説明

蒸着マスクおよびそれを用いた薄膜パターン形成方法

【課題】基材表面の選択的領域に気相から堆積層を形成するための蒸着マスクを用いる薄膜パターン形成工程において、薄膜パターンの位置ズレやパターンエッヂのボケがなく、基材表面へのキズ等の欠陥を与えることのない蒸着マスクおよびそれを用いた薄膜パターン形成方法を提供すること。
【解決手段】非堆積領域とすべき部分を被覆して基材表面と密着させる材料が可撓性フィルム111からなる可撓性貼付フィルム110を用いた蒸着マスク11を使用し、可撓性貼付フィルムを基材10の成膜側全表面に密着させた後、所望の堆積層13を形成すべき領域を覆う可撓性貼付フィルムを選択的に除去し、しかる後に堆積層を形成する成膜工程を実施し、最後に基材表面上に残された可撓性貼付フィルムを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法等の薄膜製造法において、膜形成と同時にパターン形成を行うための蒸着マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等のフラットパネルディスプレイの多色表示に用いられるカラーフィルタ(以下、CFと略称)の一般的な製造工程は、ガラス等の透明基板上にブラックマトリクス(以下、BMと略称)をパターン形成した後、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の3原色等の各色の着色透明画素をBM間に規則的な繰り返しで平面配置したCF主要部の上面に透明な対向電極としてのITO(インジウム錫酸化物)からなる透明導電薄膜をスパッタリング法等により成膜して行う。上記ITO膜は、CFの画素領域以外の領域には原則的に不要であるとともに、後のパネル製造工程における不具合発生を防ぐためにも、非画素領域にITO膜を付けないように、従来より真空蒸着法で用いられてきた蒸着マスクと同様に、膜形成と同時にパターン形成を行うためのマスキング手段によって、基板表面の選択的領域に気相から堆積層を形成する。
【0003】
CF製造工程の対向電極を上述のように蒸着マスクを用いたITOのスパッタリング法により形成する例は、特に、LCDの液晶表示方式がTNタイプに代表される縦電界表示で、画素駆動方式がTFT(薄膜トランジスタ)に代表されるアクティブマトリクス駆動の場合に多い。図2の(a)に示すように、厚さ約0.5mmのSUS材や42アロイ材を初めとする強磁性を有する金属板に、成膜したい領域のみをマスク開口部22として加工した枠状の蒸着マスク(メタルマスク)21を、CF基板表面側となる基材20の片側に配置し、基材の背面からマグネットを内包するマグネットホルダー29で密着固定した後に、マスク開口部22側にITOのスパッタリング成膜を行う。成膜後、上記のメタルマスク21と基材20とマグネットホルダー29の3枚の合体を解除することにより、所望の画素領域のみにITOの堆積層を形成したCF基板を得ることができる。
【0004】
上記メタルマスクは、非画素領域、即ち画素面より外側のブラックマトリクス材料で形成される額縁部や多面付けされるCFピース間の断裁領域、を覆い隠す形状に形成されており、窓枠状の形状が多い。CFピースの多面付けは、製造コスト削減のために近年益々進み、特に携帯端末用途の小型パネル用の製品では、大型基板に多面付けするCFピースの数をさらに増加する傾向がある。一枚当たりのCFピース数を増やすために、CFマスター基板のサイズを大型化するだけでなく、ピース間を分ける断裁領域の幅を狭くする方向も進んでおり、前記メタルマスクの枠幅も近年では非常に細くなってきている。
【0005】
図2(a)に示した従来の蒸着マスク(メタルマスク)による基材表面の被覆状態で成膜した場合、いくつかの問題点がある。一つは、メタルマスク21と基材20とマグネットホルダー29の3枚のプレートを合体させる際に、メタルマスクが基材の正しい位置からずれることが生じ易い。ハンドリングを自動化して、合わせの精度を高める改善がなされてきたが、なお、0.3〜0.6mmの誤差が生じ易い。
【0006】
また、メタルマスク装着時の力のかかり方によっては、一部の箇所で密着不良による浮きが生じることがある。図2(b)は、蒸着マスク(メタルマスク)の開口部に堆積層を形成した状態の一例を示す断面図である。図のようなメタルマスク21の浮きが生じると、堆積層23の断面形状がなだらかになって、得られるITO膜のパターン形状が不鮮明となるエッヂのボケが、大きい場合には1mm程度の幅で発生する。特に、メタルマスクの枠幅が狭い部分では、隣接する開口部に対応するITOパターンとの境界領域が消失することさえ生じる。
【0007】
さらに、メタルマスク装着時に、基材表面上に既にブラックマトリクス材料により形成済みの額縁部や合わせマーク等の各種マーク類に対して、メタルマスクの一部が擦れることにより、これらのパターンのキズ、剥がれ、等の欠損や新たな汚れを引き起こすこともある。
