説明

燃料性状推定装置

【課題】アルコールが混合された燃料に係る燃料性状を正確に推定する。
【解決手段】ハイブリッド車両10において、エタノール混合燃料を使用可能なエンジン200の始動時に、ECU100により始動制御が実行され、適宜当該燃料の燃料性状が推定される。この際、エンジン200が初爆状態に到達するまでのクランキング期間におけるクランキング回転速度NEkrが、エンジン200のフリクションを規定する指標値として取得される。一方、初爆以降、完爆状態に到達するまでのアシスト期間においても、MG1によるトルクアシストは継続されており、この際のトルクアシストの度合いは、燃料性状により大きく影響される。ECU100は、このトルクアシストの度合いとして、当該アシスト期間の長さを取得し、上記クランキング回転速度NEkr及び当該アシスト期間の長さに基づいて燃料性状を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールが混合された燃料を使用可能な内燃機関における燃料性状を推定する燃料性状推定装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料性状を推定する装置としては、内燃機関が始動してから完爆が開始されるまでの時間たる完爆開始時間を利用するものが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示された燃料性状判別装置及び内燃機関制御装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、当該完爆開始時間をスタータの電源電圧値及び冷却水温で補償した値と、完爆開始から内燃機関の回転数が最初にピークに至るまでの時間たるピーク回転数到達時間をスタータの電源電圧値及び冷却水温で補償した値とを加算してなる燃料性状パラメータに応じて燃料性状を正確に判別することが可能であるとされている。
【0003】
尚、機関回転数を所定領域に維持させている際のトルク検出手段の検出結果に基づいて燃料性状の判定を行う技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、モータジェネレータから検出されるトルク反力を基準トルクと比較し、アルコール濃度を推定する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−307283号公報
【特許文献2】特開2005−343458号公報
【特許文献3】特開2007−137321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術における上述した完爆開始時間は、内燃機関が始動してより完爆するまでの時間であり、スタータによるクランキングがなされる、言い換えれば内燃機関が自立回転できない時間である。従って、完爆開始時間は、燃料性状に加え、内燃機関のフリクションにも顕著に影響される。従来の技術では、このような複数の要因が完爆開始時間に与える影響の切り分けがなされておらず、如何に完爆開始時間をスタータの電源電圧及び冷却水温で補償したところで、更にはピーク回転数到達時間を当該値で補償したところで、或いはそれらを加算してなる値を燃料性状パラメータとしたところで、燃料性状を正確に把握することは困難である。また、従来の技術は、燃料としてアルコールが混合された燃料の使用が想定されていないが、この種の燃料が使用される場合、アルコールの混合状態によって燃焼性能が大きく影響を受ける点に鑑みれば、燃料性状の推定がより困難になることは自明である。即ち、従来の技術には、アルコールが混合された燃料に係る燃料性状を高精度に推定することが困難であるという技術的な問題点がある。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、アルコールが混合された燃料に係る燃料性状を正確に推定可能な燃料性状推定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明に係る燃料性状推定装置は、アルコールが混合されてなる燃料を使用可能な内燃機関及び該内燃機関に対しクランキングを含むトルクのアシストが可能なアシスト手段を備えた車両において前記燃料に係る燃料性状を推定する装置であって、前記内燃機関の始動時に前記内燃機関が前記アシストを伴って所定の完爆状態に到達するように前記アシスト手段及び前記内燃機関を制御する制御手段と、前記内燃機関のフリクションの度合いを特定する第1の特定手段と、前記内燃機関が所定の初爆状態に到達してより前記完爆状態に到達するまでのアシスト期間の少なくとも一部における前記アシストの度合いを特定する第2の特定手段と、前記特定されたフリクションの度合い及びアシストの度合いに基づいて前記燃料性状を推定する推定手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る「内燃機関」とは、少なくとも一の気筒を備え、当該気筒の各々において燃料が燃焼(好適には、燃料と空気の混合気が燃焼)した際に生じる動力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランクシャフト等の各種物理的又は機械的な伝達経路を経て車両の駆動力として取り出すことが可能に構成された機関であり、本発明では特に、燃料として例えばエタノール等の各種アルコールが混合されてなる燃料(以下、適宜「アルコール混合燃料」と称する)を使用可能に構成された機関を包括する概念である。
【0010】
ここで、「アルコール混合燃料」とは、例えば好適な一形態としてガソリンとアルコールとの混合体であり、本発明においては、その混合割合は特に限定されない。即ち、本発明に係るアルコール混合燃料とは、アルコール濃度(重量濃度であっても体積濃度であってもよい)として0%から100%までの値を採り得る趣旨である。また、アルコール混合燃料は、例えば給油時においてアルコール混合燃料として燃料タンク等の貯留手段に取り込まれてもよいし、例えばガソリン等の被混合体用の貯留手段とは異なる貯留手段に取り込まれ、内燃機関に対し燃料の供給がなされるに際して適宜混合されてもよい。
【0011】
一方、本発明に係る内燃機関を備える本発明に係る車両には、内燃機関に対しトルクのアシストが可能な手段を包括する概念としてのアシスト手段が備わる。ここで、「トルクのアシスト」とは、内燃機関が出力するトルクを補助することの他に、内燃機関が自発的にトルクを出力していない状況において内燃機関を物理的に駆動するためのトルクを供給するクランキングを含む概念である。
【0012】
このような概念の範囲において、アシスト手段の構成、とりわけその物理的、機械的、機構的又は電気的な構成は何ら限定されず、アシスト手段は、例えば好適な一形態として、主としてクランキングに使用されるスタータモータ、或いは内燃機関と共に車両の駆動力源として使用される相対的に定格及び体格の大きいモータやモータジェネレータ等の形態を採ってもよい。また、当該トルクのアシストに供されるトルク(以下、適宜「アシストトルク」と称する)を内燃機関に対し供給するための構成は、当該トルクのアシストを可能とする限りにおいて限定されず、例えば、アシスト手段の回転軸が内燃機関の回転軸と同軸に構成されていてもよいし、アシスト手段が、例えば各種軸体、並びに各種ギア、ギア機構、ギア装置及びギアシステム等を介して内燃機関と連結されていてもよい。
【0013】
本発明に係る燃料性状推定装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る制御手段が、内燃機関の始動時において、内燃機関が上述したアシストを伴って所定の完爆状態に到達するようにアシスト手段及び内燃機関を制御する。
【0014】
ここで、「始動時」とは、好適な一形態としては、例えば内燃機関を始動させる旨の各種入力(例えば、ドライバがイグニッションキーを操作すること、或いはスタートボタンを物理的に押下又はワイヤレスに操作すること等により生じ得る各種信号の入力等)がなされた場合等を指し、物理的に停止した状態にある内燃機関を始動させるべきタイミングを包括する概念である。
【0015】
