説明

路車間通信システム及び路車間通信方法とこれに用いる車載機及び車両

【課題】 車両にピッチ方向の傾きが生じていても、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる路車間通信システムを提供する
【解決手段】 本発明の路車間通信システムは、道路Rを走行する車両の車載機2と、道路Rの所定範囲に通信領域Aが設定された投受光器8を有する光ビーコン4とを備え、通信領域Aにおいて車載機2と光ビーコン4の投受光器8との間で光信号による双方向通信を行うシステムである。光ビーコン4は、アップリンク情報35の送信時における車両Cの走行位置と対応する始点位置P1〜P4から、その下流側の所定位置P0までの距離L1〜L4に関する距離情報を含むダウンリンク情報36を、投受光器8に送信させる通信制御部7を有する。また、車載機2は、アップリンク情報35の送信時における車両Cのピッチ方向の傾きを検出する傾き検出手段33と、検出された傾きに基づいて距離情報を補正して距離L1〜L4を求める距離認識部30とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路側に設置された光ビーコンと車両に搭載された車載機との間で光信号による双方向通信を行う路車間通信システム及び路車間通信方法と、これに用いる車載機及び車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
路車間通信システムを利用した交通情報サービスとして、光ビーコン、電波ビーコン又はFM多重放送を用いたいわゆるVICS(Vehicle Information and Communication System)が既に展開されている。このうち、光ビーコンは近赤外線を通信媒体とした光通信を採用しており、車載機との双方通信が可能となっている。
具体的には、車両の保持するビーコン間の旅行時間情報等を含むアップリンク情報が車載機からインフラ側の光ビーコンに送信され、逆に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報及び車線通知情報等を含むダウンリンク情報が光ビーコンから車載機に送信されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記光ビーコンは、車載機との間で双方向通信を行うビーコンヘッド(投受光器)を備えており、この投受光器は、ダウンリンク情報を送出する発光ダイオード(LED)と、車載機からのアップリンク情報を受信するフォトセンサとを備えている。
例えば図15に示すように、光ビーコン4のビーコンヘッド(投受光器)8は、通常、その直下よりも上流側よりに通信領域Aが設定されている。光ビーコン(光学式車両感知器)8の「近赤外線式インタフェース規格」によれば、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図15の右側部分)と重複し、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端は互いに一致するものとされている。
【0004】
従って、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは通信領域A全体の同方向長さと一致する。また、上記規格によれば、一般道向けの光ビーコン4の場合で、ダウンリンク領域DAの下流端aは、ビーコンヘッド8の直下の1.0〜1.3m上流側に位置し、ダウンリンク領域DAの下流端aからアップリンク領域UAの下流端bまでの距離は2.1mと規定され、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は1.6mと規定されている。従って、この場合、通信領域Aの車両進行方向の全長は3.7mとなる。
【0005】
もっとも、実際には、現在設定されているダウンリンク領域DAの上流端は、アップリンク領域UAの上流端cよりも上流側(例えば、図14のc′)に設定されている場合が多い。
【特許文献1】特開2005−268925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記路車間通信システムでは、通信領域Aにおいて光ビーコン4と車載機2との間で次のような双方向通信が行われる。
まず、光ビーコン4は、車線通知情報(車両ID無し)を含む第1のダウンリンク情報を道路のダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常時送信している。そのダウンリンク領域DAに車両Cが進入すると、車両Cに搭載された車載機2の投受光器(車載ヘッド)が第1のダウンリンク情報を受信し、当該車載機2は、自己の車両IDを格納したアップリンク情報35の送信を開始する。
【0007】
そして、光ビーコン4のビーコンヘッド8が上記アップリンク情報35を受信すると、光ビーコン4はダウンリンクの切り替えを行い、車載機2に対して上記車両IDを有する車線通知情報を含む第2のダウンリンク情報36の送信を開始する。この第2のダウンリンク情報36は、所定時間内において可能な限り繰り返し送信され、車載機2において受信される。
ところで、本出願人は、上記路車間通信システムを利用してドライバに安全運転支援を行う運転支援システムを既に提案している(特願2006−121700号及び特願2007−20910号参照)。
【0008】
この運転支援システムでは、例えば図15に示すように、光ビーコン4が、アップリンク情報35の送信時における車両Cの走行位置と対応するように定められた始点位置P1から、その下流側の所定位置P0までの距離L1を記憶しており、この距離L1を第2のダウンリンク情報36に含めて車載機2に送信する。
そして、上記第2のダウンリンク情報36を受信した車載機2は、上記距離L1や車両速度に基づいて車両Cが停止線40で適切に停止できるか否かを判定し、停止線40の手前で強制停止するように車両Cを制動させたり、ドライバに停止や減速を促す報知を行ったりして、ドライバに安全運転支援を行うようになっている。
【0009】
しかし、かかる運転支援システムを採用する場合、次のような問題がある。
すなわち、第2のダウンリンク情報36で通知する距離L1を、実際に道路Rを走行する車両Cの走行距離と一致させるためには、その距離L1の始点位置P1が、アップリンク情報35の送信時における実際の車両Cの走行位置とできるだけ正確に対応付けられている必要がある。そこで、その始点位置P1は、例えば図15に示すように通信領域Aの始点cの近辺と定義される。
【0010】
これは、車載機2が送信した初回のアップリンク情報35が非常に高い確率(概ね9割以上)で光ビーコン2に正常に受信されることから、初回のアップリンク情報35の送信時における車両Cの走行位置が、通信領域Aとの相対的な位置関係を最も正確に表すからである。
そして、インフラ側が提供する距離L1の始点位置P1は、車両Cが道路Rの走行面に対してほぼ平行に走行しており、車載機2の車載ヘッド27のピッチ方向の角度が道路Rの走行面に対して常に一定であるとの前提で定義されるが、実際には、走行時における車両Cの揺れのために、車載ヘッド17のピッチ方向の角度も常に変動しているので、インフラ側で定義する距離L1の始点位置P1が実際の車両Cの走行位置と対応せず、距離L1が実際の車両Cの走行距離と一致しなくなる場合がある。
【0011】
すなわち、道路Rの凹凸状態、荷物や搭乗者の荷重及び加減速の状況等により、実際の車両Cは必ずしも道路Rの走行面と平行には走行しておらず、約±5度の変動範囲でピッチ方向の傾きを変化させながら道路Rを走行している。
このため、例えば図15に破線で示すように、車両Cが道路Rの走行面に対してΔφだけ後ろ下がりに傾いた状態で通信領域Aの始点cの近傍を通過し、これによってアップリンク光Uも所定の送信角度φよりもΔφだけ大きい角度で送信されることがある。
【0012】
このようにアップリンク光Uの送信角度φが上方にぶれた場合には、車両C(車載機2)が実際には既に所定の始点位置P0に到達していても、車載機2からのアップリンク光Uが光ビーコン4のフォトセンサ11で受信されず、アップリンク情報35の受信タイミングが遅れることがある。従って、この場合には、光ビーコン4からの第2のダウンリンク情報36によって通知される距離L1が、実際の車両Cの走行距離よりも長くなってしまい、車載機2での距離認識の精度が低下することになる。
【0013】
そして、上記のように距離L1の精度が低下すると、当該距離L1を利用した安全運転支援の精度も同じように低下することになり、例えば、安全運転支援機能によって、停止線40の手前に停止させるように車両を制動したにも関わらず、停止線40をオーバーして車両が停止するといった事態が起こりうる。
【0014】
本発明は、このような実情に鑑み、車両にピッチ方向の傾きが生じていても、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる路車間通信システム及び路車間通信方法と、これに用いる車載機及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の路車間通信システム(請求項1)は、道路を走行する車両の車載機と、前記道路の所定範囲に通信領域が設定された投受光器を有する光ビーコンとを備え、前記通信領域において前記車載機と前記光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行う路車間通信システムであって、
