説明

磁気リード・ヘッド

【課題】高いMR比で低磁歪のCPP磁気リード・ヘッドを実現する。
【解決手段】本発明の一実施形態において、リード・ヘッドは、磁気抵抗センサ膜の積層方向(膜面に垂直な方向)にセンス電流が流れるCPP(Current Perpendicular to Plane)型のリード・ヘッドである。本形態のCPP磁気ヘッドは、その磁気抵抗センサ膜における自由層構造に特徴を有している。本形態の自由層は積層された複数層から構成されており、ホイスラ合金層と、Co系アモルファス金属層とを有している。この自由層構造を有することにより、低磁歪で高いMR比を得ることができ、ノイズ特性にも優れたCPP磁気リード・ヘッドを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CPP(Current Perpendicular to Plane)型磁気リード・ヘッドの構造に関し、特に、CPP磁気リード・ヘッドにおける自由層の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク・ドライブ(HDD)は、磁気記録媒体と磁気ヘッドを備え、磁気記録媒体上のデータは磁気ヘッドによって読み書きされる。HDD中にある磁気ヘッドは、磁気記録媒体(磁気ディスク)に磁化信号として情報を記録するライト・ヘッドと、磁気記録媒体に磁化信号として記録された信号を読み取るリード・ヘッドとから構成されている。リード・ヘッドは複数の磁性薄膜及び非磁性薄膜からなる磁気抵抗効果積層体から構成されており、磁気抵抗効果を利用して信号を読み取るため、磁気抵抗効果ヘッドと呼ばれる。
【0003】
磁気抵抗効果ヘッドの積層構造にはいくつかの種類があり、その用いる磁気抵抗の原理からAMRヘッド、GMRヘッド、CPP−GMRヘッド、TMRヘッドなどに分類される。それぞれ、AMR(磁気抵抗効果)、GMR(巨大磁気抵抗効果)、CPP−GMR効果(Current Perpendicular to Plane GMR効果)、TMR効果(トンネル磁気抵抗効果)を用いて、磁気記録媒体からリード・ヘッドに入ってくる入力磁界信号を電圧変化として取り出している。
【0004】
現在、記録情報の高密度化の進展により、より高感度な情報信号の再生方式が必要とされている。記録密度500(Gb/in)〜2(Tb/in)では、MR比が非常に高いTMRリード・ヘッドが感度向上の面から有利である。そして、2(Tb/in)を超える超高記録密度に対してはCPP−GMRリード・ヘッド等が主流になると考えられる。CPP−GMRは、磁気抵抗効果積層体の膜面に対して平行にセンス電流が流れるCIP−GMR(Current In Plane GMR)と異なり、素子センサ膜面に垂直な方向、つまり素子センサ膜面の積層方向にセンス電流を流す方式である。このような方式をCPP方式と呼ぶ。また、そのようなリード・ヘッドをCPPリード・ヘッドと呼ぶ。
【0005】
磁気抵抗効果積層体は、磁化方向が固定された固定層と、外部磁界により磁化方向が変化する自由層とを有している。磁気抵抗変化は自由層のスピン分極率が大きいほど増加し、出力が増加する。スピン分極率が100%またはそれに近いハーフメタルとして、ホイスラ合金が知られている。このホイスラ合金を自由層に用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
しかし、ホイスラ合金を自由層として用いた場合、磁歪が大きく素子として不安定になりやすい。そこで、特許文献1は、ホイスラ合金層と軟磁性、そして、ホイスラ合金層と軟磁性との間に磁歪低減層を有する自由層構造を提案している。磁歪低減層は、4族元素、5族元素、または6族元素で構成される。このような自由層構造により、高いMR比と低磁歪とを実現することができると指摘している。
【特許文献1】特開2008−227457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1においては、具体的に、磁歪低減層を、Hf膜、Ti膜、Zr膜、Ta膜、またはW膜によって構成することを開示している。しかし、ホイスラ合金層と軟磁性層との間に中間層を形成する場合、ホイスラ合金層と軟磁性層との磁気的カップリングを考慮することが重要である。
