説明

移動検出装置および記録装置

【課題】 ダイレクトセンシングで物体の移動状態を高精度で且つ確実に検出すること。
【解決手段】 搬送ベルトには複数の孤立パターンから構成される検出用パターンがマーキングされている。第1画像データから切り出したテンプレートパターンに含まれる検出用パターンの一部が、いかなる場合も第2画像データのサーチ領域内で唯一の固有パターンとなるように、検出用パターンの中の複数の孤立パターンの形態、テンプレートパターンを切り出すテンプレート領域のサイズ、サーチ領域のサイズが関係付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理によって物体の移動を検出する技術、および同技術を採用したプリンタ等の記録装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント用紙等のメディアを搬送しながらプリントを行なう際、搬送精度が低いと、中間調画像の濃度ムラが生じたり、倍率誤差が生じたりして、得られるプリント画像の品質が劣化する。そのため、高精度な部品を採用し精密な搬送機構を搭載しているが、プリント品質に対する要求は厳しくさらなる精度向上が望まれている。一方ではコストに対する要求も厳しく、高精度化と低コスト化の両立が求められている。
【0003】
これに対処するため、メディアの移動を高精度に検出して、フィードバック制御により安定した搬送を実現するために、メディアの表面を撮像して、搬送されるメディアの移動を画像処理によって検出する試みがなされている。
【0004】
特許文献1は、このメディアの移動検出についての一手法を開示する。特許文献1は、移動するメディアの表面をイメージセンサにより時系列に複数回撮像し、得られた画像同士をパターンマッチング処理で比較して、メディアの移動量を検出するものである。以下、物体の表面を直接検出して移動状態を検出する方式をダイレクトセンシング、この方式を用いた検出器をダイレクトセンサと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−217176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダイレクトセンシングでは、第1画像データからテンプレートパターンを切り出し、第2画像データの中でテンプレートパターンと相関が大きい領域を画像処理でサーチする。この際、偶発的にテンプレートパターンと同一又は非常に類似したパターンがサーチ範囲内に複数位置に存在してしまう可能性がある。その場合、複数位置のうち誤った位置をマッチング判定してしまうと検出誤差となる。すなわち、高精度なダイレクトセンシングのためには、テンプレートパターンがサーチ範囲内で唯一の固有パターンである必要である。
【0007】
本発明は上述の課題認識のもとになされたものである。本発明の目的は、ダイレクトセンシングで物体の移動状態を高精度で且つ確実に検出することが可能な手法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決する本発明の移動検出装置は、複数の孤立パターンから構成される検出用パターンがマーキングされた搬送ベルトを含み、搭載するメディアを所定方向に搬送するための搬送機構と、前記搬送ベルトの少なくとも前記検出用パターンの一部が含まれる領域を撮像して、異なるタイミングで第1画像データおよび第2画像データを取得するのに用いられるイメージセンサと、前記第1画像データから前記検出用パターンの一部を含むテンプレートパターンを切り出し、前記第2画像データのサーチ領域内で前記テンプレートパターンと相関が大きい領域を画像処理でサーチすることで、前記搬送ベルトの移動状態を求める処理部とを有し、前記テンプレートパターンに含まれる前記検出用パターンの一部が、前記サーチ領域内で唯一の固有パターンとなるように、前記検出用パターンの中の複数の孤立パターンの形態、前記テンプレートパターンを切り出すテンプレート領域のサイズ、前記サーチ領域のサイズが関係付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイレクトセンシングで物体の移動状態を高精度で且つ確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態のプリンタの断面図
【図2】プリンタのシステムブロック図
【図3】ダイレクトセンサの構成図
【図4】メディアの給送、記録、排出の動作シーケンスを示すフローチャート図
【図5】メディアを搬送する動作シーケンスを示すフローチャート図
【図6】パターンマッチングで移動量を求める処理を説明するための図
【図7】搬送ベルトの内面の模式図
【図8】搬送ベルトにマーキングされた検出用パターンの拡大図
【図9】1単位パターンの例(サイズが異なる)を示す図
【図10】移動による像伸び現象を説明する図
