説明

結晶成長装置

【課題】結晶成長を繰り返し実行しても、成長結晶層の層厚及び結晶組成の変化が低減された、高品質な結晶層を成長できる結晶成長装置を提供する。
【解決手段】押さえガスを供給する副噴射器の内部に遮熱器25が設けられている。遮熱器25は、押さえガスが流入する複数の流入側通気部27Aと、流入側通気部と互いに連通し、流入側通気部27Aから流入した押さえガスを噴出する複数の流出側通気部27Bを有し、上記流出側通気部27B及び流入側通気部27Aは、流出側通気部27Bの開口部から流入側通気部27Aの開口部への見通し経路を有しないように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相結晶成長装置、特に、2フロー方式のMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からレーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)、電子デバイス等の産業分野で半導体単結晶成長方法としてMOCVD法等の気相成長が幅広く用いられている。 MOCVD法を用いた成長装置には、基板の成長面に対して材料ガス流(ガスフロー)を垂直に流す方式(バーチカル方式)と、水平に流す方式(ホリゾンタル方式)とがある。また、材料ガスを水平に流し、垂直方向から押さえガスを流す2フロー方式などがある。使用する材料ガスと目的デバイス等により適した方式が選択される。
【0003】
2フロー方式の特長は、基板に対して垂直方向(又は斜め方向)から流すガス(以下、押えガスという。)によって、基板主面(すなわち、成長面)の水平方向から供給する材料ガス流が基板表面から剥離せずに流れるようにしている点にある。
【0004】
従来の2フロー反応容器は、例えば、特許文献1及び2に開示されている構造を有している。例えば、特許文献2に開示されているように、反応容器の内部にはヒーター、サセプタが装備されており、サセプタ上に基板が配置され加熱される。反応ガスは、基板主面と平行に反応ガス供給管から供給され、押えガスは副噴射管から整流板を介して基板に対して若干斜め方向から吹きつける構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−164895号公報
【特許文献2】特開2003−173981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の従来の成長装置においては、反応容器内に反応ガス供給管が設けられている。例えば、MOCVD装置において、材料ガスを基板上に供給し、結晶成長を行うと、反応容器内部には副生成物が付着する。例えば、TMG(トリメチルガリウム)とNH(アンモニア)を用いて約1000℃でサファイア基板上にGaNを成長すると、基板上に成長した結晶以外に反応容器内部に灰色状の副生成物粉体が付着する。この副生成物粉体は成長毎に堆積量が増える。また、その性質は成長に用いるガス種、ガス供給比率、成長温度により変化し一定ではない。このように、付着物が一定しない状況においては、基板上に成長する結晶、特に、GaN、AlGaN、InGaN等のGaN系結晶の層厚が一定しない、また、組成が変動するという問題が発生する。
【0007】
このように、各結晶層の層厚や結晶組成が変動する状態で半導体発光素子を製造した場合、I−V(電流−電圧)特性、I−L(電流−光出力)特性、発光波長などがバラつき、素子特性の低下、製造歩留まりが悪くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶成長を繰り返し実行しても、成長結晶層の層厚及び結晶組成の経時的変化が低減された、高品質な結晶層を成長できる2フロー方式の結晶成長装置を提供することにある。また、高性能かつ高い信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた半導体発光素子を製造可能な結晶成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の結晶成長装置は、基板の成長面に対して、材料ガスを水平な流れで供給する材料ガス供給管と、押さえガスを成長面に垂直ないしは材料ガスの下流方向に傾斜した流れで供給する副噴射器を有する結晶成長装置であって、副噴射器の内部に設けられた遮熱器を有し、遮熱器は、押さえガスが流入する複数の流入側通気部と、流入側通気部と互いに連通し、流入側通気部から流入した押さえガスを噴出する複数の流出側通気部を有し、上記流出側通気部及び流入側通気部は、流出側通気部の開口部から流入側通気部の開口部への見通し経路を有しないように形成されていることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の2フロー方式の成長装置の構成を模式的に示示す図である。
