説明

結晶性有機薄膜およびその製造方法

【課題】溶液プロセスでの素子作製に適した溶解性を有しながら、成膜後に化学的安定性および半導体動作安定性が高く良好な半導体特性を示す、特定の化合物を用いて得られる結晶性有機薄膜、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】(i)基板上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布する工程、(ii)前記溶媒可溶性化合物を脱離反応させて溶媒不溶化し有機薄膜を形成する工程、及び(iii)前記有機薄膜上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布し、脱離反応させて結晶性有機薄膜を積層する工程を含む、結晶性有機薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性有機薄膜およびその製造方法に関し、有機半導体として利用できる結晶性有機薄膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料を用いたデバイスは、従来のシリコンなどの無機半導体材料を用いたデバイスと比べて簡単なプロセスにより製造でき、さらに、分子構造を変化させることで容易に材料特性を変化させることが可能であるため材料のバリエーションが豊富であり、無機半導体材料では成し得なかったような機能や素子を実現することが可能になると考えられ、近年盛んに研究されている。特に、溶液を基板上に塗布する工程いわゆる溶液プロセスにより素子作製が可能な有機半導体材料は、低コスト生産や大面積化が容易であるため、大いに期待されている(例えば非特許文献1を参照)。
【0003】
有機半導体材料は高分子材料と低分子材料に大別される。
ポリチオフェン誘導体P3HT(ポリ(3−ヘキシルチオフェン))に代表される高分子材料は、溶媒可溶性(溶解性)や塗布成膜性に優れているが、高純度化が困難なことや、分子構造の立体規則性等の不完全部分に由来する膜中での構造欠陥が性能を制限する要因になるなどの理由から、現在までに性能や安定性の観点で十分満足できる材料は見出されていない。
これに対し、ペンタセン、オリゴチオフェン、フタロシアニンなどに代表される低分子材料は、昇華精製や再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの様々な精製法が適用できるため高純度化が可能であり、分子構造が定まっているため秩序の高い結晶構造を取りやすく、高い特性を示すものが多く知られている。
【0004】
しかしながら、これまでに報告されている比較的特性が良好な低分子材料は、溶媒可溶性に乏しく、成膜には製造コストの高い真空プロセス(真空条件下での成膜方法)により成膜しなければならないものが多い。例えば、ペンタセンは、真空蒸着法により成膜することでアモルファスシリコンを凌ぐ非常に高いキャリア移動度やオン−オフ比を示すが、汎用溶媒に対する溶解性が乏しく、いわゆる溶液プロセスでの成膜に適していない。これまでに見出されている、比較的良好な半導体特性を示し、かつ溶液プロセスで成膜可能な有機半導体材料はごく限られている。
【0005】
有機半導体材料の溶解性を向上させるために有機半導体骨格にアルキル基などの置換基を導入する方法は、しばしば分子同士の間の配列やパッキングを阻害し、半導体特性の低下につながる。
これらの問題を解決し、溶液プロセス適性と半導体特性を両立すべく、これまでに溶媒への溶解性が高いペンタセンやポルフィリンの前駆体を溶液プロセスで成膜し、その後に熱などの外部刺激を与えることで半導体へと変換し、電界効果トランジスタを作製する方法が報告されている(例えば非特許文献2、特許文献1〜14を参照)。
しかし、これらの例では、いずれも半導体前駆体や処理後に得られる半導体の化学的安定性や動作安定性などの観点で改善が求められていた。
【0006】
一方、銅フタロシアニンを用いた有機電界効果型トランジスタは古くから検討されており、中にはソース−ドレイン間を銅フタロシアニン単結晶で接合した特殊なデバイスを用いてキャリア移動度1cm2/Vsを示すものも知られている(例えば非特許文献3を参照)。
当然、得られる薄膜での結晶状態(結晶化度)によって半導体特性が異なることが予想される。薄膜での結晶系と移動度とを併せて議論した報告は少ないが、熱処理によって得られるテトラベンゾポルフィリン薄膜での結晶化プロセスをX線でモニターし高い移動度の発現に結晶化が重要であることを報告している例もある(例えば非特許文献4及び5を参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−304014号公報
【特許文献2】特開2004−6750号公報
【特許文献3】特開2004−256450号公報
【特許文献4】特開2004−319982号公報
【特許文献5】特開2004−320007号公報
【特許文献6】特開2005−79203号公報
【特許文献7】特開2005−79204号公報
【特許文献8】特開2005−277029号公報
【特許文献9】特開2005−294809号公報
【特許文献10】特開2005−93990号公報
【特許文献11】特開2006−131574号公報
【特許文献12】特開2006−165533号公報
【特許文献13】特開2006−182989号公報
【特許文献14】特開2006−249436号公報
【非特許文献1】Chemical Reviews,107,1296−1323(2007)
【非特許文献2】Advanced Materials,11,480−483(1999)
【非特許文献3】Zeis,R.,Siegrist,T.,Kloc,Ch.,“Appl.Phys.Lett.”,(2005),86,022103.
【非特許文献4】情報協会主催「低分子有機半導体の作製及び有機半導体の評価技術」平成19年4月17日
【非特許文献5】近畿化学協会機能性色素部会・エレクトロニクス部会合同講演会「有機トランジスタ開発に向けた有機半導体研究の新展開」平成19年11月21日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の技術的背景に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶液プロセスでの素子作製に適した溶解性を有しながら、成膜後に化学的安定性および半導体動作安定性が高く良好な半導体特性を示す、特定の化合物を用いて得られる結晶性有機薄膜、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以上のような課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、溶媒可溶性化合物を用いていわゆる溶液プロセスにて薄膜を形成し、さらに成膜後に重ね塗りして薄膜形成を行うことにより、成膜後に化学的安定性および半導体動作安定性が高く良好な半導体特性を示す結晶性有機薄膜(有機半導体膜)が得られることを見出した。また、従来とは異なる特定の置換基を有するπ共役系化合物を有機半導体の前駆体として用いた場合には、基板上への成膜が容易で、かつ得られる膜に熱などの外部刺激を加えることにより置換基の脱離反応が効率的に進行することも見出した。本発明はこのような知見に基づきなされるに至ったものである。
【0010】
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
[1](i)基板上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布する工程、
(ii)前記溶媒可溶性化合物を脱離反応させて溶媒不溶化し有機薄膜を形成する工程、及び
(iii)前記有機薄膜上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布し、脱離反応させて結晶性有機薄膜を積層する工程
を含むことを特徴とする結晶性有機薄膜の製造方法。
[2]前記溶媒可溶性化合物が、下記一般式(A)で表される置換基を有するπ共役系化合物である、[1]項に記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1は水素原子または置換基を表す。aは1又は2の整数を表す。)
[3]前記π共役系化合物が下記一般式(1)で表される化合物である、[2]項に記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Xは−N=又は−CH=を表す。N1〜N4はそれぞれ窒素原子を表す。Mは金属原子または水素原子を表す。ただし、Mが水素原子を表す場合、2つの水素原子がN1〜N4のいずれか2つの窒素原子にそれぞれ結合する。Ra〜Rhはそれぞれ水素原子を表すか、またはRa及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になって芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環を形成する。複数の芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環は同一でも異なっていてもよい。R1は水素原子または置換基を表す。aは1又は2の整数を表す。mは1〜16の整数を表す。mが2以上の場合、複数の−S(O)a1基は同一でも異なっていてもよい。−S(O)a1基は、X、Ra〜Rh、またはRa及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になって形成する芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環における水素原子と置換する。)
[4]前記一般式(1)で表される化合物がフタロシアニン化合物である、[3]項に記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
[5]前記溶媒可溶性化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、[1]項に記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Aは、アントラキノン系、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、キナクリドン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、ジオキサジン系、インダントロン系、インジゴ系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ペリレン系及びフタロシアニン系の発色団の残基を表し、これらはAが有するヘテロ原子を介して−COOR2基に結合している。R2は、水素原子または置換基を表し、lは1〜8の整数である。)
[6]前記溶媒可溶性化合物が、下記一般式(3)で表される化合物である、[1]項に記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、X1及びX2の少なくとも一方は、π共役した2価の芳香族環を形成する基を表し、π共役した2価の芳香族環を形成する基でない場合は、置換又は無置換のエテニレン基を表す。−Z1−Z2−基は熱または光により脱離可能な基を表す。)
[7]前記の脱離反応させる手段が熱処理である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
[8][1]〜[7]のいずれか1項に記載の方法により得られる結晶性有機薄膜。
[9][8]項に記載の結晶性有機薄膜からなる有機半導体膜。
[10][9]項に記載の有機半導体膜を含む有機電子デバイス。
[11][9]項に記載の有機半導体膜を含む有機電界効果トランジスタ。
[12](i)基板上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布する工程、
(ii)前記溶媒可溶性化合物を脱離反応させて溶媒不溶化し有機薄膜を形成する工程、及び
(iii)前記有機薄膜上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布し、脱離反応させて結晶性有機薄膜を積層する工程
を含むことを特徴とする有機化合物の結晶を成長させる方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法により、溶液プロセスによる成膜が可能で、化学的安定性および半導体動作安定性が高く良好な半導体特性を示す、大きな結晶子の結晶性有機薄膜(有機半導体膜)を低コストで効率的に製造することができる。
本発明の有機半導体膜およびこれを用いた電子デバイス(特に電界効果トランジスタ(FET))は、高純度であり、半導体動作安定性が高く、良好な半導体特性を示す。
また、本発明の方法によれば、有機化合物結晶を成長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の結晶性有機薄膜の製造方法は、(i)基板上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布する工程、(ii)前記溶媒可溶性化合物を脱離反応させて溶媒不溶化し有機薄膜を形成する工程、及び(iii)前記有機薄膜上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布し、脱離反応させて結晶性有機薄膜を積層する工程を含む。
【0021】
[溶媒可溶性化合物]
本発明に用いられる溶媒可溶性化合物は、溶媒可溶性基を有しており、溶媒不溶性化合物における任意の水素原子を取り去った溶媒不溶性化合物残基に、溶媒可溶性基が結合した構造をしている。すなわち、溶媒可溶性基が脱離した後の化合物は溶媒不溶性である。本発明において、「溶媒可溶性」とは、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で0.1質量%以上の溶解度を有することをいう。好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。また、本発明において、「溶媒不溶化」とは、前記溶媒可溶性の状態よりも1桁以上溶解度が低下することをいう。具体的には、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で、0.1質量%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.01質量%以下に溶解度が低下することをいい、好ましくは0.5質量%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.05質量%以下に溶解度が低下することであり、より好ましくは1質量%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.1質量%以下に溶解度が低下することである。
【0022】
化合物分子内に有する溶媒可溶性基の数に特に制限はない。溶媒可溶性や成膜性の観点からは、溶媒可溶性基の数が多いほど有利であるが、その一方、薄膜の均一性および半導体特性の観点からは、溶媒可溶性基の脱離前後での体積変化が小さい方が膜中での分子のパッキング変化が小さくなるため好ましい。そのため、分子内に有する溶媒可溶性基の数は1個〜4個であることが好ましい。溶媒可溶性基を分子内に複数有する場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
一般に有機半導体膜には、有機顔料が用いられるものがある。そのため、本発明では、溶媒可溶性化合物として、潜在顔料(ラテント顔料)を好ましく用いることができる。ここで、ラテント顔料とは、有機顔料に溶媒可溶性基が結合した有機顔料前駆体をいい、これに加熱や光照射などの外的な刺激を与えることにより、溶媒不溶性の有機顔料に変換される。
【0024】
潜在顔料は、成膜性に優れるものが好ましい。成膜性が良好でない顔料であっても、潜在顔料の状態で成膜してから顔料に変換することにより、成膜時のコストを抑制することができるからである。特に、塗布プロセスを適用できるようにするためには、当該潜在顔料自体が液状で塗布可能であるか、当該潜在顔料が何らかの溶媒に対して溶解性が高く溶液として塗布可能であることが好ましい。
さらに、潜在顔料は、容易に顔料に変換できることが好ましい。潜在顔料から顔料への変換工程において、どのような外的な刺激を潜在顔料に与えるかは任意であるが、通常は、熱処理、光照射などを行う。
また、潜在顔料は、変換工程を経て、高い収率で顔料に変換されることが好ましい。この際、潜在顔料から変換して得られる顔料の収率は有機半導体膜の性能を著しく損なわない限り任意である。収率の好適な範囲を挙げると、潜在顔料から得られる顔料の収率は高いほど好ましく、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。
【0025】
一方、前記潜在顔料が変換してなる有機顔料は、一般的な溶媒への溶解度の小さい材料である。この有機顔料は、任意のものを用いることが可能である。例えば、アゾ顔料(例えば不溶性アゾ顔料としては不溶性モノアゾ顔料と不溶性ジスアゾ顔料に大別され、不溶性モノアゾ顔料としてはアセト酢酸アリーリド系、β−ナフトール系、ナフトールAS系、ベンズイミダゾロン系が挙げられ、不溶性ジスアゾ顔料としてはアセト酢酸アリーリド系、ピラゾロン系、縮合アゾ系が挙げられる。またアゾレーキ顔料も挙げられる。)、縮合多環顔料(例えば、アントラキノン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、キナクリドン系、ペリレン系、ペリノン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、インジゴ系、キノフタロン系が挙げられる。)、金属錯体顔料(例えばフタロシアニン系、アゾメチン系、ニトロソ系が挙げられる。)、その他の顔料(例えばアジン系、昼光蛍光顔料、カーボンブラック)が挙げられる。
通常、顔料中を電荷が移動して有機光電変換素子の変換効果(例えば、太陽電池の発電効果等)が生じることから、顔料としては半導体特性を示すものを使用することが好ましい。ここで、半導体特性を示すとは、例えば、当該顔料単独の層のキャリア移動度が10-7cm2/Vs以上の値を示すことが挙げられる。キャリア移動度は、タイムオブフライト法、電界効果トランジスタの特性、ホール効果、電気伝導度とキャリア密度の測定等により測定できる。
なお、本発明においては、顔料本来の色を発現することは必ずしも関係していないが、一般に、半導体材料はπ共役系の分子を用いるため、太陽光スペクトル領域に吸収帯を有するものが、太陽電池等の有機光電変換素子用材料として適している。
【0026】
また、本発明に用いられる溶媒不溶性化合物としては顔料に限定されず、有機化合物であればいかなるものでもよく、π共役系化合物、紫外線吸収剤(UV吸収剤)なども好ましい。
【0027】
本発明におけるπ共役系化合物としては、広いπ共役平面を有する化合物であればいかなるものでもよいが、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環であり、より好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、チオフェン環などの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環が2つ以上、縮環され及び/又は共有結合で連結されており、それらの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環がそれぞれ有するπ電子が、縮環及び/又は連結による相互作用によって縮環及び/又は連結環全体に非局在化した構造であることが好ましい。縮環された及び/又は共有結合で連結された芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環の数は、1〜20個が好ましく、2〜12個がより好ましい。
本発明におけるπ共役系化合物の具体例としては、テトラセン、ペンタセン、トリフェニレン、ヘキサベンゾコロネンなどの縮合多環化合物、クォーターチオフェンやセキシチオフェンなどのヘテロ環オリゴマー、フタロシアニン類、ポルフィリン類などが挙げられる。
【0028】
また、UV吸収剤として用いられる化合物であればいかなるものも本発明に用いることができるが、例えば、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物などが挙げられる。
【0029】
本発明では化合物の化学的安定性の観点から、π共役系化合物としてはテトラセン、ペンタセン、トリフェニレン、ヘキサベンゾコロネン、ポルフィリン系化合物などが好ましく、UV吸収剤としてはトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、有機顔料としては縮合多環顔料または金属錯体顔料が好ましい。さらに好ましくは、テトラセン、ペンタセン、トリフェニレン、ヘキサベンゾコロネン、トリアジン系化合物、縮合多環顔料または金属錯体顔料である。
【0030】
また、溶媒可溶性化合物を溶媒不溶性化合物に変換させる手段としては、t−ブトキシカルボニル基(Boc基)を脱離させる方法や、Retro−Dieals−Alder反応を用いる方法など任意の方法を用いることができる。これらについては、例えば、Zambpunis,J.S.,Hao,Z.,Iqbal,A.,「Nature」,(1997),388,131.(下記スキームを参照)、
【化5】