【図11】像伸びが発生したときの第1画像データと第2画像データを示す図
【図12】像伸び量とパターン検出精度の関係を示すグラフ図
【図13】隣り合うパターン同士の像干渉の現象を説明する図
【図14】像伸び量とパターン検出精度の関係を示すグラフ図
【図15】孤立パターンがピンぼけを起こして撮像された様子を示す図
【図16】1単位パターンの例(形状が異なる)を示す図
【図17】1単位パターンの例(コントラスト、濃度、又は色が異なる)を示す図
【図18】1単位パターンの例(移動方向の配置関係が異なる)を示す図
【図19】1単位パターンの例(移動方向と直交方向の配置関係が異なる)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示する。ただし、例示する実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲を限定する主旨のものではない。
【0012】
本発明の適用範囲は、プリンタを始めとして、物体の移動を高精度に検出することが要求される移動検出の分野に広く渡る。例えば、プリンタ、スキャナ等の機器や、物体を搬送して検査、読取、加工、マーキング等の各種の処理を施す、工業分野、産業分野、物流分野などで使用する機器に適用可能である。また、本発明をプリンタに適用する場合は、インクジェット方式、電子写真方式、サーマル方式、ドットインパクト方式などの様々な方式のプリンタに適用可能である。なお、本明細書において、メディアとは、紙、プラスチックシート、フィルム、ガラス、セラミック、樹脂等のシート状あるいは板状の媒体をいう。また、本明細書において上流・下流とは、シートに画像記録を行なう際のシートの移動方向を基準とした上流・下流を意味するものとする。
【0013】
以下に、記録装置の一例であるインクジェット方式のプリンタの実施形態を説明する。本実施形態のプリンタは、プリントヘッドの往復移動(主走査)とメディアの所定量のステップ送り(副走査)とを交互に行なって二次元画像を形成する、いわゆるシリアルプリンタである。なお、本発明は、シリアルプリンタに限らず、プリント幅をカバーする長尺ライン型プリントヘッドを持ち、固定されたプリントヘッドに対してメディアが移動して二次元画像を形成する、いわゆるラインプリンタにも適用可能である。
【0014】
図1はプリンタの主要部の構成を示す断面図である。プリンタは、メディアをベルト搬送系によって副走査方向(第1方向、所定方向)に移動させる搬送機構と、移動するメディアに対してプリントヘッドを用いて記録を行なう記録部とを有する。プリンタは更に、物体の移動状態を間接的に検出するエンコーダ133と、物体の移動状態を直接的に検出するダイレクトセンサ134を有する。
【0015】
搬送機構は、回転体である第1ローラ202、第2ローラ203、およびこれらローラの間に所定のテンションで掛けられた幅広の搬送ベルト205を有する。メディア206は搬送ベルト205の表面に静電力等による吸着もしくは粘着によって密着して、搬送ベルト205の移動に伴なって搬送される。副走査のための駆動源である搬送モータ171の回転力は駆動ベルト172によって駆動ローラである第1ローラ202に伝達され、第1ローラ202が回転する。第1ローラ202と第2ローラ203は搬送ベルト205によって同期回転する。搬送機構は更に、トレイ208の上に積載されたメディア207を一枚ずる分離して搬送ベルト205の上に給送するための給送ローラ209と、これを駆動する給送モータ161(図1では不図示)を有する。給送モータ161の下流設けられたペーパーエンドセンサ132は、メディア搬送のタイミングを取得するためにメディアの先端または後端を検出するものである。
【0016】
ロータリ式のエンコーダ133(回転角センサ)は、第1ローラ202の回転状態を検出して、搬送ベルト205の移動状態を間接的に取得するのに用いられる。エンコーダ133はフォトインタラプタを備え、第1ローラ202と同軸に取り付けられたコードホイール204の円周に沿って刻まれている等間隔のスリットを光学的に読み取って、パルス信号を生成する。
【0017】
ダイレクトセンサ134は、搬送ベルト205の下方(メディア206の載置面とは反対の裏面側)に設置されている。ダイレクトセンサ134は、搬送ベルト205の面にマーキングされたマーカーを含む領域を撮像するイメージセンサ(撮像デバイス)を備える。ダイレクトセンサ134は、搬送ベルト205の移動状態を後述する画像処理によって直接的に検出するものである。搬送ベルト205に対してメディア206は面同士で強固に密着しているので、ベルト表面とメディアとの間での滑りによる相対位置変動は無視できるほど小さい。そのため、ダイレクトセンサ134はメディアの移動状態を直接的に検出するのと等価とみなすことができる。なお、ダイレクトセンサ134は、搬送ベルト205の裏面を撮像する形態には限定されず、搬送ベルト205の表面のメディア206で覆われない領域を撮像するようにしてもよい。また、ダイレクトセンサ134は、被写体として搬送ベルト205ではなくメディア206の表面を撮像するものであってもよい。