本発明に係る「完爆状態」とは、少なくともアシストトルクの付与を理論的に、実質的に又は現実的に必要としない、アシストトルクの付与を停止した場合に燃焼安定性、回転変動又はトルク変動等の不具合が少なくとも実践上看過し得ない程度に顕在化しない、或いはアシストトルクの付与を停止した場合に失火しない状態等を包括する概念であり、より具体的には、例えば内燃機関の機関回転速度が、例えば自立回転可能速度又は当該自立回転可能速度以上のアイドル回転速度等、予め設定される目標回転速度に到達した状態等を指す。
【0016】
即ち、制御手段の制御下でなされるアシストトルクの付与は、物理的に停止した状態にある内燃機関を強制的に回転駆動するクランキングを含み、当該クランキングと好適には連動してなされる内燃機関の動作制御(例えば、吸入空気量、燃料噴射量、点火時期又は吸気若しくは排気バルブのバルブタイミング、作用角若しくはリフト量の制御等)を経て初爆を迎えた内燃機関に対し更に継続してなされるものである。
【0017】
本発明に係る燃料性状推定装置によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第2の特定手段により、内燃機関が所定の初爆状態に到達してより上述した完爆状態に到達するまでのアシスト期間の少なくとも一部におけるアシスト手段を介したアシストの度合いが特定される。尚、「所定の初爆状態」とは、アシスト手段によるアシストトルクの付与を経てクランキングがなされ且つ上述した内燃機関の制御がなされる過程で最初の爆発を迎えた状態を好適な一形態として含み、少なくとも実践的にみて後述する燃料性状の推定精度に顕著な影響を与えない程度に数回の爆発を経た状態を含む趣旨である。総体的には、初爆状態とは、始動時において時系列上幾らなりのトルクが発生し始めた付近の内燃機関の状態である。尚、初爆状態を迎える以前のクランキング期間においては、アシスト手段を介して付与されるアシストトルクが一定であれば、内燃機関の機関回転速度は、内燃機関のフリクションと釣り合う概ね一定の値に収束し得る。従って、初爆を迎える前後で内燃機関の機関回転速度には少なくともその検出が困難とならない程度の変化が、好適には比較的顕著な変化が生じ易く、内燃機関が初爆状態に到達したか否かに係る判断は、少なくとも実践的にみて過度な困難を伴わない。
【0018】
ここで、初爆状態を迎えてより完爆状態を迎えるまでのアシストの度合い(即ち、アシストトルクの付与の度合い)は、燃料中のアルコール濃度或いは燃料が重質であるか軽質であるか等といった概念を含むものとしての内燃機関の燃料性状に大きく影響される。
【0019】
例えば、燃料が相対的に重質であれば、燃料の着火性を含む燃焼性は相対的に低下するから、少なくとも完爆状態を規定する各種の条件が実質的に不変であれば、内燃機関を完爆状態に到達せしめるのに要するアシストの度合いは大きくなり、反対に、燃料が軽質であれば、当該燃焼性は相対的に上昇するから、当該アシストの度合いは小さくて済む。また、アルコールの気化潜熱が燃焼温度の低下を招く(このような燃焼温度の低下は、通常の内燃機関の動作においてはノッキング抑制等の各種利点を伴う)ことに鑑みれば、燃料中のアルコール濃度が相対的に高い場合、少なくとも始動時においては、内燃機関の燃焼性が幾らかなり損われることとなり、内燃機関を完爆状態に到達せしめるのに要するアシストの度合いは大きくなり、反対にアルコール濃度が相対的に低い場合には、当該アシストの度合いは小さくて済む。従って、燃料性状は、初爆から完爆までのアシスト期間におけるアシストの度合いに基づいて好適に推定され得る。
【0020】
尚、本発明における「特定」とは、例えば、特定対象を何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する電気信号等として検出すること、何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に例えば電気信号等の形で検出された、特定対象と対応関係を有する物理的数値に基づいて予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択すること、このような物理的数値又は選択された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式に従って導出すること、或いはこのように検出、選択又は導出された数値等を、例えば電気信号等の形で単に取得すること等を包括する広い概念である。第2の特定手段は、係る概念の範囲内において、例えば、当該アシスト期間の長さ、当該アシスト期間に投入されたエネルギの量(例えば電力又は電力量)、当該アシスト期間におけるアシストトルクの値又は機関回転速度等として、当該アシストの度合いを特定してもよい。
【0021】
第2の特定手段により特定される、初爆状態から完爆状態に到達せしめるのに要するアシストの度合いは、少なくともクランキング自体には燃料性状が影響しない(クランキング期間の長さには影響し得る)ことに鑑みれば、少なくともクランキングの開始時点から内燃機関が完爆するまでの期間のアシストの度合いと較べれば明らかに燃料性状と高い相関を有しており、それ自体上述したように燃料性状を推定する指標として有効である。
【0022】
一方、初爆から完爆に至るまでのアシストの度合いは、内燃機関のフリクションにも影響を受ける。例えば、燃料が、燃焼性が高い旨に相当する燃料性状を有していたとして、内燃機関のフリクションが大きければ、初爆以降にも相対的に大きなアシストトルクが必要となるし、逆に、燃料が、燃焼性が低い旨に相当する燃料性状を有していたとして、内燃機関のフリクションが小さければ、初爆以降に必要とされるアシストトルクは小さくなり得る。従って、内燃機関のフリクションが考慮されない場合、当該アシストの度合いに基づいて推定される燃料性状は、内燃機関がその実使用環境として採り得る範囲で実践上フリクションがどの程度変化し得るかは別として、少なくとも不確定要素として幾らかなりの誤差を含み得る。
【0023】
そのような問題に対処すべく、本発明に係る燃料性状推定装置によれば、制御手段の制御下で内燃機関が始動すると、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第1の特定手段により、内燃機関のフリクションの度合いが特定される。ここで、本発明に係る「フリクションの度合い」とは、例えば潤滑油の粘性抵抗や循環供給状態等に応じて変化し得る、例えば、ピストン、コネクティングロッド及びクランクシャフト等各種駆動力の伝達部材並びにそれらを支持する各種軸受け等を好適な一形態として含む内燃機関の各種摺動部の物理的又は機械的な摩擦抵抗の度合い等を指す。
【0024】
このようなフリクションの度合いは、例えば段階的な又は連続的に変化し得る指標値として、また直接この種のフリクションの度合いを表す、或いは間接的にこの種のフリクションの度合いを表す(即ち、フリクションの度合いとして代替し得る)各種の指標値として特定される。第1の特定手段の構成は、この種のフリクションの度合いが、燃料性状の推定に係る推定精度を少なくとも実践上不足無く担保し得る程度に特定され得る限りにおいて何ら限定されない趣旨である。
【0025】
本発明に係る燃料性状推定装置によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る推定手段により、この特定されたフリクションの度合い及びアシストの度合いに基づいて燃料性状が推定される。この際、これら各指標に基づいて燃料性状を推定する態様は、何ら限定されないが、好適な一形態として推定手段は、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、少なくとも実践上不足のない精度を与えられてなる、これら指標値と燃料性状を規定する値との対応関係に基づいて燃料性状を推定してもよい。この種の対応関係は、予めマップ化された形で然るべき記憶手段に格納されていてもよいし、数値演算式や数値演算用アルゴリズム等の形で然るべき記憶手段に格納されていてもよい。
【0026】
このように、本発明に係る燃料性状推定装置によれば、内燃機関のフリクションを考慮しつつ、初爆状態に到達してより完爆状態に到達するまでのアシスト期間におけるアシストの度合いに基づいて燃料性状を推定することができる。即ち、当該アシスト期間におけるアシストの度合いにおける当該フリクションの影響を排除することによって、燃料性状を正確に推定することが可能となるのである。
