説明

耐摩耗皮膜及び耐摩耗皮膜被覆切削工具及び耐摩耗皮膜の製造方法

【課題】温度上昇や被加工物の高硬度化による摩耗増大を抑制することのできる最適な耐摩耗皮膜及び耐摩耗皮膜を被覆した被覆切削工具及び耐摩耗皮膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】耐摩耗皮膜の金属成分が(SiXM1−X)、非金属成分が(NYG1−Y)で示され、但しXの値は金属成分のみの原子%を100とした場合、15原子%以上、95原子%以下であり、Yの値は非金属成分のみの原子%を100とした場合、10原子%以上、99.9原子%以下であり、MはTi、Cr、Al、Nb、Mo、Y、Cu、Niから選択される1種以上であり、GはC、O、B、Cl、S、P、H、Fから選択される1種以上であり、該耐摩耗皮膜はSi含有量が10原子%未満の結晶粒子とSi含有量が10原子%以上の非晶質相とが存在することを特徴とする耐摩耗皮膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、超硬合金、高速度鋼、ダイス鋼等に被覆する耐摩耗性、密着性及び耐高温酸化特性に優れた耐摩耗皮膜及び耐摩耗皮膜の製造方法に関する。特に切削工具、金型、軸受け、ダイス、ロール等、高硬度が要求される耐摩耗部材や内燃機関部品等の耐熱部材の表面に被覆する耐摩耗皮膜である。本願発明は耐摩耗皮膜を被覆した被覆切削工具に関する。切削工具としては、例えばエンドミル、ドリル、リーマ、ブローチ、ホブ、カッター、マイクロドリル、ルーター、ミーリングインサート、ターニングインサート等が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
モノ作りの低コスト化に伴い、切削加工の高速化、被加工物の高硬度化、高精度加工、乾式加工等が要望されている。これらの要求に伴い、切削工具にはより苛酷な切削環境が強いられている。皮膜の高硬度化、耐熱性を改善することを目的として、耐摩耗皮膜にSiを添加する検討が以下の特許文献1から7に開示されている。
特許文献1は、Siを含有した硬質皮膜においてSiの含有濃度が相対的に高い結晶粒と相対的に低い結晶粒とを含有する組成偏析多結晶体で構成した事例を開示している。
特許文献2は、4a、5a、6a族元素及びAlからなる群のなかから選択される1種以上の元素の窒化物または炭窒化物を主成分とする耐摩耗皮膜中に、SiC、SiNX(X=0.5から1.33)等の超微粒化合物を含む切削工具が開示されている。
特許文献3は、(MXSi)の窒化物、炭窒化物、酸窒化物または炭酸窒化物からなり、MはTi、Al、Cr、Zr、V、Hf、Nb、Mo、W、Taのなかから選ばれた少なくとも1種以上の成分で構成され、0.1≦y≦0.8、x+y=1であり、かつ表面被覆膜の硬度が基材側から表面側にかけて連続的または段階的に変化する被覆硬質工具が開示されている。
特許文献4は、Si以外の金属MがTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Alの1種以上の成分で構成されるSi(0原子%≦x≦80原子%、x+y=100原子%)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物、炭窒酸化物からなる表面被覆膜が基材上に形成され、該表面被覆膜中のSi量が表面被覆中で1原子%以上80原子%未満の範囲で連続的に変化する表面被覆切削工具が開示されている。
特許文献5は、4a、5a、6a族金属及びAlの1種以上より選択された元素とSi元素を含み、非金属元素としてN、C、O、Sのうち1種以上より選択された元素とB元素を含有する皮膜を少なくとも1層以上被覆し、該Si、B含有皮膜の結晶形態は、結晶質層と非晶質相とからなり、該結晶質相内に含まれる結晶粒子を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合に、最小結晶粒径が0.5nm以上、20nm未満である被覆切削工具が開示されている。
特許文献6は、WC基超硬合金基体表面に、(Ti1−xSi)(C1−y)z、但し、0.01≦x≦0.45、0.01≦y≦1.0、0.5≦z≦1.34からなる組成のTiとSiの複合炭窒化物単一硬質層或いは複合窒化物単一硬質層を、アーク放電式イオンプレーティング法、マグネトロンスパッタリング法により被覆した硬質層被覆切削工具が開示されている。
特許文献7は、WC基超硬合金基体表面に、(Ti1−xSi)(C1−y)z、但し、0.55≦x≦0.99、0.01≦y≦1.0、0.5≦z≦1.34からなる組成のTiとSiの複合炭窒化物単一硬質層或いは複合窒化物単一硬質層をアーク放電式イオンプレーティング法、マグネトロンスパッタリング法により被覆した硬質層被覆切削工具が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−25113号公報
