説明

積層型フィルタアレイ

【課題】高速伝送に対応し且つ高周波帯域での減衰特性の劣化を抑制することが可能な積層型フィルタアレイを提供すること。
【解決手段】積層型フィルタアレイは、複数のコイルを含むコイル部10と複数のコンデンサを含むコンデンサ部20とを備えている。コイルは、導体パターン11a〜16aが形成された絶縁体11〜16が積層されることによって構成される。コンデンサは、コンデンサ電極が形成された絶縁体21,22が積層されることによって構成される。コンデンサ部20は、コンデンサ電極として、各コイルに対応するように個別に配置された複数の信号用コンデンサ電極21aと、複数の信号用コンデンサ電極21aに共通に対向するように配置された一つの接地用コンデンサ電極22aと、を有している。接地用コンデンサ電極22aに一つのインダクタンス調整用導体Laが接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型フィルタアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型フィルタアレイとして、複数の導体パターンがそれぞれ形成された複数の絶縁体が積層されることによって構成される複数のコイルを含むコイル部と、前記各コイルに対応するコンデンサ電極が形成された複数の絶縁体が積層されることによって構成される複数のコンデンサを含むコンデンサ部と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−064267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、携帯電話等の通信機器においても、高速伝送化の要求が高まっており、高速伝送に対応した積層型フィルタアレイが求められている。積層型フィルタアレイを高速伝送回路に用いる場合、積層型フィルタアレイの静電容量は、高速で伝送される信号の品質を低下させないようにするために、できる限り小さい(例えば、10pF以下)ことが好ましい。しかしながら、積層型フィルタアレイにおいて、静電容量が小さい場合、高周波帯域での減衰特性が劣化することとなる。
【0005】
本発明は、高速伝送に対応し且つ高周波帯域での減衰特性の劣化を抑制することが可能な積層型フィルタアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の導体パターンがそれぞれ形成された複数の絶縁体が積層されることによって構成される複数のコイルを含むコイル部と、各コイルに対応するコンデンサ電極が形成された複数の絶縁体が積層されることによって構成される複数のコンデンサを含むコンデンサ部と、を備えた積層型フィルタアレイであって、コンデンサ部は、コンデンサ電極として、各コイルに対応するように個別に配置された複数の信号用コンデンサ電極と、複数の信号用コンデンサ電極に共通に対向するように配置された一つの接地用コンデンサ電極と、を有し、接地用コンデンサ電極に一つのインダクタンス調整用導体が接続されていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、複数の信号用コンデンサ電極に共通に対向するように配置された一つの接地用コンデンサ電極にインダクタンス調整用導体が接続されているので、コンデンサ部における複数のコンデンサ夫々にインダクタンス調整用導体が直列接続されることとなる。このため、高周波帯域での減衰特性の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速伝送に対応し且つ高周波帯域での減衰特性の劣化を抑制することが可能な積層型フィルタアレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る積層型フィルタアレイを示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る積層型フィルタアレイを示す分解斜視図である。
【図3】本実施形態に係る積層型フィルタアレイの等価回路を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る積層型フィルタアレイを示す斜視図である。図2は、本実施形態に係る積層型フィルタアレイを示す分解斜視図である。図3は、本実施形態に係る積層型フィルタアレイの等価回路を説明するための図である。本実施形態は、本発明をL型の積層型3端子フィルタアレイに適用したものである。
