説明

絶縁破壊寿命シミュレーション方法、シリコンウェーハ表面の品質評価方法およびプログラム

【課題】 絶縁体薄膜の信頼性評価において、絶縁破壊の確率過程にシリコンウェーハ表面の品質状態を数理統計的に組み込ませる。
【解決手段】 シリコンウェーハ上に形成した絶縁体薄膜をモンテカルロ法によりコンピュータシミュレーションする絶縁破壊寿命シミュレーション方法は、絶縁破壊の測定条件を設定するステップ、ウェーハ表面欠陥の分布および欠陥サイズを設定するステップ、絶縁体薄膜をセルにメッシュ分割し上記表面欠陥をセルにくり込むステップ、絶縁体薄膜の絶縁破壊に至る時間の基準尺度を算出するステップ、シリコンウェーハ上に設定する全キャパシタに亘りそれ等の絶縁体薄膜の絶縁破壊の確率過程をモンテカルロ法によりコンピュータシミュレーションするステップ、全キャパシタの絶縁破壊について統計処理するステップ、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコンウェーハ等の基板表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊寿命シミュレーション方法、該絶縁破壊寿命シミュレーション方法を用いたシリコンウェーハ表面の品質評価方法、および絶縁破壊寿命シミュレーションのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
MIS(Metal Insulator Semiconductor)トランジスタ、MISキャパシタ等の半導体素子を有する半導体デバイスでは、その長期信頼性において絶縁体薄膜の絶縁破壊寿命が大きく影響する。そこで、絶縁体薄膜に印加する電圧が実際のデバイス動作より高い電界ストレス、あるいは、その動作時より高温状態の温度ストレス等の下での加速試験により、例えばTDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)実測が行われ、絶縁体薄膜の信頼性(寿命)評価が行われる。
【0003】
これまでに、例えばシリコンウェーハ上に形成されるシリコン酸化膜等の絶縁体薄膜の絶縁破壊については多くの物理的モデルが提案されている。その中で、電界および温度によるメタル(M)あるいはシリコンウェーハ(S)の電極から絶縁体薄膜への電子の注入、絶縁体薄膜中の電流機構等が詳細に調べられ、特にこの電子によって生成される正孔とその膜中への注入と蓄積が絶縁破壊に大きく影響することが判っている(例えば、非特許文献1,2参照)。ところで上記絶縁体薄膜の信頼性評価に広く用いられるMISキャパシタのTDDB測定では、薄膜の絶縁破壊は確率的に生じる。これは、主に絶縁体薄膜欠陥であるいわゆるウィークスポット、ピンホール、あるいは、正孔や電子の電荷トラップや水素等の不純物が膜中で不均一に分布することによる。
【0004】
そこで、絶縁体薄膜の破壊を確率過程としてとらえ数理統計的にシミュレーション予測する確率モデルが提案されている。そのモデルとして、いわゆるパーコレーションモデル(Percolation Model;浸透モデル)、あるいはセル・ベーストモデル(Cell Based Model)がある(例えば、非特許文献3参照)。これ等は、例えばシリコン酸化膜をメッシュ構造に分割して微小なセルを形成し、各セルが破壊する確率を想定して、酸化膜表面からウェーハ表面の間で破壊セルが1列をなしたところで絶縁破壊が起きるとする確率モデルである。
【0005】
しかし、上記確率モデルでは、絶縁体薄膜が厚いと実測値からのズレが大きく、薄くなって実測値に良く合うようになる。そのため、この確率モデルを用いた絶縁体薄膜の絶縁破壊シミュレーション予測は、絶縁体薄膜の膜厚が薄い場合に有用となる。例えば10nm以下の薄いシリコン酸化膜の場合に実用的になる。ところが、シリコン酸化膜のような絶縁体薄膜が10nm以下に薄くなってくると、その絶縁破壊は半導体デバイス基板であるシリコンウェーハ表面の品質に大きく影響を受けるようになる。
【0006】
シリコンウェーハは、例えば引上げ育成したシリコン単結晶インゴットが薄円盤状にスライスされ、その後、ラッピング、エッチング、鏡面研磨、洗浄等の各種加工の製造工程を経て作製される。このように作製したシリコンウェーハの表面には、単結晶インゴットの引上げ育成において生じたグローンイン欠陥であるいわゆる結晶に起因するパーティクル(COP:Crystal Originated Particle)が存在する。あるいは、引上げ育成において石英ルツボからシリコン単結晶インゴットに取り込まれ固溶する格子間酸素の析出物(BMD:Bulk Micro Defect)のような欠陥が微小であれ存在する。また、表面の原子レベルでの凹凸(以下、マイクロラフネスという)が残存している。
