説明

液処理方法及び液処理装置

【課題】基板を効率よく撥水化することが可能な液処理方法及び液処理装置を提供する。
【解決手段】撥水化剤溶液を加温する溶液加温工程と、加温された前記撥水化剤溶液を基板に対して供給する撥水化処理工程と、前記撥水化処理工程後の前記基板に対し、リンス液を供給するリンス工程と、前記基板を回転させて、前記リンス液を除去する乾燥工程と、を含む液処理方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどの基板を薬液で処理する液処理方法及び液処理装置に関し、特に撥水化剤を用いて基板を撥水化するための液処理方法及び液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の高集積化に伴って、基板表面上に形成されるパターンの微細化が益々進んでいる。そのような微細パターンが形成された基板に対して薬液を供給して基板表面を処理し、純水などのリンス液で薬液を洗い流し、乾燥させる場合、リンス液の表面張力によって微細パターンが倒壊してしまい、欠陥が生じるという問題がある。
【0003】
この問題を解決するため、基板表面に対して例えば撥水化剤溶液を供給して撥水化することが行われている。基板表面を撥水化することによって、リンス液により微細パターンに加わる力を低減することができ、微細パターンの倒壊を抑制することができる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−114439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板表面の撥水化により微細パターンの倒壊を抑制することができる一方で、撥水化を行うことにより基板の洗浄処理に要する時間が長くなるため、処理のスループットの低下を招いてしまう。このため、撥水化にかかる時間を短くすることが望まれている。
【0006】
本発明は、上記の事情を考慮して為され、基板を効率よく撥水化することが可能な液処理方法及び液処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、撥水化剤溶液を加温する溶液加温工程と、加温された前記撥水化剤溶液を基板に対して供給する撥水化処理工程と、前記撥水化処理工程後の前記基板に対し、リンス液を供給するリンス工程と、前記基板を回転させて、前記リンス液を除去する乾燥工程と、を含む液処理方法が提供される。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、撥水化処理の対象となる基板を載置する基板載置部と、前記基板に対して撥水化剤溶液を供給する供給部と、前記供給部に設けられ前記撥水化剤溶液を加温する溶液加熱部と、前記基板に対して、加温された前記撥水化剤溶液が供給されるように前記溶液加熱部を制御する制御部とを備える液処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、基板を効率よく撥水化することが可能な液処理方法及び液処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態による基板処理装置を示す概略上面図である。
【図2】図1の基板処理装置に組み込まれ得る、本発明の実施形態による液処理装置を示す概略側面図である。
【図3】図2の液処理装置を示す概略上面図である。
【図4】本発明の実施形態による基板処理方法を示すフローチャートである。
【図5】図2及び図3に示す液処理装置の変形例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一又は対応する部材又は部品については、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は、部材もしくは部品間の相対比を示すことを目的とせず、したがって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、当業者により決定されるべきである。
【0012】
まず、図1を参照しながら、本発明の実施形態による液処理装置を含む基板処理装置について説明する。図1は、本発明の実施形態による基板処理装置を模式的に示す上面図である。図示のとおり、基板処理装置100は、複数のウエハWを収容する複数の(図示の例では4つの)ウエハキャリアCが載置されるキャリアステーションSと、キャリアステーションSと後述の液処理ステーションS3との間でウエハWを受け渡す搬入出ステーションS2と、本発明の実施形態による液処理装置1が配置される液処理ステーションS3とを備える。