【0027】
本発明に係る燃料性状推定装置の一の態様では、前記推定手段は、前記内燃機関が冷間始動される場合に、前記特定されたフリクションの度合い及びアシストの度合いに基づいて前記燃料性状を推定する。
【0028】
この態様によれば、例えば上述した内燃機関のフリクションが燃料性状の推定精度に実践上看過し得ない影響を与え得る程度に変化し得る低温時に内燃機関が始動される場合にフリクションの度合いが考慮される。内燃機関のフリクションは、顕著な一例としては、外気温、冷却水温或いは潤滑油温度等、潤滑油の粘性抵抗を規定し得る車両内外の温度条件によって変化し得る。従って、少なくともこのような燃料性状の推定精度に影響が及び得るものとしての冷間始動時に優先的に、或いはこのような場合に限ってフリクションの度合いが考慮された場合には、本発明に係る燃料正常推定装置の効果がより顕著に現れる。
【0029】
本発明に係る燃料性状推定装置の他の態様では、前記第1の特定手段は、前記フリクションの度合いとして、前記内燃機関が前記初爆状態に到達するまでのクランキング期間の少なくとも一部における前記内燃機関の運転条件を特定する。
【0030】
この態様によれば、第1の特定手段は、フリクションの度合いとして、クランキング期間の少なくとも一部における内燃機関の運転条件を特定する。上述したように、燃料性状は、燃焼が生じないクランキング期間において、内燃機関の物理的又は機械的駆動状態に実践上有意な影響を及ぼすことはなく、クランキング期間における内燃機関の運転条件は、フリクションの影響を顕著に表す指標となり得る。即ち、この態様によれば、内燃機関のフリクションを簡便に且つ高精度に特定することが可能となる。
【0031】
尚、この態様では、前記クランキング期間の少なくとも一部における内燃機関の運転条件は、前記内燃機関の機関回転速度であってもよい。
【0032】
機関回転速度は、少なくともアシスト手段から付与されるアシストトルク(この場合、クランキングトルク)、或いはアシスト手段における投入エネルギ(例えば、投入電力等)が一定であれば、内燃機関のフリクションと釣り合う一定値に収束し得る。また、いずれにせよ機関回転速度は、内燃機関のフリクションの影響を顕著に受ける。従って、クランキング期間の少なくとも一部における機関回転速度の値は、内燃機関のフリクションを規定する指標値として実践上極めて有効である。
【0033】
また、内燃機関の動作状態に基づいてフリクションの度合いが特定される本発明に係る燃料性状推定装置の一の態様では、前記車両の運転条件に応じて前記フリクションの度合いを補正する第1の補正手段を更に具備し、前記推定手段は、前記補正されたフリクションの度合いに基づいて前記燃料性状を推定する。
【0034】
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第1の補正手段により、例えばVVT(Variable Valve Timing:可変動弁装置)等により可変とされるバルブタイミングの進角量又は各バルブのリフト量(即ち、内燃機関のコンプレッション反力の変化を生じさせ得る制御量)、アシスト手段における投入エネルギ(例えば、投入電力)又はアシストトルク(即ち、ここではクランキングトルク)、或いは外気温、冷却水温又は潤滑油温、摺動部位の潤滑状態又は潤滑油の循環供給状態を規定する指標値等、フリクションの特定に実践上有意な影響を与え得るものとして規定される車両の運転条件に基づいてフリクションの度合いが補正される。一方、推定手段は、この補正されたフリクションの度合いに基づいて燃料性状を推定するため、燃料性状の推定精度は、車両の運転条件によらず担保され、実践上有益である。
【0035】
尚、第1の補正手段に係る補正は、フリクションの度合いの特定がなされた後にこれら運転条件を反映する形でなされてもよいし、フリクションの度合いを特定する動作の一部として、フリクションの度合いの特定と同時になされてもよい。即ち、第1の特定手段により特定されるフリクションの度合いは、既にこの種の車両の運転条件を反映した補正に相当する処理を経たものであってよい。
【0036】
本発明に係る燃料性状推定装置の他の態様では、前記第2の特定手段は、前記アシスト期間の少なくとも一部におけるアシストの度合いとして、前記アシスト期間の長さ、前記内燃機関の機関回転速度及び前記アシスト手段の出力状態を規定する指標値のうち少なくとも一つを特定する。
【0037】
この態様によれば、アシスト期間の長さ、アシスト期間における機関回転速度、及び例えばアシスト手段の出力状態を規定する、例えばアシストトルクの値等が特定される。従って、推定手段は、燃料性状と高い相関を有し得るこれら各種の指標値から導出され得る、例えば機関回転速度の時間推移を規定する値又は当該時間推移を規定する値の基準値(例えば、ベースとなる燃料性状に対応する値等)との偏差、アシストトルクの時間推移を規定する値又は当該アシストトルクの時間推移を規定する値の基準値との偏差、アシスト手段を駆動するエネルギの時間積算値(即ち、アシストトルクと回転速度との積と一義的である)等に基づいて、燃料性状を高精度に推定することが可能となる。
【0038】
本発明に係る燃料性状推定装置の他の態様では、前記車両の運転条件に応じて前記燃料性状を補正する第2の補正手段を更に具備する。
【0039】
例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第2の補正手段により、例えば、点火時期、吸入空気量或いは燃料噴射量等、内燃機関において燃焼性能を規定する運転条件、アシスト手段から付与されるアシストトルク又はアシスト手段における投入エネルギ等を含む、燃料性状の推定に実践上有意な影響を与え得る物として規程される車両の運転条件に応じて燃料性状が補正される。従って、燃料性状を高精度に推定することが可能となる。
【0040】
尚、第2の補正手段に係る補正は、燃料性状の推定がなされた後にこれら運転条件を反映する形でなされてもよいし、燃料性状を推定する動作の一部として、燃料性状の推定と同時になされてもよい。即ち、推定手段により特定される燃料性状は、既にこの種の車両の運転条件を反映した補正に相当する処理を経たものであってよい。
【0041】
本発明に係る燃料性状推定装置の他の態様では、前記推定された燃料性状を学習する学習手段を更に具備し、前記制御手段は、次回以降の前記始動時において前記学習された燃料性状に基づいて前記内燃機関及び前記アシスト手段を制御する。
【0042】
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る学習手段により、推定された燃料性状が、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて内燃機関を始動させるに際しての制御条件に実践上有意な変更を加えるべきか否かを規程すべく設定される判断基準等に基づいて更新すべき旨の判断がなされた場合等に前回値から更新される等の態様を伴って学習され、学習値が次回以降の始動時に反映されるため、例えば、アシスト手段においてエネルギを可及的に効率的に利用しつつ内燃機関を可及的に迅速に始動させるといった、実践上の高い利益が提供される。
【0043】
本発明に係る燃料性状推定装置の他の態様では、前記車両は、前記内燃機関と共に前記車両の駆動力源として機能し、且つ少なくとも一部が前記アシスト手段として機能する少なくとも一つの電動機を有するハイブリッド車両である。
【0044】
この態様によれば、車両には、内燃機関に加え、駆動力源として例えば、モータ或いはモータジェネレータ等の形態を採り得る電動機が少なくとも一つ備わり、例えばインバータや各種のPCU(Power Control Unit)等を介した、電流制御、電圧制御又は電力制御等各種の動力制御により、少なくとも内燃機関の機関出力軸に対し、直接的に又は間接的に、例えばバッテリ等のエネルギ源からの放電電力に応じた駆動力を出力可能に構成される。従って、本発明に係るトルクのアシストを、少なくとも実践上何ら不足の生じない範囲で実現することが可能となる。
【0045】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
【0047】
<実施形態の構成>
<ハイブリッド車両の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10のブロック図である。
