説明

磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド及び磁気記録再生装置

【課題】CPP−GMRにおいて、適度な面積抵抗と高い磁気抵抗変化率を有し、かつ狭リードギャップの要請に対応した実用的な磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】磁化方向が一方向に固着された第1の強磁性体膜117を含む強磁性固定層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する第2の強磁性体膜123を含む強磁性自由層と、強磁性固定層と強磁性自由層との間に設けられた中間層121と、電流を絞り込むための電流狭窄層120を有し、強磁性固定層及び強磁性自由層の少なくとも一方は高分極率層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い磁気記録密度に対応した磁気抵抗効果素子及び磁気ヘッド、並びに磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録の高密度化に伴い、HDD(Hard Disk Drive)装置の再生ヘッドにはスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果ヘッドが用いられており、今日に至るまでに膜構成の改良により再生出力を向上させている。スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果ヘッドは、反強磁性層/固定層/非磁性中間層/自由層を順に積層した構造を有する。反強磁性膜と固定層界面に生じる交換結合磁界により固定層の磁化は固定され、自由層が外部磁界により磁化反転するために固定層と自由層の磁化の相対的な向きが変化し、その時の電気抵抗が変化することにより磁場を検出する。この場合、流す電流は膜面に平行方向である。このように膜面に平行方向に電流を流す方法は、一般にCIP(Current-in-plane)方式と呼ばれている。近年、更なる高出力化のために、膜面の垂直方向に電流を流すTMR(Tunneling Magneto resistive)ヘッドやCPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR(Giant Magneto Resistive)ヘッドの研究開発が行われている。TMRヘッドはスピン依存トンネルネリング効果を用いて磁気抵抗を発現するため、高い磁気抵抗変化率(MR比)を有することを特徴とする。しかし、MR比が大きいものの、磁気トンネル接合には絶縁層を含む必要があるため、面積抵抗(RA)が数Ωμm2で大きい。そのため、素子サイズが小さくなったとき、ヘッド抵抗が大きくなるため高周波特性が悪く、高速転送には不利である。
【0003】
一方、CPP−GMRタイプのヘッドとして、従来のCIP−GMRと同様の構造において膜面に垂直方向に電流を流した場合は、MR比が小さいために実用化は難しい。そこで、高いMR比を得るためにハーフメタルを強磁性層に用いる研究が行われている。ハーフメタルとは、フェルミ面近傍でアップスピンとダウンスピンどちらか一方のスピン状態しか存在しない金属のことをさす。このような金属では、アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子の平均自由行程差が大きくなるため、高いMR比を得ることが可能であると考えられている。非特許文献1には、ハーフメタルの一種であるホイスラー合金を用いたCPP−GMRセンサが開示されている。MR比は、4.2Kで8%程度とそれほど大きくないが、ホイスラー合金がCPP−GMR素子に適用可能であるという可能性が示された意義は大きい。
【0004】
ホイスラー合金の材料として、特許文献1には、Co2MnZ(Z=Al,Si,Ga,Ge,Sn)をCPP−GMR素子に用いる発明が開示されている。特許文献2にはCo2(FexCr1-x)AlをTMR素子やCPP−GMR素子に用いる発明が開示されている。特許文献3には(CoPd)MnZ(Z=Sn,Ge,Si)や(CoX)MnSn(X=Rh,Ru,Ir)をCPP−GMR素子に用いる発明が開示されている。
【0005】
