説明

硬化性液状エポキシ樹脂組成物およびその硬化物

【課題】 取扱作業性が優れ、硬化して、低弾性率で接着性が優れる硬化物を形成する硬化性液状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (I)液状エポキシ樹脂、(II)酸無水物、(III)一般式:A−R2−(R12SiO)n12Si−R2−A{式中、R1は同種または異種の脂肪族不飽和結合を有さない置換もしくは非置換の一価炭化水素基、R2は二価有機基、Aは、平均単位式:(XR12SiO1/2)a(SiO4/2)b(式中、R1は前記と同様の基、Xは単結合、水素原子、前記R1で表される基、エポキシ基含有アルキル基、またはアルコキシシリルアルキル基、但し、一分子中、少なくとも1個のXは単結合、少なくとも2個のXはエポキシ基含有アルキル基、a、bは正数、a/bは0.2〜4の数)で表されるシロキサン残基、nは1以上の整数}で表されるジオルガノシロキサン、および(IV)無機充填材から少なくともなる硬化性液状エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性液状エポキシ樹脂組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性エポキシ樹脂組成物は、電気特性および接着性が優れることから、電気・電子部品の封止剤、接着剤等に使用されている。また、液状エポキシ樹脂と酸無水物からなる硬化性液状エポキシ樹脂組成物は、ポットライフが長く、発熱量が小さいことから、ポッティング剤等として使用されている。一般に、硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物は弾性率が高く、剛直であるため、熱膨張や硬化収縮により電気・電子部品に応力が加わりやすい。硬化物の弾性率を低下するため、特許文献1および2では、硬化性エポキシ樹脂組成物にシリコーンを配合することが提案されている。
【0003】
しかし、このような硬化性液状エポキシ樹脂組成物は、接着性が十分でなかったり、また、得られる硬化物の弾性率の低下が十分でないという問題がある。
【特許文献1】特開平8−217857号公報
【特許文献2】特開2002−80562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、取扱作業性が優れ、硬化して、低弾性率で接着性が優れる硬化物を形成する硬化性液状エポキシ樹脂組成物、およびそのような硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の硬化性液状エポキシ樹脂組成物は、
(I)液状エポキシ樹脂 100重量部、
(II)酸無水物 0.1〜500重量部、
(III)一般式:
A−R2−(R12SiO)n12Si−R2−A
{式中、R1は同種または異種の脂肪族不飽和結合を有さない置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、R2は二価有機基であり、Aは、平均単位式:
(XR12SiO1/2)a(SiO4/2)b
(式中、R1は前記と同様の基であり、Xは単結合、水素原子、前記R1で表される基、エポキシ基含有アルキル基、またはアルコキシシリルアルキル基であり、但し、一分子中、少なくとも1個のXは単結合であり、少なくとも2個のXはエポキシ基含有アルキル基であり、aは正数であり、bは正数であり、a/bは0.2〜4の数である。)
で表されるシロキサン残基であり、nは1以上の整数である。}
で表されるジオルガノシロキサン{(I)成分と(II)成分の合計100重量部に対して0.1〜100重量部}、および
(IV)無機充填材(本組成物中、少なくとも20重量%)
から少なくともなることを特徴とする。
また、本発明の硬化物は、上記組成物を硬化してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の硬化性液状エポキシ樹脂組成物は、取扱作業性が優れ、硬化して、低弾性率で接着性に優れる硬化物を形成できる。また、本発明の硬化物は、低弾性率で接着性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(I)成分の液状エポキシ樹脂は本組成物の主剤であり、一分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有し、室温で液状のものであれば特に限定されない。(I)成分の25℃における粘度は800Pa・s以下であることが好ましく、さらには、500Pa・s以下であることが好ましく、特には、100Pa・s以下であることが好ましい。このような(I )成分としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;グリシジルアミン型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が例示され、これらを2種以上組み合わせて使用することができる。これらのなかでも、耐熱性や耐湿性に優れことから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0008】
(II)成分は、(I)成分中のエポキシ基と反応して本組成物を硬化するための酸無水物である。(II)成分の25℃における性状は特に限定されず、液状、固体状のいずれでもよいが、取扱いの容易さから、液状であることが好ましい。(II)成分が25℃において液体である場合、その粘度は1〜1,000,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、さらには、10〜5,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特には、10〜1,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。これは、25℃における粘度が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の機械的強度が低下する傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の取扱作業性が低下する傾向があるからである。
