説明

車両のトルクリミッタ装置

【課題】動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない車両において、アンチロックブレーキ装置の作動時に過大なトルクが周期的に作用し、低サイクル疲労によってシャフトやギヤ等の耐久性が低下することを簡便な制御で防止する。
【解決手段】アンチロックブレーキ装置90によってブレーキ力が制御されている時には、クラッチC1、C2の係合トルクTC1、TC2、具体的には油圧PC1、PC2が所定の低下率で低下させられるため、動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない本車両においても、クラッチC1またはC2のスリップによりアンチロックブレーキ装置90の作動に伴うトルク変動のピーク値が低くなり、低サイクル疲労による動力伝達経路の各部材の耐久性の低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のトルクリミッタ装置に係り、特に、動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない車両に好適に適用されるトルクリミッタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない車両が近年提案されている。例えば、(a) 燃料の燃焼で動力を発生するエンジンと、(b) 電動モータと、(c) 前記エンジン、前記電動モータ、および出力部材の間で動力を機械的に合成、分配する合成分配装置と、を有するハイブリッド車両の中には、流体継手を備えていないものがある。このような車両においては、急制動時の車輪ロック等により動力伝達経路に過大なトルクが入力された場合、トルクコンバータのようにトルクを吸収する機能が無いため、エンジン等の駆動源に直接作用して大きな衝撃が発生し、動力伝達を行うシャフトが折損したり各部のギヤが損傷したりする可能性があった。また、ベルト式無段変速機を備えている場合には、そのベルトが滑る可能性があった。
【0003】
これに対し、ベルト式無段変速機と駆動輪との間に発進用クラッチを配設し、制動時等に過大なトルクが入力された場合には、その発進用クラッチのスリップによってベルトの滑りを防止することが、例えば非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「HONDA R&D Technical Review」(VOL.8 1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、駆動輪がロックしないようにブレーキ力を制御するアンチロックブレーキ装置を備えている場合、その作動時には過大なトルクが周期的に作用するため、低サイクル疲労によってシャフトやギヤ等の耐久性が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない車両において、アンチロックブレーキ装置の作動時に過大なトルクが周期的に作用し、低サイクル疲労によってシャフトやギヤ等の耐久性が低下することを、比較的簡便な制御で防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) 走行用の動力源と駆動輪との間に動力伝達に関与する摩擦係合装置が設けられている一方、(b) その駆動輪がロックしないようにその駆動輪に設けられた制動装置のブレーキ力を制御するアンチロックブレーキ装置を備えている車両において、(c) 前記アンチロックブレーキ装置によって前記制動装置のブレーキ力が制御されている時には、前記摩擦係合装置の係合トルクを低減させる係合トルク制御手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アンチロックブレーキ装置によって制動装置のブレーキ力が制御されている時には、摩擦係合装置の係合トルクが低減されるため、動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない車両においても、摩擦係合装置のスリップによりアンチロックブレーキ装置の作動に伴うトルク変動のピーク値が低くなり、低サイクル疲労による動力伝達経路の各部材の耐久性の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用されたハイブリッド駆動装置を説明する概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド駆動装置の動力伝達系を示す骨子図である。
【図3】図1の油圧制御回路の一部を示す回路図である。
【図4】図1のハイブリッド駆動装置において成立させられる幾つかの走行モードと、クラッチおよびブレーキの作動状態との関係を説明する図である。
