説明

走査型電子顕微鏡

【課題】
本発明は、半導体パターンやコンタクトホールの変形や側壁の傾斜のできばえを判定することができる走査型電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【解決手段】
半導体ウェーハ上に形成された回路パターンの画像をあらかじめ設定された条件で撮像する撮像手段、該撮像手段で撮像された画像と予め記憶された基準画像とを比較して撮像された画像の特徴量を算出する算出手段,該算出手段で算出された特徴量に基づいて、半導体ウェーハのできばえ評価を実行するコンピュータを備え、特徴量の算出は、2次電子画像,反射電子画像に関して独立に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ上に形成された回路パターンの画像をあらかじめ設定された条件で自動的に撮像し、撮像された画像と基準画像を使用して半導体パターンのできばえを数値化して算出する手段を備えた走査型電子顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造過程において、形成される半導体ウェーハ上のパターンが設計どおりに作られているかを検査する必要がある。このため、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy)にパターンの寸法を測定する機能を付加した測長SEMが開発され、パターン幅やコンタクトホールの径,ラフネス等の特徴量を画像信号に基づいて算出している。また、走査型電子顕微鏡で画像を観察するだけでなく、画像の特徴量をコンピュータにより判別する機能を付加したレビューSEMにより、パターンの断線やショート,スクラッチ,異物のような様々な欠陥の画像を自動的に撮像,分類することも行われている。また、レビューSEMを用いて半導体パターンのクリティカルな部分を定点観測し、撮像された画像を表示したり、特徴量を算出してパターンのできばえを定量化することも行われている。さらに、パターンの微細化が進むに伴い、パターンの側壁や、コンタクトホールの側壁といった3次元的形状まで含む、できばえの定量値を高速,正確かつ簡便に算出することが求められてきている。しかし、従来技術においては、ウェーハの鉛直方向からの2次電子画像のみを使用して画像特徴量を算出するため、パターンの側壁や、コンタクトホールの側壁といった3次元的情報は画像化するのが困難であり、例え画像化できても、できばえの定量値を求めることはできなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2004−247394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、半導体パターンやコンタクトホールの変形や側壁の傾斜のできばえを判定することができる走査型電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施態様によれば、半導体ウェーハ上に形成された回路パターンの画像をあらかじめ設定された条件で撮像する撮像手段、該撮像手段で撮像された画像と予め記憶された基準画像とを比較して撮像された画像の特徴量を算出する算出手段、該算出手段で算出された特徴量に基づいて、半導体ウェーハのできばえ評価を実行するコンピュータを備え、特徴量の算出は、2次電子画像,反射電子画像に関して独立に行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、半導体パターンやコンタクトホールの変形や側壁の傾斜のできばえを正確かつ容易に判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を用いて、本発明の実施態様を説明する。図1は、走査型電子顕微鏡の概略構成を示す縦断面図である。走査型電子顕微鏡100の筐体101の内部にウェーハ102を移動するためのテーブル103を有する。電子線源118から照射された電子線104は偏向器105でウェーハ102上を2次元的に走査する。電子線104のフォーカスは電子レンズ106により調整される。
【0008】
ウェーハ上を電子線走査することにより、ウェーハから2次電子107および反射電子108が発生する。これら発生した2次電子107および反射電子108は検出器109,110で検出され、電気信号に変換され、さらにA/D変換器111によりアナログ信号がディジタル信号に変換されることにより、2次元の濃淡画像が得られる。得られた画像は画像信号として処理器112に入力され、特徴量の算出等の処理が行われる。この結果は、コンピュータ114のディスプレイ116に表示され、必要に応じてハードディスク113のような記憶装置またはネットワークを介して他の装置のコンピュータ117に送信される。全体の管理はコンピュータ114で行われ、装置の動作の制御は、制御用コンピュータ115で行われる。2次電子107に基づく画像をSE画像,反射電子108に基づく画像をBSE画像とよぶ。
【0009】
図2は、本発明の手順の基本的な流れを示すフローチャートである。この手順は予めハードディスク113に記憶され、コンピュータ114で実行される。はじめに、半導体ウェーハ上に形成された回路パターンを自動的に撮像する条件を設定する(ステップ201)。ここで設定する条件は、撮像するパターンに視野を移動させるためのアドレッシング用の画像,電子顕微鏡の加速電圧やプローブ電流,撮像視野サイズ,画像積算枚数,オートフォーカス条件等である。また、撮像する画像が複数である場合には、その場所を特定するためのチップ番号やチップ位置を指定する。また、特徴量を算出するために基準画像を指定する。
【0010】
次に、前記条件で所望の位置の画像を撮像する(ステップ202)。撮像されるのはSE像のほか、対向する2つの検出器から得られる2枚のBSE像である。SE像は通常ウェーハを鉛直方向から観察した画像であり、またBSE像は斜め方向から光を照射し、鉛直方向から観察するような陰影画像となる。
【0011】
次に、撮像された前記3枚の画像を使用してパターンの特徴量を算出する。算出には基準画像との正規化相関値Rを使用する。
【0012】
【数1】

