説明

自動車および内燃機関の運転停止時の制御方法

【課題】制御破綻を生じさせることなく内燃機関の回転数を低下させて内燃機関を目標クランク角に停止させる。
【解決手段】エンジン回転数Neが動力分配統合機構やモータなどからなる駆動系が共振する共振回転数帯を含む回転数範囲として閾値Nref2以上で閾値Nref1未満の共振含有範囲内のときには、エンジン回転数Neが共振含有範囲外のときに用いる通常の値k1より小さな値k2の比例ゲインkpを用いてエンジン回転数Neが目標回転数Ne*となるようフィードバック制御する(S220〜S280)。これにより、駆動系の共振によりエンジン回転数Neと目標回転数Ne*との差が想定より大きくなったり小さくなったりするのを抑制し、モータの出力トルクとエンジン回転数Neとにハンチングが生じてフィードバック制御が阻害されるのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車および内燃機関の運転停止時の制御方法に関し、詳しくは、内燃機関と、内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を備える自動車、および、こうした自動車に搭載された内燃機関の運転停止時の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の運転停止時の制御方法としては、3つの回転要素に車軸に連結された駆動軸とエンジンの出力軸と発電機の回転軸とを接続すると共に駆動軸に電動機が接続されたハイブリッド自動車において、エンジンを目標停止位置で停止させるために必要なエンジン目標回転速度とそのときのクランク角度とを取得し、取得したクランク角度に基づいてエンジン目標回転数を補正するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この制御方法では、クランク角度に基づいてエンジン目標回転数を補正することにより、エンジンや電動機械等における摩擦力にばらつきがあったり、潤滑用や冷却用の油の温度や粘性にばらつきがあったり、エンジン回転速度の低減中に車両の加減速があったりしても、エンジンを目標停止位置で停止させることができるようにしている。
【0003】
また、オートマチックトランスミッションを介して駆動軸に動力を出力するエンジンのクランク軸にモータを取り付けた自動車において、アイドルストップの際にモータの回転速度が所定回転速度より小さくなると、通常の制御ゲインより大きい制御ゲインを用いてモータを駆動制御するものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。この制御方法では、モータの回転速度が所定回転速度より小さいときに大きい制御ゲインを用いることにより、エンジンの低回転速度領域におけるモータ制御の応答性を向上させて、エンジン振動を抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−16505号公報
【特許文献2】特開2004−100504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者の自動車のように、エンジンの出力軸が遊星歯車機構などの機械的機構を介して電動機に接続されている自動車では、エンジンを停止するときにエンジンの回転数が目標回転数となるよう電動機でフィードバック制御すると、電動機のトルクとエンジンの回転数とがハンチングを生じたりしてエンジンの回転数を目標回転数に追従させることができない場合が生じる。機械的機構や電動機などを含む駆動系は固有の共振周波数帯を有するため、エンジンの回転数がこの共振周波数帯となるときには、エンジンのトルク脈動によって駆動系に共振が生じる。駆動系の共振はエンジンの回転数に変動を生じさせるため、エンジンの回転数と目標回転数との差が想定される大きさ以上に大きくなったり小さくなったりすることにより、電動機のトルクと回転数とにハンチングが生じ、良好なフィードバック制御が阻害され、ときにはフィードバック制御が破綻してしまう。
【0006】
本発明の自動車および内燃機関の運転停止時の制御方法は、制御破綻を生じさせることなく内燃機関の回転数を低下させて内燃機関を目標クランク角に停止させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動車および内燃機関の運転停止時の制御方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の自動車は、
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、前記内燃機関の運転を停止するときには、前記内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の前記内燃機関のクランク角または経過時間に応じた前記内燃機関の目標回転数を設定し、前記内燃機関の回転数が所定回転数に至るまでは前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記発電機を制御する低下時回転数制御を実行し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数に至った以降は前記内燃機関が前記目標クランク角で停止するよう前記発電機を駆動制御する停止直前制御を実行する停止時制御手段と、を備える自動車であって、
前記停止時制御手段は、前記低下時回転数制御として、前記内燃機関の回転数が前記電動機と前記機械的機構とを含む駆動系を共振させる共振回転数帯を含む所定回転数範囲より大きいときには第1のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲内となるときには前記第1のゲインより小さな第2のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲より小さく且つ前記所定回転数以上のときには前記第2のゲインより大きな第3のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御する手段である、
ことを特徴とする。
【0009】
