車両の制御装置
【課題】 クラッチの劣化を抑制しつつ、運転性を向上可能な車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】 車両の駆動力を出力するモータと、前記モータと駆動輪との間に介装され指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生するクラッチと、前記クラッチをスリップ制御すると共に、前記クラッチのモータ側の回転数が前記クラッチの駆動輪側回転数よりも所定量高い回転数となるように前記モータを回転数制御する走行モードと、車両停止状態を判定する車両停止状態判定手段と、前記モータの実トルクを検出するトルク検出手段と、前記走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させて前記モータの実トルク変化に応じた補正後指令油圧を設定し、該補正後指令油圧を出力する前に前記補正後指令油圧よりも高いプリチャージ指令油圧を出力する車両停止時伝達トルク容量補正手段と、を備えた。
【解決手段】 車両の駆動力を出力するモータと、前記モータと駆動輪との間に介装され指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生するクラッチと、前記クラッチをスリップ制御すると共に、前記クラッチのモータ側の回転数が前記クラッチの駆動輪側回転数よりも所定量高い回転数となるように前記モータを回転数制御する走行モードと、車両停止状態を判定する車両停止状態判定手段と、前記モータの実トルクを検出するトルク検出手段と、前記走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させて前記モータの実トルク変化に応じた補正後指令油圧を設定し、該補正後指令油圧を出力する前に前記補正後指令油圧よりも高いプリチャージ指令油圧を出力する車両停止時伝達トルク容量補正手段と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源と駆動輪との間の締結要素をスリップ制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制御装置として、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、エンジンとモータの両方の駆動力を用い、モータと駆動輪との間のクラッチをスリップさせつつ発進するエンジン使用スリップモード(以下、WSC走行モードと記載する。)を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−77981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、WSC走行モード中に、運転者がブレーキペダルを踏み込んで停車状態となると、クラッチスリップ状態が継続し、クラッチの発熱や、劣化を招くおそれがある。よって、クラッチへの入力トルクを低下させることでクラッチの発熱を抑制することが考えられる。しかしながら、クラッチへ供給する油圧を下げすぎてしまうと、クラッチの伝達トルク容量が略ゼロ(伝達トルク容量の発生開始ポイントに相当)の状態から更に解放側に解放された状態となるおそれがある。この状態で、運転者がブレーキペダルを離し、アクセルペダルを踏み込んで発進すると、クラッチが伝達トルク容量を持ち始めるまでに時間がかかり、発進時の遅れやショック等が発生し、車両の運転性が低下するおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、動力源と駆動輪との間の締結要素の発熱や劣化を抑制しつつ、運転性を向上可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、車両の駆動力を出力するモータと、前記モータと駆動輪との間に介装され指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生するクラッチと、前記クラッチをスリップ制御すると共に、前記クラッチのモータ側の回転数が前記クラッチの駆動輪側の回転数よりも所定量高い回転数となるように前記モータを回転数制御する走行モードと、車両停止状態を判定する車両停止状態判定手段と、前記モータの実トルクを検出するトルク検出手段と、前記走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させて前記モータの実トルク変化に応じた補正後指令油圧を設定し、該補正後指令油圧を出力する前に前記補正後指令油圧よりも高いプリチャージ指令油圧を出力する車両停止時伝達トルク容量補正手段と、を備えた。
【発明の効果】
【0007】
よって、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を小さくすることができ、クラッチプレートの発熱や劣化等を抑制することができる。また、完全解放状態となる油圧を確認し、その油圧より高い油圧に設定することで、発進時に伝達トルク容量の発生までのラグが生じることが無く、また、締結ショック等を回避することができる。このため、車両の運転性を向上することができる。また、完全解放した後のクラッチピストンのロスストロークを素早く解消することができ、早期に補正後指令油圧を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の後輪駆動のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2のモード選択部にてモードマップと推定勾配との関係を表す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられる通常モードマップを示す図である。
【図6】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられるMWSC対応モードマップを示す図である。
【図7】図2の目標充放電演算部にて目標充放電電力の演算に用いられる目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図8】WSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図である。
【図9】WSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
【図10】車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数の変化を表すタイムチャートである。
【図11】実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すフローチャートである。
【図12】実施例1のプリチャージ量マップである。
【図13】実施例1のプリチャージ時間マップである。
【図14】実施例1のオフセット量マップである。
【図15】実施例1の油圧戻し量マップである。
【図16】実施例1の安全オフセット量マップである。
【図17】実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。尚、詳細については後述する。
【0015】
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルギヤDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0016】
ブレーキユニット900は、液圧ポンプと、複数の電磁弁を備え、要求制動トルクに相当する液圧をポンプ増圧により確保し、各輪の電磁弁の開閉制御によりホイルシリンダ圧を制御する所謂ブレーキバイワイヤ制御を可能に構成されている。各輪FR,FL,RR,RLには、ブレーキロータ901とキャリパ902が備えられ、ブレーキユニット900から供給されるブレーキ液圧により摩擦制動トルクを発生させる。尚、液圧源としてアキュムレータ等を備えたタイプでもよいし、液圧ブレーキに代えて電動キャリパを備えた構成でもよい。
【0017】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0018】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
【0019】
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0020】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0021】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0022】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0024】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0025】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0026】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められるドライバ要求制動トルクに対し回生制動トルクだけでは不足する場合、その不足分を機械制動トルク(摩擦ブレーキによる制動トルク)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。尚、ドライバ要求制動トルクに応じたブレーキ液圧に限らず、他の制御要求により任意にブレーキ液圧を発生可能なのは言うまでもない。
【0027】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0028】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0029】
また、統合コントローラ10は、後述する推定された路面勾配に基づいて車輪に作用する勾配負荷トルク相当値を演算する勾配負荷トルク相当値演算部600と、所定の条件が成立したときにドライバのブレーキペダル操作量に係わらずブレーキ液圧を発生させる第2クラッチ保護制御部700を有する。
【0030】
勾配負荷トルク相当値とは、路面勾配によって車両に作用する重力が車両を後退させようとする際、車輪に働く負荷トルクに相当する値である。車輪に機械的制動トルクを発生させるブレーキは、ブレーキロータ901に対しキャリパ902によってブレーキパッドを押圧することで制動トルクを発生させる。よって、車両が重力により後退しようとしているときには、制動トルクの方向は車両前進方向となる。この車両前進方向と一致する制動トルクを勾配負荷トルクと定義する。この勾配負荷トルクは、路面勾配と車両のイナーシャによって決定できるため、統合コントローラ10内に予め設定された車両重量等に基づいて勾配負荷トルク相当値を演算する。尚、勾配負荷トルクをそのまま相当値としてもよいし、所定値等を加減算して相当値としてもよい。
【0031】
第2クラッチ保護制御部700では、勾配路において車両が停止した際、この車両が後退するいわゆるロールバックを回避可能な制動トルク最小値(前述の勾配負荷トルク以上の制動トルク)を演算し、所定の条件(路面勾配が所定値以上で車両停止時)が成立したときは、ブレーキコントローラ9に対し、制動トルク最小値を制御下限値として出力する。
【0032】
実施例1では、駆動輪である後輪にのみブレーキ液圧を作用させるものとする。ただし、前後輪配分等を加味して4輪にブレーキ液圧を供給する構成としてもよいし、前輪にのみブレーキ液圧を供給する構成としてもよい。
【0033】
一方、上記所定の条件が不成立となったときは、徐々に制動トルクが小さくなる指令を出力する。また、第2クラッチ保護制御部700は、所定の条件が成立したときは、ATコントローラ7に対し、第2クラッチCL2への伝達トルク容量制御出力を禁止する要求を出力する。
【0034】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0035】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)を演算する。
【0036】
モード選択部200は、Gセンサ10bの検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
【0037】
更に、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。図4はモードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、勾配路対応モードマップに切り換える。一方、勾配路対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。
【0038】
次に、モードマップについて説明する。モードマップとしては、推定勾配が所定値未満のときに選択される通常モードマップと、推定勾配が所定値以上のときに選択される勾配路対応モードマップとを有する。図5は通常モードマップ、図6は勾配路対応モードマップを表す。
【0039】