【特許文献2】特開2001−293601号公報
【特許文献3】特開2004−74361号公報
【特許文献4】特開2004−66361号公報
【特許文献5】特開2004−34186号公報
【特許文献6】特開平08−118106号公報
【特許文献7】特開平08−126902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明の目的は、温度上昇や被加工物の高硬度化による摩耗増大を抑制することのできる最適な耐摩耗皮膜及び耐摩耗皮膜を被覆した被覆切削工具、及び耐摩耗皮膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の第1の発明は、基体に少なくとも1層以上を被覆した耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜の金属成分が(SiXM1−X)、非金属成分が(NYG1−Y)で示され、但しXの値は金属成分のみの原子%を100とした場合、15原子%以上、95原子%以下であり、Yの値は非金属成分のみの原子%を100とした場合、10原子%以上、99.9原子%以下であり、MはTi、Cr、Al、Nb、Mo、Y、Cu、Niから選択される1種以上であり、GはC、O、B、Cl、S、P、H、Fから選択される1種以上であり、該耐摩耗皮膜はSi含有量が10原子%未満の結晶粒子と、Si含有量が10原子%以上の非晶質相が存在することを特徴とする耐摩耗皮膜である。
本願発明の第2の発明は耐摩耗皮膜の製造方法である。該耐摩耗皮膜はSi含有量が10原子%未満の結晶粒子と、Si含有量が10原子%以上の非晶質相が存在する皮膜構造を有する。該皮膜構造をスパッタリング法、プラズマ化学蒸着法、フィルター方式アークイオンプレーティング法の何れか又はこれらの組合せにより形成することを特徴とする耐摩耗皮膜の製造方法である。上記の構成を採用することにより、温度上昇や被加工物の高硬度化による摩耗増大を著しく抑制することができる耐摩耗皮膜及び被覆切削工具、更に耐摩耗皮膜の製造方法を提供することが可能となる。ここで、基体はCo含有量3重量%以上、12重量%未満からなる超硬合金又はサーメット、又は高速度鋼の何れかである。
【0006】
本願発明の耐摩耗皮膜は、X線光電子分光分析において、少なくともSi−N、Si−O及び金属Siの結合エネルギーを有し、Si−Nに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−N)、Si−Oに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−O)及び金属Siに相当する結合エネルギーの強度をI(Si)とした時、I(Si−N)>I(Si)、I(Si−N)>I(Si−O)を満足し、I(Si−N)の比率が50%以上、95%以下であること、Si含有量が膜厚方向に異なることが好ましい。耐摩耗皮膜は、押込み硬さ測定法により算出される皮膜硬度が30GPa以上、80GPa以下であること、更に同測定法により算出される弾性回復率が32%以上、50%未満であることが好ましい。耐摩耗皮膜は最表層に被覆されること、最表面から膜厚方向に500nm以内で、N以外の非金属成分の元素濃度が最大となることが好ましい。耐摩耗皮膜表面の面粗度はRaで1μm未満であることが好ましい。耐摩耗皮膜には金属成分が70原子%以上から構成される金属粒子の面積率が0.5%以下であることが好適である。耐摩耗皮膜の金属成分が、SiTi、SiCr、SiAl、SiCrAl、SiTiAl、SiCu、SiNi、SiYの何れかであることが特に好ましい。該耐摩耗皮膜とは別の耐摩耗皮膜が少なくとも1層あり、該別の耐摩耗皮膜の金属成分が、Ti、Cr、Al、Si、Nb、Moの1種以上からなり、非金属成分が、N、C、O、Bの1種以上からなる耐摩耗皮膜との積層膜から構成される場合が特に好ましい。耐摩耗皮膜を切削工具に適用した場合、その効果が発揮され好ましい。耐摩耗皮膜を被覆した被覆切削工具の最表面に、SiO、AlO、CrO、AlN、BN、CN、SiNの何れかを被覆することにより、耐摩耗性に優れた被覆切削工具が得られ好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本願発明の耐摩耗皮膜及び該耐摩耗皮膜を被覆した被覆切削工具は、高速切削や被加工物の高硬度化により切削温度が上昇する環境において、摩耗増大を著しく抑制することを可能とし、例えば切削加工の高速化や高硬度材の直彫り加工の能率を向上させることができ、生産性向上並びにコスト低減に極めて有効である。また、本願発明の耐摩耗皮膜の製造方法は、上記の特徴を有する皮膜を被覆するための好適な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明は、高速切削や被加工物の高硬度化により温度が上昇するような摩耗環境下において、基体表面に適切な耐摩耗皮膜を被覆することによって課題を解決した。本願発明の耐摩耗皮膜の少なくとも一層の金属成分は、(Si1−X)で示される。ここで、Mは、Ti、Cr、Al、Nb、Zr、Mo、Y、Cu、Niから選択される1種以上である。またX値は、金属成分のみの原子%を100とした場合、15%以上、95%以下である。これにより本願発明の成膜手段との相乗効果が得られる。即ちSi含有皮膜の結晶粒径の不明瞭化、耐熱性並びに皮膜硬度が最適となるためである。X値が15%未満又は95%を超える場合は、結晶粒界が明瞭となり十分な耐酸化特性が得られない。