この本発明の自動車では、内燃機関の運転を停止するときには、内燃機関の回転数が所定回転数に至るまでは内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御する低下時回転数制御を実行し、内燃機関の回転数が所定回転数に至った以降は内燃機関が目標クランク角で停止するよう発電機を駆動制御する停止直前制御を実行する。そして、低下時回転数制御として、内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の内燃機関のクランク角または経過時間に応じた内燃機関の目標回転数を設定し、内燃機関の回転数が電動機と機械的機構とを含む駆動系を共振させる共振回転数帯を含む所定回転数範囲より大きいときには第1のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御し、内燃機関の回転数が所定回転数範囲内となるときには第1のゲインより小さな第2のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御し、内燃機関の回転数が所定回転数範囲より小さく且つ所定回転数以上のときには第2のゲインより大きな第3のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御する。即ち、駆動系の共振回転数帯を含む所定回転数範囲では、その範囲以外のときの第1のゲインや第3のゲインより小さい第2のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御するのである。これにより、駆動系の共振によって内燃機関の回転数と目標回転数との差が想定される大きさ以上に大きくなったり小さくなったりしても、電動機のトルクと内燃機関の回転数とに生じ得るハンチングを抑制することができ、これによる制御破綻を抑制することができる。もとより、精度よく内燃機関を目標クランク角に停止することができる。
【0010】
こうした本発明の自動車において、前記停止時制御手段は、前記低下時回転数制御として、前記検出された回転数と前記目標回転数との差を打ち消すために比例項と積分項とを用いて前記電動機のトルクを設定する回転数フィードバック制御を実行し、前記第1のゲインと前記第2のゲインと前記第3のゲインは、比例項のゲインである、ものとすることもできる。また、本発明の自動車において、前記第1の比例ゲインと前記第3の比例ゲインは同一である、ものとすることもできる。ここで、「比例項」は、内燃機関の回転数と目標回転数との差に比例ゲインを乗じたものを意味し、「積分項」は、内燃機関の回転数と目標回転数との差の時間積分に積分ゲインを乗じたものを意味する。
【0011】
また、本発明の自動車において、前記機械的機構は、車軸に連結された駆動軸と前記内燃機関の出力軸と前記電動機の回転軸とに3つの回転要素を各々接続した遊星歯車機構である、ものとすることもできる。
【0012】
本発明の内燃機関の運転停止時の制御方法は、
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を搭載する自動車において、前記内燃機関の運転を停止するときには、前記内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の前記内燃機関のクランク角に応じた前記内燃機関の目標回転数を設定し、前記内燃機関の回転数が所定回転数に至るまでは前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記発電機を制御する低下時回転数制御を実行し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数に至った以降は前記内燃機関が前記目標クランク角で停止するよう前記発電機を駆動制御する停止直前制御を実行する前記内燃機関の運転停止時の制御方法であって、
前記低下時回転数制御として、前記内燃機関の回転数が前記電動機と前記機械的機構とを含む駆動系を共振させる共振回転数帯を含む所定回転数範囲より大きいときには第1のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲内となるときには前記第1のゲインより小さな第2のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲より小さく前記所定回転数以上のときには前記第2のゲインより大きな第3のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御する、
ことを特徴とする。
【0013】
この本発明の内燃機関の運転停止時の制御方法では、内燃機関の運転を停止するときには、内燃機関の回転数が所定回転数に至るまでは内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御する低下時回転数制御を実行し、内燃機関の回転数が所定回転数に至った以降は内燃機関が目標クランク角で停止するよう発電機を駆動制御する停止直前制御を実行する。そして、低下時回転数制御として、内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の内燃機関のクランク角に応じた内燃機関の目標回転数を設定し、内燃機関の回転数が電動機と機械的機構とを含む駆動系を共振させる共振回転数帯を含む所定回転数範囲より大きいときには第1のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御し、内燃機関の回転数が所定回転数範囲内となるときには第1のゲインより小さな第2のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御し、内燃機関の回転数が所定回転数範囲より小さく且つ所定回転数以上のときには第2のゲインより大きな第3のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御する。即ち、駆動系の共振回転数帯を含む所定回転数範囲では、その範囲以外のときの第1のゲインや第3のゲインより小さい第2のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御するのである。これにより、駆動系の共振によって内燃機関の回転数と目標回転数との差が想定される大きさ以上に大きくなったり小さくなったりしても、電動機のトルクと内燃機関の回転数とに生じ得るハンチングを抑制することができ、これによる制御破綻を抑制することができる。もとより、精度よく内燃機関を目標クランク角に停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン回転数低下時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】補正トルクTβとエンジン22のクランク角CAとの関係の一例を示す説明図である。