前記光ビーコンは、アップリンク情報の送信時における前記車両の走行位置と対応する始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を含むダウンリンク情報を、前記投受光器に送信させる通信制御部を有し、
前記車載機は、アップリンク情報の送信時における前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出手段と、検出された傾きに基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求める距離認識部とを有することを特徴とする。
【0016】
上記第1の路車間通信システムよれば、光ビーコンの通信制御部が、アップリンク情報の送信時における車両の走行位置と対応する始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を含むダウンリンク情報を投受光器に送信させるので、そのダウンリンク情報を受信した車載機は、当該距離情報を利用して、通信領域の下流側の所定位置までの距離を求めることができる。
そして、車載機の傾き検出手段が、アップリンク情報の送信時における車両のピッチ方向の傾きを検出し、車載機の距離認識部が、その検出された傾きに基づいて上記距離情報を補正して距離を求めるので、車両にピッチ方向の傾きが生じていても当該距離を正確に求めることができ、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる。
【0017】
上記第1の路車間通信システム(請求項1)は、アップリンク領域が1つの受信部による非分割の受信領域である場合(非分割タイプ:第5実施形態)と、アップリンク領域が車両進行方向に複数の分割領域に分割され、光ビーコンの投受光器が各分割領域に対応してアップリンク情報を受信する複数の受信部を有している場合(分割タイプ:第1〜第4実施形態)との双方を含んでいる。
【0018】
本発明の第2の路車間通信システム(請求項2)は、アップリンク領域が上記分割タイプである場合(第1〜第4実施形態)に関するものである。
かかる第2の路車間通信システム(請求項2)では、前記光ビーコンが、アップリンク情報を受信した前記受信部に対応する前記分割領域内の始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を含むダウンリンク情報を、前記投受光器に送信させる通信制御部を有しているが、車載機側の構成は第1の路車間通信システム(請求項1)の場合と同様である。
【0019】
従って、上記第2の路車間通信システムにおいても、車両にピッチ方向の傾きが生じていても当該距離を正確に求めることができ、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる。
なお、分割タイプのアップリンク領域を採用する路車間通信システム(第1〜第4実施形態)では、アップリンク情報を受信しやすくすべく当該領域の車両進行方向長さを全体として大きく設定しても、個々の分割領域の車両進行方向長さを比較的小さく設定することができる。これにより、各分割領域に対応する距離の始点位置が実際の車両の走行位置と大きく離れることがなくなり、車載機において所定位置までの距離を正確に認識させることができる、という利点がある。
【0020】
本発明の路車間通信システム(請求項1及び2)において、車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出手段としては、後述の実施形態で述べる通り、ジャイロセンサ、Gセンサ及び加速度センサ等を利用することができる。
しかし、これらのセンサで検出されるピッチ方向の傾きは、道路の走行面ではなく水平面を基準としたものであるため、道路の走行面自体が傾斜している場合には、これらのセンサで検出される傾きは、道路の走行面からの傾きではない。
【0021】
そこで、本発明の路車間通信システムにおいて、前記通信制御部は、前記アップリンク領域での道路勾配に関する勾配情報を前記ダウンリンク情報に含めて送信するものを採用し、前記距離認識部において、前記傾き検出手段で検出された傾きと前記勾配情報に基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求めることが好ましい(請求項3)。
この場合、より具体的には、傾き検出手段で検出された傾きをアップリンク領域での道路勾配と相殺することにより、道路の走行面を基準とした車両のピッチ方向の傾きを求めることができるので、アップリンク領域に道路勾配がある場合でも、所定位置までの距離を正確に補正することができる。
なお、後述の実施形態でも述べるが、本発明の路車間通信システムにおいて、前記傾き検出手段は、具体的には、ジャイロセンサ、Gセンサ及び加速度センサのうち少なくとも2つを含んだセンサ装置を採用することができる(請求項4)。
【0022】
本発明の第1の車載機(請求項5)は、前記第1の路車間通信システム(請求項1)に用いられるものであり、同システムと同様の作用効果を奏する。
また、本発明の第2の車載機(請求項6)は、前記第2の路車間通信システム(請求項2)に用いられるものであり、同システムと同様の作用効果を奏する。
本発明の第1の路車間通信方法(請求項7)は、前記第1の路車間通信システム(請求項1)で行われる通信方法であり、同システムと同様の作用効果を奏する。
また、本発明の第2の路車間通信方法(請求項8)は、前記第2の路車間通信システム(請求項2)で行われる通信方法であり、同システムと同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0023】
以上の通り、本発明によれば、車両にピッチ方向の傾きが生じていても、通信領域の下流側の所定位置までの距離を正確に求めることができ、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔第1実施形態〕
〔システムの全体構成〕
図1は、第1実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この路車間通信システムは、インフラ側の交通管制システム1と、道路Rを走行する各車両Cに搭載された車載機2とを備えて構成されている。
交通管制システム1は、管制室に設けられた中央装置3と、道路Rの各所に多数設置された光ビーコン(光学式車両感知器)4とを有している。光ビーコン4は、近赤外線を通信媒体とした光通信によって車載機2との間で双方向通信を行う。なお、中央装置3は交通管制室に設けられている。
【0025】
〔光ビーコンの構成〕
光ビーコン4は、電話回線等の通信回線5を介して中央装置3と接続された通信インタフェースである通信部6と、この通信部6が接続されたビーコン制御機7と、このビーコン制御機7のセンサ用インタフェースに接続された複数(図例では4つ)のビーコンヘッド(投受光器)8とを備えている。
各ビーコンヘッド8は、筐体の内部に発光ダイオード(LED)10、フォトセンサ(受信部)11を収納して構成されている(図3参照)。このうち、LED10は、近赤外線よりなるダウンリンク情報を後述する通信領域Aに発光し、フォトセンサ11は、車載機2からの近赤外線よりなるアップリンク情報を受光する。また、本実施形態のビーコンヘッド8には、複数(図例では4つ)のフォトセンサ11が設けられている。
【0026】
図2は、上記光ビーコン4の平面図である。
図2に示すように、本実施形態の光ビーコン4は、同じ方向の複数(図例では4つ)の車線R1〜R4を有する道路Rに設置されており、各車線R1〜R4に対応して設けられた前記複数のビーコンヘッド8と、これらビーコンヘッド8を一括制御する制御部である一台の前記ビーコン制御機7とを備えている。
上記ビーコン制御機7は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、通信部6(図1)による中央装置3との双方向通信と、ビーコンヘッド8による車載機2との路車間通信を行う通信制御部としての機能を有する。なお、このビーコン制御機7による路車間通信の内容については後述する。
【0027】
ビーコン制御機7は、道路脇に立設した支柱13に設置されており、各ビーコンヘッド8は、支柱13から道路R側に水平に架設した架設バー14に取り付けられ、道路Rの各車線R1〜R4の直上に配置されている。
各ビーコンヘッド8のLED10は、各車線R1〜R4の直下よりも車両進行方向の上流側に向けて近赤外線を発光しており、これにより、車載機2との間で路車間通信を行うための通信領域Aが当該ヘッド8の上流側に設定されている。
【0028】
〔通信領域について〕
図3は、光ビーコン4の通信領域Aを示す側面図である。
