磁気抵抗素子
【課題】少ない電力消費で磁気抵抗素子を動作させる方法を提供する。
【解決手段】磁気抵抗素子(21)は、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域(22)とこの強磁性領域(22)に容量的に結合するゲート(23)とを含む。この方法は、電界パルス(29)を強磁性領域(22)に与えることにより、磁気異方性の配向を変えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。
【解決手段】磁気抵抗素子(21)は、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域(22)とこの強磁性領域(22)に容量的に結合するゲート(23)とを含む。この方法は、電界パルス(29)を強磁性領域(22)に与えることにより、磁気異方性の配向を変えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気抵抗素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM)は、いくつかの点でフラッシュ・メモリなどの他のタイプの不揮発性メモリより優れている。例えば、MRAMは一般に電力消費が少なく、またデータの読取りおよび書込みが速い。またMRAMは、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)などのいくつかの形の揮発性メモリに代わるものとして有望である。
従来技術のMRAMセルは一般に、非磁気層により分離された1対の強磁性層を有する磁気抵抗素子を含む。一方の強磁性層は比較的低い飽和保磁力を有し、他方の強磁性層は比較的高い飽和保磁力を有する。一般に、飽和保磁力が低い層を「自由」層、飽和保磁力が高い層を固着(pinned)層と呼ぶ。
【0003】
セル内にデータを記憶するには、外部磁界を与えて自由層の磁化の向きを定める。磁界を取り去った後も、磁化の向きは保持される。
セルからデータを読み取るときは素子を通して電流を流す。素子の磁気抵抗は、層の磁化が逆平行(AP)に配列されている場合は比較的高く、層の磁化が平行(P)に配列されている場合は比較的低い。したがって、セルの状態は素子の磁気抵抗を測定することにより決定することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外部磁界は素子の近くを走る少なくとも1本の導線に電流を流すことにより生成する。しかしこの配置では、セルの寸法が減少するに従って自由層を切り換えるのに必要な磁界が増加し、したがって電力消費も増加するという問題がある。
外部磁界を与える別の方法はスピン・トランスファ切換え(spin transfer switching)を用いることである。これは、J.C.Slonczewskiの「磁気多層の電流駆動励磁(Current−driven Excitation of Magnetic Multilayers)、p.9353、Phys.Rev.B、Vol.54(1996)に提示されている。また、W.C.Jeong他の「磁界支援の電流誘導による切換えを用いる拡張性の高いMRAM(Highly scalable MRAM using field assisted current induced switching)」、p.184、2005 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers、を参照していただきたい。
【0005】
スピン・トランスファ切換えでは、磁気素子を通して電流を層の界面に垂直に流す。これにより、固着層を通って流れる電子により(電流を自由層から固着層に流すとき)、または固着層から拡散する電子により(電流を固着層から自由層に流すとき)、スピン偏極電子(spin−polarised electrons)が自由層内に注入される。スピン偏極電子が自由層内に注入されるとき、電子は自由層と相互作用してそのスピン角運動量の一部を自由層の磁気モーメントに移す。スピン偏極電流が十分大きい場合は、このために自由層の磁化が切り換わる。
【0006】
しかしスピン・トランスファ切換えの欠点は、反転プロセスをトリガするのに高い電流密度(例えば、108Acm−2程度)が必要なことである。
切換え電流パルスを与える前に直流予備充電電流を与えることにより電流を減らすことができる。これについては、T.Devolder他の「ナノ秒以下にスピン・トランスファ切換えを加速させるための予備充電方式(Precharging strategy to accelerate spin−transfer switching below the nanosecond)」、Applied Physics Letters、volume86、page062505(2005)、に記述されている。切換え電流パルスの電力消費は減少するが、全体の電力消費(すなわち、予備充電電流の電力消費を含む)はまだ非常に大きい。
【0007】
しかし、切換え電流パルスを与える直前にまたは同時に、自由層の磁化困難軸に沿って短い(例えば、<5nsの)外部磁界パルスを与えて歳差運動切換えを起こすことにより電流を減らすことができる。これについては、K.Ito他の「磁化困難軸磁界からの歳差運動と組み合わせたスピン・トランスファ・トルク切換えの微小磁気シミュレーション(Micromagnetic simulation of spin transfer torque switching combined with precessional motion from a hard axis magnetic field)」、Applied Physics Letters、volume89、page252509(2006)、に記述されている。
【0008】
この方法は、スピン・トランスファ電流を大幅に減らすことはできるが、線に電流を流して外部磁界を与える必要がある。これは拡張性と電力消費の削減の可能性を制限する。
本発明はこの問題を改善するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切換えることができる強磁性領域とこの強磁性領域に容量的に結合するゲートとを含む磁気抵抗素子を動作させる方法を提供する。この方法は、電界パルスを強磁性領域に与えることにより、磁化異方性の配向を変えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。したがって、磁界パルスを生成するための導線を有する素子より少ない電力を用いて歳差運動支援の磁化切換えをトリガすることができる。
【0010】
この方法は、電界パルスを強磁性領域に排他的に与えて、強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切換えることを含んでよい。この方法は、磁界パルスを与えずに強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切換えるようにすることを含んでよい。電界パルスだけを用いて強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切換え、または磁界パルスを用いずに切換えを支援することにより、電力消費を最小にすることができる。
【0011】
この素子は、磁界パルスを生成するための強磁性領域の近くを走る導電経路を更に含む。この方法は更に、電界パルスを与えると共に磁界パルスを強磁性領域に与えて、電界パルスの間の異方性磁界と与えた磁界とを含む有効磁界の配向の変化を強化して、磁化を第1と第2の配向の間に切換えることを含む。この方法は、磁界パルスの前縁を与える前に電界パルスの前縁を与えることを含んでよい。
【0012】
この素子は、強磁性層より高い飽和保持力を有しかつトンネル障壁層により分離される別の強磁性領域を更に含む。この方法は更に、電界パルスを与えると共に強磁性領域を通るスピン・トランスファ電流パルスを与えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。
【0013】
この方法は、スピン・トランスファ電流パルスの前縁を与える前に電界パルスの前縁を与えることを更に含む。強磁性領域は不均一なひずみ分布を有する強磁性半導体を含んでよく、またこの方法は十分な大きさの電界パルスを与えて電荷キャリヤの分布を不均一なひずみ分布に対して変えることを含む。
不均一なひずみ分布は圧縮ひずみの領域および引っ張りひずみの領域を含む。強磁性半導体は(Ga,Mn)Asを含んでよい。
【0014】
この方法は、
【数1】
で示すtprecessの四分の一の倍数である継続時間tを有する電界パルスを与えることを含んでよい。ただし、γは回転磁気定数で
BAは強磁性半導体の磁気異方性磁界である。この方法は、0nsと5nsの間の継続時間tを有するパルスを与えることを含んでよい。
【0015】
この方法は更に、電界パルスを与えることとは独立に磁界を強磁性領域に与えて強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切り換えるのを支援することを含む。
この方法は応力を強磁性領域に与え、応力を与えると共に電界パルスを与えることを含んでよい。
【0016】
本発明の第2の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法を提供する。この方法は、応力パルスを強磁性領域に与えることにより、磁化異方性の配向を変えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。したがって、磁界パルスを生成するための導線を有する素子より少ない電力で歳差運動または歳差運動支援の磁化切換えをトリガすることができる。
【0017】
この素子は強磁性領域に機械的に結合する圧電領域を含んでよく、また応力パルスを与えることは圧電領域全体に電圧パルスを与えることを含む。
この方法は、応力パルスを強磁性領域に与えると共に電界パルスを強磁性領域に与えることを含んでよい。
【0018】
本発明の第3の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、この方法に従って素子を動作させることができる回路とを含む装置を提供する。
【0019】
本発明の第4の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向との間に切換えることができる強磁性領域と、第1の電気入力に応じて応力を強磁性領域に与える手段と、第2の電気入力に応じて電界を強磁性領域に与える手段とを含む磁気抵抗素子を提供する。
応力を与える手段は強磁性領域に結合する圧電領域を含んでよく、また電界を与える手段は少なくとも1つのゲート電極を含んでよい。
【実施例】
【0020】
電界パルスで誘導する磁化の反転
図1は、本発明に係る磁気抵抗素子の強磁性素子1を示す。強磁性素子1は均一に分布した磁化を有すると仮定する。ただしこれは必ずしも必要ではない。
強磁性素子1は磁化容易軸2を定義する磁気異方性を示す。磁気異方性は、とりわけ、素子および/または結晶構造の形の結果として生じてよい。例えば、素子1は細長くてよく、磁化容易軸2は長さ軸に沿って整列してよい。
素子1の磁化3は磁化容易軸2に沿って整列する。
【0021】
外部磁界5を随意に与えて、歳差運動切換えを支援しまた配向に依存して磁化3の配向変更を安定させてよい。例えば、外部磁界5は強磁性素子(強磁性素子1はその1つ)の配列に全体的に与えてよい。外部磁界5を磁化困難軸に沿って固定することにより、歳差運動切換えを容易にして(すなわち支援して)よい(例えば永久磁石を用いて)。
図1に示すように、磁化容易軸2に沿う最初の磁化に逆平行に外部磁界5を整列させて、磁化3の配向変更を安定させる。しかし外部磁界5は磁化容易軸2に沿って整列させる必要はなく、磁化困難軸(図1に示す配置では磁化容易軸2に垂直に配置される)を含む他の角度に向いてよい。
外部磁界5は可変でよく、また導電トラック(図示せず)を通して電流を流して生成してよい。
【0022】
異方性磁界および随意の外部磁界5は有効磁界6を作る。すなわち、
【数2】
ただし、
は磁化3に作用する有効磁界6、
は異方性磁界、
は外部磁界5である(ベクトル表示)。
後で説明するが、電界パルス7を層の面に例えば垂直に与えて、強磁性素子1内の磁気異方性を一時的に変えて磁化3の歳差運動の配向変更をトリガしてよい。
【0023】
電界パルス7を与える前(言い換えるとt<0かつV=V0(例えばV0=0)のとき、ただし、tは時間、Vはゲート(図示せず)に与えるバイアス)は、磁化3
は有効磁界6の方向に向いている(ここでは正のx方向に平行とする)。或る実施の形態では、2個以上のゲート(図示せず)を用いてよい。
次に電界パルス7を与えると磁界異方性が変わり、したがって磁化3は回転して、変化した有効磁界の回りに歳差運動を始める。
【0024】
したがって、パルス7が始まると(すなわちt=0かつV=Vc)異方性磁界2が変わって有効磁界6が回転し、すなわち、
【数3】
となり、磁化3は有効磁界6の軸の回りに
減衰歳差運動を開始する。
磁化3が歳差運動を半分行うと電界7をオフにしてよく、磁化3は磁化容易軸2に沿って安定化し始める(逆平行に)。
したがって、パルス7が終わると(t=Δt180°かつV=Vc)、異方性磁界および有効磁界6は、図1の(c)に示すように負のx成分を持つ。
【0025】
パルス7が終わった後すぐに(t=Δt180°+δ(ただしδ>0)かつVG=V0のとき)、異方性磁界2は反転してその元の配向に(x方向に平行に)逆平行に整列し、すなわち、
【数4】
となり、磁化3は有効磁界6の軸の回りに
減衰歳差運動を続ける。
t>>Δt180°かつVG=V0のとき磁化3は平衡に達して、有効磁界(−x方向に平行、すなわち
に沿って整列する。
磁化の反転は、配向に依存する磁化3のエネルギーを考えれば理解することができる。例えばV0では、x軸に沿う磁化容易軸2はポテンシャル障壁で隔離された2つのエネルギー最小値に対応する。磁化3が磁化困難軸に沿って整列する場合は、障壁の高さはエネルギー増加に対応する。
【0026】
磁化の反転(すなわち180°の磁化の配向変更)を、トンネリング磁気抵抗(TMR)素子や、巨大磁気抵抗(GMR)素子や、切換え層と固定基準層との間の相対的配向が素子の抵抗を決定する他の同様のタイプの読取り素子に用いてよい。
ゲート電圧パルス7により元の磁化容易軸4から45°乃至90°回転する新しい磁化容易軸ができる場合は、支援磁化を用いずに磁化の反転を達成することができる。
【0027】
これは、高いキャリヤ密度のGa1−xMnxAs(例えばx>0.03のとき)で、例えば素子1内のひずみを引っ張りひずみのときの位置(磁気異方性は層の面に垂直に向いている)から圧縮ひずみのときの位置(磁気異方性は層の面内に向いている)まで空間的に変えることにより行うことができる。磁化容易軸の回転も、ひずんだ構成内のキャリヤ密度を変えることにより行うことができる。
低ドープのGa1−xMnxAs(x<0.02のとき)では、磁気異方性の変化は逆向きに起こってよい。例えば、素子が圧縮ひずみの位置では磁気異方性は面に垂直に向き、素子が引っ張りひずみの位置では磁化異方性は面内に向いてよい。
【0028】
系の特定の磁気異方性によっては完全な磁化の反転は必要ない。言い換えると、磁化の向きを180°変更する必要はない。例えば、磁化容易軸が、パルス長さが長い(例えば、歳差運動パルスの半分)とき角の回転が22.5°以下であり、パルス長さが短い(例えば、歳差運動パルスの四分の一)とき角の回転がより大きくて90°以下の場合は、立方磁化異方性を示す素子は90°の磁気配向変更を行うことができる。観察によると、これは〜0.01%程度の格子定数の変化により非常に小さなひずみの変動が起こるGa1−xMnxAsで起こることがある。この場合は、異方性磁気抵抗(AMR)や、トンネリング異方性磁気抵抗(TAMR)や、クーロン妨害異方性磁気抵抗(CBAMR)などの異方性磁気抵抗効果を用いて磁化配向を読み出すこともできる。
【0029】
(Ga,Mn)As素子における磁気結晶異方性の局所制御
図2の(a)および図2の(b)は、リソグラフィーで形成された溝9から起こるひずみ緩和を用いて、磁気結晶異方性を調整して制御する素子8を示す。磁気結晶異方性はスピン軌道結合により誘導される。素子8内のバルクGaMnAsとひずみ緩和の効果の両方の磁気異方性の特徴付けを助けるため、ファン・デル・ポー(Van der Pauw)素子10を素子8に近接してウェーハ11内に形成する。
素子8はチャネル11を有するホール・バー(Hall bar)の形である。チャネル11は平面図が「L」の形で、
方向に沿って直交して整列する第1および第2のアーム111,112を含む。アームは1μmの(横の)幅(w)と20μmの(縦の)長さ(l)を有する。
【0030】
特に図2の(c)を参照して、素子8は、GaAs基板14上に[001]結晶軸に沿って成長させた25nmの厚さを有するGa0.95Mn0.05Asエピタキシャル成長層13(すなわち、エピ層)を含む層構造12を有するウェーハ内に形成する。チャネル11は電子ビームリソグラフィーおよび反応イオンビーム・エッチングを用いて形成する。溝9は200nmの(横の)幅(W)および70nmの深さ(d)を有する。
【0031】
図3の(a)から図3の(d)は、素子8と同じ構成を有する別の素子(図示せず)および素子8の電気的特性を示す。別の素子(図示せず)と素子8とはホール・バーの寸法が異なる。別の素子(図示せず)では、アーム(図示せず)は幅4μm、長さ80μmである。図2の(a)および図2の(b)に示す素子8では、アーム111および112は幅1μm、長さ20μmである。
これらの素子8は面内磁気結晶異方性を示し、約50mTの飽和磁化Msを有する。これは形状異方性ではなくひずみ緩和の効果により起こる。例えば、素子8の形状異方性磁界は1mTより小さく、この大きさは磁化結晶異方性磁界より1ケタ小さい。したがって、磁化容易軸は形状異方性ではなく磁気結晶異方性により形成する。
【0032】
異常ホールでのアロット(Arrot)プロットを用いて100°Kのキュリー温度(Tc)を推定した。高磁界ホール測定値からホール密度は5x1020cm−3と推定した。このドーピングで、GaAs基板15上に成長させたGa0.95Mn0.05Asエピ層13内の圧縮ひずみは強い磁気結晶異方性を作る。これは磁化ベクトルを磁気エピ層13の面に平行に整列させる。
個々のマイクロバー素子8内の磁化配向は、面内回転磁界(図示せず)の異方性磁気抵抗(AMR)の縦および横の成分を測定することにより局所で監視する。
【0033】
