説明

燃料遮断弁

【課題】本発明は、フロート機構50の昇降動作をスムーズに行なわせることができる燃料遮断弁10を提供すること。
【解決手段】燃料遮断弁10は、ケーシング20と、フロート52とを備えている。底部材35の下部には導入開口37bが設けられ、底板36には下部連通孔38が形成されている。燃料液位が所定液位に達して導入開口37bが燃料により塞がれたときにタンク内圧と弁室30Sとの圧力差に応じて、弁室30S内に燃料が導入されて、フロート機構50が上昇する。フロート52が上昇すると、下部連通孔38が開く。このとき、圧力差が所定圧より大きいとフロート機構50を上昇位置まで上昇させて上部弁体60で接続通路31bを閉じ、一方、圧力差が所定圧より小さいと第1フロート部53が下部連通孔38を開いて、圧力差をさらに低減してフロート機構50を上昇位置まで上昇させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクの上部に装着され、燃料タンク内と外部とを接続する接続通路を開閉することで燃料タンクと外部とを連通遮断する燃料遮断弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料遮断弁として、特許文献1の技術が知られている。すなわち、燃料遮断弁は、キャニスタに接続通路を介して接続された弁室を形成するケーシングと、弁室に昇降可能に収納されたフロートを有するフロート機構とを備えている。ケーシングには、第1連通孔(導入開口)が形成され、また第1連通孔より狭い開口面積でありかつ第1連通孔より上方に第2連通孔が形成されている。フロートは、円筒状のフロート本体と、フロート本体の上部であって摺動方向と直角方向に鍔状に突設され第2連通孔を開閉する第1弁部と、フロート本体の上部に設けられ接続通路を開閉する第2弁部とを備えている。給油により燃料が燃料タンクの所定液位まで達したときに第1連通孔が塞がれて、燃料タンク内のタンク内圧を高くし、該タンク内圧と弁室内との圧力差により、弁室内に流入した燃料によりフロートが上昇することにより第2弁体で接続通路を閉じる。このような動作により、タンク内圧が高くなり、給油ガンからの燃料を停止するオートストップを機能させるとともに過給油を防止している。こうしたフロートによる閉弁動作において、第1弁体が第2連通孔を開き、第2連通孔を通じて空気が弁室に流入することで弁室内の圧力が低下するからフロートの下降動作をスムーズにしている。
【0003】
しかし、従来の燃料遮断弁では、フロートが昇降する際に、鍔状に形成された第1弁部が、その外周部でケーシングの内壁に引っ掛かってフロートの昇降に支障を生じやすいという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−975838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決することを踏まえ、フロートの昇降動作をスムーズに行なわせることができる燃料遮断弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
適用例1は、燃料タンクの上部に装着され、燃料タンク内と外部とを接続する接続通路を開閉することで燃料タンクと外部とを連通遮断する燃料遮断弁において、
上記燃料タンク内と上記接続通路とを連通する弁室と、該弁室と燃料タンク内とを連通しかつ上記燃料タンク内の燃料液位が所定液位に達したときに塞がれる導入開口と、該導入開口より上方に配置され該弁室と燃料タンクとを連通しかつ該導入開口より狭い開口面積である下部連通孔とを有するケーシングと、
上記弁室に収納され、該弁室内の燃料液位により下降位置と上昇位置との間を昇降するフロートと、フロートの上部に設けられ上記接続通路を開閉する弁部を有するフロート機構と、
を備え、上記燃料液位が上記所定液位に達して上記導入開口が燃料により塞がれたときにタンク内圧と弁室との圧力差に応じて、上記弁室内に燃料を導入して、上記フロート機構を昇降させ、
上記下部連通孔は、上記フロートの下部で開閉されることにより、上記弁室の圧力を調整すること、または弁室内の燃料を燃料タンク内に排出すること、を特徴とする。
【0008】
適用例1に記載の燃料遮断弁において、給油時に、燃料液位が所定液位に達して燃料が導入開口を塞いだ場合において、弁室内に燃料が速やかに入り、フロート機構が上昇位置まで上昇して上部弁体で接続通路を閉じて、燃料タンクから外部へ燃料が流出するのを防止することができる。