【図2】実施例1による副噴射器の遮熱器を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図3】(a)、(b)は、実施例1の遮熱器の通気孔の部分P(図2の破線で示す)を拡大して示し、通気孔の詳細構成を説明するための部分拡大断面図である。
【図4】本実施例に対する比較例であり、遮熱器が設けられていない従来の2フロー方式のMOCVD成長装置を模式的に示す図である。
【図5】図2(実施例1)と同様な図であり、実施例2の副噴射器の遮熱器を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図6】(a)、(b)は、実施例2の遮熱器の通気孔の部分P(図2の破線で示す)を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図7】実施例1,2、及び比較例の場合について、成長回数に対する成長層厚変化(%)を示すグラフである。
【図8】実施例1,2、及び比較例の場合について、成長回数に対するEL波長の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下においては、2フロー方式のMOCVD装置について図面を参照して詳細に説明する。以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下に説明する図において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の結晶成長装置10の構成を模式的に示している。結晶成長装置10の装置構成について以下に詳細に説明する。
[装置構成]
図1に示すように、結晶成長装置(MOCVD装置)10は、反応容器11、材料ガス供給管12、基板15を載置・保持するサセプタ14、ヒータ16、ヒータ16の熱を遮断するための遮熱板17、排気管18、及びサセプタ14(すなわち、基板15)を回転させる基板回転機構19を有している。また、MOCVD装置10には副噴射器20が設けられており、副噴射器20には、副噴射器20に押えガスを供給する押えガス供給管21、及び整流板23が設けられている。さらに、後に詳述するように、サセプタ14及び基板15からの熱を遮断するための遮熱器25が設けられている。遮熱器25を経て噴出された押えガスは整流板23によって整流される。
【0013】
材料ガス供給管12を経た材料ガス(図中、矢印で示す)が基板15に対して横方向(水平方向)から供給され、副噴射器20によって押えガスが基板に対して略法線方向(基板に直交方向)から供給される。押さえガスは材料ガスが基板15から剥離しない様に十分な勢いで吹付けられる。
【0014】
図2は、副噴射器20の遮熱器25を模式的に示す平面図及び断面図である。なお、図2上側には、遮熱器25の上側(押さえガス流入側)の表面25Aを示し、遮熱器25の1/2の部分を示している。なお、25Bは遮熱器25の下側(押さえガス流出側)の裏面である。図2の平面図に示すように、遮熱器25は、例えば、その外径φ1がφ70mmであり、噴出し有効部26の直径(噴出し有効部径)φ2がφ60mmである。噴出し有効部26内には複数の通気孔27が設けられている。例えば、通気孔27の各々の直径(PH)は3mmであり、噴出し有効部26の噴出し面内に数十個から百数十個が設けられている。通気孔27は屈曲しており、押さえガスの流入側の流入側通気部27A及び流出側の流出側通気部27Bからなる。換言すれば、流入側通気部27Aと、当該流入側通気部27Aに対応する流出側通気部27Bとが連通し、屈曲した形状の通気孔27が形成されている。そして、遮熱器25には、複数の屈曲した通気孔27が形成されている。なお、以下においては、通気孔27が直径PHの円形状の断面を有する場合を例に説明するが、断面が楕円形状、矩形形状などいかなる形状を有していてもよい。なお、遮熱器25の表面25A及び裏面25Bが、互いに平行でかつ基板に対しても平行である場合を例に説明する。