【0007】
上記のようなシリコンウェーハ表面の欠陥等は絶縁体薄膜の薄膜化と共にその絶縁破壊の重要な要因になってくる。しかしながら、従来の絶縁破壊寿命シミュレーション予測では、このシリコンウェーハ表面の品質状態(上記欠陥量、欠陥サイズ、マイクロラフネス等)が考慮されていなかった。
【非特許文献1】「Internatinal Journal of High Speed Electronics and Systems」、Vol.11,No.3(2001),pp.849−886
【非特許文献2】「IEEE Transactions on Electron Devices」、 Vol.36,No.11(1989)pp.2462−2465
【非特許文献3】「Internatinal Journal of High Speed Electronics and Systems」、Vol.11,No.3(2001),pp.789−848
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、例えばシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の信頼性評価において、絶縁破壊の確率モデルにシリコンウェーハ表面の品質状態を数理統計的に組み込んだ絶縁破壊寿命シミュレーション方法を提供することを主目的とする。そして、絶縁破壊の確率モデルを用いたシリコンウェーハ表面の品質評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明にかかる絶縁破壊寿命シミュレーション方法は、シリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊を確率過程として、前記絶縁体薄膜をセルにメッシュ分割し、前記セルを破壊させる欠陥を乱数を用いて前記セルに割り当て、前記絶縁体薄膜の厚さ方向になす1列の全セルに所定量の欠陥が割り当てられると前記絶縁体薄膜が絶縁破壊するとしたモンテカルロ法のコンピュータシミュレーションによる絶縁破壊寿命シミュレーション方法であって、前記シリコンウェーハの表面欠陥を、その上部にあるセルに対して前記セルを破壊させる欠陥としてくり込む構成になっている。
【0010】
上記発明の好適な一態様では、コンピュータシミュレーションにおいて、前記表面欠陥がないシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊が生じる最大の試行回数をRMAXとし、前記表面欠陥があるシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊が生じる試行回数をRとし、τ、Gを係数、tOXとVOXを絶縁体薄膜の膜厚と印加電圧として、(1)式および(2)式に基づいて、前記表面欠陥があるシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊に至る破壊時間を算出する。
【0011】
【数3】

【数4】

【0012】
上記発明において、前記シリコンウェーハの表面欠陥のサイズは、数理的に、前記セルを破壊させる欠陥を単位としてその個数で表し、前記欠陥サイズが前記シリコンウェーハ表面にポアソン分布する。
【0013】
そして、本発明にかかるシリコンウェーハ表面の品質評価方法は、前記シリコンウェーハ上に作製したシリコン酸化膜を容量酸化膜とする複数のMISキャパシタの絶縁破壊寿命を示すTDDBを上述した絶縁破壊寿命シミュレーション方法を用いて算出し、前記MISキャパシタのTDDBの実測データと対比させて、前記シリコンウェーハの表面欠陥量を評価する、構成になっている。
【0014】
そして、本発明にかかる絶縁破壊寿命シミュレーションのプログラムは、シリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊を確率過程として、前記絶縁体薄膜をセルにメッシュ分割し、前記セルを破壊させる欠陥を乱数を用いて前記セルに割り当て、前記絶縁体薄膜の厚さ方向になす1列の全セルに所定量の欠陥が割り当てられると前記絶縁体薄膜が絶縁破壊するとしたコンピュータシミュレーションによる絶縁破壊寿命シミュレーションに用いるプログラムであって、絶縁破壊の測定条件を設定するステップ、前記シリコンウェーハの表面欠陥の欠陥サイズおよび分布を設定するステップ、前記絶縁体薄膜をセルにメッシュ分割し前記表面欠陥を前記セルにくり込むステップ、前記絶縁体薄膜