これらCPP−GMR素子はデュアルスピンバルブ構造とすることでさらにMR比を高くすることができるが、磁気ヘッドの分解能を高めるための狭リードギャップの要請に応えることができない。また、特許文献1から3に記載のCPP−GMR素子はすべて金属膜で形成されているためRAが低く、素子サイズをかなり小さくしてヘッド抵抗を高くしないと、十分な出力が得られない欠点も有する。
【0006】
別の構造として特許文献4では、絶縁体と導電体との混合物より成る非磁性膜を挿入したCPP−GMR素子が提案されている。このように、スピンバルブ構造において、絶縁体と導電体の複合体からなる層を形成することで、膜面に垂直方向に流れる電流は、該非磁性膜において導電体を優先的に流れるために、RA及びMR比を大きくすることが可能である。非特許文献2にはAlCuを電流狭窄層に用いたCPP−GMR素子において、RA=0.38Ωμm2で4.3%のMR比が得られたとの記述がある。しかしながら、高いヘッドSNRを得るためにはさらに高いMR比が要求されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−218428号公報
【特許文献2】特開2004−221526号公報
【特許文献3】特開2007−81126号公報
【特許文献4】特許3293437号公報
【非特許文献1】J. Magn. Magn. Mater., 198-199, 55 (1999)
【非特許文献2】J. Appl. Phys., 97, 10c509 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スピンバルブ型のCPP−GMRヘッドにおいて、次世代の300Gbit/in2台の記録密度を達成するには、前述したようにMR比がまだ小さく、磁気抵抗効果素子の感度が不十分であるという問題がある。また記録密度が高くなるにつれてビット方向の記録密度が大きくなるため、高い分解能を保つためにはシールド間隔を狭める必要がある。
【0009】
従来、ホイスラー合金などの高分極率材料を用いたCPP−GMRヘッドは、高分極率層の結晶性を保ち、かつ大きなスピン依存バルク散乱を得るために、厚い高分極率層(一般的には5nm以上)が必要であった。もしくは、デュアルスピンバルブ構造にしてスピン依存散乱を増やす必要があった。どちらの構造を用いた場合でも、再生センサの総膜厚が厚くなるため、狭リードギャップに対応したCPP−GMRヘッドを作成することが困難であった。また高分極率材料が酸化されると特性が大きく低下してしまうことが分かったため、酸化物を含む電流狭窄層と単純に組み合わせることは困難であった。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、MR比が高く高感度な、高密度記録に適したCPP−GMR素子構造、並びにCPP−GMR素子を備えた磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の磁気抵抗効果素子は、磁化方向が実質的に一方向に固着された第1の強磁性体膜を含む固定層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する第2の強磁性体膜を含む自由層と、固定層と自由層との間に設けられた中間層を有し、固定層及び自由層の少なくとも一方には高分極率材料を含み、かつ中間層の一部には電流を絞り込むための電流狭窄層を有する構成とする。
【0012】
このような構成とすることで、電流狭窄層では電流が絞り込まれるため、RA及びMR比はほとんどが電流狭窄部の抵抗に支配される。その結果、従来に較べスピン依存散乱による抵抗変化に寄与する部分を強磁性体膜の電流狭窄部近傍に局在させることが可能であるため、高分極率材料の膜厚を薄くすることが可能になった。このような手段により、狭リードギャップの要請に対応できる。
【0013】
また、本発明の磁気抵抗効果膜を適用した磁気抵抗効果ヘッドと誘導型薄膜磁気ヘッドあるいは垂直記録ヘッドを組み合わせることにより良好な磁気ヘッドが得られる。さらに、この磁気ヘッド磁気記録再生装置に搭載することができる。
【0014】