【0009】
また、満タンに近い状態にて、燃料タンクの温度上昇に起因して、燃料液位が所定液位に達して燃料が導入開口を塞いだ場合において、フロートが燃料から受ける浮力によって上昇するとフロートの下部で閉じられていた下部連通孔が開かれ、これにより、弁室内の圧力とタンク内圧との圧力差が下部連通孔を通じて解消され、または、弁室内の燃料が下部連通孔を通じて燃料タンク内へ排出される。したがって、燃料タンク内の温度上昇などに起因した燃料液位の上昇があって燃料が導入開口を塞いでも、フロート機構が速やかに下降して接続通路を閉じることがなく、燃料タンクを外部に対して密閉することもない。
【0010】
また、下部連通孔は、フロートの下面で閉じられ、従来の技術で説明したような、フロートから摺動方向と直角方向に突設された弁部で閉じられる構成をとっていないから、ケーシングの内壁に引っ掛かる可能性もなく、フロートの昇降をスムーズに行なわせることができる。
【0011】
[適用例2]
適用例2は、上記ケーシングが、円筒状のケーシング本体と、該ケーシング本体の下部に装着された底部材とを備え、上記底部材は、上記フロート機構が上記下降位置にあるときに該フロートの下部を支持する底板と、上記導入開口から上記弁室に燃料を導く導入通路を形成する導入通路形成部材とを備え、上記底板は、上記下部連通孔と、上記導入通路と上記弁室とを連通する流通孔とを備えている構成である。この構成において、燃料タンク内の燃料は、導入通路内の高さの分だけ、弁室に入り難いから、フロート機構を不用意に上昇させない。しかも、フロートが上昇したときに、下部連通孔を通じてタンク内圧が弁室に逃がされて圧力差を低減するから、上記導入通路の高さを短くしてもフロート機構の弁部で接続通路を閉じにくい。よって、導入通路を短くして、燃料タンク内に燃料を充填できないデッドスペースを少なくすることができる。
【0012】
[適用例3]
適用例3は、上記フロートが、該フロートの下部から上記流通孔を貫通し上記導入通路に達するまで延設された浮力体を備えている構成である。この構成において、弁室に燃料が入らないで、導入通路に入った場合に、速やかにフロートを上昇させて、下部連通孔を通じて上記圧力差を速やかに解消させることができる。
【0013】
[適用例4]
適用例4は、上記フロートが、第1フロート部と、上記第1フロート部に摺動可能に組み付けられた第2フロート部とを備え、上記第1フロート部は、該第1フロート部の下部で上記下部連通孔を開閉するとともに上記第2フロート部より低い燃料液位から浮力を受けるように構成されている。この構成によると、下部連通孔を開閉するフロートの部分は、第2フロート部と独立して摺動する第1フロート部だけであり、第2フロート部の重量分を軽減しているから、第1フロート部が小さな浮力によっても速やかに上昇することで圧力差の解消を迅速に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の好適な実施例について説明する。
(1) 燃料遮断弁10の概略構成
図1は本発明の一実施例にかかる自動車の燃料タンクFTの上部に取り付けられる燃料遮断弁10を示す断面図である。なお、図1は上方から見て45゜で切断した面で表わしている。図1において、燃料タンクFTは、その表面がポリエチレンを含む複合樹脂材料から形成されており、そのタンク上壁FTaに取付穴FTbが形成されている。タンク上壁FTaには、燃料遮断弁10がその下部を取付穴FTbに突入した状態にて取り付けられている。燃料遮断弁10は、給油時に燃料タンク内の燃料が所定液位まで上昇したときにキャニスタへの流出を規制するとともにオートストップを機能させ、さらに過給油を防止するものである。燃料遮断弁10は、ケーシング20と、フロート機構50と、スプリング70とを主要な構成として備えている。ケーシング20は、ケーシング本体30と、底部材35と、蓋体40とを備え、ケーシング本体30と底部材35とにより囲まれたスペースが弁室30Sになっており、この弁室30Sにスプリング70に支持されたフロート機構50が収納されている。
【0015】
(2) 燃料遮断弁10の各部の構成
図2は燃料遮断弁10を分解した断面図である。ケーシング本体30は、天井壁部31と側壁部32とにより囲まれたカップ形状であり、下部を開口30aとしている。天井壁部31の中央部には、下方に向けて突設された通路形成突部31aが形成されており、この通路形成突部31aに弁室30Sに接続する接続通路31bが貫通形成されている。接続通路31bの弁室30S側は、第1シール部31cになっている。側壁部32には、弁室30Sを燃料タンクFT内に接続するための連通孔32aが形成されている。連通孔32aは、第1液位FL1(図1)より上方に配置された透孔であり、周方向に4箇所、90゜の間隔で配置されている。
