説明

車両の運転方法及び装置

【課題】発進困難を回避するために、間近に行われる発進プロセスが、より高い信頼性をもって且つより短時間の中に検出される車両の運転方法及び装置を提供する。
【解決手段】間近に行われる発進プロセスの検出のために、クラッチ操作が行われたか否かがチェックされる車両の運転方法において、ギヤがシフトされた状態で或いはセレクタがシフトされた状態で、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出されたときに、間近に行われる発進プロセスが検出される。これにより、これから行われる発進プロセスの直前に、車両の或る出力値について十分に大きなリザーブを用意することを可能にして、発進困難を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転のための方法及び装置に関する。
【発明の背景】
【0002】
既に、間近に行われる発進プロセスの検出のために、クラッチ操作が行われたか否かがチェックされるという、車両の運転方法及び装置が知られている。
発進プロセスは、車両の場合高度に動力学的プロセスとなる。クラッチオンによって、エンジンから、アイドリング時に得られる出力よりも大きな出力が求められる。得られる出力が小さ過ぎると、最悪の場合、エンストが引き起こされる。これに対して、ドライバーはアクセルペダルの操作によって対抗することができる。それによって生成された出力が発進プロセスをより確実にする。発進プロセスのために要求される出力の確保のための第二の手法は、アイドリング中にトルクリザーブを準備することである。この場合、火花点火機関では気筒充填率が引き上げられ且つ点火時期が遅角方向へ移動される。これによって回転数が、又エンジンによって発生されるトルクが一定に保持される。出力の引き上げは、点火時期の進角によって迅速に準備することができる。この場合、出力の引き上げは気筒充填率の引き上げに対応している。点火時期の遅角による気筒充填率の引き上げは、必然的にアイドリング時の燃料消費量の増加をもたらす。アイドリング時のこの燃料消費量の増加は、クラッチが切られた時にのみトルクリザーブを形成することによって、限定的に対抗することができる。この対抗策は、ドライバーが直に発進するという期待と結び付いている。この目的のために、クラッチが切られたか否かを検知するクラッチスイッチが用いられる。クラッチが切られている時には常に燃料消費量が増加し、このことは、一般に車両が静止状態の下で頻繁にクラッチが切られる市街地走行の際にはマイナスの作用をする。
【0003】
発進困難の問題は、車両重量が大きな場合に排気量の小さなエンジンが使用される場合には、ますます大きくなる。これには、特に過給付きの小排気量のエンジンに見られる。
アイドリングの下での大きなトルクリザーブの保持は、燃料消費量を顕著に大きくする。従って、最近ではクラッチが切られている時でもトルクリザーブは制限される。このことは、特に過給付きの小排気量の小さないエンジンを備えた、上述の様な車両で発進困難をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、間近に行われる(これから行われる目前に迫った)発進プロセスが、より高い信頼性をもって且つより短時間の中に検出される車両の運転方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、間近に行われる発進プロセスの検出のために、クラッチ操作が行われたか否かがチェックされる車両の運転方法及び装置において、ギヤがシフトされた状態で或いはセレクタがシフトされた状態で、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出されたときに、間近に行われる発進プロセスが検出される。
【0006】
このようにすることによって、間近に行われる発進プロセスが、より高い信頼性をもって且つより短時間の中に検出される。この場合には、発進プロセスのために準備される車両の出力値のためのリザーブが過度に長く又不必要に形成される必要が無く、これによってリザーブに起因する燃料の余分の消費を可能な限り少なく維持することができる。この場合、車両の出力値のためのリザーブの制限は必要ではなくなるので、発進困難は過給付きの小排気量のエンジンの場合でも回避することができる。
【0007】
本発明の方法の更に有利な拡張及び改良が可能である。
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が、車両のクラッチを閉じる前に車両のクラッチを閉じる方向に関して特徴的な切替え動作を行うクラッチスイッチを用いて検出され、その際この特徴的な切替え動作を検出したときに、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出されると、とりわけ有利である。このようにすることによって、間近に行われる発進プロセスの検出のために従来のクラッチスイッチをより有効に使用することができるので、追加の支出を大幅に避けることができる。
