説明

液処理装置および液処理方法

【課題】薬液処理時に発生しうる薬液雰囲気の拡散を防止しつつ、基板を加熱しながら加熱流体により基板のパターン形成面を効率良く処理することができる液処理装置を提供する。
【解決手段】液処理装置は、基板Wの周縁部を保持する保持部材を有し、基板を水平に保持する基板保持部22,30と、基板保持部を回転させる回転駆動部39と、基板保持部に保持された基板の下面の下方に位置するように設けられ、基板保持部により保持された基板の下面に薬液を吐出する、吐出口を有するノズル60と、ノズルに加熱した薬液を供給する薬液供給機構70a,70bと、基板保持部により保持された基板の上面を覆うカバー部材80と、カバー部材に設けられ、カバー部材が基板の上面を覆っているときに基板の上面側から基板を加熱するヒーター83と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を加熱するとともに基板を回転させながら基板に処理液を供給することにより基板に所定の液処理例えば洗浄処理またはエッチング処理を行う液処理装置および液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程において、基板例えば半導体ウエハ(以下単に「ウエハ」と称する)に形成された処理対象膜の上に所定のパターンでレジスト膜が形成され、このレジスト膜をマスクとしてエッチング、イオン注入等の処理が前記処理対象膜に施される。処理後、不要となったレジスト膜はウエハ上から除去される。
【0003】
最近では、レジスト膜の除去方法として、SPM処理がよく用いられている。SPM処理は、硫酸と過酸化水素水とを混合して得たSPM(Sulfuric Acid Hydrogen Peroxide Mixture)を加熱してレジスト膜に供給することにより行われる。
【0004】
特許文献1には、ウエハの下面(レジスト非形成面であるウエハ裏面)を吸着保持して回転するプレートと、このプレートにより保持されたウエハの上面(レジスト形成面であるウエハ表面)にSPMを供給するSPMノズルと、プレートにより保持されたウエハの上面(レジスト形成面、すなわちパターン形成面)にSPMと窒素ガスとの混合流体を供給する混合流体ノズルと、を備えたレジスト除去装置が開示されている。プレートにはヒーターが内蔵されており、このヒーターによりウエハの表面が200〜250℃程度の高温に加熱され、この状態で、まず、混合流体ノズルからSPMと窒素ガスとの混合流体がウエハ表面に供給され、次いで、SPMノズルによりSPMがウエハの表面に供給され、以上によりウエハ表面からレジストが除去される。その後、ウエハにリンス処理およびスピン乾燥処理が施される。
【0005】
特許文献1に記載された方法においては、高温に熱せられたウエハの表面に高温のSPMが供給されてレジストと反応してヒューム(fume)が発生する。このヒュームは、レジスト除去装置のチャンバ内の広範囲に拡散して、チャンバ内壁およびチャンバ内部品を汚染しあるいは腐食し、ウエハ汚染の原因物質を発生させうる。なお、本明細書においては、ヒュームとは、処理液(薬液)および被処理物体由来のガスまたはミストを意味するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−4878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、薬液処理時に発生しうる薬液雰囲気の拡散を防止しつつ、基板を加熱しながら加熱流体により基板のパターン形成面を効率良く処理することができる液処理装置および液処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点によれば、基板の周縁部を保持する保持部材を有しパターン形成面が下面となるように基板を水平に保持する基板保持部と、前記基板保持部を回転させる回転駆動部と、前記基板保持部に保持された基板の下面の下方に位置するように設けられ、前記基板保持部により保持された基板の下面に薬液を吐出する、吐出口を有するノズルと、前記ノズルに加熱した薬液を供給する薬液供給機構と、前記基板保持部により保持された基板の上面を覆うカバー部材と、前記カバー部材に設けられ、前記カバー部材が基板の上面を覆っているときに基板の上面側から基板を加熱するヒーターと、を備えた液処理装置が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の観点によれば、パターン形成面が下面となるように基板を水平姿勢で保持することと、前記基板の上面を前記基板の上方からカバー部材により覆うことと、前記基板を回転させることと、前記カバー部材に設けたヒーターにより前記基板を加熱することと、前記基板の下方に設けたノズルから加熱された薬液を前記基板の下面に供給することと、を備えた液処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板を上方からカバー部材により覆うことにより、カバー部材より下方で発生した処理液および被処理物体由来のガスまたはミストがチャンバ内に拡散することを防止することができる。しかも、前記カバー部材に設けたヒーターにより基板を加熱するため、処理を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態による基板洗浄装置を含む液処理システムを上方から見た上方平面図である。
【図2A】本発明の実施の形態の基板洗浄装置の構成を示す縦断面図であって、リフトピンプレートおよび洗浄液供給管が下降位置にあるときの状態を示す図である。
【図2B】本発明の実施の形態の基板洗浄装置の構成を示す縦断面図であって、リフトピンプレートおよび洗浄液供給管が上昇位置にあるときの状態を示す図である。
【図2C】図2Aに示すような、ウエハが基板支持部および固定保持部により保持された状態を示す、図2Aにおける基板洗浄装置を上方から見た上面図である。
【図3】図2Aおよび図2Bに示す基板洗浄装置のリフトピンプレートの構成を示す斜視図である。
【図4】図2Aおよび図2Bに示す基板洗浄装置の保持プレートの構成を示す斜視図である。
【図5】図2Aおよび図2Bに示す基板洗浄装置における、リフトピンプレートから下方に延びる接続部材および保持プレートから下方に延び接続部材を収容する中空の収容部材の構成の詳細を示す拡大縦断面図である。
【図6】図2Aおよび図2Bに示す基板洗浄装置における保持プレートに設けられた基板支持部の構成を示す拡大縦断面図である。
【図7】図6に示す状態からリフトピンプレートが下方に移動したときの状態を示す拡大縦断面図である。
【図8】図7に示す状態からリフトピンプレートが更に下方に移動したときの状態を示す拡大縦断面図である。
【図9】図2Aおよび図2Bに示す基板洗浄装置の処理流体供給管およびV字形ノズル並びにこれらを昇降させる昇降機構の構成を示す斜視図である。
【図10A】V字形ノズルを示す平面図である。
【図10B】リフトピンプレートと搬送アームとの間でウエハが受け渡しされるときのV字形ノズル、リフトピンおよび搬送アームの位置関係を説明するための概略平面図である。
【図11】V字形ノズルの第1の棒状部分の構造および作用について説明する図であって、(a)は図10AにおけるXIa−XIa線に沿った第1の棒状部分の内部構造を示す断面図、(b)は第1の棒状部分からSPMが吐出される様子を示す作用図である。
【図12】V字形ノズルの第2の棒状部分の構造および作用について説明する図であって、(a)は図10AにおけるXIIa−XIIa線に沿った第2の棒状部分の内部構造を示す断面図、(b)は第2の棒状部分からDIWのみが吐出される様子を示す作用図、そして(c)は第2の棒状部分からDIWおよびNガスを混合してなる二流体(二流体スプレー)が吐出される様子を示す作用図である。
【図13】V字形ノズルの中央部分の構造を説明する図であって図10AにおけるXIII−XIII線に沿った断面図である。
【図14】V字形ノズルの中央部分の構造を説明する図であって図10AにおけるXVI−XVI線に沿った断面図である。
【図15】V字形ノズルから吐出された処理液がウエハ下面に形成するスポットを説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。まず、図1を用いて、本発明による液処理装置の実施形態に係る基板洗浄装置を含む処理システムについて説明する。図1に示すように、処理システムは、外部から被処理基板としての半導体ウエハW(以下単に「ウエハW」と称する)を収容したキャリアを載置するための載置台101と、キャリアに収容されたウエハWを取り出すための搬送アーム102と、搬送アーム102によって取り出されたウエハWを載置するための棚ユニット103と、棚ユニット103に載置されたウエハWを受け取り、当該ウエハWを基板洗浄装置10内に搬送する搬送アーム104と、を備えている。図1に示すように、液処理システムには、複数(図1に示す態様では10個)の基板洗浄装置10と、2つのリバーサー(REV、ウエハ裏返し装置)105が組み込まれている。なお、図1に示すように、搬送アーム104は上方から見て略U字形状となっているが、この搬送アーム104はウエハWをリフトピン22(後述)上に載置したりリフトピン22上からウエハWを取り除いたりする際にリフトピン22および後に詳述するV字形ノズル60に接触しないような形状となっている(図10Bを参照)。
【0013】
