液体噴射ヘッドの製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電素子
【課題】鉛を含有せず、絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を有する液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】ノズル開口21に連通する圧力発生室12と、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧電素子300と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、酸化チタン膜61を形成する工程と、酸化チタン膜61上に白金膜62を形成する工程と、白金膜62上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し結晶化することにより圧電体層70を形成する工程と、圧電体層70上に電極80を形成する工程とを有する。
【解決手段】ノズル開口21に連通する圧力発生室12と、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧電素子300と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、酸化チタン膜61を形成する工程と、酸化チタン膜61上に白金膜62を形成する工程と、白金膜62上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し結晶化することにより圧電体層70を形成する工程と、圧電体層70上に電極80を形成する工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせ、圧電体層と圧電体層に電圧を印加する電極を有する圧電素子を具備する液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。このようなインクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電素子は、例えば、振動板の表面全体に亘って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィー法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある。
【0003】
このような圧電素子に用いられる圧電材料として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境問題の観点から、鉛を含有しない強誘電体からなる圧電材料が求められている。鉛を含有しない圧電材料としては、例えばABO3で示されるペロブスカイト構造を有するBiFeO3などがあるが、BiFeO3系の圧電材料は絶縁性が低くリーク電流が発生する場合があるという問題がある。なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、他の装置に搭載されるアクチュエーター装置等の圧電素子においても同様に存在する。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、鉛を含有せず、絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を有する液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、チタンからなるチタン膜を形成する工程と、前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができ且つ鉛を含有しない圧電素子を有する液体噴射ヘッドを製造することができる。また、圧電体層の歪み量も大きくなり、さらに、結晶を(100)面に優先配向させることができる。
【0008】
そして、上記不活性ガスは窒素ガスであることが好ましい。これによれば、より容易な構成にて絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができ鉛を含有しない圧電素子を有する液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0009】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドの製造方法により製造された液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を有する液体噴射ヘッドを具備するため、環境に悪影響を与えず且つ絶縁破壊が防止され信頼性に優れた液体噴射装置となる。
【0010】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、チタンからなるチタン膜を形成する工程と、前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする。これによれば、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を製造することができる。
【0011】
また、本発明の液体噴射ヘッドは、ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドであって、前記圧電素子は、酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする。これによれば、順に、酸化チタン層、白金層、酸化チタン層、鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層、電極という構成にすることにより、絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができ鉛を含有しない圧電素子を有する液体噴射ヘッドとなる。
【0012】
そして、上記圧電体層は、前記圧電体層は、下記一般式で表される複合酸化物を含むことが好ましい。これによれば、下記一般式(1)で表されるABO3型の複合酸化物は強誘電体としての特性を得ることができるので、鉛を含有せず且つ歪み量の制御が容易な圧電素子を有する液体噴射ヘッドとすることができる。このため、吐出する液滴サイズの制御が容易な圧電素子を有する液体噴射ヘッドとすることができる。
(Bi1-x,Lax)(Fe1-y,Mny)O3 (1)
(0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09)
【0013】
また、前記圧電体層は、粉末X線回折パターンにおいて、φ=ψ=0°で測定したときの20°<2θ<25°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上であることが好ましい。これによれば、良好な圧電特性を得ることができる。
【0014】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を有する液体噴射ヘッドを具備するため、環境に悪影響を与えず且つ絶縁破壊が防止され信頼性に優れた液体噴射装置となる。
【0015】
また、本発明の圧電素子は、酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする。これによれば、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図及び要部拡大断面図である。
【図4】サンプル1のP−V曲線を表す図である。
【図5】サンプル2のP−V曲線を表す図である。
【図6】サンプル3のP−V曲線を表す図である。
【図7】サンプル4のP−V曲線を表す図である。
【図8】サンプル5のP−V曲線を表す図である。
【図9】サンプル6のP−V曲線を表す図である。
【図10】サンプル7のP−V曲線を表す図である。
【図11】サンプル8のP−V曲線を表す図である。
【図12】サンプル9のP−V曲線を表す図である。
【図13】サンプル10のP−V曲線を表す図である。
【図14】サンプル11のP−V曲線を表す図である。
【図15】サンプル12のP−V曲線を表す図である。
【図16】サンプル13のP−V曲線を表す図である。
【図17】サンプル14のP−V曲線を表す図である。
【図18】サンプル15のP−V曲線を表す図である。
【図19】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図20】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図21】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図22】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図23】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図24】実施例1及び比較例1のP−V曲線を示す図である。
【図25】実施例1及び比較例2のP−V曲線を示す図である。
【図26】実施例1及び比較例3のP−V曲線を示す図である。
【図27】実施例1及び比較例1のS−V曲線を示す図である。
【図28】実施例1及び比較例3のS−V曲線を示す図である。
【図29】実施例1及び比較例1のSIMS測定結果を示す図である。
【図30】実施例1のSIMS測定結果を示す図である。
【図31】比較例2のSIMS測定結果を示す図である。
【図32】実施例及び比較例のX線回折パターンを示す図である。
【図33】実施例及び比較例のX線回折パターンを示す図である。
【図34】実施例1及び比較例1のトンネル放出機構結果を示す図である。
【図35】実施例1及び比較例1のI−V曲線を示す図である。
【図36】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る製造方法によって製造される液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′断面図(図3(a))及び要部拡大図(図3(b))である。
【0018】
図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0019】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜55が形成されている。
【0022】
さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、厚さが2μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜の圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や絶縁体膜55を設けなくてもよく、また、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
そして、本実施形態においては、図3(b)に示すように、第1電極60は、絶縁体膜55側から順に、酸化チタンを含む第1酸化チタン層61と、第1酸化チタン層61上に形成され白金を含む白金層62と、白金層62上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層63が積層されたものである。第1電極60のうち、白金層62が導電性を主に担う層であり、その他の第1酸化チタン層61や第2酸化チタン層63は導電性が低くてもよく、完全な層状でなく例えばアイランド状でもよい。また、第2酸化チタン層63の厚さは、3nm以下であることが好ましい。3nmよりも厚いと低誘電率層となり圧電特性を低下させる虞がある。このため、第2酸化チタン層63の厚さを3nm以下とすることにより圧電特性を向上させることができる。
【0024】
また、圧電体層70は、鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電材料、すなわち、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むABO3型の複合酸化物である。なお、ABO3型構造、すなわち、ペロブスカイト構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。このAサイトにBi及びLaが、BサイトにFe及びMnが位置している。
【0025】
ここで、詳しくは後述するが、本実施形態の圧電素子は、白金層62の前駆体である白金からなる白金膜の下地をチタン膜とし、白金層62上のビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し結晶化して形成されたものである。このような方法で製造することにより、圧電体前駆体膜が結晶化する際に下地のチタンが白金の粒界を通って圧電体層に拡散し、絶縁性が高い圧電体層70を形成することができる。また、このように形成することにより、圧電素子を圧電アクチュエーターとして用いた場合には、大きな歪み量を得ることもできる。さらに、圧電体層70を、0°<2θ<25°に観測されるABO3由来の回折ピークの強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上、すなわち、(100)面に優先配向した膜を得ることができる。
【0026】
前述した形成方法により形成した場合において、圧電体層70に拡散するチタンの量は特に限定されないが、圧電体層70中のチタンの含有量は、5質量%以下であることが好ましい。チタンの含有量を多くしすぎると、絶縁性以外の圧電特性等に悪影響を与える場合があるためである。また、本実施形態においては、圧電体層70のチタン含有量は、0.1質量%以上0.5質量%以下と少量であっても、絶縁性を十分高くすることができた。
【0027】
また、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含む圧電体層70は、下記一般式(1)で表される組成比であることが好ましい。下記一般式(1)で表される組成比とすることで、圧電体層70を強誘電体とすることができる。このように、強誘電体であるものを圧電体層70とすると、歪み量の制御が容易になるため、例えば圧電素子を液体噴射ヘッド等に用いた場合、吐出するインク滴サイズ等を容易に制御できる。なお、Bi、La、Fe及びMnを含むABO3型の複合酸化物は、その組成比によって、強誘電体、反強誘電体、常誘電体という異なる特性を示した。下記一般式(1)の組成比を変えた圧電素子(サンプル1〜18)を作成し、25V又は30Vの三角波を印加して、P(分極量)−V(電圧)の関係を求めた結果をそれぞれ図4〜18に、また組成を表1に示す。なお、サンプル16〜18はリークが大きすぎて測定することができず、圧電材料としては使用できないものであった。図4〜14に示すように、0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09の範囲であるサンプル1〜11では、強誘電体に特徴的なヒステリシスループ形状が観測された。したがって、サンプル1〜11は、歪み量が印加電圧に対して直線的に変化するため、歪み量の制御が容易である。一方、一般式(1)において0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09の範囲外であるサンプル12〜14は、図15〜17に示すように反強誘電体に特徴的な正の電界方向と負の電界方向で2つのヒステリシスループ形状を持つダブルヒステリシスが観測されたため反強誘電体であり、サンプル15は図18に示すように常誘電体であり、また、サンプル16〜18は上述したようにリークが大きすぎで圧電材料としては使用できないものであり、サンプル12〜18のいずれも強誘電体ではなかった。
(Bi1-x,Lax)(Fe1-y,Mny)O3 (1)
(0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09)
【0028】
【表1】
【0029】
ここで、自発分極が互い違いに並んでいる物質である反強誘電体、すなわち、電界誘起相転移を示すものを圧電体層とした場合、一定印加電圧以上で電界誘起相転移を示し、大きな歪みを発現するため、強誘電体を超える大きな歪みを得ることが可能であるが、一定電圧以下では駆動せず、歪み量も電圧に対して直線的に変化しない。なお、電界誘起相転移とは、電場によって起こる相転移であり、反強誘電相から強誘電相への相転移や、強誘電相から反強誘電相への相転移を意味する。そして、強誘電相とは、分極軸が同一方向に並んでいる状態であり、反強誘電相とは分極軸が互い違いに並んでいる状態である。例えば、反強誘電相から強誘電相への相転移は、反強誘電相の互い違いに並んでいる分極軸が180度回転することにより分極軸が同一方向になって強誘電相になることであり、このような電界誘起相転移によって格子が膨張又は伸縮して生じる歪みが、電界誘起相転移により生じる相転移歪みである。このような電界誘起相転移を示すものが反強誘電体であり、換言すると、電場のない状態では分極軸が互い違いに並んでおり、電場により分極軸が回転して同一方向にならぶものが反強誘電体である。このような反強誘電体は、反強誘電体の分極量Pと電圧Vの関係を示すP−V曲線において、正の電界方向と負の電界方向で2つのヒステリシスループ形状を持つダブルヒステリシスとなる。そして、分極量が急激に変化している領域が、強誘電相から反強誘電相への相転移や、強誘電相から反強誘電相への相転移している箇所である。
【0030】
一方、強誘電体は、反強誘電体のようにP−V曲線がダブルヒステリシスとはならず、分極方向を一方向に揃えることで歪み量が印加電圧に対して直線的に変化する。したがって、歪み量の制御が容易なので吐出させる液滴サイズ等の制御も容易であり、微振動を発生させる小振幅振動及び大きな排除体積を発生させる大振幅振動の両者を一つの圧電素子により発生させることができる。
【0031】
そして、圧電体層70は、粉末X線回折測定した際、該回折パターンにおいて、強誘電性を示す相(強誘電相)に帰属される回折ピークと、反強誘電性を示す相(反強誘電相)に帰属される回折ピークが同時に観測されることが好ましい。このように、強誘電性を示す相に帰属される回折ピークと、反強誘電性を示す相に帰属される回折ピークが同時に観測される、すなわち、反強誘電相と強誘電相の組成相境界(M.P.B.)である圧電体層70とすると、歪み量の大きな圧電素子とすることができる。また、圧電体層70は、上記一般式(1)において、0.17≦x≦0.20であることが好ましく、更に好ましくは、0.19≦x≦0.20である。この範囲では、後述する実施例に示すが、粉末X線回折測定した際に、強誘電性を示す相(強誘電相)に帰属される回折ピークと、反強誘電性を示す相(反強誘電相)に帰属される回折ピークが同時に観測され反強誘電相と強誘電相を同時に示す。したがって、反強誘電相と強誘電相のM.P.B.であるため、歪み量の大きな圧電素子とすることができる。
【0032】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0033】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0035】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0036】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0037】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線を介して電気的に接続されている。
【0038】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0039】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0040】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図19〜図23を参照して説明する。なお、図19〜図23は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0041】
まず、図19(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図19(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜)上に、酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜55を、反応性スパッタ法や熱酸化等で形成する。
【0042】
次に、図20(a)に示すように、絶縁体膜55上に、DCスパッタ法やイオンスパッタ法等でチタンからなるチタン膜56を設ける。次いで、チタン膜56上に、DCスパッタ法等で白金からなる白金膜57を全面に形成した後パターニングする。なお、このチタン膜56や白金膜57の厚さや加熱条件等を適宜調整することにより、後述する圧電体前駆体膜の結晶化の際に拡散するチタンの量を調整することができる。
【0043】