【0016】
図3は底部材35を示す斜視図である。図2および図3において、底部材35は、ケーシング本体30の開口30aの一部を閉じるとともに、弁室30S内に燃料蒸気および液体燃料を導入するための部材である。底部材35は、ケーシング本体30の下端のフランジ32bに溶着される底板36と、底板36から下方に形成された導入通路形成部材37とを備えている。底板36には、流通孔36a,36bが貫通形成されている。流通孔36aは、底板36の中央部に配置され、流通孔36bは、流通孔36aを囲むように4箇所配置されている。底板36の上面には、スプリング70の下端を支持するスプリング支持部36cが形成されている。スプリング支持部36cの外周部には、フロート機構50を載置するための4箇所の台座36dが設けられている。また、導入通路形成部材37は、筒形状であり、導入通路37aを備え、下部の導入開口37bから流通孔36a,36bに接続している。底板36には、下部連通孔38が形成されている。下部連通孔38は、水平方向から垂直方向に折曲された貫通孔であり、90゜の間隔で4カ所形成されており、その流入口38aが燃料タンクFTに開口し、流出口38bが台座36dの位置で弁室30Sに開口している。
【0017】
図2において、蓋体40は、蓋本体41と、蓋本体41の中央から側方へ突出した管体部42と、蓋本体41の外周に形成されたフランジ43とを備え、これらを一体に形成している。管体部42には、管通路42aが形成されており、この管通路42aの一端は、接続通路31bを通じてケーシング本体30の弁室30Sに接続され、他端はキャニスタ(図示省略)側に接続される。蓋本体41の下部には、ケーシング本体30の上端を溶着する内側溶着部43aが形成されており、また、フランジ43の下端部には、燃料タンクFTのタンク上壁FTaに溶着される外側溶着部43bが形成されている。
【0018】
図4はフロート機構50を分解した斜視図である。図2および図4において、フロート機構50は、フロート52と、フロート52の上部に配置された上部弁体60とを備えている。フロート52は、第1フロート部53と、第2フロート部55とを備え、これらを一体に組み付けている。
第1フロート部53は、下方に開放した収納室54を有するカップ形状である。収納室54は、第2フロート部55を収納するための有底孔であり、大径孔54aと、大径孔54aの上部に形成された小径孔54bとを備え、その間が半径方向に拡径した段部からなるスプリング支持部54cになっている。スプリング支持部54cは、スプリング70の上端を支持している。スプリング70は、収納室54の外周部であって、第2フロート部55の外周部との間で形成されるスプリング収納間隙54eに収納されている(図1参照)。また、収納室54は、第1フロート部53の径方向に4箇所形成された係合穴54dにより第1フロート部53の外に接続されている。
第1フロート部53の上部には、弁支持部53aが形成されている。弁支持部53aは、上部弁体60を首振り可能に支持する部位であり、ほぼ円錐形状の突起(凸形状)である支持部53bを備えている。弁支持部53aの外周部には、上部弁体60を抜止するための環状突部53cが形成されている。
【0019】
第1フロート部53の下部には、導入通路37aに入った燃料で浮力を生じるための浮力体53dがほぼ水平断面で所定幅を有する円弧状に突設されている。浮力体53dは、流通孔36bを貫通するように周方向に4カ所設けられている。
【0020】
第2フロート部55は、収納室54に挿入されるほぼ円筒形状の大径部56と、小径部57とを備え、収納室54に摺動可能に形成されている。また、大径部56の上部には、係合爪56aが形成されている。係合爪56aは、第1フロート部53が上昇したときに、第2フロート部55を引き上げることが可能なように、第1フロート部53の係合穴54dに係合している。
【0021】
