説明

窒化物半導体層の成長方法

【課題】良好なp型特性を持つ窒化物半導体層を得ることが可能な窒化物半導体層の成長方法を提供する。
【解決手段】p型ドーパントとしてBeを用いる場合、Mgを用いる場合に比べてp−GaN層23のp型特性は、基板5の表面の転位密度に顕著に依存する。したがって、転位密度5×10cm−2以下の基板5を用いることにより、転位によるBeのキャリア補償を抑制でき、良好なp型特性を持つp−GaN層23が得られる。また、MBE法を用いることにより、p−GaN層23の成長方向や組成分布を精度良く制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体層の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
c軸(0001)方向にp型GaNを成長させる際、N極性で成長させた場合には、例えばMgなどのp型ドーパントをドープしてもp型特性が得られないことが知られている。そこで、Ga極性でGaNを成長させるべく、基板の選択が重要となっている。
【0003】
非特許文献1では、サファイア基板上にAlNバッファ層を50nm積層し、このバッファ層上にBeドープGaNを成長させることによってp型特性を実現している。この方法は、AlNバッファ層が50nmよりも厚くなると、バッファ層上に成長させる層がGa極性となることを利用したものである。
【非特許文献1】“Growth of Be-doped p-type GaN underInvariant Polarity Conditions” jpn.J.Appl.Phys.Vol.42(2003)pp.7194-7197
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した方法で得られたBeドープGaNのp型キャリア濃度は、1×1020cm−3のドーピング濃度に対して1.8×1017cm−3程度である。したがって、活性化率は約0.2%となっており、MgドープGaNの典型的な活性化率(=約5%)と比較して非常に低いものとなっている。
【0005】
この原因としては、BeがGaよりも原子半径が小さいため、BeがGaサイトに入らずに格子間サイトに入って欠陥となり、キャリア補償が生じていることが考えられる。また、AlNバッファ層の界面での転位により、Beのキャリア補償が生じていることも考えられる。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、良好なp型特性を持つ窒化物半導体層を得ることが可能な窒化物半導体層の成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のため、本発明に係る窒化物半導体層の成長方法は、成長基板の表面にp型ドーパントとしてBeを用いた窒化物半導体層を成長させる窒化物半導体層の成長方法であって、成長基板として、転位密度が5×10cm−2以下の基板を用いることを特徴としている。
【0008】
この窒化物半導体層の成長方法では、窒化物半導体層の成長基板として、転位密度が5×10cm−2以下の基板を用いている。p型ドーパントとしてBeを用いる場合、Mgを用いる場合に比べて窒化物半導体層のp型特性は、成長基板の転位密度に顕著に依存する。上記転位密度以下の基板を用いることにより、転位によるBeのキャリア補償を抑制でき、良好なp型特性を持つ窒化物半導体層が得られる。
【0009】
また、分子線エピタキシ法を用いて窒化物半導体層を成長させることが好ましい。これにより、窒化物半導体層の成長方向や組成分布を精度良く制御できる。また、反射高速電子線回折(RHEED)装置等を用いて、成長中の窒化物半導体層のその場観察を行うことができる。
【0010】
また、窒化物半導体層は、III族元素として、In、Al、及びGaのいずれか一の元素を含むことが好ましい。また、窒化物半導体層は、V族元素として、P、As、及びSbのいずれか一の元素を含むことが好ましい。この場合、p型特性の良好な窒化物半導体層をより確実に得られる。
【0011】
また、窒化物半導体層におけるBeのドーピング濃度は、1×1018cm−3〜1×1021cm−3であることが好ましい。この場合、p型特性の良好な窒化物半導体層をより確実に得られる。
【0012】
また、成長基板として、GaN基板、GaN基板上にGaN下地層を有する基板、及びサファイア基板上にGaN下地層を有する基板のいずれか一の基板を用いることが好ましい。この場合、成長基板の転位密度の制御が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好なp型特性を持つ窒化物半導体層が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る窒化物半導体層の成長方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
[装置の構成]
図1は、本発明に係る窒化物半導体層の成長方法に用いる装置の概要を示す図である。図1に示す装置は、分子線エピタキシ装置(以下、MBE装置1と記す)である。
【0016】
MBE装置1は、真空排気装置(不図示)に接続された成膜チャンバ2と、成膜チャンバ2内に配置されたマニピュレータ3と、マニピュレータ3に保持されたMo製の基板ホルダ4と、基板ホルダ4に保持された基板5に成膜材料を供給する複数のセル6〜11及び窒素プラズマ化装置12と、成長中の膜の表面状態をモニタリングするための反射高速電子線回折(RHEED)装置13とによって構成されている。
【0017】
