説明

誘電体磁器組成物及び磁器コンデンサとそれらの製造方法

【課題】 比誘電率10,000以上、焼結体の結晶粒径2μm以下、信頼性が高く、Y5V規格に規定する特性値を満足し、還元雰囲気中1250℃以下の低温で焼成可能な誘電体磁器組成物;磁器コンデンサ;製造方法を提供。
【解決手段】 主成分として、Ba、Ca、Ti、及びZrの酸化物が、副成分として、Re(ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素)、Mg、Mn、及びSiの酸化物が含有されている焼結体からなり、主成分が、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)O(mは1.00〜1.02、xは0.01〜0.10、yは0.07〜0.20)100mol部;副成分として、Re換算して0.3〜1.0mol部、Mg換算して0.05〜1.0mol部、Mn換算して0.1〜0.5mol部、Si換算して1.0〜2.0mol部含有する誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁器コンデンサの誘電体材料として好適な耐還元性を有する誘電体磁器組成物とその製造方法、及びこの誘電体磁器組成物を誘電体層とした磁器コンデンサとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の小型化、高密度化にともない、磁器コンデンサの小型大容量化が強く求められている。このような磁器コンデンサとしては、Ba、Ca、Ti、及びZrの酸化物を主成分とする、いわゆるBCTZ系セラミックに、PtやPdを電極として形成したセラミックコンデンサが知られている。しかしながら、PtやPdは極めて高価であり、コンデンサの価格を高騰させる。このため、比抵抗が小さく高融点で低価格という点から、Niなどの卑金属を内部電極に用いるようになってきている。
【0003】
しかしながら、Niは酸化性雰囲気中の高温焼成で酸化され、電極としての機能を消失したり、酸化物としてセラミック中に溶け込み、コンデンサの性能を劣化させるという問題があった。一方、Niの酸化を防止しようとして、焼成雰囲気の酸素分圧を下げたり、水素を含む雰囲気にすれば、セラミックが還元され、半導体化するという問題があった。そこで、還元性ないしは低酸素分圧の雰囲気中で焼成しても半導体化や絶縁抵抗の劣化が生じない、十分な耐還元性を有し、しかも誘電体として良好な特性を有するセラミックの開発および実用化が進められてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、比誘電率10,000以上の高誘電率系の誘電体磁器組成物として、金属元素として少なくともBa、Ca、TiおよびZrを含有し、これらの金属元素化合物の組成式を(Ba1−xCa)(Ti1−yZr)Oと表した時、前記x、yがそれぞれ0.01≦x≦0.10、0.10<y<0.26を満足する主成分と、該主成分100重量部に対して、酸化イットリウムをY換算で0.2〜1.0重量部、マンガン化合物をMnO換算で0.06〜0.6重量部、アルミナをAl換算で0.1〜1.0重量部、酸化ニッケルをNiO換算で0.1〜1.0重量部、更に(1−α)LiO−αSiO(0.3<α<0.7 モル比)を0.1〜1.0重量部含有してなることを特徴とする誘電体磁器組成物が提案されている。
【特許文献1】特開平10−139538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る誘電体磁器組成物にあっては、焼結体の結晶粒径は2μmを超えるものであり、これを用いて積層セラミック磁器コンデンサを製造する際には、信頼性を上げるために、誘電体層(セラミック層)厚みを5μm程度にする必要がある。しかし、この大きさの結晶粒径では、一層あたりに配列できる粒子数が少なくなり、信頼性が低下する問題があった。従来技術によれば、低温で焼結したとしても焼結体の結晶粒径はせいぜい3〜4μm留まりで、比誘電率を10,000以上に保ちながら焼結体の結晶粒径が2μm以下の薄膜化を達成するのは困難であった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、比誘電率が10,000以上、焼結体の結晶粒径が2μm以下であって、信頼性が高く、Y5V規格に規定する特性値を満足し、還元雰囲気中1250℃以下の低温で焼成可能な誘電体磁器組成物及び該誘電体磁器組成物を成形してなる磁器コンデンサとそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、主成分として、Ba、Ca、Ti、及びZrの酸化物が、副成分として、Re(ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素)、Mg、Mn、及びSiの酸化物が含有されている焼結体からなり、前記主成分が、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)O(ただし、mは1.00〜1.02、xは0.01〜0.10、yは0.07〜0.20)で表されるものであって、このもの100mol部に対して、前記副成分として、Reの酸化物を、Reに換算して0.3〜1.0mol部、Mgの酸化物を、Mgに換算して0.05〜1.0mol部、Mnの酸化物を、Mnに換算して0.1〜0.5mol部、Siの酸化物を、Siに換算して1.0〜2.0mol部の割合で含有することを特徴とする誘電体磁器組成物である。
