説明

車両の制御装置

【課題】エンジンのアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンのアイドリングストップに応じて行われるヒルホールド制御を、アイドリングストップからの復帰のためのエンジンの再始動指令がなされ(S101:YES)、かつエンジン回転速度が既定の判定値α以上である(S102:YES)ことを条件に解除する(S104)一方で、そうした条件が成立しても、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときには(S103:YES)、ヒルホールド制御を解除しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバーター等の流体継手を介してエンジンと変速機とを連結した構成の車両では、エンジンのアイドリング中にも、クリープトルクによって車輪に一定のトルクが付与される。そのため、こうした車両では、ブレーキペダルを踏んでいなくても、車輪に伝達されたトルク、いわゆるクリープトルクによって、坂路での車両の停止状態の保持が可能であり、車両の坂路発進が容易となる。
【0003】
一方、近年には、燃費向上を目的として、停車中にエンジン運転を自動停止するアイドリングストップを行う車両が実用されている。こうした車両では、坂路での停車中にアイドリングストップが行われると、クリープトルクが発生しなくなって、ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え操作中に車輪を制動しておくことができなくなるため、車両の坂路発進性が悪化する。
【0004】
そこで従来、特許文献1には、運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行うことで、坂路停車中のアイドリングストップによるエンジン停止時にブレーキペダルを踏み離しても、車両の停止状態を維持して、坂路発進を容易とする車両の制御装置が提案されている。なお、同文献の車両の制御装置でのヒルホールド制御の解除は、アイドリングストップの解除によるエンジンの再始動指令後、エンジン回転速度が、十分なクリープトルクを発生可能な回転速度以上となっていることを条件に行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−313253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、状況によっては、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときに、すなわち運転停止後のエンジンの惰性回転中に、運転者のアクセル操作等に応じたエンジンの再始動指令がなされることがある。上記従来の車両の制御装置では、こうした場合にも、再始動指令時のエンジン回転速度が十分に高ければ、その時点でヒルホールド制御が解除されることになる。ところが、スターターによるエンジンの再始動を行うことが可能なエンジン回転速度には上限があり、再始動指令に応じたスターターの駆動によるエンジンの再始動は、エンジン回転速度が十分に低下するまでは行うことができない。そのため、上記のような場合には、ヒルホールド制御の解除後にエンジン回転速度が低下して、車輪に十分なクリープトルクを伝達できなくなってしまうことがある。そしてそうした場合には、ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え操作中に車輪を制動しておくことができなくなり、車両の坂路発進性が悪化してしまうようになる。
【0007】
また、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、再始動指令後、直ちにはエンジンの再始動を開始できないことがあるため、アクセルペダルの踏み込みから車両の推進力の発生までに遅延が生じるようになる。そのため、アイドリングストップによるエンジンの停止途上にヒルホールド制御を解除すれば、ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え操作が速やかに行われたとしても、一時的に車両の停止状態を保持できなくなって、車両の坂路発進性が悪化してしまうことがある。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、エンジンのアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置としての請求項1に記載の発明は、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、ヒルホールド制御を解除しないようにしている。
【0010】
上記構成では、アイドリングストップ中のヒルホールド制御の実施中にエンジンの再始動指令がなされても、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあれば、ヒルホールド制御は解除されないようになる。そのため、再始動指令からエンジンが実際に再始動されるまでの期間にブレーキ操作が解除されても、ヒルホールド制御の継続により、車輪の制動力が保持される。したがって、上記構成によれば、エンジンのアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することができる。
【0011】
なお、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときにも、エンジン回転速度がある程度以上に高ければ、エンジン運転の自立復帰が、すなわちスターターを用いずに自力でエンジン運転を再開することが可能である。そのため、この場合には、アイドリングストップによるエンジンの停止途上にエンジンの再始動指令がなされても、エンジン回転速度が大きく低下する前にエンジン運転を再開することができる。そこで、請求項2に記載の発明では、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときにも、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、エンジン運転の自立復帰を行って、ヒルホールド制御を解除するようにしている。この場合には、エンジンが停止途上にあっても、速やかにエンジン運転を再開できるため、ヒルホールド制御の解除と共に車輪の制動力が不足して車両の坂路発進性が悪化することを回避することができる。
【0012】