【0008】
更に、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作がクラッチ位置センサを用いて検出されると、とりわけ有利である。幾らかコストの掛かるこの解決策は、クラッチ操作のより微分化した評価を可能にし、又それによって車両の発進困難の解消のために必要な措置のより良いチューニングを可能にする。更にクラッチ位置センサの使用によって、間近に行われる発進プロセスがより短時間の間に検出されるので、車両の出力値のためのリザーブをより遅く形成することができるようになり、又それによって燃料消費を更に引き下げることができる。それと共に、間近に行われる発進プロセスも更に高い信頼性をもって検出される。
【0009】
もう一つの利点は、クラッチ操作の時間的変化が評価され且つ車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作がこのクラッチ操作の時間的変化の評価に依存して検出されるときに生まれる。このようにすることによって、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が特に簡単に且つ高い信頼性を持って検出される。
【0010】
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作の検出の際に、車両の出力値のためのリザーブが形成され、このリザーブが車両のクラッチが閉じるのに伴って少なくとも一部分呼び出されると、もう一つの利点が生まれる。このようにすることによって、リザーブが車両のクラッチが閉じられる可能な限り直前に形成されることができるので、リザーブの形成と結び付いている燃料消費ができる限り少なく保持されることができる一方、リザーブの制限が必要ではなくなる。
【0011】
リザーブが車両のクラッチの予め定められた位置で車両のクラッチが閉じる前に形成されると、もう一つの利点が生まれる。このようにすることによって、リザーブは、車両のクラッチの位置を予め適切に設定しておけば、車両のクラッチが閉じる前に、車両のクラッチの閉じられるときから最小の時間的ずれで形成され、それによって燃料消費が更に引き下げられる。
【0012】
リザーブの形成のための速度がクラッチ操作の時間的変化に依存して調節されることもまた有利である。このようにすることによって、リザーブの形成をクラッチ操作の時間的変化に合わせて最適にチューニングすることができる。このようにすることによって、燃料消費が更に最適化される。かくしてリザーブの迅速な形成を、迅速なクラッチ操作が検出されたか否かに応じて行うことができるので、発進プロセスが急激に行われるかどうか又それに応じてリザーブが急激に形成されなければならないかどうか、ということを考慮することができる。
【0013】
これによって又リザーブを、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作の速度の上昇に伴ってより迅速に形成することができる。
リザーブは、車両の内燃機関に対する空気供給の増加と点火時期の遅角とによって、とりわけ簡単に形成される。
【0014】
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出された際に、車両のエンジン回転数が引き上げられることも又有利である。このようにすることによって、車両の発進時の快適さのためにより有利な運転ポイントで発進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の幾つかの実施例が図面に示され、以下の記載で詳しく説明される。
図1には、例えば自動車のエンジン制御装置で、ソフトウェア的に及び/又はハードウェア的に実行されることのできる機能ダイヤグラム10が示されている。その際、自動車は、例えば、図1には示されていない内燃機関によって駆動されることができ、この内燃機関は、例えば火花点火機関或いはディーゼルエンジンとすることができる。以下の記述では、例えばこの内燃機関が火花点火機関であるということが仮定されるものとする。機能ダイヤグラム10は、本発明の第一の実施例に基づく本発明の自動車の運転装置を示している。その際、機能ダイヤグラム10はクラッチスイッチ1を含んでおり、このクラッチスイッチ1には、自動車のクラッチペダル30の操作度が送り込まれる。クラッチペダル30が解放された位置からクラッチを開くためのストッパの方向へ操作されると、予め設定された、例えば試験台の上で適用された操作角度に到達すると共に、クラッチスイッチ1が閉じられ、それに対応するクラッチ信号Kがセットされる(送り出される)。クラッチペダル30が再び解放されると、設定位置を通過する際に、クラッチスイッチ1が再び開かれ、クラッチ信号Kがリセットされる。