【0013】
搬入出ステーションS2には、ウエハキャリアCからウエハWを搬出してステージ13に載置し、また、ステージ13のウエハWを取り上げてウエハキャリアCへ搬入する搬送機構11を有している。搬送機構11は、ウエハWを保持する保持アーム部11aを有している。搬送機構11は、ウエハキャリアCの配列方向(図中のX方向)に延びるガイド12に沿って移動することができる。また、搬送機構11は、X方向に垂直な方向(図中のY方向)及び上下方向に保持アーム部11aを移動させることができ、水平面内で保持アーム部11aを回転させることができる。
【0014】
液処理ステーションS3は、Y方向に延びる搬送室16と、搬送室16の両側に設けられた複数の液処理装置1とを有している。搬送室16には、搬送機構14が設けられ、搬送機構14は、ウエハWを保持する保持アーム部14aを有している。搬送機構14は、搬送室16に設けられY方向に延びるガイド15に沿って移動することができる。また、搬送機構14は、保持アーム部14aをX方向に移動することができ、水平面内で回転させることができる。搬送機構14は、搬入出ステーションS2の受け渡しステージ13と各基板処理ユニット1との間でウエハWを搬送する。
また、基板処理装置100には、各種の部品及び部材を制御する制御部17が設けられ、制御部17の制御の下、基板処理装置100が動作し、例えば後述の基板処理方法が実施される。
【0015】
以上の構成を有する基板処理装置100においては、キャリアステーションSに載置されるウエハキャリアCから搬送機構11によってウエハWが取り出されてステージ13に載置される。ステージ13上のウエハWは、液処理ステーションS3内の搬送機構14により液処理装置1に搬入され、ウエハWの表面が所定の洗浄液で洗浄され、例えば純水により洗浄液が洗い流され、ウエハWの表面が乾燥される。ウエハWの表面が乾燥された後、ウエハWは、搬入時と逆の経路(手順)によりウエハキャリアCへ戻される。また、一のウエハWが洗浄される間に、他のウエハWが他の液処理装置1へ順次搬送され、洗浄される。
【0016】
次に、図2及び図3を参照しながら、上述の液処理装置1を説明する。図2は、液処理装置1を模式的に示す側面図である。図示のとおり、液処理装置1は、ウエハWを支持し回転するウエハ支持回転部21と、ウエハ支持回転部21により支持されるウエハW上に液体を供給する液体供給ノズル31と、液体供給ノズル31からウエハW上に供給され、ウエハ支持回転部21により回転されるウエハW上から飛散する液体を受けるカップ部23とを有する。
【0017】
ウエハ支持回転部21上には、複数の(少なくとも3個の)ウエハ支持部材21aが設けられ、これらによりウエハWが支持される。ウエハ支持回転部21の下面中央部には、回転シャフト21sが結合され、回転シャフト21sはモータMに接続されている。このような構成により、ウエハ支持回転部21により支持されるウエハWが回転される。
【0018】
液体供給ノズル31は、駆動部Dにより支持されて上下方向に延びるシャフトSと、シャフトSの上端に一端で固定され、ほぼ水平方向に延びるアーム部Aと、アーム部Aの他端下面に取り付けられるヘッド部Hとを有している。駆動部Dは、シャフトSの中心軸を回転中心として、シャフトSを回転することができる。これにより、シャフトSの中心軸を中心にアーム部Aが旋回され、ヘッド部Hが、ウエハ支持回転部21に支持されるウエハWの中央上方の液体供給位置(図3において破線で示す位置)と、カップ部23の外側のホーム位置(図3において実線で示す位置)とに位置することができる。
【0019】
また、液体供給ノズル31には、撥水化剤溶液貯留部2Aが配管2ALを介して接続され、有機溶剤貯留部2Bが配管2BLを介して接続されている。
撥水化剤溶液貯留部2Aは撥水化剤溶液を貯留している。撥水化剤溶液は、ウエハWの表面を撥水化するための撥水化剤をシンナーで所定の濃度に希釈することにより得られる。撥水化剤としては、シリル化剤(又はシランカップリング剤)を用いることができる。具体的には、例えばトリメチルシリルジメチルアミン(TMSDMA)、ジメチルシリルジメチルアミン(DMSDMA)、トリメチルシリルジエチルアミン(TMSDEA)、ヘキサメチルジンラザン(HMDS)、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン(TMDS)などを撥水化剤として用いることができる。また、シンナーとしては、エーテル類溶媒や、ケトンに属する有機溶媒などを用いることができる。具体的には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、シクロヘキサノン、ハイドロフルオロエーテル(HFE)などをシンナーとして用いることができる。