【図6】エンジン22の回転数Neと比例ゲインkpの時間変化の様子を示す説明図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2はエンジン22の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0017】
エンジン22は、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な4気筒の内燃機関として構成されており、図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃料室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化装置(三元触媒)134を介して外気へ排出される。
【0018】
エンジン22は、CPU24a,ROM24b,RAM24cを備えるエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により制御されている。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号が図示しない入力ポートを介して入力されている。例えば、エンジンECU24には、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温,燃焼室内に取り付けられた圧力センサ143からの筒内の圧力,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジション,スロットルバルブ124の開度を検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットルポジション,吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温,空燃比センサ135aからの空燃比,酸素センサ135bからの酸素信号などが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号が図示しない出力ポートを介して出力されている。例えば、エンジンECU24からは、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。なお、エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのクランクポジションに基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算したり、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションを基準角度からの角度としてクランク角CAを計算したりしている。
【0019】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0020】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0021】
バッテリ50は、例えばリチウム二次電池として構成されており、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)を演算したり、演算した残容量(SOC)と電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0022】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0023】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0024】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン22の運転を停止する際の動作について説明する。図3はハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、運転しているエンジン22を自動停止させる自動停止条件が成立したとき、例えばバッテリ50の残容量(SOC)がバッテリ50の充電を要しない所定残容量以上で且つ要求動力がエンジン停止用に設定されたエンジン停止動力未満になったときや図示しないモータ走行スイッチがオンされてモータ運転モードによる走行が指示されたときなどに、エンジン22の回転数Neがほぼアイドル回転数程度になったときに実行される。なお、このエンジン停止時制御ルーチンが実行されているときには、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御については停止されるようエンジンECU24により制御されており、車両が走行している最中では、モータMG1から出力するトルク(トルク指令Tm1*)に対する反力としてのトルクと要求トルクTr*との和のトルクを減速ギヤ35のギヤ比Grで除したトルクがモータMG2から出力されるよう制御される。即ち、モータMG2のトルク指令Tm2*としては、次式(1)により計算される。ここで、モータMG1のトルク指令Tm1*はエンジン停止時制御ルーチンにおけるエンジン回転数低下時制御やエンジン停止時調整制御で設定されるものが用いられる。式(1)中の「ρ」は動力分配統合機構30のギヤ比ρ(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)である。
【0025】
Tm2*=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (1)