図5は上部弁体60の付近を示す断面図である。上部弁体60は、再開弁特性を改善するための弁であり、フロート52の弁支持部53aに昇降可能かつ首振り可能に支持されており、第1弁部61と、第1弁部61に装着されたシート部材64と、第2弁部65とを備えている。第1弁部61は、ほぼ円筒の第1弁本体62を備え、この第1弁本体62内に支持孔62aが軸方向に形成されている。第1弁本体62の上部には、シート部材64を取り付けるための取付部62bが形成されている。また、第1弁本体62の外周部には、環状凹所62cが形成され、その環状凹所62cに支持孔62aを外部に接続するための通気孔62dが4箇所形成されている。図6は上部弁体60を分解した斜視図である。第1弁本体62の下部には、スリット62eが形成されており、スリット62eにより固定片62iから係合片62gが弾性変形可能に形成されている。係合片62gには、係合穴62hが形成されている。
【0022】
シート部材64は、第1シール部31c(図5)に着離する第1シート部64aと、支持孔62aに接続される接続孔64bと、接続孔64bの下端部に形成されたシール部64cと、取付部64dとを備え、ゴム材料により一体成形されている。シート部材64は、取付部64dで第1弁本体62の取付部62bに装着されており、第1シート部64aが第1弁本体62の上面に対して間隙を有することで、第1シール部31cに着座するときに弾性変形してシール性を高めている。
【0023】
第2弁部65は、円筒形状の第2弁本体66を備えている。第2弁本体66には、下方を開放した有底孔66a(図5)が形成されており、この有底孔66aの底中央部に、凹形状の被支持部66bが形成されている。被支持部66bは、フロート52の支持部53b上に載置されることにより、第2弁部65が支持部53bを支点として首振り可能に支持されている。また、第2弁本体66の上面には、第2シート部66cが形成されており、第2シート部66cは、第1弁部61のシール部64cに着離することにより接続孔64bを開閉するように形成されている。第2弁本体66の下部には、抜止爪66dが2箇所に形成されており、第1弁本体62の係合穴62hに係合することにより、第1弁部61を第2弁部65に対して昇降可能に支持している。各々の抜止爪66dの上部には、係合穴66eが形成されており、フロート52の環状突部53c(図5)に係合することにより、第2弁部65がフロート52に対して昇降可能に支持および抜止めされている。また、第2弁本体66の外周部には、第2弁部65を上下方向にガイドするためのガイド突条66fが形成されている。ガイド突条66fは、第2弁本体66の側壁に周方向に等間隔に4箇所、上下方向にリブ形状に突設されており、支持孔62aの内壁面に摺動可能になっている。
【0024】
(3) 燃料遮断弁10の動作
(3)−1 給油時の動作
図1に示すように、給油により燃料タンクFT内に燃料が供給されると、燃料タンクFT内の燃料液位の上昇につれて燃料タンクFT内の上部に溜まっていた燃料蒸気は、導入通路形成部材37の導入開口37bから導入通路37aを経て、流通孔36a,36bから弁室30S内に流入する。さらに、燃料蒸気は、弁室30Sから接続通路31b、管通路42aを通じて、キャニスタ側へ逃がされる。そして、図7に示すように、燃料タンクFT内の燃料液位が第1液位FL1に達すると、燃料は導入開口37bを塞ぐことにより、燃料タンクFT内のタンク内圧が上昇する。この状態では、タンク内圧と弁室30S内の圧力差が大きくなり、液体燃料が導入通路37a、流通孔36a,36bを通じて、弁室30Sに流れ込み、燃料液位が弁室30S内を上昇する。そして、弁室30S内の燃料液位が高さh0に達すると、フロート機構50の浮力およびスプリング70の荷重による上方への力と、フロート機構50の自重による下方への力との釣り合いによって、前者が後者を上回りフロート機構50が一体になって上昇して、シート部材64が第1シール部31cに着座して接続通路31bを閉じる。このとき、燃料タンクFTが外部に接続されている通路は、連通孔32aだけであり、しかも連通孔32aの通路面積が小さいから、タンク内圧が上昇して、インレットパイプ内に燃料が溜まり、給油ガンに燃料が触れると、オートストップを働かせ、追加給油を防止する。これにより、燃料タンクへの給油の際等に、燃料タンクから燃料蒸気を逃がすとともに燃料が燃料タンク外へ流出するのを防止することができる。
【0025】