【0020】
また、撥水化剤溶液貯留部2Aと液体供給ノズル31を接続する配管2ALには、開閉弁2AV、流量計2AF、及びニードル弁2ANが設けられており、これらにより、撥水化剤溶液の供給の開始/停止、及び流量が制御される。また、配管2ALには加熱部2AHが設けられている。加熱部2AHは、ヒータなどの発熱体と、発熱体へ電力を供給する電源と、撥水化剤溶液の温度を監視する温度センサと、温度センサによる測温結果に基づいて電源から発熱体への電力を調整する温調器と(いずれも図示を省略)を有している。これにより、配管2ALを流れて液体供給ノズル31へ至る撥水化剤溶液が所定の温度に加温される。このときの撥水化剤溶液の温度は、例えば常温(例えばクリーンルーム内の温度)から、使用する撥水化剤溶液の沸点まで範囲にあることが好ましい。具体的には、加温される撥水化剤溶液の温度は、約30℃から約60℃までの範囲にあると好ましい。
【0021】
また、加温された撥水化剤溶液が配管2AL内で冷えるのを抑えるため、配管2ALの加熱部2AHと液体供給ノズル31との間に補助加熱部hが設けられている。補助加熱部hは、配管2ALに巻き付ける例えばテープヒータと、テープヒータの温度を調整する温調部(温度センサ、電源、温調器など)とにより構成され得る。
【0022】
また、撥水化剤溶液貯留部2Aには乾燥気体供給管2AI及び排気管2ADが接続されている。撥水化剤溶液貯留部2A内へ乾燥気体供給管2AIから乾燥気体を供給し、排気管2ADから排気することにより、撥水化剤溶液貯留部2Aの内部から水分が除去される。乾燥気体としては、例えば窒素ガスや、除湿器などにより除湿した乾燥空気などを用いることができる。乾燥気体の露点は、例えば40℃以下であることが好ましく、−60℃程度であることが更に好ましい。撥水化剤としてシリル化剤を用いる場合、シリル化剤は、雰囲気中の水分とさえ容易に加水分解反応を起こしてしまう。具体的には、加水分解反応によって、シリル化剤はシラノールとアミンとに分解してしまう。このため、撥水化剤溶液中の撥水化剤の実質的な濃度が低下し、撥水化効率が低下する可能性がある。そこで、上述のように、乾燥気体の供給及び排気により、撥水化剤貯留部2Aの内部を水分の無い雰囲気とし、加水分解反応を抑制している。
【0023】
また、撥水化剤溶液貯留部2Aには、循環ライン2Cが設けられている。循環ライン2Cには、開閉弁2CV、ポンプP、及びフィルターFが設けられている。ポンプPを起動するとともに開閉弁2CVを開くと、撥水化剤溶液貯留部2A内の撥水化剤溶液は、循環ライン2CVを通して循環する。撥水化剤溶液がフィルターFを通り抜ける際に、撥水化剤溶液に含まれる不純物や、固形化(ゲル化)した撥水化剤が除去される。これにより、撥水化剤溶液が清浄に保たれ、撥水化剤溶液に起因する欠陥の発生を低減することが可能となる。
【0024】
一方、有機溶剤貯留部2Bには有機溶剤が貯留されており、有機溶剤貯留部2Bと液体供給ノズル31を接続する配管2BLには、開閉弁2BV、流量計2BF、及びニードル弁2BNが設けられている。これらにより、有機溶剤の供給の開始/停止、及び流量が制御される。有機溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール(IPA)を好適に用いることができる。
【0025】
また、配管2BLには、配管2ALの加熱部2AHと同様に構成される加熱部2BHが設けられ、これにより、配管2BLを流れて液体供給ノズル31へ至る有機溶剤が加温される。また、加温された有機溶剤が配管2BL内で冷えるのを抑えるため、配管2BLの加熱部2BHと液体供給ノズル31との間においても補助加熱部hが設けられている。加熱部2BHにより加温される有機溶剤の温度は、撥水化剤溶液の温度と等しいか、僅かに高いことが好ましい。
【0026】