本発明でいう高分極率材料とは、化学量論組成がX2YZもしくはXYZに近い組成をもった合金で、部分的にL21構造もしくはB2構造を有している。高分極率材料は従来のCPP−GMR素子の固定層や自由層に使われていたCoFeなどの金属磁性材料のスピン分極率P=0.3〜0.5に較べて高い値を有している材料のことを指す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電流狭窄層により絞り込まれた電流により、電流狭窄層の電気伝導部近傍のみの高分極率材料のスピン依存散乱がMR比に大きく寄与するため、伝導部から膜厚方向に遠い部分のスピン依存散乱の寄与は、相対的に小さくなる。そのため、従来に較べ膜厚の薄い高分極率層を用いても充分に高いMR比を得ることが可能になる。以上により、狭リードギャップに対応し、かつ適度な抵抗と高いMR比を両立した磁気抵抗効果膜を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の一実施例を挙げ、図表を参照しながらさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
(電流狭窄層と高分極率材料を組み合わせた効果)
図1は本発明のCPP−GMR膜の断面を示した概念図である。
具体的には、電極を兼ねた下部シールド111上に、下地層112、反強磁性層113、第1の強磁性固定層114、反平行結合層115、第1の界面磁性層116、第2の強磁性固定層117、第2の界面磁性層118、酸化防止層119、電流狭窄層120、中間層121、第3の界面磁性層122、強磁性自由層123、第4の界面磁性層124、キャップ層125を形成する。ここで、下地層112はその上に続く膜の結晶配向性を制御するために重要で、本実施例ではTa(3nm)/Ru(2nm)多層膜を用いた。他にも、Al,Cu,Cr,Fe,Nb,Hf,Ni,Ta,Ru,NiFe,NiCr,NiFeCrなどの単層膜もしくはこれらの材料からなる多層膜を用いてもよい。反強磁性層113には、MnIrやMnIrCr,MnPtなどの反強磁性材料を用いることができる。第1の強磁性固定層114としてはCoFe(3nm)、反平行結合層115としてはRu(0.8nm)を用いた。第1の界面磁性層116としてはFe50Co50(0.5nm)を用いた。第1の界面磁性層116は、反平行結合層115と第2の強磁性固定層117を構成する材料が相互拡散するのを抑制するために重要で、第1の界面磁性層116がある方が、第1の強磁性固定層114と第2の強磁性固定層117の反平行結合力が強くなり、固定層の磁化が外部磁界に対して動きにくく安定となる。第1の界面磁性層116としては、Fe50Co50の他にも、Fe,Co,Ni又はこれらから選ばれる2種類以上からなる合金を用いることができる。
【0018】
第2の強磁性固定層117としては、CoFeやNiFeをベースとする磁性材料や、高分極率材料を用いることができる。本実施例では、高分極率材料としてCo50Mn25Ge25(3nm)を用いた。第2の界面磁性層118は、界面の相互拡散や酸化の抑制、結晶配向性を制御するために重要で、Fe,Co,Ni又はこれらから選ばれる2種類以上の材料からなる合金を用いることができる。本実施例では、第2の界面磁性層118としてFe50Co50(0.5nm)を用いた。
【0019】
酸化防止層119としてはCuを用いたが、他にもAu,Ag,Crなどを用いることができる。この層は電流狭窄層からの酸素が第2の界面磁性層118及び第2の強磁性固定層117に拡散するのを防ぎ、電流狭窄層の伝導部と絶縁部の分離形成が効率よく行われるための下地として重要である。
【0020】
本実施例の電流狭窄層120としては1nmのAl90Cu10を用いた。電流狭窄層は酸素分圧10%のアルゴン酸素雰囲気中で反応性スパッタした。電流狭窄層の材料は相分離しやすく伝導部を介して磁気抵抗を発生する材料の組み合わせであればよく、絶縁部としては、Al,Si,Mg,Ti,Taなどの酸化物を用いることもできる。また、伝導部としてはAu,Ag,Cu,Pt,Pd,Ru,Rh,Co,Ni,Feを用いることができる。
【0021】
電流狭窄層の作製方法としては、Al23,SiO2,Mg−O,Ti−O,Ta−Oなどの絶縁物ターゲットと、Au,Ag,Cu,Pt,Pd,Ru,Rh,Co,Ni,Feなどの金属ターゲットをスパッタ装置内で同時放電させることによっても作製できる。
【0022】
このようにして作製された電流狭窄層120は、逆スパッタによるエッチングを施し、物理的に表面を削ることで平坦性を向上させた。平坦化の手段としては、逆スパッタのほかにも、低角度入射したIBE、もしくはGCIBエッチングを用いても同様の効果が得られる。
【0023】
本実施例では、中間層121としてCu(0.5nm)を用いた。中間層121は電流狭窄層からの酸素が第3の界面磁性層122及び強磁性自由層123に拡散するのを防ぎ、強磁性自由層123の軟磁気特性を向上させるために重要である。中間層121としては、Cuの他にもAu,Ag,Crなどを用いることができる。
