物品の保護材および物品の保護方法
【課題】物品の所要面が傷つけられたり汚損されたりしないよう、簡単、確実に保護することができ、しかも保護工程、保護解除工程をきわめて簡単に行える物品保護材と保護方法を提供する。
【解決手段】物品の表面を保護するための手段として、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物、もしくは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物を用い、これらで物品の保護対象面を覆い、冷却により高分子化合物を凍結させて保護膜や保護層を形成し、保護が不要になったときには、昇温して解凍する。
【解決手段】物品の表面を保護するための手段として、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物、もしくは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物を用い、これらで物品の保護対象面を覆い、冷却により高分子化合物を凍結させて保護膜や保護層を形成し、保護が不要になったときには、昇温して解凍する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物品の加工時などにおいて表面など必要部位が傷ついたり汚損されるのを防止するための保護材とこれを利用した物品の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非金属や金属の材料を加工するにあたっては、被加工物は加工テーブルやステージ上に固定され、必要な工具によって研削、切断(スラシング、ダイシング)、穴あけなどの加工がなされるが、このときに、被加工物から発生する加工屑や砥粒などによって被加工物の表面が傷つき、表面が鏡面仕上げされていることあるいは、表面(側面を含む)のクリーン度が要求される製品の不良化が多発している。また、加工後に当該製品を移動、搬送、保管するときにも、表面に埃や異物が接触して汚れたり、傷ついたりすることが多い。
【0003】
この対策として、ワックス類で対象物の表面をコーティングすることが試みられているが、コーティング材をいったん加熱して溶融させ、加工終了後に再び加熱してコーティング材を溶融させることが必要であるため使い勝手が悪く、また溶融したワックスを有機溶剤で洗浄してもその洗浄効果が充分でなく、多くの不良が発生しやすいので、コスト、能率が低下する問題があった。また、保護テープ類を貼着することも考えられるが、引き剥がし時に加工物を損傷したり、変形させやすく、しかも接着剤の残渣が残り、その処理に難渋する。
このため、実際には何も保護せずに加工を行うケースがほとんどで、不良品発生率が高くなっていたものである。
【0004】
また、物品がポーラスであったり内部に空洞があるような場合、そうした物品を加工したり、加工後に移動、搬送、保管する場合にも、加工屑、加工手段から遊離した異物、埃などが穴や空洞に侵入し、排出洗浄することが極めて困難であったが、これを容易に解決する手段や方法がなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その第1の目的は、物品の所要面が傷つけられたり汚損されないよう簡単、確実に保護することができ、しかも保護工程、保護解除工程をきわめて簡単に行える物品保護材と保護方法を提供することにある。
また本発明の第2の目的は、物品の穴や空洞を隅々まで簡単、確実に埋めて中実化し、外部からの異物やごみ、汚れの侵入を防止することができ、しかも中実化工程、中実解除工程をきわめて簡単に行える物品保護材と保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第1の目的を達成するため本発明の物品保護材は、物品の表面を保護するための手段であって、該手段が、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物、もしくは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物であることを特徴としている。
また、第1の目的を達成するため本発明の物品保護方法は、物品の保護を必要とする表面を、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと微粉末を混合したゲル状物、あるいは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物のいずれかで覆い、前記高分子化合物を凍結させることで物品表面を保護することを特徴としている。
【0007】
第2の目的を達成するため本発明の物品保護材は、内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品を保護するための手段であって、該手段が凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物であることを特徴としている。
第2の目的を達成するため本発明の物品保護方法は、内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品の前記穴あるいは空洞に、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと水溶性微粉末を混合したゲル状物を充填させ、高分子化合物を凍結させることで穴あるいは空洞を中実化することを特徴としている。
【0008】
本発明において「シート状物」とは、比較的薄いたとえば2mm以下程度のものを総称する概念であり、柔軟な性状の物のほか、剛性のある板状のものを含む。
本発明において、対象とする物品の材質には制約がなく、金属、非金属、有機物、無機物など表面を保護する必要のあるものを含む。たとえば、鉄系、銅系、アルミニウム系、チタン系、シリコン系、ゲルマニウム系などで代表される金属、プラスチック系、ガラス系、カーボン系、フェライト系、セラミック系、あるいはこれらの2種以上の複合材、水晶、石英、ダイヤモンド、CBN、ルビー、サファイヤなど材質を問わず、また形状、寸法も問わない。
また、物品の具体例としては、半導体エウハー、半導体素子、液晶画面の導光板やガラス板、レンズ類など表面の鏡面度やクリーン度が要求されるあらゆる物が対象である。素材はもとより、既に加工されて鏡面になっているものを含む。
加工方法も限定はなく、切削、平面研削、成形研削、クリープ研削、円筒研削などの各種研削加工、旋削加工、研摩加工、ラップ加工、フライス、砥石、ワイヤソウなどを含む切断加工、スライス加工、ダイシング加工、ミーリング加工、溝加工、穴明け加工、超音波加工、放電加工、彫刻など態様を問わない。
【発明の効果】
【0009】
第1発明においては、保護材が常態において液状をなし凝固点が水よりも高い高分子化合物(液状高分子系凝固材)、またはこれと微粉末を混合したゲル状物、もしくは前記液状の高い高分子化合物を含浸または塗布させたシート状物であるため、対象物に配して高分子化合物を冷却することにより凍結(凝固)すると同時に対象物面にしっかりと接着し、安定した保護膜や保護層を形成できる。
しかも、被覆時に保護材の加熱、溶解を要しないので簡単であり、物品の加工時に加工ポイントや加工手段に加工液類を供給しても、保護膜や保護層は溶け出さず、かえって凍結が維持されて強固になるので、加工を円滑に行え、加工後も適度に冷やした状態に保てば保護膜や保護層が維持されるので、移動、搬送、保管時にも対象物の表面を適切に保護できる。
【0010】
物品の表面の保護を要さなくなったときには、高分子化合物の凝固温度よりも高い温度たとえば常温にしてやればよく、それにより高分子化合物は液状に戻りあるいはシート状物が剥離可能になるので、非常に簡単である。
高分子化合物と微粉末を混合したゲル状物は、微粉末の存在により厚い保護膜あるいは層を形成できる利点があり、また、たとえば加工物を切断したときの切断面上側保護対象面に発生しやすい欠けやかえりを抑えることもできるので、加工精度がよくなる。
液状高分子化合物またはゲル状物を含浸または塗布させたシート状物は厚みと強度が増すのでより確実に表面を保護でき、またシート状物であるため加工位置やラインをマーキングで表しておくことができるので、加工を精度よく行える。さらに、シートで異物を捕集できるので、保護を解除したときにシートに異物を帯同させて除去でき、保護対象面への再付着や傷つけを確実に防止できる。
また、シート状物はバックアップ材となるので、物品がたとえば100ミクロン以下というように極めて薄い場合でも、全体の厚みと強度、剛性が増し、移動、搬送、ハンドリングなどを容易かつ安全に行える。
【0011】
第2発明においては、保護材が常態において液状またはゲル状であるため微細な穴や空洞の隅々にまでよく浸透し、この状態で凍結することにより固体化し微細な穴や空洞を埋めて中実化するので、外部からの異物や塵や汚れの侵入を防ぐことができる。
また、穴や空洞がある物品は、その構造上強度が低く、加工力に耐えることが困難である場合が多いが、保護材が穴や空洞内で凍結して固体化するため補強材ともなり、加工物全体の強度が高まり切削加工、研削加工、切断加工等の加工が容易となり、また,チッピンングやバリの発生を確実に防止できるので加工能率と加工精度をあげることができる。
【0012】
そして、加工後も適度に冷やした状態に保てば充填物は個体のまま維持されるので、移動、搬送、保管時にも加工済み製品を安定して維持できる。
保護を要さなくなったときには、冷却を止め、高分子化合物の凝固温度を超える温度にしてやればよく、それにより液状に戻り、穴や空洞から流出するので、非常に簡単である。混合されている微粉末が水溶性であるため保護を解除したときに、異物として穴や空洞に残らず、ことさら入念な洗浄を行わずとも清浄な状態にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
好適には、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物は、低分子シリコーンで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである。
低分子シリコーンオイルないし環状シリコーンオイルで代表されるシリコーンオイルを主成分とするシリコーンオイルは表面張力が水のそれに比べて極めて小さく(通常、水の1/4以下)濡れ性がよく、毛細管現象で保護対象面に瞬時に広がり、また、穴や空洞が屈曲していたり凹凸があるなど複雑なものであっても、隅々までよく浸透し穴や空洞を隙間なく埋めることができる。したがって、保護膜形成のための塗布ないしは充填作業がきわめて容易である。
しかも、低分子シリコーンオイルないし環状シリコーンオイルで代表されるシリコーンオイルを主成分とするシリコーンオイルは凝固点が水のそれよりも高く、凝固温度に達すると、瞬間的に液相から固相に変化し、しかも優れた接着性を有する。したがって保護膜形成を簡単に短時間で行える。
また、凝固点が水のそれを超えるので、被覆面が0℃未満の場合はもちろん0℃を越える温度であっても、強固に被覆されているので、強い機械加工力に十分耐え得る表面保護力が得られる。
【0014】