図3に示すように、アーム部A内には、撥水化剤溶液貯留部2Aからの配管2ALと接続され、撥水化剤溶液をヘッド部Hに導く導管2ACが設けられている。導管2ACは、ヘッド部Hの下面に下向きに突出する吐出部TAに連通している。また、アーム部A内には、有機溶剤貯留部2Bからの配管2BLと接続され、有機溶剤をヘッド部Hに導く導管2BCとが設けられている。導管2BCは、ヘッド部Hの下面に下向きに突出する吐出部TBに連通している。ヘッド部Hが液体供給位置にある際に、撥水化剤溶液貯留部2Aからの撥水化剤溶液は、配管2AL及び導管2ACを流れて吐出部TAからウエハW上へ供給され、有機溶剤貯留部2Bからの有機溶剤は、配管2BL及び導管2BCを流れて吐出部TBからウエハW上へ供給され得る。
【0027】
また、液体供給ノズル31には、薬液貯留部2Dが配管2DLを介して接続され、リンス液貯留部2Eが配管2ELを介して接続されている。
薬液貯留部2Dには、ウエハWに対して行われる液処理に応じた薬液が貯留されている。例えば洗浄処理においては、アルコール(例えばイソプロピルアルコール(IPA))、SC1溶液(NHOH+H+HO)、又はSC2溶液(HCl+H+HO)などを用いることができる。また、現像処理においては現像液が用いられる。さらに、エッチング処理においては、フッ酸(HF)、バッファードフッ酸(BHF)、又はHNOなどを使用しても良い。また、配管2DLには、開閉弁2DV、流量計2DF、及びニードル弁2DNが設けられ、これらにより、薬液の供給の開始/停止、および流量が制御される。
【0028】
リンス液貯留部2Eにはリンス液が貯留され、配管2ELに設けられた開閉弁2EV、流量計2EF、及びニードル弁2ENにより、リンス液の供給の開始/停止、及び流量が制御される。リンス液は例えば純水(又は脱イオン水(DIW)とも言う。以下同じ。)であって良い。
液体供給ノズル31のアーム部Aには、図3に示すように、ヘッド部Hの吐出部TD(図2参照)と配管2DLとを連通させる導管2DCと、ヘッド部Hの吐出部TE(図2参照)と配管2ELとを連通させる導管2ECとが設けられている。これにより、液体供給ノズル31のヘッド部Hが液体供給位置にあるとき、薬液貯留部2Dからの薬液は、配管2DL及び導管2DCを流れて吐出部TDからウエハW上へ供給され、リンス液貯留部2Eからのリンス液は、配管2EL及び導管2ECを流れて吐出部TEからウエハW上へ供給され得る。
【0029】
また、液処理装置1は筐体24を有し、ウエハ支持回転部21、液体供給ノズル31、及びカップ部23は筐体24内に収容されている。筐体24には、清浄気体の流入口24aが設けられ、図中の矢印Bで示すように、図示しない空調設備から清浄気体が流入する。筐体24内に流入した清浄気体は、筐体24内の上部に配置されたパンチグリル24bを通して下方へ流れるため、筐体24内にはダウンフローが形成される。ダウンフローは、カップ部23に設けられる排気排液管23aから排気される。
また、筐体24には、筐体24内へウエハWを搬入し、筐体24からウエハを搬出する搬送口(図示せず)が設けられている。搬送口は図示しないシャッタにより開閉される。
【0030】
また、筐体24内におけるカップ部23の上方かつパンチグリル24bの下方の空間において、液体供給ノズル31の動作を妨げないようにランプヒータ33が設けられている。図示の例では、ランプヒータ33は、同心円状に配置された3つの環状ランプから構成されている。これらの環状ランプは、赤外線スペクトルを含む光を発することができる。この光が、ウエハ支持回転部21に支持されるウエハWに照射され、これによりウエハWが加温される。また、ランプヒータ33には、ウエハWの温度を調整するため、ランプヒータ33に供給される電力を調整可能な電源33aと、放射温度計33bとが設けられている。放射温度計33bは、筐体24の天井部に設けられたビューポートを通してウエハWの温度を監視し、この監視の結果に基づいてランプヒータ33へ供給される電力が調整され、ウエハWの温度が調整される。
【0031】
また、液処理装置1には、例えばマイクロプロセッサ(コンピュータ)やメモリを含む制御部10が設けられている。制御部10により、液処理装置1の各構成部の制御、例えば開閉弁2AV〜2EVの開閉による各液体の供給/停止、ランプヒータ33の点灯/消灯及びウエハWの温度制御、加熱部2AH及び2BHの温度制御、モータMによるウエハ支持回転部21の回転及び回転速度、液体供給ノズル31の動作等が制御される。また、制御部10には、液処理装置1で実行される各種処理を制御部10の制御の下で実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて液処理装置1の各構成部に処理を実行させるための各種のプログラム(又はレシピ)を格納することができる。実施する処理に応じたプログラムを実行することにより、各種の処理(例えば、後述する液処理方法)を液処理装置1に行わせることができる。すなわち、液処理方法用のプログラムが実行される場合、制御部10は、液処理装置1の各構成部を制御して、液処理方法を実行する制御部として機能する。