【0012】
積層型フィルタアレイFは、図1に示されるように、素体1の一方の側面側に配置された複数(本実施形態においては、4つ)の入出力端子電極3と、素体1の他方の側面側に配置された複数(本実施形態においては、4つ)の入出力端子電極5と、素体1の長手方向の両端部に配置された一対のグランド端子電極7と、を備えている。入出力端子電極3,5及びグランド端子電極7は、例えば、導電性金属粉末及びガラスフリットを含む導電性ペーストを素体1の対応する外表面の付与し、焼き付けることによって形成される。必要に応じて、焼き付けられた電極の上にめっき層が形成されることもある。
【0013】
積層型フィルタアレイFは、図2及び図3に示されるように、複数のコイルLを含むコイル部10、及び、複数のコンデンサCを含むコンデンサ部20を備えている。これらコイル部10及びコンデンサ部20が積層されることにより直方体形状の素体(積層体)1が構成されることとなる。
【0014】
各コイルLは、複数(本実施形態においては、4つ)の導体パターン11a〜11a,…,16a〜16aがそれぞれ形成された複数の絶縁体層11〜16が積層されることにより構成される。各導体パターン11aは、互いに所定の間隔を有した状態で、素体1の長手方向に併置されている。導体パターン11a同士は、絶縁体層11上において電気的に絶縁されている。各導体パターン12a〜15aは、導体パターン11aと同じく、互いに所定の間隔を有した状態で、素体1の長手方向に併置されている。導体パターン12a〜15a同士は、絶縁体層12〜15上において電気的に絶縁されている。各導体パターン16aは、導体パターン11a〜15aと同じく互いに所定の間隔を有した状態で、素体1の長手方向に併置されている。導体パターン16a同士は、絶縁体層16上において電気的に絶縁されている。各導体パターン11a〜16aは、貫通電極11b〜15bによって相互に電気的に接続されることで、各コイルLを構成する。本実施形態では、コイル部10内に、4個のコイルLが併置されることとなる。
【0015】
導体パターン11aは、コイルLの一方の端部に位置することとなる。コイルLの一方の端部(導体パターン11a)は、素体1の縁部まで引き出されており、一方の入出力端子電極3に電気的に接続される。導体パターン16aは、コイルLの他方の端部に位置することとなる。コイルLの他方の端部(導体パターン16a)は、素体1の縁部まで引き出されており、他方の入出力端子電極5に電気的に接続される。
【0016】
コンデンサCは、図2に示されるように、各コイルLに対応するコンデンサを構成する複数(本実施形態においては、4つ)の信号用コンデンサ電極21aが形成された絶縁体層21、4つの信号用コンデンサ電極21aに積層方向で対向する1つの接地用コンデンサ電極22aが形成された絶縁体層22、導体パターン23a,24aが形成された絶縁体層23、24、及び、接地用コンデンサ電極22aに積層方向で対向する1つの対向電極25aが形成された絶縁体層25が積層されることにより構成される。
【0017】
各信号用コンデンサ電極21aは、略短冊状を呈しており、各コイルLに対応するように個別に配置されている。各信号用コンデンサ電極21aは、素体1の側面を構成する絶縁体層21の端面に露出する導出部21bを含んでおり、互いに所定の間隔を有した状態で、素体1の長手方向に併置されている。信号用コンデンサ電極21aの導出部21bは、一方の入出力端子電極3に電気的に接続される。これにより、信号用コンデンサ電極21aは、対応するコイルLの一方の端部に電気的に接続されることとなる。
【0018】
接地用コンデンサ電極22aは、略矩形状を呈しており、各信号用コンデンサ電極21aに共通に対向するように配置されている。接地用コンデンサ電極22aは、絶縁体層22の端面に露出することなく、絶縁体層22上でその端面から所定間隔を有して配置されている。
【0019】
対向電極25aは、略矩形状を呈しており、絶縁体層25上に配置されている。対向電極25aは、絶縁体層25の端面にそれぞれ露出する一対の導出部25bを含んでいる。対向電極25aの導出部25bは、グランド端子電極7に電気的に接続される。
【0020】