また、本発明の保護材は、水との親和性がきわめて乏しい。このため、不凍液などを含有する水溶性あるいは油性の加工液を工具と被加工物に噴射したり、吹き付けたりしても、保護膜や保護層が溶解される危険性は全くなく、したがって、加工中に被加工物の表面保護機能が喪失される心配はなく、確実に被加工物表面を保護することができる。さらに、加工液を加工局部に集中的に供給しても保護膜や保護層溶解することはないから、加工熱の除去、潤滑、切粉や砥粒類の排除といった加工液の特性を十分に発揮させることができ、しかもその切粉や脱落砥粒による被加工物の傷付きを防止できる。
【0015】
好適には、高分子化合物を主成分とし微粉末と混合したゲル状物質は、低分子シリコーンオイルで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とする液状物と固体粒子を(9:1)〜(5.1:4.9)の比で配合したクリーム状物ないしペースト状物からなる。
これによれば、厚みの大きな保護層を形成することができ、かつ固体粒子が一種の骨材として働くため表面保護力が非常に強くなり、異物が強く衝突しても傷付を防止でき、被加工物に対する加工力が強大であっても安定的な表面保護を行える。また、穴や空洞に充填した場合に加工物全体の強度を高くすることができる。
【実施例1】
【0016】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は本発明における保護材1の例を示しており、(a)は凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物1Aである。(b)は、前記凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物1Aに微粉末(固体粒子)2を添加混合したクリーム状、ペースト状等で代表されるゲル状物1Bである。(c)は前記液状の高分子化合物1Aかまたはゲル状物1Bを含浸させたシート状物1Cである。(d)は前記液状の高分子化合物1Aかまたはゲル状物1Bを塗布させたシート状物1Cである。
【0017】
前記液状高分子化合物(以下、特定液状物という)1Aは、液状の高分子系凝固材であり、凝固点が水のそれよりも高く、凝固時に収縮せず、表面張力が極めて小さく、撥水性がある特性を有する高分子系凝固剤を意味し、代表的には、オクタメチルシクロテトラシロキサン、すなわち、低分子シリコーンオイルないし4量体の環状シリコーンオイル、環状ポリジメチルシロキサン、環状ジメチルシリコーンオイルなどと称されるシリコーンオイルあるいはこれを主成分とするものが挙げられる。
かかるシリコーンオイルは常温に近い温度で凝固する性質を有しており、また熱安定性もよく、耐薬品性、耐酸化性、電気絶縁性の各特性を有し、しかも人体に無害である、しかも、表面張力が水より小さく良好な撥水性を示し、また、通常、水よりも比重が軽く、加工後に一般家庭で使用されているたぐいの洗剤で洗い落せる物性を有している。なお、環状の5量体主成分とするシリコーンオイルや環状の6量体主成分とするシリコーンオイルは、凝固点が水の凝固点よりも低いため不適当である。
【0018】
具体例を示すと、たとえば、主成分が環状ポリジメチルシロキサンの低分子シリコーンオイルは、無色透明の液体で、粘度(25℃)が2.4cSt(m2/S)、凝固点17℃、屈折率(25℃)が1,394、表面張力19.0{1.90}dyn/cm{MN/cm}、比重0.95(25℃)の特性を有する。
このシリコーンオイルは、「オイル」と称されているが、珪素と酸素が交互に並んだシロキサン結合を骨組とし、分子が連鎖状にならんでいる液状の高分子化合物であり、石油や鉱油などを原料とするいわゆるオイルの概念とは全く異なる物質である。
なお、特定液状物物1Aはシリコーンオイルのみの場合と、これを主成分とするが他に所望の他の物質を添加した組成のものを含む。
【0019】
次に、ゲル状物1B(以下特定ゲル状物と称す)は、前記液状高分子化合物1Aに粘度調整剤としての固体粒子10bを添加し混練したものであり、これは粉末ことに平均粒径が10μm以下のもの、より好適には平均粒径1μm以下、さらに好適には平均粒径0.5μm以下といった微粉末や超微粉末が用いられる。
表面保護用として使用する場合の特定ゲル状物1Bにおいては、固体粒子の限定はないが、一般には、珪藻土で代表される土類の粉、米や小麦などの粉、でんぷん類、塩類、サンゴの粉、木灰、紙や繊維を燃焼した灰、ホワイトカーボン、ゼオライト、フライアッシュ、シリカなどが好ましい例として挙げられる。そのほか、セラミック、シリコン、フェライト、カーボン、グラファイト、ガラス、石、石膏、プラスチック、木綿、木、パルプ、紙、鉄、銅、アルミニウムなどの金属やその酸化物などを粉末にしたものも用いることができる。
たとえば、珪藻土や米や小麦などの粉、でんぷん類は微粒子でかつ比重が軽いため特定液状物1Aに均一に分散混合することができ、分離が起こりにくいこと、しかも安価であることから推奨される。しかし他のものも混合してすぐに塗着するならば十分に使用可能である。前記固体粒子はいくつかの種類のものを混合して使用することもできる。また、機械加工後の被加工物洗浄時にこれからの分離を促進するための液状物質、たとえば界面活性剤を固体粒子のほか微量添加してもよい。
しかし、穴やくぼみや空洞の中実化材として使用する場合には、固体粒子は水溶性のものであることが好ましい。その例としては、砂糖、米や小麦などの穀物の粉、塩類などが挙げられる。表面保護用として使用する場合にも、保護対象面に固体粒子がわずかでも残らないようにするには、水溶性の固体粒子を使用する。
【0020】
固体粒子は粘度を増加するとともに、凝固時に一種の骨材として機能し、添加量にほぼ比例して凝固時の強度が増す。したがって、固体粒子は前記主成分としての特定液状物1Aに少なくとも5wt%程度添加することが好ましい。しかしあまり添加量が多いと凝固時の強度は高いものの凝固前の流動性が悪くなるため、塗着あるいは充填しにくくなる。そこで、上限は50wt%未満とすることが好ましい。一般的には、液状高分子化合物1Aと固体粒子(粉末)の比を(9:1)〜(5.1:4.9)の範囲から選択すればよく、この固体粒子の配合比率により、液に近いスラリー的なもの〜クリーム状〜ペースト状に変化する。
【0021】
シート状物(板状のものを含む。以下特定シート状物と称す)1Cは、シート状基材10cに前記特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを含浸または塗布させたものであり、特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを含浸させるシート状基材10cとしては、紙類、布類(不織布を含む)など繊維系のものやポーラスのものあるいは網状のものなどが好適である。
特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを塗着させるシート状基材10cとしては、含浸性のないラスプラスチック、カーボン、シリコン、フェライト,ガラス、セラミックスなどの硬質なものたとえば厚さが0.5〜2mm程度のものが使用される。これらの場合は、前記特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを保護対象面に接着すべき面上に塗布する。プラスチックのフイルムやシートは、工具にまとわりつきやすいので、加工時の表面保護材としては、あまり推奨できない。
図2は保護対象物の形状例を示しており、(a)は板状ないしシート状、(b)〜(d)は各種断面形状の棒状、柱状ないしブロック状のものである。(d)の例としては、DVDの光ピックアップのプリズムレンズなどが挙げられる。 (a)の板材には、液晶画面の導光板やガラス板あるいはローパスフィルターなどが含まれる。
【0022】
〔第1発明について〕
保護対象物2たとえば被加工物(以下被加工物と称す)の表面を保護するに当たっては、保護を必要とする表面20、たとえば、上面や側面あるいはその双方を保護材1で覆い、保護膜あるいは保護層を得る。しかし、保護膜あるいは保護層はこの段階では固相ではない。
被加工物2はこの段階で加工機械のテーブルやステージなどの固定用面4に予め固定されていることが好ましいが、機外プレートに搭載されている状態で行ってもよい。
固定方法は任意であり、バキュームチャック、マグネットチャック、冷凍チャック、あるいはメカクランプなどで直接被加工物2を固定するか、パレットを介してU.V.ワックス、パラフィンなどの接着剤およびその他の接着剤で固定するか、あるいはバキュームチャックを使って接着テープ(U.V.テープ、その他のプラスチック製テープおよびその他の接着テープ)を介して固定する。
【0023】
保護を必要とする面20を保護材で覆う方法は任意であり、使用する保護材1の種類に応じて適宜選択すればよい。図3(a)のようにスポイトなどの容器3aから滴下してもよいし、図3(b)のようにスプレー容器3bを用いて噴霧してもよいし、図3(c)のように刷毛やへらあるいはローラ3cで塗ってもよい。
保護材が特定液状物1Aである場合、表面張力が極めて小さく、濡れ性がよい特性から、毛細管現象で保護対象面に瞬時に広がって膜となるので、被覆は非常に短時間で行える。
保護材が特定シート状物1Cである場合には、図3(d)のように保護を必要とする面20に被せることによって界面吸引力で密着する。乾燥したシート状基材10cが浸透性を有する場合には、保護を必要とする面20に被せた状態で特定液状物1Aや特定ゲル状物1Bを含浸させてもよい。
なお、前記被覆作業時には、保護対象物の少なくとも保護を必要とする面20を乾燥した状態とし、特定液状物1Aの凝固温度よりも高い温度に保っておくことが必要である。これは、通常、常温であればよいから簡単である。
【0024】
ついで、前記保護材1を冷却し、保護材1の構成要素である前記特定の高分子化合物を凝固、凍結させる。この冷却方法は、空冷、水冷あるいはそれらの併用など任意である。
図4はその例を示しており、水冷の場合には、(a)のように前記保護材のうち任意のもので形成した液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100を、プラスチックフイルム、金属箔などの薄い防水シート4で覆い、この状態で冷媒Cたとえば冷水を散布あるいは噴霧する。
あるいは、(b)のように遮蔽フード4´を被加工物2とスペースを置いてかぶせ,気体状の冷媒Cを遮蔽フード4´内に供給する。なお、保護材1の冷却は被加工物2を通して行ってもよい。
【0025】
前記冷却温度は、保護材1の凝固点よりも低い温度であり、保護材の凝固分子が緻密に結合し、保護を要する面20との接着による固定力(保持力)が機械加工による負荷荷重に十分耐えられるまでになる温度を意味し、通常の場合、保護材の凝固点よりも少なくとも3℃好ましくは5℃以上低い温度である。
【0026】
液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100は、冷却されることにより構成成分としての前記特定の高分子化合物が瞬時に凍結して硬い固相になり、かつ保護を要する面20に強固に接着される。
図5はこの固相保護膜ないし固相保護層101が形成された状態を示しており、(a)(b)は保護材が特定液状物1Aである場合、(c)(d)は保護材が特定ゲル状物1Bである場合、(e)(f)は保護材が特定シート状物1Cである場合を示している。