図3の(a)および図3の(b)は飽和磁界での磁化回転プロットを示し、面内AMRが次の形に厳密に従うことを示す。すなわち、
ΔρL=Acos(2φ) (2a)
ΔρT=Asin(2φ) (2b)
ただし、ρLは縦の抵抗率、ρTは横の抵抗率、Aは定数(各ホール・バーのものだけでなく、ファン・デル・ポー素子10のものも)、φは磁化と電流の間の角である。
は全角の平均である。
【0034】
図3の(c)および図3の(d)は外部磁界スイープの磁気抵抗プロットを示す。
軸から測定した磁界角θは一定である。
図に示すように、磁気抵抗はθの値に強く依存する。これは磁化回転の結果である。高い磁界では磁気抵抗は純粋に等方性になる、すなわち、異なる角θの抵抗間の差は外部磁界の大きさに関係なくなる。この性質と、低い磁界の異方性磁気抵抗に比べて等方性磁気抵抗の大きさが非常に小さいことにより、図3の(a)および図3の(b)に示す高磁界測定値を用いて、低磁界抵抗の変化と磁化配向の変化との間の1対1対応を決定することができる。両方の抵抗成分を同時に測定する場合は、図3の(a)および図3の(b)に示す縦および横のAMRトレースの間の45°の移相を用いて磁化角の変化を決定することができる。
【0035】
固定θの磁気抵抗測定値を用いて、個々のマイクロバー内の局所の磁気異方性をまず決定してよい。磁化容易軸方向に対応するθの値では磁気抵抗は最小である。磁化容易軸方向に対応しないθの値では、磁化は低い磁界で(部分的に)連続的に回転して異なる配向になり、したがって、飽和および残留磁気で異なる測定抵抗になる。この方法を用いると、磁化容易軸方向を±1°以内で決定することができる。
【0036】
ひずみの空間的変動を導入することの磁気異方性への影響を図4の(a)および図4の(b)に示す。
バルク材料では、ファン・デル・ポー素子10(図2の(a))を用いて測定すると磁化角30°は磁化容易軸に対応するが、7°および55°はかなり磁化困難である。しかし図2の(a)に示す素子8では、7°は
バーで磁化容易軸であり、55°は[110]バーで磁化容易軸である。
【0037】
次の表1は、「A」で示す他の素子(図示せず)、「B」で示す素子8、およびバルク材料(すなわちファン・デル・ポー素子10)に見られる磁化容易軸のリストである。
【表1】
バルク材料は、下側の閃亜鉛鉱形構造から生じる立方異方性と、(Ga,Mn)Asエピ層13であることから生じる追加の一軸の
異方性とを有する。このため、2つの磁化容易軸は[100]および[010]立方縁から
の方に15±傾く。
マイクロ素子(すなわち、他の素子(図示せず)および素子8)では、磁化容易軸は、バルク材料内で占められている角からアーム111,112の方に内向きに回転する。アーム111,112の幅が減少するに従って回転の程度は増加する。
【0038】
磁化結晶異方性内の局所の変化は次のように理解してよい。
図2の(a)に戻って、GaAs基板15上に成長させたGa0.95Mn0.05Asエピ層13は(001)面内で圧縮してひずみ、このひずみパラメータの代表的な値は
【数5】
ただし、aGaAsおよびaGaMnAsはそれぞれ、立方晶系の完全に緩和されたGaAsおよび(Ga,Mn)Asの格子パラメータである。上の式(3)とaGaAsおよびaGaMnAsの値とを用いると、
である。
【0039】
バー11に沿う溝9内の(Ga,Mn)As材料を取り除くと、格子は横方向に緩和して、対応する伸びはほぼft/w〜0.01と推定することができる。ただし、tは(Ga,Mn)As薄膜の厚さ(この場合は25nm)、wはバー幅である。
量的なレベルでは、マイクロバー内の格子緩和の強さは現実的なサンプル形状の数値弾性理論シミュレーションを用いて得ることができる。弾性定数のGaAs値はGa0.95Mn0.05Asエピ層13を含む全ウェーハについて考慮する。
【0040】
図5は、素子11(図2a)の[1−10]バー112についての格子緩和の強さの数値シミュレーションを示す。
図5の(a)は、完全に緩和された立方GaAsの格子パラメータに関する成長方向[001]軸に沿うひずみ成分を示す。すなわち、
e[001]≡(a[001]−aGaAs)/aGaAs (4)
ひずみ成分はfと共に直線的に変わるので、e[001]/fをプロットすることができる。
図5は成長誘導の格子整合ひずみを示す。(Ga,Mn)As格子は面内圧縮なので、弾性媒体はaGaAsに比べて格子パラメータを成長方向に伸ばして反応する。すなわち、e[001]/f>1である。
【0041】
エピ層13の面内では、格子はマイクロバー配向に垂直な方向にだけ緩和することができる。再びGaAsに関して計算した対応するひずみ成分を、図5の(b)では素子11の全断面についてプロットし、図5の(c)および図5の(d)では[001]−[110]面を通る種々の断面についてプロットする。バーの中央では面内緩和は比較的弱い(すなわち、格子パラメータはGaAs基板15のものと同じ)が、バー11の縁の近くでは格子は強く緩和される。(Ga,Mn)Asバーの全断面について平均すると、相対的な面内格子緩和は数百分の一パーセント(すなわち、式ft/wによる推定と同程度)であることが分かる。後で説明する微細な磁気結晶エネルギー計算は、これらの外見上小さな格子ひずみが強くスピン軌道結合した(Ga,Mn)As内の観測された磁化容易軸回転を説明できることを確認する。
【0042】
磁化角に依存する全エネルギーの微細な計算は、GaAsホスト価電子帯の6帯k・p記述と、局所MnGad5モーメントへの結合の動的交換モデルとの組合せに基づいて行う。この理論は価電子帯のトップのスピン軌道結合現象(その分光組成および関係する対称性は、普通のGaAsホストの場合のようにAs部分格子のp軌道により支配される)の記述に適している。またk・pモデリングは(Ga,Mn)As帯構造上の格子ひずみの効果を説明する直接的な手段である。上の微細なシミュレーションの場合と同様に、(Ga,Mn)As内の弾性定数はGaAsの場合と同じ値を有すると仮定する。調整可能な自由パラメータを用いないこの理論は、圧縮ひずみおよび引っ張りひずみの下に成長させた同様の(Ga,Mn)Asエピ層内の面内と面外の容易磁化配向の間の観測された移行を説明し、また対応するAMR効果の符号および大きさを矛盾なく説明する。
【0043】
マイクロバーの磁化結晶エネルギーのモデル化のために、(Ga,Mn)As層内では微細なシミュレーションで得られるe[001]の平均値に対応する均一なひずみを仮定してよい。微細な計算の入力パラメータは、次式
【数6】
で与えられる[100]−[010]−[001](x−y−z)座標系内の完全に緩和された立方(Ga,Mn)As格子に関係するひずみ成分である。ただし、±は
バーおよび[110]バーにそれぞれ対応する。
【0044】
図6の(a)は他の「L」形素子15および「L」形素子8の
バーおよび[110]バー内の磁化容易軸の配向を示す。矢印16はパターン化誘導の格子緩和の方向および強さを示す。
図6の(b)は、計算された磁化結晶エネルギーを、f=0.3と、ゼロ(面内格子緩和なし)から
バー(exy>0)および[110]バー(exy<0)についての予想される代表的な値までの範囲のexyとについて、面内磁化角の関数としてプロットしたものである。詳しく述べると、[110]軸に沿う格子延長に対応するexy=0.004,...,0.02%と
軸に沿う格子延長に対応するexy=−0.004,...,−0.02%とについて、ゼロせん断ひずみ(黒線)の面内磁化角の関数としてエネルギーをプロットする。磁化容易軸はexy=0と、0.02%と、−0.02%にある。微細な磁化結晶エネルギー・プロフィールの
対称性を破る格子変形を、[110]バー(下部のダイアモンド)では[110]軸に沿って伸びる、また[110]バー(右側のダイアモンド)では[110]軸に沿って伸びる、ダイアモンド状のユニット・セルにより示す。
【0045】
実験と一致して、exy=0のときの[100]および[010]での最小値は、[110]方向に沿う格子伸張(exy>0)では
方向に向かって動き、また
方向に沿う格子伸張(exy<0)では[110]方向に向かって動く。2つのバー内の実験的な磁化容易軸回転の間の非対称性はバルク材料内にすでに存在する[110]一軸成分(その微細な起源は分からない)のためであるが、固有の(微小パターン化により誘導されたものでない)ひずみebulkxy〜+0.01%によりモデル化することができる。
【0046】
上に述べた素子は、圧縮ひずみの下で成長させた面内磁化異方性を持つGaMnAsからのストライプの微小パターン化により誘導される相互ひずみ緩和を用いる。他方で、垂直磁化異方性を持つ引っ張りひずみのGaMnAsからパターン化されるワイヤはその格子定数を小さくすることにより緩和する。この場合は、微小パターン化すると引っ張りひずみのGaMnAsバルク層に比べて垂直磁化異方性は弱くなる。
【0047】
また強磁性材料の磁化結晶異方性は局所ひずみに敏感に依存する。平衡格子にひずみがあれば局所異方性が変わる。極薄膜では、ひずみは表面上の成長により誘導される。したがって、GaMnAsと同様に、GaAs[001]基板上にエピタキシャル成長させたコバルト(Co)または鉄(Fe)の極薄層は、バルクの立方磁気異方性と、界面からの一軸の寄与を示す。
【0048】
電荷キャリヤ密度の変動による磁気異方性
図7は、第1のキャリヤ密度p=8x1020cm−3と第2のキャリヤ密度p=6x1020cm−3について、e0=−0.2%の圧縮ひずみとexy=−0.02%の
に沿う格子変形(伸張)の下でGaAs[001]上に成長させた横に歪んだGa0.96Mn0.04Asの磁気結晶エネルギー・プロフィールを示す。第1および第2の矢印17,18は第1および第2のキャリヤ密度についての磁化容易軸の配向をそれぞれ示す。
【0049】
図7に示すように、キャリヤ密度が変化すると、歪んだGaMnAs内の磁化異方性が変動することがある。スクリーニング長さが短いために高ドープ(〜1020−1021cm−3)のバルク半導体内でのキャリヤ密度を変えるのは困難であるが、十分に(電気的に)絶縁されたナノ構造内ではかなりのキャリヤ密度の変更が実現される。
上に図6の(b)で示したのと同様な理論的計算によると、磁化異方性はキャリヤ密度に敏感に依存する。図7に示すように、キャリヤ濃度が〜25%減少すると、磁化容易軸は
の結晶配向まで約90°変わる。
【0050】
電界誘導による磁化異方性の変動を実現する本発明の別の実施の形態について以下に説明する。これらは、歪んだ強磁性半導体内の電荷キャリヤ密度を変えることと、不均一に歪んだ強磁性半導体系内の最大キャリヤ濃度の中心をシフトすることと、強磁性層に圧電層を付加することにより、または例えばGaMnAs(従来のようにドープされたGaAsと同様の圧電特性を有する)内で可能なように強磁性材料自身の圧電特性を利用することにより、強磁性層内のひずみを変えることを含む。
【0051】
更なる磁気抵抗素子
本発明に係る磁気抵抗素子の更なる実施の形態について以下に説明する。
まず、電界パルスを与えると強磁性領域内の電荷キャリヤ密度が変わり、これにより磁化異方性が変わり、これにより磁化が歳差運動を開始する磁化抵抗素子を説明する。
図8の(a)および図8の(b)は第1および第2の磁気抵抗素子211,212を示す。第2の素子212は第1の素子211の変形である。
各素子211,212はひずみの下にある強磁性領域22(ここでは強磁性「島」とも呼ぶ)を含む。これらの例では、強磁性領域22は(Ga,Mn)Asなどの強磁性半導体を含む。しかし、異なる強磁性半導体を用いてよい。
【0052】
強磁性領域22の磁化の配向は、強磁性領域22に容量的に結合するゲート23を用いて短い電界パルスを与えることにより変えることが、または変えるのを助けることができる。電界パルスを与えると強磁性領域22内の電荷キャリヤ密度が変わり、これにより磁化異方性が変わり、これにより磁化は歳差運動を開始する。強磁性領域22は十分小さくて、所定の動作温度(4.2°Kなど)で充電効果を示してよい。例えば、強磁性領域22は1nmまたは10nm程度の寸法(層の厚さおよび横の直径)を有してよい。しかし、強磁性領域22はより大きくてよい(例えば、100nm、1μm、またはそれ以上の程度の寸法)。
【0053】
強磁性領域22は第1および第2のリード24,25の間に配置され、それぞれのトンネル障壁26,27によりリード24,25に弱く結合する。或る実施の形態では、1つ以上の強磁性材料の島があってよい(例えば鎖状に配置された)。
磁化の配向変更は電圧パルス29をゲート23に与えるパルス発生器28を用いてトリガする。
【0054】
配向の方向は種々の方法で測定してよい。
例えば第1の素子211では、電圧源30および電流検出器31を用いてトンネリング異方性磁気抵抗(TAMR)を測定することにより磁化の配向を決定してよい。第1および/または第2のリード24,25が強磁性の場合は、電圧源30および電流検出器31を用いてトンネリング磁気抵抗(TMR)を測定することにより磁化の配向を決定してよい。いずれの場合も、測定は電圧を与えて電流を流して、電流を測定することを含む。
第2の素子212では、電圧源30および電流検出器31を用いてTMRを測定することにより磁化の配向を決定してよい。しかし、第1のリード24と第3のリード32(強磁性島22からトンネル障壁34で分離されるピン強磁性領域33に接続する)との間にバイアスを与えて、その電流を測定する。認識されるように、異なる測定構成を用いてよい。
【0055】
図9は第1の素子211を更に詳細に示す。
第1の素子211は細長い導電チャネル36を有し、ゲート23はチャネル36の側面に配置する(すなわち、側面ゲート構成)。チャネル36および側面ゲート23は(Ga,Mn)Asのパターン化層37内に溝絶縁により形成する。AlAsの層38はチャネル36および側面ゲート23をGaAs基板39から電気的に絶縁する。チャネル36は広い部分の間に形成したくびれ40を含む。広い部分はくびれ40へのリード24,25を形成する。
【0056】
(Ga,Mn)As層37は2%のMnを含み(すなわち、Ga0.98Mn0.02As)、5nmの厚さを有する。ただし、表面酸化のために有効厚さは約3nmであろう。くびれ40は幅30nm、長さ30nmである。チャネル36は幅2μmである。チャネル36とゲート23は約30nm離す。
くびれ40の領域では、不規則から生じるポテンシャル変動により少なくとも1つの導電島22および少なくとも1対のトンネル障壁26,27が生成されて、島22とリード24,25および/または隣接する島22とを弱く結合する。
【0057】
図10の(a)から図10の(c)を参照して第1の素子221の特性を説明する。
図10の(a)は、ゲート電圧および面内の電流に平行な磁界に対するチャネル・コンダクタンスのグレースケール・プロットである。点線41はゲート・バイアスに依存する臨界配向変更磁界(critical reorientation field)BCをハイライトする。臨界配向変更磁界BCは、VG=−1Vでの約40mTからVG=+1Vでの約20mT以下まで減少する。
【0058】
島22が円板形と仮定すると、実験的に得られた電荷エネルギーの値を用いて、有効円板直径は約10nmと推定できる。したがって、島22には約40マンガン・アクセプタが存在する。キャリヤ密度の約40%の減少に対応してVGが−1Vから+1Vまで変化する場合は、約16クーロン振動が観測される。臨界配向変更磁界BCは、VG=−1Vでの約50mTからVG=+1Vでの約20mT以下まで減少する。
【0059】
図10の(b)は、島22が或る磁化M0に留まるB0=0と、島22が飽和磁化M1に留まるB0=−100mTでの、VG=−1VとVG=+1Vの間のゲート電圧範囲のクーロン・ブロッケイド振動(Coulomb blockade oscillations)のプロットである。中間の磁界B0=−35mTでのコンダクタンスの測定値は、約−0.5Vの限界ゲート電圧でM0からM1に移行することを示す。
【0060】
図10の(c)は、VG=−1VとVG=+1Vの間のゲート・バイアスVGに対する臨界配向変更磁界BCの依存性を示すプロットである。これは、振幅VG≧2.5Vのゲート電圧パルスはB0=0で磁化の切換えをトリガできることを示す。認識されるように、異なる素子構造および/または材料を用いた場合でも同様のプロットが得られ、これを用いて、磁化の切換えをトリガするのに必要なバイアスを見つけることができる。
【0061】
図11の(a)および図11の(b)に示すように、第2の素子212は第1の素子211の変形である。
素子212を形成するには、GaAs基板39上にAlAs38’の層を成長させ、次に(Ga,Mn)Asの層(図示せず)を成長させ、(Ga,Mn)Asをパターン化して固着層32と第3の電極33とを1つの片として含む下側の電極構造42を形成し、次にパターン化した基板の上に別のAlAsの層43および別の(Ga,Mn)Asの層を成長させ、別の(Ga,Mn)Asの層をパターン化してチャネル37’およびゲート23を形成する。
【0062】
下側の電極構造の代わりに上側の電極構造を用いてもよい。例えば、電極を形成するAlAs層および(Ga,Mn)As層は、チャネルおよびゲートを形成した後に成長させて、パターン化して固着層および第3の電極を含む電極を形成してよい。または、SixNyなどの薄いゲート誘電体およびCoなどの強磁性材料を堆積させて、リフトオフまたはドライ・エッチングを用いてパターン化してよい。
【0063】
図12は第1および第2の素子211、212の書込みおよび読取りサイクルを示す。
後でより詳細に示すが、素子211、212は4つの状態M1,M2,M3,M4を示すことができる。しかし、素子211、212はより少ない状態(例えば、逆平行の2つの状態)またはより多くの状態(例えば、面内の二軸異方性および垂直の一軸異方性を利用した6つの状態)を示すことができる。更に、素子211、212が例えば4つの状態M1,M2,M3,M4を示すことができる場合でも、例えばソースおよび/またはドレン領域が強磁性であるかどうかに従って、全ての状態を区別できることもあるし、またはいくつかの状態を区別ができないこともある。
【0064】
以下に、2つのタイプの書込みパルスを説明する。書込みパルスにより、強磁性島22の磁化44は、1つのタイプのパルス(いわゆる「t180」パルス)では2つの状態の間に切り換わり、別のタイプのパルス(いわゆる「t90」パルスでは4つの状態の中の2つの「隣接」状態の間に切り換わる。
図12に示す磁化44のプロットは磁化のエネルギーを表すのではなく、単に異なる状態を表すことに注意していただきたい。或る実施の形態では、これらは角依存性0°,90°,180°,270°を表してよい。
