注形品の製造方法、金型及びガス絶縁開閉装置
【課題】熱硬化性の材料を用いた注形品の生産性を高める。
【解決手段】ポスト型の絶縁スペーサの製造方法は、熱硬化性の注形材料51を加熱された金型25内に加圧補給しながら、この金型25内における注形材料51の外周部分52を熱硬化させて半硬化物53を得る工程と、金型25内で得られた半硬化物53についての熱硬化がその中心部54側へ進行するときに生じる反応熱によって半硬化物53を中心部54から内部発熱させる工程と、金型25内で内部発熱した半硬化物53の熱膨張の発生に応じて、注形材料51の加圧補給を停止させる工程と、加圧補給を停止させた金型25内から半硬化物53を取り出し、この半硬化物53の内部発熱を継続させることによって、中心部54を含む半硬化物53全体を熱硬化させて絶縁スペーサを得る工程と、を有している。
【解決手段】ポスト型の絶縁スペーサの製造方法は、熱硬化性の注形材料51を加熱された金型25内に加圧補給しながら、この金型25内における注形材料51の外周部分52を熱硬化させて半硬化物53を得る工程と、金型25内で得られた半硬化物53についての熱硬化がその中心部54側へ進行するときに生じる反応熱によって半硬化物53を中心部54から内部発熱させる工程と、金型25内で内部発熱した半硬化物53の熱膨張の発生に応じて、注形材料51の加圧補給を停止させる工程と、加圧補給を停止させた金型25内から半硬化物53を取り出し、この半硬化物53の内部発熱を継続させることによって、中心部54を含む半硬化物53全体を熱硬化させて絶縁スペーサを得る工程と、を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性の材料を用いた注形品の製造方法及びこの製造方法を実施する場合に適用される金型、並びにこの製造方法により得られた注形品を備えるガス絶縁開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂製の注形品は、固体絶縁物としての電気絶縁性や機械的特性に優れていることから、例えばガス絶縁開閉装置などの高電圧の変電設備内に設置される構造絶縁物として利用されている。近年では、エポキシ樹脂製の注形品は、固体絶縁物としての長期的な信頼性を確保したうえで、より高電圧な電力設備などへの適用が要求されている。
【0003】
エポキシ樹脂製の注形品の製造方法としては、加圧ゲル化法などが利用されている。加圧ゲル化法は、金型内に注入される樹脂の熱硬化温度以上に、金型内を加熱した状態で樹脂の注入を開始し、金型キャビティ内への樹脂の充填が完了するまで、樹脂硬化時の体積収縮分に相当する樹脂を加圧補給し続ける製法である。このような加圧ゲル化法を採用することによって、高品質で信頼性の高い注形品を短時間で大量生産することが可能となる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ところで、定格電圧が例えば500kVを超える仕様のガス絶縁開閉装置には、エポキシ樹脂の全体積が7000cc(cm3)を超えるサイズの注形品が、絶縁スペーサなどとして多数使用されている。製品サイズの大きい注形品は、金型キャビティ内での一次硬化の段階では、樹脂全体が完全に熱硬化するまでには至らないため、一般的な注形法を適用し一次硬化に長い時間をかけて注形される。ここで、上記の絶縁スペーサの生産性を考慮した場合には、一般的な注形法では生産能力に限界があるため、前述した加圧ゲル化法での注形が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−53165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加圧ゲル化法は、製品サイズが比較的小さい注形品を短時間で製造できるという利点があるものの、例えばエポキシ樹脂の体積が4000ccを超える大サイズの注形品への適用は難しいものと言われている。すなわち、製品サイズの大きい注形品を加圧ゲル化法で注形する場合、金型キャビティ内に注入された大量の樹脂を外周部分から中心部に向けて徐々に加熱硬化させて行く一方で、この加熱硬化の過程で、金型内の樹脂注入口付近を先に加熱硬化(閉塞)させないようにする必要がある。このため、金型に対しては、現状の注形技術では極めて難しい温度制御が要求されることになる。
【0007】
さらに、加圧ゲル化法は、樹脂硬化時の体積収縮分を補填するための樹脂を金型内に加圧しながら補充する製法であるが、金型内の樹脂の外周部分が完全に硬化した後に、樹脂を過度に補充して加圧し過ぎると、注形品にクラックが発生したり、また注形品の外周部分に、補充された樹脂による薄皮(二枚皮)が形成される場合がある。
【0008】
また、エポキシ樹脂製のサイズの大きい注形品を製造するためには、一般的な注形法及び加圧ゲル化法のうちのいずれの製法を適用した場合でも、金型内の注形品の外周部分が一定以上の硬さに硬化した段階で注形品を金型から取り出し、この後、高耐熱性などの最終的な物性を付与するために、取り出したこの注形品を加熱炉などに収容して二次硬化させる。しかしながら、この場合の二次硬化は、取り出した注形品をその外周側から加熱することによって実現されるため、注形品の中心部へ十分な熱が伝達されて注形品全体が完全に硬化するまでには、例えば10数時間あまりもの多くの硬化時間が必要となる。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、熱硬化性の材料を用いた注形品の生産性を高めることが可能な注形品の製造方法、金型及びこの注形品を備えたガス絶縁開閉装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様である注形品の製造方法は、熱硬化性の注形材料を加熱された金型内に加圧補給しながら、この金型内における注形材料の外周部分を熱硬化させて半硬化物を得る工程と、前記金型内で得られた前記半硬化物についての熱硬化がその中心部側へ進行するときに生じる反応熱によって前記半硬化物を前記中心部から内部発熱させる工程と、前記金型内で内部発熱した前記半硬化物の熱膨張の発生に応じて、前記注形材料の加圧補給を停止させる工程と、前記加圧補給を停止させた前記金型内から前記半硬化物を取り出し、この半硬化物の内部発熱を継続させることによって前記中心部を含む半硬化物全体を熱硬化させる工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱硬化性の材料を用いた注形品の生産性を高めることが可能な注形品の製造方法、金型及びこの注形品を備えたガス絶縁開閉装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るガス絶縁開閉装置の構成を示す図。
【図2】図1のガス絶縁開閉装置が備える接続母線の構造を示す断面図。
【図3】図2の接続母線に設けられたポスト形の絶縁スペーサの構造を示す断面図。
【図4】図3の絶縁スペーサの製造に用いられる本実施形態の(入れ子及び埋込金物がセットされた状態の)金型の構造を示す断面図。