液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100を防水シート4で覆って冷却するのは、前記特定の高分子化合物の比重が水よりも小さいため、液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100に水を直接散布したり吹き付けたりすると、その水粒子が液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100の厚さ方向で下層に潜り込み、保護膜あるいは保護層100が保護面から局部的に浮かされ、それが島状に点在してしまい、そのまま凍結することにより部分的に膨らんだり、ざくざくとしたものになってしまい、意図する保護層が形成されなくなってしまうからである。前記防水シート4は、かかる不具合の発生を防止でき、均一で良好なしっかりと安定した固相保護膜ないし固相保護層101を形成できる。
なお、冷却方法が図4(a)の場合には、加工の開始までの間に防水シート4を剥す。
【0027】
あとは、固相保護膜ないし固相保護層101を維持させながら、目的の加工を行う。図6はこの例を示しており、(a)(b)は、保護材として特定液状物1Aを使用して加工物2の上面に凍結した保護膜101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
(c)(d)は保護材として前記特定ゲル状物1Bを使用し、加工物2の上面に凍結した保護層101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
(e)(f)は保護材として前記含浸タイプの特定シート状物1Cを使用し、加工物2の上面に凍結した保護層101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
(g)(h)は保護材として前記塗布タイプの特定シート状物1Cを使用し、加工物2の上面に凍結した保護層101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
【0028】
これらの加工時中、固相保護膜ないし固相保護層101を維持するには、被加工物を通して冷却するかあるいは加工液又は冷却気体を加工ポイントや工具に連続して供給して、保護対象面の温度を保護層の凝固点よりも低い温度にする。
加工液としては、保護材の凝固点よりも低い任意温度に冷却した液体、あるいは液体だけではなく、液体と気体の混合したものたとえば、温度が0℃以下、圧力が5〜7kg/cm2の冷却加圧空気を添加混合したミストがあげられる。
固相保護膜ないし固相保護層101は撥水性を有するため、加工液を使用しても加工液により固相保護膜ないしは溶解せず、かえって安定した固相状態に保たれ、かつ、加工力を加えても保護対象面20からはがれたりせず、緊密に接着している。
【0029】
したがって、加工中に被加工物2からの切粉や、工具5から脱落した砥粒やその他の異物Nが保護対象面20に向かって飛翔し、接触、衝突、擦過しても、その保護対象面20は、緻密で、硬い固相保護膜ないし固相保護層101で覆われているので、異物Nによって傷がつけられず、よごれることがない。
また、加工液が加工中に凝固して氷となっても、固相保護膜ないし固相保護層101が撥水性を有するため被加工物の表面に氷が凍結したり、積層したりすることがない。また、固相保護膜ないし固相保護層101は保護対象面20と強固に接着しているため、切断面の上側のチッピングやバリの発生も低減させることができる。
本発明の保護材は水の凝固点よりも凝固点が高く、通常、0℃以上の温度でも保護対象面20に安定的に固定化しておくことができるから、前記のように加工液で代表される流体による冷却作用で十分に固定を維持することができ、したがってコスト上も有利である。
【0030】
固相保護膜ないし固相保護層101が特定ゲル状物1Bの凍結により形成されたものである場合、混入した固体粒子10bで粘稠度が増加しているので厚い層を形成でき、また、保護層それ自体の強度も高くなる。したがって、保護対象面20が非常に傷つきやすい性質であっても、確実に保護することができる。
また、固相保護膜ないし固相保護層101が特定高分子化合物と複合させた特定シート状物1Cである場合、保護層は2重に強化された構成となるので、切断屑や砥粒やその他の異物や汚れによって被加工物が傷つきよごれることを防ぐことができる。また、マーキング手段としても機能させることができ、厚いシート状物1Cを用いれば、被加工物2が薄い場合にもそのバックアップ材としても機能するので、ハンドリング、搬送、移動を容易かつ安全に行える。
【0031】
上記のように加工が終わった場合、保護対象面20を特定高分子化合物の凝固温度よりも低い温度に保てば、固相保護膜ないし固相保護層101は加工された保護対象面20に接着された状態を維持する。
したがって、次の工程に移動、搬送する際にも、保護対象面20への異物の付着や受傷を防止できる。
そして、保護対象面20の保護をもはや要さなくなったときには、保護対象面20を特定高分子化合物の凝固温度を超える温度にすればよく、これにより、特定高分子化合物は固相から液相へと変化し、固相保護膜ないし固相保護層101を保護対象面20から簡単に離脱させることができる。
【0032】
図7はこのときの状態を示しており、(a)のように製品となった被加工物2´の固相保護膜ないし固相保護層101に熱Tが作用すると、それらは溶解して(b)のようにもとの性状(液状、ゲル状物)に戻り、液相に戻った保護材1は切粉や離脱砥粒などともに保護対象面20から離脱する。
特定シート状物である場合には、保護材の主構成物が液状、ゲル状に戻りシート状基材10cが浮くので、これをピンセットなどでつまむことにより保護対象面から除去できる。シート状基材10cに異物が付着あるいは捕集されているので、保護解除時に異物によって保護対象面に傷がつけられたり、汚される危険がなくなる。
【0033】
なお、保護対象面20を特定高分子化合物の凝固温度を超える温度に昇温する方法は任意であり、たとえば加工液又は冷却気体の供給を停止し、常温になるまで放置して自然解凍してもよいし、積極的に常温の水あるいは温水を散布したり、温風を吹きかけてもよいし、常温の水や温水などに漬けてもよい。あるいはオーブンなどに装てんして積極的に加熱してもよい。
【0034】
凝固点よりも高い温度の水あるいは家庭用の洗剤の類いを満たした槽に入れれば、保護材1は水よりも比重が軽く、また水と親和性がないため、水と分離して水面上に浮上し、切粉や離脱砥粒は水槽の底に沈降するため、簡単に分離することができる。水に洗剤類を配合していれば、保護材1はさらに急速に被加工物から分離する。そして、槽から保護材1をこれの凝固点よりも低い温度の水を収容した回収水槽に入れれば、水の上で凝固する。したがって、網などにより救い取ることで簡単に回収することができ、再使用に供することができる。したがって、保護材1の被加工物からの除去もきわめて作業性よく、能率的に行うことができる。
【0035】
本発明を適用して表面保護を行いつつ加工する例は既述のように特定されない。
1)たとえば、図8のように被加工物2を縦横に切断ダイシングして、小さなチップ状の製品を得る場合にも効果的である。
2)図9(a)のように、被加工物2にドリルなどの工具5で穴あけ加工する場合、(b)のように、砥石やメタルソーなどで、被加工物2を研削加工、切削加工その他の機械加工する場合にも効果的である。
【0036】
3)ウエハー状の素材を加工する場合に保護材として使用する。たとえば、ウエハー状の素材よりCCDカメラレンズの素子をダイシング切断によって切り離すために、あるいは、半導体回路素子などを搭載したウエハーなどの被加工物2のダイシング加工を行う際に、そのまま加工を行うと、表面および窪みなどが外部の異物や砥石から脱落した砥粒や切断された製品切断屑や汚れや外部の異物や塵などで傷つき汚れる。
これを防ぐために、図10(a)(b)、(d)のように、予め被加工物2たるウエハーの保護を要する表面及び/又は側面に、保護材1として、前記特定液状物1A、特定ゲル状物1Bあるいは特定シート状物1Cのいずれかを被覆する。
そして前記のように冷却して高分子化合物を凝固させ、固相保護膜ないし固相保護層101を形成する。この状態で、切断砥石などの工具5により加工し、保護対象面20のレンズ素子や半導体回路素子を固相保護膜ないし固相保護層101で保護する。これにより、表面および窪みなどが外部の異物や砥石から脱落した砥粒や切断された製品切断屑や汚れや外部の異物や塵などで受傷したり汚れるのを防止できる。
固相保護膜ないし固相保護層101は、加工中に切り離された半導体レンズ素子や回路素子などの一部が被加工物2の基材からはずれて表面上を転がりその表面を傷つけるを防ぐ事にも役立つ。
また、鏡面加工した被加工物たとえば時計の文字盤の表面に座ぐりなどの2次加工を施す場合にも、保護を要する表面及び/又は側面に、保護材1として、前記特定液状物1A、特定ゲル状物1Bあるいは特定シート状物1Cのいずれかを被覆して、前記のように冷却して凍結:接着して固相保護膜ないし固相保護層101を形成することで鏡面部分を保護できる。
【実施例2】
【0037】
〔第2発明について〕
図11ないし図14は本発明の第2発明を示している。
例えば、空隙21を有する被加工物2を切削加工、研削加工、切断加工、穴あけ加工やその他の機械加工する際に、あるいは半導体製造工程で、加工中あるいは製造中に発生する加工屑や砥石から脱落した砥粒やその他の周囲に飛散する異物、汚れ、塵が製品のそれら空隙21に入り、加工あるいは製造後その異物や汚れを排出洗浄することが極めて困難で、製品不良が発生する。また、製品(半導体ウエハーや半導体の素子等)を搬送する場合に空気中の異物や塵が空隙21の内部に侵入して品質を損なう。
この問題を解決するために、この発明は、被加工物2が、ポーラス状の微細な穴など穴や空洞などの空隙21を有している場合に、それら空隙21に予め保護材1を充填し、凍結させ、外部からの異物や塵や汚れの侵入を防ぐものである。
【0038】
この発明で使用する保護材1は、図1(a)(b)に示された特定液状物1A,特定ゲル状物1Bのいずれかである。ただし、特定ゲル状物1Bに添加される固体粒子は水溶性であることが必要である。これら特定液状物1A,特定ゲル状物1Bについての説明は、第1発明のそれを援用する。
図11は被加工物2の一部あるいは全体に外部に通じる微細な穴21がある場合を示しており、そうした被加工物2をたとえば切削や研削加工するにあたって、
その穴21に特定液状物1Aか特定ゲル状物1Bを充填する。
充填法は任意であり、液状であれば、スポイトなどで注入したりすればよく、ゲル状であれば、ノズルで注入したり、全体に塗着してへらなどで表面をさらって押し込むなどすればよい。特定液状物1Aは浸透性がよいので、穴の断面形状が複雑でも隅々まで充填される。
【0039】
ついで、被加工物2を前記第1発明で述べた任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相に変化させる。101は固相保護材である。特定ゲル状物1Bは固体粒子を有しているため強度が強いものとなる。
