説明

流動床ガス化炉および熱分解ガス化方法

【課題】流動媒体の循環量を簡易かつ精密に制御し、ガス化室と燃焼室との間で熱分解残渣と熱の移動を容易かつ安定的に行うことができる流動床ガス化炉を提供する。
【解決手段】流動床ガス化炉1は、流動媒体を内部で流動させるガス化室10と、流動媒体を内部で流動させる燃焼室20とを備えている。ガス化室10では、流動媒体中で原料を熱分解して熱分解ガスと熱分解残渣を生成する。燃焼室20は、熱分解残渣を燃焼させて流動媒体を加熱する燃焼部22と、加熱された流動媒体を沈降させる沈降部24とを有する。流動床ガス化炉1は、燃焼室20の沈降部24に隣接する燃焼部22の領域22aに流動化ガスを供給して燃焼部22から沈降部24に流動媒体を移動させる散気装置71と、第1の散気装置71から噴出される流動化ガスの流量を調整して流動媒体の循環量を制御する循環制御装置82とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床ガス化炉に関し、特に各種廃棄物や固体燃料等を原料としてガスを発生させるのに適した流動床ガス化炉に関するものである。また、本発明は、かかる流動床ガス化炉を用いて原料を熱分解ガス化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の廃棄物や石炭などの固体燃料を熱分解して生成ガスを生成する流動床ガス化炉が知られている。このような流動床ガス化炉においては、反応に関わる諸因子のうち、例えばガス化炉の流動層の温度を変えるために、ガス化炉に供給する酸素や空気の流量を変えることが行われている。
【0003】
しかしながら、ガス化炉に供給する酸素の量を増やした場合は、生成ガスに含まれる燃焼ガスの量が増加し、生成ガスの発熱量が低下してしまう。また、ガス化炉に供給する酸素の量を減らした場合には、チャーやタールなどの熱分解残渣の発生量が増え、ガス化の効率が低下してしまう。
【0004】
このため、最近では、廃棄物や固体燃料などの原料を熱分解ガス化するガス化室と、ガス化により発生したチャーやタールなどの熱分解残渣を燃焼する燃焼室とを備えた統合型流動床ガス化炉が開発されている。この統合型流動床ガス化炉においては、燃焼室で発生した熱分解残渣の燃焼熱がガス化室でのガス化の反応熱に利用される。また、この統合型流動床ガス化炉のガス化室および燃焼室はともに流動媒体からなる流動床を備えており、この流動媒体をガス化室と燃焼室との間で循環させることで、ガス化室と燃焼室との間で熱分解残渣と熱の移動を行っている。
【0005】
このような統合型流動床ガス化炉において、ガス化室から燃焼室への熱分解残渣の移動および燃焼室からガス化室への熱の移動を円滑に行うためには、流動媒体の循環量を精密に制御することが重要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、流動媒体の循環量を簡易かつ精密に制御し、ガス化室と燃焼室との間で熱分解残渣と熱の移動を容易かつ安定的に行うことができる流動床ガス化炉および熱分解ガス化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、流動媒体の循環量を簡易かつ精密に制御し、ガス化室と燃焼室との間で熱分解残渣と熱の移動を容易かつ安定的に行うことができる流動床ガス化炉が提供される。この流動床ガス化炉は、流動媒体を内部で流動させるガス化室と、流動媒体を内部で流動させる燃焼室とを備えている。ガス化室では、流動媒体中で原料を熱分解して熱分解ガスと熱分解残渣を生成する。燃焼室は、前記熱分解残渣を燃焼させて前記流動媒体を加熱する燃焼部と、前記加熱された流動媒体を沈降させる沈降部とを有する。沈降部は、前記燃焼部と前記ガス化室とに隣接して設けられている。また、流動床ガス化炉は、前記ガス化室内の熱分解残渣を前記流動媒体とともに前記ガス化室から前記燃焼室に導入する通路と、前記燃焼室内の加熱された流動媒体を前記燃焼室の沈降部から前記ガス化室に導入する通路とを備えている。さらに、流動床ガス化炉は、前記燃焼室の沈降部に隣接する燃焼部の第1の領域に流動化ガスを供給して前記燃焼部から前記沈降部に前記流動媒体を移動させる第1の散気装置と、前記第1の散気装置から噴出される流動化ガスの流量を調整して前記流動媒体の循環量を制御する循環制御装置とを備えている。