図3に示すように、光ビーコン4の通信領域Aは、車載機2の投受光器である車載ヘッド27がダウンリンク情報を受信することができるダウンリンク領域(図3において実線のハッチングを設けた領域)DAと、光ビーコン4のビーコンヘッド8が車載ヘッド27からのアップリンク情報を受信することができるアップリンク領域(図3において破線のハッチングを設けた領域)UAとからなる。
【0029】
ダウンリンク領域DAは、ビーコンヘッド8の投受光位置d、道路R上の位置a及びcを頂点とする△dacで示された範囲に設定されている。また、アップリンク領域UAは、前記位置dと、道路R上の位置b及びcを頂点とする△dbcで示された範囲に設定されている。
従って、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端cは互いに一致し、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複している。また、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは通信領域A全体の同方向長さと一致している。
【0030】
光ビーコン(光学式車両感知器)4の「近赤外線式インタフェース規格」によれば、ダウンリンク領域DA及びアップリンク領域UAの正式な領域寸法が規定されている。この規定では、一般道向けの光ビーコン4の場合で、ダウンリンク領域DAの下流端aは、ビーコンヘッド8の直下の1.0〜1.3m上流側に位置し、ダウンリンク領域DAの下流端aからアップリンク領域UAの下流端bまでの距離は2.1mと規定されている。
また、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は1.6mと規定されている。従って、正式な通信領域Aの車両進行方向の全長(ac間の長さ)は3.7mとなる。
【0031】
しかしながら、本実施形態では、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は、上記規定よりも上流側及び下流側へ長く設定されている。その結果、アップリンク領域UAは上記規定よりも車両進行方向に広がり、同時にダウンリンク領域DAも上記規定よりも車両進行方向に広がっている。
このようにアップリンク領域UA及びダウンリンク領域DAが広くなると、車載機2と光ビーコン4との間のアップリンク情報及びダウンリンク情報の送受信の確実性が増すことになる。
【0032】
さらに、アップリンク領域UAは、車両進行方向に複数に分割されている。具体的には、本実施形態のアップリンク領域UAは、位置dを上端とし、道路R上の位置e1〜e3を下端とする3本の境界線(境界部)Kによって4つに分割されている。
ビーコンヘッド8に設けられた4つのフォトセンサ11(図1参照)は、それぞれアップリンク領域UAの各分割領域UA1〜UA4を受信領域としている。従って、例えば、分割領域UA1内で車載ヘッド27から送信されたアップリンク情報35は、この分割領域UA1に対応するフォトセンサ11によって受信される。
【0033】
〔車載機及び車両の構成〕
図4は、光ビーコン4と路車間通信する前記車載機2と、この車載機2が搭載された車両Cの概略構成図である。
図4に示すように、この車両Cは、ドライバの搭乗席(図示せず)を有する車体21と、この車体21に搭載された前記車載機2と、車両Cの各部を統合制御する電子制御装置(ECU)22と、車体21を駆動するエンジン23と、車体21を制動するブレーキ装置24と、車両Cの現時の速度を常時検出している速度検出器25とを備えている。ECU22は、ドライバのアクセル操作に基づくエンジン23の駆動制御や、ブレーキ操作に基づく制動制御等、車両Cに対する各種の制御を行う。
【0034】
車載機2は、車載コンピュータ26と、このコンピュータ26のセンサ用インタフェースに接続された車載ヘッド(投受光器)27と、搭乗席のドライバに対するヒューマンインタフェースとしてのディスプレイ28及びスピーカ装置29とを備えている。
上記車載ヘッド27は、光ビーコンの投受光器8と同様に、発光ダイオード(LED)27A(図3参照)とフォトセンサ(図示せず)とを備えている。このうち、LED27Aは、近赤外線よりなるアップリンク情報を発光し、フォトセンサは、通信領域Aに発光された近赤外線よりなるダウンリンク情報を受光する。
【0035】
車載コンピュータ26は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、車載ヘッド27による光ビーコン4との路車間通信の制御処理を行う。
また、車載コンピュータ26は、所定の各機能を実行するプログラムを記憶装置に格納しており、このプログラムが実行する機能部として、距離認識部30、補正部31及び支援制御部32を備えている。なお、これらの各機能部30,31,32の処理内容については後述する。
【0036】
また、車載機2は、車両Cのピッチ方向の傾きを検出する傾き検出器(傾き検出手段)33を備えており、この傾き検出器33は、ジャイロセンサ、Gセンサ又は加速度センサを利用して水平面に対する車両Cのピッチ方向の傾斜度合いを常時監視する。
ジャイロセンサは、物体の角速度を測定するセンサであり、その検出信号を積分すれば角度(傾き)が求まる。Gセンサは、物体の加速度を測定するセンサであり、このGセンサでは重力加速度も加算される。他方、加速度センサは、Gセンサと同義とする場合も多いが、本明細書では、周波数特性を持つ加速度成分だけを感知し、静的な加速度(重力加速度)を感知しないものを加速度センサと呼ぶ。
【0037】
図8は、上記センサで実施可能な車両Cの傾きの検出原理を示す説明図である。
このうち、図8(a)は、3軸Gセンサと3軸加速度センサを組み合わせた傾き検出器33の検出原理を示している。
物体が水平面上に置かれている場合には、3Gセンサの出力は、gz=G(G:重力加速度)、gx=gy=0になるが、物体が水平面から傾いている場合には、gz<Gで、かつ、gx≠0 or gy≠0となる。従って、3Gセンサの3つの出力のうち、gzとその他のgx,gyとの比を用いることにより、水平面に対する物体の傾きを算出できる。
【0038】
しかし、車両Cが加速している場合などのように、物体に動的加速度が発生していると、gx,gy,gzにはその動的加速度が重畳される。そこで、重力加速度(静的加速度)を検出しない3軸加速度センサを同時に使用する。
すなわち、3軸加速度センサの各方向の出力をそれぞれax,ay,azとすれば、この出力成分を各方向で差し引き、(gx−ax),(gy−ay),(gz−az)の比を用いた次の式(1)により、水平面に対する物体のピッチ方向の傾きの絶対値を算出できる。
【0039】
【数1】

【0040】
そして、ピッチ方向の傾きの向きについては、(gy−ay)の正負により、車両Cの前方が水平面に対して上向きか下向きかを判断することができる。
なお、1軸Gセンサと1軸加速度センサを用い、(gz−az)の値だけで簡易的にピッチ方向の傾きの絶対値を求めることもできる。
【0041】
図8(b)は、1軸ジャイロセンサと1軸ないし3軸加速度センサを組み合わせた傾き検出器33の検出原理を示している。
1軸ジャイロセンサが、水平面を基点として図8(b)の矢印の方向の角速度を検出するものとすると、この角速度を積分すれば、水平面に対する物体のピッチ方向の傾きを検出することができる。しかし、その積分値は時間の経過とともに誤差が蓄積するので、定期的にゼロ点補正を行う必要がある。
【0042】
そこで、1軸、2軸又は3軸Gセンサを同時に使用する。すなわち、この場合、Gセンサの出力を監視しておき、その出力がgz=G(さらにgx=gy=0)となって値が安定したときに物体が水平状態で安定したと判断し、ジャイロセンサの出力のゼロ点を補正するようにすればよい。
なお、傾き検出器33の他の例としては、道路Rを撮像する車載カメラと、撮像された画像データを分析して道路Rに対する相対的な傾きを求める画像処理装置とから構成することもできる。
【0043】
〔路車間通信の内容〕
図5は、通信領域Aにおいて、ビーコンヘッド8と車載ヘッド27との間で行われる双方向での路車間通信の手順を示している。以下、図5を参照しつつ、本実施形態の路車間通信の内容を説明する。
まず、光ビーコン4のビーコン制御機7は、各車線R1〜R4に対応するビーコンヘッド8から、ダウンリンクの切り替え前の第1情報として、車線通知情報を含む第1のダウンリンク情報34を、各車線R1〜R4のダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常に送信し続けている(図5のF1)。なお、この段階では、車線通知情報には未だ車両IDは格納されていない。
【0044】
車載機2を搭載した車両Cが実際のダウンリンク領域DAに進入すると、車載機2の車載ヘッド27が車線通知情報(車両ID無し)を含む第1のダウンリンク情報34を受信する。
この際、車載機2の車載コンピュータ26は、当該車両Cが実際の通信領域A内に存在していることを認識する。その後、車載コンピュータ26は、アップリンク情報35の送信を開始し(図5のF2)、このアップリンク情報35をビーコンヘッド8に対して所定の送信周期(アップリンク送信周期)で送信する(図5のF3)。