【0048】
図1において、ハイブリッド車両10は、減速機構11、車軸12及び車輪13、並びにECU100、エンジン200、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、動力分割機構300、PCU(Power Control Unit)400、バッテリ500及びSOC(State Of Charge:充電状態)センサ600を備えた、本発明に係る「車両」の一例である。
【0049】
減速機構11は、エンジン200及びモータジェネレータMG2から出力された動力に応じて回転可能に構成された、デファレンシャルギア(不図示)等を含んでなるギア機構であり、これら駆動力源の回転速度を所定の減速比に従って減速可能に構成されている。減速機構11の出力軸は、車軸12に連結されており、これら動力源の動力は、回転速度が減速された状態で車軸12に伝達されるように構成されている。尚、減速機構11の構成は、エンジン200及びモータジェネレータMG2から供給される駆動力を、その駆動力に基づいた軸体の回転速度を減速しつつ車軸11に伝達可能である限りにおいて何ら限定されず、単にデファレンシャルギア等を含んでなる構成を有していてもよいし、複数のクラッチ及びブレーキ並びに遊星歯車機構により構成される所謂リダクション機構や変速機構として複数の変速比を得ることが可能に構成されていてもよい。
【0050】
車軸12は、減速機構11を介して伝達されるエンジン200及びモータジェネレータMG2から出力された駆動力を車輪13に伝達するための駆動軸である。
【0051】
車輪13は、車軸12を介して伝達される動力を路面に伝達する駆動輪である。
【0052】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「燃料性状推定装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する始動制御を実行することが可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「制御手段」、「第1の特定手段」、「第2の特定手段」、「推定手段」、「第1の補正手段」、「第2の補正手段」及び「学習手段」の夫々一例として機能する一体の電子制御ユニットであるが、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成は、これに限定されるものではなく、例えば複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0053】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能する。尚、エンジン200の詳細な構成については後述する。
【0054】
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「アシスト手段」及び「電動機」の一例たる電動発電機であり、バッテリ500を充電するための或いはモータジェネレータMG2に電力を供給するための発電機として、更にはエンジン200の駆動力をアシストするための電動機として機能するように構成されている。
【0055】
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「電動機」の他の一例たる電動発電機であり、エンジン200の動力をアシストする電動機として、或いはバッテリ500を充電するための発電機として機能するように構成されている。
【0056】
尚、これらモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。但し、他の形式のモータジェネレータであっても構わない。
【0057】
動力分割機構300は、エンジン200の出力をMG1及び車軸12へ分配することが可能に構成された遊星歯車機構である。
【0058】
ここで、図2を参照して、動力分割機構300の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、動力分割機構300とその周辺部の関係を示す模式図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0059】
図2において、動力分割機構300は、中心部に設けられたサンギア303と、サンギア303の外周に同心円状に設けられたリングギア301と、サンギア303とリングギア301との間に配置されてサンギア303の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア305と、後述するクランクシャフト205の端部に結合され、各ピニオンギアの回転軸を軸支するプラネタリキャリア306とを備える。
【0060】
また、サンギア303は、サンギア軸304を介してMG1のロータ(符合は省略)に結合され、リングギア301は、リングギア軸302を介してMG2の不図示のロータに結合されている。リングギア軸302は、車軸12と連結されており、MG2が発する動力は、リングギア軸302を介して車軸12へと伝達され、同様に車軸12を介して伝達される車輪13からの駆動力は、リングギア軸302を介してMG2に入力される。
【0061】
係る構成の下、動力分割機構300は、エンジン200が発する動力を、プラネタリキャリア306とピニオンギア305とによってサンギア303及びリングギア301に伝達し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。
【0062】
図1に戻り、PCU400は、バッテリ500から取り出した直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給することが可能なインバータ、昇圧コンバータ及びDC−DCコンバータ等を含んでなる電力制御ユニットである。モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2は、このPCU400を介してバッテリ500との間で電力の入出力を行うことが可能に構成されている。尚、PCU400は、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により上位に制御される構成となっている。
【0063】
バッテリ500は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電池である。
【0064】
SOCセンサ600は、バッテリ500のSOCを検出することが可能に構成されたセンサである。SOCセンサ600は、ECU100と電気的に接続されており、SOCセンサ600によって検出されたSOCは、ECU100によって常に、或いは一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0065】
ここで、図3を参照し、エンジン200の構成について説明する。ここに、図3は、エンジン200の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0066】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。また、クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。
【0067】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210において、インジェクタ212から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に圧送供給されている。尚、燃料を噴射する噴射手段の形態は、図示するような所謂吸気ポートインジェクタの構成を採らずともよく、例えば、フィードポンプ或いは他の低圧ポンプにより圧送される燃料の圧力を更に高圧ポンプによって昇圧せしめ、高温高圧の気筒201内部へ燃料を直接噴射することが可能に構成された、所謂直噴インジェクタ等の形態を有していてもよい。尚、本実施形態において、燃料タンクに貯留されインジェクタ212から噴射される燃料は、ガソリンとエタノールの混合燃料(即ち、本発明に係る「アルコールが混合された燃料」の一例)たるエタノール混合燃料であり、エンジン200は、当該エタノール混合燃料のエタノール濃度として0%から100%の値を採り得るように構成されている。即ち、ハイブリッド車両10は、一種のFFV(Flexible Fuel Vehicle)として構成されている。