次に、基板洗浄装置10の概略的な構成について図2Aおよび図2Bを用いて説明する。基板洗浄装置10は、チャンバ12(図2Aのみに示されている)を有しており、このチャンバ12内に、ウエハWを保持する保持プレート30と、保持プレート30の上方に設けられ、ウエハWを下方から支持するリフトピン22を有するリフトピンプレート20と、保持プレート30を回転させる電動モータ等を備えた回転駆動部39と、保持プレート30の中心部分に形成された貫通穴30aおよびリフトピンプレート20の中心部分に形成された貫通穴20aを通るよう設けられた処理流体供給管40と、処理流体供給管40を介して供給された処理流体をウエハWの下面に向けて吹き付けるV字形ノズル60と、保持プレート30により保持されたウエハWの上面に近接してウエハWの上面を覆う位置に位置することができるヒーター内蔵型のカバー部材80と、を有している。処理時に、リフトピンプレート20は、保持プレート30と連動して一体的に回転するようになっている。チャンバ12の天井には、チャンバ12内に清浄空気のダウンフローを形成するファンフィルタユニット(FFU)14が設けられている。チャンバ12の側壁(図2Aの右側の側壁)には、シャッタ部材(図示せず)が設けられたウエハWの搬出入口(図示せず)が形成されており、この搬出入口を通ってウエハWを保持した搬送アーム104がチャンバ内に侵入することができる。なお、図面作成の都合により、図2Aにおいてはチャンバ12の天井が実際より低い位置に描かれているが、天井は実際には図2Bに示す搬送アーム104の移動およびカバー部材80が上昇位置に位置することができる程度の高さを有している。
【0014】
リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60は、保持プレート30に対して相対的に昇降することができる。ここで、図2Aは、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60がそれぞれ下降位置にあるときの状態を示しており、図2Bは、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60がそれぞれ上昇位置にあるときの状態を示している。リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60は、それぞれ、図2Aに示すような下降位置と図2Bに示すような上昇位置との間で昇降する。図2Aには、処理位置(下降位置)にあるカバー部材80が示されている。図2Bでは待避位置(上昇位置)にあるカバー部材80の表示は省略されているが、実際は二点鎖線で表示されたウエハWの上方に位置している。
【0015】
次に、基板洗浄装置10の各構成要素の詳細について以下に説明する。
【0016】
図3に示すように、リフトピンプレート20は円板形状のものからなり、その中心部分には貫通穴20aが形成されている。貫通穴20aの周囲には環状突起20bが設けられており、リフトピンプレート20上にある液体が貫通穴20a内に入り込むことを防止している。貫通穴20aに処理流体供給管40が通される。リフトピンプレート20の表面の周縁部近傍には複数本(本例では4本)のリフトピン22が設けられている。好ましい実施形態においては、特に図2Cに示されるように、4本のリフトピン22が2つの対をなし、一方の対22a,22a’(図2C中で左側にある2本)が円周方向に中心角で30度(鋭角)に相当する距離だけ離れた位置に配置されており、他方の対22b,22b’(図2C内で右側にある2本)が円周方向に中心角で120度(鈍角)に相当する距離だけ離れた位置に配置されている。また、4本のリフトピン22は、図2C中においてウエハWの中心を通って左右方向に延びる仮想線に対して線対称に配置されている。図2Cに示すようにリフトピンを配置することにより、ウエハWを十分に安定した状態でリフトピン22上に支持させることが可能となるとともに、ウエハWの搬出入(図2Bを参照)の際にリフトピン22に邪魔されることなくU字形の搬送アーム104(図10Bも参照)をウエハWの下方に侵入(図2Cの右手側から左手側に向かって侵入)させることができる。リフトピンプレート20の下面(各リフトピン22が設けられた面とは反対側の面)から、複数例えば3つの棒状の接続部材24が下方に延びている。これらの接続部材24は、リフトピンプレート20の周縁部近傍において周方向に等間隔で設けられている。
【0017】
図4に示すように、保持プレート30は円板形状のものからなり、その中心部分には貫通穴30aが形成されている。この貫通穴30aには処理流体供給管40が通される。また、保持プレート30の表面には、図2Aに示すように、接続部材38を介して回転カップ36が取り付けられている。回転カップ36は、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60が下降位置にあるときに保持プレート30により保持されるウエハWの外周縁を囲む。また、図2Aおよび図2Cに示すように、回転カップ36には、ウエハWを保持するための2つの固定保持部材37が設けられている。固定保持部材37の具体的な機能については後述する。なお、これらの固定保持部材37は、回転カップ36に設けられる代わりに保持プレート30に設けられていてもよく、あるいは接続部材38に直接接続されていてもよい。固定保持部材37が接続部材38に直接接続されている場合には、水平方向の力に対する固定保持部材37の強度をより大きなものとすることができる。
【0018】
保持プレート30の下面(回転カップ36が設けられた面とは反対側の面)の中心部分には、当該保持プレート30の下面から下方に延びるよう中空の回転軸34が取り付けられている。回転軸34の中空部分には処理流体供給管40が収容されている。回転軸34はベアリング(図示せず)により支持されるとともに、電動モータ等の回転駆動部39により回転させられる。回転駆動部39が回転軸34を回転させることにより、保持プレート30も回転する。
【0019】
図4に示すように、保持プレート30には、3つの貫通穴(接続部材貫通穴)30bが形成されており、各貫通穴30bにリフトピンプレート20に結合された接続部材24がスライド可能に通されている。従って、接続部材24は、保持プレート30とリフトピンプレート20との相対的回転を禁止して保持プレート30およびリフトピンプレート20が一体的に回転するように接続する一方で、保持プレート30とリフトピンプレート20との相対的上下動を許容する。貫通穴30bは保持プレート30の周方向に等間隔に設けられている。また、保持プレート30の下面において、各貫通穴30bの箇所には、3つの円筒形状の収容部材32が設けられている。各収容部材32は、保持プレート30の下面から下方に延びるようになっており、リフトピンプレート20の下面から下方に延びる各接続部材24を収容するようになっている。これらの収容部材32は、保持プレート30の周縁部近傍において周方向に等間隔で設けられている。
【0020】
リフトピンプレート20の下面から下方に延びる各接続部材24および保持プレート30の下面から下方に延びる各収容部材32について図5を用いてより詳細に説明する。図5に示すように、円筒形状の各収容部材32の内径は各接続部材24の外径よりもやや大きくなっており、各収容部材32の長手方向(図5の上下方向)に沿って各接続部材24が各収容部材32内で移動することができるようになっている。図2Aに示すように、リフトピンプレート20が下降位置にあるときには、各接続部材24は各収容部材32に完全に収容された状態となる。一方、図2Bに示すように、リフトピンプレート20が上昇位置にあるときには、各接続部材24はその下部における一部分のみが各収容部材32に収容された状態となり、各接続部材24は保持プレート30に形成された貫通穴30bを通過してこの保持プレート30から上方に突出する。リフトピンプレート20が下降位置にあるときには、各接続部材24が各収容部材32に収容された状態となる。
【0021】
図5に示すように、各収容部材32の中空部分にはバネ26が圧縮された状態で収容されている。このバネ26は、その下端が接続部材24の下端部分に取り付けられるとともに、その上端が貫通穴30bの近傍における保持プレート30の下面に取り付けられている。このため、バネ26により接続部材24は下方に付勢されるようになっている。すなわち、バネ26が圧縮状態から元の状態に戻ろうとする力により、接続部材24には常に下向きの力(保持プレート30から下方に移動しようとする力)が加えられる。
【0022】
図2Aおよび図2Bに示すように、回転カップ36の外方には外カップ56が設けられており、保持プレート30や回転カップ36は外カップ56により覆われる。この外カップ56には排液管58が接続されており、ウエハWの洗浄のために使用され、ウエハWの回転により当該ウエハWから外方に飛散して外カップ56により受けられた洗浄液は排液管58により排出される。
【0023】
図2Aおよび図2Bに示すように、保持プレート30には、ウエハWを側方から支持するための可動の基板保持部材31が設けられている。基板保持部材31は、図2Aに示すようにリフトピンプレート20が下降位置にあるときにウエハWを側方から保持し、一方、図2Bに示すようにリフトピンプレート20が上昇位置にあるときにウエハWから離間する。より詳細に説明すると、図2Cに示すように、ウエハWの洗浄処理を行う際に、ウエハWは基板保持部材31および2つの固定保持部材(固定の基板保持部材)37により保持される。このときに、基板保持部材31はウエハWを固定保持部材37に向かって押し付ける。すなわち、図2Cにおいて基板保持部材31によりウエハWに対して図2Cにおける左方向に力が加えられ、これによりウエハWは2つの固定保持部材37に押し付けられる。このように、可動の基板保持部材31および固定保持部材37の両方を用いてウエハWを側方から保持する場合には、固定保持部材37を用いずに複数の可動の基板保持部材31だけを用いてウエハWを側方から保持する場合と比較して、ウエハWに対して移動(進退)する部材の数を1つのみとすることができるので、よりシンプルな構成でウエハWの保持を行うことができる。
