説明

紫外線架橋性材料の基板に対する接着を改善するための方法

【課題】紫外線の暴露により架橋し得る材料で作製された層の基板に対する接着を改善するための方法、およびそれを利用しトランジスタを製造する方法を提供する。
【解決手段】紫外線への暴露により架橋し得る材料Mで作製された層の基板Sの表面に対する接着を改善する際に、a)材料Mの表面の反応基M1と反応し得る第1の反応基F1と、基板Sの表面を構成する材料(複数可)と結合を形成し得る第2の反応基F2とを備える少なくとも1種の分子Fを含む未重合の重合性組成物Pの堆積ステップ、b)ステップa)において得られた未重合の組成物Pの層上への、未架橋の材料Mで作製された層の堆積ステップ、およびc)ステップb)において得られた3層構造に紫外線を暴露するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線への暴露により架橋し得る材料で作製された層の基板に対する接着を改善するための方法に関し、またそのような方法を実行する少なくとも1つのステップを含む、トランジスタを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの分野において、ポリマー材料で作製された層を、別のポリマー材料もしくは金属材料で作製された基板、または金属もしくはさらに半導体領域を備える基板に結合させることが必要となる。
【0003】
ポリマー材料は、重合することができ、同じ単位であるモノマーの反復的な連続から形成される材料であり、モノマーは、共有結合により互いに結合している。
【0004】
機械的ストレス、または化学的ストレス、またはその両方に耐性を有するポリマー材料で作製されたフィルムを得るには、そのようなポリマー材料を架橋させるプロセスが使用される。ある特定の材料に対しては、紫外線への暴露により架橋を行うことができる。
【0005】
すべての場合において、架橋の間、ポリマー材料は、粘弾性状態から固体、硬質、弾性および溶融不可能な状態に移行する。
【0006】
さらに、ある材料の別の材料の表面に対する接着は、2つの表面が接触状態に置かれた場合に生じる物理的および/または化学的現象のセットとして定義することができる。
【0007】
接着は、接着性、すなわち、互いに接着される2つの表面の表面状態、つまり比表面積、空隙率、活性部位および汚染の状態において、2つの表面間の相互作用の力を生成する能力、ならびに、これらの2つの表面の濡れ性、つまり互いの接触を形成する能力に関連している。
【0008】
より具体的には、これは例えば原子間結合の形成による接着力、すなわち材料の凝集力の問題である。
【0009】
これらの原子間結合は、共有化学結合の場合のように分子内であってもよく、または弱い物理的結合の場合のように分子間であってもよい。
【0010】
ポリマー材料で作製された層の、異なる材料で作製された基板の表面に対する接着の改善の問題は、中でもとりわけトランジスタの製造中に生じる。
【0011】
具体的には、トランジスタは、一般に有機半導体材料、例えば改質ペンタセン、例えば「Solution−Processed TIPS−Pentacene Organic Thin−Film−Transistor Circuits」、IEEE Electron Device Letters、第28巻、第10号、2007年10月においてParkらにより説明されているような、トリイソプロピルシリルペンタセン(TIPS−ペンタセン)、もしくはペリレンで作製された基板、またはシリコン、ゲルマニウムもしくはガリウムヒ素等の無機半導体材料で作製された基板で構成される。
【0012】
次いでこの基板上に、一般に金属で作製された、より具体的にはアルミニウム、金、銅または銀で作製されたソースおよびドレイン電極およびまた格子が堆積され、基板の表面上に金属領域を形成する。
【0013】
これらの金属領域は、一般にフォトリソグラフィープロセスにより所望のパターンに従い基板の表面上に堆積される。
【0014】
そのようなプロセスにおいて、紫外線への暴露により架橋され得るが重合されない材料の層が、基板の所望の表面上に堆積される。
【0015】
所望のパターンを有する開口部を備えるマスクがこの表面上に堆積され、全体が紫外線に暴露される。
【0016】
紫外線への暴露により架橋され得るポリマー材料の暴露された領域が架橋される。他の領域では、材料は未重合および未架橋の形態を維持する。
【0017】
次いで、未重合および未架橋領域は溶媒を用いて除去され、基板の表面の露出した領域に金属が堆積される。
【0018】
しかしながら、そのようなプロセスにおいて、紫外線への暴露後、および未架橋のままとなったポリマー材料の所望の領域の除去の間、不十分な接着に起因して架橋したポリマー材料の領域が基板の表面から分離し、これにより溶媒がこの材料を剥離することにより攻撃することになる。
【0019】
具体的には、溶媒は基板と紫外線架橋性ポリマー材料との間に入り込み、これにより所望のパターンに従わない材料の堆積がもたらされる。
【0020】