【図5】図4のETCモード、直結モード、およびモータ走行モード(前進)における遊星歯車装置の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。
【図6】図1のHVECUが備えている幾つかの機能を示すブロック線図である。
【図7】図1のハイブリッド駆動装置において、ベルト式無段変速機のベルトの滑りを防止するためのトルクリミッタの作動を説明するフローチャートである。
【図8】図1のハイブリッド駆動装置において、アンチロックブレーキ装置の制御に起因する低サイクル疲労を抑制するためのトルクリミッタの作動を説明するフローチャートである。
【図9】図1のハイブリッド駆動装置において、エンジン始動時に共振による異常振動が発生することを抑制するためのトルクリミッタの作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない車両に好適に適用される。また、燃料の燃焼で動力を発生するエンジンなど、過大な入力トルクを受け止めることができるイナーシャの大きな動力源を備えている場合に好適に適用される。
【0011】
トルクコンバータ等の流体継手を備えておらず、且つ燃料の燃焼で動力を発生するエンジンを動力源として備えている車両としては、エンジンおよびモータジェネレータを備えているシリーズ型、パラレル型等のハイブリッド車両が広く知られている。例えば(a) 燃料の燃焼で動力を発生するエンジンと、(b) モータジェネレータと、(c) 前記エンジン、前記モータジェネレータ、および出力部材の間で動力を機械的に合成、分配する合成分配装置と、を有するハイブリッド車両はその一例である。モータジェネレータは、例えば電動モータおよびジェネレータとして用いられるが、その一方のみの機能を有する電動モータまたはジェネレータであっても良い。動力を機械的に合成、分配する合成分配装置としては、傘歯車式の差動装置や遊星歯車装置が好適に用いられる。
【0012】
動力伝達に関与する摩擦係合装置とは、動力伝達経路に介在させられて動力を伝達、遮断するクラッチは勿論、変速機側へ動力を出力するのに必要な所定の反力受け要素をケースに固定するブレーキであっても良い。摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる単板式、多板式等の油圧式摩擦クラッチや、油圧式摩擦ブレーキが好適に用いられるが、電磁式の摩擦係合装置を用いることもできる。
【0013】
係合トルク制御手段は、アンチロックブレーキ装置が作動中か否かを判断し、作動中は例えば摩擦係合装置の係合トルクを予め定められた所定値だけ低下させるように構成されるが、所定の低下率で漸減させるように構成することが望ましい。所定の低下率で低下させれば、周期的に変化するトルクのピーク値が摩擦係合装置のスリップによって徐々に低下するため、一定の大きさ(ピーク値)のトルクが周期的に繰り返し作用する場合に比較して、低サイクル疲労が一層効果的に抑制される。係合トルクを予め定められた所定値だけ低下させる場合、低下幅は一定値であっても良いが、駆動源の回転速度など所定の物理量をパラメータとしてマップや演算式などから低下幅を設定することもできる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド駆動装置10を説明する概略構成図で、図2は変速機12を含む骨子図であり、このハイブリッド駆動装置10は、トルクコンバータ等の流体継手を備えていないとともに、燃料の燃焼で動力を発生するエンジン14、電動モータおよびジェネレータとして用いられるモータジェネレータ16、およびダブルピニオン型の遊星歯車装置18を備えて構成されている。遊星歯車装置18のサンギヤ18sにはエンジン14が連結され、キャリア18cにはモータジェネレータ16が連結され、リングギヤ18rは第1ブレーキB1を介してケース20に連結されるようになっている。また、キャリア18cは第1クラッチC1を介して変速機12の入力軸22に連結され、リングギヤ18rは第2クラッチC2を介して入力軸22に連結されるようになっている。エンジン14は、ばねやゴム等の弾性部材を有するダンパ装置15、およびシャフト17を介してサンギヤ18sに連結されている。遊星歯車装置18は合成分配装置に相当し、変速機12の入力軸22は出力部材に相当する。
【0015】
上記クラッチC1、C2および第1ブレーキB1は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる湿式多板式の油圧式摩擦係合装置で、油圧制御回路24から供給される作動油によって摩擦係合させられるようになっている。図3は、油圧制御回路24の要部を示す図で、電動ポンプを含む電動式油圧発生装置26で発生させられた元圧PCが、マニュアルバルブ28を介してシフトレバー30(図1参照)の操作レンジに応じて各クラッチC1、C2、ブレーキB1へ供給されるようになっている。シフトレバー30は、運転者によって操作されるシフト操作部材で、本実施例では「B」、「D」、「N」、「R」、「P」の5つのレンジに選択操作されるようになっており、マニュアルバルブ28はケーブルやリンク等を介してシフトレバー30に連結され、そのシフトレバー30の操作に従って機械的に切り換えられるようになっている。