クラッチスイッチ1の開閉によって生成されたクラッチ信号Kは、第一のチェックユニット20に送り込まれる。更に第一のチェックユニット20には、ギヤ制御装置35からギヤ信号Gが送り込まれる。その際、このギヤ信号Gは、ギヤ又はセレクタが丁度シフトされているか否か、この例の場合にはギヤ信号Gがセットされている(送り出されている)か否か、或いはギヤ又はセレクタが丁度シフトされていないかどうか、この例の場合にはギヤ信号Gがリセットされているかどうか、を示す。機能ダイヤグラム10は、図1に基づく例の場合にはクラッチスイッチ1とチェックユニット20とを含んでおり、これに対してクラッチペダル30とギヤ制御装置35は機能ダイヤグラム10の外に配置されている。その際、勿論ギヤ制御装置35及び/又はクラッチペダル30は機能ダイヤグラム10の中へ一緒に含めることもできる。機能ダイヤグラム10は、少なくともチェックユニット20を含んでいる。チェックユニット20は、受信したクラッチ信号Kと受信したギヤ信号Gとに基づいて、車両の発進プロセスが間近に行われるか否かをチェックする。その際、間近に行われる発進プロセスは、クラッチ信号Kとギヤ信号Gとに基づいて、ギヤがシフトされている状態で或いはセレクタがシフトされている状態で、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出されたときに、検出される。クラッチペダル30を解放する際には、車両のクラッチが閉じる前に、クラッチスイッチ1が車両のクラッチの閉じる方向に関して特徴的な切替え動作を行う。この特徴的な切替え動作は、既に説明されたように、クラッチスイッチ1が予め定められたクラッチ位置に到達すると共にクラッチペダル30が解放されている状態で再び開かれ、これによってクラッチ信号Kがセット状態からリセット状態へ変化するということから成り立っている。これによって、第一のチェックユニット20は、車両のクラッチの閉じる方向へのクラッチ操作を、クラッチスイッチ1或いはクラッチ信号Kによって、クラッチスイッチ1の特徴的な切替え動作或いはそれに付随しているクラッチ信号Kの特徴的な動きが第一のチェックユニット20によって検知されるときに、検出する。その際、既に説明されたように、この特徴的な切替え動作を検知した際の車両のクラッチの閉じる方向へのクラッチ操作は勿論、同時にギヤ信号Gによってギヤがシフトされていること或いはセレクタがシフトされていることが認知されたときにのみ、第一のチェックユニット20によって認知される。図2a)及び2b)を用いて、この事情が信号図に基づいてもう一度明らかにされる。図2a)はクラッチ信号Kの時間的変化の一例を示し、図2b)はギヤ信号Gの時間的変化の一例を示している。先ず、第一の時点tまでクラッチ信号Kがリセットされる。それ故クラッチペダル30は、第一の時点tまで、予め定められたクラッチスイッチ1の切替えのための位置より小さい操作度を有している。しかしながら、第一の時点tでクラッチペダル30の操作度は予め設定された位置に到達し、クラッチスイッチ1が閉じるので、クラッチ信号Kが第一の時点tでセットされる(送り出される)。その際、ギヤ信号Gは、第一の時点tに続く第二の時点tまで出されているので、この第二の時点tまで、ギヤはシフトされている。第二の時点tで、シフトされていたギヤ或いはシフトされていたセレクタが解除されてアイドリング状態となるので、ギヤ信号Gは、この第二の時点tでリセットされる。次いで、第二の時点tに続く第三の時点tで、再びクラッチペダル30の操作度のための予め設定された位置を、クラッチペダル30を完全に解放する方向に越えて行くために、クラッチペダル30が再び解放される。これによって、第三の時点tではクラッチ信号Kがリセットされ、クラッチスイッチ1が再び開かれる。第三の時点tに続く第四の時点tでは、クラッチペダル30が再び予め設定された位置まで操作されるので、クラッチスイッチ1が閉じてクラッチ信号Kが送り出される。次いで、第四の時点tに続く第五の時点tでは、再びギヤ或いはセレクタがシフトされるので、第五の時点tでギヤ信号Gが再び送り出される。第五の時点tに続く第六の時点tでは、クラッチペダル30の操作度が(クラッチペダル30の解放時に)再び予め設定された位置に到達するので、クラッチスイッチ1が開かれてクラッチ信号Kがリセットされる。この第六の時点tでは、ギヤ信号Gが出される、即ちギヤ或いはセレクタがシフトされる。同時にこの第六の時点tでは、車両のクラッチの閉じる方向について特徴的なクラッチスイッチ1の開閉動作或いはクラッチ信号Kのセット状態からリセット状態への移行が行われるので、この第六の時点tでは、間近に行われる発進プロセスが第一のチェックユニット20によって検出される。
【0016】