この状態で、工具5により被加工物2を加工するもので、図11(b)は例として被加工物2の表面20を研削している状態を示している。この加工時には被加工物2それ自体を冷却しあるいは加工液類を被加工物2に作用させて、特定高分子化合物の凝固温度以下に維持する。このようにすれば、各穴21が凍結プラグで閉止されているため、研削に伴って発生する切粉や砥粒などが穴21に侵入しない。また、凍結された固相保護材の存在により、チッピングやバリの発生を有効に回避できる。。
加工後の移動、搬送などにおいても特定高分子化合物の凝固温度以下に維持することで、異物の侵入を防止できるとともに、ハンドリングを容易化できる・
そして、保護が不要になった時には、特定高分子化合物の凝固温度を超える温度になるように被加工物2を昇温させる。その方法は任意であり、たとえば、被加工物2を常温水あるいは温水に漬けたりすればよい。こうすれば、保護材1は再び液状あるいはゲル状になって穴21から流出するので、除去は容易である。これらについては、第1発明の説明を援用する。ゲル状物の場合も、固体粒子が水溶性であるため水に解け、穴21に残らないので、適切な清浄性を得ることができる。
【0040】
図12は、第2発明をハニカム構造のような薄い隔壁で隔てられた多数の穴21を有する被加工物2に適用した例を示しており、多数の穴21に予め特定液状物1Aまたは特定ゲル状物1Bを充填し、ついで、被加工物2を任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相保護材101に変化させる。そして、研削砥石などの工具5で加工を行い、加工中に異物や汚れがそれらの穴に侵入しないように保護する。
ハニカム状の穴を持つ被加工物2のようにそのままの構造では加工力に耐えうる強度も持たない場合でも、凍結した保護材1が補強材となり、被加工物全体の強度が高まり,チッピングやバリの発生を防止できるので、加工が容易となり加工能率と加工精度をあげることもできる。
【0041】
図13はたとえばセラミックやガラス材など、被加工物2が基部2Aに多数の独立した突起2Bを有して剣山状板を呈するようなものである場合、突起2B間の空隙21に予め特定液状物1Aか特定ゲル状物1Bを充填し、ついで、被加工物2を任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相保護材101に変化させる。そして、研削砥石などの工具5で加工を行い、加工中に異物や汚れがそれらの穴に侵入しないように保護するものである。
【0042】
図14は厚さ方向の中間などに空洞(細い空洞状の管部)21を有している被加工物2を加工するときに、予め特定液状物1A化特定ゲル状物1Bを充填し、ついで、被加工物2を任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相保護材101に変化させる。そして、工具図示しないで切断工、切削、研削などの加工を行い、空洞21に異物や汚れが侵入しないように保護する。
この場合もその空洞21に埋め込み凍結させた固相保護材101が補強材となって機械加工を容易にさせ、加工能率と加工度を向上させることもできる。
【0043】
本発明を適用して被加工物の保護を行った具体例を示すと、被加工物は材質:BK7光学ガラス、寸法:50×50×1mmである。
保護材としては主成分が環状ポリジメチルシロキサンの低分子シリコーンオイルを特定液状物として使用した。これは無色透明の液体で、粘度(25℃)が2.4cSt(m2/S)、凝固点17℃、屈折率(25℃)が1,394、表面張力17.8dyn/cm、比重0.95(25℃)であった。
被加工物を接着テープによってテーブルに固定した状態で、保護材を筆により被加工材の上面および側面に、膜厚約20ミクロンとなるように塗布した。この状態で、薄いプラスチック製の防水シートをかぶせ、5℃の水を撒いて冷却し、液状だった保護膜を凍結させた。所要時間は10秒であった。
加工種は切断ダイシングで、5×5mmの片を得る加工である。工具には、レジンボンドダイヤモンド砥石(粒度#280)の1枚砥石、工具寸法は外径100mm、厚み0.4mmを使用した。加工条件は、砥石回転数:8000rpm、テーブル送り速度100mm/min、加工法工:ダウンカットとした。加工中に4℃の水溶性クーラント液を噴射して保護膜の凍結を維持させた。
加工後、被加工物を常温にして固相保護膜を解凍した。得られた製品の表面は全く無傷であった。比較のため、本発明を適用しないで加工を行ったところ、被加工物の表面は数ミクロンの大きさの傷が多数生じてしまった。
なお、保護材として、粘度(25℃)が2.5cSt(m2/S)、凝固点10℃、屈折率(25℃)が1.394、表面張力19.0{1.90}dyn/cm{MN/cm}、比重0.95(25℃)の低分子シリコーンオイルを使用し、薄いプラスチック製の防水シートをかぶせ、2℃の水を撒いて冷却し、液状だった保護膜を凍結させた場合も、良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、工業製品の加工時と加工後の移動、搬送、保管の際などにおける物品表面や空隙の傷付や汚損などに対する保護に好適であるが、各種物品の傷付や汚損などに対する一時的な保護手段や保護方法としても有効である。すなわち、加工を伴わず、清浄度や鏡面性が要求される物品の搬送、ハンドリング、輸送、保管時などにおいて物品の所要面を保護する場合も含む。
【0045】
物品が薄い場合の搬送、移動等のためのハンドリング補助手段を例にとると、半導体のシリコンウエハー類は厚みが薄くなり、数十μm程度あるいはそれ以下になる傾向にある。このような条件では、ハンドリングが極めて困難となり、破壊して取り扱いができなくなる可能性がある。従来では、その対策として有効なものがなかった。
しかし、本発明を適用し、図15(a)のように、強度のある補強部材、通常板状(カーボン、他のシリコンウエハーなど)1´に前記特定液状物1Aあるいは特定ゲル状物1Bで膜あるいは層を形成し、これにシリコンウエハー類などの壊れやすい薄層物2を配し、その状態で高分子化合物の凝固温度以下に冷却する。これにより凝固した特定高分子化合物を接着材として薄層物と補強部材が一体化する。こうすれば薄層物2は見かけ上全体が厚く、強度が増すので、ハンドリング、搬送、移動などを容易かつ安全に行える。補強を要さなくなったときには、加温して高分子化合物を固相から液相にすれば簡単に分離される。
なお、図15(b)のように天地を逆にすれば、補強部材1´が上になり、前述した保護材として機能するので、表面を保護しつつ円滑に加工などを行える。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)(b)(c)(d)はそれぞれ本発明における保護材を示す説明図である。
【図2】(a)〜(d)は本発明で保護対象とする物品の例を示す斜視図である。
【図3】(a)〜(d)は液相状態の保護膜ないし保護層の形成方を例示する側面図である。
【図4】(a)(b)は保護膜ないし保護層を凍結する工程の例を示す側面図である。
【図5】(a)(b)は特定液状物を保護材として用いた場合の固相化した保護膜ないし保護層の断面とその一部拡大図、(c)(d)は特定ゲル状物を保護材として用いた場合の固相化した保護膜ないし保護層の断面とその一部拡大図,(e)(f)は特定シート状物を保護材として用いた場合の固相化した保護膜ないし保護層の断面とその一部拡大図である。
【図6】(a)(b)は特定液状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図、(c)(d)は特定ゲル状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図,(e)(f)は含浸性の特定シート状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図、(g)(h)は非含浸性の特定シート状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図である。
【図7】(a)(b)は保護解除の状態変化を示す部分的断面図である。
【図8】他の加工例を示す斜視図である。
【図9】(a)は他の表面保護例と加工例を示す斜視図、(b)はその一部拡大断面図、(c)は他の表面保護例と加工例を示す斜視図である。
【図10】(a)は他の表面保護例を示す平面図、(b)はその断面図、(c)は加工状態を示す平面図、(d)は別の保護例を示す平面図である。
【図11】(a)は第2発明の一例を示す平面図、(b)は加工状態を示す断面図である。
【図12】(a)は第2発明の他例を示す平面図、(b)(c)は加工状態を示す断面図である。
【図13】(a)は第2発明の今ひとつの例を示す平面図、(b)は加工状態を示す断面図である。
【図14】(a)は第2発明の今ひとつの例を示す斜視図、(b)は別の例を示す断面図である。
【図15】(a)は本発明の応用例を示す断面図、(b)は保護材として使用した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 保護材
1A 液状高分子化合物
1B ゲル状物
1C シート状物
2、 保護対象物(被加工物)
2´ 保護対象物(加工済みの被加工物)
5 工具
20 保護対象面
21 空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は物品の加工時などにおいて表面など必要部位が傷ついたり汚損されるのを防止するための保護材とこれを利用した物品の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非金属や金属の材料を加工するにあたっては、被加工物は加工テーブルやステージ上に固定され、必要な工具によって研削、切断(スラシング、ダイシング)、穴あけなどの加工がなされるが、このときに、被加工物から発生する加工屑や砥粒などによって被加工物の表面が傷つき、表面が鏡面仕上げされていることあるいは、表面(側面を含む)のクリーン度が要求される製品の不良化が多発している。また、加工後に当該製品を移動、搬送、保管するときにも、表面に埃や異物が接触して汚れたり、傷ついたりすることが多い。
【0003】
この対策として、ワックス類で対象物の表面をコーティングすることが試みられているが、コーティング材をいったん加熱して溶融させ、加工終了後に再び加熱してコーティング材を溶融させることが必要であるため使い勝手が悪く、また溶融したワックスを有機溶剤で洗浄してもその洗浄効果が充分でなく、多くの不良が発生しやすいので、コスト、能率が低下する問題があった。また、保護テープ類を貼着することも考えられるが、引き剥がし時に加工物を損傷したり、変形させやすく、しかも接着剤の残渣が残り、その処理に難渋する。
このため、実際には何も保護せずに加工を行うケースがほとんどで、不良品発生率が高くなっていたものである。
【0004】
また、物品がポーラスであったり内部に空洞があるような場合、そうした物品を加工したり、加工後に移動、搬送、保管する場合にも、加工屑、加工手段から遊離した異物、埃などが穴や空洞に侵入し、排出洗浄することが極めて困難であったが、これを容易に解決する手段や方法がなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その第1の目的は、物品の所要面が傷つけられたり汚損されないよう簡単、確実に保護することができ、しかも保護工程、保護解除工程をきわめて簡単に行える物品保護材と保護方法を提供することにある。