【0045】
車載コンピュータ26は、車両Cに特定の車両IDを上記アップリンク情報35に格納して当該アップリンク情報35を送信し、ビーコン間の旅行時間情報を有している場合には、この情報もアップリンク情報35に含ませる。また、車載コンピュータ26は、光ビーコン4のビーコン制御機7がダウンリンクの切り替えを行ったことを認識するまで、当該アップリンク情報35を送信し続ける。
【0046】
一方、光ビーコン4のビーコンヘッド8がアップリンク情報35受信すると(図5のF4)、ビーコン制御機7は、ダウンリンクの切り替えを行い、第2情報として、車両ID情報を有する車線通知情報を含む第2のダウンリンク情報36の送信を開始し(図5のF5)、この第2のダウンリンク情報36の送信を所定時間内において可能な限り繰り返す(図5のF6)。
【0047】
上記車線通知情報には、車線R1〜R4(図2)ごとに車両IDを格納するフィールドがあり、各車両IDに対して車線番号を付与することができる。このため、異なる車線R1〜R4を走行する各車両Cの車載コンピュータ26は、その格納フィールド内のいずれに自車両の車両IDが含まれるかを判断することにより、自車両がどの車線R1〜R4を走行しているかを認識できる。
【0048】
第2のダウンリンク情報36には、車両IDを含む車線通知情報の他に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報、及び、ドライバに対する安全運転支援のための支援情報等が含まれている。
この支援情報には、光ビーコン4より下流側の信号機の灯色が変わるタイミング情報である信号情報の他、アップリンク領域UA内の所定の始点位置P1〜P4からその下流側の所定位置P0(例えば、停止線40)までの長さ情報L1〜L4に関する距離情報と、アップリンク領域UAの道路勾配に関する勾配情報が含まれている。
【0049】
図5に示すように、第2のダウンリンク情報36は、単一又は複数の最小フレーム37で構成されている。前記「近赤外線式インタフェース規格」によれば、この最小フレーム37のデータ量は合計128バイトと規定され、ヘッダ部38に5バイト、実データ部39に123バイトが割り当てられている。
前記規格によれば、第2のダウンリンク情報36は、1〜80個の最小フレーム37で構成することができ、送信可能時間は250msに設定されている。また、このダウンリンク情報36は送信すべき情報量に対応した任意数の最小フレーム37で構成され、上記送信可能時間の範囲内で繰り返し送信される。
【0050】
最小フレーム37の送信周期は約1msである。従って、例えば、三つの最小フレーム37で一つのダウンリンク情報36を構成する場合には、ダウンリンク情報36の送信周期は約3msになるので、当該ダウンリンク情報36は所定の送信可能時間(250ms)の間に約80回繰り返して送信されることになる。
車載機2の車載コンピュータ26は、第2のダウンリンク情報36を受信した時点(図5のF7)で光ビーコン4でのダウンリンクの切り替えを認識し、この時点でアップリンク情報35の送信を停止する。
【0051】
本実施形態の路車間通信システムは、図3に示すように、インフラ側が定義する通信領域Aの始点位置P1〜P4からその下流側の所定位置P0までの距離を車載機2に認識させて位置標定を行い(図5のF8)、これに基づいて、ドライバに対する安全運転支援を行う距離認識システムとして機能している。
以下、前記した距離情報の内容と、これに基づいて車載機2が行う安全運転支援のための距離認識について説明する。
【0052】
〔距離情報の内容〕
図3に示すように、光ビーコン4のビーコン制御機7は、通信領域Aの所定位置P1〜P4からその下流側の所定位置P0までの距離L1〜L4の数値である前記距離情報を予め記憶装置に記憶している。そして、この距離L1〜L4についての距離情報を第2のダウンリンク情報36の送信フレームに格納して、当該フレームをビーコンヘッド8から繰り返し送出する。
距離L1〜L4の終点位置(下流端)P0は、光ビーコン4の下流側に設置された、例えば信号機手前の停止線40の位置に設定されている。
【0053】
また、距離L1〜L4の始点位置(上流端)P1〜P4は、アップリンク領域UAの各分割領域UA1〜UA4に応じて4カ所に設定されている。
この距離L1〜L4の始点位置は、アップリンク情報35の送信時における実際の車両Cの走行位置とできるだけ正確に対応付ける必要があるが、本実施形態では、アップリンク領域UAが、車両Cよりも車両進行方向長さが小さい4つの分割領域UA1〜UA4に分割されているので、各分割領域UA1〜UA4における道路R上の車両進行方向のほぼ中央位置に設定されている。
【0054】
ビーコン制御機7は、予め記憶した複数の距離L1〜L4に関する距離情報のうちいずれかを選択し、第2のダウンリンク情報36の送信フレームに格納する。ビーコン制御機7がどの距離L1〜L4を選択するかは、ダウンリンクの切り換え前にどのフォトセンサ(受信部)11がアップリンク情報35を受信したかに基づいて決定される。
例えば、図6に示すように、最上流側の分割領域UA1に対応するフォトセンサ(第1受信部)11がアップリンク情報35を受信した場合、ビーコン制御機(ダウンリンク切り替え制御部)7は、そのアップリンク情報35を受信したフォトセンサ11を特定し、それに対応する距離情報L1を選択してダウンリンクを切り換え、LED10を介して距離L1についての距離情報を含む第2のダウンリンク情報36を、車載機2に送信する。
【0055】
一方、他の分割領域UA2〜UA4に対応するフォトセンサ(第2〜第4受信部)11のいずれかがアップリンク情報35を受信した場合にも、ビーコン制御機7は、始点位置P2〜P4がそれぞれ異なるいずれかの距離L2〜L4を選択し、当該距離L2〜L4についての距離情報を含む第2のダウンリンク情報36を車載機2に送信する。
【0056】
〔距離認識(安全運転支援)の内容〕
上記距離情報を含む第2のダウンリンク情報36を車載ヘッド27が受信すると、車載コンピュータ26の距離認識部30は、そのダウンリンク情報36のフレームに含まれている距離情報を抽出して、前記距離L1〜L4を認識する。
ところで、インフラ側の光ビーコン4が提供する距離L1〜L4の始点位置P1〜P4は、車両Cが道路Rの走行面に対してほぼ平行に走行しており、車載機2の車載ヘッド27のピッチ方向の角度が道路Rの走行面に対して常に一定であるとの前提で定義されている。
【0057】
しかし、実際には、道路Rの凹凸状態や、荷物や搭乗者の荷重及び加減速の状況等のために、実際の車両Cは必ずしも道路Rの走行面と平行には走行しておらず、約±5度の変動範囲でピッチ方向の傾きを変化させながら道路Rを走行している。
このため、インフラ側で定義する距離L1〜L4の始点位置P1〜P4が実際の車両Cの走行位置と対応せず、距離L1〜L4が実際の車両Cの走行距離と一致しなくなる場合がある。
【0058】
例えば図7に示すように、各分割領域UA1〜UA4に対応するフォトセンサ11をそれぞれ11A〜11Dとし、車両Cがある位置αに到達すると、2番目フォトセンサ11Bがアップリンク光Uを受信し、別の位置βに到達すると、3番目のフォトセンサ11Cがアップリンク光Uを受信するように位置設定されているものとする。
この場合において、図7の最下段に示すように、車両Cが道路Rの走行面に対してΔφだけ前下がりに傾いた状態で位置αを通過すると、これによってアップリンク光Uも所定の送信角度φよりもΔφだけ小きい角度で送信されることになる。
【0059】
そして、上記ずれ角Δφの大きさによっては、位置αにある車両Cからのアップリンク光Uが、それより下流側の位置βに対応する3番目のフォトセンサ11Cに到達することがある。
このようにアップリンク光Uの送信角度φが下方にぶれた場合には、車両C(車載機2)の実際の位置αよりも下流側の位置βにアップリンク光Uが到達し、アップリンク情報35の受信場所が先行することがある。
【0060】
従って、この場合には、光ビーコン4からの第2のダウンリンク情報36によって通知される距離L3が、実際の車両Cの走行距離よりも短くなってしまい、車載機2での距離認識の精度が低下することになる。
なお、車両Cが道路Rの走行面に対してΔφだけ後ろ下がりに傾いた状態の場合には、アップリンク光Uの送信角度φがΔφだけ上方にぶれるので、上記とは逆に、車両Cの実際の位置βよりも上流側の位置αに対応するフォトセンサ11Bアップリンク光Uが到達し、アップリンク情報35の受信場所が後退する危険性が生じる。
【0061】
そこで、本実施形態では、車載コンピュータ26が、アップリンク情報35の送信時における傾き検出器33の出力値(水平方向に対する車両Cのピッチ方向の傾き)を記憶しており、この傾きに基づいて、同コンピュータ26の補正部31が第2のダウンリンク情報36から抽出された距離L1〜L4の値の補正値を演算する。
また、車載コンピュータ26の補正部31は、第2のダウンリンク情報36からアップリンク領域UAの「勾配情報」を抽出し、傾き検出器33で検出された傾き(Δφ)をその勾配情報で特定されるアップリンク領域UAでの道路勾配と相殺し、道路Rの走行面を基準とした車両Cのピッチ方向の傾きを求める。
【0062】