【0068】
気筒201内部と吸気管207とは、吸気バルブ211の開閉によってその連通状態が制御されている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0069】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節するスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的にはアクセルポジションセンサ800により検出されるアクセル開度に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するように構成されるが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ209は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0070】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能な触媒である。この三元触媒216には、三元触媒216の温度たる触媒床温を検出するための触媒床温センサ217が設置されている。触媒床温センサ217は、ECU100と電気的に接続されており、検出された触媒床温は、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期で把握される構成となっている。また、排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ218が設置されている。また、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータジャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ219が配設されている。空燃比センサ218及び水温センサ219は、ECU100と電気的に接続されており、各々検出された空燃比及び冷却水温は、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0071】
<実施形態の動作>
<ハイブリッド車両10の基本動作>
図1のハイブリッド車両10においては、主として発電機として機能するモータジェネレータMG1、主として電動機として機能するモータジェネレータMG2、及びエンジン200相互間の動力配分が、ECU100及び動力分割機構300により制御され、その走行状態が制御される。
【0072】
例えば、ハイブリッド車両10の始動時においては、バッテリ500に蓄積された電力を用いてモータジェネレータMG1が電動機として駆動される。このモータジェネレータMG1のアシストトルクによってエンジン200がクランキングされエンジン200が始動する。
【0073】
発進時には、SOCセンサ600の出力信号に基づいたバッテリ500の充電状態に応じて2種類の動作状態が選択的に実現される。例えば、通常の(即ち、SOCが良好な或いは良好とみなし得る)発進時においては、モータジェネレータMG1によってバッテリ500を充電する必要は生じないため、エンジン200は暖機のためだけに始動し、ハイブリッド車両10は、バッテリ500に蓄積された電力を用いたモータジェネレータMG2の動力により(即ち、このMG2からの動力出力に供される電力は、本発明に係る「放電電力」の一例である)発進する。一方、充電状態が良好ではない(即ち、SOCが低下している、或いは低下しているとみなし得る)場合、エンジン200の動力によりモータジェネレータMG1が発電機として機能し、バッテリ500が充電される。
【0074】
例えば、低速走行時や緩やかな坂を下っている場合には、比較的エンジン200の効率が悪い為、インジェクタ212を介した燃料の噴射が停止されることにより燃焼を伴うエンジン200の駆動が停止され、ハイブリッド車両10は、モータジェネレータMG2による動力のみで走行する。尚、この際、SOCが低下していれば、エンジン200はモータジェネレータMG1を駆動するために始動し、モータジェネレータMG1によりバッテリ500の充電が行われる。
【0075】
エンジン200の燃費或いは燃焼効率が比較的良好な運転領域においては、ハイブリッド車両10は主としてエンジン200の動力によって走行する。この際、エンジン200の動力は、動力分割機構300によって2系統に分割され、一方は、車軸12を介して車輪13に伝達され、他方は、モータジェネレータMG1を駆動して発電に供される。更に、この発電された電力により、モータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2によりエンジン200の動力がアシストされる。尚、この際、SOCが低下している場合には、エンジン200の出力を上昇させて、モータジェネレータMG1により発電された電力の一部がバッテリ500へ充電される。
【0076】
減速が行われる際には、車輪13から車軸12を介して伝達される動力によってモータジェネレータMG2を回転させ、モータジェネレータMG2を発電機として動作させる。これにより、車輪13の運動エネルギの一部が電気エネルギに変換され、バッテリ500が充電される、所謂「回生」が行われる。
【0077】
<エンジン200の基本制御>
次に、エンジン200の基本的な制御動作について説明する。ECU100は、エンジン200に要求される出力であるエンジン要求出力を、一定の周期で繰り返し演算している。この際、ECU100は、不図示のアクセルポジションセンサによって検出されるアクセル開度(即ち、要求負荷に相当する)、及び例えば車速センサ等によって検出されるハイブリッド車両10の車速に基づいて、予めROMに格納されたマップから現時点におけるアクセル開度及び車速に対応した出力軸トルク(車軸12に出力されるべきトルク)を算出する。更に、ECU100は、SOCセンサ600の出力信号に基づいて要求発電量を求め、要求発電量と各種の補機類(エアコンやパワーステアリング等)の要求量とを参照して出力軸トルクを補正することによって、エンジン要求出力を算出する。
【0078】
尚、エンジン要求出力の演算方法は公知のハイブリッド車両で実行されている通りでよく、その細部は必要に応じて種々変更されてよい。例えば、ECU100は、駆動輪たる車輪13に要求される駆動力たる要求駆動力を、予めROMに格納された駆動力マップから、車速及びアクセル開度に基づいて選択的に取得し、更にこの要求駆動力、車速及び駆動輪の半径に基づいて(具体的には、これらの乗算処理等を経て)、要求出力の基準値を算出すると共に、この基準値をバッテリ500の要求発電量や各種補器類の要求出力とに基づいて補正することにより要求出力を算出してもよい。
【0079】
<始動制御の詳細>
エンジン200は、上述したようにエタノール混合燃料を使用可能に構成されている。エタノール混合燃料は、エタノールの気化潜熱に起因して、特に始動時においてエンジン200の燃焼性能を低下させ易い。また、エンジン200では、エタノール濃度に応じて燃料の最適な空燃比が変化するため、当該エタノール濃度を含む燃料性状は正確に特定されている必要がある。そこで、ハイブリッド車両10では、ECU100がエンジン200を始動させるべく始動制御を行う過程において、適宜燃料性状が検出される構成となっている。
【0080】
ここで、図4を参照し、始動制御の詳細について説明する。ここに、図4は、始動制御のフローチャートである。
【0081】
図4において、ECU100は、エンジン200の始動タイミングであるか否かを判別する。イグニッションキーの操作やエンジンスタートボタンの押下等、エンジンの始動を要求する旨の何らの操作もなされていない場合(ステップS101:NO)、ECU100は、始動タイミングが訪れるまでステップS101に係る処理を繰り返し、処理を実質的に待機状態に制御する。尚、ここでは、このような主としてドライバの操作による始動入力の有無が判別されるが、ハイブリッド車両10は、駆動力源としてモータジェネレータMG1及びMG2を備えており、運転状況によっては適宜エンジン200は停止する。従って、このようなドライバの意思に基づいた操作とは別に、適宜ECU100側でエンジン200を始動の要否は判別されており、ドライバ側から見て自動的にエンジン200が始動する場合も当然生じ得る。ステップS101に係る始動タイミングとは、この種の自動的な入力が生じたタイミングを含んでもよい。