また本発明の第2の目的は、物品の穴や空洞を隅々まで簡単、確実に埋めて中実化し、外部からの異物やごみ、汚れの侵入を防止することができ、しかも中実化工程、中実解除工程をきわめて簡単に行える物品保護材と保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第1の目的を達成するため本発明の物品保護材は、物品の表面を保護するための手段であって、該手段が、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物、もしくは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物であることを特徴としている。
また、第1の目的を達成するため本発明の物品保護方法は、物品の保護を必要とする表面を、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと微粉末を混合したゲル状物、あるいは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物のいずれかで覆い、前記高分子化合物を凍結させることで物品表面を保護することを特徴としている。
【0007】
第2の目的を達成するため本発明の物品保護材は、内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品を保護するための手段であって、該手段が凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物であることを特徴としている。
第2の目的を達成するため本発明の物品保護方法は、内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品の前記穴あるいは空洞に、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと水溶性微粉末を混合したゲル状物を充填させ、高分子化合物を凍結させることで穴あるいは空洞を中実化することを特徴としている。
【0008】
本発明において「シート状物」とは、比較的薄いたとえば2mm以下程度のものを総称する概念であり、柔軟な性状の物のほか、剛性のある板状のものを含む。
本発明において、対象とする物品の材質には制約がなく、金属、非金属、有機物、無機物など表面を保護する必要のあるものを含む。たとえば、鉄系、銅系、アルミニウム系、チタン系、シリコン系、ゲルマニウム系などで代表される金属、プラスチック系、ガラス系、カーボン系、フェライト系、セラミック系、あるいはこれらの2種以上の複合材、水晶、石英、ダイヤモンド、CBN、ルビー、サファイヤなど材質を問わず、また形状、寸法も問わない。
また、物品の具体例としては、半導体エウハー、半導体素子、液晶画面の導光板やガラス板、レンズ類など表面の鏡面度やクリーン度が要求されるあらゆる物が対象である。素材はもとより、既に加工されて鏡面になっているものを含む。
加工方法も限定はなく、切削、平面研削、成形研削、クリープ研削、円筒研削などの各種研削加工、旋削加工、研摩加工、ラップ加工、フライス、砥石、ワイヤソウなどを含む切断加工、スライス加工、ダイシング加工、ミーリング加工、溝加工、穴明け加工、超音波加工、放電加工、彫刻など態様を問わない。
【発明の効果】
【0009】
第1発明においては、保護材が常態において液状をなし凝固点が水よりも高い高分子化合物(液状高分子系凝固材)、またはこれと微粉末を混合したゲル状物、もしくは前記液状の高い高分子化合物を含浸または塗布させたシート状物であるため、対象物に配して高分子化合物を冷却することにより凍結(凝固)すると同時に対象物面にしっかりと接着し、安定した保護膜や保護層を形成できる。
しかも、被覆時に保護材の加熱、溶解を要しないので簡単であり、物品の加工時に加工ポイントや加工手段に加工液類を供給しても、保護膜や保護層は溶け出さず、かえって凍結が維持されて強固になるので、加工を円滑に行え、加工後も適度に冷やした状態に保てば保護膜や保護層が維持されるので、移動、搬送、保管時にも対象物の表面を適切に保護できる。
【0010】
物品の表面の保護を要さなくなったときには、高分子化合物の凝固温度よりも高い温度たとえば常温にしてやればよく、それにより高分子化合物は液状に戻りあるいはシート状物が剥離可能になるので、非常に簡単である。
高分子化合物と微粉末を混合したゲル状物は、微粉末の存在により厚い保護膜あるいは層を形成できる利点があり、また、たとえば加工物を切断したときの切断面上側保護対象面に発生しやすい欠けやかえりを抑えることもできるので、加工精度がよくなる。
液状高分子化合物またはゲル状物を含浸または塗布させたシート状物は厚みと強度が増すのでより確実に表面を保護でき、またシート状物であるため加工位置やラインをマーキングで表しておくことができるので、加工を精度よく行える。さらに、シートで異物を捕集できるので、保護を解除したときにシートに異物を帯同させて除去でき、保護対象面への再付着や傷つけを確実に防止できる。
また、シート状物はバックアップ材となるので、物品がたとえば100ミクロン以下というように極めて薄い場合でも、全体の厚みと強度、剛性が増し、移動、搬送、ハンドリングなどを容易かつ安全に行える。
【0011】
第2発明においては、保護材が常態において液状またはゲル状であるため微細な穴や空洞の隅々にまでよく浸透し、この状態で凍結することにより固体化し微細な穴や空洞を埋めて中実化するので、外部からの異物や塵や汚れの侵入を防ぐことができる。
また、穴や空洞がある物品は、その構造上強度が低く、加工力に耐えることが困難である場合が多いが、保護材が穴や空洞内で凍結して固体化するため補強材ともなり、加工物全体の強度が高まり切削加工、研削加工、切断加工等の加工が容易となり、また,チッピンングやバリの発生を確実に防止できるので加工能率と加工精度をあげることができる。
【0012】
そして、加工後も適度に冷やした状態に保てば充填物は個体のまま維持されるので、移動、搬送、保管時にも加工済み製品を安定して維持できる。
保護を要さなくなったときには、冷却を止め、高分子化合物の凝固温度を超える温度にしてやればよく、それにより液状に戻り、穴や空洞から流出するので、非常に簡単である。混合されている微粉末が水溶性であるため保護を解除したときに、異物として穴や空洞に残らず、ことさら入念な洗浄を行わずとも清浄な状態にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
好適には、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物は、低分子シリコーンで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである。
低分子シリコーンオイルないし環状シリコーンオイルで代表されるシリコーンオイルを主成分とするシリコーンオイルは表面張力が水のそれに比べて極めて小さく(通常、水の1/4以下)濡れ性がよく、毛細管現象で保護対象面に瞬時に広がり、また、穴や空洞が屈曲していたり凹凸があるなど複雑なものであっても、隅々までよく浸透し穴や空洞を隙間なく埋めることができる。したがって、保護膜形成のための塗布ないしは充填作業がきわめて容易である。
しかも、低分子シリコーンオイルないし環状シリコーンオイルで代表されるシリコーンオイルを主成分とするシリコーンオイルは凝固点が水のそれよりも高く、凝固温度に達すると、瞬間的に液相から固相に変化し、しかも優れた接着性を有する。したがって保護膜形成を簡単に短時間で行える。
また、凝固点が水のそれを超えるので、被覆面が0℃未満の場合はもちろん0℃を越える温度であっても、強固に被覆されているので、強い機械加工力に十分耐え得る表面保護力が得られる。
【0014】
また、本発明の保護材は、水との親和性がきわめて乏しい。このため、不凍液などを含有する水溶性あるいは油性の加工液を工具と被加工物に噴射したり、吹き付けたりしても、保護膜や保護層が溶解される危険性は全くなく、したがって、加工中に被加工物の表面保護機能が喪失される心配はなく、確実に被加工物表面を保護することができる。さらに、加工液を加工局部に集中的に供給しても保護膜や保護層溶解することはないから、加工熱の除去、潤滑、切粉や砥粒類の排除といった加工液の特性を十分に発揮させることができ、しかもその切粉や脱落砥粒による被加工物の傷付きを防止できる。
【0015】
好適には、高分子化合物を主成分とし微粉末と混合したゲル状物質は、低分子シリコーンオイルで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とする液状物と固体粒子を(9:1)〜(5.1:4.9)の比で配合したクリーム状物ないしペースト状物からなる。
これによれば、厚みの大きな保護層を形成することができ、かつ固体粒子が一種の骨材として働くため表面保護力が非常に強くなり、異物が強く衝突しても傷付を防止でき、被加工物に対する加工力が強大であっても安定的な表面保護を行える。また、穴や空洞に充填した場合に加工物全体の強度を高くすることができる。
【実施例1】
【0016】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は本発明における保護材1の例を示しており、(a)は凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物1Aである。(b)は、前記凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物1Aに微粉末(固体粒子)2を添加混合したクリーム状、ペースト状等で代表されるゲル状物1Bである。(c)は前記液状の高分子化合物1Aかまたはゲル状物1Bを含浸させたシート状物1Cである。(d)は前記液状の高分子化合物1Aかまたはゲル状物1Bを塗布させたシート状物1Cである。
【0017】
前記液状高分子化合物(以下、特定液状物という)1Aは、液状の高分子系凝固材であり、凝固点が水のそれよりも高く、凝固時に収縮せず、表面張力が極めて小さく、撥水性がある特性を有する高分子系凝固剤を意味し、代表的には、オクタメチルシクロテトラシロキサン、すなわち、低分子シリコーンオイルないし4量体の環状シリコーンオイル、環状ポリジメチルシロキサン、環状ジメチルシリコーンオイルなどと称されるシリコーンオイルあるいはこれを主成分とするものが挙げられる。
かかるシリコーンオイルは常温に近い温度で凝固する性質を有しており、また熱安定性もよく、耐薬品性、耐酸化性、電気絶縁性の各特性を有し、しかも人体に無害である、しかも、表面張力が水より小さく良好な撥水性を示し、また、通常、水よりも比重が軽く、加工後に一般家庭で使用されているたぐいの洗剤で洗い落せる物性を有している。なお、環状の5量体主成分とするシリコーンオイルや環状の6量体主成分とするシリコーンオイルは、凝固点が水の凝固点よりも低いため不適当である。
【0018】
具体例を示すと、たとえば、主成分が環状ポリジメチルシロキサンの低分子シリコーンオイルは、無色透明の液体で、粘度(25℃)が2.4cSt(m2/S)、凝固点17℃、屈折率(25℃)が1,394、表面張力19.0{1.90}dyn/cm{MN/cm}、比重0.95(25℃)の特性を有する。