の絶縁破壊に至る時間の基準尺度を算出するステップ、前記シリコンウェーハ上に設定した全MISキャパシタにわたってそれ等の絶縁体薄膜の絶縁破壊の確率過程をモンテカルロ法によりコンピュータシミュレーションするステップ、前記キャパシタにおける絶縁破壊の統計処理を行うステップを、コンピュータに実行させる、構成になっている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構成により、例えばシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の信頼性評価において、絶縁破壊の確率モデルにシリコンウェーハ表面の品質状態を数理統計的に組み込んだ絶縁破壊寿命シミュレーション方法を提供することができる。また、絶縁破壊の確率モデルを用いたシリコンウェーハ表面の品質評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態にかかる絶縁破壊寿命シミュレーション方法を説明するフローチャートである。図2は上記絶縁破壊寿命シミュレーションが適用されるシリコンウェーハを示す平面図である。図3は上記絶縁破壊寿命シミュレーション方法の説明に供するMISキャパシタの模式的断面図である。図4は本発明の実施形態における絶縁体薄膜のメッシュ構造化の説明に供する斜視図である。そして、図5は本実施形態にかかる絶縁破壊時間の尺度決定の方法を示すフローチャートである。
【0017】
図1に示すように、ステップS1において、例えばシリコンウェーハ表面に形成した酸化膜のTDDB計測の条件を設定する。ここで、被計測サンプル情報として、酸化膜の膜厚tOX、ウェーハ表面形状(マイクロラフネス)、1チップを構成するMISキャパシタの容量面積AOX、あるいは酸化膜中の欠陥(酸化膜中欠陥)の欠陥密度NOX等が入力される。上記酸化膜中欠陥は、その詳細は後述される絶縁破壊の破壊パスを形成するものとして数理的に取り扱われる。また、計測におけるストレス情報として、MISキャパシタの酸化膜に印加する電界あるいは電流、温度等が入力される。
【0018】
更に、ステップS2において、シリコンウェーハ表面の表面欠陥(ウェーハ表面欠陥)を設定する。このシリコンウェーハ表面のCOP、BMD等の欠陥は、上述した酸化膜中欠陥の場合と同様に数理的に取り扱われる。但し、この場合、ウェーハ表面欠陥の欠陥サイズはポアソン分布に従うものとする。ここで、この欠陥サイズは、その詳細は後述されるが、例えば上記破壊パスを形成する酸化膜中欠陥を単位とし、その倍数として取り扱われる。
【0019】
図2に示すように、上記数理上のウェーハ表面欠陥は、シリコンウェーハ11表面のウェーハ中心を原点とするx−y座標上に分布するものとする。そして、ウェーハ表面の表面欠陥密度Nは、ウェーハ表面欠陥のそれぞれの欠陥サイズにおいて、例えばr=(x+y1/2として(3)式に示す径rの対数正規分布に従うものにすると好適である。このようなシリコンウェーハ11表面に上記容量面積AOXを有するチップ12が所要数に形成されるものとする。
【0020】
【数5】

ここで、μおよびσはTDDB実測とのフィティングパラメータである。また、Nはシリコンウェーハ11上の全表面欠陥数である。
【0021】
また、ウェーハ表面欠陥は、それぞれの欠陥サイズにおいてシリコンウェーハ表面で一様分布するようにしてもよい、あるいは、この分布は上記径rの正規分布に従うものとすることができる。このようなウェーハ表面欠陥の分布は、シリコンウェーハ表面におけるCOP、BMD発生の傾向に併せて適宜に選択される。
【0022】
次に、図3および図4に示すように、ステップS3において、チップ12のMISキャパシタ13においてその容量酸化膜14をメッシュ分割しメッシュ構造化する。そして、一辺aが適度な長さの立方体のセル15が形成される。あるいは、このセル15は直方体にしてもよい。ここで、セル15の寸法は実測とのフィッティングにより決められる。なお、MISキャパシタ13は、この容量酸化膜14を挟むシリコンウェーハ11およびその対向電極16を容量電極として有する構造である。
【0023】
そして、絶縁破壊の確率モデルを用いて、上記ウェーハ表面欠陥を有する場合の絶縁破壊シミュレーションを行う。ここで、容量酸化膜14の絶縁破壊の確率過程は数理的に以下のように取り扱われる。
【0024】