【0008】
請求項2にかかる発明は、前記焼結体の結晶粒径が、2μm以下である請求項1に記載の誘電体磁器組成物である。
【0009】
請求項3にかかる発明は、主成分の原料として、比表面積が10〜50m/gのBa、Ca、Ti、及びZr化合物を混合して、平均粒子径1μm以下の仮焼結体を形成し、前記仮焼結体に、副成分の原料として、Re(ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素)、Mg、Mn、及びSi化合物を添加し、次いで、これを、1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法である。
【0010】
請求項4にかかる発明は、請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、該シートの両面に形成した電極とを備えたことを特徴とする磁器コンデンサである。
【0011】
請求項5にかかる発明は、請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、該シートの片面に形成した電極とを複数積層してなることを特徴とする磁器コンデンサである。
【0012】
請求項6にかかる発明は、前記電極が、Ni又はNiを主体とする合金からなる請求項4又は5に記載の磁器コンデンサである。
【0013】
請求項7にかかる発明は、請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物をグリーンシートとした後、該グリーンシートの両面に電極を形成し、次いで、これを1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成することを特徴とする磁器コンデンサの製造方法である。
【0014】
請求項8にかかる発明は、請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物をグリーンシートとした後、該グリーンシートの片面に電極を形成し、次いで、これを複数枚厚み方向に重ね合わせ、加圧して積層体とし、この積層体を1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成することを特徴とする磁器コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、比誘電率が10,000以上、焼結体の結晶粒径が2μm以下であって、信頼性が高く、Y5V規格に規定する特性値を満足し、還元雰囲気中1250℃以下の低温で焼成することのできる誘電体磁器組成物及び該誘電体磁器組成物を成形してなる磁器コンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[誘電体磁器組成物]
本発明の誘電体磁器組成物は、主成分として、Ba、Ca、Ti、及びZrの酸化物が、副成分として、Re(ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素)、Mg、Mn、及びSiの酸化物が含有されている焼結体からなり、前記主成分が、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)O(ただし、mは1.00〜1.02、xは0.01〜0.10、yは0.07〜0.20)で表されるものであって、このもの100mol部に対して、前記副成分として、Reの酸化物を、Reに換算して0.3〜1.0mol部、Mgの酸化物を、Mgに換算して0.05〜1.0mol部、Mnの酸化物を、Mnに換算して0.1〜0.5mol部、Siの酸化物を、Siに換算して1.0〜2.0mol部の割合で含有するものである。
【0017】
本発明における主成分は、Ba、Ca、Ti、及びZrの酸化物である。これは、ペロブスカイト型結晶構造のBaTiO(またはBaO・TiO)の組成式において、Baの一部をCaに置換し、Tiの一部をZrに置換してなる、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)Oで表されるものである。ここで、mは1.00〜1.02、xは0.01〜0.10、yは0.07〜0.20である。