【0008】
上記特許文献1に開示されている材料のように、ホイスラ合金層と軟磁性層との間の中間層が非磁性膜であると、ホイスラ合金層と軟磁性層との磁気的結合が分断されるために磁気的に一体となって動作せず互いに独立に動作する。このために一体となって動く場合に比べて各々の磁気的な体積が小さくなるために、熱励起による磁気揺らぎが大きくなる。この揺らぎがリード・ヘッドの再生時のノイズを増大させ、エラーレートを悪化させる。そこで中間層としてはホイスラ合金層と軟磁性層とが磁気的に一体となって動作する特性を有することが望ましい。つまり中間層として非磁性材料は好ましくなく、磁性材料であることが望ましい。
【0009】
従って、ホイスラ合金層を含む自由層を有するCPP磁気リード・ヘッドにおいて、高いMR比と低磁歪を実現すると共に、ノイズ特性の優れたCPP磁気リード・ヘッドを実現することができる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、磁気抵抗センサを有し、前記磁気抵抗センサの積層方向に検知電流を流す磁気リード・ヘッドである。前記磁気抵抗センサ膜は、外部磁界によって磁化方向が変化する自由層と、前記自由層と積層されており、磁化方向が固定された固定層と、前記自由層と前記固定層との間にある非磁性中間層とを有する。前記自由層は、ホイスラ合金層と、Co系アモルファス金属層とを有する。
【0011】
好ましい構成において、前記Co系アモルファス金属層は、Ta、Ti、Zr、Nb、Hf、W、Bの少なくとも一つの元素を含む。好ましい構成において、前記自由層は、さらに、金属結晶の軟磁性層を有し、前記軟磁性層と前記ホイスラ合金層との間に前記Co系アモルファス金属層が形成されている。さらに、前記Co系アモルファス金属層は、C−Fe−X:XはTa、Ti、Zr、Nb、Hf、W、Bの内の一つもしくは複数の元素である。さらに、前記Co系アモルファス金属層の厚みは、前記軟磁性層及び前記ホイスラ合金層の厚みよりも一桁以上薄い。あるいは、前記Co系アモルファス金属層の厚みの桁数は、前記ホイスラ合金層の厚みの桁数以上である。
【0012】
好ましい構成において、前記Co系アモルファス金属層は、C−X:XはTa、Ti、Zr、Nb、Hf、W、Bの内の一つもしくは複数の元素である。また、前記固定層はホイスラ合金層を含む。前記自由層は、さらに、BCC構造をもつナノ磁性層を有し、非磁性中間層、前記ナノ磁性層、前記ホイスラ合金層の順に形成され、前記ナノ磁性層の厚みは、前記ホイスラ合金層の厚みよりも1桁以上薄い。前記ナノ磁性層がCo−Fe合金で、Fe組成が30at%以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高いMR比で低磁歪のCPP磁気リード・ヘッドを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略する。なお、以下に説明する実施の形態は、ハードディスク・ドライブ(HDD)のリード・ヘッドに対して本発明を適用したものである。本形態のリード・ヘッドは、磁気抵抗センサ膜の積層方向(膜面に垂直な方向)にセンス電流が流れるCPP(Current Perpendicular to Plane)型のリード・ヘッドである。
【0015】
本形態のCPP磁気ヘッドは、その磁気抵抗センサ膜における自由層構造に特徴を有している。本形態の自由層は積層された複数層から構成されており、ホイスラ合金層と、そのホイスラ合金層とCo系アモルファス金属層とを有している。この自由層構造を有することにより、低磁歪で高いMR比を得ることができ、ノイズ特性にも優れたCPP磁気リード・ヘッドを実現することができる。
【0016】
本形態のCPP磁気リード・ヘッドの特徴点について説明する前に、まず、磁気ヘッドの全体構成について説明する。図1は、磁気ヘッド1の構造を模式的に示す断面図である。磁気ヘッド1は、磁気ディスク3との間で磁気データを読み書きする。磁気ヘッド1は、その走行方向側(リーディング側)から、リード・ヘッド11とライト・ヘッド12とを有している。磁気ヘッド1は、スライダ2のトレーイング側(リーディング側の反対側)に形成されている。リード・ヘッド11は、リーディング側から、下部シールド111、磁気抵抗センサ112、上部シールド113を有している。