絶縁破壊は、図3に示すようにシリコンウェーハ11および対向電極16の間で破壊セル15aがコラム状に連なり破壊パスが形成されて生じるものとする。ここで、破壊セル15aには酸化膜中欠陥17が発生している。この酸化膜中欠陥17が生じ破壊セル15aが形成される確率をλとすると、λ=NOX×aとなり、上記破壊パスの発生する確率はλとなる。ここで、NOXは酸化膜中欠陥17の体積密度であり、m=tOX/aである。また、図4に示す容量酸化膜14のメッシュ構造化により、MISキャパシタ13はn=AOX/aのセルコラム数を有する。そして、この中のいずれかのセルコラム18が全て破壊セル15aになるとMISキャパシタ13が破壊することにする。
【0025】
ウェーハ表面欠陥を考えない場合として、MISキャパシタ13が破壊していない良品率R’BDは、R’BD=1−F’BD=(1−λとして表せる。ここで、F’BDはMISキャパシタの不良率である。そして、ワイビットW’BD=ln{−ln(1−F’BD)}は(4)式となる。
【0026】
【数6】

ここで、λ<<1であり、ln(1−λ)〜(−λ)とした。
【0027】
そして、ウェーハ表面欠陥を組み込む確率モデルでは、図3に模式的に●印に示したウェーハ表面欠陥19は、その上のセルコラム18のセル15を破壊セル15aの方向に劣化させるものとして、ウェーハ表面欠陥を考えない場合の確率モデルにくり込まれる。図3では、ウェーハ表面欠陥19が2つの破壊セル15aを生成する場合が示されている。そして、シリコンウェーハ11表面に例えば(3)式の表面欠陥密度Nから成るウェーハ表面欠陥19が存在する場合、その上部のセルコラム18が占めるウェーハ表面のa面積で積分した表面欠陥量(Kとする)のウェーハ表面欠陥19が存在することになる。なお、表面欠陥量Kは、例えば上述したようにウェーハ表面欠陥19が破壊パスを形成する酸化膜中欠陥を単位とし、その倍数として考えて算出される。
【0028】
上記ウェーハ表面欠陥のくり込みでは、ウェーハ表面欠陥19上の各セルコラム18のセル15が表面欠陥量Kに比例して劣化する。こうして、当該セルコラム18にはm=(m−αK)個の破壊セル15aに至っていないセル15が存在することになる。ここで、αは比例係数である。そして、上記ウェーハ表面欠陥19の上部に存在するセルコラム18においては、破壊パスの発生する確率はλmiとなり、絶縁破壊の発生確率が増大する。そして、MISキャパシタ13が破壊していない良品率RBDは、RBD=1−FBD=Π(1−λmi)となる。そして、この場合のワイビットWBDは(5)式になる。
【0029】
【数7】

ここで、λ<<1であり、ln(1−λmi)〜(−λmi)とした。
【0030】
上記ウェーハ表面欠陥19をくり込む方法は、その他に種々のものが考えられる。例えば、欠陥サイズがセル15の平面寸法に較べて大きくなる場合には、そのセルコラム18に隣接するコラムセルも劣化させるようにすることもできる。また、シリコンウェーハ11表面上における当該セルコラム18から距離により、各セルコラムへの劣化度合いを低減させるようにしてもよい。
【0031】
次に、MISキャパシタのTDDB実測により得られる酸化膜の絶縁破壊不良率のワイブルプロットに対比できるように、TDDB実測の破壊時間をワイビットWBDに導入できるようにする。そのために、図1のステップS4において、酸化膜の絶縁破壊時間の尺度決定を行う。この破壊時間の導入については図5を参照して後述する。
【0032】
そして、ステップS5において、その具体例は後述の実施例で詳細に説明するものとするが、絶縁体薄膜の破壊確率過程について乱数を用いたモンテカルロ法によりコンピュータ実験(コンピュータシミュレーション)を行う。このコンピュータシミュレーションは、ステップS6でチップの破壊が判定され破壊パスが生じるまで試行される。そして、チップ破壊に至るまでの上記試行回数Rが記録される。上記コンピュータシミュレーションはシリコンウェーハ11上のすべてのチップ12に対して行うことにし、ステップS7の判定において、全チップ数Mについて行われると、ステップS8において、シリコンウェーハ11上の全チップに亘る破壊の統計処理がなされる。例えば、上記コンピュータシミュレーションで算出したTDDBの結果がワイブルプロットされる。
【0033】
上記乱数を用いたコンピュータシミュレーションにおいて、チップ破壊に至る試行回数はTDDB実測の場合の破壊時間に対応する。ところで、ウェーハ表面欠陥がない場合のTDDB実測の酸化膜の絶縁破壊時間tBDは(2)式によって表わされる。そこで、酸化膜の絶縁破壊時間の尺度決定では、シリコンウェーハ表面にウェーハ表面欠陥が全くない場合のチップ破壊に至る試行回数を基準尺度にする。
【0034】
【数8】

但し、τおよびGは温度依存性を有する係数であり、tOXは酸化膜厚、VOXは酸化膜にかかる電圧である。
【0035】
