜トランジスタは、非晶質シリコン薄膜トランジスタと比較して電荷移動度が低く、駆動電圧およびスレショルド電圧も非常に高いという問題点がある。特に、工程の単純化およびコストダウンのために、その製造がプラスチック基板上のオールプリンティング(all-printing)またはオールスピンオン(all-spin on)方式によって行われる必要がある。したがって、有機薄膜トランジスタにおいてゲート絶縁層と有機半導体層との界面における電荷移動度を高め且つ簡単な工程で形成可能なゲート絶縁層についての研究が多様に試みられている。
【0005】
このような試みの一つとして、特許文献1および非特許文献1は、高誘電率(High−k)の絶縁膜を用いて駆動電圧およびスレショルド電圧を低くしたOTFTを開示している。この場合、ゲート絶縁層は、例えばBaSr1−xTiO(BST;Barium Strontium Titanate)、Ta、Y、TiOなどの無機金属酸化物、または例えばPbZrTi1−x(PZT)、BiTi12、BaMgF、SrBi(Ta1−xNb、Ba(Zr1−xTi)O(BZT)、BaTiO、SrTiO、BiTi12などの強誘電性絶縁体からなっており、化学蒸着、物理蒸着、スパッタリング、ゾル−ゲルコーティング方法によって製造される。ところが、このような有機薄膜トランジスタは、駆動電圧を−5Vまで低くすることはできるが、依然として不満足な0.6cm/Vs以下の電荷移動度を示し、大部分の製造工程が200〜400℃の高温を要求するため、フレキシブルディスプレイに有利なプラスチック基板を使用することができず、素子製作の際に単純コーティングまたはプリンティングなどの通常の湿式工程を適用することが難しいという問題点がある。
【0006】
一方、特許文献2は、有機絶縁膜としてポリイミド、ベンゾシクロブテン(benzocyclobutene)、またはポリアクリルなどを使用した例を開示しているが、無機絶縁膜を代替する程度の素子特性は示していない。
したがって、有機薄膜トランジスタにおいて電荷移動度などの電気的特性を向上させるうえ、有機絶縁膜を通常の湿式工程でも簡単に製造することが可能な、新規の方法が求められている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,981,970号明細書
【特許文献2】米国特許第6,232,157号明細書
【非特許文献1】Science, Vol.283, pp822-824
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した従来の技術の問題点を解決するためのもので、その目的とするところは、フッ素系表面処理剤の機能を備えて、有機絶縁膜の工程を単純化させながら有機薄膜トランジスタの電荷移動度およびヒステリシスなどの物性を改善させることが可能な、有機絶縁体組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記した有機絶縁体組成物から形成される有機絶縁膜、かかる有機絶縁膜を含む有機薄膜トランジスタおよび電子素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的を達成するための本発明のある態様によれば、(i)下記化学式1または下記化学式2で表される化合物単独、或いはこれらの混合物または重合体からなるか、下記化学式1または2で表される化合物を下記化学式3〜5のいずれか一つで表される化合物と混合または共重合させて得た混合物または共重合体からなるシラン系化合物と、(ii)有機金属化合物と、(iii)溶媒とを含む、有機絶縁体組成物を提供する。
SiX ・・・(化学式1)
SiX ・・・(化学式2)
(前記化学式1および前記化学式2において、
、Rは、それぞれ独立に、炭素原子と共有結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたC1〜C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、およびヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、
、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
SiX ・・・(化学式3)
SiX ・・・(化学式4)
SiX ・・・(化学式5)
(前記化学式3〜5において、
、Rは、それぞれ独立に、水素原子;置換または非置換のC1〜C20のアルキル基;置換または非置換のC2〜C20のアルケニル基;置換または非置換のC2〜C20のアルキニル基;置換または非置換のC6〜C20のアリール基;置換または非置換のC6〜C20のアリールアルキル基;置換または非置換のC1〜C20のヘテロアルキル基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリール基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、ここで、置換基はアクリル基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、エポキシ基、またはニトリル基であり、
、X、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
【0010】
前記した目的を達成するための本発明の他の態様によれば、基板、ゲート電極、有機絶縁膜、有機半導体層、およびソース/ドレイン電極を含む有機薄膜トランジスタにおいて、前記有機絶縁膜が前記有機絶縁体組成物から形成されることを特徴とする、有機薄膜トランジスタを提供する。
また、前記した目的を達成するための本発明のさらに他の態様によれば、前記した有機薄膜トランジスタを含む電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る有機絶縁体組成物は、フッ素系表面処理剤の機能を備えて、有機絶縁膜の工程を単純化させながら、電荷移動度およびヒステリシスなどの物性を改善させることが可能である。
また、本発明に係る有機薄膜トランジスタは、フッ素含有の有機絶縁体組成物を使用することにより、既存の有機絶縁体およびフッ素系表面処理剤をそれぞれコートしなければならない工程上の不便さを改善して工程を単純化させるうえ、有機薄膜トランジスタのヒステリシスを改善させ、スレショルド電圧および電荷移動度などの物性を大幅に向上させることができ、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、光電変換素子(Photovoltaic Device)、有機発光素子(OLED)、センサ、メモリ、または集積回路などの電子素子の製造に有用に活用することができる。
また、本発明に係る電子素子は、前記した有機薄膜トランジスタを用いているので、スレショルド電圧および電荷移動度などの物性が大幅に向上している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の有機絶縁体組成物、有機絶縁膜、有機薄膜トランジスタおよび電子素子について詳細に説明する。
本発明に係る有機絶縁体組成物は、(i)下記化学式1または下記化学式2で表される化合物単独、或いはこれらの混合物または重合体からなるか、下記化学式1または下記化学式2で表される化合物を下記化学式3〜5のいずれか一つで表される化合物と混合または共重合させて得た混合物または共重合体からなるシラン系化合物と、(ii)有機金属化合物と、(iii)有機溶媒とを含む。