【0009】
このような(II)成分としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、オクテニル無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ハイミック酸(別名:5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、無水メチルナジック酸(別名:メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ジフェン酸無水物等の1官能性酸無水物;無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物(別名:5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物)、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等の2官能性酸無水物;β,γ−無水アコニット酸、無水グリコール酸、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物等の遊離酸を有する酸無水物が例示され、これらを2種以上組み合わせて使用することができる。特に、(II)成分としては、本組成物への配合の容易さから室温で液状のものが好ましく、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、およびこれらの2種以上の組み合わせが好ましい。
【0010】
本組成物において、(II)成分の含有量は、(I )成分100重量部に対して0.1〜500重量部の範囲内であり、さらに好ましくは、0.1〜200重量部の範囲内であり、特に好ましくは、0.1〜150重量部の範囲内である。特に、(II)成分中の酸無水物基としてみれば、(I )成分中のエポキシ基1モルに対して、本成分中の酸無水物基が0.2〜5モルの範囲内となる量であることが好ましく、さらには、0.3〜2.5モルの範囲内となる量であることが好ましく、特には、0.8〜1.5モルの範囲内となる量であることが好ましい。これは、(I )成分中のエポキシ基に対する本成分中の酸無水物基が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物が十分に硬化しにくくなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる硬化物の機械的特性が著しく低下する傾向があるからである。
【0011】
(III)成分は、本組成物の成形性を向上させ、硬化物の接着性を向上させ、弾性率を十分に低下させるための成分であり、一般式:
A−R2−(R12SiO)n12Si−R2−A
で表されるジオルガノシロキサンである。式中、R1は同種または異種の脂肪族不飽和結合を有さない置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が例示され、好ましくはアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。また、式中、R2は二価有機基であり、具体的には、エチレン基、メチルエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等のアルキレン基;エチレンオキシエチレン基、エチレンオキシプロピレン基、エチレンオキシブチレン基、プロピレンオキシプロピレン基等のアルキレンオキシアルキレン基が例示され、好ましくはアルキレン基であり、特に好ましくはエチレン基である。また、式中、nは主鎖であるジオルガノシロキサンの重合度を表す1以上の整数であり、硬化物に良好な可撓性を付与することから、nは10以上の整数であることが好ましく、その上限は限定されないが、500以下の整数であることが好ましい。
【0012】
また、式中、Aは、平均単位式:
(XR12SiO1/2)a(SiO4/2)b
で表されるシロキサン残基である。式中、R1は同種または異種の脂肪族不飽和結合を有さない置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくはアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。また、式中、Xは単結合、水素原子、前記R1で表される基、エポキシ基含有アルキル基、またはアルコキシシリルアルキル基である。但し、一分子中、少なくとも1個のXは単結合であり、この単結合を介して上記ジオルガノポリシロキサン中のR2に結合している。また、一分子中、少なくとも2個のXはエポキシ基含有アルキル基である。
【0013】
1で表される基としては、前記と同様の基が例示される。なお、一分子中、少なくとも1個のXは炭素数6以上の一価炭化水素基であることが好ましい。これは、(III)成分が(I)成分や(II)成分と親和性が良好となり、本組成物の流動性が向上するからである。この一価炭化水素基としては、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基が例示され、好ましくはアルキル基である。
【0014】
また、エポキシ基含有アルキル基としては、2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル基等の3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル基;4−オキシラニルブチル基、8−オキシラニルオクチル基等のオキシラニルアルキル基が例示され、好ましくはグリシドキシアルキル基であり、特に好ましくは3−グリシドキシプロピル基である。
【0015】