【0016】
「B」レンジは、前進走行時に変速機12のダウンシフトなどにより比較的大きな動力源ブレーキが発生させられる操作レンジで、「D」レンジは前進走行する操作レンジであり、これ等の操作レンジでは出力ポート28aからクラッチC1およびC2へ元圧PCが供給される。第1クラッチC1へは、シャトル弁31を介して元圧PCが供給されるようになっている。「N」レンジは動力源からの動力伝達を遮断する操作レンジで、「R」レンジは後進走行する操作レンジで、「P」レンジは動力源からの動力伝達を遮断するとともに図示しないパーキングロック装置により機械的に駆動輪の回転を阻止する操作レンジであり、これ等の操作レンジでは出力ポート28bから第1ブレーキB1へ元圧PCが供給される。出力ポート28bから出力された元圧PCは戻しポート28cへも入力され、上記「R」レンジでは、その戻しポート28cから出力ポート28dを経てシャトル弁31から第1クラッチC1へ元圧PCが供給されるようになっている。
【0017】
クラッチC1、C2、およびブレーキB1には、それぞれコントロール弁32、34、36が設けられ、それ等の油圧PC1、PC2、PB1が制御されるようになっている。クラッチC1の油圧PC1についてはON−OFF弁38によって調圧され、クラッチC2およびブレーキB1についてはリニアソレノイド弁40によって調圧されるようになっている。
【0018】
そして、上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1の作動状態に応じて、図4に示す各走行モードが成立させられる。すなわち、「B」レンジまたは「D」レンジでは、「ETCモード」、「直結モード」、「モータ走行モード(前進)」の何れかが成立させられ、「ETCモード」では、第2クラッチC2を係合するとともに第1クラッチC1および第1ブレーキB1を開放した状態で、エンジン14およびモータジェネレータ16を共に作動させて車両を前進走行させる。「直結モード」では、クラッチC1、C2を係合するとともに第1ブレーキB1を開放した状態で、エンジン14を作動させて車両を前進走行させる。また、「モータ走行モード(前進)」では、第1クラッチC1を係合するとともに第2クラッチC2および第1ブレーキB1を開放した状態で、モータジェネレータ16を作動させて車両を前進走行させる。「ETCモード」は電気トルコンモードでエンジン・モータ走行モードに相当し、「直結モード」はエンジン直結モードに相当する。
【0019】
図5は、上記前進モードにおける遊星歯車装置18の作動状態を示す共線図で、「S」はサンギヤ18s、「R」はリングギヤ18r、「C」はキャリア18cを表しているとともに、それ等の間隔はギヤ比ρ(=サンギヤ18sの歯数/リングギヤ18rの歯数)によって定まる。具体的には、「S」と「C」の間隔を1とすると、「R」と「C」の間隔がρになり、本実施例ではρが0.6程度である。また、(a) のETCモードにおけるトルク比は、エンジントルクTe:CVT入力軸トルクTin:モータトルクTm=ρ:1:1−ρであり、モータトルクTmはエンジントルクTeより小さくて済むとともに、定常状態ではそれ等のモータトルクTmおよびエンジントルクTeを加算したトルクがCVT入力軸トルクTinになる。CVTは無段変速機の意味であり、本実施例では変速機12としてベルト式無段変速機が設けられている。
【0020】
図4に戻って、「N」レンジまたは「P」レンジでは、「ニュートラル」または「充電・Eng始動モード」の何れかが成立させられ、「ニュートラル」ではクラッチC1、C2および第1ブレーキB1の何れも開放する。「充電・Eng始動モード」では、クラッチC1、C2を開放するとともに第1ブレーキB1を係合し、モータジェネレータ16を逆回転させてエンジン14を始動したり、エンジン14により遊星歯車装置18を介してモータジェネレータ16を回転駆動するとともにモータジェネレータ16を回生制御して発電し、バッテリ42(図1参照)を充電したりする。
【0021】
「R」レンジでは、「モータ走行モード(後進)」または「フリクション走行モード」が成立させられ、「モータ走行モード(後進)」では、第1クラッチC1を係合するとともに第2クラッチC2および第1ブレーキB1を開放した状態で、モータジェネレータ16を逆回転方向へ作動させて車両を後進走行させる。「フリクション走行モード」では、第1クラッチC1を係合するとともに第2クラッチC2を開放した状態で、モータジェネレータ16を逆回転方向へ作動させて車両を後進走行させる一方、エンジン14を作動させるとともにリングギヤ18rが正方向へ回転させられる状態で第1ブレーキB1をスリップ係合させることにより、キャリア18c更には入力軸22に後進方向のアシスト力を作用させるものである。
