説明

熱可塑性樹脂複合材料成形品の成形方法

【課題】本発明は、空隙がほとんどなく繊維分散性のよい熱可塑性樹脂複合材料成形品を短時間で成形反りを発生させることなく成形できる成形方法を提供することを目的とする。
【解決手段】補強繊維材料に熱可塑性樹脂材料が偏在する被成形材料を用いて、被成形材料に対する当接部において均一な厚さに形成された一対の成形型体の間に被成形材料を配置し、被成形材料の周囲から内部の気体が排気可能となるように被成形材料の両側から成形型体により挟持して圧接した状態に設定し、成形型体と密着するように当接面が形成された一対の加熱プレス型体の間に成形型体を設置し加熱・加圧処理し、成形型体と密着するように当接面が形成された一対の冷却プレス型体の間に成形型体を設置し冷却・加圧処理することで、補強繊維材料中に熱可塑性樹脂材料を含浸し一体化させ成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維、ガラス繊維等の補強繊維材料に、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等の熱可塑性樹脂材料を含浸させて成形する熱可塑性樹脂複合材料成形品を成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維補強複合材料は、繊維材料とマトリクス材料を組み合せたもので、軽量で剛性が高く多様な機能設計が可能な材料であり、航空宇宙分野、輸送分野、土木建築分野、運動器具分野等の幅広い分野で用いられている。現在、炭素繊維又はガラス繊維といった補強繊維材料を熱硬化性樹脂材料と組み合せた繊維強化プラスチック(FRP)が主流となっている。
【0003】
しかし、リサイクル性、短時間成形性、成形品の耐衝撃特性の向上等の利点から、マトリクス樹脂に熱可塑性樹脂材料を用いた成形品に関する技術開発が進められている。例えば、特許文献1では、材料の上下表面に平面形状および凹凸形状の板状体を重ね合わせて、加熱プレス盤に挿入し熱可塑性樹脂を溶融させた後、材料を板状体にて重ね合わせた状態で取り出し、冷却プレス盤に挿入し冷却を行い、成形品を取り出す方法が記載されている。また、特許文献2では、繊維強化熱可塑性複合材料を雌型のオープンモールドに設置し、耐熱性バッグ材によってオープンモールド全体を覆った後、バッグ材とオープンモールドの間の空気を排出し、加熱加圧成形を行うことにより、繊維強化熱可塑性複合成形品を得る製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開平6−320655号公報
【特許文献2】特開2004―276471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した熱可塑性樹脂複合材料成形品では、炭素繊維、ガラス繊維等の補強繊維材料に、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等の熱可塑性樹脂材料を、いかに空隙(ボイド)なく、かつ繊維分散性よく短時間で含浸させるか、そして、成形する際に三次元の形状に成形反りなどがない良好な成形を行うかといった課題がある。
【0005】
特許文献1では、板状体の形状が材料側のみが凹凸加工されており、プレス盤にあたる側は平板形状になっているため、加熱および冷却の際に板状体の厚みが均一ではないため、材料への伝熱にムラが生じ、均一な状態での加熱および冷却が行われない。これにより、成形時間を短縮することが難しく、また、樹脂の部分的な含浸不足などによる成形そりなどを発生させてしまう。
【0006】
通常、プレス装置のプレス盤は平面二形成されており、成形型もプレス盤面に接する方は平板形状、材料側は成形品形状に併せて凹凸を成す構造になっている。このため、成形型はプレス中に凹凸部分などに変形が生じないよう鉄などの金属で厚みをもたせて作製され、成形型自体を加熱および冷却させる時間がかかるようになる。
【0007】
特許文献2のように加熱真空用バッグ等を使用する従来の成形方法では、バッグをモールド(成形型)にセットする、バッグからモールド(成形型)を取り出すといった作業において時間がかかる。また、バッグは耐熱性に課題があるため300度以上の高温成形が困難である。さらに、こうしたバッグは再利用が難しいため、成形処理毎にバッグを交換する必要があり、コスト負担が大きいといった課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、空隙がほとんどなく繊維分散性のよい熱可塑性樹脂複合材料成形品を短時間で成形反りを発生させることなく成形できる成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料成形品の成形方法は、 補強繊維材料及び熱可塑性樹脂材料から構成される被成形材料を用いて熱可塑性樹脂複合材料成形品を成形する成形方法であって、前記被成形材料に対する当接部において均一な厚さに形成された一対の成形型体を用いて当該成形型体の間に前記被成形材料を配置し、前記被成形材料の周囲から内部の気体が排気可能となるように前記被成形材料の両側から前記成形型体により挟持して圧接した状態に設定し、前記成形型体の当接面と密着するように当接面が形成された一対の加熱プレス型体を用いて当該加熱プレス型体の間に前記被成形材料を挟持した前記成形型体を設置し加熱・加圧処理した後、前記成形型体の当接面と密着するように当接面が形成された一対の冷却プレス型体を用いて当該冷却プレス型体の間に加熱・加圧処理した前記成形型体を設置し冷却・加圧処理することで、前記補強繊維材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸し一体化させて成形することを特徴とする熱可塑性樹脂複合材料成形品の成形方法。さらに、前記成形型体の間に前記被成形材料の内部の気体が排気される空間を形成して前記被成形材料を圧接した状態に設定するとともに当該排気空間を減圧又は真空状態にすることを特徴とする。さらに、前記被成形材料を挟持した前記成形型体を複数積層して加熱・加圧処理及び冷却・加圧処理を行うことを特徴とする。さらに、前記加熱・加圧処理は、設定温度の異なる複数の加熱プレス型体を用いて順次加熱・加圧処理を行うことを特徴とする。さらに、前記冷却・加圧処理は、設定温度の異なる複数の冷却プレス型体を用いて順次冷却・加圧処理を行うことを特徴とする。さらに、前記成形型体は、当接部が薄肉状に形成されていることを特徴とする。さらに、前記成形型体は、炭素繊維炭素複合体材料からなることを特徴とする。さらに、前記成形型体は、前記被成形材料に当接する当接面が離型処理されていることを特徴とする。さらに、前記被成形材料は、前記成形型体に当接する部分に離型シート材が設けられていることを特徴とする。さらに、前記被成形材料は、前記補強繊維材料を配列した層の間にマトリクスとなる前記熱可塑性樹脂材料が偏在していることを特徴とする。さらに、前記被成形材料は、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられてシート状に形成された補強繊維シート材と、当該補強繊維シート材の片面又は両面に付着した熱可塑性樹脂シート材により構成されている熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して構成されていることを特徴とする。さらに、前記補強繊維シート材及び前記熱可塑性樹脂シート材を当該熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材によって付着させていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のような構成を有することで、補強繊維材料及び熱可塑性樹脂材料から構成される被成形材料を加圧しながら加熱及び冷却し熱可塑性樹脂材料を均一に溶融含浸させ固化させて一体化して、空隙がほとんどなく繊維分散性のよい熱可塑性樹脂複合材料成形品を成形そりの発生しない状態で成形することができる。
【0011】
すなわち、被成形材料に対する当接部において均一な厚さに形成された一対の成形型体を用いてその間に被成形材料を配置して成形型体を圧接した状態に設定し、成形型体の当接面と密着するように当接面が形成された一対の加熱プレス型体の間にその成形型体を設置し加熱・加圧処理するので、加熱プレス型体からの熱が均一な厚さの成形型体の当接部を介して被成形材料全体に均一に伝導されるようになる。
【0012】