【0015】
図3(a)、(b)は、遮熱器25の通気孔27の部分P(図2中、破線)を拡大して示し、通気孔27の詳細構成を説明するための部分拡大断面図である。より詳細には、図3(a)は、サセプタ14及び基板15から放射される熱(赤外線)の経路を模式的に示す部分拡大断面図である。通気孔27は、押さえガスの流入口である流入側開口部(すなわち流入側通気部27Aの開口部)28A及び押さえガスの流出口である流出側開口部(すなわち流出側通気部27Bの開口部)28Bを有している。前述のように、流入側通気部27A及び流出側通気部27Bが直径PHの円形状の断面を有し、遮熱器25の表面25A及び裏面25Bの垂直方向に対して傾斜して形成されている場合、流入側開口部28A及び流出側開口部28Bは、楕円形状を有する。
【0016】
赤外線の放射経路は直線で表現することが可能で、図3(a)の赤外線の放射経路U1,U2,U3で例示されるように、赤外線が通気孔27の流出側開口部28Bのいかなる場所からいかなる角度で入射しても通気孔27の内壁で遮断(ブロック)され、通気孔27の流入側開口部28Aから出ていくことがないように、通気孔27が形成されている。換言すれば、流出側開口部28Bから流入側開口部28Aを見通すことができない。つまり、通気孔27は、流出側開口部28Bから流入側開口部28Aへの見通し経路を有しない、又は見通し不可(NLOS:Non Line Of Sight)であるように形成されている。
【0017】
上述のように、整流板23の上部(上流側)に遮熱器25を設け、互いに連通する流入側通気部27A及び流出側通気部27Bからなり屈曲した通気孔27を遮熱器25に設けている。そして、通気孔27は、流出側開口部28Bから流入側開口部28Aへの見通しが不可であるように構成されている。このように通気孔27の押さえガスの流出口から流入口が見通せない構造とすることで、通気孔27に入射する熱放射(赤外線)は遮熱器25に吸収される。熱放射は赤外線なので一部は反射するが、通気孔27内での多重反射で遮熱器25の内壁で吸収される。
【0018】
図3(b)は、本実施例の通気孔27の形状、サイズ等の一例を示す断面図であり、遮熱器25の流入側及び流出側の面25A及び25Bに平行な中心線C−Cに対称であるように流入側通気部27A及び流出側通気部27Bが設けられている場合を示している。例えば、流入側通気部27A及び流出側通気部27Bは遮熱器25の垂直方向に対して30°(=θ1)傾斜した構造を有している。また、孔径PHはφ3mm、流入側開口部28A及び流出側開口部28B(楕円形状)の長径W1は3.46mm、遮熱器25の厚さは16mm(=2×T1)である。また、開口部28A及び開口部28Bからの遮熱器25の垂直方向から見通せる深さである見通し深さD1=6mmであり、通気孔27の屈曲による開口部28A及び開口部28Bからの遮熱器25の垂直方向からは見えない位置の突出部の内壁の幅である経路の重なりSが1.2mmあるので、流出側開口部28Bから流入側開口部28Aを見通すことはできない。遮熱器25の厚さは通気孔27の孔径と傾きで決まる。本実施例において片側の通気部の厚さは、遮熱器25の法線方向から通気部を見てもう一方の通気部の開口が見えない厚さにすれば良い(厚さT1>見通し深さD1)。見通し深さD1=W1/tanθ1で求まるが、本実施例の場合、D1=6mmなので、遮熱器25の総厚は12mm以上あれば良い。本実施例では16mmとした。また、遮熱器25は、通気孔27に入射した赤外線を十分に吸収できる厚さを有するのが好ましく、通気孔27の孔径の5倍以上が好ましい。反射率が高い材料(BN、アルミナ)を用いた場合は10倍以上が望ましい。
【0019】
図4は、本発明に対する比較例であり、遮熱器25が設けられていない従来の2フロー方式のMOCVD成長装置を模式的に示している。
【0020】