【0008】
流動床ガス化炉は、前記燃焼室の沈降部から離れた燃焼部の第2の領域に流動化ガスを供給する第2の散気装置をさらに備えていてもよい。この場合において、流動床ガス化炉は、前記第2の散気装置から供給される流動化ガスの流量を調整して前記燃焼室における熱分解残渣の燃焼を制御する燃焼制御装置をさらに備えていることが好ましい。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、流動媒体の循環量を簡易かつ精密に制御し、ガス化室と燃焼室との間で熱分解残渣と熱の移動を容易かつ安定的に行うことができる熱分解ガス化方法が提供される。この方法によれば、ガス化室の内部で流動媒体を流動させ、該流動媒体中で原料を熱分解して熱分解ガスと熱分解残渣を生成する。前記ガス化室内の熱分解残渣を前記流動媒体とともに前記ガス化室から燃焼室の燃焼部に導入する。前記燃焼部の内部で流動媒体を流動させ、前記熱分解残渣を燃焼させて前記流動媒体を加熱する。前記燃焼部の第1の領域に流動化ガスを供給して、前記燃焼部から前記第1の領域に隣接する沈降部に前記流動媒体を移動させる。前記沈降部に移動させた流動媒体を前記沈降部内で沈降させる。前記沈降部内の流動媒体を前記沈降部から前記ガス化室に導入する。前記第1の領域に供給された流動化ガスの流量を調整して前記流動媒体の循環量を制御する。
【0010】
また、前記燃焼室の沈降部から離れた燃焼部の第2の領域に前記第1の領域とは独立して流動化ガスを供給してもよい。この場合において、前記第2の領域に供給される流動化ガスの流量を調整して前記燃焼室における熱分解残渣の燃焼を制御することが好ましい。
【0011】
本発明の上述した目的ならびにその他の目的および効果は、本発明の好ましい実施形態を一例として図示した添付図面と照らし合わせれば、以下に述べる説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る流動床ガス化炉の実施形態について図1から図3を参照して詳細に説明する。なお、同一または相当する構成要素には、図面を通して同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における流動床ガス化炉1を示す斜視図である。図1においては、流動床ガス化炉1の内部構造が見えるように一部を破断して図示している。直角座標系XYZは、XYが水平面となり、Zが鉛直軸となるように設定されている。Y軸は、流動床ガス化炉1の正面方向に向いており、流動床ガス化炉1はY軸に対称に構成されている。図1に示すように、流動床ガス化炉1は、各種廃棄物や固体燃料等の原料を熱分解ガス化するガス化室10と、ガス化により発生したチャーやタールなどの熱分解残渣を燃焼して流動媒体を加熱する燃焼室20とを備えた統合型ガス化炉として構成されている。
【0014】
図1に示すように、流動床ガス化炉1は、内部にガス化室10と燃焼室20とが収容された直方体状の炉体30を有している。すなわち、流動床ガス化炉1は、概ね矩形の炉壁32により側面が構成された炉体30を有している。このように、炉体30を直方体とすることにより、流動床ガス化炉1の設計の自由度が増す。例えば、ガス化室10の寸法(ガス化室10の面積および形状)を固定したままで、燃焼室20のX軸方向またはY軸方向の長さを変化させることで、燃焼室20の寸法のみを任意に変更することができる。したがって、原料の性状(固定炭素の割合など)に応じた最適な寸法に流動床ガス化炉1を設計することが容易になる。例えば、円筒状の炉体である場合は、ガス化室10と燃焼室20のいずれか一方の寸法を変更すると他方の寸法も変わってしまう。
【0015】