【0026】
図3のエンジン停止時制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、エンジン22の回転数Neやクランク角CAを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションに基づいて算出された回転数NeをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、クランク角CAは、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションを基準角度からの角度として算出したクランク角CAをエンジンECU24から通信により入力するものとした。
【0027】
こうしてデータを入力すると、入力したエンジン22の回転数Neとクランク角CAとに基づいてエンジン22を停止する目標値としての目標クランク角CAtagを設定すると共に(ステップS110)、入力したエンジン22の回転数Neとクランク角CAとに基づいて初期値としてのエンジン22の目標回転数Ne*を設定する(ステップS120)。ここで、目標クランク角CAtagは、次にエンジン22を始動するときにショックが小さくなるなどエンジン22の始動性が良好となるクランク角CAとして予め設定されたクランク角(例えば、ある気筒の圧縮行程の上死点から90度前など)であり、実施例では、エンジン22は4気筒であるから、クランク角CAのサイクルとしての720度のうちに180度毎に設定することができる。実施例では、エンジン22の回転数Neとクランク角CAと4つの目標値との関係を予め定めてマップとしてROM74に記憶しておき、エンジン22の回転数Neとクランク角CAが与えられるとマップから得られる目標値を目標クランク角CAtagとして設定するものとした。エンジン22の目標回転数Ne*は、実施例では、入力したエンジン22の回転数Neに補正項を加えることにより設定するものとした。クランク角CAのサイクルとしての720度のうちの180度の範囲毎に1つの目標値を目標クランク角CAtagとして設定するから、その基準を中心にクランク角CAとしてプラスマイナス90度の誤差が生じる。したがって、その基準からの誤差としてのクランク角CAを打ち消す方向にエンジン22の回転数Neが大きいほど小さくなるように補正項を設定し、これに入力した回転数Neを加えて目標回転数Ne*とするのである。なお、補正項は、基準からの誤差としてのクランク角CAとエンジン22の回転数Neと補正値とを予め実験などにより定めてマップとしてROM74に記憶しておき、クランク角CAと回転数Neとが与えられるとマップから補正値を導出して設定するものとした。
【0028】
こうして目標クランク角CAtagと初期値としての目標回転数Ne*を設定すると、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3以下に至るまでエンジン回転数低下時制御を実行し(ステップS130)、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3(例えば、100rpmや150rpmなど)以下に至るとエンジン回転数低下時制御を停止してエンジン停止時調整制御を実行して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。以下に、エンジン回転数低下時制御とエンジン停止時調整制御とを順に説明する。
【0029】
図4は、エンジン回転数低下時制御としてハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン回転数低下時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、エンジン22の回転数Neやクランク角CAを入力し(ステップS200)、エンジン22の回転数Neの減少量として予め設定された回転数勾配dneでエンジン22の回転数Neが小さくなるよう前回の目標回転数Ne*(前回Ne*)から回転数勾配dneを減じたものをエンジン22の目標回転数Ne*として設定する(ステップS210)。ここで、回転数勾配dneは、動力分配統合機構30やモータMG1,MG2を含む駆動系の共振回転数帯(例えば、300〜500rpm)をエンジン22の回転数Neが比較的迅速に通過して小さくなるよう設定された勾配であり、且つ、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3に至ったときのクランク角CAがトルク出力停止時クランク角CArefとなるよう設定された勾配である。トルク出力停止回転数Nref3は前述したように、エンジン回転数低下時制御を停止してエンジン停止時調整制御を実行する回転数であり、基本的には、モータMG1からのトルク出力を停止する回転数である。トルク出力停止時クランク角CArefは、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数NrefであるときにモータMG1からのトルクの出力を停止するとエンジン22が高い確率で設定した目標クランク角CAtagで停止するクランク角CAとして予め実験や解析などで求めたものである。
【0030】
続いて、エンジン22の回転数Neが駆動系が共振する共振回転数帯を含む閾値Nref2以上で閾値Nref1未満の共振含有範囲(例えば、250rpm〜600rpmなど)にあるか否かを判定し(ステップS220)、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲外のときには比例ゲインkpに値k1を設定し(ステップS230)、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲内のときには比例ゲインkpに値k1より小さい値k2を設定する(ステップS240)。そして、設定した比例ゲインkpと目標回転数Ne*と回転数Neとを用いて次式(2)によりモータMG1から出力すべきトルクTαを設定すると共に(ステップS250)、クランク角CAに基づいて補正トルクTβを設定し(ステップS260)、設定したトルクTαと補正トルクTβとの和としてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し(ステップS270)、設定したトルク指令Tm1*をモータECU40に送信する(ステップS280)。