【0017】
ライト・ヘッド12は、薄膜コイル121と記録磁極122とを有している。薄膜コイル121は、絶縁体123に囲まれている。ライト・ヘッド12は、薄膜コイル121を流れる電流で記録磁極122間に磁界を発生し、磁気データを磁気ディスク3に記録するインダクティブ素子である。リード・ヘッド11は磁気抵抗型の素子であって、磁気異方性を有する磁気抵抗センサ112を備え、磁気ディスク3からの磁界によって変化するその抵抗値によって磁気ディスク3に記録されている磁気データを読み出す。本形態のリード・ヘッドはCPPリード・ヘッドであり、下部シールド111及び上部シールド113がセンス電流を磁気抵抗センサ112に供給する電極として使用される。
【0018】
磁気ヘッド1はスライダ2を構成するアルチック(AlTiC)基板に、薄膜形成プロセスを用いて形成される。磁気ヘッド1とスライダ2とが、ヘッド・スライダを構成する。ヘッド・スライダは磁気ディスク3上を浮上しており、その磁気ディスク対抗面21をABS(Air Bearing Surface)と呼ぶ。磁気ヘッド1はライト・ヘッド12とリード・ヘッド11の周囲にアルミナなどの保護膜13を備え、磁気ヘッド1全体はその保護膜13で保護されている。
【0019】
図2は、本形態の磁気抵抗センサ構造を適用可能なCPPリード・ヘッド11の構造・構成の一例を模式的に示す断面図である。図2は、ヘッド・スライダのABS面21側から見た断面構造を模式的に示している。図2における下側がリーディング側であり、上側がトレーリング側となる。本明細書においては、リード・ヘッド11が形成されるアルチック基板側、つまりスライダ2側を下側とし、その反対側であるトレーリング側を上側とする。リード・ヘッド11の各層は、下側から順次形成されていることになる。本形態のリード・ヘッド11は、CPP−MR(Magneto Resistance)ヘッド(CPPリード・ヘッド)であり、センス電流は、膜面の積層方向(図2における上下方向であって、膜面に垂直な方向)に流れる。
【0020】
磁気抵抗センサ112は複数の層からなる多層膜であり、下部シールド111と上部シールド113との間にある。下部シールド111と上部シールド113とは、磁気シールドとして機能すると共に、磁気抵抗センサ112にセンス電流を供給する下部電極と上部電極として兼用される。なお、上部シールド113の下には、導体からなる上部磁気隔離膜114が形成されている。
【0021】
磁気抵抗センサ112は、下層側から順次積層された、センサ下地層211、反強磁性膜212、固定層213、非磁性中間層214、自由層215及びセンサ・キャップ膜216を有している。各層は、隣接する層と物理的に接触している。センサ下地層211はTaや、NiFeCo合金などの非磁性材料で形成され、単層で形成する、あるいは積層構造としてもよい。
【0022】
固定層213には、反強磁性膜212との交換相互作用が働き、その磁化方向が固定される。自由層215のトラック幅はTwfで示されている。磁気抵抗効果ヘッドは、固定層213の磁化方向に対する自由層215の相対的な磁化方向の変化によって抵抗が変化する事を利用し動作する。すなわち、固定層213の磁化方向に対し自由層215の磁化方向が、磁気ディスクからの情報磁界によって変化すると、磁気抵抗センサ112の抵抗値(電流値)が変化する。リード・ヘッド11は、磁気抵抗センサ112の抵抗値(電流値)を検知する事により、狭小化した外部情報磁界を検出することができる。
【0023】
磁気抵抗センサ素子112の左右両側には、自由層215の磁区不均一性に起因するバルクハウゼン・ノイズなどを抑制するため、ハードバイアス膜115が存在する。典型的には、ハードバイアス膜115はCo合金で形成されており、CoCrPt合金やCoPt合金などで形成されている。ハードバイアス膜115からのバイアス磁界が、自由層215に印加され、自由層215を単磁区化するように働き、自由層の磁化動作を安定化させる。
【0024】