上記課題を解決するため、運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置としての請求項3に記載の発明は、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令後、エンジンの再始動指令がなされたこと、エンジン回転速度が既定の判定値以上であること、及びエンジン回転速度が上昇中であることを条件にヒルホールド制御を解除するようにしている。
【0013】
上記構成では、エンジン回転速度が上昇中であることがヒルホールド制御の解除の条件の一つとなっているため、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上におけるエンジン回転速度の低下中には、ヒルホールド制御が解除されないようになる。したがって、上記構成によれば、エンジンのアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することができる。
【0014】
なお、上記のように、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときにも、エンジン運転の自力復帰が可能であれば、再始動指令後、速やかにエンジン運転を再開することができる。そのため、請求項4によるように、エンジン回転速度が上昇中でなくても、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、同エンジン運転の自立復帰を行うとともに、ヒルホールド制御を解除するようにしても、車両の坂路発進性を好適に確保することができる。
【0015】
上記課題を解決するため、運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置としての請求項5に記載の発明は、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令後、エンジンの再始動指令がなされたこと、エンジン回転速度が既定の判定値以上であること、及び再始動指令に応じたスターターの駆動履歴があることを条件にヒルホールド制御を解除するようにしている。
【0016】
上記構成では、再始動指令に応じたスターターの駆動履歴があることがヒルホールド制御の解除の条件の一つとなっているため、エンジンの再始動が開始されてからヒルホールド制御が解除されるようになる。そのため、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、ヒルホールド制御は解除されないようになり、エンジンのアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することができる。
【0017】
なお、上記のように、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときにも、エンジン運転の自力復帰が可能であれば、再始動指令後、速やかにエンジン運転を再開することができる。そのため、請求項6によるように、スターターの駆動履歴がなくても、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、同エンジンの自立復帰を行うとともに、ヒルホールド制御を解除するようにしても、車両の坂路発進性を好適に確保することができる。
【0018】
上記課題を解決するため、運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置としての請求項7に記載の発明は、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令からエンジンが停止するまでの期間と、そうでないときとで、ヒルホールド制御の解除条件を変更している。
【0019】
上記構成では、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときと、そうでないときとで、異なる条件の基にヒルホールド制御の解除が行われるようになる。こうした場合、エンジンが停止途上にあるときには、そうでないときに比して、ヒルホールド制御が解除され難いようにすることができ、その場合には、エンジンの停止途上におけるヒルホールド制御の解除による車両の坂路発進性の悪化を抑えることが可能となる。具体的な解除条件の変更態様としては、例えば請求項8に記載の態様、すなわちエンジン回転速度が既定の判定値以上であることを条件にヒルホールド制御の解除を行うとともに、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、そうでないときに比してその既定の判定値に大きい値を設定すること、などが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の構成を模式的に示す略図。
【図2】同実施の形態に採用されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施の形態の制御態様の一例を示すタイムチャート。
【図4】本発明の第2の実施の形態に採用されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図5】同実施の形態の制御態様の一例を示すタイムチャート。
【図6】本発明の第3の実施の形態に採用されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図7】同実施の形態の制御態様の一例を示すタイムチャート。
【図8】本発明の第4の実施の形態に採用されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の車両の制御装置を具体化した第1の実施の形態を、図1〜図3を参照して詳細に説明する。
【0022】
まず図1を参照して、本実施の形態の車両の制御装置の構成を説明する。
本実施の形態の制御装置の適用される車両のエンジン1には、クランクシャフトを電動回転することで、エンジン1を始動させるスターター2が補機として設けられている。こうしたエンジン1は、トルク増幅作用を有した流体継手であるトルクコンバーター3を介して自動変速機4に駆動連結されている。なお、こうした車両では、トルクコンバーター3は、動力伝達を完全に切断できないため、エンジン1のアイドリング中にも、自動変速機4側に、そしてひいては各駆動輪に一定のトルク、いわゆるクリープトルクが伝達されるようになっている。
【0023】