mが1.00〜1.02の範囲内にあると、焼結体の結晶粒径を2μm以下にすることができ、かつ焼結性を向上させ、緻密な焼結体を作製することができる。また、xが0.01〜0.10の範囲内にあると、誘電体磁器組成物の比誘電率を10,000以上とすることができ、かつ焼結体の結晶粒径を2μm以下にすることができる。また、yが0.07〜0.20範囲内にあると、誘電体磁器組成物の比誘電率を10,000以上とすることができる。
【0018】
本発明における副成分は、Re、Mg、Mn、及びSiの酸化物である。ここで、ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素である。本発明の誘電体磁器組成物は、主成分100mol部に対して、Reの酸化物を、Reに換算して0.3〜1.0mol部含有する。Reの酸化物を添加することにより、誘電体磁器組成物の比誘電率を向上させ、結晶粒の成長を抑制することができる。また、Reの含有量が0.3〜1.0mol部の範囲内にあると、誘電体磁器組成物の比誘電率を10,000以上とすることができ、かつ焼結体の結晶粒径を2μm以下にすることができる。
【0019】
さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、主成分100mol部に対して、Mgの酸化物を、Mgに換算して0.05〜1.0mol部含有する。Mgの酸化物を添加することにより、結晶粒の成長を抑制することができる。また、Mgの含有量が0.05〜1.0mol部の範囲内にあると、焼結体の結晶粒径を2μm以下にすることができる。
【0020】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、主成分100mol部に対して、Mnの酸化物を、Mnに換算して0.1〜0.5mol部含有する。Mnの酸化物を添加することにより、半導体化するのを防ぎ、比抵抗を上げることができる。また、Mnの含有量が0.1〜0.5mol部の範囲内にあると、焼結性を向上させ、緻密な焼結体を作製することができ、かつ誘電体磁器組成物の比誘電率を10,000以上とすることができる。
【0021】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、主成分100mol部に対して、Siの酸化物を、Siに換算して1.0〜2.0mol部含有する。Siの酸化物を添加することにより、誘電体磁器組成物の焼成温度を低下することができる。また、Siの含有量が1.0〜2.0mol部の範囲内にあると、焼結性を向上させ、緻密な焼結体を作製することができ、かつ焼結体の結晶粒径を2μm以下にすることができる。
【0022】
この主成分と副成分を含有してなる焼結体は、その結晶粒径が2μm以下であることが好ましい。結晶粒径を2μm以下とすることにより、従来の結晶粒径が3〜4μmの誘電体磁器組成物と比べて積層化した際に一層当たりに配列できる粒子数が増加するため、絶縁抵抗が高くなり、信頼性を向上することができる。
【0023】
本発明の誘電体磁器組成物は、主成分の原料として、比表面積が10〜50m/gのBa、Ca、Ti、及びZr化合物を混合して、平均粒子径1μm以下の仮焼結体を形成し、前記仮焼結体に、副成分の原料として、Re(ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素)、Mg、Mn、及びSi化合物を添加し、次いで、これを、1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成して製造する。
【0024】
図1は、本発明の誘電体磁器組成物及び該誘電体磁器組成物を成形してなる磁器コンデンサの製造方法の一例を示す工程図である。
【0025】
具体的には、図1の工程(a)に示すように、主成分の原料である、比表面積が10〜50m/g、好ましくは20m/gのBa化合物、比表面積が10〜50m/g、好ましくは30m/gのCa化合物、比表面積が10〜50m/g、好ましくは10〜30m/gのTi化合物、及び比表面積が10〜50m/g、好ましくは30m/gのZr化合物を、各々秤量する。Ba、Ca、Ti、及びZrの化合物としては、酸化物、炭酸化物、水酸化物が挙げられるが、そのなかでも、BaCO、CaCO、TiO、ZrOが好ましい。各原料を、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)Oのmが1.00〜1.02、xが0.01〜0.10、yが0.07〜0.20の範囲内となるように計算して秤量し、調合する。上記比表面積の原料を用いることにより、後述する仮焼結体の平均粒子径を1μm以下、好ましくは0.2μm以下とすることができる。
【0026】
次いで、これら主成分の原料をボールミルに入れ、水を加え湿式で約20時間混合・粉砕を行い、スラリーとする(工程(b))。
【0027】
得られたスラリーを脱水・乾燥し(工程(c))、1000〜1200℃、好ましくは1100℃にて2時間仮焼する(工程(d))。その後、これを粉砕・整粒して、比表面積が2〜10m/g、平均粒子径1μm以下、好ましくは0.2μm以下の仮焼結体を形成する(工程(e))。仮焼結体の平均粒子径を1μm以下とすることにより、最終的な誘電体磁器組成物の結晶粒径を2μm以下にすることができる。