ガス化室10と燃焼室20のそれぞれの底部には、流動媒体を含む濃厚層である流動床が形成されている。この流動床は、後述する散気装置から噴出される流動化ガスによって流動媒体を流動状態にすることにより形成される。この流動床は、鉛直方向下方に位置し、流動化ガスにより流動状態に置かれた流動媒体(例えば珪砂)を濃厚に含む濃厚層と、その濃厚層の鉛直方向上方に位置し、流動媒体と多量のガスが共存して流動媒体が勢いよく跳ね上がっているスプラッシュゾーンとからなる。流動床の上方、すなわちスプラッシュゾーンの上方には流動媒体をほとんど含まずガスを主体とするフリーボード部がある。流動床の界面は、ある厚さをもったスプラッシュゾーンをいうが、スプラッシュゾーンの上面と下面(濃厚層の上面)との中間にある仮想的な面と捉えることもできる。
【0016】
ガス化室10と燃焼室20とは、前方の仕切壁40と側方の仕切壁42により仕切られている。仕切壁40はガス化室10の炉床から天井まで一面に延びており、仕切壁42は炉底近傍から鉛直方向に延び、フリーボード部の途中で斜め上方に曲がり、炉壁32につながっている。
【0017】
また、燃焼室20には、ガス化室10の両側に仕切壁44が設けられている。これらの仕切壁44は、炉底から上方に向かって延びており、その上端は、流動床の界面近傍、すなわち濃厚層の上面よりは上方であるが、スプラッシュゾーンの上面よりは下方に位置している。これらの仕切壁44により燃焼室20の内部にチャー燃焼部22と2つの沈降部24が形成されている。チャー燃焼部22は、ガス化室10のガス化により発生したチャーやタールなどの熱分解残渣を燃焼して流動媒体を加熱するものである。また、沈降部24は、チャー燃焼部22において加熱された流動媒体を沈降させてガス化室10に供給するものである。
【0018】
図1に示すように、ガス化室10の上部には、ガス化室10で発生した生成ガスGを排出する生成ガス排出口34が設けられており、燃焼室20の上部には、燃焼室20で発生した燃焼ガスGを排出する燃焼ガス排出口36が設けられている。ガス化室10内の空間は、生成ガス排出口34の下方のフリーボード部で大きくなっているので、生成ガスGの空塔速度を生成ガス排出口34に至る前に下げることができる。したがって、未燃分が生成ガスGとともに飛散することを防止することができるとともに、生成ガスGの熱分解に必要な反応時間(滞留時間)を十分に確保することができる。
【0019】
図2は、流動床ガス化炉1の平面図、図3は、流動床ガス化炉1内の各室の構成を模式的に示す展開図である。図1および図3に示すように、チャー燃焼部22に隣接する仕切壁40の下部には、ガス化室10と燃焼室20のチャー燃焼部22とを連通する開口50が形成されている。また、沈降部24に隣接する仕切壁42の下部には、ガス化室10と沈降部24とを連通する開口52が形成されている。
【0020】
仕切壁40に形成された開口50は、ガス化室10から燃焼室20のチャー燃焼部22に流動媒体を導入する通路としての役割を有し、仕切壁42に形成された開口52は、燃焼室20の沈降部24からガス化室10に流動媒体を導入する通路としての役割を有する。仕切壁40の開口50は、流動床ガス化炉1の運転中のガス化室10の流動床の上面および燃焼室20のチャー燃焼部22の流動床の上面よりも常に下方に位置するように設計されており、仕切壁42の開口52は、流動床ガス化炉1の運転中のガス化室10の流動床の上面および沈降部24の流動床の上面よりも常に下方に位置するように設計されている。好ましくは、仕切壁40の開口50の上端は、ガス化室10の流動床の濃厚層の上面およびチャー燃焼部22の流動床の濃厚層の上面のいずれよりも下方に位置するようにし、仕切壁42の開口52の上端は、ガス化室10の流動床の濃厚層の上面および沈降部24の流動床の濃厚層の上面のいずれよりも下方に位置するようにする。したがって、ガス化室10で発生した有価な生成ガスGおよび燃焼室20で発生した燃焼ガスGが、これらの開口52および開口50を通って流通することはほとんどない。
【0021】