そのため、被成形材料を構成する熱可塑性樹脂材料が全体としてより均一に溶融して含浸されるようなる。そして、被成形材料の周囲から内部の気体が排気可能となるように被成形材料の両側から成形型体により挟持して圧接した状態に設定しているので、熱可塑性樹脂材料の含浸に伴い被成形材料中の気体が排気されるようになり、空隙が発生することなく熱可塑性樹脂材料が含浸していくようになる。また、成形型体の当接面により被成形材料を常に圧接した状態としているので、熱可塑性樹脂材料の含浸の際の流動に伴う補強繊維材料の配列が乱れることがなく、繊維の分散性が維持されるようになる。
【0013】
次に、加熱・加圧処理した成形型体を当該成形型体の当接面と密着するように当接面が形成された一対の冷却プレス型体の間に設置し均一な厚さの成形型体の当接部を介して冷却・加圧処理するので、被成形材料全体を均一に冷却することができ、溶融・含浸した熱可塑性樹脂材料を全体として同じように固化させてムラのない成形をすることが可能となり、成形反りのない良好な成形品を製造できる。
【0014】
そして、加熱処理及び冷却処理を別のプレス型体でそれぞれ行うことにより各処理を効率よく行うことができ、1つのプレス型体で両方の処理を行う場合に比べて成形時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0015】
また、成形型体の間に被成形材料の内部の気体が排気される空間を形成して被成形材料を圧接した状態に設定するとともに当該排気空間を減圧又は真空状態にすれば、熱可塑性樹脂材料が溶融して含浸される際に熱可塑性樹脂材料の補強繊維材料への含浸を促進して含浸時間を大幅に短縮することができる。さらに、得られた成形品中の空隙を減少させることができ、高品質な成形品を得ることが可能となる。
【0016】
また、成形型体の内部を真空状態または減圧状態に設定することで、成形型体の外表面全体に大気圧による加圧状態が生じるようになる。そのため、成形型体を加熱プレス型体又は冷却プレス型体に設置する際に、成形型体により挟持された被成形材料を常時圧接状態に維持することができ、補強繊維材料の真直性や分散性等が維持された品質の良い成形品を得ることが可能となる。
【0017】
また、被成形材料を挟持した成形型体を複数積層して加熱・加圧処理及び冷却・加圧処理を行うことで、一度に複数の熱可塑性樹脂複合材料成形品を成形することができ、成形時間を短縮することが可能となる。成形型体を複数積層した場合、各成形型体の排気空間を1つにまとめて真空状態又は減圧状態に設定すれば、各成形型体を効率よく真空状態又は減圧状態にすることができる。
【0018】
また、設定温度の異なる複数の加熱プレス型体を用いて順次加熱・加圧処理を行なったり、設定温度の異なる複数の冷却プレス型体を用いて順次冷却・加熱処理を行うことで、徐々に加熱・加圧処理又は冷却・加圧処理を行うことができる。そのため、熱可塑性樹脂材料の加熱又は冷却を制御することが可能となり、補強繊維材料中への含浸をスムーズに行うとともに熱可塑性樹脂材料の急激な収縮などを防止して、繊維真直性の良好な高品質の熱可塑性樹脂複合材料成形品を得ることが可能となる。
【0019】
また、成形型体の当接部が薄肉状に形成されていることで、加熱及び冷却の際の成形型体の熱伝導性が向上して成形時間の短縮を図ることができる。
【0020】
また、成形型体を炭素繊維炭素複合体材料から構成することで、加熱及び冷却の際の熱変形がほとんどなく熱伝導性にも優れているため、成形反りのほとんどない熱可塑性樹脂複合材料成形品を成形することができる。
【0021】
また、成形型体の被成形材料に当接する当接面を離型処理したり、被成形材料の成形型体に当接する部分に離型シート材を設けることで、成形した成形品を成形型体から容易に取り出すことができる。
【0022】
被成形材料として、補強繊維材料を配列した層の間にマトリクスとなる熱可塑性樹脂材料が偏在しているものを用いた場合、層方向に沿って熱可塑性樹脂材料が分布することから加熱・加圧処理の際に熱可塑性樹脂材料が同時に加熱されて層方向と直交する方向に溶融含浸するようになり、スムーズな含浸処理を行うことができる。そして、層の両側から熱可塑性樹脂材料が含浸するため、層の内部の空気は補強繊維材料の配列方向に沿って効率よく排気されるようになり、層の内部に空気がほとんど残留しなくなる。
【0023】
また、被成形材料を、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられてシート状に形成された補強繊維シート材と、当該補強繊維シート材の片面又は両面に付着した熱可塑性樹脂シート材により構成されている熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して構成すれば、製造が容易で成形の際の力学的特性及びドレープ性に優れた被成形材料を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明に係る成形方法では、被成形材料としては、少なくとも補強繊維材料及び熱可塑性樹脂材料から構成されるものを用いる。補強繊維材料とは、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、アロマティック・ポリアミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、金属繊維等のFRPに用いられる高強度・高弾性率の無機繊維や有機繊維等の補強繊維が複数本集束した材料である。また、種々の繊維束を複数組み合せてもよい。なお、繊度については特に限定されない。
【0026】
熱可塑性樹脂材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして使用してもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂材料は、液状、粉末状、粒状、繊維状、布帛状、シート状といったいずれの形態でもよく特に限定されない。
【0028】
被成形材料の形態としては、例えば、補強繊維材料中に熱可塑性樹脂材料が含浸したプレプリグシートを用いてもよい。しかし、本発明に係る成形方法に適した被成形材料の形態としては、補強繊維材料を配列した層の間に熱可塑性樹脂材料が偏在しているものが特に好ましい。以下にそうした被成形材料の具体例を説明する。
【0029】
図1は、本発明に用いる被成形材料の一例である熱可塑性樹脂多層補強シート材1の一部を示す模式図である。熱可塑性樹脂多層補強シート材1は、複数の補強繊維3fが引き揃えられてシート状に形成された補強繊維シート材3の片面に熱可塑性樹脂シート材4が付着して構成された熱可塑性樹脂補強シート材21〜24が積層された状態に、前記熱可塑性樹脂シート材4と同一材料の一体化用熱可塑性樹脂繊維束5により一体化されている。図1では、熱可塑性樹脂補強シート材21〜24が、各熱可塑性樹脂補強シート材の補強繊維が異なる軸方向に配列するように積層されている。そして、一体化用熱可塑性樹脂繊維束5を使用してステッチにより各熱可塑性樹脂補強シート材を縫合一体化している。
【0030】
補強繊維シート材3は、例えば、複数の補強繊維がサイジング剤等によりばらけないように集束している補強繊維束を複数本、シート状に引き揃えて形成されている。そして、補強繊維3fとしては、上述したように、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、等のFRPに用いられる高強度・高弾性率の無機繊維や有機繊維などが挙げられる。
【0031】
熱可塑性樹脂シート材4は母材(マトリクス)樹脂となるもので、上述したような熱可塑性樹脂材料が使用される。また、これらの熱可塑性樹脂材料を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして母材(マトリクス)樹脂として使用してもよい。
【0032】
一体化用熱可塑性樹脂繊維束5は、使用されたマトリクス樹脂と同一材料から成る熱可塑性樹脂繊維を用いる。同一材料とは主たる高分子の化学組成が同じであるものでよく、その分子量、結晶化度及び配合物の種類等については異なっていてもよい。成型品を得る際に樹脂を加熱溶融するため、主たる高分子の化学組成が同じであれば、熱可塑性樹脂シート材4と一体化用熱可塑性樹脂繊維束5は溶融混合され、母材(マトリクス)となるのである。
【0033】
さらに、熱可塑性樹脂シート材4がポリマーアロイされたものであるとき、当該ポリマーアロイ樹脂による一体化用熱可塑性樹脂繊維束を使用することが望ましいが、当該ポリマーアロイ樹脂を得るために混合されたどれか一種類の熱可塑性樹脂による一体化用熱可塑性樹脂繊維束を使用しても良い。成型品を得るための加熱溶融によって、ポリマーアロイを構成する熱可塑性樹脂の混合比率が局部的には若干変化するが、母材(マトリクス)となる熱可塑性樹脂シート材4と一体化用熱可塑性樹脂繊維束5は溶融混合して繊維としての形状は消滅するため、力学的特性の低下がない、補強繊維の均一分散性と表面平滑性が向上した成型品を得ることが可能となる。