【0028】
次いで、副成分の原料である、Re化合物、Mg化合物、Mn化合物、及びSi化合物を、Reに換算して0.3〜1.0mol部、Mgに換算して0.05〜1.0mol部、Mnに換算して0.1〜0.5mol部、Siに換算して1.0〜2.0mol部の範囲内になるように計算して秤量し調合する(工程(f))。Re、Mg、Mn、及びSiの化合物としては、酸化物、炭酸化物、水酸化物が挙げられるが、そのなかでも、Re、MgO、Mn、SiOが好ましい。上記化合物を主成分原料及び副成分原料とすることにより、低温で還元雰囲気中で焼成することができる。
【0029】
仮焼結体に、これら副成分原料を添加し、水を加え湿式で約20時間混合・粉砕を行い、スラリーとする(工程(g))。このスラリーを脱水し、120℃で6時間加熱し、乾燥させる。
【0030】
次いで、これに、トルエン−エタノール混合溶剤、ポリビニルブチラール系バインダ、及び可塑剤を加えて、適度な粘度になるまで混合する。この混合物を1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成し、本発明における誘電体磁器組成物を製造する。焼成温度は1150〜1250℃、好ましくは1170〜1220℃である。上記温度範囲のような低温で焼成することにより、焼結体中の結晶粒の成長を抑制でき、最終的な誘電体磁器組成物の結晶粒径を2μm以下とすることができる。また、焼成する還元雰囲気は、窒素ガス95.99〜99.94体積%、水素ガス0.05〜4体積%、水0.01〜0.05体積%であるのが好ましい。焼成を還元雰囲気下で行うことにより、Niのような卑金属電極と共に焼成しても、電極の酸化を防止することができる。
【0031】
本発明の製造方法によれば、まず主成分原料からなる平均粒子径1μm以下の仮焼結体を形成し、これに、副成分原料を添加して1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成することにより、比誘電率が10,000以上、焼結体の結晶粒径が2μm以下であって、信頼性が高く、Y5V規格に規定する特性値を満足する誘電体磁器組成物が得られる。ここで、Y5V規格に規定する特性値とは、−30℃から85℃の範囲で、25℃を基準にした容量変化率(TCC:Temperature Coefficient of Capacitance)が、−82〜+22%の範囲であることをいう。
【0032】
[磁器コンデンサ]
本発明の磁器コンデンサは、上記誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、該シートの両面に形成した電極とから概略構成されている。図2は、本発明に係る磁器コンデンサ(セラミックコンデンサ)Aの一実施形態を示す構成図であり、単層型の磁器コンデンサに適用した一例である。図2において、本実施形態の磁器コンデンサAは、符号1で示す本発明に係る誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、このシート1の両面に形成された端子電極2と、各端子電極2の外面側に接続されたリード端子3と、シート1及び端子電極2の全体とリード端子3の一部を封止するエポキシ樹脂からなる封止材4とから構成されている。
【0033】
端子電極2としては、Cu、Ni、W、Mo等の金属若しくはこれらの合金、In−Ga、Ag、Ag−10Pd合金等、または、カーボン、グラファイト、カーボンとグラファイトの混合物等を用いることができる。そのなかでも、誘電体磁器組成物の焼成温度を1150〜1250℃とする観点から、Ni又はNiを主体とする合金が好ましい。この端子電極2は、上記材料からなる粉末に、有機バインダ、分散剤、有機溶剤、必要に応じて還元剤等を所定量加えた後に混練し、所定の粘度とした導電ペーストを、所定のパターンに印刷して、還元雰囲気中で、焼成して形成することができる。
【0034】
この磁器コンデンサAは、本発明に係る誘電体磁器組成物をグリーンシートとした後、該グリーンシートの両面に電極を形成し、次いで、これを1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成して製造する。最後にリード端子3の先端部を除く部分をエポキシ樹脂等の封止材4で封止する。
【0035】
また、本発明の磁器コンデンサは、上記誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、該シートの片面に形成した電極とを複数積層してなるものである。図3は、本発明に係る磁器コンデンサBの一実施形態を示す断面図であり、積層型の磁器コンデンサに適用した一例である。