図1に示すように、仕切壁40の開口50の下方には不燃物抜出口60が形成されており、この不燃物抜出口60は、不燃物を炉外に取り出す不燃物排出口62に接続されている。このように、本実施形態では、不燃物が燃焼室20の炉底から排出されるようになっている。また、燃焼室20のチャー燃焼部22の炉底23が不燃物抜出口60に向かって傾斜しており、不燃物が排出されやすいようになっている。
【0022】
図3に示すように、燃焼室20のチャー燃焼部22の炉底には、沈降部24の近傍の領域22aに流動化ガスを吹き込む第1の散気装置71と、沈降部24から離れた領域22bに流動化ガスを吹き込む第2の散気装置72とが設けられている。また、燃焼室20の沈降部24の炉底には、沈降部24の内部の領域24aに流動化ガスを吹き込む第3の散気装置73が設けられている。また、ガス化室10の炉底には、仕切壁42の近傍の領域10aに流動化ガスを吹き込む第4の散気装置74と、仕切壁42から離れた領域10bに流動化ガスを吹き込む第5の散気装置75とが設けられている。
【0023】
第1の散気装置71は、流動化ガスとしての空気または蒸気を供給するガスライン80に接続されており、このガスライン80には流量調整弁81が設けられている。この流量調整弁81は、流動媒体の循環量を制御する循環制御装置82に接続されており、循環制御装置82によって第1の散気装置71に供給される流動化ガスの流量が調整されるようになっている。また、本実施形態では、第1の散気装置71に供給される流動化ガスの流量を検出する流量検出器83がガスライン80に設けられており、この流量検出器83の出力は循環制御装置82に入力されている。
【0024】
第2の散気装置72は、流動化ガスとしての空気を供給するガスライン90に接続されており、このガスライン90には流量調整弁91が設けられている。この流量調整弁91は、燃焼室20におけるチャーの燃焼を制御する燃焼制御装置92に接続されており、燃焼制御装置92によって第2の散気装置71に供給される流動化ガスの流量が調整されるようになっている。また、本実施形態では、第2の散気装置72に供給される流動化ガスの流量を検出する流量検出器93がガスライン90に設けられており、この流量検出器93の出力は燃焼制御装置92に入力されている。
【0025】
第3の散気装置73、第4の散気装置74、および第5の散気装置75も同様に、流動化ガスを供給するガスラインに接続されているが、本実施形態ではこれらのガスラインの図示を省略している。
【0026】
これらの散気装置71,72,73,74,75は、例えば、炉底に配置された多孔板とその幅方向に分割された複数の部屋とを備えており、各部屋から多孔板を通して吹き出す流動化ガスの流速を変えて流動化状態を局所的に変えることができるようになっている。
【0027】
本実施形態では、第1の散気装置71は、領域22aに強流動化域を形成するように構成されており、第2の散気装置72は、仕切壁40の近傍の領域22b−1(図2参照)に強流動化域、仕切壁40から離れた領域22b−2(図2参照)に弱流動化域を形成するように構成されている。また、第3の散気装置73は、沈降部24の内部の領域24aに弱流動化域を形成するように構成されている。第4の散気装置74は、仕切壁42の近傍の領域10aに強流動化域を形成するように構成され、第5の散気装置75は、仕切壁42から離れた領域10bに弱流動化域を形成するように構成されている。このように、各領域での流動化状態に差を設けることによって、ガス化室10および燃焼室20の内部に流動媒体の内部旋回流を形成するとともに、流動媒体をガス化室10と燃焼部22との間で循環させることができる。
【0028】
ガス化室10および燃焼室20における強流動化域の流動化速度は5Umf以上、弱流動化域の流動化速度は5Umf以下とするのが好ましいが、弱流動化域と強流動化域の流動化速度に相対的な差があれば、これらをどのように設定してもよい。ここで、Umfは、最低流動化速度(流動化が開始される速度)に対する流動化速度を表す単位であり、例えば、5Umfは最低流動化速度の5倍の速度を表している。
【0029】