【図5】図4に示す金型のA部詳細図。
【図6】図4、図5に示す金型と構造を比較するための他の金型の構造を示す断面図。
【図7】図4に示す金型のB部詳細図。
【図8】図7のB部詳細図に示される傾斜部の機能について説明するための図。
【図9】図4の金型内に入れ子や埋込金物をセットする際の状態を示す図。
【図10】図9の入れ子や埋込金物がセットされた金型内に注形材料が注入された状態を示す断面図。
【図11A】図10の金型内で外周部分が熱硬化した半硬化物のさらなる熱硬化が中心部に向けて進行している状態を示す断面図。
【図11B】図11Aの半硬化物が内部発熱により自己膨張している状態を示す断面図。
【図11C】図11Bの自己膨張している状態の半硬化物を金型内から取り出した状態を示す断面図。
【図11D】図11Cの金型内から取り出した半硬化物のさらなる熱硬化が中心部に向けて継続的に進行している状態を示す断面図。
【図11E】図11Dの半硬化物全体が熱硬化しポスト型の絶縁スペーサが得られた状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態のガス絶縁開閉装置(GIS:Gas Insulated Switchgear)1は、主母線12、14及びブッシング21を備えているとともに、六フッ化硫黄(SF6)ガスが充填された接地容器内に、断路器15、16、遮断器17、変流器18、接続母線19などを収容した開閉設備として構成されている。上記した例えば遮断器17は、電流を遮断する際には、開閉器のアーク放電している電極間に、高絶縁性を有する前記の六フッ化硫黄ガスを吹き付けることで放電を消滅させる。
【0014】
また、図2に示すように、接続母線19は、電流通電用の高電圧導体22を接地電位の接続容器20の内部に収めたかたちで構成されている。高電圧導体22は、コーン形(円錐形)の絶縁スペーサ23、24やポスト形の絶縁スペーサ3を介して接続容器20内に支持されている。コーン形の絶縁スペーサ23、24は、接続容器20内部の六フッ化硫黄ガスを隔離しつつ高電圧導体22を支持している。
【0015】
ここで、ポスト形の絶縁スペーサ3の構造について説明する。図2、図3に示すように、ポスト形の絶縁スペーサ3は、エポキシ樹脂製のスペーサ本体部5と金属製の埋込部材である一組の埋込金物7、8とが一体成形された注形品で構成されている。電気絶縁性を有するスペーサ本体部5は、円柱の中央部分を膨出させた樽型形状に形成されている。
【0016】
図2、図3に示すように、一組の埋込金物7、8は、スペーサ本体部5の各端部にそれぞれ設けられている。図2に示すように、一方の埋込金物7が高電圧導体22に、また、他方の埋込金物8が接続容器20の内側部分に、それぞれ機械的に連結されている。これにより、絶縁スペーサ3は、自身の軸方向を起立させた姿勢で高電圧導体22を底部側から接続容器20の内壁面上に支持している。
【0017】
スペーサ本体部5の材料には、熱硬化性の注形材料であるエポキシ樹脂が適用されている。詳述すると、このエポキシ樹脂としては、酸無水物系硬化剤と無機充填材としてのアルミナとを液状のビスフェノールA系エポキシ樹脂に配合したものが使用される。なお、このようなエポキシ樹脂に代えて、所定の硬化剤及び充填剤を配合したシリコーン樹脂を、スペーサ本体部5を注形するための熱硬化性の注形材料として適用することも可能である。
【0018】
また、図3に示すように、スペーサ本体部5には、埋込金物7、8の周縁を被覆する厚さ3mm〜10mmの周縁被覆部9が設けられている。より具体的には、周縁被覆部9は、絶縁スペーサ3の両端に位置する埋込金物7、8の端縁の周りを覆うように形成されている。この周縁被覆部9が積極的に設けられていることで、後述する理由から、注形後に埋込金物7、8の周縁でバリが発生することが抑制される。
【0019】
さらに、図3に示すように、スペーサ本体部5の膨出している周面には、絶縁スペーサ3の軸方向において、中央部分から各端部側へ向けて階段状に複数段の段差を構成する凹凸部分6が形成されている。この凹凸部分6は、例えば数ミクロンオーダでスペーサ本体部5の表面を荒らすために形成されている。これにより、この凹凸部分6が電子の運動を阻害するように機能し、スペーサ本体部5自体の帯電を抑制する。
【0020】
次に、ポスト形の絶縁スペーサ3を製造(注形)するための金型25の構造について説明する。図4に示すように、金型25は、可動側金型部29及び固定側金型部30を有する金型本体部26と、可動側金型部29及び固定側金型部30が各々固定された金型固定板37、38と、可動側金型部29及び固定側金型部30のそれぞれの内部に装着される入れ子27、28と、を備えている。
【0021】
可動側金型部29と固定側金型部30とで構成される金型本体部26内には、注形材料が充填されるキャビティ(金型キャビティ)31と、金型25の外側(金型本体部26の底部側)からキャビティ31内に通じる材料注入口32と、が形成されている。キャビティ31は、その内部に充填された注形材料を熱硬化させることによって、体積が7000cc(cm3)を超えかつ最大肉厚が170mmを超えるサイズのスペーサ本体部5を、注形品として得ることができる形状に構成されている。
【0022】
可動側金型部29を固定する金型固定板37には、例えば油圧式のシリンダ39が連結されている。このシリンダ39は、固定側金型部30に対して、可動側金型部29を金型固定板37と共に前進及び後退させることで、金型25を開閉する。また、金型25における金型本体部26の底部には、材料移送管34を介して移送されてきた注形材料を、金型本体部26のキャビティ31内に、材料注入口32を介して注入(充填)するための材料注入ノズル33が配置されている。
【0023】
上記した材料移送管34の基端部側には、金型本体部26のキャビティ31内に対し、熱硬化性の注形材料である液状のエポキシ樹脂を材料注入ノズル33及び材料注入口32を介して加圧補給するための例えばピストンを備えたシリンダ機構などが接続されている。
【0024】
また、可動側金型部29と固定側金型部30とで構成される金型本体部26には、例えば温度制御可能な棒状の加熱ヒータが複数本内蔵されている。ここで、絶縁スペーサ3の注形時には、これら複数の加熱ヒータによって、図4に示す金型本体部26内のキャビティ31よりも下方側の材料注入口32の近傍は、例えば110℃〜120℃程度に加熱され、一方、図4に示す金型本体部26内のキャビティ31よりも上方側の部位は、例えば130℃〜140℃程度に加熱される。
【0025】
このように、絶縁スペーサ3の注形時においては、注形の過渡期に材料注入口32付近の注形材料が先に熱硬化してしまうことを抑制するために、金型本体部26内のキャビティ31の例えば上方側の部位などに比べて、材料注入口32付近の温度が、例えば10℃〜20℃程度、低くなるように温度勾配をつけて金型本体部26内が温度制御される。
【0026】