一方、この車両のブレーキシステムには、ブレーキペダル5の踏み込みに応じてブレーキ油圧を発生させるマスターシリンダー6が設けられている。またこの車両のブレーキシステムには、各車輪7のブレーキ8に供給されるブレーキ油圧を調整するブレーキアクチュエーター9が設けられている。
【0024】
こうした車両は、電子制御ユニット10により制御されている。電子制御ユニット10は、車両制御に係る各種演算処理を行う中央演算処理装置(CPU)、車両制御用のプログラムやデータの記憶された読込専用メモリー(ROM)、CPUの演算結果やセンサーの検出結果等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリー(RAM)を備えるコンピューター装置として構成されている。こうした電子制御ユニット10には、運転者のブレーキ操作に、すなわちブレーキペダル5の踏み込みに応じたブレーキ信号を出力するブレーキペダルセンサー11、アクセルペダル12の踏み込みに応じたアクセル信号を出力するアクセルペダルセンサー13の信号が入力されている。また電子制御ユニット10には、車両に作用する加速度に応じた加速度信号を出力する加速度センサー14、各車輪7の回転速度(車輪速)に応じた車輪速信号を出力する車輪速センサー15、エンジン1のクランク角に応じたクランク角信号を出力するクランク角センサー16などの信号も入力されている。なお、電子制御ユニット10は、加速度センサー14の出力する加速度信号から車両が位置する路面の勾配を、またクランク角センサー16の出力するクランク角信号からエンジン回転速度を、それぞれ確認するようにしている。
【0025】
以上のように構成された本実施の形態の車両の制御装置において、電子制御ユニット10は、車両制御の一環として、エンジン運転のアイドリングストップ制御を行っている。アイドリングストップ制御において電子制御ユニット10は、停車状態が一定の時間以上継続していることが確認されたときに、エンジン1に停止指令を出力して、エンジン1の燃料供給や点火を停止させることで、その運転を自動的に停止させている。また、そうしたエンジン運転の自動停止後に電子制御ユニット10は、アクセルペダル12の踏み込み等による発進操作が確認されたときに、エンジン1に再始動指令を出力して、燃料供給や点火を再開することで、エンジン1を再始動させている。なお、スターター2によるエンジン1の再始動が可能なエンジン回転速度には、上限がある。そのため、再始動指令時のエンジン回転速度がある程度よりも高いときには、実際のエンジン1の再始動は、エンジン回転速度が一定値(以下、「クランキング回転速度」と記載する)以下に低下するのを待って行われることになる。
【0026】
更に電子制御ユニット10は、こうしたエンジン1のアイドリングストップに応じて、運転者のブレーキ操作に依らずに車輪7に制動力を付与するヒルホールド制御を行っている。ヒルホールド制御は、車両が坂路で停車し、かつエンジン1がアイドリングストップ中であることが確認されたときに、各車輪7のブレーキ8に供給されるブレーキ油圧が、ブレーキ操作の有無に依らず一定値以上に保持されるようにブレーキアクチュエーター9を制御することで行われる。
【0027】
一方、電子制御ユニット10は、こうしたエンジン1のアイドリングストップに応じたヒルホールド制御の解除を、基本的には、アイドリングストップからの復帰のためのエンジン1の再始動指令がなされていること、エンジン回転速度が既定の判定値α以上であること、を条件に行うようにしている。なお、上記の判定値αには、十分な坂路発進性を確保可能なクリープトルクが得られるだけのエンジン回転速度がその値として設定されている。また判定値αの値は、上記クランキング回転速度よりも大きい値となっている。すなわち、本実施の形態では、再始動指令後に、十分な坂路発進性を確保可能なクリープトルクが得られるだけのエンジン回転速度となっていれば、ヒルホールド制御を解除しても、クリープトルクによって車両の坂路発進性が確保されると判断して、ヒルホールド制御を解除するようにしている。
【0028】
ただし、本実施の形態の車両の制御装置では、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるのであれば、すなわち停止指令に応じた燃料供給や点火の停止後のエンジン1の惰性回転中には、再始動指令後にエンジン回転速度が判定値α以上となっていても、ヒルホールド制御を解除しないようにしている。こうした本実施の形態の車両の制御装置におけるヒルホールド制御の解除は、図2に示されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、ヒルホールド制御の実施中に電子制御ユニット10によって、既定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0029】
さて本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100において、エンジン1がアイドリングストップ中であるか否かが、すなわち、実施中のヒルホールド制御がアイドリングストップに応じたものであるか否かが確認される。ここでエンジン1がアイドリングストップ中でなければ(S100:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン1がアイドリングストップ中であれば(S100:YES)、処理がステップS101に移行される。
【0030】
ステップS101に処理が移行されると、そのステップS101において、エンジン1の再始動指令がなされているか否かが確認される。ここで再始動指令がなされていなければ(S101:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、再始動指令がなされていれば(S101:YES)、処理がステップS102に移行される。
【0031】
ステップS102に処理が移行されると、そのステップS102において、エンジン回転速度が上記判定値α以上であるか否かが確認される。ここで、エンジン回転速度が判定値α未満であれば(S102:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン回転速度が判定値α以上であれば(S102:YES)、処理がステップS103に移行される。
【0032】
ステップS103に処理が移行されると、そのステップS103において、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるか否かが、すなわちエンジン1が運転停止後の惰性回転中であるか否かが確認される。なお、エンジン1が停止の途上にあることは、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴があること、エンジン回転速度が上昇中である、あるいは低下中でないこと、などにより確認することができる。