ここで、以下に上述した酸化膜の絶縁破壊時間の尺度決定について説明する。図5のステップS11において、シリコンウェーハ表面に形成した酸化膜のTDDB計測の条件を設定する。ここで、図1のステップS1と同様な被計測サンプル情報、計測におけるストレス情報の他に、上記(2)式等が入力される。そして、この式に含まれる係数は実測データとのフィッティングで予め決められている。
【0036】
次に、ステップS12において、図1のステップS3と同じ容量酸化膜14のメッシュ構造化を行う。このメッシュ構造化は図3および図4で説明したのと同じである。そして、ステップS13において、上記容量酸化膜14の破壊確率過程の乱数を用いたコンピュータシミュレーションを行う。このコンピュータシミュレーションは、ステップS14でチップの破壊が判定され、破壊パスが生じるまで乱数を用いたモンテカルロ法により試行される。そして、ステップS15において、チップ破壊に至るまでの試行回数Rが記録される。このコンピュータシミュレーションはシリコンウェーハ11上の全てのチップ12に対して行う。
【0037】
そして、ステップS16の判定において、全チップ数Mについて行われると、ステップS17に進む。ここで、シリコンウェーハ11上の全チップにおいて最大となる試行回数をRMAXとし、RMAXを絶縁破壊時間tBDに相当させる。すなわち、絶縁破壊に至るまでの時間は、コンピュータシミュレーションにおけるチップ破壊に至るまでの試行回数に比例するものとし、RMAX=βtBDとする。ここで、βは定数である。
【0038】
そして、図1のステップS8の破壊の統計処理においては、上述した試行回数Rの上記最大試行回数RMAXに対する比から(1)式を用いて換算された破壊時間tが用いられる。
【0039】
【数9】

【0040】
本実施形態において、上述したシリコンウェーハ表面のマイクロラフネスの組み込みでは、表面の凹凸によりメッシュ構造化により生成するセル数を変化させる。すなわち、上記凹凸に合わせて酸化膜の厚さが変わるものとし、それと共に上述のm=tOX/aのm値を変化させる。例えば、m値の変化はシリコンウェーハ径とした上記径rに対し一定周期で変化するようにしてよい。このようにシリコンウェーハ上でm値を変化させて、上述した乱数を用いたモンテカルロ法によるコンピュータシミュレーションを行う。
【0041】
次に、シリコンウェーハ表面の品質評価方法について説明する。この場合、上述した絶縁破壊寿命シミュレーション方法を用いる。ここで、シリコンウェーハ上に形成したMISキャパシタのTDDB実測を行い、コンピュータシミュレーションにより算出した同じMISキャパシタのTDDB結果と上記実測データとを対比させて、表面欠陥密度Nのパラメータフィッティングを行う。このようにして、シリコンウェーハの表面欠陥を評価することができる。
【0042】
本実施形態では、従来の絶縁破壊に確率モデルにおいて取り込めなかったシリコンウェーハ表面のウェーハ表面欠陥、マイクロラフネス等の品質状態の影響が極めて簡便に組み込めるようになる。そして、シリコンウェーハ表面に形成した薄い酸化膜のTDDB測定によって、シリコンウェーハ表面の品質評価が簡便にできるようになる。ここで、シリコンウェーハ表面のCOP、BMDの欠陥の相対的な評価が容易にできることから、シリコンウェーハの製造においてその評価結果のフィードバックによる簡便で迅速な工程管理が可能になる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。実施例では、容量酸化膜14はシリコンウェーハ11を熱酸化により形成した膜厚tOXが5nmのシリコン酸化膜である。そして、MISキャパシタ13の容量面積AOXは10mmであり、シリコンウェーハ11上のチップ数M=80とした。また、この容量酸化膜14にかかる電界は11.4MV/cmにし、ストレス温度は20℃にし、(2)式の係数τは1×10−11sec、Gは350MV/cmの実測値とした。
【0044】
そして、酸化膜のメッシュ構造化で形成したセル15では、容量酸化膜14の厚さ方向(z)の一辺を1nm、厚さ方向に直交する平面すなわちシリコンウェーハ11面のx方向およびy方向の一辺を適度に決めた。また、ウェーハ表面欠陥の設定では、欠陥のサイズはポアソン分布とし、ウェーハ表面欠陥はシリコンウェーハ11上で一様としてその平均密度Dをパラメータにした。
【0045】
そして、酸化膜破壊の確率過程のコンピュータシミュレーションでは、モンテカルロ法により、コンピュータで発生させた一様乱数を用いx、y、z方向におけるセルに1個の微小欠陥を割り当てる方法をとり、これを1試行回数とした。そして、この試行を繰り返して微小欠陥を加算していき、1つのセルに3個の微小欠陥が累積されるとそのセルは破壊セル15aになるとした。そして、破壊セル15aとなったセルを除外して上記試行を繰り返した。