通常モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0040】
図5の通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。尚、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
【0041】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図5に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0042】
勾配路対応モードマップ内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。
【0043】
目標充放電演算部300では、図7に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線(MWSCON線)がSOC=50%に設定され、EVOFF線(MWSCOFF線)がSOC=35%に設定されている。
【0044】
SOC≧50%のときは、図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。
【0045】
SOC<35%のときは、図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0046】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)と、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
【0047】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
【0048】
〔WSC走行モードについて〕
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、ドライバ要求トルク変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2をドライバ要求トルクに応じた伝達トルク容量TCL2としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行する。
【0049】
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。また、ドライバ要求トルクが高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
【0050】
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータMGのみでドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
【0051】
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみではドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
【0052】
図8はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図9はWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。WSC走行モードにおいて、運転者がアクセルペダルを操作すると、図9に基づいてアクセルペダル開度に応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速に応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図8に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
【0053】
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数とエンジントルクにより規定される点と定義する。図8に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。
【0054】
しかし、上述のようにエンジン回転数を設定した場合、運転者のアクセルペダル操作量(ドライバ要求トルク)によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
【0055】
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御(以下、回転数制御と記載する。)が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる(以下、モータISC制御と記載する)。
【0056】
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクとドライバ要求トルクとの偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、更に、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
【0057】
あるエンジン回転数において、ドライバ要求トルクがα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体はドライバ要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
【0058】
図8(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
【0059】
図8(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
【0060】
図8(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。ドライバ要求トルクに応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつドライバ要求トルクを達成することができる。
【0061】
次に、WSC走行モード領域を、推定勾配に応じて変更している点について説明する。図10は車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数マップである。平坦路において、アクセルペダル開度がAPO1よりも大きな値の場合、WSC走行モード領域は下限車速VSP1よりも高い車速領域まで実行される。このとき、車速の上昇に伴って図9に示すマップのように徐々に目標エンジン回転数は上昇する。そして、VSP1'に相当する車速に到達すると、第2クラッチCL2のスリップ状態は解消され、HEV走行モードに遷移する。
【0062】
推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きい勾配路において、上記と同じ車速上昇状態を維持しようとすると、それだけ大きなアクセルペダル開度となる。このとき、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2は平坦路に比べて大きくなる。この状態で、仮に図9に示すマップのようにWSC走行モード領域を拡大してしまうと、第2クラッチCL2は強い締結力でのスリップ状態を継続することとなり、発熱量が過剰となるおそれがある。そこで、推定勾配が大きい勾配路のときに選択される図6の勾配路対応モードマップでは、WSC走行モード領域を不要に広げることなく、車速VSP1に相当する領域までとする。これにより、WSC走行モードにおける過剰な発熱を回避する。
【0063】
尚、モータジェネレータMGによって回転数制御が困難な場合、例えばバッテリSOCによる制限がかかっている場合や、極低温でモータジェネレータMGの制御性が確保できない場合等には、エンジンEによって回転数制御するエンジンISC制御を実施する。
【0064】
〔MWSC走行モードについて〕
次に、MWSC走行モード領域を設定した理由について説明する。推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きいときに、例えば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態もしくは微速発進状態に維持しようとすると、平坦路に比べて大きな駆動力が要求される。自車両の荷重負荷に対向する必要があるからである。
第2クラッチCL2のスリップによる発熱を回避する観点から、バッテリSOCに余裕があるときはEV走行モードを選択することも考えられる。このとき、EV走行モード領域からWSC走行モード領域に遷移したときにはエンジン始動を行う必要があり、モータジェネレータMGはエンジン始動用トルクを確保した状態で駆動トルクを出力するため、駆動トルク上限値が不要に狭められる。
また、EV走行モードにおいてモータジェネレータMGにトルクだけを出力し、モータジェネレータMGの回転を停止もしくは極低速回転すると、インバータのスイッチング素子にロック電流が流れ(電流が1つの素子に流れ続ける現象)、耐久性の低下を招くおそれがある。
また、1速でエンジンEのアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、エンジンE自体は、アイドル回転数より低下させることができない。このとき、WSC走行モードを選択すると、第2クラッチCL2のスリップ量が大きくなり、第2クラッチCL2の耐久性に影響を与えるおそれがある。
【0065】
特に、勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動力が要求されていることから、第2クラッチCL2に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続されることは、第2クラッチCL2の耐久性の低下を招きやすい。また、車速の上昇もゆっくりとなることから、HEV走行モードへの遷移までに時間がかかり、更に発熱するおそれがある。
そこで、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を運転者の要求駆動力に制御しつつ、モータジェネレータMGの回転数が第2クラッチCL2の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御するMWSC走行モードを設定した。
【0066】
言い換えると、モータジェネレータMGの回転状態をエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチCL2をスリップ制御するものである。同時に、エンジンEはアイドル回転数を目標回転数とするフィードバック制御に切り換える。WSC走行モードでは、モータジェネレータMGの回転数フィードバック制御によりエンジン回転数が維持されていた。これに対し、第1クラッチCL1が解放されると、モータジェネレータMGによってエンジン回転数をアイドル回転数に制御できなくなる。よって、エンジンE自体によりエンジン自立回転制御を行う。
【0067】
MWSC走行モード領域の設定により、以下に列挙する効果を得ることができる。
1)エンジンEが作動状態であることからモータジェネレータMGにエンジン始動分の駆動トルクを残しておく必要が無く、モータジェネレータMGの駆動トルク上限値を大きくすることができる。具体的には、要求駆動力軸で見たときに、EV走行モードの領域よりも高い要求駆動力に対応できる。
2)モータジェネレータMGの回転状態を確保することでスイッチング素子等の耐久性を向上できる。
3)アイドル回転数よりも低い回転数でモータジェネレータMGを回転することから、第2クラッチCL2のスリップ量を小さくすることが可能となり、第2クラッチCL2の耐久性の向上を図ることができる。
【0068】
(WSC走行モードにおける車両停止状態の課題)
上述のように、WSC走行モードが選択された状態で、運転者がブレーキペダルを踏み込み、車両停止状態となった場合、第2クラッチCL2にはクリープトルク相当の伝達トルク容量が設定され、エンジンEに直結されたモータジェネレータMGがアイドル回転数を維持するように回転数制御が実行される。駆動輪は車両停止によって回転数がゼロであるから、第2クラッチCL2にはアイドル回転数相当のスリップ量が発生する。この状態が長く継続すると、第2クラッチCL2の耐久性が低下するおそれがあることから、運転者によってブレーキペダルが踏まれ、車両停止状態が維持されている場合には、第2クラッチCL2を解放することが望ましい。
【0069】
ここで、第2クラッチCL2を解放する制御が問題となる。すなわち、第2クラッチCL2は、湿式の多板クラッチであり、複数のクラッチプレートがピストンによって押圧されることで伝達トルク容量を発生する。このピストンには引き摺りトルク軽減の観点からリターンスプリングが設けられており、第2クラッチCL2への供給油圧を低下しすぎると、リターンスプリングによってピストンが戻される。これにより、ピストンとクラッチプレートとが離れてしまうと、再度油圧供給を開始したとしても、ピストンがストロークしてクラッチプレートに当接するまでは、第2クラッチCL2に伝達トルク容量が発生しないため、発進までのタイムラグ(これによるロールバック等も含む)や、締結ショック等を招くおそれがあった。また、予め最適な伝達トルク容量となるように供給油圧を制御したとしても、油温の影響や製造ばらつき等によって最適な伝達トルク容量を設定できないおそれもある。