【0033】
ここでエンジン1が停止の途上にあれば(S103:YES)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。すなわち、本ルーチンでは、再始動指令後にエンジン回転速度が判定値α以上となっていても、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあれば、ヒルホールド制御は解除されないようになる。一方、エンジン1が停止途上になければ(S103:NO)、ステップS104において、ヒルホールド制御の解除の指令がなされた上で、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0034】
次に、本実施の形態の作用を、図3を参照して説明する。図3には、本実施の形態の車両の制御装置の、坂路停車時における制御態様の一例が示されている。
同図の制御例では、時刻t1に、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令がなされ、またこれと同時に、ヒルホールド制御の実施指令がなされてヒルホールド制御が開始されている。そしてその後の時刻t2に、アイドリングストップにより停止されたエンジン運転を再開するための再始動指令がなされている。
【0035】
ただし、同図の制御例では、時刻t1における停止指令によってエンジン1が停止に至るよりも早く再始動指令がなされている。しかも、その時点のエンジン回転速度は、判定値α以上となっている。そのため、再始動指令後にエンジン回転速度が一定値以上であることをヒルホールド制御の解除条件とする従来の車両の制御装置では、この時刻t2の時点でヒルホールド制御が解除されることになる。この時点では、エンジン1は停止途上にあり、またスターター2によるエンジン1の再始動は、上述のクランキング回転速度以下にエンジン回転速度が低下するまで行われない。そのため、再始動指令後もしばらくは、エンジン回転速度は低下することになる。こうした状態でヒルホールド制御が解除されると、エンジン回転速度の低下に応じて駆動輪に伝達されるクリープトルクも低下してしまうため、ブレーキペダル5を踏み離したときに車輪7に十分な制動力を付与できず、車両の坂路発進性が悪化してしまう。
【0036】
これに対して本実施の形態の車両の制御装置では、再始動指令後にエンジン回転速度が判定値α以上となっていても、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、ヒルホールド制御を解除しないようにしている。そのため、本実施の形態では、ヒルホールド制御の解除は、この時刻t2の時点ではなく、スターター2によるエンジン1の再始動が開始され、その後の回転速度の上昇によりエンジン回転速度が再び判定値α以上に復帰する時刻t3に行われることになる。したがって、本実施の形態では、アイドリングストップによるエンジン1の停止途上に再始動指令がなされても、ヒルホールド制御の解除後のエンジン回転速度の低下による車両の坂路発進性の悪化が回避されるようになる。
【0037】
以上説明した本実施の形態の車両の制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、電子制御ユニット10は、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、ヒルホールド制御を解除しないようにしている。そのため、ヒルホールド制御の解除後のエンジン回転速度の低下により車両の坂路発進性が悪化することを回避して、エンジン1のアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することができる。
【0038】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の車両の制御装置を具体化した第2の実施の形態を、図4及び図5を併せ参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態及び下記の各実施の形態では、上述した実施の形態のものと同様の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0039】
本実施の形態の車両の制御装置では、エンジン1のアイドリングストップに応じて実施されるヒルホールド制御の解除を、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令後に、下記(a)〜(c)のすべてが成立したことを条件に行うようにしている。そしてこれにより、ヒルホールド制御の解除後のエンジン回転速度の低下により車両の坂路発進性が悪化することを回避して、エンジン1のアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保している。
(a)エンジンの再始動指令がなされたこと。
(b)エンジン回転速度が既定の判定値以上であること。
(c)再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴があること。
【0040】
本実施の形態の車両の制御装置におけるヒルホールド制御の解除は、図4に示されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、ヒルホールド制御の実施中に電子制御ユニット10によって、既定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0041】
さて本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS200において、エンジン1がアイドリングストップ中であるか否かが確認される。ここでエンジン1がアイドリングストップ中でなければ(S200:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン1がアイドリングストップ中であれば(S200:YES)、処理がステップS201に移行される。
【0042】
ステップS201に処理が移行されると、そのステップS201において、エンジン1の再始動指令がなされているか否かが確認される。ここで再始動指令がなされていなければ(S201:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、再始動指令がなされていれば(S201:YES)、処理がステップS202に移行される。