ここで、式(2)は、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させるフィードバック制御における関係式であり、右辺第1項は比例項であり、右辺第2項は積分項である。比例項における「kp」はステップS230,S240で設定した比例ゲインkpであり、積分項の「ki」はこの積分項におけるゲインである。上述したように、比例ゲインkpは、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲外のときには値k1が用いられ、共振含有範囲内のときには値k1より小さい値k2が用いられる。これは、エンジン22のトルク脈動によって生じる駆動系の共振によりエンジン22の回転数Neと目標回転数Ne*との差が想定される大きさ以上に大きくなったり小さくなったりするのを抑制し、モータMG1から出力するトルクと回転数Neとにハンチングが生じて良好なフィードバック制御が阻害されるのを抑制するためである。補正トルクTβは、エンジン22のクランク角CAに基づいてエンジン22の回転に伴うトルク変動を抑制するトルクであり、実施例では、クランク角CAと補正トルクTβとの関係を予め補正トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、クランク角CAが与えられるとマップから対応する補正トルクTβを導出して設定するものとした。補正トルク設定用マップの一例を図5に示す。補正トルクTβは、図示するように、エンジン22の圧縮行程や膨張行程などのため回転に伴って生じるトルク変動とは逆位相となる。モータMG1のトルク指令Tm1*の設定で補正トルクTβを考慮するのは、エンジン22の回転に伴って生じるトルク変動によりエンジン22の回転数Neの目標回転数Ne*への追従性が悪くなるのを抑制することに基づく。なお、トルク指令Tm1*を受信したモータECU40は、モータMG1からトルク指令Tm1*に相当するトルクが出力されるようインバータ41の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御する。
【0031】
Tα=kp・(Ne*-Ne)+ki・∫(Ne*-Ne)dt (2)
【0032】
こうしてモータMG1のトルク指令Tm1*をモータECU40に送信すると、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3以下であるか否かを判定し(ステップS290)、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3より大きいときには、ステップS200に戻り、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3以下となるまでステップS200〜S290の処理を繰り返す。このルーチンは、エンジン22の運転を停止するときに実行されるため、このステップS200〜S290の処理を繰り返し始めたときには、エンジン22の回転数Neは共振含有範囲より大きいため、通常の値k1が設定された比例ゲインkpによりフィードバック制御が行なわれ、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲内となると、値k1より小さな値k2が設定された比例ゲインkpによりフィードバック制御が行なわれ、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲より小さくなると、再び通常の値k1が設定された比例ゲインkpによりフィードバック制御が行なわれる。
【0033】
ステップS290でエンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3以下であると判定されると、エンジン回転数低下時制御ルーチンを終了し、図3のエンジン停止時制御ルーチンに示すように、エンジン停止時調整制御(ステップS140)が行なわれる。エンジン停止時調整制御は、基本的には、モータMG1のトルク出力を行なわずにエンジン22を自然に停止させるのである。上述したように、モータMG1の回転数制御によりエンジン22の回転数Neはトルク出力停止回転数Nref3に至ったときにトルク出力停止時クランク角CArefとなるように制御されている。このトルク出力停止時クランク角CArefは、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3のときにモータMG1のトルク出力を停止するとエンジン22が高い確率で設定した目標クランク角CAtagで停止するクランク角として求められたものであるから、エンジン22を自然に停止させれば、エンジン22は高い確率で設定した目標クランク角CAtagで停止することになる。しかし、エンジン22の状態によっては、エンジン22が目標クランク角CAtagより前で停止しようとしたり、逆にエンジン22が目標クランク角CAtagを超えて停止しようとしたりする場合が生じる。エンジン停止時調整制御では、エンジン22が目標クランク角CAtagより前で停止しようとしたときには、モータMG1からのエンジン22を回転させるトルクを出力することによりエンジン22の停止位置を目標クランク角CAtagとなるようにしたり、逆にエンジン22が目標クランク角CAtagを超えて停止しようとしたときには、モータMG1からエンジン22の回転を停止させるトルクを出力してエンジン22が目標クランク角CAtagを大幅に超えて停止しないようにする。このエンジン停止時調整制御は、本発明の中核をなさないから、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0034】