本願の発明者は、鋭意研究の結果、従来の2フロー方式の成長装置において、成長層の層厚や組成、特に、装置の汚れ除去などの清浄化を行わずに、成長を繰り返し行った場合に成長層の層厚や組成が成長を重ねるごとに変化するのは、副噴射器(副噴射管)から供給される押さえガスの温度が一定しないことが1因であるとの知見を得た。従来の副噴射器においては、サセプタからの輻射熱は整流板のスリット(またはメッシュ)を通り副噴射器の内部壁面に達し、副噴射器を加熱する。このとき、2フローリアクタは材料ガスがサセプタを通過した後、排気されるまでの間に乱流となり、副噴射器の外壁にまで達する。その結果、副噴射器には反応生成物等の汚れが付着するが、付着の程度により副噴射器からの放熱量Qが変化する。例えば、付着物が少ない場合には放熱量が少なく、付着物が多い場合には放熱量が多くなる。そして、この放熱量の変化がサセプタの温度変化を招来する原因となる。特に、高温においては媒体を通した熱伝導より、遠赤外放射による熱伝達の割合が多いので、付着物による熱放射率の変化は大きな温度揺らぎを生じさせる。
【0021】
より具体的には、図4に示すように、サセプタ14(及び基板15)からの熱放射(赤外線U)は副噴射器120の噴出口を経て副噴射器120の内壁を加熱する。副噴射器120の外壁が付着物(反応副生成物)CTによって汚れると、付着物CTからの放射(2次放射SE)が増大する、すなわち放射係数が高くなる。放熱量Qには2次放射SEによるものも含まれるため、2次放射SEが増大することで放熱量Qも増大することになる。付着物からの2次放射SEの増大によって副噴射器120の表面温度は低下する、これにより、副噴射器120の内壁がサセプタ14からの熱放射(1次放射)を受ける量(受熱量)が増加する。なお、これと反対に、成長装置を用いた成長回数がまだ少なく、副噴射器120の外壁に付着物が無い又は少ない場合には、2次放射SEは弱く、1次放射の受熱量も小さい。副噴射器120のサセプタ14からの受熱量は、副噴射器120との温度差ΔTが大きくなると増大し、小さくなると減少する。このように、反応副生成物の付着によってサセプタ14からの受熱量が変化する。かかる温度変化によって、成長層の層厚分布や発光波長がばらつくことになる。
【0022】
実施例1の場合では、サセプタ14(及び基板15)からの放射熱は副噴射器20の遮熱器25によって遮熱され、副噴射器20の加熱を防止することができる。遮熱器25はサセプタ14からの放射熱によって加熱されるが、加熱された遮熱器25の熱は遮熱器25を通過する押さえガスに移動される。このようにサセプタ14の熱は熱放射によって遮熱器25に移動するものの、さらに押さえガスに移動することでサセプタ14に還元されるという還流が行われることになる(熱還流作用)。この熱還流作用によって押さえガスの温度は成長ごとによらず遮熱器25から一定の熱の移動があるため安定化される。また、副噴射器20の外壁が清浄でも、あるいは反応副生成物の付着で汚れていてもサセプタ14からの熱放射が副噴射器20に到達する前に遮熱器25により熱還流作用が生じることによりサセプタ14からの受熱量の変化は抑制されるので、成長を重ねても成長層の層厚変化や発光波長の変化が大きく低減される。ところで、2フローリアクターでは、材料ガス供給管12から室温程度の材料ガスを基板15の直近から供給する。また副噴射器20から供給する押さえガスによって材料ガスを基板面から剥離することを防止している。然るに材料ガスは材料ガス供給管12から噴射された直後から急速に加熱され、熱化学反応によって基板15上に半導体結晶が成長される。本発明の遮熱器25は熱還流作用で押さえガスを加熱し、この作用で加熱された押さえガスにより材料ガスを加熱できるので熱化学分解反応が安定する。遮熱器25はそれぞれ流入側通気部、流出側通気部が設けられた2つの部材を重ね合わせるのみで容易に形成することができる。
【0023】
実施例1では、流入側通気部と流出側通気部は対称になるように設けたが、見通し不可の形状であればこれに限らない。流入側通気部と流出側通気部の傾斜角度は異なっていても構わないし、間に遮熱器25の表面25A、裏面25Bに平行な通気部をさらに有していても構わない。また、経路は直線状に限らずカーブしていても構わない。ただし、流出側通気部は押さえガスの速度を減衰させないようにするため、サセプタ14の鉛直方向を90°としたとき、45°以上90°以下の角度で傾斜するように設けられていることが好ましい。