【0034】
図1の熱可塑性樹脂多層補強シート材1は、熱可塑性樹脂補強シート材21〜24の4枚を積層して形成されているが、積層枚数は4枚に限定されるものではなく、2枚以上の積層枚数であれば良い。そして、このとき、前記熱可塑性樹脂補強シート材の補強方向は同方向、または異方向、どの方向に積層しても良い。図1の場合、熱可塑性樹脂補強シート材21は0度方向、熱可塑性樹脂補強シート材22は45度方向、熱可塑性樹脂補強シート材23は90度方向そして熱可塑性樹脂補強シート材24は−45度方向に繊維補強している。
【0035】
図2及び図3は、熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いる熱可塑性樹脂補強シート材2の一部を示す模式図である。図2における熱可塑性樹脂補強シート材2は、複数の補強繊維3fがサイジング剤等により集束した補強繊維束3tを幅方向に複数本引き揃えシート状の補強繊維シート材3に形成した片面に、熱可塑性樹脂シート材4を付着した構成になっている。熱可塑性樹脂シート材4は補強繊維シート材3の両面に付着させても良い。さらに、熱可塑性樹脂シート材4の両面に補強繊維シート材3を付着させても良い。
【0036】
なお、当該熱可塑性樹脂補強シート材は、複数の補強繊維がサイジング剤等によりばらけないように集束している補強繊維束を複数本、シート状に引き揃えて形成された補強繊維シート材の片面又は両面に、熱可塑性樹脂シート材を付着させて形成されている。このため、補強繊維束の引き揃えられた状態が維持され、かつ、ばらけないようになるとともに、補強繊維束を構成する各補強繊維においても、サイジング剤等が付着している効果により、各補強繊維がばらけず、繊維の配向乱れが抑制されるとともに、毛羽が生じ難い状態となっている。
【0037】
ここで、付着とは、補強繊維シート材の片面又は両面の全面又は複数部分に、熱可塑性樹脂シート材を熱融着させる、又は成型品になった際に力学的特性等に影響を与えない接着剤を薄く塗布して接着させる等して、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材をばらけないように一体化させることである。補強繊維シート材に熱可塑性樹脂シート材を熱融着させる場合、補強繊維シート材の表層部分に熱可塑性樹脂シート材がわずかに含浸することもあるが、その場合においてもシートとしてのドレープ性は十分にあり、付着の状態にあるといえる。
【0038】
図3における熱可塑性樹脂補強シート材2は、補強繊維3fが複数本引き揃えられた細幅形状の補強繊維シート材3の片面に細幅形状の熱可塑性樹脂シート材4が付着した細幅熱可塑性樹脂補強シート材2Hを用いて、当該細幅熱可塑性樹脂補強シート材2Hを幅方向に複数本シート状に引き揃えて構成されている。このようにして、細幅熱可塑性樹脂補シート材2Hを幅方向及び厚み方向に複数本引き揃えることにより、一方向補強された熱可塑性樹脂補強シート材を得る。また、細幅熱可塑性樹脂補強シート材2Hを織糸に用い製織することにより、例えば、0度と90度方向の二方向があらかじめ補強された熱可塑性樹脂補強シート材を得ることもできる。
【0039】
図3における細幅熱可塑性樹脂補強シート材2Hにおいても、細幅形状の補強繊維シート材3の片面に細幅形状の熱可塑性樹脂シート材4を付着させているが、細幅形状の補強繊維シート材の両面に細幅形状の熱可塑性樹脂シート材を付着させても良い。さらに、細幅形状の熱可塑性樹脂シート材の両面に細幅形状の補強繊維シート材を付着させても良い。
【0040】
補強繊維シート材3の厚みを補強繊維3fの直径の10倍以内にすることにより、成型品にする際、熱可塑性樹脂シート材が補強繊維間を含浸のために流れる距離がより短くなる。複合材料の補強繊維として代表的な炭素繊維は単糸直径が0.005〜0.007mmである。よって、補強繊維シート材3の厚さは0.05〜0.07mm以下となる。このような厚みになれば、数秒程度で熱可塑性樹脂シート材が補強繊維束中に含浸することが期待され、短時間での成形加工が実現できるようになる。また、熱可塑性樹脂シート材の補強繊維間を流れる距離をより短くすることにより、樹脂流れによる補強繊維の配向乱れが抑制され、補強繊維の均一分散性が向上した、ボイド(空隙)の少ない状態を得ることができる。
【0041】
補強繊維シート材3の厚さを補強繊維3fの直径の10倍以内の状態にするためには、集束本数の少ない繊維束を用いる方法、又は繊維束を開繊させる方法等がある。開繊による方法は、集束本数の多い繊維束(太繊度繊維束)を幅広く薄い状態にすることができる。太繊度繊維束は、比較的材料コストが安いため、低コストの成形品を得ることを可能とする。なお、原糸の状態で使用されているサイジング剤等の効果により、開繊糸の形態は安定する。
【0042】
なお、補強繊維シート材3に付着させる熱可塑性樹脂シート材4の厚み又は重量は、補強繊維シート材の目付け(単位面積あたりの繊維重量)、及び成形品にしたときの繊維体積含有率等と関係して決められる。
【0043】
図4は、熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いるさらに別の例である熱可塑性樹脂補強シート材11の一部を示す模式図である。熱可塑性樹脂補強シート材11は、複数の補強繊維12fがサイジング剤等により集束した補強繊維束12tを幅方向に複数本引き揃えシート状の補強繊維シート材12に形成した片面に、熱可塑性樹脂シート材13を付着し、当該熱可塑性樹脂シート材13の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材14が熱可塑性樹脂シート材13の補強繊維シート材12が付着していない面の表面に付着した構成になっている。なお、接着用熱可塑性樹脂材14は補強繊維シート材12の熱可塑性樹脂シート材13が付着していない面の表面に付着しても良い。また、熱可塑性樹脂シート材は補強繊維シート材の両面に付着させても良い。この場合は、一方もしくは両方の熱可塑性樹脂シート材の補強繊維シート材が付着していない面の表面に接着用熱可塑性樹脂材を付着させる。さらに、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を付着させて構成しても良い。この場合は、一方もしくは両方の補強繊維シート材の熱可塑性樹脂シート材が付着していない面の表面に接着用熱可塑性樹脂材を付着させる。
【0044】
接着用熱可塑性樹脂材14が表面に付着した構成となっているため、熱可塑性樹脂補強シート材を切断して、所要の方向で積層を行った際、接着用熱可塑性樹脂材が溶融又は軟化する温度で加熱又は加熱加圧することにより、積層された熱可塑性樹脂補強シート材の各層間を接着用熱可塑性樹脂材によって接着して一体化することができる。つまり、積層された熱可塑性樹脂補強シート材の取り扱いが行い易くなり、成形のための成形型体内への設置に際し、補強繊維の補強方向、補強繊維の引き揃え状態を維持したまま、積層された熱可塑性樹脂補強シート材を成形型体内に容易に設置することが可能となる。
【0045】
なお、熱可塑性樹脂補強シート材を構成する補強繊維シート材は、複数の補強繊維がサイジング剤等によりばらけないように集束している補強繊維束を使用して形成されることが多い。この場合、母材(マトリクス)樹脂が熱可塑性樹脂であることから、補強繊維束を集束させるサイジング剤は母材樹脂との接着性等を考慮したサイジング剤が使用されていることが望ましい。そして、サイジング剤等が付着している効果により、各補強繊維のばらけ、配向乱れ、そして、毛羽の生じ難い状態を得ながら、各補強繊維の移動や各補強繊維同士のずれ等を可能としてドレープ性に優れた補強繊維シート材を得ることができる。
【0046】
補強繊維と母材樹脂との接着性を考慮して、サイジング剤が付着していない、もしくは付着量の大変少ない補強繊維束を使用する場合、または、補強繊維束に付着するサイジング剤を除去して補強繊維シート材にする場合等がある。この場合においても、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を付着させることにより、補強繊維がばらけることを抑えることができる。特に、補強繊維束を開繊等して厚み方向に並ぶ補強繊維本数を減らすと、補強繊維のばらけをより抑えることが可能となる。
