無段変速式作業車両
【課題】作業車両の走行態様に適合したアクセルペダルの操作性を確保することができる無段変速式作業車両を提供する。
【解決手段】無段変速式作業車両は、前進走行車速を操作するための前進用アクセルペダル5fおよび後進走行車速を操作するための後進用アクセルペダル5rと、これらのアクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸の目標変速位置を決定する制御部7と、その目標変速位置にトラニオン軸を駆動して静油圧式無段変速機構1を制御することにより車速を変更する無段変速調節部1dとを備えて構成され、上記制御部7は、前進用と後進用の両アクセルペダル5f、5rについて共通設定の展開特性および個別設定の展開特性を備え、これら共通と個別の展開特性の適用は切替スイッチSの信号によって切替え可能に構成したものである。
【解決手段】無段変速式作業車両は、前進走行車速を操作するための前進用アクセルペダル5fおよび後進走行車速を操作するための後進用アクセルペダル5rと、これらのアクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸の目標変速位置を決定する制御部7と、その目標変速位置にトラニオン軸を駆動して静油圧式無段変速機構1を制御することにより車速を変更する無段変速調節部1dとを備えて構成され、上記制御部7は、前進用と後進用の両アクセルペダル5f、5rについて共通設定の展開特性および個別設定の展開特性を備え、これら共通と個別の展開特性の適用は切替スイッチSの信号によって切替え可能に構成したものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダル踏込量に応じて無段階に車速調節することができる無段変速式作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、車速調節ペダルの踏込み量に応じて静油圧式無段変速機構のトラニオン軸を駆動制御して車速を無段調節する無段変速式作業車両が知られている。この無段変速式作業車両は、前後進レバーによって進行方向を切替え、車速調節用のアクセルペダルで走行車速を操作することができる。
【特許文献1】特開2005−343187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般に、前進走行の際の作業車両の車速は全車速範囲を一様に使用し、後進走行の際は低速範囲を多用するという如く、後進走行する場合は作業態様が前進走行時と異なり、必要となる車速範囲も異なることから、必要車速に調節するために微妙なペダル操作が要求される事態が発生する。このことは、走行方向を変更した場合のみならず、副変速機構によって車速帯域を変更した場合についても同様である。
【0004】
解決しようとする問題点は、作業車両の走行態様に適合したアクセルペダルの操作性を確保することができる無段変速式作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、前進走行車速を操作するための前進用アクセルペダルおよび後進走行車速を操作するための後進用アクセルペダルと、これらのアクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸の目標変速位置を決定する制御部と、その目標変速位置にトラニオン軸を駆動して静油圧式無段変速機構を制御することにより車速を変更する無段変速調節部とを備える無段変速式作業車両において、上記制御部は、前進用アクセルペダルと後進用アクセルペダルの両アクセルペダルについて共通設定の展開特性および個別設定の展開特性を備え、これら共通と個別の展開特性の適用は切替スイッチの信号によって切替え可能に構成したことを特徴とする。
【0006】
上記制御により、前進用および後進用のそれぞれのアクセルペダルについて共通の展開特性に加え、スイッチ操作によりペダルと対応する進行方向別の展開特性が適用される。
【0007】
請求項2に係る発明は、アクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸の目標変速位置を決定する制御部と、その目標変速位置にトラニオン軸を駆動して静油圧式無段変速機構を制御することにより車速を変更する無段変速調節部と、上記静油圧式無段変速機構との直列伝動により車速帯域の切替えをする副変速機構とを備える無段変速式作業車両において、上記制御部は、副変速機構の車速帯域別に展開特性を備え、その切替えられた車速帯域に応じた展開特性によりトラニオン軸の目標変速位置を決定することを特徴とする。
【0008】
上記制御により、副変速機構の切替えと対応してその車速帯域別の展開特性が適用されることにより、各車速帯域について対応したペダル操作で車速調節が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の無段変速式作業車両は、前進用アクセルペダルおよび後進ペダについて共通の展開特性に加え、スイッチ操作によりペダルと対応する進行方向別の展開特性が適用されることから、前進と後進の走行態様に応じた展開特性による車速調節のためのペダル操作性が実現できるので、全範囲を使用する前進時と低速範囲を多用する後進時のそれぞれに適したペダル操作性を確保することができる。
【0010】
請求項2の無段変速式作業車両は、副変速機構の切替えによって対応する車速帯域別の展開特性が適用されることから、車速帯域の走行態様に応じて車速調節のためのペダル操作性を変更することができ、切替えられた車速帯域に適したペダル操作性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
本発明の適用対象となる無段変速式作業車両の一例としての多目的作業車について説明すると、この作業車両は、その平面図(a)、側面図(b)を図1に示すように、モノコックフレームに左右の前輪8、8と左右の後輪9、9を操舵可能に支持し、一般的なトラクタの構成と前後を逆に、すなわち、エンジン6を機体後部に配置し、トランスミッション14を機体前部に配置する。その機体前部に操縦部2d、後部に荷台2tを構成し、かつ、作業機動力として機体前部にPTO軸13を備え、また、機体中間位置に車高検出機構2hを下垂状に構成する。
【0012】
また、操縦部2dには、その要部斜視図を図1(c)に示すように、ハンドルコラム2cを立設してステアリングハンドルRを設け、ハンドルコラム2cの基部にはその右側位置に前進および後進の車速調節用のアクセルペダル5f、5r、左側位置にブレーキペダルB、クラッチペダルC等の操作手段をそれぞれ配置する。
【0013】