図3において、本実施形態の磁器コンデンサBは、符号11,11・・・で示す本発明に係る誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、このシート11,11・・・の片面に形成した薄厚の内部電極12,12・・・と、内部電極12,12・・・と垂直方向のシート11端面に設けられた端子電極13,14とから概略構成されている。
【0036】
内部電極12,12・・・及び端子電極13,14は、磁器コンデンサAの実施形態と同様の電極材料を使用して形成することができる。そのなかでも、内部電極12,12・・・にNi又はNiを主体とする合金を、端子電極13,14にCuを用いるのが好ましい。磁器コンデンサAの実施形態と異なる点は、電極を有するシートが1枚ではなく、複数枚積層して構成された点である。
【0037】
この磁器コンデンサBは、本発明に係る誘電体磁器組成物をグリーンシートとした後、該グリーンシートの片面に電極を形成し、次いで、これを複数枚厚み方向に重ね合わせ、加圧して積層体とし、この積層体を1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成して製造する。図1に示した本発明の誘電体磁器組成物及び該誘電体磁器組成物を成形してなる磁器コンデンサの製造方法の一例を示す工程図を用いて、具体的に説明する。
【0038】
本発明の誘電体磁器組成物を製造するまでの工程(a)〜(g)と同様にして、スラリーを製造する。このスラリーを脱水し、120℃で6時間加熱し、乾燥して粉体とする。
【0039】
次いで、この粉体に、トルエン−エタノール混合溶剤、ポリビニルブチラール系バインダ、及び可塑剤を加えて、適度な粘度になるまで混合し、ドクターブレード法により焼成後の厚さが2〜7μmとなるようにグリーンシートを成形する(工程(h))。
【0040】
このグリーンシートの片面に、内部電極12を印刷する(工程(i))。次いで、これを複数枚厚み方向に重ね合わせ、加圧して積層体とする(工程(j))。
【0041】
この積層体を空気中で加熱して有機バインダを除去する(工程(k))。次いで、1150〜1250℃の還元雰囲気で2時間焼成した後、窒素ガス雰囲気中で1000℃で1時間再酸化処理する(工程(l))。内部電極12,12・・・と垂直方向の積層体の端面に、端子電極13,14としてCu、Ag等を塗布し、磁器コンデンサを製造する(工程(m))。
【0042】
本発明の磁器コンデンサは、焼結体の結晶粒径が2μm以下であるため、誘電体磁器組成物を成形してなる焼成後のシートの厚さを2〜5μmと薄くすることができる。また、焼結体の結晶粒径が2μm以下であるため、一層あたりに配列できる粒子数が多く、信頼性が向上し、比誘電率が10,000以上、Y5V規格に規定する特性値を満足した磁器コンデンサが得られる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0044】
まず、主成分の原料として、比表面積が20m/gのBaCO、30m/gのCaCO、10〜30m/gのTiO、30m/gのZrOをそれぞれ秤量した。各原料は、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)Oのm、x、yが表1の値となるように計算して秤量した。
次に、これら主成分の原料をボールミルに入れ、水を加え湿式で約20時間混合・粉砕し、スラリーとした。このスラリーを脱水・乾燥し、1100℃にて2時間仮焼した後、粉砕して、仮焼結体の平均粒子径が1μm以下となるように整粒した。
【0045】
次いで、この仮焼結体に、Re、MgO、Mn、SiOの粉末を、表1に示すmol部になるように各々秤量し、添加した。これらをボールミルに入れ、水を加え、湿式で約20時間混合してスラリーとした。このスラリーを脱水し、120℃で6時間加熱し、乾燥させ粉体とした。
次に、この粉体にトルエン−エタノール混合溶剤、ポリビニルブチラール系バインダ、及び可塑剤を加えて、適度な粘度になるまで混合し、ドクターブレード法により厚さ40〜50μmのグリーンシートを成形した。原料の組成割合を、表1に各々示す。
【0046】
【表1】

【0047】
このグリーンシートを30枚程度重ねた後、90℃の温度でホットプレスして一辺が10mm、厚さ約1.4mmの角板状に加工した。これを空気中にて加熱して有機バインダを除去した後、1200℃の還元雰囲気で2時間焼成した後、窒素ガス雰囲気中で1000℃で1時間再酸化処理し、誘電体磁器組成物を得た。次に、この誘電体磁器組成物の表裏面に一般的なCuに代えて、焼付け不要のIn−Gaを塗布して端子電極を形成し、磁器コンデンサを製造した。
【0048】
この磁器コンデンサについて、以下のように評価した。
【0049】
(1)比誘電率ε
温度25℃、1kHz、1Vrmsの条件で、静電インピーダンスアナライザーを用いて容量を測定し、この測定によって得られた容量、誘電体磁器組成物の厚み、電極面積とから比誘電率εを算出した。
【0050】
(2)容量変化率(TCC%)
容量変化率(%)は、磁器コンデンサを恒温槽に入れ、−30℃から85℃まで温度変化させた時の容量を測定し、25℃の静電容量に対する静電容量変化率を求めた。