このシリコーンオイルは、「オイル」と称されているが、珪素と酸素が交互に並んだシロキサン結合を骨組とし、分子が連鎖状にならんでいる液状の高分子化合物であり、石油や鉱油などを原料とするいわゆるオイルの概念とは全く異なる物質である。
なお、特定液状物物1Aはシリコーンオイルのみの場合と、これを主成分とするが他に所望の他の物質を添加した組成のものを含む。
【0019】
次に、ゲル状物1B(以下特定ゲル状物と称す)は、前記液状高分子化合物1Aに粘度調整剤としての固体粒子10bを添加し混練したものであり、これは粉末ことに平均粒径が10μm以下のもの、より好適には平均粒径1μm以下、さらに好適には平均粒径0.5μm以下といった微粉末や超微粉末が用いられる。
表面保護用として使用する場合の特定ゲル状物1Bにおいては、固体粒子の限定はないが、一般には、珪藻土で代表される土類の粉、米や小麦などの粉、でんぷん類、塩類、サンゴの粉、木灰、紙や繊維を燃焼した灰、ホワイトカーボン、ゼオライト、フライアッシュ、シリカなどが好ましい例として挙げられる。そのほか、セラミック、シリコン、フェライト、カーボン、グラファイト、ガラス、石、石膏、プラスチック、木綿、木、パルプ、紙、鉄、銅、アルミニウムなどの金属やその酸化物などを粉末にしたものも用いることができる。
たとえば、珪藻土や米や小麦などの粉、でんぷん類は微粒子でかつ比重が軽いため特定液状物1Aに均一に分散混合することができ、分離が起こりにくいこと、しかも安価であることから推奨される。しかし他のものも混合してすぐに塗着するならば十分に使用可能である。前記固体粒子はいくつかの種類のものを混合して使用することもできる。また、機械加工後の被加工物洗浄時にこれからの分離を促進するための液状物質、たとえば界面活性剤を固体粒子のほか微量添加してもよい。
しかし、穴やくぼみや空洞の中実化材として使用する場合には、固体粒子は水溶性のものであることが好ましい。その例としては、砂糖、米や小麦などの穀物の粉、塩類などが挙げられる。表面保護用として使用する場合にも、保護対象面に固体粒子がわずかでも残らないようにするには、水溶性の固体粒子を使用する。
【0020】
固体粒子は粘度を増加するとともに、凝固時に一種の骨材として機能し、添加量にほぼ比例して凝固時の強度が増す。したがって、固体粒子は前記主成分としての特定液状物1Aに少なくとも5wt%程度添加することが好ましい。しかしあまり添加量が多いと凝固時の強度は高いものの凝固前の流動性が悪くなるため、塗着あるいは充填しにくくなる。そこで、上限は50wt%未満とすることが好ましい。一般的には、液状高分子化合物1Aと固体粒子(粉末)の比を(9:1)〜(5.1:4.9)の範囲から選択すればよく、この固体粒子の配合比率により、液に近いスラリー的なもの〜クリーム状〜ペースト状に変化する。
【0021】
シート状物(板状のものを含む。以下特定シート状物と称す)1Cは、シート状基材10cに前記特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを含浸または塗布させたものであり、特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを含浸させるシート状基材10cとしては、紙類、布類(不織布を含む)など繊維系のものやポーラスのものあるいは網状のものなどが好適である。
特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを塗着させるシート状基材10cとしては、含浸性のないラスプラスチック、カーボン、シリコン、フェライト,ガラス、セラミックスなどの硬質なものたとえば厚さが0.5〜2mm程度のものが使用される。これらの場合は、前記特定液状物1Aかまたは特定ゲル状物1Bを保護対象面に接着すべき面上に塗布する。プラスチックのフイルムやシートは、工具にまとわりつきやすいので、加工時の表面保護材としては、あまり推奨できない。
図2は保護対象物の形状例を示しており、(a)は板状ないしシート状、(b)〜(d)は各種断面形状の棒状、柱状ないしブロック状のものである。(d)の例としては、DVDの光ピックアップのプリズムレンズなどが挙げられる。 (a)の板材には、液晶画面の導光板やガラス板あるいはローパスフィルターなどが含まれる。
【0022】
〔第1発明について〕
保護対象物2たとえば被加工物(以下被加工物と称す)の表面を保護するに当たっては、保護を必要とする表面20、たとえば、上面や側面あるいはその双方を保護材1で覆い、保護膜あるいは保護層を得る。しかし、保護膜あるいは保護層はこの段階では固相ではない。
被加工物2はこの段階で加工機械のテーブルやステージなどの固定用面4に予め固定されていることが好ましいが、機外プレートに搭載されている状態で行ってもよい。
固定方法は任意であり、バキュームチャック、マグネットチャック、冷凍チャック、あるいはメカクランプなどで直接被加工物2を固定するか、パレットを介してU.V.ワックス、パラフィンなどの接着剤およびその他の接着剤で固定するか、あるいはバキュームチャックを使って接着テープ(U.V.テープ、その他のプラスチック製テープおよびその他の接着テープ)を介して固定する。
【0023】
保護を必要とする面20を保護材で覆う方法は任意であり、使用する保護材1の種類に応じて適宜選択すればよい。図3(a)のようにスポイトなどの容器3aから滴下してもよいし、図3(b)のようにスプレー容器3bを用いて噴霧してもよいし、図3(c)のように刷毛やへらあるいはローラ3cで塗ってもよい。
保護材が特定液状物1Aである場合、表面張力が極めて小さく、濡れ性がよい特性から、毛細管現象で保護対象面に瞬時に広がって膜となるので、被覆は非常に短時間で行える。
保護材が特定シート状物1Cである場合には、図3(d)のように保護を必要とする面20に被せることによって界面吸引力で密着する。乾燥したシート状基材10cが浸透性を有する場合には、保護を必要とする面20に被せた状態で特定液状物1Aや特定ゲル状物1Bを含浸させてもよい。
なお、前記被覆作業時には、保護対象物の少なくとも保護を必要とする面20を乾燥した状態とし、特定液状物1Aの凝固温度よりも高い温度に保っておくことが必要である。これは、通常、常温であればよいから簡単である。
【0024】
ついで、前記保護材1を冷却し、保護材1の構成要素である前記特定の高分子化合物を凝固、凍結させる。この冷却方法は、空冷、水冷あるいはそれらの併用など任意である。
図4はその例を示しており、水冷の場合には、(a)のように前記保護材のうち任意のもので形成した液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100を、プラスチックフイルム、金属箔などの薄い防水シート4で覆い、この状態で冷媒Cたとえば冷水を散布あるいは噴霧する。
あるいは、(b)のように遮蔽フード4´を被加工物2とスペースを置いてかぶせ,気体状の冷媒Cを遮蔽フード4´内に供給する。なお、保護材1の冷却は被加工物2を通して行ってもよい。
【0025】
前記冷却温度は、保護材1の凝固点よりも低い温度であり、保護材の凝固分子が緻密に結合し、保護を要する面20との接着による固定力(保持力)が機械加工による負荷荷重に十分耐えられるまでになる温度を意味し、通常の場合、保護材の凝固点よりも少なくとも3℃好ましくは5℃以上低い温度である。
【0026】
液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100は、冷却されることにより構成成分としての前記特定の高分子化合物が瞬時に凍結して硬い固相になり、かつ保護を要する面20に強固に接着される。
図5はこの固相保護膜ないし固相保護層101が形成された状態を示しており、(a)(b)は保護材が特定液状物1Aである場合、(c)(d)は保護材が特定ゲル状物1Bである場合、(e)(f)は保護材が特定シート状物1Cである場合を示している。
液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100を防水シート4で覆って冷却するのは、前記特定の高分子化合物の比重が水よりも小さいため、液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100に水を直接散布したり吹き付けたりすると、その水粒子が液相ないしゲル状態の保護膜あるいは保護層100の厚さ方向で下層に潜り込み、保護膜あるいは保護層100が保護面から局部的に浮かされ、それが島状に点在してしまい、そのまま凍結することにより部分的に膨らんだり、ざくざくとしたものになってしまい、意図する保護層が形成されなくなってしまうからである。前記防水シート4は、かかる不具合の発生を防止でき、均一で良好なしっかりと安定した固相保護膜ないし固相保護層101を形成できる。
なお、冷却方法が図4(a)の場合には、加工の開始までの間に防水シート4を剥す。
【0027】
あとは、固相保護膜ないし固相保護層101を維持させながら、目的の加工を行う。図6はこの例を示しており、(a)(b)は、保護材として特定液状物1Aを使用して加工物2の上面に凍結した保護膜101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
(c)(d)は保護材として前記特定ゲル状物1Bを使用し、加工物2の上面に凍結した保護層101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
(e)(f)は保護材として前記含浸タイプの特定シート状物1Cを使用し、加工物2の上面に凍結した保護層101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
(g)(h)は保護材として前記塗布タイプの特定シート状物1Cを使用し、加工物2の上面に凍結した保護層101を形成し、工具5たとえば切断砥石で切断スライシングを行う例を示している。
【0028】
これらの加工時中、固相保護膜ないし固相保護層101を維持するには、被加工物を通して冷却するかあるいは加工液又は冷却気体を加工ポイントや工具に連続して供給して、保護対象面の温度を保護層の凝固点よりも低い温度にする。
加工液としては、保護材の凝固点よりも低い任意温度に冷却した液体、あるいは液体だけではなく、液体と気体の混合したものたとえば、温度が0℃以下、圧力が5〜7kg/cm2の冷却加圧空気を添加混合したミストがあげられる。
固相保護膜ないし固相保護層101は撥水性を有するため、加工液を使用しても加工液により固相保護膜ないしは溶解せず、かえって安定した固相状態に保たれ、かつ、加工力を加えても保護対象面20からはがれたりせず、緊密に接着している。
【0029】
したがって、加工中に被加工物2からの切粉や、工具5から脱落した砥粒やその他の異物Nが保護対象面20に向かって飛翔し、接触、衝突、擦過しても、その保護対象面20は、緻密で、硬い固相保護膜ないし固相保護層101で覆われているので、異物Nによって傷がつけられず、よごれることがない。
また、加工液が加工中に凝固して氷となっても、固相保護膜ないし固相保護層101が撥水性を有するため被加工物の表面に氷が凍結したり、積層したりすることがない。また、固相保護膜ないし固相保護層101は保護対象面20と強固に接着しているため、切断面の上側のチッピングやバリの発生も低減させることができる。