以下に、いわゆる「トグル」切換えを説明する。「t180」パルス29を繰返し与えると磁化44は2つの状態(例えば、「0」を表すM1と「1」を表すM3)の間に「切り換わる(toggle)」。しかし「t90」パルス29を繰り返し与えると磁化45は1つの状態から隣の状態に漸進的に「回転する」。
【0065】
例えば、「0」状態と「1」状態との間にまたはその逆に切り換えて素子211、212にデータを書き込むには、電圧パルス29をゲート23に与える。
パルス29は歳差運動の周期tprecessの半分の継続時間t180を有する。歳差運動の周期tprecessは次式で与えられる。
【数7】
ただし、γは回転磁気定数
BAは磁気異方性磁界であって、例えばサンプル、グレーン、ドメイン壁、または他のタイプの障壁での磁化内の発散により作られる消磁磁界を含んでよく、異方性を生じる。この例では、tprecessは約1nsである。tprecessの値は一般に100psから10nsの範囲内にあってよい(Baが100mTから1mTの場合)。
電圧パルスの大きさ|VG|は1Vから10V程度である。
【0066】
前に説明したように、外部磁界を与えて磁化の安定化を助けまたは歳差運動を促進してよい。外部磁界は永久磁石(図示せず)でまたは導電トラック(図示せず)で与えてよく、その大きさは好ましくは異方性磁界と同程度かまたはより小さい(例えば、1mTから100mT程度)。
或る実施の形態では、外部磁界および/またはスピン・トランスファ・トルク電流を用いて磁化44を特定の方向に向けることにより、特定の状態を書き込んでよい(状態間を切り換えるのとは異なり)。ここでは、これを「直接書込み」と呼ぶ。
【0067】
磁気抵抗素子が、絶縁層により分離されたピン強磁性層および自由強磁性層を有する実施の形態では、電界パルスを与えると同時にまたは少し後に、スピン・トランスファ・トルク(STT)電流パルスを与えることにより磁化の配向変更を行ってよい。「少し後に」とは、電界パルスを与えた後に磁化がまだ歳差運動を行っていてまだ減衰していない時間内を意味する。一般にこの時間は0nsと5nsの間である。
素子211、212からデータを読み取るには、素子211、212のソース24とドレン25の間にバイアス・パルス45を与えて、電流31(i)を測定する。電流の大きさは素子のトンネリング異方性磁気抵抗(TAMR)および/またはトンネリング磁気抵抗(TMR)に依存し、これはまた「0」および「1」の状態を表す強磁性領域22の磁化の配向44に依存する。
【0068】
前に説明したように、3つ以上の状態の配向は、AMR、TAMR、CBAMRなどの異方性磁気抵抗効果を測定することにより、またはリード32と基準(例えば、接地)との間の横のホール電圧(面に垂直な磁化容易軸に沿う状態に対する異常ホール効果から生じる)を測定することにより、決定することができる。
【0069】
図13の(a)、図13の(b)、および図13の(c)を参照して、第1の素子211の製作について以下に説明する。
図13の(a)を参照すると、素子211は、低温分子ビーム・エピタキシ(LT−MBE)によりGaAs基板39上のAlAs38”バッファ層上の[001]結晶軸に沿って成長させた極薄(5nm)のGa0.98Mn0.02Asエピ層37”から製作する。これについては、R.P.Campion,K.W.Edmonds,L.X,Zhao,K.Y.Wang,C.T.Foxon,B.L.Gallagher,C.R.Staddonの「砒素ダイマーと共に成長させた高品質GaMnAs薄膜(High−quality GaMnAs films grown with arsenic dimers)」、Journal of Crystal Growth,volume247,p43(2003)を参照していただきたい。
【0070】
GaMnAsは光学リソグラフィーに用いるアルカリ現像液に対して強く反応するので、ホール・バー14は、25℃でメチル・イソブチル・ケトン/イソプロパノールの1:3混合内で超音波を用いて現像したポリ・メチル・メタクリ酸メチル(PMMA)レジストを用いて、電子ビームリソグラフィーを用いて形成する。
20nmと60nmの厚さをそれぞれ有する熱蒸発させた高電子コントラストCr/Auレジストレーション・マーク(図示せず)を、1μm厚さのレジスト(図示せず)および〜250nmの電子ビーム直径を用いたリフトオフによりパターン化する。蒸発の前に10%HCl溶液内に30sディップして、GaMnAsを過度に損なわずに金属の接着を助ける。
【0071】
〜200nm厚さのレジスト層(図示せず)をGa0.98Mn0.02Asエピ層37の表面Sに与える。最も微細な部分は、〜15nmのビーム直径と〜5pAの電流を有する電子ビーム(図示せず)を用いて、近接したレジストレーション・マークでオンチップ集束により形成する。重要度の低い領域(図示せず)は〜250nmビームにより〜1nAで同じレジスト内に形成する。高分解能領域はできるだけ小さくなるように配置して、書込み時間およびパターン・ドリフトを最小にする。
図13の(b)では、レジストを現像して、パターン化したレジスト層Mをエッチ・マークとして残す。
【0072】
図13の(c)では、反応イオン・エッチング(RIE)を溝の絶縁に用いる。RIEによる導電率の低下があっても、GaMnAsの高い導電率と比べると非常に小さいと予想される。RIE室(図示せず)内の圧力は20mTorrであり、SiCl4およびArの流れは20sccmで、GaAsおよびマンガンを除去するのに適した必要な物理的および化学的エッチングの混合が得られる。100Wで10−15sの一般的なエッチを行うと、20−30nmの深さを有しかつGaMnAs層を安全に通る溝Tが得られる。
【0073】
Cr/Au(20nm/300nm)結合パッドを熱蒸発させる。再び、その前にHCl溶液内で接着ディップを行う。結合パッドはGaMnAs層への低抵抗の電気接触子を形成するので別個の抵抗金属皮膜は必要ない。
この例では、素子は[110]方向に沿って整列したホール・バー・レイアウトに配置され、くびれのどちらかの側に、2μm幅のチャネルと、500nm幅で10μm間隔の3対のホール・センサ端子とを有する。しかし、他の配列を用いてもよい。
【0074】
第2の素子212を作るには上に説明した製作プロセスを変更する。
より厚いGaMnAs層(例えば、厚さ25nm)を有する異なる最初の層構造を用いる。電子ビームリソグラフィーおよびRIEを用いて層構造をパターン化して、下側の電極構造42(図11の(a))を形成する。次に、上に述べたLT−MBEにより、別のAlAs層(3nmの厚さを有する)およびGaMnAsの層を成長させる。この構造をパターン化して第1の素子211と同様の方法でチャネルを形成する。
下側の電極構造42(図11の(a))のパターン化とAlAs層およびGaMnAs層の成長の間の汚染を最小にするためのいくつかの方法を用いてよい。例えば、最初の層構造を成長させた直後にイオン・ビーム・ミリングを用いて下側の電極構造42(図11の(a))をパターン化し、次に真空を破らずに追加の層を成長させてよい。
【0075】
図8の(c)は第3の磁気抵抗素子213を示す。
第3の素子213は第1および第2のリード24,25の間に配置された強磁性領域22を有する2端子素子で、トンネル障壁26により一方のリード24に、また半導体強磁性領域22およびリード25により形成される空乏領域が作る調整可能な障壁35により他方のリード25に、弱く結合する。
この例では、強磁性領域22はp型半導体(例えば、Ga(Mn,As))で構成しまたリード25はn型半導体(例えば、SiをドープしたGaAs)で構成するので、調整可能な障壁35は逆バイアスのp−n接合である。しかし、リードは金属でよいので、調整可能な障壁35はショットキー障壁でよい。
【0076】
図14の(a)および図14の(b)は第3の素子213を更に詳細に示す。
素子213は基板48から直立した柱47を含む。柱47は、1−10x1018cm−3程度の濃度にドープしかつ(エッチングしていない)200nmの厚さを有するGaAsの層25と、約5nmの厚さを有するp型Ga0.98Mn0.02Asの層22と、25nmの厚さを有するAlAsの層26と、約10nmの厚さを有するAuの層とを含む。
素子はGaAs基板(図示せず)上に成長させた層構造(図示せず)から製作し、順に、200nmの厚さのn型GaAs(図示せず)の層と、5nmの厚さのGa0.98Mn0.02Asの層と、25nmの厚さのAlAsの層とで構成する。Ga0.98Mn0.02Asは低温分子ビーム・エピタキシ(LT−MBE)により成長させる。
【0077】
電子ビームリソグラフィーおよび熱蒸発を用いて、10nm程度の厚さを有する金(Au)のパッドを層構造(図示せず)の表面上に形成し、またSiCl4/ArのRIEを用いて柱47を形成する。
柱47の頂部に接触させるため、例えばポリイミドを用いて柱を平らにし、金の接触パッドを堆積させてよい。
基板に接触させるには非磁気抵抗接触子を用いる。
【0078】
図15は第3の素子213の書込みおよび読取りサイクルを示す。
前に述べた第1および第2の素子211、212と同様に、第3の素子213は4つの状態M1,M2,M3,M4を示すことができる。
第3の素子213が異なる点は、書込みパルスか読取りパルスかは電圧パルス29の極性が決定することである。
【0079】
データを素子213に書き込むには、固定のトンネル障壁に隣接するリード24に他方のリード25に対して負の電圧パルス29を与えてp−n接合35のバイアスを反転させ、空乏領域の幅を拡げて空乏を増やして強磁性領域22内のキャリヤ密度またはキャリヤ密度分布を変えることにより、歳差運動を起こす。前に説明したように、パルスの継続時間を用いて、言い換えるとt90およびt180パルスを用いて、2つの状態の間にまたは3つ以上の状態の間に切り替えることができる。
データを読み取るには、固定のトンネル障壁に隣接するリード24に他方のリード25に対して正の電圧パルス29を与えて、磁化配向に依存する電流46(i)を測定する。
【0080】
図16の(a)、図16の(b)、図16の(c)を参照して磁気抵抗素子51を説明する。この場合は、電界パルスを与えることにより、不均一に歪んだ強磁性半導体内の最大キャリヤ濃度をシフトさせ、これにより磁化異方性を変えて磁化の歳差運動を開始させる。
素子51は、一般に細長くて約1μmの幅(w)と約20μmの長さ(l)とを有するホール・バー52を含む。ホール・バー52は第1および第2の端末リード53,54と、バー52の対抗する側に対に配置された第1、第2、第3、第4の側面リード55,56,57,58とを有する。ホール・バー52は下側および上側の電極59,60(以後それぞれ、「下部」および「上部」電極と呼ぶ)の間に挟まれる。
【0081】
図に示すように、パルス発生器61を用いて上部および下部電極59,60の間に電圧パルス62を与える。電流源63を用いて、第1および第2の端末リード53,54の間のホール・バーを通して読取り電流(iread)を与える。第1および第2の電圧計64,65は第1および第2のリード55,56の間と第2および第4の側面リード56,58の間のバイアスを測定して、縦および横の異方性磁気抵抗(AMR)をそれぞれ決定する。また第2および第3の側面リード56,57の間で測定したバイアスを用いて、異常ホール効果(AHE)抵抗を測定することができる。
AMR測定値を用いて、VG=V0(例えば、V0=0)で二軸の面内異方性を示す強磁性層内で磁化の回転が180°より小さい(例えば、90°)ときの2つの状態の間を区別することができる。
AHE測定値を用いて、VG=V0で垂直異方性を持つ系内の上と下の状態の間を区別することができる。
【0082】
特に図16の(b)および図16の(c)では、下部電極59として働くインジウム・ガリウム砒素(In0.05Ga0.95As)基板66上にホール・バー52を形成する。ホール・バー52は、InGaAs基板66の上側のAlAsで形成するベース障壁層67と、段階的(graded)InGaMnAsで形成する不均一に歪んだ強磁性層68と、AlAsで形成する頂部障壁層69とを含む。頂部ゲート電極60はAlで形成する。
【0083】
強磁性層68内の格子定数を制御して変えて、層68内に不均一なひずみを作る。In0.03Ga0.97Asの格子定数はGa0.95Mn0.05Asの格子定数より大きいのでIn0.03Ga0.97As上に成長させた次のGa0.95Mn0.05Asは引っ張りひずみを有する。更に、インジウムを再び導入してInGaMnAsを形成する。InGaMnAsの格子定数がInGaAs基板の格子定数より大きくなるまでインジウム濃度を上げて圧縮ひずみを得る。
素子51は、インジウム・ガリウム砒素(InyGa1−yAs)基板66’(y=5%)と、〜20nmの厚さを有するアルミニウム砒素(AlAs)の層67’と、インジウム・ガリウム・マンガン砒素(InzGa1−x−zMnxAs)68’ の段階層(これはGaMnAs681’のベース層を含み、〜10nmの厚さを有する)とを含むウェーハ70から製作する。
【0084】
図17では、引っ張りひずみを与えながらGa1−xMnxAsの層681’をAlAs層67’の上にエピタキシャル成長させ、層67’をInyGa1−yAs基板66’上に成長させる。この例では、マンガンの濃度は5%(すなわち、x=0.05)であり、インジウムの濃度はz=0から10%まで増加する。
InyGa1−yAs基板66’の一層広い格子定数をGa1−xMnxAs層681’に移す(transmit)と引っ張りひずみを導入する。InzGa1−x−zMnxAs68’を更に成長させる間にインジウムを導入して格子定数を更に大きくして、4元素合金InGaMnAsを形成する。層681のベース71からの距離(d)が大きくなるとインジウム濃度[In]は増加する。
【0085】
異なるひずみプロフィールを用いてよい。例えば、強磁性層68内のひずみが、基板に一層近いところで引っ張りひずみになり基板から一層遠いところで圧縮ひずみに変わるのではなく、圧縮から引っ張りに変わってよい。これは、InyGa1−yAs基板ではなくガリウム砒素(GaAs)基板を有するウェーハから製作し、インジウム(In)ではなく燐(P)を導入してガリウム・マンガン燐砒素(Ga1−yMnxPzAs1−z)の段階層を形成することにより得られる。燐濃度が高くなるに従って格子定数は小さくなる。
【0086】
図18では、強磁性層68の形を変えることによりひずみも変えることができる。例えば、強磁性層68の幅は、層68のベース71では狭くし(幅w1を有する)、ベース71から離れたところでは広く(幅w2>w1を有する)してよい。したがって、層68の一層厚い上部より層68の一層薄い下部の方が、格子はより緩和される。強磁性層68は均一にドープしてよい。
【0087】
図19の(a)および図19の(b)では、2つのゲート59,60の間にゲート・パルス62を与えると電界72を生成して電荷キャリヤ(ここでは多数キャリヤである正孔だけを示す)をシフトして、下側の引っ張りひずみ領域74内および上側の圧縮ひずみ領域75内の電荷キャリヤ濃度を変える。詳しく述べると、パルスはキャリヤ73を下側の引っ張りひずみ領域74から上側の圧縮ひずみ領域75に引っ張って、上側の圧縮ひずみ領域75内の電荷キャリヤ濃度を上げる。
【0088】
下の表2ではひずみおよびキャリヤ濃度で磁気異方性の配向を識別する。
【表2】
磁気層68の磁気異方性76は、層68の面に垂直な(すなわち、軸78に沿う)第1の位置771の向きから層68の面に沿う(すなわち、軸79に沿う)第2の位置772の向きに変わる。したがって有効異方性磁界BAは90°回転する。これにより磁化80は歳差運動を開始し、π/2パルスで配向を90°変える。
【0089】
後でより詳細に説明するが、別の同一のパルス62を与えると、有効異方性磁界BAは再び90°回転するので磁化は更に90°の歳差運動を続ける。したがって、有効異方性磁界BAは再び面外軸77に沿う向きになるが、磁化は第1の配向771に対して逆平行の第3の配向773になる。それにもかかわらず、第1および第3の状態(すなわち、磁化80がこれらの第1および第3の配向771、773に整列する)の磁気抵抗は同じである。これは、前に説明したように、同一線上になければ、AMR測定値は最初と最後の磁化の状態を区別することができるからである。AHE測定値は面に垂直な2つの逆の磁化配向を区別することができる。TMR測定値は固定の基準層に関して平行および逆平行の配向を区別することができる。
【0090】
書込みおよび読取りサイクルは前に述べた図12に示すものと同様である。しかし、読取りサイクルでは、ソース・ドレン・バイアスを与えて電流を測定するのではなく、素子を通して電流を流して、リード55,56,57,58の間に生じる電位差を測定する。
素子51は、第1の素子211を製作するための前に説明したのと同様の方法を用いて製作する。例えば、前に説明したのと同様の方法で層構造を成長させ、電子ビームリソグラフィーおよびRIEを用いてパターン化する。
【0091】
図20の(a)および図20の(b)を参照して第4の磁気抵抗素子81について以下に説明する。これは、ひずみパルスを与えると磁気異方性が変わって磁化の歳差運動を開始する。
素子81は、第1および第2の接触リード84,85を有する圧電層83上に取り付けた積層構造82を含む。層構造82に電気的に接触させるために第1および第2の接点86,87を用いる。
積層構造82は約1μmの幅(W)と約1μmの長さ(L)とを有する。
図に示すように、パルス発生器88を用いて圧電接触リード84,85の間に電圧パルス89を与える。電圧源90を用いて接点86,87の間にバイアスを与え、また電流計91を用いて積層構造82を通って流れる電流を測定する。
【0092】
特に図20の(b)を参照すると、圧電ストレッサ83に接着剤93で取り付けたガリウム砒素(GaAs)基板92の上に積重ね層構造82を形成する。圧電ストレッサは鉛・ジルコン酸塩・チタン酸塩(PZT)から形成する。積層構造82は、(非強磁性)n+−GaAsを含む底部接触層94と、Ga0.98Mn0.02Asを含みかつ5nmの厚さを有する比較的低い飽和保磁力を有する強磁性層(すなわち、「自由」層)95と、25nmの厚さを有するアルミニウム砒素(AlAs)を含むトンネル障壁層96と、50nmの厚さを有するGa0.98Mn0.02Asを含む比較的高い飽和保磁力を有する強磁性層(すなわち、「固着」層)97と、(非強磁性)金を含む頂部接触層98とを含む。
【0093】
他の配列および他の材料を用いてよい。例えば、圧電ストレッサ83は基板92と一体的に形成してよい。例えばGaAaは[110]軸に沿う圧電層でよい。
認識されるように、第4の素子81の強磁性層は半導体である必要はなくて金属でよく、またFe,Ni,Coなどの強磁性金属、または金属合金FePt,CoPt,CoPd、または他の適当な遷移金属/貴金属合金を含んでよい。