【実施例2】
【0024】
図5は、図2(実施例1)と同様な図であり、実施例2の副噴射器20の遮熱器25を模式的に示す平面図及び断面図である。また、実施例1の場合と同様に、噴出し有効部26内には通気孔31が設けられている。より詳細には、遮熱器25には複数の流入側通気部31A及び複数の流出側通気部31Bと、空隙部33とが設けられ、当該複数の流入側通気部31A及び複数の流出側通気部31Bは、空隙部33を介して連通している。そして、流入側通気部31A、空隙部33及び流出側通気部31Bを経て押さえガスが送気される通気孔31が構成されている。
【0025】
図6(a)、(b)は、遮熱器25の通気部31A及び通気部31Bの部分P(図5中、破線で示す)を拡大して示し、その詳細構成を説明するための部分拡大断面図である。より詳細には、図6(a)は、サセプタ14から放射される熱(赤外線)の経路を模式的に示す部分拡大断面図である。この図に示すように、赤外線の放射経路U1,U2,U3に示すように、赤外線が押さえガスの流出口である流出側開口部(すなわち流出側通気部31Bの開口部)32Bからのいかなる場所からいかなる角度で入射しても、通気孔31の内壁(すなわち流入側通気部31A、流出側通気部31B及び空隙部33の内壁)で遮断(ブロック)され、流入側開口部(すなわち流入側通気部31Aの開口部)32Aから出ていくことがないように、流入側通気部31A、流出側通気部31B及び空隙部33が形成されている。すなわち、通気孔31は、流出側通気部の開口部32Bから流入側通気部の開口部32Aへの見通し経路を有しない、又は見通し不可(NLOS:Non Line Of Sight)であるように形成されている。
【0026】
また、遮熱器25の空隙部33に露出した遮熱器25の表面(すなわち、空隙部33の内壁)には、熱吸収係数の高い素材で形成されたコーティング層35が設けられている。具体的には、カーボンのコーティングによってコーティング層35を形成した。カーボンは黒体であるので、赤外線の反射を減らし吸収を容易にする。コーティング材料はカーボンに限らず、ダイヤモンドライクカーボン、黒色SiC等も用いることができる。
【0027】
図6(b)は、本実施例の通気孔31の形状、サイズ等の一例を示す断面図である。例えば、流入側通気部31A及び流出側通気部31Bは遮熱器25に対して同一方向に30°(=θ2)傾斜した構造を有している。また、孔径PHはφ3mm、流入側開口部32A及び流出側開口部32B(長円形状)の長径W2は3.46mm、空隙部33の間隔T4は2mm、流入側通気部31A及び流出側通気部31Bが設けられた遮熱器25のそれぞれの部分の厚さT2、T3は8mmであり、遮熱器25の全体の厚さは18mmである。遮熱器25の垂直方向からは見えない内壁の突出部である重なりSは1.16mmであり、流出側開口部32Bから流入側開口部32Aを見通すことはできない。流出側通気部31Bから入射した赤外線は、空隙部33の流入側通気部31A側の内壁に当たるので効果的に赤外線を遮断できる。
【0028】
上述のように、流入側通気部31A、空隙部33及び流出側通気部31Bを経て押さえガスが送気される通気孔31が構成されている。そして、流出側通気部の開口部32Bから流入側通気部の開口部32Aへの見通しが不可であるように構成されている。例えば、図6(b)を参照して説明したように、流入側通気部31A及び流出側通気部31Bは同一方向に同一傾斜角で傾斜しつつ、それらの中心軸は同一直線状にはなく、ずれて形成されている。
【0029】
このように押さえガスの流出口(流出側通気部の開口部32B)から流入口(流入側通気部の開口部32A)が見通せない構造とすることで、流出側通気部の開口部32Bから入射する熱放射(赤外線)は遮熱器25に吸収される。熱放射は赤外線なので一部は反射するが、細孔(通気孔31)内での多重反射により遮熱器25の内壁で吸収される。さらに、空隙部33の表面を熱吸収係数(赤外線吸収係数)の高い素材でコーティングすることにより、通気孔内の赤外線の導波を抑制し、赤外線の吸収を向上することができる。
【0030】