本願発明皮膜の非金属成分は(N1−Y)で示される。ここでGは、C、O、B、Cl、S、P、H、Fのうちの少なくとも1種以上である。またY値は、非金属成分のみの原子%を100とした場合、10%以上、99.9%以下である。これにより本願発明の成膜手段との相乗効果が得られる。即ちSi含有皮膜の結晶粒径の不明瞭化、耐熱性並びに皮膜硬度が最適となるためである。Y値が10%未満の場合、皮膜の硬度が十分ではなく、耐摩耗性に乏しくなる。一方、Y値が99.9原子%を超える場合は、皮膜の結晶粒界が鮮明となり、耐熱性に劣り、密着強度に乏しくなる。これら耐摩耗皮膜の組成における金属成分と非金属成分との比は、1:1であることを意味するものではない。好ましくは、金属成分に対する非金属成分の比率が1以上である。
本願発明の耐摩耗皮膜は、原子%でSi含有量が10%未満の結晶粒子とSi含有量が10原子%以上の非晶質相とが存在するように構成する。これにより、皮膜硬度が大幅に向上し、皮膜の機械的特性が向上する。Si含有量が10原子%未満の結晶粒子は、Si含有量の増加に伴い微細化する傾向にあり、皮膜硬度を向上させる。Si含有量が10原子%以上の非晶質相は、Si含有量が10原子%未満の結晶粒子成長を抑制し、微細化させるとともに、結晶粒界をより不明瞭にする効果を発揮する。皮膜にSi含有量が10原子%未満の結晶粒子と、Si含有量が10原子%以上の非晶質相が存在することにより、皮膜硬度と耐酸化性を改善させることができる。非晶質相のSi含有量は、金属元素のみの原子%で10%以上から皮膜全体のSi含有量よりも多い。
上記の様に本願発明の耐摩耗皮膜は、Si含有量が10原子%以上の非晶質相の存在によって耐酸化性の改善に有効である。また、Si含有量が10原子%未満の結晶粒子の存在によって皮膜硬度の改善に有効である。この両者の有効な点を考慮し、両者の存在割合を制御して耐酸化性と皮膜硬度とを同時に改善させることができる。皮膜断面の面積割合について該非晶質相の存在割合をA%とし、該結晶粒子の存在割合をB%とした時、両者の存在割合を比B/Aとして、B/A≦1とすることが好ましい形態である。この理由は、皮膜の構成において該非晶質相の存在割合が多くなるように制御し、耐酸化性の改善に重点をおく事は、苛酷な摩耗環境下において優先事項となるからである。但し、B/A値の上限については、B/A≦1.5までの範囲であれば、本願発明の期待する効果を得ることができる。ここで、耐摩耗皮膜の結晶粒子と非晶質相は、透過電子顕微鏡(以下、TEMと記す。)を用い、組織観察、格子像観察、φ1nm程度の微小部の電子線回折等により同定することができる。組成は、電子プローブマイクロアナライザ(以下、EPMAと記す。)分析及びオージェ電子分光(以下、AESと記す。)分析により解析することができる。皮膜断面の面積割合は、上記の解析結果を参照して、観察倍率5万倍程度で略1μm×1μmの矩形視野内の夫々の面積割合からB/A値を算出することができる。
本願発明の耐摩耗皮膜を被覆する基体は、Co含有量3重量%以上、12重量%未満からなる超硬合金又はサーメット、又は高速度鋼の何れかである。本願発明の耐摩耗皮膜はこれらの基体との組合せによって密着強度に優れる。超硬合金のCo含有量が3重量%未満では、皮膜の密着強度が十分でなく好ましくない。一方、Co含有量が12重量%以上では、本願発明の耐摩耗皮膜の効果が確認されないため好ましくない。以上のように本願発明の耐摩耗皮膜は、上記の構成を満足することによって苛酷な摩耗環境下における耐摩耗性の改善が計られる。
【0009】
本願発明の耐摩耗皮膜の製造方法は、スパッタリング(以下、SPと記す。)法、プラズマ化学蒸着(以下、PCVDと記す。)法、フィルター方式アークイオンプレーティング(以下、FAIPと記す)法の何れか又はこれらの組合せによる耐摩耗皮膜の製造方法である。この成膜手法によって、本願発明の耐摩耗皮膜の特徴である皮膜構造、即ちSi含有量が10原子%未満の結晶粒子と、Si含有量が10原子%以上の非晶質相が存在する皮膜構造を得ることができる。また、この成膜手法によって、皮膜に混入するマクロパーティクルを皆無又は著しく低減させることができ、皮膜の結晶粒及び組織制御に最も有効な手段である。Si含有皮膜の結晶粒界を不明瞭にする手段として、皮膜の金属成分組成及び非金属成分組成を限定し、これらをSP法、PCVD法、FAIP法の何れかもしくはその組合せにより被覆することが極めて効果的である。