書込みおよび読取りサイクルは前に述べた図12に示したものと同様である。
積重ね層構造を用いる必要はない。代わりに、「面内」移送(transport)構造(例えば、図9に示したものと同様な)を用いてよい。例えば、図9に示す構造を圧電ストレッサ83上に取り付けてよい。
【0094】
図21の(a)および図21の(b)を参照して第5の磁気抵抗素子101について以下に説明する。これは、電気パルスと共にひずみを与えると磁気異方性が変わって磁化の歳差運動を開始する。
素子101は強磁性材料のチャネル103を形成する十字形メサ102を含む。これは、この場合はGaAsの層104内に埋め込まれたGa0.98Mn0.02Asのデルタ・ドープ層であって基板105で支持される。第1、第2、第3、第4の接点106,107,108,109はチャネル103の遠端の接点で、表面頂部ゲート110を用いて磁気異方性を制御する。基板105は第1および第2の接点112,113を有する圧電層111上に取り付ける。これらの接点は、強磁性チャネル103に事前応力を与えるために圧電層111内に電界を生成するのに用いる。
チャネル103の各アームは約2μmの幅と約20μmの長さを有する。
【0095】
図に示すように、第1のパルス発生器114を用いて、圧電接触リード112,113の間に電圧パルス115を与えてチャネル103に事前応力を与える。第2のパルス発生器116を用いて、電圧パルス117を表面ゲート110に与えて磁気異方性の歳差運動を起こす。
電圧源118を用いて第1および第2の接点106,107の間にバイアス119を与え、電流計120を用いて第3および第4の接点108,109の間を流れる電流121を測定する。
特に図21bでは、基板105を接着剤層122により圧電層111に取り付ける。
【0096】
書込みおよび読取りサイクルは前に述べた図12に示すものと同様である。しかし図22に示すように、電圧パルス115はt180またはt90パルスの間与える。
これまで説明した実施の形態では、素子へのデータの書込みおよび読取りは2つの状態だけを有するかのように素子を処理することに基づき、素子毎に1ビットの情報だけを記憶する。しかし二軸の面内異方性および一軸の面に垂直な異方性を利用することにより、パルスおよび反転パルスという2つのタイプの組合せを用いて、6つの残存磁気配向にアクセスして、3ビット以上(すなわち、6つの異なる状態に対応する
を符号化することができる。
【0097】
図23では、強磁性層22,68,95,103は6つの残存磁化配向131,132,133,134,135,136を示す。
強磁性層22,68,95,103は2つの領域で動作することができる。すなわち、ゼロdcバイアス・オフセット(すなわち、VG=V0)に関して2つのタイプのパルスを与える二軸の面内異方性領域と、反転バイアス・パルスを与える(すなわち、非ゼロdcバイアス・オフセット(すなわち、VG=Vc)に関してバイアス・パルスを与える)垂直異方性領域とである。
VG=V0では、異なるパルス長さを持つ高速ゲート電圧パルスによりトリガされる歳差運動切換えは、層面内の2つの二軸の磁化容易軸に沿う4つの残存状態131,132,133,134の間に磁化ベクトルを回転させる。
【0098】
図24を参照すると、或る意味で、隣接する磁化配向131,132,133,134に、90°回転させるゲート・パルス29,62,91を用いて別の第1、第2、第3、第4の磁化配向131,132,133,134からアクセスすることができる。このタイプのパルスをここでは「p90°パルス」または「t90パルス」と呼ぶ。
逆の意味で、隣接する磁化配向131,132,133,134に、270°回転させるゲート・パルス(図示せず)を用いて別の第1、第2、第3、第4の磁化配向131,132,133,134からアクセスすることができる。
【0099】
また第1、第2、第3、第4の磁化配向131,132,133,134に、180°回転させるゲート・パルス138(以後「p180°パルス」または「t180パルス」と呼ぶ)を用いて同一線上の配向131,132,133,134からアクセスすることができる。したがって、第1の磁化配向131はp180°パルス138を用いて第3の磁化配向133からアクセスすることができる。
二軸の面内異方性領域と一軸の面に垂直な異方性領域の間の変更は、散逸減衰を利用する「断熱」磁化配向変更により行うことができる。例えば、ゲート・バイアスがV0からVCに変わった後で、磁化ベクトルMは変更された異方性磁界BA(VC)の回りで歳差運動を始め、散逸減衰により磁化ベクトルは変更された異方性磁界BA(VC)に向けてらせん形を描く。最終的に、磁化ベクトルMは変更された異方性に対応する磁化容易軸の1つに沿って整列する(熱変動内で)。
【0100】
領域変更はゲート・バイアス・ステップ変更139,140により行う。これらを以後それぞれ「pdampingパルス」および「反転pdampingパルス」と呼ぶ。
第5および第6の磁化配向135,136には180°回転を起こすゲート・パルス141を用いてアクセスすることができる。しかしパルス141はp180°パルス108に関して反転しており、以後「反転p180°パルス」と呼ぶ。
【0101】
図25の(a)および図25の(b)は、p90°パルス137および反転p180°パルス141を与える効果を示す。
図25の(a)はVG=V0での二軸の面内異方性領域内の歳差運動の90°切換えを示す。図に示すように、磁気異方性はVG=VCでゲート電圧パルス137の間に面内から面に垂直に変わり、磁化ベクトルMが90°回転を終わった後、元のV0に切り換わる。
【0102】
図25の(b)は、面に垂直な異方性領域内で反転パルスが180°反転をトリガすることを示す。
AHE測定値により、面に垂直な配向に沿う2つの一軸の磁化状態を区別することができる。また横および縦のAMRの測定値により、面内の4つの二軸の磁化状態を明確に区別することができる。
【0103】
認識されるように、上に述べた実施の形態に多くの変更を行うことができる。例えば、強磁性層は、例えば5nmから20nmの間の異なる厚さを有してよい。素子は電子または正孔の移動に基づいて動作してよい。GaMnAs層を保護するのにキャッピング層を用いてよい。磁気抵抗素子は磁気トンネル接合部またはスピン・バルブなどの多層構造を有してよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
添付の図面を参照して、例により本発明の実施の形態を説明する。
【図1】本発明に従って電界パルスを強磁性素子に与えて磁気異方性の配向を変えることにより磁化を切り換えることを示す。
【図2】(a)は、リソグラフィー誘導のひずみ緩和により磁気異方性の配向が変わる素子と、ひずみが変わらないファン・デル・ポー素子の走査電子顕微鏡写真である。(b)は(a)に示す素子の拡大図である。(c)は(a)に示す素子およびファン・デル・ポー素子を製作するのに用いる層構造の断面図である。
【図3】(a)は、固定の磁界の大きさ(B=4T)を有する磁界を、角を[110]軸から測定して回転させるときの、図2の(a)に示す素子のアームの4.2°Kでの縦の異方性磁気抵抗のプロットを示す。(b)は、固定の磁界の大きさ(B=4T)を有する磁界を、角を測定して回転させるときの、図2の(a)に示す素子および図2の(a)に示すファン・デル・ポー素子のアームの4.2°Kでの横の磁気抵抗のプロットを示す。(c)は、図2の(a)に示すものと同様であるが変化する磁界内の異なる角でより広くまたより長いチャネルを有する素子の、[110]向きのアームの4.2°Kでの縦の異方性磁気抵抗のプロットを示す。(d)は、固定角で変化する磁界内の図2の(a)に示す素子の[110]向きのアームの4.2°Kでの縦の異方性磁気抵抗のプロットを示す。
【図4】(a)は、図2の(a)に示すファン・デル・ポー素子の4.2°Kでの横の抵抗測定値のプロットを示す。(b)は、図2の(a)に示す素子の4.2°Kでの横の抵抗測定値のプロットを示す。
【図5】(a)は、図2の(a)に示す素子の横の断面の[001]軸に沿う歪の数値シミュレーション値の2次元プロットを示す。(b)は、図2の(a)に示す素子の横の断面の[110]軸に沿う歪の数値シミュレーション値のプロットを示す。(c)は、図2の(a)に示す素子の[001]面を通る異なる断面のひずみのシミュレーション値のプロットを示す。(d)は、図2の(a)に示す素子の[110]面を通る異なる断面のひずみのシミュレーション値のプロットを示す。
【図6】(a)は、図2の(a)に示すものと同様の素子および図2の(a)に示す素子の向きのアームの磁化容易軸の配向を示す。(b)は、理論的磁気結晶エネルギー値のプロットを、異なる歪でのまた異なる方向に沿う面内磁化角の関数として示す。
【図7】2つの異なるキャリヤ濃度について圧縮ひずみの下で[001]向きのGaAs上に成長させたGa0.96Mn0.04Asの磁気結晶エネルギー・プロフィールを示す。
【図8】(a)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第1の素子の略図である。(b)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第2の素子の略図である。(c)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第3の素子の略図である。
【図9】図8の(a)に示す第1の素子の斜視図である。
【図10】(a)は、図9に示す素子のゲート電圧および面内の電流に平行な磁界に対するチャネル・コンダクタンスのプロットである。(b)は、図9に示す素子のクーロン封鎖振動を示す。(c)は、図9に示す素子のゲート電圧に対する臨界配向変更磁界のプロットを示す。
【図11】(a)は、図8の(b)に示す第2の素子の平面図である。(b)は、図11の(a)に示す第2の素子の線A−A’に沿う断面図である。
【図12】図8の(a)および図8の(b)に示す素子の書込みおよび読取りサイクルを示す。
【図13】(a)は、図8の(a)に示す素子の異なる段階での製作を示す。(b)は、図8の(a)に示す素子の異なる段階での製作を示す。(c)は、図8の(a)に示す素子の異なる段階での製作を示す。
【図14】(a)は、図8の(c)に示す第3の素子の斜視図である。(b)は、第3の素子の線B−B’に沿う断面図である。
【図15】図8の(c)に示す素子の書込みおよび読取りサイクルを示す。
【図16】(a)は、本発明に係る強磁性素子の磁気異方性の配向を変えることができる別の素子の平面図である。(b)は、図16の(a)に示す素子の線C−C’に沿う縦断面図である。(c)は、図16の(a)に示す素子の線D−D’に沿う横断面図である。
【図17】図15に示す素子を製作するのに用いる層構造を示す。
【図18】図16の(a)に示す素子の変形の横断面図である。
【図19】(a)は、強磁性半導体での変化するキャリヤ分布の略図を示す。(b)は、磁気異方性の配向変更を示す。
【図20】(a)は、本発明に係る強磁性半導体内の磁気異方性の配向を変えることができる第4の素子の平面図である。(b)は、図20の(a)に示す素子の線E−E’に沿う断面図である。
【図21】(a)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第5の素子の平面図である。(b)は、図21の(a)に示す素子の線F−F’に沿う断面図である。
【図22】図21の(a)に示す素子の書込みおよび読取りサイクルを示す。
【図23】6つの残存磁化配向を有する強磁性素子を示す。
【図24】本発明に係る図23に示す残存磁化配向の間の切換えを示す。
【図25】(a)は、図23に示す強磁性素子に電界パルスを与えて、本発明に従って磁化異方性の配向を変更しまた磁化を切り換えることを示す。(b)は、図23に示す強磁性素子に電界パルスを与えて、本発明に従って磁化異方性の配向を変更しまた磁化を切り換えることを示す。
【符号の説明】
【0105】
21 磁気抵抗素子
22 強磁性領域
23 ゲート
29 電界パルス
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気抵抗素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM)は、いくつかの点でフラッシュ・メモリなどの他のタイプの不揮発性メモリより優れている。例えば、MRAMは一般に電力消費が少なく、またデータの読取りおよび書込みが速い。またMRAMは、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)などのいくつかの形の揮発性メモリに代わるものとして有望である。
従来技術のMRAMセルは一般に、非磁気層により分離された1対の強磁性層を有する磁気抵抗素子を含む。一方の強磁性層は比較的低い飽和保磁力を有し、他方の強磁性層は比較的高い飽和保磁力を有する。一般に、飽和保磁力が低い層を「自由」層、飽和保磁力が高い層を固着(pinned)層と呼ぶ。
【0003】
セル内にデータを記憶するには、外部磁界を与えて自由層の磁化の向きを定める。磁界を取り去った後も、磁化の向きは保持される。
セルからデータを読み取るときは素子を通して電流を流す。素子の磁気抵抗は、層の磁化が逆平行(AP)に配列されている場合は比較的高く、層の磁化が平行(P)に配列されている場合は比較的低い。したがって、セルの状態は素子の磁気抵抗を測定することにより決定することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外部磁界は素子の近くを走る少なくとも1本の導線に電流を流すことにより生成する。しかしこの配置では、セルの寸法が減少するに従って自由層を切り換えるのに必要な磁界が増加し、したがって電力消費も増加するという問題がある。
外部磁界を与える別の方法はスピン・トランスファ切換え(spin transfer switching)を用いることである。これは、J.C.Slonczewskiの「磁気多層の電流駆動励磁(Current−driven Excitation of Magnetic Multilayers)、p.9353、Phys.Rev.B、Vol.54(1996)に提示されている。また、W.C.Jeong他の「磁界支援の電流誘導による切換えを用いる拡張性の高いMRAM(Highly scalable MRAM using field assisted current induced switching)」、p.184、2005 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers、を参照していただきたい。
【0005】
スピン・トランスファ切換えでは、磁気素子を通して電流を層の界面に垂直に流す。これにより、固着層を通って流れる電子により(電流を自由層から固着層に流すとき)、または固着層から拡散する電子により(電流を固着層から自由層に流すとき)、スピン偏極電子(spin−polarised electrons)が自由層内に注入される。スピン偏極電子が自由層内に注入されるとき、電子は自由層と相互作用してそのスピン角運動量の一部を自由層の磁気モーメントに移す。スピン偏極電流が十分大きい場合は、このために自由層の磁化が切り換わる。
【0006】
しかしスピン・トランスファ切換えの欠点は、反転プロセスをトリガするのに高い電流密度(例えば、108Acm−2程度)が必要なことである。
切換え電流パルスを与える前に直流予備充電電流を与えることにより電流を減らすことができる。これについては、T.Devolder他の「ナノ秒以下にスピン・トランスファ切換えを加速させるための予備充電方式(Precharging strategy to accelerate spin−transfer switching below the nanosecond)」、Applied Physics Letters、volume86、page062505(2005)、に記述されている。切換え電流パルスの電力消費は減少するが、全体の電力消費(すなわち、予備充電電流の電力消費を含む)はまだ非常に大きい。
【0007】
しかし、切換え電流パルスを与える直前にまたは同時に、自由層の磁化困難軸に沿って短い(例えば、<5nsの)外部磁界パルスを与えて歳差運動切換えを起こすことにより電流を減らすことができる。これについては、K.Ito他の「磁化困難軸磁界からの歳差運動と組み合わせたスピン・トランスファ・トルク切換えの微小磁気シミュレーション(Micromagnetic simulation of spin transfer torque switching combined with precessional motion from a hard axis magnetic field)」、Applied Physics Letters、volume89、page252509(2006)、に記述されている。
【0008】
この方法は、スピン・トランスファ電流を大幅に減らすことはできるが、線に電流を流して外部磁界を与える必要がある。これは拡張性と電力消費の削減の可能性を制限する。
本発明はこの問題を改善するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切換えることができる強磁性領域とこの強磁性領域に容量的に結合するゲートとを含む磁気抵抗素子を動作させる方法を提供する。この方法は、電界パルスを強磁性領域に与えることにより、磁化異方性の配向を変えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。したがって、磁界パルスを生成するための導線を有する素子より少ない電力を用いて歳差運動支援の磁化切換えをトリガすることができる。
【0010】
この方法は、電界パルスを強磁性領域に排他的に与えて、強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切換えることを含んでよい。この方法は、磁界パルスを与えずに強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切換えるようにすることを含んでよい。電界パルスだけを用いて強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切換え、または磁界パルスを用いずに切換えを支援することにより、電力消費を最小にすることができる。
【0011】