【0032】
次に、本発明の実施形態による液処理方法について図4を参照しながら説明する。ここでは、これまで説明した液処理装置1を用いて本実施形態による液処理方法を実施する場合を例にとる。このため、以下の説明において図2及び図3を適宜参照する。また、以下の説明において、説明の簡便のため、薬液として洗浄液を使用し、有機溶剤としてIPAを使用し、リンス液として純水を使用することとする。また、本実施形態による液処理方法の説明においては、撥水化剤溶液を単にシリル化剤と称する。
【0033】
まず、液処理装置1の筐体24内に、搬送口(図示せず)を通して液処理の対象となるウエハWを搬入し、所定の昇降ピン(図示せず)によりウエハWをウエハ支持回転部21に受け渡す。
次に、モータM(図1)によりウエハ支持回転部21ひいてはウエハWを所定の回転速度で回転し、駆動部Dにより液体供給ノズル31のヘッド部H(詳しくは吐出部TD)を供給位置(ウエハWの中央上方)へ移動させ、吐出部TDからウエハWに対して洗浄液を供給する(図4のステップS41)。ウエハWに供給された洗浄液は、ウエハWの回転によりウエハWの表面の中央から周縁に広がるように流れる。洗浄液がこのように流れている間にウエハWの表面が洗浄される。
【0034】
所定の時間が経過した後、洗浄液の供給を停止するとともに、液体供給ノズル31の吐出部TEをウエハWの中央上方へ移動させ、吐出部TEからウエハWに対して純水を供給する。供給された純水はウエハWの表面上で広がるように流れ、ウエハWの表面に残る洗浄液が洗い流される(ステップS42)。
次いで、吐出部TEからの純水の供給を停止するとともに、吐出部TBをウエハWの中央上方へ移動させ、吐出部TBからウエハWに対してIPAの供給を開始する。(ステップS43)これにより、ウエハWの表面の全体が純水で覆われた状態を維持したままIPAの供給が開始される。
【0035】
このとき、液処理装置1のカップ部23の上方に設けられるランプヒータ33を点灯する。これにより、ランプヒータ33からの赤外線スペクトルを含む光がウエハWに照射されウエハWが加温される。IPAは、上述のとおり、加熱部2BH(図2)によって、後述するシリル化剤の温度と等しい温度、例えば約30℃から約60℃までの範囲の温度に加温されている。IPAの供給により、ウエハWの表面に残っていた純水がIPAにより置換される。この置換は、後に供給されるシリル化剤が純水に溶けないため、純水を除去して、シリル化剤が溶けるIPAでウエハWの表面全面を覆うために行われる。
【0036】
次に、IPAの供給を停止するとともに、吐出部TAをウエハWの中央上方へ移動させ、吐出部TAからウエハWに対してシリル化剤を供給する(ステップS44)。ここで、シリル化剤は、配管2ALに設けられた加熱部2AHにより例えば約30℃から約60℃までの範囲の温度に加温されている。ウエハWに供給されたシリル化剤は、ウエハWの回転によりウエハWの表面を中央から周縁に広がるように流れ、ウエハWの表面の全体がシリル化剤に曝される。これにより、ウエハWの表面が撥水化される。そして、所定の時間が経過し、ウエハWの表面が撥水化された後、ランプヒータ33を消灯する。
【0037】
この後、シリル化剤の供給を停止するとともに、吐出部TBをウエハWの中央上方へ移動させ、吐出部TBからウエハWに対して加温されたIPAを再び供給する(ステップS45)。これにより、ウエハWの表面に残るシリル化剤がIPAにより洗い流される。この時、ウエハWの表面が乾燥しないように、ウエハWの表面の全体がIPAで覆われた状態を維持する。
【0038】
次いで、吐出部TEをウエハWの中央上方に移動させ、吐出部TEからウエハWに対して純水を供給する(ステップS46)。これにより、ウエハWの表面のIPAが純水で置換される。IPAが純水により十分に置換された後、純水の供給を停止するとともに、ウエハWの回転速度を速くすることにより、ウエハWの表面を乾燥させる(ステップS47)。続けて、ウエハWを液処理装置1の外部へ搬出する。以上で、ウエハWの液処理が終了する。