【0018】
記録部は、主走査方向に往復移動するキャリッジ212と、これに搭載されたプリントヘッド213及びインクタンク211を有する。キャリッジ212は主走査モータ151(図1では不図示)の駆動力によって主走査方向(第2方向)に往復移動する。この移動に同期してプリントヘッド213のノズルからインクを吐出して、メディア206上にプリントする。プリントヘッド213とインクタンク211は一体化してキャリッジ212に対して着脱されるものであっても、別体として個別にキャリッジ212に対して着脱されるものであってもよい。プリントヘッド213はインクジェット方式によりインクを吐出するものであり、その方式は発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式などを採用することができる。
【0019】
図2はプリンタのシステムブロック図である。コントローラ100は、CPU101、ROM102、RAM103を有する。コントローラ100は、プリンタ全体の各種制御や画像処理等を司る制御部と処理部とを兼ね備える。情報処理装置110は、コンピュータ、デジタルカメラ、TV、携帯電話機など、メディアに記録するための画像データを供給する装置であり、インターフェース111を通してコントローラ100と接続される。操作部120は操作者とのユーザーインターフェースであり、電源スイッチを含む各種入力スイッチ121と表示器122を備える。 センサ部130はプリンタの各種状態を検出するためのセンサ群である。ホームポジションセンサ131は往復移動するキャリッジ212のホームポジションを検出する。センサ部130は、上述したペーパーエンドセンサ132、エンコーダ133、およびダイレクトセンサ134を備える。これらの各センサはコントローラ100に接続されている。コントローラ100の指令に基づいて、ドライバを介してプリントヘッドやプリンタの各種モータが駆動される。ヘッドドライバ140は記録データに応じてプリントヘッド213を駆動する。モータドライバ150は主走査モータ151を駆動する。モータドライバ160は給送モータ161を駆動する。モータドライバ170は副走査のための搬送モータ171を駆動する。
【0020】
図3はダイレクトセンシングを行なうためのダイレクトセンサ134の構成図である。ダイレクトセンサ134は、LED、OLED、半導体レーザ等の光源301を含む発光部、イメージセンサ302と屈折率分布レンズアレイ等の撮像光学系303を含む受光部を有する。更に、これら発光部と受光部と、さらに駆動回路やA/D変換回路などの回路部304を1つのセンサユニットとしたものである。光源301によって撮像対象である搬送ベルト205の裏面側の一部を照明する。イメージセンサ302は撮像光学系303を介して照明された所定の撮像領域を撮像する。イメージセンサはCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどの二次元エリアセンサまたはラインセンサである。イメージセンサ302の信号はA/D変換されデジタル画像データとして取り込まれる。イメージセンサ302は、物体(搬送ベルト205)の表面を撮像して異なるタイミングで複数の画像データ(連続して取得したものを、第1画像データ、第2画像データという)を取得するのに用いられる。そして後述するように、第1画像データからテンプレートパターンを切り出し、前記第2画像データの中で前記テンプレートパターンと相関が大きい領域を画像処理でサーチすることで、物体の移動状態を求めることができる。画像処理を行なう処理部はコントローラ100であってもよいし、ダイレクトセンサ134のユニットに処理部を内蔵するようにしてもよい。
【0021】
図4はメディアの給送、記録、排出の一連の動作シーケンスを示すフローチャート図である。これらの動作シーケンスはコントローラ100の指令に基づいてなされる。ステップS501では、給送モータ161を駆動して給送ローラ209によってトレイ208上のメディア207を1枚ずつ分離して搬送経路に沿って給送する。ペーパーエンドセンサ132が給送中のメディア206の先頭を検出すると、この検出タイミングに基づいてメディアの頭出し動作を行なって所定の記録開始位置まで搬送する。
【0022】
ステップS502では、搬送ベルト205を用いてメディアを所定量ずつステップ送りする。所定量とは1バンド(プリントヘッドの1回の主走査)の記録における副走査方向における長さである。例えば、プリントヘッド213の副走査方向におけるノズル列幅の半分ずつ送りながら2回ずつ重ねてマルチパス記録を行なう場合は、所定量はノズル列幅の半分の長さとなる。
【0023】