本発明の一つの拡張実施例によれば、車両のクラッチの閉じる方向へのクラッチ操作が検出された際に、或いは間近に行われる発進プロセスが検出された際に、車両の一つの出力値のためのリザーブが形成され、このリザーブは、車両のクラッチが閉じられるのに伴って少なくとも一部分呼び出される。車両の出力値としては、例えばエンジン、ギヤ、或いは車両の一つ又は幾つかのホイールの上でのトルク或いは出力(パワー)を考えることができる。車両の出力値としては又、上述のトルク及び/又は上述の出力(パワー)から導き出される値を考えることもできる。
【0017】
上記のリザーブは、例えば車両の内燃機関に対する空気供給の増加と、火花点火機関の場合には点火時期の遅角とによって形成することができる。その際、空気供給と点火時期の制御は、図1の第一のチェックユニット20の出力側に示されており、これによって必要なリザーブが用意される。
【0018】
以下の説明では、車両の出力値がトルク、特にエンジン出力トルク或いはエンジントルクであるということが仮定されるものとする。この場合、リザーブはエンジントルクリザーブ或いは簡単にトルクリザーブとなる。
【0019】
図2c)にはリザーブRの時間的変化が示されている。第六の時点tで車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が、又これと共に間近に行われる発進プロセスが第一のチェックユニット20によって検出されるので、この時点でリザーブRも形成される。その際、図2c)には第六の時点tにおけるリザーブRの急激な形成が示されている。実際には、このリザーブは勿論、内燃機関の空気供給或いは充填率の引き上げの際の内燃機関の吸気管のダイナミクスに依存して、或る程度の時間的遅れを伴ってしか形成されることはできない。
【0020】
クラッチペダル30の操作度についての予め設定された位置は、好ましくは、車両のクラッチが既に完全に開かれているときのクラッチペダル30の操作度に対応しているクラッチペダル30の操作度についての予め設定された位置のできるだけ近くに配置される。これによって、クラッチペダル30の操作度についての予め設定された位置が、クラッチペダル30が解放されたときに未だクラッチペダルが閉じられる前に通過されることが保証される。これによって、クラッチスイッチ1の特徴的な開閉動作或いはセットされた状態からリセットされた状態へのクラッチ信号Kの変化も又、車両のクラッチが閉じる前に、従って間近に行われる発進プロセスの前に、確実に達成される。他方予め設定された位置は、必要なトルクリザーブが完全に形成されるということを保証するために、車両のクラッチが閉じられるクラッチペダル30の操作度から十分に遠くに離されているべきである。予め設定されるこのクラッチペダル30の操作度についての位置は、上述の枠組み条件を満たすために、例えば試験台の上で適切に決定することができる。
【0021】
図3には、本発明の第二の実施例のための機能ダイヤグラム15が示されている。機能ダイヤグラム15は、本発明に基づく、第二の車両の運転装置を示している。この機能ダイヤグラム15は、ソフトウェア及び/又はハードウェアとして車両のエンジン制御装置に実装されることができる。その際、同じ参照符号は図1と同じ要素を指示している。図3に基づく機能ダイヤグラム15は、例えば、当業者には既知の手法で、クラッチペダル30の位置或いは操作度を測定する、位置センサの形をしたクラッチ位置センサ5を含んでいる。クラッチ位置センサ5は、そのようにして測定されたクラッチペダル30の操作度に応じてクラッチ信号K′を形成し、この信号を第二のチェックユニット25へ伝え、この第二のチェックユニット25には、再びギヤ制御装置35からギヤ信号Gが送り込まれる。図3に基づく機能ダイヤグラム15は、クラッチ位置センサ5と第二のチェックユニット25とを含んでいる。機能ダイヤグラム15は又、追加としてクラッチペダル30及び/又はギヤ制御装置35を含むことができる。しかしながらこの機能ダイヤグラム15は、少なくとも第二のチェックユニット25を含んでいる。
【0022】
クラッチ信号K′はクラッチペダル30の操作度を反映している。クラッチペダル30が操作されていなければ、クラッチ信号K′=0であり、クラッチペダル30が完全に踏み込まれていて、その最大操作度を有していれば、クラッチ信号K′は、図4a)のクラッチ信号K′の時間的変化から理解されるように、値K1を取る。その際、クラッチペダル30は、最初は第一の時点tまで操作されていない。次いで、第一の時点tからその後に続く第二の時点tまで、クラッチペダル30は、図4a)の例に基づいて操作度0から最大操作度K′までリニアーに踏み込まれるので、車両のクラッチが開かれる(切られる)。その際、第二の時点tからその後に続く第三の時点tまでは、ギヤ信号Gの時間的変化が示されている図4b)から理解されるように、ギヤ或いはセレクタがシフトされている。次いで第三の時点tではアイドリングに入れられるので、ギヤ信号Gがリセットされる。第三の時点tの後に続く第四の時点tでは、クラッチペダル30が最大の操作度K′を持つ完全に踏み込まれた位置から再び解放され、図4a)に示されている例では、後に続く時点tまでリニアーに、再びK′=0のクラッチペダル30が完全に離された状態に到達する。