【0039】
(実験例)
次に、上記の液処理方法の効果を確認するために行った実験の結果について説明する。この実験では、TMSDMAをPGMEAで希釈した1体積%の撥水化剤溶液を用い、約40℃の温度に加熱した。また、
・実施例1:加温したIPAによるウエハWの加温を行った場合、
・実施例2:加温したIPAによるウエハWの加温とともに液処理装置1の筐体24内の雰囲気をも加温した場合、
・比較例1:撥水化剤溶液は加温したが、ウエハWも雰囲気も加温しなかった場合、
・比較例2:撥水化剤溶液もウエハWも雰囲気も加温しなかった場合
の4とおりで実験を行った。また、各例の評価は、撥水化処理後にウエハW上に純水を滴下し、ウエハWの表面上にできた液滴の接触角により行った。具体的には、各例において撥水化処理に要する時間を変化させ、接触角が90°となる時間を求めた。
【0040】
その結果、比較例1では80秒の撥水化処理時間を要し、比較例2では約90秒もの撥水化処理時間を要する一方、実施例1及び2においては撥水化処理を約30秒間行うと接触角90°が実現されることが分かった。これらの結果から、本実施形態による液処理方法の効果が理解される。撥水化処理を行う際に、撥水化剤溶液を常温より高い温度に加熱すると、撥水化処理が促進され、所望の接触角が実現されるために必要な時間を短くすることができる。さらに、ウエハWや雰囲気も加温すると、撥水化剤溶液の温度低下が防止できるので、撥水化処理がより促進され、所望の接触角が実現されるために必要な時間をさらに短縮することができる。
【0041】
以上のように、本発明の実施形態による液処理装置1及び液処理方法によれば、ウエハWに対して、加熱部2AHにより加温された撥水化剤溶液が供給されるため、撥水化反応の速度を速くすることができ、撥水化に要する時間を短縮することができる。撥水化を促進するためには例えば撥水化剤溶液中の撥水化剤の濃度を高くすることも考えられるが、撥水化剤は比較的高価であるため、撥水化剤溶液中の撥水化剤の濃度を高くすることはコスト増を招く。すなわち、本実施形態には、コスト増を抑えつつ撥水化速度を速くすることができるという利点がある。
また、本実施形態においては、加温された撥水化剤溶液を供給する前に、加温された有機溶剤(IPA)をウエハWに対して供給している。このため、撥水化剤溶液を供給する前にウエハWを加温することができる。これにより、加温された撥水化剤溶液がウエハWに供給された時に、撥水化剤溶液の温度が低下することを防止することができる。
【0042】
さらに、加温された撥水化剤溶液がウエハWの表面を流れるときに、ウエハWの周縁部に向けて撥水化剤溶液の温度が低下する可能性が高い。このような場合には、ウエハWの周縁部において撥水化反応の速度が遅くなり、したがって、同じ処理時間では周縁部が中心部と同程度に十分に撥水化されないおそれがある。そこで、本実施形態による液処理装置1おいては、ランプヒータ33が設けられ、これによってもウエハWが加温される。このため、ウエハWの周縁部での撥水化剤溶液の温度の低下が抑えられ、ウエハWの表面全体を短時間でより均一に撥水化することが可能となる。なお、ウエハWの周縁部における温度の低下を抑えるため、ランプヒータ33を構成する環状ランプは、ウエハWの周縁部側の上方に密に配置することが好ましい。また、ウエハWの周縁部側の上方にのみランプヒータ33を配置しても良い。
【0043】
また、本実施形態による液処理装置1においては、撥水化剤溶液貯留部2Aに乾燥気体を供給することにより、その内部の雰囲気から水分を除去しているため、撥水化剤の加水分解が抑制される。これにより、撥水化剤溶液中の撥水化剤の濃度の低下が抑制され、撥水化に要する時間の短縮化に寄与する。
【0044】
ここで、撥水化剤溶液貯留部2Aへの乾燥気体の供給の効果を確認するために行った実験の結果を説明する。この実験においても、撥水化処理を行ったウエハWに対して純水を滴下し、ウエハW上に形成された水滴のウエハW表面に対する接触角を測定した。撥水化剤溶液としては、TMSDMAをPGMEAで希釈した1体積%の撥水化剤溶液を用い、40℃まで加温してウエハWに供給した。また、乾燥気体として窒素ガスを用い、5slm(標準リットル/分)といった流量で撥水化剤溶液貯留部2A内へ供給した。(1)撥水化剤溶液貯留部2A内へ窒素ガスを供給して約6時間経過した後に撥水化処理を行った場合と、(2)窒素ガスを供給しないで約6時間経過した後に撥水化処理を行った場合とを比較した。その結果、(2)の場合では接触角が51.2°であったのに対し、(1)の場合には接触角は91.2°となった。すなわち、窒素ガスを供給して撥水化剤溶液貯留部2A内の水分を除去することにより、ウエハW表面が撥水化の程度が向上することが分かった。