【0070】
そこで、実施例1では、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を、タイムラグや締結ショック等を回避可能な伝達トルク容量に設定する車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を導入し、車両停止時における最適な伝達トルク容量を設定することとした。
【0071】
〔車両停止時伝達トルク容量補正制御処理〕
図11は実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、補正開始条件が成立したか否かを判断し、成立しているときはステップS2に進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。ここで、補正開始条件は、ブレーキペダルON,アクセルペダル開度がゼロ、車速ゼロ,WSC走行モード中(すなわち、モータジェネレータMGは回転数制御が行われ、第2クラッチCL2にはクリープトルク相当の伝達トルク容量が設定された状態)、及び他のコントローラ等で判定された停止判定フラグオン等である。尚、ゼロとは、センサ検出値として概ねゼロと認識できる値であればよい。
【0072】
また、エンジンE自体が吸入空気量を調節してアイドル回転数を維持するエンジン自立回転制御をしているMWSC走行モードからWSC走行モードに遷移した場合や、WSC走行モード中においてエンジンEによる回転数制御が行われるエンジンISC制御の状態からモータジェネレータMGによる回転数制御によってアイドル回転数を維持するモータISC制御に遷移した状態のときは、この遷移から所定時間経過後に補正開始を許可する。これは、エンジンEによる回転数制御において、点火タイミングや吸入空気量の変更が行われるため、これらによる影響を考慮する必要があるからである。
【0073】
ステップS2では、目標MGトルク設定処理を実行する。ここで、目標MGトルクとは、実際にモータジェネレータMGの制御で使用される値ではなく、本制御処理において使用する目標値である。すなわち、モータジェネレータMGはモータコントローラ2において回転数制御が行われているため、アイドル回転数を維持するようにトルク指令が出力される。言い換えると、モータジェネレータMGの実トルクはモータジェネレータMGに作用する負荷によって決定されるため、エンジン側の負荷が一定の場合、モータジェネレータMGのトルク変動量は、第2クラッチCL2の伝達トルク容量の変化とみなすことができる。そこで、第2クラッチCL2において供給油圧を所定量変更したときに変化すると考えられる負荷に基づいて目標MGトルク(負荷が変化したときにMGトルクはこの値に変化すると想定される値)を設定する。同様に、実MGトルクとは、モータコントローラ2から受信したモータ駆動電流等に基づいて算出される値である(トルク検出手段に相当)。
【0074】
具体的な設定内容については、後述するステップS10〜S12においてMGトルクが追従していると判断された場合には、前回の目標MGトルクからステップ状に所定量減算した値(以下、ステップ減算量と記載する。)に設定する。それ以外のときは、基本的に前回の目標MGトルクを維持する。このステップ減算量は、ランプ制御による低下量に比べて大きな値に設定されている。本制御処理ではタイマ管理によって定常的な状態(静的な状態)を達成し、その上で各種判定する構成であるため、僅かな量で変化させると、最適な補正量を設定するまでに時間がかかってしまうからである。言い換えると、動的な状態では適正な状態判定が困難であり、ある程度状態を変化させた後に待機する必要があるため、大きめのステップ減算量を設定している。ステップ減算量により減算する前の指令油圧が初期指令油圧である。
【0075】
ステップS3では、フィードバック禁止タイマをカウントアップする。
ステップS4では、フィードバック禁止タイマ値がフィードバック禁止時間以上か否かを判断し、YESの場合はステップS6に進み、NOの場合はステップS5に進む。すなわち、このタイマがカウントアップされている間はフィードバック制御量が出力されることはない。
【0076】
ステップS5では、第2クラッチCL2への指令油圧としてステップ状に低下させるフィードフォワード制御処理を実行してステップS16に進む。言い換えると、指令油圧と実油圧とに偏差があったとしても、その偏差によらず一定の指令値を出力し続ける。尚、この実油圧とは、実MGトルクから推定される値である。
【0077】
ステップS6では、第2クラッチCL2への指令油圧としてフィードフォワード制御量に加えてフィードバック制御量を加算する制御処理を実行する。言い換えると、目標MGトルクと実MGトルクとに偏差があった場合には、その偏差に応じた制御量が付与される。すなわち、目標MGトルクと実MGトルクとが一致しない場合には、その偏差に応じて更に低下した指令油圧を出力するものである。フィードバック制御量を加算するのは、単に指令油圧に対して実油圧が十分に低下していないことに起因して実MGトルクが目標MGトルクに追従していないのか、第2クラッチCL2が完全解放状態(クラッチの伝達トルク容量が略ゼロの状態から更に解放側にピストンが移動し、クラッチが開放された状態)となったことによって追従していないのかの判別が困難だからである。
【0078】
ステップS7では、フィードバック応答タイマをカウントアップする。
ステップS8では、フィードバック応答タイマ値が応答時間以上か否かを判断し、YESの場合はステップS9に進み、NOの場合はステップS16に進む。すなわち、このタイマがカウントアップされている間は目標MGトルクと実MGトルクとの偏差が生じている限り、指令油圧として低くなる値が出力される。
【0079】
ステップS9では、実MGトルクと目標MGトルクとの差が、戻り判定値以上か否かを判定し、戻り判定値以上のときはステップS14に進み、戻り判定値未満のときはステップS10に進む。ここで、戻り判定値とは、ばらつき等を考慮した際、実MGトルクが目標MGトルクに戻ったことを表す所定値である。尚、このステップを設けた理由はステップs14,15において説明する。
【0080】
ステップS10では、実MGトルクと目標MGトルクとの差の絶対値が追従判定値未満か否かを判定し、YESの場合はステップS11に進み、NOの場合はステップS16に進む。
ステップS11では、追従判定タイマをカウントアップする。
ステップS12では、追従判定タイマ値が追従時間以上か否かを判定し、YESの場合はステップS13へ進み、NOの場合はステップS16に進む。すなわち、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持っていれば、指令油圧を低下したときに、実MGトルクも追従して変化するはずである。よって、目標MGトルクと実MGトルクとが追従していると考えられる範囲に追従時間以上ある場合には、第2クラッチCL2は、未だ完全解放状態ではないことを意味する。
ステップS13では、各タイマ値をクリアする。すなわち、次回の制御周期において、再度ステップ状に指令油圧を低下するための準備をする。
【0081】
ステップS14では、戻り判定タイマをカウントアップする。
ステップS15では、戻り判定タイマ値が戻り時間以上か否かを判断し、YESのときはステップS17に進み、NOのときはステップS10に進む。すなわち、フィードバック制御によって指令油圧を低下させたときにモータジェネレータMGの負荷が低下したのであれば、実MGトルクは目標MGトルクに戻るはずである。一方、第2クラッチCL2が解放状態になっていれば、いくら指令油圧を低下しても実MGトルクは目標MGトルクに戻ることはない。すなわち、既に第2クラッチCL2は完全解放したことを意味している。この時点における指令油圧が終了指令油圧である。
【0082】
ステップS16では、補正継続条件が成立しているか否かを判断し、成立していると判断したときはステップS2に進んで継続的に本制御処理を実行し、成立していないと判断したときは本制御フローを終了する。補正継続条件は、補正開始条件とほぼ同じであり、閾値等にヒステリシスを持たせることで、ハンチング等を回避している。
【0083】
また、モータISC制御からエンジンISC制御に遷移した場合は、即座に本制御処理を終了する。これは、モータジェネレータMGによる回転数制御からエンジンEによる回転数制御に切り換わると、点火タイミングや吸入空気量の変更が行われ、エンジン負荷に変動が起こるため、第2クラッチCL2の変化によるMGトルクの変化なのか、エンジン負荷の変化によるMGトルクの変化なのかが判別できないからである。
【0084】
〔プリチャージ処理〕
ステップS17では、プリチャージ処理を実行する。プリチャージ処理とは、指令油圧を十分に低下(終了指令油圧)させても実MGトルクが目標MGトルクに向けて変化してこない場合に、第2クラッチCL2に生じたピストンロスストロークを解消するための処理である。図12は実施例1のプリチャージ量マップであり、図13は実施例1のプリチャージ時間マップであり、図14は実施例1のオフセット量マップである。プリチャージとは、所定時間の間、指令油圧として高い値を出力するものであり、ピストンがストロークしている間は、実油圧はさほど上昇しない。また、オフセット量とはプリチャージ後に所定のトルク発生勾配で指令油圧を上昇するための基点となる値であり、この基点から予め設定されたトルク発生勾配で指令油圧を上昇する値が演算される。
【0085】
ここで、それぞれのマップは、変化量ΔTMGに基づいて設定される。ここで、変化量ΔTMGとは、戻り判定タイマ値が戻り時間経過した時点における実MGトルクと、前回、実MGトルクが目標MGトルクに追従していると判定されたときの実MGトルクとの偏差である。
【0086】
すなわち、変化量ΔTMGが大きいときは、ステップ減算量だけ低下させたときに、ある程度まで伝達トルク容量を持っていたが、それ以降完全解放されたことを意味し、完全解放状態となった後のピストンロスストロークは小さいといえる。一方、変化量ΔTMGが小さいときは、ステップ状に低下させたときに、すぐに伝達トルク容量が無くなり、完全解放状態となった後のピストンロスストロークは大きいといえる。タイマ管理によってフィードバック制御を継続しているからである。よって、変化量ΔTMGが大きい程、プリチャージ量は小さく、プリチャージ時間は短く、オフセット量は小さくなるように設定する。
【0087】
そして、プリチャージ時間が経過した後は、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めたと判断されるまで上昇を継続する。第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ったか否かは実MGトルクの変化量がトルク発生判定変化量以上変化したか否かによって判定する。そして、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ったと判定されると、ステップS18に進む。
【0088】
〔補正後供給油圧設定処理〕
ステップS18では、補正後供給油圧設定処理を実行し、補正後指令油圧を設定する。補正後供給油圧設定処理とは、第2クラッチCL2に伝達トルク容量を持ち始めるぎりぎりの値(もしくは、若干の伝達トルク容量を持った状態)に指令油圧を補正する処理である。図15は実施例1の油圧戻し量マップであり、図16は実施例1の安全オフセット量マップである。
【0089】
ここで、油圧戻し量とは、前回、実MGトルクが目標MGトルクに追従していると判定されたときの指令油圧(以下、前回の指令油圧と記載する。)から減算補正される量であり、変化量ΔTMGに基づいて設定される。変化量ΔTMGが大きいときは、ある程度まで伝達トルク容量を持っていたが、それ以降解放されたことを意味し、前回の指令油圧では高すぎるから、大きく減算補正する。一方、変化量ΔTMGが小さいときは、ステップ状に低下させたときに、すぐに伝達トルク容量が無くなり、前回の指令油圧は適正な値に近い値であるから、小さく減算補正する。
【0090】
次に、この補正された値に安全オフセット量を加算して最終的な補正後の指令油圧を決定する。安全オフセット量は油温に応じて設定される値であり、油温が低いほど高い値に設定される。油温が低いときは油の粘性が高く、制御性が悪いため、伝達トルク容量を確保するために大きな安全オフセット量を設定する。一方、油温が高いときは油の粘性がさほど高くないため、小さな安全オフセット量を設定する。
【0091】
(車両停止時伝達トルク容量補正制御処理による作用)
図17は実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すタイムチャートである。初期条件は、WSC走行モードが選択され、ブレーキペダルが踏み込まれた状態で、アクセルペダルはオフ状態、車両停止状態、モータISC制御が継続的に実施されているものとする。