基板5としては、例えばGaN基板が用いられる。また、基板5は、GaN基板上又はサファイア基板上にGaN下地層を有するGaNテンプレートであってもよい。GaNテンプレート20は、例えば図2に示すように、サファイア基板21の表面に、例えばMOCVD法やHVPE法によってGaN下地層22を数μm成長させてなる基板である。各セル6〜11には、例えばIn、Al、Ga、Si、Be、Mgといった成膜材料がそれぞれセットされている。
【0018】
このMBE装置1を用いて基板5に窒化物半導体層を成膜する場合、真空排気装置によって成膜チャンバ2内を1×10−10Torr程度の超高真空状態にする。また、マニピュレータ3を700℃程度に昇温させ、基板5を加熱する。そして、セル内のGa、Beなどの成膜材料を抵抗加熱によって昇温させ、各材料の蒸気を基板5の表面に供給する。
【0019】
また、Nは、窒素プラズマ化装置12のRFガンを用いて高周波磁場を印加し、プラズマ化して基板5の表面に供給する。窒化物半導体層の成長の際、基板5に低角に電子線を入射させ、基板5の表面で反射した電子線の回折像をRHEED装置13でモニタリングする。
【0020】
[実施例]
以下、上述したMBE装置1による窒化物半導体層の成長方法の実施例について説明する。
【0021】
本実施例では、基板5として、サファイア基板21上に数μmのGaN下地層22を有するGaNテンプレート20を用意した。GaNテンプレート20において、サファイア基板21上に形成したGaN下地層22の転位密度は、例えば3×10cm−2となっている。また、基板5に成長させる窒化物半導体層として、Beドープのp−GaN層23(図2参照)を選択した。
【0022】
まず、Gaセル8及びBeセル10を昇温させる。Gaセル8は、フラックス値が例えば6.5×E−7Torr以下となるように昇温させる。Beセル10は、例えば775℃〜800℃に昇温する。Gaセル8及びBeセル10の昇温の後、基板5を成膜チャンバ2内に導入する。そして、マニピュレータ3により、基板ホルダ4に保持された基板5を約700℃まで昇温させる。
【0023】
基板5の温度が約700℃に到達した後、同温度を一定時間維持し、基板5のサーマルクリーニングを行う。これにより、基板5の表面酸化物が分解・除去される。サーマルクリーニングの進行過程は、RHEED装置13でモニタリングし、電子線回折パターンがストリーク状になった時点でサーマルクリーニングを終了する。なお、このサーマルクリーニングの実行中に、窒素プラズマ化装置12にNを導入してプラズマ発生動作を予め行い、活性化されたNを成膜チャンバ2内に導入する準備を整えておくことが好ましい。
【0024】
サーマルクリーニングの後、予め昇温させておいたGaセル8のシャッターと窒素プラズマ化装置12のシャッターとを開放し、まず、基板5表面へのud(アンドープ)−GaN層(不図示)の成長を開始させる。ud−GaN層を約5nm成長させた後、Beセル10のシャッターを開放する。これにより、ud−GaN層に引き続き、Beドープのp−GaN層23の成長を開始させる。
【0025】
Beの供給量は、p−GaN層23におけるドーピング濃度が1×1018cm−3〜1×1021cm−3となるように制御する。また、p−GaN層23の成長中は、RHEED装置13の電子線回折パターンを数十分ごとに観察し、成長の異常の有無やGaとNとの供給比の目標値からのずれ等を確認する。
【0026】
約5時間の成膜により、p−GaN層23を1μm程度成長させた後、全てのセルのシャッターを閉じ、成長を終了させる。この後、基板5の温度を降温すると共に、窒素プラズマ化装置12を停止させる。基板5の温度が十分に降温した後、基板ホルダ4を成膜チャンバ2の外部に取り出し、工程が終了させる。
【0027】
この窒化物半導体層の成長方法では、p−GaN層23の成長基板として、転位密度が5×10cm−2以下の基板5を用いている。p型ドーパントとしてBeを用いる場合、Mgを用いる場合に比べてp−GaN層23のp型特性は、基板5の表面の転位密度に顕著に依存する。したがって、上記転位密度以下の基板を用いることにより、転位によるBeのキャリア補償を抑制でき、良好なp型特性を持つp−GaN層23が得られる。
【0028】
また、この窒化物半導体層の成長方法では、MBE法を用いてp−GaN層23を成長させているので、p−GaN層23の成長方向や組成分布を精度良く制御できる。また、MBE装置1にセットしたRHEED装置13を用いて、成長中のp−GaN層23のその場観察を行うことができる。
【0029】
また、この窒化物半導体層の成長方法では、成長基板として、サファイア基板21上にGaN下地層22を有するGaNテンプレート20を用いている。GaNテンプレート20では、GaN下地層22の表面に再成長させるp−GaN層23が、MBE法でもMO法でもGa極性になる。また、AlNバッファ層を用いる場合とは異なり、GaN層の上にGaN層を成長させるので、界面での転位が抑制される。したがって、良好なp型特性を持つp−GaN層23をより簡単に得ることが可能となる。
【0030】
また、GaNテンプレート20は、GaN下地層22の成長条件により、サファイア基板21とGaN下地層22との格子不整合に起因する転位密度を制御することが可能となっている。したがって、転位密度が5×10cm−2以下の基板5を容易に得ることができる。
【0031】
さらに、p−GaN層23におけるBeの濃度は、1×1018cm−3〜1×1021cm−3となっている。この範囲では、p−GaN層23における良好な活性化率を実現できる。
【0032】
[評価実験]
続いて、本発明に係る窒化物半導体層の成長方法の評価実験について説明する。
【0033】