Si含有皮膜の結晶粒界を制御する理由は、皮膜は結晶粒界を介して酸化し、著しく耐摩耗性を劣化させるからである。例えば、アーク式イオンプレーティング(以下、AIPと記す。)法におけるSi含有皮膜は、結晶粒界が極めて明瞭になり、その結晶粒界を介して酸化が進行し易く耐摩耗性を劣化させる。更に、AIP法においては、成膜過程で不可避的にマクロパーティクルが皮膜中に混入する。苛酷な摩耗環境下においては、マクロパーティクルやマクロパーティクルが脱落した部分を介して酸化摩耗が進行し、耐摩耗性を劣化させている。従って、本願発明の耐摩耗皮膜の製造方法は、苛酷な摩耗環境下においても特に優れた耐酸化特性を示し、耐摩耗性の著しい改善を可能にした。
SP法は、スパッタリング電源として直流電源もしくは高周波電源もしくはパルス電源を用いることができる。またバイアス電源としても、直流電源、高周波電源又はパルス電源を使用することができる。特に本願発明の耐摩耗皮膜の電気抵抗からすると、スパッタリング電源、バイアス電源に高周波電源又はパルス電源を用いることが好ましい。PCVD法は、金属成分をガスとして添加し、プラズマ中でイオン化する手法であるが、本手法においても、イオン化を促進する手段として、バイアス電源としては、高周波電源又はパルス電源が好ましい。ガスをイオン化するためにホロカソード電極を基体近傍に配置することにより、導入するガスのイオン化が更に促進され、皮膜の結晶粒径を比較的容易に制御することができ好ましい。FAIP法は、アーク蒸発源に設置された金属ターゲット表面と、平面基体の場合における基体表面とのなす角が40度以上、90度以下が好ましい。磁場とバイアス電源により誘導される距離はできるだけ長いことが好ましい。またその時の磁場強度はできるだけ強いことが、マクロパーティクルの低減に有効であり、本願発明の耐摩耗皮膜の形成に好都合である。
本願発明の耐摩耗皮膜の製造方法を採用した場合の密着強度を維持するために、皮膜組成として最適な非金属成分を選定した。非金属成分は、窒素以外に、C、O、B、Cl、S、P、H、Fのうちの少なくとも1種以上を、非金属成分のみの原子%を100とした場合、10%以上、99.9%以下で含有するように構成している。この組成範囲によって、耐摩耗皮膜の残留応力を低減させることができ、十分な密着強度が得られる。
【0010】
本願発明の耐摩耗皮膜は、X線光電子分光分析により、少なくともSi−N、Si−O及び金属Siの結合エネルギーを有し、Si−Nに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−N)、Si−Oに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−O)及び金属Siに相当する結合エネルギーの強度をI(Si)とした時、I(Si−N)>I(Si)、I(Si−N)>I(Si−O)を満足し、I(Si−N)の比率が50%以上、95%以下であることが特に好ましい。I(Si−N)の強度比を50%以上、95%以下に制御することにより、皮膜硬度及び耐酸化を改善することができる。I(Si−N)の強度比率が50%未満となる場合、皮膜の硬度が低くなり、耐摩耗性に乏しくなる。一方、I(Si−N)の強度比率が95%を超える場合、十分な密着強度が得られない。
X線光電子分光分析による、I(Si−N)、I(Si)、I(Si−O)の算出方法及び被覆条件との関係について述べる。被覆基体は鏡面加工したCo含有量8重量%の微粒超硬合金を用いた。X線光電子分光分析は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用い、X線源はMgKαを用い400Wとし、分析領域を直径0.4mmの円内部を分析した。分析前に、十分にアセトン中で脱脂洗浄を行い、更に分析部の皮膜表面に付着した汚染物質等を除去するために5分間Arイオンガンを用いてエッチングした後、Si2pに相当するスペクトルを測定した。ArイオンガンによるエッチングレートはSiO2換算で1.9nm/分であった。ピーク分離については、Si−N成分のピーク位置を101.2±0.2eV、Si−O成分のピーク位置を103.3±0.2eV、Si(金属)成分のピーク位置を99.3±0.2eVとして、ピークフィッティング法によって行った。
本願発明の耐摩耗皮膜は、膜厚方向にSi含有量が異なることが好ましい。具体的には、膜厚方向に基体から表面に向けてSi含有量が増加する場合と、膜厚方向に基体から表面に向けてSi含有量が減少する場合とがある。前者の場合は、特に耐酸化性が重視される場合に好ましく、後者の場合は、特に皮膜硬度が重視される場合に好ましい。必要に応じ選択される。