Murphy,A.R.,Frechet,J.M.J.,Chang,P.,Lee,J.,Subramanian,V.,「J.Am.Chem.Soc.」,(2004),126,1596.(下記スキームを参照)、
【化6】

Ito,S.,Murashima,H.,Uno,H.,Ono,N.,「Chem.Commun.」,(1998),1661.(下記スキームを参照)、
【化7】

宇野英満,小野昇,「有機合成化学」,(2002),60,581.、Aramaki,S.,Sakai,Y.,Ono,Y.,「Appl.Phys.Lett.」,(2004),84,2085.、Brown,A.R.,Pomp,A.,de Leeuw,D.M.,Klaassen,D.B.M.,Havinga,E.E.,Herwing,P.,Mullen,K.,「J.Appl.Phys.」,(1996),79,2136.(下記スキームを参照)、Herwing,P.,Mullen,K.,「Adv.Mater.」,(1999),11,480.(下記スキームを参照)、Afzali,A.,Dimitrakopoulos,C.D.,Breen,T.L.,「J.Am.Chem.Soc.」,(2002),124,8812.(下記スキームを参照)、Weidkamp,K.P.,Afzali,A.,Tromp,R.M.,Hamers,R.J.,「J.Am.Chem.Soc.」,(2004),126,12740.(下記スキームを参照)、Joung,M.J.et.al.,「Bull.Korean Chem.Soc.」,(2003),24,1862.(下記スキームを参照)、Chen,K.Y.,Hsieh,H.H.,Wu,C.C.,Hwang,J.J.,Chow,T.J.,「Chem.Commun.」,(2007),1065.(下記スキームを参照)、Yamada,H.,Yamashita,Y.,Kikuchi,M.,Watanabe,H.,Okujima,T.,Uno,H.,Ogawa,T.,Ohara,.,Ono,N.,「Chem.Eur.J.」,(2005),11,6212.(下記スキームを参照)等の記載を参照することができる。
【0031】
【化8】

【0032】
外部刺激によって高い収率で顔料分子に変換できる好適な本発明に用いられる溶媒可溶性化合物としては、後述の一般式(A)で表される置換基を有する化合物、一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物が好ましい。
【0033】
(一般式(A)で表される置換基を有する化合物)
下記一般式(A)で表される置換基を有する化合物について説明する。
【0034】
【化9】

【0035】
(式中、R1は水素原子または置換基を表す。aは1又は2の整数を表す。)
【0036】
前記一般式(A)中、R1は水素原子または置換基を表す。
置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基等の環状構造を含む。)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基等の環状構造を含む。)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む。)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が挙げられる。
【0037】
さらに詳しくは、R1で表される置換基の例としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基[直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。これらは、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2−エチルヘキシル)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、さらに環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す。]、
【0038】
アルケニル基[直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。それらは、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)、ビシクロアルケニル基(置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)を包含するものである。]、
【0039】
アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル)、ヘテロ環基(好ましくは5又は6員の置換もしくは無置換の、芳香族性もしくは非芳香族性のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、
【0040】
アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)、
【0041】
カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)、
【0042】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ、例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)、
【0043】
アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−(n−オクチルオキシ)フェノキシカルボニルアミノ)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)、
【0044】
アルキル又はアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールチオ、例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)、
【0045】
スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル)、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)、アルキル又はアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)、
【0046】
アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、炭素数4〜30の置換もしくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基、例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル、2−ピリジルカルボニル、2−フリルカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイル、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)、
【0047】
アリール又はヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)が挙げられる。
【0048】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていても良い。そのような置換基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。より具体的には、メチルスルホニルアミノカルボニル、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル、アセチルアミノスルホニル、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。また、R1はさらに置換基によって置換されていても良い。
【0049】
ここでR1としては、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、カルボキシル基、シリル基が挙げられる。好ましくは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基であり、特に好ましくは水素原子、炭素数1〜30の直鎖又は分枝のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基である。
【0050】
前記一般式(A)中、aは1又は2の整数を表し、最も好ましくは2である。
【0051】
(一般式(1)で表される化合物)
前記一般式(A)で表される置換基を有する化合物としては、化合物の化学的安定性および半導体動作安定性、半導体特性の観点から、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0052】
【化10】

【0053】
前記一般式(1)中、Xは−N=又は−CH=を表す。Xが−N=を表す場合が好ましい。
【0054】
前記一般式(1)中、Ra〜Rhはそれぞれ水素原子を表すか、またはRa及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になって芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環を形成する。複数の芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環は同一でも異なっていてもよい。ここで、芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環としては4〜10員環が好ましく、5〜7員環がより好ましく、5又は6員環がさらに好ましく、6員環が特に好ましい。
芳香族ヘテロ環に含まれるヘテロ原子は特に限定されないが、窒素、酸素、硫黄、セレン、ケイ素、ゲルマニウム又はリンが好ましく、窒素、酸素又は硫黄がさらに好ましく、窒素が特に好ましい。芳香族ヘテロ環ひとつに含有されるヘテロ原子数は特に限定されないが、1〜3が好ましい。
【0055】
芳香族炭化水素環または芳香族ヘテロ環の具体例としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環、ゲルモール環、ホスホール環等が挙げられる。
芳香族炭化水素環または芳香族ヘテロ環は、置換基を有していてもよく、置換基としては、前述のR1で挙げたものが適用できる。
【0056】
芳香族炭化水素環または芳香族ヘテロ環はさらに他の環と縮合環を形成してもよく、縮合する環としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環、ゲルモール環、ホスホール環等が挙げられる。上記の置換基および縮合環は、さらに置換基を有していてもよく、さらに他の環と縮合していてもよい。置換基としては、前述のR1として挙げたものが適用できる。
【0057】
芳香族炭化水素環または芳香族ヘテロ環として好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環であり、より好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、チオフェン環であり、さらに好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、チオフェン環であり、特に好ましくはベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環である。
【0058】
前記一般式(1)中、a及びR1は前記一般式(A)におけるa及びR1と同義であり、好ましい範囲も同様である。mは1〜16の整数を表す。mが2以上の場合、複数の−S(O)a1基は同一でも異なっていてもよい。mは、好ましくは1から8までの範囲の整数であり、さらに好ましくは1から4までの範囲の整数である。
【0059】
前記一般式(1)中、−S(O)a1基は分子内のどこに結合していてもよいが、好ましくは、X、Ra〜Rh、またはRa及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になって形成する芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環における水素原子と置換する。芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環における水素原子と置換することが好ましい。
【0060】
前記一般式(1)中、Mは金属原子または水素原子を表す。Mが水素原子を表す場合、2つの水素原子がN1〜N4のいずれか2つの窒素原子にそれぞれ結合する。
Mが金属原子を表す場合、安定な錯体を形成するものであれば金属はいかなるものでも良く、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Ba、Al、Si、Hg、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Pd、Cd、Sn、Pt、Pb、Sr、V、Mn、Ti、In又はGaなどを使用することができる。金属原子には置換基が結合していてもよく、置換基としては前述のR1で挙げたものを用いることができる。
Mとして好ましくはMg、Ca、AlCl、SiCl2、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Sn、SnCl2、Pt、Pb、V=O、Mn又はTi=Oが用いられ、より好ましくはFe、Co、Ni、Cu又はZnが用いられ、特に好ましくはCu又はZnが用いられる。なお、Mが水素原子である場合も好ましく、Mが水素原子である場合の一般式(1)は下記一般式(1a)で表される。
【0061】
【化11】