一方、燃料タンクFT内の燃料が消費されて、燃料液位が低下すると、連通孔32aを通じて燃料タンクFT内から弁室30Sに空気が導入されつつ、弁室30S内の燃料液位が低下して、フロート52は、その浮力を減少して下降する。そして、図8に示すようにフロート52の下降により、第2弁部65の抜止爪66dとフロート52の環状突部53cとの係合を介して、フロート52は、第2弁部65を引き下げる。これにより、第2シート部66cは、シール部64cから離れて、接続孔64bを開く。接続孔64bの連通により第1弁部61の下方の圧力は、接続通路31bの付近と同じ圧力になる。よって、抜止爪66dが係合穴62hに係合しているから、第2弁部65を介して第1弁部61も引き下げる。そして、第1弁部61が下降することで、シート部材64が第1シール部31cから離れて、接続通路31bが開かれる。このように、上部弁体60は、フロート機構50の開弁をスムーズに行なわせる再開弁特性の向上を促進するように機能する。
【0026】
(3)−2 車両の傾斜時などの動作
図1において、燃料遮断弁10は、燃料タンクFT内を、導入通路37a、流通孔36a,36bおよび連通孔32a、弁室30S、接続通路31b、管通路42aを通じて外部(キャニスタ)へ通気している。車両の傾斜などにより、燃料タンクFTへの燃料液位が第2液位FL2に達すると、導入通路37a、流通孔36a,36bを通じて、燃料が徐々に弁室30Sに流入し、フロート機構50を浮上させる浮力を与える。フロート機構50の上昇で上部弁体60が接続通路31bを閉塞することにより、燃料タンクFT(からの燃料の流出を防止する。
【0027】
(3)−3 満タン状態における誤作動防止動作
図9において、燃料タンクFT内の燃料液位が第1液位FL1(満タン液位)に近い状態であり、かつフロート機構50が下降位置にあり、接続通路31bを開いている状態にあるとする。この状態にて、外気や車両の温度上昇に起因して燃料タンクFT内の温度上昇があってタンク内圧が上昇すると、燃料液位が導入通路形成部材37の下端に達して、導入開口37bを塞ぐ。タンク内圧と導入通路37aおよび弁室30Sとの圧力差により、導入通路37aに燃料が流入し、導入通路37aの燃料液位が第1フロート部53の浮力体53dの下端を越えた高さh1に達すると、第1フロート部53に浮力を生じて、第1フロート部53が僅かに上昇する。これにより、図10に示すように、第1フロート部53の下面で塞がれていた下部連通孔38の流出口38bが開かれる。このとき、第2フロート部55は、第1フロート部53に対して滑ってその下降位置を維持する。この状態にて、燃料タンクFT内と弁室30Sとの通路面積が連通孔32a(図9)のほかに、下部連通孔38も加わり、連通孔32a、下部連通孔38を通じて弁室30Sに気体が流入し、さらに外部へ流れ、タンク内圧を低減するとともに、弁室30Sとタンク内圧との圧力差を解消する。こうした圧力差の低減により、導入通路37a内の燃料液位が低下し、これにつれて第1フロート部53が下降し、底板36に載って下部連通孔38を閉じる。
【0028】
(4) 実施例の作用・効果
上記実施例の構成により、以下の作用・効果を奏する。
(4)−1 図7に示すように、給油時に、燃料液位が第1液位FL1に達して燃料が導入開口37bを塞いだ場合において、この時点におけるタンク内圧と弁室30Sとの圧力差は大きいから、弁室30S内に燃料が速やかに入り、フロート機構50が上昇位置まで上昇して上部弁体60で接続通路31bを閉じて、燃料タンクFTから外部へ燃料が流出するのを防止することができる。
【0029】
(4)−2 図9および図10に示すように、満タンに近い状態にて、燃料タンクFTの温度上昇に起因して、燃料液位が第1液位FL1に達して燃料が導入開口37bを塞いだ場合において、下部連通孔38が第1フロート部53の上昇により開かれ、弁室30S内の圧力とタンク内圧との圧力差が解消される。したがって、燃料タンクFT内の温度上昇などに起因した燃料液位の上昇があって燃料が導入開口37bを塞いでも、フロート機構50が接続通路31bを閉じることがなく、燃料タンクFTを外部に対して密閉することもない。
【0030】
(4)−3 下部連通孔38は、フロート52の下面で閉じられ、従来の技術で説明したような、フロートから摺動方向と直角方向に突設された弁部で閉じられる構成をとっていないから、ケーシングの内壁に引っ掛かる可能性もなく、フロートの昇降をスムーズに行なわせることができる。
【0031】
(4)−4 本実施例により給油時の過給油を防止することができる。すなわち、連通孔32aの通路面積を大きくして、上述した圧力差が大きくなるのを回避することでフロート機構50の不用意な閉弁動作を防止する手段も考えられる。しかし、この場合には、給油時に連通孔32aを通じてタンク内圧を逃がすために、過給油を有効に防止することができない。しかし、本実施例では、フロート機構50の不用意な閉弁動作を下部連通孔38の通気により回避しているので、流入口38aの通路面積を大きくする必要がなく、過給油の防止機能を損なうことがない。