ステップS503では、キャリッジ212によってプリントヘッド213を主走査方向に移動させながら、1バンド分の記録を行なう。ステップS504では、すべての記録データの記録が終了したかを判断する。未記録の残りがある場合(NO)は、ステップS502に戻って副走査のステップ送りと主走査の1分の記録を繰り替えす。全ての記録が終了してステップS504の判断がYESになったら、ステップS505に移行する。ステップS505ではメディア206を記録部から排出する。こうして1枚のメディア206に二次元の画像が形成される。
【0024】
図5のフローチャート図を用いて、ステップS502のステップ送りの動作シーケンスについて更に詳細に説明する。ステップS601では、ダイレクトセンサ134のイメージセンサで搬送ベルト205のマーカーを含む領域を撮像する。取得した画像データは、移動開始前の搬送ベルトの位置を示すものであり、RAM103に記憶される。ステップS602では、エンコーダ133でローラ202の回転状態をモニタしながら搬送モータ171を駆動して搬送ベルト205の移動、すなわちメディア206の搬送制御を開始する。目標とする搬送量だけメディア206を搬送するようにコントローラ100がサーボ制御を行う。このエンコーダを用いた搬送制御と並行して、ステップS603以降の処理を実行する。
【0025】
ステップS603では、ダイレクトセンサ134でベルトを撮像する。撮像のタイミングについては、1バンド分の記録をするための目標とするメディア搬送量(以後、目標搬送量という)、イメージセンサの第1方向における幅、および移動速度などによって予め決められた搬送量を搬送したと推定されるタイミングで撮像する。本例では、予め決められた搬送量を搬送した時点でエンコーダ133が検出するであろうコードホイール204の特定のスリットを指定しておき、そのスリットをエンコーダ133が検出したタイミングで撮像を開始する。このステップS603の更なる詳細については後述する。
【0026】
ステップS604では、直前にステップS603で撮像した第2画像データと、そのひとつ前に撮像した第1画像データとの間で、どれだけの距離だけ搬送ベルト205が移動したかを画像処理によって検出する。移動量検出を処理の詳細については後述する。目標搬送量に応じて決められた回数だけ所定のインターバルで撮像を行なう。ステップS605では、決められた回数の撮像を終了したか否かを判断する。終了してない場合(NO)はステップS603に戻って終了するまで処理を繰り返す。決められた回数だけ繰返し搬送量を検出する毎に搬送量を累計していき、最初にステップS601で撮像したタイミングからの1バンド分の搬送量を求める。ステップS606では、1バンド分の、ダイレクトセンサ134で取得した搬送量とエンコーダ133から取得した搬送量の差分を計算する。エンコーダ133は間接的な搬送量の検出であり、ダイレクトセンサ134による直接的な搬送量の検出に較べて検出精度に劣る。従って、上述の差分はエンコーダ133の検出誤差とみなすことができる。
【0027】
ステップS607では、ステップS606で求めたエンコーダの誤差分だけ搬送制御に補正を与える。補正には、搬送制御の現在の位置情報を誤差分だけ増減して補正する方法、目標搬送量を誤差分だけ増減して補正する方法があり、いずれの方法を採用してもよい。こうしてフィードバック制御により目標搬送量までメディア206を正確に搬送して1バンド分の搬送が完了する。
【0028】
図6は、上述のステップS604の処理の詳細を説明するための図である。ダイレクトセンサ134の撮像で取得された搬送ベルト205の第1画像データ700、第2画像データ701が模式的に示されている。第1画像データ700、第2画像データ701の中で黒点で示される多数のパターン702(明暗の階調差がある部分)は、搬送ベルト205にランダム又は所定の規則に基づいて付与された多数のマーカーの像である。なお、図2に示した装置のように被写体がメディアの場合には、メディア表面の微視的なパターン(紙の繊維パターンなど)が同等の役割を果たす。第1画像データ700に対して、上流側の位置にテンプレート領域を設定して、この部分の画像をテンプレートパターン703として切り出す。第2画像データ701を取得したら、切り出したテンプレートパターン703と類似のパターンが、第2画像データ701のサーチ領域内のどこに位置するかをサーチする。サーチはパターンマッチングの手法により行なう。類似度を判定するアルゴリズムは、SSD(Sum of Squared Difference)、SAD(Sum of Absolute Difference)、NCC(Normalized Cross−Correlation)等が知られる。いずれを採用してもよい。この例では最も類似するパターンが領域704に位置している。第1画像データ700におけるテンプレートパターン703と第2画像データ701における領域704との副走査方向における撮像デバイスの画素数の差分を求める。そして、この差分画素数に1画素に対応した距離を掛けることで、この間の移動量(搬送量)を求めることができる。