【0047】
図4における補強繊維シート材12と熱可塑性樹脂シート材13の付着とは、補強繊維シート材の片面又は両面の全面又は複数部分に熱可塑性樹脂シート材を熱融着させた形態、または、成型品になった際に力学的特性等に影響を与えない接着剤を薄く塗布して補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を接着させた形態等がある。なお、補強繊維シート材に熱可塑性樹脂シート材を熱融着させる場合、補強繊維シート材の表層部分に熱可塑性樹脂シート材がわずかに含浸することもあるが、その場合においてもシートとしてのドレープ性は十分にあり、付着の形態にあるといえる。
【0048】
図5は、熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いるさらに別の例である熱可塑性樹脂補強シート材11の一部を示す模式図である。熱可塑性樹脂補強シート材11は、複数の補強繊維12fがサイジング剤等により集束した補強繊維束12tを幅方向に複数本引き揃えシート状とした補強繊維シート材12の片面に、熱可塑性樹脂シート材13を、当該熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材14によって付着させて構成されている。なお、熱可塑性樹脂シート材13は補強繊維シート材12の両面に付着させても良い。さらに、熱可塑性樹脂シート材13の両面に補強繊維シート材12を付着させて構成しても良い。
【0049】
図5では、補強繊維シート材12と熱可塑性樹脂シート材13を接着用熱可塑性樹脂材4によって接着して、ばらけないように一体化させることにより、補強繊維シート材12と熱可塑性樹脂シート材13を付着させている。つまり、熱可塑性樹脂シート材の溶融温度まで加熱せず、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を付着させているため、補強繊維シート材の形態及び熱可塑性樹脂シート材の形態が維持されている。よって、当該熱可塑性樹脂補強シート材のドレープ性、補強繊維の真直な状態及び均一な分散状態等が優れたシート材となる。
【0050】
図6は、熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いるさらに別の例である熱可塑性樹脂補強シート材11の一部を示す模式図である。熱可塑性樹脂補強シート材11は、補強繊維12fが複数本引き揃えられた細幅形状の補強繊維シート材12の片面に細幅形状の熱可塑性樹脂シート材13が当該熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材14によって付着して構成されている細幅熱可塑性樹脂補強シート材11Hを用いて、当該細幅熱可塑性樹脂補強シート材1Hを幅方向に複数本シート状に引き揃えて構成されている。このようにして、細幅熱可塑性樹脂補シート材1Hを幅方向及び厚み方向に複数本引き揃えることにより、一方向補強された熱可塑性樹脂補強シート材11を得る。また、細幅熱可塑性樹脂補強シート材1Hを織糸に用い製織することにより、例えば、0度と90度方向の二方向があらかじめ補強された熱可塑性樹脂補強シート材を得ることもできる。
【0051】
図6における細幅熱可塑性樹脂補強シート材1Hにおいても、細幅形状の補強繊維シート材12の片面に細幅形状の熱可塑性樹脂シート材13を接着用熱可塑性樹脂材14によって付着させているが、細幅形状の補強繊維シート材の両面に細幅形状の熱可塑性樹脂シート材を接着用熱可塑性樹脂材によって付着させても良い。さらに、細幅形状の熱可塑性樹脂シート材の両面に細幅形状の補強繊維シート材を接着用熱可塑性樹脂材によって付着させても良い。
【0052】
なお、図5及び図6では、熱可塑性樹脂補強シート材11の表面には接着用熱可塑性樹脂材が付着していない図となっているが、熱可塑性樹脂補強シート材11の片面もしくは両面の表面に接着用熱可塑性樹脂材を分布させて付着させても良い。
【0053】
当該熱可塑性樹脂補強シート材は、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を接着させる接着用熱可塑性樹脂材の単位面積あたりの付着量と当該熱可塑性樹脂補強シート材の片面又は両面に付着されている接着用熱可塑性樹脂材の単位面積あたりの付着量を異ならせることや、また、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を接着させる接着用熱可塑性樹脂材と熱可塑性樹脂補強シート材の片面又は両面に付着されている接着用熱可塑性樹脂材を異ならせたりすることができる。
【0054】
補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を接着させる接着用熱可塑性樹脂材の単位面積あたりの付着量を、当該熱可塑性樹脂補強シート材の片面又は両面に付着されている接着用熱可塑性樹脂材の単位面積あたりの付着量より多くすること、または、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を接着させる接着用熱可塑性樹脂材の付着力が熱可塑性樹脂補強シート材の片面又は両面に付着されている接着用熱可塑性樹脂材の付着力より大きいものを選択することにより、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材層間の付着力を熱可塑性樹脂補強シート材同士間の付着力よりも大きくした熱可塑性樹脂多層補強シート材を得ることができる。
【0055】
これにより、補強繊維シート材を熱可塑性樹脂シート材に付着させたまま、熱可塑性樹脂補強シート材の各積層間のずれを実現できる。つまり、複数枚の熱可塑性樹脂補強シート材が接着一体化した取り扱いの行い易い熱可塑性樹脂多層補強シート材でありながら、成形のために当該熱可塑性樹脂多層補強シート材を成形型体に設置したときは、型体の内面の曲面形状部分等において、補強繊維の引き揃え状態、分散状態等を損なうことなく、熱可塑性樹脂補強シート材の各層間の付着を局部的にはずし、熱可塑性樹脂補強シート材の各層間をずらしながら型形状に適応することができる、ドレープ性がさらに優れた熱可塑性樹脂多層補強シート材となる。つまり、複雑な形状の積層成型品を品質良く得ることが可能となる。
【0056】
ここでの付着力とは、接着用熱可塑性樹脂材によって補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材が、または補強繊維シート材と補強繊維シート材が、または熱可塑性樹脂シート材と熱可塑性樹脂シート材が接着する力のことを表し、付着力が大きいとは接着する力が強いことを表す。なお、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材が付着するとは、通常の取り扱い、例えば、シート材を搬送する、持ち上げる、シート材を切断する等の扱いにおいて補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材が剥離しばらけない状態をいう。
【0057】
補強繊維シート材12に付着させる熱可塑性樹脂シート材13の厚み又は重量は、補強繊維シート材の目付け(単位面積あたりの繊維重量)、及び成形品にしたときの繊維体積含有率等と関係して決められる。
【0058】
補強繊維シート材12は、例えば、複数の補強繊維12fがサイジング剤等によりばらけないように集束している補強繊維束12tを複数本、シート状に引き揃えて形成されている。そして、補強繊維12fとしては、上述したように、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、金属繊維等のFRPに用いられる高強度・高弾性率の無機繊維や有機繊維等が挙げられる。
【0059】
補強繊維シート材12の厚みを補強繊維12fの直径の10倍以内にすることにより、成型品にする際、熱可塑性樹脂シート材が補強繊維間を含浸のために流れる距離がより短くなる。複合材料の補強繊維として代表的な炭素繊維は単糸直径が0.005〜0.007mmである。よって、補強繊維シート材13の厚さは0.05〜0.07mm以下となる。このような厚みになれば、数秒程度で熱可塑性樹脂 BR>Vート材が補強繊維束中に含浸することが期待され、短時間での成型加工が実現できるようになる。また、熱可塑性樹脂シート材の補強繊維間を流れる距離をより短くすることにより、樹脂流れによる補強繊維の配向乱れが抑制され、補強繊維の均一分散性が向上した、ボイド(空隙)の少ない状態を得ることができる。