本発明の保護材は水の凝固点よりも凝固点が高く、通常、0℃以上の温度でも保護対象面20に安定的に固定化しておくことができるから、前記のように加工液で代表される流体による冷却作用で十分に固定を維持することができ、したがってコスト上も有利である。
【0030】
固相保護膜ないし固相保護層101が特定ゲル状物1Bの凍結により形成されたものである場合、混入した固体粒子10bで粘稠度が増加しているので厚い層を形成でき、また、保護層それ自体の強度も高くなる。したがって、保護対象面20が非常に傷つきやすい性質であっても、確実に保護することができる。
また、固相保護膜ないし固相保護層101が特定高分子化合物と複合させた特定シート状物1Cである場合、保護層は2重に強化された構成となるので、切断屑や砥粒やその他の異物や汚れによって被加工物が傷つきよごれることを防ぐことができる。また、マーキング手段としても機能させることができ、厚いシート状物1Cを用いれば、被加工物2が薄い場合にもそのバックアップ材としても機能するので、ハンドリング、搬送、移動を容易かつ安全に行える。
【0031】
上記のように加工が終わった場合、保護対象面20を特定高分子化合物の凝固温度よりも低い温度に保てば、固相保護膜ないし固相保護層101は加工された保護対象面20に接着された状態を維持する。
したがって、次の工程に移動、搬送する際にも、保護対象面20への異物の付着や受傷を防止できる。
そして、保護対象面20の保護をもはや要さなくなったときには、保護対象面20を特定高分子化合物の凝固温度を超える温度にすればよく、これにより、特定高分子化合物は固相から液相へと変化し、固相保護膜ないし固相保護層101を保護対象面20から簡単に離脱させることができる。
【0032】
図7はこのときの状態を示しており、(a)のように製品となった被加工物2´の固相保護膜ないし固相保護層101に熱Tが作用すると、それらは溶解して(b)のようにもとの性状(液状、ゲル状物)に戻り、液相に戻った保護材1は切粉や離脱砥粒などともに保護対象面20から離脱する。
特定シート状物である場合には、保護材の主構成物が液状、ゲル状に戻りシート状基材10cが浮くので、これをピンセットなどでつまむことにより保護対象面から除去できる。シート状基材10cに異物が付着あるいは捕集されているので、保護解除時に異物によって保護対象面に傷がつけられたり、汚される危険がなくなる。
【0033】
なお、保護対象面20を特定高分子化合物の凝固温度を超える温度に昇温する方法は任意であり、たとえば加工液又は冷却気体の供給を停止し、常温になるまで放置して自然解凍してもよいし、積極的に常温の水あるいは温水を散布したり、温風を吹きかけてもよいし、常温の水や温水などに漬けてもよい。あるいはオーブンなどに装てんして積極的に加熱してもよい。
【0034】
凝固点よりも高い温度の水あるいは家庭用の洗剤の類いを満たした槽に入れれば、保護材1は水よりも比重が軽く、また水と親和性がないため、水と分離して水面上に浮上し、切粉や離脱砥粒は水槽の底に沈降するため、簡単に分離することができる。水に洗剤類を配合していれば、保護材1はさらに急速に被加工物から分離する。そして、槽から保護材1をこれの凝固点よりも低い温度の水を収容した回収水槽に入れれば、水の上で凝固する。したがって、網などにより救い取ることで簡単に回収することができ、再使用に供することができる。したがって、保護材1の被加工物からの除去もきわめて作業性よく、能率的に行うことができる。
【0035】
本発明を適用して表面保護を行いつつ加工する例は既述のように特定されない。
1)たとえば、図8のように被加工物2を縦横に切断ダイシングして、小さなチップ状の製品を得る場合にも効果的である。
2)図9(a)のように、被加工物2にドリルなどの工具5で穴あけ加工する場合、(b)のように、砥石やメタルソーなどで、被加工物2を研削加工、切削加工その他の機械加工する場合にも効果的である。
【0036】
3)ウエハー状の素材を加工する場合に保護材として使用する。たとえば、ウエハー状の素材よりCCDカメラレンズの素子をダイシング切断によって切り離すために、あるいは、半導体回路素子などを搭載したウエハーなどの被加工物2のダイシング加工を行う際に、そのまま加工を行うと、表面および窪みなどが外部の異物や砥石から脱落した砥粒や切断された製品切断屑や汚れや外部の異物や塵などで傷つき汚れる。
これを防ぐために、図10(a)(b)、(d)のように、予め被加工物2たるウエハーの保護を要する表面及び/又は側面に、保護材1として、前記特定液状物1A、特定ゲル状物1Bあるいは特定シート状物1Cのいずれかを被覆する。
そして前記のように冷却して高分子化合物を凝固させ、固相保護膜ないし固相保護層101を形成する。この状態で、切断砥石などの工具5により加工し、保護対象面20のレンズ素子や半導体回路素子を固相保護膜ないし固相保護層101で保護する。これにより、表面および窪みなどが外部の異物や砥石から脱落した砥粒や切断された製品切断屑や汚れや外部の異物や塵などで受傷したり汚れるのを防止できる。
固相保護膜ないし固相保護層101は、加工中に切り離された半導体レンズ素子や回路素子などの一部が被加工物2の基材からはずれて表面上を転がりその表面を傷つけるを防ぐ事にも役立つ。
また、鏡面加工した被加工物たとえば時計の文字盤の表面に座ぐりなどの2次加工を施す場合にも、保護を要する表面及び/又は側面に、保護材1として、前記特定液状物1A、特定ゲル状物1Bあるいは特定シート状物1Cのいずれかを被覆して、前記のように冷却して凍結:接着して固相保護膜ないし固相保護層101を形成することで鏡面部分を保護できる。
【実施例2】
【0037】
〔第2発明について〕
図11ないし図14は本発明の第2発明を示している。
例えば、空隙21を有する被加工物2を切削加工、研削加工、切断加工、穴あけ加工やその他の機械加工する際に、あるいは半導体製造工程で、加工中あるいは製造中に発生する加工屑や砥石から脱落した砥粒やその他の周囲に飛散する異物、汚れ、塵が製品のそれら空隙21に入り、加工あるいは製造後その異物や汚れを排出洗浄することが極めて困難で、製品不良が発生する。また、製品(半導体ウエハーや半導体の素子等)を搬送する場合に空気中の異物や塵が空隙21の内部に侵入して品質を損なう。
この問題を解決するために、この発明は、被加工物2が、ポーラス状の微細な穴など穴や空洞などの空隙21を有している場合に、それら空隙21に予め保護材1を充填し、凍結させ、外部からの異物や塵や汚れの侵入を防ぐものである。
【0038】
この発明で使用する保護材1は、図1(a)(b)に示された特定液状物1A,特定ゲル状物1Bのいずれかである。ただし、特定ゲル状物1Bに添加される固体粒子は水溶性であることが必要である。これら特定液状物1A,特定ゲル状物1Bについての説明は、第1発明のそれを援用する。
図11は被加工物2の一部あるいは全体に外部に通じる微細な穴21がある場合を示しており、そうした被加工物2をたとえば切削や研削加工するにあたって、
その穴21に特定液状物1Aか特定ゲル状物1Bを充填する。
充填法は任意であり、液状であれば、スポイトなどで注入したりすればよく、ゲル状であれば、ノズルで注入したり、全体に塗着してへらなどで表面をさらって押し込むなどすればよい。特定液状物1Aは浸透性がよいので、穴の断面形状が複雑でも隅々まで充填される。
【0039】
ついで、被加工物2を前記第1発明で述べた任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相に変化させる。101は固相保護材である。特定ゲル状物1Bは固体粒子を有しているため強度が強いものとなる。
この状態で、工具5により被加工物2を加工するもので、図11(b)は例として被加工物2の表面20を研削している状態を示している。この加工時には被加工物2それ自体を冷却しあるいは加工液類を被加工物2に作用させて、特定高分子化合物の凝固温度以下に維持する。このようにすれば、各穴21が凍結プラグで閉止されているため、研削に伴って発生する切粉や砥粒などが穴21に侵入しない。また、凍結された固相保護材の存在により、チッピングやバリの発生を有効に回避できる。。
加工後の移動、搬送などにおいても特定高分子化合物の凝固温度以下に維持することで、異物の侵入を防止できるとともに、ハンドリングを容易化できる・
そして、保護が不要になった時には、特定高分子化合物の凝固温度を超える温度になるように被加工物2を昇温させる。その方法は任意であり、たとえば、被加工物2を常温水あるいは温水に漬けたりすればよい。こうすれば、保護材1は再び液状あるいはゲル状になって穴21から流出するので、除去は容易である。これらについては、第1発明の説明を援用する。ゲル状物の場合も、固体粒子が水溶性であるため水に解け、穴21に残らないので、適切な清浄性を得ることができる。
【0040】
図12は、第2発明をハニカム構造のような薄い隔壁で隔てられた多数の穴21を有する被加工物2に適用した例を示しており、多数の穴21に予め特定液状物1Aまたは特定ゲル状物1Bを充填し、ついで、被加工物2を任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相保護材101に変化させる。そして、研削砥石などの工具5で加工を行い、加工中に異物や汚れがそれらの穴に侵入しないように保護する。
ハニカム状の穴を持つ被加工物2のようにそのままの構造では加工力に耐えうる強度も持たない場合でも、凍結した保護材1が補強材となり、被加工物全体の強度が高まり,チッピングやバリの発生を防止できるので、加工が容易となり加工能率と加工精度をあげることもできる。
【0041】
図13はたとえばセラミックやガラス材など、被加工物2が基部2Aに多数の独立した突起2Bを有して剣山状板を呈するようなものである場合、突起2B間の空隙21に予め特定液状物1Aか特定ゲル状物1Bを充填し、ついで、被加工物2を任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相保護材101に変化させる。そして、研削砥石などの工具5で加工を行い、加工中に異物や汚れがそれらの穴に侵入しないように保護するものである。
【0042】
図14は厚さ方向の中間などに空洞(細い空洞状の管部)21を有している被加工物2を加工するときに、予め特定液状物1A化特定ゲル状物1Bを充填し、ついで、被加工物2を任意の方法で冷却し、保護材1を凝固させ、固相保護材101に変化させる。そして、工具図示しないで切断工、切削、研削などの加工を行い、空洞21に異物や汚れが侵入しないように保護する。
この場合もその空洞21に埋め込み凍結させた固相保護材101が補強材となって機械加工を容易にさせ、加工能率と加工度を向上させることもできる。
【0043】
本発明を適用して被加工物の保護を行った具体例を示すと、被加工物は材質:BK7光学ガラス、寸法:50×50×1mmである。
保護材としては主成分が環状ポリジメチルシロキサンの低分子シリコーンオイルを特定液状物として使用した。これは無色透明の液体で、粘度(25℃)が2.4cSt(m2/S)、凝固点17℃、屈折率(25℃)が1,394、表面張力17.8dyn/cm、比重0.95(25℃)であった。
被加工物を接着テープによってテーブルに固定した状態で、保護材を筆により被加工材の上面および側面に、膜厚約20ミクロンとなるように塗布した。この状態で、薄いプラスチック製の防水シートをかぶせ、5℃の水を撒いて冷却し、液状だった保護膜を凍結させた。所要時間は10秒であった。