【0051】
(3)誘電損失(dielectric dissipation factor)(D.F.%)tanδ
誘電損失tanδは、インピーダンスアナライザーを用い、25℃の条件下で測定した。
【0052】
(4)比抵抗ρ(Ω・cm)
150℃の条件下で、磁器コンデンサに直流100Vの電圧を20秒印加して絶縁抵抗を測定し、この絶縁抵抗、誘電体磁器組成物の厚み、電極面積とから比抵抗ρを算出した。
【0053】
(5)誘電体磁器組成物の結晶粒径(μm)
結晶粒径は、電極を形成する前の誘電体磁器組成物の表面を無作為に選び、これを走査型電子顕微鏡で5,000倍または10,000倍に拡大して写真撮影し、これらの写真から40個の結晶粒子をランダムに選んで切片法により大きさを測定して、その平均値を求めた。
【0054】
これらの評価結果を、表2に各々示す。なお、表1及び表2中、所望の特性が得られない試料番号には、*を付して表す。
【0055】
【表2】

【0056】
表1及び表2の結果から、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)Oのxの値が試料番号02に示すようにx=0.01の場合は所望の特性になるが、試料番号01に示すようにx=0.005の場合は、比誘電率εが10,000未満になることがわかった。また、xの値が試料番号06に示すようにx=0.10の場合には所望の特性になるが、試料番号07に示すようにx=0.12の場合は、結晶粒径2μmを超える粒子が形成され、かつ比誘電率εが10,000未満になることがわかった。したがって、xの値は0.01≦x≦0.10の範囲となる。
【0057】
また、yの値が試料番号09に示すようにy=0.07の場合は所望の特性になるが、試料番号08に示すようにy=0.05の場合は、比誘電率εが10,000未満になることがわかった。また、yの値が試料番号11に示すようにy=0.20の場合には所望の特性になるが、試料番号12に示すようにy=0.25の場合は比誘電率εが10,000未満になることがわかった。したがって、yの値は0.07≦y≦0.20の範囲となる。
【0058】
また、mの値が試料番号14に示すようにm=1.00の場合は所望の特性になるが、試料番号13に示すようにm=0.99の場合は、結晶粒径2μmを超える粒子が形成されることがわかった。また、試料番号15に示すようにm=1.02の場合には所望の特性になるが、試料番号16に示すようにm=1.03の場合には、焼結性が低下し、緻密な焼結体が得られないことがわかった。したがって、mの値は1.00≦m≦1.02の範囲となる。
【0059】
主成分に対するMgの含有量が、試料番号18に示すように0.05mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号17に示すように0の場合、結晶粒径2μmを超える粒子が形成され、かつ比誘電率εが10,000未満になることがわかった。また、試料番号24に示すように1.0mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号25に示すように1.2mol部の場合は、結晶粒径2μmを超える粒子が形成されることがわかった。したがって、Mgの含有量は、0.05〜1.0mol部の範囲となる。
【0060】
Siの含有量が、試料番号27に示すように1.0mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号26に示すように0.8mol部の場合、緻密な焼結体が得られないことがわかった。また、試料番号30に示すように2.0mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号31に示すように2.2mol部の場合は、結晶粒径2μmを超える粒子が形成されることがわかった。したがって、Siの含有量は、1.0〜2.0mol部の範囲となる。
【0061】
Mnの含有量が、試料番号42に示すように0.1mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号41に示すように0の場合、緻密な焼結体が得られないことがわかった。また、試料番号43に示すように0.5mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号44に示すように0.7mol部の場合は、比誘電率εが10,000未満になることがわかった。したがって、Mnの含有量は、0.1〜0.5mol部の範囲となる。
【0062】
また希土類元素(Dy)の含有量が、試料番号33に示すように0.3mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号32に示すように0.2mol部の場合、比誘電率εが10,000未満になることがわかった。また、試料番号35に示すように1.0mol部の場合は所望の特性になるが、試料番号36に示すように1.2mol部の場合は、結晶粒径2μmを超える粒子が形成され、かつ比誘電率εが10,000未満になることがわかった。したがって、Dyの含有量は、0.3〜1.0mol部の範囲となる。