【0060】
補強繊維シート材12の厚さを補強繊維12fの直径の10倍以内の状態にするためには、集束本数の少ない繊維束を用いる方法、又は繊維束を開繊させる方法等がある。開繊による方法は、集束本数の多い繊維束(太繊度繊維束)を幅広く薄い状態にすることができる。太繊度繊維束は、比較的材料コストが安いため、低コストの成形品を得ることを可能とする。なお、原糸の状態で使用されているサイジング剤等の効果により、開繊糸の形態は安定する。
【0061】
熱可塑性樹脂シート材13は母材(マトリクス)樹脂となるもので、上述したような熱可塑性樹脂材料が使用される。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして母材(マトリクス)樹脂として使用してもよい。
【0062】
接着用熱可塑性樹脂材14は、補強繊維シート材12と熱可塑性樹脂シート材13を接着させ一体化させるもので、構成される熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化して、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材、及び補強繊維シート材又は熱可塑性樹脂シート材と離型用シート材を接着させることができる熱可塑性樹脂が用いられる。接着用熱可塑性樹脂材14は、補強繊維シート材12及び熱可塑性樹脂シート材13の少なくともどちらか一方の片面又は両面に付着する。好ましくは、補強繊維シート材12及び熱可塑性樹脂シート材13の少なくともどちらか一方の片面又は両面の表面に付着し、さらには、均一にばらけていることが望ましい。これにより、補強繊維シート材12と熱可塑性樹脂シート材13を確実に接着して、補強繊維シート材に熱可塑性樹脂シート材を付着させた状態、または熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して接着一体化させた状態にする。
【0063】
接着用熱可塑性樹脂材14は、粉体形状、繊維形状のどちらの形状を用いても良い。さらに、繊維形状の場合、長繊維又は短繊維がばらけた状態及び織物、編物、不織布等の布帛状態等の形態を用いることができる。
【0064】
さらに、接着用熱可塑性樹脂材14として、融点が80〜250度の範囲にある樹脂が好ましく、例えば、ポリアミド、共重合ポリアミド、ポリウレタン等が選択される。特に、共重合ポリアミドは、融点が低く、かつ母材となる熱可塑性樹脂シート材との接着性が良好であり接着用熱可塑性樹脂材として好ましい。さらに、接着用熱可塑性樹脂材は、構成される熱可塑性樹脂シート材と相溶性が良いものを選択することが望ましい。これにより、母材となる熱可塑性樹脂材料に接着用熱可塑性樹脂材が溶融した際、母材となる熱可塑性樹脂材料に接着用熱可塑性樹脂材がなじみよく存在することができる。
【0065】
接着用熱可塑性樹脂材14の単位面積あたり付着量は、前記補強繊維シート材の単位面積あたり重量の3%以内にすることが望ましく、さらには、0.5〜2%の範囲にすることがより好ましい。接着用熱可塑性樹脂材4の使用量を少なくすることにより、接着用熱可塑性樹脂材が得られる複合材料成型品の力学的特性、熱的特性に与える影響を少なくすることができる。
【0066】
接着用熱可塑性樹脂材14は、補強繊維シート材12及び熱可塑性樹脂シート材13の少なくともどちらか一方の片面又は両面の表面に分布していることが望ましく、さらには、表面に均一に分布していることがより望ましい。これにより、接着用熱可塑性樹脂材が3%以下、より好ましくは0.5〜2%の範囲であっても補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材を確実に接着つまり付着させることができる。補強繊維シート材が熱可塑性樹脂シート材に付着することにより、補強繊維シート材を構成する各繊維束の形態、つまり補強繊維の真直に引き揃った状態や均一に分散した状態等を維持することができるとともに、熱可塑性樹脂シート材の形態もシートとしての形態を維持し、取り扱いに優れたシート材となる。
【0067】
図7は、本発明に用いる被成形材料である別の熱可塑性樹脂多層補強シート材15の一部を示す模式図である。熱可塑性樹脂多層補強シート材15は、図4又は図5に示される熱可塑性樹脂補強シート材11A、11B、11C及び11Dの4枚を積層して接着用熱可塑性樹脂材によって接着一体化された構成になっている。図7では、熱可塑性樹脂補強シート材11A、11B、11C及び11Dが、各熱可塑性樹脂補強シート材の補強繊維が異なる軸方向に配列するように積層されている。
【0068】
図8は、本発明に用いる被成形材料であるさらに別の熱可塑性樹脂多層補強シート材15の一部を示す模式図である。熱可塑性樹脂多層補強シート材15は、図4又は図5に示される熱可塑性樹脂補強シート材11A、11B、11C及び11Dの4枚を積層した状態に、前記熱可塑性樹脂シート材と同一材料の一体化用熱可塑性樹脂繊維束16により一体化されている。図8では、熱可塑性樹脂補強シート材11A、11B、11C及び11Dが、各熱可塑性樹脂補強シート材の補強繊維が異なる軸方向に配列するように積層されている。そして、一体化用熱可塑性樹脂繊維束16を使用してステッチにより各熱可塑性樹脂補強シート材を縫合一体化している。
【0069】
図7及び図8の熱可塑性樹脂多層補強シート材15は、熱可塑性樹脂補強シート材11A、11B、11C及び11Dの4枚を積層して形成されているが、積層枚数は4枚に限定されるものではなく、2枚以上の積層枚数であれば良い。そして、このとき、熱可塑性樹脂補強シート材の補強方向は同方向、または異方向、どの方向に積層しても良い。図7及び図8の場合、熱可塑性樹脂補強シート材11Aは0度方向、熱可塑性樹脂補強シート材11Bは45度方向、熱可塑性樹脂補強シート材11Cは90度方向そして熱可塑性樹脂補強シート材11Dは−45度方向に繊維補強している。
【0070】
本発明に用いる被成形材料としては、補強繊維材料を配列した層の間にマトリクスとなる熱可塑性樹脂材料が偏在するものであり、上述した熱可塑性樹脂多層補強シート材以外にも、補強繊維材料を配列した層の間に粉末状又は短繊維状の熱可塑性樹脂材料を分布させたものを用いたり、層の間に不織布や布帛に形成された熱可塑性樹脂材料を積層したものを用いることもできる。
【0071】
次に、本発明に係る実施形態について説明する。図9は、一対の成形型体100及び101の間に被成形材料1を設置した状態を示す断面図である。一対の成形型体100及び101は、同じ厚さの薄板を加工して形成されており、この例ではそれぞれ中央部分が下方に凹むように湾曲して段差部100a及び101aが形成されている。成形型体100及び101の材料としては、加熱・冷却の際に熱変形が小さく熱伝導性の良好な材料が好ましく、鉄等の金属材料やCCコンポジットと称される炭素繊維炭素複合材料といったものが挙げられるが、特に炭素繊維炭素複合材料が好ましい。
【0072】
なお、この例では、成形型体として薄板を用いているが、被成形材料1が当接する当接部が均一の厚さに形成されていればよく、当接部以外の厚さが異なっていてもよい。また、成形型体の被成形材料に対する当接部において熱伝導性が均一になるように厚さを均一にすればよく、厚さを薄くすることで熱伝導性を高めることができる。
【0073】
被成形材料1は、補強繊維材料からなる層の間に熱可塑性樹脂材料が偏在しており、この例では、補強繊維シート材3及び熱可塑性樹脂シート材4からなる熱可塑性補強シート材2を複数積層したもので、ドレープ性に優れており、その層方向が成形型体100及び101の型面に沿うように配置されている。そして、被成形材料1の周囲には、成形型体100及び101の周縁部100b及び101bの間に排気空間102が形成され、被成形材料1の周縁部が密閉されることなく開放されている。
【0074】
被成形材料1を挟持した一対の成形型体100及び101は、図示しない係止具により所定の間隔で被成形材料1を圧接した状態に設定される。被成形材料1を成形型体101の自重により所定の間隔で安定した圧接状態に挟持可能であれば、係止具を使用しなくてもよい。
【0075】
なお、成形加工後の成形品の離型性を向上させるために、成形型体100及び101の被成形材料1に対する当接面に公知の離型剤を付与する離型処理をしておくとよい。また、離型性を向上させるために、被成形材料の成形型体に対する当接部分に離型シート材を設けるようにしてもよい。離型シート材として、ポリオレフィン系樹脂シート、熱硬化性ポリイミド樹脂シート、フッ素樹脂シート等の離型用フィルム、または離型紙等を選択することができる。