また、実施例2の場合においても、比較例と対比して説明した実施例1の場合と同様な効果を有する。すなわち、副噴射器20の加熱を防止でき、また熱還流作用によって押さえガスの温度を安定化することができる。また、熱還流作用で加熱された押さえガスにより材料ガスを加熱できるので熱化学分解反応が安定する。従って、成長を繰り返しても成長層の層厚変化や発光波長の変化が大きく低減される。なお、実施例1の場合についても、空隙部33を設けてもよい。遮熱器25はそれぞれ流入側通気部、空隙部、流出側通気部が設けられた3つの部材を重ね合わせるのみで容易に形成することができる。

実施例2では、流入側通気部と流出側通気部は同一方向で同一角度で傾斜するように設けたが、見通し不可の形状であればこれに限らない。流入側通気部と流出側通気部の傾斜角度は異なっていても構わないし、同一角度もしくは異なる角度で逆方向に傾斜していてもよい。また、一方のみが傾斜し、他方が垂直でもよい。また、経路は直線状に限らずカーブしていてもよい。ただし、流出側通気部は押さえガスの速度を減衰させないようにするため、サセプタ14の鉛直方向を90°としたとき、45°以上90°以下の角度で傾斜するように設けられていることが好ましい。[遮熱器の材質等]
遮熱器25には、熱伝導率が小さく、反射率の高い材料が好適である。本実施例においては、そのような材料としてアルミナを用いた。アルミナの熱伝導率は20〜30W/mKと低く、また反射率も高い。α−アルミナのバンドギャップは大きく、紫外線域まで透明である。通常のアルミナは多結晶体なので光散乱により白色に見える、また反射率は散乱によるものである。よって単純に素材の白色度が高い材料を用いれば良い。
【0031】
熱伝導率の小さい材質は、熱伝導率の高い材質と比較して、サセプタ14からの赤外線(熱放射)により表面(表層)温度が高くなる。表面温度が高いと、供給する押さえガスとの温度差ΔTが大きくなり、接触熱伝導による押さえガスへの熱伝達を容易にする。また単なる遮熱板(遮熱体)としての断熱効果も期待できる。
【0032】
反射率の大きい材質は、サセプタ14からの赤外線(熱放射)による温度上昇(吸熱)が抑えられるので遮熱器25自体が加熱され、副噴射器20の内面への熱放射(2次的熱放射)を抑制できる。但し、反射率の高い材質は、通気孔内での赤外線反射率も高くなるので副噴射器20内面へ赤外線を導波し易くなるが、本発明においては、見通すことのできない流入側通気部及び流出側通気部、あるいは空隙部を設けることによって赤外線の導波は抑制される。
【0033】
なお、アルミナ以外の材料としては、BN(ボロンナイトライト)、AlN(アルミナイトライト)、SiN(窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)などを用いることができる。BNの熱伝導率は30W/mKと低く、また白色であり反射率も高い。AlN、SiN、SiCの熱伝導率は140〜200W/mKと高く熱還元性、断熱効果的には不利であるが、実施例1の場合であっても、実施例2に関して説明したように、流入側通気部27A及び流出側通気部27B間に空隙部を設けることなどによって改善される。また、BN、AlN、SiNは前述の特性に加え、還元雰囲気下(例えばアンモニア還元雰囲気下)における高温安定性が良好であり、また結晶成長材料の汚染(コンタミ)になる成分元素を有しない点で優れている。
[成長結晶の評価]
(1)結晶成長
実施例1及び実施例2の遮熱器を有する副噴射器を備えたMOCVD装置を用いて結晶成長を行い、その成長結晶の評価を行った。以下にその結晶成長の手順、条件等を説明する。また、上述の比較例の、遮熱器を備えていない副噴射器を用いて同様な結晶成長を行い、成長結晶の比較を行った。なお、実施例1、2及び比較例の副噴射器を用いた結晶成長は全て同じ手順、条件で実施した。 具体的には、下記の有機金属化合物材料ガスと水素化物材料ガスを用いて、次の手順で窒化物半導体結晶を成長した。基板には円形(φ2インチ)のサファイア基板を用いた。有機金属材料ガスとしてはTMG(トリメチルガリウム)、TMI(トリメチルインジウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、CpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、水素化物ガスとしてはNH(アンモニア)、SiH(モノシラン)を用いた。また材料ガス供給管12からは材料ガス(有機金属化合物ガス、水素化物ガス)と材料ガスのキャリアガス(水素、窒素)を総流量10L/min流し、副噴射器20からは押さえガス(水素、窒素)を30L/min流した。