ここで、本実施形態のガス化室10には、図3に示すように、ガス化室10の流動媒体の温度を検出する温度センサ84が設けられている。この温度センサ84の出力は循環制御装置82に入力されている。例えば、この温度センサ84を仕切壁40の開口50の上流側に配置する。この温度センサ84は、流動媒体の温度を直接検出するものであってもよいし、あるいは、流動媒体の温度を間接的に検出するものであってもよい。また、燃焼室20には、燃焼室20の流動媒体の温度を検出する温度センサ85が設けられている。この温度センサ85の出力は循環制御装置82に入力されている。この温度センサ85は、流動媒体の温度を直接検出するものであってもよいし、あるいは、流動媒体の温度を間接的に検出するものであってもよい。さらに、燃焼室20の燃焼ガス排出口36には、燃焼室20から排出される燃焼ガスGの酸素濃度を検出する酸素濃度センサ94が設けられている。この酸素濃度センサ94の出力は燃焼制御装置92に入力されている。
【0030】
廃棄物や固体燃料などの原料Aは、原料供給口(図示せず)からガス化室10に投入され、ガス化室10で流動媒体から熱を受け、熱分解ガス化される。この熱分解により、原料Aは、可燃性ガス、チャー、灰分に分解される。典型的には、原料Aは、ガス化室10では燃焼せず、いわゆる乾留される。ここで、ガス化室10に供給される原料Aとしては、廃プラスチック、廃タイヤ、カーシュレッダーダスト、木質系廃棄物、一般廃棄物、RDF、石炭、重質油、タールなど、発熱量を有する有機性廃棄物または燃料であることが好ましい。
【0031】
上述したように、ガス化室10の領域10aには強流動化域が形成され、領域10bには弱流動化域が形成されており、領域10aと領域10bの流動化状態に差が設けられている。このため、ガス化室10には流動媒体の内部旋回流が形成される。
【0032】
ここで、ガス化室10の領域10bには弱流動化域が形成され、燃焼室20の領域22b−1には強流動化域が形成されており、燃焼室20の領域22b−1がガス化室10の領域10bよりも強い流動化状態に保持されている。このため、仕切壁40を挟んで両側の領域で圧力差が生じ、ガス化室10での熱分解によって生成したチャーのうち、粒子径が大きく可燃性ガスに同伴されないものが、ガス化室10内の流動媒体とともに仕切壁40の下部の開口50を通って燃焼室20に流入する。
【0033】
燃焼室20では、流動化ガスとしての空気や酸素富化空気または酸素等の有酸素ガスによりチャーが完全燃焼される。チャーの燃焼によって発生した熱により燃焼室20内の流動媒体は加熱される。燃焼室20の領域22b−1には強流動化域が形成され、領域22b−2には弱流動化域が形成されており、領域22b−1と領域22b−2の流動化状態に差が設けられている。このため、燃焼室20には流動媒体の内部旋回流が形成され、流動媒体はこの内部旋回流によって旋回されつつ十分に加熱される。
【0034】
仕切壁44の近傍のチャー燃焼部22の領域22aには強流動化域が形成されており、チャー燃焼部22の領域22aの流動媒体は、仕切壁44の上端を越えて沈降部24に流入する。ここで、沈降部24の領域24aには弱流動化域が形成され、ガス化室10の仕切壁42の近傍の領域10aには強流動化域が形成されており、ガス化室10の領域10aが沈降部24の領域24aよりも強い流動化状態に保持されている。このため、仕切壁42を挟んで両側の領域で圧力差が生じ、沈降部24内の流動媒体が仕切壁42の開口52を通ってガス化室10に流入する。このように、チャー燃焼部22の領域22aから沈降部24に流入した流動媒体は、沈降部24内を下方(炉底方向)に移動し、仕切壁42の開口52を通ってガス化室10に流入する。
【0035】
このようにして、流動媒体がガス化室10と燃焼室20との間で循環され、ガス化室10と燃焼室20との間で熱分解残渣と熱の移動が行われる。
【0036】
上述したように、このような統合型流動床ガス化炉においては、ガス化室10から燃焼室20への熱分解残渣の移動および燃焼室20からガス化室10への熱の移動を円滑に行うために、流動媒体の循環量を制御することが重要である。本発明者等は、沈降部24に隣接する領域22aにおけるUmf比を適切に調整することにより、流動媒体の循環量を簡易かつ精密に制御できることを見いだした。