次いで、白金膜57上に、圧電体層70を積層する。圧電体層70の製造方法は特に限定されないが、例えば、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散した溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、MOD(Metal−Organic Decomposition)法を用いて圧電体層70を形成できる。なお、圧電体層70の製造方法は、MOD法に限定されず、例えば、ゾル−ゲル法や、レーザアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でもよい。
【0044】
圧電体層70の具体的な形成手順例としては、まず、図20(b)に示すように、白金膜57上に、有機金属化合物、具体的には、ビスマス、ランタン、鉄、マンガンを含有する有機金属化合物を、目的とする組成比になる割合で含むゾルやMOD溶液(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0045】
塗布する前駆体溶液は、ビスマス、ランタン、鉄、マンガンをそれぞれ含む有機金属化合物を、各金属が所望のモル比となるように混合し、該混合物をアルコールなどの有機溶媒を用いて溶解または分散させたものである。ビスマス、ランタン、鉄、マンガンをそれぞれ含む有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。ビスマスを含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマスなどが挙げられる。ランタンを含む有機金属化合物としては、2−エチルヘキサン酸ランタンなどが挙げられる。鉄を含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄などが挙げられる。マンガンを含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガンなどが挙げられる。
【0046】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0047】
次に、図20(c)に示すように、不活性ガス雰囲気中で、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜700℃程度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。
【0048】
なお、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0049】
次に、図21(a)に示すように、圧電体膜72上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして第1電極60及び圧電体膜72の1層目をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0050】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成することで、図21(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、塗布溶液の1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、10層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.1μm程度となる。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0051】
この圧電体層70を形成する工程で、上述したように、不活性ガス雰囲気中で圧電体前駆体膜71を焼成して結晶化させると、第1電極60となる白金膜57の流路形成基板10側に形成されたチタン膜56を構成するチタンが拡散する。例えば、圧電体層70となる圧電体膜72までチタンが拡散し、圧電体層70がチタンを含むものとなる。なお、チタン膜56のチタンは、チタン膜56と圧電体層70との間の白金膜57の粒界を通って圧電体層70内に拡散するものと推測される。
【0052】
このように、白金膜57の下地をチタン膜56とし、圧電体前駆体膜71を不活性ガス雰囲気中で加熱して結晶化させることにより、チタン膜56のチタンが拡散して、絶縁性が高くなり、リーク電流の発生を抑制することができる。また、歪み量も大きくすることができる。さらに、圧電体層70を、0°<2θ<25°に観測されるABO3由来の回折ピークの強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上、すなわち、(100)面配向膜とすることができる。
【0053】
なお、圧電体前駆体膜71を結晶化する工程を経る際に、白金からなる白金膜57は、白金を含み、チタンの拡散の程度によってはチタンや酸化チタンも含む白金層62となる。そして、本実施形態においては、拡散したチタンにより、白金層62と圧電体層70との間に、酸化チタンを含む第2酸化チタン層63が形成される。また、白金層62の流路形成基板10側に設けたチタン膜56のうち拡散しなかったチタンが、酸化チタンを含む第1酸化チタン層61となる。ただし、チタンの拡散の程度によっては、第1酸化チタン層61層や第2酸化チタン層63はほとんど存在しない場合がある。また、本実施形態では、チタンが圧電体層70内まで拡散したものを示したが、チタンは圧電体層70と白金層62の界面まで拡散していればよく、例えば、圧電体層70自体はチタンを含有しなくてもよい。なお、焼成工程における温度や時間によっても、圧電体前駆体膜71の結晶化の際に拡散するチタンの量を調整することができる。
【0054】
ここで、不活性ガス雰囲気とは、ヘリウム、アルゴン等の希ガス、窒素ガス等の不活性ガスや、これらの混合ガス雰囲気である。加熱装置内を不活性ガスで置換した状態でも、加熱装置内に不活性ガスをフローさせた状態でもよい。また、不活性ガス濃度は100%でなくてもよく、第1電極60となる白金膜57の流路形成基板10側に形成されたチタン膜56を構成するチタンが、拡散する雰囲気であればよく、例えば、酸素濃度が20%未満である。
【0055】
このように圧電体層70を形成した後は、図22(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜700℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0056】
次に、図22(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0057】
次に、図22(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0058】
次に、図23(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0059】
そして、図23(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0060】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
まず、シリコン基板の表面に熱酸化により二酸化シリコン膜を形成した。次に、二酸化シリコン膜上にRFスパッタ法により膜厚400nmの酸化ジルコニウム膜を形成した。次いで、酸化ジルコニウム膜上に、DCスパッタ法により膜厚20nmのチタン膜を形成した。次に、チタン膜上にDCスパッタ法により膜厚130nmの白金膜を形成した。
【0063】
次いで、白金膜上に圧電体層をスピンコート法により形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸ランタン、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガンのキシレンおよびオクタン溶液を所定の割合で混合して、前駆体溶液を調製した。そしてこの前駆体溶液を白金膜が形成された上記基板上に滴下し、最初は500rpmで5秒間、次に、1500rpmで30秒基板を回転させて圧電体前駆体膜を形成した(塗布工程)。次に、大気中、350℃で3分間乾燥・脱脂を行った(乾燥及び脱脂工程)。この塗布工程・乾燥及び脱脂工程を2回繰り返した後に、加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRapid Thermal Annealing (RTA)で650℃、2分間焼成を行った(焼成工程)。この塗布工程・乾燥及び脱脂工程を2回繰り返した後に一括して焼成する焼成工程を行う工程を3回繰り返し、その後、加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAで650℃、5分間焼成を行うことで、計6回の塗布により全体で厚さ450nmの圧電体層を形成した。
【0064】
その後、圧電体層上に、第2電極としてDCスパッタ法により膜厚100nmの白金膜を形成した後、加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAで650℃、5分間焼成を行うことで、x=0.19、y=0.03の上記一般式(1)で表されるABO3型構造を基本組成としチタンを含有する複合酸化物を圧電体層とする圧電素子を形成した。
【0065】
(比較例1)
加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAのかわりに、加熱装置内を500cc/分の流量の酸素でフローしたRTAを行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0066】
(比較例2)
酸化ジルコニウム膜上に、チタン膜のかわりに酸化チタン膜を形成し、この酸化チタン膜の上に圧電体層を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0067】
(比較例3)
白金膜上に、DCスパッタ法により膜厚20nmのイリジウム膜を形成し、このイリジウム膜の上に圧電体層を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0068】
(比較例4)
加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAのかわりに、加熱装置内を500cc/分の流量の酸素でフローしたRTAを行い、また、酸化ジルコニウム膜上に、チタン膜のかわりに酸化チタン膜を形成しこの酸化チタン膜の上に圧電体層を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0069】