また、図4、図5(及び後に参照する図9)に示すように、金型本体部26は、Oリング35、36を介して埋込金物7、8が装着された入れ子27、28を内部にセットした状態において、これらの入れ子27、28との間で埋込金物7、8の外周面全体をそれぞれ包囲するように上述したキャビティ31が形成されている。
【0027】
すなわち、図4、図5に示すように、キャビティ31は、図3に示したスペーサ本体部5の周縁被覆部9を形成するための周縁被覆部形成溝29a、30aを有している。この周縁被覆部形成溝29a、30aを設けたことで、スペーサ本体部5上の周縁被覆部9は、図3〜図5に示すように、埋込金物7、8の周縁(埋込金物7、8における入れ子27、28と対向する側の周縁)を覆う位置に形成される。
【0028】
このような周縁被覆部9をスペーサ本体部5上に積極的に設けることで、埋込金物7、8と金型本体部26との微小な隙間が型構造上なくなり、埋込金物7、8の周縁に、注形後、薄肉のバリが発生することを実質的に阻止することができる。
【0029】
ここで、本実施形態の金型25と構造を比較するために例示した図6に示す他の構造の金型では、入れ子43に装着された埋込金物42と金型本体部40との間の微小な隙間45内に、注形材料が注形時に入り込むと埋込金物42の周縁にバリが発生することになる。バリが発生した場合には、例えば先端部を針状にした加工治具などを用いる人為的なバリ取り作業などが必要となり、例えば絶縁スペーサ1つあたり10分程度の多くの作業時間を要することになる。また、このようなバリ取り作業を行う場合、作業ミスにより、注形品の全生産個数あたり1〜2%程度の不良品の発生を招くことになる。
【0030】
一方、本実施形態の金型25では、上記周縁被覆部形成溝29a、30aを設けたことに加えて、図5に示すように、前述したOリング35、36は、周縁被覆部形成溝29a、30aと対向する位置において、埋込金物7、8と入れ子27、28との間に介在されると共に、埋込金物7、8と金型本体部26との間の隙間にまたがるように組み込まれる。したがって、図4、図5に示すように、金型25では、埋込金物7、8と入れ子27、28との隙間、及び、埋込金物7、8と金型本体部26との隙間に、注形材料が入り込んでしまうことなどが、より確実に防止される。これにより、バリ取り作業などに費やされる時間を削減できるので、絶縁スペーサ3の生産性を向上させることができる。
【0031】
また、図7に示すように、金型本体部26内のキャビティ31を構成する内壁面には、図3に示したスペーサ本体部5の周面上の凹凸部分6を注形するために、この凹凸部分6の形状に対応した凹凸部分29b、30bが形成されている。つまり、凹凸部分29b、30bは、金型25の開閉方向において、キャビティ31の中央部分(パーテーション側)から各端部側へ向けて階段状に複数段の段差を構成している。
【0032】
ここで、図7、図8に示すように、このキャビティ31上の凹凸部分29b、30bには、材料注入口32からキャビティ31内に注入される注形材料51の当該凹凸部分29b、30bでの流動を補助(支援)する傾斜部50が設けられている。この傾斜部50は、金型25の開閉方向を基準角度となる0°にした場合、キャビティ31の中央部分から各端部側へ向けて例えば5°の傾き角度kをなして立ち上がったテーパとして構成されている。
【0033】
すなわち、この傾斜部50は、型抜きを改善するためのいわゆる抜きテーパなどではなく、図8に示すように、材料注入口32から注入された注形材料51を、スムーズに凹凸部分29b、30b上で流動させるようにすることで、エア抜け性を改善し、注形の際に気泡が残らないようにするためのものである。これにより、注形品において、電気絶縁性能の低下の要因となるボイド(空孔)の発生を抑制できるので、電気絶縁性能の良好な絶縁スペーサ3を注形することができる。
【0034】
これに対して、凹凸部分に傾斜部50を設けていない(上記した傾き角度が0°の)金型では、注形品の全生産個数あたり5%程度はボイドの発生を招いてしまうことになる。つまり、傾斜部50を設けていない凹凸部分で注形材料の対流などが起こり、凹凸部分に空気が閉じ込められる場合がある。この際、凹凸部分に閉じ込められた空気によって注形材料の流動が阻害され、注形品として所望の形状が得られないおそれなどもある。これに対して、凹凸部分29b、30bに傾斜部50を設けた本実施形態(上記した傾き角度が5°の)の金型25では、凹凸部分29b、30b上での注形材料の流動性が良好であり、ボイドの発生率を限りなく0%に近付けることが可能となる。
【0035】
次に、このような構造の絶縁スペーサ3を製造する場合に有用な本実施形態に係る注形品の製造方法を、上述した図3、図4に加え、図9、図10及び図11A〜図11Eに基づき説明する。ここで、本実施形態の注形品の製造方法は、いわゆる加圧ゲル化法にさらに改良を加えた注形法である。
【0036】
まず、図9(金型25の固定側については図示を省略)に示すように、Oリング35、36を内側に挟み込むようにしつつ、個々の埋込金物7、8を、それぞれ対応する側の入れ子27、28に装着する。次に、Oリング35、36及び埋込金物7、8の取り付けられた入れ子27、28を、金型本体部26の可動側金型部29及び固定側金型部30にそれぞれセット(装着)する。
【0037】
続いて、図4に示すように、上記入れ子27、28のセットされた金型25をシリンダ39を介して閉じた後、金型25における金型本体部26内を加熱する。この際、図4に示す金型本体部26内において材料注入口32の近傍(周辺)を除いた部位が140℃に加熱され、かつ、材料注入口32の近傍が10℃低い130℃に加熱されるように、金型本体部26内の加熱ヒータを制御して温度調整を行う。このような温度調整は、材料注入口32での注形材料51の熱硬化を抑制するために行われる。
【0038】
次いで、金型本体部26内が上記温度に調整された後、図10に示すように、材料注入ノズル33及び材料注入口32を介し、金型本体部26のキャビティ31内へ注入速度50cc(cm3)/secにて、熱硬化性の注形材料51である液状のエポキシ樹脂を注入する。この場合、材料移送管34の基端側にあるピストンを含むシリンダ機構などを制御することで、加熱された金型本体部26(金型25)のキャビティ31内へは、架橋反応による樹脂硬化時の体積収縮分を補填するように注形材料51を加圧補給する。
【0039】
このような注形材料51の加圧補給(加圧しながらの補充)によって、図11Aに示すように、金型本体部26(金型25)のキャビティ31内における注形材料51の外周部分52が熱硬化して半硬化物53が得られる。さらに、注形材料51のこの加圧補給を継続することにより、金型本体部26内で得られた半硬化物53についての熱硬化がその中心部54側へ進行するときに生じる架橋反応時の反応熱で、半硬化物53を中心部54から内部発熱させる。
【0040】