SiX ・・・(化学式1)
SiX ・・・(化学式2)
(前記化学式1および前記化学式2において、
、Rは、それぞれ独立に、炭素原子と共有結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたC1〜C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、およびヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、
、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
SiX ・・・(化学式3)
SiX ・・・(化学式4)
SiX ・・・(化学式5)
(前記化学式3〜5において、
、Rは、それぞれ独立に、水素原子;置換または非置換のC1〜C20のアルキル基;置換または非置換のC2〜C20のアルケニル基;置換または非置換のC2〜C20のアルキニル基;置換または非置換のC6〜C20のアリール基;置換または非置換のC6〜C20のアリールアルキル基;置換または非置換のC1〜C20のヘテロアルキル基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリール基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、
、X、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
【0013】
ペンタセンなどの有機半導体層を含む有機薄膜トランジスタにおいて、フッ素が置換されていない一般的なシラン系化合物を用いてゲート絶縁膜を形成する場合、ヒステリシス(履歴現象)が15〜20Vに達する。これに対し、本発明に係る有機絶縁体組成物は、シラン系化合物において置換アルキル基などの末端がフッ素で置換されているため、既存のシラン系化合物などの絶縁膜上にフッ素系表面処理剤を別途にコートする工程を行うことなく、フッ素含有有機絶縁膜で直接形成できるうえ、有機薄膜トランジスタ素子の電荷移動度特性を低下させずにヒステリシスを10V未満に改善させることができる。
【0014】
本発明の有機絶縁体組成物に用いられるシラン系化合物は、下記化学式1または下記化学式2で表される化合物を単独で或いは2種以上混合または重合して使用することができる。
SiX ・・・(化学式1)
SiX ・・・(化学式2)
(前記化学式1〜2において、
、Rは、それぞれ独立に、炭素原子と共有結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたC1〜C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、およびヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、
、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
【0015】
前記したシラン系化合物としては、具体的に、例えばトリメトキシトリフルオロプロピルシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メトキシジクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)プロピルジメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジエトキシクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、本発明の有機絶縁体組成物に用いられるシラン系化合物は、前記化学式1または前記化学式2で表される化合物を下記化学式3〜5のいずれか一つで表される化合物と混合または共重合させて使用することもできる。
SiX ・・・(化学式3)
SiX ・・・(化学式4)
SiX ・・・(化学式5)
(前記化学式3〜5において、
、Rは、それぞれ独立に、水素原子;置換または非置換のC1〜C20のアルキル基;置換または非置換のC2〜C20のアルケニル基;置換または非置換のC2〜C20のアルキニル基;置換または非置換のC6〜C20のアリール基;置換または非置換のC6〜C20のアリールアルキル基;置換または非置換のC1〜C20のヘテロアルキル基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリール基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、
、X、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
【0017】
前記化学式3〜5において、「置換」は、アクリル基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、エポキシ基、ニトリル基などで置換されたことを意味する。
ここで、本発明の有機絶縁体組成物に用いられるシラン系化合物の含量は、共に使用する有機金属化合物、溶媒、および成膜条件によって異なるが、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは15〜35質量%であることがよい。シラン系化合物の含量が5質量%未満であれば、有機半導体の粒子サイズに影響して電荷移動度などの素子特性が低下するため好ましくなく、シラン系化合物の含量が70質量%超過であれば、成膜された膜の耐久性が弱くなって安定的な素子特性が得られないため好ましくない。
【0018】
本発明の有機絶縁体組成物に用いられる有機金属化合物は、絶縁特性に優れ、高誘電率を示し、誘電率4以上の金属酸化物を含み、チタニウム化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、アルミニウム化合物を用いることができる。
[1]チタニウム化合物としては、例えば、チタニウム(IV)n−ブトキシド[titanium(IV) n-butoxide]、チタニウム(IV)t−ブトキシド[titanium(IV) t-butoxide]、チタニウム(IV)エトキシド[titanium(IV) ethoxide]、チタニウム(IV)2−エチルヘキソキシド[titanium(IV) 2-ethylhexoxide]、チタニウム(IV)イソプロポキシド[titanium(IV) isopropoxide]、チタニウム(IV)(ジイソプロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)[titanium(IV) (diisopropoxide)bis(acetylacetonate)]、チタニウム(IV)オキシドビス(アセチルアセトナート)[titanium(IV) oxide bis(acetylacetonate)]、トリクロロトリス(テトラヒドロフラン)チタニウム(III)[trichlorotris(tetrahydrofuran) titanium(III)]、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)チタニウム(III)[tris(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)titanium(III)]、(トリメチル)ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウム(IV)[(trimethyl)pentamethyl