時刻t1において、補正開始条件が成立していると判定されると、指令油圧がステップ減算量に応じて低下し、目標MGトルクもステップ減算量に応じて低下する。このとき、フィードバック禁止タイマのカウントアップが開始される。
時刻t2において、フィードバック禁止タイマ値が禁止時間に到達すると、フィードバック応答タイマのカウントアップが開始されると共に、フィードバック制御量の加算が開始される。このとき、目標MGトルクと実MGトルクとの偏差はほぼ収束しているため、フィードバック制御量としてはほとんど出力されることがない。
【0092】
時刻t3において、フィードバック応答タイマ値が応答時間に到達すると、実MGトルクと目標MGトルクの偏差は小さく、この偏差が追従判定値以内であることから、追従判定タイマのカウントアップが開始される。
時刻t4において、追従判定タイマ値が追従時間に到達すると、第2クラッチCL2の伝達トルク容量はまだ確保されており、解放されていないと判断して各タイマ値をリセットし、更にステップ減算量に応じた指令油圧の低下及び目標MGトルクの低下が行われ、フィードバック禁止タイマのカウントアップが開始される。
【0093】
時刻t5において、フィードバック禁止タイマ値が禁止時間に到達すると、フィードバック応答タイマのカウントアップが開始されると共に、フィードバック制御量の加算が開始される。このとき、目標MGトルクと実MGトルクとに偏差が生じているため、フィードバック制御量が出力されて指令油圧は徐々に低下し始める。この場合は、既に第2クラッチCL2は完全解放していることから、クラッチピストンが解放側にストロークし始める。
【0094】
時刻t6において、フィードバック応答タイマ値が応答時間に到達すると、実MGトルクと目標MGトルクの偏差が戻り判定値よりも大きいことから、戻り判定タイマのカウントアップが開始される。
【0095】
時刻t7において、戻り判定タイマ値が戻り時間に到達すると、この時点においても尚、実MGトルクと目標MGトルクとの偏差が戻り判定値以上であることから、この時点における変化量ΔTMGを記憶してプリチャージ処理を開始する。プリチャージ処理では、変化量ΔTMGに応じたプリチャージ量,プリチャージ時間及びオフセット量がマップによって設定された後、ピストンロスストロークを適正位置に戻す動作が行われる。
【0096】
時刻t8において、プリチャージ時間が経過すると、予め設定されたトルク発生勾配に基づいて指令油圧を上昇させ、これにより、実油圧も徐々に上昇してゆく。これにより、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めると、それに応じてモータジェネレータMGに負荷が作用し始めるため、実MGトルクが上昇する。
【0097】
時刻t9において、実MGトルクがトルク発生判定変化量以上変化すると、プリチャージ処理を終了し、補正後供給油圧設定処理が行われる。これにより、指令油圧は、前回の指令油圧(前回、実MGトルクが目標MGトルクに追従していると判定されたときの指令油圧)から油圧戻し量が減算された後、安全オフセット量が加算された値に設定され、若干の伝達トルク容量を持った状態が達成される。
【0098】
時刻t10において、運転者がブレーキペダルを離し、アクセルペダルが踏み込まれると、目標駆動トルクが上昇することから、それに応じて指令油圧が上昇する。このとき、第2クラッチCL2は伝達トルク容量を持ち始めるぎりぎりの値に制御されているため、即座に発進することができる。
【0099】
以上説明したように、実施例1のハイブリッド車両にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)車両の駆動力を出力するモータジェネレータMG(モータ)と、モータジェネレータMGと駆動輪との間に介装され指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生する第2クラッチCL2(クラッチ)と、第2クラッチCL2をスリップ制御すると共に、第2クラッチCL2のモータ側回転数が第2クラッチCL2の駆動輪側回転数よりも所定量高い回転数となるようにモータジェネレータMGを回転数制御するWSC走行モード(走行モード)と、車両停止状態を判定するステップS1(車両停止状態判定手段)と、モータジェネレータMGの実トルクを検出するモータコントローラ2(トルク検出手段)と、WSC走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、指令油圧を初期指令油圧から低下させて実MGトルク(モータの実トルク)の変化に応じた補正後指令油圧に設定し、該補正後指令油圧を出力する前に補正後指令油圧よりも高いプリチャージ量(プリチャージ指令油圧)を出力する車両停止時伝達トルク容量補正制御処理(車両停止時伝達トルク容量補正手段)と、を備えた。
よって、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を小さくすることができ、クラッチプレートの発熱や劣化等を抑制することができる。また、完全解放状態となる油圧を確認し、その油圧より高い油圧に設定することで、発進時に伝達トルク容量の発生までのラグが生じることが無く、また、締結ショック等を回避することができる。また、完全解放した後のクラッチピストンのロスストロークを素早く解消することができ、早期に補正後指令油圧を設定することができる。
【0100】
(2)指令油圧に基づいてモータジェネレータMGの目標MGトルク(目標トルク)を演算するステップS2(目標トルク演算手段)を設け、車両停止時伝達トルク容量補正制御処理は、指令油圧を初期指令油圧から低下させたときに実MGトルクが変化しなくなったときは、目標MGトルクと実MGトルクとの偏差に応じたフィードバック制御量によって更に指令油圧を低下させる。
これにより、単に指令油圧に対して実油圧が十分に低下していないことに起因して実MGトルクが目標MGトルクに追従していないのか、第2クラッチCL2の完全解放によって追従していないのかを判別することができ、精度良く指令油圧を補正することができる。また、フィードバック制御量が加算されている場合、ロスストローク量は大きいため、上記(1)に示すプリチャージ量の出力は、特に有効である。
【0101】
(3)車両停止時伝達トルク容量補正制御処理は、プリチャージ量をプリチャージ時間継続した後、補正後指令油圧を出力する前に、プリチャージ量よりも低く、かつ、補正後指令油圧よりも高い所定指令油圧(オフセット量と所定のトルク発生勾配によって決定される指令油圧)を出力する。
よって、ピストンストローク速度を適切に管理することができ、また、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めるときに急激なトルク変化を抑制することができ、締結ショックを回避することができる。
【0102】
(4)車両停止時伝達トルク容量制御処理は、所定指令油圧に低下させてから徐々に油圧を上昇させ、実MGトルクが変化したときは、補正後指令油圧を出力する。
よって、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めたタイミングで補正後指令油圧を出力することができる。
【0103】
(5)車両停止時伝達トルク容量制御処理は、指令油圧を初期油圧から実MGトルクが変化しなくなる油圧である終了指令油圧まで低下させたときに、第2クラッチCL2が完全解放状態であると判断する。
よって、第2クラッチCL2を完全に解放状態とすることで、精度の高い補正後指令油圧を設定することができる。
【0104】
(6)車両停止時伝達トルク容量制御処理は、指令油圧を初期指令油圧からステップ状に所定量低下させた指令油圧のときに実MGトルクが変化しなくなったときは、初期指令油圧以下であって、かつ、終了指令油圧よりも高い補正後指令油圧を設定する。
このように、ステップ状に減算することで、静的な状態での実MGトルクの変化等を短時間で達成することができ、早期に補正後指令油圧を設定することができる。よって、第2クラッチCL2の無駄なスリップを回避することができる。また、終了指令油圧よりも高い補正後指令油圧を設定することで、ピストンのロスストロークを早期に解消することができる。
【0105】
(7)油圧戻し量(補正後指令油圧)は、変化量ΔTMG(モータの実トルク変化量)に基づいて設定する。
すなわち、変化量ΔTMGが大きいときは、ステップ減算量だけ低下させたときに、ある程度まで伝達トルク容量を持っていたが、それ以降解放されたことを意味し、前回の指令油圧では高すぎるから、大きく減算補正する。一方、変化量ΔTMGが小さいときは、ステップ状に低下させたときに、すぐに伝達トルク容量が無くなり、前回の指令油圧は適正な値に近い値であるから、小さく減算補正する。このように、変化量ΔTMGに基づいて油圧戻し量を設定することで、最適な補正後指令油圧を設定することができる。
【0106】
(8)油温が低い場合、油温が高い場合に比べ安全オフセット量(補正後指令油圧)は、高く設定する。
油温が低いときは油の粘性が高く、制御性が悪いため、伝達トルク容量を確保するために大きな安全オフセット量を設定することで、適切な伝達トルク容量を確保することができる。
【0107】
以上、本発明を実施例1に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であってもよい。例えば、実施例1では、ハイブリッド車両に適用したが、発進クラッチを備えた車両であれば、同様に適用可能である。また、実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
また、実施例1ではWSC走行モードのときに車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を行ったが、他のスリップ制御時、すなわちモータジェネレータが回転数制御されているときであれば、同様に適用できる。
【符号の説明】
【0108】
E エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
24 ブレーキ油圧センサ
100 目標駆動力演算部
200 モード選択部
300 目標充放電演算部
400 動作点指令部
500 変速制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源と駆動輪との間の締結要素をスリップ制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制御装置として、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、エンジンとモータの両方の駆動力を用い、モータと駆動輪との間のクラッチをスリップさせつつ発進するエンジン使用スリップモード(以下、WSC走行モードと記載する。)を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−77981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、WSC走行モード中に、運転者がブレーキペダルを踏み込んで停車状態となると、クラッチスリップ状態が継続し、クラッチの発熱や、劣化を招くおそれがある。よって、クラッチへの入力トルクを低下させることでクラッチの発熱を抑制することが考えられる。しかしながら、クラッチへ供給する油圧を下げすぎてしまうと、クラッチの伝達トルク容量が略ゼロ(伝達トルク容量の発生開始ポイントに相当)の状態から更に解放側に解放された状態となるおそれがある。この状態で、運転者がブレーキペダルを離し、アクセルペダルを踏み込んで発進すると、クラッチが伝達トルク容量を持ち始めるまでに時間がかかり、発進時の遅れやショック等が発生し、車両の運転性が低下するおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、動力源と駆動輪との間の締結要素の発熱や劣化を抑制しつつ、運転性を向上可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、車両の駆動力を出力するモータと、前記モータと駆動輪との間に介装され指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生するクラッチと、前記クラッチをスリップ制御すると共に、前記クラッチのモータ側の回転数が前記クラッチの駆動輪側の回転数よりも所定量高い回転数となるように前記モータを回転数制御する走行モードと、車両停止状態を判定する車両停止状態判定手段と、前記モータの実トルクを検出するトルク検出手段と、前記走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させて前記モータの実トルク変化に応じた補正後指令油圧を設定し、該補正後指令油圧を出力する前に前記補正後指令油圧よりも高いプリチャージ指令油圧を出力する車両停止時伝達トルク容量補正手段と、を備えた。
【発明の効果】
【0007】