【0034】
まず、基板15の熱処理を行った。サセプタ14(すなわち、基板15)の温度を1000℃にして、10分間熱処理した。材料ガス供給管12からはキャリアガスとして水素のみを流し、副噴射器20からは押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流した。
【0035】
基板15上に低温GaN層の成長を行った。サセプタ温度を530℃にし、キャリアガスを水素として材料ガス供給管12からTMG、NHを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流し、低温GaN層を30nm成長した。次に、低温GaN層の熱処理を行った。サセプタ温度を1050℃にして7分熱処理した。材料ガス供給管12からはキャリアガスとして水素のみを流し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流した。
【0036】
低温GaN層上にn型GaN層の成長を行った。サセプタ温度を1030℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを水素としてTMG、NH、SiHを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流してn型GaN層を6μm成長した。
【0037】
n型GaN層上に発光層の成長を行った。サセプタ温度を780℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを窒素としてTMG、TMI、NH3を供給し、副噴射器20から押さえガスとして窒素を30L/min流して発光層としてのInGaN層を5nm成長した。
【0038】
発光層上にp型AlGaN層の成長を行った。サセプタ温度を900℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを水素としてTMA、TMG、NH、CpMgを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流してp型AlGaN層を30nm成長した。
【0039】
p型AlGaN層上にp型GaN層の成長を行った。サセプタ温度を900℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを水素としてTMG、NH、CpMgを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素15L/min流してp型GaN層を100nm成長した。
【0040】
(2)繰返し安定性の確認 結晶成長を繰返した際の安定性の確認のため、「結晶成長を6回実施し、その後反応容器のメンテナンス(清浄化)を行う」を1サイクルとし、この過程を2サイクル実施した。評価は、基板の定点の層厚とEL(Electroluminescence)発光波長を測定した。
【0041】
(3)成長層の評価結果 図7は、実施例1,2、及び比較例の場合の、成長回数に対する成長層厚変化(%)を示している。なお、層厚分布は、比較例の1回目の成長における層厚を基準として規格化し、差異を%で示した。前述のように、6回連続して結晶成長(第1回〜第6回)を行い、その後反応容器内を掃除して汚れを落とし、その後6回連続して結晶成長(第7回〜第12回)を行った。
【0042】
図7に示すように、実施例1,2の場合、成長回数に対して層厚変化(%)は小さく、また成長回数が増加しても大きな変化はなく安定していた。これに対し、比較例では、成長回数が増えるに従い層厚は減少し、清掃後一旦戻るが再び成長回数に対して層厚は減少した。層厚変化(%)の標準偏差は、実施例1で0.36%、実施例2で0.31%、また比較例で1.88%であり、比較例に比べて、実施例1,2の場合では層厚変化は小さくかつ安定していた。
【0043】