【0043】
ステップS202に処理が移行されると、そのステップS202において、エンジン回転速度が上記判定値α以上であるか否かが確認される。ここでエンジン回転速度が判定値α未満であれば(S202:NO)、ヒルホールド制御は解除されることなく、今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン回転速度が判定値α以上であれば(S202:YES)、処理がステップS203に移行される。
【0044】
ステップS203に処理が移行されると、そのステップS203において、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴があるか否かが確認される。ここでスターター2の駆動履歴がなければ(S203:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。すなわち、本ルーチンでは、再始動指令後にエンジン回転速度が判定値α以上となっていても、スターター2によるエンジン1の再始動が開始されていなければ、ヒルホールド制御は解除されないようになる。一方、エンジン1が停止途上になければ(S203:YES)、ステップS204において、ヒルホールド制御の解除の指令がなされた上で、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0045】
次に、本実施の形態の作用を、図5を参照して説明する。図5には、本実施の形態の車両の制御装置の、坂路停車時における制御態様の一例が示されている。
同図の制御例では、時刻t4に、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令がなされ、またこれと同時に、ヒルホールド制御の実施指令がなされてヒルホールド制御が開始されている。そしてその後の時刻t5に、アイドリングストップにより停止されたエンジン運転を再開するための再始動指令がなされている。
【0046】
ただし、同図の制御例では、時刻t4における停止指令によってエンジン1が停止されるよりも早く再始動指令がなされている。しかも、その時点のエンジン回転速度は、判定値α以上となっている。そのため、再始動指令後にエンジン回転速度が一定値以上であることをヒルホールド制御の解除条件とする従来の車両の制御装置では、この時刻t5の時点でヒルホールド制御が解除されることになる。この時点では、エンジン1は停止途上にあり、またスターター2によるエンジン1の再始動は、上述のクランキング回転速度以下にエンジン回転速度が低下するまで行われない。そのため、再始動指令後もしばらくは、エンジン回転速度は低下することになる。こうした状態でヒルホールド制御が解除されると、エンジン回転速度の低下に応じて駆動輪に伝達されるクリープトルクも低下してしまうため、ブレーキペダル5からアクセルペダル12への踏み替え操作中に車輪7に十分な制動力を付与できず、車両の坂路発進性が悪化してしまう。
【0047】
これに対して本実施の形態の車両の制御装置では、再始動指令後にエンジン回転速度が判定値α以上となっていても、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴がなければ、ヒルホールド制御を解除しないようにしている。そのため、本実施の形態では、ヒルホールド制御の解除は、この時刻t5の時点ではなく、時刻t6にスターター2によるエンジン1の再始動が開始され、その後の回転速度の上昇によりエンジン回転速度が再び判定値α以上に復帰する時刻t7に行われることになる。したがって、本実施の形態では、アイドリングストップによるエンジン1の停止途上に再始動指令がなされても、ヒルホールド制御の解除後のエンジン回転速度の低下による車両の坂路発進性の悪化が回避されるようになる。
【0048】
以上説明した本実施の形態の車両の制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(2)本実施の形態では、電子制御ユニット10は、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令後、エンジンの再始動指令がなされたこと、エンジン回転速度が既定の判定値α以上であること、及び再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴があることを条件にヒルホールド制御の解除を行うようにしている。そのため、ヒルホールド制御の解除後のエンジン回転速度の低下により車両の坂路発進性が悪化することを回避して、エンジン1のアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することができる。
【0049】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の車両の制御装置を具体化した第3の実施の形態を、図6及び図7を併せ参照して詳細に説明する。
【0050】
アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令後においても、エンジン回転速度が十分に高ければ、エンジン運転の自立復帰が、すなわちスターター2を用いずに自力でエンジン運転を再開することが可能である。そのため、この場合には、アイドリングストップによるエンジン1の停止途上に再始動指令がなされても、エンジン回転速度が大きく低下する前にエンジン運転を再開することができる。そこで本実施の形態では、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときに再始動指令がなされても、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、エンジン運転の自立復帰を行うとともに、その時点でヒルホールド制御を解除するようにしている。
【0051】
本実施の形態の車両の制御装置におけるヒルホールド制御の解除は、図6に示されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、ヒルホールド制御の実施中に電子制御ユニット10によって、既定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0052】