よって、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を小さくすることができ、クラッチプレートの発熱や劣化等を抑制することができる。また、完全解放状態となる油圧を確認し、その油圧より高い油圧に設定することで、発進時に伝達トルク容量の発生までのラグが生じることが無く、また、締結ショック等を回避することができる。このため、車両の運転性を向上することができる。また、完全解放した後のクラッチピストンのロスストロークを素早く解消することができ、早期に補正後指令油圧を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の後輪駆動のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2のモード選択部にてモードマップと推定勾配との関係を表す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられる通常モードマップを示す図である。
【図6】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられるMWSC対応モードマップを示す図である。
【図7】図2の目標充放電演算部にて目標充放電電力の演算に用いられる目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図8】WSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図である。
【図9】WSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
【図10】車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数の変化を表すタイムチャートである。
【図11】実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すフローチャートである。
【図12】実施例1のプリチャージ量マップである。
【図13】実施例1のプリチャージ時間マップである。
【図14】実施例1のオフセット量マップである。
【図15】実施例1の油圧戻し量マップである。
【図16】実施例1の安全オフセット量マップである。
【図17】実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。尚、詳細については後述する。
【0015】
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルギヤDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0016】
ブレーキユニット900は、液圧ポンプと、複数の電磁弁を備え、要求制動トルクに相当する液圧をポンプ増圧により確保し、各輪の電磁弁の開閉制御によりホイルシリンダ圧を制御する所謂ブレーキバイワイヤ制御を可能に構成されている。各輪FR,FL,RR,RLには、ブレーキロータ901とキャリパ902が備えられ、ブレーキユニット900から供給されるブレーキ液圧により摩擦制動トルクを発生させる。尚、液圧源としてアキュムレータ等を備えたタイプでもよいし、液圧ブレーキに代えて電動キャリパを備えた構成でもよい。
【0017】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0018】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
【0019】
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0020】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0021】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0022】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0024】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0025】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0026】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められるドライバ要求制動トルクに対し回生制動トルクだけでは不足する場合、その不足分を機械制動トルク(摩擦ブレーキによる制動トルク)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。尚、ドライバ要求制動トルクに応じたブレーキ液圧に限らず、他の制御要求により任意にブレーキ液圧を発生可能なのは言うまでもない。
【0027】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0028】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0029】
また、統合コントローラ10は、後述する推定された路面勾配に基づいて車輪に作用する勾配負荷トルク相当値を演算する勾配負荷トルク相当値演算部600と、所定の条件が成立したときにドライバのブレーキペダル操作量に係わらずブレーキ液圧を発生させる第2クラッチ保護制御部700を有する。
【0030】
勾配負荷トルク相当値とは、路面勾配によって車両に作用する重力が車両を後退させようとする際、車輪に働く負荷トルクに相当する値である。車輪に機械的制動トルクを発生させるブレーキは、ブレーキロータ901に対しキャリパ902によってブレーキパッドを押圧することで制動トルクを発生させる。よって、車両が重力により後退しようとしているときには、制動トルクの方向は車両前進方向となる。この車両前進方向と一致する制動トルクを勾配負荷トルクと定義する。この勾配負荷トルクは、路面勾配と車両のイナーシャによって決定できるため、統合コントローラ10内に予め設定された車両重量等に基づいて勾配負荷トルク相当値を演算する。尚、勾配負荷トルクをそのまま相当値としてもよいし、所定値等を加減算して相当値としてもよい。
【0031】
第2クラッチ保護制御部700では、勾配路において車両が停止した際、この車両が後退するいわゆるロールバックを回避可能な制動トルク最小値(前述の勾配負荷トルク以上の制動トルク)を演算し、所定の条件(路面勾配が所定値以上で車両停止時)が成立したときは、ブレーキコントローラ9に対し、制動トルク最小値を制御下限値として出力する。
【0032】
実施例1では、駆動輪である後輪にのみブレーキ液圧を作用させるものとする。ただし、前後輪配分等を加味して4輪にブレーキ液圧を供給する構成としてもよいし、前輪にのみブレーキ液圧を供給する構成としてもよい。
【0033】
一方、上記所定の条件が不成立となったときは、徐々に制動トルクが小さくなる指令を出力する。また、第2クラッチ保護制御部700は、所定の条件が成立したときは、ATコントローラ7に対し、第2クラッチCL2への伝達トルク容量制御出力を禁止する要求を出力する。
【0034】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0035】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)を演算する。
【0036】
モード選択部200は、Gセンサ10bの検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
【0037】
更に、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。図4はモードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、勾配路対応モードマップに切り換える。一方、勾配路対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。
【0038】
次に、モードマップについて説明する。モードマップとしては、推定勾配が所定値未満のときに選択される通常モードマップと、推定勾配が所定値以上のときに選択される勾配路対応モードマップとを有する。図5は通常モードマップ、図6は勾配路対応モードマップを表す。
【0039】
通常モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0040】
図5の通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。尚、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
【0041】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図5に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0042】
勾配路対応モードマップ内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。
【0043】
目標充放電演算部300では、図7に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線(MWSCON線)がSOC=50%に設定され、EVOFF線(MWSCOFF線)がSOC=35%に設定されている。
【0044】
SOC≧50%のときは、図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。
【0045】
SOC<35%のときは、図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0046】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)と、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
【0047】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
【0048】
〔WSC走行モードについて〕
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、ドライバ要求トルク変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2をドライバ要求トルクに応じた伝達トルク容量TCL2としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行する。
【0049】
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。また、ドライバ要求トルクが高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
【0050】
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータMGのみでドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
【0051】
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみではドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
【0052】
図8はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図9はWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。WSC走行モードにおいて、運転者がアクセルペダルを操作すると、図9に基づいてアクセルペダル開度に応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速に応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図8に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
【0053】
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数とエンジントルクにより規定される点と定義する。図8に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。
【0054】
しかし、上述のようにエンジン回転数を設定した場合、運転者のアクセルペダル操作量(ドライバ要求トルク)によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
【0055】
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御(以下、回転数制御と記載する。)が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる(以下、モータISC制御と記載する)。
【0056】