【0024】
以下に基板保持部材31の構成の詳細について図6〜図8を参照して説明する。図6は、リフトピンプレート20が図2Bに示すような上昇位置から図2Aに示すような下降位置に向かって移動する途中での状態を示す図であり、図7は、図6に示す状態からリフトピンプレート20が下方に移動したときの状態を示す図であり、図8は、図6に示す状態からリフトピンプレート20が更に下方に移動し、リフトピンプレート20が図2Aに示すような下降位置に到達したときの状態を示す図である。
【0025】
図6乃至図8に示すように、基板保持部材31は軸31aを介して保持プレート30に軸支されている。より詳細には、図6乃至図8に示すように、保持プレート30には軸受け部33が取り付けられており、この軸受け部33に設けられた軸受け孔33aに軸31aが受け入れられる。軸受け孔33aは水平方向に延びる長孔からなり、基板保持部材31の軸31aはこの軸受け孔33aに沿って水平方向に移動することができる。このようにして、基板保持部材31は、軸受け部33の軸受け孔33aに受け入れられた軸31aを中心として揺動することができる。
【0026】
基板保持部材31の軸31aには、ねじりバネ等のバネ部材31dが巻き掛けられている。このバネ部材31dは、軸31aを中心として基板保持部材31を図6乃至図8における時計回りの方向に回転させるような力を基板保持部材31に付勢するようになっている。これにより、基板保持部材31に何ら力が加えられていない場合には、図2Bに示すように、基板保持部材31が保持プレート30に対して傾斜した状態となり、基板保持部材31におけるウエハWを側方から保持するための基板保持部分31b(後述)は保持プレート30の中心から遠ざかった状態となる。
【0027】
また、軸31aに巻き掛けられたバネ部材31dからは線状部分が伸び出しており、この線状部分は軸受け部33の内壁面33bに係止されて、軸31aを保持プレート30の中心に向かって押し返す。このように、バネ部材31dの線状部分により、軸31aは保持プレート30の中心に向かって(すなわち、図6乃至図8における左方向に向かって)常時押圧される。このため、比較的径が小さなウエハWが可動の基板保持部材31および固定保持部材37により支持される場合には、軸31aは、図6乃至図8に示すように、軸受け孔33aにおける保持プレート30の中心に近い位置(すなわち、図6乃至図8における左側の位置)に位置する。一方、比較的径が大きなウエハWが基板保持部材31および固定保持部材37により支持される場合には、バネ部材31dの線状部分による力に抗して、軸31aは軸受け孔33aに沿って図6等に示す位置から右方向に移動する。なお、ここでのウエハの径の大小とは、許容寸法誤差内でのウエハの径の大小を意味している。
【0028】
また、基板保持部材31は、ウエハWを側方から保持する基板保持部分31bと、軸31aに関して基板保持部分31bと反対側に設けられた被押圧部材31cとを有している。被押圧部材31cは、リフトピンプレート20と保持プレート30との間に設けられており、この被押圧部材31cは、図6乃至図8に示すようにリフトピンプレート20が下降位置またはその近傍位置にあるときに当該リフトピンプレート20の下面により下方に向かって押圧される。
【0029】
図6乃至図8に示すように、基板保持部材31は、リフトピンプレート20が上昇位置から下降位置に移動したときに、当該リフトピンプレート20の下面により被押圧部材31cが下方に押圧されることにより軸31aを中心として図6等の反時計回りの方向(図6等の矢印方向)に回転する。そして、基板保持部材31が軸31aを中心として回転することにより、基板保持部分31bがウエハWに向かって当該ウエハWの側方から移動する。これにより、リフトピンプレート20が下降位置に到達したときに、図8に示すように、ウエハWが基板保持部材31により側方から保持される。ここで、図8に示すように、ウエハWが基板保持部材31により側方から保持されたときに、このウエハWはリフトピン22の先端から上方に離間し、リフトピン22から上方に浮いた状態となる。また、前述のように、ウエハWの大きさによっては、バネ部材31dの線状部分による力に抗して軸31aが軸受け孔33aに沿って図6等に示す位置から右方向に移動する場合もある。このため、比較的大きなウエハWが基板保持部材31および固定保持部材37により保持される場合であっても、基板保持部材31が水平方向に移動可能となっているので、ウエハWを変形させたり破損させたりすることなくウエハWを側方から保持することができる。
【0030】
上述のような基板保持部材31が基板洗浄装置10に設けられていることにより、基板保持部材31を駆動するための専用の駆動機構(動力源)を設ける必要がなく、後述する昇降駆動部50によりリフトピンプレート20を昇降させるだけで、保持プレート30の基板保持部材31によるウエハWの保持/解放動作を行うことができるため、基板洗浄装置10の構成をよりシンプルなものとすることができる。また、リフトピンプレート20の昇降のタイミングと基板保持部材31の移動のタイミングとの間にタイムラグが生じることを抑制することができ、スループットを向上させることもできる。
【0031】
図2Aおよび図2Bに示すように、処理流体供給管40はリフトピンプレート20の貫通穴20aおよび保持プレート30の貫通穴30aをそれぞれ通過するよう設けられている。なお、処理流体供給管40は、リフトピンプレート20や保持プレート30が回転する際にも回転しないようになっている。処理流体供給管40の内部には、処理流体をV字形ノズル60に供給するため複数、本例では6つの流体供給路、すなわち第1の流体供給路(「硫酸供給路」とも称する)40a、第2の流体供給路(「過酸化水素水供給路」とも称する)40b、第3の流体供給路(「第1のDIW供給路」とも称する)40c、第4の流体供給路(「第1のNガス供給路」とも称する)40d、第5の流体供給路(「第2のDIW供給路」とも称する)40e、第6の流体供給路(「第2のNガス供給路」とも称する)40fが鉛直方向に延びるように設けられている。処理流体供給管40の上端には後に詳述するV字形ノズル60が取り付けられている。
【0032】
図2Aに示すように、処理流体供給管40内の第1〜第6の流体供給路40a,40b,40c,40d,40e,40fは対応する第1〜第6の流体供給機構70a,70b,70c,70d,70e,70fにそれぞれ接続されている。
第1の流体供給機構70aは、硫酸(HSO)を供給する硫酸供給機構(以下、「硫酸供給機構70a」と称する)であり、硫酸供給源71aに接続された管路74aに上流側から順次介設された可変絞り弁72aおよび開閉弁73aを有している。
第2の流体供給機構70bは、過酸化水素水(H)を供給する過酸化水素水供給機構(以下、「過酸化水素水供給機構70b」と称する)であり、過酸化水素水供給源71bに接続された管路74bに上流側から順次介設された可変絞り弁72bおよび開閉弁73bを有している。
第3の流体供給機構70cは、リンス用液体であるDIW(純水)を供給するDIW供給機構(以下、「第1のDIW供給機構70c」と称する)であり、DIW供給源71cに接続された管路74cに上流側から順次介設された可変絞り弁72cおよび開閉弁73cを有している。
第4の流体供給機構70dは、不活性ガス例えばNガスを供給するNガス供給機構(以下、「第1のNガス供給機構70d」と称する)であり、Nガス供給源71dに接続された管路74dに上流側から順次介設された可変絞り弁72dおよび開閉弁73dを有している。
第5の流体供給機構70eは、リンス用液体であるDIW(純水)を供給するDIW供給機構(以下、「第2のDIW供給機構70e」と称する)であり、DIW供給源71eに接続された管路74eに上流側から順次介設された可変絞り弁72eおよび開閉弁73eを有している。
第6流体供給機構70fは、不活性ガス例えばNガスを供給するNガス供給機構(以下、「第2のNガス供給機構70f」称する)であり、Nガス供給源71fに接続された管路74fに上流側から順次介設された可変絞り弁72fおよび開閉弁73fを有している。
【0033】
なお、硫酸供給源71aは例えばヒーター付きタンクと当該タンクから加熱された硫酸をポンプ送りすることができる任意の装置から構成することができる。なお、過酸化水素水は常温で供給されるため、過酸化水素水供給源71bは例えばタンクと当該タンクから常温の過酸化水素水をポンプ送りすることができる任意の装置から構成することができる。
【0034】
図2A、図2Bおよび図9に示すように、処理流体供給管40には接続部材52を介して昇降駆動部50が設けられている。昇降駆動部50は、処理流体供給管40を昇降させるようになっている。すなわち、昇降駆動部50が接続部材52を昇降させることにより、この接続部材52に接続された処理流体供給管40およびV字形ノズル60も昇降することとなる。より詳細には、昇降駆動部50は、図2Aに示すような下降位置と、図2Bに示すような上昇位置との間で処理流体供給管40およびV字形ノズル60を昇降させる。