【0082】
エンジン200の始動タイミングである場合(ステップS101:YES)、ECU100は、燃料性状の過去の学習値が存在するか否かを判別する(ステップS102)。尚、燃料性状の学習値については後述する。燃料性状の学習値が存在しない場合(ステップS102:NO)、処理はステップS104に移行される。一方、燃料性状の学習値が存在する場合(ステップS102:YES)、ECU100は、更に、燃料性状の学習タイミングであるか否かを判別する。燃料性状の学習タイミングであるか否かは、例えば、前回の学習が行われてからの給油動作の有無及び前回の学習が行われてからの経過時間等に基づいて判別される。例えば、新規に給油がなされた場合や、前回の学習から相当程度の時間が経過している場合には、燃料性状が物理的に又は相分離等により実質的に変化している可能性があるため、学習条件である旨の判別がなされる。
【0083】
燃料性状の学習条件である場合(ステップS103:YES)、ECU100は、ハイブリッド車両10の運転条件を取得する(ステップS104)。ステップS104に係る処理では、外気温及び冷却水温が取得される。ステップS104に係る処理において取得される外気温及び冷却水温は、本発明に係る第1及び第2の補正手段の動作に係る「車両の運転条件」の一例である。
【0084】
車両の運転条件が取得されると、ECU100は、エンジン200の駆動条件を決定する(ステップS105)。ここで、本実施形態に係るエンジン200の駆動条件とは、燃料噴射量、吸入空気量及び点火時期を指す。尚、この際、エンジン200の駆動条件は、予め設定されたベース条件に設定される。ベース条件とは、ベースとなる燃料性状において実験的に適合された駆動条件である。
【0085】
続いて、ECU100は、モータジェネレータMG1の駆動条件を決定する(ステップS106)。始動時のMG1の駆動条件は、基本的には固定された条件であるが、SOCセンサ600により検出されるその時点のバッテリ500のSOCに応じて適宜補正がなされる。例えば、SOCが低下している場合には、MG1に対し供給される電力(投入電力)は、基本条件よりも低く抑制され、SOCが十分に高い場合には、場合により投入電力は基本条件よりも増やされる。
【0086】
MG1の駆動条件が決定されると、ECU100は、PCU400を介してMG1を駆動し、モータアシストを開始する(ステップS107)。尚、この時点では、エンジン200において爆発は生じておらず、エンジン200はモータジェネレータMG1によりクランキングされる。即ち、この段階においてモータジェネレータMG1から出力されるアシストトルクとは、クランキングトルクを指す。
【0087】
クランキングが開始されると、ECU100は、エンジン200が初爆状態に到達したか否かを判別する(ステップS108)。未だ初爆を迎えない場合(ステップS108:NO)、クランキングは継続され、処理はステップS108で待機状態に制御される。一方、エンジン200が初爆を迎えた場合(ステップS108:YES)、ECU100は、クランキング時の機関回転速度たるクランキング回転速度NEkrを取得する(ステップS109)。尚、クランキング回転速度NEkrについては後述する。
【0088】
次に、ECU100は、エンジン200が完爆状態に到達したか否かを判別する(ステップS110)。ここで、本実施形態において、エンジン200が完爆状態に到達するまでモータジェネレータMG1からのアシストトルクの付与は継続される。完爆状態に到達したか否かの判別は、エンジン200の機関回転速度NEが、予め設定される目標回転速度(即ち、完爆判定用の機関回転速度)に到達したか否かに基づいて行われる。例えば、この目標回転速度は、概ね1000rpm前後の値に設定される。完爆に至らない場合(ステップS110:NO)、処理はステップS110において待機状態に制御され、トルクのアシストが継続される。
【0089】
一方、エンジン200が完爆した場合(ステップS110:YES)、ECU100は、エンジン200が初爆を迎えてから完爆するまでの時間たるアシスト時間Tassを取得する(ステップS111)。アシスト時間Tassが取得されると、ECU100は、この取得されたアシスト時間Tassに基づいて、燃料性状を推定する(ステップS112)。
【0090】
ここで、図5を参照して、燃料性状の推定に係る動作について補足する。ここに、図5は、始動制御の実行過程におけるエンジン200の各種指標値のタイミングチャートである。
【0091】
図5において、上段から順に、エンジン200の出力トルクたるエンジントルクTreg、モータジェネレータMG1の出力トルクたるMG1トルクTrm、及び機関回転速度NEの三種類の指標値に係る特性が表示される。また、これら三種類の特性における横軸は、夫々共通の経過時間に設定されている。即ち、図5では、これら三種類の指標値の時間特性が表されている。
【0092】
図5において、時刻T0にエンジン200の始動が開始されたとする。この場合、時刻T0からモータジェネレータMG1からのアシストトルク(この段階では、クランキングトルク)の付与が開始され、MG1トルクTrmの軌跡は、図示PRF_BSE2(実線参照)として示す如く上昇する。ここで、既に述べたように、モータジェネレータMG1の駆動条件たる投入電力は、場合により可変であるにせよ少なくとも一の始動時において一定となるように管理される。従って、始動後相応の経過時間を経て、機関回転速度NEがエンジン200のフリクションと釣り合う値に収束すると、MG1トルクTrmは、当該投入電力と機関回転速度NE(この場合、モータジェネレータMG1の回転速度と一義的である)とによって一義的に定まる一定のトルク値Trm1に収束する。
【0093】
ここで、このフリクションと釣り合う一定の機関回転速度NEが、上述したクランキング回転速度NEkrである。クランキング回転速度NEkrは、エンジン200のフリクションが大きければエンジン200がMG1トルクTrmをより多く消費するため低下し、フリクションが小さければエンジン200がMG1トルクTrmを消費する量が相対的に減少するため上昇する。即ち、クランキング回転速度NEkrは、エンジン200のフリクションを規定する指標値として利用することができ、本発明に係る「フリクションの度合い」の一例であり、また「クランキング期間の少なくとも一部における内燃機関の運転条件」の一例をなす。
【0094】
一方、クランキングが継続される過程においてエンジン200が初爆を迎えると、エンジン200が自発的にトルクを発生する。図5においては、時刻T1が、エンジン200が初爆状態に到達した時刻に相当しており、時刻T1を境に、エンジントルクTregは上昇を開始する。他方、時刻T1においてエンジン200が初爆すると、増加したエンジントルクTregに応じて機関回転速度NEは上昇を開始する。従って、機関回転速度NEの値は、初爆前後において、比較的明確に変化する。
【0095】
このため、ECU100は、機関回転速度NEの変化により、エンジン200が初爆したか否かに係る判別(図4におけるステップS108に係る処理)を簡便に且つ正確に実行することが可能である。また、MG1トルクTrmは、モータジェネレータMG1の投入電力に変化がないため、時刻T1において機関回転速度NEが上昇し始めるのに伴い減少を開始する。
【0096】
ここで、初爆以降の各指標値は、燃料の燃焼特性(即ち、燃料性状と相関する)に応じて大きく変化する。図5において、エタノール濃度が相対的に高い(即ち、燃焼特性が相対的に良好な旨に相当する)燃料が使用された場合と、エタノール濃度が相対的に低い(即ち、燃焼性の相対的に悪い旨に相当する)燃料が使用された場合について、夫々の特性を表すと、エンジントルクTregの特性は、前者がPRF_BSE1(実線参照)であり、後者がPRF_ALC1(破線参照)である。また、MG1トルクTrmの特性は、前者がPRF_BSE2(実線参照)であり、後者がPRF_ALC2(破線参照)である。更に、機関回転速度NEの特性は、前者がPRF_BSE3(実線参照)であり、後者がPRF_ALC3(破線参照)である。