【0046】
上記コンピュータシミュレーションの試行を繰り返していくと、図6に示すように、ある試行回数で上記破壊セル15aがコラム状に連なり破壊パスが形成される。但し、図6では、解り易くするために一部セルが2次元的に示されている。そして、各セル内に1,2,3の数値が付されている。この数値は上記試行で累積された微小欠陥の数である。ここで、数値3を有するセルが1列をなしてセルコラムに破壊パスが生じるものとしている。この破壊パスが生じたかどうかは、各セル列の下段に記載の積算値で判定される。なお、各セル列の上段に記載の数値は、破壊パスが生じる臨界積算値を示している。
【0047】
図6は、実施例におけるMISキャパシタ13のシリコンウェーハ11にウェーハ表面欠陥が全くない場合の例である。この例では、図5に説明したRMAX=5×10となった。また、(2)式からtBD=154sec(秒)となる。これが破壊時間の基準尺度となる。
【0048】
そして、シリコンウェーハ11にウェーハ表面欠陥がある場合には、ウェーハ表面欠陥の平均密度に合わせて、その上のセル列で破壊パスが生じる臨界積算値を変える。ここで、上記平均密度に比例して臨界積算値を減少させる。図7は、実施例におけるMISキャパシタ13のシリコンウェーハ11にウェーハ表面欠陥が存在する例である。この例では、各セル列の下段に記載の積算値が13のところで破壊パスが生じている。この場合、各セル列の上段に記載の数値は、上記ウェーハ表面欠陥をくり込んだ場合に破壊パスが生じる臨界積算値を示している。図7の場合には、R=2.2×10となり、絶縁破壊に至るまでの破壊時間tは(1)式より約68secとなった。
【0049】
上記シリコンウェーハ11に表面欠陥がある場合の80個のチップ12の破壊時間を図1に説明したフローチャートに従って算出した。そして、ウェーハ上のシリコン酸化膜のTDDBを図8のワイブルプロット図に示す。ここで、縦軸はワイビットWBDであり、横軸は上記基準尺度から求めた絶縁破壊に至るまでの破壊時間tである。図8において、ウェーハ表面欠陥の平均密度D=0個/cmの場合、真性不良(摩耗不良)となることを示す。これに対して、平均密度D=40個/cmの場合には偶発不良の発生を示し、更に平均密度D=80個/cmに増加すると偶発不良率が増加し、初期不良が生じてくることを示す。
【0050】
このように、絶縁破壊の確率モデルにシリコンウェーハ表面の品質状態を数理統計的に組み込んだ絶縁破壊寿命シミュレーション方法により、シリコンウェーハ上のシリコン酸化膜の絶縁破壊寿命の低下が容易に予測できることが確認された。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0052】
上記実施形態では、数理上の絶縁破壊の確率モデルにおいて、乱数を用いたモンテカルロ法によるコンピュータシミュレーションの試行回数に絶縁破壊時間tBDの実測データを関係付けることで実際の酸化膜のTDDB実測結果が説明できるようにした。このような実測データとの関係付けは、非特許文献3に記載されているように、酸化膜中欠陥17が生じ破壊セル15aが形成される確率λ=λBDγとしてもよい。ここで、λは比例定数、γは例えば0.5あるいは1のような正の実数であり、QBDは酸化膜の蓄積電荷量でありストレス時間に関係する量である。
【0053】
また、シリコンウェーハ上に形成される酸化膜はシリコン酸化膜の他に、シリコン酸窒化膜、シリコン酸化膜とシリコン酸窒化膜の複合膜、高融点金属酸化膜、シリケート膜であってもよい。
【0054】
また、上記実施例においてウェーハ表面欠陥のシリコンウェーハ上の分布を種々に変化させるようにしてもよい。そして、絶縁破壊のワイブルプロットに換えて絶縁破壊の累積不良率により統計処理を行うようにしても構わない。
【0055】
また、上記実施例において破壊セル15aになる累積の微小欠陥の数は上記3個に限定されるものでなく、適宜の数に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態にかかる絶縁破壊寿命シミュレーション方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態に使用されるシリコンウェーハを示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる絶縁破壊寿命シミュレーション方法の説明に供するMISキャパシタの模式的断面図である。