また、トランジスタの製造中、任意選択ですでに金属領域を備える半導体材料の表面上に、絶縁材料を堆積させる必要がある。
【0021】
前記と同じフォトリソグラフィープロセスが繰り返され、紫外線への暴露により架橋され得るポリマー材料の、金属および半導体材料の表面に対する不十分な接着という同じ問題がここでも生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】「Solution−Processed TIPS−Pentacene Organic Thin−Film−Transistor Circuits」、IEEE Electron Device Letters、第28巻、第10号、2007年10月、Parkら
【非特許文献2】「Photopolymerization of waterborne polyurethane acrylate dispersions based on hyperbranched aliphatic polyester and properties of the cured films」、Colloid Polym.Sci.(2005)第283巻:721〜730頁、Anila Asifら
【非特許文献3】「Photopolymerization of styrene initiated by triphenyl bismuthonium ylide」、Macromol.Rapid Commun.第21巻、291〜295頁(2000)、Kaurら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、紫外線架橋性ポリマー材料で作製されたフィルムの基板に対する不十分な接着の問題を解決することに向けられる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的のために、本発明は、材料Mで作製された層の基板Sの表面に対する接着を改善するための方法であって、材料Mが紫外線への暴露により架橋され得る材料であること、ならびに、以下のステップ:
a)基板Sの少なくとも1つの表面上への、紫外線への暴露により材料Mの表面の反応基M1と反応し得る第1の反応基F1と、基板Sの表面を構成する材料(複数可)と結合を形成し得る第2の反応基F2とを備える少なくとも1種の分子Fを含む、未重合の重合性組成物Pの堆積ステップ、
b)ステップa)において得られた未重合の組成物Pの層上への、未架橋の材料Mで作製された層の堆積ステップ、および
c)ステップb)において得られた3層構造の、紫外線への暴露ステップ
を含むことを特徴とする方法を提案する。
【0025】
好ましくは、基板Sの表面は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、金属、無機または有機半導体材料、およびこれらの混合物から選択される1種(または複数種)の材料(複数可)で作製された少なくとも1つの領域を備える。
【0026】
本発明の方法の第1の実施形態において、基板Sの表面は、Al、Au、CuおよびAg、ならびにこれらの混合物から選択される金属で作製された領域を備える。
【0027】
本発明の方法の第2の実施形態において、基板Sの表面はアルミニウムで作製された領域を備え、分子Fの反応基F2はホスホン酸基である。
【0028】
本発明の第3の実施形態において、基板Sの表面は金で作製された領域を備え、分子Fの反応基F2はチオール基である。
【0029】
材料Mは、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)等のアクリレート、「Photopolymerization of waterborne polyurethane acrylate dispersions based on hyperbranched aliphatic polyester and properties of the cured films」、Colloid Polym.Sci.(2005)第283巻:721〜730頁においてAnila Asifらにより説明されている、Boltorn(登録商標)H20の商標で販売されている一連のヒドロキシ官能性超分岐ポリウレタンアクリレート(WHPUD)等のウレタンアクリレート、「Photopolymerization of styrene initiated by triphenyl bismuthonium ylide」、Macromol.Rapid Commun.第21巻、291〜295頁(2000)においてKaurらにより説明されている、テトラフェニルシクロペンタジエントリフェニルビスムトニウムにより開始された重合のポリスチレン等のスチレン、および/またはポリ(ケイ皮酸ビニル)等のジビニルエーテルをベースとした材料の群から選択される。
【0030】
分子Fの反応基F1は、シリル基およびp−共役基から選択される。
【0031】
分子Fは、トリメチルシリルプロパンチオールおよびトリメトキシシリルプロパンチオールから選択される。