【0062】
前記一般式(1a)において、Ra〜Rh、R1、a及びmは、それぞれ前記一般式(1)におけるRa〜Rh、R1、a及びmと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0063】
前記一般式(1)で表される化合物としては、(a)Xが−N=を表し、かつ、Ra及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になってベンゼン環を形成するフタロシアニン化合物、(b)Xが−CH=を表し、かつ、Ra〜Rhがそれぞれ水素原子を表すポルフィリン化合物、及び(c)Xが−CH=を表し、かつ、Ra及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になってベンゼン環を形成するテトラベンゾポルフィリン化合物が好ましい。特に、フタロシアニン化合物であることが好ましい。ここで、フタロシアニン化合物とは、フタロシアニン骨格を有する化合物をいい、フタロシアニンに置換基が結合した化合物である。
【0064】
以下に、前記一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
表1〜5にフタロシアニン化合物の具体例、表6にポルフィリン化合物の具体例、表7にテトラベンゾポルフィリン化合物の具体例をそれぞれ示す。表1〜7中、置換基の*印は、下記一般式(1−A)で表されるフタロシアニン化合物、下記一般式(1−B)で表されるポルフィリン化合物、又は下記一般式(1−C)で表されるテトラベンゾポルフィリン化合物への結合部位を示す。また、Rα1〜Rα8、Rβ1〜Rβ8、Rm1〜Rm4又はRi1〜Ri8が無置換の場合、即ち水素原子が結合している場合は表記を省略している。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
(異性体の存在)
前記表1〜7において、例えば「Rα1/Rα2」という表記は「Rα1又はRα2のいずれか一方」という意味を表しており、したがってこの表記のある化合物は置換位置異性体の混合物である。
【0073】
(フタロシアニン化合物の合成法)
フタロシアニン化合物のフタロシアニン環形成反応は、白井汪芳、小林長夫編・著「フタロシアニン−化学と機能−」(アイピーシー社、1997年刊)の第1〜62頁、廣橋亮、坂本恵一、奥村映子編「機能性色素としてのフタロシアニン」(アイピーシー社、2004年刊)の第29〜77頁に準じて行うことができる。
【0074】
フタロシアニン化合物の代表的な合成方法としては、これらの文献に記載のワイラー法、フタロニトリル法、リチウム法、サブフタロシアニン法、および塩素化フタロシアニン法などが挙げられる。本発明においては、フタロニトリル法を好ましく用いることができる。具体的には、t−ブチルスルホニルフタロニトリル等のような前記一般式(A)で表される置換基を有する化合物を原料として、フタロシアニン環形成反応を行うことが好ましい。フタロシアニン環形成反応において、いかなる反応条件を用いても良い。環形成反応においては、フタロシアニンの中心金属となる種々の金属を添加することが好ましいが、中心金属を持たないフタロシアニン化合物を合成後に、所望の金属を導入しても良い。反応溶媒としては、いかなる溶媒を用いても良いが、好ましくは高沸点の溶媒である。また、環形成反応促進のために、酸または塩基を用いても良い。最適な反応条件は、目的とするフタロシアニン化合物の構造により異なるが、上記の文献に記載された具体的な反応条件を参考に設定することができる。
【0075】
上記のフタロシアニン化合物の合成に使用する原料としては、無水フタル酸、フタルイミド、フタル酸およびその塩、フタル酸ジアミド、フタロニトリル、1,3−ジイミノイソインドリンなどの誘導体を用いることができる。これらの原料は公知のいかなる方法で合成しても良い。
また、本発明に用いられる溶媒可溶性化合物は、特開2005−119165号公報等の記載を参照して、前記溶媒不溶性化合物に前記一般式(A)で表される置換基を導入して調製することができる。
【0076】
(ポルフィリン化合物の合成法)
ポルフィリン化合物およびテトラベンゾポルフィリン化合物の合成法については、例えば、KARL M.,KADIS H.,KEVIN M.,SMITH ROGER GUILARD著、「THE PORPHYRIN HANDBOOK」、VOL.1、ACADEMIC PRESS(2000)に記述されている方法を参照することができる。
【0077】
(一般式(2)で表される化合物)
次に、下記一般式(2)で表される化合物について説明する。下記一般式(2)で表される化合物は、外部刺激によって高い収率で顔料分子に変換できる好適な潜在顔料である。
【0078】
【化12】

【0079】
(式中、Aは、アントラキノン系、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、キナクリドン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、ジオキサジン系、インダントロン系、インジゴ系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ペリレン系及びフタロシアニン系の発色団の残基を表し、これらはAが有するヘテロ原子を介して−COOR2基に結合している。R2は、水素原子または置換基を表し、lは1〜8の整数である。)
【0080】
前記一般式(2)中、Aは、アントラキノン系、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、キナクリドン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、ジオキサジン系、インダントロン系、インジゴ系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ペリレン系及びフタロシアニン系の発色団の残基を表す。Aは、窒素原子、酸素原子、イオウ原子などのヘテロ原子を有し、該ヘテロ原子を介して−COOR2基に結合する。
ここでlは1〜8の整数であり、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1又は2の整数である。
【0081】
Aが有するヘテロ原子に結合する−COOR2基としては、下記一般式(2−A)、(2−B)、(2−C)、(2−D)又は(2−E)のいずれかで表される基が好ましい。なお、本明細書において「Ck」(kは自然数)と表記した場合、炭素数がk個であることを表す。例えば、C1は炭素数が1個であることを表す。
【0082】
【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【0083】
ここで、前記一般式(2−A)において、m2は0又は1を表す。
また、前記一般式(2−A)及び(2−B)において、X3は、無置換、またはC1〜C6のアルキル基、R5もしくはR6で置換されていても良い、C2〜C5のアルケニレン基またはC1〜C6のアルキレン基を表す。
5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、C1〜C24のアルキル基、Oが挿入され、Sが挿入され、或いはC1〜C6のアルキル基が二置換し、更に、Nが挿入されたC1〜C24のアルキル基、C3〜C24のアルケニル基、C3〜C24のアルキニル基、C4〜C12のシクロアルケニル基、無置換又はC1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基或いはニトロ基が置換したフェニル基或いはビフェニル基を表す。なお、O、S、N等の原子がアルキル基に挿入されるとは、アルキル基の炭素鎖の途中に当該原子を含むことをいう。
【0084】
さらに、前記一般式(2−A)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、C1〜C6のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、N(C1〜C6のアルキル基)2{即ち、窒素原子にC1〜C6のアルキル基が結合したアミノ基}、又は、無置換、若しくは、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C1〜C6のアルキル基若しくはC1〜C6のアルコキシ基が置換したフェニル基を表す。
【0085】
また、前記一般式(2−B)において、Qは水素原子、C1〜C6のアルキル基、−CN基、−CCl3基、
【化18】

で表される基、−SO2CH3基又は−SCH3基を表す。ここで、R1及びR2はそれぞれ上述したものと同様である。
【0086】
さらに、前記一般式(2−C)において、R3及びR4は、それぞれ独立に、ハロゲン基、C1〜C4のアルキル基、又は
【化19】

で表される基を表す。また、R3とR4とは互いに結合してピペリジニル基を形成していても良い。ここで、X3、m2、R1及びR2はそれぞれ上述したものと同様である。
【0087】
また、前記一般式(2−D)及び(2−E)において、R5及びR6はそれぞれ上述したものと同様である。
【0088】
さらに、前記一般式(2−D)において、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に、水素原子、C1〜C24のアルキル基、又は、C3〜C24のアルケニル基を表す。
また、式(2−E)において、R82は、水素原子、C1〜C6のアルキル基、又は
【化20】

で表される基を表す。
【0089】
ここで、R83はC1〜C6のアルキル基を表し、R84は水素原子又はC1〜C6のアルキル基を表し、R85は水素原子、C1〜C6のアルキル基、又は、無置換或いはC1〜C6のアルキル基で置換されたフェニル基を表す。
【0090】
また、Aが有するヘテロ原子に結合する−COOR2基としては、下記一般式
【化21】

で表される基が好ましい。
ここで、G1は、無置換、又は、C1〜C12のアルキル基、C1〜C12のアルコキシ基、C1〜C12のアルキルチオ基又はC2〜C24のジアルキルアミノ基で置換された、C2〜C12のp,q−アルキレン基を表す。なお、p及びqはそれぞれ異なる位置番号を表す。また、置換基は1つが単独で置換していてもよく、2つ以上が置換していても良い。
【0091】
さらに、G2はN、O及びSからなる群より選ばれるヘテロ原子を表す。なお、G2がO又はSである場合は前記式においてiは0であり、G2がNであればiは1である。
また、R10及びR11は、それぞれ独立に、[−(C2〜C12のp’,q’−アルキレン基)−R12−]ii−(C1〜C12のアルキル基){即ち、C2〜C12のp’,q’−アルキレン基とR12とが結合した繰り返し構造がii個結合し、さらに、R12側の末端にC1〜C12のアルキル基が結合した基}、又は、無置換或いは置換のC1〜C12のアルキル基を表す。ここでC1〜C12のアルキル基の置換基は、C1〜C12のアルコキシ基、C1〜C12のアルキルチオ基、C2〜C24のジアルキルアミノ基、C6〜C12のアリルオキシ基、C6〜C12のアリルチオ基、C7〜C24のアルキルアリルアミノ基又はC12〜C24のジアリルアミノ基が挙げられる。また、置換基は1つが単独で置換していてもよく、2つ以上が置換していても良い。
【0092】
また、iiは1〜1000の数を表し、p’及びq’はそれぞれ異なる位置番号を表す。さらに、R12は、それぞれ独立に、O、S、又は、C1〜C12のアルキル基が置換したN、並びに、C2〜C12のアルキレン基を表す。なお、前記の繰り返し構造[C2〜C12のアルキレン基−R12]は、同じでもよく異なっていても良い。
【0093】
また、R10及びR11は、飽和でもよく、不飽和結合を1〜10有していてもよい。また、R10及びR11は、任意の位置に、−(C=O)−及び−C64−からなる群より選ばれる1〜10の基が挿入されていてもよい。さらに、R10及びR11は、無置換でもよく、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基などの置換基で1〜10置換されていても良い。
ただし、−G1−が−(CH2)iv−である場合には、ivは2〜12の数を表し、G2はSを表し、R11は、無置換、飽和、炭素鎖の途中に炭素以外のO、S、Nが挿入されたC1〜C4のアルキル基ではない。
【0094】
3が置換又は無置換の炭素数1〜6のアルキレン基である場合には、それは直鎖または分枝アルキレンでありうる。たとえば以下のものである:メチレン、ジメチレン、トリメチレン、1−メチル−メチレン、1,1−ジメチル−メチレン、1,1−ジメチル−ジメチレン、1,1−ジメチル−トリメチレン、1−エチル−ジメチレン、1−エチル−1−メチル−ジメチレン、テトラメチレン、1,1−ジメチル−テトラメチレン、2,2−ジメチル−トリメチレン、ヘキサメチレン、デカメチレン、1,1−ジメチル−デカメチレン、1,1−ジエチル−デカメチレン、テトラデカメチレン。
【0095】
3が置換又は無置換の炭素数2〜5のアルケニレン基である場合には、それは直鎖または分枝アルケニレンでありうる。たとえば以下のものである:ビニレン、アリレン、メタリレン、1−メチル−2−ブテニレン、または2−ブテニレン。
【0096】
1〜R4が炭素数1〜4のアルキル基である場合には、それは例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、またはtert−ブチルである。
【0097】
前記一般式(2)で表される化合物としては、−COOR2基が下記式のいずれかの基である化合物が特に好ましい。
【0098】
【化22】