ハードバイアス膜115は、ハードバイアス下地膜116の上に形成されている。ハードバイアス下地膜116の下層として、ジャンクション絶縁膜117が形成されている。絶縁膜117は、ハードバイアス下地膜116と下部シールド膜111及び磁気抵抗センサ112の間に存在し、センス検知電流が磁気抵抗センサ112の外側を流れないようにする。絶縁膜117は、例えば、Alで形成する。なお、本形態の磁気抵抗センサは、他のハードバイアス膜構造を有するリード・ヘッドに適用することができる。
【0025】
図3(a)、(b)は、本形態の磁気抵抗センサ112の積層構造を模式的に示す図である。図2を参照して説明したように、磁気抵抗センサ112は、下層側から、反強磁性層212、固定層213、非磁性中間層214、自由層215、そしてキャップ層216を有している。なお、キャップ層216を除く層の積層順序を逆にしてもよい。つまり、下層側から、自由層、非磁性中間層、固定層、反強磁性層の順で各層を積層してもよい。
【0026】
反強磁性層212はPtMnやMnIrなどの反強磁性材料で形成される。固定層213は一般に積層固定層であり、CoFe合金などからなる二層の強磁性層と、それらの間のRuなどからなる非磁性層とから構成されている。二層の強磁性層は交換相互作用によって結合し、磁化の固定が安定化される。下層側の強磁性層には、反強磁性層212との交換相互作用が働き、その磁化方向が固定される。なお、固定層213を単層構造としてもよい。非磁性中間層214は、一般に、Cuなどの非磁性導体を使用して形成される。センサ・キャップ膜216はTaなどの非磁性導電材料で形成される。
【0027】
本形態の磁気抵抗センサ112の特徴として、自由層215がホイスラ合金層511とCo系アモルファス金属層512とを有している。図3(a)の構造においては、自由層215はホイスラ合金層511とCo系アモルファス金属層512とで構成されている。図3(b)の構造においては、自由層215は、ホイスラ合金層511、金属結晶の軟磁性層513、そして、それらの間のCo系アモルファス金属層512で構成されている。自由層215に、Co系アモルファス金属層512とホイスラ合金層511とを含めることで、高いMR比で低磁歪のCPP磁気リード・ヘッドを実現することができる。
【0028】
図3(a)及び(b)の構造において、自由層215は、図示されている以外の金属層をさらに有していてもよい。また、自由層215は、複数層のホイスラ合金層、金属結晶軟磁性層あるいはCo系アモルファス金属層を有していてもよい。
【0029】
図3(a)の自由層構造において、Co系アモルファス金属層512とホイスラ合金層511とは、接触して界面を形成している。これにより、Co系アモルファス金属層512とホイスラ合金層511との強い磁気的結合を得ることができる。あるいは、これら二つの層が磁気的に強く結合している場合は、二つの層の間に中間層を挿入してもよい。具体的には、金属結晶軟磁性層あるいは反強磁性結合層を、Co系アモルファス金属層512とホイスラ合金層511の間に配置してもよい。金属結晶軟磁性層としては、強磁性元素Co、Fe、Niまたはこれらの合金からなる層がある。また、反強磁性結合層としては、CrやRuからなる層がある。
【0030】
図3(b)の自由層構造において、Co系アモルファス金属層512とホイスラ合金層511とは接触して界面を形成している。また、Co系アモルファス金属層512と金属結晶軟磁性層513とは接触して界面を形成している。これにより、ホイスラ合金層511と金属結晶軟磁性層513との間において、強い磁気的結合を得ることができる。あるいは、ホイスラ合金層511と金属結晶軟磁性層513が磁気的に強く結合している場合は、Co系アモルファス金属層512と上記二つの層のそれぞれとの間に中間層を挿入してもよい。中間層としては、図3(a)を参照した説明と同様に、金属結晶軟磁性層あるいは反強磁性結合層を形成することができる。
【0031】
図3(a)の構造において、好ましくは、Co系アモルファス金属層512の厚みの桁数は、ホイスラ合金層511の厚みの桁数以上である。実際の設計においては、これらの桁数が一致していることが好ましい。例えば、ホイスラ合金層511の厚みが10Åの桁数であれば、Co系アモルファス金属層512の厚みも10Åの桁数である。この構造においては、Co系アモルファス金属層512は、ホイスラ合金層511と共に、MR出力に積極的に寄与する。
【0032】