この素子は、磁界パルスを生成するための強磁性領域の近くを走る導電経路を更に含む。この方法は更に、電界パルスを与えると共に磁界パルスを強磁性領域に与えて、電界パルスの間の異方性磁界と与えた磁界とを含む有効磁界の配向の変化を強化して、磁化を第1と第2の配向の間に切換えることを含む。この方法は、磁界パルスの前縁を与える前に電界パルスの前縁を与えることを含んでよい。
【0012】
この素子は、強磁性層より高い飽和保持力を有しかつトンネル障壁層により分離される別の強磁性領域を更に含む。この方法は更に、電界パルスを与えると共に強磁性領域を通るスピン・トランスファ電流パルスを与えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。
【0013】
この方法は、スピン・トランスファ電流パルスの前縁を与える前に電界パルスの前縁を与えることを更に含む。強磁性領域は不均一なひずみ分布を有する強磁性半導体を含んでよく、またこの方法は十分な大きさの電界パルスを与えて電荷キャリヤの分布を不均一なひずみ分布に対して変えることを含む。
不均一なひずみ分布は圧縮ひずみの領域および引っ張りひずみの領域を含む。強磁性半導体は(Ga,Mn)Asを含んでよい。
【0014】
この方法は、
【数1】
で示すtprecessの四分の一の倍数である継続時間tを有する電界パルスを与えることを含んでよい。ただし、γは回転磁気定数で
BAは強磁性半導体の磁気異方性磁界である。この方法は、0nsと5nsの間の継続時間tを有するパルスを与えることを含んでよい。
【0015】
この方法は更に、電界パルスを与えることとは独立に磁界を強磁性領域に与えて強磁性領域の磁化を第1と第2の配向の間に切り換えるのを支援することを含む。
この方法は応力を強磁性領域に与え、応力を与えると共に電界パルスを与えることを含んでよい。
【0016】
本発明の第2の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法を提供する。この方法は、応力パルスを強磁性領域に与えることにより、磁化異方性の配向を変えて磁化を第1と第2の配向の間に切り換えることを含む。したがって、磁界パルスを生成するための導線を有する素子より少ない電力で歳差運動または歳差運動支援の磁化切換えをトリガすることができる。
【0017】
この素子は強磁性領域に機械的に結合する圧電領域を含んでよく、また応力パルスを与えることは圧電領域全体に電圧パルスを与えることを含む。
この方法は、応力パルスを強磁性領域に与えると共に電界パルスを強磁性領域に与えることを含んでよい。
【0018】
本発明の第3の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、この方法に従って素子を動作させることができる回路とを含む装置を提供する。
【0019】
本発明の第4の態様では、磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向との間に切換えることができる強磁性領域と、第1の電気入力に応じて応力を強磁性領域に与える手段と、第2の電気入力に応じて電界を強磁性領域に与える手段とを含む磁気抵抗素子を提供する。
応力を与える手段は強磁性領域に結合する圧電領域を含んでよく、また電界を与える手段は少なくとも1つのゲート電極を含んでよい。
【実施例】
【0020】
電界パルスで誘導する磁化の反転
図1は、本発明に係る磁気抵抗素子の強磁性素子1を示す。強磁性素子1は均一に分布した磁化を有すると仮定する。ただしこれは必ずしも必要ではない。
強磁性素子1は磁化容易軸2を定義する磁気異方性を示す。磁気異方性は、とりわけ、素子および/または結晶構造の形の結果として生じてよい。例えば、素子1は細長くてよく、磁化容易軸2は長さ軸に沿って整列してよい。
素子1の磁化3は磁化容易軸2に沿って整列する。
【0021】
外部磁界5を随意に与えて、歳差運動切換えを支援しまた配向に依存して磁化3の配向変更を安定させてよい。例えば、外部磁界5は強磁性素子(強磁性素子1はその1つ)の配列に全体的に与えてよい。外部磁界5を磁化困難軸に沿って固定することにより、歳差運動切換えを容易にして(すなわち支援して)よい(例えば永久磁石を用いて)。
図1に示すように、磁化容易軸2に沿う最初の磁化に逆平行に外部磁界5を整列させて、磁化3の配向変更を安定させる。しかし外部磁界5は磁化容易軸2に沿って整列させる必要はなく、磁化困難軸(図1に示す配置では磁化容易軸2に垂直に配置される)を含む他の角度に向いてよい。
外部磁界5は可変でよく、また導電トラック(図示せず)を通して電流を流して生成してよい。
【0022】
異方性磁界および随意の外部磁界5は有効磁界6を作る。すなわち、
【数2】
ただし、
は磁化3に作用する有効磁界6、
は異方性磁界、
は外部磁界5である(ベクトル表示)。
後で説明するが、電界パルス7を層の面に例えば垂直に与えて、強磁性素子1内の磁気異方性を一時的に変えて磁化3の歳差運動の配向変更をトリガしてよい。
【0023】
電界パルス7を与える前(言い換えるとt<0かつV=V0(例えばV0=0)のとき、ただし、tは時間、Vはゲート(図示せず)に与えるバイアス)は、磁化3
は有効磁界6の方向に向いている(ここでは正のx方向に平行とする)。或る実施の形態では、2個以上のゲート(図示せず)を用いてよい。
次に電界パルス7を与えると磁界異方性が変わり、したがって磁化3は回転して、変化した有効磁界の回りに歳差運動を始める。
【0024】
したがって、パルス7が始まると(すなわちt=0かつV=Vc)異方性磁界2が変わって有効磁界6が回転し、すなわち、
【数3】
となり、磁化3は有効磁界6の軸の回りに
減衰歳差運動を開始する。
磁化3が歳差運動を半分行うと電界7をオフにしてよく、磁化3は磁化容易軸2に沿って安定化し始める(逆平行に)。
したがって、パルス7が終わると(t=Δt180°かつV=Vc)、異方性磁界および有効磁界6は、図1の(c)に示すように負のx成分を持つ。
【0025】
パルス7が終わった後すぐに(t=Δt180°+δ(ただしδ>0)かつVG=V0のとき)、異方性磁界2は反転してその元の配向に(x方向に平行に)逆平行に整列し、すなわち、
【数4】
となり、磁化3は有効磁界6の軸の回りに
減衰歳差運動を続ける。
t>>Δt180°かつVG=V0のとき磁化3は平衡に達して、有効磁界(−x方向に平行、すなわち
に沿って整列する。
磁化の反転は、配向に依存する磁化3のエネルギーを考えれば理解することができる。例えばV0では、x軸に沿う磁化容易軸2はポテンシャル障壁で隔離された2つのエネルギー最小値に対応する。磁化3が磁化困難軸に沿って整列する場合は、障壁の高さはエネルギー増加に対応する。
【0026】
磁化の反転(すなわち180°の磁化の配向変更)を、トンネリング磁気抵抗(TMR)素子や、巨大磁気抵抗(GMR)素子や、切換え層と固定基準層との間の相対的配向が素子の抵抗を決定する他の同様のタイプの読取り素子に用いてよい。
ゲート電圧パルス7により元の磁化容易軸4から45°乃至90°回転する新しい磁化容易軸ができる場合は、支援磁化を用いずに磁化の反転を達成することができる。
【0027】
これは、高いキャリヤ密度のGa1−xMnxAs(例えばx>0.03のとき)で、例えば素子1内のひずみを引っ張りひずみのときの位置(磁気異方性は層の面に垂直に向いている)から圧縮ひずみのときの位置(磁気異方性は層の面内に向いている)まで空間的に変えることにより行うことができる。磁化容易軸の回転も、ひずんだ構成内のキャリヤ密度を変えることにより行うことができる。
低ドープのGa1−xMnxAs(x<0.02のとき)では、磁気異方性の変化は逆向きに起こってよい。例えば、素子が圧縮ひずみの位置では磁気異方性は面に垂直に向き、素子が引っ張りひずみの位置では磁化異方性は面内に向いてよい。
【0028】
系の特定の磁気異方性によっては完全な磁化の反転は必要ない。言い換えると、磁化の向きを180°変更する必要はない。例えば、磁化容易軸が、パルス長さが長い(例えば、歳差運動パルスの半分)とき角の回転が22.5°以下であり、パルス長さが短い(例えば、歳差運動パルスの四分の一)とき角の回転がより大きくて90°以下の場合は、立方磁化異方性を示す素子は90°の磁気配向変更を行うことができる。観察によると、これは〜0.01%程度の格子定数の変化により非常に小さなひずみの変動が起こるGa1−xMnxAsで起こることがある。この場合は、異方性磁気抵抗(AMR)や、トンネリング異方性磁気抵抗(TAMR)や、クーロン妨害異方性磁気抵抗(CBAMR)などの異方性磁気抵抗効果を用いて磁化配向を読み出すこともできる。
【0029】
(Ga,Mn)As素子における磁気結晶異方性の局所制御
図2の(a)および図2の(b)は、リソグラフィーで形成された溝9から起こるひずみ緩和を用いて、磁気結晶異方性を調整して制御する素子8を示す。磁気結晶異方性はスピン軌道結合により誘導される。素子8内のバルクGaMnAsとひずみ緩和の効果の両方の磁気異方性の特徴付けを助けるため、ファン・デル・ポー(Van der Pauw)素子10を素子8に近接してウェーハ11内に形成する。
素子8はチャネル11を有するホール・バー(Hall bar)の形である。チャネル11は平面図が「L」の形で、
方向に沿って直交して整列する第1および第2のアーム111,112を含む。アームは1μmの(横の)幅(w)と20μmの(縦の)長さ(l)を有する。
【0030】
特に図2の(c)を参照して、素子8は、GaAs基板14上に[001]結晶軸に沿って成長させた25nmの厚さを有するGa0.95Mn0.05Asエピタキシャル成長層13(すなわち、エピ層)を含む層構造12を有するウェーハ内に形成する。チャネル11は電子ビームリソグラフィーおよび反応イオンビーム・エッチングを用いて形成する。溝9は200nmの(横の)幅(W)および70nmの深さ(d)を有する。
【0031】
図3の(a)から図3の(d)は、素子8と同じ構成を有する別の素子(図示せず)および素子8の電気的特性を示す。別の素子(図示せず)と素子8とはホール・バーの寸法が異なる。別の素子(図示せず)では、アーム(図示せず)は幅4μm、長さ80μmである。図2の(a)および図2の(b)に示す素子8では、アーム111および112は幅1μm、長さ20μmである。
これらの素子8は面内磁気結晶異方性を示し、約50mTの飽和磁化Msを有する。これは形状異方性ではなくひずみ緩和の効果により起こる。例えば、素子8の形状異方性磁界は1mTより小さく、この大きさは磁化結晶異方性磁界より1ケタ小さい。したがって、磁化容易軸は形状異方性ではなく磁気結晶異方性により形成する。
【0032】
異常ホールでのアロット(Arrot)プロットを用いて100°Kのキュリー温度(Tc)を推定した。高磁界ホール測定値からホール密度は5x1020cm−3と推定した。このドーピングで、GaAs基板15上に成長させたGa0.95Mn0.05Asエピ層13内の圧縮ひずみは強い磁気結晶異方性を作る。これは磁化ベクトルを磁気エピ層13の面に平行に整列させる。
個々のマイクロバー素子8内の磁化配向は、面内回転磁界(図示せず)の異方性磁気抵抗(AMR)の縦および横の成分を測定することにより局所で監視する。
【0033】
図3の(a)および図3の(b)は飽和磁界での磁化回転プロットを示し、面内AMRが次の形に厳密に従うことを示す。すなわち、
ΔρL=Acos(2φ) (2a)
ΔρT=Asin(2φ) (2b)
ただし、ρLは縦の抵抗率、ρTは横の抵抗率、Aは定数(各ホール・バーのものだけでなく、ファン・デル・ポー素子10のものも)、φは磁化と電流の間の角である。
は全角の平均である。
【0034】
図3の(c)および図3の(d)は外部磁界スイープの磁気抵抗プロットを示す。
軸から測定した磁界角θは一定である。
図に示すように、磁気抵抗はθの値に強く依存する。これは磁化回転の結果である。高い磁界では磁気抵抗は純粋に等方性になる、すなわち、異なる角θの抵抗間の差は外部磁界の大きさに関係なくなる。この性質と、低い磁界の異方性磁気抵抗に比べて等方性磁気抵抗の大きさが非常に小さいことにより、図3の(a)および図3の(b)に示す高磁界測定値を用いて、低磁界抵抗の変化と磁化配向の変化との間の1対1対応を決定することができる。両方の抵抗成分を同時に測定する場合は、図3の(a)および図3の(b)に示す縦および横のAMRトレースの間の45°の移相を用いて磁化角の変化を決定することができる。
【0035】
固定θの磁気抵抗測定値を用いて、個々のマイクロバー内の局所の磁気異方性をまず決定してよい。磁化容易軸方向に対応するθの値では磁気抵抗は最小である。磁化容易軸方向に対応しないθの値では、磁化は低い磁界で(部分的に)連続的に回転して異なる配向になり、したがって、飽和および残留磁気で異なる測定抵抗になる。この方法を用いると、磁化容易軸方向を±1°以内で決定することができる。
【0036】
ひずみの空間的変動を導入することの磁気異方性への影響を図4の(a)および図4の(b)に示す。
バルク材料では、ファン・デル・ポー素子10(図2の(a))を用いて測定すると磁化角30°は磁化容易軸に対応するが、7°および55°はかなり磁化困難である。しかし図2の(a)に示す素子8では、7°は
バーで磁化容易軸であり、55°は[110]バーで磁化容易軸である。
【0037】
次の表1は、「A」で示す他の素子(図示せず)、「B」で示す素子8、およびバルク材料(すなわちファン・デル・ポー素子10)に見られる磁化容易軸のリストである。
【表1】
バルク材料は、下側の閃亜鉛鉱形構造から生じる立方異方性と、(Ga,Mn)Asエピ層13であることから生じる追加の一軸の
異方性とを有する。このため、2つの磁化容易軸は[100]および[010]立方縁から
の方に15±傾く。
マイクロ素子(すなわち、他の素子(図示せず)および素子8)では、磁化容易軸は、バルク材料内で占められている角からアーム111,112の方に内向きに回転する。アーム111,112の幅が減少するに従って回転の程度は増加する。
【0038】
磁化結晶異方性内の局所の変化は次のように理解してよい。
図2の(a)に戻って、GaAs基板15上に成長させたGa0.95Mn0.05Asエピ層13は(001)面内で圧縮してひずみ、このひずみパラメータの代表的な値は
【数5】
ただし、aGaAsおよびaGaMnAsはそれぞれ、立方晶系の完全に緩和されたGaAsおよび(Ga,Mn)Asの格子パラメータである。上の式(3)とaGaAsおよびaGaMnAsの値とを用いると、
である。
【0039】
バー11に沿う溝9内の(Ga,Mn)As材料を取り除くと、格子は横方向に緩和して、対応する伸びはほぼft/w〜0.01と推定することができる。ただし、tは(Ga,Mn)As薄膜の厚さ(この場合は25nm)、wはバー幅である。
量的なレベルでは、マイクロバー内の格子緩和の強さは現実的なサンプル形状の数値弾性理論シミュレーションを用いて得ることができる。弾性定数のGaAs値はGa0.95Mn0.05Asエピ層13を含む全ウェーハについて考慮する。
【0040】
図5は、素子11(図2a)の[1−10]バー112についての格子緩和の強さの数値シミュレーションを示す。
図5の(a)は、完全に緩和された立方GaAsの格子パラメータに関する成長方向[001]軸に沿うひずみ成分を示す。すなわち、
e[001]≡(a[001]−aGaAs)/aGaAs (4)
ひずみ成分はfと共に直線的に変わるので、e[001]/fをプロットすることができる。
図5は成長誘導の格子整合ひずみを示す。(Ga,Mn)As格子は面内圧縮なので、弾性媒体はaGaAsに比べて格子パラメータを成長方向に伸ばして反応する。すなわち、e[001]/f>1である。
【0041】
エピ層13の面内では、格子はマイクロバー配向に垂直な方向にだけ緩和することができる。再びGaAsに関して計算した対応するひずみ成分を、図5の(b)では素子11の全断面についてプロットし、図5の(c)および図5の(d)では[001]−[110]面を通る種々の断面についてプロットする。バーの中央では面内緩和は比較的弱い(すなわち、格子パラメータはGaAs基板15のものと同じ)が、バー11の縁の近くでは格子は強く緩和される。(Ga,Mn)Asバーの全断面について平均すると、相対的な面内格子緩和は数百分の一パーセント(すなわち、式ft/wによる推定と同程度)であることが分かる。後で説明する微細な磁気結晶エネルギー計算は、これらの外見上小さな格子ひずみが強くスピン軌道結合した(Ga,Mn)As内の観測された磁化容易軸回転を説明できることを確認する。
【0042】
磁化角に依存する全エネルギーの微細な計算は、GaAsホスト価電子帯の6帯k・p記述と、局所MnGad5モーメントへの結合の動的交換モデルとの組合せに基づいて行う。この理論は価電子帯のトップのスピン軌道結合現象(その分光組成および関係する対称性は、普通のGaAsホストの場合のようにAs部分格子のp軌道により支配される)の記述に適している。またk・pモデリングは(Ga,Mn)As帯構造上の格子ひずみの効果を説明する直接的な手段である。上の微細なシミュレーションの場合と同様に、(Ga,Mn)As内の弾性定数はGaAsの場合と同じ値を有すると仮定する。調整可能な自由パラメータを用いないこの理論は、圧縮ひずみおよび引っ張りひずみの下に成長させた同様の(Ga,Mn)Asエピ層内の面内と面外の容易磁化配向の間の観測された移行を説明し、また対応するAMR効果の符号および大きさを矛盾なく説明する。
【0043】
マイクロバーの磁化結晶エネルギーのモデル化のために、(Ga,Mn)As層内では微細なシミュレーションで得られるe[001]の平均値に対応する均一なひずみを仮定してよい。微細な計算の入力パラメータは、次式
【数6】
で与えられる[100]−[010]−[001](x−y−z)座標系内の完全に緩和された立方(Ga,Mn)As格子に関係するひずみ成分である。ただし、±は
バーおよび[110]バーにそれぞれ対応する。
【0044】
図6の(a)は他の「L」形素子15および「L」形素子8の
バーおよび[110]バー内の磁化容易軸の配向を示す。矢印16はパターン化誘導の格子緩和の方向および強さを示す。
図6の(b)は、計算された磁化結晶エネルギーを、f=0.3と、ゼロ(面内格子緩和なし)から
バー(exy>0)および[110]バー(exy<0)についての予想される代表的な値までの範囲のexyとについて、面内磁化角の関数としてプロットしたものである。詳しく述べると、[110]軸に沿う格子延長に対応するexy=0.004,...,0.02%と
軸に沿う格子延長に対応するexy=−0.004,...,−0.02%とについて、ゼロせん断ひずみ(黒線)の面内磁化角の関数としてエネルギーをプロットする。磁化容易軸はexy=0と、0.02%と、−0.02%にある。微細な磁化結晶エネルギー・プロフィールの