【0008】
上記の擦れによる問題の改善のために、特許文献1に示すように、メタルマスクの開口部の端部にハーフエッチングにより段差を付け、ブラックマトリクス材料により形成済みのパターンに接触しないようにすることが提案された。しかし、図2(c)に示す断面図のように、0.2mm程度の深さにハーフエッチングした蒸着マスク(メタルマスク)31の開口部に堆積層を形成した状態の例で、堆積層33の断面形状がなだらかになって、得られるITO膜のパターン形状が不鮮明となるエッヂのボケが発生する。
【0009】
さらに、特許文献1には、メタルマスクの作製時に用いるフォトレジストをそのまま残し、メタルマスクの硬い表面がブラックマトリクス材料により形成済みのパターンに直接接触することを防ぐことにより、上記の擦れによる問題を回避することが提案された。その後も、メタルマスクの表面を樹脂でコーティングする手法が各種提案されているが、これらの改善によっても、エッヂのボケやキズの防止に対して不完全である上、コーティングされた樹脂の剥がれによる成膜時のパーティクル発生に伴って、膜のピンホール欠陥が新たに増加する等の問題が発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−39289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、基材表面の選択的領域に気相から堆積層を形成するための蒸着マスクを用いる薄膜パターン形成工程において、薄膜パターンの位置ズレやパターンエッヂのボケがなく、基材表面へのキズ等の欠陥を与えることのない蒸着マスクおよびそれを用いた薄膜パターン形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、基材表面の選択的領域に気相から堆積層を形成するための蒸着マスクであって、非堆積領域とすべき部分を被覆して基材表面と密着させる材料が可撓性フィルムからなる可撓性貼付フィルムを用いることを特徴とする蒸着マスクである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、前記可撓性フィルムが、厚さ0.01〜0.1mmのプラスチックフィルムからなることを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスクである。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記プラスチックフィルムが、ポリイミドを素材とすることを特徴とする請求項2に記載の蒸着マスクである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、前記可撓性貼付フィルムを基材表面と密着させる側に粘着層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蒸着マスクである。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、前記粘着層が、シリコーン系粘着剤を用いることを特
徴とする請求項4に記載の蒸着マスクである。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の蒸着マスクに用いる可撓性貼付フィルムを基材の成膜側全表面に密着させた後、所望の堆積層を形成すべき領域を覆う可撓性貼付フィルムを選択的に除去し、しかる後に堆積層を形成する成膜工程を実施し、最後に基材表面上に残された可撓性貼付フィルムを除去することを特徴とする薄膜パターン形成方法である。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、蒸着マスクに用いる可撓性貼付フィルムを基材の成膜側全表面に密着させる方法として、静電気力によることを特徴とする請求項6に記載の薄膜パターン形成方法である。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、前記所望の堆積層を形成すべき領域を覆う可撓性貼付フィルムを選択的に除去する方法として、該当領域の周縁部をレーザ光または電子線により切断した後に該当領域全体を機械的に剥離して除去することを特徴とする請求項6または7に記載の薄膜パターン形成方法である。
【0020】