【0035】
また、図9に示すように、処理流体供給管40には第1の連動部材44が接続されている。そして、第1の連動部材44には、3つの棒状の第2の連動部材46が第1の連動部材44から上方に延びるよう接続されている。ここで、各第2の連動部材46は、リフトピンプレート20の下面から下方に延びるよう設けられた各接続部材24に対応して設けられており、棒状の各第2の連動部材46の外径は円筒形状の収容部材32の内径よりも小さい。より詳細には、各第2の連動部材46は、各接続部材24の底面に接触するよう設けられており、各第2の連動部材46は、図2B等に示すように各収容部材32内で各接続部材24を上方に押し上げることができる。
【0036】
すなわち、図2Aに示すような状態において、昇降駆動部50が処理流体供給管40を上方に移動させたときには、処理流体供給管40に接続された第1の連動部材44および各第2の連動部材46も上方に移動し、各第2の連動部材46が各収容部材32内で各接続部材24を上方に押し上げることとなる。これにより、リフトピンプレート20も処理流体供給管40と連動して上方に移動し、図2Bに示すように、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60はそれぞれの上昇位置に到達することとなる。一方、図2Bに示すような状態において、昇降駆動部50が処理流体供給管40を下方に移動させたときには、収容部材32の内部に設けられたバネ26の力により接続部材24には常に下方に向かう力が加えられているので、各第2の連動部材46が下方に移動したときに各接続部材24もその下面が各第2の連動部材46の上端部分に接触するよう下方に移動する。このようにして、図2Aに示すように、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60はそれぞれの下降位置に到達する。
【0037】
図2Aに示すように、リフトピンプレート20は、下降位置にあるときには保持プレート30に隣接する。図示例においては、詳細には、リフトピンプレート20は保持プレート30上に載置され、保持プレート30により支持される。一方、図2Bに示すように、リフトピンプレート20は、上昇位置にあるときには、保持プレート30から上方に離間し、リフトピン22上へのウエハWの受け渡しおよびリフトピン22上からのウエハWの取り出しを行うことができるようになる。
【0038】
このように、第1の連動部材44および3つの第2の連動部材46により、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60を連動して一体的に昇降させる連動機構が構成されている。また、第1の連動部材44、3つの第2の連動部材46、昇降駆動部50、接続部材52により、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60を連動して昇降させて、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60を保持プレート30に対して相対的に昇降させる昇降機構が構成されている。
【0039】
次に、図2A、図2B、図9、図10A及び図10Bを参照して、V字形ノズル60の構成について説明する。V字形ノズル60は、中央部分60Cと、この中央部分60Cに接続されるとともにV字形に配置された第1の棒状部分60Aおよび第2の棒状部分60Bと、を有している。中央部分60Cにおいて、V字形ノズル60は処理流体供給管40の上端に取り付けられている。中央部分60Cは、リフトピンプレート20の貫通穴20aを覆うカバー部材としての役割をも果たす。棒状部分60A,60Bは中央部分60Cからリフトピンプレート20の半径方向外側すなわちウエハWの半径方向外側に延び、処理時にリフトピン22と干渉しないように(処理時にV字形ノズル60は回転しないがリフトピンプレート20は回転する)、リフトピン22が配置される仮想円周のわずかに手前で終端している。
【0040】
図10Aに示す実施形態においては、第1の棒状部分60Aおよび第2の棒状部分60Bは例えば30度(この角度に限定されるものではない)の角を成している。従って、リフトピンプレート20および保持プレート30を所定の角度位置に位置決めすることにより、第1の棒状部分60Aおよび第2の棒状部分60Bがそれぞれリフトピン22a、22a’に向かって延びるように位置合わせすることができる。図2Bより理解できるように、ウエハWの下面とV字形ノズル60との間は非常に狭いため、搬送アーム104とV字形ノズル60との両者の衝突を回避する観点からは、ウエハ搬出入時に搬送アーム104とV字形ノズル60とが平面視で重ならないようにすることが好ましい。図10Aに示すようなリフトピン22a,22a’と第1の棒状部分60Aおよび第2の棒状部分60Bとの位置関係が確保されていれば、図10Bに示すように、搬送アーム104を4つのリフトピンおよびV字形ノズル60に衝突しないようにウエハの下側に侵入させることが容易となる。なお、図10Bに示すように、搬送アーム104の二股の先端部は、搬送アーム104がウエハの下方に侵入するときに、リフトピン22a,22a’の外側であって、リフトピン22b,22b’の内側を通過する。上記のことは、第1の棒状部分60Aおよび第2の棒状部分60BをV字型に配置することにより生じうる利点の一つである。
【0041】
特に図11(a)および図12(a)に示すように、棒状部分60A,60Bは翼型に類似する断面形状を有している。この液処理装置では、棒状部分60A,60Bに対してウエハWが図10A、図11(a)、図12(a)に示す矢印R方向に回転するようになっている。このとき、ウエハWの下面とリフトピンプレート20との間には矢印R方向の気流が生じる。翼型断面を有する棒状部分60A,60Bの上方を通過する気流により、液の流れが改善される。詳細には、気流は、棒状部分60A,60Bの背面とウエハWとの間を通過する際に、絞り効果により流速を増すとともにウエハWの下面に向かうように整流される。このように棒状部分60A,60Bの影響を受けた気流は、ウエハWの下面上に衝突した処理液(例えば薬液)がウエハWの下面に沿ってスムーズに拡散することを助ける。また、棒状部分60A,60Bが翼型断面を有することにより、気流の影響による棒状部分60A,60Bの振動が最小限に抑制される。
【0042】
V字型ノズル60は、ウエハWの中央部に対向する位置からウエハWの周縁部に対向する位置の間に配列された複数の第1の吐出口61を有している。第1の吐出口61は、加熱されたSPM(硫酸と過酸化水素水の混合液)をウエハWに向けて吐出するためのものである。第1の吐出口61は、中央部分60Cから第1の棒状部分60Aの先端部に至るまでの区間内に、第1の棒状部分60Aの長手方向に沿って一列に配列されている。さらに、V字型ノズル60は、ウエハWの中央部に対向する位置からウエハWの周縁部に対向する位置の間に配列された複数の第2の吐出口62を有している。第2の吐出口62は、DIW(純水)のみをウエハWに向けて、或いはDIWとNガスとの混合流体からなる二流体スプレーをウエハWに向けて吐出するためのものである。第2の吐出口62は、中央部分60Cから第2の棒状部分60Bの先端部に至るまでの区間内に、第2の棒状部分60Bの長手方向に沿って一列に配列されている。さらに、V字型ノズル60は、その中央部分60Cに、1つの第3の吐出口63を有している。第3の吐出口63はウエハWの中央部に向けてDIWを吐出するためのものである。さらに、V字型ノズル60は、その中央部分60Cに、1つの第4の吐出口64を有している。第4の吐出口64はウエハWの中央部に向けてNガスを吐出するためのものである。なお、第4の吐出口64は保持プレート30に保持されたウエハWの中心のほぼ真下に位置している。
【0043】
なお、第1および第2の吐出口61,62およびこれに連なる吐出路(67a,67b、68a、68b)の径はかなり小さい(直径0.3〜0.5mm程度)のため、液が吐出口および吐出路を通過するときに、摩擦で帯電する(特に導電性の無いDIWが通流する吐出口および吐出路において顕著である)。これを防止するため、V字型ノズル60は、導電性のある材料、例えばカーボンファイバー入りのPFAにより形成することが望ましい。
【0044】
図14に示すように、処理流体供給管40は、その上端に拡径された頭部41を有している。V字形ノズル60の中央部分60Cは、処理流体供給管40の頭部41に対して図示しないネジにより連結される。
【0045】
図14に示すように、V字形ノズル60の中央部分60Cと処理流体供給管40の頭部41が連結されると、処理流体供給管40内を鉛直方向に延びる第2のDIW供給路40eと中央部分60C内を鉛直方向に延びる吐出路63aが連通する。これにより、第2のDIW供給路40eを介して送られてきたDIWを第3の吐出口63からウエハW下面に向けて吐出させることが可能となる。なお、第3の吐出口63は、そこから吐出されるDIWが確実にウエハW下面の中央Wcに到達することが保証されるような形状に形成されている。また、中央部分60Cと頭部41が連結されると、処理流体供給管40内を鉛直方向に延びる第2のNガス供給路40fと中央部分60C内を鉛直方向に延びる吐出路64aが連通する。これにより、第2のNガス供給路40fを介して送られてきたNガスを第4の吐出口64からウエハW下面に向けて吐出させることが可能となる。
【0046】