【0032】
(4)−5 底部材35は、弁室30Sの下方に導入通路37aを形成しているから、燃料タンクFT内の燃料が導入通路37a内の高さの分だけ、弁室30Sに入り難いから、フロート機構50を不用意に上昇させない。しかも、フロート52が上昇したときに、下部連通孔38を通じてタンク内圧が弁室30Sに逃がされて圧力差を低減するから、導入通路37aの高さを短くしてもフロート機構50の弁部で接続通路を閉じにくい。よって、導入通路37aを短くした場合には、燃料タンクFT内に燃料を充填できないデッドスペースを少なくすることができる。
【0033】
(4)−6 フロート52は、導入通路37aに達するまで延設された浮力体53dを備えているから、燃料が弁室30Sに入る前であって導入通路37aに入った場合に速やかに上昇して、下部連通孔38を通じて圧力差を解消して不用意な閉弁動作を防止することができる。
【0034】
(4)−7 下部連通孔38を開閉するフロート52の部分は、第2フロート部55と独立して摺動する第1フロート部53だけであり、第2フロート部55の重量分を軽減しているから、第1フロート部53が小さな浮力によっても速やかに上昇することで圧力差の解消を迅速に行なうことができる。
【0035】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0036】
図11は他の実施例にかかる燃料遮断弁を示す断面図である。本実施例は、第1フロートの下部から延設した浮力体をなくした構成に特徴を有する。すなわち、燃料遮断弁10Bの第1フロート部53Bは、円筒形状に形成されている。この構成において、満タンに近い状態にて、燃料タンクFTの温度上昇に起因して、燃料液位が第1液位FL1に達して燃料が導入開口37Bbを塞いだ場合において、弁室30BS内の燃料液位が高さh1に達すると、第1フロート部53Bおよび上部弁体60Bが僅かに浮上し、下部連通孔38Bが開かれる。これにより、弁室30BS内の下部に溜まっていた燃料が下部連通孔38Bを通じて燃料タンクFT内に排出され、第1フロート部53Bが下降する。よって、燃料タンクFTの温度上昇によってフロート機構50Bが接続通路31Bbを閉じることがなく、燃料タンクFTを外部に対して密閉することもない。
【0037】
また、上記実施例では、フロート52は、第1フロート部53と第2フロート部55とから構成したが、これに限らず、1つの部材で構成してよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例にかかる自動車の燃料タンクの上部に取り付けられる燃料遮断弁を示す断面図である。
【図2】燃料遮断弁を分解した断面図である。
【図3】底部材を示す斜視図である。
【図4】フロート機構を分解した斜視図である。
【図5】上部弁体の付近を示す断面図である。
【図6】上部弁体を分解した斜視図である。
【図7】燃料遮断弁の動作を説明する説明図である。
【図8】図7に続く動作を説明する説明図である。
【図9】燃料遮断弁の他の動作を説明する説明図である。
【図10】図9の要部を拡大した説明図である。
【図11】他の実施例にかかる燃料遮断弁を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10…燃料遮断弁
20…ケーシング
30…ケーシング本体
30S…弁室
30a…開口
31…天井壁部
31a…通路形成突部
31b…接続通路
31c…第1シール部
32…側壁部
32a…連通孔
32b…フランジ
35…底部材
36…底板
36a,36b…流通孔
36c…スプリング支持部
36d…台座
37…導入通路形成部材
37a…導入通路
37b…導入開口
38…下部連通孔
38a…流入口
38b…流出口
40…蓋体
41…蓋本体
42…管体部
42a…管通路
43…フランジ
43a…内側溶着部
43b…外側溶着部
50…フロート機構
52…フロート
53…第1フロート部
53a…弁支持部
53b…支持部
53c…環状突部
53d…浮力体
54…収納室
54a…大径孔
54b…小径孔
54c…スプリング支持部
54d…係合穴
54e…スプリング収納間隙
55…第2フロート部
56…大径部
56a…係合爪
57…小径部
60…上部弁体
61…第1弁部
62…第1弁本体
62a…支持孔
62b…取付部