これに対して、図3(b)の自由層構造においては、Co系アモルファス金属層512は、ホイスラ合金層511と金属結晶軟磁性層513との間の中間層としての機能を目的としている。そのため、好ましくは、Co系アモルファス金属層512の厚みは、ホイスラ合金層511及び金属結晶軟磁性層513の厚みよりも1桁以上薄い。例えば、ホイスラ合金層511及び金属結晶軟磁性層513が数十Åの厚みを有する場合、Co系アモルファス金属層512の厚みは数Åあるいはそれ以下である。膜厚については、Co系アモルファス金属層512と他の層との間の中間層として使用する金属結晶軟磁性層あるいは反強磁性結合層についても同様である。
【0033】
図3(a)、(b)に示す自由層構造においては、ホイスラ合金層511が非磁性中間層214側に形成され、Co系アモルファス金属層512と非磁性中間層214との間にホイスラ合金層511が形成されている。ホイスラ合金層511によりMR出力を高めるためには、ホイスラ合金層511がCo系アモルファス金属層512よりも非磁性中間層214の近い位置にあることが好ましい。また、ホイスラ合金511により高MR出力を得るためには、BCC構造をもちホイスラ合金511の厚みよりも1桁以上薄い厚みのナノ磁性層をホイスラ合金層の形成前に形成する、つまり、ナノ磁性層、ホイスラ合金層の順に形成することが好ましい。更にナノ磁性層は、BCC構造が得られるFe組成が30at%以上のCo−Fe合金層が高MR比の点で好ましい。
【0034】
図4は、図3(a)の積層構造を有する磁気抵抗センサ112の好ましい例を示している。反強磁性層212はMn22Irで形成されている。固定層213は、上層の第1固定層311と下層の第2固定層312を有し、それぞれ、ホイスラ合金のCoMnGeとCo25Feで形成されている。二つの固定層311、312の間には、反強磁性結合層のRu層が形成されている。固定層213は、ホイスラ合金層を有していることが好ましい。これにより、より高いMR比を得ることができる。典型的には、固定層213内のホイスラ合金層は、自由層215におけるホイスラ合金層と同一組成である。非磁性中間層214は、上下のCu層とそれらの間のAl10Cu層で構成されている。キャップ層216は、Cu層とRu層で構成されている。
【0035】
自由層215において、ホイスラ合金層511はCoMnGe層である。ホイスラ合金としては異なる構造のものが知られているが、XYZというL21構造もしくはB12構造を有するホイスラ合金を使用することが好ましい。XとしてはCo、YとしてはMn、Cr、Fe、そして、ZとしてはGe、Al、Siを使用することができる。特に、CoMnGeは、製造が容易であることから好ましいホイスラ合金である。なお、CoMnGeとの表記は、構成元素の組成を限定していない。また、本発明のホイスラ合金はCoMnGeに限定されるものではない。
【0036】
図7はホイスラ合金層の組成比に対するMR出力の測定データを示している。ここでホイスラ合金層の組成はCoMn対Geの比率で変化させ、Geの組成で表記してある。一般的に言われるCoMnGeとされる組成のみではなく、Ge組成比が23〜35at%の広い範囲にわたって優れたMR特性が実現できる、これらの中ではGe30at%が最も高いMR出力を与えるので好ましい。
【0037】
Co系アモルファス金属層512は、Co−X:Ta、Ti、Zr、Nb、Hf、W、B、あるいは、Co−Fe−X:Ta、Ti、Zr、Nb、Hf、W、B、である。Co−XあるいはCo−Fe−Xは、上記元素の内の一つもしくは複数を含む。Co、Fe、Xの組成比は、特定のものに限定されない。但しXが12〜25at%であることが好ましい。Xが12at%以下である場合はCo系アモルファス金属層が結晶化し好ましくない。またXが25at%以下である場合はCo系アモルファス金属層が非磁性化するので好ましくない。Co−X、Co−Fe−Xの表記は、構成元素の組成比を限定しない。Co系アモルファス金属層512としてこれらの材料は、高いMR比と低い磁歪を達成する上で、好ましい材料である。
【0038】
図4に示す積層構造の各層の膜厚の例としては、下層側から、Mn22Irが60Å、Co25Feが20Å、Ruが4.5Å、CoMnGeが25Å、Cuが5Å、Al10Cuが15Å、Cuが5Å、CoMnGeが35Å、Co−X/Co−Fe−Xが35Å、Cuが20Å、Ruが10Åである。