【0037】
すなわち、沈降部24に隣接する領域22aに供給する流動化ガスのUmf比を大きくすれば、仕切壁44を飛び越えて沈降部24に流入する流動媒体の量が増えるが、このように沈降部24に流入する流動媒体の量が増えると、沈降部24内の領域24aにおける圧力とガス化室10の領域10aにおける圧力との差が大きくなる。このため、燃焼室20からガス化室10に移動する流動媒体の移動量、すなわち流動床ガス化炉1における流動媒体の循環量を増やすことができる。したがって、沈降部24に隣接する領域22aにおけるUmf比を適切に調整することにより、流動媒体の循環量を簡易かつ精密に制御できる。
【0038】
ここで、ガス化室10におけるガス化の効率を上げるためには、ガス化室10の流動媒体の温度を適切な温度に維持する必要がある。本実施形態では、第1の散気装置71から吹き出す流動化ガスのUmf比を調整することによって、沈降部24に隣接する領域22aにおけるUmf比を適切に調整し、ガス化室10の流動媒体の温度を適切な温度に維持している。Umf比は流動媒体の温度により変化するので、本実施形態においては、温度センサ85により燃焼室20の流動媒体の温度を検出している。循環制御装置82は、流量検出器83により検出される流動化ガスの流量と温度センサ85により検出される燃焼室20の流動媒体の温度とから第1の散気装置71から吹き出す流動化ガスのUmf比を算出し、算出されたUmf比に基づいて、温度センサ84により検出されるガス化室10の流動媒体の温度が所望の温度となるように、流量調整弁81の開度を調整して第1の散気装置71から噴出される流動化ガスの流量を調整する。
【0039】
なお、循環制御装置82は、ガス化室10および燃焼室20内の1点を測定した代表温度に基づいて制御を行ってもよいし、ガス化室10および燃焼室20内の複数の点を測定した平均温度に基づいて制御を行ってもよい。Umf比の演算は燃焼室20内の領域22aを測定した温度に基づいて行うことが好ましい。燃焼室20内の領域22aを測定した温度に基づいて制御を行うことが好ましい。あるいは、ガス化室10の流動媒体の温度と燃焼室20の流動媒体の温度との差に基づいて流動化ガスの流量を調整してもよい。
【0040】
ここで、燃焼室20の流動層内の空気比が高いと、チャーの燃焼率が向上し、チャーの燃焼による熱を効率的に流動媒体に伝えることができるが、燃焼室20の流動層内の空気比を高めすぎると、流動層から燃焼ガスGとして放出される熱量が増えるため、逆に流動媒体の温度を下げることとなる。好ましくは空気比が0.8〜1.2程度になるように調整する。
【0041】
上述したように、循環制御装置82により流動媒体の循環量を所望の値に調整することができるが、第2の散気装置72からの流動化ガスの流量を一定にした場合、循環制御装置82により散気装置71からの流動化ガス(空気)の量が変化すると、燃焼室20の流動層内の空気比が変化する。このため、燃焼室20における流動媒体の温度が変化し、結果的にガス化室10の流動媒体の温度も変化する。ガス化室10の温度媒体の変化により生成ガスGの量や質も変動するとともに、循環制御装置82により再び流動媒体の循環量を制御する必要が生じる。
【0042】
したがって、本実施形態においては、燃焼室20から排出される燃焼ガスGの酸素濃度を酸素濃度センサ94により検出し、燃焼ガスGの酸素濃度に基づいて第2の散気装置72から噴出される流動化ガスの流量が調整され、燃焼室20の流動層内の空気比が所望の値に制御される。例えば、燃焼ガスGの酸素濃度が低下した場合は、燃焼制御装置92は、第2の散気装置72から噴出される流動化ガスの流量を増やすために流量調整弁93の開度を大きくする。
【0043】