【0024】
第3の界面磁性層122としてはFe50Co50(0.5nm)を用いた。第3の界面磁性層122としては、Fe50Co50のほかにも、Fe,Co,Ni又はこれらから選ばれる2種類以上からなる合金を用いることができる。
【0025】
強磁性自由層123としては、CoFeやNiFeをベースとする磁性材料や、高分極率材料を用いることができる。本実施例では、高分極率材料としてCo50Mn25Ge25(3nm)を用いた。
【0026】
第4の界面磁性層124として、本実施例ではFe50Co50(0.5nm)を用いた。この層は、強磁性自由層123とキャップ層125の相互拡散を防ぎ、キャップ層の結晶構造が強磁性自由層123に影響するのを抑制する効果もある。第4の界面磁性層124としては、Fe50Co50のほかにも、Fe,Co,Niやこれら材料を2種類以上組み合わせた合金、及び添加元素としてAu,Ag,Cu,Pt,Pd,Ru,Ge,Mn,Al,Sbを含む材料を用いることができる。
【0027】
キャップ層125としては、Ru(3nm)/Cu(2nm)を用いた。キャップ層125としては、Cu,Ru,Ta,Rh単層膜もしくはこれら材料を組み合わせた積層膜を用いることができる。
【0028】
本発明で作製した電流狭窄型のCPP−GMR膜に一般的なイオンミリングとフォトリソグラフィーによるプロセスを施すことでCPP−GMR素子を作製した。素子サイズは0.3×0.3μm2から5.0×5.0μm2のものを形成し、素子の抵抗及び抵抗変化量の面積依存性から面積抵抗RA及び面積抵抗変化量ΔRAを求めた。
【0029】
表1には、比較例1として高分極率材料のCo50Mn25Ge25を磁性層に用い、中間層としてCuを用いた、すべて金属から成るCPP−GMR素子を、比較例2としてCo90Fe10を磁性層に用い、Al90Cu10を電流狭窄層に用いた電流狭窄型CPP−GMR素子を、実施例1として高分極率材料のCo50Mn25Ge25と電流狭窄層のAl90Cu10を併用したCPP−GMR素子の特性を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
狭リードギャップの要請を満たすため、比較例1、比較例2及び実施例1は、センサの膜厚がすべて29.3nmとなるようにした。比較例1及び実施例1は、高分極率層と界面磁性層の両方がMR比に寄与するため、高分極率層と界面磁性層の和の膜厚が4nmとなるように設計し、対等な比較とするため、比較例2のCo90Fe10膜厚も4nmとした。この場合、比較例1及び比較例2では高々5〜6%のMR比しか得られないのに対し、実施例1では18.2%という高いMR比を得ることが可能である。このように、実施例の構造を用いることで、高いMR比を有しつつも狭リードギャップに適応した磁気抵抗効果素子を作製可能である。
【実施例2】
【0032】
(自由層膜厚各種)
図2には、表1に示される実施例1の構造において、強磁性自由層の膜厚を変化させたときのMR比を示す。
【0033】
図2中の横軸の自由層膜厚は、表1の比較例1及び実施例1に関しては、第3の界面磁性層122、第4の界面磁性層124及び強磁性自由層123からなる3層自由層の総和の膜厚として計算している。膜厚を変化させるときはCo50Mn25Ge25層の膜厚のみを変化させた。比較例2の自由層膜厚とは、Co90Fe10単層自由層の膜厚を意味している。
【0034】
比較例1、比較例2、実施例2の結果を較べると、自由層の膜厚が同じ場合、最も高いMR比が得られるのは実施例2である。
【0035】
高いMR比を得るという観点からは、比較例1、比較例2、実施例2ともに自由層の膜厚が厚いほうが望ましいが、センサの総膜厚も厚くなるために高分解能を達成することが難しく、また、自由層の磁化×膜厚の値が大きくなるために、ハードバイアスによって磁化方向を一方向に制御することも困難である。したがって、単純に自由層を厚くしてMR比を大きくしただけでは、高い記録密度を達成できない。一般的には、自由層の厚さは12nm程度以下であることが300Gb/in2を超える分解能を達成するためには望ましいと考えられ、より自由層が薄い方がセンサの総膜厚も薄くできるため、高い分解能を達成し易い。とくに、実施例2の場合は、自由層の膜厚が2nmと非常に薄い場合でも10%を超えるMR比が得られるため、センサの総膜厚を薄くすることが可能であり、磁化×膜厚の値も小さくすることができるため、ハードバイアスによる磁化制御も容易である。したがって、自由層膜厚が2nm以上、Co50Mn25Ge25膜厚としては1nm以上あれば300Gb/in2を達成する高分解能と高い出力を両立することが可能である。