また、中央部分60Cと頭部41が連結されると、図13に示すように、処理流体供給管40内を鉛直方向に延びる第1のDIW供給路40cとV字形ノズル60内に形成された流体通路(DIW通路)65bとが連通するとともに、処理流体供給管40内を鉛直方向に延びる第1のN供給路40dとV字形ノズル60内に形成された流体通路(N通路)66bとが連通する。図10Aに破線で示すように、DIW通路65bおよびN通路66bは、V字形ノズル60の中央部分60Cから第2の棒状部分60Bの先端部に至るまで、棒状部分60Bの長手方向に沿って、水平に、かつ互いに平行に延びている。また、詳細に図示はされていないが、中央部分60Cと頭部41が連結されると、図13に示した態様と同様の態様で、処理流体供給管40内を鉛直方向に延びる硫酸供給路40cとV字形ノズル60内に形成された流体通路(硫酸通路)65aとが連通するとともに、処理流体供給管40内を鉛直方向に延びる過酸化水素水供給路40bとV字形ノズル60内に形成された流体通路(過酸化水素水通路)66aとが連通する。図10Aに破線で示すように、硫酸通路65aおよび過酸化水素水通路66aは、V字形ノズル60の中央部分60Cから第1の棒状部分60Aの先端部に至るまで、第1の棒状部分60Aの長手方向に沿って、水平に、かつ互いに平行に延びている。
【0047】
図11(a)に示すように、V字形ノズル60の中央部分60Cおよび第1の棒状部分60Aにおいては、各吐出口61に対応して、硫酸通路65aに1つの硫酸吐出路67aが、過酸化水素水通路66aに一つの過酸化水素水吐出路68aがそれぞれ接続されている。硫酸吐出路67aが終端する吐出口61よりも手前の位置で過酸化水素水通路68aが硫酸吐出路67aに合流している。従って、各吐出口61から、硫酸と過酸化水素水とを混合してなるSPMが吐出される。図11(b)に示すように、各吐出口61は、そこから吐出されるSPMの吐出方向がウエハW回転方向Rに傾斜するように、言い換えれば、各吐出口61から吐出されるSPMの吐出方向を示すベクトルV61がウエハ回転方向Rの成分を持つように、構成されていることが好ましい。これにより、ウエハWの下面に衝突したSPMがウエハWに弾かれること(液はね)を抑制することができ、吐出したSPMを無駄にすることなく吐出したSPMの多くをウエハWの処理に有効に利用することができる。なお、SPMの吐出方向がウエハWの回転方向の成分を持つことにより、一旦ウエハWに到達したSPMがウエハWから落下してV字形ノズル60の棒状部分60Aに再付着することを低減することができる。ウエハWからのSPMの落下は、SPMがウエハWに到達した時点およびその直後に生じやすいからである。複数の吐出口61の大部分は、吐出口61から吐出されるSPMの吐出方向を示すベクトルV61がウエハ回転方向Rの成分を持ち、かつ、ベクトルV61が第1の棒状部分60Aの長手方向と直交する方向を向いていることが好ましい。但し、最も半径方向外側にある1個の吐出口(61”)またはこれを含む数個の吐出口61は、そこから吐出されるSPMの吐出方向を示すベクトルV61が、図10A中に符号V61eが付された矢印で示すように、半径方向外側を向いた成分を有していてもよい。これにより、反応済みのSPMがウエハWからスムーズに離脱する。また、最も半径方向内側にある1個または数個の吐出口61、特に最も半径方向内側にある1個の吐出口61’は、そこから吐出されるSPMの吐出方向を示すベクトルV61が、図10A中に符号V61cが付された矢印で示すように、ウエハWの中心を向いていることが望ましい。このようにすることで、ウエハWの中心に未処理領域が発生することを防止することができる。
【0048】
図12(a)に示すように、V字形ノズル60の中央部分60Cおよび第2の棒状部分60Bにおいては、各吐出口62に対応して、DIW通路65bに1つのDIW吐出路67bが、N通路66bに一つのN吐出路68bがそれぞれ接続されている。DIW吐出路67bは、当該DIW吐出路67bが終端する吐出口62の近傍に湾曲した転向面67cを有しており、この転向面67cの下端近傍においてN通路66bがDIW通路65bに合流している。Nを流さないかあるいは微量流した状態でDIWをDIW通路65bからDIW吐出路67bを介して流すと、DIWは転向面67cにより転向され、その結果、図12(b)に示すように、吐出口62から吐出されるDIWの吐出方向がウエハW回転方向Rに傾斜する。言い換えれば、各吐出口62から吐出されるDIWの吐出方向を示すベクトルV62がウエハ回転方向Rの成分を持つ。
【0049】
また、NガスをN通路66bからN吐出路68bを介して流し、かつ、DIWをDIW通路65bからDIW吐出路67bを介して流すと、DIW吐出路67bとN吐出路68bとの合流点においてDIW流とNガス流とが衝突し、両者が混合され、DIWおよびNガスからなるミスト状の混合流体すなわち二流体スプレー(液滴)が形成される。DIWは転向面67cに到達する前にNガスと混合されるため転向面67cの影響をあまり受けず、図12(c)に示すように、吐出口62から吐出される二流体スプレーは扇状に広がりつつ上方に向けて吐出される。この場合、二流体スプレーの吐出方向(主方向)を示すベクトルV62’(図12(c)参照)は概ね鉛直方向上方を向いていて(すなわち二流体スプレーの吐出方向がウエハWの下面と成す角度が大きい)ウエハWの回転方向Rの成分をあまり含んでいないが、二流体スプレーによる洗浄効果は二流体スプレーの衝突エネルギーに依存しているため、この方が好ましい。なお、二流体スプレーの吐出方向(主方向)を示すベクトルV62’が、ウエハWの回転方向Rと逆方向の成分を有していることも好ましい。なお、SPMの吐出と同様に、最も半径方向外側にある1個の吐出口62”またはこれを含む数個の吐出口62は、そこから吐出されるDIWまたは二流体スプレーの吐出方向を示すベクトルV62(V62’)が、図10A中に符号V61eが付された矢印で示すように、半径方向外側を向いた成分を有することが望ましい。また、最も半径方向内側にある1個の吐出口62’またはこれを含む数個の吐出口62は、特に最も半径方向内側にある1個の吐出口62’は、そこから吐出されるDIWまたは二流体スプレーの吐出方向を示すベクトルV62が、図10A中に符号V62cが付された矢印で示すように、ウエハWの中心を向いていることが望ましい。特に二流体スプレーは、前述したように二流体スプレーがウエハWに与える衝突エネルギーによりウエハWを洗浄するものであるので、ウエハWの被処理面(下面)の全ての領域に、いずれかの吐出口62から吐出された二流体スプレーが直接噴射されるように、吐出口62を設けることが望ましい。
【0050】
また、図12(a)に示すようにDIW通路65bを区画するV字形ノズル60の底壁には、複数のDIW吐出口69が設けられている。DIW吐出口69は、DIW通路65bの全長にわたって、所定間隔を空けて設けられている。DIW吐出口69から吐出されるDIWすなわち装置洗浄液は、リフトピンプレート22の表面に向かって吐出され、遠心力によりリフトピンプレート22の外側に向かって流れ、リフトピンプレート22から外側に飛散する。このDIWの流れに乗って、リフトピンプレート22の表面にあるSPMおよびSPMとレジストの反応生成物などの不要物質が洗い流される。なお、DIW吐出口69にDIWを供給するために、DIW通路65bと独立したDIW通路をV字形ノズル60内に設けてもよい。
【0051】
図15に示された複数の楕円は、各吐出口61、62から吐出された処理流体(SPM、DIW)がウエハWの下面に到達した瞬間に処理流体により覆われるウエハWの下面上の領域(以下に「スポット」とも称する)を模式的に示している。なお、処理流体はウエハWの下面に到達した後には、ウエハWの回転による遠心力、吐出口61、62からの処理流体の吐出圧力等の要因に応じてウエハWの下面上で広がる。吐出口61、62から処理流体は平面視で円の接線方向に、斜め上方に向けて吐出されているので、スポットは楕円になる。但し二流体スプレーの場合は、比較的大径の概ね円形になる。スポットの中心の間隔Pは、吐出口61、62の配列ピッチに等しい。また、吐出後ウエハ到達前に処理流体は拡散するため、楕円の短軸(短軸は吐出口の配列方向と一致する)の長さBは吐出口61、62の径よりも大きくなる。なお、楕円の長軸の長さAは吐出口61の径よりもずっと大きい。二流体スプレーを吐出する際には、二流体スプレーがウエハWに与える衝突エネルギーが重要なのであるから、隣接するスポットに重複部分Lが生じることが望ましいので、そのように吐出口61、62を設計することが望ましい。また、SPM等の薬液を吐出する際には、処理の均一性の観点から、隣接するスポットには所定の長さLの重複部分が生じるように吐出口61、62を設計することが好ましい。しかしながら、隣接するスポットを形成する薬液が直ちに融合するのであれば、隣接するスポット間に重複部分が無くてもかまわない。
【0052】