対称性を破る格子変形を、[110]バー(下部のダイアモンド)では[110]軸に沿って伸びる、また[110]バー(右側のダイアモンド)では[110]軸に沿って伸びる、ダイアモンド状のユニット・セルにより示す。
【0045】
実験と一致して、exy=0のときの[100]および[010]での最小値は、[110]方向に沿う格子伸張(exy>0)では
方向に向かって動き、また
方向に沿う格子伸張(exy<0)では[110]方向に向かって動く。2つのバー内の実験的な磁化容易軸回転の間の非対称性はバルク材料内にすでに存在する[110]一軸成分(その微細な起源は分からない)のためであるが、固有の(微小パターン化により誘導されたものでない)ひずみebulkxy〜+0.01%によりモデル化することができる。
【0046】
上に述べた素子は、圧縮ひずみの下で成長させた面内磁化異方性を持つGaMnAsからのストライプの微小パターン化により誘導される相互ひずみ緩和を用いる。他方で、垂直磁化異方性を持つ引っ張りひずみのGaMnAsからパターン化されるワイヤはその格子定数を小さくすることにより緩和する。この場合は、微小パターン化すると引っ張りひずみのGaMnAsバルク層に比べて垂直磁化異方性は弱くなる。
【0047】
また強磁性材料の磁化結晶異方性は局所ひずみに敏感に依存する。平衡格子にひずみがあれば局所異方性が変わる。極薄膜では、ひずみは表面上の成長により誘導される。したがって、GaMnAsと同様に、GaAs[001]基板上にエピタキシャル成長させたコバルト(Co)または鉄(Fe)の極薄層は、バルクの立方磁気異方性と、界面からの一軸の寄与を示す。
【0048】
電荷キャリヤ密度の変動による磁気異方性
図7は、第1のキャリヤ密度p=8x1020cm−3と第2のキャリヤ密度p=6x1020cm−3について、e0=−0.2%の圧縮ひずみとexy=−0.02%の
に沿う格子変形(伸張)の下でGaAs[001]上に成長させた横に歪んだGa0.96Mn0.04Asの磁気結晶エネルギー・プロフィールを示す。第1および第2の矢印17,18は第1および第2のキャリヤ密度についての磁化容易軸の配向をそれぞれ示す。
【0049】
図7に示すように、キャリヤ密度が変化すると、歪んだGaMnAs内の磁化異方性が変動することがある。スクリーニング長さが短いために高ドープ(〜1020−1021cm−3)のバルク半導体内でのキャリヤ密度を変えるのは困難であるが、十分に(電気的に)絶縁されたナノ構造内ではかなりのキャリヤ密度の変更が実現される。
上に図6の(b)で示したのと同様な理論的計算によると、磁化異方性はキャリヤ密度に敏感に依存する。図7に示すように、キャリヤ濃度が〜25%減少すると、磁化容易軸は
の結晶配向まで約90°変わる。
【0050】
電界誘導による磁化異方性の変動を実現する本発明の別の実施の形態について以下に説明する。これらは、歪んだ強磁性半導体内の電荷キャリヤ密度を変えることと、不均一に歪んだ強磁性半導体系内の最大キャリヤ濃度の中心をシフトすることと、強磁性層に圧電層を付加することにより、または例えばGaMnAs(従来のようにドープされたGaAsと同様の圧電特性を有する)内で可能なように強磁性材料自身の圧電特性を利用することにより、強磁性層内のひずみを変えることを含む。
【0051】
更なる磁気抵抗素子
本発明に係る磁気抵抗素子の更なる実施の形態について以下に説明する。
まず、電界パルスを与えると強磁性領域内の電荷キャリヤ密度が変わり、これにより磁化異方性が変わり、これにより磁化が歳差運動を開始する磁化抵抗素子を説明する。
図8の(a)および図8の(b)は第1および第2の磁気抵抗素子211,212を示す。第2の素子212は第1の素子211の変形である。
各素子211,212はひずみの下にある強磁性領域22(ここでは強磁性「島」とも呼ぶ)を含む。これらの例では、強磁性領域22は(Ga,Mn)Asなどの強磁性半導体を含む。しかし、異なる強磁性半導体を用いてよい。
【0052】
強磁性領域22の磁化の配向は、強磁性領域22に容量的に結合するゲート23を用いて短い電界パルスを与えることにより変えることが、または変えるのを助けることができる。電界パルスを与えると強磁性領域22内の電荷キャリヤ密度が変わり、これにより磁化異方性が変わり、これにより磁化は歳差運動を開始する。強磁性領域22は十分小さくて、所定の動作温度(4.2°Kなど)で充電効果を示してよい。例えば、強磁性領域22は1nmまたは10nm程度の寸法(層の厚さおよび横の直径)を有してよい。しかし、強磁性領域22はより大きくてよい(例えば、100nm、1μm、またはそれ以上の程度の寸法)。
【0053】
強磁性領域22は第1および第2のリード24,25の間に配置され、それぞれのトンネル障壁26,27によりリード24,25に弱く結合する。或る実施の形態では、1つ以上の強磁性材料の島があってよい(例えば鎖状に配置された)。
磁化の配向変更は電圧パルス29をゲート23に与えるパルス発生器28を用いてトリガする。
【0054】
配向の方向は種々の方法で測定してよい。
例えば第1の素子211では、電圧源30および電流検出器31を用いてトンネリング異方性磁気抵抗(TAMR)を測定することにより磁化の配向を決定してよい。第1および/または第2のリード24,25が強磁性の場合は、電圧源30および電流検出器31を用いてトンネリング磁気抵抗(TMR)を測定することにより磁化の配向を決定してよい。いずれの場合も、測定は電圧を与えて電流を流して、電流を測定することを含む。
第2の素子212では、電圧源30および電流検出器31を用いてTMRを測定することにより磁化の配向を決定してよい。しかし、第1のリード24と第3のリード32(強磁性島22からトンネル障壁34で分離されるピン強磁性領域33に接続する)との間にバイアスを与えて、その電流を測定する。認識されるように、異なる測定構成を用いてよい。
【0055】
図9は第1の素子211を更に詳細に示す。
第1の素子211は細長い導電チャネル36を有し、ゲート23はチャネル36の側面に配置する(すなわち、側面ゲート構成)。チャネル36および側面ゲート23は(Ga,Mn)Asのパターン化層37内に溝絶縁により形成する。AlAsの層38はチャネル36および側面ゲート23をGaAs基板39から電気的に絶縁する。チャネル36は広い部分の間に形成したくびれ40を含む。広い部分はくびれ40へのリード24,25を形成する。
【0056】
(Ga,Mn)As層37は2%のMnを含み(すなわち、Ga0.98Mn0.02As)、5nmの厚さを有する。ただし、表面酸化のために有効厚さは約3nmであろう。くびれ40は幅30nm、長さ30nmである。チャネル36は幅2μmである。チャネル36とゲート23は約30nm離す。
くびれ40の領域では、不規則から生じるポテンシャル変動により少なくとも1つの導電島22および少なくとも1対のトンネル障壁26,27が生成されて、島22とリード24,25および/または隣接する島22とを弱く結合する。
【0057】
図10の(a)から図10の(c)を参照して第1の素子221の特性を説明する。
図10の(a)は、ゲート電圧および面内の電流に平行な磁界に対するチャネル・コンダクタンスのグレースケール・プロットである。点線41はゲート・バイアスに依存する臨界配向変更磁界(critical reorientation field)BCをハイライトする。臨界配向変更磁界BCは、VG=−1Vでの約40mTからVG=+1Vでの約20mT以下まで減少する。
【0058】
島22が円板形と仮定すると、実験的に得られた電荷エネルギーの値を用いて、有効円板直径は約10nmと推定できる。したがって、島22には約40マンガン・アクセプタが存在する。キャリヤ密度の約40%の減少に対応してVGが−1Vから+1Vまで変化する場合は、約16クーロン振動が観測される。臨界配向変更磁界BCは、VG=−1Vでの約50mTからVG=+1Vでの約20mT以下まで減少する。
【0059】
図10の(b)は、島22が或る磁化M0に留まるB0=0と、島22が飽和磁化M1に留まるB0=−100mTでの、VG=−1VとVG=+1Vの間のゲート電圧範囲のクーロン・ブロッケイド振動(Coulomb blockade oscillations)のプロットである。中間の磁界B0=−35mTでのコンダクタンスの測定値は、約−0.5Vの限界ゲート電圧でM0からM1に移行することを示す。
【0060】
図10の(c)は、VG=−1VとVG=+1Vの間のゲート・バイアスVGに対する臨界配向変更磁界BCの依存性を示すプロットである。これは、振幅VG≧2.5Vのゲート電圧パルスはB0=0で磁化の切換えをトリガできることを示す。認識されるように、異なる素子構造および/または材料を用いた場合でも同様のプロットが得られ、これを用いて、磁化の切換えをトリガするのに必要なバイアスを見つけることができる。
【0061】
図11の(a)および図11の(b)に示すように、第2の素子212は第1の素子211の変形である。
素子212を形成するには、GaAs基板39上にAlAs38’の層を成長させ、次に(Ga,Mn)Asの層(図示せず)を成長させ、(Ga,Mn)Asをパターン化して固着層32と第3の電極33とを1つの片として含む下側の電極構造42を形成し、次にパターン化した基板の上に別のAlAsの層43および別の(Ga,Mn)Asの層を成長させ、別の(Ga,Mn)Asの層をパターン化してチャネル37’およびゲート23を形成する。
【0062】
下側の電極構造の代わりに上側の電極構造を用いてもよい。例えば、電極を形成するAlAs層および(Ga,Mn)As層は、チャネルおよびゲートを形成した後に成長させて、パターン化して固着層および第3の電極を含む電極を形成してよい。または、SixNyなどの薄いゲート誘電体およびCoなどの強磁性材料を堆積させて、リフトオフまたはドライ・エッチングを用いてパターン化してよい。
【0063】
図12は第1および第2の素子211、212の書込みおよび読取りサイクルを示す。
後でより詳細に示すが、素子211、212は4つの状態M1,M2,M3,M4を示すことができる。しかし、素子211、212はより少ない状態(例えば、逆平行の2つの状態)またはより多くの状態(例えば、面内の二軸異方性および垂直の一軸異方性を利用した6つの状態)を示すことができる。更に、素子211、212が例えば4つの状態M1,M2,M3,M4を示すことができる場合でも、例えばソースおよび/またはドレン領域が強磁性であるかどうかに従って、全ての状態を区別できることもあるし、またはいくつかの状態を区別ができないこともある。
【0064】
以下に、2つのタイプの書込みパルスを説明する。書込みパルスにより、強磁性島22の磁化44は、1つのタイプのパルス(いわゆる「t180」パルス)では2つの状態の間に切り換わり、別のタイプのパルス(いわゆる「t90」パルスでは4つの状態の中の2つの「隣接」状態の間に切り換わる。
図12に示す磁化44のプロットは磁化のエネルギーを表すのではなく、単に異なる状態を表すことに注意していただきたい。或る実施の形態では、これらは角依存性0°,90°,180°,270°を表してよい。
以下に、いわゆる「トグル」切換えを説明する。「t180」パルス29を繰返し与えると磁化44は2つの状態(例えば、「0」を表すM1と「1」を表すM3)の間に「切り換わる(toggle)」。しかし「t90」パルス29を繰り返し与えると磁化45は1つの状態から隣の状態に漸進的に「回転する」。
【0065】
例えば、「0」状態と「1」状態との間にまたはその逆に切り換えて素子211、212にデータを書き込むには、電圧パルス29をゲート23に与える。
パルス29は歳差運動の周期tprecessの半分の継続時間t180を有する。歳差運動の周期tprecessは次式で与えられる。
【数7】
ただし、γは回転磁気定数
BAは磁気異方性磁界であって、例えばサンプル、グレーン、ドメイン壁、または他のタイプの障壁での磁化内の発散により作られる消磁磁界を含んでよく、異方性を生じる。この例では、tprecessは約1nsである。tprecessの値は一般に100psから10nsの範囲内にあってよい(Baが100mTから1mTの場合)。
電圧パルスの大きさ|VG|は1Vから10V程度である。
【0066】
前に説明したように、外部磁界を与えて磁化の安定化を助けまたは歳差運動を促進してよい。外部磁界は永久磁石(図示せず)でまたは導電トラック(図示せず)で与えてよく、その大きさは好ましくは異方性磁界と同程度かまたはより小さい(例えば、1mTから100mT程度)。
或る実施の形態では、外部磁界および/またはスピン・トランスファ・トルク電流を用いて磁化44を特定の方向に向けることにより、特定の状態を書き込んでよい(状態間を切り換えるのとは異なり)。ここでは、これを「直接書込み」と呼ぶ。
【0067】
磁気抵抗素子が、絶縁層により分離されたピン強磁性層および自由強磁性層を有する実施の形態では、電界パルスを与えると同時にまたは少し後に、スピン・トランスファ・トルク(STT)電流パルスを与えることにより磁化の配向変更を行ってよい。「少し後に」とは、電界パルスを与えた後に磁化がまだ歳差運動を行っていてまだ減衰していない時間内を意味する。一般にこの時間は0nsと5nsの間である。
素子211、212からデータを読み取るには、素子211、212のソース24とドレン25の間にバイアス・パルス45を与えて、電流31(i)を測定する。電流の大きさは素子のトンネリング異方性磁気抵抗(TAMR)および/またはトンネリング磁気抵抗(TMR)に依存し、これはまた「0」および「1」の状態を表す強磁性領域22の磁化の配向44に依存する。
【0068】
前に説明したように、3つ以上の状態の配向は、AMR、TAMR、CBAMRなどの異方性磁気抵抗効果を測定することにより、またはリード32と基準(例えば、接地)との間の横のホール電圧(面に垂直な磁化容易軸に沿う状態に対する異常ホール効果から生じる)を測定することにより、決定することができる。
【0069】
図13の(a)、図13の(b)、および図13の(c)を参照して、第1の素子211の製作について以下に説明する。
図13の(a)を参照すると、素子211は、低温分子ビーム・エピタキシ(LT−MBE)によりGaAs基板39上のAlAs38”バッファ層上の[001]結晶軸に沿って成長させた極薄(5nm)のGa0.98Mn0.02Asエピ層37”から製作する。これについては、R.P.Campion,K.W.Edmonds,L.X,Zhao,K.Y.Wang,C.T.Foxon,B.L.Gallagher,C.R.Staddonの「砒素ダイマーと共に成長させた高品質GaMnAs薄膜(High−quality GaMnAs films grown with arsenic dimers)」、Journal of Crystal Growth,volume247,p43(2003)を参照していただきたい。
【0070】
GaMnAsは光学リソグラフィーに用いるアルカリ現像液に対して強く反応するので、ホール・バー14は、25℃でメチル・イソブチル・ケトン/イソプロパノールの1:3混合内で超音波を用いて現像したポリ・メチル・メタクリ酸メチル(PMMA)レジストを用いて、電子ビームリソグラフィーを用いて形成する。
20nmと60nmの厚さをそれぞれ有する熱蒸発させた高電子コントラストCr/Auレジストレーション・マーク(図示せず)を、1μm厚さのレジスト(図示せず)および〜250nmの電子ビーム直径を用いたリフトオフによりパターン化する。蒸発の前に10%HCl溶液内に30sディップして、GaMnAsを過度に損なわずに金属の接着を助ける。
【0071】
〜200nm厚さのレジスト層(図示せず)をGa0.98Mn0.02Asエピ層37の表面Sに与える。最も微細な部分は、〜15nmのビーム直径と〜5pAの電流を有する電子ビーム(図示せず)を用いて、近接したレジストレーション・マークでオンチップ集束により形成する。重要度の低い領域(図示せず)は〜250nmビームにより〜1nAで同じレジスト内に形成する。高分解能領域はできるだけ小さくなるように配置して、書込み時間およびパターン・ドリフトを最小にする。
図13の(b)では、レジストを現像して、パターン化したレジスト層Mをエッチ・マークとして残す。
【0072】
図13の(c)では、反応イオン・エッチング(RIE)を溝の絶縁に用いる。RIEによる導電率の低下があっても、GaMnAsの高い導電率と比べると非常に小さいと予想される。RIE室(図示せず)内の圧力は20mTorrであり、SiCl4およびArの流れは20sccmで、GaAsおよびマンガンを除去するのに適した必要な物理的および化学的エッチングの混合が得られる。100Wで10−15sの一般的なエッチを行うと、20−30nmの深さを有しかつGaMnAs層を安全に通る溝Tが得られる。
【0073】
Cr/Au(20nm/300nm)結合パッドを熱蒸発させる。再び、その前にHCl溶液内で接着ディップを行う。結合パッドはGaMnAs層への低抵抗の電気接触子を形成するので別個の抵抗金属皮膜は必要ない。
この例では、素子は[110]方向に沿って整列したホール・バー・レイアウトに配置され、くびれのどちらかの側に、2μm幅のチャネルと、500nm幅で10μm間隔の3対のホール・センサ端子とを有する。しかし、他の配列を用いてもよい。
【0074】
第2の素子212を作るには上に説明した製作プロセスを変更する。
より厚いGaMnAs層(例えば、厚さ25nm)を有する異なる最初の層構造を用いる。電子ビームリソグラフィーおよびRIEを用いて層構造をパターン化して、下側の電極構造42(図11の(a))を形成する。次に、上に述べたLT−MBEにより、別のAlAs層(3nmの厚さを有する)およびGaMnAsの層を成長させる。この構造をパターン化して第1の素子211と同様の方法でチャネルを形成する。
下側の電極構造42(図11の(a))のパターン化とAlAs層およびGaMnAs層の成長の間の汚染を最小にするためのいくつかの方法を用いてよい。例えば、最初の層構造を成長させた直後にイオン・ビーム・ミリングを用いて下側の電極構造42(図11の(a))をパターン化し、次に真空を破らずに追加の層を成長させてよい。
【0075】
図8の(c)は第3の磁気抵抗素子213を示す。
第3の素子213は第1および第2のリード24,25の間に配置された強磁性領域22を有する2端子素子で、トンネル障壁26により一方のリード24に、また半導体強磁性領域22およびリード25により形成される空乏領域が作る調整可能な障壁35により他方のリード25に、弱く結合する。
この例では、強磁性領域22はp型半導体(例えば、Ga(Mn,As))で構成しまたリード25はn型半導体(例えば、SiをドープしたGaAs)で構成するので、調整可能な障壁35は逆バイアスのp−n接合である。しかし、リードは金属でよいので、調整可能な障壁35はショットキー障壁でよい。