ここで、本実施形態の場合、体積が7000cc(cm3)を超えかつ最大肉厚が170mmを超える大サイズのスペーサ本体部5を得るために、このサイズに対応したキャビティ31内には多量の注形材料51が注入される。このため、半硬化物53の中心部54側での材料硬化時の反応熱が、先に熱硬化した外周部分52により封じ込められ、半硬化物53の中心部54からの内部発熱が起こる。
【0041】
次に、図11Bに示すように、金型本体部26(金型25)内で内部発熱した半硬化物53の熱膨張の発生に応じて、例えば加圧力2barで行っていた注形材料51の加圧補給を停止させる。この際、キャビティ31内における半硬化物53の中心部54は、金型本体部26(キャビティ31)の内壁面から遠く、徐々に熱硬化して行く。このため、半硬化物53は、その中心部54側からの熱膨張(自己膨張)を繰り返し、この自己膨張により、キャビティ31内での材料硬化時の体積収縮分が補われることになる。
【0042】
また、このような内部発熱による半硬化物53の自己膨張により、キャビティ31内から自発的にエアが押し出されるため、空気抜きのための注形材料51の加圧補給が不要となる。このため、加圧補給を継続して注形を行った場合には、注形品の全生産個数あたり1%〜2%程度、注形品へのクラックの発生を招いていたものの、半硬化物53の自己膨張発生後において、注形材料51の加圧補給が不要になることで、クラックの発生率を限りなく0%に近付けることが可能となる。なお、このような加圧補給を停止させるタイミングとしては、本実施形態の金型25を適用した注形の実験データなどに基づき、キャビティ31内への注形材料51の注入を開始してから所定時間経過後に当該加圧補給を停止させることなどが例示される。
【0043】
次に、注形材料51の加圧補給を停止させてからさらに所定時間経過後に、図11C(金型25の固定側については図示を省略)に示すように、金型25のキャビティ31内から、半硬化物53を取り出(離型)し、その半硬化物53からOリング35、36及び入れ子27、28の取り外しを行う。
【0044】
次いで、図11Dに示すように、金型25から取り出したこの半硬化物53を約30分程度放置し、半硬化物53の内部発熱を継続させることによって、中心部54を含む半硬化物53全体を熱硬化させ、これにより、図11E及び図3に示すように、高耐熱性などの固体絶縁物としての最終的な物性が付与されたポスト形の絶縁スペーサ(注形品)3を得る。
【0045】
ここで、本実施形態の製法では、半硬化物53における先に熱硬化させた外周部分52で、中心部54側での内部発熱を封じ込めることができるので、既存の注形法において、金型から取り出した注形品を加熱炉内に12時間程度入れて二次硬化させるといった工程を実質的に削除することができる。したがって、本実施形態の製法では、絶縁スペーサ3の生産サイクルを大幅に短縮でき、生産効率を著しく向上させることができる。
【0046】
既述したように、本実施形態に係る注形品の製造方法によれば、金型25内で外周部分52を熱硬化させた半硬化物53を内部発熱させて自己膨張させることができるので、この自己膨張後は注形材料51の加圧補給が不要となる。これにより、注形材料51の過度な補充(加圧)によるクラックの発生及び注形品表面上での薄皮(二枚皮)の発生、並びにヒケの発生などをそれぞれ回避することが可能となり、品質の高い絶縁スペーサ3を得ることができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る注形品の製造方法によれば、内部発熱している半硬化物53を金型25内から取り出した後も、先に硬化させた外周部分52で、外部への熱の放散を阻止しつつこの内部発熱を継続させることができるので、金型25内の材料注入口32付近を閉塞(先に熱硬化)させないようにする複雑な温度制御や、また、完全に硬化していない注形品を別途、加熱炉内で二次硬化させることなどが不要となり、絶縁スペーサ3の生産性を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態の金型25を適用した注形品の製造方法によれば、前述したように、図4、図5に示した周縁被覆部形成溝29a、30aや図7、図8に示した傾斜部50を金型本体部26のキャビティ31に設けたことで、注形品である絶縁スペーサ3にバリやボイドが発生することを抑制することができる。さらに、このように固体絶縁物としての品質を高めたポスト形の絶縁スペーサ3を、図1、図2に示したように、高電圧導体22の支持部分に適用していることで、ガス絶縁開閉装置1の接地部分についての信頼性を確保することができる。
【0049】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば上述した実施形態では、埋込金物を一体的に注形する形態を例示したが、これに代えて、埋込金物のない注形品を、本発明の製造方法で注形するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…ガス絶縁開閉装置、3…ポスト形の絶縁スペーサ、5…絶縁スペーサ本体、6…絶縁スペーサ本体の凹凸部分、7,8…埋込金物、9…周縁被覆部、25…金型、26…金型本体部、27,28…入れ子、29a,30a…周縁被覆部形成溝、29b,30b…キャビティの凹凸部分、31…キャビティ、32…材料注入口、35,36…Oリング、35…シリンダ、50…傾斜部、51…注形材料、52…外周部分、53…半硬化物、54…中心部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性の材料を用いた注形品の製造方法及びこの製造方法を実施する場合に適用される金型、並びにこの製造方法により得られた注形品を備えるガス絶縁開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂製の注形品は、固体絶縁物としての電気絶縁性や機械的特性に優れていることから、例えばガス絶縁開閉装置などの高電圧の変電設備内に設置される構造絶縁物として利用されている。近年では、エポキシ樹脂製の注形品は、固体絶縁物としての長期的な信頼性を確保したうえで、より高電圧な電力設備などへの適用が要求されている。
【0003】