図10Aに示すように、V字形ノズル60は、V字形に配置された第1の棒状部分60Aと第2の棒状部分60Bとを有しているが、SPMを吐出するための吐出口61が設けられた第1の棒状部分60Aは、DIWまたはDIWを含む二流体スプレーを吐出するための第2の棒状部分60Bから、ウエハ回転方向Rに小さな鋭角(ここでは30度)だけ進んだ(回転した)位置に配置されている。この配置はV字形ノズル60の清浄度を維持する上で好ましい。すなわち、ウエハ下面側の空間内では、ウエハ回転方向Rに進行する気流が生じており、吐出口61、62から吐出した液はその気流に乗って流れる。また、吐出口61、62から吐出されてウエハWに到達した液の一部は、重力によりウエハWから落下する。仮に、第1の棒状部分60Aと第2の棒状部分60Bの位置が図示されたものと逆であったならば、第1の棒状部分60Aから吐出されたSPMおよび反応生成物が、DIWまたは二流体スプレーを吐出するための第2の棒状部分60Bに付着する可能性が高くなる。リンスのための流体を供給する第2の棒状部分60BがSPMおよび反応生成物により汚染されることは好ましくない。一方、第1の棒状部分60Aと第2の棒状部分60Bとが図示された位置関係にある場合、第2の棒状部分60Bにから吐出されたDIWまたはDIWを含む二流体スプレーにより第1の棒状部分60Aを洗浄することができる。なお、以上のことより、第1の棒状部分60Aは第2の棒状部分60Bからウエハ回転方向Rになるべく小さな角度(図示例では30度)だけ進んだ位置にあることが有利であり、また、第2の棒状部分60Bは第1の棒状部分60Aからウエハ回転方向Rになるべく大きな角度(図示例では330度)だけ進んだ位置にあることが有利であることは明らかである。
【0053】
基板洗浄装置10は、その全体の動作を統括制御するコントローラ100を有している。コントローラ100は、基板洗浄装置10の全ての機能部品(例えば回転駆動部39、昇降駆動部50、第1〜第6流体供給機構70a〜70f、後述のLEDランプ83用の電源装置など)の動作を制御する。コントローラ100は、ハードウエアとして例えば汎用コンピュータと、ソフトウエアとして当該コンピュータを動作させるためのプログラム(装置制御プログラムおよび処理レシピ等)とにより実現することができる。ソフトウエアは、コンピュータに固定的に設けられたハードディスクドライブ等の記憶媒体に格納されるか、或いはCDROM、DVD、フラッシュメモリ等の着脱可能にコンピュータにセットされる記憶媒体に格納される。このような記憶媒体が参照符号101で示されている。プロセッサ102は必要に応じて図示しないユーザーインターフェースからの指示等に基づいて所定の処理レシピを記憶媒体101から呼び出して実行させ、これによってコントローラ100の制御の下で基板洗浄装置10の各機能部品が動作して所定の処理が行われる。コントローラ100は、図1に示す液処理システム全体を制御するシステムコントローラであってもよい。
【0054】
次に、カバー部材80について説明する。図2Aに示すように、カバー部材80は、少なくともウエハWの直径より大きい直径を有する円板状の本体81を有している。円板状の本体81は、回転カップ36の上部開口を完全に覆うのに十分な形状寸法を有していることが好ましく、外カップ50の上部開口を完全に覆うのに十分な形状寸法を有していることがさらに好ましい。例示された実施形態においては、カバー部材80は、外カップ50の上部開口の直径よりやや大きい直径を有する円板状に形成されている。カバー部材80の中心部には、カバー部材80を上下方向に貫通する穴87が設けられている。
【0055】
図2Aに概略的に示されるように、カバー部材80の内部には、ウエハWを加熱するためのLEDランプ83が設けられている。例示された実施形態においては、複数のLEDランプ83を有する1つのLEDランプアレイが設けられている。LEDランプ83は、ウエハWを加熱するために適した波長、具体的には例えば880nmの波長の光を放射するものが用いられている。LEDランプ83は880nmの波長の光を良く透過し、かつ耐食性の高い石英からなるカバー84に覆われて保護されている。なお、図2Aには、ウエハWのサイズに概ね等しいサイズの1つのLEDランプアレイが設けられている例が示されているが、これに限定されるものではなく、ウエハ中央部に対向する位置に1または複数のLEDランプアレイを設け、ウエハ周縁部に対向する位置に1または複数のLEDランプアレイを設け、ウエハ中央部とウエハ周縁部との間のウエハ中間部に対向する位置に1または複数のLEDランプアレイを設けてもよく、この場合、これらの各LEDランプアレイを個別に制御することにより、ウエハWの部位毎に温度制御をする(いわゆるゾーン制御)ことも可能である。なお、ウエハWの回転に伴い生じる気流によりウエハWの外周部が冷えやすい傾向にあるため、LEDの出力もしくはLEDランプの数(発光素子数)を外周部ほど多くすることが好ましく、このようにすればウエハWの全面を均一に加熱することができる。
【0056】
LEDランプ83の上方において、本体81の内部には、熱に弱いLEDランプ83を冷却して保護するために、冷媒通路82aが設けられている。冷媒通路82aは、平面視で、螺旋状または同心円状等に配置することができる。冷媒通路82aには冷媒供給源(例えば冷却水供給源)82e(CM)に接続された冷媒供給管82bが接続されており、冷媒供給管82bには、上流側から順に、可変絞り弁82d、開閉弁82cが介設されている。また、冷媒通路82aには、熱交換により暖まった冷媒を冷媒通路82a排出するための図示しない冷媒排出管が接続されている。なお、LEDランプ83には、ケーブル85aを介して電源装置85bにより給電される。
【0057】
カバー部材80を上下に移動させるために昇降駆動機構86が設けられており、この昇降駆動機構86を駆動することにより、ウエハWに近接してウエハWの真上に位置する「処理位置」と、図2Bに示すウエハWの搬出入作業を妨げないようなウエハWから遠く離れる「待機位置」(図2Bの二点鎖線で示すウエハWの更に上方の位置)との間でカバー部材80を移動させることができる。昇降駆動機構86は、カバー部材80の上面中央部に接続されたアーム86aと、その上端がアーム86aに接続されたシリンダロッドを有するエアシリンダ86bをから構成されている。
【0058】
次に、上述した基板洗浄装置10を用いて、ウエハ表面にある不要なレジスト膜を除去する洗浄処理の一連の工程について説明する。
【0059】
<ウエハ搬入および設置工程>
まず、昇降機構によって、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60を図2Bに示すような上昇位置に位置づける。次に、図2Bの二点鎖線に示すように、基板洗浄装置10の外部からウエハWが搬送アーム104により基板洗浄装置10に搬送され、このウエハWがリフトピンプレート20のリフトピン22上に載置される。次に、昇降駆動部50が処理流体供給管40およびV字形ノズル60を上昇位置から下降位置まで移動させる。この際に、収容部材32の内部に設けられたバネ26の力により接続部材24には常に下方に向かう力が加えられているので、処理流体供給管40の下方への移動に連動してリフトピンプレート20も下方に移動し、リフトピンプレート20が上昇位置から下降位置まで移動する。また、この際に、リフトピンプレート20の下面により基板保持部材31の被押圧部分31cが図6に示すような状態から下方に押圧され、これにより基板保持部材31が軸31aを中心として図6の反時計回りの方向に回転する。このようにして、基板保持部材31の基板保持部分31bがウエハWに向かって当該ウエハWの側方から移動し(図7参照)、基板保持部材31によりウエハWは側方から保持される(図8参照)。このときに、基板保持部材31により側方から保持されたウエハWはリフトピン22から上方に離間する。なお、ウエハWは、その「表面」(パターンが形成される面)が「下面」となり、その「裏面」(パターンが形成されない面)が「上面」となるように、基板洗浄装置10内に搬入される前にリバーサー105(図1参照)により裏返されており、この状態で保持プレート30により保持される。本明細書において、用語「上面(下面)」は、単に、ある時点において上(下)を向いている面という意味で用いられる。
【0060】
<SPM洗浄工程>
次に、図2Aに示すように、上方の待機位置で待機していたカバー部材80を下降させて、ウエハWの近傍においてウエハWの上方を覆う処理位置に移動させる。この状態で、次いで、回転駆動部39により保持プレート30を回転させる。この際に、保持プレート30の下面から下方に延びるよう設けられた各収容部材32に、リフトピンプレート20の下面から下方に延びるよう設けられた各接続部材24が収容された状態となっているので、保持プレート30が回転したときにリフトピンプレート20も連動して回転し、ウエハWも回転する。なお、この際に、処理流体供給管40およびこれに接続されたV字形ノズル60は回転することなく停止したままである。ウエハの回転開始と同時またはその後に、カバー部材80のLEDランプ83を点灯させてウエハWの裏面(デバイス非形成面)すなわち上面からウエハWを加熱する。このとき例えばウエハWは200℃程度に加熱される。ウエハWが所定温度まで昇温したら、硫酸供給機構70aから硫酸供給路40aに150℃程度に加熱した硫酸を供給し、かつ、過酸化水素水供給機構70bから過酸化水素水供給路40bに常温の過酸化水素水を供給する。供給された硫酸および過酸化水素水は、図11(b)に示すように、吐出口61の直前で混合され、SPMとしてウエハW下面に向けて吐出される。なお、硫酸および過酸化水素水が混合される際に反応熱により温度が上昇する。吐出口61から吐出されるSPMの温度は180℃程度である。供給されたSPMによりウエハWのレジスト膜がリフトオフ(剥離)される。なお、ウエハ温度より低い温度のSPMがウエハWに掛かるとウエハ温度が下がるので、SPMを間欠的に吐出することが、ウエハ温度の低下を防止する上で好ましい。除去されたレジスト膜および反応生成物は、SPMと一緒に遠心力によりウエハWの下面上を半径方向外側に流れ、ウエハWの外側に流出し、回転カップ36により受け止められて下方に向きを変え、外カップ56の底部に接続された排液管58を介して排出される。