なお、本実施形態では、燃焼室20から排出される燃焼ガスGの酸素濃度に基づいて第2の散気装置72から噴出される流動化ガスの流量を調整しているが、例えば、チャーの燃焼に必要な酸素量と、第2の散気装置72からの流動化ガスの酸素量の比(酸素比)に基づいて、第2の散気装置72から噴出される流動化ガスの流量を調整してもよい。この場合には、例えば、原料Aの投入量からチャーの発生量を算出し、算出されたチャーの発生量から燃焼に必要な酸素量を算出する。そして、流量検出器93により検出された流動化ガスの流量からこの流動化ガスの酸素量が算出され、これら算出されたチャーの燃焼に必要な酸素量と流動化ガスの酸素量とに基づいて第2の散気装置72から噴出される流動化ガスの流量が調整される。
【0044】
このように、本実施形態における流動床ガス化炉1は、第1の散気装置71から噴出される流動化ガスの流量を調整して流動媒体の循環量を制御する循環制御装置82と、第2の散気装置72から噴出される流動化ガスの流量を調整して燃焼室20における熱分解残渣の燃焼を制御する燃焼制御装置92とを備えているので、流動床ガス化炉1における流動媒体の循環量と燃焼室20の空気比とを互いに独立して制御することが可能となる。
【0045】
これまで本発明の一実施形態について図示および説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更および改変が可能であることは容易に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の一実施形態における流動床ガス化炉を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す流動床ガス化炉の平面図である。
【図3】図3は、図1に示す流動床ガス化炉における各室の構成を模式的に示す展開図である。
【符号の説明】
【0047】
1 流動床ガス化炉
10 ガス化室
20 燃焼室
22 チャー燃焼部
24 沈降部
71,72,73,74,75 散気装置
82 循環制御装置
83,93 流量検出器
92 燃焼制御装置
84,85 温度センサ
94 酸素濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動媒体を内部で流動させ、該流動媒体中で原料を熱分解して熱分解ガスと熱分解残渣を生成するガス化室と、
流動媒体を内部で流動させ、前記熱分解残渣を燃焼させて前記流動媒体を加熱する燃焼部と、前記燃焼部と前記ガス化室とに隣接して設けられ、前記加熱された流動媒体を沈降させる沈降部とを有する燃焼室と、
前記ガス化室内の熱分解残渣を前記流動媒体とともに前記ガス化室から前記燃焼室に導入する通路と、
前記燃焼室内の加熱された流動媒体を前記燃焼室の沈降部から前記ガス化室に導入する通路と、
前記燃焼室の沈降部に隣接する燃焼部の第1の領域に流動化ガスを供給して前記燃焼部から前記沈降部に前記流動媒体を移動させる第1の散気装置と、
前記第1の散気装置から供給される流動化ガスの流量を調整して前記流動媒体の循環量を制御する循環制御装置と、
を備えた、流動床ガス化炉。
【請求項2】
前記ガス化室の流動媒体の温度を検出する第1の温度センサと、
前記燃焼室の流動媒体の温度を検出する第2の温度センサと、
をさらに備え、
前記循環制御装置は、前記第1の温度センサにより検出された流動媒体の温度が所定の温度となるように、前記第2の温度センサにより検出された流動媒体の温度に基づいて前記第1の散気装置から供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項1に記載の流動床ガス化炉。
【請求項3】
前記ガス化室の流動媒体の温度を検出する第1の温度センサと、
前記燃焼室の流動媒体の温度を検出する第2の温度センサと、
をさらに備え、
前記循環制御装置は、前記第1の温度センサにより検出された流動媒体の温度が所定の温度となるように、前記第1の温度センサにより検出された流動媒体の温度と前記第2の温度センサにより検出された流動媒体の温度との差に基づいて前記第1の散気装置から供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項1に記載の流動床ガス化炉。