エポキシ樹脂製の注形品の製造方法としては、加圧ゲル化法などが利用されている。加圧ゲル化法は、金型内に注入される樹脂の熱硬化温度以上に、金型内を加熱した状態で樹脂の注入を開始し、金型キャビティ内への樹脂の充填が完了するまで、樹脂硬化時の体積収縮分に相当する樹脂を加圧補給し続ける製法である。このような加圧ゲル化法を採用することによって、高品質で信頼性の高い注形品を短時間で大量生産することが可能となる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ところで、定格電圧が例えば500kVを超える仕様のガス絶縁開閉装置には、エポキシ樹脂の全体積が7000cc(cm3)を超えるサイズの注形品が、絶縁スペーサなどとして多数使用されている。製品サイズの大きい注形品は、金型キャビティ内での一次硬化の段階では、樹脂全体が完全に熱硬化するまでには至らないため、一般的な注形法を適用し一次硬化に長い時間をかけて注形される。ここで、上記の絶縁スペーサの生産性を考慮した場合には、一般的な注形法では生産能力に限界があるため、前述した加圧ゲル化法での注形が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−53165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加圧ゲル化法は、製品サイズが比較的小さい注形品を短時間で製造できるという利点があるものの、例えばエポキシ樹脂の体積が4000ccを超える大サイズの注形品への適用は難しいものと言われている。すなわち、製品サイズの大きい注形品を加圧ゲル化法で注形する場合、金型キャビティ内に注入された大量の樹脂を外周部分から中心部に向けて徐々に加熱硬化させて行く一方で、この加熱硬化の過程で、金型内の樹脂注入口付近を先に加熱硬化(閉塞)させないようにする必要がある。このため、金型に対しては、現状の注形技術では極めて難しい温度制御が要求されることになる。
【0007】
さらに、加圧ゲル化法は、樹脂硬化時の体積収縮分を補填するための樹脂を金型内に加圧しながら補充する製法であるが、金型内の樹脂の外周部分が完全に硬化した後に、樹脂を過度に補充して加圧し過ぎると、注形品にクラックが発生したり、また注形品の外周部分に、補充された樹脂による薄皮(二枚皮)が形成される場合がある。
【0008】
また、エポキシ樹脂製のサイズの大きい注形品を製造するためには、一般的な注形法及び加圧ゲル化法のうちのいずれの製法を適用した場合でも、金型内の注形品の外周部分が一定以上の硬さに硬化した段階で注形品を金型から取り出し、この後、高耐熱性などの最終的な物性を付与するために、取り出したこの注形品を加熱炉などに収容して二次硬化させる。しかしながら、この場合の二次硬化は、取り出した注形品をその外周側から加熱することによって実現されるため、注形品の中心部へ十分な熱が伝達されて注形品全体が完全に硬化するまでには、例えば10数時間あまりもの多くの硬化時間が必要となる。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、熱硬化性の材料を用いた注形品の生産性を高めることが可能な注形品の製造方法、金型及びこの注形品を備えたガス絶縁開閉装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様である注形品の製造方法は、熱硬化性の注形材料を加熱された金型内に加圧補給しながら、この金型内における注形材料の外周部分を熱硬化させて半硬化物を得る工程と、前記金型内で得られた前記半硬化物についての熱硬化がその中心部側へ進行するときに生じる反応熱によって前記半硬化物を前記中心部から内部発熱させる工程と、前記金型内で内部発熱した前記半硬化物の熱膨張の発生に応じて、前記注形材料の加圧補給を停止させる工程と、前記加圧補給を停止させた前記金型内から前記半硬化物を取り出し、この半硬化物の内部発熱を継続させることによって前記中心部を含む半硬化物全体を熱硬化させる工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱硬化性の材料を用いた注形品の生産性を高めることが可能な注形品の製造方法、金型及びこの注形品を備えたガス絶縁開閉装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るガス絶縁開閉装置の構成を示す図。
【図2】図1のガス絶縁開閉装置が備える接続母線の構造を示す断面図。
【図3】図2の接続母線に設けられたポスト形の絶縁スペーサの構造を示す断面図。
【図4】図3の絶縁スペーサの製造に用いられる本実施形態の(入れ子及び埋込金物がセットされた状態の)金型の構造を示す断面図。
【図5】図4に示す金型のA部詳細図。
【図6】図4、図5に示す金型と構造を比較するための他の金型の構造を示す断面図。
【図7】図4に示す金型のB部詳細図。
【図8】図7のB部詳細図に示される傾斜部の機能について説明するための図。
【図9】図4の金型内に入れ子や埋込金物をセットする際の状態を示す図。
【図10】図9の入れ子や埋込金物がセットされた金型内に注形材料が注入された状態を示す断面図。
【図11A】図10の金型内で外周部分が熱硬化した半硬化物のさらなる熱硬化が中心部に向けて進行している状態を示す断面図。
【図11B】図11Aの半硬化物が内部発熱により自己膨張している状態を示す断面図。
【図11C】図11Bの自己膨張している状態の半硬化物を金型内から取り出した状態を示す断面図。
【図11D】図11Cの金型内から取り出した半硬化物のさらなる熱硬化が中心部に向けて継続的に進行している状態を示す断面図。
【図11E】図11Dの半硬化物全体が熱硬化しポスト型の絶縁スペーサが得られた状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態のガス絶縁開閉装置(GIS:Gas Insulated Switchgear)1は、主母線12、14及びブッシング21を備えているとともに、六フッ化硫黄(SF6)ガスが充填された接地容器内に、断路器15、16、遮断器17、変流器18、接続母線19などを収容した開閉設備として構成されている。上記した例えば遮断器17は、電流を遮断する際には、開閉器のアーク放電している電極間に、高絶縁性を有する前記の六フッ化硫黄ガスを吹き付けることで放電を消滅させる。
【0014】
また、図2に示すように、接続母線19は、電流通電用の高電圧導体22を接地電位の接続容器20の内部に収めたかたちで構成されている。高電圧導体22は、コーン形(円錐形)の絶縁スペーサ23、24やポスト形の絶縁スペーサ3を介して接続容器20内に支持されている。コーン形の絶縁スペーサ23、24は、接続容器20内部の六フッ化硫黄ガスを隔離しつつ高電圧導体22を支持している。
【0015】
ここで、ポスト形の絶縁スペーサ3の構造について説明する。図2、図3に示すように、ポスト形の絶縁スペーサ3は、エポキシ樹脂製のスペーサ本体部5と金属製の埋込部材である一組の埋込金物7、8とが一体成形された注形品で構成されている。電気絶縁性を有するスペーサ本体部5は、円柱の中央部分を膨出させた樽型形状に形成されている。
【0016】
図2、図3に示すように、一組の埋込金物7、8は、スペーサ本体部5の各端部にそれぞれ設けられている。図2に示すように、一方の埋込金物7が高電圧導体22に、また、他方の埋込金物8が接続容器20の内側部分に、それぞれ機械的に連結されている。これにより、絶縁スペーサ3は、自身の軸方向を起立させた姿勢で高電圧導体22を底部側から接続容器20の内壁面上に支持している。
【0017】
スペーサ本体部5の材料には、熱硬化性の注形材料であるエポキシ樹脂が適用されている。詳述すると、このエポキシ樹脂としては、酸無水物系硬化剤と無機充填材としてのアルミナとを液状のビスフェノールA系エポキシ樹脂に配合したものが使用される。なお、このようなエポキシ樹脂に代えて、所定の硬化剤及び充填剤を配合したシリコーン樹脂を、スペーサ本体部5を注形するための熱硬化性の注形材料として適用することも可能である。