加工種は切断ダイシングで、5×5mmの片を得る加工である。工具には、レジンボンドダイヤモンド砥石(粒度#280)の1枚砥石、工具寸法は外径100mm、厚み0.4mmを使用した。加工条件は、砥石回転数:8000rpm、テーブル送り速度100mm/min、加工法工:ダウンカットとした。加工中に4℃の水溶性クーラント液を噴射して保護膜の凍結を維持させた。
加工後、被加工物を常温にして固相保護膜を解凍した。得られた製品の表面は全く無傷であった。比較のため、本発明を適用しないで加工を行ったところ、被加工物の表面は数ミクロンの大きさの傷が多数生じてしまった。
なお、保護材として、粘度(25℃)が2.5cSt(m2/S)、凝固点10℃、屈折率(25℃)が1.394、表面張力19.0{1.90}dyn/cm{MN/cm}、比重0.95(25℃)の低分子シリコーンオイルを使用し、薄いプラスチック製の防水シートをかぶせ、2℃の水を撒いて冷却し、液状だった保護膜を凍結させた場合も、良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、工業製品の加工時と加工後の移動、搬送、保管の際などにおける物品表面や空隙の傷付や汚損などに対する保護に好適であるが、各種物品の傷付や汚損などに対する一時的な保護手段や保護方法としても有効である。すなわち、加工を伴わず、清浄度や鏡面性が要求される物品の搬送、ハンドリング、輸送、保管時などにおいて物品の所要面を保護する場合も含む。
【0045】
物品が薄い場合の搬送、移動等のためのハンドリング補助手段を例にとると、半導体のシリコンウエハー類は厚みが薄くなり、数十μm程度あるいはそれ以下になる傾向にある。このような条件では、ハンドリングが極めて困難となり、破壊して取り扱いができなくなる可能性がある。従来では、その対策として有効なものがなかった。
しかし、本発明を適用し、図15(a)のように、強度のある補強部材、通常板状(カーボン、他のシリコンウエハーなど)1´に前記特定液状物1Aあるいは特定ゲル状物1Bで膜あるいは層を形成し、これにシリコンウエハー類などの壊れやすい薄層物2を配し、その状態で高分子化合物の凝固温度以下に冷却する。これにより凝固した特定高分子化合物を接着材として薄層物と補強部材が一体化する。こうすれば薄層物2は見かけ上全体が厚く、強度が増すので、ハンドリング、搬送、移動などを容易かつ安全に行える。補強を要さなくなったときには、加温して高分子化合物を固相から液相にすれば簡単に分離される。
なお、図15(b)のように天地を逆にすれば、補強部材1´が上になり、前述した保護材として機能するので、表面を保護しつつ円滑に加工などを行える。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)(b)(c)(d)はそれぞれ本発明における保護材を示す説明図である。
【図2】(a)〜(d)は本発明で保護対象とする物品の例を示す斜視図である。
【図3】(a)〜(d)は液相状態の保護膜ないし保護層の形成方を例示する側面図である。
【図4】(a)(b)は保護膜ないし保護層を凍結する工程の例を示す側面図である。
【図5】(a)(b)は特定液状物を保護材として用いた場合の固相化した保護膜ないし保護層の断面とその一部拡大図、(c)(d)は特定ゲル状物を保護材として用いた場合の固相化した保護膜ないし保護層の断面とその一部拡大図,(e)(f)は特定シート状物を保護材として用いた場合の固相化した保護膜ないし保護層の断面とその一部拡大図である。
【図6】(a)(b)は特定液状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図、(c)(d)は特定ゲル状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図,(e)(f)は含浸性の特定シート状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図、(g)(h)は非含浸性の特定シート状物の固相化保護膜ないし保護層で保護した状態での加工例とその一部拡大断面図である。
【図7】(a)(b)は保護解除の状態変化を示す部分的断面図である。
【図8】他の加工例を示す斜視図である。
【図9】(a)は他の表面保護例と加工例を示す斜視図、(b)はその一部拡大断面図、(c)は他の表面保護例と加工例を示す斜視図である。
【図10】(a)は他の表面保護例を示す平面図、(b)はその断面図、(c)は加工状態を示す平面図、(d)は別の保護例を示す平面図である。
【図11】(a)は第2発明の一例を示す平面図、(b)は加工状態を示す断面図である。
【図12】(a)は第2発明の他例を示す平面図、(b)(c)は加工状態を示す断面図である。
【図13】(a)は第2発明の今ひとつの例を示す平面図、(b)は加工状態を示す断面図である。
【図14】(a)は第2発明の今ひとつの例を示す斜視図、(b)は別の例を示す断面図である。
【図15】(a)は本発明の応用例を示す断面図、(b)は保護材として使用した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 保護材
1A 液状高分子化合物
1B ゲル状物
1C シート状物
2、 保護対象物(被加工物)
2´ 保護対象物(加工済みの被加工物)
5 工具
20 保護対象面
21 空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面を保護するための手段であって、該手段が凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物、もしくは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物であることを特徴とする物品の保護材。
【請求項2】
内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品を保護するための手段であって、該手段が凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物であることを特徴とする物品の保護材。
【請求項3】
凝固点が水のそれを超える高分子化合物が、低分子シリコーンで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである請求項1または2に記載の物品の保護材。
【請求項4】
物品の保護を要する表面を、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと微粉末を混合したゲル状物、あるいは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物のいずれかで覆い、前記高分子化合物を凍結させることで物品表面を保護することを特徴とする物品の保護方法。
【請求項5】
凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物が、シリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである請求項4に記載の物品の保護方法。
【請求項6】
内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品の前記穴あるいは空洞に、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと水溶性の微粉末を混合したゲル状物を充填させ、高分子化合物を凍結させることで穴あるいは空洞を中実化することを特徴とする物品の保護方法。
【請求項7】
凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物が、低分子シリコーンで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである請求項6に記載の物品の保護方法。
【請求項8】
シート状物の基材は板を含む請求項1ないし4のいずれかに記載の物品の保護材または物品の保護方法。
【請求項1】
物品の表面を保護するための手段であって、該手段が凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物、もしくは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物であることを特徴とする物品の保護材。
【請求項2】
内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品を保護するための手段であって、該手段が凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物、またはこれと微粉末とを混合したゲル状物であることを特徴とする物品の保護材。
【請求項3】
凝固点が水のそれを超える高分子化合物が、低分子シリコーンで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである請求項1または2に記載の物品の保護材。
【請求項4】
物品の保護を要する表面を、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと微粉末を混合したゲル状物、あるいは凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物かゲル状物を含浸または塗布させたシート状物のいずれかで覆い、前記高分子化合物を凍結させることで物品表面を保護することを特徴とする物品の保護方法。
【請求項5】
凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物が、シリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである請求項4に記載の物品の保護方法。
【請求項6】
内部に微細な穴あるいは空洞を有する物品の前記穴あるいは空洞に、凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物またはこれと水溶性の微粉末を混合したゲル状物を充填させ、高分子化合物を凍結させることで穴あるいは空洞を中実化することを特徴とする物品の保護方法。
【請求項7】
凝固点が水のそれを超える液状の高分子化合物が、低分子シリコーンで代表されるシリコーンオイルまたはこれを主成分とするものである請求項6に記載の物品の保護方法。
【請求項8】
シート状物の基材は板を含む請求項1ないし4のいずれかに記載の物品の保護材または物品の保護方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−43925(P2006−43925A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224808(P2004−224808)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(595129957)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(595129957)
【Fターム(参考)】
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