具体的には、補正部31は、道路Rの走行面を基準とした車両Cのピッチ方向の傾きによって生じる車両進行方向の距離誤差を所定の幾何学式で演算し、この距離誤差を車載コンピュータ26の距離認識部30に出力する。
なお、補正部31は、ダウンリンク情報36に上記「勾配情報」が含まれていない場合には、傾き検出器33の出力値(Δφ)を道路Rの走行面を基準とした車両Cのピッチ方向の傾きとみなして、上記距離誤差を演算する。
【0063】
そして、距離認識部30は、上記距離誤差を所定の閾値と比較し、その閾値よりも大きい場合には、ダウンリンク情報36から得た距離L1〜L4に関する距離情報に対してその距離誤差を加算又は減算し、実際の距離L1〜L4を求める。
車載コンピュータ26の支援制御部32は、上記のように補正された距離L1〜L4を利用して、ドライバに対する安全運転支援を行う。
【0064】
例えば、支援制御部32は、停止線40までの距離L1〜L4と現時点の車両Cの走行速度とから、その停止線40の手前で停止するための減速度(負の加速度)を算出し、その減速度をECU22に通知する。ECU22は、当該減速度となるようにブレーキ装置24を作動させ、これにより、車両Cを停止線40の手前で自動停止させることができる。
また、支援制御部32の安全運転支援としては、ディスプレイ28やスピーカ装置29を用いたドライバに対する注意喚起であってもよい。
【0065】
例えば、支援制御部32により、停止線40までの距離L1をディスプレイ28に表示させてもよい。また、現時の車両Cの走行速度が速すぎる場合には、支援制御部32により、停車や減速を促す注意喚起をディスプレイ28に表示させたり、その注意喚起をスピーカ装置29から音声出力させたりしてもよい。
また、支援制御部32は、前記距離情報L1〜L4とともに、第2のダウンリンク情報に含まれる信号情報を用いて安全運転支援を行うこともできる。
【0066】
ここで、信号情報とは、交通信号機が表示する現在又は将来の信号灯色に関する情報を指し、各信号灯色の表示継続予定期間や表示する順序等に関する情報(表示予定情報)等を含む。例えば、「現在灯色が青信号で継続予定時間が5秒であり、次の灯色が黄信号で継続予定時間が8秒であり、その次の灯色が右折青矢印灯で継続予定時間10秒である」といった情報である。
【0067】
この信号情報を受信した車載コンピュータ26の支援制御部32は、停止線40までの距離L1〜L4(前述の距離情報)と車両Cの走行速度や加速度等から、停止線40に到着するまでの所要時間を推定した上で、当該所要時間経過後の信号灯色を推定することができる。
そして、例えば、現在の信号灯色は青信号であるが、停止線40に到着する時点で信号灯色が赤信号と予測されるような場合には、安全に停止線40の手前で停止することができるように、車両Cを制動するための制御を行う。逆に、減速しなければ安全に交差点を通過できると判断できるような場合には、車両Cの速度を維持するための制御を行うことができる。
【0068】
車両Cを制動したり速度を維持したりするため、支援制御部32は、車両のブレーキ装置24(図4)やアクセルに対して直接的に制御を行ってもよい。また、支援制御部32では単に制動や速度維持に関する情報を生成し、その情報をECU22に通知することによってECU22でブレーキ装置24やアクセルを制御するものであってもよい。すなわち、支援制御部32は、間接的な制御を行うものであってもよい。
また、支援制御部32は、車載装置の主導による制御のみならず、ブレーキアシストなど、ドライバの運転動作を補助する動作をしてもよい。
【0069】
支援制御部32は、車両Cの搭乗者に対して、信号灯色の推定の結果を音声や画像情報によって通知するようにしてもよい。
例えば、「間もなく信号が変わるので停止すべきである」といった内容の音声をスピーカ装置29からドライバに向けて発したり、ヘッドアップディスプレイやナビゲーション装置等のディスプレイ28に文字や図柄で表示したりすることができる。
安全運転の支援については、不適切なタイミングや内容でドライバに情報を通知することのないようなヒューマンインタフェースとするため、例えば低速走行時には音声や画像表示による報知を行わないようにすることができる。
【0070】
なお、信号情報は、現在表示している灯色とその継続時間だけとしても良いし、1サイクル分の情報をまとめて提供するようにしてもよい。また、これらの情報に加えて、地点感応制御を実施している地点では、当該制御に関するパラメータ情報や制御を実施する時間帯の情報等を含ませてもよい。
また、信号情報は、光ビーコンから取得するものであってもよいし、光ビーコン以外のインフラ装置等から取得するものであってもよい。後者の場合、例えば、信号機の信号制御機が無線通信機を備えている場合には、当該無線通信機から取得してもよいし、前記信号情報を取得した先行車両から車々間通信によって取得してもよい。信号情報を受信する信号情報受信部は、車載ヘッド27を用いてもよいし、車載機2に備えた別の受信器であってもよい。
【0071】
以上詳述したように、本実施形態の路車間通信システムによれば、車載機2の傾き検出器33が、アップリンク情報35の送信時における車両Cのピッチ方向の傾きを検出し、車載機2の距離認識部30が、その検出された傾きに基づいて距離情報を補正して距離L1〜L4を求めるので、車両にピッチ方向の傾きが生じていても当該距離L1〜L4を正確に求めることができ、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる。
【0072】
また、本実施形態の路車間通信システムによれば、アップリンク領域UAが複数の分割領域UA1〜UA4に分割され、ビーコンヘッド8には、各分割領域UA1〜UA4に対応する複数のフォトセンサ11が設けられており、アップリンク情報35を受信したフォトセンサ11に応じて所定位置P0までの距離L1〜L4を選択し、その距離情報を第2のダウンリンク情報36に含ませているので、アップリンク領域UA全体が規定よりも車両進行方向に広く設定されていたとしても、当該距離L1〜L4の始点位置P1〜P4と実際の車両C(車載機2)の位置とが大きく離れてしまうことが殆どない。
【0073】
このため、車載機2に所定位置P0までの距離を正確に認識させることができ、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる。
逆に言うと、本実施形態の路車間通信システムによれば、アップリンク領域UAを車両進行方向により拡大することができるので、車載機2からのアップリンク情報の受信をより確実に行うことができる。
また、本実施形態の路車間通信システムは、路車間通信の確実性が低い条件でも、精度よく所定位置P0までの距離を認識することが可能である点も有用である。以下、この点について詳述する。
【0074】
なお、路車間通信の確実性が低い条件とは、例えば、アップリンク情報を送信する光(アップリンク光)がビーコンヘッド8まで到達し難くなる雨天や濃霧等の気象条件や、降雨時に車両Cのワイパーを作動させていることによって、アップリンク光が遮られるような条件等である。
一般に、路車間通信の確実性が高い条件であれば、最初にアップリンク領域UA内で送信されたアップリンク情報35はフォトセンサ11に正確に受信され、車載コンピュータ26がダウンリンクの切り替えを認識する(第2のダウンリンク情報を受信する)時点の車両Cの位置は、概ねアップリンク領域UAの最上流端c付近になると考えられる。
【0075】
しかし、路車間通信の確実性が低い条件では、最初にアップリンク領域UA内で送信されたアップリンク情報35がビーコンヘッド8に正確に受信されない場合があり、車載コンピュータ26は、ダウンリンクの切り替えを認識できるまで、アップリンク送信周期ごとにアップリンク情報35を繰り返し送信することになる。
このため、ダウンリンクの切り替えを認識した時点における車両Cの位置は、アップリンク領域UAの最上流端cよりも、アップリンク情報35を繰り返し送信する間に走行した距離の分だけ下流側に離れた地点となる。
【0076】
この際、仮に、第2のダウンリンク情報に含ませる距離情報の始点をアップリンク領域UAの最上流端cとすると、当該最上流端cと、実際の車両Cの位置とが大きく離れ、距離認識精度は低下する。
特に、車両の走行速度が大きい場合やアップリンク送信周期が長く設定されている場合は、距離認識精度が一層低下する可能性がある。
【0077】
本実施形態の場合、アップリンク領域UAが分割領域UA1〜UA4に分割されているので、最初のアップリンク情報35が、例えば最上流側の分割領域UA1で受信されなかったとしても、アップリンク情報を受信した他の分割領域UA2〜UA4内の位置を始点とした距離情報を第2のダウンリンク情報に含ませることができるので、距離認識精度はほとんど低下することはない。
【0078】
なお、本実施形態において、各分割領域UA1〜UA4の車両進行方向長さは、距離認識精度として要求されるレベルに応じて設定することができる。また、各分割領域UA1〜UA4の車両進行方向長さは、互いに異なっていてもよい。