【0022】
前記変速機12はベルト式無段変速機で、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout )が1.0より大きい所定の変速比範囲で入力軸22の回転を減速(トルク増幅)して出力軸44へ出力する。出力軸44へ出力された動力は、リダクションギヤ46を経て差動装置48のリングギヤ50に伝達され、その差動装置48により左右の駆動輪52に分配される。
【0023】
本実施例のハイブリッド駆動装置10は、図1に示すHVECU60によって制御されるようになっている。HVECU60は、CPU、RAM、ROM等を備えていて、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行することにより、電子スロットルECU62、エンジンECU64、M/GECU66、T/MECU68、前記油圧制御回路24のON−OFF弁38、リニアソレノイド弁40、エンジン14のスタータ70などを制御する。電子スロットルECU62はエンジン14の電子スロットル弁72を開閉制御するもので、エンジンECU64はエンジン14の燃料噴射量や可変バルブタイミング機構、点火時期などによりエンジン出力を制御するもので、M/GECU66はインバータ74を介してモータジェネレータ16の力行トルクや回生制動トルク等を制御するもので、T/MECU68は変速機12の変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout )やベルト押圧力などを制御するものである。変速機12は油圧アクチュエータによって変速比γやベルト押圧力が制御されるもので、前記油圧制御回路24は、変速機12の変速比γやベルト押圧力を制御するための回路を備えている。スタータ70は電動モータで、モータ軸に設けられたピニオンをエンジン14のフライホイール等に設けられたリングギヤに噛み合わせてエンジン14をクランキングするものである。
【0024】
上記HVECU60には、アクセル操作量センサ76からアクセル操作部材としてのアクセルペダル78の操作量θacを表す信号が供給されるとともに、シフトポジションセンサ80からシフトレバー30の操作レンジ(シフトポジション)を表す信号が供給される。また、エンジン回転速度センサ82、モータ回転速度センサ84、入力軸回転速度センサ86、出力軸回転速度センサ88から、それぞれエンジン回転速度(回転数)Ne、モータ回転速度(回転数)Nm、入力軸回転速度(入力軸22の回転速度)Nin、出力軸回転速度(出力軸44の回転速度)Nout を表す信号がそれぞれ供給される。出力軸回転速度Nout は車速Vに対応する。この他、駆動輪52がロックしないように制動装置のブレーキ力を制御するアンチロックブレーキ装置(ABS)90からその作動状態を表す信号が供給されるとともに、バッテリ42の蓄電量SOCなど、運転状態を表す種々の信号が供給されるようになっている。アンチロックブレーキ装置90は、車輪のスリップ状態に応じてブレーキ油圧を制御するもので、作動中はブレーキ油圧すなわちブレーキ力が周期的に変化する。蓄電量SOCは単にバッテリ電圧であっても良いが、充放電量を逐次積算して求めるようにしても良い。
【0025】
そして、かかるHVECU60は、基本的に図6に示す各機能を備えていて、前記図4の走行モードを実施するようになっている。図6のETCモード制御手段100は「ETCモード」を実施するもので、直結モード制御手段102は「直結モード」を実施するもので、モータ前進手段104は「モータ走行モード(前進)」を実施するもので、充電制御手段106は「充電・Eng始動モード」を実施するもので、モータ後進手段108は「モータ走行モード(後進)」を実施するもので、エンジンアシスト後進手段110は「フリクション走行モード」を実施するものであり、ETCモード制御手段100および直結モード制御手段102はエンジン前進手段112を構成している。また、モード判定手段114は、アクセル操作量θacや車速V(出力軸回転速度Nout )、蓄電量SOC、シフトレバー30のシフトポジション、エンジン14の冷却水温度等に基づいて走行モードを判定し、その判定した走行モードで運転が行われるように上記各手段を切り換える。
【0026】
HVECU60はまた、図7のフローチャートに従って信号処理を実行することにより、ベルト式無段変速機12のベルトの滑りを防止するように、クラッチC1、C2の係合トルクTC1、TC2を制御する。すなわち、クラッチC1、C2は、ベルト式無段変速機12のベルトの滑りを防止するためのトルクリミッタとしても機能するのである。
【0027】