次いで、第五の時点tの後に続く第六の時点tでは、クラッチ30が再び操作され、その際、操作度は第六の時点tのときのK′=0から、その後に続く第七の時点tまでリニアーに、値K′=K1へ上昇して行き、その際、時点tと時点tとの間の時間的間隔は時点tと時点tとの間の時間的間隔よりも小さいので、第六の時点tから第七の時点tまでのクラッチペダル30の操作は、第一の時点tから第二の時点tまでよりも迅速に行われる。次いで、第七の時点tの後に続く第八の時点tでは、再びギヤ或いはセレクタがシフトされ、ギヤ信号Gがセットされる(送り出される)。次いで、第八の時点tの後に続く第九の時点tでは、クラッチペダル30が再び、最大の操作度K′=K1からリニアーに操作され、クラッチペダル30は、その後に続く第十一の時点t11で完全に解放されてK′=0となる。その際、第九の時点tと第十一の時点t11との間の時間的間隔は、図4a)の例の第六の時点tと第七の時点tとの間の時間的間隔に対応しており、この後者の時間的間隔は再び、図4a)の例の第一の時点tと第二の時点tとの間の時間的間隔に対応している、第四の時点tと第五の時点tとの間の時間的間隔よりも小さい。第九の時点tと第十一の時点t11との間にある第十の時点t10では、クラッチペダル30の操作度の動きは予め定められている閾値Ksに到達し、次いでこの値を割り込む。
【0023】
その際、クラッチペダル30の操作度のための予め定められている閾値Ksは、例えば図1に基づく第一の実施例の場合の操作度のための予め定められている位置と同じように、予め定めておくことができる。これによって第二のチェックユニット25は、ギヤがシフトされた状態で或いはセレクタがシフトされた状態で、即ちギヤ信号Gがセットされている(送り出されている)状態で、第十の時点t10においてクラッチペダル30の操作度のための予め定められた閾値Ksが大きい方の値から小さい方の値へ向かって通過された際に、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作を又これによって間近に行われる車両の発進プロセスを検出することができる。追加として或いは代わりとして、第二のチェックユニット25は、クラッチ信号K′の時間的勾配を形成することができる。第二のチェックユニット25が、ギヤがシフトされた状態で或いはセレクタがシフトされた状態で、即ちギヤ信号Gがセットされている(送り出されている)状態で、第九の時点tの間近にクラッチ信号K分のマイナスの時間的勾配を検出するや否や、第二のチェックユニット25は、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作を、又これによって間近に行われる車両の発進プロセスを検知する。又代わりとして、ギヤがシフトされた状態で或いはセレクタがシフトされた状態で、即ちギヤ信号Gがセットされている(送り出されている)状態で、クラッチ信号K′のマイナスの時間的勾配と予め定められた閾値Ksの通過との両方が検出されたおきにのみ、第二のチェックユニット25が、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作を、又これによって間近に行われる車両の発進プロセスを検出するというようにすることもできる。
【0024】
それ故、第十の時点t10で、間近に行われる発進プロセスが第二のチェックユニット25によって検出されるや否や、第二のチェックユニット25は、図4c)の時間的変化に基づいてリザーブRの形成を開始させる。その際、図4c)には、リザーブRがリニアーな上昇の後で、又それによって或る程度の時間遅延をもって、第十一の時点t11の後に続いている第十二の時点t12で、予め定められた最終値R1に到達するということが示されている。この遅延は、既に説明されたように、例えば、第十の時点t10における飛躍的な気筒充填率の上昇又それに伴うリザーブRの飛躍的な形成を妨げる、内燃機関の吸気管のダイナミクスに起因している。その際、リザーブの形成は、図1で説明された本発明の第一の実施例のようにして行われるので、第二のチェックユニット25は、第一のチェックユニット20と同様、リザーブを、火花点火機関の場合には例えばスロットルバルブ及び点火を用いて当業者には既知の手法で気筒充填率を適当に引き上げることによって用意する。このことが、図3に図1と同じような形で示されている。
【0025】