図6は、エンジン22の回転数Neと比例ゲインkpの時間変化の様子を示す説明図である。図示するように、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲の上限値である閾値Nref1に至る時間T1までは通常の値k1が設定された比例ゲインkpによるフィードバック制御が行なわれ、エンジン22の回転数Neが閾値Nref1に至った時間T1からエンジン22の回転数Neが共振含有範囲の下限値である閾値Nref2に至る時間T2までは通常の値k1より小さな値k2が設定された比例ゲインkpによるフィードバック制御が行なわれ、エンジン22の回転数Neが閾値Nref2に至った時間T2からエンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3に至る時間T3までは再び通常の値k1が設定された比例ゲインkpによるフィードバック制御が行なわれる。そして、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3に至った時間T3以降は、エンジン停止時調整制御が行なわれるため、フィードバック制御は実行されない。
【0035】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22の回転数Neが動力分配統合機構30やモータMG1,MG2などからなる駆動系が共振する共振回転数帯を含む回転数範囲として閾値Nref2以上で閾値Nref1未満の共振含有範囲内のときには、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲外のときに用いる通常の値k1より小さな値k2を設定した比例ゲインkpを用いてエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようモータMG1によるフィードバック制御を実行することにより、エンジン22のトルク脈動によって生じる駆動系の共振によりエンジン22の回転数Neと目標回転数Ne*との差が想定される大きさ以上に大きくなったり小さくなったりするのを抑制し、モータMG1から出力するトルクと回転数Neとにハンチングが生じて良好なフィードバック制御が阻害されるのを抑制することができる。この結果、制御破綻を生じさせることなくエンジン22の回転数Neを低下させてエンジン22を目標クランク角CAtagに停止させることができる。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の回転数Neが駆動系が共振する共振回転数帯を含む回転数範囲として閾値Nref2以上で閾値Nref1未満の範囲として設定された共振含有範囲内のときに通常の値k1より小さな値k2を比例ゲインkpに設定するものとしたが、エンジン22の回転数Neが駆動系が共振する共振回転数帯のときに通常の値k1より小さな値k2を比例ゲインkpに設定するものとしてもよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲の下限値である閾値Nref2未満でトルク出力停止回転数Nref3以上のときには、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲の上限値である閾値Nref1より大きいときに用いる通常の値k1を比例ゲインkpに設定するものとしたが、値k1とは異なる値k3を比例ゲインkpに設定するものとしてもよい。この場合、値k3は値k1より小さく値k2より大きいのが好ましい。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータトルクTαを設定する際の比例ゲインkpを用いるフィードバック制御の関係式として、比例項と積分項とを用いるものとしたが、積分項を用いないものとしても構わない。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータトルクTαと補正トルクTβとの和のトルクをモータMG1のトルク指令Tm1*として設定するものとしたが、モータトルクTαをそのままモータMG1のトルク指令Tm1*として設定するものとしても構わない。また、補正トルクTβとは異なる補正トルクとモータトルクTαとの和のトルクをモータMG1のトルク指令Tm1*として設定するものとしてもよいし、モータトルクTαと補正トルクTβに更に他の補正トルクを加えて得られるトルクをモータMG1のトルク指令Tm1*として設定するものとしてもよい。
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3に至ったときのクランク角CAがトルク出力停止時クランク角CArefとなるよう設定された回転数勾配dneを前回の目標回転数Ne*から減じて新たな目標回転数Ne*を設定するものとしたが、エンジン停止時制御ルーチンを開始して目標クランク角CAtagを設定したときに、エンジン22が停止するまでのクランク角CAと目標回転数Ne*との関係を設定し、この設定した関係に対してクランク角CAを適用して目標回転数Ne*を設定するものとしてもよい。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3以下に至ったときには、エンジン停止時調整制御として、基本的には、モータMG1からのトルクの出力を停止し、エンジン22が目標クランク角CAtagより前で停止しようとするときには、モータMG1からのエンジン22を回転させるトルクを出力することによりエンジン22の停止位置を目標クランク角CAtagとなるようにし、逆にエンジン22が目標クランク角CAtagを超えて停止しようとするときには、モータMG1からエンジン22の回転を停止させるトルクを出力してエンジン22が目標クランク角CAtagを大幅に超えて停止しないようにするものとしたが、エンジン停止時調整制御として、単にモータMG1からのトルクの出力を停止するだけのものとしたり、エンジン停止時調整制御として、エンジン22が目標クランク角CAtagより前で停止しようとするときにだけモータMG1からのエンジン22を回転させるトルクを出力するものとしたり、エンジン停止時調整制御として、エンジン22が目標クランク角CAtagを超えて停止しようとするときにだけモータMG1からエンジン22の回転を停止させるトルクを出力するものとしたりするなど、エンジン停止時調整制御として、種々の制御を行なうものとしてもよい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を減速ギヤ35により変速してリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図7の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪63a,63bが接続された車軸)とは異なる車軸(図7における車輪64a,64bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。また、エンジン22とモータMG1とを接続する機械的機構としてプラネタリギヤとして構成された動力分配統合機構30に限定されるものではなく、プラネタリギヤ以外のギヤ機構によりエンジンとモータとを接続するものなど、エンジンの出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能なモータを有するタイプの自動車であれば如何なる構成の自動車としても構わない。