【0032】
本発明はまた、紫外線への暴露により架橋され得る材料Mで作製された層の基板に対する接着を改善するための方法を実行する少なくとも1つのステップを含むことを特徴とする、トランジスタを製造するための方法を提案する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、以下の説明的な記述を読めばより良く理解され、その他の利点および特徴がより明確に現れる。
【0034】
一般に、本発明は、紫外線への暴露により架橋され得る材料で作製された層の、任意の材料で作製され得るが材料Mとは異なる材料で作製された基板Sの表面に対する接着を改善するための方法に関する。
【0035】
この目的のため、本発明は、材料Mの層と基板Sの表面との間に、紫外線への暴露により材料Mの反応基M1と反応し得る第1の反応基F1と、基板Sの表面を構成する材料(複数可)と結合を形成し得る第2の反応基F2とを備える少なくとも1種の分子を含む、未重合の重合性組成物を堆積させること、ならびに、次いで全体の重合において、材料Mの架橋、および分子Fの反応基F1と材料Mの反応基M1との反応をもたらすことを提案する。
【0036】
このように、架橋性組成物Pの層は、紫外線への暴露中に材料Mの層に完全に結合される。
【0037】
分子Fはまた、基板Sの表面を構成する材料(複数可)と結合を形成し得る反応基F2を備える。
【0038】
具体的には、見てきたように、特にトランジスタの場合において、基板Sの表面は、完全に同じ材料から形成された表面であってもよく、または金属および/もしくはSiO等の絶縁材料で作製された領域を備えていてもよい。
【0039】
これらの結合は、基板Sの表面を構成する材料(複数可)と基F2との間の分子内結合であってもよい。
【0040】
好ましい一実施形態において、基板Sの表面は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、金属、より具体的には金、アルミニウム、銅もしくは銀、ケイ素、ゲルマニウムもしくはガリウムヒ素等の無機半導体材料、改質ペンタセン、例えばTIPS−ペンタセン、ペリレンもしくはこれらの誘導体をベースとした材料等の有機半導体材料、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド等のジイミド系材料から選択される材料で作製されるか、またはシリカ等の絶縁材料で作製される。
【0041】
具体的には、これらの材料は、トランジスタの製造に使用される。
【0042】
基板Sの表面はまた、これらの材料の1種または複数種で作製された領域、例えば金属で作製された領域を備えるポリエチレンテレフタレート(PET)、または代替として、金属領域を備える半導体、無機もしくは有機材料で作製された領域を備えていてもよい。
【0043】
最も特に好ましい一実施形態において、金属はアルミニウムまたは金である。
【0044】
金属がアルミニウムである場合、反応基F2は、好ましくはホスホン酸基である。
【0045】
しかしながら、本発明の方法のさらに別の好ましい実施形態において、金属は金である。
【0046】
この場合、分子Fの反応基F2は、好ましくはチオール基である。
【0047】
材料Mに関して、これは、ジアクリレート、ジウレタンアクリレート、ジスチレンまたはジビニルエーテル、例えばポリ(ケイ皮酸ビニル)をベースとした基を備える材料であってもよい。
【0048】
この材料は、好ましくは誘電材料であるが、これは一般にトランジスタに使用されるような材料であるためである。
【0049】
分子Fの反応基F2は、その紫外線への暴露中に架橋性材料Mと反応する機能を有する。
【0050】
この第2の反応基F2は、シリル基、またはアルケンもしくはケトン基等のp−共役基であってもよい。
【0051】
分子Fの特に好ましい一例は、チオール基およびシリル基を備える分子、例えばトリメチルシリルプロパンチオールおよびトリメトキシシリルプロパンチオールである。
【0052】
したがって、材料Mで作製された層の基板Sに対する接着を改善するための方法は、トランジスタを製造するための方法において特に有利に使用される。
【0053】
したがって、本発明はまた、紫外線暴露により架橋し得るポリマー材料の基板に対する接着を改善するための方法を実行する少なくとも1つのステップを含む、トランジスタを製造するための方法を提案する。
【0054】
ここで、本発明をより明確に理解するために、純粋に制限されない例示を目的として実施例を記載する。
【実施例1】
【0055】
ここで使用された基板は、プラスチック基板、より具体的にはポリエチレンナフタレートで作製された基板であり、この上にマスクを介して蒸着により金格子を堆積させる。
【0056】
得られた格子の厚さは90nmである。
【0057】
したがって、ここで使用された基板は、ポリエチレンナフタレートで作製された領域および金で作製された領域を備える表面である。
【0058】
この基板の表面上に、本発明による未重合の重合性組成物、この場合ではトリメトキシシリルプロパンチオールを、格子上に堆積させる。