ステップS1−1では、クラッチC1、C2の油圧PC1、PC2、具体的には前記ON−OFF弁38やリニアソレノイド弁40に対する油圧指令値や、摩擦材の摩擦係数、摩擦面積、半径などに基づいて、それ等のクラッチC1、C2の係合トルクTC1、TC2を算出する。油圧PC1、PC2は、例えば前記図4の走行モードやエンジントルクTe、モータトルクTmなどに基づいて、動力伝達に必要な係合トルクTC1、TC2が得られるように、所定の余裕を持って制御される。
【0028】
ステップS1−2では、ベルト式無段変速機12のベルト押圧力などに基づいて、ベルトが滑りを生じることなく伝達できるベルト伝達トルクTCVT を算出する。具体的には、ベルト押圧力を制御する油圧指令値や摩擦係数、変速比γなどに基づいて算出される。
【0029】
そして、ステップS1−3では、ベルト式無段変速機12のベルトが滑りを生じる前にクラッチC1またはC2がスリップするように、上記ベルト伝達トルクTCVT に基づいて係合トルクTC1、TC2の上限値を設定し、係合トルクTC1、TC2が上限値を越えている場合はその上限値となるように前記ON−OFF弁38やリニアソレノイド弁40による油圧PC1、PC2の調圧制御を補正する。このステップS1−3では、係合制御されているクラッチC1および/またはC2の係合トルクTC1、TC2の上限値を制限すれば良く、クラッチC1およびC2が共に係合させられている場合は何れか一方の上限値を制限するだけでも良い。
【0030】
このようにすれば、急制動時等に駆動輪52がロックするなどして動力伝達経路に過大なトルク入力があった場合、ベルト式無段変速機12のベルトが滑りを生じる前にクラッチC1またはC2がスリップするため、動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない本車両においても、ベルト式無段変速機12のベルトの滑りが防止されて耐久性が向上する。
【0031】
一方、クラッチC1、C2はベルト式無段変速機12よりも動力源側に配設されているため、駆動輪52側に比較してベルト式無段変速機12の変速比γ分だけトルクが小さく、係合トルクTC1、TC2の制御、具体的にはON−OFF弁38やリニアソレノイド弁40による油圧PC1、PC2の調圧制御が容易である。また、上限ガード実施中は、ベルト式無段変速機12のベルト押圧力に応じて係合トルクTC1、TC2を連続的に制御する必要があるが、制御範囲が比較的狭いため、調圧制御の応答遅れ等に拘らず高い制御精度が得られる。
【0032】
このような図7の制御は、クラッチC1、C2が共に係合させられてエンジン14が入力軸22に直結される「直結モード」で特に効果的である。
【0033】
HVECU60はまた、図8のフローチャートに従って信号処理を実行し、アンチロックブレーキ装置90の作動時にクラッチC1、C2の係合トルクTC1、TC2を低減することにより、アンチロックブレーキ装置90の制御に起因する低サイクル疲労を抑制する。すなわち、クラッチC1、C2は、アンチロックブレーキ装置90の制御に起因する低サイクル疲労を抑制するためのトルクリミッタとしても機能するのである。
【0034】
ステップS2−1では、アンチロックブレーキ装置90が作動中か否か、すなわち車輪のロックを防止するためにブレーキ力を制御中か否かを、アンチロックブレーキ装置90から供給される信号によって判断し、制御中の場合はステップS2−2でクラッチC1、C2の油圧PC1、PC2を強制的に低下させて係合トルクTC1、TC2を低減する。クラッチC1、C2の油圧PC1、PC2は、アンチロックブレーキ装置90の作動時にステップS2−2が所定のサイクルタイムで繰り返し実行される毎に一定量ずつ低下させられ、所定の低下率で漸減させられる。ステップS2−2では、係合制御されているクラッチC1および/またはC2の油圧PC1、PC2を低下させれば良く、クラッチC1およびC2が共に係合させられている場合は、何れか一方の油圧PC1またはPC2を低下させるだけでも良い。
【0035】
このようにすれば、アンチロックブレーキ装置90によってブレーキ力が制御されている時には、クラッチC1、C2の係合トルクTC1、TC2、具体的には油圧PC1、PC2が所定の低下率で低下させられるため、動力伝達経路にトルクコンバータ等の流体継手を備えていない本車両においても、クラッチC1またはC2のスリップによりアンチロックブレーキ装置90の作動に伴うトルク変動のピーク値が低くなり、低サイクル疲労による動力伝達経路の各部材の耐久性の低下が抑制される。
【0036】
また、本実施例では油圧PC1、PC2を所定の低下率で漸減させるようになっているため、周期的に変化するトルクのピーク値がクラッチC1、C2のスリップによって徐々に低下し、一定の大きさ(ピーク値)のトルクが周期的に繰り返し作用する場合に比較して、低サイクル疲労が一層効果的に抑制される。
【0037】