また、アルコキシシリルアルキル基としては、トリメトキシシリルエチル基、トリメトキシシリルプロピル基、ジメトキシメチルシリルプロピル基、メトキシジメチルシリルプロピル基、トリエトキシシリルエチル基、トリプロポキシシリルプロピル基が例示される。なお、一分子中、少なくとも1個のXはアルコキシシリルアルキル基であることが好ましく、特に、トリメトキシシリルエチル基であることが好ましい。
【0016】
また、aは正数であり、bは正数であり、a/bは0.2〜4の数である。
【0017】
(III)成分の重量平均分子量は限定されず、500〜1,000,000の範囲内であることが好ましい。また、(III)成分の性状は限定されず、25℃において液状であることが好ましい。(III)成分の25℃における粘度は50〜1,000,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。(III)成分は、例えば、特開平6−56999号公報に記載の方法により製造することができる。
【0018】
本組成物において、(III)成分の含有量は、(I)成分と(II)成分の合計100重量部に対して0.1〜100重量部の範囲内であり、好ましくは0.1〜50重量部の範囲内であり、特に好ましくは0.1〜20重量部の範囲内である。これは、(III)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、硬化物の弾性率が高くなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、硬化物の強度が著しく低下する傾向があるからである。
【0019】
(IV)成分の無機充填材は、硬化物に強度を付与するための成分である。一般に、硬化性液状エポキシ樹脂組成物に無機充填材を配合した場合、硬化物の強度を高めることができるが、組成物の流動性が著しく低下して成形性が悪化し、また、硬化物の弾性率が著しく高くなる。これに対して、本組成物は、前記(III)成分と(IV)成分を併用しているので、流動性や成形性を損なうことなく、硬化して、低弾性率(低応力)であるにもかかわらず、高強度の硬化物を形成することができる。
【0020】
(IV)成分は、通常、硬化性液状エポキシ樹脂組成物に配合し得る無機充填材であれば特に限定されず、ガラス繊維、石綿、アルミナ繊維、アルミナとシリカを成分とするセラミック繊維、ボロン繊維、ジルコニア繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維等の繊維状充填材;非晶性シリカ、結晶性シリカ、沈澱シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、酸化亜鉛、焼成クレイ、カーボンブラック、ガラスビーズ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、クレイ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ベリリウム、カオリン、雲母、ジルコニア等の粉粒状充填材が例示される。(IV)成分として、これらの無機充填材を2種以上組み合わせて使用してもよい。また、(IV)成分の形状は限定されず、球状、針状、扁平形状、破砕状(不定形状)等が挙げられ、成形性が良好であることから、球状であることが好ましい。特に、(IV)成分は球状非晶性シリカであることが好ましい。(IV)成分の平均粒子径は限定されないが、成形性が良好であることから、0.1〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、(IV)成分として、平均粒子径の異なる2種類以上の無機充填材を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
また、(I)成分との親和性を向上させるために(IV)成分の表面を予めシランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤で処理してもよい。このシランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン;N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン;その他、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランが例示される。また、このチタネートカップリング剤としては、i−プロポキシチタントリ(i−イソステアレート)が例示される。これらのカップリング剤を2種以上組み合わせて使用してもよい。なお、表面処理に用いるカップリング剤の配合量、および表面処理方法は制限されない。
【0022】
本組成物において、(IV)成分の含有量は、本組成物中の少なくとも20重量%であり、好ましくは、少なくとも30重量%であり、さらに好ましくは、少なくとも50重量%であり、特に好ましくは、少なくとも80重量%である。これは、上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の強度が不十分となる傾向があるからである。
【0023】
本組成物において、(I)成分や(II)成分中に(IV)成分を良好に分散させ、また(I)成分や(II)成分と(IV)成分との親和性を向上させるためにシランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤を含有してもよい。このカップリング剤としては、前記と同様のものが例示される。
【0024】