【0013】
ここでは、前記のように3枚の画像を使用するので、正規化相関値も3個得られる。これらをRSE,RL,RRとする。これらのRの値は基準画像fと撮像画像gとの類似度を表し、パターンのできばえを定量化する指標となる。従来では、類似度はSE画像のみを使用していたため、直接にはパターンの2次元的な情報しか得られず、パターン側壁等の3次元形状まで含むできばえの定量化はできなかった。
【0014】
本発明では、BSE画像を使用することにより、パターン側壁の形状が陰影情報として描出されるため、このBSE画像の正規化相関値RL,RRを算出することによりパターンの3次元的形状を類似度という特徴量で定量化でき、これにより3次元的なできばえ評価が可能となる。
【0015】
最後に前記算出された特徴量Rや撮像画像、撮像付帯情報等をディスプレイ116に表示する(ステップ203)。さらに必要に応じてハードディスク113のような記憶装置や、ネットワークを介して他の装置のコンピュータ117に送信する。なお、算出する特徴量によっては、SE像とBSE像の合成画像を使用する場合もある。
【0016】
たとえば、
【0017】
【数2】

【0018】
とすれば、鉛直方向から観察した形状情報に左または右からの陰影情報が付加された画像に基づいて特徴量が算出でき、これによりパターンの3次元形状が含まれたできばえが定量化できる。
【0019】
また前式は以下のようなものでもよい。
【0020】
【数3】

【0021】
これに従えば、左または右陰影が強調された画像に基づいて特徴量が算出でき、よりパターンの側壁に関する3次元情報を強調したできばえの定量化ができる。
【0022】
また以下のような合成をすることもできる。
【0023】
【数4】