【0029】
図7は搬送ベルト205の内面の模式図であり、エンドレスベルトの一部を切り出して描いたものである。ベルト内面でイメージセンサと対向する領域には、光学的に識別可能な検出用パターン290がマーキングされている。検出用パターン290は、移動方向(y方向)に沿ってベルト全周に渡って形成されている。検出用パターンは以下の(1)〜(6)のいずれかの方法又はこれら方法の任意の組み合わせでマーキングされたものである。
(1)搬送ベルトに塗料で直接描画
(2)パターニングを施したシールを搬送ベルトに貼り付け
(3)搬送ベルト表面に凹凸を形成
(4)搬送ベルト表面の塗膜面を削って形成
(5)搬送ベルトの素材にレーザマーキング
(6)透過性の搬送ベルトの内面に不透過パターンを形成
【0030】
図8は検出用パターン290の拡大図である。検出用パターン290は移動方向(y方向)に沿って細長い形状である。検出用パターン290の幅方向サイズはイメージセンサの撮像領域の幅以上であることが望ましく、本例では2.000mmとしている。移動方向にはイメージセンサで撮像する撮像領域の移動方向における長さ以上の所定長さを1単位(1周期)とした単位パターンが、搬送ベルトの全周に渡って繰り返し並べることで検出用パターン290が構成されている。本例では、ベルト周長は256mm、1単位は12.800mmで、つまり1単位はベルト周長の1/20となっている。
【0031】
検出用パターン290を構成する各々の単位パターン(1単位)は、以下に説明するルール1からルール5の各条件をすべて満たすように配置された複数の孤立パターンから構成されている。
【0032】
[ルール1]
ルール1は、テンプレートパターンを切り出すテンプレート領域の中に1つ以上の孤立パターンが存在することである。いかなる場合も第1画像データから切り出したテンプレートパターンに一つ以上の孤立パターンが必ず含まれるように、テンプレート領域のサイズと孤立パターンとが関係付けられている。この関係を満たすには、1つの単位パターンに含まれる複数の孤立パターンの移動方向における配列ピッチが、テンプレート領域の移動方向におけるサイズよりも小さくなるように設定する。
【0033】
もし、孤立パターン間隔がテンプレートサイズに対して広すぎると、テンプレート領域内に孤立パターンが1つも存在せずに全て空白、若しくは1つのパターンの一部だけが含まれ他は空白のテンプレートパターンが取得されるといった状況が起き得る。その場合、テンプレートパターンは、第2画像データにおいてサーチを行なうサーチ領域内で唯一の固有パターンとならないので、パターンマッチングの誤検出を引き起こす要因となってしまう。
【0034】
[ルール2]
ルール2は、各孤立パターンが他の孤立パターンと区別可能である唯一性を有していること、すなわち唯一の固有パターンであるという条件である。唯一性を持たせるには、孤立パターンのサイズ、形状、コントラスト、濃度、色、配置関係の少なくとも1つを異ならせる手法がある。もし、テンプレートパターンと同じ若しくは極めて類似したパターンが第2画像データのサーチ領域内に複数存在すると、テンプレートパターンが唯一の固有パターンとならないので、パターンマッチングの誤検出を引き起こす要因となってしまう。
【0035】
図9はルール1とルール2の条件を併せ持つ1つの単位パターンの例を示す。図中の破線部3109は第1画像データの内で、テンプレートパターンとして切り取られるテンプレート領域を示し、必ず孤立パターンのいずれかの少なくとも一部が入るサイズとなっている。ルール2として1単位に含まれる複数の孤立パターンは互いにサイズが異なっている。サイズで唯一性を持たせる場合は、サイズの最小差はイメージセンサの1画素ピッチ以上あることが望ましい。この例では、孤立パターン3101,3102,3103,3104はそれぞれ直径1.600mm、1.400mm、1.200mm、1.000mmとしている。このように孤立パターンのサイズが異なれば、テンプレートパターンにいずれの孤立パターン(全部または一部)が含まれた場合でも、そのサイズから他の孤立パターンに対して区別して識別することが可能となる。
【0036】
[ルール3]
ルール3は、移動速度に基づく、隣り合う孤立パターン同士の間隔に関する条件である。隣り合う複数の孤立パターン同士の移動方向における間隔は、1回の撮像(露光時間)の間の搬送ベルトの移動距離より大きくなるようにしている。本例では、ダイレクトセンシングで検出可能な速度レンジの最大移動速度400mm/s、イメージセンサの1回の撮像、すなわち1画像取得の露光時間1msである。従って、1回の撮像における露光の時間内での最大の移動距離は400mm/s×1ms=400μmとなる。従って、隣合う孤立パターンの間隔はいずれも400μmよりも大きな距離となっている。図9において、各孤立パターンの間隔3105,3106,3107,3108はそれぞれ、400μmよりも十分に大きな1.600mm,1.800mm,2.000mm,2.200mmである。