本組成物には、その硬化を促進する成分として、(V)硬化促進剤を含有してもよい。このような(V)成分としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフイン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のリン系化合物;トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等の第3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物が例示され、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本組成物において、(V)成分の含有量は限定されないが、(I)成分100重量部に対して0.001〜20重量部に範囲内であることが好ましい。これは、(V)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、(I)成分と(II)成分の反応を促進しにくくなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる硬化物の強度が低下する傾向があるからである。
【0026】
本組成物には、必要に応じて、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力化剤;カルナバワックス、高級脂肪酸、合成ワックス等のワックス類;カーボンブラック等の着色剤;ハロゲントラップ剤等を含有してもよい。
【0027】
本組成物を調製する方法は限定されないが、(I)成分〜(IV)成分、およびその他任意の成分を均一に混合することにより調製される。予め(I)成分と(II)成分を混合した組成物に(III)成分を混合すると、(III)成分の分散性を向上することができる。また、(I)成分に(IV)成分を混合した後、(II)成分、(III)成分、およびその他任意の成分を均一に混合する方法が例示され、その際、(I)成分と(IV)成分にカップリング剤を添加してインテグラルブレンドする方法、予め(IV)成分をカップリング剤で表面処理した後、(I)成分と混合する方法が例示される。また、本組成物を調製するための装置としては、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ニーダミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合攪拌機が例示される。
【0028】
なお、本組成物の25℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは1,000Pa・s以下であり、特に好ましくは500Pa・s以下である。また、本組成物の成形方法は特に限定されないが、100〜120℃で約0.5時間加熱し、その後、150〜175℃で0.5〜4時間程度で熱硬化させることが好ましい。これは、最初の加熱により硬化後のボイド発生を確実に防ぐことができ、次の加熱により、十分に硬化させることができるからである。
【実施例】
【0029】
本発明の硬化性液状エポキシ樹脂組成物およびその硬化物を実施例により詳細に説明する。実施例中の粘度は25℃における値である。なお、硬化性液状エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の特性は次の方法により測定した。
【0030】
[硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度]
TA INSTRUMENTS社製のRheometer AR550を用いて、ジオメトリーに直径20mmのパラレルプレートを使用し、試料の厚み200μm、剪断速度10/秒の条件で硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度を測定した。
【0031】
[硬化物の複素弾性率]
硬化性液状エポキシ樹脂組成物を70mmHgで脱泡した後、幅10mm、長さ50mm、深さ2mmのキャビティを有する金型に充填し、130℃、2.5MPaの条件で60分間プレス硬化させた後、150℃のオーブン中で2時間二次加熱して、硬化物の試験片を作製した。この試験片をARES粘弾性測定装置(Reometric Scientific社製のRDA700)を使用し、ねじれ0.05%、振動数1Hzの条件で、30℃における硬化物の複素弾性率を測定した。
【0032】
[硬化物の接着性]
アルミニウム板(75mm×25mm×1mm)に、テフロン(登録商標)製のスペーサーを用いて10mm×15mm×0.2mmの硬化性液状エポキシ樹脂組成物を介して貼りあわせ、次いで、150℃で1時間加熱することにより前記組成物を硬化させてテストピースを作製した。ニッケル板についても同様にテストピースを作製した。これらのテストピースについて、テンシロン(ORIENTEC製のMODEL−SS−100KP)により、20℃、剥離速度1mm/分における剥離強度(kgf/cm2)を測定した。
【0033】
[実施例1]
粘度2.4Pa・sのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート806;エポキシ当量=168)35.6重量部、粘度80mPa・sのメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製のHN−5500;酸無水物当量=168)32.1重量部、平均粒子径5μmの球状溶融シリカ(株式会社アドマテックス製のアドマファイン)29.7重量部、35重量%−カプセル型アミン触媒のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(旭化成株式会社製のHX−3941HP)1.8重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.7重量部、および粘度4,270mPa・sであり、式:
A−CH2CH2(CH3)2SiO[(CH3)2SiO]52Si(CH3)2CH2CH2−A
{式中、Aは、平均単位式:
[X(CH3)2SiO1/2]1.6(SiO4/2)1.0
(式中、Xは単結合および3−グリシドキシプロピル基からなり、一分子中、1個のXは単結合であり、残りのXは3−グリシドキシプロピル基である。)
で表されるシロキサン残基である。}
で表されるジメチルポリシロキサン1.3重量部を同時に混合して、硬化性液状エポキシ樹脂組成物を調製した。この硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度、およびその硬化物の複素弾性率と接着性を表1に示した。