【0097】
図示する通り、燃料の燃焼性が悪い場合、燃焼が安定しないため、必然的にエンジン200のトルクの立ち上がりは遅くなる。その結果、機関回転速度NEの上昇が遅くなる。反対に、燃料の燃焼性が良好であれば、必然的にエンジン200のトルクの立ち上がりは早くなり、機関回転速度NEの上昇も早くなる。例えば、完爆の判別に供すべき目標回転速度をNEtg(NEtg>NEkr)とすると、燃焼性が良好な燃料に相当する特性では、時刻T2においてエンジン200は完爆状態に到達し、燃焼性が悪い燃料に相当する特性では、時刻T2よりも相応の時間遅延を経た時刻T3においてエンジン200は完爆状態に到達する。
【0098】
一方、モータジェネレータMG1は、エンジン200が完爆するまでアシストトルクの付与を継続するから、MG1トルクTrmもエンジントルクTreg及び機関回転速度NEと同様に、燃料性状に応じて変化する。
【0099】
その結果、エンジン200に付与されるアシストトルクたるMG1トルクTrmの時間推移は、燃料性状に応じて変化し、アシスト期間中にモータジェネレータMG1に投入される電力の積算値には、図示斜線部分に相当する偏差が生じる。この偏差は、燃料性状と一対一、一対多、多対一又は多対多であるかは別として少なくとも明確に対応しており、燃料性状の推定に供し得る、本発明に係る「アシスト期間の少なくとも一部におけるアシストの度合い」の一例として利用することができる。
【0100】
また、当該偏差に限らず、エンジントルクTregの偏差、機関回転速度NEの偏差及びアシスト期間の長さの偏差も同様に、本発明に係る「アシスト期間の少なくとも一部におけるアシストの度合い」の一例として利用することができる。また、偏差に限らず、例えば基準となる時刻における各種指標値そのものが、この種のアシストの度合いとして利用されてもよい。
【0101】
例えばベースとなる燃料性状を有する燃料が使用された場合の各特性が、図示実線で表される特性に設定されている場合に、実際の特性が図示破線に相当する特性であったとする。この場合、例えば時刻T2(即ち、ベースとなる燃料性状を有する燃料が使用された場合にエンジン200が完爆するはずの時刻)におけるエンジントルクTregの値(即ち、図示Treg1)、或いは、Treg1と、時刻T2におけるベースとなる燃料性状を有する燃料が使用された場合のエンジントルクTregの値(即ち、図示Treg2)との偏差たるΔTrreg(即ち、図示Trreg2−Trreg1)等は、実際の燃料性状を好適に表す指標値となる。
【0102】
同様にMG1トルクTrmの値(図示Trm0)や、同様の偏差ΔTrm(即ち、同じくTrm0)も燃料性状の相関値として利用可能である。また、機関回転速度NEの値(図示NE1)、或いは機関回転速度NEの偏差ΔNE(即ち、図示NETg−NE1)についても同様である。
【0103】
更に、燃料性状が異なれば、必然的にアシスト期間が長大化或いは短縮化し得る。従って、ベースとなる燃料性状を有する燃料が使用された場合のアシスト期間の長さと実際のアシスト期間の長さとの偏差(即ち、時刻T3−T2に相当する時間)、或いは単にアシスト期間の長さに基づいて燃料性状を正確に推定することも可能となる。
【0104】
図4に戻り、ステップS111に係る処理では、上記アシスト期間の長さである、アシスト時間Tassが取得される。ECU100は、予めフラッシュメモリ等の書き換え可能な記憶手段に、予め燃料性状を推定するためのマップを保持している。このマップには、アシスト時間Tassと燃料性状を表す燃料性状値FLとが対応付けられており、ステップS112に係る処理では、ステップS111に係る処理で得られたアシスト時間Tassの値に対応する一の燃料性状値FLが選択的に取得されることによって、燃料性状が推定される。
【0105】
ここで、初爆状態に到達して以降の期間においても、エンジン200のフリクションは当然存在する。従って、このエンジン200のフリクションの影響が切り分けられない場合、図5に示す如きアシスト期間における各種指標値の振る舞い或いはアシスト期間の長さTassに基づいて燃料性状を推定しようとしてもその大小は別として誤差が生じ得る。
【0106】
一方、本実施形態では、ステップS109において、エンジン200のフリクションの度合いを表すクランキング回転速度NEkrが取得されており、このクランキング回転速度NEkrに基づいて、エンジン200のフリクションの影響を排除することが可能である。
【0107】
即ち、上述した燃料性状推定のためのマップは、予め複数のクランキング回転速度NEkr毎に複数設定されている。ステップS112に係る処理では、この複数のマップの中から、ステップS109に係る処理で取得されたクランキング回転速度NEkrに対応する一のマップが選択され、上述したアシスト期間におけるアシストの度合いとしてのアシスト時間Tassに対応する燃料性状値が選択的に取得されることによって、エンジン200のフリクションの影響を排除してなる、正確な燃料性状が推定されるのである。尚、この際、マップの選択に供されるパラメータとしてクランキング回転速度NEkrの数量は、過不足のない適合値に設定されており、該当するクランキング回転速度NEkrに対応するマップが存在しない場合には、最も近いクランキング回転速度NEkrに対応するマップが利用される。或いは、所望のクランキング回転速度NEkrを挟む二種類のクランキング回転速度に対応するマップから選択的に取得された値が補間されることにより、燃料性状が推定されてもよい。
【0108】
更に補足すると、エンジン200のフリクションは、MG1によるクランキングトルク(即ち、投入電力により規定される)及び潤滑油温等に影響される。より具体的には、クランキングトルクが変化すると、エンジン200における各摺動部への潤滑油の循環供給状態が変化するためフリクションが変化するし、潤滑油は、その温度に応じて粘性抵抗が変化するから、循環供給状態が変化し得る。
【0109】
従って、エンジン200のフリクションを特定するに際しては、これらフリクションを規定し得る各種の指標値を反映した補正処理が行われるのが望ましい。そこで、ECU100は、ステップS112に係る燃料性状の推定に際し、マップから選択的に取得された燃料性状値FLを、ステップS104及びステップS106に係る処理で得られた外気温又は冷却水温及びクランキングトルクの値に応じて補正する。本実施形態では、このように燃料性状値FLが直接補正されるが、係る補正に係る動作は、エンジン200のフリクションを間接的に補正していることと実質的には等価であり、本発明に係る「第1の補正手段」に係る動作に他ならない。尚、エンジン200のフリクションは、例えばコンプレッション反力とも相関する。従って、VVT等を介したバルブタイミングやリフト量等の変更が可能である場合には、これらの変化量や制御量に応じて、同様にフリクション又は燃料性状が補正されてもよい。
【0110】
一方、外気温、冷却水温及び吸入空気量、燃料噴射量及び点火時期等は、エンジン200の燃焼性能に影響し得る。従って、これらに変化の変化は、アシスト期間における上述した各種指標値の特性の変化となって現れ得る。従って、ステップS112に係る処理において、ECU100は、更に、ステップS104及びステップS105に係る処理で取得された、外気温又は冷却水温及び噴射量、吸入空気量及び点火時期に応じて、燃料性状値を補正する。この際、一旦得られた燃料性状値を例えば各種数値演算としての補正演算に供してもよいが、燃料性状の推定に供すべきマップが、予めこれらに応じて更に細分化されていれば、その都度適宜適切なマップを選択し、当該選択したマップから、例えばアシスト期間Tassに対応する一の燃料性状値を取得してもよい。いずれにせよ、このような動作は、本発明に係る「第2の補正手段」に係る動作の一例である。
【0111】