【0037】
この意味について以下説明する。高速に移動する物体を撮像すると、取得される画像データは移動方向にカメラの手ぶれのように像が伸びたものとなる。第1画像データと第2画像データの撮像時の移動速度に差があると、それぞれの画像で像伸びの度合いが異なるため、パターンマッチング処理の精度が劣化する要因となる。移動速度に対して十分に短い露光時間とすれば像伸びを抑えることはできるが、入射光量の積分量が小さくなって画像コントラストの低下や画像ノイズの増大を引き起こすので限度がある。
【0038】
図10において、画像データ3601は1画素ピッチ12μmのイメージセンサによって、静止した状態で1つの孤立パターン(直径160μm)を露光時間1msで撮像して得たものである。一方、画像データ3602は同じ孤立パターンが速度150mm/sで移動している状態で同条件で撮像して得たものである。図11はこのときの第1画像データ4100、外二画像データ4101の様子を示す。
【0039】
同一の孤立パターンを撮像したにも拘わらず、画像データ3602は画像データ3601よりも孤立パターンの像が移動方向に長く伸びた形状となっている。また、画像データ3602は画像データ3601に較べて且つエッジ部がややボケけた像(濃度変化がなだらか)となっている。この伸び量は移動速度×露光時間によって決定される。つまり、第1画像データの取得時と第2画像データの取得時とで移動速度に差があると、像伸びの度合いが変わって孤立パターンの像形状が異なった形状になる。
【0040】
図12は、像伸び量(μm)とパターン検出精度(μm)の関係を示すグラフ図である。像伸び量が大きくなるにつれパターン検出精度が劣化する(±3σの値が大きくなる)ことが判る。従って、像伸びが発生すると孤立パターンが変形してパターンマッチング処理の検出精度が劣化する。
【0041】
更に、この像伸び現象は、隣り合う同士の像干渉を引き起こして検出精度劣化の要因を生じさせる。以下に発生メカニズムとその抑制方法について説明する。図13において、画像データ3801、画像データ3802は隣り合う孤立パターン同士の間隔がそれぞれ34μm、70μmである2つの孤立パターンを示す。それぞれについて、像伸び量の変化に対するパターン検出精度の変化をプロットしたものを図14のグラフに示す。隣り合う孤立パターン同士の間隔が異なると、精度劣化が急激に大きくなる像伸び量が異なることが判る。間隔が小さいほど、像伸びによって像同士が重なり合う像干渉の現象が生じやすいために、このような違いを生じる。図13の画像データ3803は像伸びによって像干渉が起きた状態を示す。像干渉が発生すると孤立パターンの形状が大きく崩れるために、パターン検出精度の著しい劣化を引き起こす。孤立パターン間隔が狭い34μmのものは70μmのものより少ない像伸び量で像干渉が発生するために、図14のグラフおいては精度劣化の傾向に差が生じている。
【0042】
これら像伸びと像干渉の影響を抑制するには、隣り合う孤立パターン同士の移動方向における間隔は、イメージセンサで撮像する際の、1回の撮像における露光時間の間の搬送ベルトの移動距離よりも大きくすればよい。
【0043】
[ルール4]
ルール4は、ダイレクトセンサが有する撮像のための光学系の特性に基づく隣り合う孤立パターンの間隔に関する条件である。
【0044】
上述のルール3では孤立パターン同士の像干渉について着目した。孤立パターン同士の像干渉を引き起こす要因として光学系の収差性能がある。すなわち、ダイレクトセンサが有する撮像のための光学系の収差性能が悪いと、イメージセンサで撮像する画像の像ボケや像変形を生じて、上述した像干渉を生じる可能性がある。
【0045】
図15は、図9で示した孤立パターンがピンぼけを起こして撮像された様子を示す。ピンぼけの影響で、本来の孤立パターン(白破線)よりも大きく且つコントラストが低下している。そのため、隣り合う孤立パターンの間隔が狭まり、像干渉が発生しやすい状態になる。これを抑制するには、孤立パターンの作成に際して、撮像光学系の収差性能を考慮して像拡大や像変形を見込んで、間隔を広げてパターニングする。すなわち、隣り合う複数の孤立パターン同士の移動方向における間隔は、イメージセンサで撮像した際に撮像光学系の収差の影響で孤立パターンの像同士の像干渉が起きない距離を有するようにする。
【0046】
[ルール5]