【実施例3】
【0036】
(界面有無各種)
実施例1において、第2の界面磁性層118、酸化防止層119、中間層121、第3の界面磁性層122の有無及び材料を変えた試料を作製した。表2に、各構成におけるRA及びMR比を示す。表中の上向き矢印は、その材料が矢印が指す材料と同じであることを表す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2のNo.2−1〜No.2−5から分かるように、界面磁性層及び酸化防止層、中間層がない場合でもすべて12%を超える高いMR比が得られることが分かる。但し、第2の界面磁性層118もしくは第3の界面磁性層122がない場合は、実施例1に較べるとMR比は低下するため、第2及び第3の界面磁性層が形成されていることが好ましい。
【0039】
また、酸化防止層119がない場合はRAが増大する傾向にあり、電流狭窄層120を制御してRAを小さくすると、MR比が低下する。これは、固定層まで酸化が進行するためであり、これを防ぐために酸化防止層119を形成した方が望ましい。
【0040】
また、中間層121がない場合は、低RAで高いMR比が得られるものの、自由層の軟磁気特性は若干劣化するため、中間層があった方が望ましい。
【0041】
表2のNo.2−6〜2−9には、実施例1の構造において、第2の界面磁性層118及び第3の界面磁性層122の材料をCoやCo66Ni16Fe18に変えた試料のRA及びMR比を示す。これによると、界面磁性層をFe,Co,Ni及びこれらから選ばれる2種類以上の材料からなる合金を用いても高いMR比が得られることが分かる。
【0042】
表2のNo.2−10〜No.2−12には、実施例1の構造において、酸化防止層119及び中間層121の材料をAu,Ag,Crに変えた試料のRA及びMR比を示す。これによると、Au,Ag,Crを用いても、高いMR比が得られることが分かる。
【実施例4】
【0043】
(高分極率材料各種、組成各種)
実施例1において、第2の強磁性固定層117及び強磁性自由層123の材料を変えた試料を作製した。表3に、各構成におけるRA及びMR比を示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3中の試料No.3−1及び試料No.3−2に示されるように、第2の強磁性固定層117もしくは強磁性自由層123のどちらからをCoFeに変えると、MR比は減少するが、それでも従来型のCPP−GMR素子より高い10%以上のMR比を有することが分かる。また、表3中の試料No.3−3〜No.3−11に示されるように、高分極率材料としては、CoMnGeのほかにもCoMnAl、CoMnSi、CoMnGa、CoMnSn、CoFeGe、CoFeAl、CoFeSi、CoFeGa、CoFeSnを用いても高いMR比を得ることができる。
【0046】
図3には、実施例1の構造において、高分極率層として(Co0.66Mn0.341-xGex(3nm)を用い、Ge組成xat.%を変化させた結果を示す。これによるとCoMnGeがL21構造をとるときの化学量論組成であるCo:Mn:Ge=2:1:1からGe組成が大きくずれた場合もMR比が観測されることが分かる。特に、Ge組成が30at%の時にもっとも大きなMR比が観測される。同様に、(Co0.5Fe0.51-xGexを高分極率層として用いた場合の結果を図4に示す。この場合も、Geの組成を大きく変えてもMR比が観測された。その理由は、ホイスラー合金がL21やB2構造などの完全な規則格子を組んでいない場合でも、部分的に規則度の高い構造を有する場合、その部分近傍の電流が絞り込まれれば充分高いMR比が得られるからであると考えられる。高分極率材料は、構成材料の一部が粒界などに偏折した場合でも、偏析部分が電流狭窄層の伝導部と接しない様に形成されている限り、スピン依存散乱に悪影響を及ぼさないため、MR比の低下は最小に抑えられる。
【0047】
また、電流狭窄層の伝導部として結晶質の材料を選択した場合は、強磁性固定層から伝導部を通して強磁性自由層に至るまでの電流パスが、粒界を含まずにエピタキシャルに形成される場合が多いため、結晶連続性の高い電流パスが形成される。この場合は、一方の高分極率層でスピン偏極した電流が、他方の高分極率層に流れ込む間に欠陥や不純物による散乱を受けにくいため、より大きなスピン依存散乱が期待できる。