また、本実施形態では、距離L1〜L4の中からアップリンク情報35を受信したフォトセンサ11に応じた距離を選択してその距離情報を第2のダウンリンク情報36に含ませる方法を説明したが、例えば、距離L1〜L4の全てに識別番号等を付与し、その全ての距離L1〜L4とそれに対応する識別番号とを第2のダウンリンク情報に含ませ、同時に、アップリンク情報35を受信したフォトセンサ11に応じた1の識別番号をも第2のダウンリンク情報36に含ませるようにしてもよい。
【0079】
この場合、車載コンピュータ26の距離認識部30は、第2のダウンリンク情報36に含まれる前記1の識別番号をもとに正確な距離を選択して認識することができる。
また、車載コンピュータ26が予め距離L1〜L4とその識別番号とを記憶している場合には、アップリンク情報35を受信したフォトセンサ11に応じた1つの識別番号のみを第2のダウンリンク情報36に含ませてもよい。
【0080】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態においては、図3に示すように、車両Cが分割領域UA1〜UA4の境界線(境界部)K付近を走行しているときに車載機2からアップリンク情報35が送信されると、当該境界線Kを跨ぐ2つの分割領域UA1〜UA4に対応した2つのフォトセンサ11が当該アップリンク情報35を同時に受信しまう可能性がある。かかる場合、上述の第1実施形態では、距離情報を構成する複数の距離L1〜L4のなかから1つを選択することができなくなる。
【0081】
そこで、第2実施形態では、このような状況を想定し、分割領域UA1〜UA4の道路R上の各境界位置e1,e2,e3を上流端とし、所定位置P0を下流端とする各距離についての距離情報をもビーコン制御機7の記憶装置に予め記憶しておく。
そして、2つのフォトセンサ11によって同じアップリンク情報が同時に受信された場合には、ビーコン制御機7は、当該2つのフォトセンサ11に対応する2つの分割領域UA1〜UA4の境界位置e1,e2,e3を上流端とした距離についての距離情報を選択し、第2のダウンリンク情報36に含ませる。
【0082】
従って、本実施形態では、距離情報の選択肢が更に増え、車載機2に所定位置P0までのより正確な距離を認識させることができる。従って、ドライバに対する安全運転支援をより精度よく行うことができる。
なお、車載機2が、傾き検出器33で検出したアップリンク情報の送信時における車両のピッチ方向の傾きに基づいて、第2のダウンリンク情報36から得た距離情報を補正して実際の距離L1〜L4を求める点は、第1実施形態と同様である。
【0083】
また、本実施形態において、境界線(境界部)Kは、所定の幅を持つものと想定することもできる。
例えば図9に分割領域UA3,UA4について示すように、分割領域UA3の下流端付近と、分割領域UA4の上流端付近とに、所定の幅を有するとともに、各分割領域UA3,UA4に対応する2つのフォトセンサ11(第3,第4受信部)が同時にアップリンク情報を受信しうる、境界部UA3e,UA4eを想定することができる。
【0084】
この場合、2つの境界部UA3e,UA4eを合わせて1つの境界領域UA34eを設定し、第3,第4受信部が同時にアップリンク情報を受信した場合は、境界領域UA34eにおける道路R上の位置(例えば、車両進行方向の略中央位置)を上流端とする距離情報を、第2のダウンリンク情報36に含ませることができる。
また、上記のように第3,第4受信部によって同時にアップリンク情報を受信した場合に、それらの受光レベルを比較することにより、車両Cの車載機2が境界領域にUA34eのなかのどの地点でアップリンク情報35を送信したかを推定する推定部をビーコン制御機7に備えておき、当該推定部によって推定した地点をもとに、距離情報の上流端を設定することもできる。
【0085】
例えば、境界領域UA34eにおいて、第3受信部の受光レベルが高く、第4受信部の受光レベルが低い場合であれば、推定部は、車両(車載機2)が境界領域UA34eのうち上流側寄り(分割領域U3寄り)の位置でアップリンク情報を送信したものと推定する。さらに、推定部は、境界領域UA34eの領域長を受光レベルの比率に応じて配分したうえで車両のアップリンク情報の送信位置を推定することもできる。
【0086】
具体的には、第3受信部の受光レベルが3.0μW/cm2、第4受信部の受光レベルが1.0μW/cm2である場合、両受光レベルの比率(3:1)に基づいて境界領域UA34eの領域長を4等分し、当該領域の上流端から1つ目の位置P5を、車両のアップリンク情報の送信位置と推定することができる。
また、ビーコン制御機7は、各受信部の受光レベル又は受光レベル比についての受光レベル情報を第2のダウンリンク情報36に含ませて車載機2に送信することができる。この場合、車載機2は、補正部31(図4)において、受光レベル情報を用いた距離情報の補正を行うことによって、より正確に距離認識を行うことができる。
【0087】
〔第3実施形態〕
図10は、本発明の第3実施形態に係る光ビーコン4の通信領域Aを示す側面図である。
本実施形態では、アップリンク領域UAを構成する複数の分割領域UA1〜UA4が、隣接する他の分割領域UA1〜UA4と車両進行方向に重複するように設定されている。そして、本実施形態においても、第1実施形態と同様な方法により距離情報を用いて距離認識を行う。
【0088】
また、本実施形態の場合、第2実施形態でも説明したように、アップリンク情報35が2つのフォトセンサ11によって同時に受信されるケースが多くなると考えられる。
従って、本実施形態では、各分割領域UA1〜UA4の重複領域VA1〜VA3における道路R上の位置(例えば、車両進行方向の中央位置)f1,f2,f3を上流端とし、所定位置P0を下流端とする距離の情報をもビーコン制御機7の記憶装置に予め記憶しておく。
【0089】
そして、2つのフォトセンサ11によってアップリンク情報35が受信された場合は、ビーコン制御機7は、その2つのフォトセンサ11に対応する2つの分割領域UA1〜UA4の重複領域VAにおける位置f1〜f3を上流端とする距離についての距離情報を選択し、第2のダウンリンク情報36に含ませる。
本実施形態の場合も、距離情報の選択肢が増え、車載機2に所定位置P0までのより正確な距離を認識させることができる。従って、ドライバに対する安全運転支援をより精度よく行うことができる。
【0090】
また、本実施形態において、重複領域VA1〜VA3のいずれかで2つのフォトセンサ11がアップリンク情報35を受信した場合に、この2つのフォトセンサ11の受光レベルを比較することによって、車両Cが当該重複領域VA1〜VA3のなかのどの地点でアップリンク情報35を送信したかを推定する推定部をビーコン制御機7に備えておき、その推定した地点に基づいて距離情報の上流端を設定し、この距離情報を第2のダウンリンク情報36に含ませるようにすることができる。
【0091】
例えば、図10に分割領域UA3,UA4について示すように、この分割領域U3,UA4に対応するフォトセンサ11(第3,第4受信部)によって同時にアップリンク情報を受信したとき、第3受信部の受光レベルが高く、第4受信部の受光レベルが低ければ、推定部は、車両(車載機2)が重複領域VA3のうちの上流側寄り(分割領域U3寄り)の位置でアップリンク情報を送信したものと推定する。
【0092】
さらに、推定部は、重複領域VA3の領域長を受光レベルの比率に応じて配分したうえで車両のアップリンク情報の送信位置を推定することもできる。
具体的には、第3受信部の受光レベルが3.0μW/cm2、第4受信部の受光レベルが1.0μW/cm2である場合、両受光レベルの比率(3:1)に基づいて重複領域VA3の領域長を4等分し、当該領域VA3の上流端から1つ目の位置P6を、車両のアップリンク情報の送信位置と推定する。
【0093】
また、ビーコン制御機7は、各受信部の受光レベル又は受光レベル比についての受光レベル情報を第2のダウンリンク情報36に含ませて車載機2に送信することができる。この場合、車載機2は、補正部31(図4)において、受光レベル情報を用いた距離情報の補正を行うことによって、より正確に距離認識を行うことができる。
【0094】
〔第4実施形態〕
図11は、本発明の第4実施形態に係る光ビーコン4の通信領域Aを示す側面図である。
この第4実施形態では、ビーコン制御機7の記憶装置に記憶される距離情報が、アップリンク領域UAの最上流端cからその下流側の所定位置P0までの距離L0についての第1の距離情報と、アップリンク領域UAの最上流端cから各分割領域UA1〜UA4内の所定位置P1〜P4までの距離L1′〜L4′についての第2の距離情報とを含む。
【0095】
そして、ビーコン制御機7は、第1の距離情報と、アップリンク情報35を受信したフォトセンサ11に対応する第2の距離情報とを第2のダウンリンク情報36の送信フレームに格納し、当該送信フレームをビーコンヘッド8から繰り返し送出する。
この第2のダウンリンク情報36を車載ヘッド27が受信すると、図4に示すように、車載コンピュータ26の距離認識部30が、そのダウンリンク情報36の送信フレームに含まれている第1の距離情報と第2の距離情報とを抽出し、これら第1,第2距離情報から実距離L1〜L4(図12)を演算する。
【0096】