cyclopentadienyltitanium(IV)]、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウムトリクロライド(IV)[pentamethylcyclopentadienyltitanium trichloride(IV)]、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウムトリメトキシド(IV)[pentamethylcyclopentadienyltitanium trimethoxide(IV)]、テトラクロロビス(シクロヘキシルメルカプト)チタニウム(IV)[tetrachlorobis(cyclohexylmercapto)titanium(IV)]、テトラクロロビス(テトラヒドロフラン)チタニウム(IV)[tetrachlorobis(tetrahydrofuran)titanium(IV)]、テトラクロロジアミンチタニウム(IV)[tetrachlorodiaminetitanium(IV)]、テトラキス(ジエチルアミノ)チタニウム(IV)[tetrakis(diethylamino)titanium(IV)]、テトラキス(ジメチルアミノ)チタニウム(IV)[tetrakis(dimethylamino)titanium(IV)]、ビス(t−ブチルシクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド[bis(t-butylcyclopentadienyl)titanium dichloride]、ビス(シクロペンタジエニル)ジカルボニルチタニウム(II)[bis(cyclopentadienyl)dicarbonyl titanium(II)]、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド[bis(cyclopentadienyl)titanium dichloride]、ビス(エチルシクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド[bis(ethylcyclopentadienyl)titanium dichloride]、ビス(ペンタメチルシクロペタジエニル)チタニウムジクロライド[bis(pentamethylcyclopentadienyl)titanium dichloride]、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド[bis(isopropylcyclopentadienyl)titanium dichloride]、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)オキソチタニウム(IV)[tris(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)oxotitanium(IV)]、クロロチタニウムトリイソプロポキシド[chlorotitanium triisopropoxide]、シクロペンタジエニルチタニウムトリクロライド[cyclopentadienyltitanium trichloride]、ジクロロビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)チタニウム(IV)[dichlorobis(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)titanium(IV)]、ジメチルビス(t−ブチルシクロペンタジエニル)チタニウム(IV)[dimethylbis(t-butylcyclopentadienyl)titanium(IV)]、
ジ(イソプロポキシド)ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)チタニウム(IV)[di(isopropoxide)bis(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)titanium(IV)])などを用いることができる。
【0019】
[2]また、ジルコニウム化合物やハフニウム化合物としては、例えば、ジルコニウム(IV)n−ブトキシド[zirconium(IV)n-butoxide]、ジルコニウム(IV)t−ブトキシド[zirconium(IV)t-butoxide]、ジルコニウム(IV)エトキシド[zirconium(IV)ethoxide]、ジルコニウム(IV)イソプロポキシド[zirconium(IV)isopropoxide]、ジルコニウム(IV)n−プロポキシド[zirconium(IV)n-propoxide]、ジルコニウム(IV)アセチルアセトナート[zirconium(IV)acetylacetonate]、ジルコニウム(IV)ヘキサフルオロアセチルアセトナート[zirconium(IV)hexafluoroacetylacetonate]、ジルコニウム(IV)トリフルオロアセチルアセトナート[zirconium(IV)trifluoroacetylacetonate]、テトラキス(ジエチルアミノ)ジルコニウム[tetrakis(diethylamino)zirconium]、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム[tetrakis(dimethylamino)zirconium]、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ジルコニウム(IV)[tetrakis(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)zirconium(IV)]、ジルコニウム(IV)サルフェートテトラヒドレート[zirconium(IV)sulfate tetrahydrate]、ハフニウム(IV)n−ブトキシド[hafnium(IV)n-butoxide]、ハフニウム(IV)t−ブトキシド[hafnium(IV)t-butoxide]、ハフニウム(IV)エトキシド[hafnium(IV)ethoxide]、ハフニウム(IV)イソプロポキシド[hafnium(IV)isopropoxide]、ハフニウム(IV)イソプロポキシドモノイソプロピレート[hafnium(IV)isopropoxide monoisopropylate]、ハフニウム(IV)アセチルアセナート[hafnium(IV)acetylacetonate]、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム[tetrakis(dimethylamino)hafnium])などを用いることができる。
【0020】