【実施例5】
【0048】
(AlCu組成の説明)
実施例1で作製した磁気抵抗効果素子において、電流狭窄層120として用いたAl90Cu10の、Cu組成を変えた試料を作製した。図5には、各Cu組成でのMR比とRAを示す。Al1-xCuxの膜厚を制御することで、各Cu組成におけるRAが0.1Ωμm2から0.2Ωμm2の範囲になるようにした。これによると、Cu組成が5〜40at.%の範囲で10%を超えるMR比が得られている。Cu組成が50at.%を超えると、電流狭窄層で電流を絞り込む効果が充分得られず、高いMR比を得ることが難しい。このことから、Al1-xCuxのCu組成は5〜40at.%であることが望ましい。
【実施例6】
【0049】
(ヘッドの説明)
図6は本発明の磁気抵抗効果素子を搭載した垂直記録用記録再生分離型磁気ヘッドの概念図である。スライダーを兼ねる基体上に下部第1シールド211、第2シールド212、CPP−GMR膜213、絶縁ギャップ膜214、磁区制御膜215、導電性ギャップ膜216及び上部シールド217から再生ヘッドは構成される。再生ヘッドの上部側に、副磁極218、コイル219、主磁極220、ヨーク部221からなる垂直記録ヘッドが構成されている。
【0050】
本発明は、磁気抵抗効果ヘッドに関するものであるから、記録ヘッド側が垂直記録ヘッド及び面内記録ヘッドの双方に対応可能である。しかし、垂直記録ヘッドと組み合わせることで、より有効な機能を実現することができる。
【実施例7】
【0051】
(ドライブの説明)
実施例6で作製した垂直記録用記録再生分離型磁気ヘッドを用いた磁気ディスク装置を作製した。図7及び図8に磁気ディスク装置の概略図を示す。図7は平面模式図、図8はそのAA’断面図である。磁気記録媒体311には、CoCrPtとSiO2からなる垂直記録用グラニュラ媒体を用いた。磁気ヘッド313には実施例6のヘッドを用いた。磁気的に情報を記録する記録媒体311をスピンドルモーター312にて回転させ、アクチュエーター314によってヘッド313を記録媒体311のトラック上に誘導する。即ち磁気ディスク装置においては、ヘッド313上に形成した再生ヘッド及び記録ヘッドがこの機構に依って記録媒体311上の所定の記録位置に近接して相対運動し、信号を順次書き込み、及び読み取るのである。記録信号は信号処理系315を通じて記録ヘッドにて媒体上に記録し、再生ヘッドの出力を、信号処理系315を経て信号として得る。
【0052】
上述したような構成について、本発明の磁気ヘッド及びこれを搭載した磁気記録再生装置を試験した結果、充分な出力と、良好なバイアス特性を示し、また動作の信頼性も良好であった。これは、本発明の構造を適用することにより、低いRAで高いMR比が得られているからである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のCPP−GMR素子の概略図。
【図2】本発明の一実施形態のCPP−GMR素子と、比較として用いたCPP−GMR素子とのMR比の自由層膜厚依存性を示す図。
【図3】本発明の一実施形態である(Co0.66Mn0.341-xGexを高分極率材料として用いたときのMR比のGe組成依存性を示す図。
【図4】本発明の一実施形態である(Co0.5Fe0.51-xGexを高分極率材料として用いたときのMR比のGe組成依存性を示す図。
【図5】本発明の一実施形態であるAl1-xCuxを電流狭窄層として用いたときのMR比及びRAのCu組成依存性を示す図。
【図6】垂直記録用記録再生分離型磁気ヘッドの概略図。
【図7】磁気ディスク装置の概略図。
【図8】磁気ディスク装置断面の概略図。
【符号の説明】
【0054】
111 下部シールド
112 下地層
113 反強磁性層
114 第1の強磁性固定層
115 反平行結合層
116 第1の界面磁性層
117 第2の強磁性固定層
118 第2の界面磁性層
119 酸化防止層
120 電流狭窄層
121 中間層
122 第3の界面磁性層
123 強磁性自由層
124 第4の界面磁性層
125 キャップ層
211 第1シールド
212 第2シールド
213 CPP−GMR膜
214 絶縁ギャップ膜
215 磁区制御層
216 導電性ギャップ膜
217 上部シールド
218 副磁極
219 コイル
220 主磁極