(試験例1)
実施例1及び比較例1〜3の各圧電素子について、東陽テクニカ社製「FCE−1A」で、φ=400μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzの三角波を印加して、分極量と電圧の関係(P−V曲線)を求めた。結果を図24〜図26に示す。なお、実施例1については比較のため、結果を図24〜図26の全てに記載した。
【0070】
図24〜図26に示すように、下地をチタン膜とし窒素雰囲気で結晶化させた実施例1では、良好なヒステリシスカーブとなっており、リークが発生していないことがわかる。一方、酸素雰囲気中で圧電体前駆体膜を結晶化させた比較例1や、白金膜下地をチタン膜のかわりに酸化チタン膜とした比較例2や、白金膜上にイリジウム膜を形成した比較例3では、ヒステリシスカーブがリークしていた。
【0071】
(試験例2)
実施例1、比較例1及び3の各圧電素子について、アグザクト社製の変位測定装置(DBLI)を用い室温で、φ=500μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzの電圧を印加して、電界誘起歪―電界強度の関係(S−V曲線)を求めた。結果を図27及び図28に示す。なお、実施例1については比較のため、図27及び図28の両方に記載した。
【0072】
図27及び図28に示すように、窒素雰囲気で結晶化させた実施例1は、比較例1及び3よりも、変位量が大きく圧電特性が良好であることが分かった。また、実施例1の圧電素子が、大きな電界誘起歪を示すとともに、強誘電体であり、反強誘電体では示さない電圧に対する歪み量が良好な直線性を示すことも確認できた。
【0073】
(試験例3)
実施例1及び比較例1の各圧電素子について、第2電極を剥がした状態で圧電体層70から厚さ方向に亘って二次イオン質量分析装置(SIMS)により測定した。結果を図29に示す。図の左側が第2電極側、右側が基板側である。この結果、窒素雰囲気で圧電体前駆体膜を結晶化させた実施例1では、下地であるチタン膜からチタンが拡散していることが分かる。なお拡散したチタンは白金層及び圧電体層に偏析しており、圧電体層中まで拡散していることがわかる。このことと試験例1の結果とから、Tiが拡散することで、圧電素子の絶縁性が向上したといえる。また、実施例1においては、白金を含む白金層と、圧電体層との間に図29において矢印で示すようにチタンのピークが存在しており、この領域に酸化チタンを含む第2酸化チタン層が形成されていることが分かる。なお、この第2酸化チタン層の厚さを透過型電子顕微鏡(TEM)で測定したところ、1nmであった。
【0074】
一方、比較例1では、酸素雰囲気中で圧電体前駆体膜を結晶化させても白金膜の下地のチタンは拡散しないことが分かる。このことと試験例1の結果とから、Tiを拡散させて圧電素子の絶縁性を向上させるためには、窒素雰囲気で圧電体前駆体膜を結晶化させる必要があることが分かる。なお、比較例1においては、白金を含む白金層と、圧電体層との間に実施例1のようにチタンのピークは無く、この領域に酸化チタンを含む第2酸化チタン層は形成されていなかった。
【0075】
(試験例4)
実施例1及び比較例2の各圧電素子について、第2電極を剥がした状態で圧電体層70から厚さ方向に亘って二次イオン質量分析装置(SIMS)により測定した。実施例1の結果を図30に、比較例2の結果を図31に示す。なお、図の左側が第2電極側、右側が基板側である。この結果、実施例1では、試験例3と同様に、白金膜の下地であるチタン膜からチタンが拡散していることが分かる。なお拡散したチタンは白金層及び圧電体層に偏析しており、圧電体層中まで拡散していることがわかる。
【0076】
一方、比較例2では下地が酸化チタンなので圧電体前駆体膜を窒素雰囲気中で結晶化させてもチタンは拡散しないことが分かる。このことより、Tiを拡散させて絶縁性を向上させるためには、下地をチタン膜にする必要があることが分かる。
【0077】
(試験例5)
実施例1及び比較例1〜4の圧電素子について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用い、X線源にCuKα線を使用し、室温で、圧電体層の粉末X線回折パターンをφ=ψ=0°で求めた。実施例1、比較例1〜2及び4の結果を図32に、また、比較例3の結果を実施例1及び比較例2と共に記載した図を図33に示す。
【0078】
図32及び図33に示すように、RTAの雰囲気、第1電極となる白金膜の下地の材質や、白金膜か異なる材質かによって、粉末X線回折パターンが異なり、実施例1のみが(100)面配向膜となっていることが分かる。具体的には、実施例1のみが、20°<2θ<25°に観測されるABO3由来の回折ピークの強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上であり、(100)配向膜となっていた。なお、実施例1及び比較例1〜4すべてにおいて、ABO3由来の回折ピークが観測され、実施例1及び比較例1〜4の圧電体層はABO3型構造を形成していることがわかる。
【0079】
そして、図32及び図33に示すように、実施例1は、強誘電相を示す2θ=46.1°近傍の回折ピーク及び反強誘電相を示す2θ=46.5°近傍の回折ピークが混在したピークを有しているため、実施例1は強誘電体に起因する構造と反強誘電体に起因する構造の両者が共存する組成相境界(M.P.B.)であることがわかる。
【0080】
(試験例6)
実施例1及び比較例1の各圧電素子について、J−Eプロットを取得することにより伝導機構の調査を行った。トンネル放出機構の結果を図34に示す。この結果、窒素雰囲気中で結晶化させた実施例1では、トンネル電流はほとんど生じず、リーク電流を抑制できることが分かる。一方、酸素雰囲気中で結晶化させた比較例1では、高電界側でトンネル電流が放出しており、酸素フローによる酸素がドナーとなってトンネル電流を発生させているため、酸素雰囲気中で結晶化したものは、リーク電流が増加すると考えられる。
【0081】
(試験例7)
実施例1及び比較例1の各圧電素子について、±60Vの電圧を印加して、電流密度と電圧との関係(I−V曲線)を求めた。結果を図35に示す。この結果、窒素雰囲気で圧電体前駆体膜を過熱して結晶化させた実施例1は、酸素雰囲気で結晶化させた比較例1よりも絶縁性が向上し、耐圧も向上することが分かる。
【0082】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、圧電体層の基本組成として、金属元素として、Bi、La、Fe及びMnのみを含有するABO3型の複合酸化物について記載したが、Bi、La、Fe及びMnを含むABO3型の複合酸化物であればよく、他の金属を添加し特性の調整を行ってもよい。
【0083】
また、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0084】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0085】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図36は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0086】
図36に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0087】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0088】
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0089】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー等他の装置に搭載される圧電素子にも適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、
14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、
56 チタン膜、 57 白金膜、 60 第1電極、 61 第1酸化チタン層、 62 白金層、 63 第2酸化チタン層、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせ、圧電体層と圧電体層に電圧を印加する電極を有する圧電素子を具備する液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。このようなインクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電素子は、例えば、振動板の表面全体に亘って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィー法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある。
【0003】
このような圧電素子に用いられる圧電材料として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境問題の観点から、鉛を含有しない強誘電体からなる圧電材料が求められている。鉛を含有しない圧電材料としては、例えばABO3で示されるペロブスカイト構造を有するBiFeO3などがあるが、BiFeO3系の圧電材料は絶縁性が低くリーク電流が発生する場合があるという問題がある。なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、他の装置に搭載されるアクチュエーター装置等の圧電素子においても同様に存在する。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、鉛を含有せず、絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を有する液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、チタンからなるチタン膜を形成する工程と、前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができ且つ鉛を含有しない圧電素子を有する液体噴射ヘッドを製造することができる。また、圧電体層の歪み量も大きくなり、さらに、結晶を(100)面に優先配向させることができる。
【0008】