また、請求項9に記載の発明は、前記所望の堆積層が液晶表示装置用対向透明電極としてのITO(インジウム錫酸化物)薄膜であり、前記成膜工程がスパッタリング法であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の薄膜パターン形成方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、非堆積領域とすべき部分を被覆して基材表面と密着させる材料として可撓性フィルムからなる可撓性貼付フィルムを用いた蒸着マスクを使用することにより、薄膜パターン形成工程において、薄膜パターンの位置ズレやパターンエッヂのボケがなく、基材表面へのキズ等の欠陥を与えることのない蒸着マスクおよびそれを用いた薄膜パターン形成方法を提供できる。特に、請求項9によれば、液晶表示装置用CF上の対向透明電極としてのITO薄膜パターンをスパッタリング法で良好に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の蒸着マスクにより薄膜パターンを形成する場合の主要部の一例を説明するための模式図であって、(a)は、蒸着マスクによる基材表面の被覆状態を示す斜視図、(b)は、蒸着マスクの開口部に堆積層を形成した状態を示す断面図である。
【図2】従来の蒸着マスクにより薄膜パターンを形成する場合の主要部の例を説明するための模式図であって、(a)は、蒸着マスクによる基材表面の被覆状態を示す斜視図、(b)は、蒸着マスクの開口部に堆積層を形成した状態の一例を示す断面図であり、(c)は、蒸着マスクの開口部に堆積層を形成した状態の他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の蒸着マスクとすべき材料を収納状態から使用状態に移行した状況を説明するための斜視模式図であって、(a)は材料の巻き出し状態を示し、(b)は材料の貼り付け状態を示す。
【図4】本発明の蒸着マスクを形成するための裁断加工工程を説明するための斜視模式図であって、(a)は裁断線形成工程、(b)は裁断線に沿って選択的にフィルムを剥離する工程、(c)は基材上に蒸着マスクが準備された状態を示す。
【図5】本発明の蒸着マスクにより薄膜パターンを形成する工程の一例を、カラーフィルタの対向透明電極形成のための工程順に(a)〜(f)で示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に従って、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の蒸着マスクにより薄膜パターンを形成する場合の主要部の一例を説明
するための模式図であって、(a)は、蒸着マスクによる基材表面の被覆状態を示す斜視図、(b)は、蒸着マスクの開口部に堆積層を形成した状態を示す断面図である。
本発明の蒸着マスク11は、基材表面の選択的領域にマスク開口部12を有し、気相から堆積層13を形成するための蒸着マスクであって、非堆積領域とすべき部分を被覆して基材10の表面と密着させる材料が可撓性フィルム111からなる可撓性貼付フィルム110であることを特徴とする。
【0025】
前記可撓性フィルム111としては、厚さ0.01〜0.1mmのプラスチックフィルムが適している。後述のロールに巻き付けたフィルム状態での保管および運搬がし易く、蒸着マスクとして平面状の基材表面に貼付する際にも、処理が容易な厚さである。
【0026】
また、前記プラスチックフィルムの具体的な素材としては、ポリイミド等の耐熱性に優れ、熱収縮率が小さく、弾性率が高くて歪み難い材料が特に好ましい。成膜工程で一定の加熱処理を行う場合は勿論、成膜工程で加熱処理を行わない場合であっても、真空チャンバー内での脱ガスや吸着水分の脱離等の影響を及ぼし難い上、基材表面への貼り付け時やマスク開口部形成のための加工時の変形を抑制できるからである。
【0027】
また、前記可撓性貼付フィルム110を基材表面と密着させる側に粘着層112を有することにより、基材表面に可撓性貼付フィルムを容易に貼り付けることができる。可撓性貼付フィルム110は、上記のように、可撓性フィルム111の片面に粘着層112を形成したものでも良いが、後述のように、貼り付け直前の工程で静電気の帯電処理を可撓性フィルム111に施したものでも良く、限定されない。
【0028】
可撓性貼付フィルム110に粘着層112を用いる場合には、可撓性フィルム111と基材10の表面状態に応じて、また真空中の成膜工程を含めた前後工程の使用処理条件に応じて、粘着性と剥離性のバランスを考慮して最適な粘着剤を設計、選択することができる。特に、シリコーンゴムからなるエラストマーにシリコーン樹脂を粘着付与剤として加えたシリコーン系粘着剤を粘着層112として予め可撓性フィルム111に均一に塗布しておくことにより、真空中でも安定して使用でき、適用温度範囲が比較的広く、適度な粘着性を有する可撓性貼付フィルム110を得ることができる。
【0029】
次に、本発明の蒸着マスクを用いて薄膜パターンを形成する具体的な方法について説明する。特に図5では、液晶表示装置用CF上の対向透明電極としてのITO薄膜パターンをスパッタリング法で作製する例を中心に説明するが、必ずしも限定されない。
【0030】