【0045】
また、液処理装置1の筐体24内には、加温された清浄気体を供給することができるため、筐体24内の雰囲気を撥水化剤溶液の温度とほぼ等しい温度に維持することができる。これにより、ウエハWの温度の低下を更に抑制することができる。
【0046】
以上、幾つかの実施形態及び実施例を参照しながら本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態及び実施例に限定されることなく、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変形又は変更が可能である。
【0047】
例えば、撥水化剤溶液を加熱する加熱部2AHは、配管2ALにではなく、液体供給ノズル31のアーム部Aかつ/又はヘッド部Hに設けても良い。撥水化剤溶液を加温すると、加水分解反応が促進されて、撥水化剤溶液中の撥水化剤(シリル化剤)の濃度の低下を招くため、撥水化剤溶液はウエハWに対して供給する直前に加温することが望ましい。また、液体供給ノズル31のアーム部Aかつ/又はヘッド部Hを加熱部2AHにより加温するようにすれば、液体供給ノズル31から供給されるIPAもほぼ同じ温度に加温することが可能となる。
【0048】
また、上述の実施形態において、撥水化剤溶液貯留部2Aには、撥水化剤をシンナーで希釈することにより得られた撥水化剤溶液が貯留されているが、撥水化剤とシンナーとを別の2つの貯留部に貯留し、これらの貯留部から撥水化剤とシンナーとを別々に供給し、液体供給ノズル31までの間に混合しても良い。具体的には、撥水化剤を撥水化剤溶液貯留部2Aに貯留し、シンナーを貯留する別の貯留部を設け、この貯留部からの配管(開閉弁、流量計、及びニードル弁を有する)を配管2ALに合流させればよい。この場合、混合した撥水化剤及びシンナーを配管2ALに設けた加熱部2AHにより加温しても良いし、別の貯留部からの配管に別の加熱部を設け、この加熱部により加温したシンナーと、加熱部2AHにより加熱した撥水化剤とを合流させても良い。また、流量の多いシンナーだけを加温するようにしても良い。
【0049】
また、ランプヒータ33は、液処理装置1の筐体24内におけるカップ部23の上方であってパンチグリル24bの下方の空間に配置されているが、図5に示すランプヒータ320のようにパンチグリル26bの上方に設け、パンチグリル24bを通してウエハWを加温するようにしても良い。また、ランプヒータ33及び320は、環状ランプによらず、例えば赤外線光発光素子(赤外LED)により構成しても良い。
さらに、ランプヒータ33及び320の代わりに、例えばウエハWの裏面に対して加温されたDIWを吐出することによりウエハWを加温しても良い。
【0050】
また、撥水化の後に撥水化剤溶液を洗い流す際には(ステップS45)、IPAを加温しなくても良い。また、例えば液体供給ノズル31に追加の導管及び吐出部を設け、ここから常温のIPAをウエハWに対して供給しても良い。液処理後には、ウエハWの温度を常温にまで下げる必要があるため、撥水化後に常温のIPAついで常温の純水を使用すれば、温度低下時間を短縮できるという利点がある。
【0051】
さらに、液処理装置1には一つの液体供給ノズルを設け、これから撥水化剤溶液、有機溶剤、リンス液、及び薬液が供給されるが、2つの液体供給ノズルを設けても良い。この場合、加温する撥水化剤溶液と有機溶剤を一つの液体供給ノズルから供給し、加温しないリンス液及び薬液を他の液体供給ノズルから供給しても良い。また、3つ以上の液体供給ノズルを設けても良い。また、液体供給ノズルは、アーム部Aが旋回するタイプでなく、アーム部が並進するタイプであっても良い。
【0052】
なお、加温される撥水化剤溶液の温度は、撥水化剤及びシンナーの沸点より低いことが好ましく、また、加温される有機溶剤の温度も沸点より低いことが好ましい。
【0053】