[3]また、アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムn−ブトキシド[aluminium n-butoxide]、アルミニウムt−ブトキシド[aluminium t-butoxide]、アルミニウムsec−ブトキシド[aluminium sec-butoxide]、アルミニウムエトキシド[aluminium ethoxide]、アルミニウムイソプロポキシド[aluminium isopropoxide]、アルミニウムアセチルアセトナート[aluminium acetylacetonate]、アルミニウムヘキサフルオロアセチルアセトナート[aluminium hexafluoroacetylacetonate]、アルミニウムトリフルオロアセチルアセトナート[aluminium trifluoroacetylacetonate]、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)アルミニウム[tris(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)aluminium])などを用いることができる。
しかし、本発明の有機絶縁体組成物に用いられる有機金属化合物はこれらに制限されるものではない。
【0021】
本発明の有機絶縁体組成物において、有機金属化合物の含量は0.01〜10質量%であることが好ましい。有機金属化合物の含量が0.01質量%未満であれば、前記した有機金属化合物の効果を得ることができず、有機金属化合物の含量が10質量%を超過すると、均一相の組成物を得ることができないか、製造された素子の漏れ電流が増加してしまい、好ましくない。
【0022】
本発明の有機絶縁体組成物において用いられる有機溶媒は、有機絶縁膜の製造の際に通常使用するものであればどのようなものでもよい。具体的には、ヘキサン(hexane)、ヘプタン(heptane)などの脂肪族炭化水素溶媒(aliphatic hydrocarbon solvent);トルエン(toluene)、ピリジン(pyridine)、キノリン(quinoline)、アニソール(anisole)、メシチレン(mesitylene)、キシレン(xylene)などの芳香族系炭化水素溶媒(aromatic hydrocarbon solvent);シクロヘキサノン(cyclohexanone)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)、4−ヘプタノン(4-heptanone)、メチルイソブチルケトン(methylisobutyl ketone)、1−メチル−2−ピロリドン(1-methyl-2-pyrrolidone)、シクロヘキサノン(cyclohexanone)、アセトン(acetone)などのケトン系溶媒(ketone-based solvent);テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、イソプロピルエテール(isopropyl ether)などのエーテル系溶媒(ether-based solvent);エチルアセテート(ethyl acetate)、ブチルアセテート(butyl acetate)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate)などのアセテート系溶媒(acetate-based solvent);イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、ブチルアルコール(butyl alcohol)などのアルコール系溶媒(alcohol-based solvent);ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)などのアミド系溶媒;シリコン系溶媒(silicon-based solvent);またはこれらの混合物を使用することができる。ここで、有機溶媒の含量は、前記した有機絶縁体組成物中の10〜94質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明の有機絶縁体組成物は、有機高分子マトリックスまたは無機高分子マトリックスをさらに含むことができる。このような有機高分子マトリックスまたは無機高分子マトリックスは、分子量1,000〜1,000,000の高分子であって、ポリビニルフェノールまたはポリビニルフェノール誘導体、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体、ポリアクリルまたはポリアクリル誘導体、ポリノルボルネンまたはポリノルボルネン誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリシロキサン誘導体、セルロース誘導体、およびこれらを含む共重合体よりなる群から選択でき、好ましくは主鎖または側鎖の各末端にヒドロキシ基、カルボキシル基またはその塩、リン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、アミン基またはその塩などの極性基を含むことができる。
【0024】
ここで、有機高分子マトリックスまたは無機高分子マトリックスは、有機絶縁体組成物中の0.01〜10質量%の範囲であることが好ましい。有機高分子マトリックスまたは無機高分子マトリックスの含量が10質量%を超過すると、成膜された膜の耐久性が弱くなって安定的な素子特性が得られないため、好ましくない。
【0025】
このような有機絶縁体組成物は、基板上にコートされて熱処理によって有機絶縁膜に製造される。この際、有機絶縁体組成物を基板上に塗布する方法としては、スピンコーティング(spin coating)、ディップコーティング(dip coating)、ロールコーティング(roll coating)、スクリーンコーティング(screen coating)、スプレーコーティング(spray coating)、スピンキャスティング(spin casting)、フローコーティング(flow coating)、スクリーン印刷(screen printing)、インクジェット(ink jet)またはドロップキャスティング(drop casting)などのコーティング方法を使用することができる。便宜性および均一性の面において最も好ましい塗布方法は、スピンコーティングである。スピンコーティングを行う場合、スピン速度は400〜4000rpmの範囲内で調節されることが好ましい。
そして、有機絶縁膜を形成するための熱処理段階は、少なくとも50℃以上の温度で、少なくとも1分以上基板を加熱して行われることが好ましい。
【0026】
このように本発明の有機絶縁体組成物は、フッ素系表面処理剤の機能を備えて、従来の有機絶縁体とフッ素系表面処理剤を別途にコートしなければならない工程上の不便さを改善して工程を単純化させるうえ、ペンタセンなどの有機薄膜トランジスタにおいてヒステリシスを10V未満に改善させ、溶液工程が可能な有機薄膜トランジスタにおいても電荷移動度を向上させることができる。
【0027】
また、このように本発明に係る有機絶縁体組成物は、有機薄膜トランジスタの単位特性を向上させることにより、液晶ディスプレイ(LCD)、光電変換素子(Photovoltaic Device)、有機発光素子(OLED)、センサ、メモリ、集積回路などの各種電子素子の製造に効果的に適用できる。この際、本発明の有機絶縁体組成物は、当業界に知られている通常の工程によって電子素子に適用できる。
【0028】
また、本発明の他の態様は、有機絶縁体組成物から形成される有機絶縁膜を含む有機薄膜トランジスタを提供する。
本発明の好適な具体例に係る有機薄膜トランジスタの模式的断面構造を図1および図2に示した。図1は、一つの好適な具体例としてボトムコンタクト(bottom contact)構造の素子(有機薄膜トランジスタ)を、図2は、トップコンタクト(top contact)構造の素子(有機薄膜トランジスタ)を示し、本発明の目的を阻害しない範囲内で変形した構造とすることができる。
【0029】