ここで、リザーブRの形成の速度をクラッチ操作の時間的変化に応じて調節するということを考えることができる。既に図4a)で説明されたように、クラッチ操作は、様々な速さで行われ得る。その際、第六の時点tと第七の時点tとの間、或いは第九の時点tと第十一の時点t11との間のクラッチの操作は、第一の時点tと第二の時点tとの間、或いは第四の時点tと第五の時点tとの間のクラッチ操作よりも速い。第二のチェックユニット25は、クラッチ信号K′の時間的勾配を評価する際にクラッチ操作の速度の違いを区別することができる。クラッチ信号K′の時間的勾配の値が大きくなればなる程、クラッチペダル30はより速く操作されるであろう。かくしてクラッチ信号K′の時間的勾配から、車両のドライバーがより速く或いはよりゆっくりと走りたいと思っているか否かを推定することができる。クラッチ信号K′の時間的勾配がマイナスであり、予め定められた閾値Ksが通過され、且つギヤ又はセレクタがシフトされている状態で、第九の時点tと第十一の時点t11との間の時間間隔の間で、クラッチ信号K′の時間的勾配の値が大きくなればなる程、車両のドライバーは速く車両を発進させたいと思っている。かくして、第二のチェックユニット25は、間近に行われる発進プロセスが認知される、第九の時点tと第十一の時点t11との間の時間間隔の間でのクラッチ信号K′の時間的勾配の値の増加に伴って、例えばスロットルバルブをより迅速に開くか或いは点火時期をより迅速に遅角方向へずらすことによって、リザーブRをより迅速に準備することができる。例えば、第九の時点tと第十一の時点t11との間の時間間隔の間で、クラッチ信号K′の時間的勾配の値が第四の時点tと第五の時点tとの間と同じ大きさであれば、リザーブRはよりゆっくりと用意することができ、このことが図4c)の破線によるリザーブRの変化によって表されており、この場合に、リザーブRは、第十二の時点t12の後に続く第十三の時点t13になって初めて最終値R1に到達する。
【0026】
クラッチペダル30の操作度と車両のクラッチの真の位置との間の関係は、適当な適応策を通じて、例えば試験台の上で或いは通常の走行運転の中で、確定することができる。このためには、好ましくはエンジン回転数とエンジントルクとの間の相関関係が利用される。クラッチペダル30の操作度と車両のクラッチの真の位置との間の関係の調整によって、予め定められたクラッチ閾値Ksが車両のクラッチの全使用期間にわたって適応されるので、予め定められたクラッチ閾値Ksと、車両のクラッチ30が閉じられ或いは噛合わされる車両のクラッチ30の操作度との間のできる限り小さい間隔を、車両のクラッチの全使用期間にわたってできる限りコンスタントに保持することができ、その結果、リザーブを、一方では車両のクラッチの噛合わされる前或いは間近に行われる発進プロセスの前のできるだけ直前に調節し、又他方ではできるだけ完全に調節することができる。
【0027】
以下の説明は、本発明の先に述べられた二つの実施態様に対して当てはまる。リザーブRの形成のために、第一のチェックユニット20或いは第二のチェックユニット25は、スロットルバルブのとりわけ迅速な開弁を行わせる。これが比例的なエンジン回転数上昇をもたらさないようにするために、同時に点火時期が当業者には既に知られている手法で遅角方向にずらされる。これによって、点火時期パスの比較的早い内燃機関で気筒充填率が高い場合、間近に続く点火で直ちに高いエンジントルクを生成するための非常に迅速な制御可能性が得られる。このトルクリザーブの大きさ、従って、図2c)と図4c)の値R1は、車両の発進困難を確実に避けるために、例えば試験台の上で予め実際的に適応させておくことができる。予め定めておくことのできるこのトルクリザーブの上限は、予め燃焼プロセスによって定められる。本発明の先に述べられた二つの実施態様では、代わりの手法として、エンジン回転数は、間近に行われる発進プロセスが検出されたか或いはギヤがシフトされているか或いはセレクタがシフトされている状態の下で車両のクラッチの閉じる方向へのクラッチ操作が検出された際にも、引き上げることができ、この場合には、全てのトルクリザーブが全点火時期にわたって回転数とは独立に補償されることは無い。これによって、発進の快適さのためにより都合の良い内燃機関の運転ポイントが得られる。追加として、過給されたエンジンの場合、特にターボチャージャーを用いて過給されたエンジンの場合には、間近に行われる発進プロセスが検出されたか或いはギヤがシフトされているか或いはセレクタがシフトされている状態の下で、車両のクラッチの閉じる方向へのクラッチ操作が検出された際に、より迅速な過給、とりわけ排気ガスターボチャージャーのより迅速な作動(これが車両の更なる発進プロセス或いは加速を助ける)に有利な内燃機関の運転ポイントで運転されることができる。
【0028】
特に高いトルクリザーブは、ガソリン直接噴射式の内燃機関の場合に実現される。それは、均質の空気/燃料混合気で、且つ追加として、追加の燃料が排気行程の間に噴射されるスプリットモードの運転様態の下で実現される。
【0029】
図5には、第二の実施態様に基づいて、本発明に基づく方法の流れの一例を説明するための流れ図が示されている。プログラムのスタートの後、第二のチェックユニット25がプログラムステップ100で、ギヤ或いはセレクタがシフトされているか否か、即ちギヤ信号Gがセットされている(送り出されている)か否かをチェックする。答えが肯定(y)であれば、プログラムステップ105へ送られ、そうでない否定の場合(n)には、プログラムステップ100へ戻される。