【0099】
前記一般式(2)で表される化合物のうち、好ましいグループを以下に示す。
(a1)下記式のいずれかのペリレンカルボン酸イミド:
【化23】

(両式中、Dは水素、C1−C6アルキル、置換されていないかまたはハロゲンまたはC1−C4アルキルによって置換されたフェニル、ベンジルまたはフェネチルであるか、またはBと同じである。Bは−COOR2基である。);
【0100】
(a2)下記式のキナクリドン:
【化24】

(式中、R10とR11とは互いに独立的に水素、ハロゲン、C1−C18アルキル、C1−C4アルコキシまたはフェニルである。Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であるものとする。);
【0101】
(a3)下記式のジオキサジン:
【化25】

(式中、R12は水素、ハロゲンまたはC1−C18アルキルである。Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であるものとする。);
【0102】
(a4)下記式のイソインドリン:
【化26】

[式中、R13は下記式の基
【化27】

14は水素、C1−C18アルキル、ベンジルまたは下記式の基
【化28】

15はR13と同じ意味を有する(ここで、R16、R17、R18およびR19は互いに独立的に水素、C1−C18アルキル、C1−C4アルコキシ、ハロゲンまたはトリフルオロメチルである)。Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基である。]および
【化29】

(Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であり、少なくとも1つのEはHである。)
【0103】
(a5)下記式のインジゴ誘導体:
【化30】

(式中、R20は水素、CN、C1−C4アルキル、C1−C4アルコキシまたはハロゲンである。Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であるものとする。);
【0104】
(a6)下記式のベンゾイミダゾロン−アゾ化合物:
【化31】

(式中、R21とR22とは互いに独立的に水素、ハロゲン、C1−C4アルキルまたはC1−C4アルコキシである。Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であるものとする。);
【0105】
(a7)下記式のアントラキノイド化合物:
【化32】

(式中、Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であるものとする。)
【0106】
(a8)下記式のフタロシアニン化合物:
【化33】

(式中、X1はNi,Fe、V、好ましくはH2、Zn,またはCuであり、X2は−CH(R2’)−、好ましくは−CH2−または−SO2−であり、R1’はC1−C4アルキル、−N(E)R2’、−NHCOR3’、−COR3’または
【化34】

であり、好ましくは水素、−NHCOCH3またはベンゾイルであり、R2’は水素またはC1−C4アルキルであり、R3’はC1−C4アルキルであり、R4’は水素、ハロゲン、C1−C4アルキルまたはC1−C4アルコキシであり、zはゼロまたは1であり、好ましくは1であり、yは1乃至4の整数である。Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であるものとする。);
【0107】
(a9)下記式のピロロ[3,4−c]ピロール:
【化35】

[式中、G1とG2とは互いに独立的に下記式のいずれかの基である
【化36】

(式中、R23とR24とは互いに独立的に水素、ハロゲン、C1−C18アルキル、C1−C18アルコキシ、C1−C18アルキルメルカプト、C1−C18アルキルアミノ、−CN、−NO2、フェニル、トリフルオロメチル、C5−C6シクロアルキル、−C=N−(C1−C18アルキル)、
【化37】

イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピペラジニル、ピロリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイミダゾリル、モルホリニル、ピペラジニルまたはピロリジニルであり、Lは−CH2-、−CH(CH3)−,−C(CH3)2−、−CH=N−、−N=N−、−O−、−S−,−SO−、−SO2−,または−NR29−であり、R25とR26とは互いに独立的に水素、ハロゲン、C1−C6アルキル、C1−C18アルコキシまたは−CNであり、R27とR28とは互いに独立的に水素、ハロゲンまたはC1−C6アルキルであり、R29は水素またはC1−C6アルキルである)。Eは水素または−COOR2基である。ただし、少なくとも1つのEは−COOR2基であるものとする。]
【0108】
なお、C1−C18アルキルメルカプトは、たとえばメチルメルカプト、エチルメルカプト、プロピルメルカプト、ブチルメルカプト、オクチルメルカプト、デシルメルカプト、ヘキサメチルメルカプトまたはオクタデシルメルカプトであり、そしてC1−C18アルキルアミノは、たとえばメチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ヘキシルアミノ、デシルアミノ、ヘキサデシルアミノまたはオクタデシルアミノである。C5−C6シクロアルキルは、たとえば、シクロペンチルまたはシクロヘキシルである。
【0109】
前記一般式(2)で表される化合物としては、下記式の化合物が好ましい。
【0110】
【化38】

【0111】
式中、Eは−C(=O)−O−C(CH3)3であり、R10とR11とは、好ましくは、互いに独立的に水素、ハロゲン、C1−C5アルキルまたはC1−C4アルコキシであり、R23とR24とは水素、ハロゲン、C1−C5アルキル、C1−C4アルコキシ、フェニルまたはシアノであり、特に好ましくは、R10、R11、R23およびR24は水素または塩素である。
【0112】
前記一般式(2)で表される化合物は、例えば米国特許第6,071,989号明細書や、特開平8−6242号公報、特開2008−16834号公報などの記載を参照して調製することができる。
【0113】
(一般式(3)で表される化合物)
次に、下記一般式(3)で表される化合物について説明する。下記一般式(3)で表される化合物は、外部刺激によって高い収率で顔料分子に変換できる好適な潜在顔料である。
【0114】
【化39】

【0115】
(式中、X1及びX2の少なくとも一方は、π共役した2価の芳香族環を形成する基を表し、π共役した2価の芳香族環を形成する基でない場合は、置換又は無置換のエテニレン基を表す。−Z1−Z2−基は熱または光により脱離可能な基を表す。)
【0116】
前記一般式(3)で表される化合物(潜在顔料)は、下記スキームに示すように、熱又は光により−Z1−Z2−基が脱離して、平面性の高いπ共役化合物を生成する。この生成されたπ共役化合物が溶媒不溶性の有機顔料である。本発明においては、この顔料が半導体特性を示すことが好ましい。
【化40】

【0117】
前記一般式(3)で表される化合物の例としては、以下のものが挙げられる。なお、式中、t−Buはt−ブチル基を表す。
【化41】

【0118】
【化42】

【0119】
【化43】

【0120】
一方、潜在顔料を変換して生成する顔料(π共役化合物)の具体例を挙げると、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、フラーレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン等のオリゴマー類;ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の、芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物;銅フタロシアニン、パーフルオロ銅フタロシアニン、テトラベンゾポルフィリン及びその金属塩等の大環状化合物などが挙げられる。例えば、上記潜在顔料を変換する具体例としては、以下の式(7A)、(8A)、(9A)、(10A)で表される化合物などが挙げられる。
【0121】
【化44】

【0122】
【化45】

【0123】
【化46】

【0124】
【化47】

【0125】
これらの潜在顔料を変換して得られる顔料は、一般には結晶性を有する高結晶性材料である。また、本発明に用いられる顔料は、π共役分子が強い分子間相互作用により凝集しているものである。このため、本発明に用いられる顔料は可視光領域に強い吸収帯を有し、程度の差はあれ、電荷を輸送できる半導体特性を有する。それらの中でも、高い半導体特性を有するものが好ましい。
これらの観点から、前記顔料のうちでも、潜在顔料を変換して得られる有機顔料材料としては、例えば、テトラベンゾポルフィリンとその銅や亜鉛等の金属錯体、フタロシアン及びその金属錯体、ペンタセン類、キナクリドン類などが好ましく、中でも、ベンゾポルフィリン、フタロシアニン及びその金属錯体が特に好ましい。
【0126】
また、顔料は、半導体特性により、p型とn型とに分けられる。一般に、p型、n型とは、半導体材料で電気伝導に寄与するのが、正孔であるか、電子であるかを示しており、材料の電子状態、ドーピング状態、トラップの状態などに依る。p型、n型を示す顔料の例としては、以下のものが挙げられるが、必ずしも明確に分類できるものではなく、同一物質でp型及びn型の両方の特性を示すものもある。
【0127】
p型の半導体特性を示す顔料(以下適宜、「p型の顔料」という)の例としては、フタロシアニン及びその金属錯体;テトラベンゾポルフィリン及びその金属錯体;テトラセン(ナフタセン)、ペンタセン、ピレン、ペリレン等のポリアセン;セキシチオフェン等のオリゴチオフェン類;及び、これら化合物を骨格として含む誘導体などが挙げられる。
【0128】
一方、n型の半導体特性を示す顔料(以下適宜、「n型の顔料」という)の例としては、フラーレン(C60);オクタアザポルフィリン;上記p型半導体のパーフルオロ体;ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物;及び、これら化合物を骨格として含む誘導体などが挙げられる。
【0129】
さらに、例えば、前記式(7B)で表される化合物の骨格に、その化合物の電子親和力を大きくする構造を導入したものは、n型を示す半導体材料の前駆体化合物として、好適に用いることができる。なお、前記式(7B)で表される化合物は顔料の一種であり、潜在顔料である式(7A)で表される化合物を変換することにより得られる化合物である。
【0130】
式(7B)で表される化合物の電子親和力を大きくする構造の例を挙げると、フッ素原子に代表される電子吸引性の置換基を複数置換したり、π共役系の炭素原子−CH=を窒素原子に置き換えて、−N=の構造にしたものを挙げることができる。例えば、次のような化合物、あるいは、その銅や亜鉛等との金属錯体が挙げられる。
【化48】