そして、上記不活性ガスは窒素ガスであることが好ましい。これによれば、より容易な構成にて絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができ鉛を含有しない圧電素子を有する液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0009】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドの製造方法により製造された液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を有する液体噴射ヘッドを具備するため、環境に悪影響を与えず且つ絶縁破壊が防止され信頼性に優れた液体噴射装置となる。
【0010】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、チタンからなるチタン膜を形成する工程と、前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする。これによれば、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を製造することができる。
【0011】
また、本発明の液体噴射ヘッドは、ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドであって、前記圧電素子は、酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする。これによれば、順に、酸化チタン層、白金層、酸化チタン層、鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層、電極という構成にすることにより、絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができ鉛を含有しない圧電素子を有する液体噴射ヘッドとなる。
【0012】
そして、上記圧電体層は、前記圧電体層は、下記一般式で表される複合酸化物を含むことが好ましい。これによれば、下記一般式(1)で表されるABO3型の複合酸化物は強誘電体としての特性を得ることができるので、鉛を含有せず且つ歪み量の制御が容易な圧電素子を有する液体噴射ヘッドとすることができる。このため、吐出する液滴サイズの制御が容易な圧電素子を有する液体噴射ヘッドとすることができる。
(Bi1-x,Lax)(Fe1-y,Mny)O3 (1)
(0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09)
【0013】
また、前記圧電体層は、粉末X線回折パターンにおいて、φ=ψ=0°で測定したときの20°<2θ<25°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上であることが好ましい。これによれば、良好な圧電特性を得ることができる。
【0014】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を有する液体噴射ヘッドを具備するため、環境に悪影響を与えず且つ絶縁破壊が防止され信頼性に優れた液体噴射装置となる。
【0015】
また、本発明の圧電素子は、酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする。これによれば、鉛を含有せず且つ絶縁性が高くリーク電流の発生を抑制することができる圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図及び要部拡大断面図である。
【図4】サンプル1のP−V曲線を表す図である。
【図5】サンプル2のP−V曲線を表す図である。
【図6】サンプル3のP−V曲線を表す図である。
【図7】サンプル4のP−V曲線を表す図である。
【図8】サンプル5のP−V曲線を表す図である。
【図9】サンプル6のP−V曲線を表す図である。
【図10】サンプル7のP−V曲線を表す図である。
【図11】サンプル8のP−V曲線を表す図である。
【図12】サンプル9のP−V曲線を表す図である。
【図13】サンプル10のP−V曲線を表す図である。
【図14】サンプル11のP−V曲線を表す図である。
【図15】サンプル12のP−V曲線を表す図である。
【図16】サンプル13のP−V曲線を表す図である。
【図17】サンプル14のP−V曲線を表す図である。
【図18】サンプル15のP−V曲線を表す図である。
【図19】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図20】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図21】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図22】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図23】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図24】実施例1及び比較例1のP−V曲線を示す図である。
【図25】実施例1及び比較例2のP−V曲線を示す図である。
【図26】実施例1及び比較例3のP−V曲線を示す図である。
【図27】実施例1及び比較例1のS−V曲線を示す図である。
【図28】実施例1及び比較例3のS−V曲線を示す図である。
【図29】実施例1及び比較例1のSIMS測定結果を示す図である。
【図30】実施例1のSIMS測定結果を示す図である。
【図31】比較例2のSIMS測定結果を示す図である。
【図32】実施例及び比較例のX線回折パターンを示す図である。
【図33】実施例及び比較例のX線回折パターンを示す図である。
【図34】実施例1及び比較例1のトンネル放出機構結果を示す図である。
【図35】実施例1及び比較例1のI−V曲線を示す図である。
【図36】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る製造方法によって製造される液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′断面図(図3(a))及び要部拡大図(図3(b))である。
【0018】
図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0019】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜55が形成されている。
【0022】
さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、厚さが2μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜の圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や絶縁体膜55を設けなくてもよく、また、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
そして、本実施形態においては、図3(b)に示すように、第1電極60は、絶縁体膜55側から順に、酸化チタンを含む第1酸化チタン層61と、第1酸化チタン層61上に形成され白金を含む白金層62と、白金層62上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層63が積層されたものである。第1電極60のうち、白金層62が導電性を主に担う層であり、その他の第1酸化チタン層61や第2酸化チタン層63は導電性が低くてもよく、完全な層状でなく例えばアイランド状でもよい。また、第2酸化チタン層63の厚さは、3nm以下であることが好ましい。3nmよりも厚いと低誘電率層となり圧電特性を低下させる虞がある。このため、第2酸化チタン層63の厚さを3nm以下とすることにより圧電特性を向上させることができる。
【0024】
また、圧電体層70は、鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電材料、すなわち、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むABO3型の複合酸化物である。なお、ABO3型構造、すなわち、ペロブスカイト構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。このAサイトにBi及びLaが、BサイトにFe及びMnが位置している。
【0025】
ここで、詳しくは後述するが、本実施形態の圧電素子は、白金層62の前駆体である白金からなる白金膜の下地をチタン膜とし、白金層62上のビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し結晶化して形成されたものである。このような方法で製造することにより、圧電体前駆体膜が結晶化する際に下地のチタンが白金の粒界を通って圧電体層に拡散し、絶縁性が高い圧電体層70を形成することができる。また、このように形成することにより、圧電素子を圧電アクチュエーターとして用いた場合には、大きな歪み量を得ることもできる。さらに、圧電体層70を、0°<2θ<25°に観測されるABO3由来の回折ピークの強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上、すなわち、(100)面に優先配向した膜を得ることができる。
【0026】
前述した形成方法により形成した場合において、圧電体層70に拡散するチタンの量は特に限定されないが、圧電体層70中のチタンの含有量は、5質量%以下であることが好ましい。チタンの含有量を多くしすぎると、絶縁性以外の圧電特性等に悪影響を与える場合があるためである。また、本実施形態においては、圧電体層70のチタン含有量は、0.1質量%以上0.5質量%以下と少量であっても、絶縁性を十分高くすることができた。
【0027】