本願発明の耐摩耗皮膜は、押込み硬さ測定法により算出される皮膜硬度が30GPa以上、80GPa以下であることが好ましい。押込み硬さ測定法により算出される皮膜硬度は、ナノインデンテーションによる硬度測定法により求められる。この硬度測定法は、次の論文に開示されている。(W.C.Oliver and、G.m.Pharr:J.Mater.Res.、Vol.7、No.6、June 1992、pp.1564−1583)。本願発明の耐摩耗皮膜は、皮膜硬度が30GPa未満の場合、耐摩耗性の改善効果が確認されない。一方、80GPaを超える場合は、基体との密着強度に乏しく不都合である。より好ましい皮膜硬度は、40GPa以上、65GPa以下である。
本願発明の耐摩耗皮膜は、押込み硬さ測定法により算出される弾性回復率が32%以上、50%未満であることが好ましい。押込み硬さ測定法により算出される弾性回復率は、ナノインデンテーションによる硬度測定法により求められる。弾性回復率は100−[(接触深さ)/(最大荷重時の最大変位量)]により算出される。ここで、接触深さ及び最大荷重時の最大変位量はナノインデンテーション法により求められる。弾性回復率が32%未満の場合は、耐摩耗性に乏しい。一方、弾性回復率が50%以上の場合は基体との密着強度に乏しく不都合である。
本願発明の該耐摩耗皮膜は、耐摩耗皮膜の最表層に被覆されていることが好ましい。特に耐酸化特性が要求される摩耗環境下において、摩耗抑制効果が発揮され易く、効果的に作用する。
更に、耐摩耗皮膜の最表面から膜厚方向に500nm以内で、N以外の非金属成分の元素濃度が最大となる場合、特に結晶粒界が不明瞭に構成され、皮膜表面からの酸素の内向拡散抑制に効果を発揮する。
本願発明の該耐摩耗皮膜における表面の面粗度がRaで1μm未満である場合、特に耐摩耗性に優れ、使用環境化において均一で緻密な酸化膜を形成して耐摩耗性を改善する。Ra値を1μm未満に限定した理由は、Ra値が1μmを超えると、例えばドリルによる穴加工においては、本願発明の効果が得られないためである。更に、耐摩耗皮膜又は皮膜表面に、金属成分が70原子%以上から構成される金属粒子が、皮膜断面の5000倍の観察によって、面積率が0.5%以下であることが本願発明の効果を得る上で好ましい。しかし、この金属成分が70原子%以上から構成される金属粒子を皆無にすることは現状の技術水準及び生産性の観点から困難である。
本願発明の耐摩耗皮膜における金属成分の組合せは、SiTi、SiCr、SiAl、SiCrAl、SiTiAl、SiCu、SiNi、SiYが好ましい。この組合せは最も効果的に酸化を抑制し、耐摩耗性の改善に特に有効である。
本願発明の耐摩耗皮膜の特性を更に引き出すために、本願発明の耐摩耗皮膜とは別の耐摩耗皮膜が少なくとも1層あり、該別の耐摩耗皮膜の金属成分が、Ti、Cr、Al、Si、Nb、Moの1種以上からなり、非金属成分がN、C、O、Bの1種以上からなる耐摩耗皮膜との積層構造にすることが好ましい。この場合、例えば耐剥離性や耐塑性変形性を更に引き出すことができ、結果として耐摩耗効果を発揮することができる。
【0011】
本願発明の耐摩耗皮膜を切削工具に適用した場合、その効果が特に発揮され易く、苛酷な摩耗環境下においても耐摩耗性を改善する。更に、本願発明の該耐摩耗皮膜の最表面にSiO、AlO、CrO、AlN、BN、CN、SiNの何れかを被覆することにより、耐摩耗性を改善する。これらの皮膜は本願発明の耐摩耗皮膜と特に密着強度に優れる。また酸素の内向拡散を抑制し、耐摩耗性を改善する。更にこれらの皮膜は、成膜後に形成されていなくとも、使用環境化において形成される場合もある。以下、本願発明を実施例に基づいて説明するが、本願発明は下記実施例に限定されるものではなく、使用分野により適宜変更することができる。
【実施例】
【0012】
本願発明の耐摩耗皮膜の被覆方法を述べる。基体は、Co含有量8重量%の超微粒子超硬合金製のテストピース及び耐摩耗性の評価に用いる2枚刃ボールエンドミルを用いた。脱脂洗浄を十分に実施し、スパッタリング装置の容器内の冶具に配置した。冶具は5回転/分で自公転する。基体の温度は550℃となるよう加熱及び排気を行った。Arを容器内に導入し、容器内に設けられたカソード電極とアノード電極の間で放電によってArのイオン化を行った。同時に基体にパルス状のバイアス電圧を印加した。このパルス状のバイアス電圧は、負バイアス電圧が500V−90%、正バイアス電圧が20V−10%、周期は20kHzとした。イオン化されたArは基体に衝突し、基体のクリーニング及び活性化処理を行う。このとき、基体のクリーニング効率や活性度をより高めるためにKrやH2を用いることも有効である。Arと反応ガスとして窒素を容器内に導入し、全体の圧力を0.1Pa、バイアス電圧を−50Vに設定した。容器内に複数配置したスパッタリング蒸発源に設置された耐摩耗皮膜の金属成分となるターゲット1に250W、12.7W/cm2の電力を供給し、ターゲット上でプラズマ放電を行い、皮膜の形成を開始した。このとき必要に応じて最下層を形成し、その直上に本願発明の耐摩耗皮膜の形成を行い、必要に応じ最表層の形成を行った。最下層、耐摩耗皮膜の組成、評価結果を表1、2に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