また、クラッチC1、C2がベルト式無段変速機12よりも動力源側に配設されているため、駆動輪52側に比較してベルト式無段変速機12の変速比γ分だけトルクが小さく、係合トルクTC1、TC2の制御、具体的にはON−OFF弁38やリニアソレノイド弁40による油圧PC1、PC2の調圧制御が容易である。
【0038】
このような図8の制御は、クラッチC1、C2が共に係合させられてエンジン14が入力軸22に直結される「直結モード」で特に効果的である。
【0039】
上記図8の制御は、本発明の実施例に相当し、HVECU60による一連の信号処理のうち図8の各ステップS2−1〜S2−2を実行する部分は、ON−OFF弁38およびリニアソレノイド弁40と共に本発明の係合トルク制御手段を構成している。
【0040】
HVECU60は更に、前記充電制御手段106によるエンジン14の始動時に、図9のフローチャートに従って第1ブレーキB1の係合トルクTB1を制御することにより、共振による異常トルクの発生を抑制する。すなわち、第1ブレーキB1は、エンジン始動時に共振による異常振動が発生することを抑制するためのトルクリミッタとしても機能するのである。
【0041】
ステップS3−1では、充電制御手段106によりクラッチC1、C2を開放するとともに第1ブレーキB1を係合し、且つモータジェネレータ16を逆回転させてエンジン14をクランキングすることにより、エンジン14を始動するエンジン始動制御中か否かを、例えば前記モード判定手段114の指令信号やモータジェネレータ16の作動状態などから判断する。充電制御手段106によりエンジン14の始動制御が行われる場合は、ステップS3−2を実行し、第1ブレーキB1の係合トルクTB1をエンジン14のクランキングトルクなどに基づいて予め定められた始動時係合トルクTB1* に調整する。始動時係合トルクTB1* は、エンジン14のクランキングなど始動に必要なトルクは、モータジェネレータ16から遊星歯車装置18を介してエンジン14に伝達されるように、反力受け要素であるリングギヤ18rをケース20に固定するが、共振等により必要以上の異常トルクが発生した場合には第1ブレーキB1がスリップするように、予め実験等によって定められた一定値である。但し、この始動時係合トルクTB1* がエンジン14の始動時に学習補正されるようにしても良い。係合トルクTB1の調整は、リニアソレノイド弁40による油圧PB1の調圧制御で行われる。
【0042】
ここで、クラッチC1、C2を開放するとともに第1ブレーキB1を係合し、且つモータジェネレータ16を逆回転させてエンジン14をクランキングすることによりエンジン14を始動する際には、シャフト17やダンパ装置15をバネとするバネ・マス系が構成されるため、トルクコンバータ等の流体継手を備えていない本車両においては、その共振点をエンジン回転速度Neが通過する時に共振が発生し、過大なトルク変動や大きな振動を発生する可能性があるが、本制御ではエンジン14の始動時に異常トルクが発生した場合には第1ブレーキB1がスリップするようになっているため、その第1ブレーキB1のスリップで異常トルクが吸収され、そのような共振による過大なトルク変動や大きな振動の発生が抑制される。
【0043】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
10:ハイブリッド駆動装置 14:エンジン 16:モータジェネレータ 38:ON−OFF弁 40:リニアソレノイド弁 52:駆動輪 60:HVECU 90:アンチロックブレーキ装置 C1:第1クラッチ(摩擦係合装置) C2:第2クラッチ(摩擦係合装置)
ステップS2−1、S2−2:係合トルク制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力源と駆動輪との間に動力伝達に関与する摩擦係合装置が設けられている一方、該駆動輪がロックしないように該駆動輪に設けられた制動装置のブレーキ力を制御するアンチロックブレーキ装置を備えている車両において、
前記アンチロックブレーキ装置によって前記制動装置のブレーキ力が制御されている時には、前記摩擦係合装置の係合トルクを低減させる係合トルク制御手段を設けた
ことを特徴とする車両のトルクリミッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−7861(P2010−7861A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236142(P2009−236142)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【分割の表示】特願平11−288144の分割
【原出願日】平成11年10月8日(1999.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】