また、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含む圧電体層70は、下記一般式(1)で表される組成比であることが好ましい。下記一般式(1)で表される組成比とすることで、圧電体層70を強誘電体とすることができる。このように、強誘電体であるものを圧電体層70とすると、歪み量の制御が容易になるため、例えば圧電素子を液体噴射ヘッド等に用いた場合、吐出するインク滴サイズ等を容易に制御できる。なお、Bi、La、Fe及びMnを含むABO3型の複合酸化物は、その組成比によって、強誘電体、反強誘電体、常誘電体という異なる特性を示した。下記一般式(1)の組成比を変えた圧電素子(サンプル1〜18)を作成し、25V又は30Vの三角波を印加して、P(分極量)−V(電圧)の関係を求めた結果をそれぞれ図4〜18に、また組成を表1に示す。なお、サンプル16〜18はリークが大きすぎて測定することができず、圧電材料としては使用できないものであった。図4〜14に示すように、0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09の範囲であるサンプル1〜11では、強誘電体に特徴的なヒステリシスループ形状が観測された。したがって、サンプル1〜11は、歪み量が印加電圧に対して直線的に変化するため、歪み量の制御が容易である。一方、一般式(1)において0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09の範囲外であるサンプル12〜14は、図15〜17に示すように反強誘電体に特徴的な正の電界方向と負の電界方向で2つのヒステリシスループ形状を持つダブルヒステリシスが観測されたため反強誘電体であり、サンプル15は図18に示すように常誘電体であり、また、サンプル16〜18は上述したようにリークが大きすぎで圧電材料としては使用できないものであり、サンプル12〜18のいずれも強誘電体ではなかった。
(Bi1-x,Lax)(Fe1-y,Mny)O3 (1)
(0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09)
【0028】
【表1】
【0029】
ここで、自発分極が互い違いに並んでいる物質である反強誘電体、すなわち、電界誘起相転移を示すものを圧電体層とした場合、一定印加電圧以上で電界誘起相転移を示し、大きな歪みを発現するため、強誘電体を超える大きな歪みを得ることが可能であるが、一定電圧以下では駆動せず、歪み量も電圧に対して直線的に変化しない。なお、電界誘起相転移とは、電場によって起こる相転移であり、反強誘電相から強誘電相への相転移や、強誘電相から反強誘電相への相転移を意味する。そして、強誘電相とは、分極軸が同一方向に並んでいる状態であり、反強誘電相とは分極軸が互い違いに並んでいる状態である。例えば、反強誘電相から強誘電相への相転移は、反強誘電相の互い違いに並んでいる分極軸が180度回転することにより分極軸が同一方向になって強誘電相になることであり、このような電界誘起相転移によって格子が膨張又は伸縮して生じる歪みが、電界誘起相転移により生じる相転移歪みである。このような電界誘起相転移を示すものが反強誘電体であり、換言すると、電場のない状態では分極軸が互い違いに並んでおり、電場により分極軸が回転して同一方向にならぶものが反強誘電体である。このような反強誘電体は、反強誘電体の分極量Pと電圧Vの関係を示すP−V曲線において、正の電界方向と負の電界方向で2つのヒステリシスループ形状を持つダブルヒステリシスとなる。そして、分極量が急激に変化している領域が、強誘電相から反強誘電相への相転移や、強誘電相から反強誘電相への相転移している箇所である。
【0030】
一方、強誘電体は、反強誘電体のようにP−V曲線がダブルヒステリシスとはならず、分極方向を一方向に揃えることで歪み量が印加電圧に対して直線的に変化する。したがって、歪み量の制御が容易なので吐出させる液滴サイズ等の制御も容易であり、微振動を発生させる小振幅振動及び大きな排除体積を発生させる大振幅振動の両者を一つの圧電素子により発生させることができる。
【0031】
そして、圧電体層70は、粉末X線回折測定した際、該回折パターンにおいて、強誘電性を示す相(強誘電相)に帰属される回折ピークと、反強誘電性を示す相(反強誘電相)に帰属される回折ピークが同時に観測されることが好ましい。このように、強誘電性を示す相に帰属される回折ピークと、反強誘電性を示す相に帰属される回折ピークが同時に観測される、すなわち、反強誘電相と強誘電相の組成相境界(M.P.B.)である圧電体層70とすると、歪み量の大きな圧電素子とすることができる。また、圧電体層70は、上記一般式(1)において、0.17≦x≦0.20であることが好ましく、更に好ましくは、0.19≦x≦0.20である。この範囲では、後述する実施例に示すが、粉末X線回折測定した際に、強誘電性を示す相(強誘電相)に帰属される回折ピークと、反強誘電性を示す相(反強誘電相)に帰属される回折ピークが同時に観測され反強誘電相と強誘電相を同時に示す。したがって、反強誘電相と強誘電相のM.P.B.であるため、歪み量の大きな圧電素子とすることができる。
【0032】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0033】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0035】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0036】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0037】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線を介して電気的に接続されている。
【0038】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0039】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0040】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図19〜図23を参照して説明する。なお、図19〜図23は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0041】
まず、図19(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図19(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜)上に、酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜55を、反応性スパッタ法や熱酸化等で形成する。
【0042】
次に、図20(a)に示すように、絶縁体膜55上に、DCスパッタ法やイオンスパッタ法等でチタンからなるチタン膜56を設ける。次いで、チタン膜56上に、DCスパッタ法等で白金からなる白金膜57を全面に形成した後パターニングする。なお、このチタン膜56や白金膜57の厚さや加熱条件等を適宜調整することにより、後述する圧電体前駆体膜の結晶化の際に拡散するチタンの量を調整することができる。
【0043】
次いで、白金膜57上に、圧電体層70を積層する。圧電体層70の製造方法は特に限定されないが、例えば、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散した溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、MOD(Metal−Organic Decomposition)法を用いて圧電体層70を形成できる。なお、圧電体層70の製造方法は、MOD法に限定されず、例えば、ゾル−ゲル法や、レーザアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でもよい。
【0044】
圧電体層70の具体的な形成手順例としては、まず、図20(b)に示すように、白金膜57上に、有機金属化合物、具体的には、ビスマス、ランタン、鉄、マンガンを含有する有機金属化合物を、目的とする組成比になる割合で含むゾルやMOD溶液(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0045】
塗布する前駆体溶液は、ビスマス、ランタン、鉄、マンガンをそれぞれ含む有機金属化合物を、各金属が所望のモル比となるように混合し、該混合物をアルコールなどの有機溶媒を用いて溶解または分散させたものである。ビスマス、ランタン、鉄、マンガンをそれぞれ含む有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。ビスマスを含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマスなどが挙げられる。ランタンを含む有機金属化合物としては、2−エチルヘキサン酸ランタンなどが挙げられる。鉄を含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄などが挙げられる。マンガンを含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガンなどが挙げられる。
【0046】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0047】
次に、図20(c)に示すように、不活性ガス雰囲気中で、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜700℃程度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。
【0048】
なお、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0049】
次に、図21(a)に示すように、圧電体膜72上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして第1電極60及び圧電体膜72の1層目をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0050】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成することで、図21(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、塗布溶液の1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、10層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.1μm程度となる。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0051】