【0039】
図4の構造にように、Co系アモルファス金属層512がホイスラ合金層511と同等の厚みを有する場合、Co−Fe−XよりもCo−Xを使用することが好ましい。Co−Xは、Co−Fe−Xと比較して、より低い磁歪定数を有しているからである。Co−Xを使用することで、Co系アモルファス金属層512の膜厚が厚くなっても、磁気抵抗センサ112のより優れた低磁歪特性を実現することができる。
【0040】
図5は、図3(b)の積層構造を有する磁気抵抗センサ112の好ましい例を示している。自由層215の構造以外は、図4に示した積層構造と同一である。図5の磁気抵抗センサ112において、自由層215における金属結晶軟磁性層513は、NiFe合金で形成されている。金属結晶軟磁性層513としては、Co、Fe、Niのいずれの元素を有する軟磁性金属を使用してもよい。Co系アモルファス金属層512とホイスラ合金層511の材料は、図4のものと同じである。
【0041】
自由層215を構成する各層の膜厚は、例えば、CoMnGeが35Å、Co−Fe−X/Co−Xが5Å、そしてNiFeが35Åである。Co系アモルファス金属層512が中間層として機能する場合も、Co−Fe−X/Co−Xにより、高いMR比と低い磁歪を達成することができる。
【0042】
Co−Fe−XとCo−Xとでは、Xが同一濃度の場合、Co−Fe−Xがより高いキュリー温度と単位体積当たりの磁気モーメント(磁化)を有している。一方、磁歪については、Co−XがCo−Fe−Xよりも優れている。従って、磁気抵抗センサ112の設計においては、磁歪特性と、磁化及びキュリー温度の特性との観点から、より好ましい方の材料をCo系アモルファス金属層512に使用する。
【0043】
以下において、本形態の自由層構造を有する磁気抵抗センサと従来構造の自由層を有する磁気抵抗センサとを比較して測定データを示す。図6(a)はMR出力の測定データを示し、図6(b)は磁歪の測定データを示している。自由層以外の層構造を同一とし、自由層の積層構造を変化させて測定を行った。具体的には、60ÅのCoMnGeからなる自由層、37ÅのCoMnGeと37ÅのNiFeの積層構造からなる自由層、32ÅのCoMnGe、5ÅのCoFe20B、32ÅのNiFeの積層構造からなる自由層、そして、33ÅのCoMnGeと33ÅのCoTa20Zrの積層構造からなる自由層、のそれぞれのMR出力と磁歪とを測定した。
【0044】
図6(a)のグラフに示すように、37ÅのCoMnGeと37ÅのNiFeの積層構造と比較して、他の自由層構造は、高いMR出力を示している。図6(b)の磁歪を示すデータにおいて、CoMnGe単層の自由層と比較して、他の構造の自由層は低い磁歪を示している。つまり、ホイスラ合金層のみの自由層は、高いMR出力を示すが、磁歪も大きくなっている。また、ホイスラ合金層と金属結晶軟磁性層とからなる自由層は、低い磁歪を示すが、MR出力も小さい値となっている。
【0045】
これらに対して、ホイスラ合金層とCo系アモルファス金属層とを有する自由層は、ホイスラ合金層と金属結晶軟磁性層の自由層よりも高いMR出力を有し、さらに、ホイスラ合金層のみの自由層よりも低い磁歪を示すことが確認できた。このように、ホイスラ合金層とCo系アモルファス金属層とを合わせて使用することで、高いMR出力と低い磁歪とを示す磁気抵抗センサを実現することができた。
【0046】
以上、本発明を好ましい実施形態を例として説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態において、磁気ヘッドの構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本実施形態において、磁気抵抗センサ構造を適用可能なCPPリード・ヘッドの構造・構成の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】本実施形態において、磁気抵抗センサの積層構造を模式的に示す図である。
【図4】本実施形態において、図3(a)の積層構造を有する磁気抵抗センサの好ましい例を示す図である。