このときウエハW下面の下方空間にヒュームが発生するが、ウエハWの上方および回転カップ36および外カップ56の上方がカバー部材80に覆われているため、ウエハWの上方のチャンバ12内にヒュームが拡散しない。ヒュームは工場排気系に接続された(すなわち微減圧状態にある)排液管58すなわち負圧空間に吸い込まれ、SPMの廃液と一緒に排出される。また、図2Aに示すように、ウエハWの上面とカバー部材80の下面との間に挟まれた空間内に、ウエハWの回転に起因したウエハWの外側に向かう気流F1が生じる。この気流F1の影響で、ウエハWの中心部近傍に負圧が生じる。カバー部材80の中心部には穴87が設けられているため、この穴87すなわち雰囲気取込み口を介して、ウエハWとカバー部材80との間の空間にカバー部材80の上方の雰囲気(清浄空気雰囲気)が取り込まれる。取り込まれた雰囲気は、気流F1を形成し、回転カップ36の内周面により下方に向けて転向され(矢印F2を参照)、外カップ56底部にある微減圧状態にある排液管58を介して排出される。矢印F1およびF2で示す気流は、ウエハWの下面を満たすヒュームがウエハWより上方に拡散してゆくことを防止するシールドとしての役割を果たす。このため、ヒュームがチャンバ12内に拡散することをより効果的に抑制することができる。なお、穴87の上端にNガス等の不活性ガスの供給機構を接続して、NガスをウエハWとカバー部材80との間の空間に送り込み、Nガスにより矢印F1、F2で示されるような気流を形成してもよい。
【0061】
<第1のDIWリンス工程>
SPM洗浄工程を所定時間実行した後、吐出口61からのSPMの吐出を停止し、また、LEDランプ83によるウエハWの加熱を停止する。次いで、引き続きウエハWを回転させたまま、第2のDIW供給機構70eから第2のDIW供給路40eに比較的大流量(例えば毎分1500ml)でDIWを供給し、V字形ノズル60の中央部分60Cにある吐出口63からDIWをウエハWの中心部に向けて吐出させる。DIWは遠心力によりウエハWの下面上を半径方向外側に流れ、ウエハWの外側に流出し、回転カップ36により受け止められて下方に向きを変え、外カップ56の底部に接続された排液管58を介して排出される。ウエハWの下面上に残っているSPMやレジストの残渣などが、ウエハWの下面上を半径方向外側に流れるDIWにより洗い流される。
【0062】
<二流体スプレー工程>
第1のDIWリンス工程を所定時間実行した後、吐出口63からのDIWの吐出を停止する。次いで、引き続きウエハWを回転させたまま、第1のDIW供給機構70cから第1のDIW供給路40cに例えば毎分100〜300ml程度の流量でDIWを供給し、かつ、第1のN供給機構70dから第1のN供給路40cにNガスを供給する。供給されたDIWおよびNガスは、図12(c)に示すように、吐出口62の直前で混合され、ミスト化されたDIWとNガスとの混相流からなる二流体スプレー(液滴)としてウエハW下面に向けて吐出される。この二流体スプレーの衝突エネルギーにより、ウエハ下面上に残留するレジスト残渣、パーティクル等の物質が除去される。二流体スプレーを構成するDIWは遠心力によりウエハWの下面上を半径方向外側に流れ、ウエハWの外側に流出し、回転カップ36により受け止められて下方に向きを変え、外カップ56の底部に接続された排液管58を介して排出される。Nガスも排液管58を介して排出される。なお、この二流体スプレー工程はリンス処理の一種と見なすこともできる。
【0063】
<第2のDIWリンス工程>
二流体スプレー工程を所定時間実行した後、吐出口62からの二流体スプレーの吐出を停止する。次いで、引き続きウエハWを回転させたまま、前述した第1のDIWリンス処理と同様にして第2のDIWリンス処理を行う。
【0064】
<Nスピン乾燥工程>
第2のDIWリンス工程を所定時間実行した後、吐出口63からのDIWの吐出を停止する。次いで、引き続きウエハWを回転させたまま(回転速度を増大させることが好ましい)、第2のN供給機構70fから第2のN供給路40fにNガスを供給し、V字形ノズル60の中央部分60Cにある吐出口64からNガスをウエハWの中心部に向けて吐出させる。これにより、ウエハWの下面上に残留していたDIWが遠心力により振り切られるとともに、Nガスにより乾燥が促進される。
【0065】
<ウエハ搬出工程>
スピン乾燥工程が終了したら、カバー部材80を上昇させて待機位置に戻す。次いで、昇降駆動部50が処理流体供給管40およびV字形ノズル60を下降位置から上昇位置まで移動させる。この際に、各第2の連動部材46が各接続部材24を上方に押し上げることにより、処理流体供給管40の上方への移動に連動してリフトピンプレート20も上方に移動し、リフトピンプレート20が下降位置から上昇位置まで移動する。また、この際に、基板保持部材31に対するバネ部材31dの付勢力により、基板保持部材31は軸31aを中心として図6の時計回りの方向(図6における矢印とは反対の方向)に回転する。これにより、基板保持部材31はウエハWから側方に離間する。基板保持部材31がウエハWから側方に離間することにより、このウエハWはリフトピン22により裏面から支持されるようになる。図2Bに示すようにリフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60が上昇位置に到達した後、リフトピン22上に載置されたウエハWは搬送アーム104により当該リフトピン22上から除去される。搬送アーム104により取り出されたウエハWは基板洗浄装置10の外部に搬出され、リバーサー105により表裏が反転される。なお、カバー部材80は、SPM洗浄工程の終了後、任意の時点で待機位置に戻しておいてもかまわない。
【0066】
なお、吐出路67a,67b,68a,68bのうち、気体であるNガスが通流するN吐出路68bにおいては、当該N吐出路68bへのNガスの供給が遮断されているときには、ノズル外部の雰囲気が当該N吐出路68b内に侵入しやすくなる。なお、液体が通流する吐出路においては、吐出路への液体の通流が遮断されても液体はその吐出路内に残るためこのような問題はない。例えば、N吐出路68b内にSPM雰囲気が侵入したら、その後に吐出するDIW含有二流体スプレーの清浄度が損なわれ好ましくない。このような事態を防止するため、N吐出路68bに常時微量のNガスを通流させて、吐出口62から微量のNガスが常時流出するようにしておくことが好ましい。なお、同様の観点から、吐出口64内の清浄度を維持するために、吐出口64からも微量のNガスが常時流出するようにしておくことが好ましい。
【0067】
上記の実施形態によれば、ウエハW上のレジスト膜を高温SPM処理により除去するにあたって、ウエハWの処理面を下向きにし、ウエハWの上方をウエハ加熱用のLEDランプ83を備えたカバー部材80で覆って、ウエハWの下方に設けたノズル60からウエハWの下面に薬液(SPM)を供給している。このため、ウエハWの下方で発生した処理液および被処理物体由来のガスまたはミストからなるヒュームが基板の上方に拡散することを防止することができる。このため、ヒュームがウエハ上方のチャンバ内壁およびチャンバ内部品を汚染しあるいは腐食し、ウエハ汚染の原因物質を発生させることを防止することができる。しかも、カバー部材に設けたヒーターによりウエハ基板を加熱するため、処理を促進することができる。また、カバー部材にヒュームの遮蔽機能とウエハの加熱機能を同時に持たせることにより部品点数を削減することができる。さらに上記の実施形態においては、ウエハWの周囲をカップ(外カップ56)で囲んでいる。このため、ウエハWの下面側に排気系に連通する概ね閉じた空間が形成され、その中でSPM処理が行われるので、ヒュームがウエハの上方に拡散し、ウエハ上方のチャンバ内壁およびチャンバ内部品を汚染しあるいは腐食することをより確実に防止することができる。特に上記の実施形態においては、カップの上部開口もカバー部材により覆われているため、ヒュームの上方への漏出をさらに確実に防止することができる。
【0068】
また、上記の実施形態によれば、ウエハWの中央部に対向する位置から基板の周縁部に対向する位置の間に沿って配列されて各々から同じ処理流体を吐出する複数の吐出口61(62)を有するノズルを使用しているため、ウエハWの下面を高い面内均一性で処理することができる。
【0069】
また、ノズル60が、吐出の直前に硫酸と過酸化水素水とを混合してSPMを生成するように構成されているため、硫酸と過酸化水素水とを混合したことにより生じる熱が吐出の直前に生じる。このため、吐出口61の直前まで硫酸と過酸化水素水を低温(予め混合する場合と比較して)で流すことができるため、硫酸および過酸化水素水の配管系統の負担を低減することができる。
【0070】
また、ウエハWを所定波長の光を発するLEDランプで加熱しているため、ウエハWを迅速に昇温することができる。
【0071】