図3は、本発明の蒸着マスクとすべき材料を収納状態から使用状態に移行した状況を説明するための斜視模式図であって、(a)は材料の巻き出し状態を示し、(b)は材料の貼り付け状態を示す。ロール巻き芯115に巻き取られたロール状態の蒸着マスク材料114は、前述の可撓性貼付フィルム110の元の保管状態を表しており、ロールの回転や張力制御等の適当なウェブ操作手段により、巻き出し状態の蒸着マスク材料113を引き出す。次に、この材料を必要長さだけ引き出して、基材10の表面にフィルム貼り付け用ロール116等を利用して均一に貼付するとともに、貼付部分の端部を裁断することによって、可撓性貼付フィルム110が基材10の成膜側全表面に密着した状態の個体を得る。
【0031】
可撓性貼付フィルム110を基材10の成膜側全表面に密着させる方法として、上述の粘着層112による粘着性に頼る以外に、可撓性貼付フィルム110を構成する可撓性フィルム111自身に貼り付け直前の工程で帯電処理を施し、静電気力による貼り付けを行うこともできる。帯電処理としては、摩擦を利用した方法や各種放電処理により基材の表面改質を伴う方法などが可能であるが、異物等の集塵の悪影響を避けるための工夫が個々に必要である。なお、本手段は、表面の電気絶縁性の高いプラスチックフィルム等への適用に限定するものであり、可撓性フィルム111が導電性を有する金属等を素材に有する場合にはあてはまらないことは言うまでもない。
【0032】
図4は、本発明の蒸着マスクを形成するための裁断加工工程を説明するための斜視模式図であって、(a)は裁断線形成工程、(b)は裁断線に沿って選択的にフィルムを剥離する工程、(c)は基材上に蒸着マスクが準備された状態を示す。
【0033】
裁断線を形成する方法として、ブレードを有する刃物で機械的にカッティングすることも可能であるが、工程の精密さと安定性のためには、レーザ光または電子線等による加工手段が有用である。例えば、図4(a)で、加工用のレーザ光源14からビーム状に絞った光を可撓性貼付フィルム110の裁断箇所15に精確に照射し、予定された裁断線16に沿って、照射点を移動させることにより、破線で示す裁断線の全周を加工することができる。またレーザ光等による加工であれば、照射のオン・オフやパルスによる加工強度の制御が容易となるので、基材上の額縁部等のCFパターン領域を照射点の下地として有する場合も、下地への影響を最低限に抑えることができる。
【0034】
なお、前記予定された裁断線16の内、完全には裁断されないが一定程度の切り込みを、予め可撓性貼付フィルム110に形成しておくことができる。フィルムの伸縮制御や基材への貼り付け精度を高めることができれば、本工程での裁断加工における工程負荷を減らすことができる方法となり、図3(a)で説明したロール状態の蒸着マスク材料を予め上記一定程度の切り込みを有する裁断パターンを設けて準備しておくことができる。
【0035】
裁断線の全周を加工後に、裁断線に沿って選択的にマスク開口用剥離フィルム121を剥離する工程が(b)であり、剥離方法としては、裁断エッヂの一部を機械的に引き起こし、その箇所を起点にして一続きの領域全体を引き剥がす方法や、マスク開口用剥離フィルム121の背面に引き剥がしジグとの接着点を設けてその部分を引く方法があるが、いづれにしても、基材との粘着力を上回る引っ張り力を与えることにより可能である。剥離時の基材との粘着力を適度に弱くすることは、粘着剤の材料設計に織り込んでおくか、特別の温度や振動等の条件を剥離時に当該箇所に与えてアシストするか、粘着剤を使わずに静電気力で貼り付けられる可撓性貼付フィルム110の場合であれば、選択的除電を加えることにより可能とする。
【0036】
上記の工程の結果、所望の堆積層を形成すべき領域を覆う可撓性貼付フィルムを選択的に除去することができ、図4(c)に示すように、基材10上にマスク開口部12を有する蒸着マスク11が準備され、堆積層を形成する成膜工程への移行が可能となる。
【0037】
図5は、本発明の蒸着マスクにより薄膜パターンを形成する工程の一例を、カラーフィルタの対向透明電極形成のための工程順に(a)〜(f)で示した断面模式図である。特に、可撓性貼付フィルム110が可撓性フィルム111に粘着層112を塗布形成したタイプの例について、さらに詳細に説明する。
【0038】
図5(a)は、基材10上に形成済みのCF基板、即ち、ブラックマトリクス5、額縁部51、着色画素6、7、8の全体を可撓性貼付フィルム110で貼り付けた状態を示す。ここで、ブラックマトリクス5および額縁部51は、黒色顔料を含む感光性樹脂により形成されており、着色画素6、7、8は、それぞれ赤色、緑色、青色の透明着色顔料を含む感光性樹脂により繰り返し配列された画素パターンである。また、可撓性貼付フィルム110として、シリコーン系粘着剤を数μmの厚さに塗布した数十μm厚さのテフロン(登録商標)(物質名:ポリテトラフルオロエチレン)フィルムを使用できる。
【0039】
(b)は、図4で説明したとおり、加工用のレーザ光源14からビーム状に絞った光を可撓性貼付フィルム110の裁断箇所15に位置と強度とを精確に照射して、可撓性貼付フィルム110を貫くものの額縁部51の上面へのダメージは最小とするようにマスク開口部とすべき領域の外周を加工する。