皮膜形成後、被覆基体の温度が200℃以下になるまで冷却し、容器から取り出して皮膜の評価を行った。得られたテストピースの、最下層及びSi含有皮膜の組成分析は、EPMA分析及びAES分析により決定した。また、テストピースの断面から概略の膜厚を測定した。組織観察をTEMにより実施した。組織観察に用いる試料準備の方法は、試料とダミー基板とをエポキシ樹脂を用いて接着し、切断、補強リング接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミーリングを行った。試料厚さが原子層厚さになる領域において、組織観察、格子像観察、φ1nm程度の微小部の電子線回折等を行い、組織構造を決定した。分析装置は、日本電子製JEM−2010F型の電解放射型透過型電子顕微鏡(以下、FE−TEMと記す。)を用い、加速電圧200kVで組織観察を行った。微小部の電子線回折は、カメラ長を50cm、ビーム径をφ1nmに収束させ、耐摩耗皮膜の結晶質相と非晶質相を同定した。組織構造を表2に併記した。表2中の本発明例に関し、非晶質/結晶質と記載しているものは、金属元素のみの原子%で10原子%未満の結晶粒子と10原子%以上の非晶質相が夫々確認されたことを示す。
耐摩耗皮膜のSi結合状態を解析するためにX線光電子分光分析により、Si−N、Si−O、金属Siの各結合エネルギーを認知し、Si−Nに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−N)、Si−Oに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−O)、金属Siに相当する結合エネルギーの強度をI(Si)とした時、I(Si−N)>I(Si)、I(Si−N)>I(Si−O)を満足することを確認した。I(Si−N)の強度比率を算出し、表2に示した。図1はX線光電子分光分析により得られた本発明例6の例を示す。図1はSi2pに相当するスペクトルを示し、図から夫々の面積強度は、I(Si−N)=3629、I(Si)=472、I(Si−O)=515であり、全体に占めるI(Si−N)の強度比率は79%となった。全体に占めるI(Si−N)の強度比は成膜方法、被覆条件及び皮膜組成によって総合的に決定されるものである。被覆条件に関して検討した結果、I(Si−N)が50以上、95以下になる好ましい被覆条件は、本願発明の耐磨耗性皮膜の組成範囲では、反応圧が0.01〜2.0Pa、バイアス電圧は−20〜−500V、被覆基体温度が300〜600度であった。
押込み硬さの測定は、測定誤差をできるだけ低減させるために、試料表面を平滑にする目的でダイヤモンド粒子を含有したバフにより、5秒間平滑化処理したものを用いた。ナノインデンテーションにより、最大押込み荷重9.8mN、最大荷重保持時間1sec、荷重除去/荷重負荷0.98mNの条件で10点測定し、その平均値を示した。得られた荷重歪み曲線から、弾性回復率を算出し、表2に併記した。表1中の成膜方法に関して、SPはスパッタリング法、FAIPはフィルター方式アークイオンプレーティング法、PCVDはプラズマ化学蒸着法であることを示す。特に記載がない限り上記に示す成膜方法で耐摩耗皮膜の形成を行った。
【0016】
次に、耐摩耗性を評価するために、切削評価を実施した。切削評価条件を以下に示す。切削評価結果は、逃げ面摩耗幅が0.1mmに達した切削長もしくは著しく不安定な加工状態、例えば火花発生、異音、加工面のむしれ、焼け等などの状態に達した切削長を切削寿命として表2に示した。また、10m未満の切削寿命は切り捨てて表記した。
(切削評価条件)
工具:2枚刃ボールエンドミル(φ6−3R)
切削方法:底面超高速仕上げ加工
被削材:粉末高速度鋼、HRC67
切り込み:軸方向、0.05mm、径方向、0.2mm
主軸回転数:50kmin−1、接触最外径における切削速度は171m/min
テーブル送り:8m/min
切削油:無し、ドライ切削
表2に本発明例、比較例、表3に従来例の評価結果を示した。
【0017】
【表3】

【0018】