図1に示すように、ボトムコンタクト構造の本発明の有機薄膜トランジスタは、基板1から順に、ゲート電極2、有機絶縁膜3、ソース/ドレイン電極4、5、および有機半導体層6を積層した構造となっており、当該有機絶縁膜3は、前記した本発明に係る有機絶縁体組成物から形成されている。
【0030】
本発明に係る有機薄膜トランジスタの基板1としては、通常用いられる基板であれば特に限定されず、ガラス基板、シリカ基板、プラスチック基板などを使用することができる。
【0031】
本発明に係る有機薄膜トランジスタのゲート電極2およびソース/ドレイン電極4、5の素材としては、通常用いられる金属または伝導性高分子を使用することができる。具体的には、ドープされた珪素(Si)または金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、インジウムスズ酸化物(ITO)などの金属を例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
有機絶縁膜3は、本発明に係る有機絶縁体組成物から形成される。
有機半導体層6としては、通常用いられる物質を使用することができ、具体的にはペンタセン(pentacene)、ポリチオフェン(polythiophene)、ポリアニリン(polyaniline)、ポリアセチレン(polyacetylene)、ポリピロール(polypyrrole)、ポリフェニレンビニレン(polyphenylene vinylene)、またはこれらの誘導体を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
ここで、本発明に係る有機薄膜トランジスタの製造方法の一例について説明する。
ボトムコンタクト構造の本発明に係る有機薄膜トランジスタは、まず、基板1を洗浄して不純物を除去した後、その上に化学気相蒸着、プラズマ化学気相蒸着、スパッタリングなどの通常の工程を用いて、ゲート電極2として選択される少なくとも1種の金属を蒸着し、パターニングしてゲート電極2を形成し、次いで、ゲート電極2を形成した基板1上に、前記した塗布方法によって、本発明に係る有機絶縁体組成物を塗布して有機絶縁膜3を形成し、次いで、有機絶縁膜3上に、ソース/ドレイン電極4、5として選択される少なくとも1種の金属を蒸着し、パターニングしてソース/ドレイン電極4、5を形成し、その後、有機半導体層6を形成することで製造することができる。
なお、有機半導体層6は、例えば、OMBD(Organic molecular beam deposition)方式で形成することができるほか、スピンコートなどにより塗布して、所定温度で所定時間ベーキングすることで形成することができる。ベーキングは、アルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0034】
そして、図2に示すように、トップコンタクト構造の本発明の有機薄膜トランジスタは、基板1から順に、ゲート電極2、有機絶縁膜3、有機半導体層6、およびソース/ドレイン電極4、5を積層した構造となっており、当該有機絶縁膜3は、前記した本発明に係る有機絶縁体組成物から形成されている。
なお、ゲート電極2およびソース/ドレイン電極4、5の素材、有機半導体層6については、前記した本発明の有機薄膜トランジスタ(ボトムコンタクト構造)と同様であるので、その説明を省略する。
【0035】
トップコンタクト構造の本発明に係る有機薄膜トランジスタは、基板1を洗浄して不純物を除去した後、その上に化学気相蒸着、プラズマ化学気相蒸着、スパッタリングなどの通常の工程を用いて、ゲート電極2として選択される少なくとも1種の金属を蒸着し、パターニングしてゲート電極2を形成し、次いで、ゲート電極2を形成した基板1上に、前記した塗布方法によって、本発明に係る有機絶縁体組成物を塗布して有機絶縁膜3を形成し、次いで、有機絶縁膜3上に有機半導体層6を形成し、さらに、有機半導体層6上に、ソース/ドレイン電極4、5として選択される少なくとも1種の金属を蒸着し、パターニングしてソース/ドレイン電極4、5を形成することで製造することができる、
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。なお、下記の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【0037】
「合成例1:シラン系化合物Aの合成」
【0038】
【化1】

【0039】
窒素雰囲気の下で反応器(1L)に(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン436.5g(2.0mol)を仕込んだ後、−30℃中で静置した。1.0N HCl6mL(0.006mol)と蒸留水354mL(199.99mol)を滴加漏斗に入れた後、反応器に設置した。反応溶液の温度が十分に下がったら、 このHCl水溶液(総量360mL)を徐々に滴加した後、常温で3時間攪拌した。3時間後、反応溶液を分別漏斗に注ぎ、酢酸エチル1000mLと水1000mLを入れた後、有機層を抽出した。硫酸ナトリウムを10g仕込んで2時間攪拌した後、濾過して溶媒を除去し、その後所望の無色オイル状のシラン系化合物A(重量平均分子量19,000)を得た。
シラン系化合物AのHNMR data(ppm):2.15(m,2H),0.93(H,2H)
【0040】
「合成例2:シラン系化合物Bの合成」
【0041】
【化2】

【0042】
窒素雰囲気の下で反応器(1L)に3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート447.05g(1.8moL)、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン43.65g(0.2moL)を仕込んだ後、−30℃中で静置した。1.0N HCl6mL(0.006mol)と蒸留水354mL(199.99mol)を滴加漏斗に入れた後、反応器に設置した。反応溶液の温度が十分に下がったら、 このHCl水溶液(総量360mL)を徐々に滴加した後、常温で3時間攪拌した。3時間後、反応溶液を分別漏斗に注ぎ、酢酸エチル1000mLと水1000mLを入れた後、有機層を抽出した。硫酸ナトリウムを10g仕込んで2時間攪拌した後、ろ過して溶媒を除去し、その後所望の無色オイル状のシラン系化合物B(重量平均分子量10,000)を得た。
シラン系化合物BのHNMR data(ppm):6.09(s,1H),5.55(s,1H),4.01(t,2H),3.47(m,1H),3.45(s,3H),1.91(m,3H),1.77(m,2H),0.8(H,0.2H),0.69(m,2H)
【0043】
「製造例1:有機絶縁体組成物の製造(1)」
前記した合成例1のシラン系化合物A、チタニウムt−ブトキシド、およびポリビニルフェノール(Mw8,000)を重量比でそれぞれ80:15:5の割合で混合した後、これをシクロヘキサノンに溶解させて重量比20%の組成物溶液を製造した。
【0044】
「製造例2:有機絶縁体組成物の製造(2)」
前記した合成例2のシラン系化合物Bとチタニウムt−ブトキシドを重量比でそれぞれ70:30の割合で混合した後、これをイソプロピルアルコールに溶解させて重量比20%の組成物溶液を製造した。
【0045】
「実施例1:ボトムコンタクト構造のペンタセンTFTの製造」