62c…環状凹所
62d…通気孔
62e…スリット
62g…係合片
62h…係合穴
62i…固定片
64…シート部材
64a…第1シート部
64b…接続孔
64c…シール部
64d…取付部
65…第2弁部
66…第2弁本体
66a…有底孔
66b…被支持部
66c…第2シート部
66d…抜止爪
66e…係合穴
66f…ガイド突条
70…スプリング
FT…燃料タンク
FTa…タンク上壁
FTb…取付穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク(FT)の上部に装着され、燃料タンク(FT)内と外部とを接続する接続通路(31b)を開閉することで燃料タンク(FT)と外部とを連通遮断する燃料遮断弁において、
上記燃料タンク(FT)内と上記接続通路(31b)とを連通する弁室(30S)と、該弁室(30S)と燃料タンク(FT)内とを連通しかつ上記燃料タンク(FT)内の燃料液位が所定液位に達したときに塞がれる導入開口(37b)と、該導入開口(37b)より上方に配置され該弁室(30S)と燃料タンク(FT)とを連通しかつ該導入開口(37b)より狭い開口面積である下部連通孔(38)とを有するケーシング(20)と、
上記弁室(30S)に収納され、該弁室(30S)内の燃料液位により下降位置と上昇位置との間を昇降するフロート(52)と、フロート(52)の上部に設けられ上記接続通路(31b)を開閉する弁部を有するフロート機構(50)と、
を備え、上記燃料液位が上記所定液位に達して上記導入開口(37b)が燃料により塞がれたときにタンク内圧と弁室(30S)との圧力差に応じて、上記弁室(30S)内に燃料を導入して、上記フロート機構(50)を昇降させ、
上記下部連通孔(38)は、上記フロート(52)の下部で開閉されることにより、上記弁室(30S)の圧力を調整すること、または弁室(30S)内の燃料を燃料タンク(FT)内に排出すること、を特徴とする燃料遮断弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料遮断弁において、
上記下部連通孔(38)は、上記フロート(52)の下部で開閉されることにより、上記圧力差が所定圧より大きいときに上記フロート機構(50)を上記上昇位置まで上昇させて上記弁部で接続通路(31b)を閉じ、上記圧力差が上記所定圧より小さいときに上記フロート機構(50)を上昇位置まで上昇させないように上記弁室(30S)の圧力を調整する燃料遮断弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料遮断弁において、
上記ケーシング(20)は、円筒状のケーシング本体(30)と、該ケーシング本体(30)の下部に装着された底部材(35)とを備え、
上記底部材(35)は、上記フロート機構(50)が上記下降位置にあるときに該フロート(52)の下部を支持する底板(36)と、上記導入開口(37b)から上記弁室(30S)に燃料を導く導入通路(37a)を形成する導入通路形成部材(37)とを備え、
上記底板(36)は、上記下部連通孔(38)と、上記導入通路(37a)と上記弁室(30S)とを連通する流通孔(36a,36b)とを備えている燃料遮断弁。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料遮断弁において、
上記フロート(52)は、該フロート(52)の下部から上記流通孔(36b)を貫通し上記導入通路(37a)に達するまで延設された浮力体(53d)を備えている燃料遮断弁。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の燃料遮断弁において、
上記フロート(52)は、第1フロート部(53)と、上記第1フロート部(53)に摺動可能に組み付けられた第2フロート部(55)とを備え、上記第1フロート部(53)は、該第1フロート部(53)の下部で上記下部連通孔(38)を開閉するとともに上記第2フロート部(55)より低い燃料液位から浮力を受けるように構成されている燃料遮断弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−174413(P2009−174413A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13490(P2008−13490)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】