表2に示す本発明例は、従来例と比較して安定した折損寿命が得られ耐摩耗性に優れていた。以下本発明例の詳細について述べる。本発明例1は、SP法によるものであるが、AIP法で被覆した比較例56、従来例66に比べ、格段に切削寿命が長く、優れていた。本願発明のSP法が密着強度の改善に極めて有効であることを示した。これは単純に皮膜硬度のみの差ではない。本発明例2は、FAIP法によるものである。本発明例3は、FAIP法で最下層を成膜して、PCVD法により本願発明皮膜を被覆した場合を示す。本発明例4から本発明例8は、Si含有皮膜内のSi含有量が異なる場合を示すが、比較例57から比較例59と比較し、Si含有量が極めて重要であることを示した。本発明例9から本発明例12は、SiとCr、Nb、Al、Cuの組合せの場合を示す。本発明例12は、皮膜組織に結晶粒子と非晶質相が認めらたものの、B/A値が0.05であり、非晶質相の割合が多く見られた。結晶粒子と非晶質相から適切な割合で構成される場合が、切削寿命の関係からより好ましい。本発明例13から本発明例16は、Siと少量のY、Zr、Ni、Cuを添加した場合を示す。これらの皮膜硬度は本発明例1と比較すると低くなっているが、耐摩耗性に優れていた。添加元素が優れた耐酸化性を示す組合せであり、酸化の抑制が切削寿命延長に貢献したものと考えられる。本発明例14、本発明例15は、押込み硬さが30GPa未満の場合である。切削寿命より、30GPa以上が好ましい。本発明例17から本発明例25は、Si含有皮膜において、Siと2種の金属元素から構成される場合を示す。本発明例26から本発明例34は、非金属成分として、NとB、NとBとC、NとCを含有する場合を示す。B添加手段としては、硼化物ターゲットをスパッタすることによっても得られるが、ガスとして添加することも可能である。この場合B含有ガスをイオン化するための手段が別途必要である。C添加手段としては、炭化物ターゲットをスパッタすることによっても得られるが、炭化水素系を添加することも可能である。本発明例35、本発明例36は、非金属成分としてSを含有する場合を示す。S添加手段としては、ターゲットに添加する手段が好ましい。本発明例37は、非金属成分としてPを含有する場合を示す。P添加手段としては、ターゲットに添加する手段もしくは成膜装置から取り出した後に、塩浴処理によっても添加することができる。本発明例38は、非金属成分としてHを含有する場合を示す。本発明例39は、金属成分としてCa、非金属成分としてFを含む場合を示す。本発明例40は、Si含有皮膜単一層の場合を示す。最下層を用いるほうが耐摩耗性の改善に好ましい。本発明例41から本発明例42は、最下層としてAlCr系及びAlCrSi系の皮膜を採用した場合を示す。耐摩耗性に優れ、好ましい最下層であった。本発明例43は、弾性回復率が31%の場合を示す。32%以上がより好ましい数値である。本発明例44は、押込み硬さが29GPa、弾性回復率が28%の場合を示す。押込み硬さは30GPa以上、弾性回復率は32%以上が好まし。本発明例45は、押込み硬さが78GPaであり高硬度の場合を示す。また、押込み硬さが80GPa以上の場合、皮膜剥離が発生し評価の対象とならなかった。本発明例46は、弾性回復率が51%の場合を示す。50%未満が好ましい。本発明例47から本発明例50は、Si含有皮膜の上層に、AlO、SiO、CrO、TiOが積層された場合を示す。最表層は耐摩耗性の改善効果が極めて高かった。これは、耐酸化性の改善に加え潤滑性に優れるためである。好ましい最表層は、AlO、SiO、CrOである。本発明例51、本発明例52は、Si含有皮膜内に組成の異なる2種以上の皮膜を約5nmの周期で500層積層させた場合を示す。表1には全体の膜組成として記載した。本発明例53、本発明例54は、Si含有皮膜の最表層から膜厚方向に500nm以内の範囲において、OとSの濃度が最大となるように成膜した場合を示す。耐摩耗性に優れた好ましい構造であった。本発明例55は、Si含有皮膜内において膜厚方向にSi含有量が多くなるように成膜した場合を示す。
【0019】
表2の比較例について述べる。比較例56は成膜手段がAIP法の場合を示す。本願発明の皮膜組成から構成されるが、従来例に比べ耐摩耗性の改善には至らなかった。比較例57から比較例59は、Si含有皮膜内のSiが、本願発明範囲外の場合を示す。比較例60は、基体のCo含有量が13.5重量%の超硬合金の場合を示す。これらの耐摩耗性の改善効果は小さかった。
表3の従来例について述べる。従来例61は最下層がTiN、その上層に(TiAl)N系皮膜を被覆した場合、従来例62は(TiAl)N系皮膜を被覆した場合、従来例63は(AlTiSi)N系皮膜を被覆した場合、従来例64は(AlCrSi)N系皮膜を被覆した場合、従来例65は(TiSi)N系皮膜を被覆した場合、従来例66は最下層が(AlTi)N、その上層に(TiSiN)を被覆した場合を示す。切削寿命はいずれの場合も短寿命であった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明例6のX線光電子分光分析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に少なくとも1層以上を被覆した耐摩耗皮膜であって、該耐摩耗皮膜の金属成分が(Si1−X)、非金属成分が(N1−Y)で示され、但しXの値は金属成分のみの原子%を100とした場合、15原子%以上、95原子%以下であり、Yの値は非金属成分のみの原子%を100とした場合、10原子%以上、99.9原子%以下であり、MはTi、Cr、Al、Nb、Mo、Y、Cu、Niから選択される1種以上であり、GはC、O、B、Cl、S、P、H、Fから選択される1種以上であり、該耐摩耗皮膜はSi含有量が10原子%未満の結晶粒子とSi含有量が10原子%以上の非晶質相とが存在することを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項2】