ルール5は、孤立パターンのサイズに関する条件である。像伸び現象が発生すると、孤立パターンの像のコントラスト(黒濃度)が低下する。先の図10のグラフは、画像データ3601と3602それぞれについて孤立パターンの濃度変化を示したものである。画像データ3602は画像データ3601に比較して、エッジ部の濃度変化がなだらかであると共に、濃度のピーク値を示す領域が減少している。像伸び量が孤立パターンサイズより大きくなると、更にはピーク濃度値も小さくなる。これは、像伸び量に対して孤立パターンのサイズが小さい場合に顕著となる。パターンマッチングの画像相関処理においては、コントラストの低下(画素階調の情報量の低下)は量子化誤差を発生させるので、パターン検出精度の劣化を引き起こす要因となる。像伸びが発生しても十分な階調情報を得るためには、移動方向における孤立パターンのサイズは像伸び量よりも大きいことが望ましい。つまり、複数の孤立パターンそれぞれの移動方向におけるサイズは、1回の撮像における露光時間の間の搬送ベルトの移動距離よりも大きいことが望ましい。また、そのサイズはセンサ1画素サイズの4倍以上であることが望ましい。
【0047】
(変形例)
上述のルール2の変形例として、孤立パターンの形状を変えて唯一性を持たせた例を図16に示す。図中の破線部は第1画像データの内で、テンプレートパターンとして切り取られるテンプレート領域を示し、必ず孤立パターンのいずれかの少なくとも一部が入るサイズとなっている。4つの孤立パターン3201、3202、3203、3204は、移動方向おけるサイズ(直径)はいずれも1.600mmと同一である。移動方向と直交する方向におけるサイズ(直径)が互いに異なっている。この例では、それぞれ1.600mm,1.400mm,1.200mm,1,000mmである。孤立パターン3201は真円であり、孤立パターン3202〜3204は徐々につぶれ度合が大きな楕円であり、それぞれの形状が異なっている。結果として、テンプレートパターン内に含まれる孤立パターンの形状は唯一性を有することになる。
【0048】
上述のルール2の別の変形例として、孤立パターンのコントラスト、濃度、色の少なくとも1つを変えて唯一性を持たせた例を図17に示す。4つの孤立パターン3301、3302、3303、3304はいずれも同一形状且つ同一サイズ(直径1.600mmの円形状)である。しかし、コントラスト(黒濃度)、濃度、又は色が互いに異なっている。結果として、テンプレートパターン内に含まれる孤立パターンはコントラスト、濃度、又は色によって唯一性を有することになる。
【0049】
上述のルール煮のさらに別の変形例として、孤立パターンの移動方向置ける配置感覚を変えた例を図18に示す。それぞれの孤立パターンは同一形状且つ同一サイズ(直径0.500mmの円形状)である。しかし、隣り合う孤立パターン同士の間隔3401、3402、3403、3404、3405、3406が互いに異なっている。この例では、それぞれ2.000mm、1.800mm、1.600mm、1.400mm,1.000mmである。結果として、テンプレートパターン内に含まれる孤立パターンは隣り合う同士の間隔の違いによって唯一性を有することになる。
【0050】
上述のルール2の更に別の変形例として、孤立パターンの移動方向と直交する方向における配置間隔を変えた例を図19に示す。それぞれの孤立パターンは同一形状且つ同一サイズ(直径1.000mmの円形状)である。また、移動方向における隣り合う同士の間隔は均一である。しかし、移動方向と直角方向における隣り合う同士の間隔3501、3502、3503、3504,3505,3506,3506,3507が互いに異なっている。この例では、それぞれ0.200mm,−0.200mm、0.400mm、−0.400mm、0.600mm,−0.600mm,0.800mmである。結果として、テンプレートパターン内に含まれる孤立パターンは隣り合う同士の間隔の違いによって唯一性を有することになる。なお、図19と図18の特徴を併せ持つような配列、すなわち、各々の隣り合う孤立パターン同士が移動方向およびこれと直交する方向の両方においてそれぞれ間隔が異なる配列としてもよい。
【0051】
以上の各変形例は組み合わせるようにしてもよい。すなわち、孤立パターンの各々はサイズ、形状、コントラスト、濃度、色のいずれか1つ若しくは組み合わせによって、他と区別可能な唯一性を有するものである。なお、以上の説明では、孤立パターンの形状は円形をベースにしたが、これに限らず、例えば多角形(矩形や三角形)あるいは多角形や円形を複合的に組み合わせた形状などの任意の形状でよい。
【0052】
以上のように、テンプレートパターンに含まれる検出用パターンの一部が、サーチ領域内で唯一の固有パターンとなるように、検出用パターンの中の複数の孤立パターンの形態、テンプレート領域のサイズ、サーチ領域のサイズが関係付けられている。なお、若干の精度劣化を許容できるのであれば、必ずしも上述の5つのルール全てを満たさなくとも良い。例えばルール1とルール2のみを適用するようにしてもよい。あるいはルール1とルール2に、更にルール3からルール5の少なくとも1つを付加するようにしてもよい。