【0076】
図14の(a)および図14の(b)は第3の素子213を更に詳細に示す。
素子213は基板48から直立した柱47を含む。柱47は、1−10x1018cm−3程度の濃度にドープしかつ(エッチングしていない)200nmの厚さを有するGaAsの層25と、約5nmの厚さを有するp型Ga0.98Mn0.02Asの層22と、25nmの厚さを有するAlAsの層26と、約10nmの厚さを有するAuの層とを含む。
素子はGaAs基板(図示せず)上に成長させた層構造(図示せず)から製作し、順に、200nmの厚さのn型GaAs(図示せず)の層と、5nmの厚さのGa0.98Mn0.02Asの層と、25nmの厚さのAlAsの層とで構成する。Ga0.98Mn0.02Asは低温分子ビーム・エピタキシ(LT−MBE)により成長させる。
【0077】
電子ビームリソグラフィーおよび熱蒸発を用いて、10nm程度の厚さを有する金(Au)のパッドを層構造(図示せず)の表面上に形成し、またSiCl4/ArのRIEを用いて柱47を形成する。
柱47の頂部に接触させるため、例えばポリイミドを用いて柱を平らにし、金の接触パッドを堆積させてよい。
基板に接触させるには非磁気抵抗接触子を用いる。
【0078】
図15は第3の素子213の書込みおよび読取りサイクルを示す。
前に述べた第1および第2の素子211、212と同様に、第3の素子213は4つの状態M1,M2,M3,M4を示すことができる。
第3の素子213が異なる点は、書込みパルスか読取りパルスかは電圧パルス29の極性が決定することである。
【0079】
データを素子213に書き込むには、固定のトンネル障壁に隣接するリード24に他方のリード25に対して負の電圧パルス29を与えてp−n接合35のバイアスを反転させ、空乏領域の幅を拡げて空乏を増やして強磁性領域22内のキャリヤ密度またはキャリヤ密度分布を変えることにより、歳差運動を起こす。前に説明したように、パルスの継続時間を用いて、言い換えるとt90およびt180パルスを用いて、2つの状態の間にまたは3つ以上の状態の間に切り替えることができる。
データを読み取るには、固定のトンネル障壁に隣接するリード24に他方のリード25に対して正の電圧パルス29を与えて、磁化配向に依存する電流46(i)を測定する。
【0080】
図16の(a)、図16の(b)、図16の(c)を参照して磁気抵抗素子51を説明する。この場合は、電界パルスを与えることにより、不均一に歪んだ強磁性半導体内の最大キャリヤ濃度をシフトさせ、これにより磁化異方性を変えて磁化の歳差運動を開始させる。
素子51は、一般に細長くて約1μmの幅(w)と約20μmの長さ(l)とを有するホール・バー52を含む。ホール・バー52は第1および第2の端末リード53,54と、バー52の対抗する側に対に配置された第1、第2、第3、第4の側面リード55,56,57,58とを有する。ホール・バー52は下側および上側の電極59,60(以後それぞれ、「下部」および「上部」電極と呼ぶ)の間に挟まれる。
【0081】
図に示すように、パルス発生器61を用いて上部および下部電極59,60の間に電圧パルス62を与える。電流源63を用いて、第1および第2の端末リード53,54の間のホール・バーを通して読取り電流(iread)を与える。第1および第2の電圧計64,65は第1および第2のリード55,56の間と第2および第4の側面リード56,58の間のバイアスを測定して、縦および横の異方性磁気抵抗(AMR)をそれぞれ決定する。また第2および第3の側面リード56,57の間で測定したバイアスを用いて、異常ホール効果(AHE)抵抗を測定することができる。
AMR測定値を用いて、VG=V0(例えば、V0=0)で二軸の面内異方性を示す強磁性層内で磁化の回転が180°より小さい(例えば、90°)ときの2つの状態の間を区別することができる。
AHE測定値を用いて、VG=V0で垂直異方性を持つ系内の上と下の状態の間を区別することができる。
【0082】
特に図16の(b)および図16の(c)では、下部電極59として働くインジウム・ガリウム砒素(In0.05Ga0.95As)基板66上にホール・バー52を形成する。ホール・バー52は、InGaAs基板66の上側のAlAsで形成するベース障壁層67と、段階的(graded)InGaMnAsで形成する不均一に歪んだ強磁性層68と、AlAsで形成する頂部障壁層69とを含む。頂部ゲート電極60はAlで形成する。
【0083】
強磁性層68内の格子定数を制御して変えて、層68内に不均一なひずみを作る。In0.03Ga0.97Asの格子定数はGa0.95Mn0.05Asの格子定数より大きいのでIn0.03Ga0.97As上に成長させた次のGa0.95Mn0.05Asは引っ張りひずみを有する。更に、インジウムを再び導入してInGaMnAsを形成する。InGaMnAsの格子定数がInGaAs基板の格子定数より大きくなるまでインジウム濃度を上げて圧縮ひずみを得る。
素子51は、インジウム・ガリウム砒素(InyGa1−yAs)基板66’(y=5%)と、〜20nmの厚さを有するアルミニウム砒素(AlAs)の層67’と、インジウム・ガリウム・マンガン砒素(InzGa1−x−zMnxAs)68’ の段階層(これはGaMnAs681’のベース層を含み、〜10nmの厚さを有する)とを含むウェーハ70から製作する。
【0084】
図17では、引っ張りひずみを与えながらGa1−xMnxAsの層681’をAlAs層67’の上にエピタキシャル成長させ、層67’をInyGa1−yAs基板66’上に成長させる。この例では、マンガンの濃度は5%(すなわち、x=0.05)であり、インジウムの濃度はz=0から10%まで増加する。
InyGa1−yAs基板66’の一層広い格子定数をGa1−xMnxAs層681’に移す(transmit)と引っ張りひずみを導入する。InzGa1−x−zMnxAs68’を更に成長させる間にインジウムを導入して格子定数を更に大きくして、4元素合金InGaMnAsを形成する。層681のベース71からの距離(d)が大きくなるとインジウム濃度[In]は増加する。
【0085】
異なるひずみプロフィールを用いてよい。例えば、強磁性層68内のひずみが、基板に一層近いところで引っ張りひずみになり基板から一層遠いところで圧縮ひずみに変わるのではなく、圧縮から引っ張りに変わってよい。これは、InyGa1−yAs基板ではなくガリウム砒素(GaAs)基板を有するウェーハから製作し、インジウム(In)ではなく燐(P)を導入してガリウム・マンガン燐砒素(Ga1−yMnxPzAs1−z)の段階層を形成することにより得られる。燐濃度が高くなるに従って格子定数は小さくなる。
【0086】
図18では、強磁性層68の形を変えることによりひずみも変えることができる。例えば、強磁性層68の幅は、層68のベース71では狭くし(幅w1を有する)、ベース71から離れたところでは広く(幅w2>w1を有する)してよい。したがって、層68の一層厚い上部より層68の一層薄い下部の方が、格子はより緩和される。強磁性層68は均一にドープしてよい。
【0087】
図19の(a)および図19の(b)では、2つのゲート59,60の間にゲート・パルス62を与えると電界72を生成して電荷キャリヤ(ここでは多数キャリヤである正孔だけを示す)をシフトして、下側の引っ張りひずみ領域74内および上側の圧縮ひずみ領域75内の電荷キャリヤ濃度を変える。詳しく述べると、パルスはキャリヤ73を下側の引っ張りひずみ領域74から上側の圧縮ひずみ領域75に引っ張って、上側の圧縮ひずみ領域75内の電荷キャリヤ濃度を上げる。
【0088】
下の表2ではひずみおよびキャリヤ濃度で磁気異方性の配向を識別する。
【表2】
磁気層68の磁気異方性76は、層68の面に垂直な(すなわち、軸78に沿う)第1の位置771の向きから層68の面に沿う(すなわち、軸79に沿う)第2の位置772の向きに変わる。したがって有効異方性磁界BAは90°回転する。これにより磁化80は歳差運動を開始し、π/2パルスで配向を90°変える。
【0089】
後でより詳細に説明するが、別の同一のパルス62を与えると、有効異方性磁界BAは再び90°回転するので磁化は更に90°の歳差運動を続ける。したがって、有効異方性磁界BAは再び面外軸77に沿う向きになるが、磁化は第1の配向771に対して逆平行の第3の配向773になる。それにもかかわらず、第1および第3の状態(すなわち、磁化80がこれらの第1および第3の配向771、773に整列する)の磁気抵抗は同じである。これは、前に説明したように、同一線上になければ、AMR測定値は最初と最後の磁化の状態を区別することができるからである。AHE測定値は面に垂直な2つの逆の磁化配向を区別することができる。TMR測定値は固定の基準層に関して平行および逆平行の配向を区別することができる。
【0090】
書込みおよび読取りサイクルは前に述べた図12に示すものと同様である。しかし、読取りサイクルでは、ソース・ドレン・バイアスを与えて電流を測定するのではなく、素子を通して電流を流して、リード55,56,57,58の間に生じる電位差を測定する。
素子51は、第1の素子211を製作するための前に説明したのと同様の方法を用いて製作する。例えば、前に説明したのと同様の方法で層構造を成長させ、電子ビームリソグラフィーおよびRIEを用いてパターン化する。
【0091】
図20の(a)および図20の(b)を参照して第4の磁気抵抗素子81について以下に説明する。これは、ひずみパルスを与えると磁気異方性が変わって磁化の歳差運動を開始する。
素子81は、第1および第2の接触リード84,85を有する圧電層83上に取り付けた積層構造82を含む。層構造82に電気的に接触させるために第1および第2の接点86,87を用いる。
積層構造82は約1μmの幅(W)と約1μmの長さ(L)とを有する。
図に示すように、パルス発生器88を用いて圧電接触リード84,85の間に電圧パルス89を与える。電圧源90を用いて接点86,87の間にバイアスを与え、また電流計91を用いて積層構造82を通って流れる電流を測定する。
【0092】
特に図20の(b)を参照すると、圧電ストレッサ83に接着剤93で取り付けたガリウム砒素(GaAs)基板92の上に積重ね層構造82を形成する。圧電ストレッサは鉛・ジルコン酸塩・チタン酸塩(PZT)から形成する。積層構造82は、(非強磁性)n+−GaAsを含む底部接触層94と、Ga0.98Mn0.02Asを含みかつ5nmの厚さを有する比較的低い飽和保磁力を有する強磁性層(すなわち、「自由」層)95と、25nmの厚さを有するアルミニウム砒素(AlAs)を含むトンネル障壁層96と、50nmの厚さを有するGa0.98Mn0.02Asを含む比較的高い飽和保磁力を有する強磁性層(すなわち、「固着」層)97と、(非強磁性)金を含む頂部接触層98とを含む。
【0093】
他の配列および他の材料を用いてよい。例えば、圧電ストレッサ83は基板92と一体的に形成してよい。例えばGaAaは[110]軸に沿う圧電層でよい。
認識されるように、第4の素子81の強磁性層は半導体である必要はなくて金属でよく、またFe,Ni,Coなどの強磁性金属、または金属合金FePt,CoPt,CoPd、または他の適当な遷移金属/貴金属合金を含んでよい。
書込みおよび読取りサイクルは前に述べた図12に示したものと同様である。
積重ね層構造を用いる必要はない。代わりに、「面内」移送(transport)構造(例えば、図9に示したものと同様な)を用いてよい。例えば、図9に示す構造を圧電ストレッサ83上に取り付けてよい。
【0094】
図21の(a)および図21の(b)を参照して第5の磁気抵抗素子101について以下に説明する。これは、電気パルスと共にひずみを与えると磁気異方性が変わって磁化の歳差運動を開始する。
素子101は強磁性材料のチャネル103を形成する十字形メサ102を含む。これは、この場合はGaAsの層104内に埋め込まれたGa0.98Mn0.02Asのデルタ・ドープ層であって基板105で支持される。第1、第2、第3、第4の接点106,107,108,109はチャネル103の遠端の接点で、表面頂部ゲート110を用いて磁気異方性を制御する。基板105は第1および第2の接点112,113を有する圧電層111上に取り付ける。これらの接点は、強磁性チャネル103に事前応力を与えるために圧電層111内に電界を生成するのに用いる。
チャネル103の各アームは約2μmの幅と約20μmの長さを有する。
【0095】
図に示すように、第1のパルス発生器114を用いて、圧電接触リード112,113の間に電圧パルス115を与えてチャネル103に事前応力を与える。第2のパルス発生器116を用いて、電圧パルス117を表面ゲート110に与えて磁気異方性の歳差運動を起こす。
電圧源118を用いて第1および第2の接点106,107の間にバイアス119を与え、電流計120を用いて第3および第4の接点108,109の間を流れる電流121を測定する。
特に図21bでは、基板105を接着剤層122により圧電層111に取り付ける。
【0096】
書込みおよび読取りサイクルは前に述べた図12に示すものと同様である。しかし図22に示すように、電圧パルス115はt180またはt90パルスの間与える。
これまで説明した実施の形態では、素子へのデータの書込みおよび読取りは2つの状態だけを有するかのように素子を処理することに基づき、素子毎に1ビットの情報だけを記憶する。しかし二軸の面内異方性および一軸の面に垂直な異方性を利用することにより、パルスおよび反転パルスという2つのタイプの組合せを用いて、6つの残存磁気配向にアクセスして、3ビット以上(すなわち、6つの異なる状態に対応する
を符号化することができる。
【0097】
図23では、強磁性層22,68,95,103は6つの残存磁化配向131,132,133,134,135,136を示す。
強磁性層22,68,95,103は2つの領域で動作することができる。すなわち、ゼロdcバイアス・オフセット(すなわち、VG=V0)に関して2つのタイプのパルスを与える二軸の面内異方性領域と、反転バイアス・パルスを与える(すなわち、非ゼロdcバイアス・オフセット(すなわち、VG=Vc)に関してバイアス・パルスを与える)垂直異方性領域とである。
VG=V0では、異なるパルス長さを持つ高速ゲート電圧パルスによりトリガされる歳差運動切換えは、層面内の2つの二軸の磁化容易軸に沿う4つの残存状態131,132,133,134の間に磁化ベクトルを回転させる。
【0098】
図24を参照すると、或る意味で、隣接する磁化配向131,132,133,134に、90°回転させるゲート・パルス29,62,91を用いて別の第1、第2、第3、第4の磁化配向131,132,133,134からアクセスすることができる。このタイプのパルスをここでは「p90°パルス」または「t90パルス」と呼ぶ。
逆の意味で、隣接する磁化配向131,132,133,134に、270°回転させるゲート・パルス(図示せず)を用いて別の第1、第2、第3、第4の磁化配向131,132,133,134からアクセスすることができる。
【0099】
また第1、第2、第3、第4の磁化配向131,132,133,134に、180°回転させるゲート・パルス138(以後「p180°パルス」または「t180パルス」と呼ぶ)を用いて同一線上の配向131,132,133,134からアクセスすることができる。したがって、第1の磁化配向131はp180°パルス138を用いて第3の磁化配向133からアクセスすることができる。
二軸の面内異方性領域と一軸の面に垂直な異方性領域の間の変更は、散逸減衰を利用する「断熱」磁化配向変更により行うことができる。例えば、ゲート・バイアスがV0からVCに変わった後で、磁化ベクトルMは変更された異方性磁界BA(VC)の回りで歳差運動を始め、散逸減衰により磁化ベクトルは変更された異方性磁界BA(VC)に向けてらせん形を描く。最終的に、磁化ベクトルMは変更された異方性に対応する磁化容易軸の1つに沿って整列する(熱変動内で)。
【0100】
領域変更はゲート・バイアス・ステップ変更139,140により行う。これらを以後それぞれ「pdampingパルス」および「反転pdampingパルス」と呼ぶ。
第5および第6の磁化配向135,136には180°回転を起こすゲート・パルス141を用いてアクセスすることができる。しかしパルス141はp180°パルス108に関して反転しており、以後「反転p180°パルス」と呼ぶ。
【0101】
図25の(a)および図25の(b)は、p90°パルス137および反転p180°パルス141を与える効果を示す。
図25の(a)はVG=V0での二軸の面内異方性領域内の歳差運動の90°切換えを示す。図に示すように、磁気異方性はVG=VCでゲート電圧パルス137の間に面内から面に垂直に変わり、磁化ベクトルMが90°回転を終わった後、元のV0に切り換わる。
【0102】
図25の(b)は、面に垂直な異方性領域内で反転パルスが180°反転をトリガすることを示す。
AHE測定値により、面に垂直な配向に沿う2つの一軸の磁化状態を区別することができる。また横および縦のAMRの測定値により、面内の4つの二軸の磁化状態を明確に区別することができる。
【0103】
認識されるように、上に述べた実施の形態に多くの変更を行うことができる。例えば、強磁性層は、例えば5nmから20nmの間の異なる厚さを有してよい。素子は電子または正孔の移動に基づいて動作してよい。GaMnAs層を保護するのにキャッピング層を用いてよい。磁気抵抗素子は磁気トンネル接合部またはスピン・バルブなどの多層構造を有してよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
添付の図面を参照して、例により本発明の実施の形態を説明する。
【図1】本発明に従って電界パルスを強磁性素子に与えて磁気異方性の配向を変えることにより磁化を切り換えることを示す。
【図2】(a)は、リソグラフィー誘導のひずみ緩和により磁気異方性の配向が変わる素子と、ひずみが変わらないファン・デル・ポー素子の走査電子顕微鏡写真である。(b)は(a)に示す素子の拡大図である。(c)は(a)に示す素子およびファン・デル・ポー素子を製作するのに用いる層構造の断面図である。
【図3】(a)は、固定の磁界の大きさ(B=4T)を有する磁界を、角を[110]軸から測定して回転させるときの、図2の(a)に示す素子のアームの4.2°Kでの縦の異方性磁気抵抗のプロットを示す。(b)は、固定の磁界の大きさ(B=4T)を有する磁界を、角を測定して回転させるときの、図2の(a)に示す素子および図2の(a)に示すファン・デル・ポー素子のアームの4.2°Kでの横の磁気抵抗のプロットを示す。(c)は、図2の(a)に示すものと同様であるが変化する磁界内の異なる角でより広くまたより長いチャネルを有する素子の、[110]向きのアームの4.2°Kでの縦の異方性磁気抵抗のプロットを示す。(d)は、固定角で変化する磁界内の図2の(a)に示す素子の[110]向きのアームの4.2°Kでの縦の異方性磁気抵抗のプロットを示す。