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクとドライバ要求トルクとの偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、更に、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
【0057】
あるエンジン回転数において、ドライバ要求トルクがα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体はドライバ要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
【0058】
図8(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
【0059】
図8(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
【0060】
図8(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。ドライバ要求トルクに応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつドライバ要求トルクを達成することができる。
【0061】
次に、WSC走行モード領域を、推定勾配に応じて変更している点について説明する。図10は車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数マップである。平坦路において、アクセルペダル開度がAPO1よりも大きな値の場合、WSC走行モード領域は下限車速VSP1よりも高い車速領域まで実行される。このとき、車速の上昇に伴って図9に示すマップのように徐々に目標エンジン回転数は上昇する。そして、VSP1'に相当する車速に到達すると、第2クラッチCL2のスリップ状態は解消され、HEV走行モードに遷移する。
【0062】
推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きい勾配路において、上記と同じ車速上昇状態を維持しようとすると、それだけ大きなアクセルペダル開度となる。このとき、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2は平坦路に比べて大きくなる。この状態で、仮に図9に示すマップのようにWSC走行モード領域を拡大してしまうと、第2クラッチCL2は強い締結力でのスリップ状態を継続することとなり、発熱量が過剰となるおそれがある。そこで、推定勾配が大きい勾配路のときに選択される図6の勾配路対応モードマップでは、WSC走行モード領域を不要に広げることなく、車速VSP1に相当する領域までとする。これにより、WSC走行モードにおける過剰な発熱を回避する。
【0063】
尚、モータジェネレータMGによって回転数制御が困難な場合、例えばバッテリSOCによる制限がかかっている場合や、極低温でモータジェネレータMGの制御性が確保できない場合等には、エンジンEによって回転数制御するエンジンISC制御を実施する。
【0064】
〔MWSC走行モードについて〕
次に、MWSC走行モード領域を設定した理由について説明する。推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きいときに、例えば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態もしくは微速発進状態に維持しようとすると、平坦路に比べて大きな駆動力が要求される。自車両の荷重負荷に対向する必要があるからである。
第2クラッチCL2のスリップによる発熱を回避する観点から、バッテリSOCに余裕があるときはEV走行モードを選択することも考えられる。このとき、EV走行モード領域からWSC走行モード領域に遷移したときにはエンジン始動を行う必要があり、モータジェネレータMGはエンジン始動用トルクを確保した状態で駆動トルクを出力するため、駆動トルク上限値が不要に狭められる。
また、EV走行モードにおいてモータジェネレータMGにトルクだけを出力し、モータジェネレータMGの回転を停止もしくは極低速回転すると、インバータのスイッチング素子にロック電流が流れ(電流が1つの素子に流れ続ける現象)、耐久性の低下を招くおそれがある。
また、1速でエンジンEのアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、エンジンE自体は、アイドル回転数より低下させることができない。このとき、WSC走行モードを選択すると、第2クラッチCL2のスリップ量が大きくなり、第2クラッチCL2の耐久性に影響を与えるおそれがある。
【0065】
特に、勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動力が要求されていることから、第2クラッチCL2に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続されることは、第2クラッチCL2の耐久性の低下を招きやすい。また、車速の上昇もゆっくりとなることから、HEV走行モードへの遷移までに時間がかかり、更に発熱するおそれがある。
そこで、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を運転者の要求駆動力に制御しつつ、モータジェネレータMGの回転数が第2クラッチCL2の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御するMWSC走行モードを設定した。
【0066】
言い換えると、モータジェネレータMGの回転状態をエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチCL2をスリップ制御するものである。同時に、エンジンEはアイドル回転数を目標回転数とするフィードバック制御に切り換える。WSC走行モードでは、モータジェネレータMGの回転数フィードバック制御によりエンジン回転数が維持されていた。これに対し、第1クラッチCL1が解放されると、モータジェネレータMGによってエンジン回転数をアイドル回転数に制御できなくなる。よって、エンジンE自体によりエンジン自立回転制御を行う。
【0067】
MWSC走行モード領域の設定により、以下に列挙する効果を得ることができる。
1)エンジンEが作動状態であることからモータジェネレータMGにエンジン始動分の駆動トルクを残しておく必要が無く、モータジェネレータMGの駆動トルク上限値を大きくすることができる。具体的には、要求駆動力軸で見たときに、EV走行モードの領域よりも高い要求駆動力に対応できる。
2)モータジェネレータMGの回転状態を確保することでスイッチング素子等の耐久性を向上できる。
3)アイドル回転数よりも低い回転数でモータジェネレータMGを回転することから、第2クラッチCL2のスリップ量を小さくすることが可能となり、第2クラッチCL2の耐久性の向上を図ることができる。
【0068】
(WSC走行モードにおける車両停止状態の課題)
上述のように、WSC走行モードが選択された状態で、運転者がブレーキペダルを踏み込み、車両停止状態となった場合、第2クラッチCL2にはクリープトルク相当の伝達トルク容量が設定され、エンジンEに直結されたモータジェネレータMGがアイドル回転数を維持するように回転数制御が実行される。駆動輪は車両停止によって回転数がゼロであるから、第2クラッチCL2にはアイドル回転数相当のスリップ量が発生する。この状態が長く継続すると、第2クラッチCL2の耐久性が低下するおそれがあることから、運転者によってブレーキペダルが踏まれ、車両停止状態が維持されている場合には、第2クラッチCL2を解放することが望ましい。
【0069】
ここで、第2クラッチCL2を解放する制御が問題となる。すなわち、第2クラッチCL2は、湿式の多板クラッチであり、複数のクラッチプレートがピストンによって押圧されることで伝達トルク容量を発生する。このピストンには引き摺りトルク軽減の観点からリターンスプリングが設けられており、第2クラッチCL2への供給油圧を低下しすぎると、リターンスプリングによってピストンが戻される。これにより、ピストンとクラッチプレートとが離れてしまうと、再度油圧供給を開始したとしても、ピストンがストロークしてクラッチプレートに当接するまでは、第2クラッチCL2に伝達トルク容量が発生しないため、発進までのタイムラグ(これによるロールバック等も含む)や、締結ショック等を招くおそれがあった。また、予め最適な伝達トルク容量となるように供給油圧を制御したとしても、油温の影響や製造ばらつき等によって最適な伝達トルク容量を設定できないおそれもある。
【0070】
そこで、実施例1では、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を、タイムラグや締結ショック等を回避可能な伝達トルク容量に設定する車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を導入し、車両停止時における最適な伝達トルク容量を設定することとした。
【0071】
〔車両停止時伝達トルク容量補正制御処理〕
図11は実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、補正開始条件が成立したか否かを判断し、成立しているときはステップS2に進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。ここで、補正開始条件は、ブレーキペダルON,アクセルペダル開度がゼロ、車速ゼロ,WSC走行モード中(すなわち、モータジェネレータMGは回転数制御が行われ、第2クラッチCL2にはクリープトルク相当の伝達トルク容量が設定された状態)、及び他のコントローラ等で判定された停止判定フラグオン等である。尚、ゼロとは、センサ検出値として概ねゼロと認識できる値であればよい。
【0072】
また、エンジンE自体が吸入空気量を調節してアイドル回転数を維持するエンジン自立回転制御をしているMWSC走行モードからWSC走行モードに遷移した場合や、WSC走行モード中においてエンジンEによる回転数制御が行われるエンジンISC制御の状態からモータジェネレータMGによる回転数制御によってアイドル回転数を維持するモータISC制御に遷移した状態のときは、この遷移から所定時間経過後に補正開始を許可する。これは、エンジンEによる回転数制御において、点火タイミングや吸入空気量の変更が行われるため、これらによる影響を考慮する必要があるからである。
【0073】
ステップS2では、目標MGトルク設定処理を実行する。ここで、目標MGトルクとは、実際にモータジェネレータMGの制御で使用される値ではなく、本制御処理において使用する目標値である。すなわち、モータジェネレータMGはモータコントローラ2において回転数制御が行われているため、アイドル回転数を維持するようにトルク指令が出力される。言い換えると、モータジェネレータMGの実トルクはモータジェネレータMGに作用する負荷によって決定されるため、エンジン側の負荷が一定の場合、モータジェネレータMGのトルク変動量は、第2クラッチCL2の伝達トルク容量の変化とみなすことができる。そこで、第2クラッチCL2において供給油圧を所定量変更したときに変化すると考えられる負荷に基づいて目標MGトルク(負荷が変化したときにMGトルクはこの値に変化すると想定される値)を設定する。同様に、実MGトルクとは、モータコントローラ2から受信したモータ駆動電流等に基づいて算出される値である(トルク検出手段に相当)。
【0074】
具体的な設定内容については、後述するステップS10〜S12においてMGトルクが追従していると判断された場合には、前回の目標MGトルクからステップ状に所定量減算した値(以下、ステップ減算量と記載する。)に設定する。それ以外のときは、基本的に前回の目標MGトルクを維持する。このステップ減算量は、ランプ制御による低下量に比べて大きな値に設定されている。本制御処理ではタイマ管理によって定常的な状態(静的な状態)を達成し、その上で各種判定する構成であるため、僅かな量で変化させると、最適な補正量を設定するまでに時間がかかってしまうからである。言い換えると、動的な状態では適正な状態判定が困難であり、ある程度状態を変化させた後に待機する必要があるため、大きめのステップ減算量を設定している。ステップ減算量により減算する前の指令油圧が初期指令油圧である。
【0075】
ステップS3では、フィードバック禁止タイマをカウントアップする。
ステップS4では、フィードバック禁止タイマ値がフィードバック禁止時間以上か否かを判断し、YESの場合はステップS6に進み、NOの場合はステップS5に進む。すなわち、このタイマがカウントアップされている間はフィードバック制御量が出力されることはない。
【0076】
ステップS5では、第2クラッチCL2への指令油圧としてステップ状に低下させるフィードフォワード制御処理を実行してステップS16に進む。言い換えると、指令油圧と実油圧とに偏差があったとしても、その偏差によらず一定の指令値を出力し続ける。尚、この実油圧とは、実MGトルクから推定される値である。
【0077】