【0053】
以上の実施形態によれば、正確なパターンマッチング判定が可能となり、高精度なダイレクトセンシングが実現する。ひいては、メディアの高精度搬送が可能となり高画質の画像記録が可能な記録装置が実現する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孤立パターンから構成される検出用パターンがマーキングされた搬送ベルトを含み、搭載するメディアを所定方向に搬送するための搬送機構と、
前記搬送ベルトの少なくとも前記検出用パターンの一部が含まれる領域を撮像して、異なるタイミングで第1画像データおよび第2画像データを取得するのに用いられるイメージセンサと、
前記第1画像データから前記検出用パターンの一部を含むテンプレートパターンを切り出し、前記第2画像データのサーチ領域内で前記テンプレートパターンと相関が大きい領域を画像処理でサーチすることで、前記搬送ベルトの移動状態を求める処理部と、を有し、
前記テンプレートパターンに含まれる前記検出用パターンの一部が、前記サーチ領域内で唯一の固有パターンとなるように、前記検出用パターンの中の複数の孤立パターンの形態、前記テンプレートパターンを切り出すテンプレート領域のサイズ、前記サーチ領域のサイズ、が関係付けられていることを特徴とする移動検出装置。
【請求項2】
前記イメージセンサで撮像する撮像領域の前記所定方向における長さ以上の所定長さを1単位の単位パターンとして、前記所定方向において前記単位パターンを前記搬送ベルトの全周に渡って繰返し並べることで前記検出用パターンが構成されており、且つ、前記テンプレートパターンに含まれる前記単位パターンの一部が、前記サーチ領域内で唯一の固有パターンとなるように、前記単位パターンの中の複数の孤立パターンの形態、前記テンプレートパターンを切り出すテンプレート領域のサイズ、前記サーチ領域のサイズ、が関係付けられていることを特徴とする、請求項1記載の移動検出装置。
【請求項3】
前記孤立パターンの各々はサイズ、形状、コントラスト、濃度、色、配置間隔のいずれか1つ若しくは組み合わせによって、他と区別可能な唯一性を有すること特徴とする、請求項1又は2記載の移動検出装置。
【請求項4】
前記単位パターンに含まれる前記複数の孤立パターンの前記所定方向における配列ピッチは、前記テンプレート領域の前記所定方向におけるサイズより小さいことを特徴とする、請求項3記載の記録装置。
【請求項5】
隣り合う前記複数の孤立パターン同士の前記所定方向における間隔は、1回の撮像における露光時間の間の前記搬送ベルトの移動距離よりも大きいことを特徴とする、請求項1又は2記載の移動検出装置。
【請求項6】
前記複数の孤立パターンそれぞれの前記所定方向におけるサイズは、1回の撮像における露光時間の間の前記搬送ベルトの最大の移動距離よりも大きいことを特徴とする、請求項1又は2記載の移動検出装置。
【請求項7】
隣り合う前記複数の孤立パターン同士の前記所定方向における間隔は、前記イメージセンサで撮像した際に光学系の収差の影響で孤立パターンの像同士の像干渉が起きない距離を有していることを特徴とする、請求項1又は2記載の移動検出装置。
【請求項8】
前記検出用パターンは、搬送ベルトに塗料で直接描画、パターニングを施したシールを前記搬送ベルトに貼り付け、前記搬送ベルト表面に凹凸を形成、前記搬送ベルト表面の塗膜面を削って形成、前記搬送ベルトの素材にレーザマーキングのいずれかの方法又はこれら方法の任意の組み合わせでマーキングされてたものであることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の移動検出装置。
【請求項9】
前記処理部で求められる移動状態に基づいて、前記搬送機構の駆動を制御する制御部を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか記載の移動検出装置。
【請求項10】
前記搬送ベルトを駆動する駆動ローラの回転状態を検出するエンコーダを有し、
前記制御部は、前記エンコーダによって検出される前記駆動ローラの回転状態と前記処理部で求められる移動状態とに基づいて前記駆動ローラの駆動を制御することを特徴とする、請求項9に記載の移動検出装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか記載の移動検出装置と、移動する前記メディアに記録を行なう記録部を有することを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−93680(P2011−93680A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250830(P2009−250830)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】