【0030】
プログラムステップ105では、第二のチェックユニット25が、クラッチ信号K′の時間的勾配がマイナスであるか否かをチェックする。答えがyであれば、プログラムステップ110へ送られ、そうでないnの場合に、プログラムステップ100へ戻される。
【0031】
プログラムステップ110では、第二のチェックユニット25がクラッチ信号K′の時間的勾配の値を、又それによって、クラッチペダル30が放される速度を求める。次いでプログラムステップ115へ送られる。
【0032】
プログラムステップ115では、第二のチェックユニット25が、予め定められているクラッチの閾値Ksが通過されたか否か、即ち大きな値から小さな値に向かって割り込まれたか否かをチェックする。答えがyであれば、プログラムステップ120へ送られ、そうでないnの場合に、プログラムステップ100へ戻される。
【0033】
プログラムステップ120では、第二のチェックユニット25が、先に説明されたように、プログラムステップ110で求められたクラッチペダル30が放される速度に応じて、即ち、この速度が速くなればなる程、プログラムステップ110で求められたクラッチ信号K′の時間的勾配の大きさも大きくなるように、リザーブRの形成をスタートさせる。次いで、プログラムステップ125へ送られる。
【0034】
プログラムステップ125では、車両の発進の快適さのために有利な内燃機関の運転ステップへのエンジン回転数の上昇が許されるが、この運転ステップは、スロットルバルブの開弁による気筒内充填率の引き上げに係わっており、且つ形成されるべきトルクリザーブから離れないように、点火時期の遅角によって補償されない。次いで、プログラムステップ130へ送られる。
【0035】
プログラムステップ130では、特に過給可能のエンジンの場合には、エンジン回転数とエンジン負荷に関して、ターボチャージャーのより迅速な利用を助ける、内燃機関の運転ステップで運転され、それによって車両の更なる発進プロセス或いは加速が支援される。その際、エンジン負荷は、例えばエンジンによって発生されるべきトルク、調節されるべき気筒内充填率、或いは調節されるべき燃料噴射時間の長さの形で、予め適切に設定することができる。その際、発進プロセスの際に排気ガスターボチャージャーの迅速な利用のために有利な内燃機関の運転ステップのために必要な回転数とエンジン負荷は、例えば、試験台の上で適切に決定することができる。その際、必要な回転数とエンジン負荷は、第二のチェックユニット25の側から再びスロットルバルブの対応する開弁によって準備することができ、それに起因する気筒充填率の上昇は点火時期の遅角によって補償されることは無い。かくして、ターボチャージャーの迅速な利用のために有利な内燃機関の運転ステップの調節も又、トルクリザーブの形成から離れる。最後に、プログラムが終了される。
【0036】
図5に基づく流れ図は、本発明の第一の実施態様にも適用でき、その場合には、プログラムステップ105と110が省略され、プログラムステップ120のリザーブ形成がクラッチペダル30が放される速度とは無関係に実行される。次いで、プログラムステップ115ではクラッチスイッチが閉位置から開位置へ切替えられているか或いはクラッチ信号Kがリセットされた状態へジャンプしているか否かがチェックされる。このチェックの答えがyであれば、プログラムステップ120へ送られ、そうでないnの場合には、プログラムステップ100へ戻される。その他の点については、このプログラムは図5に基づいて先に説明されたように進められ、その場合、プログラムステップ100のチェックの答えがyであれば、直接プログラムステップ115へ送られる。
【0037】
本発明に基づく方法と本発明に基づく装置によって、間近に行われる発進プロセスのためのリザーブは、発進の際の快適性を高めるために或いは極端な場合にはエンストを避けるために、迅速に準備される。本発明に基づく方法と本発明に基づく装置によって、間近に行われる発進プロセスの直前に、状況に応じて短時間の間だけ気筒充填率を引き上げることによって、追加の燃料消費量が最少化され又同時に車両の出力値のための最大のリザーブが用意される。かくして、本発明に基づく方法と本発明に基づく装置によって、短時間の間、顕著に引き上げられる気筒充填率と又それと結びついている車両の出力値のためのリザーブが用意され、これによって発進困難が解消される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明による、車両の運転のための方法及び装置の第一の実施例に基づく説明のための機能ダイヤグラムを示す。
【図2】図2a)は、第一の実施例に基づくクラッチ信号のための信号図を示し、図2b)は、第一の実施例に基づく、シフトされたギヤのための信号図を示し、図2c)は、第一の実施例に基づく車両の出力値のリザーブを形成するための信号図を示す。