請求項1記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜はX線光電子分光分析により、少なくともSi−N、Si−O及び金属Siの結合エネルギーを有し、Si−Nに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−N)、Si−Oに相当する結合エネルギーの強度をI(Si−O)及び金属Siに相当する結合エネルギーの強度をI(Si)とした時、I(Si−N)>I(Si)、I(Si−N)>I(Si−O)を満足し、I(Si−N)の比率が50%以上、95%以下であることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項3】
請求項1又は2記載の耐摩耗皮膜において、膜厚方向にSi含有量が異なることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜の皮膜硬度が30GPa以上、80GPa以下であることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜の弾性回復率が32%以上、50%未満であることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜が最表層に被覆されていることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項7】
請求項6記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜の最表面から膜厚方向に500nm以内で、N以外の非金属成分の元素濃度が最大となることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜の表面の面粗度がRaで1μm未満であることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜には金属成分が70原子%以上から構成される金属粒子の面積率が0.5%以下であることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜の金属成分が、SiTi、SiCr、SiAl、SiCrAl、SiTiAl、SiCu、SiNi、SiYの何れかであることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれかに記載の耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜とは別の耐摩耗皮膜が少なくとも1層あり、該別の耐摩耗皮膜の金属成分が、Ti、Cr、Al、Si、Nb、Moの1種以上からなり、非金属成分が、N、C、O、Bの1種以上からなることを特徴とする耐摩耗皮膜。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれかに記載の耐摩耗皮膜を被覆したことを特徴とする耐摩耗皮膜被覆切削工具。
【請求項13】
請求項12記載の耐摩耗皮膜を被覆した切削工具において、該耐摩耗皮膜の最表面の組成が、SiO、AlO、CrO、AlN、BN、CN、SiNから選択される1種であることを特徴とする耐摩耗皮膜被覆切削工具。
【請求項14】
基体に少なくとも1層以上を被覆した耐摩耗皮膜において、該耐摩耗皮膜の金属成分が(Si1−X)、非金属成分が(N1−Y)で示され、但しXの値は金属成分のみの原子%を100とした場合、15原子%以上、95原子%以下であり、Yの値は非金属成分のみの原子%を100とした場合、10原子%以上、99.9原子%以下であり、Mは、Ti、Cr、Al、Nb、Mo、Y、Cu、Niから選択される1種以上であり、Gは、C、O、B、Cl、S、P、H、Fから選択される1種以上であり、該耐摩耗皮膜はSi含有量が10原子%未満の結晶粒子と、Si含有量が10原子%以上の非晶質相が存在する皮膜構造を有し、該皮膜構造はスパッタリング法、プラズマ化学蒸着法、フィルター方式アークイオンプレーティング法の何れか又はこれらの組合せにより形成することを特徴とする耐摩耗皮膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−225708(P2006−225708A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39948(P2005−39948)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】