4つの信号用コンデンサ電極21a、接地用コンデンサ電極22a、及び、これらの間に位置する絶縁体層21が、各4個のコンデンサCを構成する。本実施形態では、コンデンサ部20内に、4個のコンデンサCが積層方向に垂直な方向に併置されることとなる。
【0021】
導体パターン23aと導体パターン24aとは、貫通電極23bによって相互に電気的に接続されることで、インダクタンス調整用導体Laを構成する。すなわち、インダクタンス調整用導体Laは、導体パターン23a,24aがそれぞれ形成された絶縁体層23,24が積層されることによって構成されたコイル状を呈している。導体パターン23aと導体パターン24aとにより構成されるインダクタンス調整用導体Laは、接地用コンデンサ電極22aと対向電極25aとの間に配置されることとなる。
【0022】
導体パターン23aは、貫通電極22bによって接地用コンデンサ電極22aと電気的に接続されている。導体パターン24aは、貫通電極24bによって対向電極25aと電気的に接続されている。これにより、インダクタンス調整用導体Laは、その一端が接地用コンデンサ電極22aに接続され、その他端が対向電極25aに接続されることとなる。すなわち、接地用コンデンサ電極22aは、貫通電極22b,23b,24b、導体パターン23a,24a、及び、対向電極25aを通して、グランド端子電極7に電気的に接続される。
【0023】
各絶縁体層11〜16,21〜25は、例えばグリーンシートの焼結体から構成される。実際の積層型フィルタアレイFでは、絶縁体層11〜16,21〜25は、その間の境界が視認できない程度に一体化されている。絶縁体層11〜16となるグリーンシートは、非磁性体グリーンシートであって、例えばFe、ZnO及びCuOの混合粉を原料としたスラリーをフィルム上にドクターブレード法により塗布して形成したものを用いることができる。絶縁体層21〜25となるグリーンシートは、誘電体セラミックグリーンシートであって、例えばTiO、CuO及びNiOの混合粉を原料としたスラリーをフィルム上にドクターブレード法により塗布して形成したものを用いることができる。グリーンシートの厚みは、例えば18μm程度である。本実施形態において、絶縁体層21〜25となる誘電体セラミックグリーンシートは、非磁性体である。
【0024】
各導体パターン11a〜16a,23a,24a、各コンデンサ電極21a,22a、及び対向電極25aは、積層型の電気素子の内部電極として通常用いられる導電性材料(例えば、Ag等)からなる。各導体パターン11a〜16a,23a,24a、各コンデンサ電極21a,22a、及び対向電極25aは、上記導電性材料を含む導電性ペーストの焼結体として構成される。
【0025】
素体1は、導体パターン11a〜16aとなる導電性ペーストが印刷された非磁性体グリーンシートと、コンデンサ電極21a,22a、導体パターン23a,24a、及び対向電極25aとなる導電性ペーストが印刷された誘電体セラミックグリーンシートと、絶縁体層40,41,42となるグリーンシート(非磁性体グリーンシート)を、所望の順序にて積層して圧着し、チップ単位に切断した後に所定温度(例えば、800〜900℃)にて焼成することにより、得られる。素体1は、例えば、焼成後における長手方向の長さが1.0mm程度、幅と高さが0.5mm程度となるようにする。
【0026】
入出力端子電極3,5及びグランド端子電極7は、上述するように得られた素体1の外面に銀を主成分とする電極ペーストを転写した後に所定温度(例えば、700℃程度)にて焼き付け、更に電気めっきを施すことにより、形成される。電気めっきには、Cu/Ni/Sn、Ni/Sn、Ni/Au、Ni/Pd/Au、Ni/Pd/Ag、又は、Ni/Ag等を用いることができる。
【0027】
導体パターン11a〜16a,23a,24aの幅は、例えば70μm程度に設定される。導体パターン11a〜16a,23a,24aの焼成後における厚みは、例えば12μm程度に設定される。コンデンサ電極21a,22a及び対向電極25aの厚みは、例えば6μm程度に設定される。
【0028】
上述した構成の積層型フィルタアレイFにおいては、図3に示されるように、各コイルLと、当該各コイルLに対応する各コンデンサCとでL型回路を構成している。このとき、各コンデンサCに対して、インダクタンス調整用導体La(導体パターン23a,24a)によるインダクタンスが発生する。インダクタンス調整用導体Laによるインダクタンスは、コンデンサC夫々に直列接続されている。