また、半導体ウエハだけでなく、フラットパネルディスプレー製造用のガラス基板に対しても本発明の実施形態である液処理方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・液処理装置、21・・・ウエハ支持回転部、23・・・カップ部、24・・・筐体、2A・・・撥水化剤溶液貯留部、2B・・・有機溶剤貯留部、2D・・・薬液貯留部、2E・・・リンス液貯留部、2AL,2BL,2DL,2EL・・・配管、2C・・・循環ライン、2AH,2BH・・・加熱部、22AF〜2EF・・・流量計、2AN〜2EN・・・ニードル弁、2AV〜2EV・・・開閉弁、10・・・制御部、31・・・液体供給ノズル、33・・・ランプヒータ、A・・・アーム部、H・・・ヘッド部、S・・・シャフト、D・・・駆動部、h・・・補助加熱部、M・・・モータ、W・・・ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水化剤溶液を加温する溶液加温工程と、
加温された前記撥水化剤溶液を基板に対して供給する撥水化処理工程と、
前記撥水化処理工程後の前記基板に対し、リンス液を供給するリンス工程と、
前記基板を回転させて、前記リンス液を除去する乾燥工程と、
を含む液処理方法。
【請求項2】
前記溶液加温工程において、前記撥水化剤溶液は、常温より高く、前記撥水化剤溶液の沸点より低い温度に加温される、請求項1に記載の液処理方法。
【請求項3】
前記溶液加温工程が、前記撥水化剤溶液を貯留する容器から前記撥水化剤溶液を前記基板に供給する供給端までの間において行われる、請求項1又は2に記載の液処理方法。
【請求項4】
前記撥水化処理工程が、前記基板を加温する基板加温工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の液処理方法。
【請求項5】
前記撥水化処理工程において、
加温された前記撥水化剤溶液を供給する前に、加温された有機溶剤を前記基板に供給することにより前記基板加温工程が行われる、請求項4に記載の液処理方法。
【請求項6】
前記基板加温工程において赤外線成分を含む光が前記基板へ照射される、請求項4に記載の液処理方法。
【請求項7】
前記撥水化処理工程が、前記基板周辺の雰囲気を加温する雰囲気加温工程を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の液処理方法。
【請求項8】
前記基板に対して薬液を供給して前記基板を液処理する薬液処理工程と、
リンス液により前記薬液を洗い流す薬液除去工程と
が、前記撥水化処理工程に先立って行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の液処理方法。
【請求項9】
前記撥水化剤溶液を貯留する前記容器内の雰囲気を乾燥気体で換気する工程を更に含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の液処理方法。
【請求項10】
撥水化処理の対象となる基板を載置する基板載置部と、
前記基板に対して撥水化剤溶液を供給する供給部と、
前記供給部に設けられ前記撥水化剤溶液を加温する溶液加熱部と、
前記基板に対して、加温された前記撥水化剤溶液が供給されるように前記溶液加熱部を制御する制御部と
を備える液処理装置。
【請求項11】
前記溶液加熱部が、常温より高く、前記撥水化剤溶液の沸点より低い温度に前記撥水化剤溶液を加温する、請求項9又は10に記載の液処理装置。
【請求項12】
前記溶液加熱部が、前記撥水化剤溶液を貯留する容器から前記撥水化剤溶液を前記基板に供給する供給端までの間に配置される、請求項9から12のいずれか一項に記載の液処理装置。
【請求項13】
前記基板を加熱する基板加熱機構を更に備える、請求項10から12のいずれか一項に記載の液処理装置。
【請求項14】
前記基板加熱機構が、加温された有機溶剤を前記基板へ供給することにより前記基板を加熱する、請求項13に記載の液処理装置。
【請求項15】
前記基板加熱機構が、赤外線成分を含む光を発する発光体を備える、請求項13に記載の液処理装置。
【請求項16】
前記基板に対して薬液を供給する薬液供給部と、前記基板に対してリンス液を供給するリンス液供給部を更に備える、請求項10から15のいずれか一項に記載の液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−222329(P2012−222329A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90246(P2011−90246)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】