トランスミッション14は、後に詳述するように、「HST」と略称する静油圧式無段変速機構1およびギヤ式の変速機構14aを直列に内設して前後輪8,9とPTO出力軸13に駆動力を伝動する。前後進のアクセルペダル5f、5rを踏むと、エンジン6からの動力はトランスミッション14内の無段変速機構1で変速され、さらに、変速機構14aで変速されて、後輪9、9または、後輪9、9および前輪8、8に伝達され、機体は前進または後進する。また、ブレーキペダルBを踏むと前輪8、8と後輪9、9のディスクブレーキ(図示せず)を作動させるとともに、HSTの可変油圧ポンプのトラニオン軸Hを中立に戻し、HSTの定量油圧モータからの出力を停止する。また、アクセルペダル5f、5rとブレーキペダルBを同時に踏むとブレーキペダルBを優先する。
【0014】
PTO軸13には各種の作業機を接続して多目的作業を可能とする。例えば、路上清掃機を設けて路上清掃を行ったり、芝刈機を付けて芝刈作業を行ったり、雪掻機を設けて除雪などの作業を行う。
【0015】
次に、ミッションケース14の内部構造を図2乃至図5で説明する。
ミッションケース14は、図2に示す如く、前ケース15、繋ぎケース16、中間ケース17、後ケース18の4つの中空ケースを連結した構成で、後ケース18に軸支した入力軸19にエンジン6の駆動力が入力し、この入力軸19の回転がインプットケース20内の増速ギア21,22で第一中継軸23へ伝動し、さらに増速ギア24,25で増速され、この増速ギア25に無段変速機構1の油圧入力軸38をスプライン嵌合している。繋ぎケース16は従来の前ケース15と中間ケース17を連結してミッションケース14を長くするもので、前ケース15と中間ケース17及び後ケース18を従来のミッションケースと共用化することで製作コストを低く出来る。
【0016】
増速ギア21,22と増速ギア24,25を内装するインプットケース20は、高速走行を可能にするためにエンジン6の出力回転を増速するために設けるもので、従来のトラクタのミッションケース14内に伝動機構を収納可能にしている。このインプットケース20は図4に示す如く、密封ケースにしてミッションケース14の外部へ通じる給油管からオイルを給油するようにすれば、増速ギア21,22,24,25の修理の際にミッションケース14内のオイルを抜かずにインプットケース20のみを取り外せるので、作業が楽になる。
【0017】
無段変速機構1の内部では油圧変速により出力を大きく無段階で変速して、PTO駆動軸26と走行駆動軸27の二つの軸へ出力する。
PTO駆動軸26にはPTOギア軸28を連結し、このPTOギア軸28のギア29と第二中継軸30に遊嵌したギア31を噛み合わせ、このギア31をPTO軸32に装着したPTOクラッチ34のギア33に噛み合わせている。PTOクラッチ34はギア33からPTO軸32への回転伝動を断続する。
【0018】
PTO軸32にはPTO延長軸35を連結し、このPTO延長軸35のギア36をPTO出力軸13にスプライン嵌合したクラッチギア37に噛み合わせてPTO出力軸13を駆動している。(図2参照)
PTOクラッチ34の詳細を図5に示しているが、クラッチ入ではクラッチ盤88が繋がってケーシング86が回転して伝動するが、クラッチ切では戻しバネ87の圧でクラッチ盤88が離れてケーシング86をフリーにする。この時にケーシング86の付き回りを防ぐ為に繋ぎケース16のボス部81に当接する係止リング85をケーシング86の外周に装着している。
【0019】
走行駆動軸27には第三中継軸39を連結し、この第三中継軸39に固着したギア40ヘギア41,42を噛み合わせて第四中継軸43に伝動する。第四中継軸43にはメインギア軸44を連結している。
【0020】
メインギア軸44には、大ギア45と中ギア46を一体的に固着し、このメインギア軸44の延長上にサブギア軸47を分離して回転可能に軸支している。このサブギア軸47には小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75を一体的に固着している。従って、大ギア45と中ギア46は同一回転をし、小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75は後述するクラッチギア77からの回転を受ける。(図5参照)
大ギア45はクラッチ軸49に装着した高速油圧クラッチYHのギア50と噛み合い、中ギア46はクラッチ軸49に装着した低速油圧クラッチYLのギア53と噛み合い、メインギア軸44の回転をクラッチ軸49へ高速或いは低速で伝動する。
【0021】
クラッチ軸49の延長上にスプライン軸76をスプライン嵌合し、このスプライン軸76にクラッチギア77をスプライン嵌合して、クラッチ軸49の回転をクラッチギア77に伝動している。また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチ51と低速油圧クラッチ52に作動油を送るようにしている。
【0022】
クラッチギア77には大ギア78と小ギア73を形成し、大ギア78が前記サブギア軸47の小ギア48に噛み合って増速伝動して高速ギアクラッチGHを構成したり、小ギア79がサブギア軸47の大ギア74に噛み合って減速伝動して低速ギアクラッチGLを構成したり、大ギア78と小ギア79が共に游転して動力切になるようにしてギア変速クラッチ3を構成している。
【0023】
クラッチ軸49の走行伝動ギア75は、スプライン軸76に遊嵌したベベルギア軸62にスプライン嵌合した走行ギア56に噛み合ってベベルギア軸62を駆動している。ベベルギア軸62のベベルギア63が前輪8の車軸へ装着したべベルギアへ駆動力を伝動するのである。
【0024】
ベベルギア軸62は、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による四速か、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による三速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による二速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による一速かのどれかで回転することになる。
【0025】
また、ベベルギア軸62の回転は、走行ギア56からPTO軸32に装着した大小ギア59の小ギア部57へ伝動し、さらに大ギア部58に噛み合う後輪駆動軸61のクラッチギア60で適宜に後輪9へ駆動力を伝動可能にしている。
【0026】
走行ギア56は、ベベルギア軸62に伝動すると共に大小ギア59を介して後輪駆動軸61へ伝動しているので、伝動構成を単純化して前後に長くなるのを防いでいる。
尚、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLはコントローラからの制御信号によりソレノイドを介してどちらかを入に保持するのであるが、ブレーキペダルの踏み込みを検出するスイッチBを設けて、このスイッチBの踏込み信号で高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLのソレノイドへの電力を断って両クラッチ51,52をニュートラルにするようにしている。このニュートラルの状態でブレーキを作用することで素早く停止でき、ギア変速クラッチ3の切換えがスムースに行える。
【0027】