まず、洗浄されたガラス基板上にアルミニウムを用いて厚さ800Åのゲート電極を形成した後、その上に前記した製造例2の有機絶縁体組成物をスピンコートを用いて2000rpmで8000の厚さにコートし、その後100℃で1時間ベーキングして有機絶縁膜を形成した。前記した有機絶縁膜上に、チャネル長さ100μm、チャネル幅1mmの厚さ500ÅのITOソース/ドレイン電極を形成した後、OMBD(Organic molecular beam deposition)方式で700Åの厚さにペンタセンの有機半導体層を形成させ、図1に示したボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタ(ペンタセンTFT)を製造した。
【0046】
「実施例2:トップコンタクト構造のペンタセンTFTの製造」
有機絶縁膜上に、まずペンタセンの有機半導体層を形成し、その上にAuソース/ドレイン電極を形成して、図2に示したトップコンタクト構造の薄膜トランジスタに構成した以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタ(ペンタセンTFT)を製造した。
【0047】
「実施例3:プリンタブルTFTの製造」
有機絶縁膜上に、まず下記化学式6のチオフェン−チアゾール誘導体をトルエンに2質量%の濃度で溶解させて1000rpmで700Åの厚さにスピンコートした後、アルゴン雰囲気の下、100℃で1時間ベーキングして有機半導体層を形成し、その上にAuソース/ドレイン電極を形成して、図2に示したトップコンタクト構造の薄膜トランジスタに構成した以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタ(プリンタブルTFT)を製造した。
【0048】
【化3】

【0049】
「比較例1」
有機絶縁膜の形成の際に、フッ素で置換されていないシラン系化合物の代わりに下記化学式7で表されるポリビニルフェノール系共重合体にアクリル系架橋剤を混合した有機絶縁体組成物を用いて有機絶縁膜を形成した以外は、前記した実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを製造した。
【0050】
【化4】

【0051】
「比較例2」
有機絶縁膜形成の際に、前記した比較例1で使用された有機絶縁体組成物を用いて有機絶縁膜を形成した以外は、前記した実施例2と同様にして有機薄膜トランジスタを製造した。
【0052】
「比較例3」
有機絶縁膜形成の際に、前記した比較例1で使用された有機絶縁体組成物を用いてスピンコーティング方法でコートして厚さ7000Åの有機絶縁層を形成した後、前記化学式6のチオフェン−チアゾール誘導体を用いて窒素雰囲気の下で温度を100℃にして1時間ベーキングして有機半導体層を形成した以外は、前記した実施例3と同様にして有機薄膜トランジスタを製造した。
【0053】
「比較例4」
形成された有機絶縁膜上に、さらに、下記化学式8で表されるマレイミド−スチレン共重合誘導体(重量平均分子量10,000以上)をシクロへキサノンに2質量%で溶解させて3,000rpmでスピンコーティング法によって300Åの厚さにコートした後、150℃で10分間ベーキングして硬化させてフッ素系高分子薄膜を形成した以外は、前記した比較例3と同様にして有機薄膜トランジスタを製造した。
【0054】
【化5】

【0055】
前記した実施例1〜3および前記した比較例1〜4で製造した有機薄膜トランジスタにおいて、電気的特性を測定するために、半導体特性評価装置(Keithley Semiconductor Analyzer(4200−SCS)、ケースレー社製)を用いて電流伝達特性を測定し、その結果を図3から図9に示した。
【0056】
図3から図6は、それぞれ実施例1(図3)、実施例2(図4)および比較例1(図5)、比較例2(図6)によって製造された有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
図3から図6に示すように、従来の有機絶縁膜を用いた有機薄膜トランジスタは15〜20Vのヒステリシスを示すが、これに対し、本発明に係る有機絶縁体組成物を用いた有機薄膜トランジスタは改善された10V未満のヒステリシスを示すことが分かる。
【0057】
図7は、実施例3によって製造された有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフであり、図8は、比較例3、4によって製造された有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
図7および図8を参照すると、本発明の有機絶縁体組成物を用いた有機薄膜トランジスタの場合、従来のSiO絶縁膜またはそれにフッ素系表面処理剤をさらにコートして製造した有機薄膜トランジスタに比べて電荷移動度が著しく向上したことが分かる。
図3から図8に示す電流伝達特性グラフから電荷移動度および遮断漏れ電流値を下記のようにして測定し、その結果を下記表1に示した。
【0058】
(1)電荷移動度
電荷移動度は、前記した電流伝達曲線を用いて下記飽和領域(saturation region)電流式(式1)から(ISD1/2とVG-を変数としたグラフを得、そのグラフの傾きから求めた。
【0059】
【数1】

【0060】
前記(式1)中、ISDはソース−ドレイン電流、μまたはμFETは電荷移動度、Cは酸化膜静電容量、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vはゲート電圧、Vはスレショルド電圧をそれぞれ示す。
【0061】
スレショルド電圧(Threshold Voltage、V)は、(ID)1/2とV間のグラフにおける線形部分の延長線とV軸との交点から求めた。スレショルド電圧は、絶対値が0に近ければ少ない電力が消耗される(つまり、消費電力を低減することができる。)。
【0062】
(2)Ion/Ioff
on/Ioffは、オン状態の最大電流値とオフ状態の最小電流値との比で求めた。下記(式2)の関係を持つ。
【0063】
【数2】

【0064】
前記(式2)中、Ionは最大電流値、I-offは遮断漏れ電流(off-state leakage current)、μは電荷移動度、σは薄膜の伝導度、qは電荷量、Nは電荷密度、tは半導体膜の膜厚、Cは絶縁膜の静電容量、Vはドレイン電圧をそれぞれ示す。
【0065】
on/Ioff電流比は、誘電膜の誘電率が大きくて厚さが小さいほど大きくなる。よって、誘電膜の種類と厚さは、電流比の決定に重要な要因となる。遮断漏れ電流(off-state leakage current)Ioffは、オフ状態のときに流れる電流であって、オフ状態における最小電流から求めた。
【0066】
(3)誘電定数
誘電定数は、次の通りに測定した。まず、アルミニウム基板上に本発明の前記した製造例1、2の有機絶縁体組成物を塗布して厚さ2000Åのフィルムを形成し、70℃で1時間、100℃で30分間ベーキングして有機絶縁層を形成した。このようにして形成された有機絶縁層上にアルミニウム膜を蒸着して金属−絶縁膜−金属構造のキャパシタ(MIM capacitor)を製造し、これを用いて20Hzで絶縁性および誘電定数を測定した。誘電定数は、測定された誘電率Cから下記(式3)によって求めた。
=εε(A/d)・・・(式3)
【0067】
前記(式3)中、Aは測定素子の面積、dは誘電体の厚さを示し、εおよびεはそれぞれ誘電定数および真空の誘電定数を示す。