【0131】
また、同様に、前記式(8B)、(9B)、(10B)で表される化合物のフッ素置換体や、窒素置換体もn型半導体として用いることができる。なお、前記式(8B)、(9B)及び(10B)で表される化合物はいずれも顔料の一種であり、それぞれ、潜在顔料である式(8A)、(9A)及び(10A)で表される化合物を変換することにより得られる化合物である。
【0132】
本発明の製造方法により製造される結晶性有機薄膜は、少なくともp型及びn型の一方の顔料を潜在顔料からの変換により作製することが好ましい。したがって、潜在顔料を選択する際には、少なくとも前記のp型の顔料若しくはn型の顔料に対応した前駆体を選択することが好ましい。
【0133】
上述した顔料のなかでも、本発明の製造方法により製造される結晶性有機薄膜においては、顔料として、ポルフィリン、フタロシアニン、キナクリドン、ピロロピロール、ジチオケトピロロピロール及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。その中でも、特に、本発明に用いられる潜在顔料としては、ベンゾポルフィリン化合物を用いることが好ましい。以下、このベンゾポルフィリン化合物について詳しく説明する。
【0134】
(ベンゾポルフィリン化合物)
本発明に用いることができるベンゾポルフィリン化合物は、下記一般式(I)又は(II)で表される。
【化49】

【化50】

(前記一般式(I)及び(II)中、Zia及びZib(iは1〜4の整数を表す)は、各々独立に、原子又は原子団を表す。ただし、ZiaとZibとが結合して環を形成していてもよい。R1〜R4は、各々独立に、原子又は原子団を表す。Mは、2価の金属原子、又は、3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表す。)
【0135】
式(I)及び式(II)において、Zia及びZib(iは1〜4の整数を表す)は、各々独立に、1価の原子又は原子団を表す。
ia及びZibの例を挙げると、原子としては、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;などが挙げられる。
【0136】
一方、原子団としては、水酸基;アミノ基;アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、ジアラルキルアミノ基、ハロアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基等の有機基;などが挙げられる。
【0137】
前記の有機基のうち、アルキル基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。アルキル基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このアルキル基の例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0138】
前記の有機基のうち、アラルキル基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。アラルキル基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このアラルキル基の例としては、ベンジル基等が挙げられる。
【0139】
前記の有機基のうち、アルケニル基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。アルケニル基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このアルケニル基の例としては、ビニル基等が挙げられる。
【0140】
前記の有機基のうち、アシル基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。アシル基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このアシル基の例としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0141】
前記の有機基のうち、アルコキシ基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。アルコキシ基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0142】
前記の有機基のうち、アルコキシカルボニル基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。アルコキシカルボニル基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0143】
前記の有機基のうち、アリールオキシ基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。アリールオキシ基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このアリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0144】
前記の有機基のうち、ジアルキルアミノ基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。ジアルキルアミノ基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このジアルキルアミノ基の例としては、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等が挙げられる。
【0145】
前記の有機基のうち、ジアラルキルアミノ基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。ジアラルキルアミノ基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このジアラルキルアミノ基の例としては、ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基等が挙げられる。
【0146】
前記の有機基のうち、ハロアルキル基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常12以下、好ましくは8以下である。ハロアルキル基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。このハロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基などが挙げられる。
【0147】
前記の有機基のうち、芳香族炭化水素環基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常6以上、好ましくは10以上、また、通常30以下、好ましくは20以下である。芳香族炭化水素環基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。この芳香族炭化水素環基の例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0148】
前記の有機基のうち、芳香族複素環基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常2以上、好ましくは5以上、また、通常30以下、好ましくは20以下である。芳香族複素環基の炭素数が大きすぎると、半導体特性が低下したり、溶解性が上がって積層時に再溶解をしたり、耐熱性が低下したりする可能性がある。この芳香族複素環基の例としては、チエニル基、ピリジル基等が挙げられる。
【0149】
さらに、上記の原子団は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基などが挙げられる。なお、この置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0150】
また、ZiaとZibとは、結合して環を形成していてもよい。ZiaとZibとが結合して環を形成する場合、当該Zia及びZibを含む環(即ち、Zia−CH=CH−Zibで表される構造の環)の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環;ピリジン環、キノリン環、フラン環、チオフェン環等の、置換基を有していてもよい芳香族複素環;シクロヘキサン環等の非芳香族環状炭化水素;などが挙げられる。
【0151】
iaとZibとが結合して形成する環が有する前記の置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その例としては、Zia及びZibを構成する原子団の置換基として例示したものと同様の置換基が挙げられる。なお、この置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0152】
上述したZia及びZibの中でも、特に水素原子が好ましい。結晶のパッキングが良好で、高い半導体特性が期待できるためである。
【0153】
式(I)及び式(II)において、R1〜R4は、各々独立に、1価の原子又は原子団を表す。
1〜R4の例を挙げると、上述したZia及びZibと同様のものが挙げられる。また、R1〜R4が原子団である場合、当該原子団は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の置換基を有していてもよい。この置換基の例としては、前記Zia及びZibの置換基と同様のものが挙げられる。なお、この置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
ただし、R1〜R4は、分子の平面性を高めるためには、水素原子、ハロゲン原子等の原子から選ばれることが好ましい。
【0154】
式(I)及び式(II)において、Mは、2価の金属原子、又は、3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表す。
Mが2価の金属原子である場合、その例としては、Zn、Cu、Fe、Ni、Co等が挙げられる。一方、Mが3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団である場合、その例としては、Fe−B1、Al−B2、Ti=O、Si−B34などが挙げられる。ここで、B1、B2、B3及びB4は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等の1価の基を表す。
【0155】
更に、前記ベンゾポルフィリン化合物は、例えば、1個の原子を2つポルフィリン環が共有して配位しているもの、2個のポルフィリン環が1個以上の原子あるいは原子団を共有して結合したもの、または、それらが3個以上結合して長鎖上に繋がったものであってもよい。
【0156】
以下に、前記ベンゾポルフィリン化合物として好ましい具体例を挙げる。ただし、前記ベンゾポルフィリン化合物は以下の例に限定されるものではない。また、ここでは対称性の良い分子構造を主に例示しているが、部分的な構造の組み合わせによる非対称構造であっても使用できる。
【0157】
【化51】

【0158】
【化52】

【0159】
(ベンゾポルフィリン化合物の可溶性前駆体)
上述したベンゾポルフィリン化合物は、ベンゾポルフィリン化合物の可溶性前駆体に対して熱による変換(以下適宜、「熱変換」という)を行なうことにより、得ることができる。以下、その可溶性前駆体について説明する。
【0160】
前記可溶性前駆体は、熱変換により、ベンゾポルフィリン化合物に変換しうるものである。その構造は、ビシクロ環を有し、熱変換によりベンゾポルフィリン化合物に変換できる限り、任意である。
ただし、前記可溶性前駆体は、下記一般式(III)又は(IV)で表される化合物が好ましい。
【0161】
【化53】

【化54】

(前記一般式(III)及び(IV)中、Zia及びZib(iは1〜4の整数を表す)は、各々独立に、1価の原子又は原子団を表す。ただし、ZiaとZibとが結合して環を形成していてもよい。R1〜R4は、各々独立に、1価の原子又は原子団を表す。Y1〜Y4は、各々独立に、1価の原子又は原子団を表す。Mは、2価の金属原子、又は、3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表す。)
【0162】
前記式(III)及び(IV)において、Zia、Zib、R1〜R4及びMは、それぞれ、式(I)及び(II)と同様である。
【0163】
前記式(III)及び(IV)において、Y1〜Y4は、各々独立に、1価の原子又は原子団を表す。また、前記式(III)及び(IV)においてはY1〜Y4はそれぞれ4個ずつ存在するが、Y1同士、Y2同士、Y3同士、及びY4同士は、それぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。
【0164】
1〜Y4の例を挙げると、原子としては、水素原子などが挙げられる。
一方、原子団としては、水酸基、アルキル基などが挙げられる。ここで、アルキル基の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは6以下、より好ましくは3以下である。アルキル基の炭素数が大きすぎると、脱離基が大きくなるため、脱離基が揮発しにくくなり、膜内に残留する可能性がある。このアルキル基の例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0165】
また、Y1〜Y4が原子団である場合、当該原子団は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の置換基を有していてもよい。この置換基の例としては、前記Zia及びZibの置換基と同様のものが挙げられる。なお、この置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0166】
上述したY1〜Y4の中でも、水素原子、または、炭素数10以下のアルキル基が好ましい。さらにその中でも、Y1〜Y4の全てが水素原子であるか、または、(Y1,Y2)及び(Y3,Y4)のうち少なくとも一方の組がどちらも炭素数10以下のアルキル基であることが特に好ましい。溶解度が高くなり、成膜性が良好となるためである。
【0167】
前記可溶性前駆体は、熱変換により前記ベンゾポルフィリン化合物に変換される。変換に際してどのような反応が生じるかについて制限はないが、例えば前記一般式(III)又は(IV)で表される可溶性前駆体の場合、熱が加えられることによって下記一般式(V)の化合物が脱離する。この脱離反応は定量的に進行する。そして、この脱離反応によって、前記可溶性前駆体は前記ベンゾポルフィリン化合物に変換される。
【化55】

【0168】
熱変換について、上記にて例示したベンゾポルフィリン化合物BP−1を例に挙げて、具体的に説明する。ベンゾポルフィリン化合物BP−1の可溶性前駆体としては、例えば、式(III)において、Zia、Zib、R1〜R4及びY1〜Y4が全て水素原子である化合物(以下、「BP−1前駆体」という)を用いることができる。ただし、ベンゾポルフィリン化合物BP−1の可溶性前駆体は、このBP−1前駆体に限定されるものではない。
【0169】
BP−1前駆体は加熱されると、ポルフィリン環に結合した4個の環それぞれからエチレン基が脱離する。この脱エチレン反応により、ベンゾポルフィリン化合物BP−1が得られる。この変換を反応式で表すと、以下のようになる。
【化56】

【0170】
可溶性前駆体を熱変換によりベンゾポルフィリン化合物に変換する際、温度条件は前記の反応が進行する限り制限はないが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上である。温度が低すぎると、変換に時間がかかり、実用上好ましくなくなる可能性がある。上限は任意であるが、通常400℃以下、好ましくは300℃以下である。温度が高すぎると分解の可能性があるためである。
【0171】
可溶性前駆体を熱変換によりベンゾポルフィリン化合物に変換する際、加熱時間は前記の反応が進行する限り制限はないが、通常10秒以上、好ましくは30秒以上、また、通常100時間以下、好ましくは50時間以下である。加熱時間が短すぎると変換が不十分となる可能性があり、長すぎると実用上好ましくなくなる可能性がある。
【0172】
可溶性前駆体を熱変換によりベンゾポルフィリン化合物に変換する際、その雰囲気は前記の反応が進行する限り制限はないが、不活性雰囲気であることが好ましい。この際に用いることができる不活性ガスの種類としては、例えば、窒素、希ガス等が挙げられる。なお、不活性ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0173】
前記可溶性前駆体は、有機溶媒等の溶媒に対する溶解性が高い。具体的な溶解性の程度は溶媒の種類などによるが、25℃におけるクロロホルムに対する溶解性は、通常0.1g/L以上、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。なお、上限に制限はないが、通常1000g/L以下である。
【0174】
前記可溶性前駆体が溶媒に対して溶解性が高いのに対し、それから誘導されるベンゾポルフィリン化合物は有機溶媒等の溶媒に対する溶解性が非常に低い。これは、前記可溶性前駆体の構造が平面構造でないために溶解性が高く且つ結晶化しにくいのに対し、ベンゾポルフィリン化合物は構造が平面的であることに起因するものと推察される。したがって、このような溶媒に対する溶解性の違いを利用すれば、当該ベンゾポルフィリン化合物を含む層を塗布法により容易に形成できる。例えば、以下の方法により製造できる。即ち、本発明に係る可溶性前駆体を溶媒に溶解させて溶液を用意し、当該溶液を塗布してアモルファス又はアモルファスに近い良好な層を形成する。そして、この層を加熱処理して熱変換により前記可溶性前駆体を変換することで、平面性の高いベンゾポルフィリン化合物の層を得ることができる。この際、上述した例のように、式(III)又は(IV)で表される化合物のうちY1〜Y4が全て水素原子であるものを可溶性前駆体として用いると、脱離するものがエチレン分子であるため、系内に残りにくく、毒性、安全性の面で好適である。
【0175】
前記可溶性前駆体の製造方法に制限はなく、公知の方法を任意に採用することができる。例えば、前記のBP−1前駆体を例に挙げると、以下の合成経路を経て製造できる。なお、ここで、Etはエチル基を表し、t−Buはt−ブチル基を表す。
【化57】