【0076】
図10は、成形型体100及び101の間にセットした被成形材料1を成形する工程を示す説明図である。まず、図9で説明したように被成形材料1を一対の成形型体100及び101の間に設置し所定の間隔で圧接した状態にセットする(図10(a))。
【0077】
次に、加熱プレス機103に被成形材料1を挟持した成形型体100及び101をセットする(図10(b))。加熱プレス型体104及び105は、型面が成形型体100及び101と同じ形状に形成されており、下方の加熱プレス型体104は成形型体100の当接面と密着するように型面に段差部が形成され、同様に上方の加熱プレス型体105は成形型体101の当接面と密着するように型面に段差部が形成されている。
【0078】
加熱プレス型体104及び105は内蔵するヒータにより予め所定の加熱温度に加熱されており、加熱プレス型体104及び105の間にセットされた成形型体100及び101を上下方向の両側から、つまり被成形材料の厚さ方向の両側から圧接して加熱・加圧処理を行う。加熱温度及びプレス圧力は、被成形材料の材質に応じて適宜設定すればよい。
【0079】
加熱プレス型体により加圧して加熱する際に、加熱プレス型体と成形型体が密着した状態となっているため熱伝導が良好となり、成形型体が均一な厚さに形成されているため伝導された熱が被成形材料全体にほぼ均一に加えられるようになる。そのため、被成形材料全体がほぼ同じ加熱状態となり、成形型体の当接面とほぼ平行に配置された熱可塑性樹脂シート材4は、全体がほぼ同時に加熱されて溶融状態となり、両側の補強繊維シート材3全体に含浸されていくようになる。
【0080】
そして、各補強繊維シート材3は両側から熱可塑性樹脂材料が次第に含浸していくと内部の空気が流れ、被成形材料1の周縁部から排気空間102に排気されるようになる。そのため、補強繊維シート材3の内部の空気が効率よく排気されて内部に残留することなく熱可塑性樹脂材料の含浸が行われるようになる。
【0081】
加熱・加圧処理を行った後成形型体100及び101を加熱プレス機から取り出し、冷却プレス機106にセットする(図10(c))。冷却プレス型体107及び108は、型面が成形型体100及び101と同じ形状に形成されており、下方の冷却プレス型体107は成形型体100の当接面と密着するように型面に段差部が形成され、同様に上方の加熱プレス型体108は成形型体101の当接面と密着するように型面に段差部が形成されている。
【0082】
冷却プレス型体107及び108は図示せぬ冷却装置により予め所定の冷却温度(例えば、常温状態)に設定されており、冷却プレス型体107及び108の間にセットされた成形型体100及び101を上下方向の両側、つまり被成形材料の厚さ方向の両側から圧接して冷却・加圧処理を行う。冷却温度及びプレス圧力は、被成形材料の材質に応じて適宜設定すればよい。
【0083】
冷却プレス型体により加圧しながら冷却することで、被成形材料1の内部で溶融含浸した熱可塑性樹脂材料が加圧状態の中で固化されるようになる。その際に、上述したように成形型体100及び101の厚さが均一に設定されているので、被成形材料1全体に対する熱伝導性がほぼ均一となり、被成形材料1全体をほぼ同じように冷却する。そのため熱可塑性樹脂材料がムラなく冷却固化し、成形反りのない成形品Aに仕上げることができる(図10(d))。
【0084】
図11は、成形型体100及び101を用いて被成形材料1を成形するための別の実施形態に関する工程説明図である。この例では、成形型体100の周縁部に全周にわたってリング状のシール部材110が接着固定されている。そして、成形型体101には、図示せぬ空気吸引装置に接続された配管109が連通している。
【0085】
まず、成形型体100に被成形材料1を設置して被成形材料1の上面に成形型体101をセットし、図示せぬ係止具により成形型体100及び101を係止して被成形材料1を圧接した状態で挟持するように設定する(図11(a))。その際に、シール部材110は両成形型体に圧縮されるようになり、内部を気密状態に保持する。配管109は、成形型体100及び101の周縁部に形成された排気空間102に連通するように取り付けられており、両成形型体の内部がシール部材110により気密状態に設定された後空気吸引装置を作動させて内部を真空又は減圧状態に設定する(図11(b))。この場合、減圧状態とは真空に近い圧力状態であり、例えば10Torr以下の圧力状態である。
【0086】
そして、真空又は減圧状態に設定した成形型体100及び101を図10で説明した実施形態と同様の加熱プレス機103にセットして加熱・加圧処理を行う(図11(c))。加熱により被成形材料内の熱可塑性樹脂材料は溶融含浸するようになるが、成形型体の内部が真空又は減圧状態となっているので、溶融した熱可塑性樹脂材料は吸引されて補強繊維シート材の内部への含浸が促進されるようになり、内部に空気が残留することなく短時間で含浸処理を行うことができるようになる。
【0087】
そして、加熱・加圧処理を行った後図10で説明した実施形態と同様の冷却プレス機106にセットして冷却・加圧処理を行う(図11(d))。冷却により溶融含浸した熱可塑性樹脂材料がムラなく固化して成形反りのない成形品Aに仕上げることができる(図11(e))。
【0088】
シール部材110を成形型体に取り付ける場合、図12に示すように、成形型体100及び110の周縁部に溝部100c及び101cを形成しておき、溝部100c及び101cにシール部材110を嵌合して気密状態に設定すれば、成形型体内部にさらに確実に気密構造を実現することができる。
【0089】
図13は、複数の被成形材料を一度に成形加工するための実施形態に関する工程説明図である。この例では、平板状の成形型体111を4枚用い、各成形型体111の間に被成形材料1A、1B及び1Cを設置して成形型体111を図示せぬ係止具で係止して各被成形材料を所定間隔で圧接するようにセットする(図13(a))。
【0090】
そして、加熱プレス機103の加熱プレス型体104’及び105’の間に成形型体111を設置する(図13(b))。加熱プレス型体104’及び105’は型面が平面状に形成されており、成形型体111に密着した状態で当接して加熱・加圧処理が行われる。成形型体111の被成形材料に対する当接部の厚さがすべて均一に設定されているため、加熱プレス型体104’及び105’から各被成形材料への熱伝導性がほぼ均一になり、各被成形材料内部の熱可塑性樹脂材料全体がほぼ同時に溶融含浸するようになる。
【0091】
次に、加熱・加圧処理した成形型体111を冷却プレス機106の冷却プレス型体107’及び108’の間に成形型体111を設置する(図13(c))。冷却プレス型体107’及び108’は型面が平面状に形成されており、成形型体111に密着した状態で当接して冷却・加圧処理が行われる。溶融含浸した熱可塑性樹脂材料は、冷却・加圧処理によりムラなく固化して成形され、各被成形材料は成形反りのない成形品Bに仕上げられる。
【0092】
このように、同じ形状の成形型体を複数使用することで、複数の被成形材料を一度に成形することも可能となり、生産効率を大幅に向上させることができる。そして、図11に示すようなシール部材を各成形型体の間にセットして、内部を真空又は減圧状態することで、溶融した熱可塑性樹脂材料の含浸を促進することができる。
【0093】
また、上述した実施形態では、加熱プレス機及び冷却プレス機をそれぞれ1台ずつ用いているが、加熱プレス機又は冷却プレス機を複数台使用して成形するようにしてもよい。その場合には、各加熱プレス機の加熱温度を異なるように設定しておき、低い加熱温度から順次高い加熱温度に加熱・加圧処理を繰り返すことで、被成形材料内部の熱可塑性樹脂材料の溶融含浸処理を確実に行うことができる。また、各冷却プレス機の冷却温度を異なるように設定しておき、高い冷却温度から順次低い冷却温度に冷却・加圧処理を繰り返すことで、被成形材料内部に含浸した熱可塑性樹脂材料の固化を確実に行うことができる。
【実施例】
【0094】
[実施例1]
以下の材料を用いて、図10で説明した成形工程により凹型の熱可塑性樹脂多層補強成形品を製造した。
<使用材料>
(補強繊維束)
炭素繊維束
三菱レイヨン株式会社製;TR50S―15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本
(熱可塑性樹脂)
ポリアミド樹脂
三菱化学株式会社製;ナイロン6樹脂フィルム、フィルム厚み20μm
【0095】
<製造工程>
(1)補強繊維束TR50S―15Kを1本、20mm間隔でセットし、多数本を同時に空気開繊する公知の方法(特表2007−518890号公報参照)により、各々の補強繊維束を幅約20mmに開繊した。