また、上記の実施形態においては、リフトピンプレート20、処理流体供給管40およびV字形ノズル60が保持プレート30に対して相対的に昇降するようになっており、ウエハWを下方から支持するリフトピン22はリフトピンプレート20に設けられている。このため、従来のようなリフトピン22を通すための貫通穴が底板に形成されておりリフトピン22が当該貫通穴を通って底板の下方に退避するようになっている場合と比較して、ウエハWの乾燥後にリフトピン22に洗浄液が残ることがなくなり、これにより液処理後のウエハWの裏面に処理液が付着することを防止することができる。なぜならば、ウエハWの乾燥処理時に、リフトピン22がリフトピンプレート20と一体的に回転するからである。また、リフトピン22がリフトピンプレート20と一体的に回転することにより、リフトピン22に処理液の液滴が残ることが抑制され、これにより処理後のウエハWの裏面に処理液の液滴が付着することをより一層防止することができる。さらに、V字形ノズル60の中央部分60Cが、リフトピンプレート20の貫通穴20aを塞ぐようになっている。このため、処理流体供給管40を通すための貫通穴20aに処理液が入り込んでしまうことを防止することができる。また、上記の実施形態においては、処理流体供給管40およびV字形ノズル60とリフトピンプレート20とを一体的に昇降させるようになっているので、処理流体供給管40およびリフトピンプレート20が昇降する際にV字形ノズル60の中央部分60Cがリフトピンプレート20の貫通穴20aを塞ぐので、貫通穴20aに処理液が入り込んでしまうことをより一層防止することができる。
【0072】
また、上記の実施形態においては、保持プレート30に回転カップ36が設けられているので、ウエハWの液処理を行う際に回転しているウエハWから処理液が外方に飛散することを防止することができる。また、保持プレート30に基板保持部材31が設けられているので、ウエハWを回転させる際にウエハWを側方から支持することによってより安定的にウエハWが保持される。
【0073】
上記の実施形態は例えば下記のように改変することができる。
【0074】
上記実施形態においては、SPMによる薬液洗浄工程、第1のDIWリンス工程、DIWおよびNガスによる二流体スプレー工程、第2のDIWリンス工程、Nスピン乾燥工程を順次行うことによりレジスト膜を除去した。しかし、上記実施形態に係る基板処理装置により実施される処理はこれに限定されるものではない。例えば薬液洗浄工程を混酸(硫酸と硝酸の混合物)を用いたウエットエッチング処理とすることができる。この場合も、その後のリンス工程、二流体スプレー工程およびNスピン乾燥工程を同様に行うことができる。
【0075】
また、二流体スプレー工程をSC−1(アンモニア水と過酸化水素水の混合液)およびNガスにより行ってもよい。二流体スプレー工程がDIWおよびNガスにより行われるのであれば、第1のDIWリンス工程を省略することができる。また、Nガスに代えて、その他の不活性ガスを用いることも可能である。
【0076】
ウエハを加熱するためにLEDランプ以外の加熱ランプ例えばハロゲンランプ等を使用することも可能である。しかしながら、加熱効率およびスペース効率の観点からはLEDランプを用いることが望ましい。
【0077】
ウエハの下面に薬液を供給するノズルとして図示されたようなウエハ半径方向に沿って並んだ複数の吐出口を有するものを用いることが、処理の均一性および処理液の節約の観点からは好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、棒状部分60A、60Bの無い中央部分60Cのみからなるノズルの中央部分60Cに薬液吐出を設け、そこから薬液をウエハ下面の中央部に吐出してもよい。この場合、薬液消費量は多くなるが、薬液処理を実行することは可能である。また例えば、二流体スプレー用の第2の棒状部分60Bを維持する一方で、SPM供給用の第1の棒状部分60Aを削除し、ノズルの中央部分60Cに設けた薬液吐出口からSPMを吐出してもよい。
【0078】
上記実施形態においては、ウエハを保持して回転させる機構であるいわゆる「スピンチャック」の基板保持部として、リフトピンプレート20と回転カップ36と一体化された保持プレート30とを有する形式のものを用いた。しかしながら、上記実施形態に係るV字形ノズル60は、基板の周縁を保持する形式のものであるならば様々な形式のスピンチャックと組み合わせて液処理装置を構築することができる。
【符号の説明】
【0079】
12 チャンバ
20、30 基板保持部(保持プレート、リフトピンプレート)
31、37 保持部材(基板保持部材、固定保持部材)
39 回転駆動部
36 カップ(回転カップ)
56 カップ(外カップ)
58 負圧空間(排液管)
60 ノズル(V字形ノズル)
60A ノズルの第1の棒状部分
60B ノズルの第2の棒状部分
60C ノズルの中央部分
61 吐出口
62 吐出口
67a 第1の吐出路
67b 第2の吐出路
70a,70b 薬液供給機構
105 基板裏返し装置(リバーサ)
W 基板(半導体ウエハ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の周縁部を保持する保持部材を有し、パターン形成面が下面となるように基板を水平に保持する基板保持部と、
前記基板保持部を回転させる回転駆動部と、
前記基板保持部に保持された基板の下面の下方に位置するように設けられ、前記基板保持部により保持された基板の下面に薬液を吐出する、吐出口を有するノズルと、
前記ノズルに加熱した薬液を供給する薬液供給機構と、
前記基板保持部により保持された基板の上面を覆うカバー部材と、
前記カバー部材に設けられ、前記カバー部材が基板の上面を覆っているときに基板の上面側から基板を加熱するヒーターと、
前記基板保持部、前記ノズルおよび前記カバー部材が内部に収容されるチャンバと、を備えたことを特徴とする液処理装置。
【請求項2】
上部に開口を有し、前記基板保持部を囲むように、かつ前記基板保持部と一緒に回転するように設けられた回転カップをさらに備え、
前記カバー部材は、前記基板の上面を覆う位置にあるときに、前記回転カップの上部の前記開口も覆うように設けられており、
前記カバー部材と前記基板保持部に保持された基板との間の空間にこの空間の外部から気体を取り込むための取込み口が、前記カバー部材に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液処理装置。
【請求項3】
上部に開口を有し、前記基板保持部および前記回転カップを囲むように設けられるとともに負圧空間に連通する固定カップを更に備え、前記カバー部材は、前記基板の上面を覆う位置にあるときに、前記固定カップの上部の前記開口も覆うように設けられていることを特徴とする請求項2に記載の液処理装置。
【請求項4】
上部に開口を有し、前記基板保持部を囲むように設けられたカップを更に備え、前記カバー部材は、前記基板の上面を覆う位置にあるときに、前記固定カップの上部の前記開口も覆うように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液処理装置。
【請求項5】
前記ヒーターはLEDランプであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液処理装置。
【請求項6】
前記薬液は、第1の液と第2の液とを混合することにより得られる混合薬液であり、
前記薬液供給機構として、前記第1の液を供給するための第1の薬液供給機構と、前記第2の液を供給するための第2の薬液供給機構とが設けられ、
前記ノズルは、前記第1の液を前記吐出口に導く第1の吐出路と、前記第2の液を前記吐出口に導く第2の吐出路とを有しており、前記第1の吐出路は前記吐出口よりも上流側の吐出口の近傍で前記第2の吐出路に合流しており、この合流部分において前記第1の液と前記第2の液とが混合されるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液処理装置。
【請求項7】
前記第1の液が硫酸であり、前記第2の液が過酸化水素水であるか、或いは、
前記第1の液が硫酸であり、前記第2の液が硝酸である、ことを特徴とする請求項6に記載の液処理装置。
【請求項8】
複数の吐出口が前記ノズルに設けられており、前記複数の吐出口は前記基板保持部に保持された基板の中心部に対向する位置から周縁部に対向する位置の間に配列されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液処理装置。
【請求項9】
前記基板保持部に対する基板の受け渡しの前または後に基板の表裏を反転する基板裏返し装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液処理装置。
【請求項10】
パターン形成面が下面となるように基板を水平姿勢で保持することと、
前記基板の上面を前記基板の上方からカバー部材により覆うことと、
前記基板を回転させることと、
前記カバー部材に設けたヒーターにより前記基板を加熱することと、
前記基板の下方に設けたノズルから加熱された薬液を前記基板の下面に供給することと、
を備えた液処理方法。
【請求項11】
前記基板の周囲をカップで囲むとともに、前記カバー部材により前記基板に加えて前記カップの上部の開口の上方も覆うことを特徴とする請求項10に記載の液処理方法。
【請求項12】
前記ヒーターはLEDランプであることを特徴とする請求項10または11に記載の液処理方法。
【請求項13】
前記基板を水平姿勢で保持する前に、基板の表裏を反転させてパターン形成面が下面になるようにすることと、液処理の終了後に基板の表裏を反転させてパターン形成面が上面になるようにすることと、をさらに備えたことを特徴とする請求項10または11に記載の液処理方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−156264(P2012−156264A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13433(P2011−13433)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】