【0018】
また、図3に示すように、スペーサ本体部5には、埋込金物7、8の周縁を被覆する厚さ3mm〜10mmの周縁被覆部9が設けられている。より具体的には、周縁被覆部9は、絶縁スペーサ3の両端に位置する埋込金物7、8の端縁の周りを覆うように形成されている。この周縁被覆部9が積極的に設けられていることで、後述する理由から、注形後に埋込金物7、8の周縁でバリが発生することが抑制される。
【0019】
さらに、図3に示すように、スペーサ本体部5の膨出している周面には、絶縁スペーサ3の軸方向において、中央部分から各端部側へ向けて階段状に複数段の段差を構成する凹凸部分6が形成されている。この凹凸部分6は、例えば数ミクロンオーダでスペーサ本体部5の表面を荒らすために形成されている。これにより、この凹凸部分6が電子の運動を阻害するように機能し、スペーサ本体部5自体の帯電を抑制する。
【0020】
次に、ポスト形の絶縁スペーサ3を製造(注形)するための金型25の構造について説明する。図4に示すように、金型25は、可動側金型部29及び固定側金型部30を有する金型本体部26と、可動側金型部29及び固定側金型部30が各々固定された金型固定板37、38と、可動側金型部29及び固定側金型部30のそれぞれの内部に装着される入れ子27、28と、を備えている。
【0021】
可動側金型部29と固定側金型部30とで構成される金型本体部26内には、注形材料が充填されるキャビティ(金型キャビティ)31と、金型25の外側(金型本体部26の底部側)からキャビティ31内に通じる材料注入口32と、が形成されている。キャビティ31は、その内部に充填された注形材料を熱硬化させることによって、体積が7000cc(cm3)を超えかつ最大肉厚が170mmを超えるサイズのスペーサ本体部5を、注形品として得ることができる形状に構成されている。
【0022】
可動側金型部29を固定する金型固定板37には、例えば油圧式のシリンダ39が連結されている。このシリンダ39は、固定側金型部30に対して、可動側金型部29を金型固定板37と共に前進及び後退させることで、金型25を開閉する。また、金型25における金型本体部26の底部には、材料移送管34を介して移送されてきた注形材料を、金型本体部26のキャビティ31内に、材料注入口32を介して注入(充填)するための材料注入ノズル33が配置されている。
【0023】
上記した材料移送管34の基端部側には、金型本体部26のキャビティ31内に対し、熱硬化性の注形材料である液状のエポキシ樹脂を材料注入ノズル33及び材料注入口32を介して加圧補給するための例えばピストンを備えたシリンダ機構などが接続されている。
【0024】
また、可動側金型部29と固定側金型部30とで構成される金型本体部26には、例えば温度制御可能な棒状の加熱ヒータが複数本内蔵されている。ここで、絶縁スペーサ3の注形時には、これら複数の加熱ヒータによって、図4に示す金型本体部26内のキャビティ31よりも下方側の材料注入口32の近傍は、例えば110℃〜120℃程度に加熱され、一方、図4に示す金型本体部26内のキャビティ31よりも上方側の部位は、例えば130℃〜140℃程度に加熱される。
【0025】
このように、絶縁スペーサ3の注形時においては、注形の過渡期に材料注入口32付近の注形材料が先に熱硬化してしまうことを抑制するために、金型本体部26内のキャビティ31の例えば上方側の部位などに比べて、材料注入口32付近の温度が、例えば10℃〜20℃程度、低くなるように温度勾配をつけて金型本体部26内が温度制御される。
【0026】
また、図4、図5(及び後に参照する図9)に示すように、金型本体部26は、Oリング35、36を介して埋込金物7、8が装着された入れ子27、28を内部にセットした状態において、これらの入れ子27、28との間で埋込金物7、8の外周面全体をそれぞれ包囲するように上述したキャビティ31が形成されている。
【0027】
すなわち、図4、図5に示すように、キャビティ31は、図3に示したスペーサ本体部5の周縁被覆部9を形成するための周縁被覆部形成溝29a、30aを有している。この周縁被覆部形成溝29a、30aを設けたことで、スペーサ本体部5上の周縁被覆部9は、図3〜図5に示すように、埋込金物7、8の周縁(埋込金物7、8における入れ子27、28と対向する側の周縁)を覆う位置に形成される。
【0028】
このような周縁被覆部9をスペーサ本体部5上に積極的に設けることで、埋込金物7、8と金型本体部26との微小な隙間が型構造上なくなり、埋込金物7、8の周縁に、注形後、薄肉のバリが発生することを実質的に阻止することができる。
【0029】
ここで、本実施形態の金型25と構造を比較するために例示した図6に示す他の構造の金型では、入れ子43に装着された埋込金物42と金型本体部40との間の微小な隙間45内に、注形材料が注形時に入り込むと埋込金物42の周縁にバリが発生することになる。バリが発生した場合には、例えば先端部を針状にした加工治具などを用いる人為的なバリ取り作業などが必要となり、例えば絶縁スペーサ1つあたり10分程度の多くの作業時間を要することになる。また、このようなバリ取り作業を行う場合、作業ミスにより、注形品の全生産個数あたり1〜2%程度の不良品の発生を招くことになる。
【0030】
一方、本実施形態の金型25では、上記周縁被覆部形成溝29a、30aを設けたことに加えて、図5に示すように、前述したOリング35、36は、周縁被覆部形成溝29a、30aと対向する位置において、埋込金物7、8と入れ子27、28との間に介在されると共に、埋込金物7、8と金型本体部26との間の隙間にまたがるように組み込まれる。したがって、図4、図5に示すように、金型25では、埋込金物7、8と入れ子27、28との隙間、及び、埋込金物7、8と金型本体部26との隙間に、注形材料が入り込んでしまうことなどが、より確実に防止される。これにより、バリ取り作業などに費やされる時間を削減できるので、絶縁スペーサ3の生産性を向上させることができる。
【0031】
また、図7に示すように、金型本体部26内のキャビティ31を構成する内壁面には、図3に示したスペーサ本体部5の周面上の凹凸部分6を注形するために、この凹凸部分6の形状に対応した凹凸部分29b、30bが形成されている。つまり、凹凸部分29b、30bは、金型25の開閉方向において、キャビティ31の中央部分(パーテーション側)から各端部側へ向けて階段状に複数段の段差を構成している。
【0032】
ここで、図7、図8に示すように、このキャビティ31上の凹凸部分29b、30bには、材料注入口32からキャビティ31内に注入される注形材料51の当該凹凸部分29b、30bでの流動を補助(支援)する傾斜部50が設けられている。この傾斜部50は、金型25の開閉方向を基準角度となる0°にした場合、キャビティ31の中央部分から各端部側へ向けて例えば5°の傾き角度kをなして立ち上がったテーパとして構成されている。
【0033】