(2)幅20mmに開繊された各補強繊維開繊糸を、幅方向に振動させて、補強繊維開繊糸間に隙間がない補強繊維シート材とした。得られた補強繊維シート材は、幅約320mm、繊維目付け(単位面積あたりの繊維重量)約50g/m2であった。
(3)得られた補強繊維シート材に、熱可塑性樹脂シート材を加熱しながら連続して貼り合わせを行った。このとき、加熱温度は約270℃に制御を行った。また、補強繊維シート材とともに熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、製造会社;宇部興産株式会社)を離型フィルムとして供給した。なお、補強繊維シート材に熱可塑性樹脂補強シート材を貼り合わせる速度は10m/分で行った。
(4)加熱後、冷却して、基材から離型フィルムを剥がすことにより、補強繊維シート材の片面に熱可塑性樹脂シート材が付着した、熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
(5)得られた熱可塑性樹脂補強シート材から、繊維方向を0度方向として、0度方向、90度方向、45度方向、そして−45度方向に繊維が配した320mm角のシートを切り出し、[(45度/0度/−45度/90度)3Sに積層した積層シート材を製作した。
(6)厚み1mmの鉄製の凹型成形型体(下型)に、積層シート材を設置した後、厚み1mmの鉄製の凸型成形型体(上型)を設置した。なお、成形型体の型面には離型処理として離型剤(Frekote 44-NC;ヘンケル社製)を吹き付けた。その後、積層シート材が設置された一対の成形型体を加熱プレス機にセットした。予め270℃に昇温された加熱プレス型体の下型に成形型体を設置し、直ちに加熱プレス型体の上型を下降させて加圧を行った。このとき、加熱プレス型体の下型は凹型成形型体が密着して設置できる形状に、加熱プレス型体の上型は凸型成形型体を密着して加圧できるような形状となっている。加圧圧力2MPaで、5分間の加熱・加圧処理を行った。
(7)加熱・加圧処理後、加熱プレス機から成形型体を取り出し、冷却プレス機にセットした。予め水冷により約20度に冷却された冷却プレス型体の下型に一対の成形型体を設置し、直ちに冷却プレス型体の上型を下降させて加圧を行った。冷却プレス型体は、加熱プレス型同様、下型は凹型成形型体が密着して設置できる形状に、冷却プレス体の上型は凸型成形型体を密着して加圧できるような形状となっている。加圧圧力2MPaで、3分間の冷却・加圧処理を行った。その後、冷却プレス機から成形型体を取り出し、熱可塑性樹脂複合材料成形品を得た。
【0096】
<評価>
得られた熱可塑性樹脂複合材料成形品は、厚さ約1.2mmで繊維体積含有率約60%の、成型反り等が生じていない凹型形状の成形品に仕上げられた。成形品の一部を切断し、断面観察を行ったところ、繊維束中に熱可塑性樹脂が均一に含浸した状態となっていること、繊維が均一に分散していることなどが確認できた。さらに、成形品の湾曲形状、角部の形状等においても成形型体の型面に沿った良好な形状で成形加工が行われていた。
【0097】
[実施例2]
実施例1の(1)から(5)により得られた積層シート材を用いて成形を行った。
【0098】
<製造工程>
(1)実施例1の(1)から(5)により320mm角の[(45度/0度/−45度/90度)3Sに積層した積層シート材を製作した。
(2)厚み1mmの鉄製の凹型成形型体(下型)に、積層シート材を設置した後、厚み1mmの鉄製の凸型成形型体(上型)を設置し、上下成形型体の周縁部の間を耐熱ゴム製のシール部材によりシールして気密構造を形成した。なお、成形型体の表面には離型処理として(Frekote 44-NC;ヘンケル社製)を吹き付けた。その後、成形型体内の空気を吸引(排出)し、成形型体内を10Torr以下の減圧状態に設定した。
(3)積層シート材が設置されて内部が減圧状態の凹凸成形型体を、加熱プレス機にセットした。予め270℃に昇温された加熱プレス型体の下型に成形型体を設置し、直ちに加熱プレス型体の上型を下降させて加圧を行った。このとき、実施例1の場合と同様に、加熱プレス型体の下型は凹型成形型体が密着して設置できる形状に、加熱プレス型体の上型は凸型成形型体を密着して加圧できるような形状となっている。加圧圧力2MPaで、3分間の加熱・加圧処理を行った。なお、加熱プレス機による加熱・加圧処理の間においても、成形型体内の空気は吸引(排出)し続け、成形型体内を10Torr以下の減圧状態に維持した。
(4)加熱・加圧処理後、加熱プレス機から成形型体を内部が減圧状態のままで取り出し、冷却プレス機にセットした。予め水冷により約20度に冷却された冷却プレス型体の下型に成形型体を設置し、直ちに冷却プレス型体の上型を下降させて加圧を行った。このとき、実施例1と同様に、冷却プレス型体の下型は凹型成形型体が密着して設置できる形状に、冷却プレス型体の上型は凸型成形型体を密着して加圧できるような形状となっている。加圧圧力2MPaで、3分間の冷却・加圧処理を行った。なお、冷却プレス機によって成形型体を冷却・加圧処理する間においても、成形型体内の空気は吸引(排出)し続け、成形型体内を10Torr以下の減圧状態に維持した。
(5)その後、冷却プレス機から成形型体を取り出し、成形型体内の減圧状態を大気圧状態に戻した後、成形型体内から熱可塑性樹脂複合材料成形品を得た。
【0099】
<評価>
得られた熱可塑性樹脂複合材料成形品は、厚さ約1.2mmで繊維体積含有率約60%の、成形反り等の生じていない凹型形状の成形品に仕上げられた。成形品の一部を切断し、断面観察を行ったところ、加熱・加圧時間を短縮した成形であったにもかかわらず、繊維束中に熱可塑性樹脂が均一に含浸した状態となっていること、繊維が均一に分散していることなどが確認できた。さらに、成形品の湾曲形状や角部の形状等においても成形型体の型面に沿った良好な形状で成形加工が行われていた。
【0100】
[実施例3]
以下の材料を用いて、図13で説明した成形方法により平板状の熱可塑性樹脂多層補強成形品を製造した。
<使用材料>
(補強繊維束)
炭素繊維束
三菱レイヨン株式会社製;MR60H―24K、繊維直径約5.4μm、繊維本数24000本
(熱可塑性樹脂)
ポリエーテルイミド(PEI)樹脂フィルム
三菱樹脂株式会社製;スペリオUT、厚さ15μm
(接着用熱可塑性樹脂材に使用した樹脂)
共重合ポリアミド樹脂パウダー
東レ株式会社製;CM842P48、低融点(115℃)樹脂
【0101】
<製造工程>
(1)補強繊維束MR60H―24Kを1本、24mm間隔でセットし、多数本を同時に空気開繊する公知の方法(特表2007−518890号公報参照)にて、各々の補強繊維束を幅約24mmに開繊した。
(2)幅24mmに開繊された各補強繊維開繊糸を、幅方向に振動させて、補強繊維開繊糸間に隙間がない補強繊維シート材とした。得られた補強繊維シート材は、幅約310mm、繊維目付け(単位面積当りの繊維重量)約40g/m2であった。
(3)熱可塑性樹脂シート材であるPEI樹脂フィルムの片側表面に、粉体散布装置を用いて、接着用熱可塑性樹脂材である共重合ポリアミド樹脂パウダーを均一に分散付着させた。分散量は約0.4g/m2で、補強繊維束重量の約1%の量であった。
(4)得られた補強繊維シート材の片側表面に、接着用熱可塑性樹脂材が付着した熱可塑性樹脂シート材を加熱しながら連続して貼り合わせを行った。このとき、加熱温度は約150℃に制御を行った。また、補強繊維シート材とともに離型紙(リンテック社製)を供給した。なお、補強繊維シート材に熱可塑性樹脂補強シート材を貼り合わせる速度は10m/分で行った。
(5)得られた熱可塑性樹脂補強シート材から、繊維方向を0度方向として、0度方向、90度方向、45度方向、そして−45度方向に繊維が配した320mm角のシートを切り出し、[(45度/0度/−45度/90度)3Sに積層した積層シート材を製作した。
(6)厚み1mmのCCコンポジット製の平板状の成形型体に積層シート材を設置し、その上面に厚み1mmの鉄製の平板状の成形型体を設置した後その上面に別の積層シート材を設置するようにして交互に3段に積み上げた後、最上面の成形型体と最下面の成形型体の周縁部を耐熱ゴム製のシール部材によりシールして気密構造を形成した。なお、積層シート材と成形型体との間には離型シート材(熱硬化性ポリイミドフィルム;宇部興産株式会社製、厚さ50μm)を設けた。その後、成形型体内の空気を吸引(排出)し、成形型内を10Torr以下の減圧状態に設定した。