また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLに作動油を送るようにしている。
【0028】
図6は、変速レバー4を示し、変速溝96を中央のニュートラル位置Nから前後H、Lに回動することで前記のギア変速クラッチ3を高速ギアクラッチ入か低速ギアクラッチ入に変速し、この変速レバー4のグリップ80の頭部に設ける増速ボタン81を押すと高速油圧クラッチYHを入動作し、減速ボタン82を押すと低速油圧クラッチYLを入動作する。
【0029】
また、変速溝96には変速レバー4の位置を検出するセンサ90H,Lを設けて、変速レバー4が低速位置Lから高速位置Hに移動すると高速油圧クラッチYHが入であっても切にして、低速油圧クラッチYLが入になって三速になり、高速位置Hから低速位置Lに移動すると低速油圧クラッチYLが入であっても切にして、高速油圧クラッチYHが入になって二速になるようマイコン制御を行っている。なお、高速油圧クラッチYHを入りにする場合には、アクセルペダル5f、5rが3/4以上踏込まれて無段変速機構が高速であれば一旦低速にして変速ショックを低減させる。また、レバー4が低速位置Lで減速ボタン82を押すと一速になり、レバー4が高速位置Hで増速ボタン81を押すと四速になる。
【0030】
(変速制御)
次に、変速制御について説明する。
作業車両の変速制御は、そのシステム構成図を図7に示すように、アクセルペダル5f、5rについてのポジションセンサ5a、ブレーキペダルBのポジションセンサBa、クラッチペダルCのポジションセンサCa、切替スイッチSその他の操作具の検出信号および機器動作の検出信号を制御部7に入力し、その入力信号に応じて無段変速機構1の車速調節部1d、エンジン制御コントローラ6cに制御出力するべく構成される。アクセルペダルは、前進用と後進用の個別ペダル5f、5rによって構成する。ブレーキペダルBは、左ブレーキ用と右ブレーキ用に分割動作可能に構成する。無段変速機構1はトラニオン軸Hを電動または油圧で回動調節する車速調節部1dによって前後進の切替えおよび無段階の伝動比調節を行い、伝動系を介して走行車速を調節し、エンジン6は制御コントローラ6cにより必要な走行動力および作業機動力を供給する。
【0031】
詳細に説明すると、制御部7は、前進用および後進用のアクセルペダル5f、5rについてペダル操作との対応付けのための所定の展開特性(ペダル展開式)に沿ってトラニオン軸Hの目標変速位置を決定する。この制御部7は、展開特性線図を図8に示すように、前進用アクセルペダル5fについて前進時の展開特性C1および後進用アクセルペダル5rについて後進時の展開特性C2を備え、ペダル操作に応じて個別の展開特性を使用する。この場合において、後進用アクセルペダル5rについて前進時の展開特性C1を使用するための切替スイッチSを設けることにより、両ペダル5f、5rについて共通の展開特性とすることができる。なお、展開特性線図の横軸の「ペダル角度」はペダル踏込み量と対応し、縦軸の「トラニオン角度」中立位置からの角度差であり車速と対応する。
【0032】
上述の個別の展開特性を適用する場合の制御処理は、そのフローチャートを図9に示すように、センサ、スイッチ類の読み込み処理(S1)に続くペダル位置の判定(S2)により、ペダル位置が「前進側」であれば前進側の特性C1によってトラニオン目標を算出(S3a)し、非該当であれば後進側の特性C2によってトラニオン目標を算出(S3b)し、この目標変速位置に無段変速調節部1dがトラニオン軸Hを駆動して静油圧式無段変速機構1を制御することにより車速を変更する。
【0033】
上記制御部7の変速制御により、前進用アクセルペダル5fおよび後進アクセルペダル5rについて共通の展開特性C1に加え、切替スイッチSの切替え操作によりペダルと対応する進行方向別の展開特性が適用されることから、前進と後進の走行態様に応じた展開特性による車速調節のためのペダル操作性を実現することできる。例えば、前進側は全車速範囲(トラニオン角度範囲)を満遍なく使用するので均等に展開し、後進側は遅い車速で使用することが多いのでトラニオン角度が小さい部分を広く展開することにより、それぞれに適したペダル操作性を確保することができる。
【0034】
また、別の変速制御について副変速機構対応の例について説明すると、無段変速機構1と直列する副変速機構を「高速」「中速」「低速」の3速とした場合に、制御部7は、展開特性線図を図10に示すように、副変速機構の切替えに応じた高速時の展開特性C3および低速時、中速時の展開特性C4を備える。その制御処理は、フローチャートを図11に示すように、副変速位置の判定(S11)により、「高速」であれば高速側の特性C3によってトラニオン目標を算出(S12a)し、非該当であれば低速時、中速時の特性C4によってトラニオン目標を算出(S12b)し、この目標変速位置に無段変速調節部がトラニオン軸Hを駆動して静油圧式無段変速機構1を制御することにより車速を変更する。
【0035】
上記変速制御により、副変速の「高速」は路上走行等で使用し、「中速」「低速」は圃場作業で使用する場合において、「高速」の時はトラニオン角度の大きな領域を広くとる展開にして必要な車速域で分解能を高くすることができる。
【0036】
(ブレーキ対応)
次に、ブレーキ操作を反映した変速制御について説明する。
ブレーキBの踏込みを検出するスイッチ等によるブレーキセンサBaを設け、図12のフローチャートに示すように、ブレーキBが所定時間以上踏込まれた時にトラニオン目標を減速側に変更する制御処理(S21,S22)を構成することにより、ブレーキ踏込み操作を所定時間継続した時に限り駆動輪が減速される。このように、走行伝動系における動力遮断が副変速レバーのニュートラル操作に限られる構成のトラクターにおいて、機体の前後進を操作するアクセルペダル5f、5rのセンサ5aが故障して走行停止するための操作手段が失われた場合に、ブレーキペダルBによって緊急対応の伝動制御が可能となるので、安全性を向上することができる。
【0037】
また、上記制御構成において、ポテンショセンサ等によりブレーキBの踏込量を検出し、このブレーキBの踏込量に応じてトラニオン目標の減速量を変更することにより、必要以上の減速を回避することができる。このブレーキ踏込量対応の詳細な制御は、図13のフローチャートに示すように、ペダル操作によりトラニオン目標TRが決定され、ブレーキ操作によりブレーキセンサ値Aが得られると(S31)、ブレーキセンサ値Aによって踏込みが判定された場合に、トラニオン目標をTR×f(A)に変更処理(S32,S33)する。この場合のf(A)は、その一例を図14の線図に示すように、ブレーキの踏込量Aによってトラニオン目標を低減するための係数である。
【0038】
さらに、上記制御構成において、緊急度に応じて安全性を確保するために、フローチャートを図15に示すように、ブレーキBの踏込み変化速度に応じ(S41、S42)て減速位置までトラニオンHの変化速度を変更(S43a、S43b)する。この変速制御により、危険回避のために緊急停止を要する場合にトラニオンHを迅速に減速側に変化させることができる。