すなわち、第1の距離情報を構成する距離L0から第2の距離情報を構成する距離L1′〜L4′を差し引く演算を行う。そして、車載コンピュータ26の支援制御部32は実距離L1〜L4を利用して、ドライバに対する安全運転支援を行う。従って、本実施形態においても上記第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
また、本実施形態においても、2つのフォトセンサ11によりアップリンク情報35を同時に受信した場合に、第2実施形態と同様の制御を行うことができるように、アップリンク領域UAの最上流端cを上流端とし、分割領域UA1〜UA4の道路R上の各境界位置e1,e2,e3を下流端とする距離についての距離情報を第2の距離情報としてビーコン制御機7の記憶装置に予め記憶しておいてもよい。
【0097】
また、本実施形態では、例えば、距離L1′〜L4′の全てに識別番号等を付与し、その全ての距離L1〜L4とそれに対応する識別番号とを第2のダウンリンク情報に含ませ、同時に、アップリンク情報35を受信したフォトセンサ11に応じた1の識別番号をも第2のダウンリンク情報36に含ませるようにしてもよい。
この場合、車載コンピュータ26の距離認識部30は、第2のダウンリンク情報36に含まれる前記1の識別番号をもとに、距離L1′〜L4′の中から対応する距離を選択し、当該距離を前記距離L0から差し引くことで、所定位置P0までの実距離を認識することができる。
【0098】
〔第5実施形態〕
図13〜図15は、本発明の第5実施形態に係る路車間通信システムを示している。
本実施形態が第1実施形態と異なる点は、図13〜図15に示すように、アップリンク領域UAが車両進行方向に分割されておらず、1つのフォトセンサ(受信部)11による非分割の受信領域になっている点にある。
以下、第1実施形態の場合と同様の構造及び機能の部材については、図面に同じ符号を付してその説明を省略し、第1実施形態と異なる部分についてのみ、重点的に説明を加える。
【0099】
本実施形態では、光ビーコン4が提供する第2のダウンリンク情報36に対して、通信領域Aの始点位置P1から所定位置P0までの距離L1についての距離情報だけでなく、ダウンリンク切り替え(図5のF5)を行った後の最初の第2のダウンリンク情報36の送信を基準とした送信経過情報を含んでいる(この点で、前記特願2006−121700号と同様)。
この送信経過情報は、最初の第2のダウンリンク情報36の送信時を基準時とした経過時間であってもよいし、最初の第2のダウンリンク情報36の送信を基準とした送信回数であってもよい。
【0100】
そして、本実施形態では、車載機2(車載コンピュータ26)の距離認識部30が、上記送信経過情報を用いて距離情報から得られる距離L1を補正し、所定位置P0までの実際の距離Lを求めるようになっている。
例えば図15に示すように、繰り返し送信されるダウンリンク情報D1,D2のうち、車載機2が1回目のダウンリンク情報D1を受信できず、2回目のダウンリンク情報D2を受信できたとする。
【0101】
この場合、車載機2の補正部31は、2回目のダウンリンク情報に含まれる経過時間又は経過回数に基づいて、アップリンク情報35のを送信時から2回目のダウンリンク情報D2を受信するまでに進行した車両Cの進行距離を補正値Eとして求める。そして、車載機2の距離認識部30は、距離情報に含まれる距離L1から上記補正値Eを減算することにより、下流側の停止線40までの実際の距離Lを求める。
このように、本実施形態では、車載機2側において、送信角度φのぶれΔφに基づく距離誤差の補正だけでなく、送信経過情報を用いて距離情報を補正しているため、通信領域A内でのダウンリンク情報36の受信位置がまちまちであることに伴う誤差も解消することができる。このため、前方の停止線40までの距離認識の精度を高めることができ、信頼性の高い運転支援制御を行うことができる。
【0102】
本発明は、上記各実施形態に限定されるものではない。
例えば、図3に示すように、アップリンク領域UAを分割した分割タイプの路車間通信システムにおいて、距離情報を構成する距離L1〜L4の上流端P1〜P4の位置は、各分割領域UA1〜UA4の道路R上の略中央位置に限らず任意に設定することができる。例えば、上流端P1〜P4は、各分割領域UA1〜UA4の道路R上の上流端(c,e1,e2,e3で示す位置)に設定したり、各分割領域UA1〜UA4の道路R上の下流端(e1,e2,e3,bで示す位置)に設定したりすることができる。
【0103】
また、分割領域UA1〜UA4の数(フォトセンサ11の数)は、2つ、3つ、又は5つ以上としてもよい。
また、フォトセンサ11は、その受信領域を論理的に複数の領域に分割することによって、それぞれを受信部とすることができる。つまり、1つのフォトセンサ11が複数の受信部を有する構成とすることができる。そして、これら受信部をそれぞれ道路上の分割領域UA1〜UA4に対応させ、アップリンク光が当該フォトセンサ11のどの領域に照射されたかに応じて、距離情報を選択することもできる。この場合、分割領域の数よりも少ないフォトセンサ11を用いて全ての分割領域に対応させることができる。
【0104】
例えば、本出願人が既に特許出願した特願2007−188019に示すように、アップリンク光Uが受光面に入射した受光位置に基づいてアップリンク光の送信位置を特定できるフォトセンサ(フォトダイオード)がある。かかるフォトセンサをアップリンク光Uの受光部として採用すれば、そのフォトセンサの受光領域を分割領域UA1〜UA4に対応して分割することにより、各分割領域UA1〜UA4に対応する複数の距離情報を1つのフォトセンサによって生成させることができる。
【0105】
距離情報を構成する距離L1〜L4の下流端については、停止線40のほか、信号機の設置位置や車両感知器の位置としてもよい。
また、上記各実施形態における距離情報は、所定位置P0までの距離の値を直接格納する形式に限られず、所定位置P0までの距離を一意に決定しうる情報であれば、どのような形式であってもよい。
【0106】
例えば、アップリンク領域UAからその下流側の所定位置P0までの間に1又は複数のノードを設定し、これらのノードに応じた複数の距離値群によって距離情報を構成することもできる。例えば、始点となるアップリンク領域UA内の所定位置(例えばアップリンク領域UAの上流端c)からその直近のノードまでの距離、各ノード間の距離、及び、所定位置P0直近のノードから所定位置P0までの距離によって距離情報を構成することができる。この場合、この距離情報を受信した車載コンピュータ26は、各距離の合計値を求めることで、所定位置P0までの距離を認識することができる。
【0107】
また、光ビーコン4が送信する距離情報は、距離そのものの値だけでなくその距離に対応する位置情報も含まれ、当該距離の始点と終点との絶対位置(緯度・経度や宇宙空間上の任意の点を原点とする3次元空間の座標値等)を示す情報とすることができる。
例えば、距離情報を、本発明によって得られるアップリンク領域UA内の絶対位置に関する情報と、所定位置P0の絶対位置に関する情報とを含む構成とし、双方の絶対位置をもとに、車載機2の距離認識部30で距離を算出すればよい。
【0108】
なお、距離情報が上記絶対位置に関する情報である場合には、車載機2の車載コンピュータ26において、補正部31がアップリンク領域UA内の始点位置を先に補正してから正式な距離を求める演算処理を採用することもできるし、始点位置から所定位置までの距離を算出してからこの距離を補正部31が補正する演算処理を採用することもできる。
このように、本明細書において、「距離情報を補正する」とは、距離の値そのものを補正するだけでなく、その距離の始端となるアップリンク領域UAの始点位置を補正する場合も含まれるものである。
【0109】
また、車載機2側で所定位置P0の絶対位置に関する情報を記憶している場合には、光ビーコン4は、本発明によって得られるアップリンク領域UA内の絶対位置に関する情報のみを送信してもよい。
また、所定位置P0の地点を含む道路の形状を示す道路形状情報や詳細な地図情報と、当該道路上又は地図上であって、本発明によって得られるアップリンク領域UA内の位置に対応する位置情報とを光ビーコン4が送信し、この情報をもとに車載機2が所定位置P0までの距離を取得する方法を用いてもよい。
【0110】
この場合、道路形状情報や地図情報は予め車載機2に記憶させてもよいし、光ビーコン4以外の無線通信によって車載機2に送信する方法でもよい。
更に、車載コンピュータ26の各機能部30,31,32は、車両Cの電子制御装置(ECU)に組み込むこともできる。
上記各実施形態では、通信領域A(特に、アップリンク領域UA)が、光ビーコンの「近赤外線式インタフェース規格」よりも広いものとして説明しているが、通信領域Aは、当該規格に準じた寸法に設定されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の第1実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】光ビーコンの平面図である。
【図3】光ビーコンの通信領域を示す側面図である。
【図4】光ビーコンと路車間通信する車載機と、この車載機が搭載された車両の概略構成図である。