【0029】
以上のように、本実施形態では、接地用コンデンサ電極22aにインダクタンス調整用導体La(導体パターン23a,24a)が接続されているので、コンデンサ部20における各コンデンサCにインダクタンス調整用導体Laが直列接続されることとなる。このため、積層型フィルタアレイFの減衰特性は、コンデンサCのキャパシタンスとコイルLのインダクタンスとで決まる共振周波数において減衰ピークを有すると共に、コンデンサCとコイルL及びインダクタンス調整用導体Laの合成インダクタンスとで決まる共振周波数において減衰ピークを有することとなる。この結果、減衰帯域幅が広がり、広帯域にわたりフィルタ効果を得ることができる。したがって、積層型フィルタアレイFでは、高速伝送に対応すべく、コンデンサCのキャパシタンスを小さくした場合でも、高周波帯域での減衰特性の劣化を抑制することができる。
【0030】
本実施形態においては、絶縁体層が非磁性体からなっている。これにより、コンデンサCのキャパシタンスとコイルLのインダクタンスとで決まる共振周波数、及び、コンデンサCとコイルL及びインダクタンス調整用導体Laの合成インダクタンスとで決まる共振周波数をより高周波側に設定することが可能となり、より高帯域のノイズを除去することができる。
【0031】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。本実施形態においては、本発明をL型の積層型3端子フィルタアレイに適用しているが、これに限られることなく、本発明をT型、π型、又はダブルπ型の積層型3端子フィルタアレイに適用してもよい。
【0032】
本実施形態では、インダクタンス調整用導体Laはコイル状を呈しているが、必ずしもコイル状を呈している必要は無く、所望のインダクタンスを有していればよい。また、インダクタンス調整用導体Laのインダクタンスは、導体パターン23a,24aの幅や積層数等によっても調整可能であり、上述した実施形態に限られるものではない。
【符号の説明】
【0033】
1…素体、3,5…入出力端子電極、7…グランド端子電極、10…コイル部、11〜16…絶縁体層、11a〜16a…導体パターン、20…コンデンサ部、21〜25…絶縁体層、21a…信号用コンデンサ電極、22a…接地用コンデンサ電極、23a,24a…導体パターン、25a…対向電極、C…コンデンサ、F…積層型フィルタアレイ、L…コイル、La…インダクタンス調整用導体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体パターンがそれぞれ形成された複数の絶縁体が積層されることによって構成される複数のコイルを含むコイル部と、前記各コイルに対応するコンデンサ電極が形成された複数の絶縁体が積層されることによって構成される複数のコンデンサを含むコンデンサ部と、を備えた積層型フィルタアレイであって、
前記コンデンサ部は、前記コンデンサ電極として、前記各コイルに対応するように個別に配置された複数の信号用コンデンサ電極と、前記複数の信号用コンデンサ電極に共通に対向するように配置された一つの接地用コンデンサ電極と、を有し、
前記接地用コンデンサ電極に一つのインダクタンス調整用導体が接続されていることを特徴とする積層型フィルタアレイ。
【請求項2】
前記コンデンサ部は、前記接地用コンデンサ電極に対向するように配置された対向電極を更に有し、
前記インダクタンス調整用導体は、前記接地用コンデンサ電極と前記対向電極との間に配置されており、一端が前記接地用コンデンサ電極に接続され、他端が前記対向電極に接続されていることを特徴する請求項1に記載の積層型フィルタアレイ。
【請求項3】
前記インダクタンス調整用導体は、複数の導体パターンがそれぞれ形成された複数の絶縁体が積層されることによって構成されたコイル状を呈していることを特徴する請求項1又は2に記載の積層型フィルタアレイ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−268130(P2010−268130A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116689(P2009−116689)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】