この圧電体層70を形成する工程で、上述したように、不活性ガス雰囲気中で圧電体前駆体膜71を焼成して結晶化させると、第1電極60となる白金膜57の流路形成基板10側に形成されたチタン膜56を構成するチタンが拡散する。例えば、圧電体層70となる圧電体膜72までチタンが拡散し、圧電体層70がチタンを含むものとなる。なお、チタン膜56のチタンは、チタン膜56と圧電体層70との間の白金膜57の粒界を通って圧電体層70内に拡散するものと推測される。
【0052】
このように、白金膜57の下地をチタン膜56とし、圧電体前駆体膜71を不活性ガス雰囲気中で加熱して結晶化させることにより、チタン膜56のチタンが拡散して、絶縁性が高くなり、リーク電流の発生を抑制することができる。また、歪み量も大きくすることができる。さらに、圧電体層70を、0°<2θ<25°に観測されるABO3由来の回折ピークの強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上、すなわち、(100)面配向膜とすることができる。
【0053】
なお、圧電体前駆体膜71を結晶化する工程を経る際に、白金からなる白金膜57は、白金を含み、チタンの拡散の程度によってはチタンや酸化チタンも含む白金層62となる。そして、本実施形態においては、拡散したチタンにより、白金層62と圧電体層70との間に、酸化チタンを含む第2酸化チタン層63が形成される。また、白金層62の流路形成基板10側に設けたチタン膜56のうち拡散しなかったチタンが、酸化チタンを含む第1酸化チタン層61となる。ただし、チタンの拡散の程度によっては、第1酸化チタン層61層や第2酸化チタン層63はほとんど存在しない場合がある。また、本実施形態では、チタンが圧電体層70内まで拡散したものを示したが、チタンは圧電体層70と白金層62の界面まで拡散していればよく、例えば、圧電体層70自体はチタンを含有しなくてもよい。なお、焼成工程における温度や時間によっても、圧電体前駆体膜71の結晶化の際に拡散するチタンの量を調整することができる。
【0054】
ここで、不活性ガス雰囲気とは、ヘリウム、アルゴン等の希ガス、窒素ガス等の不活性ガスや、これらの混合ガス雰囲気である。加熱装置内を不活性ガスで置換した状態でも、加熱装置内に不活性ガスをフローさせた状態でもよい。また、不活性ガス濃度は100%でなくてもよく、第1電極60となる白金膜57の流路形成基板10側に形成されたチタン膜56を構成するチタンが、拡散する雰囲気であればよく、例えば、酸素濃度が20%未満である。
【0055】
このように圧電体層70を形成した後は、図22(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜700℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0056】
次に、図22(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0057】
次に、図22(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0058】
次に、図23(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0059】
そして、図23(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0060】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
まず、シリコン基板の表面に熱酸化により二酸化シリコン膜を形成した。次に、二酸化シリコン膜上にRFスパッタ法により膜厚400nmの酸化ジルコニウム膜を形成した。次いで、酸化ジルコニウム膜上に、DCスパッタ法により膜厚20nmのチタン膜を形成した。次に、チタン膜上にDCスパッタ法により膜厚130nmの白金膜を形成した。
【0063】
次いで、白金膜上に圧電体層をスピンコート法により形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸ランタン、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガンのキシレンおよびオクタン溶液を所定の割合で混合して、前駆体溶液を調製した。そしてこの前駆体溶液を白金膜が形成された上記基板上に滴下し、最初は500rpmで5秒間、次に、1500rpmで30秒基板を回転させて圧電体前駆体膜を形成した(塗布工程)。次に、大気中、350℃で3分間乾燥・脱脂を行った(乾燥及び脱脂工程)。この塗布工程・乾燥及び脱脂工程を2回繰り返した後に、加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRapid Thermal Annealing (RTA)で650℃、2分間焼成を行った(焼成工程)。この塗布工程・乾燥及び脱脂工程を2回繰り返した後に一括して焼成する焼成工程を行う工程を3回繰り返し、その後、加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAで650℃、5分間焼成を行うことで、計6回の塗布により全体で厚さ450nmの圧電体層を形成した。
【0064】
その後、圧電体層上に、第2電極としてDCスパッタ法により膜厚100nmの白金膜を形成した後、加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAで650℃、5分間焼成を行うことで、x=0.19、y=0.03の上記一般式(1)で表されるABO3型構造を基本組成としチタンを含有する複合酸化物を圧電体層とする圧電素子を形成した。
【0065】
(比較例1)
加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAのかわりに、加熱装置内を500cc/分の流量の酸素でフローしたRTAを行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0066】
(比較例2)
酸化ジルコニウム膜上に、チタン膜のかわりに酸化チタン膜を形成し、この酸化チタン膜の上に圧電体層を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0067】
(比較例3)
白金膜上に、DCスパッタ法により膜厚20nmのイリジウム膜を形成し、このイリジウム膜の上に圧電体層を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0068】
(比較例4)
加熱装置内を500cc/分の流量の窒素でフローしたRTAのかわりに、加熱装置内を500cc/分の流量の酸素でフローしたRTAを行い、また、酸化ジルコニウム膜上に、チタン膜のかわりに酸化チタン膜を形成しこの酸化チタン膜の上に圧電体層を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0069】
(試験例1)
実施例1及び比較例1〜3の各圧電素子について、東陽テクニカ社製「FCE−1A」で、φ=400μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzの三角波を印加して、分極量と電圧の関係(P−V曲線)を求めた。結果を図24〜図26に示す。なお、実施例1については比較のため、結果を図24〜図26の全てに記載した。
【0070】
図24〜図26に示すように、下地をチタン膜とし窒素雰囲気で結晶化させた実施例1では、良好なヒステリシスカーブとなっており、リークが発生していないことがわかる。一方、酸素雰囲気中で圧電体前駆体膜を結晶化させた比較例1や、白金膜下地をチタン膜のかわりに酸化チタン膜とした比較例2や、白金膜上にイリジウム膜を形成した比較例3では、ヒステリシスカーブがリークしていた。
【0071】
(試験例2)
実施例1、比較例1及び3の各圧電素子について、アグザクト社製の変位測定装置(DBLI)を用い室温で、φ=500μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzの電圧を印加して、電界誘起歪―電界強度の関係(S−V曲線)を求めた。結果を図27及び図28に示す。なお、実施例1については比較のため、図27及び図28の両方に記載した。
【0072】
図27及び図28に示すように、窒素雰囲気で結晶化させた実施例1は、比較例1及び3よりも、変位量が大きく圧電特性が良好であることが分かった。また、実施例1の圧電素子が、大きな電界誘起歪を示すとともに、強誘電体であり、反強誘電体では示さない電圧に対する歪み量が良好な直線性を示すことも確認できた。
【0073】
(試験例3)
実施例1及び比較例1の各圧電素子について、第2電極を剥がした状態で圧電体層70から厚さ方向に亘って二次イオン質量分析装置(SIMS)により測定した。結果を図29に示す。図の左側が第2電極側、右側が基板側である。この結果、窒素雰囲気で圧電体前駆体膜を結晶化させた実施例1では、下地であるチタン膜からチタンが拡散していることが分かる。なお拡散したチタンは白金層及び圧電体層に偏析しており、圧電体層中まで拡散していることがわかる。このことと試験例1の結果とから、Tiが拡散することで、圧電素子の絶縁性が向上したといえる。また、実施例1においては、白金を含む白金層と、圧電体層との間に図29において矢印で示すようにチタンのピークが存在しており、この領域に酸化チタンを含む第2酸化チタン層が形成されていることが分かる。なお、この第2酸化チタン層の厚さを透過型電子顕微鏡(TEM)で測定したところ、1nmであった。
【0074】
一方、比較例1では、酸素雰囲気中で圧電体前駆体膜を結晶化させても白金膜の下地のチタンは拡散しないことが分かる。このことと試験例1の結果とから、Tiを拡散させて圧電素子の絶縁性を向上させるためには、窒素雰囲気で圧電体前駆体膜を結晶化させる必要があることが分かる。なお、比較例1においては、白金を含む白金層と、圧電体層との間に実施例1のようにチタンのピークは無く、この領域に酸化チタンを含む第2酸化チタン層は形成されていなかった。
【0075】
(試験例4)
実施例1及び比較例2の各圧電素子について、第2電極を剥がした状態で圧電体層70から厚さ方向に亘って二次イオン質量分析装置(SIMS)により測定した。実施例1の結果を図30に、比較例2の結果を図31に示す。なお、図の左側が第2電極側、右側が基板側である。この結果、実施例1では、試験例3と同様に、白金膜の下地であるチタン膜からチタンが拡散していることが分かる。なお拡散したチタンは白金層及び圧電体層に偏析しており、圧電体層中まで拡散していることがわかる。
【0076】
一方、比較例2では下地が酸化チタンなので圧電体前駆体膜を窒素雰囲気中で結晶化させてもチタンは拡散しないことが分かる。このことより、Tiを拡散させて絶縁性を向上させるためには、下地をチタン膜にする必要があることが分かる。