【図4】(a)は、図2の(a)に示すファン・デル・ポー素子の4.2°Kでの横の抵抗測定値のプロットを示す。(b)は、図2の(a)に示す素子の4.2°Kでの横の抵抗測定値のプロットを示す。
【図5】(a)は、図2の(a)に示す素子の横の断面の[001]軸に沿う歪の数値シミュレーション値の2次元プロットを示す。(b)は、図2の(a)に示す素子の横の断面の[110]軸に沿う歪の数値シミュレーション値のプロットを示す。(c)は、図2の(a)に示す素子の[001]面を通る異なる断面のひずみのシミュレーション値のプロットを示す。(d)は、図2の(a)に示す素子の[110]面を通る異なる断面のひずみのシミュレーション値のプロットを示す。
【図6】(a)は、図2の(a)に示すものと同様の素子および図2の(a)に示す素子の向きのアームの磁化容易軸の配向を示す。(b)は、理論的磁気結晶エネルギー値のプロットを、異なる歪でのまた異なる方向に沿う面内磁化角の関数として示す。
【図7】2つの異なるキャリヤ濃度について圧縮ひずみの下で[001]向きのGaAs上に成長させたGa0.96Mn0.04Asの磁気結晶エネルギー・プロフィールを示す。
【図8】(a)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第1の素子の略図である。(b)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第2の素子の略図である。(c)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第3の素子の略図である。
【図9】図8の(a)に示す第1の素子の斜視図である。
【図10】(a)は、図9に示す素子のゲート電圧および面内の電流に平行な磁界に対するチャネル・コンダクタンスのプロットである。(b)は、図9に示す素子のクーロン封鎖振動を示す。(c)は、図9に示す素子のゲート電圧に対する臨界配向変更磁界のプロットを示す。
【図11】(a)は、図8の(b)に示す第2の素子の平面図である。(b)は、図11の(a)に示す第2の素子の線A−A’に沿う断面図である。
【図12】図8の(a)および図8の(b)に示す素子の書込みおよび読取りサイクルを示す。
【図13】(a)は、図8の(a)に示す素子の異なる段階での製作を示す。(b)は、図8の(a)に示す素子の異なる段階での製作を示す。(c)は、図8の(a)に示す素子の異なる段階での製作を示す。
【図14】(a)は、図8の(c)に示す第3の素子の斜視図である。(b)は、第3の素子の線B−B’に沿う断面図である。
【図15】図8の(c)に示す素子の書込みおよび読取りサイクルを示す。
【図16】(a)は、本発明に係る強磁性素子の磁気異方性の配向を変えることができる別の素子の平面図である。(b)は、図16の(a)に示す素子の線C−C’に沿う縦断面図である。(c)は、図16の(a)に示す素子の線D−D’に沿う横断面図である。
【図17】図15に示す素子を製作するのに用いる層構造を示す。
【図18】図16の(a)に示す素子の変形の横断面図である。
【図19】(a)は、強磁性半導体での変化するキャリヤ分布の略図を示す。(b)は、磁気異方性の配向変更を示す。
【図20】(a)は、本発明に係る強磁性半導体内の磁気異方性の配向を変えることができる第4の素子の平面図である。(b)は、図20の(a)に示す素子の線E−E’に沿う断面図である。
【図21】(a)は、本発明に係る強磁性素子内の磁気異方性の配向を変えることができる第5の素子の平面図である。(b)は、図21の(a)に示す素子の線F−F’に沿う断面図である。
【図22】図21の(a)に示す素子の書込みおよび読取りサイクルを示す。
【図23】6つの残存磁化配向を有する強磁性素子を示す。
【図24】本発明に係る図23に示す残存磁化配向の間の切換えを示す。
【図25】(a)は、図23に示す強磁性素子に電界パルスを与えて、本発明に従って磁化異方性の配向を変更しまた磁化を切り換えることを示す。(b)は、図23に示す強磁性素子に電界パルスを与えて、本発明に従って磁化異方性の配向を変更しまた磁化を切り換えることを示す。
【符号の説明】
【0105】
21 磁気抵抗素子
22 強磁性領域
23 ゲート
29 電界パルス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域と前記強磁性領域に容量的に結合するゲートとを含む磁気抵抗素子を動作させる方法であって、
電界パルスを前記強磁性領域に与えることにより、磁気異方性の配向を変えて磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを含む磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項2】
前記電界パルスを前記強磁性領域に排他的に与えて、前記強磁性領域の磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項3】
磁界パルスを与えずに前記強磁性領域の磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換えるよう配置する、
ことを含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項4】
前記素子は磁界パルスを生成するための前記強磁性領域の近くを走る導電経路を更に含み、前記方法は、
前記電界パルスを与えると共に磁界パルスを前記強磁性領域に与えて、異方性磁界と与えた磁界とを含む有効磁界の配向の変化を強化して、前記磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを更に含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項5】
前記磁界パルスの前縁を与える前に前記電界パルスの前縁を与える、
ことを含む請求項4記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項6】
前記素子は前記強磁性層より高い飽和保磁力を有しかつトンネル障壁層により分離される別の強磁性領域を更に含み、前記方法は、
前記電界パルスを与えると共に強磁性領域を通るスピン・トランスファ電流パルスを与えて前記磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを更に含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項7】
前記スピン・トランスファ電流パルスの前縁を与える前に前記電界パルスの前縁を与える、
ことを含む請求項6記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項8】
前記強磁性領域は不均一なひずみ分布を有する強磁性半導体を含み、前記方法は、
十分な大きさの電界パルスを与えて電荷キャリヤの分布を前記不均一なひずみ分布に対して変える、
ことを含む請求項1〜7のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項9】
前記不均一なひずみ分布は圧縮ひずみの領域および引っ張りひずみの領域を含む、請求項8記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項10】
前記強磁性半導体は(Ga,Mn)Asを含む、請求項8または9記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項11】
【数1】
で示すtprecessの四分の一の倍数である継続時間tを有する電界パルスを与えることを含む、ただし、γは回転磁気定数で
BAは強磁性半導体の磁気異方性磁界である、
請求項1〜10のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項12】
0nsと5nsの間の継続時間tを有するパルスを与えることを含む、請求項11記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項13】
前記電界パルスを与えることとは独立に磁界を前記強磁性領域に与えて前記強磁性領域の前記磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換えるのを支援する、
ことを更に含む請求項1〜12のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項14】
応力を前記強磁性領域に与え、前記応力を与えると共に前記電界パルスを与える、
ことを含む請求項1〜13のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項15】
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法であって、
応力パルスを前記強磁性領域に与えることにより、磁気異方性の配向を変えて磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを含む磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項16】
前記素子は前記強磁性領域に機械的に結合する圧電領域を含み、また前記応力パルスを与えることは前記圧電領域全体に電圧パルスを与えることを含む、請求項15記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項17】
前記応力パルスを前記強磁性領域に与えると共に電界パルスを前記強磁性領域に与える、
ことを更に含む請求項15または16記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項18】
装置であって、
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、
先行請求項のいずれかに従って素子を動作させる回路と、
を含む装置。
【請求項19】
磁気抵抗素子であって、
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域と、
第1の電気入力に応じて応力を前記強磁性領域に与える手段と、
第2の電気入力に応じて電界を前記強磁性領域に与える手段と、
を含む磁気抵抗素子。
【請求項20】
応力を与える手段は前記強磁性領域に結合する圧電領域を含み、また電界を与える前記手段は少なくとも1つのゲート電極を含む、請求項19記載の磁気抵抗素子。
【請求項1】
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域と前記強磁性領域に容量的に結合するゲートとを含む磁気抵抗素子を動作させる方法であって、
電界パルスを前記強磁性領域に与えることにより、磁気異方性の配向を変えて磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを含む磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項2】
前記電界パルスを前記強磁性領域に排他的に与えて、前記強磁性領域の磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項3】
磁界パルスを与えずに前記強磁性領域の磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換えるよう配置する、
ことを含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項4】
前記素子は磁界パルスを生成するための前記強磁性領域の近くを走る導電経路を更に含み、前記方法は、
前記電界パルスを与えると共に磁界パルスを前記強磁性領域に与えて、異方性磁界と与えた磁界とを含む有効磁界の配向の変化を強化して、前記磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを更に含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項5】
前記磁界パルスの前縁を与える前に前記電界パルスの前縁を与える、
ことを含む請求項4記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項6】
前記素子は前記強磁性層より高い飽和保磁力を有しかつトンネル障壁層により分離される別の強磁性領域を更に含み、前記方法は、
前記電界パルスを与えると共に強磁性領域を通るスピン・トランスファ電流パルスを与えて前記磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを更に含む請求項1記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項7】
前記スピン・トランスファ電流パルスの前縁を与える前に前記電界パルスの前縁を与える、
ことを含む請求項6記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項8】
前記強磁性領域は不均一なひずみ分布を有する強磁性半導体を含み、前記方法は、
十分な大きさの電界パルスを与えて電荷キャリヤの分布を前記不均一なひずみ分布に対して変える、
ことを含む請求項1〜7のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項9】
前記不均一なひずみ分布は圧縮ひずみの領域および引っ張りひずみの領域を含む、請求項8記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項10】
前記強磁性半導体は(Ga,Mn)Asを含む、請求項8または9記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項11】
【数1】
で示すtprecessの四分の一の倍数である継続時間tを有する電界パルスを与えることを含む、ただし、γは回転磁気定数で
BAは強磁性半導体の磁気異方性磁界である、
請求項1〜10のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項12】
0nsと5nsの間の継続時間tを有するパルスを与えることを含む、請求項11記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項13】
前記電界パルスを与えることとは独立に磁界を前記強磁性領域に与えて前記強磁性領域の前記磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換えるのを支援する、
ことを更に含む請求項1〜12のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項14】
応力を前記強磁性領域に与え、前記応力を与えると共に前記電界パルスを与える、
ことを含む請求項1〜13のいずれか一項記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項15】
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法であって、
応力パルスを前記強磁性領域に与えることにより、磁気異方性の配向を変えて磁化を前記第1と第2の配向の間に切り換える、
ことを含む磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項16】
前記素子は前記強磁性領域に機械的に結合する圧電領域を含み、また前記応力パルスを与えることは前記圧電領域全体に電圧パルスを与えることを含む、請求項15記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項17】
前記応力パルスを前記強磁性領域に与えると共に電界パルスを前記強磁性領域に与える、
ことを更に含む請求項15または16記載の磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項18】
装置であって、
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、
先行請求項のいずれかに従って素子を動作させる回路と、
を含む装置。
【請求項19】
磁気抵抗素子であって、
磁気異方性を示しかつその磁化を少なくとも第1と第2の配向の間に切り換えることができる強磁性領域と、
第1の電気入力に応じて応力を前記強磁性領域に与える手段と、
第2の電気入力に応じて電界を前記強磁性領域に与える手段と、
を含む磁気抵抗素子。
【請求項20】
応力を与える手段は前記強磁性領域に結合する圧電領域を含み、また電界を与える前記手段は少なくとも1つのゲート電極を含む、請求項19記載の磁気抵抗素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2009−21586(P2009−21586A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170142(P2008−170142)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(506333358)ユニヴェルシテ・パリ・シュド・オーンズ (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS SUD XI
【出願人】(304044818)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック (9)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(506333358)ユニヴェルシテ・パリ・シュド・オーンズ (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS SUD XI
【出願人】(304044818)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック (9)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
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