【0176】
前記一般式(3)で表される化合物は、特開2003−304014号公報や特開2008−16834号公報などの記載を参照して調製することができる。
【0177】
[化合物を溶媒に溶解させる工程]
本発明の方法では、まず、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶解させる。
溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1,2−ジクロロベンゼン等の炭化水素系溶媒;例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶媒;例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒;例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒などを用いることができる。
その塗布液中の溶媒可溶性化合物の濃度は、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは0.1〜10質量%であり、これにより任意の厚さの膜を形成できる。
【0178】
[基板上に塗布する工程]
次いで、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を基板上に塗布する。
(基板)
本発明においては、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、セラミック、シリコン、石英、ガラスなどの種々の材料を基板として用いることができ、用途に応じていかなる基板を選択してもよい。例えば、フレキシブルな素子の用途の場合にはフレキシブル基板を用いることができる。また、基板の厚さは特に限定されない。
【0179】
(成膜方法)
本発明において、前記化合物を基板上に成膜する方法はいかなる方法でも良いが、溶液プロセスにより成膜することが特に好ましい。
溶液プロセスによる成膜とは、ここでは有機化合物を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、その溶液を基板上に塗布し乾燥させて成膜する方法を指す。具体的には、キャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、ラングミュア−ブロジェット(Langmuir-Blodgett)(LB)法などの通常の方法を用いることができる。本発明においては、キャスト法、スピンコート法、およびインクジェット法を用いることがさらに好ましい。このような溶液プロセスにより、表面が平滑で大面積の有機半導体膜を低コストで生産することが可能となる。
【0180】
また、成膜の際に樹脂バインダーを用いることも可能である。この場合、層を形成する材料とバインダー樹脂とを前述の適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。樹脂バインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン等の絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等の光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン等の導電性ポリマーなどを挙げることができる。樹脂バインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用しても良い。薄膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高い樹脂バインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造の樹脂バインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。
樹脂バインダーは使わない方が有機半導体の特性上好ましいが、目的によっては使用することもある。この場合の樹脂バインダーの使用量は、特に制限はないが、本発明の有機半導体膜中、好ましくは0.1〜30質量%で用いられる。
【0181】
また、成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜質や膜中での分子のパッキングを制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、0℃〜200℃の間であることが好ましい。
【0182】
前記化合物を含有する溶液の塗布量は、溶媒の種類や溶液の濃度などによって異なるが、形成される有機半導体膜の膜厚が後述の範囲内となるように適宜決定される。
【0183】
[脱離反応工程]
溶媒可溶性化合物を溶媒に溶解させた溶液を用いて塗布などを行った後、該化合物を脱離反応させて溶媒不溶な有機薄膜を形成する。
溶媒可溶性化合物が前記一般式(A)で表される置換基を有するπ共役系化合物である場合、前記一般式(A)で表される置換基が脱離する。また、溶媒可溶性化合物が前記一般式(2)で表される化合物である場合、−COOR2基が脱離する。溶媒可溶性化合物が前記一般式(3)で表される化合物である場合、下記スキームに示すように、−Z1−Z2−基が脱離する。これらの脱離反応により、溶媒可溶性化合物が溶媒不溶性化合物に変換される。
【0184】
【化58】