【0077】
(試験例5)
実施例1及び比較例1〜4の圧電素子について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用い、X線源にCuKα線を使用し、室温で、圧電体層の粉末X線回折パターンをφ=ψ=0°で求めた。実施例1、比較例1〜2及び4の結果を図32に、また、比較例3の結果を実施例1及び比較例2と共に記載した図を図33に示す。
【0078】
図32及び図33に示すように、RTAの雰囲気、第1電極となる白金膜の下地の材質や、白金膜か異なる材質かによって、粉末X線回折パターンが異なり、実施例1のみが(100)面配向膜となっていることが分かる。具体的には、実施例1のみが、20°<2θ<25°に観測されるABO3由来の回折ピークの強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上であり、(100)配向膜となっていた。なお、実施例1及び比較例1〜4すべてにおいて、ABO3由来の回折ピークが観測され、実施例1及び比較例1〜4の圧電体層はABO3型構造を形成していることがわかる。
【0079】
そして、図32及び図33に示すように、実施例1は、強誘電相を示す2θ=46.1°近傍の回折ピーク及び反強誘電相を示す2θ=46.5°近傍の回折ピークが混在したピークを有しているため、実施例1は強誘電体に起因する構造と反強誘電体に起因する構造の両者が共存する組成相境界(M.P.B.)であることがわかる。
【0080】
(試験例6)
実施例1及び比較例1の各圧電素子について、J−Eプロットを取得することにより伝導機構の調査を行った。トンネル放出機構の結果を図34に示す。この結果、窒素雰囲気中で結晶化させた実施例1では、トンネル電流はほとんど生じず、リーク電流を抑制できることが分かる。一方、酸素雰囲気中で結晶化させた比較例1では、高電界側でトンネル電流が放出しており、酸素フローによる酸素がドナーとなってトンネル電流を発生させているため、酸素雰囲気中で結晶化したものは、リーク電流が増加すると考えられる。
【0081】
(試験例7)
実施例1及び比較例1の各圧電素子について、±60Vの電圧を印加して、電流密度と電圧との関係(I−V曲線)を求めた。結果を図35に示す。この結果、窒素雰囲気で圧電体前駆体膜を過熱して結晶化させた実施例1は、酸素雰囲気で結晶化させた比較例1よりも絶縁性が向上し、耐圧も向上することが分かる。
【0082】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、圧電体層の基本組成として、金属元素として、Bi、La、Fe及びMnのみを含有するABO3型の複合酸化物について記載したが、Bi、La、Fe及びMnを含むABO3型の複合酸化物であればよく、他の金属を添加し特性の調整を行ってもよい。
【0083】
また、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0084】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0085】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図36は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0086】
図36に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0087】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0088】
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0089】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー等他の装置に搭載される圧電素子にも適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、
14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、
56 チタン膜、 57 白金膜、 60 第1電極、 61 第1酸化チタン層、 62 白金層、 63 第2酸化チタン層、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
チタンからなるチタン膜を形成する工程と、
前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、
前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、
前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造された液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
チタンからなるチタン膜を形成する工程と、
前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、
前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、
前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項5】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子は、酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、
前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、
前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記圧電体層は、下記一般式で表される複合酸化物を含むことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
(Bi1-x,Lax)(Fe1-y,Mny)O3 (1)
(0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09)
【請求項7】
前記圧電体層は、粉末X線回折パターンにおいて、φ=ψ=0°で測定したときの20°<2θ<25°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、
前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、
前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする圧電素子。
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
チタンからなるチタン膜を形成する工程と、
前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、
前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、
前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造された液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
チタンからなるチタン膜を形成する工程と、
前記チタン膜上に白金からなる白金膜を形成する工程と、
前記白金膜上にビスマス、ランタン、鉄及びマンガンを含む圧電体前駆体膜を形成する工程と、
前記圧電体前駆体膜を不活性ガス雰囲気中で焼成し、結晶化することにより圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項5】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子は、酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、
前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、
前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記圧電体層は、下記一般式で表される複合酸化物を含むことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
(Bi1-x,Lax)(Fe1-y,Mny)O3 (1)
(0.10≦x≦0.20,0.01≦y≦0.09)
【請求項7】
前記圧電体層は、粉末X線回折パターンにおいて、φ=ψ=0°で測定したときの20°<2θ<25°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度が、20°<2θ<50°に観測されるABO3型構造由来の回折ピークの面積強度の総和の90%以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
酸化チタンを含む第1酸化チタン層と、第1酸化チタン層上に形成され白金を含む白金層と、前記白金層上に形成され酸化チタンを含む第2酸化チタン層と、からなる第1電極と、
前記第2酸化チタン層上に形成された鉄マンガン酸ビスマスランタンを含む圧電体層と、
前記圧電体層上に形成された第2電極と、を有することを特徴とする圧電素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図36】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図35】
【図2】
【図3】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図36】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図35】
【公開番号】特開2011−142143(P2011−142143A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−828(P2010−828)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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