【0034】
[実施例2]
粘度2.4Pa・sのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート806;エポキシ当量=168)17.89重量部、粘度80mPa・sのメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製のHN−5500;酸無水物当量=168)16.11重量部、平均粒子径5μmの球状溶融シリカ(株式会社アドマテックス製アドマファイン)64.74重量部、35重量%−カプセル型アミン触媒のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(旭化成株式会社製のHX−3941HP)0.91重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.35重量部、および粘度が4,270mPa・sであり、式:
A−CH2CH2(CH3)2SiO[(CH3)2SiO]52Si(CH3)2CH2CH2−A
{式中、Aは、平均単位式:
[X(CH3)2SiO1/2]1.6(SiO4/2)1.0
(式中、Xは単結合および3−グリシドキシプロピル基からなり、一分子中、1個のXは単結合であり、残りのXは3−グリシドキシプロピル基である。)
で表されるシロキサン残基である。}
で表されるジメチルポリシロキサン1.9重量部を同時に混合して、硬化性液状エポキシ樹脂組成物を調製した。この硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度、およびその硬化物の複素弾性率と接着性を表1に示した。
【0035】
[実施例3]
粘度2.4Pa・sのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート806;エポキシ当量=168)35.6重量部、粘度80mPa・sのメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製のHN−5500;酸無水物当量=168)32.1重量部、平均粒子径5μmの球状溶融シリカ(株式会社アドマテックス製のアドマファイン)29.7重量部、35重量%−カプセル型アミン触媒のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(旭化成株式会社製のHX−3941HP)1.8重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.7重量部、および粘度が12,000mPa・sであり、式:
A−CH2CH2(CH3)2SiO[(CH3)2SiO]94Si(CH3)2CH2CH2−A
{式中、Aは、平均単位式:
[X(CH3)2SiO1/2]1.3[Y(CH3)2SiO1/2]0.3(SiO4/2)1.0
(式中、Xは単結合および3−グリシドキシプロピル基からなり、一分子中、1個のXは単結合であり、残りのXは3−グリシドキシプロピル基であり、Yはトリメトキシシリルプロピル基である。)
で表されるシロキサン残基である。}
で表されるジメチルポリシロキサン1.3重量部を同時に混合して、硬化性液状エポキシ樹脂組成物を調製した。この硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度、およびその硬化物の複素弾性率と接着性を表1に示した。
【0036】
[比較例1]
粘度2.4Pa・sのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート806;エポキシ当量=168)35.6重量部、粘度80mPa・sのメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製のHN−5500;酸無水物当量=168)32.1重量部、平均粒子径5μmの球状溶融シリカ(株式会社アドマテックス製アドマファイン)29.7重量部、35重量%−カプセル型アミン触媒のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(旭化成株式会社製のHX−3941HP)1.8重量部、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.7重量部を同時に混合して、硬化性液状エポキシ樹脂組成物を調製した。この硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度、およびその硬化物の複素弾性率と接着性を表1に示した。
【0037】
[比較例2]
粘度2.4Pa・sのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート806;エポキシ当量=168)17.89重量部、粘度80mPa・sのメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製のHN−5500;酸無水物当量=168)16.11重量部、平均粒子径5μmの球状溶融シリカ(株式会社アドマテックス製アドマファイン)64.74重量部、35重量%−カプセル型アミン触媒のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(旭化成株式会社製のHX−3941HP)0.91重量部、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.35重量部を同時に混合して、硬化性液状エポキシ樹脂組成物を調製した。この硬化性液状エポキシ組成物の粘度、およびその硬化物の複素弾性率と接着性を表1に示した。
【0038】
[比較例3]