【0185】
脱離反応させる手段としては、ヒーターを用いた熱処理が代表的である。加熱温度は、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、250℃以上がさらに好ましい。また、上限は、550℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましく、400℃以下がさらに好ましい。高温であるほど反応時間は短く、低温であるほど脱離反応に必要な時間は長くなる。これらの加熱は、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
用途によっては、加熱温度や加熱時間を変えることで、置換基の一部のみを脱離させて、生成する化合物の特性を調整することも可能である。例えば、有機半導体膜として用いる場合、移動度を調整することができる。
加熱方法は、ヒーターを用いた伝熱による加熱の他、本発明に用いられる化合物を含有する層の近傍に光を吸収する層を設け、光をこの層で吸収させることにより加熱してもよい。
【0186】
また、上記のような熱処理の他、光分解処理や、又は化学分解(有機又は無機の酸又は塩基使用)によって溶媒可溶性基を脱離させてもよい。これらの変換方法を組み合わせることもできる。
光分解処理の場合、赤外線ランプや、化合物が吸収する波長の光を照射すること(例えば405nm以下の波長に露光)等を利用してもよい。その際に半導体レーザーを用いてもよい。例えば、近赤外域のレーザー光(通常は780nm付近の波長のレーザー光)、可視レーザー光(通常は、630nm〜680nmの範囲の波長のレーザー光)、波長390〜440nmのレーザー光が挙げられる。
最も好ましくは波長390〜440nmのレーザー光であり、440nm以下の範囲の発振波長を有する半導体レーザー光が好適に用いられる。中でも好ましい光源としては、390〜440(更に好ましくは390〜415nm)の範囲の発振波長を有する青紫色半導体レーザー光、中心発振波長850nmの赤外半導体レーザー光を光導波路素子を使って半分の波長にした中心発振波長425nmの青紫色SHGレーザー光を挙げることができる。
また、化学分解の場合に好ましく用いることができる有機又は無機の酸又は塩基としては、例えば酸として、鉱酸類(例えば硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸等)、有機カルボン酸類(例えば酢酸、シュウ酸、ギ酸、プロピオン酸、安息香酸等)、又はスルホン酸類(例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等)を用いるのが好ましく、より好ましくは硫酸、塩酸、臭化水素酸または酢酸であり、最も好ましくは硫酸または塩酸である。なおこれらの酸は、単独または二種以上を混合して使用しても良い。塩基として好ましくは、有機塩基、アルキルメタル、メタルハイドライド(例えばナトリウムハイドライド等)等である。更に好ましくはトリエチルアミン、ピリジン又はナトリウムハイドライドである。最も好ましくはトリエチルアミン又はピリジンである。
【0187】
[結晶成長工程]
本発明では、溶媒可溶性化合物の脱離反応により溶媒不溶な有機薄膜を形成した後に、さらに、該有機薄膜上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布して重ね塗りする工程、および溶媒可溶性化合物の脱離反応を行う工程を繰り返すことによって結晶性有機薄膜を積層し結晶を成長させる。重ね塗りする際に用いる溶媒可溶性化合物および溶媒は、初めに用いた溶媒可溶性化合物および溶媒と同一でも異なるものでもよいが、同一であることが好ましい。なお、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布する工程および溶媒可溶性化合物の脱離反応を行う工程の条件については、それぞれ上述の条件と同様である。
従来、潜在顔料(ラテントピグメント)の分野では、分子配列を乱す可能性があるため、二度塗りして薄膜形成することは行われていなかった。一方、本発明では、不溶化した薄膜上に特定の化合物を塗布成膜し不溶化することで結晶が成長し、大きな結晶子の結晶性有機薄膜(有機半導体膜)が得られる。このように不溶化した薄膜上に特定の化合物を塗布(重ね塗り)して成膜し不溶化し積層することで結晶が成長することは予想外であり、当業者が容易に想到しうるものではない。
【0188】
本発明の方法により得られた結晶性有機薄膜は、結晶性が良好で、かつ、化学的安定性および半導体動作安定性が高く良好な半導体特性を示し、有機半導体膜(有機半導体材料)として好ましく用いることができる。
【0189】
[有機半導体材料]
本発明における有機半導体材料とは、半導体の特性を示す有機材料のことである。また、固体半導体材料は、少なくとも固体状態となった場合に電荷を輸送することができる材料を表す。有機半導体中のキャリアの流れやすさはキャリア移動度μで表される。用途にもよるが、一般に移動度は高い方がよく、10-7cm2/Vs以上であることが好ましく、10-6cm2/Vs以上であることがより好ましい。移動度は電界効果トランジスタ(FET)素子を作製したときの特性や飛行時間計測(TOF)法により求めることができる。電気伝導度はキャリア移動度×キャリア密度で定義されるため、ある程度の大きさのキャリア移動度を有する材料であれば、例えば熱、ドーピング、電極からの注入などによりキャリアが当該材料内に存在すれば、その材料は電荷を輸送することができるのである。なお、固体半導体材料のキャリア移動度は大きいほど望ましい。
【0190】
ところで、固体半導体材料や、半導体特性を示す顔料などの半導体材料においては、電荷を輸送するキャリアは電子と正孔の2種類存在し、その密度の大きいほうが多数キャリアと呼ばれる。多数キャリアは、通常は半導体材料の種類やドーピング状態によって決定される。また、半導体材料のタイプとしては、多数キャリアが、電子であるものはn型、正孔であるものはp型、つり合っているものはi型と呼ばれる。
【0191】
有機光電変換素子は光の吸収により電子と正孔とを分離して外部に取り出すものであるので、p型とn型の両方の半導体材料を含む活性層を有することが多い。したがって、本発明に用いられる顔料が半導体特性を示す場合には、本発明に用いられる顔料の多数キャリアと固体半導体材料の多数キャリアとは逆の極性を有していることが好ましい。即ち、本発明に用いられる顔料がp型である場合には固体半導体材料としてはn型のものを使用し、逆に、本発明に用いられる顔料がn型である場合には固体半導体材料としてp型のものを使用することが望ましい。なお、顔料又は固体半導体材料が2種以上存在する場合、少なくとも1種の顔料と少なくとも1種の固体半導体材料とが逆の極性の多数キャリアを有していれば好ましく、これに加えて、同じ極性の顔料及び/又は固体半導体材料を有していてもよい。具体例を挙げると、本発明に用いられる顔料がペンタセンやベンゾポルフィリンである場合には、これらの顔料は通常p型として動作するので、組み合わせる相手である固体半導体材料はn型を示すものが挙げられ、例えば、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、フラーレン(C60)、チタニア、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0192】
ただし、p型、n型は半導体材料の種類により絶対的に決まるものではない。例えば、同じ型の半導体材料を組み合わせても、そのエネルギー準位(HOMO準位、LUMO準位、フェルミ準位)やドーピング状態の関係で、一方がp型、もう一方がn型として動作することもある。
【0193】
さらに、有機光電変換素子において、固体半導体材料は、通常、粒子状、ファイバー状等の凝集状態で存在する。この際の固体半導体材料の粒径等の寸法(粒子では粒径、ファイバではファイバ径)に制限は無い。ただし、固体半導体材料の粒径は、通常2nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは1μm以下である。このような小粒径の粒子を顔料と共に活性層(中でも、混合半導体膜)内で良好に分散させることは従来の技術では困難であり、中でも、有機顔料と無機の固体半導体材料とが共存する混合半導体膜内においては特に困難であった。しかし、本発明の方法によれば、このように小さい粒径の粒子であっても活性層(中でも、混合半導体膜)内において良好に分散させることが可能である。
なお、固体半導体材料の粒径は、電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
【0194】
固体半導体材料の具体的な種類に制限は無く、有機光電変換素子の材料として使用できる限り任意のものを使用することが可能である。その例を挙げると、ナフタレン(或いはペリレン)テトラカルボン酸ジイミド、フラーレン(C60)およびその誘導体等の有機半導体;チタニア、酸化亜鉛、酸化銅等の酸化物半導体;GaAs、GaP、InP、CdS、CdSe、GaN、CuInSe2、Cu(In,Ga)Se2等の化合物半導体;Si、Ge等の単元素半導体などが挙げられる。
【0195】
さらに、固体半導体材料の存在状態は任意であり、例えば粒子であっても良く、また、何らかの溶媒に溶解していても良い。したがって、有機光電変換素子の製造方法においては、固体半導体材料は、塗布液(後述する)中において溶解していてもよく、粒子状に分散していても良い。
溶媒に溶解する固体半導体材料の例としては、溶液プロセスで成膜可能な有機半導体材料が挙げられ、具体例としては、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリアニリン等の共役高分子;アルキル置換されたオリゴチオフェン等が挙げられる。
【0196】
また、粒子状に分散する固体半導体材料の例としては、有機半導体粒子及び無機半導体粒子が挙げられる。有機半導体粒子としては、例えば、溶解性の小さな結晶性有機半導体が挙げられ、具体例としては、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、フラーレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン等のチオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類;チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環を合計4個以上連結したもの;ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の、芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物;銅フタロシアニン、パーフルオロ銅フタロシアニン、テトラベンゾポルフィリン及びその金属塩等の大環状化合物などが挙げられる。また、上述した酸化物半導体、化合物半導体、単元素半導体等の無機半導体も、通常は、塗布液中で無機半導体粒子として存在することになる。
【0197】
中でも、固体半導体材料としては、上記の酸化物半導体、化合物半導体、単元素半導体等の無機半導体が好ましい。無機半導体は耐久性に優れており、また、各種ナノ粒子が利用可能である。さらに、無機半導体は耐久性に優れキャリア移動度が大きいものが多く、有機光電変換素子の高効率化が期待できるためである。特に、中でもチタニア、酸化亜鉛が、低コストで利用可能という利点があるため特に好ましい。
【0198】
また、特に固体半導体材料として無機半導体を使用する場合、当該無機半導体は粒子状の無機粒子であることが好ましい。これにより、混合液の塗布で膜内に容易に導入できるという利点、キャリア分離の場である界面が大きいという利点を得ることができる。
【0199】
(有機半導体膜の後処理)
作製された有機半導体膜は、後処理により特性を調整することができる。例えば、加熱処理や溶媒蒸気への暴露により膜のモルホロジーや膜中での分子のパッキングを変化させることで特性を向上させることが可能である。また、酸化性または還元性のガスや溶媒、物質などにさらす、あるいはこれらを混合することで酸化あるいは還元反応を起こし、膜中でのキャリア密度を調整することができる。
【0200】
(膜厚)
有機半導体膜の膜厚は、特に制限されず、用いられる電子デバイスの種類などにより異なるが、好ましくは5nm〜50μm、より好ましくは20nm〜500nmである。
【0201】
[有機電子デバイス]
本発明における有機電子デバイスは、前記の方法により得られた有機半導体膜を含む。ここで、有機電子デバイスとは、有機半導体を含有しかつ2つ以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、化学物質などにより制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場などを発生させるデバイスである。例としては、有機光電変換素子、有機電界効果トランジスタ、有機電界発光素子、ガスセンサ、有機整流素子、有機インバータ、情報記録素子などが挙げられる。有機光電変換素子は光センサ用途、エネルギー変換用途(太陽電池)のいずれにも用いることができる。これらの中で、好ましくは有機電界効果トランジスタもしくは有機光電変換素子であり、特に好ましくは有機電界効果トランジスタである。
【0202】
(有機電界効果トランジスタ)
本発明の有機電子デバイスの好ましい一実施態様である有機電界効果トランジスタの素子構成について、図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の有機半導体膜を用いた有機電界効果トランジスタ素子の構造を概略的に示す断面図である。図1のトランジスタは積層構造を基本構造として有するものであり、最下層に基板11(例えば、ポリエチレンナフトエート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフイルム、ポリイミドフィルム、セラミック、シリコン、石英、ガラスなど)を配置し、その上面の一部に電極12を設け、さらに該電極12を覆い、かつ電極12以外の部分で基板11と接するように絶縁体層13を設けている。さらに絶縁体層13の上面に有機半導体層14を設け、その上面の一部に2つの電極15aと15bとを隔離して配置している。
電極12、電極15a及び電極15bの構成材料は、導電性を示すものであれば特に制限なく用いることができ、Cr、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、In、NiあるいはNdなどの金属材料やこれらの合金材料、あるいはカーボン材料、導電性高分子など、既知の導電性材料であれば特に制限することなく使用できる。
【0203】
なお、図1に示した構成はトップコンタクト型素子と呼ばれるが、図2に示すように電極34a及び34bが有機半導体層35の下部にあるボトムコンタクト型素子も好ましく用いることができる。
図2示されるボトムコンタクト型素子について説明する。図2のボトムコンタクトが素子は、電極34a及び34bが有機半導体層35の下部にあること以外は図1に示したトップコンタクト型素子と同様の構成である。例えば、最下層に透明基板(ガラス)31が配置され、その上面に透明電極(ITO)32が設けられ、さらに該透明電極32を覆いかつ透明電極32以外の部分で透明基板31と接するように透明絶縁体層(Al23)33が設けられる。さらに透明絶縁体層33の上面の一部に透明ソース電極(ITO)34aと透明ドレイン電極(ITO)34bとが隔離して配置される。さらに電極34a及び34bを覆い、かつ電極34a及び34b以外の部分で透明絶縁体層33と接するように半導体活性層(p型有機半導体材料)35が設けられる。
【0204】
ゲート幅(チャンネル幅)Wとゲート長(チャンネル長)Lに特に制限はないが、これらの比W/Lが10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0205】
各層の厚さに特に制限はないが、より薄いトランジスタとする必要がある場合には、例えばトランジスタ全体の厚さを0.1〜0.5μmとすることが好ましく、そのために各層の厚さを10〜400nmとすることが好ましく、電極の厚さを10〜50nmとすることが好ましい。
【0206】
絶縁層13を構成する材料は、必要な絶縁効果が得られれば特に制限はないが、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、ポリエステル絶縁材料、ポリカーボネート絶縁材料,アクリルポリマー系絶縁材料、エポキシ樹脂系絶縁材料、ポリイミド絶縁材料、ポリパラキシリレン樹脂系絶縁材料などが挙げられる。絶縁層13の上面は表面処理がなされていてもよく、例えば、二酸化ケイ素表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の塗布により表面処理した絶縁層を好ましく用いることができる。
【0207】
(封止)
素子を大気や水分から遮断し、素子の保存性を高めるために、素子全体を金属の封止缶やガラス、窒化ケイ素やアルミナなどの無機材料、パリレンなどの高分子材料などで封止しても良い。
【0208】
本発明の有機半導体膜およびこれを用いた電子デバイス(特に電界効果トランジスタ(FET))は、高純度であり、半導体動作安定性が高く、良好な半導体特性を示す。
【実施例】
【0209】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0210】
参考例
特開2005−119165号公報に記載の合成法に従って、α−t−ブチルスルホニル置換フタロニトリル4mmol、塩化第二銅1mmolをブタノール10mlに添加し、80℃まで加熱したところでジアザビシクロウンデセン(DBU)10mmolを滴下した。そのまま7時間加熱攪拌を続けた後に濾過し、メタノールで洗浄して、α−テトラ−t−ブチルスルホニル置換銅フタロシアニン(化合物1:例示化合物A−1)を調製した(収率68%)。
【0211】
(TG/DTA測定)
調製した化合物1について熱分析(TG/DTA測定)を行った。TG/DTA測定は、Seiko Instruments Inc.製EXSTAR6000(商品名)を用い、N2気流下(流量200ml/min)、30℃〜550℃の範囲において10℃/分で昇温を行い、質量減少率を求めた。測定結果を図3に示す。図3は、化合物1のTG/DTA測定結果を示すグラフである。図3中、一番上の曲線は、温度に対する質量変化(TG)を示し、一番下の曲線は、温度に対する熱の出入り(エンタルピー変化)(DTA)を示し、真中の曲線は、TGの時間当たりの変化量(微分値)(DTG)を示す。
図3中の一番上の曲線から、200℃を越えたあたりから徐々に質量減少が起こり、340℃位までの間に約50%程度の質量減少が起きたことがわかった。この質量減少は、化合物1における置換基(−SO2C(CH3)3基)の質量分に相当する。また、図3中の一番下の曲線から、約240℃付近から吸熱し始め、340℃程度まで吸熱が起きたことがわかった。これらの結果から、加熱により化合物1から置換基が脱離したことが分かった。
【0212】
(MALDI−TOF−MS測定)
窒素気流下、10℃/分の昇温速度で400℃まで加熱した前後の化合物1について、それぞれマトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)測定を行った。MALDI−TOF−MS測定は、Applied Biosystems社製Voyager−DE PRO(商品名)を使用し、マトリックスとしてα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(東京化成社製)を用いて行った。スペクトル測定結果を図4に示す。図4(a)は化合物1の加熱処理前のMALDI−TOF−MSスペクトル測定結果を示すグラフであり、図4(b)は化合物1の加熱処理後のMALDI−TOF−MSスペクトル測定結果を示すグラフである。
加熱処理前の状態を示す図4(a)では、化合物1の分子量に相当する1056([M+]+1)のピークが見られたが、加熱処理後の状態を示す図4(b)では、このピークが消失し、新たに無置換の銅フタロシアニン(CuPc:C3216CuN8)の分子量に相当する575([M+])のピークが現れることがわかった。この結果から、化合物1が加熱により無置換の銅フタロシアニンに変換されたことが分かった。
【0213】
(X線回折測定)
窒素気流下、10℃/分の昇温速度で400℃まで加熱した後の化合物1について、X線回折測定を行った。X線回折測定は、Rigaku社製X−ray DIFFRACTOMETER RINT−2500(商品名)を使用した。測定結果を図5に示す。
図5の結果から明らかなように、加熱前にはアモルファス固体だった化合物1が、加熱後には結晶化していることが分かった。
【0214】
以上の測定結果から、アモルファス固体状の化合物1は、加熱によって、結晶性の無置換の銅フタロシアニンに変換されることが分かった。
【0215】
実施例1
化合物1(20mg)をクロロホルム(1ml)に溶解させ、超音波を10分間照射した後に径0.45μmのフィルタで濾過することで化合物1の飽和溶液を調製した。この飽和溶液を石英基板上に1000rpmでスピンコートすることで、厚みが均一な吸収スペクトル測定用薄膜試料を得た。
作製した薄膜試料について吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、島津製作所製、商品名、MPC−2200/UV−2400を用いて測定した。測定結果を図6中に線Aとして示す。加熱処理前の試料の吸収スペクトルは、スペクトル形状が溶液の吸収スペクトルに類似していた。
また、この時の有機膜を偏光光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したところ、均一なアモルファス膜が形成されていた。図7(a)は、化合物1の熱処理前のキャスト膜の光学顕微鏡写真である。
【0216】
次に、該試料について窒素雰囲気下400℃で30分間加熱処理した後に、上記と同様にして吸収スペクトルを測定した。測定結果を図6中に線Bとして示す。熱処理後の試料では、加熱処理により置換基が脱離し膜中での分子同士の分子間相互作用が増大することが分かった。
また、この時の有機膜を偏光光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したところ、微結晶と思われる縞模様上に10μm程度のフタロシアニン結晶が観測された。図7(b)は、化合物1の熱処理後のキャスト膜の光学顕微鏡写真である。
【0217】
次に、この薄膜上に、更に化合物1の飽和溶液を1000rpmでスピンコートして薄膜を得た。得られた薄膜について上記と同様にして吸収スペクトルを測定した。測定結果を図6中に線Cとして示す。
また、この時の有機膜を偏光光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したところ、400℃焼成して得た膜と同様の結晶状態だった。図7(c)は、化合物1の400℃焼成後塗布形成した膜の光学顕微鏡写真である。
【0218】
最後に、該試料について窒素雰囲気下400℃で30分間加熱処理した後に、上記と同様にして吸収スペクトルを測定した。測定結果を図6中に線Dとして示す。
また、この時の有機膜を偏光光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したところ、長さ100μm程度のフタロシアニン針状結晶及び直径10μm程度の球状結晶が高密度で観測された。図7(d)及び(e)は、化合物1の400℃焼成2回目の膜の光学顕微鏡写真である。
【0219】
上記の結果、初めに焼成して得られた薄膜では結晶化の程度は低かったが、その薄膜上に重ね塗りして二回目に焼成して得られた薄膜では結晶が成長することがわかった。すなわち、一回目の潜在顔料化では大きな結晶成長は起こらず、二回目の潜在顔料化に伴い結晶成長したと考えられる。薄膜上での結晶成長にはある程度化合物の量が必要であるとともに、一回目の潜在顔料化の微結晶が二回目の潜在顔料化の際に大きな結晶成長を誘発したと考えられる。
【0220】
比較例1
単純に膜厚を大きくするためにスピンコート法を多重に用いて、膜を作製した。得られた膜の吸収スペクトルを実施例1と同様にして測定した。結果を図8に示す。比較のために、実施例1における加熱処理前の試料の吸収スペクトル(図6中に線Aとして示された吸収スペクトル)について図8中に転記する。
図8の結果から明らかなように、飽和溶液を用いて塗布しても、比較例1では一回目に塗布した化合物を溶解させながら二回目の塗布が行われるため、吸光度の実質的な増大は観察されず、それどころか吸光度が減少することがわかった。
【0221】
実施例2
化合物1(20mg)をクロロホルム(1ml)に溶解させ、超音波を10分間照射した後に径0.45μmのフィルタで濾過することで化合物1の飽和溶液を調製した。この飽和溶液をFET特性測定用基板上に1000rpmでスピンコートすることで、厚みが均一なFET特性測定用試料を得た。FET特性測定用基板としては、図2に模式的に示したボトムコンタクト型の構成のものを使用した。ソースおよびドレイン電極としてくし型に配置されたクロム/金(ゲート幅W=100000μm、ゲート長L=100μm)、絶縁膜としてSiO2(膜厚200nm)を備えたボトムコンタクト構造のシリコン基板を用いた。
【0222】
(FET特性の測定)
まず、上記のFET特性測定用試料についてFET特性(ドレイン電圧100V印加時のゲート電圧−ドレイン電流特性)を測定した。FET特性は、窒素雰囲気下、セミオートプローバー(ベクターセミコン製、商品名、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、商品名、4156C)を用いて測定した。測定結果を図9中に線(a)として示す。その結果、FET特性を全く示さなかった。
【0223】
次に、前記試料を窒素雰囲気下350℃で熱処理し、その後に上記と同様にしてFET特性を調べた。測定結果を図9中に線(b)として示す。その結果、わずかにp型の半導体特性を示したが、特性が悪く、キャリア移動度は算出できなかった。
【0224】
更に、この後に、前述の方法で化合物1の飽和クロロホルム溶液をFET特性測定用基板上に再度スピンコートし、窒素雰囲気下350℃で熱処理し、その後に上記と同様にしてFET特性を調べた測定結果を図9中に線(c)として示す。その結果、良好なp型の半導体特性を示した。
ドレイン電流Idを表す式Id=(w/2L)μCi(Vg−Vth2(式中、Lはゲート長、Wはゲート幅、Ciは絶縁層の単位面積当たりの容量、Vgはゲート電圧、Vthは閾値電圧を表す。)を用いてキャリア移動度μを算出すると、1.1×10-6cm2/Vsであった。また、ドレイン電圧−100V印加時ゲート電圧−ドレイン電流特性における最大および最小ドレイン電流値(Id)の比より算出したオン/オフ比は、1.1×10であった(ゲート電圧−100V時)。
この結果は、実施例1と同様にFET基板上で銅フタロシアニンの結晶が成長し、そのために移動度が上昇したためであると考えられる。
【0225】
さらに、上記のFET特性測定用試料それぞれについてFET特性(ゲート電圧100V印加時のドレイン電圧−ドレイン電流特性)を測定した。加熱処理前の試料の測定結果を図10(a)に、350℃加熱処理後の試料の測定結果を図10(b)に、2度塗り2度焼成後の試料の測定結果を図10(c)に示す。図10(a)〜(c)の結果から明らかなように、本発明の方法によれば、基板上の溶媒可溶性化合物を加熱することにより該化合物の置換基が脱離して不溶化すること、並びに成膜後に重ね塗りして薄膜形成を行うことで、基板上の溶媒可溶性化合物の結晶化及び分子再配列を誘発し、FET特性を劇的に向上させることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】有機電界効果トランジスタのトップコンタクト型素子の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】有機電界効果トランジスタのボトムコンタクト型素子の構造を概略的に示す断面図である。
【図3】化合物1のTG/DTA測定結果を示す図である。
【図4】化合物1の(a)加熱処理前および(b)加熱処理後のMALDI−TOF−MSスペクトル測定結果を示す図である。
【図5】化合物1の400℃加熱処理後のX線回折測定結果を示す図である。
【図6】化合物1からなる膜の(a)加熱処理前、(b)400℃加熱処理後、(c)400℃焼成後塗布後、及び(d)400℃2回目焼成後の吸収スペクトルを示す図である。
【図7】(a)化合物1の熱処理前のキャスト膜、(b)化合物1の熱処理後のキャスト膜、(c)化合物1の400℃焼成後塗布形成した膜、並びに(d)及び(e)化合物1の400℃焼成2回目の膜の光学顕微鏡写真である。
【図8】実施例1における化合物1の加熱処理前の試料及び比較例1の試料についてのMALDI−TOF−MSスペクトル測定結果を示す図である。
【図9】化合物1からなる膜の(a)加熱処理前、(b)350℃加熱処理後、及び(c)2度塗り2度焼成後のFET特性(ドレイン電圧−100V印加時のゲート電圧−ドレイン電流特性)を示す図である。
【図10】化合物1からなる膜の(a)加熱処理前、(b)350℃加熱処理後、及び(c)2度塗り2度焼成後のFET特性(ゲート電圧−100V印加時のドレイン電圧−ドレイン電流特性)を示す図である。
【符号の説明】
【0227】
11 基板
12 電極
13 絶縁体層
14 有機物層(有機半導体層)
15a、15b 電極
31 基板
32 電極
33 絶縁体層
34a、34b 電極
35 有機物層(有機半導体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)基板上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布する工程、
(ii)前記溶媒可溶性化合物を脱離反応させて溶媒不溶化し有機薄膜を形成する工程、及び
(iii)前記有機薄膜上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布し、脱離反応させて結晶性有機薄膜を積層する工程
を含むことを特徴とする結晶性有機薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒可溶性化合物が、下記一般式(A)で表される置換基を有するπ共役系化合物である、請求項1記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【化1】