【0039】
また、上記ブレーキ操作による変速制御は、路上走行時に適用を限定する場合のフローチャートを図16に示すように、左右のブレーキペダルの連結を条件として制御構成(S51,S52)する。このような制御構成により、片ブレーキ操作を要する圃場作業時については適用が解除され、ブレーキ操作によっても走行伝動系の伝動が維持されるので、作業走行を支障なく継続することができる。
【0040】
次に、上記変速制御による減速処理の後の復帰処理について説明する。
上記減速の後の復帰処理のための変速制御は、フローチャートを図17に示すように、復帰条件の成立を条件(S61)として復帰出力(S62)を実施し、この復帰出力はアクセルペダル5f、5r対応のトラニオン目標位置まで段階的に行うことにより、急速復帰した場合に生じる再減速、すなわち、急増速に伴うエンジン回転の変動によって生じる再度の減速を招く事態を回避することができる。
【0041】
また、必要により、上記復帰出力は、エンジン回転を監視しながら徐々に行い、エンジン回転の低下が一定値内に抑えられている場合には元の位置までトラニオンHを戻した時点で復帰出力を中止(S63,S64)する。このように、エンジン回転を監視しながら復帰出力を行うことで、負荷が高い状態が継続している場合において元の位置に復帰した際の再度の減速を繰り返す事態を回避することができる。
【0042】
(クラッチ機能)
次に、機体走行を緊急停止するためのクラッチ機能ペダルについて説明する。
走行伝動系にメカニカルクラッチを介設しない場合に、トラニオンセンサを含むトラニオン駆動系に故障が発生した時に走行を停止するには、エンジン6を切るか、エンストさせるか、副変速をニュートラルに操作する必要があり、いずれも、咄嗟の時に間に合わず危険を招くという問題があった。その解決のために、クラッチ機能ペダルCを設け、このペダルCを踏込むことでエンジン停止等をする制御構成とすることにより、緊急停止のためにクラッチを切ってブレーキを踏むという通常の操作による場合と同様の効果を得ることができ、安全性を確保することができる。
【0043】
また、上記クラッチ機能ペダルCに踏込量を検出するセンサを設け、図18の踏込み特性線図に示すように、踏込量に応じてトラニオン目標を減速側に変更する変速制御を構成することにより、トラニオン関係に異常がない状況においてペダルCの踏込量に応じて減速動作するので、メカニカルクラッチのように、所謂「半クラッチ」を含む態様の使用が可能となる。
【0044】
さらに、上記クラッチ機能ペダルCにその全踏込動作を専門に検出するためのスイッチ等による全踏込センサを設け、図19のフローチャートに示すように、その検出時について、トラニオン目標を中立(S71)に変速制御することにより、踏込動作検出の前記センサと併せた2本立ての確実な制御を介して安全性を確保することができる。
【0045】
また、上記変速制御に続けて上記全踏込センサによる全踏込状態が規定時間を継続したことを条件にエンジンを停止(S72,S73)する制御処理を構成することにより、全踏込み操作によって直ちに機体を停止できることから、クラッチ機能ペダルCを安全確保のための緊急停止用として使用することができる。
【0046】
また、別の制御処理のフローチャートを図20に示すように、上記制御処理におけるエンジン停止条件に代え、ブレーキペダルBの操作を条件にエンジン停止(S81,S82)をする制御処理を構成することにより、メカニカルクラッチ相当の機能を確保するとともに、ブレーキペダルBとの同時操作に限り緊急停止が可能となることから、ペダルの汎用性を確保することができる。
【0047】
(最高車速制御)
次に、最高車速制御について説明する。
車両仕様として規定されている機体最高速度(例えば40km/h)を越えた場合に、最高車速制御についての制御チャートを図21に示すように、車速センサVにより走行車速が機体最高速度に戻る時点Tまでの間についてトラニオン軸Hを減速側に駆動する制御を構成することにより、下り坂走行等によりオペレータが気付かないまま車速が増加して特にカーブ等における危険な事態を回避することができる。
【0048】
また、別の最高車速制御についての制御チャートを図22に示すように、上記トラニオン軸制御に代えて、車速センサVにより走行車速が機体最高速度に戻る時点Tまでの間についてエンジン回転を低速側に制御することにより、高速による危険を回避するとともに、燃料消費量を抑えることで省エネ効果をも得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】多目的作業車の平面図(a)、側面図(b)および要部斜視図(c)
【図2】トランスミッションの軸線展開図
【図3】図2のトランスミッションの要部拡大軸線展開図
【図4】図2のトランスミッションの無段変速部拡大図
【図5】図2のトランスミッションの変速機構部拡大図
【図6】変速レバーの斜視図
【図7】作業車両の変速制御システム構成図
【図8】変速制御の展開特性線図
【図9】図8の変速制御によるフローチャート
【図10】別の変速制御の展開特性線図
【図11】図10の変速制御によるフローチャート
【図12】ブレーキ操作対応制御のフローチャート
【図13】ブレーキ踏込量対応制御のフローチャート
【図14】係数f(A)の一例を示す線図
【図15】緊急度対応制御のフローチャート
【図16】路上走行時に適用を限定する場合のフローチャート
【図17】復帰処理のための変速制御のフローチャート
【図18】踏込み特性線図
【図19】ペダルの全踏込動作時のフローチャート
【図20】別の制御処理のフローチャート
【図21】最高車速制御の制御チャート
【図22】別の最高車速制御の制御チャート
【符号の説明】
【0050】
1 静油圧式無段変速機構(HST)
1d 車速調節部
5f 前進用アクセルペダル
5r 後進用アクセルペダル
6 エンジン
7 制御部
A 踏込量
B ブレーキペダル
C クラッチペダル
C1〜C4 展開特性
f 低減係数
H トラニオン軸
S 切替スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダル踏込量に応じて無段階に車速調節することができる無段変速式作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、車速調節ペダルの踏込み量に応じて静油圧式無段変速機構のトラニオン軸を駆動制御して車速を無段調節する無段変速式作業車両が知られている。この無段変速式作業車両は、前後進レバーによって進行方向を切替え、車速調節用のアクセルペダルで走行車速を操作することができる。
【特許文献1】特開2005−343187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般に、前進走行の際の作業車両の車速は全車速範囲を一様に使用し、後進走行の際は低速範囲を多用するという如く、後進走行する場合は作業態様が前進走行時と異なり、必要となる車速範囲も異なることから、必要車速に調節するために微妙なペダル操作が要求される事態が発生する。このことは、走行方向を変更した場合のみならず、副変速機構によって車速帯域を変更した場合についても同様である。