【0059】
この組成物は、格子の金と重合性組成物との間のS−Au共有結合の形成により、即座に格子に接着する。
【0060】
次に、紫外線架橋性ポリマーをスピンコーティングにより基板の表面全体に堆積させる。
【0061】
堆積させたポリマー層の厚さは850nmである。
【0062】
この実施例では、紫外線架橋性ポリマーはポリ(ケイ皮酸ビニル)である。
【0063】
次に、アクリレートポリマーで被覆された基板の表面から10cm離して設置された紫外線ランプに、マスクを介して基板の表面を暴露する。
【0064】
暴露時間は45分間である。波長365nm、出力14mW/cmで暴露を行う。
【0065】
この暴露中、ポリマーおよびトリメトキシシリルプロパンチオール重合性組成物が架橋し、ポリマーの基板の表面に対する接着をもたらす。
【0066】
次いでアニールを100℃で20分間行い、乾燥させる。
【0067】
ポリマーおよびトリメトキシシリルプロパンチオールの暴露されていない領域を、リビーラーであるテトラヒドロフラン(THF)で除去し、パターンを露出させる。
【0068】
このようにして得られた基板を、ソースおよびドレイン電極の製造に使用する。
【0069】
これは、マスクを介した蒸着により堆積される、厚さ60nmの金の層を堆積させることにより行う。
【0070】
次に、半導体材料、この場合ではペンタセンを、スピンコーティングにより堆積させ、トランジスタを得る。
【0071】
得られたトランジスタは、特に接着の点で優れた特性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料Mで作製された層の基板Sの表面に対する接着を改善するための方法であって、
材料Mが紫外線への暴露により架橋され得る材料であること、および、
以下のステップ:
a)基板Sの少なくとも1つの表面上への、紫外線への暴露により材料Mの表面の反応基M1と反応し得る第1の反応基F1と、基板Sの表面を構成する材料(複数可)と結合を形成し得る第2の反応基F2とを備える少なくとも1種の分子Fを含む、未重合の重合性組成物Pの堆積ステップ、
b)ステップa)において得られた未重合の組成物Pの層上への、未架橋の材料Mで作製された層の堆積ステップ、および
c)ステップb)において得られた3層構造の、紫外線への暴露ステップ
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
基板Sの表面が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、金属、無機または有機半導体材料、およびこれらの混合物から選択される1種(または複数種)の材料で作製された少なくとも1つの領域を備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基板Sの表面が、Al、Au、CuおよびAg、ならびにこれらの混合物から選択される金属で作製された領域を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
基板Sの表面がアルミニウムで作製された領域を備えること、および分子Fの反応基F2がホスホン酸基であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
基板Sの表面が金で作製された領域を備えること、および分子Fの反応基F2がチオール基であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
材料Mが、アクリレート、ウレタンアクリレート、スチレンおよび/またはジビニルエーテルをベースとした材料の群から選択されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分子Fの反応基F1が、シリル基およびp−共役基から選択されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分子Fが、トリメチルシリルプロパンチオールおよびトリメトキシシリルプロパンチオールから選択されることを特徴とする、請求項5および7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の、紫外線への暴露により架橋し得る材料Mで作製された層の基板に対する接着を改善するための方法を実行する少なくとも1つのステップを含むことを特徴とする、トランジスタを製造するための方法。

【公開番号】特開2011−38086(P2011−38086A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−154860(P2010−154860)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ (85)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【Fターム(参考)】