さて本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS300において、エンジン1がアイドリングストップ中であるか否かが確認される。ここでエンジン1がアイドリングストップ中でなければ(S300:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン1がアイドリングストップ中であれば(S300:YES)、処理がステップS301に移行される。
【0053】
ステップS301に処理が移行されると、そのステップS301において、エンジン1の再始動指令がなされているか否かが確認される。ここで再始動指令がなされていなければ(S301:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、再始動指令がなされていれば(S301:YES)、処理がステップS302に移行される。
【0054】
ステップS302に処理が移行されると、そのステップS302において、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴があるか否かが確認される。ここでスターター2の駆動履歴があれば(S302:YES)、ステップS303に処理が移行される。そして、エンジン回転速度が判定値α以上であること(S303:YES)を条件に、ヒルホールド制御が解除される(S304)。
【0055】
一方、スターター2の駆動履歴がない場合には(S302:NO)、処理がステップS305に移行される。そしてそのステップS305において、エンジン運転の自立復帰が可能であるか否かが判定され、自立復帰が可能であれば(S305:YES)、ヒルホールド制御が解除される(S304)。なお、ここでの自立復帰が可能であるか否かの判定は、エンジン回転速度が既定の判定値β以上であるか否かによって行われる。ここでの判定に用いられる判定値βには、スターター2を用いずに、燃料供給及び点火の再開だけでエンジン運転を再開可能なエンジン回転速度の最小値が設定されており、その値は、上記判定値αよりも大きい値となっている。
【0056】
次に、本実施の形態の作用を、図6を参照して説明する。図6には、本実施の形態の車両の制御装置の、坂路停車時における制御態様の一例が示されている。
同図の制御例では、時刻t8に、アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令がなされ、またこれと同時に、ヒルホールド制御の実施指令がなされてヒルホールド制御が開始されている。そしてその後の時刻t9に、アイドリングストップにより停止されたエンジン運転を再開するための再始動指令がなされている。
【0057】
この時刻t9の時点では、エンジン回転速度は上記判定値α以上となっており、この時点では、車両の坂路発進性を確保できるだけのクリープトルクが得られる状態となっている。ただし、このときのエンジン1は、アイドリングストップによる停止の途上にあり、スターター2によるエンジン1の再始動を待つのであれば、それまでにエンジン回転速度が低下して、駆動輪に伝達されるクリープトルクが低下してしまう。そのため、スターター2による再始動が可能となるまでエンジン運転の再開を待つのであれば、この時点でヒルホールド制御を解除してしまうと、坂路発進性が悪化してしまうようになる。
【0058】
一方、この時刻t9におけるエンジン回転速度は、判定値β以上であり、エンジン運転の自立復帰が可能となっている。そこで本実施の形態の車両の制御装置では、スターター2によるエンジン1の再始動を待たず、この時点で燃料供給及び点火を再開して、エンジン運転の自立復帰を行うようにしている。そしてそれと同時に、ヒルホールド制御を解除している。そのため、ヒルホールド制御の解除後、エンジン回転速度が大きく低下する前にエンジン運転が再開されることになり、ヒルホールド解除後のエンジン回転速度の低下による車両の坂路発進性の悪化は生じないようになる。
【0059】
こうした本実施の形態の車両の制御装置によれば、上記(2)に記載の効果に加え、更に次の効果を奏することができる。
(3)本実施の形態では、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴がなく、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあっても、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、エンジン運転の自立復帰を行うとともに、ヒルホールド制御を解除するようにしている。こうした場合、エンジンの停止途上にヒルホールド制御を解除しても、その解除のエンジン回転速度の低下による車両の坂路発進性の悪化は生じないようになる。しかも、再始動指令時にエンジン運転の自立復帰が可能な場合には、スターター2によるエンジン1の再始動、及びその再始動後のエンジン回転速度の上昇を待たずにヒルホールド制御を解除できるため、より速やかに車両を発進させることが可能となる。
【0060】
(第4の実施の形態)
次に、本発明の車両の制御装置を具体化した第4の実施の形態を、図8を併せ参照して詳細に説明する。
【0061】
上記各実施の形態では、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、その時点のエンジン回転速度が十分に高く、エンジン1が、車両の坂路発進性を確保できるだけのクリープトルクを発生可能な状態となっていても、ヒルホールド制御を解除しないようにしていた。そしてそれにより、ヒルホールド制御の解除後のエンジン回転速度の低下による車両の坂路発進性の悪化を回避するようにしていた。
【0062】
これに対して本実施の形態では、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときと、そうでないときとで、ヒルホールド制御の解除条件を異ならせるようにしている。そしてそれにより、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、停止途上にないときに比して、ヒルホールド制御が解除され難くなるようにしている。具体的には、本実施の形態では、エンジン回転速度が既定の判定値以上であることを条件にヒルホールド制御の解除を行うとともに、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、そうでないときに比して上記既定の判定値に大きい値を設定するようにしている。
【0063】
こうした本実施の形態の車両の制御装置におけるヒルホールド制御の解除は、図8に示されるヒルホールド制御解除ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、ヒルホールド制御の実施中に電子制御ユニット10によって、既定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0064】