ステップS6では、第2クラッチCL2への指令油圧としてフィードフォワード制御量に加えてフィードバック制御量を加算する制御処理を実行する。言い換えると、目標MGトルクと実MGトルクとに偏差があった場合には、その偏差に応じた制御量が付与される。すなわち、目標MGトルクと実MGトルクとが一致しない場合には、その偏差に応じて更に低下した指令油圧を出力するものである。フィードバック制御量を加算するのは、単に指令油圧に対して実油圧が十分に低下していないことに起因して実MGトルクが目標MGトルクに追従していないのか、第2クラッチCL2が完全解放状態(クラッチの伝達トルク容量が略ゼロの状態から更に解放側にピストンが移動し、クラッチが開放された状態)となったことによって追従していないのかの判別が困難だからである。
【0078】
ステップS7では、フィードバック応答タイマをカウントアップする。
ステップS8では、フィードバック応答タイマ値が応答時間以上か否かを判断し、YESの場合はステップS9に進み、NOの場合はステップS16に進む。すなわち、このタイマがカウントアップされている間は目標MGトルクと実MGトルクとの偏差が生じている限り、指令油圧として低くなる値が出力される。
【0079】
ステップS9では、実MGトルクと目標MGトルクとの差が、戻り判定値以上か否かを判定し、戻り判定値以上のときはステップS14に進み、戻り判定値未満のときはステップS10に進む。ここで、戻り判定値とは、ばらつき等を考慮した際、実MGトルクが目標MGトルクに戻ったことを表す所定値である。尚、このステップを設けた理由はステップs14,15において説明する。
【0080】
ステップS10では、実MGトルクと目標MGトルクとの差の絶対値が追従判定値未満か否かを判定し、YESの場合はステップS11に進み、NOの場合はステップS16に進む。
ステップS11では、追従判定タイマをカウントアップする。
ステップS12では、追従判定タイマ値が追従時間以上か否かを判定し、YESの場合はステップS13へ進み、NOの場合はステップS16に進む。すなわち、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持っていれば、指令油圧を低下したときに、実MGトルクも追従して変化するはずである。よって、目標MGトルクと実MGトルクとが追従していると考えられる範囲に追従時間以上ある場合には、第2クラッチCL2は、未だ完全解放状態ではないことを意味する。
ステップS13では、各タイマ値をクリアする。すなわち、次回の制御周期において、再度ステップ状に指令油圧を低下するための準備をする。
【0081】
ステップS14では、戻り判定タイマをカウントアップする。
ステップS15では、戻り判定タイマ値が戻り時間以上か否かを判断し、YESのときはステップS17に進み、NOのときはステップS10に進む。すなわち、フィードバック制御によって指令油圧を低下させたときにモータジェネレータMGの負荷が低下したのであれば、実MGトルクは目標MGトルクに戻るはずである。一方、第2クラッチCL2が解放状態になっていれば、いくら指令油圧を低下しても実MGトルクは目標MGトルクに戻ることはない。すなわち、既に第2クラッチCL2は完全解放したことを意味している。この時点における指令油圧が終了指令油圧である。
【0082】
ステップS16では、補正継続条件が成立しているか否かを判断し、成立していると判断したときはステップS2に進んで継続的に本制御処理を実行し、成立していないと判断したときは本制御フローを終了する。補正継続条件は、補正開始条件とほぼ同じであり、閾値等にヒステリシスを持たせることで、ハンチング等を回避している。
【0083】
また、モータISC制御からエンジンISC制御に遷移した場合は、即座に本制御処理を終了する。これは、モータジェネレータMGによる回転数制御からエンジンEによる回転数制御に切り換わると、点火タイミングや吸入空気量の変更が行われ、エンジン負荷に変動が起こるため、第2クラッチCL2の変化によるMGトルクの変化なのか、エンジン負荷の変化によるMGトルクの変化なのかが判別できないからである。
【0084】
〔プリチャージ処理〕
ステップS17では、プリチャージ処理を実行する。プリチャージ処理とは、指令油圧を十分に低下(終了指令油圧)させても実MGトルクが目標MGトルクに向けて変化してこない場合に、第2クラッチCL2に生じたピストンロスストロークを解消するための処理である。図12は実施例1のプリチャージ量マップであり、図13は実施例1のプリチャージ時間マップであり、図14は実施例1のオフセット量マップである。プリチャージとは、所定時間の間、指令油圧として高い値を出力するものであり、ピストンがストロークしている間は、実油圧はさほど上昇しない。また、オフセット量とはプリチャージ後に所定のトルク発生勾配で指令油圧を上昇するための基点となる値であり、この基点から予め設定されたトルク発生勾配で指令油圧を上昇する値が演算される。
【0085】
ここで、それぞれのマップは、変化量ΔTMGに基づいて設定される。ここで、変化量ΔTMGとは、戻り判定タイマ値が戻り時間経過した時点における実MGトルクと、前回、実MGトルクが目標MGトルクに追従していると判定されたときの実MGトルクとの偏差である。
【0086】
すなわち、変化量ΔTMGが大きいときは、ステップ減算量だけ低下させたときに、ある程度まで伝達トルク容量を持っていたが、それ以降完全解放されたことを意味し、完全解放状態となった後のピストンロスストロークは小さいといえる。一方、変化量ΔTMGが小さいときは、ステップ状に低下させたときに、すぐに伝達トルク容量が無くなり、完全解放状態となった後のピストンロスストロークは大きいといえる。タイマ管理によってフィードバック制御を継続しているからである。よって、変化量ΔTMGが大きい程、プリチャージ量は小さく、プリチャージ時間は短く、オフセット量は小さくなるように設定する。
【0087】
そして、プリチャージ時間が経過した後は、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めたと判断されるまで上昇を継続する。第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ったか否かは実MGトルクの変化量がトルク発生判定変化量以上変化したか否かによって判定する。そして、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ったと判定されると、ステップS18に進む。
【0088】
〔補正後供給油圧設定処理〕
ステップS18では、補正後供給油圧設定処理を実行し、補正後指令油圧を設定する。補正後供給油圧設定処理とは、第2クラッチCL2に伝達トルク容量を持ち始めるぎりぎりの値(もしくは、若干の伝達トルク容量を持った状態)に指令油圧を補正する処理である。図15は実施例1の油圧戻し量マップであり、図16は実施例1の安全オフセット量マップである。
【0089】
ここで、油圧戻し量とは、前回、実MGトルクが目標MGトルクに追従していると判定されたときの指令油圧(以下、前回の指令油圧と記載する。)から減算補正される量であり、変化量ΔTMGに基づいて設定される。変化量ΔTMGが大きいときは、ある程度まで伝達トルク容量を持っていたが、それ以降解放されたことを意味し、前回の指令油圧では高すぎるから、大きく減算補正する。一方、変化量ΔTMGが小さいときは、ステップ状に低下させたときに、すぐに伝達トルク容量が無くなり、前回の指令油圧は適正な値に近い値であるから、小さく減算補正する。
【0090】
次に、この補正された値に安全オフセット量を加算して最終的な補正後の指令油圧を決定する。安全オフセット量は油温に応じて設定される値であり、油温が低いほど高い値に設定される。油温が低いときは油の粘性が高く、制御性が悪いため、伝達トルク容量を確保するために大きな安全オフセット量を設定する。一方、油温が高いときは油の粘性がさほど高くないため、小さな安全オフセット量を設定する。
【0091】
(車両停止時伝達トルク容量補正制御処理による作用)
図17は実施例1の車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を表すタイムチャートである。初期条件は、WSC走行モードが選択され、ブレーキペダルが踏み込まれた状態で、アクセルペダルはオフ状態、車両停止状態、モータISC制御が継続的に実施されているものとする。
時刻t1において、補正開始条件が成立していると判定されると、指令油圧がステップ減算量に応じて低下し、目標MGトルクもステップ減算量に応じて低下する。このとき、フィードバック禁止タイマのカウントアップが開始される。
時刻t2において、フィードバック禁止タイマ値が禁止時間に到達すると、フィードバック応答タイマのカウントアップが開始されると共に、フィードバック制御量の加算が開始される。このとき、目標MGトルクと実MGトルクとの偏差はほぼ収束しているため、フィードバック制御量としてはほとんど出力されることがない。
【0092】
時刻t3において、フィードバック応答タイマ値が応答時間に到達すると、実MGトルクと目標MGトルクの偏差は小さく、この偏差が追従判定値以内であることから、追従判定タイマのカウントアップが開始される。
時刻t4において、追従判定タイマ値が追従時間に到達すると、第2クラッチCL2の伝達トルク容量はまだ確保されており、解放されていないと判断して各タイマ値をリセットし、更にステップ減算量に応じた指令油圧の低下及び目標MGトルクの低下が行われ、フィードバック禁止タイマのカウントアップが開始される。
【0093】
時刻t5において、フィードバック禁止タイマ値が禁止時間に到達すると、フィードバック応答タイマのカウントアップが開始されると共に、フィードバック制御量の加算が開始される。このとき、目標MGトルクと実MGトルクとに偏差が生じているため、フィードバック制御量が出力されて指令油圧は徐々に低下し始める。この場合は、既に第2クラッチCL2は完全解放していることから、クラッチピストンが解放側にストロークし始める。
【0094】
時刻t6において、フィードバック応答タイマ値が応答時間に到達すると、実MGトルクと目標MGトルクの偏差が戻り判定値よりも大きいことから、戻り判定タイマのカウントアップが開始される。
【0095】
時刻t7において、戻り判定タイマ値が戻り時間に到達すると、この時点においても尚、実MGトルクと目標MGトルクとの偏差が戻り判定値以上であることから、この時点における変化量ΔTMGを記憶してプリチャージ処理を開始する。プリチャージ処理では、変化量ΔTMGに応じたプリチャージ量,プリチャージ時間及びオフセット量がマップによって設定された後、ピストンロスストロークを適正位置に戻す動作が行われる。
【0096】
時刻t8において、プリチャージ時間が経過すると、予め設定されたトルク発生勾配に基づいて指令油圧を上昇させ、これにより、実油圧も徐々に上昇してゆく。これにより、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めると、それに応じてモータジェネレータMGに負荷が作用し始めるため、実MGトルクが上昇する。
【0097】
時刻t9において、実MGトルクがトルク発生判定変化量以上変化すると、プリチャージ処理を終了し、補正後供給油圧設定処理が行われる。これにより、指令油圧は、前回の指令油圧(前回、実MGトルクが目標MGトルクに追従していると判定されたときの指令油圧)から油圧戻し量が減算された後、安全オフセット量が加算された値に設定され、若干の伝達トルク容量を持った状態が達成される。
【0098】
時刻t10において、運転者がブレーキペダルを離し、アクセルペダルが踏み込まれると、目標駆動トルクが上昇することから、それに応じて指令油圧が上昇する。このとき、第2クラッチCL2は伝達トルク容量を持ち始めるぎりぎりの値に制御されているため、即座に発進することができる。
【0099】
以上説明したように、実施例1のハイブリッド車両にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)車両の駆動力を出力するモータジェネレータMG(モータ)と、モータジェネレータMGと駆動輪との間に介装され指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生する第2クラッチCL2(クラッチ)と、第2クラッチCL2をスリップ制御すると共に、第2クラッチCL2のモータ側回転数が第2クラッチCL2の駆動輪側回転数よりも所定量高い回転数となるようにモータジェネレータMGを回転数制御するWSC走行モード(走行モード)と、車両停止状態を判定するステップS1(車両停止状態判定手段)と、モータジェネレータMGの実トルクを検出するモータコントローラ2(トルク検出手段)と、WSC走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、指令油圧を初期指令油圧から低下させて実MGトルク(モータの実トルク)の変化に応じた補正後指令油圧に設定し、該補正後指令油圧を出力する前に補正後指令油圧よりも高いプリチャージ量(プリチャージ指令油圧)を出力する車両停止時伝達トルク容量補正制御処理(車両停止時伝達トルク容量補正手段)と、を備えた。