燃料性状が推定されると、燃料性状の学習処理が実行される(ステップS113)。ここで、燃料性状の学習処理とは、即ちステップS112において得られた燃料性状値FLを、前回の学習値として例えばフラッシュメモリ等の記憶手段に記憶された値と置換することにより更新する処理である。但し、ステップS113に係る処理においては、適宜更新の必要性について考慮されてもよく、例えば、燃料性状値FLが前回値と等しい或いは等しいとみなし得る程度に同等な場合等には、適宜更新がスキップされてもよい。燃料性状の学習が終了すると、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。尚、一度ステップS113に係る処理が実行されると、ステップS102に係る処理において燃料性状の学習値(即ち、記憶された燃料性状値FL)が存在する旨の判別が行われる。
【0112】
一方、ステップS103に係る処理において、燃料性状の学習処理でない旨が判別された場合(ステップS103:NO)、ECU100は、燃料性状の学習値FL(即ち、ステップS113に係る処理において記憶された燃料性状値FL)を取得する(ステップS114)。次に、この取得された燃料性状の学習値FLに対応するエンジン駆動条件を設定し(ステップS115)、更にMG1の駆動条件を設定する(ステップS116)。これらの処理を経て、モータアシストが開始され(ステップS117)、完爆に至らない場合には(ステップS117:NO)、モータアシストが継続されると共に、完爆に至った場合には(ステップS118:YES)、処理がステップS101に戻される。即ち、本実施形態における燃料性状の学習は、燃料性状を学習すべき適切なタイミングで実行され、それ以外の状況においては、既に取得されている正確な燃料性状値FLに基づいた、最適な燃焼制御が実行されるのである。
【0113】
尚、本実施形態では、外気温又は冷却水温等、潤滑油の温度を規定し得る指標値が参照され、潤滑油の粘性抵抗の変化を反映したフリクションの直接的又は間接的な補正がなされるが、潤滑油の性能、特性、仕様又は劣化の度合いによっては、例えば氷点下数十度の極低温領域以外では粘性抵抗の顕著な変化が生じない場合もある。そのような事情に鑑み、外気温又は冷却水温等による補正は、この種の極低温の始動時に限って行われてもよい。また、この種の粘性抵抗以外にフリクションを顕著に支配する要因が存在しない場合には、燃料性状の学習に際して、例えばステップS109に係る処理をスキップし、更にステップS112に係る燃料性状推定に係る処理を簡略化してもよい。
【0114】
また、本実施形態では、アシスト期間の長さTassが、本発明に係るアシストの度合いの一例として使用されるが、燃料性状の推定精度に実践上問題となる影響を与えない限りにおいて、アシスト期間(即ち、初爆から完爆までの期間)全てが参照されなくてもよい。即ち、エンジン200が完爆状態に到達する以前に、例えばモータジェネレータMG1から付与されるアシストトルクの値に基づいて、燃料性状の推定がなされてもよい。また、クランキング回転速度NEkrについても同様であり、クランキング期間の終了を待たずしてクランキング回転速度NEkrが特定されてもよい。
【0115】
いずれにせよ、本実施形態に係る始動制御によれば、初爆から完爆までのアシスト期間の少なくとも一部におけるトルクアシストの度合いと、クランキング期間の少なくとも一部における機関回転速度NEの値等から推定されるエンジン200のフリクションの状態とに基づいて、エタノール混合燃料における燃料性状を正確に推定することが可能である。
【0116】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う燃料性状推定装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両における動力分割機構とその周辺部の関係を示す模式図である。
【図3】図1のハイブリッド車両におけるエンジンの模式図である。
【図4】図1のハイブリッド車両においてECUにより実行される始動制御のフローチャートである。
【図5】図4の始動制御の実行過程におけるエンジンの各種指標値のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0118】
10…ハイブリッド車両、100…ECU、200…エンジン、201…気筒、203…ピストン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、301…リングギア、303…サンギア、306…プラネタリキャリア、500…バッテリ、600…SOCセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールが混合されてなる燃料を使用可能な内燃機関及び該内燃機関に対しクランキングを含むトルクのアシストが可能なアシスト手段を備えた車両において前記燃料に係る燃料性状を推定する装置であって、
前記内燃機関の始動時に前記内燃機関が前記アシストを伴って所定の完爆状態に到達するように前記アシスト手段及び前記内燃機関を制御する制御手段と、
前記内燃機関のフリクションの度合いを特定する第1の特定手段と、
前記内燃機関が所定の初爆状態に到達してより前記完爆状態に到達するまでのアシスト期間の少なくとも一部における前記アシストの度合いを特定する第2の特定手段と、
前記特定されたフリクションの度合い及びアシストの度合いに基づいて前記燃料性状を推定する推定手段と
を具備することを特徴とする燃料性状推定装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記内燃機関が冷間始動される場合に、前記特定されたフリクションの度合い及びアシストの度合いに基づいて前記燃料性状を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料性状推定装置。
【請求項3】
前記第1の特定手段は、前記フリクションの度合いとして、前記内燃機関が前記初爆状態に到達するまでのクランキング期間の少なくとも一部における前記内燃機関の運転条件を特定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料性状推定装置。
【請求項4】
前記クランキング期間の少なくとも一部における内燃機関の運転条件は、前記内燃機関の機関回転速度である
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料性状推定装置。
【請求項5】
前記車両の運転条件に応じて前記フリクションの度合いを補正する第1の補正手段を更に具備し、
前記推定手段は、前記補正されたフリクションの度合いに基づいて前記燃料性状を推定する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の燃料性状推定装置。
【請求項6】
前記第1の特定手段は、前記アシスト期間の少なくとも一部におけるアシストの度合いとして、前記アシスト期間の長さ、前記内燃機関の機関回転速度及び前記アシスト手段の出力状態を規定する指標値のうち少なくとも一つを特定する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料性状推定装置。
【請求項7】
前記車両の運転条件に応じて前記燃料性状を補正する第2の補正手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料性状推定装置。
【請求項8】
前記推定された燃料性状を学習する学習手段を更に具備し、
前記制御手段は、次回以降の前記始動時において前記学習された燃料性状に基づいて前記内燃機関及び前記アシスト手段を制御する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の燃料性状推定装置。
【請求項9】
前記車両は、前記内燃機関と共に前記車両の駆動力源として機能し、且つ少なくとも一部が前記アシスト手段として機能する少なくとも一つの電動機を有するハイブリッド車両である
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料性状推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−162141(P2009−162141A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1398(P2008−1398)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】