【0043】
また、実施例では、本発明をハイブリッド自動車20の形態として説明したが、こうした自動車に搭載された内燃機関の運転停止時の制御方法の形態としてもよい。
【0044】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、エンジン22のクランクシャフト26に動力分配統合機構30を介して動力を入出力するモータMG1が「電動機」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当する。そして、エンジン22の回転数Neが動力分配統合機構30やモータMG1,MG2などからなる駆動系が共振する共振回転数帯を含む閾値Nref2以上で閾値Nref1未満の共振含有範囲より大きいときには通常の値k1が設定された比例ゲインkpによるモータMG1のフィードバック制御によりエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるよう制御し、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲内のときには通常の値k1より小さな値k2が設定された比例ゲインkpによるモータMG1のフィードバック制御によりエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるよう制御し、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲未満でトルク出力停止回転数Nref3より大きいときには通常の値k1が設定された比例ゲインkpによるモータMG1のフィードバック制御によりエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるよう制御する、図4のエンジン回転数低下時制御を実行し、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3以下のときにはエンジン停止時調整制御を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70とトルク指令Tm1*を受信してモータMG1を駆動制御するモータECU40と「停止時制御手段」に相当する。
【0045】
ここで、「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG1に限定されるものではなく、誘導電動機など、動力を入出力可能なものであれば如何なるタイプの電動機であっても構わない。「二次電池」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など種々の二次電池を用いることができる。「停止時制御手段」としては、ハイブリッド用電子制御ユニット70とモータECU40とからなる組み合わせに限定されるものではなく単一の電子制御ユニットにより構成されるなどとしてもよい。また、「停止時制御手段」としては、エンジン22の回転数Neが動力分配統合機構30やモータMG1,MG2などからなる駆動系が共振する共振回転数帯を含む閾値Nref2以上で閾値Nref1未満の共振含有範囲より大きいときには通常の値k1が設定された比例ゲインkpによるモータMG1のフィードバック制御によりエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるよう制御し、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲内のときには通常の値k1より小さな値k2が設定された比例ゲインkpによるモータMG1のフィードバック制御によりエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるよう制御し、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲未満でトルク出力停止回転数Nref3より大きいときには通常の値k1が設定された比例ゲインkpによるモータMG1のフィードバック制御によりエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるよう制御する、エンジン回転数低下時制御を実行し、エンジン22の回転数Neがトルク出力停止回転数Nref3以下のときにはエンジン停止時調整制御を実行するものに限定されるものではなく、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲の下限値である閾値Nref2未満でトルク出力停止回転数Nref3以上のときには、エンジン22の回転数Neが共振含有範囲の上限値である閾値Nref1より大きいときに用いる通常の値k1とは異なる値k3を比例ゲインkpに設定するものとするなど、内燃機関の運転を停止するときには、内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の内燃機関のクランク角または経過時間に応じた内燃機関の目標回転数を設定し、内燃機関の回転数が所定回転数に至るまでは内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御する低下時回転数制御を実行し、内燃機関の回転数が所定回転数に至った以降は内燃機関が前記目標クランク角で停止するよう発電機を駆動制御する停止直前制御を実行し、低下時回転数制御として、内燃機関の回転数が電動機と機械的機構とを含む駆動系を共振させる共振回転数帯を含む所定回転数範囲より大きいときには第1のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御し、内燃機関の回転数が所定回転数範囲内となるときには第1のゲインより小さな第2のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御し、内燃機関の回転数が所定回転数範囲より小さく且つ所定回転数以上のときには第2のゲインより大きな第3のゲインを用いて内燃機関の回転数が目標回転数となるよう発電機を制御するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0046】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、自動車の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
20,120 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、24a CPU、24b ROM、24c RAM、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、64a,64b 車輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、136,スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、前記内燃機関の運転を停止するときには、前記内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の前記内燃機関のクランク角または経過時間に応じた前記内燃機関の目標回転数を設定し、前記内燃機関の回転数が所定回転数に至るまでは前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記発電機を制御する低下時回転数制御を実行し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数に至った以降は前記内燃機関が前記目標クランク角で停止するよう前記発電機を駆動制御する停止直前制御を実行する停止時制御手段と、を備える自動車であって、
前記停止時制御手段は、前記低下時回転数制御として、前記内燃機関の回転数が前記電動機と前記機械的機構とを含む駆動系を共振させる共振回転数帯を含む所定回転数範囲より大きいときには第1のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲内となるときには前記第1のゲインより小さな第2のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲より小さく且つ前記所定回転数以上のときには前記第2のゲインより大きな第3のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御する手段である、
ことを特徴とする自動車。
【請求項2】
請求項1記載の自動車であって、
前記停止時制御手段は、前記低下時回転数制御として、前記検出された回転数と前記目標回転数との差を打ち消すために比例項と積分項とを用いて前記電動機のトルクを設定する回転数フィードバック制御を実行し、
前記第1のゲインと前記第2のゲインと前記第3のゲインは、比例項のゲインである、
自動車。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動車であって、
前記第1の比例ゲインと前記第3の比例ゲインは同一である、
自動車。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の自動車であって、
前記機械的機構は、車軸に連結された駆動軸と前記内燃機関の出力軸と前記電動機の回転軸とに3つの回転要素を各々接続した遊星歯車機構である、
自動車。
【請求項5】
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を搭載する自動車において、前記内燃機関の運転を停止するときには、前記内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の前記内燃機関のクランク角または経過時間に応じた前記内燃機関の目標回転数を設定し、前記内燃機関の回転数が所定回転数に至るまでは前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記発電機を制御する低下時回転数制御を実行し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数に至った以降は前記内燃機関が前記目標クランク角で停止するよう前記発電機を駆動制御する停止直前制御を実行する前記内燃機関の運転停止時の制御方法であって、
前記低下時回転数制御として、前記内燃機関の回転数が前記電動機と前記機械的機構とを含む駆動系を共振させる共振回転数帯を含む所定回転数範囲より大きいときには第1のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲内となるときには前記第1のゲインより小さな第2のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数範囲より小さく且つ前記所定回転数以上のときには前記第2のゲインより大きな第3のゲインを用いて前記内燃機関の回転数が前記目標回転数となるよう前記発電機を制御する、
ことを特徴とする内燃機関の運転停止時の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−219019(P2011−219019A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92148(P2010−92148)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】