よって、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を小さくすることができ、クラッチプレートの発熱や劣化等を抑制することができる。また、完全解放状態となる油圧を確認し、その油圧より高い油圧に設定することで、発進時に伝達トルク容量の発生までのラグが生じることが無く、また、締結ショック等を回避することができる。また、完全解放した後のクラッチピストンのロスストロークを素早く解消することができ、早期に補正後指令油圧を設定することができる。
【0100】
(2)指令油圧に基づいてモータジェネレータMGの目標MGトルク(目標トルク)を演算するステップS2(目標トルク演算手段)を設け、車両停止時伝達トルク容量補正制御処理は、指令油圧を初期指令油圧から低下させたときに実MGトルクが変化しなくなったときは、目標MGトルクと実MGトルクとの偏差に応じたフィードバック制御量によって更に指令油圧を低下させる。
これにより、単に指令油圧に対して実油圧が十分に低下していないことに起因して実MGトルクが目標MGトルクに追従していないのか、第2クラッチCL2の完全解放によって追従していないのかを判別することができ、精度良く指令油圧を補正することができる。また、フィードバック制御量が加算されている場合、ロスストローク量は大きいため、上記(1)に示すプリチャージ量の出力は、特に有効である。
【0101】
(3)車両停止時伝達トルク容量補正制御処理は、プリチャージ量をプリチャージ時間継続した後、補正後指令油圧を出力する前に、プリチャージ量よりも低く、かつ、補正後指令油圧よりも高い所定指令油圧(オフセット量と所定のトルク発生勾配によって決定される指令油圧)を出力する。
よって、ピストンストローク速度を適切に管理することができ、また、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めるときに急激なトルク変化を抑制することができ、締結ショックを回避することができる。
【0102】
(4)車両停止時伝達トルク容量制御処理は、所定指令油圧に低下させてから徐々に油圧を上昇させ、実MGトルクが変化したときは、補正後指令油圧を出力する。
よって、第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めたタイミングで補正後指令油圧を出力することができる。
【0103】
(5)車両停止時伝達トルク容量制御処理は、指令油圧を初期油圧から実MGトルクが変化しなくなる油圧である終了指令油圧まで低下させたときに、第2クラッチCL2が完全解放状態であると判断する。
よって、第2クラッチCL2を完全に解放状態とすることで、精度の高い補正後指令油圧を設定することができる。
【0104】
(6)車両停止時伝達トルク容量制御処理は、指令油圧を初期指令油圧からステップ状に所定量低下させた指令油圧のときに実MGトルクが変化しなくなったときは、初期指令油圧以下であって、かつ、終了指令油圧よりも高い補正後指令油圧を設定する。
このように、ステップ状に減算することで、静的な状態での実MGトルクの変化等を短時間で達成することができ、早期に補正後指令油圧を設定することができる。よって、第2クラッチCL2の無駄なスリップを回避することができる。また、終了指令油圧よりも高い補正後指令油圧を設定することで、ピストンのロスストロークを早期に解消することができる。
【0105】
(7)油圧戻し量(補正後指令油圧)は、変化量ΔTMG(モータの実トルク変化量)に基づいて設定する。
すなわち、変化量ΔTMGが大きいときは、ステップ減算量だけ低下させたときに、ある程度まで伝達トルク容量を持っていたが、それ以降解放されたことを意味し、前回の指令油圧では高すぎるから、大きく減算補正する。一方、変化量ΔTMGが小さいときは、ステップ状に低下させたときに、すぐに伝達トルク容量が無くなり、前回の指令油圧は適正な値に近い値であるから、小さく減算補正する。このように、変化量ΔTMGに基づいて油圧戻し量を設定することで、最適な補正後指令油圧を設定することができる。
【0106】
(8)油温が低い場合、油温が高い場合に比べ安全オフセット量(補正後指令油圧)は、高く設定する。
油温が低いときは油の粘性が高く、制御性が悪いため、伝達トルク容量を確保するために大きな安全オフセット量を設定することで、適切な伝達トルク容量を確保することができる。
【0107】
以上、本発明を実施例1に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であってもよい。例えば、実施例1では、ハイブリッド車両に適用したが、発進クラッチを備えた車両であれば、同様に適用可能である。また、実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
また、実施例1ではWSC走行モードのときに車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を行ったが、他のスリップ制御時、すなわちモータジェネレータが回転数制御されているときであれば、同様に適用できる。
【符号の説明】
【0108】
E エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
24 ブレーキ油圧センサ
100 目標駆動力演算部
200 モード選択部
300 目標充放電演算部
400 動作点指令部
500 変速制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を出力するモータと、
前記モータと駆動輪との間に介装され、指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生するクラッチと、
前記クラッチをスリップ制御すると共に、前記クラッチのモータ側の回転数が前記クラッチの駆動輪側回転数よりも所定量高い回転数となるように前記モータを回転数制御する走行モードと、
車両停止状態を判定する車両停止状態判定手段と、
前記モータの実トルクを検出するトルク検出手段と、
前記走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させて前記モータの実トルク変化に応じた補正後指令油圧を設定し、該補正後指令油圧を出力する前に前記補正後指令油圧よりも高いプリチャージ指令油圧を出力する車両停止時伝達トルク容量補正手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記指令油圧に基づいて前記モータの目標トルクを演算する目標トルク演算手段を設け、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させたときに前記モータの実トルクが変化しなくなったときは、前記目標トルクと前記実トルクとの偏差に応じて更に指令油圧を低下させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置において、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記プリチャージ指令油圧を出力後、前記補正後指令油圧を出力する前に、前記プリチャージ指令油圧よりも低く、かつ、前記補正後指令油圧よりも高い所定指令油圧を出力することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御装置において、
車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記所定指令油圧に低下させてから徐々に指令油圧を上昇させ、前記モータの実トルクが変化したときは、前記補正後指令油圧を出力することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1つに記載の車両の制御装置において、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記指令油圧を初期油圧から前記モータの実トルクが変化しなくなる油圧である終了指令油圧まで低下させたときに、前記クラッチが完全解放状態であると判断することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の制御装置において、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記指令油圧を初期指令油圧からステップ状に所定量低下させた指令油圧のときに前記モータの実トルクが変化しなくなったときは、前記初期指令油圧以下であって、かつ、前記終了後指令油圧よりも高い補正後指令油圧を設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1つに記載の車両の制御装置において、
前記補正後指令油圧は、前記モータの実トルク変化量に基づいて設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか1つに記載の車両の制御装置において、
油温が低い場合、油温が高い場合に比べ、前記補正後指令油圧は、高く設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項1】
車両の駆動力を出力するモータと、
前記モータと駆動輪との間に介装され、指令油圧に基づいて伝達トルク容量を発生するクラッチと、
前記クラッチをスリップ制御すると共に、前記クラッチのモータ側の回転数が前記クラッチの駆動輪側回転数よりも所定量高い回転数となるように前記モータを回転数制御する走行モードと、
車両停止状態を判定する車両停止状態判定手段と、
前記モータの実トルクを検出するトルク検出手段と、
前記走行モード中に車両停止状態と判定されたときは、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させて前記モータの実トルク変化に応じた補正後指令油圧を設定し、該補正後指令油圧を出力する前に前記補正後指令油圧よりも高いプリチャージ指令油圧を出力する車両停止時伝達トルク容量補正手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記指令油圧に基づいて前記モータの目標トルクを演算する目標トルク演算手段を設け、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記指令油圧を初期指令油圧から低下させたときに前記モータの実トルクが変化しなくなったときは、前記目標トルクと前記実トルクとの偏差に応じて更に指令油圧を低下させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置において、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記プリチャージ指令油圧を出力後、前記補正後指令油圧を出力する前に、前記プリチャージ指令油圧よりも低く、かつ、前記補正後指令油圧よりも高い所定指令油圧を出力することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御装置において、
車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記所定指令油圧に低下させてから徐々に指令油圧を上昇させ、前記モータの実トルクが変化したときは、前記補正後指令油圧を出力することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1つに記載の車両の制御装置において、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記指令油圧を初期油圧から前記モータの実トルクが変化しなくなる油圧である終了指令油圧まで低下させたときに、前記クラッチが完全解放状態であると判断することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の制御装置において、
前記車両停止時伝達トルク容量補正手段は、前記指令油圧を初期指令油圧からステップ状に所定量低下させた指令油圧のときに前記モータの実トルクが変化しなくなったときは、前記初期指令油圧以下であって、かつ、前記終了後指令油圧よりも高い補正後指令油圧を設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1つに記載の車両の制御装置において、
前記補正後指令油圧は、前記モータの実トルク変化量に基づいて設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか1つに記載の車両の制御装置において、
油温が低い場合、油温が高い場合に比べ、前記補正後指令油圧は、高く設定することを特徴とする車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−97810(P2012−97810A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245719(P2010−245719)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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