【図3】図3は、本発明による、車両の運転のための方法及び装置の第二の実施例に基づく説明のための機能ダイヤグラムを示す。
【図4】図4a)は、第二の実施例に基づくクラッチ信号のための信号図を示し、図4b)は、第二の実施例に基づく、シフトされたギヤのための信号図を示し、図4c)は、第二の実施例に基づく車両の出力値のリザーブを形成するための信号図を示す。
【図5】図5は、本発明に基づく方法の流れの一例を説明するための流れ図である。
【符号の説明】
【0039】
1…クラッチスイッチ
10、15…機能ダイヤグラム
20、25…チェックユニット
30…クラッチペダル
35…ギヤ制御装置
G…ギヤ信号
K、K′…クラッチ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間近に行われる発進プロセスの検出のために、クラッチ操作が行われたか否かがチェックされる車両の運転方法において、
ギヤがシフトされた状態で或いはセレクタがシフトされた状態で、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出されたときに、間近に行われる発進プロセスが検出されること、
を特徴とする車両の運転方法。
【請求項2】
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が、車両のクラッチを閉じる前に車両のクラッチを閉じる方向に関して特徴的な切替え動作を行うクラッチスイッチ(1)を用いて検出され、その際この特徴的な切替え動作を検出したときに、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出されることを特徴とする請求項1に記載の運転方法。
【請求項3】
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が、クラッチ位置センサ(5)によって検出されることを特徴とする請求項1または2に記載の運転方法。
【請求項4】
クラッチ操作の時間的変化が評価されること、及び
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が、クラッチ操作の時間的変化の評価に依存して検出されること、
を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の運転方法。
【請求項5】
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作が検出された際に、車両の出力値のためのリザーブが形成され、このリザーブが、車両のクラッチが閉じるのに伴って少なくとも一部分呼び出されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の運転方法。
【請求項6】
前記リザーブが、車両のクラッチの予め定められた位置で、車両のクラッチが閉じる前に形成されることを特徴とする請求項5に記載の運転方法。
【請求項7】
前記リザーブの形成のための速度が、クラッチ操作の時間的変化に依存して調節されることを特徴とする請求項5または6に記載の運転方法。
【請求項8】
前記リザーブが、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作の速度の上昇に伴ってより迅速に形成されることを特徴とする請求項7に記載の運転方法。
【請求項9】
前記リザーブが、車両の内燃機関に対する空気供給の増加と点火時期の遅角とによって形成されることを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の運転方法。
【請求項10】
車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作の検出の際に、車両のエンジン回転数が引き上げられることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の運転方法。
【請求項11】
間近に行われる発進プロセスの検出のために、クラッチ操作が行われるか否かをチェックするチェックユニット(20、25)を備えた車両の運転装置(10、15)において、
チェックユニット(20、25)が、ギヤがシフトされた状態で或いはセレクタがシフトされた状態で、車両のクラッチを閉じる方向へのクラッチ操作を検出したときに、チェックユニット(20、25)が、間近に行われる発進プロセスを検出すること、
を特徴とする車両の運転装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−162939(P2007−162939A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326504(P2006−326504)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】