粘度2.4Pa・sのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート806;エポキシ当量=168)35.6重量部、粘度80mPa・sのメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製のHN−5500;酸無水物当量=168)32.1重量部、平均粒子径5μmの球状溶融シリカ(株式会社アドマテックス製のアドマファイン)29.7重量部、35重量%−カプセル型アミン触媒のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(旭化成株式会社製のHX−3941HP)1.8重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.7重量部、および粘度が3,000mPa・sであり、分子鎖側鎖に3−グリシドキシプロピル基とポリエーテル基を有するジメチルポリシロキサン(東レ・ダウコーニング株式会社製のSF8421EG)1.3重量部を同時に混合して、硬化性液状エポキシ樹脂組成物を調製した。この硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度、およびその硬化物の複素弾性率と接着性を表1に示した。
【0039】
[比較例4]
粘度2.4Pa・sのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート806;エポキシ当量=168)50.7重量部、粘度80mPa・sのメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製のHN−5500;酸無水物当量=168)45.7重量部、35重量%−カプセル型アミン触媒のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(旭化成株式会社製のHX−3941HP)2.6重量部、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0重量部を同時に混合して、硬化性液状エポキシ樹脂組成物を調製した。この硬化性液状エポキシ樹脂組成物の粘度、およびその硬化物の複素弾性率と接着性を表1に示した。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本組成物は、取扱作業性が良好であるので、インジェクションモールド、コンプレッションモールド、ポッティング、キャスティング、噴霧塗布、滴下等の方法に使用することができる。また、本組成物は、硬化して、低弾性率で接着性に優れる硬化物を形成するので、半導体用封止剤として好適であり、特に、ボールグリッドアレイやチップサイズパッケージといったエリア実装型半導体装置の封止剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)液状エポキシ樹脂 100重量部、
(II)酸無水物 0.1〜500重量部、
(III)一般式:
A−R2−(R12SiO)n12Si−R2−A
{式中、R1は同種または異種の脂肪族不飽和結合を有さない置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、R2は二価有機基であり、Aは、平均単位式:
(XR12SiO1/2)a(SiO4/2)b
(式中、R1は前記と同様の基であり、Xは単結合、水素原子、前記R1で表される基、エポキシ基含有アルキル基、またはアルコキシシリルアルキル基であり、但し、一分子中、少なくとも1個のXは単結合であり、少なくとも2個のXはエポキシ基含有アルキル基であり、aは正数であり、bは正数であり、a/bは0.2〜4の数である。)
で表されるシロキサン残基であり、nは1以上の整数である。}
で表されるジオルガノシロキサン{(I)成分と(II)成分の合計100重量部に対して0.1〜100重量部}、および
(IV)無機充填材(本組成物中、少なくとも20重量%)
から少なくともなる硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(I)成分が、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、またはこれらの2種以上の組み合わせである、請求項1記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(II)成分が、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、またはこれらの2種以上の組み合わせである、請求項1記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(III)成分中のXの少なくとも1個は炭素数6以上の一価炭化水素基である、請求項1記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(III)成分中のXの少なくとも1個はアルコキシシリルアルキル基である、請求項1記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
(IV)成分が球状の無機充填材である、請求項1記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
(IV)成分が球状非晶性シリカである、請求項1記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、(V)硬化促進剤{(I)成分100重量部に対して0.001〜20重量部}を含む、請求項1記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
半導体用封止剤である請求項1乃至8のいずれか1項記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の硬化性液状エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。

【公開番号】特開2009−84334(P2009−84334A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253228(P2007−253228)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】