【0040】
次いで、(c)に示すように、外周を加工されて孤立状態となったマスク開口部とすべき領域のCF上にある部分の可撓性貼付フィルムに相当するマスク開口用剥離フィルム121を剥離する。図では、マスク開口用剥離フィルム121の全体を平板状のまま一気にブロック矢印で示す方向に剥がすように表しているが、(b)で加工した裁断箇所をきっかけとして略180度の向きに可撓性フィルム111と粘着層112とを一体とした可撓性貼付フィルム110の一定領域をCF基板側からむしりとる方法でもよい。
【0041】
次に、(d)に示す成膜工程を実施する。成膜装置として搬送成膜方式のマグネトロンスパッタ装置を使用し、例えば、少量の酸素ガスをアルゴンガスに混入した0.35Paの雰囲気中でITOターゲットからのスパッタリングを行い、140nmの均一厚さの透明電極(ITO膜)9を成膜できる。
【0042】
最後に、(e)に示すように、基材表面上に残された可撓性貼付フィルム110をその上のITO膜とともにブロック矢印のようにCF基板から除去する。その結果、(f)に示すように、CF基板上の選択された正しい位置にのみ透明電極(ITO膜)9を、エッヂのボケもなく良好に形成することができる。
【0043】
なお、一般的に上記と同様の方法で、基材上の任意の場所に、本発明の蒸着マスクを用いて、良好な薄膜パターンを形成することができる。
【符号の説明】
【0044】
5・・・ブラックマトリクス
6、7、8・・・着色画素
9・・・透明電極(ITO膜)
10、20、30・・・基材
11・・・蒸着マスク
12、22・・・マスク開口部
13、23、33・・・堆積層
14・・・レーザ光源
15・・・裁断箇所
16・・・裁断線
21、31・・・蒸着マスク(メタルマスク)
29・・・マグネットホルダー
51・・・額縁部
110・・・可撓性貼付フィルム
111・・・可撓性フィルム
112・・・粘着層
113・・・蒸着マスク材料(巻き出し状態)
114・・・蒸着マスク材料(ロール状態)
115・・・ロール巻き芯
116・・・フィルム貼り付け用ロール
121・・・マスク開口用剥離フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の選択的領域に気相から堆積層を形成するための蒸着マスクであって、非堆積領域とすべき部分を被覆して基材表面と密着させる材料が可撓性フィルムからなる可撓性貼付フィルムであることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項2】
前記可撓性フィルムが、厚さ0.01〜0.1mmのプラスチックフィルムからなることを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスク。
【請求項3】
前記プラスチックフィルムが、ポリイミドを素材とすることを特徴とする請求項2に記載の蒸着マスク。
【請求項4】
前記可撓性貼付フィルムを基材表面と密着させる側に粘着層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蒸着マスク。
【請求項5】
前記粘着層が、シリコーン系粘着剤を用いることを特徴とする請求項4に記載の蒸着マスク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の蒸着マスクに用いる可撓性貼付フィルムを基材の成膜側全表面に密着させた後、所望の堆積層を形成すべき領域を覆う可撓性貼付フィルムを選択的に除去し、しかる後に堆積層を形成する成膜工程を実施し、最後に基材表面上に残された可撓性貼付フィルムを除去することを特徴とする薄膜パターン形成方法。
【請求項7】
蒸着マスクに用いる可撓性貼付フィルムを基材の成膜側全表面に密着させる方法として、静電気力によることを特徴とする請求項6に記載の薄膜パターン形成方法。
【請求項8】
前記所望の堆積層を形成すべき領域を覆う可撓性貼付フィルムを選択的に除去する方法として、該当領域の周縁部をレーザ光または電子線により切断した後に該当領域全体を機械的に剥離して除去することを特徴とする請求項6または7に記載の薄膜パターン形成方法。
【請求項9】
前記所望の堆積層が液晶表示装置用対向透明電極としてのITO(インジウム錫酸化物)薄膜であり、前記成膜工程がスパッタリング法であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の薄膜パターン形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−111985(P2012−111985A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259982(P2010−259982)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】