この評価実験は、成長基板の転位密度やp型ドーパントの種類及びドーピング濃度を変えながら、基板上に形成したp−GaN層のp型特性を測定したものである。実施例として、転位密度が3×10cm−2程度のGaNテンプレート(HQ)にMBE法でBeドープのp−GaN層を成膜したサンプルを用意した。
【0034】
また、比較例として、転位密度が1×1010cm−2程度のGaNテンプレート(HR)にMBE法でBeドープのp−GaN層を成膜したサンプルを用意した。また、別の比較例として、HQ・HRの各GaNテンプレートにMBE法でMgドープのp−GaN層を成膜したサンプルを用意した。
【0035】
なお、低転位密度のGaNテンプレートでは、n型の低抵抗層が存在し、p型キャリア密度のHall測定は困難となる。そこで、本実験では、p型キャリア密度に代えてアクセプタ密度を評価した。ドーピング濃度の関係により、電極とp−GaN層との間でショットキーバリアが形成されにくいことから、C−V測定は容量の評価に用い、アクセプタ密度はECV測定によって評価した。
【0036】
図3は、各サンプルのC−V測定結果を示した図である。同図に示すように、Mgドープのp−GaN層のサンプルでは、GaNテンプレートがHQかHRかにかかわらず、容量が150pF以上であった。一方、Beドープのp−GaN層のサンプルでは、GaNテンプレートがHQかHRかによって容量が顕著に異なっていた。
【0037】
すなわち、Beドープのp−GaN層のサンプルでは、GaNテンプレートがHQの場合には、容量が70pF以上であったのに対し、GaNテンプレートがHRの場合には、容量が10pF以下であった。特に、Beドーピング濃度が3×1018cm−3の場合には、容量が1pF以下であった。この結果から、Mgドープのp−GaN層のp型特性は、GaNテンプレートの転位密度には依存しないことが確認できた。また、Beドープのp−GaN層のp型特性は、GaNテンプレートの転位密度に顕著に依存し、転位密度が低いと低抵抗化することが確認できた。
【0038】
また、図4は、各サンプルのECV測定結果を示した図である。ECV測定を行ったサンプルは、いずれもGaNテンプレートがHQのものである。同図に示すように、Mgドーピングの場合、ドーピング濃度1×1019cm−3のp−GaN層では、アクセプタ密度は6.6×1018cm−3であった。また、Beドーピングの場合、ドーピング濃度3×1018cm−3のp−GaN層のアクセプタ密度は5.9×1017cm−3であり、ドーピング濃度1×1019cm−3のp−GaN層のアクセプタ密度は1.4×1018cm−3であった。
【0039】
同一のドーピング濃度で比較すると、Beドープのp−GaN層よりもMgドープのp−GaN層の方が、アクセプタ密度が5倍程度高くなっている。しかしながら、その活性化率は約15%に到達しており、MgドープGaNの典型的な活性化率(=約5%)と比較して非常に良好な結果が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る窒化物半導体層の成長方法に用いる装置の概要を示す図である。
【図2】成長基板として用いるGaNテンプレートの構成を示す図である。
【図3】各サンプルにおけるp−GaN層のC−V測定結果を示す図である。
【図4】各サンプルにおけるp−GaN層のECV測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…MBE装置、5…基板、21…サファイア基板、23…p−GaN層(窒化物半導体層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長基板の表面にp型ドーパントとしてBeを用いた窒化物半導体層を成長させる窒化物半導体層の成長方法であって、
前記成長基板として、転位密度が5×10cm−2以下の基板を用いることを特徴とする窒化物半導体層の成長方法。
【請求項2】
分子線エピタキシ法を用いて前記窒化物半導体層を成長させることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体層の成長方法。
【請求項3】
前記窒化物半導体層は、III族元素として、In、Al、及びGaのいずれか一の元素を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の窒化物半導体層の成長方法。
【請求項4】
前記窒化物半導体層は、V族元素として、P、As、及びSbのいずれか一の元素を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の窒化物半導体層の成長方法。
【請求項5】
前記窒化物半導体層における前記Beのドーピング濃度は、1×1018cm−3〜1×1021cm−3であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の窒化物半導体層の成長方法。
【請求項6】
前記成長基板として、GaN基板、GaN基板上にGaN下地層を有する基板、及びサファイア基板上にGaN下地層を有する基板のいずれか一の基板を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の窒化物半導体層の成長方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−292668(P2009−292668A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146170(P2008−146170)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】