【請求項4】
前記燃焼室の沈降部から離れた燃焼部の第2の領域に流動化ガスを供給する第2の散気装置をさらに備えた、請求項1に記載の流動床ガス化炉。
【請求項5】
前記第2の散気装置から供給される流動化ガスの流量を調整して前記燃焼室における熱分解残渣の燃焼を制御する燃焼制御装置をさらに備えた、請求項4に記載の流動床ガス化炉。
【請求項6】
前記燃焼室から排出される燃焼ガスの酸素濃度を検出する酸素濃度センサをさらに備え、
前記燃焼制御装置は、前記酸素濃度センサにより検出された酸素濃度に基づいて前記第2の散気装置から供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項5に記載の流動床ガス化炉。
【請求項7】
前記燃焼制御装置は、前記熱分解残渣の燃焼に必要な酸素量と前記第2の散気装置から供給される流動化ガスの酸素量との比に基づいて前記第2の散気装置から供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項5に記載の流動床ガス化炉。
【請求項8】
ガス化室の内部で流動媒体を流動させ、該流動媒体中で原料を熱分解して熱分解ガスと熱分解残渣を生成し、
前記ガス化室内の熱分解残渣を前記流動媒体とともに前記ガス化室から燃焼室の燃焼部に導入し、
前記燃焼部の内部で流動媒体を流動させ、前記熱分解残渣を燃焼させて前記流動媒体を加熱し、
前記燃焼部の第1の領域に流動化ガスを供給して、前記燃焼部から前記第1の領域に隣接する沈降部に前記流動媒体を移動させ、
前記沈降部に移動させた流動媒体を前記沈降部内で沈降させ、
前記沈降部内の流動媒体を前記沈降部から前記ガス化室に導入し、
前記燃焼部の第1の領域に供給される流動化ガスの流量を調整して前記流動媒体の循環量を制御する、熱分解ガス化方法。
【請求項9】
前記ガス化室の流動媒体の温度と前記燃焼室の流動媒体の温度とを検出し、
前記検出されるガス化室の流動媒体の温度が所定の温度となるように、前記検出された燃焼室の流動媒体の温度に基づいて前記燃焼部の第1の領域に供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項8に記載の熱分解ガス化方法。
【請求項10】
前記ガス化室の流動媒体の温度と前記燃焼室の流動媒体の温度とを検出し、
前記検出されるガス化室の流動媒体の温度が所定の温度となるように、前記ガス化室の流動媒体の温度と前記燃焼室の流動媒体の温度との差に基づいて前記燃焼部の第1の領域に供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項8に記載の熱分解ガス化方法。
【請求項11】
前記燃焼室の沈降部から離れた燃焼部の第2の領域に前記燃焼部の第1の領域とは独立して流動化ガスを供給する、請求項8に記載の熱分解ガス化方法。
【請求項12】
前記第2の領域に供給される流動化ガスの流量を調整して前記燃焼室における熱分解残渣の燃焼を制御する、請求項11に記載の熱分解ガス化方法。
【請求項13】
前記燃焼室から排出される燃焼ガスの酸素濃度を検出し、
前記検出された酸素濃度に基づいて前記第2の領域に供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項12に記載の熱分解ガス化方法。
【請求項14】
前記燃焼室における熱分解残渣の燃焼に必要な酸素量と前記第2の領域に供給される流動化ガスの酸素量との比に基づいて前記第2の領域に供給される流動化ガスの流量を調整する、請求項12に記載の熱分解ガス化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−24492(P2007−24492A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191942(P2006−191942)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】