本発明の実施例に係る有機絶縁体組成物の誘電定数とこれを用いた有機薄膜トランジスタの駆動特性、および比較例に係る有機絶縁体組成物の誘電定数とこれを用いた有機薄膜トランジスタの駆動特性を表1にまとめた。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の結果から分かるように、本発明に係る有機絶縁体組成物を用いて製造された有機薄膜トランジスタは、電気絶縁特性に優れるうえ、蒸着される有機半導体層の種類に関係なくスレショルド電圧を低めて駆動特性を高め、Ion/Ioff、電荷移動度などの物性が大幅に向上したことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の好適な具現例に係るボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの断面概略図である。
【図2】本発明の好適な具現例に係るトップコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの断面概略図である。
【図3】本発明の実施例1で製造した有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
【図4】本発明の実施例2で製造した有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
【図5】本発明の比較例1で製造した有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
【図6】本発明の比較例2で製造した有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
【図7】本発明の実施例3で製造した有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
【図8】本発明の比較例3、4で製造した有機薄膜トランジスタの電流伝達特性グラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 基板
2 ゲート電極
3 有機絶縁膜
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 有機半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記化学式1または下記化学式2で表される化合物単独、或いはこれらの混合物または重合体からなるか、下記化学式1または下記化学式2で表される化合物を下記化学式3〜5のいずれか一つで表される化合物と混合または共重合させて得た混合物または共重合体からなるシラン系化合物と、
(ii)有機金属化合物と、
(iii)有機溶媒と、
を含む、有機絶縁体組成物。
SiX ・・・(化学式1)
SiX ・・・(化学式2)
(前記化学式1および前記化学式2において、
、Rは、それぞれ独立に、炭素原子と共有結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたC1〜C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、およびヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、
、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
SiX ・・・(化学式3)
SiX ・・・(化学式4)
SiX ・・・(化学式5)
(前記化学式3〜5において、
、Rは、それぞれ独立に、水素原子;置換または非置換のC1〜C20のアルキル基;置換または非置換のC2〜C20のアルケニル基;置換または非置換のC2〜C20のアルキニル基;置換または非置換のC6〜C20のアリール基;置換または非置換のC6〜C20のアリールアルキル基;置換または非置換のC1〜C20のヘテロアルキル基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリール基;置換または非置換のC4〜C20のヘテロアリールアルキル基よりなる群から選択され、ここで、置換基はアクリル基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、エポキシ基、またはニトリル基であり、
、X、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、またはC1〜C20のアルコキシ基であって、少なくとも一つは加水分解可能な作用基である。)
【請求項2】
前記有機金属化合物は、チタニウム化合物、ジルコニウム化合物、ハフニム化合物およびアルミニウム化合物の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項3】
前記有機金属化合物は、チタニウム(IV)n−ブトキシド、チタニウム(IV)t−ブトキシド、チタニウム(IV)エトキシド、チタニウム(IV)2−エチルヘキソキシド、チタニウム(IV)イソプロポキシド、チタニウム(IV)(ジイソプロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)、チタニウム(IV)オキシドビス(アセチルアセトナート)、トリクロロトリス(テトラヒドロフラン)チタニウム(III)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)チタニウム(III)、(トリメチル)ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウム(IV)、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウムトリクロライド(IV)、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウムトリメトキシド(IV)、テトラクロロビス(シクロヘキシルメルカプト)チタニウム(IV)、テトラクロロビス(テトラヒドロフラン)チタニウム(IV)、テトラクロロジアミンチタニウム(IV)、テトラキス(ジエチルアミノ)チタニウム(IV)、テトラキス(ジメチルアミノ)チタニウム(IV)、ビス(t−ブチルシクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド、ビス(シクロペンタジエニル)ジカルボニルチタニウム(II)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド、ビス(エチルシクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド、ビス(ペンタメチルシクロペタジエニル)チタニウムジクロライド、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)オキソチタニウム(IV)、クロロチタニウムトリイソプロポキシド、シクロペンタジエニルチタニウムトリクロライド、ジクロロビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)チタニウム(IV)、ジメチルビス(t−ブチルシクロペンタジエニル)チタニウム(IV)、ジ(イソプロポキシド)ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)チタニウム(IV)、ジルコニウム(IV)n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)t−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウム(IV)イソプロポキシド、ジルコニウム(IV)n−プロポキシド、ジルコニウム(IV)アセチルアセトナート、ジルコニウム(IV)ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジルコニウム(IV)トリフルオロアセチルアセトナート、テトラキス(ジエチルアミノ)ジルコニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ジルコニウム(IV)、ジルコニウム(IV)サルフェートテトラヒドレート、ハフニウム(IV)n−ブトキシド、ハフニウム(IV)t−ブトキシド、ハフニウム(IV)エトキシド、ハフニウム(IV)イソプロポキシド、ハフニウム(IV)イソプロポキシドモノイソプロピレート、ハフニウム(IV)アセチルアセナート、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、アルミニウムトリフルオロアセチルアセトナート、およびトリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)アルミニウムよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項4】
前記有機溶媒は、
ヘキサンおよびヘプタンより選択される少なくとも1種の脂肪族炭化水素溶媒;トルエン、ピリジン、キノリン、アニソール、メシチレンおよびキシレンより選択される少なくとも1種の芳香族系炭化水素溶媒;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、1−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキサノンおよびアセトンより選択される少なくとも1種のケトン系溶媒;テトラヒドロフランおよびイソプロピルエーテルより選択される少なくとも1種のエーテル系溶媒;エチルアセテート、ブチルアセテートおよびプロピレングリコールメチルエーテルアセテートより選択される少なくとも1種のアセテート系溶媒;イソプロピルアルコールおよびブチルアルコールより選択される少なくとも1種のアルコール系溶媒;ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドより選択される少なくとも1種のアミド系溶媒;シリコン系溶媒;およびこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項5】
前記有機絶縁体組成物は、分子量1,000〜1,000,000の高分子であって、ポリビニルフェノールまたはポリビニルフェノール誘導体、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体、ポリアクリルまたはポリアクリル誘導体、ポリノルボルネンまたはポリノルボルネン誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリシロキサン誘導体、セルロース誘導体、およびこれらを含む共重合体よりなる群から選択される有機高分子マトリックスまたは無機高分子マトリックスをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項6】
前記有機高分子マトリックスまたは前記無機高分子マトリックスは、主鎖または側鎖の各末端にヒドロキシ基、カルボキシル基またはその塩、リン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、アミン基またはその塩を含むことを特徴とする、請求項5に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項7】
前記有機高分子マトリックスまたは前記無機高分子マトリックスは、さらに、t−ブチル基、イソボニル基、メンチル基、2−メチル−2−アダマンタニル基、2−エチル−2−アダマンタニル基、テトラシクロデカニル基、テトラヒドロピラノイル基、3−オキソシクロヘキサノイル基、メバロニックラクトニル基、ジシクロプロピルメチル基、メチルシクロプロピルメチル基、メチルエチルエーテル基よりなる群から選択される、酸に不安定な保護基で保護されることを特徴とする、請求項5に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項8】
前記有機絶縁体組成物は、前記シラン系化合物を5〜70質量%、前記有機金属化合物を0.01〜10質量%、および前記有機溶媒を10〜94質量%で含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項9】
前記有機絶縁体組成物は、前記シラン系化合物を5〜70質量%、前記有機金属化合物を0.01〜10質量%、前記有機高分子マトリックスまたは前記無機高分子マトリックスを0.01〜10質量%、および前記有機溶媒を10〜94質量%で含むことを特徴とする、請求項5に記載の有機絶縁体組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機絶縁体組成物から形成された有機絶縁膜。
【請求項11】
基板、ゲート電極、有機絶縁膜、有機半導体層、およびソース/ドレイン電極を含む有機薄膜トランジスタにおいて、前記有機絶縁膜が請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機絶縁体組成物から形成されることを特徴とする、有機薄膜トランジスタ。
【請求項12】
前記有機半導体層は、ペンタセン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチオフェンチアゾール、およびこれらの誘導体よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項13】
前記ゲート電極、および前記ソース/ドレイン電極は、ドープされた珪素(Si)または金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびインジウムスズ酸化物(ITO)よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項14】
前記基板が、ガラス基板、シリコン基板およびプラスチック基板よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項15】
前記有機薄膜トランジスタは、トップコンタクト構造、ボトムコンタクト構造、またはトップゲート構造であることを特徴とする、請求項11に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項16】
請求項11に記載の有機薄膜トランジスタを含む電子素子。
【請求項17】
前記電子素子は、液晶ディスプレイ(LCD)、光電変換素子(Photovoltaic Device)、有機発光素子(OLED)、センサ、メモリ、または集積回路であることを特徴とする、請求項16に記載の電子素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−154164(P2007−154164A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290336(P2006−290336)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】