【図4】本発明の実施形態における絶縁体薄膜のメッシュ構造化の説明に供する斜視図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる絶縁破壊時間の尺度決定の方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例における破壊確率過程のコンピュータシミュレーションの説明に供する説明図である。
【図7】本発明の実施例におけるウェーハ表面欠陥を組み込んだ破壊確率過程のコンピュータシミュレーションの説明に供する説明図である。
【図8】本発明の実施例における絶縁破壊寿命シミュレーションで求めたシリコン酸化膜の絶縁破壊不良率のワイブルプロットである。
【符号の説明】
【0057】
11 シリコンウェーハ
12 チップ
13 MISキャパシタ
14 容量酸化膜
15 セル
15a 破壊セル
16 対向電極
17 欠陥
18 セルコラム
19 ウェーハ表面欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊を確率過程として、前記絶縁体薄膜をセルにメッシュ分割し、前記セルを破壊させる欠陥を乱数を用いて前記セルに割り当て、前記絶縁体薄膜の厚さ方向になす1列の全セルに所定量の欠陥が割り当てられると前記絶縁体薄膜が絶縁破壊するとしたモンテカルロ法のコンピュータシミュレーションによる絶縁破壊寿命シミュレーション方法であって、
前記シリコンウェーハの表面欠陥を、その上部にあるセルに対して前記セルを破壊させる欠陥としてくり込むことを特徴とする絶縁破壊寿命シミュレーション方法。
【請求項2】
前記コンピュータシミュレーションにおいて、前記表面欠陥がないシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊が生じる最大の試行回数をRMAXとし、前記表面欠陥があるシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊が生じる試行回数をRとし、τ、Gを係数、tOXとVOXを絶縁体薄膜の膜厚と印加電圧として、(1)式および(2)式に基づいて、前記表面欠陥があるシリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊に至る破壊時間を算出することを特徴とする請求項1に記載の絶縁破壊寿命シミュレーション方法。
【数1】

【数2】

【請求項3】
前記シリコンウェーハの表面欠陥のサイズは、数理的に、前記セルを破壊させる欠陥を単位としてその個数で表し、前記欠陥サイズが前記シリコンウェーハ表面にポアソン分布するものとした請求項1又は2に記載の絶縁破壊寿命シミュレーション方法。
【請求項4】
前記シリコンウェーハ上に作製したシリコン酸化膜を容量酸化膜とする複数のMISキャパシタの絶縁破壊寿命を示すTDDBを請求項1ないし3のいずれか一項に記載の絶縁破壊寿命シミュレーション方法を用いて算出し、前記MISキャパシタのTDDBの実測データと対比させて、前記シリコンウェーハの表面欠陥量を評価することを特徴とするシリコンウェーハ表面の品質評価方法。
【請求項5】
シリコンウェーハ表面に形成した絶縁体薄膜の絶縁破壊を確率過程として、前記絶縁体薄膜をセルにメッシュ分割し、前記セルを破壊させる欠陥を乱数を用いて前記セルに割り当て、前記絶縁体薄膜の厚さ方向になす1列の全セルに所定量の欠陥が割り当てられると前記絶縁体薄膜が絶縁破壊するとしたコンピュータシミュレーションによる絶縁破壊寿命シミュレーションに用いるプログラムであって、
絶縁破壊の測定条件を設定するステップ、前記シリコンウェーハの表面欠陥の欠陥サイズおよび分布を設定するステップ、前記絶縁体薄膜をセルにメッシュ分割し前記表面欠陥を前記セルにくり込むステップ、前記絶縁体薄膜の絶縁破壊に至る時間の基準尺度を算出するステップ、前記シリコンウェーハ上に設定した全MISキャパシタにわたってそれ等の絶縁体薄膜の絶縁破壊の確率過程をモンテカルロ法によりコンピュータシミュレーションするステップ、前記キャパシタにおける絶縁破壊の統計処理を行うステップを、コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−62346(P2010−62346A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226714(P2008−226714)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】