さて本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS400において、エンジン1がアイドリングストップ中であるか否かが確認される。ここでエンジン1がアイドリングストップ中でなければ(S400:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン1がアイドリングストップ中であれば(S400:YES)、処理がステップS401に移行される。
【0065】
ステップS401に処理が移行されると、そのステップS401において、エンジン1の再始動指令がなされているか否かが確認される。ここで再始動指令がなされていなければ(S401:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、再始動指令がなされていれば(S401:YES)、処理がステップS402に移行される。
【0066】
ステップS402に処理が移行されると、そのステップS402において、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるか否かが確認される。ここで、エンジン1が停止途上になければ(S302:NO)、ステップS403に処理が移行される。そして、エンジン回転速度が判定値α以上であること(S403:YES)を条件に、ヒルホールド制御が解除される(S404)。なお、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるか否かの判定は、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴があるか否か、あるいはエンジン回転速度が上昇中であるか否か、などにより行うことができる。
【0067】
一方、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときには(S402:NO)、処理がステップS405に移行される。そしてそのステップS405において、エンジン回転速度が既定の判定値γ以上であるか否かが判定され、判定値γ以上であれば(S405:YES)、ヒルホールド制御が解除される(S404)。なお、同ステップS405での判定に使用される判定値γには、上記ステップS403での判定に使用される判定値αよりも大きい値が設定されている。すなわち、本ルーチンでは、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、そうでないときに比して、ヒルホールド制御が解除され難くなっている。
【0068】
以上説明した本実施の形態によれば、次の効果を奏することができる。
(4)本実施の形態では、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときと、そうでないときとで、ヒルホールド制御の解除条件を変更するようにしている。そして、停止の途上にあるときには、そうでないときに比して、ヒルホールド制御が解除され難いようにしている。そのため、エンジン1の停止の途上におけるヒルホールド制御の解除の結果、その解除後にエンジン回転速度が低下して、車両の坂路発進性が悪化することが抑制されるようになる。したがって、本実施の形態によれば、エンジン1のアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することができる。
【0069】
なお、上記実施の形態は以下のように変更して実施することもできる。
・第1の実施の形態では、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあれば、ヒルホールド制御を解除しないようにしていたが、そうした停止の途上にあるときにも、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、その自立復帰を行うとともに、ヒルホールド制御を解除するようにしても良い。
【0070】
・第2及び第3の実施の形態では、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴があることから、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあることを確認するようにしていたが、その確認をエンジン回転速度が上昇中であること(低下中でないこと)で行うこともできる。
【0071】
・上記実施の形態では、再始動指令に応じたスターター2の駆動履歴がないこと、あるいはエンジン回転速度が上昇中でない(低下中である)ことから、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあることを確認するようにしていたが、その確認をそれら以外の事象に基づいて行うようにしても良い。
【0072】
・第4の実施の形態では、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときと、そうでないときとの2つの状況で、ヒルホールド制御の解除条件となるエンジン回転速度の最小値(判定値α、γ)を異ならせるようにしていた。もっとも、上記停止の途上には、ヒルホールド制御がより解除され難くなるように、両状況でのヒルホールド制御の解除条件が異ならされていれば、ヒルホールド制御の解除後にエンジン回転速度が低下して車両の坂路発進性が悪化することを抑制することができる。そのため、エンジン回転速度の最小値(判定値α、γ)を異ならせること以外で、上記2つの状況におけるヒルホールド制御の解除条件を異ならせることでも、エンジン1のアイドリングストップを行う車両の坂路発進性をより好適に確保することができる。
【0073】
・上記実施の形態では、アイドリングストップからの復帰のためのエンジン1の再始動を、スターター2を用いて行うようにしていたが、走行用のモーターを備えるハイブリッド車両の場合には、その走行用のモーターをスターターとして用いてエンジン1の再始動を行うことがある。そうしたハイブリッド車両でも、アイドリングストップからの復帰のための再始動指令の後、直ちにエンジン1の再始動を行うことができないことがあれば、そうした状況でヒルホールド制御を解除すると、指令からのエンジン1の再始動の遅延により車両の坂路発進性が悪化することがある。そのため、そうしたハイブリッド車両においても、本発明の制御装置の適用により、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときにヒルホールド制御が解除されて、車両の坂路発進性が悪化することを回避ないしは抑制することが可能である。