(式中、R1は水素原子または置換基を表す。aは1又は2の整数を表す。)
【請求項3】
前記π共役系化合物が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項2記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【化2】

(式中、Xは−N=又は−CH=を表す。N1〜N4はそれぞれ窒素原子を表す。Mは金属原子または水素原子を表す。ただし、Mが水素原子を表す場合、2つの水素原子がN1〜N4のいずれか2つの窒素原子にそれぞれ結合する。Ra〜Rhはそれぞれ水素原子を表すか、またはRa及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になって芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環を形成する。複数の芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環は同一でも異なっていてもよい。R1は水素原子または置換基を表す。aは1又は2の整数を表す。mは1〜16の整数を表す。mが2以上の場合、複数の−S(O)a1基は同一でも異なっていてもよい。−S(O)a1基は、X、Ra〜Rh、またはRa及びRb、Rc及びRd、Re及びRf、Rg及びRhがそれぞれ一緒になって形成する芳香族炭化水素環もしくは芳香族へテロ環における水素原子と置換する。)
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物がフタロシアニン化合物である、請求項3記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒可溶性化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【化3】

(式中、Aは、アントラキノン系、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、キナクリドン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、ジオキサジン系、インダントロン系、インジゴ系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ペリレン系及びフタロシアニン系の発色団の残基を表し、これらはAが有するヘテロ原子を介して−COOR2基に結合している。R2は、水素原子または置換基を表し、lは1〜8の整数である。)
【請求項6】
前記溶媒可溶性化合物が、下記一般式(3)で表される化合物である、請求項1記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【化4】

(式中、X1及びX2の少なくとも一方は、π共役した2価の芳香族環を形成する基を表し、π共役した2価の芳香族環を形成する基でない場合は、置換又は無置換のエテニレン基を表す。−Z1−Z2−基は熱または光により脱離可能な基を表す。)
【請求項7】
前記の脱離反応させる手段が熱処理である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の結晶性有機薄膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により得られる結晶性有機薄膜。
【請求項9】
請求項8記載の結晶性有機薄膜からなる有機半導体膜。
【請求項10】
請求項9記載の有機半導体膜を含む有機電子デバイス。
【請求項11】
請求項9記載の有機半導体膜を含む有機電界効果トランジスタ。
【請求項12】
(i)基板上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布する工程、
(ii)前記溶媒可溶性化合物を脱離反応させて溶媒不溶化し有機薄膜を形成する工程、及び
(iii)前記有機薄膜上に、溶媒可溶性化合物を溶媒に溶かした溶液を塗布し、脱離反応させて結晶性有機薄膜を積層する工程
を含むことを特徴とする有機化合物の結晶を成長させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−302407(P2009−302407A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157226(P2008−157226)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】