すなわち、この傾斜部50は、型抜きを改善するためのいわゆる抜きテーパなどではなく、図8に示すように、材料注入口32から注入された注形材料51を、スムーズに凹凸部分29b、30b上で流動させるようにすることで、エア抜け性を改善し、注形の際に気泡が残らないようにするためのものである。これにより、注形品において、電気絶縁性能の低下の要因となるボイド(空孔)の発生を抑制できるので、電気絶縁性能の良好な絶縁スペーサ3を注形することができる。
【0034】
これに対して、凹凸部分に傾斜部50を設けていない(上記した傾き角度が0°の)金型では、注形品の全生産個数あたり5%程度はボイドの発生を招いてしまうことになる。つまり、傾斜部50を設けていない凹凸部分で注形材料の対流などが起こり、凹凸部分に空気が閉じ込められる場合がある。この際、凹凸部分に閉じ込められた空気によって注形材料の流動が阻害され、注形品として所望の形状が得られないおそれなどもある。これに対して、凹凸部分29b、30bに傾斜部50を設けた本実施形態(上記した傾き角度が5°の)の金型25では、凹凸部分29b、30b上での注形材料の流動性が良好であり、ボイドの発生率を限りなく0%に近付けることが可能となる。
【0035】
次に、このような構造の絶縁スペーサ3を製造する場合に有用な本実施形態に係る注形品の製造方法を、上述した図3、図4に加え、図9、図10及び図11A〜図11Eに基づき説明する。ここで、本実施形態の注形品の製造方法は、いわゆる加圧ゲル化法にさらに改良を加えた注形法である。
【0036】
まず、図9(金型25の固定側については図示を省略)に示すように、Oリング35、36を内側に挟み込むようにしつつ、個々の埋込金物7、8を、それぞれ対応する側の入れ子27、28に装着する。次に、Oリング35、36及び埋込金物7、8の取り付けられた入れ子27、28を、金型本体部26の可動側金型部29及び固定側金型部30にそれぞれセット(装着)する。
【0037】
続いて、図4に示すように、上記入れ子27、28のセットされた金型25をシリンダ39を介して閉じた後、金型25における金型本体部26内を加熱する。この際、図4に示す金型本体部26内において材料注入口32の近傍(周辺)を除いた部位が140℃に加熱され、かつ、材料注入口32の近傍が10℃低い130℃に加熱されるように、金型本体部26内の加熱ヒータを制御して温度調整を行う。このような温度調整は、材料注入口32での注形材料51の熱硬化を抑制するために行われる。
【0038】
次いで、金型本体部26内が上記温度に調整された後、図10に示すように、材料注入ノズル33及び材料注入口32を介し、金型本体部26のキャビティ31内へ注入速度50cc(cm3)/secにて、熱硬化性の注形材料51である液状のエポキシ樹脂を注入する。この場合、材料移送管34の基端側にあるピストンを含むシリンダ機構などを制御することで、加熱された金型本体部26(金型25)のキャビティ31内へは、架橋反応による樹脂硬化時の体積収縮分を補填するように注形材料51を加圧補給する。
【0039】
このような注形材料51の加圧補給(加圧しながらの補充)によって、図11Aに示すように、金型本体部26(金型25)のキャビティ31内における注形材料51の外周部分52が熱硬化して半硬化物53が得られる。さらに、注形材料51のこの加圧補給を継続することにより、金型本体部26内で得られた半硬化物53についての熱硬化がその中心部54側へ進行するときに生じる架橋反応時の反応熱で、半硬化物53を中心部54から内部発熱させる。
【0040】
ここで、本実施形態の場合、体積が7000cc(cm3)を超えかつ最大肉厚が170mmを超える大サイズのスペーサ本体部5を得るために、このサイズに対応したキャビティ31内には多量の注形材料51が注入される。このため、半硬化物53の中心部54側での材料硬化時の反応熱が、先に熱硬化した外周部分52により封じ込められ、半硬化物53の中心部54からの内部発熱が起こる。
【0041】
次に、図11Bに示すように、金型本体部26(金型25)内で内部発熱した半硬化物53の熱膨張の発生に応じて、例えば加圧力2barで行っていた注形材料51の加圧補給を停止させる。この際、キャビティ31内における半硬化物53の中心部54は、金型本体部26(キャビティ31)の内壁面から遠く、徐々に熱硬化して行く。このため、半硬化物53は、その中心部54側からの熱膨張(自己膨張)を繰り返し、この自己膨張により、キャビティ31内での材料硬化時の体積収縮分が補われることになる。
【0042】
また、このような内部発熱による半硬化物53の自己膨張により、キャビティ31内から自発的にエアが押し出されるため、空気抜きのための注形材料51の加圧補給が不要となる。このため、加圧補給を継続して注形を行った場合には、注形品の全生産個数あたり1%〜2%程度、注形品へのクラックの発生を招いていたものの、半硬化物53の自己膨張発生後において、注形材料51の加圧補給が不要になることで、クラックの発生率を限りなく0%に近付けることが可能となる。なお、このような加圧補給を停止させるタイミングとしては、本実施形態の金型25を適用した注形の実験データなどに基づき、キャビティ31内への注形材料51の注入を開始してから所定時間経過後に当該加圧補給を停止させることなどが例示される。
【0043】
次に、注形材料51の加圧補給を停止させてからさらに所定時間経過後に、図11C(金型25の固定側については図示を省略)に示すように、金型25のキャビティ31内から、半硬化物53を取り出(離型)し、その半硬化物53からOリング35、36及び入れ子27、28の取り外しを行う。
【0044】
次いで、図11Dに示すように、金型25から取り出したこの半硬化物53を約30分程度放置し、半硬化物53の内部発熱を継続させることによって、中心部54を含む半硬化物53全体を熱硬化させ、これにより、図11E及び図3に示すように、高耐熱性などの固体絶縁物としての最終的な物性が付与されたポスト形の絶縁スペーサ(注形品)3を得る。
【0045】
ここで、本実施形態の製法では、半硬化物53における先に熱硬化させた外周部分52で、中心部54側での内部発熱を封じ込めることができるので、既存の注形法において、金型から取り出した注形品を加熱炉内に12時間程度入れて二次硬化させるといった工程を実質的に削除することができる。したがって、本実施形態の製法では、絶縁スペーサ3の生産サイクルを大幅に短縮でき、生産効率を著しく向上させることができる。
【0046】
既述したように、本実施形態に係る注形品の製造方法によれば、金型25内で外周部分52を熱硬化させた半硬化物53を内部発熱させて自己膨張させることができるので、この自己膨張後は注形材料51の加圧補給が不要となる。これにより、注形材料51の過度な補充(加圧)によるクラックの発生及び注形品表面上での薄皮(二枚皮)の発生、並びにヒケの発生などをそれぞれ回避することが可能となり、品質の高い絶縁スペーサ3を得ることができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る注形品の製造方法によれば、内部発熱している半硬化物53を金型25内から取り出した後も、先に硬化させた外周部分52で、外部への熱の放散を阻止しつつこの内部発熱を継続させることができるので、金型25内の材料注入口32付近を閉塞(先に熱硬化)させないようにする複雑な温度制御や、また、完全に硬化していない注形品を別途、加熱炉内で二次硬化させることなどが不要となり、絶縁スペーサ3の生産性を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態の金型25を適用した注形品の製造方法によれば、前述したように、図4、図5に示した周縁被覆部形成溝29a、30aや図7、図8に示した傾斜部50を金型本体部26のキャビティ31に設けたことで、注形品である絶縁スペーサ3にバリやボイドが発生することを抑制することができる。さらに、このように固体絶縁物としての品質を高めたポスト形の絶縁スペーサ3を、図1、図2に示したように、高電圧導体22の支持部分に適用していることで、ガス絶縁開閉装置1の接地部分についての信頼性を確保することができる。
【0049】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば上述した実施形態では、埋込金物を一体的に注形する形態を例示したが、これに代えて、埋込金物のない注形品を、本発明の製造方法で注形するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…ガス絶縁開閉装置、3…ポスト形の絶縁スペーサ、5…絶縁スペーサ本体、6…絶縁スペーサ本体の凹凸部分、7,8…埋込金物、9…周縁被覆部、25…金型、26…金型本体部、27,28…入れ子、29a,30a…周縁被覆部形成溝、29b,30b…キャビティの凹凸部分、31…キャビティ、32…材料注入口、35,36…Oリング、35…シリンダ、50…傾斜部、51…注形材料、52…外周部分、53…半硬化物、54…中心部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性の注形材料を加熱された金型内に加圧補給しながら、この金型内における注形材料の外周部分を熱硬化させて半硬化物を得る工程と、
前記金型内で得られた前記半硬化物についての熱硬化がその中心部側へ進行するときに生じる反応熱によって前記半硬化物を前記中心部から内部発熱させる工程と、
前記金型内で内部発熱した前記半硬化物の熱膨張の発生に応じて、前記注形材料の加圧補給を停止させる工程と、
前記加圧補給を停止させた前記金型内から前記半硬化物を取り出し、この半硬化物の内部発熱を継続させることによって前記中心部を含む半硬化物全体を熱硬化させる工程と、
を有することを特徴とする注形品の製造方法。
【請求項2】
体積が7000cm3を超えかつ最大肉厚が170mmを超えるサイズの注形品を注形することを特徴とする請求項1記載の注形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の注形品の製造方法に用いる金型であって、
製造対象となる注形品と一体成形される金属性の埋込部材が装着される入れ子と、
前記埋込部材が装着された入れ子を内部にセットした状態において、この入れ子との間で前記埋込部材の外周面全体を包囲するキャビティを備えた金型本体部と、
を具備することを特徴とする金型。
【請求項4】
請求項1又は2記載の注形品の製造方法に用いる金型であって、
内壁面に凹凸を形成したキャビティとこのキャビティ内に通じる前記注形材料の注入口とを備えた金型本体部と、
前記キャビティ上の凹凸部分に設けられ、前記注入口から前記キャビティ内に注入される前記注形材料の前記凹凸部分での流動を補助する傾斜部と、
を具備することを特徴とする金型。
【請求項5】
前記金型にはヒータが設けられる一方、前記金型内に熱硬化性の注形材料を加圧補給するときには、該ヒータにより前記キャビティの温度を前記注形材料の注入口の温度より高く設定することを特徴とする請求項4記載の金型。
【請求項6】
請求項1若しくは2記載の注形品の製造方法で製造された注形品、又は請求項3ないし5のいずれか1項に記載の金型を用いて製造された注形品、を備えていることを特徴とするガス絶縁開閉装置。
【請求項1】
熱硬化性の注形材料を加熱された金型内に加圧補給しながら、この金型内における注形材料の外周部分を熱硬化させて半硬化物を得る工程と、
前記金型内で得られた前記半硬化物についての熱硬化がその中心部側へ進行するときに生じる反応熱によって前記半硬化物を前記中心部から内部発熱させる工程と、
前記金型内で内部発熱した前記半硬化物の熱膨張の発生に応じて、前記注形材料の加圧補給を停止させる工程と、
前記加圧補給を停止させた前記金型内から前記半硬化物を取り出し、この半硬化物の内部発熱を継続させることによって前記中心部を含む半硬化物全体を熱硬化させる工程と、
を有することを特徴とする注形品の製造方法。
【請求項2】
体積が7000cm3を超えかつ最大肉厚が170mmを超えるサイズの注形品を注形することを特徴とする請求項1記載の注形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の注形品の製造方法に用いる金型であって、
製造対象となる注形品と一体成形される金属性の埋込部材が装着される入れ子と、
前記埋込部材が装着された入れ子を内部にセットした状態において、この入れ子との間で前記埋込部材の外周面全体を包囲するキャビティを備えた金型本体部と、
を具備することを特徴とする金型。
【請求項4】
請求項1又は2記載の注形品の製造方法に用いる金型であって、
内壁面に凹凸を形成したキャビティとこのキャビティ内に通じる前記注形材料の注入口とを備えた金型本体部と、
前記キャビティ上の凹凸部分に設けられ、前記注入口から前記キャビティ内に注入される前記注形材料の前記凹凸部分での流動を補助する傾斜部と、
を具備することを特徴とする金型。
【請求項5】
前記金型にはヒータが設けられる一方、前記金型内に熱硬化性の注形材料を加圧補給するときには、該ヒータにより前記キャビティの温度を前記注形材料の注入口の温度より高く設定することを特徴とする請求項4記載の金型。
【請求項6】
請求項1若しくは2記載の注形品の製造方法で製造された注形品、又は請求項3ないし5のいずれか1項に記載の金型を用いて製造された注形品、を備えていることを特徴とするガス絶縁開閉装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【公開番号】特開2012−30535(P2012−30535A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173139(P2010−173139)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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