221 ヨーク部
311 磁気記録媒体
312 スピンドルモーター
313 磁気ヘッド
314 アクチュエーター
315 信号処理系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が一方向に固着された第1の強磁性体膜を含む強磁性固定層と、
磁化方向が外部磁界に対応して変化する第2の強磁性体膜を含む強磁性自由層と、
前記強磁性固定層と前記強磁性自由層との間に設けられた中間層と、
電流を絞り込むための電流狭窄層とを有し、
前記強磁性固定層及び強磁性自由層の少なくとも一方は、高分極率層を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記高分極率層の膜厚が1nm以上11nm以下であることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記高分極率層はCoMnZ(Z=Al,Si,Ga,Ge,Sn)であることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記高分極率層はCoFeZ(Z=Al,Si,Ga,Ge,Sn)であることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記高分極率層はCoMnGeであることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記電流狭窄層の絶縁部として、Al,Si,Mg,Ti,Taから選ばれる少なくとも一種類の酸化物を用い、伝導部としてAu,Ag,Cu,Pt,Pd,Ru,Rh,Co,Ni,Feから選ばれる少なくとも一種類の金属を用いることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記電流狭窄層はAl1-xCux−O(x=5〜40at.%)であることを特徴とする抵抗効果素子。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記電流狭窄層と高分極率層の間に、Au,Ag,Cu,Crからなる少なくとも一層の酸化防止層を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、前記高分極率層に隣接する層との界面に、Fe,Co,Ni又はこれらから選ばれる2種類以上の材料からなる界面磁性層を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
再生ヘッドと記録ヘッドとを組み合わせた磁気ヘッドにおいて、
前記再生ヘッドは、磁化方向が一方向に固着された第1の強磁性体膜を含む強磁性固定層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する第2の強磁性体膜を含む強磁性自由層と、前記強磁性固定層と前記強磁性自由層との間に設けられた中間層と、電流を絞り込むための電流狭窄層とを有し、前記強磁性固定層及び強磁性自由層の少なくとも一方は、高分極率層を有する磁気抵抗効果素子を備えることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項11】
磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体に対して記録再生動作を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に位置決めするアクチュエーターとを有し、
前記磁気ヘッドは、磁化方向が一方向に固着された第1の強磁性体膜を含む強磁性固定層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する第2の強磁性体膜を含む強磁性自由層と、前記強磁性固定層と前記強磁性自由層との間に設けられた中間層と、電流を絞り込むための電流狭窄層とを有し、前記強磁性固定層及び強磁性自由層の少なくとも一方は、高分極率層を有する磁気抵抗効果素子を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−164182(P2009−164182A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339432(P2007−339432)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】