(7)積層シート材が設置されて内部が減圧状態の成形型体を、加熱プレス機にセットした。予め370℃に昇温された加熱プレス型体の下型に成形型体を設置し、直ちに加熱プレス型体の上型を下降させて加圧を行った。このとき、加熱プレス型体の上型及び下型の型面は平面状に形成されて成形型体に対して密着して加圧するできる形状となっている。加圧圧力2MPaで、3分間の加熱・加圧処理を行った。なお、加熱プレス機によって成形型体を加熱・加圧処理する間においても、成形型体内の空気は吸引(排出)し続け、成形型体内を10Torr以下の減圧状態に維持した。
(8)加熱・加圧処理後、内部を減圧状態のまま成形型体を加熱プレス機から取り出し、冷却プレス機にセットした。予め水冷により約20℃に冷却された冷却プレス型体の下型に成形型体を設置し、直ちに冷却プレス型体の上型を下降させて加圧を行った。このとき、加熱プレス型体と同様に、冷却プレス型体の上型及び下型の型面は平面状に形成されて成形型体に対して密着して加圧できる形状となっている。加圧圧力2MPaで、3分間の冷却・加圧処理を行った。なお、冷却プレス機によって成形型体を冷却・加圧処理する間においても、成形型体内の空気は吸引(排出)し続け、成形型体内を10Torr以下の減圧状態に維持した。
(9)その後、冷却プレス機から成形型体を取り出し、成形型体内の減圧状態を大気圧状態に戻した後、成形型体内から熱可塑性樹脂複合材料成形品3枚を得た。
【0102】
<評価>
得られた熱可塑性樹脂複合材料成形品は、厚さ約0.9mmで繊維体積含有率約60%の、成形反り等が生じていない平板形状の成形品に仕上げられた。成形品の一部を切断し、断面観察を行ったところ、耐熱性樹脂であったにもかかわらず維束中への熱可塑性樹脂の含浸性、炭素繊維の分散性が良好であることを確認できた。そして、加熱・加圧時間を短縮した成形条件でも品質の良い成形品を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明において用いられる被成形材料である熱可塑性樹脂多層補強シート材の一部を示す模式図である。
【図2】熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いられる熱可塑性樹脂補強シート材の一部を示す模式図である。
【図3】熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いられる別の熱可塑性樹脂補強シート材の一部を示す模式図である。
【図4】熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いられるさらに別の熱可塑性樹脂補強シート材の一部を示す模式図である。
【図5】熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いられるさらに別の熱可塑性樹脂補強シート材の一部を示す模式図である。
【図6】熱可塑性樹脂多層補強シート材に用いられるさらに別の熱可塑性樹脂補強シート材の一部を示す模式図である。
【図7】本発明において用いられる被成形材料である別の熱可塑性樹脂多層補強シート材の一部を示す模式図である。
【図8】本発明において用いられる被成形材料であるさらに別の熱可塑性樹脂多層補強シート材の一部を示す模式図である。
【図9】被成形材料を成形型体にセットした状態を示す概略断面図である。
【図10】本発明に係る実施形態に関する工程説明図である。
【図11】本発明係る別の実施形態に関する工程説明図である。
【図12】図11のシール部材の取付に関する変形例を示す断面図である。
【図13】本発明に係るさらに別の実施形態に関する工程説明図である。
【符号の説明】
【0104】
1 熱可塑性樹脂多層補強シート材
2 熱可塑性樹脂補強シート材
3 補強繊維シート材
4 熱可塑性樹脂シート材
11 熱可塑性樹脂多層補強シート材
12 熱可塑性樹脂補強シート材
13 補強繊維シート材
14 熱可塑性樹脂シート材
100 成形型体
101 成形型体
102 排気空間
103 加熱プレス機
104 加熱プレス型体
105 加熱プレス型体
106 冷却プレス機
107 冷却プレス型体
108 冷却プレス型体
109 配管
110 シール部材
111 成形型体












【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維材料及び熱可塑性樹脂材料から構成される被成形材料を用いて熱可塑性樹脂複合材料成形品を成形する成形方法であって、前記被成形材料に対する当接部において均一な厚さに形成された一対の成形型体を用いて当該成形型体の間に前記被成形材料を配置し、前記被成形材料の周囲から内部の気体が排気可能となるように前記被成形材料の両側から前記成形型体により挟持して圧接した状態に設定し、前記成形型体の当接面と密着するように当接面が形成された一対の加熱プレス型体を用いて当該加熱プレス型体の間に前記被成形材料を挟持した前記成形型体を設置し加熱・加圧処理した後、前記成形型体の当接面と密着するように当接面が形成された一対の冷却プレス型体を用いて当該冷却プレス型体の間に加熱・加圧処理した前記成形型体を設置し冷却・加圧処理することで、前記補強繊維材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸し一体化させて成形することを特徴とする熱可塑性樹脂複合材料成形品の成形方法。
【請求項2】
前記成形型体の間に前記被成形材料の内部の気体が排気される空間を形成して前記被成形材料を圧接した状態に設定するとともに当該排気空間を減圧又は真空状態にすることを特徴とする請求項1に記載の成形方法。
【請求項3】
前記被成形材料を挟持した前記成形型体を複数積層して加熱・加圧処理及び冷却・加圧処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の成形方法。
【請求項4】
前記加熱・加圧処理は、設定温度の異なる複数の加熱プレス型体を用いて順次加熱・加圧処理を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の成形方法。
【請求項5】
前記冷却・加圧処理は、設定温度の異なる複数の冷却プレス型体を用いて順次冷却・加圧処理を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の成形方法。
【請求項6】
前記成形型体は、当接部が薄肉状に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の成形方法。
【請求項7】
前記成形型体は、炭素繊維炭素複合体材料からなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の成形方法。
【請求項8】
前記成形型体は、前記被成形材料に当接する当接面が離型処理されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の成形方法。
【請求項9】
前記被成形材料は、前記成形型体に当接する部分に離型シート材が設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の成形方法。
【請求項10】
前記被成形材料は、前記補強繊維材料を配列した層の間にマトリクスとなる前記熱可塑性樹脂材料が偏在していることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の成形方法。
【請求項11】
前記被成形材料は、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられてシート状に形成された補強繊維シート材と、当該補強繊維シート材の片面又は両面に付着した熱可塑性樹脂シート材により構成されている熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して構成されていることを特徴とする請求項10に記載の成形方法。
【請求項12】
前記補強繊維シート材及び前記熱可塑性樹脂シート材を当該熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材によって付着させていることを特徴とする請求項11に記載の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−113369(P2009−113369A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289785(P2007−289785)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】