【0063】
また、希土類元素として、試料番号37、38、39、40に示すように、Dyに代えてCe、Y、Ho、Ybを用いても所望の特性が得られることがわかった。
また、上記実施例では単層型の磁器コンデンサについて行ったが、積層型の磁器コンデンサにおいても同様の結果が得られた。
【0064】
以上の結果から、上記範囲を満足する誘電体磁器組成物及び磁器コンデンサは、比誘電率εが10,000以上、Y5V規格に規定する特性値を満足し、比抵抗ρが1012Ω・cm以上、結晶粒径が2μm以下であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の誘電体磁器組成物及び該誘電体磁器組成物を成形してなる磁器コンデンサの製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に係る磁器コンデンサ(セラミックコンデンサ)Aの一実施形態を示す構成図であり、単層型の磁器コンデンサに適用した一例である。
【図3】本発明に係る磁器コンデンサBの一実施形態を示す断面図であり、積層型の磁器コンデンサに適用した一例である。
【符号の説明】
【0066】
A、B 磁器コンデンサ
1、11 誘電体磁器組成物を成形してなるシート



【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、Ba、Ca、Ti、及びZrの酸化物が、
副成分として、Re(ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素)、Mg、Mn、及びSiの酸化物が含有されている焼結体からなり、
前記主成分が、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)O(ただし、mは1.00〜1.02、xは0.01〜0.10、yは0.07〜0.20)で表されるものであって、このもの100mol部に対して、
前記副成分として、Reの酸化物を、Reに換算して0.3〜1.0mol部、
Mgの酸化物を、Mgに換算して0.05〜1.0mol部、
Mnの酸化物を、Mnに換算して0.1〜0.5mol部、
Siの酸化物を、Siに換算して1.0〜2.0mol部の割合で含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記焼結体の結晶粒径が、2μm以下である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
主成分の原料として、比表面積が10〜50m/gのBa、Ca、Ti、及びZr化合物を混合して、平均粒子径1μm以下の仮焼結体を形成し、
前記仮焼結体に、副成分の原料として、Re(ReはY、Dy、Ho、Yb、及びCeからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素)、Mg、Mn、及びSi化合物を添加し、
次いで、これを、1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、該シートの両面に形成した電極とを備えたことを特徴とする磁器コンデンサ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物を成形してなるシートと、該シートの片面に形成した電極とを複数積層してなることを特徴とする磁器コンデンサ。
【請求項6】
前記電極が、Ni又はNiを主体とする合金からなる請求項4又は5に記載の磁器コンデンサ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物をグリーンシートとした後、
該グリーンシートの両面に電極を形成し、
次いで、これを1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成することを特徴とする磁器コンデンサの製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物をグリーンシートとした後、
該グリーンシートの片面に電極を形成し、
次いで、これを複数枚厚み方向に重ね合わせ、加圧して積層体とし、
この積層体を1150〜1250℃の温度で還元雰囲気で焼成することを特徴とする磁器コンデンサの製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−160531(P2006−160531A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349722(P2004−349722)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】