【0004】
解決しようとする問題点は、作業車両の走行態様に適合したアクセルペダルの操作性を確保することができる無段変速式作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、前進走行車速を操作するための前進用アクセルペダルおよび後進走行車速を操作するための後進用アクセルペダルと、これらのアクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸の目標変速位置を決定する制御部と、その目標変速位置にトラニオン軸を駆動して静油圧式無段変速機構を制御することにより車速を変更する無段変速調節部とを備える無段変速式作業車両において、上記制御部は、前進用アクセルペダルと後進用アクセルペダルの両アクセルペダルについて共通設定の展開特性および個別設定の展開特性を備え、これら共通と個別の展開特性の適用は切替スイッチの信号によって切替え可能に構成したことを特徴とする。
【0006】
上記制御により、前進用および後進用のそれぞれのアクセルペダルについて共通の展開特性に加え、スイッチ操作によりペダルと対応する進行方向別の展開特性が適用される。
【0007】
請求項2に係る発明は、アクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸の目標変速位置を決定する制御部と、その目標変速位置にトラニオン軸を駆動して静油圧式無段変速機構を制御することにより車速を変更する無段変速調節部と、上記静油圧式無段変速機構との直列伝動により車速帯域の切替えをする副変速機構とを備える無段変速式作業車両において、上記制御部は、副変速機構の車速帯域別に展開特性を備え、その切替えられた車速帯域に応じた展開特性によりトラニオン軸の目標変速位置を決定することを特徴とする。
【0008】
上記制御により、副変速機構の切替えと対応してその車速帯域別の展開特性が適用されることにより、各車速帯域について対応したペダル操作で車速調節が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の無段変速式作業車両は、前進用アクセルペダルおよび後進ペダについて共通の展開特性に加え、スイッチ操作によりペダルと対応する進行方向別の展開特性が適用されることから、前進と後進の走行態様に応じた展開特性による車速調節のためのペダル操作性が実現できるので、全範囲を使用する前進時と低速範囲を多用する後進時のそれぞれに適したペダル操作性を確保することができる。
【0010】
請求項2の無段変速式作業車両は、副変速機構の切替えによって対応する車速帯域別の展開特性が適用されることから、車速帯域の走行態様に応じて車速調節のためのペダル操作性を変更することができ、切替えられた車速帯域に適したペダル操作性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
本発明の適用対象となる無段変速式作業車両の一例としての多目的作業車について説明すると、この作業車両は、その平面図(a)、側面図(b)を図1に示すように、モノコックフレームに左右の前輪8、8と左右の後輪9、9を操舵可能に支持し、一般的なトラクタの構成と前後を逆に、すなわち、エンジン6を機体後部に配置し、トランスミッション14を機体前部に配置する。その機体前部に操縦部2d、後部に荷台2tを構成し、かつ、作業機動力として機体前部にPTO軸13を備え、また、機体中間位置に車高検出機構2hを下垂状に構成する。
【0012】
また、操縦部2dには、その要部斜視図を図1(c)に示すように、ハンドルコラム2cを立設してステアリングハンドルRを設け、ハンドルコラム2cの基部にはその右側位置に前進および後進の車速調節用のアクセルペダル5f、5r、左側位置にブレーキペダルB、クラッチペダルC等の操作手段をそれぞれ配置する。
【0013】
トランスミッション14は、後に詳述するように、「HST」と略称する静油圧式無段変速機構1およびギヤ式の変速機構14aを直列に内設して前後輪8,9とPTO出力軸13に駆動力を伝動する。前後進のアクセルペダル5f、5rを踏むと、エンジン6からの動力はトランスミッション14内の無段変速機構1で変速され、さらに、変速機構14aで変速されて、後輪9、9または、後輪9、9および前輪8、8に伝達され、機体は前進または後進する。また、ブレーキペダルBを踏むと前輪8、8と後輪9、9のディスクブレーキ(図示せず)を作動させるとともに、HSTの可変油圧ポンプのトラニオン軸Hを中立に戻し、HSTの定量油圧モータからの出力を停止する。また、アクセルペダル5f、5rとブレーキペダルBを同時に踏むとブレーキペダルBを優先する。
【0014】
PTO軸13には各種の作業機を接続して多目的作業を可能とする。例えば、路上清掃機を設けて路上清掃を行ったり、芝刈機を付けて芝刈作業を行ったり、雪掻機を設けて除雪などの作業を行う。
【0015】
次に、ミッションケース14の内部構造を図2乃至図5で説明する。
ミッションケース14は、図2に示す如く、前ケース15、繋ぎケース16、中間ケース17、後ケース18の4つの中空ケースを連結した構成で、後ケース18に軸支した入力軸19にエンジン6の駆動力が入力し、この入力軸19の回転がインプットケース20内の増速ギア21,22で第一中継軸23へ伝動し、さらに増速ギア24,25で増速され、この増速ギア25に無段変速機構1の油圧入力軸38をスプライン嵌合している。繋ぎケース16は従来の前ケース15と中間ケース17を連結してミッションケース14を長くするもので、前ケース15と中間ケース17及び後ケース18を従来のミッションケースと共用化することで製作コストを低く出来る。
【0016】
増速ギア21,22と増速ギア24,25を内装するインプットケース20は、高速走行を可能にするためにエンジン6の出力回転を増速するために設けるもので、従来のトラクタのミッションケース14内に伝動機構を収納可能にしている。このインプットケース20は図4に示す如く、密封ケースにしてミッションケース14の外部へ通じる給油管からオイルを給油するようにすれば、増速ギア21,22,24,25の修理の際にミッションケース14内のオイルを抜かずにインプットケース20のみを取り外せるので、作業が楽になる。
【0017】
無段変速機構1の内部では油圧変速により出力を大きく無段階で変速して、PTO駆動軸26と走行駆動軸27の二つの軸へ出力する。
PTO駆動軸26にはPTOギア軸28を連結し、このPTOギア軸28のギア29と第二中継軸30に遊嵌したギア31を噛み合わせ、このギア31をPTO軸32に装着したPTOクラッチ34のギア33に噛み合わせている。PTOクラッチ34はギア33からPTO軸32への回転伝動を断続する。
【0018】
PTO軸32にはPTO延長軸35を連結し、このPTO延長軸35のギア36をPTO出力軸13にスプライン嵌合したクラッチギア37に噛み合わせてPTO出力軸13を駆動している。(図2参照)