【0074】
・上記実施の形態では、アイドリングストップからの復帰のためのエンジン1の再始動を、スターター2を用いて行うようにしていたが、スターター2を用いずにそうした再始動を行う場合にも、再始動指令後に直ちにエンジン1の再始動を行うことができないことがある。そのため、スターター2を用いずにアイドリングストップからの復帰のためのエンジン1の再始動を行う場合にも、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときに、ヒルホールド制御を解除しないようにすることで、車両の坂路発進性の悪化を回避することができる。またそうした場合にも、エンジン1がアイドリングストップによる停止の途上にあるときとそうでないときとで、ヒルホールド制御の解除条件を異ならせることで、エンジンの停止途上におけるヒルホールド制御の解除に起因した車両の坂路発進性の悪化を回避ないしは抑制することが可能となる。
【0075】
・上記実施の形態では、各車輪7のブレーキ8に供給されるブレーキ油圧を一定値以上に保持し、ブレーキペダル5が踏み込まれていないときにも、各車輪7に制動力が付与されるようにすることでヒルホールド制御を行うようにしていたが、それ以外の方法でヒルホールド制御を行うようにしても良い。例えば、自動変速機4のギアやシャフト等の回転要素をクラッチなどによりロックして、駆動輪の回転を抑止することでも、ヒルホールド制御を行うことができる。また、電動式のパーキングブレーキを備える車両では、パーキングブレーキを作動することで、ヒルホールド制御を行うことが可能である。
【0076】
・上記実施の形態では、トルクコンバーター3を採用する車両に本発明の制御装置を適用した場合を説明した。もっとも、トルクコンバーターを非採用の車両でも、エンジンのアイドリングストップに応じてヒルホールド制御を行う場合、エンジンがアイドリングストップによる停止の途上にあるときには、エンジンの再始動を直ちには開始できないことがある。そしてそうした状態でヒルホールド制御を解除すると、ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え操作を速やかに行っても、再始動の指令からその開始までの遅延により、車両の推進力の発生が遅れてしまうため、車両の坂路発進を円滑に行うことができなくなる。したがって、マニュアルトランスミッション車や一部の無断変速機搭載車のようなトルクコンバーター非採用の車両の場合にも、本発明の制御装置の適用により、車両の坂路発進性を好適に確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1…エンジン、2…スターター、3…トルクコンバーター、4…自動変速機、5…ブレーキペダル、6…マスターシリンダー、7…車輪、8…ブレーキ、9…ブレーキアクチュエーター、10…電子制御ユニット、11…ブレーキペダルセンサー、12…アクセルペダル、13…アクセルペダルセンサー、14…加速度センサー、15…車輪速センサー、16…クランク角センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置において、
前記エンジンが前記アイドリングストップによる停止の途上にあるときには、前記ヒルホールド制御を解除しない
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記停止の途上にあっても、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、前記エンジン運転の自立復帰を行うとともに、前記ヒルホールド制御を解除する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置において、
前記アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令後、エンジンの再始動指令がなされたこと、エンジン回転速度が既定の判定値以上であること、及びエンジン回転速度が上昇中であることを条件に前記ヒルホールド制御を解除する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
前記エンジン回転速度が上昇中でなくても、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、同エンジン運転の自立復帰を行うとともに、前記ヒルホールド制御を解除する
請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置において、
前記アイドリングストップによるエンジン運転の停止指令後、エンジンの再始動指令がなされたこと、エンジン回転速度が既定の判定値以上であること、及び前記再始動指令に応じたスターターの駆動履歴があることを条件に前記ヒルホールド制御を解除する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
前記スターターの駆動履歴がなくても、エンジン運転の自立復帰が可能であれば、同エンジン運転の自立復帰を行うとともに、前記ヒルホールド制御を解除する
請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
運転者のブレーキ操作に依らずに車輪に制動力を付与するヒルホールド制御をエンジンのアイドリングストップに応じて行う車両の制御装置において、
前記エンジンが前記アイドリングストップによる停止の途上にあるときと、そうでないときとで、前記ヒルホールド制御の解除条件を変更する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
エンジン回転速度が既定の判定値以上であることを条件に前記ヒルホールド制御の解除を行うとともに、前記エンジンが前記アイドリングストップによる停止の途上にあるときには、そうでないときに比して前記既定の判定値に大きい値を設定する
請求項7に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−67187(P2013−67187A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205045(P2011−205045)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】