【0024】
これによれば1枚の画像に左右陰影情報が含まれることになり、1枚の画像からパターンの3次元形状によるできばえが定量化できる。
【0025】
数3の式から得られる画像に対して、閾値処理により画像のハイライト部,陰影部のみを抽出し、これら抽出された画像を使用して特徴量を算出することもできる。これを行うためには、まず、数3から得られた画像、
R′=αfR+βfL
に対し、ハイライト部または陰影部のみを抽出できる閾値を決定する。
【0026】
図3は画像の画素値と画素数のヒストグラムである。通常は、図3に示すような画像のヒストグラム300を算出し、画素値の大きいハイライト部301、または画素値の小さい陰影部302を分離できるような閾値303と304を決定する。図3の例のように、画素数の山が3つあれば、2つの谷で閾値を設ければよい。ここで決定した閾値は、通常、他の画像にも適用できるため、画像撮像条件としてあらかじめ設定しておけば、画像ごとに作業者が設定する必要はなくなる。閾値の値が、ウェーハや撮像条件に依存する場合には、それぞれに対するレシピに登録しておく。複数登録しておけば、適宜選択することが可能である。
【0027】
図4は走査型電子顕微鏡の画面に表示された画像の一例を示す画面図である。図4(a)には、図3に示した閾値303で分離されたハイライト部401が表示されている。図4(b)には、図3に示した閾値304で分離された陰影部402が表示されている。このように、図3に示したヒストグラムを閾値で分離することで、画像のハイライト部401や陰影部402が分離されて表示され、3次元画像のできばえを定量化することが容易になる。
【0028】
特徴量を算出するための画像は、撮像画像全体でなく、指定した範囲のみを使用することもできる。図5は、パターンの走査型電子顕微鏡の画像の一例を示す画面図であり、画像500にラインとスペースのパターンが表示されている。パターンの不良個所501に着目してできばえ評価を行う場合、不良個所501の周囲については、できばえ評価が不要である。そこで、画面上で指定されたできばえ評価する領域502の内部だけをコンピュータ114により定量化するように、ハードディスク113にあらかじめプログラムを設定しておく。
【0029】
領域502は、画像ごとに作業者が手動で設定してもよいが、不良個所501の発生に着目し、複数の画像から不良個所501と同様の不良を検出する場合には、領域502の画像をテンプレートとしてハードディスク113に登録しておき、撮像条件設定の際に特徴量算出エリアとしてこのテンプレートを使用するように指定することで、コンピュータ114が、テンプレートマッチング処理により撮像画像から自動的にこのエリアを検出し、特徴量を算出させるようにする。例えば、電子線を傾斜させて取得した画像で得られたパターンの側壁をこの領域502に指定することにより、画像を取得する都度、側壁を指定する必要がなくなり、側壁のできばえ評価を容易に行うことができるようになる。
【0030】
以上、述べたように、ウェーハ鉛直方向からの2次電子画像に加え、対向して配置される検出器から得られる反射電子画像を使用することにより、パターンの側壁情報も陰影として画像化することができ、この側壁情報から特徴量を定量値として算出することにより、半導体パターンの3次元的なできばえを定量化することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】走査型電子顕微鏡の概略構成を示す縦断面図。
【図2】本発明の手順の基本的な流れを示すフローチャート。
【図3】画像の画素値と画素数のヒストグラム。
【図4】走査型電子顕微鏡の画面に表示された画像の一例を示す画面図。
【図5】パターンの走査型電子顕微鏡の画像の一例を示す画面図。
【符号の説明】
【0032】
100 走査型電子顕微鏡
102 ウェーハ
107 2次電子
108 反射電子
112 処理器
113 ハードディスク
114 コンピュータ
115 制御用コンピュータ
116 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハ上に形成された回路パターンの画像をあらかじめ設定された条件で撮像する撮像手段、該撮像手段で撮像された画像と予め記憶された基準画像とを比較して前記撮像された画像の特徴量を算出する算出手段、該算出手段で算出された前記特徴量に基づいて、前記半導体ウェーハのできばえ評価を実行するコンピュータを備え、前記特徴量の算出は、2次電子画像,反射電子画像に関して独立に行われることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1の記載において、
前記反射電子画像は、前記撮像手段に設けられた対向する複数の検出器により検出された信号に基づいて得られる画像であることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1の記載において、
前記算出手段により算出される前記特徴量は、前記撮像された画像と前記基準画像との間の相関値であることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1の記載において、
前記特徴量の算出に使用される画像は、前記2次電子画像と前記反射電子画像とから演算により求められる画像であることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1の記載において、
前記特徴量の算出に使用される画像は、同時に得られる2種類の反射電子画像から演算により求められる画像であることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1の記載において、
前記特徴量の算出に使用される画像は、同時に得られる2種類の反射電子画像から演算により求められる画像から、半導体パターンの側壁情報のみを抽出した画像であることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1の記載において、
前記特徴量の算出を、傾斜画像を使用して行うことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1の記載において、
前記特徴量の算出は、あらかじめ指定した領域のみについて行うことを特徴とする走査型電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−37939(P2009−37939A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202458(P2007−202458)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】