PTOクラッチ34の詳細を図5に示しているが、クラッチ入ではクラッチ盤88が繋がってケーシング86が回転して伝動するが、クラッチ切では戻しバネ87の圧でクラッチ盤88が離れてケーシング86をフリーにする。この時にケーシング86の付き回りを防ぐ為に繋ぎケース16のボス部81に当接する係止リング85をケーシング86の外周に装着している。
【0019】
走行駆動軸27には第三中継軸39を連結し、この第三中継軸39に固着したギア40ヘギア41,42を噛み合わせて第四中継軸43に伝動する。第四中継軸43にはメインギア軸44を連結している。
【0020】
メインギア軸44には、大ギア45と中ギア46を一体的に固着し、このメインギア軸44の延長上にサブギア軸47を分離して回転可能に軸支している。このサブギア軸47には小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75を一体的に固着している。従って、大ギア45と中ギア46は同一回転をし、小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75は後述するクラッチギア77からの回転を受ける。(図5参照)
大ギア45はクラッチ軸49に装着した高速油圧クラッチYHのギア50と噛み合い、中ギア46はクラッチ軸49に装着した低速油圧クラッチYLのギア53と噛み合い、メインギア軸44の回転をクラッチ軸49へ高速或いは低速で伝動する。
【0021】
クラッチ軸49の延長上にスプライン軸76をスプライン嵌合し、このスプライン軸76にクラッチギア77をスプライン嵌合して、クラッチ軸49の回転をクラッチギア77に伝動している。また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチ51と低速油圧クラッチ52に作動油を送るようにしている。
【0022】
クラッチギア77には大ギア78と小ギア73を形成し、大ギア78が前記サブギア軸47の小ギア48に噛み合って増速伝動して高速ギアクラッチGHを構成したり、小ギア79がサブギア軸47の大ギア74に噛み合って減速伝動して低速ギアクラッチGLを構成したり、大ギア78と小ギア79が共に游転して動力切になるようにしてギア変速クラッチ3を構成している。
【0023】
クラッチ軸49の走行伝動ギア75は、スプライン軸76に遊嵌したベベルギア軸62にスプライン嵌合した走行ギア56に噛み合ってベベルギア軸62を駆動している。ベベルギア軸62のベベルギア63が前輪8の車軸へ装着したべベルギアへ駆動力を伝動するのである。
【0024】
ベベルギア軸62は、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による四速か、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による三速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による二速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による一速かのどれかで回転することになる。
【0025】
また、ベベルギア軸62の回転は、走行ギア56からPTO軸32に装着した大小ギア59の小ギア部57へ伝動し、さらに大ギア部58に噛み合う後輪駆動軸61のクラッチギア60で適宜に後輪9へ駆動力を伝動可能にしている。
【0026】
走行ギア56は、ベベルギア軸62に伝動すると共に大小ギア59を介して後輪駆動軸61へ伝動しているので、伝動構成を単純化して前後に長くなるのを防いでいる。
尚、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLはコントローラからの制御信号によりソレノイドを介してどちらかを入に保持するのであるが、ブレーキペダルの踏み込みを検出するスイッチBを設けて、このスイッチBの踏込み信号で高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLのソレノイドへの電力を断って両クラッチ51,52をニュートラルにするようにしている。このニュートラルの状態でブレーキを作用することで素早く停止でき、ギア変速クラッチ3の切換えがスムースに行える。
【0027】
また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLに作動油を送るようにしている。
【0028】
図6は、変速レバー4を示し、変速溝96を中央のニュートラル位置Nから前後H、Lに回動することで前記のギア変速クラッチ3を高速ギアクラッチ入か低速ギアクラッチ入に変速し、この変速レバー4のグリップ80の頭部に設ける増速ボタン81を押すと高速油圧クラッチYHを入動作し、減速ボタン82を押すと低速油圧クラッチYLを入動作する。
【0029】
また、変速溝96には変速レバー4の位置を検出するセンサ90H,Lを設けて、変速レバー4が低速位置Lから高速位置Hに移動すると高速油圧クラッチYHが入であっても切にして、低速油圧クラッチYLが入になって三速になり、高速位置Hから低速位置Lに移動すると低速油圧クラッチYLが入であっても切にして、高速油圧クラッチYHが入になって二速になるようマイコン制御を行っている。なお、高速油圧クラッチYHを入りにする場合には、アクセルペダル5f、5rが3/4以上踏込まれて無段変速機構が高速であれば一旦低速にして変速ショックを低減させる。また、レバー4が低速位置Lで減速ボタン82を押すと一速になり、レバー4が高速位置Hで増速ボタン81を押すと四速になる。
【0030】
(変速制御)
次に、変速制御について説明する。
作業車両の変速制御は、そのシステム構成図を図7に示すように、アクセルペダル5f、5rについてのポジションセンサ5a、ブレーキペダルBのポジションセンサBa、クラッチペダルCのポジションセンサCa、切替スイッチSその他の操作具の検出信号および機器動作の検出信号を制御部7に入力し、その入力信号に応じて無段変速機構1の車速調節部1d、エンジン制御コントローラ6cに制御出力するべく構成される。アクセルペダルは、前進用と後進用の個別ペダル5f、5rによって構成する。ブレーキペダルBは、左ブレーキ用と右ブレーキ用に分割動作可能に構成する。無段変速機構1はトラニオン軸Hを電動または油圧で回動調節する車速調節部1dによって前後進の切替えおよび無段階の伝動比調節を行い、伝動系を介して走行車速を調節し、エンジン6は制御コントローラ6cにより必要な走行動力および作業機動力を供給する。
【0031】
詳細に説明すると、制御部7は、前進用および後進用のアクセルペダル5f、5rについてペダル操作との対応付けのための所定の展開特性(ペダル展開式)に沿ってトラニオン軸Hの目標変速位置を決定する。この制御部7は、展開特性線図を図8に示すように、前進用アクセルペダル5fについて前進時の展開特性C1および後進用アクセルペダル5rについて後進時の展開特性C2を備え、ペダル操作に応じて個別の展開特性を使用する。この場合において、後進用アクセルペダル5rについて前進時の展開特性C1を使用するための切替スイッチSを設けることにより、両ペダル5f、5rについて共通の展開特性とすることができる。なお、展開特性線図の横軸の「ペダル角度」はペダル踏込み量と対応し、縦軸の「トラニオン角度」中立位置からの角度差であり車速と対応する。