【図5】通信領域で行われる路車間通信の手順とデータ内容を示す概念図である。
【図6】アップリンク情報をいずれかの受信部が受信したあとダウンリンク情報を送信する手順を示す概略図である。
【図7】車載機(車両)の傾きによる距離誤差の発生原理を示す説明図である。
【図8】傾き検出器による車載機(車両)の傾きの検出原理を示す説明図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るアップリンク領域の一部を拡大した側面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る光ビーコンの通信領域の側面図である。
【図11】同アップリンク領域の一部を拡大して示す側面図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係る光ビーコンの通信領域の側面図である。
【図13】本発明の第5実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図14】光ビーコンの平面図である。
【図15】光ビーコンの通信領域を示す側面図である。
【符号の説明】
【0112】
2 車載機
4 光ビーコン
7 ビーコン制御機(通信制御部)
8 ビーコンヘッド(投受光器)
10 発光ダイオード(LED)
11 フォトセンサ(受信部)
26 車載コンピュータ
27 車載ヘッド(投受光器:受信部)
27A 発光ダイオード(LED)
30 距離認識部
31 補正部
32 支援制御部
33 傾き検出器(傾き検出手段)
34 第1のダウンリンク情報
35 アップリンク情報
36 第2のダウンリンク情報
A 通信領域
C 車両
R 道路
P0 停止線(所定位置)
P1〜P4 始点位置
DA ダウンリンク領域
UA アップリンク領域
UA1〜UA4 分割領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を走行する車両の車載機と、前記道路の所定範囲に通信領域が設定された投受光器を有する光ビーコンとを備え、前記通信領域において前記車載機と前記光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行う路車間通信システムであって、
前記光ビーコンは、アップリンク情報の送信時における前記車両の走行位置と対応する始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を含むダウンリンク情報を、前記投受光器に送信させる通信制御部を有し、
前記車載機は、アップリンク情報の送信時における前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出手段と、検出された傾きに基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求める距離認識部とを有することを特徴とする路車間通信システム。
【請求項2】
道路を走行する車両の車載機と、アップリンク領域とダウンリンク領域とからなる通信領域が道路の所定範囲に設定された投受光器を有する光ビーコンとを備え、前記アップリンク領域において前記車載機がアップリンク情報を送信し、前記ダウンリンク領域において前記投受光器がダウンリンク情報を送信する路車間通信システムであって、
前記投受光器は、前記アップリンク領域を車両進行方向に分割してなる各分割領域に対応してアップリンク情報を受信する複数の受信部を有し、
前記光ビーコンは、アップリンク情報を受信した前記受信部に対応する前記分割領域内の始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を含むダウンリンク情報を、前記投受光器に送信させる通信制御部を有し、
前記車載機は、アップリンク情報の送信時における前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出手段と、検出された傾きに基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求める距離認識部とを有することを特徴とする路車間通信システム。
【請求項3】
前記通信制御部は、前記アップリンク領域での道路勾配に関する勾配情報を前記ダウンリンク情報に含めて送信するものであり、
前記距離認識部は、前記傾き検出手段で検出された傾きと前記勾配情報に基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求めるものである請求項1又は2に記載の路車間通信システム。
【請求項4】
前記傾き検出手段は、ジャイロセンサ、Gセンサ及び加速度センサのうち少なくとも2つを含んで構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の路車間通信システム。
【請求項5】
道路を走行する車両の車載機であって、前記道路の所定範囲に通信領域が設定された光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行う車載機において、
アップリンク情報の送信時における前記車両の走行位置と対応する始点位置から、その下流側の前記道路上の所定位置までの距離に関する距離情報を含むダウンリンク情報を、前記投受光器から受信する受信部と、
アップリンク情報の送信時における前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出手段と、
検出された傾きに基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求める距離認識部とを備えていることを特徴とする車載機。
【請求項6】
道路を走行する車両の車載機であって、アップリンク領域とダウンリンク領域とからなる通信領域が設定された光ビーコンの投受光器にアップリンク情報を送信し、その投受光器からダウンリンク情報を受信する車載機において、
前記アップリンク領域を車両進行方向に分割してなる分割領域内に設定された始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を含むダウンリンク情報を、前記投受光器から受信する受信部と、
アップリンク情報の送信時における前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出手段と、
検出された傾きに基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求める距離認識部とを備えていることを特徴とする車載機。
【請求項7】
前記ダウンリンク情報には、前記アップリンク領域での道路勾配に関する勾配情報が含まれており、
前記距離認識部は、前記傾き検出手段で検出された傾きと前記勾配情報に基づいて前記距離情報を補正して前記距離を求めるものである請求項5又は6に記載の車載機。
【請求項8】
前記傾き検出手段は、ジャイロセンサ、Gセンサ及び加速度センサのうち少なくとも2つを含んで構成されている請求項5〜7のいずれか1項に記載の車載機。
【請求項9】
道路の所定範囲に設定された通信領域において、車両に搭載された車載機と光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行う路車間通信方法であって、
前記光ビーコンは、アップリンク情報の送信時における前記車両の走行位置と対応する始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を、そのアップリンク情報を受信した後のダウンリンク情報に含めて前記車載機に送信し、
前記車載機は、前記車両のピッチ方向の傾きに応じて前記距離情報を補正して前記距離を求めることを特徴とする路車間通信方法。
【請求項10】
車両に搭載された車載機が道路の所定範囲に設定されたアップリンク領域において光ビーコンの投受光器にアップリンク情報を送信し、このアップリンク情報の受信に対応して、前記投受光器が前記道路の所定範囲に設定されたダウンリンク領域において前記車載機にダウンリンク情報を送信する路車間通信方法であって、
前記光ビーコンは、前記アップリンク領域を車両進行方向に分割してなる分割領域内に設定された始点位置から、その下流側の所定位置までの距離に関する距離情報を、そのアップリンク情報を受信した後のダウンリンク情報に含めて前記車載機に送信し、
前記車載機は、前記車両のピッチ方向の傾きに応じて前記距離情報を補正して前記距離を求めることを特徴とする路車間通信方法。
【請求項11】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の車載機を搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−93413(P2009−93413A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263323(P2007−263323)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】