実施例1及び実施例2では、遮熱器の効果により押さえガスの温度が安定することで層厚変化が減少し、且つ成長回数によらず一様な分布になる。また前述の熱還流作用により押さえガスの温度が上昇することで、比較例より若干層厚は大きい傾向にある。特に、熱還流効果の高い実施例2の場合、層厚が最も厚くなった。
【0044】
図8は、実施例1,2、及び比較例の場合の、成長回数に対するEL波長の測定結果を示している。実施例1,2の場合、成長回数に対してEL波長の変化は小さく、また成長回数が増加しても大きな変化はなく安定していた。これに対し、比較例では、成長回数が増えるに従い長波長側へシフトし、清掃後一旦戻るが再び成長回数に対して長波長側へシフトした。EL波長変化の標準偏差は、実施例1で2.04nm、実施例2で1.70nm、また比較例で4.21nmであり、比較例に比べて、実施例1,2の場合ではEL波長変化は小さくかつ安定していた。
【0045】
以上の結果から、成長層厚及びEL発光波長の変化から、上記実施例の遮熱器による熱放射遮蔽の効果と押さえガスへの熱還流効果によって、結晶層の層厚及び結晶組成の経時的変化が低減された結晶成長が可能であることが実証された。
【0046】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、押さえガスが流入する複数の流入側通気部と、流入側通気部と互いに連通し、流入側通気部から流入した押さえガスを噴出する複数の流出側通気部を有する遮熱器が設けられている。そして、流出側通気部の開口部から流入側通気部の開口部への見通し経路を有しないように流出側通気部及び流入側通気部が形成されている。また、複数の流入側通気部及び複数の流出側通気部を連通する空隙部が設けられていてもよい。
【0047】
かかる構成により、結晶成長を繰り返し実行しても、成長結晶層の層厚及び結晶組成の変化が低減された、高品質な結晶層を成長できる結晶成長装置を提供できる。
【符号の説明】
【0048】
12 材料ガス供給管
14 サセプタ
16 ヒータ
20 副噴射器
25 遮熱器
27,31 通気孔
27A,31A 流入側通気部
27B,31B 流出側通気部
33 空隙部
35 コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の成長面に対して、材料ガスを水平な流れで供給する材料ガス供給管と、押さえガスを前記成長面に垂直ないしは前記材料ガスの下流方向に傾斜した流れで供給する副噴射器を有する結晶成長装置であって、
前記副噴射器の内部に設けられた遮熱器を有し、
前記遮熱器は、前記押さえガスが流入する複数の流入側通気部と、前記流入側通気部と互いに連通し、前記流入側通気部から流入した前記押さえガスを噴出する複数の流出側通気部を有し、
前記流出側通気部及び前記流入側通気部は、前記流出側通気部の開口部から前記流入側通気部の開口部への見通し経路を有しないように形成されていることを特徴とする結晶成長装置。
【請求項2】
前記流出側通気部は対応する前記流入側通気部と連通し、屈曲した通気孔を形成していることを特徴とする請求項1に記載の結晶成長装置。
【請求項3】
前記遮熱器の内部に設けられ、前記複数の流入側通気部及び前記複数の流出側通気部を連通する空隙部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶成長装置。
【請求項4】
前記遮熱器の前記空隙部の内壁が、前記遮熱器よりも赤外線反射率が大なる材料でコーティングされていることを特徴とする請求項3に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記遮熱器は、アルミナ、BN、AlN、SiN及びSiCの何れか1によって形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の結晶成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−89854(P2013−89854A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230717(P2011−230717)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】