【0032】
上述の個別の展開特性を適用する場合の制御処理は、そのフローチャートを図9に示すように、センサ、スイッチ類の読み込み処理(S1)に続くペダル位置の判定(S2)により、ペダル位置が「前進側」であれば前進側の特性C1によってトラニオン目標を算出(S3a)し、非該当であれば後進側の特性C2によってトラニオン目標を算出(S3b)し、この目標変速位置に無段変速調節部1dがトラニオン軸Hを駆動して静油圧式無段変速機構1を制御することにより車速を変更する。
【0033】
上記制御部7の変速制御により、前進用アクセルペダル5fおよび後進アクセルペダル5rについて共通の展開特性C1に加え、切替スイッチSの切替え操作によりペダルと対応する進行方向別の展開特性が適用されることから、前進と後進の走行態様に応じた展開特性による車速調節のためのペダル操作性を実現することできる。例えば、前進側は全車速範囲(トラニオン角度範囲)を満遍なく使用するので均等に展開し、後進側は遅い車速で使用することが多いのでトラニオン角度が小さい部分を広く展開することにより、それぞれに適したペダル操作性を確保することができる。
【0034】
また、別の変速制御について副変速機構対応の例について説明すると、無段変速機構1と直列する副変速機構を「高速」「中速」「低速」の3速とした場合に、制御部7は、展開特性線図を図10に示すように、副変速機構の切替えに応じた高速時の展開特性C3および低速時、中速時の展開特性C4を備える。その制御処理は、フローチャートを図11に示すように、副変速位置の判定(S11)により、「高速」であれば高速側の特性C3によってトラニオン目標を算出(S12a)し、非該当であれば低速時、中速時の特性C4によってトラニオン目標を算出(S12b)し、この目標変速位置に無段変速調節部がトラニオン軸Hを駆動して静油圧式無段変速機構1を制御することにより車速を変更する。
【0035】
上記変速制御により、副変速の「高速」は路上走行等で使用し、「中速」「低速」は圃場作業で使用する場合において、「高速」の時はトラニオン角度の大きな領域を広くとる展開にして必要な車速域で分解能を高くすることができる。
【0036】
(ブレーキ対応)
次に、ブレーキ操作を反映した変速制御について説明する。
ブレーキBの踏込みを検出するスイッチ等によるブレーキセンサBaを設け、図12のフローチャートに示すように、ブレーキBが所定時間以上踏込まれた時にトラニオン目標を減速側に変更する制御処理(S21,S22)を構成することにより、ブレーキ踏込み操作を所定時間継続した時に限り駆動輪が減速される。このように、走行伝動系における動力遮断が副変速レバーのニュートラル操作に限られる構成のトラクターにおいて、機体の前後進を操作するアクセルペダル5f、5rのセンサ5aが故障して走行停止するための操作手段が失われた場合に、ブレーキペダルBによって緊急対応の伝動制御が可能となるので、安全性を向上することができる。
【0037】
また、上記制御構成において、ポテンショセンサ等によりブレーキBの踏込量を検出し、このブレーキBの踏込量に応じてトラニオン目標の減速量を変更することにより、必要以上の減速を回避することができる。このブレーキ踏込量対応の詳細な制御は、図13のフローチャートに示すように、ペダル操作によりトラニオン目標TRが決定され、ブレーキ操作によりブレーキセンサ値Aが得られると(S31)、ブレーキセンサ値Aによって踏込みが判定された場合に、トラニオン目標をTR×f(A)に変更処理(S32,S33)する。この場合のf(A)は、その一例を図14の線図に示すように、ブレーキの踏込量Aによってトラニオン目標を低減するための係数である。
【0038】
さらに、上記制御構成において、緊急度に応じて安全性を確保するために、フローチャートを図15に示すように、ブレーキBの踏込み変化速度に応じ(S41、S42)て減速位置までトラニオンHの変化速度を変更(S43a、S43b)する。この変速制御により、危険回避のために緊急停止を要する場合にトラニオンHを迅速に減速側に変化させることができる。
【0039】
また、上記ブレーキ操作による変速制御は、路上走行時に適用を限定する場合のフローチャートを図16に示すように、左右のブレーキペダルの連結を条件として制御構成(S51,S52)する。このような制御構成により、片ブレーキ操作を要する圃場作業時については適用が解除され、ブレーキ操作によっても走行伝動系の伝動が維持されるので、作業走行を支障なく継続することができる。
【0040】
次に、上記変速制御による減速処理の後の復帰処理について説明する。
上記減速の後の復帰処理のための変速制御は、フローチャートを図17に示すように、復帰条件の成立を条件(S61)として復帰出力(S62)を実施し、この復帰出力はアクセルペダル5f、5r対応のトラニオン目標位置まで段階的に行うことにより、急速復帰した場合に生じる再減速、すなわち、急増速に伴うエンジン回転の変動によって生じる再度の減速を招く事態を回避することができる。
【0041】
また、必要により、上記復帰出力は、エンジン回転を監視しながら徐々に行い、エンジン回転の低下が一定値内に抑えられている場合には元の位置までトラニオンHを戻した時点で復帰出力を中止(S63,S64)する。このように、エンジン回転を監視しながら復帰出力を行うことで、負荷が高い状態が継続している場合において元の位置に復帰した際の再度の減速を繰り返す事態を回避することができる。
【0042】
(クラッチ機能)
次に、機体走行を緊急停止するためのクラッチ機能ペダルについて説明する。
走行伝動系にメカニカルクラッチを介設しない場合に、トラニオンセンサを含むトラニオン駆動系に故障が発生した時に走行を停止するには、エンジン6を切るか、エンストさせるか、副変速をニュートラルに操作する必要があり、いずれも、咄嗟の時に間に合わず危険を招くという問題があった。その解決のために、クラッチ機能ペダルCを設け、このペダルCを踏込むことでエンジン停止等をする制御構成とすることにより、緊急停止のためにクラッチを切ってブレーキを踏むという通常の操作による場合と同様の効果を得ることができ、安全性を確保することができる。
【0043】
また、上記クラッチ機能ペダルCに踏込量を検出するセンサを設け、図18の踏込み特性線図に示すように、踏込量に応じてトラニオン目標を減速側に変更する変速制御を構成することにより、トラニオン関係に異常がない状況においてペダルCの踏込量に応じて減速動作するので、メカニカルクラッチのように、所謂「半クラッチ」を含む態様の使用が可能となる。
【0044】