【図5】本実施形態において、図3(b)の積層構造を有する磁気抵抗センサの好ましい例を示す図である。
【図6】本実施形態の自由層構造を有する磁気抵抗センサと従来構造の自由層を有する磁気抵抗センサとを比較した測定データを示す図である。
【図7】本実施形態において、ホイスラ合金層の組成比に対するMR出力の測定データを示している。
【符号の説明】
【0048】
1 磁気ヘッド、2 スライダ、3 磁気ディスク、11 リード・ヘッド
12 ライト・ヘッド、13 保護膜、21 磁気ディスク対抗面
111 下部シールド、112 磁気抵抗センサ、113 上部シールド
114 上部磁気隔離膜、115 ハードバイアス膜、116 ハードバイアス下地膜
117 ジャンクション絶縁膜、121 薄膜コイル、122 記録磁極
123 絶縁体、211 センサ下地層、212 反強磁性層、213 固定層
214 非磁性中間層、215 自由層、216 キャップ層、311 第1固定層
312 第2固定層、511 ホイスラ合金層、512 Co系アモルファス金属層
513 金属結晶軟磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗センサを有し、前記磁気抵抗センサの積層方向に検知電流を流す磁気リード・ヘッドであって、前記磁気抵抗センサ膜は、
外部磁界によって磁化方向が変化する自由層と、
前記自由層と積層されており、磁化方向が固定された固定層と、
前記自由層と前記固定層との間にある非磁性中間層とを有し、
前記自由層は、
ホイスラ合金層と、
Co系アモルファス金属層と、
を有する、磁気リード・ヘッド。
【請求項2】
前記Co系アモルファス金属層は、Ta、Ti、Zr、Nb、Hf、W、Bの少なくとも一つの元素を含む、
請求項1に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項3】
前記自由層は、さらに、金属結晶の軟磁性層を有し、
前記軟磁性層と前記ホイスラ合金層との間に前記Co系アモルファス金属層が形成されている、
請求項1に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項4】
前記Co系アモルファス金属層は、
C−Fe−X:XはTa、Ti、Zr、Nb、Hf、W、Bの内の一つもしくは複数の元素、
である、請求項3に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項5】
前記Co系アモルファス金属層の厚みは、前記軟磁性層及び前記ホイスラ合金層の厚みよりも一桁以上薄い、
請求項4に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項6】
前記Co系アモルファス金属層の厚みの桁数は、前記ホイスラ合金層の厚みの桁数以上である、
請求項3に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項7】
前記Co系アモルファス金属層は、
C−X:XはTa、Ti、Zr、Nb、Hf、W、Bの内の一つもしくは複数の元素
である、請求項1に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項8】
前記固定層はホイスラ合金層を含む、
請求項1に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項9】
前記自由層は、さらに、BCC構造をもつナノ磁性層を有し、
非磁性中間層、前記ナノ磁性層、前記ホイスラ合金層の順に形成され、
前記ナノ磁性層の厚みは、前記ホイスラ合金層の厚みよりも1桁以上薄い、
請求項1に記載の磁気リード・ヘッド。
【請求項10】
前記ナノ磁性層がCo−Fe合金で、Fe組成が30at%以上である、
請求項9に記載の磁気リード・ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−146650(P2010−146650A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323473(P2008−323473)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】