さらに、上記クラッチ機能ペダルCにその全踏込動作を専門に検出するためのスイッチ等による全踏込センサを設け、図19のフローチャートに示すように、その検出時について、トラニオン目標を中立(S71)に変速制御することにより、踏込動作検出の前記センサと併せた2本立ての確実な制御を介して安全性を確保することができる。
【0045】
また、上記変速制御に続けて上記全踏込センサによる全踏込状態が規定時間を継続したことを条件にエンジンを停止(S72,S73)する制御処理を構成することにより、全踏込み操作によって直ちに機体を停止できることから、クラッチ機能ペダルCを安全確保のための緊急停止用として使用することができる。
【0046】
また、別の制御処理のフローチャートを図20に示すように、上記制御処理におけるエンジン停止条件に代え、ブレーキペダルBの操作を条件にエンジン停止(S81,S82)をする制御処理を構成することにより、メカニカルクラッチ相当の機能を確保するとともに、ブレーキペダルBとの同時操作に限り緊急停止が可能となることから、ペダルの汎用性を確保することができる。
【0047】
(最高車速制御)
次に、最高車速制御について説明する。
車両仕様として規定されている機体最高速度(例えば40km/h)を越えた場合に、最高車速制御についての制御チャートを図21に示すように、車速センサVにより走行車速が機体最高速度に戻る時点Tまでの間についてトラニオン軸Hを減速側に駆動する制御を構成することにより、下り坂走行等によりオペレータが気付かないまま車速が増加して特にカーブ等における危険な事態を回避することができる。
【0048】
また、別の最高車速制御についての制御チャートを図22に示すように、上記トラニオン軸制御に代えて、車速センサVにより走行車速が機体最高速度に戻る時点Tまでの間についてエンジン回転を低速側に制御することにより、高速による危険を回避するとともに、燃料消費量を抑えることで省エネ効果をも得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】多目的作業車の平面図(a)、側面図(b)および要部斜視図(c)
【図2】トランスミッションの軸線展開図
【図3】図2のトランスミッションの要部拡大軸線展開図
【図4】図2のトランスミッションの無段変速部拡大図
【図5】図2のトランスミッションの変速機構部拡大図
【図6】変速レバーの斜視図
【図7】作業車両の変速制御システム構成図
【図8】変速制御の展開特性線図
【図9】図8の変速制御によるフローチャート
【図10】別の変速制御の展開特性線図
【図11】図10の変速制御によるフローチャート
【図12】ブレーキ操作対応制御のフローチャート
【図13】ブレーキ踏込量対応制御のフローチャート
【図14】係数f(A)の一例を示す線図
【図15】緊急度対応制御のフローチャート
【図16】路上走行時に適用を限定する場合のフローチャート
【図17】復帰処理のための変速制御のフローチャート
【図18】踏込み特性線図
【図19】ペダルの全踏込動作時のフローチャート
【図20】別の制御処理のフローチャート
【図21】最高車速制御の制御チャート
【図22】別の最高車速制御の制御チャート
【符号の説明】
【0050】
1 静油圧式無段変速機構(HST)
1d 車速調節部
5f 前進用アクセルペダル
5r 後進用アクセルペダル
6 エンジン
7 制御部
A 踏込量
B ブレーキペダル
C クラッチペダル
C1〜C4 展開特性
f 低減係数
H トラニオン軸
S 切替スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進走行車速を操作するための前進用アクセルペダル(5f)および後進走行車速を操作するための後進用アクセルペダル(5r)と、これらのアクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸(H)の目標変速位置を決定する制御部(7)と、その目標変速位置にトラニオン軸(H)を駆動して静油圧式無段変速機構(1)を制御することにより車速を変更する無段変速調節部(1d)とを備える無段変速式作業車両において、
上記制御部(7)は、前進用と後進用の両アクセルペダル(5f、5r)について共通設定の展開特性(C1)および個別設定の展開特性(C1,C2)を備え、これら共通と個別の展開特性の適用は切替スイッチ(S)の信号によって切替え可能に構成したことを特徴とする無段変速式作業車両。
【請求項2】
アクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸(H)の目標変速位置を決定する制御部(7)と、その目標変速位置にトラニオン軸(H)を駆動して静油圧式無段変速機構(1)を制御することにより車速を変更する無段変速調節部(1d)と、上記静油圧式無段変速機構(1)との直列伝動により車速帯域の切替えをする副変速機構とを備える無段変速式作業車両において、上記制御部(7)は、副変速機構の車速帯域別に展開特性を備え、その切替えられた車速帯域に応じた展開特性によりトラニオン軸(H)の目標変速位置を決定することを特徴とする無段変速式作業車両。
【請求項1】
前進走行車速を操作するための前進用アクセルペダル(5f)および後進走行車速を操作するための後進用アクセルペダル(5r)と、これらのアクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸(H)の目標変速位置を決定する制御部(7)と、その目標変速位置にトラニオン軸(H)を駆動して静油圧式無段変速機構(1)を制御することにより車速を変更する無段変速調節部(1d)とを備える無段変速式作業車両において、
上記制御部(7)は、前進用と後進用の両アクセルペダル(5f、5r)について共通設定の展開特性(C1)および個別設定の展開特性(C1,C2)を備え、これら共通と個別の展開特性の適用は切替スイッチ(S)の信号によって切替え可能に構成したことを特徴とする無段変速式作業車両。
【請求項2】
アクセルペダルの操作との対応付けのための所定の展開特性に沿ってトラニオン軸(H)の目標変速位置を決定する制御部(7)と、その目標変速位置にトラニオン軸(H)を駆動して静油圧式無段変速機構(1)を制御することにより車速を変更する無段変速調節部(1d)と、上記静油圧式無段変速機構(1)との直列伝動により車速帯域の切替えをする副変速機構とを備える無段変速式作業車両において、上記制御部(7)は、副変速機構の車速帯域別に展開特性を備え、その切替えられた車速帯域に応じた展開特性によりトラニオン軸(H)の目標変速位置を決定することを特徴とする無段変速式作業車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−180232(P2009−180232A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17030(P2008−17030)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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